(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪畜肉又は魚介類用マスキング剤≫
本発明の一実施形態に係る畜肉又は魚介類用マスキング剤は、細胞内容物が除去された酵母細胞を有効成分として含有する。
【0016】
実施例において後述するように、本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤によれば、畜肉及び魚介類の不快臭を効果的にマスキングできる。
【0017】
なお、一般に、「畜肉」とは、主に家畜の肉を意味するが、本明細書では、獣肉、家禽肉、野鳥肉及びその他の動物の肉、並びにそれら動物の臓物も包含する。畜肉として具体的には、例えば、牛、豚、馬、羊、山羊等の家畜の肉;猪、鹿、熊等の獣の肉;鶏、七面鳥、ウズラ、アヒル、合鴨等の家禽の肉;鴨、キジ、スズメ、ツグミ、鳩等の野鳥の肉;兎、カエル、スッポン、クジラ等のその他の動物の肉等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、畜肉としては、日本において摂取量の多いことから、牛肉、豚肉又は鶏肉であることが好ましい。
【0018】
また、一般に、「魚介類」とは、水産動物の総称であるが、本明細書では、海で捕獲される魚としての海産物、湖沼産や河川産で捕獲される淡水産物、海藻、甲殻類等を包含する。魚介類として具体的には、例えば、アユ、コイ、マス、サケ、スケトウダラ、ホキ、タイ、マグロ、カジキ、イワシ、サバ、アジ、サンマ、ハモ、タチウオ、フナ等の魚類;ヤツメウナギ等の無顎類;アワビ、サザエ、フジツボ、カキ、ホタテガイ等の貝類;タコ、イカ等の頭足類;エビ、カニ等の甲殻類;ウニ、ナマコ等の棘皮動物等が挙げられ、これらに限定されない。
【0019】
また、本明細書において、「畜肉及び魚介類の不快臭」とは、畜肉及び魚介類由来の不快な臭いを意味する。畜肉及び魚介類の不快臭として具体的には、以下に示すとおりである。
畜肉原料全般における不快臭:例えば、畜肉の脂質が酸化されて過酸化脂質となることを主な原因とする酸化臭等
牛肉原料由来の不快臭:例えば、アルデヒド、テルペン類(例えば、ヘキサナール、フィトール等)を主な原因物質とする牧草臭、アルデヒド類(例えば、メチオナール等)を主な原因物質とする牛肉臭等
豚肉原料由来の不快臭:例えば、アルデヒド類(例えば、2−ノネナール等)を主な原因物質とする脂肪臭、脂肪酸類(例えば、3−メチルブタン酸等)を主な原因物質とする豚肉臭等
鶏肉原料由来の不快臭:例えば、アルデヒド類(例えば、2−ノネナール等)を主な原因物質とする脂肪臭、ピリジン類(例えば、2−ペンチルピリジン等)を主な原因物質とする鶏肉臭等
羊肉原料由来の不快臭:例えば、アルデヒド類(例えば、ヘキサナール等)を主な原因物質とする牧草臭、脂肪酸類(例えば、4−メチルオクタン酸等)を主な原因物質とするマトン臭等
動物の臓物原料由来の不快臭:例えば、アルデヒド類(例えば、2,4−ヘプタジエナール等)を主な原因物質とするレバー臭等
魚介類原料全般における不快臭:例えば、トリメチルアミンを主な原因物質とする生臭さ、魚の脂質が酸化されて生じる過酸化脂質を主な原因物質とする酸化臭等。
【0020】
従来では、上述の畜肉及び魚介類の不快臭のうち、酸化臭及び一部の畜肉原料由来の臭いを、クエン酸等を用いて酸性とすることや、アルコールを用いて不快な臭いを揮発させることにより抑制した。しかしながら、これらの方法では、酸味やアルコールの味が残り、畜肉及び魚介類の風味を損なう場合があった。
これに対し、実施例において後述するように、本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤は、畜肉又は魚介類の風味を損なわずに、これらの不快臭を低減することができる。
【0021】
なお、本明細書において、「畜肉又は魚介類の不快臭のマスキング」とは、におい物質を除去したり、変化させたりせず、畜肉及び魚介類の不快臭より強い別の良好な香りを上乗せする、不快臭に異なる臭い物質を合わせることで良好な香りとする、又は、不快臭を酵母細胞で包み込む等により、不快な臭いを感じにくくさせることを意味する。
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤は、畜肉及び魚介類の不快臭より強い酵母細胞由来の良好な香りを上乗せする、畜肉及び魚介類の不快臭に酵母細胞由来の臭い物質を合わせて良好な香りとする、又は、不快臭を酵母細胞で包み込む等により、畜肉及び魚介類の不快臭を感じにくくさせることができる。
【0022】
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤において、「有効成分として含有する」とは、酵母細胞を畜肉及び魚介類の不快臭をマスキングする効果が奏される程度に含有していればよく、例えば、畜肉又は魚介類用マスキング剤を基準とした乾燥重量で、例えば10質量%以上、例えば13質量%以上、例えば15質量%以上、例えば17質量%以上含有することを意味する。
【0023】
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤において、食品に対する酵母細胞の添加量は、酵母細胞自体の臭いを感じられない程度の量を添加すればよく、特に限定されない。食品に対する酵母細胞の添加量として具体的には、例えば、食品100質量部あたり、酵母細胞を0.1質量部以上5.0質量部未満、好ましくは0.2質量部以上3.5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上3.0質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以上2.0質量部以下添加するように用いればよい。
実施例において後述するように、酵母細胞の添加量が上記範囲内であることにより、効果的に不快臭をマスキングすることができる。
以下に、本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤の構成成分について、詳細を説明する。
【0024】
<酵母細胞>
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤において、酵母細胞としては、酵母の内容物を除去した後(酵母エキスを抽出した後)の酵母細胞(酵母細胞の細胞壁、細胞膜等の酵母の骨格部分)を用いることができる。したがって、従来廃棄されていた、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞を有効利用することができる。
【0025】
酵母エキスの抽出方法は特に限定されず、例えば、熱水処理法、自己消化法、酵素分解法等の抽出方法が挙げられる。
【0026】
また、本実施形態において用いられる酵母細胞は、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞そのものであってもよいし、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞に風味改善処理を行ったものであってもよい。風味改善処理は、酵母細胞が有する異味(例えば、苦み、渋み、えぐ味等)又は異臭を低減する処理であり、詳細については後述する。風味改善処理を行っていない酵母細胞は、異味又は異臭を有しているが、これが問題とならない食品や、これが問題とならない程度の添加量の範囲において、畜肉又は魚介類用マスキング剤として利用することができる。
【0027】
酵母細胞としては、例えば、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母、清酒酵母等の細胞が挙げられる。また、酵母細胞は、圧搾酵母、乾燥酵母、活性乾燥酵母、死滅酵母、殺菌乾燥酵母等の種々の形態であってもよい。また、酵母細胞は、酵母細胞(菌体)と実質的に同じ組成からなる酵母細胞由来物(例えば、酵母細胞の破砕物、粉末)であってもよい。
【0028】
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤に用いられる酵母細胞は、乾燥酵母菌体、酵母脱水物、菌体懸濁液等の種々の形態であり得る。保存性、安定性、運搬及び保管、並びに、取り扱い等の観点からは、殺菌乾燥酵母であることが好ましい。
【0029】
酵母は、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母やキャンディダ(Candida)属に属する酵母であってよく、特に限定されるものではない。例えば、食経験が豊富である観点から、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等であってもよく、研究等で知見が多い観点から、キャンディダア・ユーティリス(Candida utilis)等であってもよい。
【0030】
(風味改善処理)
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤に用いられる酵母細胞は、風味改善処理が行われたものであってもよい。風味改善処理としては、例えば、プロテアーゼ処理、セルラーゼ処理、ヘミセルラーゼ処理等の酵素処理が挙げられる。
【0031】
前記プロテアーゼとしては、例えば、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼ等が挙げられ、例えば、微生物由来のプロテアーゼ、植物由来のパパイン、ブロメライン等、動物由来のトリプシン、ペプシン、カテプシン等が挙げられる。
【0032】
前記セルラーゼ及びヘミセルラーゼとしては、セルロース又はヘミセルロース等を単糖又はオリゴ糖に分解するものであれば特に限定されず、例えば、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)等のトリコデルマ属菌;アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus acleatus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス属菌;クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・ジョスイ(Clostridium josui)等のクロストリジウム属菌;セルロモナス・フィミ(Cellulomonas fimi)等のセルロモナス属菌;アクレモニウム・セルロリティクス(Acremonium celluloriticus)等のアクレモニウム属菌;イルペックス・ラクテウス(Irpex lacteus)等のイルペックス属菌;フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)等のフミコーラ属菌;パイロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)等のパイロコッカス属菌等の微生物由来のセルラーゼ及びヘミセルラーゼが挙げられる。
風味改善処理において、上述した、プロテアーゼ、セルラーゼ又はヘミセルラーゼを反応させる工程の前若しくは後の酵母細胞に、乳化剤を添加する工程を更に行ってもよい。乳化剤で酵母細胞を処理することにより、例えば、苦み、渋み、えぐ味等の異味をさらに低減させることができる。
【0033】
前記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、サポニン等が挙げられる。また、乳化剤は、1種を単独で、又は2種以上を混合して酵母細胞に添加してもよい。
【0034】
なお、酵母細胞に含まれる化学物質は非常に多岐にわたるため、これらの異味又は異臭の原因物質を特定することは困難である。また、原因物質を特定することが困難であるため、これらの原因物質の含有量により、酵素又は乳化剤で処理された酵母細胞であるか否かを特定することも困難である。
【0035】
中でも、本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング剤に用いられる酵母細胞は、酵素又は乳化剤で処理された酵母細胞であることが好ましく、酵素及び乳化剤で処理された酵母細胞であることがより好ましい。
【0036】
≪畜肉又は魚介類用マスキング組成物≫
本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング組成物は、上述の畜肉又は魚介類用マスキング剤と塩基性化合物とを含有する。
【0037】
実施例において後述するように、上述の畜肉又は魚介類用マスキング剤と塩基性化合物とを含有することにより、特に、サケ、マス等の赤色色素を含む魚及びエビ等の赤色色素(アスタキサンチン等)を含む甲殻類においてその色合いを鮮明にする効果が増大する。
【0038】
<塩基性化合物>
塩基性化合物としては、食品に添加することが認められている化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0039】
<食品添加物>
また、本実施形態の畜肉又は魚介類用マスキング組成物は、さらに、本実施形態の効果を損なわない範囲において他の食品添加物を添加することもできる。
【0040】
≪畜肉又は魚介類の不快臭のマスキング方法≫
本発明の一実施形態に係る畜肉又は魚介類の不快臭のマスキング方法は、畜肉又は魚介類に細胞内容物が除去された酵母細胞を添加する添加工程を備える方法である。
【0041】
実施例において後述するように、本実施形態の畜肉又は魚介類の不快臭のマスキング方法によれば、畜肉及び魚介類の不快臭を効果的にマスキングすることができる。
以下に、本実施形態の畜肉及び魚介類の不快臭のマスキング方法の工程について、詳細を説明する。
【0042】
<添加工程>
添加工程としては、例えば、畜肉又は魚介類に前記酵母細胞を含む溶液を浸漬する浸漬工程や、畜肉又は魚介類を挽き、前記酵母細胞を直接混合させる混合工程等が挙げられる。
前記浸漬工程である場合、まず、細胞内容物が除去された酵母細胞を含む溶液を調製する。
酵母細胞としては、上述の畜肉又は魚介類用マスキング剤にて例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の畜肉又は魚介類の不快臭のマスキング方法に用いられる酵母細胞は、酵素又は乳化剤で処理された酵母細胞であることが好ましく、酵素及び乳化剤で処理された酵母細胞であることがより好ましい。
【0043】
また、本実施形態の畜肉又は魚介類の不快臭のマスキング方法において、食品に対する酵母細胞の添加量は、酵母細胞自体の臭いを感じられない程度の量を添加すればよく、特に限定されない。食品に対する酵母細胞の添加量として具体的には、例えば、食品100質量部あたり、酵母細胞を0.1質量部以上5.0質量部未満、好ましくは0.2質量部以上3.5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上3.0質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以上2.0質量部以下添加するように用いればよい。
実施例において後述するように、酵母細胞の添加量が上記範囲内であることにより、効果的に不快臭をマスキングすることができる。
【0044】
また、前記溶液は、食品に添加することが認められている調味料及び添加物を含有していてもよい。前記調味料及び添加物としては、上述の畜肉又は魚介類用マスキング剤にて例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0045】
また、前記溶液のpHは、浸漬された食品の風味が損なわれず、人体に影響のない範囲であればよく、例えば7.0以上11.0以下であればよい。また、サケ等の鮮やかな色味が求められる魚を浸漬する場合には、溶液のpHは例えば8.5以上9.0以下程度であればよい。
【0046】
次いで、調製された溶液に畜肉又は魚介類を浸漬する。
浸漬する温度としては、畜肉及び魚介類が傷まない温度であればよく、例えば0℃以上10℃以下であればよく、例えば0℃以上4℃以下であればよい。具体的には、後述の実施例に示すとおり、調製された溶液に畜肉又は魚介類が浸漬された状態で、冷蔵庫等の低温保管庫に貯蔵すればよい。
【0047】
また、浸漬する時間としては、浸漬する畜肉又は魚介類の大きさや種類等に応じて適宜調整すればよく、例えば1時間以上24時間以下であればよく、例えば10時間以上20時間以下であればよい。
【0048】
前記溶液に浸漬後の畜肉及び魚介類は、食材に適した調理法(例えば、スチームコンベクションやオーブン等を用いた焼成法、ボイル、電子レンジによる加熱等)を適宜選択して調理すればよい。
【0049】
≪畜肉又は魚介類の加工食品≫
本発明の一実施形態に係る畜肉又は魚介類の加工食品は、上述の畜肉又は魚介類用マスキング剤を含む。
【0050】
本実施形態の畜肉又は魚介類の加工食品は、予め食品中に上述の畜肉又は魚介類用マスキング剤を含むことで、畜肉及び魚介類の不快臭が効果的にマスキングされている。
【0051】
畜肉又は魚介類用マスキング剤の構成成分及び加工食品における含有量については、上述の畜肉及び魚介類用マスキング剤に記載したものと同様である。
【0052】
本実施形態において、畜肉又は魚介類の加工食品としては、焼き物、揚げ物、煮物、蒸物、レトルト、燻製等が挙げられる。
畜肉の加工食品として具体的には、例えば、焼肉、焼き豚、焼き鳥、ステーキ、ローストビーフ、ハンバーグ、ミートボール、ミートローフ、豚カツ、チキンカツ、から揚げ、メンチカツ、豚の角煮、牛丼の具、親子丼の具、シュウマイの具、餃子の具、肉まんの具、ハム、ソーセージ、コンビーフ、畜肉の佃煮、乾燥肉、レバーパテ、モツ煮込み、畜肉をベースにしたスープ等の畜肉の加工品が挙げられ、これらに限定されない。
魚介類の加工食品として具体的には、例えば、焼き魚、から揚げ、魚フライ、煮魚、かまぼこ、つみれ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージ、干物、燻製、塩辛、魚介類の佃煮、魚介類をベースにしたスープ等の魚介類の加工食品等が挙げられ、これらに限定されない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[使用材料(畜肉又は魚介類用マスキング剤)]
畜肉又は魚介類用マスキング剤として、酵母細胞1(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)、酵母細胞2(商品名「DYP−SY−02」、富士食品工業株式会社製)及び酵母細胞含有製剤(商品名「魚用ミートテンダライザー」、富士食品工業株式会社製)を用いた。
なお、「モイステックスSTD」は、パン酵母から酵母エキスを抽出した後の酵母細胞をプロテアーゼ及び乳化剤で処理し、さらに加工処理したものである。
また、「DYP−SY−02」は、パン酵母から酵母エキスを抽出した後、酵素処理等を行わずにそのまま乾燥させた酵母細胞である。
また、「魚用ミートテンダライザー」は、炭酸水素ナトリウム66.4部、上記「モイステックスSTD」17質量部、酵母エキス11.6質量部、及び炭酸ナトリウム5質量部を混合したものである。
さらに、対照として、「モイステックスSTD」の製造時に、パン酵母から酵母エキスを抽出後に、酵母細胞を洗浄した際に排出される洗浄液(以下、単に「洗浄液」と称する場合がある。)を用いた。
【0055】
[試験例1]焼成されたアジ及びサバの切り身における不快臭のマスキング効果確認試験
(1)アジ及びサバの切り身の調理
アジ及びサバの骨取り原料を解凍し、以下の表1に示す配合で酵母細胞を含む溶液に、冷蔵庫内にて18時間浸漬した。
次いで、液切りし、急速凍結して、半凍結の状態で約60g(アジは3等分、サバは2等分)の大きさにカットした。
次いで、完全凍結して、その状態のまま焼成した。焼成条件は、スチームコンベクションを用いて、温度250℃、時間10分、食材の芯温が約80℃となるように設定した。
【0056】
(2)官能評価
焼成されたアジ、サバについて、臭いを以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表1に示す。
<不快臭の評価基準>
○:不快臭がない。
×:不快臭がある。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から、酵母細胞1及び酵母細胞含有製剤を用いることで、アジ及びサバの不快臭が抑制されており、特に生臭さが抑制されることが確かめられた。
また、試験区2、3、5及び6の酵母細胞1及び酵母細胞含有製剤を用いたアジ及びサバは、柔らかくしっとりした食感であった。
【0059】
[試験例2]ボイルされたサバの切り身における不快臭のマスキング効果確認試験1
(1)サバの切り身の調理
サバの骨取り原料を解凍し、半解凍の状態で約60g(2等分)の大きさにカットした。次いで、以下の表2に示す配合で酵母細胞を含む溶液に、冷蔵庫内にて一晩浸漬した。次いで、液切りし、真空包装した。次いで、真空包装されたサバを沸騰したお湯に入れて、湯せんで10分間ボイルした。
【0060】
(2)官能評価
ボイルされたサバについて、臭いを以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表2に示す。
<臭いの評価基準>
○:不快臭がない。
×:不快臭がある。
【0061】
【表2】
【0062】
表2から、酵母細胞1を用いることで、サバの不快臭が抑制されることが確かめられた。一方、洗浄液を用いても、サバの不快臭は抑制されなかった。
【0063】
[試験例3]ボイルされたサバの切り身における不快臭のマスキング効果確認試験2
(1)サバの切り身の調理
サバの骨取り原料を解凍し、半解凍の状態で約60g(2等分)の大きさにカットした。次いで、以下の表3に示す配合で酵母細胞を含む溶液に、冷蔵庫内にて一晩浸漬した。次いで、液切りし、真空包装した。次いで、真空包装されたサバを沸騰したお湯に入れて、湯せんで10分間ボイルした。
【0064】
(2)官能評価
訓練されたパネラー3人にて、ボイルされた直後のサバの臭いを評価した。なお、臭いの評価として、不快臭のうち、特に酸化臭を以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表3に示す。なお、酸化臭とは、魚に含まれる金属イオンにより脂質の酸化が促進されて過酸化脂質となり、この過酸化が分解することで発生する臭いである。
<臭いの評価基準>
○:酸化臭がない。
×:酸化臭がある。
【0065】
【表3】
【0066】
表3から、酵母細胞1を用いることで、サバの酸化臭が抑制されることが確かめられた。また、パネラー3人全員が、試験区1の酵母細胞1無添加のサバに対し、試験区2の酵母細胞1を用いたサバは、顕著に酸化臭が抑制されたと評価した。
【0067】
[試験例4]ボイルされたサバの切り身における不快臭のマスキング効果確認試験3
(1)サバの切り身の調理
サバの骨取り原料を解凍し、半解凍の状態で約60g(2等分)の大きさにカットした。次いで、以下の表4に示す配合で酵母細胞を含む溶液に、冷蔵庫内にて一晩浸漬した。次いで、液切りし、真空包装した。次いで、真空包装されたサバを沸騰したお湯に入れて、湯せんで10分間ボイルした。
【0068】
(2)官能評価
ボイルされたサバの臭いを以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表4に示す。
<臭いの評価基準>
○:不快臭がない。
×:不快臭がある。
【0069】
【表4】
【0070】
表4から、酵母細胞1及び酵母細胞2を用いることで、サバの不快臭が抑制されることが確かめられた。また、試験区2の酵母細胞1を用いたサバは、適度な味の濃さが感じられた。これに対し、試験区3の酵母細胞2を用いたサバは、やや味が薄く感じられた。
この違いは、酵母細胞1は、乳化剤及び酵素処理を施されていることで、サバの風味を改善する効果を有するため、サバの呈味が強められたためであると推察された。
【0071】
[試験例5]焼成されたサケの切り身における不快臭のマスキング効果確認試験
(1)サケの切り身の調理
サケの骨取り原料を解凍し、半解凍の状態で約60g(2等分)の大きさにカットした。次いで、以下の表5に示す配合で酵母細胞を含む溶液に、冷蔵庫内にて一晩浸漬した。
次いで、液切りし、急速凍結した。次いで、解凍して焼成した。焼成条件は、スチームコンベクションを用いて、温度250℃、時間7分、食材の芯温が約80℃となるように設定した。
【0072】
(2)官能評価
焼成されたサケについて、臭いを以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表5に示す。
<不快臭の評価基準>
○:不快臭がない。
×:不快臭がある。
【0073】
【表5】
【0074】
表5から、酵母細胞含有製剤を用いることで、サケの不快臭が抑制されており、特に血合い部分の生臭さが抑制されることが確かめられた。
また、試験区1の酵母細胞含有製剤無添加のサケと比較して、試験区2の酵母細胞含有製剤を用いたサケは、パサつきが抑制されて、柔らかい食感であった。また、試験区1と比較して、試験区2では、皮から身を剥がす際の身離れが良好であった。また、試験区1と比較して、試験区2では、焼成後に生成されるカードが減少し、色合いが鮮やかであった。
なお、「カード」とは、サケ等魚に含まれる可溶性タンパク質が加熱処理した際に、凝固して白色の豆腐状になったものを意味する。
【0075】
[試験例6]焼成された牛シマチョウにおける不快臭のマスキング効果確認試験
(1)牛シマチョウの調理
牛シマチョウ原料を解凍し、約20gずつにカットした。次いで、以下の表6に示す配合で酵母細胞を含む溶液に、2時間タンブリング処理し、さらに冷蔵庫内にて一晩浸漬した。
次いで、液切りし、フライパンにて2分間焼成した。
【0076】
(2)官能評価
焼成された牛シマチョウについて、臭いを以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表6に示す。
<不快臭の評価基準>
○:不快臭がない。
×:不快臭がある。
【0077】
【表6】
【0078】
表6から、酵母細胞1を用いることで、牛シマチョウの不快臭が抑制されることが確かめられた。
【0079】
[試験例7]レンジで温め直したシーズンドポークにおける不快臭のマスキング効果確認試験
(1)シーズンドポークの調理
シーズンドポークに下記表7に示す配合で塩を添加し、ミキサーで2分間撹拌した。
なお、「シーズンドポーク」とは、アメリカ産豚肉のピクニック(豚のカタの肉、きめがやや粗く、色が他の部位に比べてやや濃い目)等をひき肉状にし、調味したものを意味する。定率関税に分類されるものでは、一片の肉塊が10g未満で、胡椒の含有率が0.3%を超え、且つ、官能検査により適度の味覚を有するものを示す。このとき、胡椒の中に含まれるピペリンの平均含有量5%を基準に判定される。
【0080】
次いで、下記表7に示す配合で酵母細胞1及び重曹を添加し、ミキサーで2分間撹拌した。次いで、下記表7に示す配合で水を添加し、ミキサーで1分間撹拌した。次いで、50gに成形し、袋に充填した。次いで、スチームを用いて、100℃で10分間加熱した。次いで、氷水で冷却して粗熱を取った。次いで、ドリップを除去した後に、急速凍結した。その後、再度袋に充填し、4袋を一度に電子レンジを用いて、600Wで3分間の設定で解凍した。
【0081】
(2)官能評価
レンジで温め直したシーズンドポークについて、臭いを以下の評価基準に従い、官能評価した。結果を表7に示す。
<不快臭の評価基準>
◎:不快臭がなく、美味しさを感じる。
○:不快臭がない。
△:不快臭がないが、酵母細胞の臭いを感じる。
×:不快臭がある。
【0082】
【表7】
【0083】
表7から、酵母細胞1を用いることで、シーズンドポークの不快臭が抑制されることが確かめられた。
また、食感及び風味については、試験区2〜5では柔らかい食感で、肉の脂の甘みが感じられた。さらに、試験区6では酵母細胞1の添加量が多いため酵母細胞そのものの味が感じられた。総合的な観点から、美味しさとしては、試験区3、4が不快臭を低減しながら、最も食感及び風味が優れていた。