(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該負極活物質層は、該負極活物質塗布部と該負極活物質未塗布部との境界部に向かって該負極活物質層の厚さが小さくなった負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成されている、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池素子。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下に説明する。実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、正極活物質混合物が塗布された正極と、セパレータと、負極活物質混合物が塗布された負極とが積層されたものである。実施形態において正極とは、正極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物(正極活物質混合物)を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の矩形の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物(負極活物質混合物)を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の矩形の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。正極と、負極と、セパレータとが積層されて、実施形態のリチウムイオン二次電池素子が形成されている。
【0013】
リチウムイオン二次電池素子を構成する部材を詳細に説明する。すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質が塗布された正極である。正極は、正極活物質、バインダおよび場合により導電助剤の正極活物質混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、正極活物質層は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式Li
xNi
yMe
(1−y)O
2(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。
【0014】
正極活物質層は、リチウム・マンガン系複合酸化物を正極活物質として含むことができる。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO
2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)等を挙げることができる。リチウム・マンガン系複合酸化物を併用することで、より安価に正極を作製することができる。特に、過充電状態での結晶構造の安定度の点で優れるスピネル型のマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)を用いることが好ましい。リチウム・マンガン系正極活物質を含む場合、正極活物質の重量に対して70重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。混合正極を使用する場合は、正極活物質中に含まれるリチウム・マンガン系複合酸化物の量が多すぎると、電池内に混入しうる金属異物由来の析出物と混合正極との間に部分電池が形成されやすくなり、短絡電流が流れやすくなる。
【0015】
正極活物質層は、特に、一般式Li
xNi
yCo
zMn
(1−y−z)O
2で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1−y−z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、z<y、z<1−y−zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1−y−z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。たとえば、一般式Li
xNi
yCo
zMn
(1.0−y−z)O
2において、x=1、y=0.4、z=0.3の複合酸化物を「NCM433」と称し、x=1、y=0.5、z=0.2の複合酸化物を「NCM523」と称する。
【0016】
正極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0017】
正極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0018】
正極活物質層は、
正極集電体上に設けることができ、正極活物質が塗布されていない未塗布部を設けること
ができる。正極集電体上の正極活物質未塗布部は、特に正極リードを接続するために設ける。正極活物質層は、均一な厚さで設けてもよく、塗布の部位に応じて厚さを変えることもできる。正極活物質層は、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが小さくなった正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とを有することが好ましい。そしてこのように設けられた正極活物質層薄肉部の少なくとも一部と正極活物質未塗布部の少なくとも一部とを覆うように絶縁部材が設けられていることが好ましい。正極活物質未塗布部が負極活物質塗布部と対向している場合、その領域で短絡が起きることがある。すると当該部分での発熱量が大きくなりうる。そこで、そのような不都合をできるだけ防ぐために絶縁部材を設ける場合がある。絶縁部材として、ポリオレフィンフィルムに粘着層を設けた粘着テープを使用することができる。正極の構造については、図面を用いてさらに後述する。
【0019】
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質混合物が塗布された負極である。負極は、負極活物質、バインダおよび場合により導電助剤の負極活物質混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。負極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。
【0020】
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体などの不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における炭素材料として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。
【0021】
非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。
【0022】
これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とをともに含む混合炭素材料を負極活物質として用いると、電池の回生性能が向上する。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛粒子、または非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を負極活物質の炭素材料として用いると、電解液の分解が抑制され、負極の耐久性が向上する。
【0023】
人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d
002)が0.337nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有していることが条件となる。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d
002)で見積もることができ、d値が0.337nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。
【0024】
負極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0025】
負極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0026】
負極活物質層は、
負極集電体上に設けることができ、負極活物質が塗布されていない未塗布部を設けること
ができる。負極集電体上の負極活物質未塗布部は、特に負極リードを接続するために設ける。負極活物質層は、均一な厚さで設けてもよく、塗布の部位に応じて厚さを変えることもできる。負極活物質層は、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが小さくなった負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とを有していてもよい。
【0027】
すべての実施形態において用いることができる正極ならびに負極は、先に説明した正極活物質あるいは負極活物質を含む電極活物質層が電極集電体に配置されたものとなっている。好ましくは、このとき各電極活物質層の厚さは片面あたり10〜100μmであることが好ましく、さらに50〜80μmであることが好ましい。電極活物質層の厚さが小さすぎると均一な電極活物質層の形成が難しいという不都合があり、一方電極活物質層の厚さが大きすぎると高レートでの充放電性能が低下するという不都合があり得る。なお、負極活物質層の全面において、負極活物質層の厚さが、セパレータを介して対向する正極活物質層の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0028】
実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、セパレータは、たとえばポリオレフィンフィルムをもちいることができる。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα−オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。セパレータとしてポリオレフィンフィルムを用いる場合、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであると好都合である。ポリオレフィンフィルムがこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。すなわち一軸延伸ポリオレフィンフィルムは、電池の加熱時に収縮して孔が塞がるため、正負極間の短絡を防ぐことが可能となる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
【0029】
また、架橋されたフィルムをセパレータとして用いることができる。多孔質または微孔質ポリオレフィンフィルムは加熱時に収縮する性質を有するため、電池の過熱時にはフィルムが収縮してシャットダウンする。しかしながらフィルムの熱収縮率が大きすぎると、フィルムの面積が大きく変化してしまい、かえって大電流の流れを生じることにもなりかねない。架橋されているポリオレフィンフィルムは、熱収縮率が適切であるため、過熱時にも、大きく面積を変化させることなく孔を塞ぐ分だけ収縮することができる。
【0030】
すべての実施形態において用いられるセパレータは、場合により耐熱性微粒子層を有していてよい。この際、電池の過熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α−アルミナ、β−アルミナ、θ−アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。
【0031】
上記の正極、セパレータ、および負極は、いずれも独立したシートの形状をしている。正極シートと負極シートとの間にセパレータを介するように積層され、シート状のリチウムイオン二次電池素子を形成している。このとき、正極活物質未塗布部と負極活物質未塗布部とがセパレータを介して対向するように積層することが好ましい。対向するように積層するとは、たとえば、矩形シート状の正極と負極とを重ね合わせる際に、矩形の四辺のうち同じ辺に正極活物質未塗布部と負極活物質未塗布部とが位置するようにする、という意味である。正極と負極とをこのように重ね合わせると、矩形のリチウムイオン二次電池の四辺のうち一辺から正極タブと負極タブとが引き出された構造になる。実施形態のリチウムイオン二次電池の構造については、図面を用いて後述する。
【0032】
このようなシート状のリチウムイオン二次電池素子に電解液を浸漬させ、さらに外装体で封止することによりリチウムイオン電池を形成することができる。封止とは、リチウムイオン二次電池素子の少なくとも一部が外気に触れないように、比較的柔軟な外装体材料により包まれていることを意味する。リチウムイオン二次電池の外装体は、ガスバリア性を有し、リチウムイオン二次電池素子を封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。外装体として、アルミニウム箔とポリプロピレン等を積層したアルミニウムラミネートシートを好適に使用することができる。リチウムイオン二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【0033】
電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、実施形態においては、特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータとが積層されて電解液を含むリチウムイオン二次電池素子は、電池の主構成部材の一単位であり、通常、複数の矩形の正極と複数の矩形の負極とが複数の矩形のセパレータを介して積層されて、この積層物が電解液に浸漬されている。本明細書の実施形態において用いる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジ−t−プロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジ−イソブチルカーボネート、またはジ−t−ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0034】
電解液は、このほか、添加剤として上記の環状カーボネートとは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0035】
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、1,4−ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,2−エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,2−エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、1,4−ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)は特に好ましく用いられる。
【0036】
上記の正極ならびに負極をセパレータを介して積層し、これを上記の電解液と共に外装体内部に封入してラミネート型リチウムイオン二次電池を形成することができる。外装体として、電解液を外部に浸出させない材料であればいかなるものを使用してもよい。外装体の最外層にポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリマーなどの耐熱性の保護層を有し、最内層にポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PETとPENのブレンド、PETとPEIのブレンド、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂とPETのブレンド、キシリレン基含有ポリアミドとPETのブレンドなどからなる熱可塑性樹脂から構成されたシーラント層を有するラミネートフィルムを用いることができる。外装体は、これらのラミネートフィルムを1枚または複数枚組み合わせて接着または溶着し、さらに多層化したものを用いて形成してもよい。ガスバリア性金属層としてアルミニウム、スズ、銅、ニッケル、ステンレス鋼を用いることができる。金属層の厚みは30〜50μmであることが好ましい。特に好適には、アルミニウム箔と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーとの積層体であるアルミニウムラミネートを使用することができる。
【0037】
実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は従来の方法に従うことができ、特に限定されるものではない。たとえば、正極、セパレータ、負極の積層体に正極および負極タブリードを超音波溶接等の方法によって接続し、これを矩形に切り出した外装体材料の所定の位置に配置し、まず正極および負極タブと重なる部分(つば部)を熱融着する。そして外装体材料のタブ引き出し部ではない側辺のうち1辺を熱融着して袋状とする。次いで袋の内部に電解液を注入する。最後に、残った一辺を減圧状態で熱融着する。なおここで用いる各電極のタブリードは、電池内の正極または負極と外部との電気の出し入れを行う端子のことである。リチウムイオン二次電池の負極タブとしてニッケルまたはニッケルめっきを施した銅導体を、正極タブとしてアルミニウム導体をそれぞれ用いることができる。
【0038】
続いて
図1を用いて実施形態のリチウムイオン二次電池素子の正極の構造を説明する。
図1は、実施形態に用いる正極の断面図の例である。各部材の大きさや縮尺等は実際にものとは異なっている。
図1中、11:正極集電体、12:正極活物質層、13:絶縁部材である。正極活物質層12は、121:正極活物質層平坦部と、122:正極活物質層薄肉部とから構成され、正極集電体11には、正極活物質層12が設けられている正極活物質塗布部111と、正極活物質層12が設けられていない正極活物質未塗布部112とが存在する。正極活物質層薄肉部122は、
図1に見られるように、正極活物質塗布部111と正極活物質未塗布部112との境界部に向かって、設けられている。
図1では、正極活物質層薄肉部122は、正極活物質塗布部111と正極活物質未塗布部112との境界部に向かって漸次厚さが減少していくように設けられているが、所定の厚さを有する正極活物質層薄肉部122を設けてもよい。すなわち、正極活物質層薄肉部122の厚さが、正極活物質層平坦部121の厚さよりも小さくなっていることが重要である。正極活物質層薄肉部122開始部分、すなわち正極活物質層平坦部121と正極活物質層薄肉部122との境界部が、開始端である。
【0039】
次に実施形態にかかるリチウムイオン二次電池素子の構成例を、
図2を用いて説明する。
図2は実施形態のリチウムイオン二次電池素子の断面を説明する図面である。各部材の大きさや縮尺等は実際のものとは異なっている。リチウムイオン二次電池素子1は、主な構成要素として、正極10、セパレータ20、負極30とを含む。
図2において、正極10、セパレータ20および負極30は、各々隙間を空けて並ぶように描かれているが、実際は、これらの各部材が互いに隣り合う部材と接して沿うように積層されている。正極10は、正極集電体11、正極活物質層12および絶縁部材13とから成り、負極30は負極集電体31および負極活物質層32からなる。正極活物質層12は、正極集電体11の両面に施され、負極活物質層32は、負極集電体31の両面に施されている。
図2では、正極10、セパレータ20および負極30とがそれぞれ1つずつ積層されて、1つの電池素子を構成している。正極活物質層12のうち、所定の厚さで正極活物質が設けられた部分は正極活物質平坦部121、正極活物質の厚さが小さい部分は正極活物質薄肉部122である。正極活物質薄肉部122は、その一部が絶縁部材13で覆われている。
【0040】
当該正極活物質薄肉部122のうち絶縁部材13で覆われていない部分(
図2中124)のみの正極充電容量をC
Eとし、当該正極活物質層部分124にセパレータ20を介して対向する負極(
図2中324)の初充電時負極充電容量をA
Eとしたときに、当該部分の充電容量比A
E/C
Eは1.10を超え1.34未満の範囲の値である。正極および負極の充電容量は、各電極活物質の塗布量により定まる値である。よって正極および負極の特定の部分の充電容量は、当該部分の各電極活物質の塗布量から計算することができる。当該部分の充電容量比A
E/C
Eが1.10を超え1.34未満の範囲の値であるとは、すなわち、各電極活物質層の境界部(すなわち各電極活物質塗布部と未塗布部との境界部)付近において、負極の方が実質的な充電容量が上回っていることを意味する。すなわち、理論的には、当該部分における正活物質中のリチウムイオンが全て対向する負極活物質内に移動したとしても、当該対応する負極部分にはまだ空きがあることになる。これは、電池全体の充電容量を考慮するとロスになりかねないとも考えられるが、そのようにはならない。リチウムイオン二次電池の充電時には、正極活物質からリチウムイオンが負極活物質に移動し、反対に電池の放電時には、負極活物質からリチウムイオンが正極活物質に戻る。この際、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンの全てが正極活物質に戻るとは限らない。すなわち、負極活物質に吸蔵されたまま負極活物質内に取り残されるリチウムイオンがあり得る。リチウムイオンが負極活物質内にとどまる理由は、負極活物質内の不規則な構造部へのリチウムイオンの吸蔵、電解液の溶媒分解による電極上の被膜形成、負極活物質の部分的な崩壊等、様々である。一方、現実的な電池充電速度では、負極の全ての空きにリチウムを入れることができずに、金属リチウムとして負極表面上に析出してしまうことがありうる。そのため、A
E/C
Eの値に余裕を持たせた方が結果的にロスは少なくなる。このように、負極の空きをできるだけ減らし、金属リチウムの析出がなるべく発生しないようにするためには、充電容量比を特定の範囲の値にすると良いことがわかった。正極の充電容量が負極の充電容量を上回る(充電容量比が1を下回る)と、正極から移動したリチウムイオンの全てを負極が受け入れることができないことになる。余剰のリチウムイオンは、負極上に析出しデンドライトを発生させ、セパレータを突き破って電池の短絡を招く場合がある。これを防ぐために、充電容量比A
E/C
Eを丁度1とする(すなわち当該部分の正極充電容量と当該部分に対向する部分の負極充電容量とを等しくする)のではなく、負極の充電容量の方を若干上回らせておくことが必要となる。充電容量比A
E/C
Eは1.10を超え1.34未満の範囲の値とすることが望ましい。
【0041】
さらに正極活物質平坦部(
図2中121)の初充電時正極充電容量をC
Cとし、正極活物質平坦部121にセパレータを介して対向する負極(
図2中321)の初充電時負極充電容量をA
Cとしたときに、当該部分の充電容量比A
C/C
Cは1.05を超え1.20未満の範囲の値である。各電極活物質層の境界部(すなわち各電極活物質塗布部と未塗布部との境界部)以外の部分においても、負極の方が実質的な充電容量が上回っていることを意味する。当該部分においても、不可逆なリチウムイオンがなるべく発生しないようにするためである。
【0042】
充電容量比A
E/C
Eの値が充電容量比A
C/C
Cの値よりも大きいことがさらに好ましい。各電極活物質層の端部における充電容量比の値を、それ以外の部分の充電容量比の値よりも大きくすると、金属リチウムの析出のリスクを低減することができる。電極活物質層の端部における金属リチウムの析出は、電極活物質層の端部の方がそれ以外の部分よりも電極間距離が広くなりがちである等の構造的な理由により起こりうる。この不都合を防ぐためには、充電容量比A
E/C
Eが1.15を超え1.34未満の範囲の値であり、充電容量比A
C/C
Cが1.05を超え1.10未満の範囲の値であることが好ましい。特に充電容量比A
E/C
Eが1.17以上1.32以下の範囲の値であり、充電容量比A
C/C
Cが1.07以上1.09以下の範囲の値であることが最も好ましい。
【0043】
また、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部より外側にあることが好ましい。ここで「外側にある」とは、電池素子端部において、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部よりも正極活物質未塗布部の方向に位置するように各電極が重ね合わせられていることを意味する。すなわち、負極活物質層の面積の方が正極活物質層の面積よりも大きくなるように各活物質を塗布することが非常に好ましい。負極活物質層32の面積を正極活物質層12の面積よりも大きくすると、正極活物質層に対して負極活物質層の容量を大きくすることができるため、上記の通り、リチウムデンドライトの発生を抑制することができる。
図2は、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部より外側にあるように構成されたリチウムイオン二次電池素子の例である。
【0044】
次に一般的なリチウムイオン二次電池の構造例を説明する。
図3はリチウムイオン二次電池の外形例を示す図面である。各部材の大きさや縮尺等は実際のものとは異なっている。
図3aは上面図、
図3bは側面図である。
図3a中、40:外装体、113:正極タブ、313:負極タブである。正極タブ113と負極タブ313は、全体として矩形のリチウムイオン二次電池1の一辺から引き出されている。
図3b中、40:外装体、113(313):正極(負極)タブである。
図3bでは、外装体40の端部、すなわち正極タブ113と負極タブ313を引き出して封止している端部に、膨らみが生じている様子が見られる。これは、正極活物質層薄肉部の少なくとも一部と正極活物質未塗布部の少なくとも一部とを覆う絶縁部材(
図3には図示せず)が設けられていることに起因する。当該膨らみ部について、
図4を用いて説明する。
【0045】
図4は、一般的なリチウムイオン二次電池素子の端部の構造例を説明する図面である。各部材の大きさや縮尺等は実際のものとは異なっている。
図4中、10:正極、11:正極集電体、12:正極活物質層、13:絶縁部材、112:正極リード(正極活物質未塗布部)、113:正極タブ、20:セパレータ、30:負極、31:負極集電体、32:負極活物質層、312:負極リード(負極活物質未塗布部)、313:負極タブである。
図4では、正極10、セパレータ20および負極30は、各々隙間を空けて並ぶように描かれているが、実際は、これらの各部材が互いに隣り合う部材と接して沿うように積層されている。
図4において、正極活物質層12の厚さは全体にわたり均一である。ここで電池の端部には絶縁部材13が重なって存在することになる。この場合、絶縁部材13の数が増えるに従い、電池素子の端部のみの厚さが増すため、端部に膨らみが生じうる。このような電池素子を外装体で覆うと、
図3bで説明したような、端部に膨らみが生じた電池となることがある。電池端部に局所的に生じる膨らみ部は体積当たりのエネルギー密度が小さくなるため、電池特性のばらつきが問題となりうる。また、厚さが不均一の電池は積層しにくいため、自動車や電気機器内に実装する際の配置に問題が生じうる。
【0046】
次に本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池の構造を説明する。
図5はリチウムイオン二次電池の外形例を示す図面である。各部材の大きさや縮尺等は実際のものとは異なっている。
図5aは上面図、
図5bは側面図である。
図5a中、40:外装体、113:正極タブ、313:負極タブである。正極タブ113と負極タブ313は、全体として矩形のリチウムイオン二次電池1の一辺から引き出されている。
図5b中、40:外装体、113(313):正極(負極)タブである。
図5bでは、外装体40の端部、すなわち正極タブ113と負極タブ313を引き出して封止している端部に、わずかに膨らみが生じている様子が見られる。これは、正極活物質層薄肉部の少なくとも一部と正極活物質未塗布部の少なくとも一部とを覆う絶縁部材(
図5には図示せず)が設けられていることに起因する。当該膨らみ部について、
図6を用いて説明する。
【0047】
図6は、本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の端部の構造を説明する図面である。各部材の大きさや縮尺等は実際のものとは異なっている。
図6中、10:正極、11:正極集電体、12正極活物質層、13:絶縁部材、112:正極リード、113:正極タブ、20:セパレータ、30:負極、31:負極集電体、32:負極活物質層、311:負極リード、313:負極タブである。
図6では、正極10、セパレータ20および負極30は、各々隙間を空けて並ぶように描かれているが、実際は、これらの各部材が互いに隣り合う部材と接して沿うように積層されている。
図6において、正極活物質層12には、正極活物質層平坦部と正極活物質層薄肉部とが設けられている。絶縁部材13の数が増えるに従い、電池素子の端部の厚さが増すが、正極活物質層薄肉部が存在するために、端部の膨らみを抑制することができる。このような電池素子を外装体で覆うと、
図5bで説明したような、端部にわずかな膨らみが生じた電池とすることができる。
【0048】
このように、実施形態のリチウムイオン二次電池素子における正極は、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが小さくなった正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とから構成された正極活物質層を有している(
図6)。各絶縁部材13の厚さが大きくて、あるいは、絶縁部材13の数が多くて、電池素子の端部の膨らみを防げない場合は、正極活物質層だけでなく負極活物質層についても、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが小さくなった負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成することができる(
図7)。
図7において各部材の大きさや縮尺等は実際のものとは異なっている。正極10は、正極集電体11と正極活物質層12とから構成され、正極活物質層12は、正極活物質平坦部121と正極活物質層薄肉部122とを有している。負極30は、負極集電体31と負極活物質層32とから構成され、負極活物質層32は、負極活物質平坦部321と負極活物質層薄肉部322とを有している。正極10、セパレータ20および負極30の端部は、
図7では互いに離れているように描かれているが、実際は、これらの端部が互いに隣り合う端部と接して沿うように積層されている。すなわち、電池端部の膨らみを最小限に抑えることができる。ここで、負極活物質層薄肉部の開始端323が正極活物質層薄肉部の開始端123と、セパレータ20を介して対向している。両開始端が対向しているとは、たとえば
図7に見られるように、2つの開始端部の位置がほぼ同じ箇所に揃う状態で積層されているという意味である。すると負極活物質層薄肉部322と正極活物質層薄肉部122とが対向する位置となり、各絶縁部材13の厚さが大きい、あるいは、絶縁部材13の数が多いといった場合でも、電池素子の端部の膨らみを低減することが可能となる。
【0049】
また図示していないが、該負極活物質層薄肉部の開始端323が、該正極活物質層薄肉部122と、セパレータ20を介して対向している形態も可能である。この形態はすなわち負極活物質層薄肉部の開始端323が正極活物質層薄肉部の開始端123よりも外側にあることを意味する。ここで「外側にある」とは、電池素子端部において、負極活物質層薄肉部の開始端323が正極活物質層薄肉部の開始端123よりも正極活物質未塗布部の方向に位置することを意味する。このような構造に形成すると、負極活物質層薄肉部の開始端323と正極活物質層薄肉部の開始端123とが対向している形態よりも、負極活物質平坦部321の面積を大きくすることができる。これにより正極活物質層に対して負極活物質層の容量を大きくすることができるため、上記の通り、リチウムデンドライト発生を抑制することができる。さらには、負極活物質層薄肉部322と正極活物質層薄肉部122が対向する位置にある場合には電池素子の端部の膨らみをより効果的に低減することも可能となる。
【0050】
またさらには、負極活物質層の全面において、負極活物質層の厚さを、セパレータを介して対向する正極活物質層の厚さよりも大きくすることが好ましい。これは、正極活物質層に対して負極活物質層の容量を大きくするにあたり簡便に実施できる形態である。これによりリチウムデンドライト発生を抑制することができる。
【0051】
図2、
図5、
図6および
図7で表されるような本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池素子をセパレータを介して複数積層する。各正極集電体から延びる正極リードを一括して接合して正極タブとし、各負極集電体から延びる負極リードを一括して接合して負極タブとする。なお正極タブとしてアルミニウム板、負極タブとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを施してあってもよい。このように複数の電池素子を積層してできた電池は、溶接された正極タブおよび負極タブを外側に引き出す形で、外装体により包装される。外装体の内部には電解液が注入される。外装体は、周縁部が熱融着した形状をしている。こうして実施形態のリチウムイオン二次電池が構成される。
【実施例】
【0052】
<正極の作製>
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト系複合酸化物NCM523と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(CB)と、バインダ樹脂としてPVDF(クレハ製、#7200)とを、固形分質量比で複合酸化物:CB:PVDFが90:5:5の割合となるように混合し、溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)に添加した。この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で遊星方式の分散混合を30分間実施することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み20μmの矩形のアルミニウム箔の両面上にドクターブレード法にて塗布した。この際、矩形の正極集電体の一辺の部分だけスラリーを塗布しないようにして、正極活物質混合物の塗布部のサイズが20cm×20cmとなるようにした。また、このように設けた正極活物質未塗布部と正極活物質塗布部との境界部に幅20mmの正極活物質層薄肉部を設けた。次いで、100℃にて乾燥し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、得られた電極をロールプレスして正極活物質層を設けた。上記のように設けた幅20mmの正極活物質層薄肉部のうち5mmの幅を覆うように、厚さ30μm、幅10mmの絶縁テープ(ポリプロピレンシートに接着性樹脂を塗布した粘着テープ)を貼った。なお、以下に説明する負極の負極活物質層の厚さを所定のものとして、この負極の充電容量から計算して所定の充電容量比(表1に記載)となるように正極活物質の塗布量を計算し、充電容量の異なる正極を複数作製した。
【0053】
<負極の作製>
負極活物質として、天然黒鉛粉末を用いた。この炭素材料粉末と、バインダ樹脂であるスチレンブタジエンラバー(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(CB)とを、黒鉛粉末:SBR:CMC:CB=91:2:2:5の割合となるように均一に混合し、溶媒である純水に添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚さ10μmの矩形の銅箔の両面上に乾燥後重量が片面あたり10mg/cm
2となるようにドクターブレード法にて塗布した。この際、矩形の負極集電体の一辺の部分だけスラリーを塗布しないようにして、負極活物質混合物の塗布部のサイズが21cm×21cmとなるようにした。次いで、100℃にて乾燥し、得られた電極をロールプレスして、負極活物質層を設けた。
【0054】
<セパレータ>
空孔率60%、厚さ25μm、サイズ22cm×22cmのポリプロピレンセパレータを用意した。
【0055】
<電解液>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、EC:DEC=70:30の体積比で混合し、ビニレンカーボネート(VC)を1重量%混合した非水溶媒を用意した。この混合非水溶媒に電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を濃度が1モル/リットルとなるように溶解させたものを電解液として用いた。
【0056】
<外装体>
外装体用ラミネートフィルムとして、厚さ25μmのナイロン、厚さ40μmの軟質アルミニウム、厚さ40μmのポリプロピレンを積層した積層フィルムを用いた。
【0057】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した正極ならびに負極を、セパレータを隔てて重なるように配置して電池素子を得た。この際、正極活物質の未塗布部と負極活物質の未塗布部とが同一の辺に配置される、すなわちセパレータを介して対向するようにそれぞれ向きを揃えて積層した。これは、各電極タブを矩形の電池の1辺から導出させるためである。負極、セパレータ、正極、セパレータの順に、負極が11枚になるまで積層した。正極タブとなるアルミニウム板と正極10枚の正極活物質層未塗布部とを一括して超音波溶接した。同様に負極タブとなるニッケルめっきした銅板と負極11枚の負極活物質層未塗布部とを一括して超音波溶接した。そして、負極板の負極集電体延長部に対し負極端子の内側端(一端部)を接合した。2枚の矩形のラミネートフィルムの間に積層体を挟み、3辺を封止し、内部に電解液を100g注入して、残りの1辺を封止することにより積層型リチウムイオン電池を完成させた。この積層型リチウムイオン電池の初充電(0.2Cで4.2Vまで)を行い、次いで0.2Cで2.5Vまで放電することで評価用のリチウムイオン電池を得た。
【0058】
<リチウムイオン二次電池素子の評価>
作成したリチウムイオン電池を0.2Cで4.2Vまで充電し、満充電状態にした。0.2Cで2.5Vまで放電することで各電池の充電容量を測定した。実施例1の電池の充電容量を100として、他の電池の充電容量を規格化した。次いで各電池について1Cで4.2VまでCC/CV充電し、1Cで2.5VまでCC放電することを500回繰り返し、第1回目放電の放電容量と第500回目放電の放電容量とを比較して放電容量維持率を求めた。
【0059】
【表1】
【0060】
本発明に規定する充電容量比A
E/C
EおよびA
C/C
Cを有する電池は、500回の充放電を経た後でも、90%以上の容量を維持していた。これに対し、充電容量比A
E/C
Eの値が本発明の規定を満たさない比較例1にかかる電池は、サイクル容量維持率が劣っていた。また充電容量比A
E/C
EおよびA
C/C
Cとも本発明の規定を満たさない比較例2にかかる電池は、サイクル容量維持率は90%であったものの、電池容量が低く、高容量電池としての使用に耐えるものではなかった。
【0061】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。