【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1の故障診断システム100を、
図1〜
図9を用いて説明する。
【0013】
まず、
図2のハードウェアブロック図を用いて、故障診断システム100の構成を説明する。ここに示すように、故障診断システム100は、最適アルゴリズム探索装置1と診断処理装置2を通信路23で接続したものであり、診断対象である空気圧縮機30に取り付けたセンサ3が取得した特徴量に基づいて、空気圧縮機30の異常予兆を診断するものである。故障診断システム100の構成のうち、最適アルゴリズム探索装置1は、空気圧縮機30の異常予兆を診断するのに最適な特徴量検出アルゴリズムを探索するものであり、診断処理装置2は、最適の特徴量検出アルゴリズムにより得た特徴量を用いて空気圧縮機30の異常予兆を診断するものである。
【0014】
ここでは、最適アルゴリズム探索装置1と診断処理装置2を分離した故障診断システム100を例示しているが、両者を一体化した故障診断システム100としても良い。また、通信路23を介して、故障診断システム100をネットワーク上の記憶・診断処理装置24に接続し、最適アルゴリズム探索装置1の機能の一部を記憶・診断処理装置24に代替させても良い。なお、以下では、診断対象を空気圧縮機30とした例を説明するが、他の機器を診断対象としても良いことは言うまでもない。
【0015】
本実施例の診断対象である空気圧縮機30は、空気圧縮機本体30aと、空気圧縮機本体30aを駆動する回転機30bと、回転機30bの電源30cを備えている。また、回転機30bの軸受30dには、振動を計測する加速度センサ30eが取り付けられており、電源30cと回転機30bを接続する電線には供給電流を計測する電流センサ30fが取り付けられている。以下では、空気圧縮機30の物理量を取得する加速度センサ30eや電流センサ30f等を空気圧縮機30のセンサ3と呼び、このセンサ3が取得した加速度実効値や電流値を空気圧縮機30の特徴量と呼ぶ。
【0016】
図2に示すように、最適アルゴリズム探索装置1には、CPU等の中央制御装置10a、キーボードやマウス等の入力装置10b、ディスプレイ等の出力装置10c、通信路23に接続される通信装置10d、HDDやSSD等の補助記憶装置10e、半導体メモリ等の主記憶装置10fが設けられており、各々がバスで接続されている。主記憶装置10fには、後述する特徴量検出処理部1f等に相当するプログラムがロードされており、中央制御装置10aがそれらのプログラムを実行することで、
図2の主記憶装置10f内に例示した各機能が実現される。また、補助記憶装置10eには、後述する特徴量検出アルゴリズム群1e等が記録されており、中央制御装置10aが所望の機能を実現する際に、適宜読み書きされる。なお、処理手順制御部10hは中央制御装置10aの処理手順を制御するものである。
【0017】
また、診断処理装置2には、CPU等の中央制御装置20a、キーボードやマウス等の入力装置20b、ディスプレイ等の出力装置20c、通信路23に接続される通信装置20d、半導体メモリ等の主記憶装置20eが設けられており、各々がバスで接続されている。主記憶装置20eには、後述する特徴量検出処理部2c等に相当するプログラムがロードされており、中央制御装置20aがそれらのプログラムを実行することで、
図2の主記憶装置20e内に例示した各機能が実現される。なお、処理手順制御部20fは中央制御装置20aの処理手順を制御するものである。
【0018】
ここで、
図9を用いて、軸受30dの加速度センサ30eが取得した加速度実効値から、診断処理装置2で異常を診断できる理由を説明する。
図9のグラフにおいて、縦軸は加速度実効値、横軸は累積運転時間である。グラフ中の実線は、一定速度で回転する回転機30bで通常のグリス劣化が生じた時の、軸受30dの加速度実効値の経時変化を示しており、加速度実効値が所定の閾値a0に達した時刻T1と時刻T2のタイミングで軸受30dにグリスを注入し、加速度実効値が低下する状況を示している。
【0019】
これに対し、破線L1は、時刻T2でのグリスアップを行わなかったときの、時間T2以降の加速度実効値の経時変化を示している。時刻T1のグリスアップから十分な時間が経過した後に、閾値a0を超える加速度実効値の上昇を観測できたときには、加速度実効値の上昇の原因がグリスの劣化であると診断できるため、診断処理装置2は空気圧縮機30の管理者などにグリスアップを促す警告を通知することができる。
【0020】
一方、破線L2は、時刻T1のグリスアップから十分な時間が経過する前に、加速度実効値が所定の閾値a0に達した状況を示している。このような加速度実効値の上昇を観測できたときには、診断処理装置2は、通常のグリス劣化以外の要因によって加速度実効値が大きくなったと診断できるため、空気圧縮機30の管理者などに、軸受30dの破損や異物混入などの異常を通知することができる。
【0021】
ここで説明した
図9では、加速度実効値の大きな経時変化が観測できているため、診断処理装置2は高い精度で異常予兆を診断できた。しかし、診断処理装置2で使用する特徴量検出アルゴリズムが適当でない場合は、加速度実効値の継時変化を小さく観測し、適当な異常予兆診断を実施できない場合もあるため、適切な特徴量検出アルゴリズムの選択は、異常予兆診断の精度に大きく影響することが分かる。
【0022】
次に、
図1の機能ブロック図を用いて、最適アルゴリズム探索装置1と診断処理装置2によって実現される各機能の詳細を説明する。
<最適アルゴリズム探索装置>
最適アルゴリズム探索装置1のメンテナンス進行状態設定部1aは、空気圧縮機30に対するメンテナンスの進行状態を手動または自動で設定・記録する部分であり、例えば、メンテナンス前後の状態やメンテナンス中のイベント情報(グリス注入時刻など)を設定・記録する。
【0023】
計測データ収集部1bは、センサ3が取得した物理量(電荷・電流・抵抗値など)を電圧アナログ信号に変換したり、電圧デジタル信号値に変換したりする部分である。そして、計測データ収集部1bで収集したデータのうち、メンテナンス前に収集したデータをメンテナンス前データDB1c(DBはデータベースの意味。以下も同様。)に記録し、メンテナンス後に収集したデータをメンテナンス後データDB1dに記録する。ここでは、説明のために、メンテナンス前データDB1cとメンテナンス後データDB1dを分けた構成を示しているが、メンテナンス前後に収集したデータを共通のデータベースに記録しておき、各データとともに記録された時刻情報またはイベント情報に基づいて、メンテナンス前のデータと、メンテナンス後のデータに区別して読み出せるようにしても良い。
【0024】
特徴量検出処理部1fは、メンテナンス前データDB1cとメンテナンス後データDB1dから読み取ったデータを、特徴量検出アルゴリズム群DB1eに予め登録されている複数の特徴量検出アルゴリズムを用いて特徴量検出演算し、複数の特徴量検出結果を出力する。
【0025】
最適アルゴリズム探索部1gは、入力された複数の特徴量検出結果を比較し、最も優れた特徴量検出結果に対応した特徴量検出アルゴリズムを選定する。ここで、特徴量検出アルゴリズムの選定は、数学的指標情報に基づいて最適アルゴリズム探索部1gが自動で選定しても良いし、波形などの可視化された情報に基づいて管理者等が手動で選定しても良い。また、数学的指標情報を元にある程度絞り込んだ候補を複数提示し、最終選定を管理者等が手動で行っても良い。
【0026】
ここで、本実施例の故障診断システム100の最終目標は、診断処理装置2での空気圧縮機30の異常予兆診断の性能向上である。診断処理装置2の性能は、予兆診断アルゴリズムと特徴量検出アルゴリズムの組み合わせで決まるため、最適アルゴリズム探索部1gは、診断処理装置2で実際に使用されている予兆診断アルゴリズムとの組み合わせを考慮して、特徴量検出アルゴリズムを評価することが望ましい。この実現のため、
図1のように、診断処理装置2の予兆診断処理結果を通信路23を経由して最適アルゴリズム探索部1gに入力し、その予兆診断処理結果を踏まえて、診断処理装置2の予兆診断アルゴリズムに適した特徴量検出アルゴリズムを選定しても良い。なお、
図1では、診断処理装置2の予兆診断処理部2
eから予兆診断処理結果を取得しているが、予兆診断処理部2
eと同等の予兆診断アルゴリズムを、最適アルゴリズム探索装置1内の予兆診断処理部2e’に組み込んでおき、この出力を踏まえて、当該予兆診断アルゴリズムに適した特徴量検出アルゴリズムを選定しても良い。この構成の場合、診断処理装置2が停止中であっても、最適アルゴリズム探索装置1のみで最適な特徴量検出アルゴリズムを選定することができる。
【0027】
アルゴリズム変更情報生成部1hは、最適アルゴリズム探索部1gで選定された特徴量検出アルゴリズムを、診断処理装置2の特徴量検出部2aに反映させるためのアルゴリズム変更情報を生成する。このアルゴリズム変更情報の詳細は後述する。
<診断処理装置>
続いて、診断処理装置2について説明する。診断処理装置2は、特徴量検出部2aと、予兆診断処理部2eと、診断結果出力部2fを備えている。特徴量検出部2aで検出した特徴量は、予兆診断処理部2eへ入力され、予兆診断処理が行われる。ここでの予兆診断処理は、閾値処理、トレンド分析、統計分析、AIを用いた手法、機械学習など様々な予兆診断アルゴリズムを用いることができる。予兆診断処理部2eで得た診断結果は、診断結果出力部2
fから出力される。
【0028】
特徴量検出部2aは、計測データ収集部2bと、特徴量検出
処理部2cと、特徴量出力処理部2dより構成される。これらのうち、特徴量検出
処理部2cは、アルゴリズム変更情報生成部1hが生成したアルゴリズム変更情報に従って、処理回路の再配線等を行い、最適アルゴリズム探索部1gが選定した最適な特徴量検出アルゴリズムでの特徴量検出を実行できるようにする。特徴量検出アルゴリズムの変更に対応した特徴量検出処理部2cの具体例を
図3、
図4、
図5に示す。
<特徴量検出処理部の第一の構成例>
図3は、特徴量検出処理部2cに複数の特徴量検出アルゴリズムが予め書き込まれており、アルゴリズム変更情報の一態様である切換信号に従って、使用する特徴量検出アルゴリズムを切
り換え、最適アルゴリズム探索部1gが選定した特徴量検出アルゴリズムを再現する構成である。この場合、アルゴリズム変更情報生成部1hは、最適アルゴリズム探索部1gが選定した特徴量検出アルゴリズムを選択する切換信号を特徴量検出処理部2cに出力する。そして、特徴量検出処理部2cは、切換信号に従って特徴量検出アルゴリズムを切り換え、指定された特徴量検出アルゴリズムを用いて特徴量を検出する。
<特徴量検出処理部の第二の構成例>
図4は、特徴量検出処理部2cをCPU4aと処理手順DB4bで構成し、アルゴリズム変更情報の一態様である処理手順情報に従って、処理手順DB4bから必要な処理プログラムをロードし、最適アルゴリズム探索部1gが選定した特徴量検出アルゴリズムを再現する構成である。この場合、アルゴリズム変更情報生成部1hは、最適アルゴリズム探索部1gが選定した特徴量検出アルゴリズムの実現に必要な処理プログラムを列挙した処理手順情報を特徴量検出処理部2cに出力する。そして、特徴量検出処理部2cは、処理手順情報で指定された処理プログラムをCPU4aで実行し、指定された特徴量検出アルゴリズムを用いて特徴量を検出する。
<特徴量検出処理部の第三の構成例>
図5は、特徴量検出処理部2cをProgrammable System-on-Chipなどの処理の再構成が可能なLSIで構成し、アルゴリズム変更情報の一態様である再構成情報または処理手順情報に従って、LSIを再構成し、最適アルゴリズム探索部1gが選定した特徴量検出アルゴリズムを再現する構成である。なお、
図5を採用する場合、特徴量検出部2aは1つのLSIチップで構成しても良いし、複数のチップの組み合わせて構成しても良い。
【0029】
ここに示すように、Programmable System-on-Chipである特徴量検出処理部2cには、アナログ回路ブロック5a、デジタル回路(ロジック回路)ブロック
5b、CPU
5cが設けられている。なお、これらは相互に接続されており、入力された計測データを任意の順序で処理することができるようになっている。
【0030】
アナログ回路ブロック5aには、多数のオペアンプや抵抗、コンデンサなどが入っており回路接続をスイッチ回路で切り替えることにより、様々な機能を持ったアナログ回路に再構成できる。従って、回路接続を変更することによりアナログ領域でフィルタ処理や平均値・実効値などのアナログ信号処理が実現可能である。
【0031】
デジタル回路ブロック5bには、多数のゲート回路や機能性デジタル回路が内蔵されており回路の接続構成を変更することにより様々なデジタル回路を作成できる。また、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などを外部に取り付けてこの処理を行っても良い。
【0032】
CPU5cは、
図4で説明したCPU4aが行うような処理もできるし、アナログ回路ブロック5a、デジタル回路ブロック5bへの入出力や各ブロックの動的な制御を行うことができる。つまり、アルゴリズム変更情報生成部1hにおいて、アナログ回路ブロック5aの再構成情報、デジタル回路ブロック5bの再構成情報、そしてCPU5cの処理手順情報を生成することにより、計測データより最適な特徴量を出力することができる。
【0033】
図5の構成の場合、アルゴリズム変更情報生成部1hは、最適アルゴリズム探索部1gが選定した特徴量検出アルゴリズムの実現に必要なデジタル回路構成やアナログ回路構成を示す再構成情報、または、必要な処理プログラムを列挙した処理手順情報を特徴量検出処理部2cに出力する。そして、特徴量検出処理部2cは、再構成情報または処理手順情報に従って再構成され、指定された特徴量検出アルゴリズムを用いて特徴量を検出する。
<最適アルゴリズム探索装置でのアルゴリズム選定処理>
次に、
図6、
図7を用いて、最適アルゴリズム探索装置1で実行される特徴量検出アルゴリズムの選定処理の詳細を説明する。
図6は、最適アルゴリズム探索装置1で実行されるアルゴリズム選定処理のフローチャート、
図7は、最適アルゴリズム探索装置1の出力装置10cに表示される操作画面の一例である。なお、以下の説明は、空気圧縮機30の軸受30dにグリスアップするメンテナンスの前後の計測データから、最適な特徴量検出アルゴリズムを探索する状況に対応している。
【0034】
図7の操作画面の探索処理開始ボタン7aが押されると、最適な特徴量検出アルゴリズムの探索処理が開始される(
図6のS1)。
【0035】
次に、操作画面で、メンテナンス前の
計測データの取得を開始するためのメンテ前データ取得開始ボタン7bが押されると、メンテナンス前のデータ取得指令が発せられ(S2)、計測データの収集を開始し(S3)、
計測データが収集される(S4)。その後、メンテ前データ取得終了ボタン7cが押され、収集終了指令が発せられると(S5)、収集した計測データをメンテナンス前データDB1cに記録する(S6)。これにより、メンテナンス開始前の計測データが取得されたことになる。
【0036】
最適な特徴量検出アルゴリズムの選定には、メンテナンス開始前の計測データは一定時間以上必要であるため、この時間以上経過した後にメンテ前データ取得終了ボタン7cが押されることが望ましい。このため、計測データの取得開始からの経過時間を操作画面に表示しても良いし、所定時間経過した後、メンテ前データ取得終了ボタン7cを表示するようにしても良い。または、最適アルゴリズム探索装置1を常時稼動状態にしておき、メンテ前データ取得終了ボタン7cが押される以前の計測データを常に記録しておいても良い。
【0037】
続いて、軸受30dのメンテナンスを実施する(S7)。なお、このメンテナンスでは、1回目のグリスアップの後、空気圧縮機30を所定時間駆動し、2回目のグリスアップを行ったものとする。
【0038】
操作画面に表示される、メンテナンス時のイベント登録ボタン7
fは、メンテナンス中のイベントを登録するボタンである。例えば、上述のように、グリスアップを2回行った場合は、グリスアップ毎にボタンを押して、イベントの発生を記載することができる。これにより、イベントにより特徴量がどのように変化する
か(効果があるか)が可視化できる。なお、ボタンはなく、RFIDなどをグリス注入口に取り付け、グリス注入冶具を接近させることによりそのイベントを自動的に登録できるようにしても良い。
【0039】
メンテナンスが終了し、メンテナンス後の計測データの取得を開始するためのメンテ後データ取得開始ボタン7dが押されると、メンテナンス後のデータ取得指令が発せられ(S8)、計測データの収集を開始し(S9)、計測データが収集される(S10)。その後、メンテ後データ取得終了ボタン7eが押され、収集終了指令が発せられると(S11)、収集した計測データをメンテナンス後データDB1dに記録する(S12)。これにより、メンテナンス
後の計測データが取得されたことになる。
【0040】
メンテナンス前後の計測データの取得が完了すると、特徴量検出処理部1fは、メンテナンス前データDB1cとメンテナンス後データDB1dから読み取った計測データを、特徴量検出アルゴリズム群DB1eに登録された各特
徴量検出アルゴリズムを用いて処理し、各特
徴量検出アルゴリズムによって求まる特徴量の値を演算する(S13)。
【0041】
ここで、
図7の波形表示部7gを参照しながら、特徴量検出アルゴリズム群DB1eに登録された四種類の特
徴量検出アルゴリズム(手法A〜手法D)から、最適なものを選定する方法を説明する。なお、メンテナンス中の計測データも取得されており、その計測データについても特徴量
が演算されているものとしている。
【0042】
波形表示部7gから明らかなように、手法Aで求めた加速度実効値(7h)が、他の手法で求めた加速度実効値(7i〜7k)に比べて、メンテナンス前後の差が顕著に大きい。メンテナンス前後の特徴量の差の表示部7mは、メンテナンス前後の加速度実効値(特徴量)の差を棒グラフで表しており、手法Aの有用性をより簡便に把握できるようになっている。
【0043】
これらの情報を基に、メンテナンス前後の特徴量の差が最も大きくなる特徴量検出アルゴリズムを、最適なアルゴリズムとして選定する(S14)。なお、上述したように、アルゴリズムの選定は、最適アルゴリズム探索部1gが自動で選定しても良いし、管理者等が手法選定ボタン7lを操作して手動で選定しても良い。
【0044】
そして、
アルゴリズム変更情報
生成部1hでは、選定された特徴量検出アルゴリズムを基に、診断処理装置2に送信するアルゴリズム変更情報を作成し(S15)、これを診断処理装置2に送信することで、一連の特徴量検出アルゴリズムの選定処理を終了する。なお、ここで作成されるアルゴリズム変更情報は、
図3、
図4、
図5を用いて説明した情報である。
【0045】
これにより、最適特徴量検出アルゴリズムが探索され、診断処理装置2の変更情報が生成されることになる。
<診断処理装置での異常予兆診断処理>
次に、診断処理装置2の異常予兆診断処理フローを
図8を用いて説明する。なお、以下では、診断処理装置2の特徴量検出処理部2cが、最適アルゴリズム探索装置1によって選定された特徴量検出アルゴリズムに変更されているものとする。
【0046】
異常予兆診断処理が開始されると(S81)、診断処理装置2の特徴量検出部2aは、空気圧縮機30の実運転中にセンサ3から入力される計測データの収集を開始する(S82)。そして、計測データ収集部2bが計測データを収集すると(S83)、特徴量検出処理部2cは、最適アルゴリズム探索装置1が選定した最適特徴量検出アルゴリズムを使用して、計測データから特徴量(例えば、加速度実効値)を検出し(S84)、特徴量出力処理部2dから特徴量を出力する(S85)。これにより、メンテナンス前後の特徴量の差を強調するのに最適なアルゴリズムを使用して、空気圧縮機30の実運転の特徴量を取得できる。
【0047】
続いて、予兆診断処理部2eでは、特徴量検出部2aから出力された特徴量を用いて、予兆診断処理を実行する(S86)。ここで用いる特徴量は空気圧縮機30の状態変化を強調するアルゴリズムで求めたものであるので、この特徴量を予兆診断アルゴリズムの入力とすることで、異常予兆診断の精度をより高めることができる。予兆診断の結果は診断結果出力部2fから出力され(S87)、診断停止指令が与えられるまで、ステップS83〜ステップS87の診断処理を継続する(S88)。そして、診断停止指令が与えられると、診断処理装置2での異常予兆診断を停止する(S89)。
<本実施例の効果>
以上で説明した本実施例の構成により、メンテナンス前・後の計測データから、メンテナンス前・後の違いを最適に表す特徴量の種別とその特徴量検出アルゴリズムを容易に特定でき、この特徴量検出アルゴリズムを用いることで、診断処理装置2での異常予兆診断の精度を高めることができ、複数の特徴量・特徴量検出アルゴリズム・診断処理アルゴリズムの組み合わせ候補から、検出性能・ハードウェア的制約・コストなどを考慮して最適な組み合わせを選定することができる。
【0048】
また、様々な装置の構成や置かれている環境特有の特徴量がある場合でも柔軟に再構成を行うことにより同一装置で診断処理を行うことができる。
【0049】
なお、本発明は以上で一例として説明した軸受診断への応用だけに留まらない。例えば、モータコイルの絶縁診断やフィルタの目詰まり診断など、様々な物理量・診断項目などへの適用拡大が可能であり、量産化による低価格化が可能となる。
【実施例2】
【0050】
次に、
図10〜
図13Bを用いて、本発明の実施例2の故障診断システムを説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0051】
実施例1の
図7では、メンテナンス前後の加速度実効値の差が最も大きくなる特徴量検出アルゴリズム(手法A)を最適なアルゴリズムとして選定したが、本実施例では他の観点で、最適なアルゴリズムを選定する。
<最適アルゴリズム選定方法の変形例1>
回転機30bを一定速度で回転させ、
図10のような加速度実効値(特徴量)が観測された場合は、
図7の例に比べ、グリス注入の前後で特徴量の変化が顕著に小さいため、
図7の方法では、最適な特徴量検出アルゴリズムを選定することができない。
【0052】
そこで、
図10では、グリス注入の前後はヒゲ状の特徴量増加の頻度および程度が大きく異なることに着目した。この場合、ある時間窓区間の最大実効値を求め、窓の時間位置を順次変化させることで、破
線で示した曲線を求めることができ、グリス注入前後での破
線の差が最も大きくなる特徴量検出アルゴリズムを最適のアルゴリズムとして選定すれば良い。
<最適アルゴリズム選定方法の変形例2>
回転機30bが、負荷に応じて回転数を変化させる可変速機である場合、
図11Aのような加速度実効値(特徴量)が観測されるが、回転数の大きさによって加速度実効値が大きく変化するため、グリス注入前後の特徴量の変化に着目する
図7の方法や、グリス注入前後のヒゲ状の特徴量増加の頻度および程度に着目する
図10の方法では、最適な特徴量検出アルゴリズムを選定することができない。
【0053】
そこで、
図11Bのように、縦軸に加速度実効値をとり、横軸に回転数をとることで、グリス注入前後で、分布に大きな違いが観測できることが分かる。従って、グリス注入前後で分布の差が最も大きくなる特徴量検出アルゴリズムを最適のアルゴリズムとして選定すれば良い。
<最適アルゴリズム選定方法の変形例3>
以上では、特徴量が加速度実効値である場合の特徴量検出アルゴリズムの選定方法を説明してきたが、特徴量が電流センサ30fの出力に基づく回転機30bの駆動電流波形である場合の特徴量検出アルゴリズムの選定方法について、
図12から
図13Bを用いて説明する。
【0054】
図12(a)において、縦軸は駆動電流、横軸は経過時間を示している。回転機30bの駆動電流として交流電流が供給されている場合、駆動電流のピーク値を拡大すると、
図12(b)のように、駆動電流尖頭値部の電流値に変動があり、波打っていることが分かる。これは、負荷に比例するすべり量が交流電流波形で振幅変調されたためである。
【0055】
従って、
図12(b)を波形の周波数成分に変換すると、縦軸をスペクトル強度とし、横軸を周波数とした
図13Aに示すように、
図12(b)に示したすべりの部分が、側波帯(53、54等)として現れる。また、すべりの大きさは電源周波数50からの距離(例えば50から54の距離)として現れる。つまり、すべりが大きくなるほど側波帯の位置が矢印55、56に示すように外側に移動する。
【0056】
図13Bは、縦軸をすべりとし、横軸を経過時間としたグラフであり、グリスアップの時刻T5からの経過時間と、すべり量の関係を示したものである。ここから、時刻T6に至るとグリス劣化により、回転機30bの負荷が急激に増加し、すべり量も急激に大きくなることが判る。従って、グリス注入前後ですべり量の差が最も大きくなる特徴量検出アルゴリズムを最適のアルゴリズムとして選定すれば良い。