(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バックトルク伝達用カムは、前記第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材のそれぞれに一体形成されたカム面にて構成され、当該カム面は、前記第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材の合わせ面にそれぞれ形成されたことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
前記第1クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記入力部材に入力された回転力が前記出力部材に伝達され得る状態となったときに前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の動力伝達装置。
前記第1クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該クラッチ部材とプレッシャ部材とが相対的に回転したとき、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備するとともに、当該バックトルクリミッタ用カムの作動前に前記バックトルク伝達用カムを作動させる構成とされたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、エンジンブレーキを生じさせる際、長孔32及びピン30にて構成されるカム機構により駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接してクラッチオンさせ、車輪側の動力をエンジン側に伝達させることができるものの、クラッチハブ13がウェイト部材から遠ざかる方向に移動するため、ウェイト部材を一定位置に保持することがでず、その後のウェイト部材による作動が不安定になってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、プレッシャ部材が非作動位置にあるとき、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接させることにより車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、エンジンブレーキを生じさせた際のウェイト部材による作動を安定して行わせることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングと、前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、前記クラッチハウジングの径方向に延設された溝部内に配設され、当該クラッチハウジングの回転に伴う遠心力で当該溝部の内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材と、前記ウェイト部材が内径側位置から外径側位置に移動するのに伴って、前記プレッシャ部材を前記非作動位置から前記作動位置に移動させ得る連動部材と、
前記連動部材とプレッシャ部材との間に介装されたコイルスプリングから成り、当該連動部材の移動に伴い前記プレッシャ部材を押圧して前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させる方向に当該プレッシャ部材を移動させ得るクラッチスプリングとを有した動力伝達装置において、前記クラッチ部材は、前記出力部材と連結される第1クラッチ部材と、前記被動側クラッチ板が取り付けられる第2クラッチ部材と、前記プレッシャ部材が非作動位置にあるとき、前記出力部材を介して前記第1クラッチ部材に回転力が入力されると、前記第2クラッチ部材を移動させて前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムとを有するとともに、前記バックトルク伝達用カムは、前記連動部材に対して近接する方向に前記第2クラッチ部材を移動させて当該連動部材と前記ウェイト部材との当接を保持し得る
ものとされ、且つ、前記バックトルク伝達用カムの作動時、前記プレッシャ部材が押圧され、その押圧力が前記クラッチスプリングを介して前記連動部材に伝達されることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記バックトルク伝達用カムは、前記第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材のそれぞれに一体形成されたカム面にて構成され、当該カム面は、前記第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材の合わせ面にそれぞれ形成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の動力伝達装置において、前記カム面は、前記第2クラッチ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板の円環形状に沿って複数形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記第1クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記入力部材に入力された回転力が前記出力部材に伝達され得る状態となったときに前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記第1クラッチ部材に形成された勾配面と前記プレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該クラッチ部材とプレッシャ部材とが相対的に回転したとき、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備するとともに、当該バックトルクリミッタ用カムの作動前に前記バックトルク伝達用カムを作動させる構成とされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、バックトルク伝達用カムは、連動部材に対して近接する方向に第2クラッチ部材を移動させて当該連動部材とウェイト部材との当接を保持し得るので、プレッシャ部材が非作動位置にあるとき、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接させることにより車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、エンジンブレーキを生じさせた際のウェイト部材による作動を安定して行わせることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、バックトルク伝達用カムは、第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材のそれぞれに一体形成されたカム面にて構成され、当該カム面は、第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材の合わせ面にそれぞれ形成されたので、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材の移動を確実且つ円滑に行わせることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、カム面は、第2クラッチ部材に取り付けられた被動側クラッチ板の円環形状に沿って複数形成されたので、バックトルク伝達用カムの作用によって、被動側クラッチ板に対して略均等の押圧力を付与することができ、より効率的に駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、第1クラッチ部材に形成された勾配面とプレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、入力部材に入力された回転力が出力部材に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したので、遠心力によるウェイト部材の移動に伴う圧接力に加えて圧接アシスト用カムによる圧接力を付与させることができ、より円滑かつ確実に駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させることができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、第1クラッチ部材に形成された勾配面とプレッシャ部材に形成された勾配面とを対峙させて構成され、出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該クラッチ部材とプレッシャ部材とが相対的に回転したとき、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したので、ウェイト部材が外径側位置にあるとき、入力部材を介してエンジン側に過大な動力が伝達されてしまうのを回避することができるとともに、バックトルクリミッタ用カムの作動前にバックトルク伝達用カムを作動させる構成とされたので、バックトルク伝達用カムによる作動を確実に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図
【
図3】同動力伝達装置における圧接アシスト用カムを示す模式図
【
図4】同動力伝達装置におけるクラッチハウジングの筐体部を示す斜視図
【
図5】同動力伝達装置におけるクラッチハウジングのカバー部を示す斜視図
【
図6】同動力伝達装置における第1クラッチ部材を示す3面図
【
図7】同動力伝達装置における第2クラッチ部材を示す3面図
【
図8】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を示す3面図
【
図9】同動力伝達装置における第1クラッチ部材、第2クラッチ部材及びプレッシャ部材の組み付け前の状態を示す斜視図
【
図10】同動力伝達装置における第1クラッチ部材、第2クラッチ部材及びプレッシャ部材の組み付け前の状態を示す斜視図
【
図11】同動力伝達装置における第1クラッチ部材、第2クラッチ部材及びプレッシャ部材の組み付け後の状態を示す斜視図
【
図12】同動力伝達装置における圧接アシスト用カムの作用を説明するための模式図
【
図13】同動力伝達装置におけるバックトルクリミッタ用カムの作用を説明するための模式図
【
図14】同動力伝達装置における第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材を組み付けた状態を示す図であって、凸部の一側面及び第1当接面(トルク伝達部)が当接した状態を示す平面図、及びA−A線断面図
【
図15】同動力伝達装置における第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材を組み付けた状態を示す図であって、凸部の一側面及び第1当接面(トルク伝達部)が当接した状態を示すA−A線で破断した斜視図
【
図16】同動力伝達装置における第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材を組み付けた状態を示す図であって、凸部の他側面及び第2当接面(移動量制限部)が当接した状態を示す平面図、及びB−B線断面図
【
図17】同動力伝達装置における第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材を組み付けた状態を示す図であって、凸部の他側面及び第2当接面(移動量制限部)が当接した状態を示すB−B線で破断した斜視図
【
図18】同動力伝達装置におけるバックトルク伝達用カムの作用を説明するための図であって、当該バックトルク伝達用カムが作動する前の状態を示す模式図
【
図19】同動力伝達装置におけるバックトルク伝達用カムの作用を説明するための図であって、当該バックトルク伝達用カムが作動した後の状態を示す模式図
【
図20】同動力伝達装置の内部構成(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間、且つ、バックトルク伝達用カムが非作動位置)を示す縦断面図
【
図21】同動力伝達装置の内部構成(ウェイト部材が外径側位置、且つ、バックトルク伝達用カムが非作動位置)を示す縦断面図
【
図22】同動力伝達装置の内部構成(ウェイト部材が内径側位置、且つ、バックトルク伝達用カムが作動位置)を示す縦断面図
【
図23】同動力伝達装置の内部構成(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間、且つ、バックトルク伝達用カムが作動位置)を示す縦断面図
【
図24】同動力伝達装置の内部構成(ウェイト部材が外径側位置、且つ、バックトルク伝達用カムが作動位置)を示す縦断面図
【
図25】本発明の他の実施形態に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンの駆動力をミッションや駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、
図1〜19に示すように、車両のエンジンの駆動力で回転する入力ギア1(入力部材)が形成されたクラッチハウジング2と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)の
図2中右側に取り付けられたプレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、クラッチハウジング2内を径方向に移動(転動)可能な鋼球部材から成るウェイト部材8と、連動部材9と、手動操作又はアクチュエータ(不図示)により作動可能な作動部材10とから主に構成されている。なお、図中符号Sは、スプリングダンパを示しているとともに、符号B1はローラベアリング、及び符号B2、B3はスラストベアリングをそれぞれ示している。
【0020】
入力ギア1は、エンジンから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベットR等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、
図2中右端側が開口した円筒状部材から成るとともに入力ギア1と連結された筐体部2aと、該筐体部2aの開口を塞ぐように取り付けられたカバー部2bとを有して構成されており、エンジンの駆動力により入力ギア1の回転と共に回転し得るようになっている。
【0021】
また、クラッチハウジング2における筐体部2aは、
図4に示すように、周方向に亘って複数の切欠き2aaが形成されており、これら切欠き2aaに嵌合して複数の駆動側クラッチ板6が取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(
図2中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。
【0022】
さらに、クラッチハウジング2におけるカバー部2bは、
図5に示すように、その底面において当該カバー部2bの径方向に延設された複数の溝部2baが形成されている。かかる溝部2baには、それぞれウェイト部材8が配設されており、クラッチハウジング2が停止した状態(エンジン停止又はアイドリング状態)及び低速で回転した状態では、当該ウェイト部材8が内径側位置(
図2で示す位置)とされるとともに、クラッチハウジング2が高速で回転した状態では、当該ウェイト部材8が外径側位置(
図21で示す位置)となるよう設定されている。
【0023】
クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)は、クラッチハウジング2の駆動側クラッチ板6と交互に形成された複数の被動側クラッチ板7が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力シャフト3(出力部材)と連結されたものであり、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの2つの部材を組み付けて構成されている。
【0024】
第1クラッチ部材4aは、
図6に示すように、周縁部に亘ってフランジ面4acが形成された円板状部材から成るもので、その中央に形成された挿通孔4ad(
図2、6参照)に出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたギアが噛み合って回転方向に連結されるよう構成されている。かかる第1クラッチ部材4aには、
図6、9、10に示すように、圧接アシスト用カムを構成する勾配面4aaと、バックトルクリミッタ用カムを構成する勾配面4abとが形成されている。
【0025】
第2クラッチ部材4bは、
図7に示すように、円環状部材から成るもので、外周面に形成されたスプライン嵌合部4ba(
図2、7参照)に被動側クラッチ板7がスプライン嵌合にて取り付けられるよう構成されている。そして、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)には、
図9〜11に示すように、プレッシャ部材5が組み付けられ、当該プレッシャ部材5のフランジ面5c(
図2、8参照)とクラッチ部材4aのフランジ面4ac(
図2、6参照)との間に複数の駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が交互に積層状態にて取り付けられるようになっている。
【0026】
プレッシャ部材5は、
図8に示すように、周縁部に亘ってフランジ面5cが形成された円板状部材から成るもので、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンの駆動力を車輪に伝達可能な状態とする作動位置(
図21参照)と、当該駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置(
図2参照)との間で移動可能なものである。
【0027】
より具体的には、第2クラッチ部材4bに形成されたスプライン嵌合部4baは、
図7、9、10に示すように、当該第2クラッチ部材4bの外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプライン嵌合部4baを構成する凹溝に被動側クラッチ板7が嵌合することにより、被動側クラッチ板7の第2クラッチ部材4bに対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該第2クラッチ部材4bと共に回転し得るよう構成されているのである。
【0028】
かかる被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板6、7が圧接又は圧接力の解放が可能なようになっている。すなわち、両クラッチ板6、7は、第2クラッチ部材4bの軸方向への摺動が許容されており、プレッシャ部材5が
図2中左側に移動してそのフランジ面5c及びクラッチ部材4のフランジ面4cが近接すると、両クラッチ板6、7が圧接され、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4b及び第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となり、プレッシャ部材5が
図2中右側に移動してそのフランジ面5c及び第1クラッチ部材4aのフランジ面4acが離間すると、両クラッチ板6、7の圧接力が解放して第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0029】
しかして、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンの駆動力)を出力シャフト3(出力部材)を介して車輪側に伝達するとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンの駆動力)が出力シャフト3(出力部材)に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0030】
さらに、本実施形態においては、
図3、6、8、9、10に示すように、第1クラッチ部材4aには、勾配面4aa及び4abが形成されるとともに、プレッシャ部材5には、これら勾配面4aa及び4abと対峙する勾配面5a、5bが形成されている。すなわち、勾配面4aaと勾配面5aとが当接して圧接アシスト用カムを成すとともに、勾配面4abと勾配面5bとが当接してバックトルクリミッタ用カムを成しているのである。
【0031】
そして、エンジンの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(ウェイト部材8が外径側位置)となったときに、
図12に示すように、プレッシャ部材5にはa方向の回転力が付与されるため、圧接アシスト用カムの作用により、当該プレッシャ部材5には同図中c方向への力が発生する。これにより、プレッシャ部材5は、そのフランジ面5cが第1クラッチ部材4aのフランジ面4acに対して更に近接する方向(
図2中左側)に移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるようになっている。
【0032】
一方、車両が走行中、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回って、
図13中b方向のバックトルクが生じた際には、バックトルクリミッタ用カムの作用により、プレッシャ部材5を同図中d方向へ移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置や動力源(エンジン側)に対する不具合を回避することができる。
【0033】
ウェイト部材8は、クラッチハウジング2(本実施形態においてはカバー部2b)の径方向に延設された溝部2ba内に配設され、当該クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力で当該溝部2baの内径側位置(
図2参照)から外径側位置(
図21参照)に移動することにより駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るものである。すなわち、溝部2baにおけるウェイト部材8の転動面(底面)は、内径側位置から外径側位置に向かって上り勾配とされており、クラッチハウジング2が停止した状態ではウェイト部材8をスプリングhの付勢力にて内径側位置に保持させるとともに、クラッチハウジング2が回転すると、ウェイト部材8に遠心力が付与されて上り勾配に沿って移動させ(
図20参照)、当該クラッチハウジング2が所定の回転数に達することにより外径側位置まで移動させる(
図21参照)ようになっている。
【0034】
なお、スプリングhは、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との離間距離がゼロとなるまで撓み、その後はクラッチスプリング11を撓ませることで駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるようになっている。また、変速時においては、スプリングhは伸びるとともに、クラッチスプリング11は縮むこととなり、プレッシャ部材5が移動することとなる。
【0035】
連動部材9は、クラッチハウジング2(カバー部材2b)内に配設された円環状部材から成るもので、カバー部材2bの内周面に形成された溝部に嵌合して連結され、当該クラッチハウジング2と共に回転可能とされるとともに、
図2中左右方向に移動可能とされている。かかる連動部材9は、ウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動するのに伴って、クラッチスプリング11の付勢力に抗して
図2中左側に移動し、プレッシャ部材5を押圧して非作動位置から作動位置に移動させ得るよう構成されている。
【0036】
クラッチスプリング11は、連動部材9とプレッシャ部材5との間に介装されたコイルスプリングから成り、当該連動部材9の移動に伴いプレッシャ部材5を押圧して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向に当該プレッシャ部材5を移動させ得るとともに、作動部材10の作動時、当該プレッシャ部材5の連動部材9に対する押圧力を吸収し得るものである。
【0037】
すなわち、クラッチハウジング2の回転に伴ってウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動し、連動部材9がウェイト部材8に押圧されると、その押圧力がクラッチスプリング11を介してプレッシャ部材5に伝達され、
図20、21に示すように、当該プレッシャ部材5を図中左側に移動して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるとともに、その状態にて作動部材10を作動させると、作動部材10の押圧力にてプレッシャ部材5が図中右側に移動するものの、連動部材9に対する押圧力はクラッチスプリング11にて吸収され、当該連動部材9の位置(ウェイト部材8の位置)は保持されるのである。
【0038】
作動部材10は、手動又はアクチュエータで操作可能な部材(
図2参照)から成り、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得る方向(
図2中右側)にプレッシャ部材5を移動させ得るものである。なお、作動部材10は、例えば車両が具備するクラッチペダルやクラッチレバー等に対する操作やアクチュエータの作動により
図2中右側に移動してプレッシャ部材5と当接し、当該プレッシャ部材5を同方向に移動させることにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放してクラッチをオフ(動力の伝達を遮断)させ得るようになっている。
【0039】
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置は、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るバックトルク伝達用カム(カム面K1、T1)を有している。かかるバックトルク伝達用カムは、
図14〜17に示すように、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの合わせ面(組み合わせ時の合わせ面)にそれぞれ一体形成されたカム面(K1、T1)により構成されている。
【0040】
カム面K1は、
図6、9に示すように、第1クラッチ部材4aに形成されたフランジ面4acの内径側(第2クラッチ部材4bとの合わせ面)において、その全周に亘って複数形成された勾配面から成り、当該第1クラッチ部材4aの周縁部に沿って円環状に複数形成された溝部Kの一方の端面に形成されている。すなわち、第1クラッチ部材4aには、その周方向に亘って複数の溝部Kが形成されており、
図18、19に示すように、各溝部Kの一方の端面が勾配面とされてバックトルク伝達用カムのカム面K1を構成しているのである。なお、各溝部Kの他方の端面は、同図に示すように、第1クラッチ部材4aの軸方向(
図18、19中左右方向)に延びた壁面K2とされている。
【0041】
カム面T1は、
図7、10に示すように、第2クラッチ部材4bの底面(第1クラッチ部材4aとの合わせ面)において、その全周に亘って複数形成された勾配面から成り、当該第2クラッチ部材4bの底面に沿って円環状に複数形成された突出部Tの一方の端面に形成されている。すなわち、第2クラッチ部材4bには、その周方向に亘って複数の突出部Tが形成されており、
図18、19に示すように、各突出部Tの一方の端面が勾配面とされてバックトルク伝達用カムのカム面T1を構成しているのである。なお、各突出部Tの他方の端面は、同図に示すように、第2クラッチ部材4bの軸方向(
図18、19中左右方向)に延びた壁面T2とされている。
【0042】
そして、
図14、15に示すように、溝部Kに突出部Tを嵌入させて第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとを組み合わせると、
図18に示すように、カム面K1とカム面T1とが対峙してバックトルク伝達用カムを構成するとともに、壁面K2と壁面T2とが所定寸法離間して対峙するようになっている。しかして、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、出力シャフト3を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第1クラッチ部材4aが第2クラッチ部材4bに対して相対的に回転するので、
図16、17、19に示すように、カム面K1とカム面T1とのカムの作用によって、第1カム部材4aに対して第2カム部材4bを
図2、19中右側に移動させる。
【0043】
一方、第2クラッチ部材4bには、
図7に示すように、スプライン嵌合部4baの延長上に押圧部4bbが形成されており、当該第2クラッチ部材4bが
図2中右側に移動すると、積層状態にて取り付けられた駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7のうち同図中最も左側の被動側クラッチ板7を同方向へ押圧することとなる。これにより、プレッシャ部材5が非作動位置にあっても、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができ、出力シャフト3(出力部材)から回転力が入力された際、その回転力をエンジン側に伝達させてエンジンブレーキを生じさせることができる。
【0044】
特に、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムは、連動部材9に対して近接する方向(
図2中右側)に第2クラッチ部材4bを移動させて当該連動部材9とウェイト部材8との当接を保持し得るよう構成されている。すなわち、バックトルク伝達用カムが作動して、第2クラッチ部材4bを
図2中右側に向かって移動させると、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させるとともに、プレッシャ部材5を同方向に押圧するので、その押圧力がクラッチスプリング11を介して連動部材9に伝達され、当該連動部材9とウェイト部材8との当接が保持されるのである。
【0045】
しかして、バックトルク伝達用カムの作動時、連動部材9とウェイト部材8とが離間してしまうと、その後、クラッチハウジング2の回転に伴ってウェイト部材8が内径側位置と外径側位置との間を移動しても、その移動に連動部材9を追従させることができない場合があるのに対し、本実施形態によれば、バックトルク伝達用カムの作動時においても、連動部材9とウェイト部材8との当接を保持させることができるので、ウェイト部材8の移動に連動部材9を安定して追従させることができる。
【0046】
さらに、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムを構成するカム面K1、T1は、第2クラッチ部材4bに取り付けられた被動側クラッチ板7の円環形状に沿って複数形成されている。すなわち、バックトルク伝達用カムが作動する際、押圧部4bbにて押圧される被動側クラッチ板7の投影形状(円環形状)に沿ってカム面K1、T1が形成されているのである。これにより、バックトルク伝達用カムの作用によって、押圧部4bbが被動側クラッチ板7に対して略均等の押圧力を付与することができ、より効率的に駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができる。
【0047】
またさらに、本実施形態に係るバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1で構成されるカム)は、バックトルクリミッタ用カム(勾配面4ab及び勾配面5bで構成されるカム)の作動前に作動し得る構成とされている。すなわち、カム面K1及びカム面T1の間のクリアランス(間隙寸法)は、勾配面4ab及び勾配面5bの間のクリアランス(間隙寸法)よりも小さく設定されており、バックトルクリミッタ用カムの作動前にバックトルク伝達用カムが作動し得るようになっている。
【0048】
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置においては、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、第2クラッチ部材4bに伝達された回転力をバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)を介さず第1クラッチ部材4aに伝達し得るトルク伝達部と、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、バックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)による第2クラッチ部材4bの移動量を制限する移動量制限部とを具備している。
【0049】
すなわち、第1クラッチ部材4aには、
図6、9に示すように、凸部Fが周方向に亘って等間隔に複数(本実施形態においては3つ)一体形成されており、第2クラッチ4bには、
図7、9に示すように、内側に向かって延びた突出部Gが一体形成されている。そして、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが組み付けられると、
図14〜17に示すように、一つの凸部Fが2つの突出部Gに挟まれた状態となっており、凸部Fの一側面F1と一方の突出部Gの当接面(第1当接面G1)とが対峙するとともに、凸部Fの他側面F2と他方の突出部Gの当接面(第2当接面G2)とが対峙するよう構成されている。
【0050】
しかして、第1クラッチ部材4aに形成された凸部Fの一側面F1と第2クラッチ部材4bに形成された一方の突出部Gの第1当接面G1とは、本実施形態に係るトルク伝達部を構成している。すなわち、プレッシャ部材5が作動位置に移動して駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてクラッチがオン(駆動力を伝達)すると、バックトルク伝達用カムにおける溝部Kの壁面K2と突出部Tの壁面T2との離間状態(
図18参照)が保持されつつ、
図14、15に示すように、凸部の一側面F1と突出部Gの第1当接面G1とが当接し、第2クラッチ部材4bの回転力を受けて第1クラッチ部材4aに伝達し得るのである。
【0051】
また、第1クラッチ部材4aに形成された凸部Fの他側面F2と第2クラッチ部材4bに形成された他方の突出部Gの第2当接面G2とは、本実施形態に係る移動量制限部を構成している。すなわち、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、出力シャフト3を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが相対的に回転するので、バックトルク伝達用カムにおける溝部Kのカム面K1と突出部Tのカム面T1とのカムの作用により第2クラッチ部材4bが移動する(
図19参照)。そして、その移動量が設定値に達すると、
図16、17に示すように、凸部の他側面F2と突出部Gの第2当接面G2とが当接し、第1クラッチ部材4aに対する第2クラッチ部材4bの相対回転が規制されるので、バックトルク伝達用カムが作動した際の第2クラッチ部材4bの移動量を制限することができる。
【0052】
本実施形態においては、第1クラッチ部材4aに凸部Fを形成し、第2クラッチ部材4bに突出部Gを形成しているが、これに代えて、第1クラッチ部材4bに突出部Gを形成し、第2クラッチ部材4bに凸部Fを形成するようにしてもよい。この場合、第2クラッチ部材4bに形成された凸部Fの一側面F1と第1クラッチ部材4aに形成された一方の突出部Gの第1当接面G1とは、本実施形態に係るトルク伝達部を構成するとともに、第2クラッチ部材4bに形成された凸部Fの他側面F2と第1クラッチ部材4bに形成された他方の突出部Gの第2当接面G2とは、本実施形態に係る移動量制限部を構成する。
【0053】
次に、本実施形態におけるバックトルク伝達用カムの作用について説明する。
エンジンが停止又はアイドリング状態のとき、入力ギア1にエンジンの駆動力が伝達されない或いは入力ギア1の回転数が低回転であるため、
図2に示すように、ウェイト部材8が内径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置とされている。このとき、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、
図22に示すように、バックトルク伝達用カムの作用によって、第2クラッチ部材4bが同図中右側に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてエンジン側に回転力を伝達させる。
【0054】
車両の停止又はアイドリング状態の後、車両が発進するとき、入力ギア1の回転数が低回転から高回転に移行(中回転域)するため、
図21に示すように、ウェイト部材8が内径側位置と外径側位置との間とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置と作動位置との間とされている。このとき、作動部材10にてクラッチ操作してプレッシャ部材5を非作動位置とした状態において、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、
図23に示すように、バックトルク伝達用カムの作用によって、第2クラッチ部材4bが同図中右側に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてエンジン側に回転力を伝達させる。
【0055】
車両が発進した後、加速し、高速域で走行するとき、入力ギア1の回転数が高回転であるため、
図21に示すように、ウェイト部材8が外径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が作動位置とされている。このとき、作動部材10にてクラッチ操作してプレッシャ部材5を非作動位置とした状態において、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、
図24に示すように、バックトルク伝達用カムの作用によって、第2クラッチ部材4bが同図中右側に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてエンジン側に回転力を伝達させる。
【0056】
上記実施形態によれば、バックトルク伝達用カムは、連動部材9に対して近接する方向に第2クラッチ部材4bを移動させて当該連動部材9とウェイト部材8との当接を保持し得るので、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させることにより車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、エンジンブレーキを生じさせた際のウェイト部材8による作動を安定して行わせることができる。
【0057】
また、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムは、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bのそれぞれに一体形成されたカム面(K1、T1)にて構成され、当該カム面(K1、T1)は、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの合わせ面にそれぞれ形成されたので、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材2bの移動を確実且つ円滑に行わせることができる。
【0058】
さらに、第1クラッチ部材4aに形成された勾配面4aaとプレッシャ部材5に形成された勾配面5aとを対峙させて構成され、入力ギア1(入力部材)に入力された回転力が出力シャフト3(出力部材)に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したので、遠心力によるウェイト部材8の移動に伴う圧接力に加えて圧接アシスト用カムによる圧接力を付与させることができ、より円滑かつ確実に駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができる。
【0059】
またさらに、第1クラッチ部材4aに形成された勾配面4abとプレッシャ部材5に形成された勾配面5bとを対峙させて構成され、出力シャフト3(出力部材)の回転が入力ギア1(入力部材)の回転数を上回って当該クラッチ部材(第1クラッチ部材4a)とプレッシャ部材5とが相対的に回転したとき、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したので、ウェイト部材8が外径側位置にあるとき、入力ギア1を介してエンジン側に過大な動力が伝達されてしまうのを回避することができるとともに、バックトルクリミッタ用カムの作動前にバックトルク伝達用カムを作動させる構成とされたので、バックトルク伝達用カムによる作動を確実に行わせることができる。
【0060】
加えて、本実施形態によれば、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムと、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、第2クラッチ部材4bに伝達された回転力をバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)を介さず第1クラッチ部材4aに伝達し得るトルク伝達部とを具備したので、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させることにより車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、ウェイト部材8が外径側位置に移動してプレッシャ部材5が作動位置に移動するときの動力伝達を安定して行わせることができる。
【0061】
また、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動量を制限する移動量制限部を具備したので、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動を設定された範囲内にて行わせることができる。
【0062】
さらに、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの何れか一方に凸部Fが形成されるとともに、トルク伝達部は、当該凸部Fの一側面F1と該一側面F1と当接して回転力を受け得る第1当接面G1とから成るとともに、移動量制限部は、当該凸部Fの他側面F2と該他側面F2と当接して移動量を制限し得る第2当接面G2とから成るので、トルク伝達部及び移動量制限部の機能を凸部Fが兼用して行わせることができる。
【0063】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば
図25、26に示すように、クラッチハウジング2の筐体部2aにウェイト部材8を移動可能に配設したものに適用してもよい。この場合であっても、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bのそれぞれに形成されたカム面(K1、T1)にてバックトルク伝達用カムを構成し、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るものとされ、且つ、バックトルク伝達用カムは、連動部材9に対して近接する方向(
図25中左側)に第2クラッチ部材4bを移動させて当該連動部材9とウェイト部材8との当接を保持し得るようになっている。
【0064】
また、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムを構成するカム面K1、T1は、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにおける上記とは相違する位置に形成するようにしてもよい。さらに、本実施形態においては、バックトルク伝達用カムに加え、圧接アシスト用カム及びバックトルクリミッタ用カムの両方を具備しているが、圧接アシスト用カムのみ具備したもの、或いは圧接アシスト用カム及びバックトルクリミッタ用カムの何れも具備しないものとしてもよい。
【0065】
またさらに、本実施形態においては、トルク伝達部及び移動量制限部を具備しているが、これらトルク伝達部及び移動量制限部の何れか一方のみ具備したもの、或いは両方具備しないものとしてもよい。なお、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。