(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961452
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】固定陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/08 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
H01J35/08 E
H01J35/08 D
H01J35/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-199345(P2017-199345)
(22)【出願日】2017年10月13日
(65)【公開番号】特開2019-75228(P2019-75228A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友伸
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−211274(JP,A)
【文献】
特開2016−018690(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0079029(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08
H01J 35/12
H01J 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する陰極と、
管軸に沿った方向において前記陰極に対向配置され、前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する焦点が形成されるターゲット面を有する陽極と、
前記陽極に固定され、前記陰極側に延出し、前記ターゲット面を取囲み、前記陽極と同電位に設定され、前記陰極から前記ターゲット面に向かう電子を通す第1開口と、前記焦点から放出されるX線を通す第2開口と、を有する陽極フードと、
前記陽極フードの前記第2開口を閉塞し、X線を透過させるX線透過窓と、
前記陰極、前記陽極、前記陽極フード、及び前記X線透過窓を収容した電気絶縁性の真空外囲器と、を備え、
前記ターゲット面は、傾斜面であり、前記管軸に直交する第1方向に向かうほど前記陰極から遠ざかり、
前記管軸に沿って前記陰極側から前記陽極及び前記X線透過窓をみた場合に、前記焦点から前記X線透過窓の中央に向かう第2方向に対して、前記前記焦点から向かう前記第1方向が時計回り又は反時計回りに成す角度をθとすると、
角度θは0°以外である、
固定陽極型X線管。
【請求項2】
0°<θ≦90°である、
請求項1に記載の固定陽極型X線管。
【請求項3】
前記X線透過窓は、ベリリウム、グラファイト、クロロフルオロカーボン、ベリリア、ホウ素、窒化ホウ素、及び炭化ホウ素の少なくとも1つを含む材料で形成されている、
請求項1に記載の固定陽極型X線管。
【請求項4】
前記焦点は、長軸を有し、
前記管軸に沿って前記陰極側から前記陽極をみた場合に、前記焦点の長軸は、前記第1方向に延出している、
請求項1に記載の固定陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固定陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、例えば、X線診断用としては医療用または歯科用の画像診断装置に利用されており、産業用のX線CT装置やX線分析装置に利用されている。X線管は、真空気密雰囲気に保たれた真空外囲器内に電子を放出する陰極と放出された電子が衝突する陽極からなる。陽極と陰極の間に印加される管電圧により、陰極のフィラメントで発生した熱電子が陽極のターゲット面へ加速され入射することで、ターゲット面に形成された焦点からX線が放射される。
【0003】
ターゲット面から放射されるX線強度は、管電圧の二乗、熱電子の電子流である管電流およびターゲット材質の原子番号に比例する。X線の発生については、管電圧と管電流の積となる電力が陽極に入力されるが、X線に変換されるのは消費電力の約1%以下であり、残りの99%以上は熱エネルギに変換される。陽極に電子が衝突することでX線が放出される際にターゲット面から反跳電子が放出される。放出された反跳電子は再度陽極に衝突することで陽極を加熱させ、また真空外囲器へ衝突することでダメージを与えるなどの課題がある。これらの課題に対しては、反跳電子を遮蔽・捕捉するために陽極の周りに陽極フードを設置して対処する方法がある。陽極フードにはベリリウム等を材料とするX線透過窓が取り付けられている。
【0004】
X線画像診断などに利用される場合には、より正確な診断を行うためにX線画像の画質(コントラスト)の向上が求められることから、X線管から照射されるX線量をより高めることが要求される。X線量を高めるにはX線管に印加する管電圧や管電流を大きくする必要がある。しかしながら、管電圧や管電流を大きくするほど、ターゲット面から放出される反跳電子のエネルギも大きくなり、反跳電子がX線透過窓に衝突することで材料の温度が上昇し、X線透過窓に溶解、損傷などが生じる問題がある。真空外囲器内でX線透過窓が溶解すると、ガス放出や真空外囲器への蒸着などの影響により耐電圧特性が低下して、X線管の故障の原因となるため、X線管への入力エネルギが制限されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−289550号公報
【特許文献2】特開平7−211274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、入力の制限を緩和することが可能な固定陽極型X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る固定陽極型X線管は、
電子を放出する陰極と、
管軸に沿った方向において前記陰極に対向配置され、前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する焦点が形成されるターゲット面を有する陽極と、
前記陽極に固定され、前記陰極側に延出し、前記ターゲット面を取囲み、前記陽極と同電位に設定され、前記陰極から前記ターゲット面に向かう電子を通す第1開口と、前記焦点から放出されるX線を通す第2開口と、を有する陽極フードと、
前記陽極フードの前記第2開口を閉塞し、X線を透過させるX線透過窓と、
前記陰極、前記陽極、前記陽極フード、及び前記X線透過窓を収容した電気絶縁性の真空外囲器と、を備え、
前記ターゲット面は、傾斜面であり、前記管軸に直交する第1方向に向かうほど前記陰極から遠ざかり、
前記管軸に沿って前記陰極側から前記陽極及び前記X線透過窓をみた場合に、前記焦点から前記X線透過窓の中央に向かう第2方向に対して、前記前記焦点から向かう前記第1方向が時計回り又は反時計回りに成す角度をθとすると、
角度θは0°以外である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る固定陽極型X線管を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した固定陽極型X線管の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の線III−IIIに沿って示す陽極フード及びX線透過窓を示す断面図であり、平面視における陽極を併せて示す図である。
【
図4】
図4は、
図1及び
図2に示したターゲット層を示す断面図であり、ターゲット層に入射する入射電子と、ターゲット層にて反跳する反跳電子との関係を説明するための図。
【
図5】
図5は、
図4に示した角度に対する反跳電子エネルギの変化をグラフで示す図である。
【
図6】
図6は、
図4に示した角度に対するX線強度の変化をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
図1に示すように、固定陽極型のX線管1は、陰極10と、陽極20と、陽極フード30と、陰極構体40と、真空外囲器50と、ラジエータ70と、を備えている。
【0011】
陰極10は、電子を放出する電子放出源としてのフィラメント11と、集束電極12と、を有している。本実施形態において、フィラメント11には、負の高電圧及びフィラメント電流が与えられる。集束電極12には、負の高電圧が与えられる。陰極10は、陰極構体40に固定されている。
【0012】
陽極20は、陽極ターゲット21及び陽極ターゲット21に接続された陽極延出部22を備えている。
【0013】
陽極ターゲット21は、管軸Aに沿った方向において、フィラメント11(陰極10)に距離を置いて対向配置されている。本実施形態において、陽極20は接地されている。陽極ターゲット21は、ターゲット本体21aと、ターゲット層21bと、を有している。ターゲット本体21aは、円柱状に形成されている。ターゲット本体21aは、銅、銅合金等の高熱伝導性の金属で形成されている。
【0014】
ターゲット層21bは、ターゲット本体21aの端面の一部に設けられている。ターゲット層21bは、タングステン(W)、タングステン合金等の高融点金属等で形成されている。ターゲット層21bのうち陰極10と対向した側のターゲット面21cは、管軸Aに垂直な仮想平面から傾斜している。ターゲット面21cは、傾斜面であり、管軸Aに直交する第1方向d1に向かうほど陰極10から遠ざかっている。ターゲット面21cには、フィラメント11から放出され集束電極12によって集束される電子が照射されることによりX線を放出する焦点(後述する、焦点F)が形成される。
【0015】
陽極延出部22は、ターゲット本体21aと同様に、銅、銅合金等の高熱伝導性の金属で円柱状に形成されている。陽極延出部22は、陽極ターゲット21を固定し、陽極ターゲット21で発生した熱を周囲へ伝達する。本実施形態において、陽極延出部22にラジエータ70が接続されている。ラジエータ70は、電気絶縁性の材料又は導電性の材料で形成されている。例えば、ラジエータは、熱伝導特性及び耐電圧特性に優れたセラミックスを利用して形成することができる。ラジエータ70を利用することにより、X線管1からX線管1の外部への熱の移動を促進することができる。なお、ラジエータ70は必要に応じてX線管1に設けられていればよい。
【0016】
陽極フード30は、陽極20に固定されている。本実施形態において、陽極フード30は、ろう付けによりターゲット本体21aに固定されている。陽極フード30は、陰極10側に延出し、ターゲット面21cを取囲んでいる。本実施形態において、陽極フード30は、管軸Aに沿って延出した筒部31と、陰極10と陽極20との間に位置し筒部31の一端を閉塞した蓋部32と、を有している。
【0017】
陽極フード30は、金属等の導電材料で形成されている。陽極フード30は、陽極20と同電位に設定される。蓋部32(陽極フード30)は、陰極10からターゲット面21cに向かう電子を通す第1開口OP1を有している。
【0018】
真空外囲器50は、陰極10、陽極ターゲット21、陽極フード30などを収容している。真空外囲器50は、陽極延出部22が露出するように形成されている。真空外囲器50は、筒状に形成され、陰極構体40により気密に閉塞された一端部及び陽極20により気密に閉塞された他端部を有している。真空外囲器50の内部は所定の真空度に維持されている。なお、真空外囲器50の内部は、排気口53を利用して真空引きされる。排気口53は気密に封止されている。
【0019】
真空外囲器50は、電気絶縁材で形成された電気絶縁性の容器と、金属で形成された金属容器52と、を有している。上記電気絶縁材としては、硼珪素ガラスのようなガラス、アルミナのようなセラミクス等を挙げることができる。この実施形態において、上記電気絶縁材はガラスであり、電気絶縁性の容器はガラス容器51である。
【0020】
ガラス容器51は、筒状に形成されている。ガラス容器51は、陽極フード30との間に隙間を形成している。ガラス容器51は、例えば複数のガラス部材を融着により気密に接合し形成することができる。ガラス容器51はX線透過性を有しているため、陽極ターゲット21から放出されたX線はガラス容器51を透過して真空外囲器50の外側に放出される。
【0021】
金属容器52は、ガラス容器51及び陽極20に気密に接続されている。金属容器52は、ターゲット本体21a及び陽極延出部22の少なくとも一方に気密に固定されている。ここでは、金属容器52は、陽極延出部22にろう付けにより気密に接続されている。また、金属容器52とガラス容器51は融着により気密に接続されている。本実施形態において、金属容器52は環状に形成されている。また、金属容器52は、例えばコバールを利用して形成されている。金属容器52の熱膨張率は、ガラス容器51の熱膨張率とほぼ等しい。
【0022】
図2に示すように、筒部31(陽極フード30)は、ターゲット面21cに形成される焦点Fから放出されるX線を通す第2開口OP2を有している。本実施形態では、第2開口OP2は、管軸Aに垂直な方向にてターゲット面21cと対向している。第2開口OP2を設けることにより、陽極フード30による利用X線の吸収率を0%にすることができる。
【0023】
X線透過窓60は、陽極フード30の第2開口OP2を閉塞し、X線を透過させる。X線透過窓60も、真空外囲器50に収容されている。X線透過窓60は、ベリリウム、グラファイト、クロロフルオロカーボン(CFC)、ベリリア、ホウ素(B)、窒化ホウ素(BN)、及びボロンカーバイト(B4C;炭化ホウ素)の少なくとも1つを含む材料で形成されている。
【0024】
本実施形態において、X線透過窓60は、ベリリウム、グラファイト、CFC、ベリリア、B、BN、及び炭化ホウ素の中の1つを主とする材料で形成されている。
【0025】
図3に示すように、焦点Fは、長軸を有している。管軸Aに沿って陰極10側から陽極20をみた場合に、焦点Fの長軸は、上述した第1方向d1に延出している。そして、管軸Aに沿って陰極10側から陽極20及びX線透過窓60をみた場合に、焦点FからX線透過窓60の中央に向かう方向を第2方向d2とする。第2方向d2に対して、第1方向d1が時計回り又は反時計回りに成す角度をθとする。本実施形態において、角度θは、第2方向d2に対して、第1方向d1が時計回りに成す角度である。角度θは、0°以外である。
【0026】
より好ましくは、0°<θ≦90°である。例えば、1°≦θ≦90°である。これにより、陽極20自体がX線を遮蔽する事態を回避することができる。
【0027】
ここで、本願発明者は、反跳電子の角度分布(エネルギ分布)について調査した。
図5は、
図4に示した角度θ
1に対する反跳電子エネルギの変化をグラフで示す図である。
【0028】
図4及び
図5に示すように、ターゲット面21cは、の垂線に対して角度θ
0で入射した電子ビームの反跳電子は、角度θ
0の成分A1のエネルギが最も大きく、角度θ
1の変化に応じてエネルギは小さくなる。
【0029】
また、本願発明者は、X線強度の角度分布について調査した。
【0030】
図6に示すように、
図3に示した角度θを15°に設定すれば、第2方向d2にて、85%程度のX線強度を得ることができる。なお、第1方向d1におけるX線強度を100%としている。また、
図5を参照すると、θ=15°とすることにより、50%以上の反跳電子エネルギを陽極フード30で吸収させることができる。
【0031】
上記のように構成された一実施形態に係る固定陽極型のX線管1によれば、X線管1は、陰極10と、陽極20と、陽極フード30と、X線透過窓60と、真空外囲器50と、を備えている。陽極フード30は、陽極ターゲット21から飛び出した反跳電子を捕捉することができる。このため、ターゲット面21cに戻る反跳電子の量、及びガラス容器51に突入する反跳電子の量を低減させることができる。
【0032】
角度θは0°以外である。θ=0°である場合と比較して、X線の主放射方向でもある第2方向d2に放出される反跳電子の量を抑えることができ、X線透過窓60に衝突する反跳電子の量を少なくすることができるため、X線透過窓60の温度の上昇を抑えることができる。主に診断用のX線管で通常使用する125kVの以下の管電圧であれば、0°<θ≦90°に設定しても、所望のX線放出方向へのX線量の低下は小さい。このときの実効焦点サイズは角度θによって変わるため、所望の焦点Fのサイズが得られるよう角度θを設定すればよい。
【0033】
まとめると、上述した実施形態によれば、X線管1によるX線の主放射方向に放出される反跳電子の量を抑制し、X線透過窓60のダメージを抑えることで、θ=0°である場合よりもX線入力条件を高めることができる。そのため、θ=0°である場合よりもコントラストのS/N比の良いX線画像および画像情報を提供することが可能となる。また、X線透過窓60からのガス放出や真空外囲器50への蒸着を抑制できるため、長期間安定してX線出力が可能なX線管を提供することが可能となる。
【0034】
上記のことから、入力の制限を緩和することが可能な固定陽極型のX線管1を得ることができる。
【0035】
本発明の一実施形態を説明したが、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記の実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0036】
例えば、上述した実施形態は、各種の固定陽極型X線管に適用することができる。例えば、上述した実施形態は、陽極接地型のX線管だけでなく、陰極接地型のX線管や中性点接地型のX線管にも適用することができる。なお、陰極接地型のX線管の場合、陰極10が接地され、陽極ターゲット21(陽極20)及び陽極フード30に正の高電圧が印加される。中性点接地型のX線管の場合、陰極10に負の高電圧が印加され、陽極ターゲット21(陽極20)及び陽極フード30に正の高電圧が印加される。
【符号の説明】
【0037】
1…X線管、10…陰極、11…フィラメント、20…陽極、21…陽極ターゲット、
21a…ターゲット本体、21b…ターゲット層、21c…ターゲット面、
30…陽極フード、50…真空外囲器、60…X線透過窓、OP1,OP2…開口、
A…管軸、d1,d2…方向、F…焦点、θ…角度。