(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリフェニレンサルファイド樹脂と、硫酸バリウムと、372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値が5g/10min〜35g/10minの範囲内にあるポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)とを含有し、
前記硫酸バリウムの含有量が、樹脂組成物全量100質量%中において5質量%〜30質量%であり、
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の含有量が、樹脂組成物全量100質量%中において10質量%〜40質量%である、樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の樹脂組成物でも、近年の軸受に求められる低トルク化の要求特性を満たすことができない。特に、本発明者らは、特許文献1のような樹脂組成物は、相手部材が炭素鋼である場合は耐摩耗性が優れているが、相手部材がアルミニウム合金のような軟質金属である場合は十分な耐摩耗性が得られないという課題が存在することを見出した。
【0007】
なお、定着ローラ、加圧ローラの軸には、加工性がよく、軽量であることから、アルミニウム合金が多く用いられていることから、アルミニウム合金に対して、摩擦係数が低いこと、摩耗量が低いことが求められている。
【0008】
本発明の目的は、アルミニウム合金等の軟質金属に対して優れた耐摩耗性と低い摩擦係数を示すポリフェニレンサルファイド樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた成形体、摺動部材、及び摺動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
項1 ポリフェニレンサルファイド樹脂と、硫酸バリウムと、372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値が5g/10min〜35g/10minの範囲内にあるポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)とを含有する、樹脂組成物。
【0011】
項2 前記硫酸バリウムの含有量が、樹脂組成物全量100質量%中において5質量%〜30質量%である、項1に記載の樹脂組成物。
【0012】
項3 前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の含有量が、樹脂組成物全量100質量%中において10質量%〜40質量%である、項1または項2に記載の樹脂組成物。
【0013】
項4 372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値が5g/10min未満であるポリテトラフルオロエチレン樹脂(B)をさらに含有する、項1〜項3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0014】
項5 前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(B)の含有量が、樹脂組成物全量100質量%中において5質量%〜20質量%である、項4に記載の樹脂組成物。
【0015】
項6 前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(B)との質量比((A):(B))が、40:60〜90:10である、項4または項5に記載の樹脂組成物。
【0016】
項7 摺動部材に用いられる、項1〜項6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0017】
項8 項1〜項7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【0018】
項9 項1〜項7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなる、摺動部材。
【0019】
項10 項9に記載の摺動部材をアルミニウム合金と摺接させることを特徴とする、摺動方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルミニウム合金等の軟質金属に対して優れた耐摩耗性と低い摩擦係数を示すポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
【0022】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、硫酸バリウムと、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)とを含有し、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂以外の固体潤滑剤、その他の添加剤をさらに含有することができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物の各構成成分等について以下説明する。
【0024】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂)
本発明で用いるポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS」と称する場合がある。)は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体であり、融点が約280℃、ガラス転移点が約93℃の結晶性の熱可塑性樹脂である。PPSは、その分子構造により、架橋型、半架橋型、直鎖型等などのタイプがあり、本発明ではこれらの分子構造等に限定されることなく使用できる。さらに、2種類以上の分子構造や分子量の重合体を混合して使用することもできる。
【0026】
PPSは、耐熱性、結晶化度、成形性の観点から、好ましくは式(1)で表される繰り返し単位を好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上含む重合体である。また、PPSは、その繰り返し単位の好ましくは30mol%未満、より好ましくは10mol%未満が、下記式(2)〜(8)で表される繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0028】
PPSは、特公昭45−3368号公報により得られる比較的分子量の小さな重合体を得る方法、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などの従来公知の方法によって製造できる。上記方法により得られたPPSは、そのまま使用してもよく、また空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、また有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄を施して使用してもよい。
【0029】
PPSのメルトフローレート(以下、「MFR」という)値は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、315℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値が300g/10min以下であることが好ましく、200g/10min以下であることが好ましく、150g/10min以下であることがさらに好ましい。下限としては特に制限はないが、溶融粘度の点から10g/10min以上であることが好ましく、50g/10min以上であることがより好ましい。MFR値を上記範囲とすることで成形性を損なわず、摺動時の摩耗量をより一層低減することができる。PPSのMFR値は、JIS K7210に準拠して測定することができる。
【0030】
PPSの形状は、溶融混練が可能であれば特に制限はなく、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれも使用することができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物におけるPPSの含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中において、30質量%〜80質量%であることが好ましく、35質量%〜74質量%であることがより好ましく、40質量%〜71質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
(硫酸バリウム)
本発明で用いる硫酸バリウムには、重晶石と呼ばれる鉱物を粉砕して脱鉄洗浄、水簸して得られる簸性硫酸バリウム(バライト粉)と、人工的に合成する沈降性硫酸バリウムがある。沈降性硫酸バリウムは合成時の条件により粒子の大きさを制御することができ、目的とする粗大粒子の含有量が少ない、微細な硫酸バリウムを製造することができる。不純物をより一層少なくし、粒度分布をより一層均一にする観点から、沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましい。
【0033】
硫酸バリウムは、粉末であることが好ましく、その平均粒子径は、好ましくは0.1μm〜50μmであり、より好ましくは0.3μm〜30μmであり、特に好ましくは0.5μm〜5μmである。平均粒子径を上記範囲とすることで摺動時の摩耗量をより一層少なくすることができる。
【0034】
硫酸バリウムの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができ、レーザー回折・散乱法により測定される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD
50(メジアン径)である。この体積基準累積50%粒子径(D
50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0035】
硫酸バリウムの粒子形状は、球状、柱状、板状、棒状、円柱状、ブロック状、不定形状等の非繊維状粒子であれば特に限定はないが、好ましくは球状である。硫酸バリウムの粒子形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0036】
本発明において、繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいう。また、非繊維状粒子とはL/Bが3未満の粒子のことをいう。
【0037】
硫酸バリウムは表面処理されていてもよく、その処理剤としてはコーティング剤、分散剤、改質剤などを挙げることができ、具体的には脂肪酸、ワックス、非イオン系界面活性剤、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、リン系化合物、アルミナなどのアルミニウム塩、二酸化ケイ素などのケイ酸塩、二酸化チタンなどのチタニウム塩等が挙げられる。これらは2種以上を併用して使用することもできる。
【0038】
本発明の樹脂組成物における硫酸バリウムの含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中において5質量%〜30質量%が好ましく、7質量%〜25質量%がより好ましく、8質量%〜13質量%がさらに好ましい。
【0039】
(ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A))
本発明で用いるポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)(以下、「PTFE(A)」と称する場合がある。)は、372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値が5g/10min〜35g/10minである。
【0040】
PTFE(A)は、−(CF
2−CF
2)−の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、パーフロオロアルキルエーテル基(−C
pF
2p−O−)(pは1〜4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF
2)
q)(qは1〜20の整数)を導入した変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂を使用することができる。
【0041】
PTFE(A)は、一般的なモールディングパウダーを得る懸濁重合法、ファインパウダーを得る乳化重合法のいずれを採用して得られたものでもよい。また、高分子量ポリテトラフルオロエチレン樹脂を熱分解や放射線により低分子量化したものもでもよい。
【0042】
PTFE(A)の372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値は、好ましくは10g/10min〜30g/10minであり、より好ましくは10g/10min〜20g/10minである。PTFE(A)のMFR値は、JIS K7210に準拠して測定することができる。ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE」と称する場合がある。)は熱可塑性樹脂に分類されるものの、一般的には溶融粘度が異常に高いことから射出成形することはできず、PTFEを主成分とする樹脂組成物は樹脂の混合粉末を圧縮し、これを融点以上に加熱して粉末同士を融着させる方法(圧縮成形)で成形体が製造されている。圧縮成形に用いられるPTFEは高分子量のものが用いられているが、高分子量のPTFEを一般的な熱可塑性樹脂に配合して溶融混合すると、PTFEのフィブリル化や凝集により樹脂組成物の流動性がなくなり、溶融混合や射出成形することができない。このため、射出成形用熱可塑性樹脂の固体潤滑剤として用いるPTFEは低分子量のものが用いられている。PTFEの分子量と溶融粘度は相関することから、上述のMFR値はPTFEの分子量の指標とすることができる。
【0043】
PPSは一般的に300℃〜320℃で射出成形されることから、スクリューによる剪段力が加わると、分子量が小さいPTFE(A)の一部が溶融すると考えられる。PTFEの表面エネルギーは他の樹脂に比べて極端に低いことから、溶融したPTFE(A)は成形体表層に移行しやすく、摺動時に相手部材の摺動界面へのPTFE移着膜形成能が向上し樹脂組成物の摺動性が向上すると考えられる。さらPTFEが硫酸バリウムとともに移着膜を形成することで凹凸を形成して摺動界面の接触面積が低減し、低摩擦化できるものと考えられる。MFR値が35g/10minより大きいと、成形体表層に移行する量が多くなりすぎ、摺動時に成形体から脱落し摩擦係数が低くできないことから好ましくない。MFR値が5g/10minより小さいと、成形体表層に移行しにくいため好ましくない。
【0044】
PTFEは、フィブリル化、凝集を抑制するために焼成することがある。分子量により前後するが、焼成体の融点は320℃〜330℃、未焼成体の融点は330℃〜350℃にあることから、融点をみることで焼成度を推測することができる。PTFE(A)は、成形時に凝集をより一層抑制するために、融点が330℃未満であることが好ましく、下限値は320℃であることが好ましい。PTFE(A)の融点は、JIS−K7121に準じて測定することができる。
【0045】
PTFE(A)は粉末であることが好ましく、その平均粒子径は、好ましくは0.1μm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜50μmであり、さらに好ましくは5μm〜20μmである。平均粒子径を上記範囲にすることで摺動時の摩擦係数をより一層小さく、摩耗量をより一層少なくすることができる。PTFE(A)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができ、レーザー回折・散乱法により測定される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD
50(メジアン径)である。この体積基準累積50%粒子径(D
50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0046】
PTFE(A)の粒子形状は、球状、柱状、板状、棒状、円柱状、ブロック状、不定形状等の非繊維状粒子であれば特に限定なく使用することができる。PTFE(A)の粒子形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0047】
本発明において、繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいう。また、非繊維状粒子とはL/Bが3未満の粒子のことをいう。
【0048】
本発明の樹脂組成物におけるPTFE(A)の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中において10質量%〜40質量%が好ましく、12質量%〜35質量%がより好ましく、13質量%〜25質量%がさらに好ましい。
【0049】
(ポリテトラフルオロエチレン樹脂(B))
本発明の樹脂組成物は、その好ましい物性を損なわない範囲で、372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値5g/10min未満であるポリテトラフルオロエチレン樹脂(B)(以下、「PTFE(B)」と称する場合がある)を含有することができる。本発明の樹脂組成物にPTFE(B)を配合することで、理由は定かではないが、単独では十分な摺動効果を得られないPTFE(B)をPTFE(A)と組み合わせることで樹脂組成物の摩擦係数を更に低くすることができる。
【0050】
PTFE(B)は、−(CF
2−CF
2)−の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、パーフロオロアルキルエーテル基(−C
pF
2p−O−)(pは1〜4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF
2)
q)(qは1〜20の整数)を導入した変性PTFEを使用することができる。
【0051】
PTFE(B)は、一般的なモールディングパウダーを得る懸濁重合法、ファインパウダーを得る乳化重合法のいずれを採用して得られたものでもよい。また、高分子量PTFEを熱分解や放射線により低分子量化したものもでもよい。
【0052】
PTFE(B)の372℃、荷重5kgの条件で測定したMFR値は、好ましくは0.01g/10min〜4g/10minであり、より好ましくは0.01g/10min〜2g/10minである。PTFE(B)のMFR値は、JIS K7210に準拠して測定することができる。
【0053】
PTFE(B)の融点は330℃以上であることが好ましく、その上限値は340℃であることが好ましい。融点を上記範囲とすることで、PTFE(B)のフィブリル化、凝集をより一層抑制しつつ、PTFE(A)との相乗効果を得ることができる。PTFE(B)の融点は、JIS−K7121に準じて測定することができる。
【0054】
PTFE(B)は、粉末であることが好ましく、その平均粒子径は好ましくは0.1μm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜50μmであり、さらに好ましくは5μm〜20μmである。平均粒子径を上記範囲にすることで摺動時の摩擦係数をより一層小さく、摩耗量をより一層少なくすることができる。PTFE(B)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができ、レーザー回折・散乱法により測定される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD
50(メジアン径)である。この体積基準累積50%粒子径(D
50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0055】
PTFE(B)の粒子形状は、球状、柱状、板状、棒状、円柱状、ブロック状、不定形状等の非繊維状粒子であれば特に限定なく使用することができる。PTFE(B)の粒子形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0056】
本発明において、繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいう。また、非繊維状粒子とはL/Bが3未満の粒子のことをいう。
【0057】
本発明の樹脂組成物におけるPTFE(B)の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中において5質量%〜20質量%であることが好ましく、7質量%〜18質量%であることがより好ましく、8質量%〜17質量%であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の樹脂組成物におけるPTFE(A)とPTFE(B)の質量比((A):(B))は、40:60〜90:10が好ましく、45:55〜80:20がより好ましく、50:50〜70:30がさらに好ましい。
【0059】
(固体潤滑剤)
本発明の樹脂組成物には、その好ましい物性を損なわない範囲で、通常ポリフェニレンサルファイド樹脂に配合されるポリテトラフルオロエチレン樹脂以外の固体潤滑剤(以下、単に「固体潤滑剤」と称する場合がある。)を配合することができる。
【0060】
固体潤滑剤としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、グラファイト、二硫化モリブテン、二硫化タングステン、窒化ホウ素等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を配合してもよい。
【0061】
本発明の樹脂組成物における固体潤滑剤の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中において1質量%〜10質量%が好ましく、1質量%〜6質量%がより好ましい。
【0062】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物には、その好ましい物性を損なわない範囲で、通常ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に配合される各種添加剤を配合することができる。その他の添加剤として、例えば、繊維状補強材(ガラス繊維、ガラスミルド繊維、炭素繊維、炭素ミルド繊維、ワラストナイト繊維、チタン酸カリウム繊維、アラミド繊維等)、板状充填材(雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリナイト、ベーマイト、スメクタイト、バーミキュライト、二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、ベーマイト等)、離型剤(飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス等)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、及び染料等)、難燃剤(臭素系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、環状イミノエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物等)、熱安定剤(フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、カルボジイミド化合物系加水分解防止剤等)、熱伝導剤(黒鉛粉末、炭素繊維、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等)、帯電防止剤(ポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート等)等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を配合してもよい。
【0063】
本発明の樹脂組成物がその他の添加剤を含む場合、その配合量は、本発明の樹脂組成物の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はない。樹脂組成物の合計量100質量%中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0064】
<樹脂組成物の製造方法及び用途>
本発明の樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、硫酸バリウムと、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)とを含有し、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂以外の固体潤滑剤、その他添加剤を含む混合物を、混合及び加熱(特に、溶融混練)することによって製造できる。
【0065】
溶融混練には、例えば、二軸押出機等の公知の溶融混練装置を使用することができる。具体的には、(1)混合機(タンブラー、ヘンシェルミキサー等)で各成分を予備混合して、溶融混練装置で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザー等)でペレット化する方法;(2)所望する成分のマスターバッチを調整し、必要により他の成分を混合して溶融混練装置で溶融混練してペレット化する方法;(3)各成分を溶融混練装置に供給してペレット化する方法等により製造することができる。
【0066】
溶融混練における加工温度は、ポリフェニレンサルファイド樹脂が溶融し得る温度であれば特に限定はない。通常、溶融混練に用いる溶融混練装置のシリンダー温度をこの範囲に調整する。
【0067】
かくして、所望の効果を発揮する本発明の樹脂組成物が製造される。
【0068】
本発明の樹脂組成物は、目的とする成形体の種類、用途、形状等に応じて、射出成形、インサート成形、圧縮成形、ブロー成形、インフレーション成形等の公知の樹脂成形方法により、各種成形品とすることができ、射出成形、インサート成形が好ましい。また、上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用することができる。
【0069】
本発明の樹脂組成物を成形することで得られる成形体は、優れた摺動性(低摩擦係数、低摩耗量)を有しており、特にアルミニウム合金等の軟質金属に対して優れた摺動性を有している。従って、本発明の樹脂組成物を成形することで得られる成形体は、摺動部材として好適に用いることができる。また、上記成形体からなる摺動部材をアルミニウム合金からなる部材と摺接した摺動方法は特に優れたものとなる。
【0070】
アルミニウム合金としては、Al−Mg系合金(例えば、JIS呼称5000番台)、Al−Mg−Si系アルミニウム合金(例えば、JIS呼称6000番台)、Al−Zn系アルミニウム合金(例えば、JIS呼称7000番台)等を挙げることができる。
【0071】
本発明の樹脂組成物を成形することで得られる成形体は、摩擦係数が低く、耐摩耗性が優れていることから、複写機、プリンタなどの画像形成装置の定着ローラ、加圧ローラの軸受等に好適に用いることができ、軸受面にグリースを塗布しない無潤滑条件下でも用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で使用した原材料は具体的には以下の通りである。
【0073】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS):大日本インキ化学工業社製、商品名「トープレンT−4」、MFR105g/10min
ポリテトラフルオロエチレン樹脂−1(PTFE−1):旭硝子社製、商品名「フルオンL150E」、平均粒子径8μm、MFR40g/10min、融点325℃
ポリテトラフルオロエチレン樹脂−2(PTFE−2):喜多村社製、商品名「KTL−610」、平均粒子径12μm、MFR15g/10min、融点325℃
ポリテトラフルオロエチレン樹脂−3(PTFE−3):旭硝子社製、商品名「フルオンL169E」、平均粒子径14μm、MFR0.02g/10min、融点332℃
硫酸バリウム1:平均粒子径1μm
硫酸バリウム2:平均粒子径10μm
硫酸バリウム3:平均粒子径27μm
硫酸カリウム:平均粒子径15μm
高密度ポリエチレン:プライムポリマー社製、商品名「ハイゼックス2100CP」
チタン酸カリウム繊維:大塚化学社製、商品名「ティスモD」
【0074】
PPSのMFR値は、JIS K7210に準じ、315℃、5分滞留、荷重5kgの条件下で測定した。
【0075】
PTFE1〜3のMFR値は、JIS K7210に準じ、372℃、5分滞留、荷重5kgの条件下で測定した。
【0076】
PTFE1〜3の融点は、示差熱量測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、商品名「DSC7000X」)を用いて、試料10mgを測定用アルミセルに中に入れ、窒素気流100ml/min条件下、室温から50℃まで昇温速度10℃/minで昇温し、50℃で5分保持した後、昇温速度10℃/minで400℃まで昇温して測定した。
【0077】
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、商品名「SALD−2100」)により測定した。
【0078】
<実施例1〜実施例7および比較例1〜比較例4>
表1に示す配合割合で、二軸押出機を用いて溶融混練し、それぞれペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダー温度は、320℃であった。
【0079】
得られたペレットを射出成形機にて、摩擦試験片(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mmの中空円筒)に成形し、評価サンプルとした。なお、射出成形機のシリンダー温度は290℃、金型温度は130℃であった。
【0080】
<評価>
上記で作製した摩擦試験片について、鈴木式摩擦摩耗試験機(エー・アンド・ディ社製、EFM−III−F)を用いて各試験片について平均摩擦係数、摩耗量を求めた。また、摩擦摩耗試験は、次の条件1及び条件2で実施し、相手材は摺動面を#800のサンドペーパーで研磨したものを用いた。
【0081】
評価結果は、平均摩擦係数が0.10未満を「A」、0.10以上0.15未満を「B」、0.15以上を「C」とし、摩擦試験片の比摩耗量(×10
−4mm
3/N/km)が5未満を「A」、5以上15未満を「B」、15以上を「C」として、表1に示した。なお、相手材の比摩耗量(×10
−4mm
3/N/km)は全て0であった。
【0082】
条件1:試験環境温度150℃、面圧2MPa、周速度(回転速度)0.2m/秒、走行距離14km、相手材AL5052(アルミニウム合金)
条件2:試験環境温度150℃、面圧2MPa、周速度(回転速度)0.2m/秒、走行距離14km、相手材S45C(炭素鋼)
【0083】
【表1】