【文献】
Agniswamy, J. et al.,Chain A, Igg-degrading Protease,PDB [online],2012年12月27日,https://ncbi.nlm.nih.gov/protein/90108755,Database Accession No. 2AU1_A
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同じアッセイにおいて測定した場合、前記ポリペプチドが、IgGの切断において、IdeSよりも少なくとも2.0倍、2.5倍、3.0倍、4.0倍、4.5倍、5.0倍、6.0倍、7.0倍又は7.5倍更に有効である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
前記疾患又は状態が、病原性IgG抗体によって全体的又は部分的に媒介される疾患又は状態であり、好ましくは、前記疾患又は状態が、アジソン病、抗GBM糸球体腎炎、抗好中球細胞質抗体関連血管炎、抗NMDAR脳炎、抗リン脂質抗体症候群、劇症型APS、自己免疫性水疱性皮膚症、落葉状天疱瘡、ブラジル天疱瘡、尋常性天疱瘡、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性好中球減少症、類天疱瘡、セリアック病、慢性蕁麻疹、完全先天性心ブロック、糖尿病1A型、後天性表皮水疱症、本態性混合型クリオグロブリン血症、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、甲状腺腫、甲状腺機能亢進症、浸潤性眼球突出症、浸潤性皮膚症、ギラン・バレー症候群、急性炎症性脱髄性多発神経炎、急性運動性軸索型ニューロパチー、血友病−後天性第FVIII因子欠損症、特発性血小板減少性紫斑病、ランバート・イートン筋無力症症候群、混合性結合組織病、多発性骨髄腫、重症筋無力症、筋無力症クリーゼ、心筋炎、拡張型心筋症、視神経脊髄炎、原発性胆汁性肝硬変、一次進行型多発性硬化症、リウマチ性心疾患、リウマチ熱、関節リウマチ、血清病、免疫複合体過敏症(III型)、シェーグレン症候群、ループス腎炎を含むSLE、全身硬直性症候群、全身性硬化症、移植拒絶反応又は血栓性血小板減少性紫斑病である、請求項15に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0017】
配列の簡単な説明
配列番号1は、N末端メチオニン及びシグナル配列を含むIdeSの全配列である。NCBI参照配列番号WP_010922160.1としても開示されている。
配列番号2は、N末端メチオニン及びシグナル配列を欠く、IdeSの成熟配列である。Genbank受入番号ADF13949.1としても開示されている。
配列番号3〜16は、本発明の例示的なポリペプチドの配列である
配列番号17は、本明細書でコントロールとして用いられるIdeSポリペプチドの配列である。追加のN末端メチオニン及びヒスチジンタグを伴う、配列番号2の配列(内部標準のpCART124)を含む。
配列番号18は、配列番号1の336位〜339位に対応する連続配列NQTNである。
配列番号19は、配列番号1の30位〜49位に対応する連続配列DSFSANQEIR
YSEVTPYHVTである。
配列番号20〜34は、本明細書に開示されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列である。
配列番号35は、配列番号1の31位〜49位に対応する配列SFSANQEIRY SEVTPYHVTである。
配列番号36は、IdeZポリペプチド(NCBI参照配列番号WP_014622780.1)の36位〜54位に対応する配列DYQRNATEAY AKEVPHQITである。
配列番号37は、本発明のポリペプチドのN末端に存在し得る配列DDYQRNATEA YAKEVPHQITである。
【0018】
発明の詳細な説明
開示された生成物及び方法の異なる用途は、当該技術分野の特定のニーズに合わせて調整され得ることが理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は、本発明の特定の実施形態を説明するためのみのものであり、限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0019】
更に、本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容が特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「ポリペプチド」への言及は、「ポリペプチド(複数)」を含む、などとなる。
【0020】
「ポリペプチド」は、本明細書においては、その最も広い意味において、2つ以上のサブユニットのアミノ酸、アミノ酸類似体、又は他のペプチド模倣体の化合物を指すために用いられる。従って、用語「ポリペプチド」は、短いペプチド配列、また並びにより長いポリペプチド及びタンパク質を含む。本明細書で用いられる場合、用語「アミノ酸」は、D又はLの光学異性体の両方、並びにアミノ酸類似体及びペプチド模倣体を含む、天然及び/若しくは非天然又は合成のアミノ酸のいずれかを指す。
【0021】
用語「患者」及び「被験体」は交換可能に用いられ、典型的には、ヒトを指す。IgGへの言及は、特に断らない限り、典型的にはヒトIgGを指す。
【0022】
本明細書で引用された全ての刊行物、特許及び特許出願は、上記のものか下記のものかにかかわらず、参照によりその全体が、本明細書に組み込まれる。
【0023】
ポリペプチドの機能的特徴
本発明は、IgGシステインプロテアーゼ活性を有する新規ポリペプチドに関し、前記ポリペプチドは、IgGの切断において、IdeSよりも有効であり、及び/又はIdeSよりも免疫原性が低い。本発明のポリペプチドに対するコントロール又は比較の関係において、「IdeS」は、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドを指す。代替的に、又は追加的に、コントロール又は比較として用いられる場合、「IdeS」は、標準的な細菌発現系における発現及びそれからの単離を促進するために、付加的な、メチオニン(M)残基をN末端に、及び/又はタグをC末端に伴う、配列番号2のアミノ酸配列(the sequence the amino acid sequence of)を含むポリペプチドを指し得る。好適なタグとしては、ポリペプチドのC末端に直接連結され得るか、又は3つ、4つ又は5つのグリシン残基等の任意の好適なリンカー配列によって間接的に連結され得るヒスチジンタグが挙げられる。ヒスチジンタグは、典型的には6つのヒスチジン残基からなるが、これよりも長く、典型的には、最大7つ、8つ、9つ、10個又は20個のアミノ酸で、又はこれよりも短く、例えば5つ、4つ、3つ、2つ又は1つのアミノ酸であり得る。本明細書で用いられる例示的なIdeSポリペプチドの配列は、配列番号14として示されているコントロールである(is a control is provided as SEQ ID NO:14)。このポリペプチドは、追加のN末端メチオニン及びヒスチジンタグを有する配列番号2の配列を含み、本明細書ではpCART124と言われる場合がある。
【0024】
IgGシステインプロテアーゼ活性は、任意の好適な方法によって、例えば、ポリペプチドを、IgGを含有する試料とインキュベーションし、IgG切断産物の存在を判断することによって評価され得る。有効性は、中和抗体等の阻害剤の存在下又は非存在下で評価され得る。しかしながら、本明細書における有効性は、特に断らない限り、通常、かかる阻害剤の非存在下で評価される有効性を意味する。好適な方法は実施例に記載されている。IgGの切断におけるポリペプチドの有効性は、本明細書において、ポリペプチドの「効力」と言われる場合がある。本発明のポリペプチドの効力は、典型的には、同じアッセイで測定したIdeSの効力より、少なくとも1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、4.0倍、4.5倍、5.0倍、6.0倍、7.0倍又は7.5倍大きい。本発明のポリペプチドの効力は、好ましくは、同じアッセイで測定したIdeSの効力より少なくとも4.5倍、より好ましくは少なくとも6.0倍、最も好ましくは少なくとも7.5倍大きい。IdeSと比較した、効力の増加は、IdeSの免疫原性に関する問題を問わず、望ましい向上である。しかしながら、かかる効力の増加により、典型的には、より高い用量のIdeSと同じ治療効果を目的として、より低い用量の本発明のポリペプチドの使用も可能となる。該より低い用量により、IdeSと比較して、本発明のポリペプチドの、より多くの反復投与も可能になり得る。これは、より低い用量の使用では、免疫系が、より低い濃度で存在する薬剤に応答する可能性が低く、又はそれほど激しく応答しないため、治療剤の、免疫原性に関連する問題を軽減するからである。従って、本発明のポリペプチドは、同等の用量で存在する場合、IdeSと同等の免疫原性であるか、又はIdeSよりも更に免疫原性が高い場合があるが、同じ治療効果を達成するために必要となるのはより低い用量であるため、免疫原性に関するこの問題は軽減されるか、又は回避される。代替的な実施形態においては、本発明のポリペプチドは、同等の用量で存在する場合、IdeSよりも免疫原性が低いという条件で、IdeSと同等の効力を有し得る。
【0025】
ポリペプチドの効力を評価するためのアッセイである、IgGの切断における、ポリペプチドの有効性を評価するためのアッセイは、当該技術分野で周知であり、任意の好適なアッセイが用いられ得る。好適なアッセイとしては、実施例に記載されるもの等の、ELISAに基づくアッセイが挙げられる。かかるアッセイにおいて、アッセイプレートのウェルは、典型的には、ウシ血清アルブミン(BSA)等の抗体標的でコーティングされる。本実施例では、次いで、試験するポリペプチドの試料がウェルに加えられ、続いてBSAに特異的な標的特異的抗体の試料が加えられる。ポリペプチド及び抗体が、IgGシステインプロテアーゼ活性に好適な条件下で相互作用させられる。好適な間隔の後、アッセイプレートが洗浄され、標的特異的抗体に特異的に結合する検出抗体が、標的特異的抗体への結合に好適な条件下で加えられる。検出抗体は、各ウェル中で標的に結合している、任意の無傷標的特異的抗体に結合する。洗浄後、ウェル中に存在する検出抗体の量は、そのウェルに結合した標的特異的抗体の量に比例する。検出抗体は、標識又は別のレポーター系(酵素等)に直接的又は間接的に結合され得、各ウェル中に残っている検出抗体の量が決定され得る。ウェル中に存在した、試験したポリペプチドの効力が高いほど、残存する無傷標的特異的抗体は少なく、従って検出抗体が少なくなる。典型的には、試験したポリペプチドの効力が、IdeSの効力と直接比較され得るように、ある特定のアッセイプレート上の少なくとも1つのウェルは、試験するポリペプチドの代わりにIdeSを含む。本発明のポリペプチドは、IgG2よりも、IgG1の切断において効果的であり得る。
【0026】
他のアッセイは、試験したポリペプチドによるIgGの切断から生じるIgGの断片を、直接可視化及び/又は定量することによって、試験したポリペプチドの効力を決定し得る。このタイプのアッセイも、実施例に記載されている。かかるアッセイでは、典型的には、IgGの試料が、滴定シリーズにおける種々の濃度の試験ポリペプチドと(又はコントロールとしてIdeSと)インキュベーションされる。次いで、各濃度でのインキュベーションから生じる生成物が、ゲル電気泳動を用いて、例えばSDS−PAGEにより、分離される。次いで、IgG全体及びIgGの切断から生じる断片が、サイズによって同定され得、好適な色素による染色強度によって定量化され得る。切断断片の量が多いほど、ある特定の濃度で試験したポリペプチドの効力は大きい。本発明のポリペプチドは、典型的には、IdeSよりも低い濃度(滴定シリーズにおける、より低いポイント(point))で、検出可能な量の切断断片を生成する。各切断イベントから生じる、種々の断片の量も決定され得るので、このタイプのアッセイは、IgG分子の第1又は第2の重鎖の切断において、より有効である試験ポリペプチドの同定も可能にし得る。
【0027】
このタイプのアッセイは、また、IdeS特異的ADAの存在が本発明のポリペプチドの効力を低下させ得る程度を決定するために、適合され得る。適合されたアッセイにおいては、IgGの試料を試験ポリペプチドと(又はコントロールとしてのIdeSと)インキュベーションする際に、IdeS特異的ADAを含有する血清又はIVIg調製物が、反応溶媒と共に含められる。好ましくは、本発明のポリペプチドの効力は、ADAの存在によって影響されないか、又は同じアッセイにおいて、IdeSの効力よりも、ADAの存在によってあまり減少しない。言い換えれば、好ましくは、本発明のポリペプチドに対するIdeS特異的ADAの中和効果は、同じアッセイで測定される、IdeSに対する、IdeS特異的ADAの中和効果と同じか、又はそれより低い。
【0028】
上記の通り、本発明のポリペプチドは、同等の用量で存在する場合、免疫原性がIdeSと同等であるか、又はIdeSよりも免疫原性が更に高い場合がある。同じ治療効果を達成するために必要となる本発明のポリペプチドはより低い用量であるため、免疫原性に関するこの問題が軽減されるか、又は回避されるからである。しかしながら、典型的には、本発明のポリペプチドは、免疫原性がIdeS以下であり、好ましくは、免疫原性がIdeSよりも低い。即ち、本発明のポリペプチドは、同等の用量又は濃度で存在し、同じアッセイで測定される場合、IdeSと同じか、又は好ましくはより低い免疫応答をもたらし得る。本発明のポリペプチドの免疫原性は、典型的には、同じアッセイで測定したIdeSの免疫原性の、90%以下、85%以下、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下である。好ましくは、本発明のポリペプチドの免疫原性は、同じアッセイで測定したIdeSの免疫原性の85%以下である。より好ましくは、本発明のポリペプチドの免疫原性は、同じアッセイで測定したIdeSの免疫原性の70%以下である。
【0029】
ポリペプチドの免疫原性を評価するためのアッセイは、当該技術分野で公知であり、任意の好適なアッセイが用いられ得る。ポリペプチドの免疫原性を、IdeSの免疫原性と比較して評価するための好ましいアッセイは、IdeSに特異的なADAが、本発明のポリペプチドにも結合する程度を評価することを含む。このタイプのアッセイは実施例に記載されている。
【0030】
かかるアッセイの1つは、IdeS特異的ADAへの結合についての、IdeSと試験ポリペプチドとの間の競合についての試験を含む。典型的には、アッセイプレートのウェルがIdeSでコーティングされ、続いて、プレインキュベーションされた、IdeS特異的ADAを含有する溶液(例、IVIg調製物)、及び試験ポリペプチド(又はコントロールとしてのIdeS)の混合物が投与される。プレインキュベーションは、タンパク質とADAとの間の高親和性結合のみが可能となるように、IgGシステインプロテアーゼ活性の阻害剤、例、ヨード酢酸(iodoacetic acid)(IHAc)の存在下、及び高塩濃度で行われる。プレインキュベーションした混合物は、IdeSでコーティングしたウェルと相互作用させられる。試験ポリペプチドに結合していないIdeS特異的ADAは、いずれも、ウェル上のIdeSに結合する。好適な間隔の後、アッセイプレートが洗浄され、IgGに特異的に結合する検出抗体が、結合に好適な条件下で加えられる。検出抗体は、各ウェル中の、IdeSに結合した任意のADAに結合する。洗浄後、ウェル中に存在する検出抗体の量は、試験ポリペプチドに結合していたADAの量に反比例する。検出抗体は、各ウェル中に残存する検出抗体の量が決定され得るように、標識又は別のレポーター系(酵素等)に直接的又は間接的に結合され得る。典型的には、ADAの、試験したポリペプチドへの結合を、IdeSへの結合と直接的に比較し得るように、ある特定のアッセイプレート上の少なくとも1つのウェルで、試験するポリペプチドの代わりに、プレインキュベーションした、IVIg及びIdeSの混合物が試験される。
【0031】
別の好適なアッセイは、種々の濃度のIdeS特異的ADA、例、IVIg調製物の滴定シリーズが、試験ポリペプチドに結合する程度を、IdeSと比較して、試験することを含む。好ましくは、本発明のポリペプチドは、結合が検出可能となるためには、IdeSへの結合が検出可能なADA濃度と比べて、より高濃度のADAが必要となる。かかるアッセイは、実施例に記載されている。かかるアッセイは、典型的には、アッセイプレートのウェルを試験ポリペプチド又はIdeSでコーティングすること、続いて各ウェルを滴定シリーズからの種々の濃度のIdeS特異的ADAとインキュベーションすることを含む。インキュベーションは、タンパク質とADAとの間の高親和性結合のみが可能になるように、IgGシステインプロテアーゼ活性の阻害剤、例、ヨード酢酸(IHAc)の存在下、及び高塩濃度で行われる。好適な間隔の後、アッセイプレートが洗浄され、IgG F(ab’)
2に特異的に結合する検出抗体が、結合に好適な条件下で加えられる。検出抗体は、各ウェル中の試験ポリペプチド又はIdeSに結合した任意のADAに結合する。洗浄後、ウェルに存在する検出抗体の量は、試験ポリペプチド又はIdeSに結合したADAの量に正比例する。各ウェルに残っている検出抗体の量が決定され得るように、検出抗体は、標識又は別のレポーター系(酵素等)に直接的又は間接的に結合され得る。ある特定のアッセイプレートにおける少なくとも1つのウェルが、ブランクとしての、ADAを欠く緩衝液とインキュベーションされ、試験ウェルにおける結合の検出のための閾値レベルが設定される。
【0032】
ポリペプチドの構造的特徴
本節は、前節で概説した機能的特徴に付加的に生かされる(apply in addition to)、本発明のポリペプチドの構造的特徴を示す。
【0033】
本発明のポリペプチドは、典型的には、長さが、少なくとも100、150、200、250、260、270、280、290又は300アミノ酸である。本発明のポリペプチドは、典型的には、長さが400、350、340、330、320又は310アミノ酸以下である。上に列挙した下限のいずれかが、上に列挙した上限のいずれかと組み合わされて、本発明のポリペプチドの長さについての範囲が提供され得ることが理解される。例えば、ポリペプチドは、長さが100〜400アミノ酸、又は長さが250〜350アミノ酸であり得る。ポリペプチドは、好ましくは、長さが290〜320アミノ酸、最も好ましくは、長さが300〜310アミノ酸である。
【0034】
本発明のポリペプチドの一次構造(アミノ酸配列)は、IdeSの一次構造に、具体的には配列番号2のアミノ酸配列に基づく。本発明のポリペプチドの配列は、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも50%同一である、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含む。変異体配列は、配列番号2の配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であり得る。変異体は、本明細書で同定された1つ以上の特定の改変を含むことを除いて、配列番号2の配列と同一であり得る。配列番号2の配列に対する同一性は、配列番号2に示される配列の少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個又はそれ以上の連続したアミノ酸の領域にわたって、又はより好ましくは配列番号2の全長にわたって測定され得る。
【0035】
アミノ酸の同一性は、任意の好適なアルゴリズムを用いて算出され得る。例えば、PILEUP及びBLASTアルゴリズムは、例えば、Altschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290−300;Altschul,S,F et al(1990)J Mol Biol 215:403−10に記載の通り、(典型的にはそれらの初期設定で)相同性を算出し、又は配列を整列する(line up)(均等又は対応する配列を同定する等)ために使用され得る。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)によって公に利用可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同一の長さのワードとアライメントされた場合に、ある正の値の(positive−valued)閾値スコアTに一致するか、又はこれを満たすかのいずれかの、クエリ配列(query sequence)中の長さWの短いワードを同定することにより、最初に、スコアの高い配列ペア(high scoring sequence pair,HSP)を同定することを含む。Tは、近傍ワードスコア閾値(neighbourhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al、上記)。これらの最初の近傍ワードのヒットは、それらを含有するHSPを発見する検索を開始するためのシードとして機能する。累積アライメントスコア(cumulative alignment score)が増加し得る限り、該ワードヒットが、各配列に沿って両方向に伸長される。ワードヒットの各方向への伸長は、以下の場合に停止する:累積アライメントスコアがその最大達成値(maximum achieved value)から量Xだけ低下するとき;1以上の負のスコアの残基アライメント(residue alignment)の累積に起因して累積スコアがゼロ以下になるとき;又はいずれかの配列の端部に到達するとき。BLASTアルゴリズムのパラメータW,T及びXは、アラインメントの感度(sensitivity)及び速度を決定する。BLASTプログラムは、初期設定として、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915−10919参照)アライメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、及び両鎖の比較を使用する。
【0036】
BLASTアルゴリズムは、2配列間の類似性(similarity)の統計解析を行う(例、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5787参照)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1基準(measure)は、ポリヌクレオチド又はアミノ酸の2配列間の一致が偶然に起こる確率の目安を提供する、最小合計確率(smallest sum probability,P(N))である。ある配列が、別の配列と類似であるとみなされるのは、例えば、第1の配列と第2の配列との比較において、最小合計確率が約1未満である場合、好ましくは約0.1未満である場合、より好ましくは約0.01未満である場合、及び最も好ましくは約0.001未満である場合である。或いは、UWGCGパッケージは、同一性を算出するために用いられ得るBESTFITプログラム(例えば、その初期設定で用いられる)を提供する(Devereux et al(1984)Nucleic Acids Research 12:387−395)。
【0037】
本発明のポリペプチドの配列は、アミノ酸の付加、欠失又は置換等の改変が、配列番号2の配列に対してなされる、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含む。特に明記しない限り、改変は、好ましくは保存的アミノ酸置換である。保存的置換は、アミノ酸を、類似の化学構造、類似の化学的特性又は類似の側鎖の嵩の、他のアミノ酸で置換する。導入されるアミノ酸は、それらが置換するアミノ酸に類似の極性、親水性、疎水性、塩基性度、酸性度、中性度又は電荷を有し得る。或いは、保存的置換は、前から存在する芳香族又は脂肪族のアミノ酸の代わりに芳香族又は脂肪族である別のアミノ酸を導入し得る。保存的なアミノ酸の変化は当該技術分野で周知であり、以下の表A1に記載の通りの、20の主要アミノ酸の特性に従って選択され得る。アミノ酸が同様の極性を有する場合、これは、表A2における、アミノ酸側鎖についてのハイドロパシースケールを参照することによって決定され得る。
【0040】
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含む。しかしながら、配列番号2のアミノ酸配列における特定の残基は、好ましくは、前記変異体配列内に保持される。例えば、前記変異体配列は、典型的には、IgGシステインプロテアーゼ活性に必要とされることが知られている特定の残基を保持する。従って、配列番号1の94位のシステインは、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列中に保持されなければならない(配列番号2の65番目の残基)。場合により、配列番号1の84位のリシン、262位のヒスチジン、並びに284位及び286位のそれぞれのアスパラギン酸も保持される。これらは、それぞれ、配列番号2の55番目、233番目、255番目及び257番目の残基である。従って、本発明のポリペプチドは、典型的には、配列番号1の94位に対応する前記変異配列の位置にシステイン(C)を有する、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含み;且つ場合により、前記変異体配列中の、配列番号1の84位、262位、284位及び286位に対応する位置に、それぞれ、リジン(K)、ヒスチジン(H)、アスパラギン酸(D)及びアスパラギン酸(D)を有する;
【0041】
上記の構造上の制約から始めて、本発明者らは、IdeSの三次元モデルを評価することにより、IdeSの機能的特性を調節するための改変用に、特定の位置を同定した。本発明者らは以下のことを同定した:
(1)配列番号1の130位のアスパラギン(N)を、正に荷電したアミノ酸で置換することにより、この変化を組み込んだポリペプチドの効力が増強される。従って、本発明のポリペプチドは、配列番号1の130位に対応する前記変異体中の位置に、正に荷電したアミノ酸を有する、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含み得る。一般的な、正に荷電したアミノ酸が上記の表A1に同定されている。正に荷電したアミノ酸は、好ましくはアルギニン(R)又はリジン(K)である。従って、この特定の改変は、本明細書では用語「N130R/K」によって同定され得る。
(2)配列番号1の131位のグリシン(G)を、正に荷電したアミノ酸で置換することにより、この変化を組み込んだポリペプチドの効力が増強される。従って、本発明のポリペプチドは、配列番号1の131位に対応する前記変異体中の位置に正に荷電したアミノ酸を有する、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含み得る。一般的な、正に荷電したアミノ酸は、上記の表A1に同定されている。正に荷電したアミノ酸は、好ましくはアルギニン(R)又はリジン(K)である。従って、この特定の改変は、本明細書では用語「G131R/K」によって同定され得る。
(3)配列番号2のC末端の最後の4残基を欠失させることにより、この変化を組み込んだポリペプチドの効力が増強される。配列番号2のC末端の最後の4つの残基は、連続配列NQTNからなる。従って、本発明のポリペプチドは、連続配列NQTNを含まない、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含み得る。即ち、配列番号2のC末端の最後の4残基は、配列番号2の前記変異体には存在しなくてもよい。配列番号2の最後の4残基は、配列番号1の336位〜339位に対応する。従って、この特定の改変は、本明細書中で用語「N336_N339del」によって同定され得る。
(4)配列番号2のN末端の最初の20残基を欠失させる又は改変することは、効力に悪影響を及ぼすことなく、この変化を組み込むポリペプチドの効力を増強し得、及び/又は免疫原性を低下させ得る。配列番号2のN末端の最初の20残基は、連続配列DSFSANQEIRYSEVTPYHVT(配列番号19)からなる。従って、本発明のポリペプチドは、連続配列DSFSANQEIRYSEVTPYHVTを含まない、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含み得る。
一例として、配列番号19の前記連続配列は、その全体が欠失されていてもよい。すなわち、配列番号2のN末端の最初の20残基は、配列番号2の前記変異体には存在しなくてもよい。配列番号2の最初の20残基は、配列番号1の30位〜49位に対応する。従って、この連続した配列の欠失は、本明細書中で用語「D30_T49del」によって同定され得る。
或いは、本発明のポリペプチドは、配列番号2のN末端の最初の20残基の配列が、前記最初の20残基中の1以上のアミノ酸を置換することによって改変された、配列番号2のアミノ酸配列の変異体を含み得る。改変された配列は、好ましくは、配列番号2の最初の20個のアミノ酸と比較して免疫原性が減少する。一例として、配列番号2の2位〜20位のアミノ酸(配列番号1の31位〜49位に対応する)は、場合により、連続配列DYQRNATEAY AKEVPHQIT(配列番号36)で置換され得る。換言すれば、本発明のポリペプチドの最初の20個のアミノ酸は、配列番号19の配列の代わりに、配列DDYQRNATEA YAKEVPHQIT(配列番号37)からなり得る。挿入された配列である配列番号36は、IdeZのN末端領域からとられており、NCBI参照配列番号WP_014622780.1のIdeZの36位〜54位に対応する。ヒト被験体は、典型的には、IdeZに対する抗体を発現しないので、この配列を含むポリペプチドにはADAは作用しにくい。本明細書において、配列番号35の、配列番号37との置換は、用語「S31_T49replZ」によって同定され得る。
【0042】
従って、まとめると、本発明のポリペプチドは、配列番号2の配列の変異体を含み、該変異体は:
(a)配列番号2に対して少なくとも50%同一であり;
(b)前記変異体配列中の、配列番号1の94位に対応する位置にシステイン(C)を有し;及び場合により
(c)前記変異体配列中の、配列番号1の84位、262位、284位及び286位に対応する位置に、それぞれ、リジン(K)、ヒスチジン(H)、アスパラギン酸(D)及びアスパラギン酸(D)を有する;
好ましくは、配列番号2の前記変異体は:
(1)前記変異体中の、配列番号1の130位に対応する位置に、正に荷電したアミノ酸を有し、場合により、前記正に荷電したアミノ酸がアルギニン(R)又はリジン(K)であり;及び/又は
(2)前記変異体中の、配列番号1の131位に対応する位置に、正に荷電したアミノ酸を有し、場合により、前記正に荷電したアミノ酸がアルギニン(R)又はリジン(K)であり;及び/又は
(3)連続配列NQTNを含まず;及び/又は
(4)連続配列DSFSANQEIR YSEVTPYHVTを含まない。
【0043】
配列番号2の前記変異体は、上記の(1)〜(4)の改変の1つ、2つ、3つ又は4つ全てを含み得る。前記変異体は、上記の(1)〜(4)の改変の2つ又は3つの任意の組み合わせを含み得る。好ましい変異体は、改変(3)並びに改変(1)及び(2)の少なくとも1つを含む。他の好ましい変異体は、改変(3)及び(4)、並びに改変(1)及び(2)の少なくとも1方を含む。
【0044】
本発明者らは、上記の改変(1)〜(4)の任意の組み合わせに代えて、又はそれに加えて適用され得る、配列番号2の配列に対する特定の他の改変が、本発明のポリペプチド効力を増大させ、及び/又はIdeS特異的ADAによる本発明のポリペプチドの認識を低下させ得ることも究明した。従って、本発明のポリペプチドは、置換が、配列番号1の115位、119位、139位、142位、198位、216位、226位、241位、245位、302位、316位及び333位に対応する位置の1以上でなされる、配列番号2の配列の変異体を含み得る。前記変異体は、これらの位置の全てにおいて置換を含み得るが、典型的には、これらの位置の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ又は7つにおける置換を含む。これらの位置における置換は、典型的には、存在するアミノ酸を、種々の特性を有する別のアミノ酸で置換する。例えば、荷電していないアミノ酸は、荷電したアミノ酸で置換され得、逆もまた同様である。これらの位置における好ましい置換は、以下の表Bに1文字コードを用いて記載されている:
【0046】
表B中の置換の各々は、各行ごとに、左から右へ、第1列、第2列及び第3列の項目を組み合わせることによって得られる用語を用いて、本明細書で言及され得る。例えば、第1行における置換は、本明細書では「K115E」と言われる場合があり、第2行における置換は「E119R」と言われる場合がある、という具合である。具体的な改変「D226N」は、配列番号1の224位〜226位の連続したRGD配列である、IdeSの配列における既知の細胞接着モチーフを破壊することを意図している。
【0047】
以下の表Cに、本発明の特定の例示的なポリペプチドのアミノ酸配列を製造するためになされた改変をまとめる。
【0049】
配列番号1及び2のアミノ酸配列を、以下に完全に再掲し、続いて表Cに記載した本発明の例示的ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0053】
本発明のポリペプチドは、配列番号3〜16のいずれか1つの配列を含み、それから実質的になり、又は、それからなり得る。配列番号3〜16のそれぞれは、場合により、メチオニンをN末端に、及び/又は、ヒスチジンタグをC末端に、更に含み得る。ヒスチジンタグは、好ましくは6つのヒスチジン残基からなる。ヒスチジンタグは、好ましくは、3×グリシン残基又は5×グリシン残基のリンカーによって、C末端に連結される。配列番号13については、ヒスチジンタグは、好ましくは5×グリシン残基のリンカーによって、C末端に連結される。
【0054】
ポリペプチドの製造
本明細書に開示される通りのポリペプチドは、任意の好適な手段によって製造され得る。例えば、ポリペプチドは、Fmoc固相化学、Boc固相化学又は溶液相ペプチド合成等の、当該技術分野で公知の標準的技術を用いて直接的に合成され得る。或いは、ポリペプチドは、細胞、典型的には細菌細胞を、前記ポリペプチドをコードする核酸分子又はベクターで形質転換することによって製造され得る。細菌宿主細胞における発現によるポリペプチドの製造は、以下に記載され、実施例に例示される。本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子及びベクターを提供する。本発明は、かかる核酸又はベクターを含む宿主細胞も提供する。本明細書に開示されるポリペプチドをコードする、例示的なポリヌクレオチド分子は、配列番号20〜34として示される。これらの配列の各々は、3’末端にN末端メチオニンのコドン(ATG)を含み、5’末端の終止コドン(TAA)の前に、3×グリシンのリンカー及び6×hisのヒスチジンタグのコドンを含み、それらは場合により除去され得る。
【0055】
用語「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書では交換可能に用いられ、任意の長さのヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチドのいずれか又はそれらの類似体)のポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子、遺伝子断片、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、組換えポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ及びプライマーが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは、単離又は実質的に単離された形態で提供され得る。実質的に単離されるとは、周囲の任意の培地から、ポリペプチドが実質的に単離されているが完全ではない場合があることを意味する。ポリヌクレオチドは、それらの意図される使用を妨げない担体又は希釈剤と混合され得、依然として実質的に単離されているとみなされ得る。選択されたポリペプチドを「コードする」核酸配列は、適切な調節配列の制御下(例えば、発現ベクター中)に置かれた場合に、インビボで転写され(DNAの場合)、ポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン及び3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定される。本発明の目的のためには、かかる核酸配列としては、ウイルス、原核生物又は真核生物のmRNA由来のcDNA、ウイルス又は原核生物のDNA又はRNA由来のゲノム配列、更には合成DNA配列が挙げられ得るが、これらに限定されない。転写終結配列が、コード配列の3’に位置し得る。
【0056】
ポリヌクレオチドは、Sambrook et al (1989,Molecular Cloning−a laboratory manual;Cold Spring Harbor Press)における例に記載されている通りの、当該技術分野で周知の方法に従って合成され得る。本発明の核酸分子は、挿入された配列に作動可能に連結された制御配列を含む発現カセットの形態で提供され得、従ってインビボでの本発明のポリペプチドの発現を可能にする。これらの発現カセットは、典型的には、次にベクター(例、プラスミド又は組換えウイルスベクター)内に提供される。かかる発現カセットは、宿主被験体に直接的に投与され得る。或いは、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターが、宿主被験体に投与され得る。好ましくは、ポリヌクレオチドは、遺伝子ベクターを用いて調製及び/又は投与される。好適なベクターは、十分な量の遺伝情報を運搬することができ、本発明のポリペプチドを発現させることができる、任意のベクターであり得る。
【0057】
従って、本発明は、かかるポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。かかる発現ベクターは、分子生物学の分野において日常的に構築されており、本発明のペプチドの発現を可能にするために、例えばプラスミドDNA及び適切なイニシエーター、プロモーター、エンハンサー及び他のエレメント、例えば必要であり得るポリアデニル化シグナル等の使用を含み得、これらは適正な方向性で配置される。他の好適なベクターは、当業者には明らかである。これに関する更なる例として、我々は、Sambrook et alを引用する。
【0058】
本発明は、本発明のポリペプチドを発現するように改変された細胞も含む。かかる細胞としては、典型的には、細菌細胞、例えばE.コリ、等の原核細胞が挙げられる。かかる細胞は、本発明のポリペプチドを製造するための通常の方法を用いて培養され得る。
【0059】
ポリペプチドは、それらの製造、単離又は精製を促進するために、誘導体化又は修飾され得る。例えば、細菌宿主細胞における組換え発現によって、本発明のポリペプチドが製造される場合、ポリペプチドの配列は、発現を向上させるために、N末端に更なるメチオニン(M)残基を含み得る。別の例として、本発明のポリペプチドは、分離手段に直接且つ特異的に結合できるリガンドの付加によって誘導体化又は修飾され得る。或いは、ポリペプチドは、結合対の一方のメンバーの付加によって誘導体化又は修飾され得、分離手段は、結合対の他方のメンバーの付加によって誘導体化又は修飾される試薬を含む。任意の好適な結合対が用いられ得る。本発明において使用するためのポリペプチドが、結合対の一方のメンバーの付加によって誘導体化又は修飾される好ましい実施形態においては、ポリペプチドは、好ましくはヒスチジンタグ付き又はビオチンタグ付きである。典型的には、ヒスチジン又はビオチンのタグのアミノ酸コード配列が、遺伝子レベルで含められ、ポリペプチドはE.コリで組換え発現する。ヒスチジン又はビオチンのタグは、典型的には、ポリペプチドのいずれかの末端に、好ましくはC末端に存在する。それは、ポリペプチドに直接的に連結されてもよく、3つ、4つ又は5つのグリシン残基等の任意の好適なリンカー配列によって間接的に連結されてもよい。ヒスチジンタグは、典型的には6つのヒスチジン残基からなるが、これよりも長く、典型的には、最大7つ、8つ、9つ、10個又は20個のアミノ酸又はこれよりも短く、例えば5つ、4つ、3つ、2つ又は1つのアミノ酸であり得る。
【0060】
ポリペプチドのアミノ酸配列は、例えば安定性を高めるために、天然に存在しないアミノ酸を含むように改変され得る。ポリペプチドが合成手段によって製造される場合、かかるアミノ酸は製造中に導入され得る。ポリペプチドは、また、合成又は組換えでの製造のいずれかに続けて改変され得る。ポリペプチドは、また、D−アミノ酸を用いて製造され得る。かかる場合、アミノ酸は、CからNの向きで逆の順序で連結される。これは、かかるポリペプチドを製造するための技術分野において慣用的である。
【0061】
当該技術分野においては、多くの側鎖修飾が知られており、ポリペプチドが、本明細書で特定され得る通りの、更に必要とされる任意の活性又は特性を保持することを条件として、ポリペプチドの側鎖に対してなされ得る。ポリペプチドは、化学的に修飾(例、翻訳後修飾)され得ることも理解される。例えば、それらはグリコシル化、リン酸化され得、又は修飾アミノ酸残基を含み得る。
【0062】
ポリペプチドは、PEG化されていてもよい。本発明のポリペプチドは、実質的に単離された形態であり得る。それは、意図される使用を妨げない担体又は希釈剤と混合され得、依然として実質的に単離されているとみなされ得る。また、それは、実質的に精製された形態であり得、その場合、一般に、少なくとも90%、例、少なくとも95%、98%又は99%のタンパク質を、標品中に含む。
【0063】
ポリペプチドを含む組成物及び製剤
別の態様においては、本発明は、本発明のポリペプチドを含む組成物を提供する。例えば、本発明は、本発明の1以上のポリペプチド及び少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体又は希釈剤を含む組成物を提供する。担体(複数可)は、組成物の他の成分と適合し、組成物が投与される被験体に有害ではないという意味で「許容可能」でなければならない。典型的には、担体及び最終組成物は、無菌で、発熱物質(pyrogen)フリーである。
【0064】
好適な組成物の製剤化は、全てが、当業者に容易に利用可能である、標準的な医薬処方化学及び方法論を用いて行われ得る。例えば、薬剤は、1以上の医薬的に許容可能な賦形剤又はビヒクルと組み合わせられ得る。湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質、還元剤等の補助物質が、賦形剤又はビヒクル中に存在し得る。好適な還元剤としては、システイン、チオグリセロール、チオレデューシン(thioreducin)、グルタチオン等が挙げられる。賦形剤、ビヒクル及び補助物質は、一般に、組成物を受容する個体において免疫応答を誘導せず、過度の毒性を伴わずに投与され得る医薬品である。医薬的に許容可能な賦形剤としては、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、チオグリセロール及びエタノール等の液体が挙げられるが、これらに限定されない。医薬的に許容可能な塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等の有機酸の塩も、それに含められ得る。医薬的に許容可能な賦形剤、ビヒクル及び補助物質の詳細な検討は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において入手可能である。
【0065】
かかる組成物は、ボーラス投与又は連続的投与に好適な形態で調製、包装又は販売され得る。注射用組成物は、アンプル等で、単位投与形態で、又は保存剤を含有する複数用量容器で、調製、包装又は販売され得る。組成物としては、懸濁液、溶液、油性又は水性ビヒクル中の乳液、ペースト、及び埋め込み可能な徐放性又は生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。かかる組成物は、懸濁化剤、安定化剤又は分散剤が挙げられるが、これらに限定されない1以上の追加の成分を更に含み得る。非経口投与用組成物の一実施形態においては、有効成分は、好適なビヒクル(例えば、滅菌の発熱物質フリーの水)で再構成するために、乾燥形態(例えば、粉末又は顆粒)で提供され、後に再構成された組成物が非経口投与される。組成物は、滅菌注射用の、水性又は油性の懸濁液又は溶液の形態で調製、包装又は販売され得る。この懸濁液又は溶液は、公知技術に従って製剤化され得、有効成分に加えて、本明細書に記載の分散剤、湿潤剤又は懸濁化剤等の追加成分を含み得る。かかる滅菌注射用製剤は、例えば、水又は1,3−ブタンジオール等の、非毒性の、非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒を用いて調製され得る。他の許容可能な希釈剤及び溶媒としては、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム溶液、及び合成モノ又はジグリセリド等の固定油が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
非経口投与可能な、他の有用な組成物としては、有効成分を、微結晶形態で、リポソーム調製物で、又は生分解性ポリマー系の成分として、含むものが挙げられる。持続的な放出又は埋め込みのための組成物は、乳液、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー又は難溶性塩等の、医薬的に許容可能なポリマー又は疎水性材料を含み得る。組成物は、例えば、皮内、皮下、経皮、筋肉内、動脈内、腹腔内、関節内、骨内又は他の適切な投与経路を含む、任意の好適な経路による投与に好適であり得る。好ましい組成物は、静脈内注入による投与に好適である。
【0067】
ポリペプチドの使用方法
本発明は、種々の方法における本発明のポリペプチドの使用を提供する。例えば、本発明のポリペプチドは、バイオテクノロジーに有用なツールを提供し得る。ポリペプチドは、IgG、特にヒトIgGの特異的なエクスビボ切断のために用いられ得る。かかる方法においては、ポリペプチドは、特異的システインプロテアーゼ活性を生じさせる条件下で、IgGを含有する試料とインキュベーションされ得る。国際公開第2003051914号及び国際公開第2009033670号に記載されたもの等の、任意の好適な方法を用いて、特定の切断が確認され得、切断産物が単離され得る。従って、該方法は、特に、Fc及びF(ab’)
2の断片を生成するために用いられ得る。次いで、本発明のポリペプチドによるIgGの切断から生じるF(ab’)
2断片に対する(例えば、2−メルカプトエタノールアミン又はシステアミンで)還元工程を実施することによって、Fab断片が製造され得る。
【0068】
該方法は、また、試料中のIgGを検出若しくは解析するため、又は試料からIgGを除去するために用いられ得る。試料中のIgGを検出するための方法は、典型的には、IgG特異的結合及び切断を可能にする条件下で、ポリペプチドを、試料とインキュベーションすることを含む。IgGの存在は、特異的IgG切断産物の検出によって確認され得、それがその後解析され得る。
【0069】
本発明によるポリペプチドはまた、治療又は予防において用いられ得る。治療的適用においては、ポリペプチド又は組成物は、既に疾患又は状態に罹患している被験体に、状態又はその1以上の症状を治癒、緩和又は部分的に食い止めるのに十分な量で、投与される。かかる治療的処置は、疾患の症状の重症度の低下、又は症状のない期間の頻度若しくは持続の増加をもたらし得る。これを達成するのに十分な量は、「治療有効量」と定義される。予防的適用においては、ポリペプチド又は組成物は、症状の発症を予防又は遅延させるのに十分な量で、疾患又は状態の症状をまだ示さない被験体に投与される。かかる量は、「予防有効量」と定義される。被験体は、任意の好適な手段によって、疾患又は状態を発症する危険性があると同定されている場合がある。従って、本発明は、ヒト又は動物の身体の治療において使用するための、本発明のポリペプチドも提供する。被験体における疾患又は状態の予防方法又は治療方法であって、本発明のポリペプチドを、被験体に、予防有効量又は治療有効量で投与することを含む、方法も、本明細書において提供される。ポリペプチドは、免疫抑制剤と共投与され得る。ポリペプチドは、好ましくは、静脈内注入によって投与されるが、例えば、皮内、皮下、経皮、筋肉内、動脈内、腹腔内、関節内、骨内又は他の適切な投与経路を含む任意の好適な経路によって投与され得る。投与される前記ポリペプチドの量は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25mg/kg体重の下限を有し得る。投与される前記ポリペプチドの量は、約0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mg/kg体重の上限を有し得る。上記の上限のいずれかと上記の下限のいずれかが組み合わせられて、投与される用量の範囲が提供され得ることが理解される。例えば、投与される前記ポリペプチドの量は、約0.01mg/kg体重〜2mg/kg体重、0.10〜1mg/kg体重、また好ましくは0.25mg/kg体重〜0.5mg/kg体重であり得る。ポリペプチドは、ポリペプチドに結合することができる、被験体血清中のADAの量が、臨床医によって決定された閾値を超えなければ、同一被験体に対して、複数時に投与され得る。ポリペプチドに結合することができる、被験体血清中のADAの量は、薬剤特異的CAP FEIA(ImmunoCAP)試験又は力価アッセイ等の任意の好適な方法によって決定され得る。
【0070】
本発明のポリペプチドは、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防に特に有用であり得る。従って、本発明は、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防において使用するための、本発明のポリペプチドを提供する。本発明は、個体に、本発明のポリペプチドを投与することを含む、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防する方法も提供する。該方法は、前記ポリペプチドの反復投与を含み得る。本発明は、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防するための医薬の製造において使用するための、本発明のポリペプチドも提供する。
【0071】
病原性抗体は、典型的には、抗体によって全体的又は部分的に媒介される、自己免疫疾患又は他の状態において標的とされる抗原に特異的であり得る。表Dは、かかる疾患及び関連する抗原のリストを示す。本発明のポリペプチドは、これらの疾患又は状態のいずれかを治療するために用いられ得る。該ポリペプチドは、病原性IgG抗体によって全体的又は部分的に媒介される自己免疫疾患の治療又は予防に特に有効である。
【0076】
別の実施形態においては、本発明のポリペプチドは、治療又は治療剤の、被験体への利益を向上させる方法において用いられ得る。該方法は、本明細書では、工程(a)及び(b)と呼ばれる2つの工程を含む。
【0077】
工程(a)は、被験体に、本発明のポリペプチドを投与することを含む。投与されるポリペプチドの量は、好ましくは、被験体の血漿中に存在する実質的に全てのIgG分子を切断するのに十分である。工程(b)は、引き続いて、被験体に、前記治療を施すか、又は治療剤を投与することを含む。工程(a)及び(b)は、好ましくは、被験体の血漿中に存在する実質的にすべてのIgG分子の切断が生じるのに十分な時間間隔で隔てられる。前記間隔は、典型的には、少なくとも30分、また多くとも21日であり得る。
【0078】
利益が向上する治療剤は、典型的には、がん又は別の疾患の治療のために投与される抗体である。治療剤は、IVIgであり得る。本実施形態の文脈において、本発明は、代替的に、被験体におけるがん又は別の疾患を治療するための方法であって、(a)被験体に、本発明のポリペプチドを投与すること;及び(b)その後、前記被験体に、治療有効量の抗体を投与すること(前記がん又は前記他の疾患の治療である)を含み;ここで:
− 投与される前記ポリペプチドの量は、被験体の血漿中に存在する実質的に全てのIgG分子を切断するのに十分である;及び
− 工程(a)及び(b)は、少なくとも2時間、また多くとも21日の時間間隔で隔てられる
方法を提供するものとして記述され得る。
【0079】
言い換えれば、本発明は、がん又は他の疾患の治療のための、かかる方法において使用するためのポリペプチドも提供する。本発明は、かかる方法による、がん又は別の疾患を治療するための医薬の製造における、医薬の使用も提供する。がんは、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性(myeloid)白血病、副腎皮質がん、AIDS関連がん、AIDS関連リンパ腫、肛門がん、虫垂がん、星細胞腫(小児小脳又は小児大脳)、基底細胞がん、胆管がん(肝外)、膀胱がん、骨がん、骨肉腫/悪性線維性組織球腫、脳幹グリオーマ、脳がん、脳腫瘍(小脳星細胞腫)、脳腫瘍(大脳星細胞腫/悪性グリオーマ)、脳腫瘍(上衣腫)、脳腫瘍(髄芽腫)、脳腫瘍(テント上原始神経外胚葉性腫瘍)、脳腫瘍(視覚路及び視床下部グリオーマ)、乳がん、気管支アデノーマ/カルチノイド、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、カルチノイド腫瘍(消化管)、原発不明のがん腫、中枢神経系リンパ腫、小脳星細胞腫、大脳星細胞腫/悪性グリオーマ、子宮頸がん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性(myelogenous)白血病、慢性骨髄増殖性疾患、結腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜がん、上衣腫、食道がん、ユーイングファミリー腫瘍におけるユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、小児性、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼がん(眼球内黒色腫)、眼がん(網膜芽細胞腫)、胆嚢がん、胃(gastric(stomach))がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍(頭蓋外、性腺外、又は卵巣)、妊娠性トロホブラスト腫瘍、脳幹のグリオーマ、グリオーマ(小児性大脳星細胞腫)、グリオーマ(小児性視覚路及び視床下部)、胃カルチノイド、有毛細胞白血病、頭頸部がん、心臓がん、肝細胞(肝臓)がん、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、視床下部及び視覚路グリオーマ、眼球内黒色腫、島細胞がん(膵内分泌部)、カポジ肉腫、腎臓がん(腎細胞がん)、咽頭がん、白血病、白血病(急性リンパ芽球性)(急性リンパ性白血病とも呼ばれる)、白血病(急性骨髄性(myeloid))(急性骨髄性(myelogenous)白血病とも呼ばれる)、白血病(慢性リンパ性)(慢性リンパ性白血病とも呼ばれる)、白血病(慢性骨髄性(myelogenous))(慢性骨髄性(myelogenous)白血病とも呼ばれる)、白血病(有毛細胞)、口唇及び口腔がん、脂肪肉腫、肝臓がん(原発性)、肺がん(非小細胞)、肺がん(小細胞)、リンパ腫、リンパ腫(AIDS関連)、リンパ腫(バーキット)、リンパ腫(皮膚T細胞)、リンパ腫(ホジキン)、リンパ腫(非ホジキン)(ホジキンリンパ腫を除く全てのリンパ腫の古い分類)、リンパ腫(原発性中枢神経系)、マクログロブリン血症(ワルデンシュトレーム)、骨の悪性線維性組織球腫/骨肉腫、髄芽腫、黒色腫、黒色腫(眼内(眼))、メルケル細胞がん、中皮腫(成人悪性)、中皮腫、原発不明を含む転移性扁平上皮頸部がん、口腔がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性(myelogenous)白血病(慢性)、骨髄性(myeloid)白血病(成人急性)、骨髄性(myeloid)白血病(小児急性)、骨髄腫(多発性)(骨髄のがん)、骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔のがん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口腔がん、口腔咽頭がん、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、卵巣がん、卵巣上皮がん(表層上皮・間質性腫瘍)、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓がん、膵臓がん(島細胞)、副鼻腔及び鼻腔のがん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、松果体星細胞腫、松果体胚腫、松果体芽腫及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体アデノーマ、形質細胞腫/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系リンパ腫、前立腺がん、直腸がん、腎細胞がん(腎臓がん)(腎盂及び尿管)、移行上皮がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、ユーイングファミリー腫瘍、カポジ肉腫、肉腫(軟組織)、肉腫(子宮)、セザリー症候群、皮膚がん(非黒色腫性)、皮膚がん(黒色腫)、皮膚がん腫(メルケル細胞)、小細胞肺がん、小腸がん、軟組織肉腫、扁平上皮細胞がん、原発不明を含む扁平上皮頸部がん(転移性)、胃がん、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、T細胞リンパ腫(皮膚性)(菌状息肉腫及びセザリー症候群を参照)、精巣がん、咽頭がん、胸腺腫、胸腺腫及び胸腺がん、甲状腺がん、甲状腺がん、腎盂及び尿管の移行上皮がん、トロホブラスト腫瘍、尿管及び腎盂移行上皮がん、尿道がん、子宮がん(子宮内膜)、子宮肉腫、腟がん、視覚路及び視床下部のグリオーマ、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、並びにウィルムス腫瘍(腎臓がん)であり得る。
【0080】
がんは、好ましくは、前立腺がん、乳がん、膀胱がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、腎臓(腎臓細胞)がん、食道がん、甲状腺がん、皮膚がん、リンパ腫、黒色腫又は白血病である。
【0081】
工程(b)において投与される抗体は、好ましくは、上記のがんのタイプの1つ以上に関連する腫瘍抗原に特異的である。該方法における使用のための抗体に関して、対象の標的としては、CD2、CD3、CD19、CD20、CD22、CD25、CD30、CD32、CD33、CD40、CD52、CD54、CD56、CD64、CD70、CD74、CD79、CD80、CD86、CD105、CD138、CD174、CD205、CD227、CD326、CD340、MUC16、GPNMB、PSMA、Cripto、ED−B、TMEFF2、EphA2、EphB2、FAP、avインテグリン、メソセリン、EGFR、TAG−72、GD2、CA1X、5T4、α4β7インテグリン、Her2が挙げられる。他の標的は、IL−1〜IL−13のインターロイキン類、腫瘍壊死因子α及びβ、インターフェロンα、β及びγ、腫瘍増殖因子ベータ(TGF−β)、コロニー刺激因子(CSF)及び顆粒球単球コロニー刺激因子(GMCSF)等のサイトカインである。Human Cytokines:Handbook for Basic & Clinical Research(Aggrawal et al.eds.,Blackwell Scientific,Boston,MA 1991)を参照。他の標的は、ホルモン、酵素、及びアデニルシクラーゼ、グアニルシクラーゼ、及びホスホリパーゼC等の細胞内及び細胞間メッセンジャーである。対象の他の標的は、CD20及びCD33等の白血球抗原である。薬物も対象の標的であり得る。標的分子は、ヒトの、哺乳動物の又は細菌のであり得る。他の標的は、微生物病原体(ウイルス性及び細菌性の両方)及び腫瘍由来のタンパク質、糖タンパク質及び炭水化物等の抗原である。更に他の標的は、米国特許第4,366,241号に記載されている。
【0082】
抗体は、直接的又は間接的に、細胞傷害性部分又は検出可能な標識に結合され得る。抗体は、当該技術分野で公知の、様々な方法のうちの1つ以上を用いて、1つ以上の投与経路を介して投与され得る。投与の経路及び/又は様式は、所望の結果に依存して変わる。抗体についての好ましい投与経路としては、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄又は他の非経口の、例えば注射又は注入による投与経路が挙げられる。語句「非経口投与」は、本明細書で用いられる場合、通常は、経腸及び局所投与以外の、注射による投与様式を意味する。或いは、抗体は、非経口でない経路(局所、表皮又は粘膜等の投与経路)を介して投与され得る。腫瘍周辺、腫瘍近傍(juxtatumoral)、腫瘍内、病巣内、病巣周辺、腔内注入、膀胱内投与(intravesicle administration)、及び吸入を含む局所投与も好ましい。
【0083】
好適な、本発明の抗体の投与量は、熟練した医師により決定され得る。抗体の実際の投与量レベルは、患者に対して毒性がなく、特定の患者、組成及び投与様式に関して、所望の治療応答を達成するのに有効な量の有効成分を得るように変化させられ得る。選択された投与量レベルは、使用される特定の抗体の活性、投与経路、投与時期、抗体の排出速度、治療の継続期間、用いられる特定の組成物と組み合わせて用いられる他の薬物、化合物及び/又は材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全般的な健康状態及び以前の病歴、並びに医学分野において周知の同様の要因を含む、様々な薬物動態学的因子に依存する。
【0084】
抗体の好適な用量は、例えば、治療される患者の体重1kgあたり約0.1μg〜約100mgの範囲中であり得る。例えば、好適な投与量は、約1μg/kg〜約10mg/kg体重/日又は約10μg/kg〜約5mg/kg体重/日であり得る。
【0085】
投与計画は、所望の最適応答(例、治療応答)を提供するように調節され得る。例えば、単一のボーラスが投与され得、又は方法の工程(b)は、工程(a)及び(b)の間の、必要な間隔を超えないという条件で、経時的に投与される分割用量をいくつか含み得るか、若しくは、治療状況の緊急適応があれば、用量が、比例的に減少又は増加され得る。投与の容易さ及び投与量の均一性のためには、非経口組成物を、単位投与形態で製剤化することが、特に好都合である。単位投与形態は、本明細書で用いられる場合、治療される被験体のための単位投与量として適した、物理的に別個の単位(各単位は、所望の治療効果を生じるように算出された所定量の活性化合物(必要とされる医薬的担体を伴う)を含有する)を指す。
【0086】
工程(b)の抗体は、化学療法又は放射線療法と併用して投与され得る。該方法は、追加の抗がん抗体又は他の治療剤の投与を更に含み得、これは、単一の組成物で、又は併用療法の一部としての別個の組成物で、工程(b)の抗体と共に投与され得る。例えば、工程(b)の抗体は、他の薬剤の前に、その後に、又はそれと同時に、投与され得る。
【0087】
抗体は、アバゴボマブ(Abagovomab)、アブシキシマブ(Abciximab)、アクトクスマブ(Actoxumab)、アダリムマブ(Adalimumab)、アデカツムマブ(Adecatumumab)、アフェリモマブ(Afelimomab)、アフツズマブ(Afutuzumab)、アラシズマブペゴール(Alacizumab pegol)、ALD518、アレムツズマブ(Alemtuzumab)、アリロクマブ(Alirocumab)、アルツモマブペンテト酸(Altumomab pentetate)、アマツキシマブ(Amatuximab)、アナツモマブマフェナトクス(Anatumomab mafenatox)、アンルキンズマブ(Anrukinzumab)、アポリズマブ(Apolizumab)、アルシツモマブ(Arcitumomab)、アセリズマブ(Aselizumab)、アチヌマブ(Atinumab)、アツリズマブ(Atlizumab)(=トシリズマブ)、アトロリムマブ(Atorolimumab)、バピネウズマブ(Bapineuzumab)、バシリキシマブ(Basiliximab)、バビツキシマブ(Bavituximab)、ベクツモマブ(Bectumomab)、ベリムマブ(Belimumab)、ベンラリズマブ(Benralizumab)、ベルチリムマブ(Bertilimumab)、ベシレソマブ(Besilesomab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、ベズロトクスマブ(Bezlotoxumab)、ビシロマブ(Biciromab)、ビマグルマブ(Bimagrumab)、ビバツズマブメルタンシン(Bivatuzumab mertansine)、ブリナツモマブ(Blinatumomab)、ブロソズマブ(Blosozumab)、ブレンツキシマブベドチン(Brentuximab vedotin)、ブリアキヌマブ(Briakinumab)、ブロダルマブ(Brodalumab)、カナキヌマブ(Canakinumab)、カンツズマブメルタンシン(Cantuzumab mertansine)、カンツズマブラブタンシン(Cantuzumab ravtansine)、カプラシズマブ(Caplacizumab)、カプロマブペンデチド(Capromab pendetide)、カルルマブ(Carlumab)、カツマキソマブ(Catumaxomab)、CC49、セデリズマブ(Cedelizumab)、セルトリズマブペゴール(Certolizumab pegol)、セツキシマブ(Cetuximab)、Ch.14.18、シタツズマブボガトクス(Citatuzumab bogatox)、シクスツムマブ(Cixutumumab)、クラザキズマブ(Clazakizumab)、クレノリキシマブ(Clenoliximab)、クリバツズマブテトラキセタン(Clivatuzumab tetraxetan)、コナツムマブ(Conatumumab)、コンシズマブ(Concizumab)、クレネズマブ(Crenezumab)、CR6261、ダセツズマブ(Dacetuzumab)、ダクリズマブ(Daclizumab)、ダロツズマブ(Dalotuzumab)、ダラツムマブ(Daratumumab)、デムシズマブ(Demcizumab)、デノスマブ(Denosumab)、デツモマブ(Detumomab)、ドルリモマブアリトクス(Dorlimomab aritox)、ドロジツマブ(Drozitumab)、デュリゴツマブ(Duligotumab)、デュピルマブ(Dupilumab)、デュシギツマブ(Dusigitumab)、エクロメキシマブ(Ecromeximab)、エクリズマブ(Eculizumab)、エドバコマブ(Edobacomab)、エドレコロマブ(Edrecolomab)、エファリズマブ(Efalizumab)、エフングマブ(Efungumab)、エロツズマブ(Elotuzumab)、エルシリモマブ(Elsilimomab)、エナバツズマブ(Enavatuzumab)、エンリモマブペゴール(Enlimomab pegol)、エノキズマブ(Enokizumab)、エノチクマブ(Enoticumab)、エンシツキシマブ(Ensituximab)、エピツモマブシツキセタン(Epitumomab cituxetan)、エプラツズマブ(Epratuzumab)、エルリズマブ(Erlizumab)、エルツマキソマブ(Ertumaxomab)、エタラシズマブ(Etaracizumab)、エトロリズマブ(Etrolizumab)、エボロクマブ(Evolocumab)、エキスビビルマブ(Exbivirumab)、ファノレソマブ(Fanolesomab)、ファラリモマブ(Faralimomab)、ファルレツズマブ(Farletuzumab)、ファシヌマブ(Fasinumab)、FBTA05、フェルビズマブ(Felvizumab)、フェザキヌマブ(Fezakinumab)、フィクラツズマブ(Ficlatuzumab)、フィギツムマブ(Figitumumab)、フランボツマブ(Flanvotumab)、フォントリズマブ(Fontolizumab)、フォラルマブ(Foralumab)、フォラビルマブ(Foravirumab)、フレソリムマブ(Fresolimumab)、フルラヌマブ(Fulranumab)、フツキシマブ(Futuximab)、ガリキシマブ(Galiximab)、ガニツマブ(Ganitumab)、ガンテネルマブ(Gantenerumab)、ガビリモマブ(Gavilimomab)、ゲムツズマブオゾガマイシン(Gemtuzumab ozogamicin)、ゲボキズマブ(Gevokizumab)、ギレンツキシマブ(Girentuximab)、グレムバツムマブベドチン(Glembatumumab vedotin)、ゴリムマブ(Golimumab)、ゴミリキシマブ(Gomiliximab)、GS6624、イバリズマブ(Ibalizumab)、イブリツモマブチウキセタン(Ibritumomab tiuxetan)、イクルクマブ(Icrucumab)、イゴボマブ(Igovomab)、イムシロマブ(Imciromab)、イムガツズマブ(Imgatuzumab)、インクラクマブ(Inclacumab)、インダツキシマブラブタンシン(Indatuximab ravtansine)、インフリキシマブ(Infliximab)、インテツムマブ(Intetumumab)、イノリモマブ(Inolimomab)、イノツズマブオゾガマイシン(Inotuzumab ozogamicin)、イピリムマブ(Ipilimumab)、イラツムマブ(Iratumumab)、イトリズマブ(Itolizumab)、イキセキズマブ(Ixekizumab)、ケリキシマブ(Keliximab)、ラベツズマブ(Labetuzumab)、ラムパリズマブ(Lampalizumab)、レブリキズマブ(Lebrikizumab)、レマレソマブ(Lemalesomab)、レルデリムマブ(Lerdelimumab)、レキサツムマブ(Lexatumumab)、リビビルマブ(Libivirumab)、リゲリズマブ(Ligelizumab)、リンツズマブ(Lintuzumab)、リリルマブ(Lirilumab)、ロデルシズマブ(Lodelcizumab)、ロルボツズマブメルタンシン(Lorvotuzumab mertansine)、ルカツムマブ(Lucatumumab)、ルミリキシマブ(Lumiliximab)、マパツムマブ(Mapatumumab)、マスリモマブ(Maslimomab)、マブリリムマブ(Mavrilimumab)、マツズマブ(Matuzumab)、メポリズマブ(Mepolizumab)、メテリムマブ(Metelimumab)、ミラツズマブ(Milatuzumab)、ミンレツモマブ(Minretumomab)、ミツモマブ(Mitumomab)、モガムリズマブ(Mogamulizumab)、モロリムマブ(Morolimumab)、モタビズマブ(Motavizumab)、モキセツモマブパスドトクス(Moxetumomab pasudotox)、ムロモナブ−CD3(Muromonab−CD3)、ナコロマブタフェナトクス(Nacolomab tafenatox)、ナミルマブ(Namilumab)、ナプツモマブエスタフェナトクス(Naptumomab estafenatox)、ナルナツマブ(Narnatumab)、ナタリズマブ(Natalizumab)、ネバクマブ(Nebacumab)、ネシツムマブ(Necitumumab)、ネレリモマブ(Nerelimomab)、ネスバクマブ(Nesvacumab)、ニモツズマブ(Nimotuzumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、ノフェツモマブメルペンタン(Nofetumomab merpentan)、オビヌツズマブ(Obinutuzumab)、オカラツズマブ(Ocaratuzumab)、オクレリズマブ(Ocrelizumab)、オデュリモマブ(Odulimomab)、オファツムマブ(Ofatumumab)、オララツマブ(Olaratumab)、オロキズマブ(Olokizumab)、オマリズマブ(Omalizumab)、オナルツズマブ(Onartuzumab)、オポルツズマブモナトクス(Oportuzumab monatox)、オレゴボマブ(Oregovomab)、オルチクマブ(Orticumab)、オテリキシズマブ(Otelixizumab)、オキセルマブ(Oxelumab)、オザネズマブ(Ozanezumab)、オゾラリズマブ(Ozoralizumab)、パギバキシマブ(Pagibaximab)、パリビズマブ(Palivizumab)、パニツムマブ(Panitumumab)、パノバクマブ(Panobacumab)、パルサツズマブ(Parsatuzumab)、パスコリズマブ(Pascolizumab)、パテクリズマブ(Pateclizumab)、パトリツマブ(Patritumab)、ペムツモマブ(Pemtumomab)、ペラキズマブ(Perakizumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、ペキセリズマブ(Pexelizumab)、ピジリズマブ(Pidilizumab)、ピナツズマブベドチン(Pinatuzumab vedotin)、ピンツモマブ(Pintumomab)、プラクルマブ(Placulumab)、ポラツズマブベドチン(Polatuzumab vedotin)、ポネズマブ(Ponezumab)、プリリキシマブ(Priliximab)、プリトキサキシマブ(Pritoxaximab)、プリツムマブ(Pritumumab)、PRO140、クイリズマブ(Quilizumab)、ラコツモマブ(Racotumomab)、ラドレツマブ(Radretumab)、ラフィビルマブ(Rafivirumab)、ラムシルマブ(Ramucirumab)、ラニビズマブ(Ranibizumab)、ラキシバクマブ(Raxibacumab)、レガビルマブ(Regavirumab)、レスリズマブ(Reslizumab)、リロツムマブ(Rilotumumab)、リツキシマブ(Rituximab)、ロバツムマブ(Robatumumab)、ロレデュマブ(Roledumab)、ロモソズマブ(Romosozumab)、ロンタリズマブ(Rontalizumab)、ロベリズマブ(Rovelizumab)、ルプリズマブ(Ruplizumab)、サマリズマブ(Samalizumab)、サリルマブ(Sarilumab)、サツモマブペンデチド(Satumomab pendetide)、セクキヌマブ(Secukinumab)、セリバンツマブ(Seribantumab)、セトキサキシマブ(Setoxaximab)、セビルマブ(Sevirumab)、シブロツズマブ(Sibro
tuzumab)、シファリムマブ(Sifalimumab)、シルツキシマブ(Siltuximab)、シムツズマブ(Simtuzumab)、シプリズマブ(Siplizumab)、シルクマブ(Sirukumab)、ソラネズマブ(Solanezumab)、ソリトマブ(Solitomab)、ソネプシズマブ(Sonepcizumab)、ソンツズマブ(Sontuzumab)、スタムルマブ(Stamulumab)、スレソマブ(Sulesomab)、スビズマブ(Suvizumab)、タバルマブ(Tabalumab)、タカツズマブテトラキセタン(Tacatuzumab tetraxetan)、タドシズマブ(Tadocizumab)、タリズマブ(Talizumab)、タネズマブ(Tanezumab)、タプリツモマブパプトクス(Taplitumomab paptox)、テフィバズマブ(Tefibazumab)、テリモマブアリトクス(Telimomab aritox)、テナツモマブ(Tenatumomab)、テネリキシマブ(Teneliximab)、テプリズマブ(Teplizumab)、テプロツムマブ(Teprotumumab)、TGN1412、チシリムマブ(Ticilimumab)(=トレメリムマブ(tremelimumab))、チルドラキズマブ(Tildrakizumab)、チガツズマブ(Tigatuzumab)、TNX−650、トシリズマブ(Tocilizumab)(=アツリズマブ(atlizumab))、トラリズマブ(Toralizumab)、トシツモマブ(Tositumomab)、トラロキヌマブ(Tralokinumab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、TRBS07、トレガリズマブ(Tregalizumab)、トレメリムマブ(Tremelimumab)、ツコツズマブセルモロイキン(Tucotuzumab celmoleukin)、ツビルマブ(Tuvirumab)、ウブリツキシマブ(Ublituximab)、ウレルマブ(Urelumab)、ウルトキサズマブ(Urtoxazumab)、ウステキヌマブ(Ustekinumab)、バパリキシマブ(Vapaliximab)、バテリズマブ(Vatelizumab)、ベドリズマブ(Vedolizumab)、ベルツズマブ(Veltuzumab)、ベパリモマブ(Vepalimomab)、ベセンクマブ(Vesencumab)、ビシリズマブ(Visilizumab)、ボロシキシマブ(Volociximab)、ボルセツズマブマフォドチン(Vorsetuzumab mafodotin)、ボツムマブ(Votumumab)、ザルツムマブ(Zalutumumab)、ザノリムマブ(Zanolimumab)、ザツキシマブ(Zatuximab)、ジラリムマブ(Ziralimumab)、又はゾリモマブアリトクス(Zolimomab aritox)であり得る。
【0088】
利益が向上する治療は、典型的には臓器移植である。臓器は、腎臓、肝臓、心臓、膵臓、肺、又は小腸から選択され得る。治療される被験体は、好ましくは、感作されるか又は高感作され得る。「感作された」とは、被験体がヒト主要組織適合性(MHC)抗原(ヒト白血球抗原(HLA)とも呼ばれる)に対する抗体を有するようになったことを意味する。抗HLA抗体は、同種感作B細胞に由来し、通常、輸血、以前の移植又は妊娠により、以前に感作された患者に存在する(Jordan et al.,2003)。
【0089】
移植レシピエントの候補が感作されているか否かは、任意の好適な方法によって決定され得る。レシピエントが感作されているか否かを判定するために、例えば、パネル反応性抗体(PRA)試験が用いられ得る。PRAスコア>30%は、典型的には、患者が「高い免疫学的リスク」又は「感作性」であることを意味すると解される。或いは、移植ドナー候補の血液の試料が、意図されたレシピエントのそれと混合される、交差適合試験が行なわれ得る。交差適合陽性は、レシピエントがドナー試料に反応する抗体を有することを意味し、レシピエントが感作され、移植が行われるべきでないことを示す。交差適合試験は、典型的には、移植直前の最終検査として行われる。
【0090】
ドナー候補のMHC抗原に対する、力価の高い抗体(即ち、ドナー特異的抗体(DSA))の存在は、急性抗体媒介性拒絶反応のリスクのため、まさに移植の禁忌である。要するに、ドナーMHC抗原への感作は、好適なドナーの同定を妨げる。交差適合試験陽性は、移植に対する明白な障害である。腎臓移植を待っている患者のおおよそ3分の1が感作されており、15%が高感作性であるため、このことが、移植を待っている患者の集積につながる。米国においては、2001〜2002年における腎移植待ちリストの平均時間は、パネル反応性抗体(PRA)スコアが0〜9%の患者については1329日、PRAが10〜79%の患者については1920日であり、PRAが80%以上の患者については3649日であった(臓器調達移植ネットワーク(OPTN)データベース、2011)。
【0091】
DSAの障害を克服するための、承認された1つの戦略は、DSAのレベルを、移植が検討され得るレベルに低下させるために、血漿交換又は免疫吸着を、多くの場合静脈内ガンマグロブリン(IVIg)又はリツキシマブ(例)と併用して適用することである(Jordan et al., 2004;Montgomery et al.,2000;Vo et al.,2008a;Vo et al.,2008b)。しかしながら、血漿交換、免疫吸着及びIVIg処置は、長期間にわたる反復治療を含むので、非効率的で、厳密な計画を必要とするという欠点がある。死亡したドナーからの臓器が利用可能になるときは、長引いた冷虚血時間が、腎臓移植における遅延移植機能及び同種移植片喪失の最も重要な危険因子の1つであるので、数時間以内に移植する必要がある(Ojo et al.,1997)。
【0092】
対照的に、本発明の方法は、移植レシピエント候補において、DSAの、迅速、一時的且つ安全な除去を可能にする。移植の直前に本発明のポリペプチドを投与することにより、高感作患者を効果的に脱感作することができ、それにより移植が可能となり、急性抗体媒介性拒絶反応が回避される。移植前の、ポリペプチドの単回投与により、ドナー特異的IgG抗体を有する数千人の患者の移植が可能になる。
【0093】
この実施形態の文脈において、本方法は、代替的に、被験体における臓器不全を治療するための方法であって、(a)被験体に、本発明のポリペプチドを投与すること、及び(b)続いて、被験体に置換臓器を移植することを含み:
− 投与される前記ポリペプチドの量は、被験体の血漿中に存在する実質的に全てのIgG分子を切断するのに十分である;及び
− 工程(a)及び(b)は、少なくとも2時間、また多くとも21日の時間間隔で隔てられる、方法と記述され得る。
【0094】
言い換えれば、この実施形態は、被験体における移植臓器の拒絶反応、特に急性抗体媒介性移植拒絶反応の拒絶反応、を予防するための方法であって、臓器移植の少なくとも2時間前、また多くとも21日前に、被験体に本発明のポリペプチドを投与することを含み、投与される前記ポリペプチドの量が、被験体の血漿中に存在する実質的に全てのIgG分子を切断するのに十分である、方法として記述され得る。本発明は、臓器不全を治療する、又は移植拒絶反応、特に急性抗体媒介性移植拒絶反応、を予防する方法等における、本発明のポリペプチドの使用も提供する。本発明は、かかる方法による、臓器不全の治療のため、又は移植拒絶反応の予防のための医薬の製造における、本発明のポリペプチドの使用も提供する。この実施形態においては、本発明の方法は、移植時又は移植の直前に実施される工程であって、患者中のT細胞及び/又はB細胞の誘導抑制を含む、工程を更に含み得る。前記誘導抑制は、典型的には、T細胞を死滅させるか又は抑圧する、有効量の薬剤を投与すること、及び/又はB細胞を死滅させるか又は抑圧する、有効量の薬剤を投与することを含み得る。T細胞を死滅させるか又は抑圧する薬剤としては、ムロモナブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)抗体及びリンパ球免疫グロブリン、抗胸腺細胞グロブリン製剤(ATGAM)が挙げられる。リツキシマブは、B細胞を死滅又は抑圧することが知られている。
【実施例】
【0095】
実施例
特に表示しない限り、用いた方法は、標準的な生化学及び分子生物学の技術である。好適な方法論の教科書の例としては、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(1989)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1995),John Wiley and Sons,Inc.が挙げられる。
【0096】
実施例1−ポリペプチドの設計、製造及び精製
成熟したIdeS分子を解析し、突然変異に好適な領域を同定した。いくつかの場合においては、インシリコ評価を用いて、突然変異で起こり得る結果を評価した。各ポリペプチドの配列を決定し、各ポリペプチドをコードするcDNAを、導入された突然変異の数に応じて、出発配列の部位特異的突然変異又は合成のいずれかによって、GeneCust,Luxembourgで生成した。cDNAを配列決定し、短いグリシンリンカー(3×Gly)によってC末端に連結したC末端6×Hisタグとインフレームで、pET9a発現ベクター(Novagene)に移した。細菌の発現を向上させるために、N末端メチオニンを付加した。E.コリBL21(DE3)(Stratagene)を、プラスミドで形質転換(熱ショック)して、30μg/mlのカナマイシンを含有するLBアガロースプレート上に播種した。単一のコロニーを拾い、一晩の培養(3mlのLB培地)を37℃、250rpmで開始した。翌日、グリセロールストックを調製し、30μg/mlのカナマイシン及び消泡剤を添加した10mlのTB培地に終夜培養液を植菌し、OD0.6〜0.8(37℃、300rpm)まで増殖させた。この時点で、IPTG(1mM)を加え、1時間培養を継続した後、遠心分離により細菌を回収した。ペレットをPBS中で洗浄し、−20℃で凍結させた。細菌溶解のための凍結融解プロトコルを用い(各1ml PBSにおいて3回の凍結/融解サイクル)、タンパク質を、Ni−NTAを予め充填したスピンカラム(Pierce)を用いて精製した。精製後、溶出したタンパク質を、緩衝液交換(MWCO 9K Millipore cfg装置中に3倍容量のPBS)前に、10mM DTTで活性化した。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)無染色12%Mini−PROTEAN(登録商標)TGX(商標)プレキャストゲル(Biorad)SDS−PAGEを用いて、各タンパク質の純度及び安定性を評価した。
【0097】
以下の表には、試験した各ポリペプチドについて行った変更を、更なるN末端メチオニン及びhisタグを含まない、成熟IdeSと比較してまとめている。従って、本明細書に記載される実験において用いられる各ポリペプチドの配列は、典型的には、該表に示される通りの配列番号の配列と、追加のN末端メチオニン及び短いグリシンリンカーによってC末端に連結したhisタグを含む。
【0098】
【表6】
【0099】
コントロールとして、改造型IdeSを、上記と同じ方法論を用いて製造した。この改造型IdeSは、配列番号2の配列と、追加のN末端メチオニン及び短いグリシンリンカーによりC末端に連結されたhisタグを含む。この改造型IdeSを、本明細書においてpCART124と呼ぶ場合がある。pCART124の配列を以下に示す:
【0100】
【化2】
【0101】
更なるコントロールとして用いるために、タグを欠いているIdeSも、自動化された多段階クロマトグラフィー精製を用いて、製造管理及び品質管理に関する基準(GMP standard)と無関係に製造した。このポリペプチドを、本明細書においてBX1001865と言う。
【0102】
試験したポリペプチド並びにpCART124のそれぞれを製造するために用いたcDNA配列を以下に示す。各cDNA配列は、3’末端にN末端メチオニン(ATG)のコドン、及び5’末端の停止コドン(TAA)の前の、グリシンリンカー及びヒスチジンタグのコドンを含む。
【0103】
【化3-1】
【0104】
【化3-2】
【0105】
【化3-3】
【0106】
【化3-4】
【0107】
実施例2−効力の評価(IgG切断の有効性)
ELISA
ELISAベースの効力アッセイを用いて、酵素活性を測定した。ELISAの原理は、マルチタイタープレートのウェルを抗体標的(BSA)でコーティングし、次いで種々の濃度の(試験又はコントロールの)IgGシステインプロテアーゼポリペプチドを、ウェル中の抗BSA抗体とインキュベーションした後、検出抗体を用いて、ウェルに結合した抗BSA抗体の量を検出することである。ある特定の、ウェル中のIgGシステインプロテアーゼポリペプチドの濃度が高いほど、ウェルに結合する無傷の抗BSAポリペプチドはより少なく、もたらされるシグナルはより弱い。同様に、同じ濃度で存在する場合、より強力なIgGシステインプロテアーゼポリペプチドは、より効力が弱いIgGシステインプロテアーゼポリペプチドよりも、弱いシグナルをもたらす。
【0108】
基準IdeS、BX1001865を、1:2の段階希釈で、320nMから0.16nMまでの滴定シリーズとして調製し、アッセイ用の標準較正曲線を描くことを可能にした。複数の既知濃度についてのアッセイで得られた、試験した各ポリペプチドの結果を較正曲線の直線部分と比較して、同じ効力を達成する基準IdeSの濃度を決定した。各ポリペプチドの既知の濃度を、曲線から決定した、基準IdeSの等価濃度で割ることにより、基準IdeS BX1001865と比較した効力の倍数変化であるスコアがもたらされる。例えば、5nM試験ポリペプチドが較正曲線上の10nM基準IdeSに等しい結果を出す場合、試験ポリペプチドは、基準IdeS BX1001865の2倍超の効力を有する。基準IdeS BX1001865に対する効力の倍数変化の平均スコアを、試験した各ポリペプチドについて、種々の濃度で得られた全スコア(それらが較正曲線の直線部分内にあることを条件とする)から算出した。次いで、プレート間の比較を可能にするために、この平均スコアを、各プレートに含めたpCART124の基準IdeSについて得た平均スコアと比較した。pCART124についての平均スコアを、試験ポリペプチドについての平均スコアで割って「pCART124比」を編み出した。これは事実上、各ポリペプチドについての効力の、IdeSに対する倍数変化である。このpCART124比は、次いで、棒グラフに視覚化し得る。
【0109】
実験プロトコルの簡単な要旨:マルチタイタープレートのウェルを、BSA(10μg/ml)で一晩コーティングし、次いでPBS−Tで洗浄し、PBS中2%魚皮ゼラチンで1時間ブロッキングした。IdeS BX1001865ポリペプチドは、0.1%ゼラチンを含むPBS中、1:2の段階希釈で、320nMから0.16nMまでの滴定シリーズとして調製した。次いで、試験ポリペプチド及びpCART124コントロールを、0.1%ゼラチンを含むPBS中、それぞれ15、7.5、3.75及び1.9nMで調製した。50μlのポリペプチド試料を、50μlのウサギ抗BSA(ACRIS、#R1048P、10nM)を基質として含む各ウェルに加えた。プレートを室温で1時間インキュベーションし、次いでPBS−Tで洗浄した。特異的なビオチン化抗ウサギFcヤギ抗体(30,000×希釈)を検出抗体として加え、30分間インキュベーションした。プレートを洗浄し、40000倍に希釈したストレプトアビジン(SA)−セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP;Pierce)を加え、30分間インキュベーションした。プレートを洗浄し、HRP用の発色基質としてTMB One Componentを用いて、7分間発色させ、0.5M H
2SO
4で停止させた。λ=450nmで吸光度(OD)を測定した。各試験ポリペプチドについて、及びpCART124について、BX1001865と比較した効力の倍数変化についての平均スコアを決定した。次いで、各試験ポリペプチドについての「pCART124比」を、上記の通り算出した。
【0110】
pCART152、183、184、185、186、187、189及び190についての「pCART124比」の結果を、pCART124についての結果と共に、
図1に示す。本明細書に示される本発明の例示的なポリペプチドは全て、IdeSコントロール(pCART124)と比べて、効力において少なくとも1.5倍の向上を達成する。pCART152、183、184、188、189及び190は全て、はるかに高い効力、pCART189についての、コントロールよりも8.0倍も高い向上でさえ、達成する。これらの6つの文字列(text)ポリペプチドの各々は、N130R/K改変を含む。別に、pCART125ポリペプチドを試験した。IdeSの効力に匹敵する効力を達成した(データ示さず)。
【0111】
IgG切断パターンの可視化
種々の基質中の、各ポリペプチドの滴定シリーズによって生成された切断産物を、SDS−PAGEで可視化することにより、種々のpCARTポリペプチドの有効性を更に評価した。純粋IgG基質中での有効性を試験するために、アダリムマブ(Humira)をIgG1用に用い、デノスマブ(XGEVA)をIgG2用に用いた。より複雑な生理学的環境中での有効性を試験するために、ポリペプチドをIVIg(Octagam)中(in in)でもいくつか滴定した。これにより、中和作用を有する抗IdeS抗体がポリペプチド活性に与える影響を評価できる。各ポリペプチドの切断パターンを、同一基質中のIdeS(BX1001865及びpCART124)の切断パターンと比較する。プロトコルは以下の通りである:
【0112】
純粋IgGの試験のために、各試験ポリペプチド又はコントロールを、支持タンパク質として0.05%BSAを含むPBS中、1:3の段階滴定シリーズで、6.7μg/mlから0.04ng/mlまで希釈した。各濃度の25μlをマルチタイタープレートに移し、切断反応を、Humira又はXGEVA(2mg/ml)のいずれか25μlを加えることによって開始した。従って、各出発濃度のポリペプチドは、ウェル中で1:2に希釈され、3.3μg/ml〜0.02ng/mlの滴定シリーズがもたらされる。
【0113】
IVIg試験のために、各試験ポリペプチド又はコントロールを、支持タンパク質として0.05%BSAを含むPBS中、1:2の段階滴定シリーズで、30μg/mlから0.015ng/mlまで希釈した。各濃度の25μlをマルチタイタープレートに移し、25μlの10mg/ml IVIgを加えることによって切断反応を開始させた。従って、各出発濃度のポリペプチドは、ウェル中で1:2に希釈され、15μg/ml〜0.0075ng/mlの滴定シリーズがもたらされる。
【0114】
プレートを、37℃で1.5時間インキュベーションした。試料を、2×SDSローディング緩衝液で1:4に混合し、92℃で5分間加熱した。10μlをポリアクリルアミドゲル(15ウェル4−20%Mini−PROTEAN(登録商標)TGX(商標)プレキャストゲル(Biorad))にロードし、これを、標準的なプロトコルに従って読み取った。
【0115】
図2は、pCART183、184、185、186、187、189及び190について、IgG1(アダリムマブ)基質を用いて生成された切断パターンを、IdeS(pCART124)と比較して示す。ポリペプチド濃度は、1:3の段階希釈系列で3.33μg/ml(レーン1)から0.02ng/ml(レーン12)までである。無傷のアダリムマブ(酵素なし)を、左に可視化する(レーンC)。右側の矢印は、IgG由来の種々の切断産物を示す。矢印1:無傷IgG;矢印2:scIgG(1回切断IgG−第1のIgG重鎖の切断の結果);矢印3:F(ab’)
2断片(第2のIgG重鎖の切断の結果)。縦線を付記し、無傷IgGがscIgGになる第1のIgG重鎖切断(レーン6と7との間)、及びscIgGがF(ab’)
2断片になる第2のIgG重鎖切断(レーン2と3との間)での比較を容易にした。
【0116】
特に、pCART183、184、188、189及び190はすべて、同じ濃度でpCART124と比較して、第2の重鎖切断の有効性の増大を示し、より濃いF(ab’)
2(矢印3)バンド及びより薄いscIgGバンド(矢印2)をもたらす。差は0.12μg/mlの濃度(レーン4)から見られるが、0.37μg/ml(レーン3)では更に顕著である。従って、
図2は、全体で、130位における正電荷アミノ酸への変化(N130R/K)が、第2のIgG重鎖の切断の有効性を増大させることを示す(pCART183、184、188、189及び190)。
【0117】
図3は、pCART152及び209についての、IgG1基質を用いて生成された切断パターンを、IdeSコントロール(pCART124及びBX1001865)の両方と比較して示す。酵素濃度は、1:3の段階希釈系列で3.33μg/ml(レーン1)から0.02ng/ml(レーン(line)12)である。右側の矢印は、IgG由来の種々の切断産物を示す。矢印1:無傷IgG;矢印2:scIgG(1回切断IgG−第1のIgG重鎖切断の結果);矢印3:F(ab’)
2断片(第2のIgG重鎖切断の結果);矢印4:Fc断片;(
*)は、滴定緩衝液中の担体タンパク質(BSA)を示す。縦線を付記し、無傷IgGがscIgGになる第1のIgG重鎖切断(レーン6と7との間)、及びscIgGがF(ab’)
2断片になる第2のIgG重鎖切断(レーン2と3との間)での比較を容易にした。
【0118】
pCART152及びpCART209は、両方、第2の重鎖切断の有効性増大を示し、同じ濃度で、pCART124及びBX1001865(矢印3及び2)と比較して、より濃いF(ab’)
2バンド(矢印3)及び残存するより薄いscIgG(矢印2)をもたらす。この差は酵素濃度41ng/ml(レーン5)から見られるが、0.12μg/ml及び0.37μg/ml(レーン4及びレーン3)では更に顕著である。pCART152及びpCART209は両方、原型IdeS(BX1001865及びpCART124)の約3倍の、第2の重鎖切断の有効性を示す。即ち、0.37μg/mlのpCART152及びpCART209(レーン3)は、1.11μg/mlのBX100186及びpCART124(レーン2)の結果と同様の結果をもたらす。
【0119】
pCART152及びpCART209はまた、第1のIgG重鎖の切断において効力の向上を示し、原型のIdeS(BX1001865及びpCART124)と比較して、同濃度で、より濃いscIgGのバンド(矢印2)及びより薄いIgGバンド(矢印1)を生じる。pCART152については、これは1.5ng/mlの酵素(レーン8)で見られ得るが、4.6ng/ml(レーン7)では更に明らかである。pCART209は、第一の重鎖切断についても、原型IdeS(BX1001865及びpCART124)の約3倍の切断有効性の増大を示す(すなわち、4.6ng/ml(レーン7)のpCART209は、14ng/ml(レーン6)のBX1001865及びpCART124と同様の結果をもたらす)。
【0120】
従って、
図3は、130位における単一アミノ酸置換(pCART152におけるN130K)は、主として第2のIgG1重鎖切断の有効性を増大させるが、第1のIgG1重鎖もある程度増大させ、NQTN配列の欠失(pCART209)が、第1及び第2のIgG1重鎖の両方に対する、切断の有効性を3倍向上させることを示す。
【0121】
図4は、pCART152及びpCART209について、IgG2基質を用いて生成した切断パターンを、IdeSコントロール(pCART124及びBX1001865)の両方と比較して示す。酵素濃度は、1:3の段階希釈系列で3.33μg/ml(レーン1)から0.02ng/ml(レーン(line)12)までである。右側の矢印は、IgG由来の種々の切断産物を示す。矢印1:無傷IgG;矢印2:scIgG(1回切断IgG−第1のIgG重鎖切断の結果);矢印3:F(ab’)
2断片(第2のIgG重鎖切断の結果);矢印4:Fc断片;(
*)は、滴定緩衝液中の担体タンパク質(BSA)を示す。縦線を付記し、無傷IgGがscIgGになる、第1のIgG重鎖の切断(レーン6と7との間)、及びscIgGがF(ab’)
2断片になる、第2のIgG重鎖の切断(レーン2と3との間)での比較を容易にした。
【0122】
pCART152及びpCART209は両方とも、同じ濃度のpCART124及びBX1001865と比較して(矢印3及び2)、第2の重鎖切断の有効性増大を示し、より濃いF(ab’)
2(矢印3)バンド及びより薄いscIgG(矢印2)をもたらす。この差異は、0.37μg/ml(レーン3)の酵素濃度から見られるが、1.11μg/ml(レーン2)で更に明らかである。
【0123】
pCART209についてのレーン6(酵素濃度14ng/ml)における結果は、BX1001865及びpCART124と比較して、pCART209も第1のIgG重鎖の切断においてより有効であることを示す。これは、殆どのタンパク質がscIgGに変換されるにつれて、より薄い無傷IgGバンド(矢印1)及びより濃いscIgGバンド(矢印2)をもたらす。
【0124】
従って、
図4は、130位での単一のアミノ酸置換(pCART152のN130K)が、主として第2のIgG2重鎖切断の有効性を増大させ、NQTN配列の欠失(pCART209)は、第1及び第2の両方のIgG2重鎖切断の有効性を向上させることを示す。
【0125】
全体として、試験ポリペプチドは、一般に、IgG1及びIgG2を切断する際に、IdeSよりも有効であることが理解され得る。ELISAの結果と整合して、pCART152、183、184、188、189及び190は特に有効であるようである。これらのポリペプチドについての有効性の増大は、主に第二のIgG重鎖の切断に関連するようである。
【0126】
131位のGから正電荷アミノ酸への変化は、N130R/K置換と同様の結果をもたらすと予想される。130位及び131位は、配列番号1の126位〜136位にわたるベータヘアピン構造のループに位置する。本明細書で得られた結果に基づいて、130位及び131位のいずれか又は両方における正電荷アミノ酸の変化は、IgGシステインプロテアーゼ活性を増加させると予想される。
【0127】
実施例3−免疫原性の評価
競合的ADAアッセイ
このアッセイは、抗IdeS抗体への結合についての、試験ポリペプチドとIdeSとの間の競合に基づいている。試験酵素とIVIgとのプレインキュベーションにより、試験したpCART酵素に対する抗IdeS抗体の結合が可能になる。その後、IdeSでコーティングしたプレートに、IVIg−酵素混合物を加え、試験ポリペプチドに結合していないすべての抗IdeS抗体を、プレート上のIdeSに、代わりに結合させる。結合のためのインキュベーションは、すべて、IgG切断を阻害するために、2mMヨード酢酸(IHAc)の存在下で、及び高塩濃度で行い、高親和性結合のみが生じるようにした。洗浄後、検出剤として、特異的なビオチン化抗ヒトF(ab’)
2ヤギF(ab’)
2断片を使用する。IVIg中の抗IdeS抗体による試験ポリペプチドの認識が乏しいと、IVIg中の抗IdeS抗体のプレートへの高結合をもたらし、強いシグナルをもたらす。IVIg中の抗IdeS抗体による試験ポリペプチドの良好な認識は、反対の結果をもたらす。詳細なプロトコルは以下の通りである。
【0128】
マルチタイタープレート上に、基準IdeS(BX1001865)を一晩コーティングし(5μg/ml)、次いでPBS−Tで洗浄し、2mM IHAc及び1M NaClを添加したPBS中2%BSAで1時間ブロッキングした。0.1%BSA、2mM IHAc及び1M NaClを添加したPBS中の試験ポリペプチド及び20μg/ml IVIgを段階的に希釈して、混合用プレートを調製した。混合用プレートを、シェーカー上で、室温で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、ブロッキング溶液を、IdeSでコーティングしたプレートから捨て、混合用プレートからの各混合物50μlを、コーティングしたプレートのウェルに移した。シェーカー上で、室温で1時間インキュベーションした後、プレートをPBS−Tで洗浄し、検出剤の、特異的なビオチン化抗ヒトF(ab’)
2ヤギF(ab’)
2断片(20000倍希釈)を加えた。30分間インキュベーションした後、プレートを洗浄し、40000倍に希釈したSA−HRP(Pierce)を加え、30分間インキュベーションした。プレートを洗浄し、HRPの発色基質としてTMB One Componentを用いて、7分間発色させ、0.5M H
2SO
4で停止させた。吸光度(OD)を、λ=450nmで測定した。棒グラフにおいて視覚化するために、結果を逆数にし(1/OD値)、pCART124と比較した比(1/(試験ポリペプチド/pCART124))として提示した。
【0129】
pCART183、184、185、186、187、189及び190についての結果を
図5に示す。pCART125についての結果を
図6に示す。試験したポリペプチドは全て、IdeSと比較して、抗IdeS抗体の幾分かの認識低下(典型的には少なくとも10%)を示す。特に、pCART185、186及び187は、認識においてより大幅な低下(IdeSと比較して約40%)を示す。pCART125は、約60%の低下を示す。
【0130】
まとめ
試験したポリペプチドはすべて、IdeSと比較して、効力の増大及び/又は免疫原性の低下を示す。
【0131】
実施例4−効力の評価
効力ELISA
ヒトIgG1及びIgG2の切断能力を扱うために、2つのELISAベースの効力アッセイを用意した。一方のアッセイはIgG1の切断を、そして他方はIgG2の切断を測定する。試験した種々のIgGシステインプロテアーゼポリペプチドについて、EC50(半最大有効濃度)値を算出した。アッセイの原理は、Fab領域に対し特異性を有する、ヒトIgG抗体に対するF(ab)
2断片で、マルチタイタープレートのウェルをコーティングすることであった。次いで、ウェル中で、ヒトIgG1抗体(Humira)又はヒトIgG2抗体(XGEVA)と共に、滴定濃度のIgGシステインプロテアーゼポリペプチド(試験又はコントロール)をインキュベーションした。ウェルに結合した無傷又は一回切断のヒトIgG(Humira又はXGEVA)の量を、抗体のFc部分に対する特異性を有する、ヒトIgGに対する検出抗体を用いて測定した。ある特定の、ウェル中のIgGシステインプロテアーゼポリペプチドの濃度が高いほど、ウェルに結合する無傷ヒトIgG抗体が少なく、より弱いシグナルがもたらされる。同様に、より強力なIgGシステインプロテアーゼポリペプチドは、同じ濃度で存在する場合、より効力が弱いIgGシステインプロテアーゼポリペプチドよりも弱いシグナルをもたらす。IgG1(humira)及びIgG2(XGEVA)アッセイの両方において、IdeSコントロール(pCART124)及び全ての試験したIgGシステインプロテアーゼポリペプチドについて、滴定用量応答曲線を作成した。IgG分子の第2の切断において、その最大効果の50%が観察されるポリペプチドの濃度、即ちIgGの半数が完全に切断されている濃度を表すEC50値も、試験した各変異体について算出した。EC50値がより低いと、より有効なIgGシステインプロテアーゼを表す。IgGのFc部分が依然として存在し、Fc特異的検出抗体によって検出し得るので、IgGからscIgGへの、第1のIgG重鎖の切断は、このアッセイにおいては明確でない(
図13)。
【0132】
実験プロトコルの簡単な要約:特異的な抗ヒトFabヤギF(ab)
2断片(0.5μg/ml)(Jackson#109−006−097)を用いて、マルチタイタープレートのウェルを、一晩(+2〜8℃)コーティングし、次いで、0.05%Tween20添加PBS(PBS−T)で洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水−Tween(PBS−T)中0.45%フィッシュゼラチン(ブロック緩衝液)中で、室温で45〜120分間ブロッキングした。コントロールのIdeS(pCART124)及び試験するIgGシステインプロテアーゼポリペプチドを、開始濃度80μg/mlで、ブロック緩衝液中、1:4段階希釈で滴定シリーズとして調製した。等量(25μl)の、0.5μg/mlの濃度のヒトIgG1(Humira)及び滴定量IgGシステインプロテアーゼポリペプチドをウェルに加え、37℃の、制御された温度環境下で震盪しながら2時間インキュベーションし、次いでPBS−Tで洗浄した。特異的なビオチン化抗ヒトIgG Fcマウス抗体(m−a−hIgG Bio II、Lot:C0013−ZC43C、Southern Biotech)(600ng/ml)をStrep−sulfo(200ng/ml)と混合し、マルチタイタープレートに加えた。プレートをアルミニウムテープで密封し、振盪しながら、+25℃で1時間インキュベーションした。次いで、プレートをPBS−T中で洗浄し、150μlの2倍希釈Read buffer T(MSD read buffer T Cat.no.R92TC−2)を各ウェルに加えた。プレートを直ちにプレートリーダー、MSD(Meso Scale Discovery)QuickPlex SQ 120 Model 1300で読み取った。
【0133】
ゲルで可視化された有効性アッセイ:IgG1(Humira)、IgG2(XGEVA)の切断並びにヒトIgGのプールのIVIg(Octagam)の切断について、実施例2に記載の通りに行ったアッセイ。
【0134】
結果
効力ELISA
効力アッセイにおいて、試験したIgGシステインプロテアーゼについて得られた用量−応答曲線を
図7(IgG1切断)及び
図8(IgG2切断)に示す。本明細書で試験した、本発明の例示的なポリペプチドのpCART125、213、214は、IdeSコントロールのpCART124と比較して、EC50値を減少させて(表1)IgG1(
図7)及びIgG2(
図8)の、両方の重鎖を切断する効力を向上させ、pCART125については1.5、pCART214については2.2、及びpCART213については3.0の、切断における倍数的な効力向上であった。IgG2の切断(
図8)に関しては、pCART124(IdeS)と比較して、pCART125については1.6、pCART214については2.1、及びpCART213については3.5の倍数的な向上であった。
【0135】
ゲルで可視化した有効性アッセイ
ゲルで可視化した、IgG1(
図9A)及びIgG2(
図9B)の切断は、第1及び第2の重鎖切断を明確に示す(図中の縦線は、BX1001865及びpCART124の切断による第1及び第2のIgG重鎖切断を示す)。図中の
*は、おおよそのEC50値、即ち、IgGの50%が1回切断(scIgG)され、50%が完全に切断(F(ab’)
2)される濃度を示す。ゲルからのデータを表2(IgG1切断)及び表3(IgG2切断)にまとめる。IgG1(Humira)の第1の重鎖切断に必要なIgGシステインプロテアーゼの濃度は、BX1001865及びpCART124(IdeSコントロール)、pCART125,213及び214について1.5ng/mlで、試験したすべてのポリペプチドについて、ほぼ同じであった(
図9A)。IgG1の第2の重鎖切断に関しては、IdeS、pCART125及び214は、ゲル上で支配的なF(ab’)2バンドを得るのに約120ng/ml必要であり、pCART213については、約1回滴定ステップが少ない40ng/mlである(
図9A)。
図9Bにおいて可視化したIgG2(XGEVA)切断により、試験したすべてのポリペプチド、BX1001865、pCART124、125、213及び214が、およそ同じ有効性を示し、第1のIgG重鎖を切断してscIgG2を生成するのに14ng/ml必要であり、及びF(ab’)
2断片を生成するためには約370ng/mlであることが示される(表3)。
もう1式の有効性実験において、IdeSコントロールとしてBX1001865及びpCART124を用いて、Humira(IgG1)及びXGEVA(IgG2)に対してpCART228を試験した(
図10A及び10B、表4)。これらの実験において、
図9及び表3と比較して、コントロール(BX1001865及びpCART124)については、おおよそ1滴定ステップ高い濃度が必要であり、試料の取扱い及び試料の滴定希釈における実験室の精度に起因して、実験間の小さな差異が観察され得る。信頼できる比較を得るためには、pCART228を、同じ実験におけるIdeSコントロールの切断と比較しなければならない。IgG1及びIgG2の切断の両方において、非常に類似したIgG切断パターンが、pCART228及びIdeSコントロールについて見られる(
図10A及びB)が、pCART228による、IgG1の第2のIgG重鎖切断に、120ng/ml必要であり、IdeSについての370ng/mlと比較して(表4)、およそ3倍(1滴定ステップ)効率的である(
図10A)。
【0136】
IgGシステインプロテアーゼポリペプチドpCART125、213及び214も、IdeS(BX1001865及びpCART124)をコントロールとして用いて、ヒトIgGプール、IVIg(Octagam)中で滴定した(
図11)。試験されたポリペプチドは、全て、第1のIgG重鎖切断のために1.5μg/mlを、及び第2のIgG重鎖切断のために約6μg/mlを必要とした(
図11及び表5)。
図11における、30μg/mlからの1:2希釈物(
図12)を用いたより広い滴定スペクトルにおいて、試験した変異体と比較して、pCART228によるIVIgの切断を解析した。IdeS(BX1001865及びpCART124)並びにpCART228については(
図12)、scIgG生成のための濃度が1.9μg/mlで、F(ab’)
2断片を得るためには7.5μg/mlであり、同様の有効性が見られる(表6)(これらは、pCART125,213及び214についての滴定ステップと同じ滴定ステップを表す(
図11及び表5))。
【0137】
実施例4の図の要旨
図7 種々のIgGシステインプロテアーゼポリペプチドによるIgG1(Humira)切断についての滴定曲線。
【0138】
図8 種々のIgGシステインプロテアーゼポリペプチドによるIgG2(XGEVA)切断についての滴定曲線。
【0139】
図9 BX1001865及びpCART124(原型IdeS)を、同じ切断実験におけるコントロールとして伴う、pCART125、213及び214の滴定量(3300ng/mlから1:3希釈)を用いたSDS−PAGEにより解析したIgG切断。A:humira(IgG1)の切断及びB:XGEVA(IgG2)の切断。縦線は、第1及び第2のIgG重鎖切断(切断産物の量が未切断産物よりも支配的である)をもたらすのに必要なIdeS(BX1001865及びpCART124)濃度を示す。図中の
*は、この実験におけるおおよそのEC50値を表す。
【0140】
図10 BX1001865及びpCART124(原型IdeS)を、同じ切断実験におけるコントロールとして伴う、pCART228の滴定量(3300ng/mlから1:3希釈)を用いたSDS−PAGEにより解析したIgG切断。A:humira(IgG1)の切断及びB:XGEVA(IgG2)の切断。縦線は、第1及び第2のIgG重鎖切断(切断産物の量が未切断産物よりも支配的である)をもたらすのに必要なIdeS(BX1001865及びpCART124)濃度を示す。
【0141】
図11 試験したIgGシステインプロテアーゼポリペプチドの滴定(6μg/mlから1:2希釈)量及び同じ切断実験におけるコントロールとしてIdeS(BX1001865及びpCART124)を用いたSDS−PAGEにより解析したIVIg切断。
【0142】
図12 IdeS(BX1001865及びpCART124)を、同じ切断実験のコントロールとして伴う、pCART228の滴定量(30μg/mlからの1:2希釈)を用いたSDS−PAGEにより解析したIVIg切断。
【0143】
図13 本発明のポリペプチドによる免疫グロブリン切断の模式図。IgGの酵素的切断は2段階で行われる。第1に、無傷IgGの1つの重鎖が切断され、1回切断されたIgG(scIgG)が生成される。第2に、次のIgG重鎖が切断され、Fc部分が遊離する。scIgG分子においては、Fc部分は依然としてFab部分に結合しており、効力ELISAにおける検出抗体は、IgG分子のFc部分を認識しているので、該アッセイでは、完全なIgGとscIgGは区別されない。
【0144】
考察及び結論
効力ELISAにおけるpCART125、213、及び214についてのより低いEC50値は、pCART124(原型IdeS)と比較して、これらのポリペプチドの、IgG1及びIgG2の両方の、第2の重鎖切断(scIgGからF(ab’)
2へ)の効力が向上することを示す。ゲルでのIgG切断を可視化することにより、Fc特異的検出抗体を用いた効力ELISAにおいては測定できない、(IgGからscIgGへの)第1の重鎖の切断が示される。病原性IgG分子を不能化することが主な焦点である臨床状況において重要な、Fcにより媒介されるIgGの作用は、大抵、1回切断分子において無くなっている(データ示さず)。pCART228は、IgG1及びIgG2の切断の両方において、原型IdeSと同様に有効である。これは、IdeSと同じ分子サイズで、望ましい低さの、IdeS特異的抗体の認識を伴うIgGシステインプロテアーゼが必要な場合に重要である。IVIgは、おおよそ65〜70%のIgG1、35〜30%のIgG2及び約1%を占めるIgG3/IgG4を含有するヒトIgGのプールである。ヒトIVIgはまた、IgGドナーの、以前のS.ピオゲネスへの曝露に由来する抗IdeS抗体を自然に含有する。ヒトIVIg中の抗IdeS抗体は、それらのIdeSに対する結合が、IdeSのIgGプロテアーゼ活性を低下させ得るか又は完全に無くし得るという点で、中和作用がある。IVIg切断の結果は、抗IdeS中和抗体の存在により、(IgG1及びIgG2が優先されるが、)異なるIgGサブクラスすべてが、全般的に切断されることを示す。一般に、試験した全てのIgGシステインプロテアーゼポリペプチドは、IgG1と比較して、IgG2切断においてより有効性が低い。
【0145】
【表7】
【0146】
【表8】
【0147】
【表9】
【0148】
【表10】
【0149】
【表11】
【0150】
【表12】
【0151】
実施例5−ADA ELISA(ADA−IdeS結合部位に対する競合ELISA)。
ELISA,Meso Scale Discovery(MSD)ベースのアッセイを用いて、IdeSに対する抗薬物抗体(ADA)結合部位を、本発明の「ADA」改変ポリペプチド(pCART125、213及び214)について評価した。ELISAの原理は、原型のhisタグ付きIdeS(pCART124)で、マルチタイタープレートのウェルをコーティングすることであった。ほとんどのヒトは、以前のA群ストレプトコッカスの感染に起因して、血清中に、IdeSに対する抗体を有する。本明細書では、2つの異なるヒト臨床血清プールを、ADA検出についての基準として用いた。第1のプールは、ヒト血清プール1191807と呼ばれる、100個体からの正常なヒト血清であり、第2のプールは、第II相プール−2と呼ばれる、第II相研究13−HMedIdeS−02における患者由来の血清プールである。これらの患者には、IdeSが、0.24〜0.5mg/kg体重の用量範囲で、1回投与され、それにより血清中の抗IdeS ADAレベルをおおよそ50倍に誘導した。
【0152】
この競合的ADA ELISAの要点は、IdeS(pCART124)が、マイクロタイタープレートの底部にコーティングされていることである。ヒト血清プールを、ADA認識に関して試験する本発明のポリペプチドか、又はポジティブコントロールIdeS(pCART124)と、本発明のポリペプチドが100倍過剰の、1:100のモル比で、共にプレインキュベーションする。原型IdeSへの、おおよそ80%の結合をもたらすための、プレインキュベーション用に用いた2つの異なる血清プールの濃度を、標準曲線から推定する。試験したポリペプチドにおいて、ADA結合部位が無効化した場合、これらの変異体は、ウェルの底部において、ADAの結合で、原型IdeSに対して競合することができない、即ち、弱いシグナルにより、原型IdeS(pCART124)に対する、高いADA類似性が実証され、強いシグナルにより、原型IdeSに対する、低いADA類似性が実証される。
【0153】
標準曲線の直線部分において、おおよそ80%の結合を達成する両基準の濃度は、約200ngADA(IdeS)/mlであった。競合的プレインキュベーションにおいては、両基準は別々にこの濃度で用い、本発明のポリペプチドの濃度は、ADA濃度の100倍の濃度(150kDaの抗体とおおよそ35kDaのIdeSとの間のモル重量差、4.2倍を加味し、200ng/mlの100倍を4.2で割り、試験したポリペプチドおおよそ5μg/mlを得る)で用いた。200ng/mlのADAを含有する基準血清及びIdeS(pCART124)又は本発明のポリペプチドを、室温(RT)で1時間、共にプレインキュベーションする。最大ADA結合についてのコントロールとして、同濃度の基準を、IdeS(pCART124)や試験したポリペプチドなしでプレインキュベーションし、最大結合の80%の値として用いた。標準曲線の最低値を、競合の算出範囲に関しての下限値として用いた。IdeS(pCART124)又は試験したポリペプチドとプレインキュベーションした基準についての平均スコアを、80%基準結合値で引き、下限値で引いた80%基準結合値で割り、競合値%を得た。%競合が最低の試験したポリペプチド(polypepties)は、原型IdeS(pCART124)と比較して、ほとんどのADA結合エピトープが無効化したことを意味する。
【0154】
実験プロトコルの簡単な要約:マルチタイタープレートのウェルを、一晩、pCART124(1μg/ml)でコーティングし、PBS−Tで3回洗浄し、PBS中0.45%の魚皮ゼラチン及び2mMのシステインプロテアーゼ阻害剤、ヨード酢酸(IHAc)で1時間ブロッキングした。
【0155】
両基準を、PBS中0.45%魚皮ゼラチン、2mM IHAcで、1:3の段階希釈で、5000ngADA(IdeS)/ml〜2.5ngADA(IdeS)/mlの滴定シリーズとして調製し、標準曲線の直線部分並びに最大部分及び最小部分の、両方での測定により、アッセイの標準較正曲線の作成を可能にした。プレートのブロッキングと同時に、該基準及びIdeS(pCART124)又は試験したポリペプチド、即ち、200ng/ml ADA(基準)及び5μg/ml IdeS(pCART124)又は試験するポリペプチドを用いた、競合工程における試料を、室温で1時間、共にプレインキュベーションした。
【0156】
pCART124でコーティングしたプレートを3回洗浄し、50μlのプレインキュベーションした試料又は50μlの基準を、マルチタイタープレートの各ウェルに加えた。
【0157】
プレートを室温で2時間インキュベーションし、次いでPBS−Tで洗浄した。ブロッキング緩衝液中に、検出抗体として、特異的な抗ヒトF(ab)ヤギF(ab)
2断片−bio(Jackson#109−066−097,0.65mg/ml)(1000倍希釈)、及びStreptavidin−Sulfo(MSD Cat.No:R32AD−1又はR32AD−5)(2000倍希釈)を加え、暗中、室温で1時間インキュベーションした。プレートを3回洗浄し、4倍希釈のRead buffer T(MSD Read buffer T(4×))を加え、プレートを、プレートリーダー、MSD(Meso Scale Discovery)QuickPlex SQ120 Model 1300で直接解析した。
【0158】
結果及び結論
試験したIgGシステインプロテアーゼポリペプチド、pCART125,213及び214は、全て、原型のIdeS(pCART124)と比較して、ヒト血清中のIdeS特異的ADAにより認識されにくい。ADA認識エピトープのいくつかは、IdeSのN末端部分に見出される。本発明のこれらのポリペプチドは全て、IdeSと比較してN末端が欠失しており、該N末端の欠失が、pCART125と原型のIdeSとの間の唯一の連続した相違である。
pCART125、213及び214についての、IdeS−ADA結合部位の遮断パーセンテージ(%)を
図14及び
図15に示す。原型IdeSのpCART124を100%類似のポジティブコントロールとして使用する。
【0159】
実施例6−オクタガム(ヒトIVIg)マウスモデルにおけるインビボ有効性の評価
本研究においては、BALB/cマウスに、ヒトIVIg(Octagam)を腹腔内(i.p.)注射した。ヒトIVIgの濃度は、ヒトIgG血漿濃度(10mg/ml)と関連性を持たせるように、900mg/kgの用量で投与した。
【0160】
0日目に、ヒトIVIgをi.p.注射した。ヒトIVIgの注射の24時間後(1日目)、PBS、IdeSコントロール(BX1001865及びpCART124)又は試験するIgGシステインプロテアーゼのpCART125、pCART213及びpCART214を、1mg/kgの用量で静脈内(i.v.)投与した。2時間後、血清試料を採取し、マウスを屠殺した。
【0161】
有効性ELISA
アッセイの原理は、Fab領域に対する特異性を有する、ヒトIgG抗体に対するF(ab’)
2断片で、マルチタイタープレートのウェルをコーティングすることであった。次いで、IVIg並びにIdeSコントロール(BX1001865及びpCART124)又は試験したIgGシステインプロテアーゼポリペプチドで処置したマウス由来の血清を加えた。抗体のFc部分に対する特異性を有する、ヒトIgG(IVIg)に対する検出抗体を用いて、ウェルに結合した無傷又は1回切断のヒトIgG(IVIg)の量を測定した。無傷ヒトIgG抗体(IVIg)の検出濃度が低いほど、IgGシステインプロテアーゼポリペプチドがより有効であると予想される。
【0162】
実験室プロトコルの簡単な要約:特異的な抗ヒトFabヤギF(ab)
2断片(0.5μg/ml)(Jackson#109−006−097)を用いて、マルチタイタープレートのウェルを一晩コーティングし(+2〜8℃)、次いで0.05%Tween20添加PBS(PBS−T)で洗浄し、PBS−T(ブロック緩衝液)中2%BSAで、室温で45〜120分間ブロッキングした。ヒト血清タンパク質検量物質(DAKO#X0908)を基準として用い、0.5〜300ng/mlの範囲で加えた。IVIg及び種々のIgGシステインプロテアーゼポリペプチドで処置したマウスから採取した血清試料を解凍し、ブロック緩衝液で100000倍に希釈した後、アッセイマルチタイタープレートに加えた。プレートを、震盪しながら、室温で2時間インキュベーションし、次いでPBS−Tで洗浄した。特異的なビオチン化抗ヒトIgG Fcマウス(600ng/ml)(Jackson#109−066−098)抗体を、Strep−sulfo(200ng/ml)(MSD#R32AD−1)と混合し、マルチタイタープレートに加えた。プレートをアルミニウムテープで密封し、震盪しながら、室温で1時間インキュベーションした。次いで、プレートをPBS−Tで洗浄し、150μlの2倍希釈Read buffer T(MSD#R92TC−2)を各ウェルに加えた。該プレートを、直ちにプレートリーダー、MSD(Meso Scale Discovery)QuickPlex SQ 120 Model 1300で直接解析した。
【0163】
ゲルで可視化された有効性
10μlのマウス血清を、90μlのPBSで1:10に希釈した。その後、10μlの希釈血清を30μlの4×SDS−PAGEローディング緩衝液と混合した。5μlの自製(in−house)IgGマーカーを用いて、種々のIgG断片(IgG、scIgG及びF(ab’)2)を示した。試料を、92℃で3分間加熱し(Thermo mixer compact,eppendorf)、短時間遠心してから、10μlを4〜20%Mini−Protean(登録商標)TGX、Stain−free(商標)ゲル(Cat.#456−8096、Biorad)にロードした。ゲルを、200Vで40分間泳動(run)した。
【0164】
結果と結論
有効性ELISAにより、血清中のヒトIgGレベルを研究し、SDS−PAGEによるIgG分解を解析することにより、IdeSコントロール(BX1001865及びpCART124)及びpCART125、213及び214によるヒトIVIg(Octagam)のインビボ切断を比較した。
【0165】
マウスにおける、IdeSコントロール(BX1001865及びpCART124)及び種々のIgGシステインプロテアーゼpCART125、pCART213及びpCART214による治療は、このマウスモデルにおいて、明らかに、インビボでのヒトIgGの切断を実証した(表7及び
図16)。
【0166】
IdeSコントロール(BX100186及びpCART124)、pCART125及びpCART213について、完全な切断が示され、ゲルに、目に見えるscIgGバンド及び顕著なF(ab’)
2バンドはなかった(
図17)。pCART214は、scIgG分子が、血清中に、2時間後に存在し、このマウスモデルにおいて、示された有効性がより低かった(
図17Cにおける
*)。しかしながら、ゲルには、無傷IVIgは検出できなかった。このことは、
図16において、pCART214についてのより高いバーは、無傷IgGではなく、scIgGを表すことを意味する。これは、本発明のポリペプチドが、インビボモデルにおいて、IgGを切断することを示す。
【0167】
【表13】