【実施例】
【0033】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
まず、錆の発生の原因となる側(塩水:5wt%NaCl)に添加する錆抑制用添加物としては、以下のものの混合物を使用した。
・HAP粉末(焼成魚骨製)
(平均粒径(SEM径)10μm、配合量は塩水100mlに対して8g、すなわち8W/V%となるように設定)
・アルミニウム粉末
(平均粒径(SEM径)20μm、配合量は塩水100mlに対して0.5g、すなわち0.5W/V%、HAP粉末に対しては0.5g/8g×100=6.25wt%となるように設定)
そして、上記の塩水に対し、上記の錆抑制用添加物を添加した。そのうえで、錆発生抑制対象物として鉄板(縦×横×幅;20mm×20mm×2mm)を該塩水に7日間浸漬させた上で引き上げた。その際の該鉄板の様子を示す写真が
図1である。
また、鉄板の腐食がどの程度進んだかを定量的に把握すべく、該鉄板引き上げ後の浸漬液を0.5mL採取した後、硝酸0.5mL、水4.0mLを加え、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で10倍希釈した。そして希釈溶液中の鉄イオン濃度をICP発光分析装置(ICP−7510;島津製作所製)で測定した。その結果、該希釈溶液中の鉄イオン濃度は0.1mg/L以下であった。
【0035】
(実施例2)
アルミニウム粉末の配合量を、塩水100mlに対して1g(すなわち1W/V%、HAP粉末に対しては12.5wt%)となるように設定したことを除けば実施例1と同様に試験を行った。その結果を
図2に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は0.1mg/L以下であった。
【0036】
(実施例3)
アルミニウム粉末の配合量を、塩水100mlに対して0.1g(すなわち0.1W/V%、HAP粉末に対しては1.25wt%)となるように設定したことを除けば実施例1と同様に試験を行った。その結果を
図3に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は0.3mg/Lであった。
【0037】
(比較例1)
塩水に対し、実施例1の錆抑制用添加物においてHAP粉末を配合しなかったことを除けば実施例1と同様に試験を行った。その観察結果を
図4に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は5.7mg/Lであった。
【0038】
(比較例2)
塩水に対し、実施例2の錆抑制用添加物においてHAP粉末を配合しなかったことを除けば実施例2と同様に試験を行った。その観察結果を
図5に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は9.3mg/Lであった。
【0039】
(比較例3)
塩水に対し、実施例3の錆抑制用添加物においてHAP粉末を配合しなかったことを除けば実施例3と同様に試験を行った。その観察結果を
図6に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は5.0mg/Lであった。
【0040】
(比較例4)
塩水に対し、実施例1の錆抑制用添加物においてアルミニウム粉末を配合しなかったことを除けば実施例1と同様に試験を行った。その観察結果を
図7に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は2.2mg/Lであった。
【0041】
(比較例5)
塩水に対し、実施例1の錆抑制用添加物を配合しなかった(HAP粉末、アルミニウム粉末は共に配合無しである)ことを除けば実施例1と同様に試験を行った。その観察結果を
図8に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は42.8mg/Lであった。
【0042】
(実施例4)
実施例1の錆抑制用添加物においてアルミニウム粉末の代わりに亜鉛粉末(平均粒径(SEM径)20μm、配合量は塩水100mlに対して1gすなわち1W/V%(HAP粉末に対しては12.5wt%)となるように設定)を用いたことを除けば実施例1と同様に試験を行った。その観察結果を
図9に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は0.2mg/Lであった。
【0043】
【表1】
【0044】
(検討その1)
図1〜3、9に示すように、実施例1〜4の場合、ほとんど錆は発生していなかった。また、鉄板引き上げ後の浸漬液を調べたところ、希釈浸漬液中の鉄イオン濃度は極めて小さく、鉄板には腐食がほとんど生じていないことが明らかとなった。
その一方、比較例1〜3、5(
図4〜6、8)すなわちHAP粉末無配合だと、鉄板の主表面の大部分にて錆の発生が確認できた。なお、希釈浸漬液中の鉄イオン濃度を調べたところ、鉄板において腐食が非常に進行していたことが明らかとなった。
また、比較例4(
図7)すなわちアルミニウム粉末無配合だと、局所的に大きな錆の発生が確認できた。なお、比較例4においては鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は2.2mg/Lであり、実施例1〜4に比べて腐食が進行していたことが明らかとなった。
以上の結果、本実施例の添加物を、錆の発生の原因となる側(例えば塩水)に添加することにより、錆の発生を抑制すべき金属基材(錆発生抑制対象物)の表面には錆が著しく生じにくくなることが確認できた。
【0045】
先ほどの例では鉄板を塩水に7日間浸漬させた例について述べた。以下の例は、更に長い90日間浸漬させた例である。
【0046】
(実施例5)
実施例5においては、実施例1の諸条件(再掲すると、HAP粉末を8W/V%、アルミニウム粉末を0.5W/V%含有させた、5wt%NaClを使用)を採用したうえで鉄板を塩水に90日間浸漬させた。その結果を
図10に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は50.0mg/Lであった。
【0047】
(比較例6)
比較例6においては、比較例1の諸条件(HAP粉末の配合無し)を採用したうえで鉄板を塩水に90日間浸漬させた。その結果を
図11に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は466.7mg/Lであった。
【0048】
(比較例7)
比較例7においては、比較例4の諸条件(アルミニウム粉末の配合無し)を採用したうえで鉄板を塩水に90日間浸漬させた。その結果を
図12に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は266.7mg/Lであった。
【0049】
(比較例8)
比較例8においては、比較例5の諸条件(HAP粉末、アルミニウム粉末は共に配合無し)を採用したうえで鉄板を塩水に90日間浸漬させた。その結果を
図13に示す。なお、鉄板引き上げ後の塩水中の鉄イオン濃度は583.3mg/Lであった。
【0050】
【表2】
【0051】
(検討その2)
図10に示すように、実施例5の場合、90日間という長期間塩水に鉄板を浸漬させたにもかかわらず、ほとんど錆は発生していなかった。また、鉄板引き上げ後の浸漬液を調べたところ、希釈浸漬液中の鉄イオン濃度は比較例6〜8に比べて極めて小さく、鉄板には腐食がほとんど生じていないことが明らかとなった。
その一方、比較例6〜8(
図11〜13)すなわちHAP粉末、アルミニウム粉末の少なくともいずれかが欠けている場合だと、鉄板の主表面全体ないしその多くの部分にて錆の発生が確認できた。なお、希釈浸漬液中の鉄イオン濃度を調べたところ、鉄板において腐食が非常に進行していたことが明らかとなった。
【0052】
なお、実施例5の塩水中の鉄イオン濃度の値50.0mg/Lは、HAP粉末無し且つアルミニウム粉末有りの比較例6の値466.7mg/L、HAP粉末有り且つアルミニウム粉末無しの比較例7の値266.7mg/Lに比べ、著しく低く抑えられている。これは、HAP粉末とアルミニウム粉末との組み合わせによって、単なる相加効果ではなく相乗効果が発現されていることを示している。
【0053】
以上の結果、本実施例の添加物を、錆の発生の原因となる側(例えば塩水)に添加することにより、90日間という長期間であっても、錆の発生を抑制すべき金属基材(錆発生抑制対象物)の表面には錆が著しく生じにくくなることが確認できた。
【0054】
先ほどまでの例は、
1.錆の発生の原因となる側(腐食寄与物側、例:塩水、融雪剤)への添加
についてのものである。
その一方、以降に述べる例は、
2.錆の発生を抑制すべき側(腐食抑制物側、例:金属基材の表面への塗膜形成用塗料)への添加
についてのものである。以降、特記の無い内容は、実施例1と同様である。
【0055】
(実施例6)
フタル酸塗料(ブラックシャーシ)に対し、実施例1と同様の錆抑制用添加物(すなわちHAP粉末を8W/V%、アルミニウム粉末を0.5W/V%)を配合し、錆抑制用塗料を作製した。その後、実施例1と同様の鉄板の前面に該錆抑制用塗料を塗布し、乾燥させた。乾燥後、塩水噴霧装置を用いて塗布後鉄板に対して塩水の噴霧を850時間行った。その際の塗布後鉄板の様子を示す写真が
図14であり、(a)は塗布後鉄板の平面図であり、(b)〜(e)は塗布後鉄板の四方の側面図である。
【0056】
(比較例9)
フタル酸塗料(ブラックシャーシ)に対し、実施例1の錆抑制用添加物においてHAP粉末を配合しなかったことを除けば実施例6と同様に試験を行った。その観察結果を
図15に示す。(a)は塗布後鉄板の平面図であり、(b)〜(e)は塗布後鉄板の四方の側面図である。
【0057】
(比較例10)
フタル酸塗料(ブラックシャーシ)に対し、実施例1の錆抑制用添加物においてアルミニウム粉末を配合しなかったことを除けば実施例6と同様に試験を行った。その観察結果を
図16に示す。(a)は塗布後鉄板の平面図であり、(b)〜(e)は塗布後鉄板の四方の側面図である。
【0058】
(比較例11)
フタル酸塗料(ブラックシャーシ)に対し、実施例1の錆抑制用添加物を配合しなかった(HAP粉末、アルミニウム粉末は共に配合無しである)ことを除けば実施例6と同様に試験を行った。その観察結果を
図17に示す。(a)は塗布後鉄板の平面図であり、(b)〜(e)は塗布後鉄板の四方の側面図である。
【0059】
(検討その3)
実施例1の添加材を、錆の発生を抑制すべき側(金属基材の表面への塗膜形成用塗料)への添加し、錆抑制用塗料を作製し、鉄板に塗布した場合であっても、
図14に示すように、850時間という長期間塩水が噴霧されたにもかかわらず、ほとんど錆は発生していなかった。
その一方、比較例9〜11(
図15〜17)すなわちHAP粉末、アルミニウム粉末の少なくともいずれかが欠けている場合だと、鉄板の主表面全体ないしその多くの部分にて錆の発生が確認できた。
以上の結果、本実施例の添加物を、錆の発生を抑制すべき側(金属基材の表面への塗膜形成用塗料)に添加して作製した錆抑制用塗料を鉄板に塗布した場合であっても、錆発生抑制効果を発現させられることが確認できた。