(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料極と固体電解質と空気極とを備える複数の燃料電池セルと、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタとを備える燃料電池における前記空気極を形成するための塗布装置であって、
前記燃料極上に前記固体電解質および前記インターコネクタが形成された筒状のワークを支持するとともに、長手方向の回転中心軸線Swを中心に前記ワークの周方向に前記ワークを回転させるワークホルダと、
長手方向の軸線Snに対して所定角度αで傾斜した先端面と、前記先端面に形成された前記軸線Snと直交し前記先端面の形状の対称線となる縦軸線Syと、前記先端面に形成された前記軸線Snと前記縦軸線Syとのいずれにも直交する横軸線Sxと、前記先端面に形成されたスラリー排出用の開口部と、を有し、前記空気極の材料を含むスラリーを前記ワーク上に排出するノズルと、
所定量の前記スラリーを所定の周期で前記ノズルに送給するスラリー送給部と、
前記ノズルを前記ワークの前記回転中心軸線Sw方向及び上下方向に移動させるノズル移動部と、
制御部と、
を備え、前記制御部が、
前記開口部を前記ノズルの前記軸線Sn方向への移動の上流側に向け、前記先端面を前記ワークの前記回転中心軸線Swに対して該回転中心軸線Swに沿った方向に所定角度θ傾斜させる調整手段を備える塗布装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9,10,11に、従来法におけるノズルの先端とワーク(セルスタックが形成される基体管)との接触状態を模擬した図を示す。
図9は、ノズルの排出部の側面図である。
図10は、
図9のノズル排出部の正面概念図(C−C視)である。
図11は、
図10のノズル排出部の開口部の概念図(D−D視)である。
【0008】
図9では、ノズル51がワーク53表面に押し付けられ、ノズル51の先端面52がワーク53表面に接触している。ノズル51の先端面52が、ワーク53の軸線に略平行に配置されていると、ノズル51の横断面視で、ノズルを挟んで紙面左右両側の2箇所がワーク53表面と接触位置(CP)で接触する(
図10,11参照)。この場合、
図10,11に示すように、左右の接触位置(CP)に導かれるようスラリーが左右両端から排出される(矢印E)。
【0009】
しかしながら、ワーク53表面は凹凸があったり、基体管の回転中心から偏心があったりして、ノズル51の横断面視で、この左右の接触位置での接触状態にアンバランスが発生することがある。これに影響されてスラリー排出にアンバランスが発生すると、塗膜が垂れたり、かすれたりして、必要な製膜位置に必要な膜厚で塗布されない場合がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、空気極の膜厚を安定して確保して、複数の燃料電池(セルスタック)間の性能のバラツキを低減できる燃料電池の製造方法およびそれに用いる塗布装置を提供することを目的とする。また、本発明は、空気極の所定の膜位置を安定して確保して、複数の燃料電池(セルスタック)間の性能のバラツキを低減できる燃料電池の製造方法およびそれに用いる塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池の製造方法および塗布装置は以下の手段を採用する。
【0012】
本発明は、燃料極と固体電解質と空気極とを備える複数の燃料電池セルと、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタとを備える燃料電池の製造方法であって、長手方向の軸線S
nに対して所定角度αで傾斜した先端面と、前記先端面に形成された前記軸線S
nと直交し前記先端面の形状の対称線となる縦軸線S
yと、前記先端面に形成された前記軸線S
nと前記縦軸線S
yとのいずれにも直交する横軸線S
xと、前記先端面に形成されたスラリー排出用の開口部と、を有したノズルの前記先端面を、前記燃料極上の前記固体電解質および前記インターコネクタが形成された筒状のワークの表面上の前記空気極が形成される領域に配置する工程と、前記ワークを長手方向の回転中心軸線S
wを中心に周方向に回転させながら、前記ノズルから所定量の前記空気極の材料を含むスラリーを排出する工程と、前記ワークの前記回転中心軸線S
w方向に沿って前記ノズルを移動させる工程と、を含み、前記ノズルの前記先端面を配置する工程において、前記開口部を前記ノズルの移動方向Nの上流側に向け、かつ、前記
先端面の前記横軸線S
xを前記回転中心軸線S
wに対して所定角度θ傾斜させ、前記先端面の一部を前記ワークに接触させる燃料電池の製造方法を提供する。
【0013】
ノズルの先端面の横軸線をワークの回転中心軸線に対し所定角度θで傾斜させると、スラリーは先端面が向く方向に排出される。スラリーがノズルを挟んで左右両側に排出されずにノズルの移動方向の上流側に主として排出されるため、ワーク表面の凹凸や、ワークの回転中心の偏芯がありワークとの接触状態にアンバランスが発生した場合であっても、一定方向にスラリーを一定量で継続的に排出して、安定的にスラリーを塗布できる。
【0014】
開口部をノズルの移動方向の上流側を向けることで、既に形成されたスラリー膜を削り取ることなく次のスラリー膜を形成できる。
【0015】
前記回転中心軸線S
wに対して前記先端面の前記横軸線S
xが傾斜する前記所定角度θは、30°以上90°以下、さらに好ましくは40°以上60°以下である。
【0016】
角度θが30°未満である場合、ノズルの押付力によっては、先端面がワークの法線を挟み左右両側の2点で接触する恐れがあるため、この左右の接触位置での接触状態にアンバランスが発生じて、スラリー排出にアンバランスが発生し必要な位置に必要な膜厚で塗布されない場合がある。角度θが90°を超えると、開口部が鉛直方向上向きになる(ワーク面を向かなくなる)ためスラリーをワークの必要な位置に塗布しにくくなる。角度θを上記範囲とすることで、一方の側にスラリーを安定的に排出できる。ノズルの弾性力を考慮すると、θを40°以上60°以下とすることで、より安定的にスラリーを排出できる。
【0017】
長手方向の軸線S
nに対して前記先端面が傾斜する前記所定角度αは、10°以上25°以下である。
【0018】
角度αは、10°よりも小さいと、排出部の一端部の強度が低下してワークにノズルをノズル押付力Pで押し付けると先端面の突出した端部の形状が容易に変形して、スラリーの排出状況がかわるので好ましくない。角度αは、25°を超えるとワークの反りによる回転振れにノズルが追従できなくなる為、好ましくない。
【0019】
前記スラリーを排出する工程において、前記スラリーの降伏値を所定範囲に管理することが望ましい。具体的には、前記スラリーの降伏値を、1.0Pa以上5.0Pa以下にする。
【0020】
「降伏値」とは、スラリーなどの流動性物質に剪断応力をかけた場合に、流動が始まる応力値である。降伏値が小さすぎると、形成されたスラリー膜が垂れ広がり厚い膜を形成できなくなる恐れがある。降伏値が大きすぎると、流動しにくくなるため、塗布時にスラリーが上手く延びず、かすれが生じる恐れがある。スラリーの降伏値を上記範囲とすることで、所定位置に厚い膜になるようスラリーを塗布できるとともに、膜厚分布が生じるのを抑制できる。
【0021】
上記発明に一態様では、前記燃料極を、長尺の基体管上に形成して前記筒状のワークとする。
【0022】
また、本発明は、燃料極と固体電解質と空気極とを備える複数の燃料電池セルと、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタとを備える燃料電池における前記空気極を形成するための塗布装置であって、前記燃料極上に前記固体電解質および前記インターコネクタが形成された筒状のワークを支持するとともに、長手方向の回転中心軸線S
wを中心に前記ワークの周方向に前記ワークを回転させるワークホルダと、長手方向の軸線S
nに対して所定角度αで傾斜した先端面と、前記先端面に形成された前記軸線S
nと直交し前記先端面の形状の対称線となる縦軸線S
yと、前記先端面に形成された前記軸線S
nと前記縦軸線S
yとのいずれにも直交する横軸線S
xと、前記先端面に形成されたスラリー排出用の開口部と、を有し、前記空気極の材料を含むスラリーを前記ワーク上に排出するノズルと、所定量の前記スラリーを所定の周期で前記ノズルに送給するスラリー送給部と、前記ノズルを前記ワークの前記回転中心軸線S
w方向及び上下方向に移動させるノズル移動部と、制御部と、を備え、前記制御部が、前記開口部を前記ノズルの前記軸線S
n方向への移動の上流側に向け、前記先端面を前記ワークの前記回転中心軸線S
wに対して該回転中心軸線S
wに沿った方向に所定角度θ傾斜させる調整手段を備える塗布装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、ノズルの先端面の横軸線をワークの回転中心軸線に対し所定角度θで傾け、ノズルの横断面において先端面が向く一方の側に向けて空気極層用のスラリーを塗布することで、空気極の膜厚を安定して確保できる。また、スラリーの降伏値を所定範囲に管理することで、空気極の製膜する位置および膜厚を安定して確保できる。これにより、燃料電池の性能が向上する。また、本発明に係る製造方法によれば、複数の燃料電池(セルスタック)間の性能のバラツキを低減して、燃料電池の品質を安定化できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る燃料電池の製造方法および塗布装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて説明した各構成要素の位置関係は、各々鉛直上方側、鉛直下方側を示すものである。また、本実施形態では、上下方向と水平方向で同様な効果を得られるものは、紙面における上下方向が必ずしも鉛直上下方向に限定することなく、例えば鉛直方向に直交する水平方向に対応してもよい。
【0027】
(円筒形セルスタックの構造)
まず、
図1を参照して本実施形態に係る一例として、基体管を用いる円筒形のセルスタック(燃料電池)について説明する。基体管を用いずに例えば燃料極を厚く形成して基体管を兼用してもよく、基体管使用に限定されることはない。ここで、
図1は、実施形態に係るセルスタックの一態様を示すものである。セルスタック101は、円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを備える。燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質111と空気極113とが積層して形成されている。また、セルスタック101は、基体管103の外周面に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体管103の軸方向において最も端の一端に形成された燃料電池セル105の空気極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を備え、最も端の他端に形成された燃料電池セル105の燃料極109に電気的に接続されたリード膜115を備える。
図1では燃料電池セル105が2つ形成される例であるが、実際には更に多くの燃料電池セル(例えばセルスタック1本あたり約30〜100素子)が形成されている。
【0028】
(セルスタックの各構成要素の材料と機能の説明)
基体管103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO
2(CSZ)、CSZと酸化ニッケル(NiO)との混合物(CSZ+NiO)、又はY
2O
3安定化ZrO
2(YSZ)、又はMgAl
2O
4などを主成分とされる。この基体管103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持すると共に、基体管103の内周面に供給される燃料ガスを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される燃料極109に拡散させるものである。
基体管103の直径は、軸方向で略均一となっている。基体管103は多孔質であり、燃料とされる水素ガスが基体管103内側から外側(燃料極109側)に向かって流通可能となっている。
【0029】
燃料極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。燃料極109の厚さは50〜250μmであり、燃料極109はスラリーをスクリーン印刷して形成されてもよい。この場合、燃料極109は、燃料極109の成分であるNiが燃料ガスに対して触媒作用を備える。この触媒作用は、基体管103を介して供給された燃料ガス、例えば、メタン(CH
4)と水蒸気との混合ガスを反応させ、水素(H
2)と一酸化炭素(CO)に改質するものである。また、燃料極109は、改質により得られる水素(H
2)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111を介して供給される酸素イオン(O
2−)とを固体電解質111との界面付近において電気化学的に反応させて水(H
2O)及び二酸化炭素(CO
2)を生成するものである。なお、燃料電池セル105は、この時、酸素イオンから放出される電子によって発電する。
燃料極109に供給し利用できる燃料ガスとしては、水素(H
2)および一酸化炭素(CO)、メタン(CH
4)などの炭化水素系ガス、都市ガス、天然ガスのほか、石油、メタノール、石炭などの炭素質原料をガス化設備により製造したガスなどが挙げられる。
【0030】
固体電解質111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを備えるYSZが主として用いられる。この固体電解質111は、空気極で生成される酸素イオン(O
2−)を燃料極に移動させるものである。燃料極109の表面上に位置する固体電解質111の膜厚は10〜100μmであり固体電解質111はスラリーをスクリーン印刷して形成されてもよい。
【0031】
空気極113は、例えば、LaSrMnO
3系酸化物、又はLaCoO
3系酸化物で構成され、空気極113はスラリーをスクリーン印刷またはディスペンサを用いて塗布される。この空気極113は、固体電解質111との界面付近において、供給される空気等の酸化性ガス中の酸素を解離させて酸素イオン(O
2−)を生成するものである。
酸化性ガスとは,酸素を略15%〜30%含むガスであり、代表的には空気が好適であるが、空気以外にも燃焼排ガスと空気の混合ガスや、酸素と空気の混合ガスなどが使用可能である。
【0032】
空気極113は第1の空気極層(空気極中間層)113aと第2の空気極層(空気極導電層)113bとの2層構成とすることもできる。この場合、固体電解質111側の第1の空気極層(空気極中間層)は高いイオン導電性を示し、触媒活性に優れる材料で構成される。
【0033】
例えば、第1の空気極層113aはSmドープCeO
2などで構成される。第1の空気極層113aの厚さは5〜50μmである。空気極中間層上の第2の空気極層(空気極導電層)は、Sr及びCaドープLaMnO
3で表されるペロブスカイト型酸化物で構成されても良い。第2の空気極層113bの厚さは300〜2000μmである。空気極113を2層構成とすることにより、発電性能を向上させることができる。
【0034】
インターコネクタ107は、SrTiO
3系などのM
1−xL
xTiO
3(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、スラリーをスクリーン印刷する。インターコネクタ107は、燃料ガスと酸化性ガスとが混合しないように緻密な膜となっている。また、インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した耐久性と電気導電性を備える。このインターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105において、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極109とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を直列に接続するものである。
【0035】
リード膜115は、電子伝導性を備えること、及びセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材やSrTiO
3系などのM
1−xL
xTiO
3(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で構成されている。このリード膜115は、インターコネクタにより直列に接続される複数の燃料電池セル105で発電された直流電力をセルスタック101の端部付近まで導出すものである。
【0036】
(セルスタックの形成工程)
上記セルスタック(燃料電池)を形成する工程を以下で説明する。
基体管103は、例えば押出し成形法により形成される。基体管103の直径は、軸方向で略均一となっている。
【0037】
基体管103上に燃料極109がスクリーン印刷法により形成される。例えば上記燃料極材料(Ni+YSZ)の混合粉末と水系ビヒクル(水に分散剤、バインダ、及び消泡剤を添加したもの)とが混合されて、燃料極用スラリーが作製される。燃料極用スラリーは、基体管103の外周面上の周方向に、燃料電池セル105の素子数に相当する複数の区域に分けて塗布される。粉末の混合比は、燃料極109に要求される性能により適宜選択される。混合粉末と水系ビヒクルとの混合比は、燃料極109の厚さや、スラリー塗布後の膜の状態などを考慮して、適宜選択される。また、水系ビヒクルは有機系ビヒクル(有機溶剤分散剤、バインダを添加したもの)を使用してもよい。
【0038】
基体管103上にリード膜115がスクリーン印刷法により形成される。リード膜用スラリーとしては、上記燃料極用スラリーを用いることができる。または、燃料極材料と異なる材料を用いる場合は、リード膜材料の粉末と水系ビヒクル(または有機系ビヒクル)とが混合されて、リード膜用スラリーが作製される。
【0039】
燃料極109が形成された後、基体管103上に固体電解質111がスクリーン印刷法により形成される。例えば上記固体電解質111の粉末と上記水系ビヒクル(または有機系ビヒクル)とが混合されて、固体電解質用スラリーが作製される。固体電解質用スラリーは、基体管103の外周面上の所定位置に、燃料電池セル105の数に相当する複数の区域に分けて塗布される。粉末とビヒクルとの混合比は、固体電解質111の厚さや、スラリー塗布後の膜の状態や膜厚などを考慮して適宜選択される。
【0040】
基体管103上にインターコネクタ107がスクリーン印刷法により形成される。例えば上記インターコネクタ用材料の粉末と水系ビヒクル(または有機系ビヒクル)とが混合されて、インターコネクタ用スラリーが作製される。インターコネクタ用スラリーは、各区域の間、すなわち、隣接する燃料電池セル105間に相当する位置で、基体管103の外周面の周方向に塗布される。粉末の組成は、インターコネクタに要求される性能に応じて適宜選択される。粉末とビヒクルとの混合比は、スラリー塗布後の膜の状態などを考慮して適宜選択される。
【0041】
燃料極109、固体電解質111及びインターコネクタ107のスラリーの膜が形成された基体管103を、大気中にて共焼結する。焼結温度は、具体的に1350℃〜1450℃とされる。
【0042】
つぎに、共焼結された基体管103上に、空気極113を形成する。ここでは、空気極113が2層構成である場合について説明する。
第1の空気極層113aは、後述する工程により基体管103上の所定位置にスラリーが塗布されることにより形成される。共焼結後に、基体管103表面の凹凸や反り、撓みが製造時の許容範囲内であれば、スクリーン印刷、転写ローラによる塗布など公知の方法で第1の空気極層113aを形成しても良い。
【0043】
第2の空気極層113bは、第1の空気極層113aが形成された後に形成される。第2の空気極層113bは、ディスペンサを用いて形成される。第2の空気極層用材料の粉末と上記水系ビヒクル(または有機系ビヒクル)とを混合し、第2の空気極層用スラリーを作製する。基体管103上の所定位置にこのスラリーをディスペンサから吐出し、第2の空気極層用スラリーの膜を形成する。粉末とビヒクルとの混合比は、スラリー塗布後の膜の状態や膜厚などを考慮して適宜選択される。
【0044】
空気極113のスラリーの膜が形成された基体管103が、大気中にて焼結される。焼結温度は、具体的に1100℃〜1250℃とされる。ここでの焼結温度は、基体管103〜インターコネクタ107を形成した後の共焼結温度よりも低温とされる。
【0045】
空気極113を1層構成とする場合は、共焼結後、空気極113のスラリー膜が後述する工程により形成される。その後、燃料極109〜空気極113のスラリー膜が形成された基体管103が焼結される。
【0046】
(空気極の形成)
〈塗布装置〉
図2は第1の空気極層用スラリーを塗布するための塗布装置の概略図である。塗布装置1は、ワークホルダ5、ノズル11(11a,11b)、スラリー送給部19、ノズル移動部13、及び、制御部27を有する。制御部27は例えばコンピュータである。
【0047】
ワークホルダ5は離間して配置される一対の支持部7と、一方の支持部7に設置されるモータ9とを有する。一対の支持部7の間にワーク3が配置され、ワーク3の両端部が支持部7により支持される。モータ9は、ワーク3を周方向に回転可能とする。モータ9は制御部27に接続する。
【0048】
第1の空気極層用スラリーを塗布する場合または空気極113を1層構成とする場合は、基体管103の表面上に燃料極109〜インターコネクタ107が形成され一体焼成された後の基体管103がワーク3となる。
【0049】
なお、第2の空気極層用スラリーを塗布する場合は、基体管103の表面上に燃料極109〜インターコネクタ107が形成され一体焼成された後に第1の空気極層113aが形成され所定の状態に乾燥した後の基体管103がワーク3となる。
【0050】
ノズル11及びノズル移動部13は2軸卓上ロボットであり、ノズル移動部13にノズル11a,11bが取付けられる。ノズル移動部13は、ノズル11a,11bをワーク3の長手方向の回転軸方向(
図2紙面左右方向のX軸方向)に移動させるX軸方向移動部、及び、上下方向(
図2紙面上下方向のZ軸方向)に移動させてワーク3とノズル11の先端との距離を調節するZ軸方向移動部を有する。ノズル11a,11b及びノズル移動部13は制御部27に接続する。制御部27は、ノズル11を軸線(S
n)の周方向に回転移動させてワークの回転中心軸線S
wに対する先端面39の向きを変更調整し固定する手段(不図示)を有する。
【0051】
図2では2つのノズル11a,11bが図示されているが、ノズルは1つでも良いし3つ以上であっても良い。複数のノズル11を設置すれば、タクトタイムを短縮することができる。
【0052】
スラリー送給部19はノズル11a,11bに接続する。スラリー送給部19は、スラリーを収容するタンク21と、ロータリポンプ23と、スラリー配管25a,25bを備える。タンク21は、空気極層用スラリーを収容する。ロータリポンプ23は、一定の周期で所定量のスラリーをスラリー配管25a,25bを介してノズル11a,11bに送給する。ロータリポンプ23は制御部27に接続する。スラリーの送給はロータリポンプ23に限定されるものではなく、例えばピストンとシリンダを複数組保有する押し出しポンプなどでもよい。
【0053】
図3及び
図4はノズルの一例を説明する概念図である。
図3はノズルの全体図である。同図において、破線矢印はノズルを押し付ける力(ノズル押付力P)である。
図4は、排出部とワークとの位置関係を説明する図である。
【0054】
ノズル11はノズル胴体35及びノズル胴体35に取付けられている排出部33を有する。排出部33の一端側の一部はワーク3の表面に接触し、排出部33と反対側のノズル胴体35の他端部側に、スラリー配管25が接続される。
【0055】
ノズル胴体35の一部はノズル支持部31内に収容される。
図3ではノズル胴体35及びノズル支持部31は円筒形状としたが、形状は特に限定されない。
【0056】
ノズル胴体35は、ノズル11からの振動等によるブレを補正できる機構を保有して支持されてもよい。すなわち、ノズル胴体35は、ノズル支持部31の内側に設置されるノズル位置補正部37a,37bにより、ノズル支持部31内側面と離間して支持される。
図3のノズル11の場合、
図3に示すように、排出部33と反対側のノズル胴体35端部にノズル位置補正部37aが1つ設置され、ノズル胴体35の側面には複数(例えば4つ)のノズル位置補正部37bが設置される。ノズル位置補正部37a,37bは例えばバネなどの弾性体である。ノズル位置補正部37a,37bは、ノズル11の振動によるブレを補正する、また、ワーク形状のばらつきに追従し排出部33とワーク3の接触状態を維持するために設けられる。
ノズル位置補正部は、ノズル11の振動等によるブレを補正できるものであればよく、周知の他の補正手段を採用してもよい。
【0057】
排出部33は円筒形状または楕円筒形状であり、先端面39を有する(
図4参照)。先端面39は、ノズルの縦断面視で排出部33の軸線S
nに対して所定角度α傾いている。所定角度αの範囲は、10°≦α≦25°が好適である。先端面39の中央は開口とっている。
【0058】
角度αは、10°よりも小さいと、排出部33の一端部の強度が低下してワーク3にノズル11をノズル押付力Pで押し付けると先端面39の突出した端部の形状が容易に変形して、スラリーの排出状況がかわるので好ましくない。また角度αは、25°を超えるとワークの反りによる回転振れにノズルが追従できなくなる為、好ましくない。
【0059】
排出部33は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製などの柔軟性と弾力性を有する材料からなる。排出部33が柔軟性を有する材料であれば、排出部33がワーク3に押し付けられた際に、ワーク3上に形成された膜(固体電解質111、インターコネクタ107)の損傷を防止することができる。
【0060】
以下では、
図2の塗布装置1を用いた空気極層用スラリーの膜について工程を詳細に説明する。
ワーク(燃料極109〜インターコネクタ107が形成され、共焼結された後の基体管)3がワークホルダ5に取付けられる。タンク21には空気極層用スラリーが収容される。空気極層用スラリーは、本実施形態では、空気極層材料の粉末とスキージオイル(芳香族炭化水素系溶媒等のスクリーン印刷用溶媒と、メタクリル酸メチルなどのバインダとの混合物)とを混合して作製される。
【0061】
空気極層用スラリーの降伏値は、空気極層用スラリーに剪断応力をかけた場合に、流動が始まる応力値で評価され、1.0Pa以上5.0Pa以下とする。発明者らによる試験の結果、空気極層用スラリーの降伏値が1.0Paより小さいと、塗布したスラリーに垂れが生じて塗布位置が広がる、または、膜厚に偏りが生じるとともに、厚い膜を形成できなくなることが懸念される。降伏値が5.0Paより大きいと、流動しにくくなるため、かすれが生じて塗布膜位置が狭くなる、または膜厚分布が生じやすくなる。
【0062】
「降伏値」とは、スラリーなどの流動性物質に剪断応力をかけた場合に、流動が始まる応力値である。降伏値が小さすぎると、形成されたスラリー膜が垂れ広がり膜厚が不均一になる恐れがある。降伏値が大きすぎると、流動しにくくなるため、塗布時にスラリーが上手く延びず、かすれが生じる恐れがある。スラリーの降伏値を上記範囲とすることで、所定位置に薄い膜になるようスラリーを塗布できるとともに、膜厚分布が生じるのを抑制できる。
【0063】
〈ノズルの配置〉
図5は、スラリーMを排出する際の排出部を側面から見たときの概念図である。
図6は、排出部の正面概念図である。
図7は、排出部の開口部分の概念図である。
【0064】
排出部33は、軸線S
nが水平となるように配置されるか(
図4参照)、排出部33の端部が下に向くように配置される(
図3、
図5参照)。この軸線S
nのワーク3の接触位置の法線との角度βは、所定角度として管理する。
【0065】
また、先端面39には、軸線S
nと直交し先端面39の形状の対称線となる縦軸線S
yが存在する。また先端面39は、軸線S
nと縦軸線S
yとのいずれにも直交する横軸線S
xが存在する。
【0066】
排出部33は、先端面39とワーク3とが1箇所で接触するよう配置されるのが望ましい。具体的には、接触位置CPを1箇所とするため、排出部33を軸線S
n周りに角度を回転させて先端面39をノズル11の移動方向Nの上流側に向け、かつ、横軸線S
xをワークの回転中心軸線S
w(
図6では、回転中心軸線S
wに平行な線)に対して所定角度θ傾斜させる(
図5,6参照)。先端面39の横軸線S
xが回転中心軸線S
wに対して平行な場合を0°とすると、所定角度θは、30°以上90°以下、好ましくはノズルの弾性力を考慮して40°以上60°以下である(
図6参照)。ここで、開口はノズルの移動方向Nとは逆側(移動方向の上流側)を向くようにする。
【0067】
排出部33の縦断面視で、排出部33の軸線S
nは、ワーク3の法線Lに対して所定角度βで配置され(
図4参照)、角度βはβ=90°−αで表される。
【0068】
制御部27は、調整手段により、先端面39の開口部40をノズル11の軸線S
n方向に沿う移動方向Nの上流側に向け、先端面39の横軸線S
xをワーク3の回転中心軸線S
wに対して回転中心軸線S
wに沿った方向に所定角度θ(30°≦θ≦90°)傾斜させる。所定角度θの傾斜設定は、作業員により行ってもよい。
【0069】
先端面39をノズル11の移動方向の上流側(移動方向Nと反対側)に向くよう傾けることでスラリーは、ノズル11の排出部33よりも下流側にながれることなく、上流側に向けてのみ排出される(矢印E)。よって、スラリーが先端面39の縦軸線S
yに対して、ノズル11の移動方向に対して上流側一方向に排出され、排出部33やワーク3への塗布面の状態変化などにより縦軸線Syに対してアンバランスに変化しながら排出されることがなくなる。
【0070】
図8にノズルチューブの傾斜角度θとスラリー降伏値との関係を示す。従来のように先端面をワークの回転中心軸線(S
w)と略平行(θ:0°)にした場合、先端面は、ノズルの軸線S
nを挟んで紙面左右位置にある2点でワーク面と接触する。この場合、スラリーの降伏値に関わらず、排出部33やワーク3への塗布面の状態変化などにより軸線S
nに対してアンバランスに変化しながら排出され接触不良(かすれ)が生じる。先端面の傾斜角度θを30°以上90°以下とすることで、製膜を適正に行うことが可能となる。その際、スラリーの降伏値を1.0Pa以上5.0Pa以下をするとよい。
【0071】
〈空気極用スラリーの排出〉
初期状態では、ノズル11は、
図2における紙面左側のワーク3端部に寄せられている。
制御部27には、取り付けられたワーク3の燃料電池セル数nが予め入力されている。制御部27は、ワーク3上に空気極層用スラリーの膜を製膜する。制御部27は、モータ9を作動させ、ワーク3を周方向に回転させる。
【0072】
〈ノズルの移動〉
制御部27は、ノズル移動部13のX軸方向移動部を作動させ、
図2の紙面右方向にワーク3の回転中心軸線S
w方向に沿ってノズル11を移動させる。
【0073】
制御部27は、ノズル11のZ軸方向移動部を作動させ、ノズル11の排出部33をワーク3に近づける。ノズル11の先端である排出部33の先端面とワーク3を1箇所(または排出部33の軸線S
nに対しノズル移動方向上流側の開口が広くなる2箇所)で接触させると、形成された膜の膜厚安定性が良好であるので好ましい。
【0074】
制御部27は、ロータリポンプ23を作動させる。これにより、
図4に示すように排出部33の開口から空気極材料スラリーがワーク3表面の所定位置に所定流量で排出されて、所定膜厚のスラリーの膜が形成される。
【0075】
ロータリポンプ23の回転数は、一定時間当たりのスラリーの排出量(所定の排出流量)に依存する。ロータリポンプ23の回転数、ワーク3の回転速度、X軸方向への搖動周期と言ったパラメータは、塗布時間及びスラリーの膜厚を考慮して設定される。上記パラメータはあらかじめ設定されていても良く、塗布状況に応じて変更されても良い。
【0076】
本実施形態では、現実的な塗布処理の能力と所定の量産性を確保する条件とを考慮して、塗布時間が設定される。例えば、1つの燃料電池セル105当たりの塗布時間を仮に5〜6秒と設定する。100個程度の燃料電池セル105が形成されるセルスタック101では、第1の空気極層113aの形成に要する時間はノズル11の移動時間を含めて10〜15分程度に設定されるので、量産製造に対応が可能な工程となる。
【0077】
塗布が終了すると、上記と同様にしてノズル11a,11bが移動される。上述の工程が繰り返され、全ての第1の空気極層用スラリーの膜が形成されると、塗布が終了する。塗布終了後、制御部27はモータ9と停止させる。ワーク3の回転停止後、ワーク3がワークホルダ5から取り外される。ワーク3は別装置に搬送され所定条件にまで乾燥され、その後に焼成されることで、セルセタックが出来上がる。