(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧力検出部材は複数の固定圧力センサを含み、該複数の固定圧力センサは、前記軸受パッドの前記内周面上に前記回転軸の周方向に沿って互いの間に間隔をあけて設けられている、請求項1に記載の軸受監視装置。
前記圧力検出部材は少なくとも1つの回転圧力センサを含み、該少なくとも1つの回転圧力センサは前記回転軸の前記外周面上に設けられている、請求項1または2に記載の軸受監視装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、スターブド領域と軸系安定性(ロータの振動の減衰しやすさを表す減衰比)との関係は明確になっていなかったが、本発明者らの鋭意検討の結果、給油量が不足することでスターブド領域が増大し、同時に減衰比が低下することが明らかとなった。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、ピーキー振動の発生リスクを推定できる軸受監視装置及びこの軸受監視装置を備えた回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る軸受監視装置は、
回転軸を支持するための軸受を監視する軸受監視装置であって、
前記軸受は、
前記回転軸の周方向に沿って設けられた少なくとも1つの軸受パッドと、
前記回転軸の外周面に面する前記軸受パッドの内周面と前記回転軸の前記外周面との間に潤滑油を供給する少なくとも1つのノズルと
を備え、
前記軸受監視装置は、
前記軸受パッドの前記内周面と前記回転軸の前記外周面との間の前記潤滑油の油膜圧力を前記回転軸の周方向に沿って検出可能に構成された圧力検出部材と、
スターブド角計測部を含む制御部と
を備え、
前記スターブド角計測部は、前記圧力検出部材の検出結果に基づいて、前記軸受パッドの前記内周面と前記回転軸の前記外周面との間で前記潤滑油が不足している領域の前記周方向の範囲であって、前記回転軸の軸線を中心とする中心角で前記範囲を表したスターブド角を計測する。
【0009】
上記(1)の構成によると、計測されたスターブド角から潤滑油が不足している領域(スターブド領域)が形成されているか否かを判定できるので、ピーキー振動の発生リスクを推定することができる。
【0010】
(2)いくつかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記圧力検出部材は複数の固定圧力センサを含み、該複数の固定圧力センサは、前記軸受パッドの前記内周面上に前記回転軸の周方向に沿って互いの間に間隔をあけて設けられている。
【0011】
上記(2)の構成によると、回転軸に圧力センサを設ける場合と比べて圧力検出部材の構成が簡単になる。
【0012】
(3)いくつかの実施形態では、上記(1)または(2)の構成において、
前記圧力検出部材は少なくとも1つの回転圧力センサを含み、該少なくとも1つの回転圧力センサは前記回転軸の前記外周面上に設けられている。
【0013】
上記(3)の構成によると、軸受パッドに圧力センサを設ける場合に比べてスターブド角を正確に計測することができる。
【0014】
(4)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの構成において、
前記制御部は潤滑油供給量調整部をさらに含み、
前記スターブド角に基づいて、前記潤滑油供給量調整部は、前記ノズルから前記軸受パッドの内周面と前記回転軸の外周面との間に供給される前記潤滑油の供給量を調整する。
【0015】
上記(4)の構成によると、スターブド領域が形成された場合に潤滑油の供給量を調整することでスターブド領域を縮小できるので、ピーキー振動の発生を抑制できる。
【0016】
(5)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの構成において、
前記制御部は、
前記スターブド角に基づいて軸受定数を算出する軸受定数算出部と、
前記軸受定数に基づいて、前記回転軸の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定する減衰比推定部と
をさらに含む。
【0017】
回転軸及び軸受の特性によっては、スターブド領域が発生した場合にすぐにピーキー振動が発生するわけではない。上記(5)の構成によると、計測されたスターブド角から軸受特性を計算し、その軸受特性をインプットした軸系の力学モデルを用いて減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいてピーキー振動の発生リスクを推定することによって、軸受起因のピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0018】
(6)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの構成において、
前記回転軸の振動に関する振動情報を検出する振動情報検出部材をさらに備え、
前記制御部は、前記振動情報に基づいて、前記回転軸の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定する減衰比推定部をさらに含む。
【0019】
上記(6)の構成によると、回転軸の振動に関する振動情報(回転軸の変位や変位の速度又は加速度等)から減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいてピーキー振動の発生リスクを推定することによって、軸受起因のピーキー振動の発生リスクの推定がより正確になる。
【0020】
(7)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの構成において、
前記回転軸の振動に関する振動情報を検出する振動情報検出部材をさらに備え、
前記制御部は、
前記スターブド角に基づいて軸受定数を算出する軸受定数算出部と、
前記軸受定数及び前記振動情報の両方に基づいて、前記回転軸の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定する減衰比推定部と
をさらに含む。
【0021】
上記(7)の構成によると、軸受定数をインプットした力学モデル及び実測した振動情報のそれぞれに基づいて推定された減衰比を比較して補正することにより、減衰比の推定がより正確になるので、ピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0022】
(8)いくつかの実施形態では、上記(6)または(7)の構成において、
前記回転軸に加振力を付与する加振機(軸受台等の静止側に設置する場合や、電磁加振機等を用いて回転側を直接加振可能とする場合のどちらでもよい)をさらに備え、
前記減衰比推定部は、前記加振機が前記回転軸に前記加振力を付与させたときの前記回転軸の振動から得られた前記振動情報に基づいて、前記減衰比を推定する。
【0023】
上記(8)の構成によると、加振機が回転軸に加振力を付与させたときの回転軸の振動から得られた振動情報に基づいて、前記減衰比を推定することにより、より正確な減衰比を計測することができる。その結果、ピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0024】
(9)いくつかの実施形態では、上記(5)〜(8)のいずれかの構成において、
前記制御部は潤滑油供給量調整部をさらに含み、
前記スターブド角及び前記減衰比に基づいて、前記潤滑油供給量調整部は、前記ノズルから前記軸受パッドの内周面と前記回転軸の外周面との間に供給される前記潤滑油の供給量を調整する。
【0025】
上記(9)の構成によると、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて軸受起因のピーキー振動の発生リスクを推定することにより、ピーキー振動が発生する可能性が高い場合にのみ潤滑油の供給量を調整することができるので、ピーキー振動が発生しないのに潤滑油の供給量を増加してしまって回転機械の性能が悪化してしまうことを抑制できる。
【0026】
(10)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る回転機械は、
回転軸と、
前記回転軸を支持するための軸受であって、前記回転軸の周方向に沿って設けられた少なくとも1つの軸受パッドと、前記回転軸の外周面に面する前記軸受パッドの内周面と前記回転軸の前記外周面との間に潤滑油を供給する少なくとも1つのノズルとを備える軸受と、
上記(1)〜(9)のいずれかの軸受監視装置と
を備える。
【0027】
上記(10)の構成によると、回転機械において、軸受起因のピーキー振動の発生リスクを推定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、計測されたスターブド角から潤滑油が不足している領域(スターブド領域)が形成されているか否かを判定できるので、ピーキー振動の発生リスクを推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0031】
(実施形態1)
図1に示されるように、蒸気タービンや圧縮機等の回転機械1は、回転軸2と、回転軸2に固定されたロータ3と、回転軸2を支持する軸受4とを備えている。
図2に示されるように、軸受4は、回転軸2の鉛直方向下側から回転軸2に面する2つの軸受パッド11,11と、回転軸2の外周面2aに面する各軸受パッド11の内周面11aと回転軸2の外周面2aとの間に形成される各隙間5に潤滑油を供給するためのノズル12とを備えている。各ノズル12には、潤滑油が流通するための給油管13が接続され、給油管13には給油ポンプ14が設けられている。
【0032】
回転機械1は、軸受4を監視する軸受監視装置10をさらに備えている。軸受監視装置10は、制御部20と、各隙間5内の潤滑油の油膜圧力を回転軸2の周方向に沿って検出可能に構成された圧力検出部材30とを備えている。圧力検出部材30は3つの固定圧力センサ31,32,33を含んでいる。固定圧力センサ31,32,33はそれぞれ、各軸受パッド11の内周面11a上に回転軸2の周方向に沿って互いの間に間隔をあけて設けられている。
【0033】
制御部20は、スターブド角計測部21と、潤滑油供給量調整部22とを含んでいる。スターブド角計測部21と潤滑油供給量調整部22とは互いに電気的に接続されている。固定圧力センサ31,32,33はそれぞれスターブド角計測部21に電気的に接続されている。給油ポンプ14は潤滑油供給量調整部22に電気的に接続されている。スターブド角計測部21は、圧力検出部材30による検出値に基づいて、後述するスターブド角を計測するように構成されている。潤滑油供給量調整部22は、スターブド角計測部21によって計測されたスターブド角に基づいて、各隙間5に供給される潤滑油の供給量を調整するために給油ポンプ14の運転条件を調整する指令を発するように構成されている。
【0034】
次に、実施形態1に係る軸受監視装置10の動作について説明する。
図1に示されるように、回転機械1において、軸受4に支持された回転軸2が回転することでロータ3が回転する。
図2に示されるように、給油ポンプ14によって給油管13を流通した潤滑油が各ノズル12から各隙間5に供給されて、隙間5に潤滑油が充填される。隙間5内の潤滑油の油膜圧力によって、軸受4は回転軸2を支持することができる。
【0035】
図3に示されるように、回転軸2の周方向における隙間5の両端部のうちノズル12に近い方の端部を隙間5の近位端5aとし、回転軸2の周方向に近位端5aと対向する隙間5の端部を隙間5の遠位端5bと定義する。回転軸2の周方向において隙間5内の潤滑油15の油膜圧力で回転軸2を支持することのできる範囲を、回転軸2の軸線Lを中心とする中心角であるパッド張り角で表すと、回転軸2の周方向に近位端5aから遠位端5bまで潤滑油15が隙間5内に充填されている場合、パッド張り角は最大値θ
0となる。
【0036】
一方、回転機械1の運転中、隙間5の近位端5a近傍に、潤滑油15が不足している領域、すなわちスターブド領域SRが形成される場合がある。スターブド領域SRの回転軸2の周方向における範囲を、近位端5aを始点として回転軸2の軸線Lを中心とする中心角であるスターブド角θ
Sで表す。この場合、パッド張り角はθ
1(=θ
0−θ
S)となり、パッド張り角がθ
0の場合よりも小さくなるので、スターブド領域SRが形成されると、軸受4の動特性が変化して、軸系の固有振動数で振動する不安定振動(ピーキー振動)が発生する可能性がある。
【0037】
実施形態1において、スターブド角θ
Sは、圧力検出部材30による検出値に基づいて計測される。例えば、
図3に示されるように、隙間5の近位端5aから遠位端5bに向かう方向に沿って3つの固定圧力センサ31,32,33がこの順序で設けられており、2つの固定圧力センサ31及び32がスターブド領域SR内に位置し、1つの固定圧力センサ33が、潤滑油15で充填された領域内に位置している場合を想定する。この場合、各固定圧力センサの検出値の経時変化を
図4に表すと、スターブド領域SR内に位置する固定圧力センサ31及び32それぞれの検出値はほぼゼロで推移するのに対し、潤滑油15で充填された領域内に位置する固定圧力センサ33は、ゼロより大きい潤滑油15の油膜圧力を検出することになる。
【0038】
このような各固定圧力センサによる検出値の経時変化からは、
図3に示されるように、スターブド領域SRが、回転軸2の周方向において近位端5aから固定圧力センサ32と固定圧力センサ33との間の位置までの範囲であることが分かる。この場合、制御部20のスターブド角計測部21(
図2参照)は例えば、近位端5aから固定圧力センサ32までの範囲をスターブド角とするか、近位端5aから固定圧力センサ33までの範囲をスターブド角とするか、近位端5aから固定圧力センサ32と固定圧力センサ33との中間の位置までの範囲をスターブド角とするか、若しくはその他の方法でスターブド角を決定するようにすることができる。これらの例のいずれも、実際のスターブド角θ
Sとは多少のずれが存在することになる。固定圧力センサの数を増やして互いの間隔を小さくすることにより、このずれを小さくすることができる。
【0039】
ところで、スターブド領域と軸系安定性との関係、特に、スターブド角と回転軸の振動の減衰しやすさを表す減衰比との関係は、これまで明確ではなかった。この関係を明確にすべく、本発明者らは、Φ200のモデルロータを用いた要素試験を行うことによって、潤滑油の供給量が低下するとスターブド領域が増大(スターブド角が増大)する傾向があることと、スターブド角が増大すると減衰比が低下する傾向があることとが明らかとなった。そうすると、スターブド角が増大するほどピーキー振動の発生リスクが高まるので、潤滑油の供給量を増大してスターブド角を低下させれば、ピーキー振動の発生リスクを低下できると考えられる。
【0040】
そこで、実施形態1では、
図2に示されるように、制御部20の潤滑油供給量調整部22に、スターブド角の上限値を予め設定しておく。本発明者らの要素試験から得られたスターブド角と減衰比との関係に基づいて、ピーキー振動が発生し得る減衰比の下限値に相当するスターブド角を求め、これをスターブド角の上限値とする。上述の動作でスターブド角計測部21がスターブド角θ
Sを計測し、潤滑油供給量調整部22が、計測されたスターブド角θ
Sと、予め設定されたスターブド角の上限値とを比較し、前者が後者よりも小さい場合にはピーキー振動が発生する可能性は低いと判断する。一方、前者が後者以上の場合、潤滑油供給量調整部22は、ピーキー振動が発生する可能性が高いと判断し、隙間5に供給する潤滑油の供給量の増加を決定する。
【0041】
潤滑油供給量調整部22が隙間5への潤滑油の供給量の増加を決定したら、潤滑油供給量調整部22は、給油ポンプ14に供給量を増加する指令を送って給油ポンプ14の運転条件を調整する。この場合、スターブド角θ
Sと潤滑油の供給量との関係を予め決めておき、その関係に基づく供給量に調整してもよいし、供給量を増加することによるスターブド角θ
Sの変化をスターブド角計測部21からリアルタイムで取得して、スターブド角θ
Sに基づいて供給量をフィードバック制御してもよい。潤滑油の供給量の増加により、スターブド領域SR(
図3参照)が縮小(スターブド角が低下)するので、ピーキー振動の発生リスクを低減することができる。
【0042】
このように、計測されたスターブド角θ
Sからスターブド領域が形成されているか否かを判定できるので、ピーキー振動の発生リスクを推定することができる。スターブド領域が形成された場合に潤滑油の供給量を調整することでスターブド領域が縮小するので、ピーキー振動の発生を抑制することができる。
【0043】
実施形態1では、圧力検出部材30が3つの固定圧力センサ31,32,33を含んでいたが、3つに限定するものではない。上述したように、固定圧力センサの個数を増やせばスターブド角の計測精度が高まるので、圧力検出部材30は4つ以上の任意の個数の固定圧力センサを有してもよいが、軸受4のサイズ等によっては、2つの固定圧力センサから圧力検出部材30が構成されてもよい。
【0044】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る軸受監視装置について説明する。実施形態2に係る軸受監視装置は、実施形態1に対して、圧力検出部材の構成を変更したものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0045】
図5に示されるように、実施形態2に係る軸受監視装置10は、制御部20と、各隙間5内の潤滑油の油膜圧力を検出可能に構成された1つの回転圧力センサ35を含む圧力検出部材30とを備えている。回転圧力センサ35は、回転軸2の外周面2a上に設けられ、回転軸2と共に回転するようになっている。回転圧力センサ35の検出値は、制御部20のスターブド角計測部21に伝送可能になっている。回転圧力センサ35の検出値をスターブド角計測部21に伝送可能にするためには例えば、テレメータを設置して無線で検出値をスターブド角計測部21に伝送してもよいし、回転圧力センサ35に接続された電線を回転軸2内でその長さ方向に沿って軸端まで延ばし、回転軸2の端部に設けられたスリップリングを介して、スターブド角計測部21に接続された電線と電気的に接続する構成としてもよい。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0046】
実施形態2においても、計測されたスターブド角θ
Sに基づいて潤滑油の供給量を調整する動作は、実施形態1と同じである。このため、実施形態1と同様に、ピーキー振動の発生リスクを推定することができ、スターブド領域SRが形成された場合に潤滑油の供給量を調整することでスターブド領域SRを縮小できるので、ピーキー振動の発生を抑制することができる。
【0047】
実施形態2では、回転軸2の外周面2a上に設けられた1つの回転圧力センサ35によって圧力検出部材30が構成されているので、隙間5内の潤滑油15の油膜圧力の検出動作が実施形態1とは異なり、その結果、スターブド角θ
Sの計測動作が実施形態1と異なる。回転圧力センサ35は、回転軸2と共に回転するので、近位端5aから隙間5に侵入し、回転軸2の周方向に隙間5を移動して、遠位端5bから隙間5を出る。この間、回転圧力センサ35は油膜圧力を検出する。例えば、回転軸2の回転パルスを取得するセンサを利用すれば、回転軸2と共に回転圧力センサ35が回転する間、回転軸2の周方向における回転圧力センサ35の位置を特定できる。
【0048】
回転軸2の周方向における位置を、回転軸2の軸線Lを中心とした角度位置で表すと、この角度位置に対する回転圧力センサ35による検出値のグラフは
図6のようになる。隙間5の近位端5a及び遠位端5bそれぞれの角度位置をα
5a及びα
5bとし、隙間5にスターブド角θ
Sのスターブド領域SRが形成されているとすると、回転圧力センサ35による検出値は、α
5aからα
S(=α
5a+θ
S)までの角度範囲はほぼゼロであり、角度位置α
Sを過ぎてから増加し、やがて最大値をとった後、減少に転じて、角度位置α
5bにおいてゼロとなる。すなわち、角度位置α
5aから回転圧力センサ35による検出値がゼロの範囲がスターブド領域となり、θ
S=α
S−α
5aの計算によってスターブド角θ
Sを決定することができる。
【0049】
実施形態2では、回転圧力センサ35が隙間5内の潤滑油15の油膜圧力を連続的に測定することができるので、実施形態1のように複数の固定圧力センサが間隔をあけて設けられる構成に比べて、スターブド角θ
Sを正確に計測することができる。ただし、回転圧力センサ35による検出値をスターブド角計測部21に伝送するための構成が上述のように複雑になるので、実施形態1に比べて圧力検出部材30の構成が複雑になる。言い換えると、実施形態1は、実施形態2に比べて、圧力検出部材30の構成が簡単になるという効果がある。
【0050】
実施形態2では、圧力検出部材30が1つの回転圧力センサ35を有していたが、2つ以上の回転圧力センサ35を有していてもよい。この場合、
図6のようなグラフが2つ以上得られるので、各グラフから得られたスターブド角θ
Sの平均を計算する等によって、より正確なスターブド角θ
Sを計測することができる。
【0051】
尚、圧力検出部材30は、実施形態1の固定圧力センサ31,32,33(ただし、個数は3つに限定せず、2つ以上であればよい)と、実施形態2の回転圧力センサ35との両方を含んでもよい。
【0052】
(実施形態3)
次に、実施形態3に係る軸受監視装置について説明する。実施形態3に係る軸受監視装置は、実施形態1及び2のそれぞれに対して、計測したスターブド角から減衰比を推測し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて潤滑油の供給量を調整するように変更したものである。以下では、実施形態1の構成を上述のように変更した構成で実施形態3を説明するが、実施形態2の構成を上述のように変更することによって実施形態3を構成してもよい。尚、実施形態3において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0053】
図7に示されるように、実施形態3に係る軸受監視装置10は、制御部20及び圧力検出部材30を備えている。制御部20は、スターブド角計測部21及び潤滑油供給量調整部22と、スターブド角計測部21に電気的に接続された軸受定数算出部23と、軸受定数算出部23及び潤滑油供給量調整部22のそれぞれに電気的に接続された減衰比推定部24とを含んでいる。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0054】
実施形態3においても、隙間5内の潤滑油の油膜圧力を圧力検出部材30が検出し、この検出値に基づいてスターブド角計測部21がスターブド角を計測する動作は、実施形態1と同じである。実施形態3では、計測されたスターブド角に基づいて軸受定数算出部23が軸受定数を算出し、算出された軸受定数に基づいて減衰比推定部24が、回転軸2の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて、潤滑油供給量調整部22が潤滑油の供給量を調整する点で、実施形態1と異なる。この実施形態1と異なる動作を以下に説明する。
【0055】
軸受定数算出部23は、計測されたスターブド角を用いて、熱流体潤滑(ThermoHydrodynamic Lubrication;THL)解析等の軸受解析モデルの解析条件を設定し、軸受定数を計算する。減衰比推定部24は、計算された軸受定数を、例えば梁要素による有限モデルである軸系の力学モデルに入力し、この力学モデル上で軸系安定性計算を実施することによって、減衰比を推定する。尚、力学モデルには、回転機械1の設計時の力学モデルを使用することができる。
【0056】
潤滑油供給量調整部22には、スターブド角の上限値及び減衰比の下限値をそれぞれ予め設定しておく。潤滑油供給量調整部22は、スターブド角計測部21によって計測されたスターブド角と、予め設定されたスターブド角の上限値とを比較し、かつ、減衰比推定部24によって推定された減衰比と、予め設定された減衰比の下限値とを比較する。スターブド角計測部21によって計測されたスターブド角がスターブド角の上限値以上であり、かつ、減衰比推定部24によって推定された減衰比が減衰比の下限値以下である場合に、潤滑油供給量調整部22は、ピーキー振動が発生する可能性が高いと判断し、隙間5に供給する潤滑油の供給量の増加を決定する。潤滑油の供給量を増加する動作は実施形態1と同じである。
【0057】
回転軸2及び軸受4の特性によっては、スターブド領域が発生した場合にすぐにピーキー振動が発生するわけではない。すなわち、回転軸2及び軸受4の特性によって、潤滑油が不足している状態(スターブド状態)の軸系安定性への感度が異なる。このため、スターブド角のみに応じて潤滑油の供給量を増加してしまうと、ピーキー振動が発生する可能性が低いのにもかかわらず潤滑油の供給量が増加してしまい、回転機械1の性能が悪化してしまうおそれがある。しかし、実施形態3では、計測されたスターブド角から減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方から軸受起因のピーキー振動の発生リスクを推定することによって、ピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0058】
(実施形態4)
次に、実施形態4に係る軸受監視装置について説明する。実施形態4に係る軸受監視装置は、実施形態1及び2のそれぞれに対して、回転軸2の実際の振動から減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて潤滑油の供給量を調整するように変更したものである。以下では、実施形態1の構成を上述のように変更した構成で実施形態4を説明するが、実施形態2の構成を上述のように変更することによって実施形態4を構成してもよい。尚、実施形態4において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0059】
図8に示されるように、実施形態4に係る軸受監視装置10は、制御部20と、圧力検出部材30と、回転軸2の振動に関する振動情報を検出する振動情報検出部材40とを備えている。以下の説明では、振動情報を回転軸2の変位として説明する。このため、振動情報検出部材40は変位センサ40aである。しかし、振動情報は回転軸2の変位に限定するものではなく、回転軸2の軸線Lに直交する方向の速度や加速度等を振動情報としてもよい。この場合、振動情報検出部材は速度センサや加速度センサ等である。
【0060】
制御部20は、スターブド角計測部21及び潤滑油供給量調整部22と、変位センサ40a及び潤滑油供給量調整部22のそれぞれに電気的に接続された減衰比推定部24とを含んでいる。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0061】
実施形態4においても、隙間5内の潤滑油の油膜圧力を圧力検出部材30が検出し、この検出値に基づいてスターブド角計測部21がスターブド角を計測する動作は、実施形態1と同じである。実施形態4では、変位センサ40aによって計測された回転軸2の振動の変位に基づいて、減衰比推定部24が、回転軸2の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて、潤滑油供給量調整部22が潤滑油の供給量を調整する点で、実施形態1と異なる。この実施形態1と異なる動作を以下に説明する。
【0062】
回転機械1の稼働中、変位センサ40aは回転軸2の振動の変位を検出し、その検出結果を減衰比推定部24に伝送する。減衰比推定部24は、変位センサ40aによる検出値の時刻歴波形を周波数分析して周波数スペクトルを計算する。周波数スペクトルの計算には、例えば高速フーリエ変換(FFT)を使用することができる。減衰比推定部24は、得られた周波数スペクトルの固有振動数におけるピークの鋭さから、ハーフパワー法やカーブフィッティング等によって減衰比を推定する。
【0063】
潤滑油供給量調整部22がスターブド角及び減衰比の両方に基づいて潤滑油の供給量を調整する動作は、実施形態3の動作と同じである。このため、実施形態4でも、スターブド角及び減衰比の両方から軸受起因のピーキー振動の発生リスクを推定することによって、ピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0064】
(実施形態5)
次に、実施形態5に係る軸受監視装置について説明する。実施形態5に係る軸受監視装置は、実施形態1及び2のそれぞれに対して、計測したスターブド角から減衰比を推測すると共に回転軸2の実際の振動からも減衰比を推定して両方の減衰比を比較することで、より正確な減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて潤滑油の供給量を調整するように変更したものである。以下では、実施形態1の構成を上述のように変更した構成で実施形態5を説明するが、実施形態2の構成を上述のように変更することによって実施形態5を構成してもよい。尚、実施形態5において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0065】
図9に示されるように、実施形態5に係る軸受監視装置10は、制御部20と、圧力検出部材30と、回転軸2の振動に関する振動情報を検出する振動情報検出部材40とを備えている。実施形態5においても、実施形態4と同様に、振動情報検出部材40が変位センサ40aであるとして以下の説明を行うが、変位センサ40aに限定されないことは実施形態4と同じである。
【0066】
制御部20は、スターブド角計測部21及び潤滑油供給量調整部22と、スターブド角計測部21に電気的に接続された軸受定数算出部23と、変位センサ40a及び潤滑油供給量調整部22並びに軸受定数算出部23のそれぞれに電気的に接続された減衰比推定部24とを含んでいる。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0067】
実施形態5においても、隙間5内の潤滑油の油膜圧力を圧力検出部材30が検出し、この検出値に基づいてスターブド角計測部21がスターブド角を計測する動作は、実施形態1と同じである。実施形態5では、変位センサ40aによって計測された回転軸2の振動の変位と、計測されたスターブド角に基づいて軸受定数算出部23が算出した軸受定数との両方に基づいて減衰比推定部24が、回転軸2の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定し、スターブド角及び減衰比の両方に基づいて、潤滑油供給量調整部22が潤滑油の供給量を調整する点で、実施形態1と異なる。この実施形態1と異なる動作を以下に説明する。
【0068】
計測されたスターブド角に基づいて軸受定数算出部23が軸受定数を算出し、算出された軸受定数に基づいて減衰比推定部24が減衰比を推定する動作は実施形態3と同じであり、変位センサ40aによって計測された回転軸2の振動の変位に基づいて減衰比推定部24が減衰比を推定する動作は実施形態4と同じである。実施形態5では、減衰比推定部24は、このようにして推定された2つの減衰比を比較して補正することにより、より正確な減衰比を推定することができる。この補正方法の一例として、力学モデルに基づいた減衰比の解析値(ζcal)には、実機における未知な構造減衰(ζstr)等の影響を反映することが難しいため、実測の減衰比(ζexp)を用いて以下のように解析値を補正することが考えられる。
ζcal(補正後)=ζcal+ζstr
ζstr=ζexp0−ζcal0
ここで、添え字0は、潤滑油の供給量が大きい条件等の任意の基準条件における値を意味する。
【0069】
潤滑油供給量調整部22がスターブド角及び減衰比の両方に基づいて潤滑油の供給量を調整する動作は、実施形態3及び4の動作と同じである。このため、実施形態5でも、スターブド角及び減衰比の両方から軸受起因のピーキー振動の発生リスクを推定することによって、ピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0070】
(実施形態6)
次に、実施形態6に係る軸受監視装置について説明する。実施形態6に係る軸受監視装置は、実施形態4及び5のそれぞれに対して、加振機が回転軸に加振力を付与することによる回転軸の振動の変位に基づいて減衰比を推定するように変更したものである。以下では、実施形態4の構成を上述のように変更した構成で実施形態6を説明するが、実施形態5の構成を上述のように変更することによって実施形態6を構成してもよい。尚、実施形態6において、実施形態4の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0071】
図10に示されるように、実施形態6に係る軸受監視装置10は、制御部20と、圧力検出部材30と、回転軸2の振動に関する振動情報を検出する振動情報検出部材40と、回転軸2に加振力を付与する加振機50とを備えている。加振機50は、例えば軸受4の軸受台に設けられ、制御部20の減衰比推定部24に電気的に接続されている。その他の構成は実施形態4と同じである。尚、実施形態6においても、実施形態4と同様に、振動情報検出部材40が変位センサ40aであるとして以下の説明を行うが、変位センサ40aに限定されないことは実施形態4と同じである。
【0072】
実施形態6においても、隙間5内の潤滑油の油膜圧力を圧力検出部材30が検出し、この検出値に基づいてスターブド角計測部21がスターブド角を計測する動作は、実施形態4と同じである。実施形態6では、加振機50が回転軸2に加振力を付与することにより回転軸2を振動させて、変位センサ40aによって計測された回転軸2の振動の変位に基づいて、減衰比推定部24が、回転軸2の振動の減衰しやすさを表す減衰比を推定する点で、実施形態4と異なる。この実施形態4と異なる動作を以下に説明する。
【0073】
加振機50が回転軸2に加振力を付与することによって回転軸2を振動させる。この加振力の値は、減衰比推定部24に伝送される。この状態で、変位センサ40aは回転軸2の振動の変位を検出し、その検出結果を減衰比推定部24に伝送する。減衰比推定部24は、実施形態4と同様に、変位センサ40aによる検出値の時刻歴波形を周波数分析して周波数スペクトルを計算し、得られた周波数スペクトルの固有振動数におけるピークの鋭さから、ハーフパワー法やカーブフィッティング等によって減衰比を推定する。減衰比推定部24が減衰比を推定する動作は実施形態4と同じであるが、実施形態6では、回転軸2に付与される加振力は加振機50によるものなので、加振力の入力値が明確になっている点で、実施形態4の場合に比べて減衰比をより正確に推定することができる。
【0074】
潤滑油供給量調整部22がスターブド角及び減衰比の両方に基づいて潤滑油の供給量を調整する動作は、実施形態4の動作と同じである。このため、実施形態6でも、スターブド角及び減衰比の両方から軸受起因のピーキー振動の発生リスクを推定することによって、ピーキー振動の発生リスクをより正確に推定することができる。
【0075】
実施形態6では、加振機50は一例として、軸受4の軸受台の静止側に設けていたが、この形態に限定するものではない。加振機50として電磁加振機等を用いて、回転側を直接加振可能としてもよい。
【0076】
実施形態1〜6それぞれの軸受4は、回転軸2の鉛直方向下側から回転軸2に面する2つの軸受パッド11,11を有していたが、この形態に限定するものではない。軸受4は例えば、回転軸2の周りにリング状に配置された5つの軸受パッドを有する構成であってもよい。軸受パッドの数も2又は5に限定するものではなく、少なくとも1つの軸受パッドを有する軸受に対しても、本開示の実施形態1〜6それぞれの技術を適用することができる。