【文献】
前田 英作,痛快! サポートベクトルマシン,情報処理,日本,2001年07月,Vol.42,No.7,pp.676-683
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行中のタイヤの振動を検出するステップ(a)と、前記検出されたタイヤの振動の時系列波形を取り出すステップ(b)と、前記タイヤ振動の時系列波形に所定の時間幅の窓関数をかけて時間窓毎の時系列波形を抽出するステップ(c)と、前記時間窓毎の時系列波形からそれぞれ特徴量を算出するステップ(d)と、前記ステップ(d)で算出した時間窓毎の特徴量と、予め路面状態毎に求めておいたタイヤ振動の時系列波形から算出された時間窓毎の特徴量から選択される基準特徴量とからカーネル関数を算出するステップ(e)と、前記カーネル関数を用いた識別関数の値に基づいて走行中の路面の状態を判別するステップ(f)と、
を備えた路面状態判別方法において、
前記ステップ(d)と前記ステップ(e)との間に設けられて、
前記基準特徴量の中から、対応するラグランジェ未定乗数が予め設定された閾値以上である基準特徴量を演算用特徴量として抽出するステップ(g)を備え、
前記ステップ(e)では、
前記ステップ(d)で算出した特徴量と前記ステップ(g)で抽出した演算用特徴量とからカーネル関数を算出することを特徴とする路面状態判別方法。
前記カーネル関数が、グローバルアライメントカーネル関数、または、ダイナミックタイムワーピングカーネル関数、または、前記カーネル関数の演算値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の路面状態判別方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態
図1は、本実施の形態に係る路面状態判別装置10の構成を示す図である。
路面状態判別装置10は、タイヤ振動検出手段としての加速度センサー11と、振動波形抽出手段12と、窓掛け手段13と、特徴ベクトル算出手段14と、記憶手段15と、カーネル関数算出手段16と、路面状態判別手段17と、データ量削減手段としての演算用特徴量抽出手段18とを備え、タイヤ20の走行している路面が、DRY路面であるかWET路面であるかの2路面判別を行う。
振動波形抽出手段12〜演算用特徴量抽出手段18までの各手段は、例えば、コンピュータのソフトウェア、及び、RAM等のメモリーから構成される。
加速度センサー11は、
図2に示すように、タイヤ20のインナーライナー部21のタイヤ気室22側のほぼ中央部に一体に配置されて、路面からの入力による当該タイヤ20の振動を検出する。加速度センサー11の出力であるタイヤ振動の信号は、例えば、増幅器で増幅された後、デジタル信号に変換されて振動波形抽出手段12に送られる。
【0012】
振動波形抽出手段12では、加速度センサー11で検出したタイヤ振動の信号から、タイヤの一回転毎に、タイヤ振動の時系列波形を抽出する。
図3はタイヤ振動の時系列波形の一例を示す図で、タイヤ振動の時系列波形は、踏み込み位置近傍と蹴り出し位置近傍に大きなピークを有しており、かつ、タイヤ20の陸部が接地する前の踏み込み前領域R
f、タイヤ20の陸部が路面から離れた後の蹴り出し後領域R
k、及び、タイヤ20の陸部が路面に接地している接地領域R
sにおいては、路面状態によって異なる振動が出現する。一方、踏み込み前領域R
fの前の領域と蹴り出し後領域R
kの後の領域(以下、路面外領域という)とは路面の影響を殆ど受けていないので、振動レベルも小さく、路面の情報も含んでいない。踏み込み前領域R
fから蹴り出し後領域R
kまでを、以下、路面領域という。
【0013】
窓掛け手段13は、
図4に示すように、前記抽出された時系列波形を予め設定した時間幅(時間窓幅ともいう)ΔTで窓掛けし、時間窓毎にタイヤ振動の時系列波形を抽出して特徴ベクトル算出手段14に送る。なお、同図のT
sは、路面領域の時間幅である。
なお、前述したように、路面外領域の時系列波形は、路面の情報を含んでいないので、カーネル関数の計算速度を速めるため、本例では、路面領域の時系列波形のみを特徴ベクトル算出手段14には送るようにしている。
なお、路面外領域の定義としては、例えば、タイヤ振動の時系列波形に対してバックグラウンドレベルを設定し、このバックグラウンドレベルよりも小さな振動レベルを有する領域を路面外領域とすればよい。
【0014】
特徴ベクトル算出手段14は、
図4に示すように、抽出された各時間窓の時系列波形のそれぞれに対して特徴ベクトルX
i(i=1〜N;Nは抽出された時間窓毎の時系列波形の数)算出する。
本例では、算出する特徴ベクトルX
iとして、タイヤ振動の時系列波形を、それぞれ、0-0.5kHz、0.5-1kHz、1-2kHz、2-3kHz、3-4kHz、4-5kHzのバンドパスフィルタにそれぞれ通して得られた特定周波数帯域の振動レベル(フィルター濾過波のパワー値)a
ik(k=1〜6)を用いた。特徴ベクトルは、X
i=(a
i1,a
i2,a
i3,a
i4,a
i5,a
i6)で、特徴ベクトルX
iの数はN個である。
図5は、特徴ベクトルX
iの入力空間を示す模式図で、各軸は特徴量である特定周波数帯域の振動レベルa
ikを表し、各点が特徴ベクトルX
iを表している。実際の入力空間は特定周波数帯域の数が3つなので時間軸と合わせると7次元空間になるが、同図は2次元(横軸がa
1、縦軸がa
2)で表している。
同図において、グループCがDRY路面を走行しているときの特徴ベクトルX
iの集合で、グループC’がWET路面を走行しているときの特徴ベクトルX’
iの集合とすると、グループCとグループC’とを区別することができれば、タイヤの走行している路面がDRY路面かWET路面かを判別することができる。
【0015】
記憶手段15は、予め求めておいた、DRY路面とWET路面とを識別するためのDW識別モデルを記憶する。
DW識別モデルは、DRY路面とWET路面とを分離超平面を表わす識別関数f(x)により分離するための基準特徴量である基準特徴ベクトルY
ASV(y
jk)と、基準特徴ベクトルY
ASV(y
jk)に対応するラグランジュ乗数λ
Aとを備える。
基準特徴量Y
ASV(y
jk)及びλ
Aは、加速度センサーを取り付けたタイヤを搭載した試験車両を、DRY路面とWET路面にて、様々な速度で走行させて得られたタイヤ振動の時系列波形から算出された時間窓毎の特徴ベクトルである路面特徴ベクトルY
A(y
jk)を入力データとして、学習により求められる。
なお、学習に使うタイヤサイズは1種類でもよいし、複数種でもよい。
基準特徴ベクトルY
ASV(y
jk)の添え字Aは、DRYもしくはWETを示している。
また、添字j(j=1〜M)は時間窓毎に抽出した時系列波形の窓番号を示し、添字kはベクトルの成分を示している(k=1〜6)。すなわち、y
jk=(a
j1,a
j2,a
j3,a
j4,a
j5,a
j6)である。また、SVはサポートベクトルの略である。
なお、本例のように、グローバルアライメントカーネル関数を用いる場合には、基準特徴ベクトルY
ASV(y
jk)は、ベクトルy
iの次元数(ここでは、6×M(M;窓の数))の行列となる。
以下、路面特徴ベクトルY
A(y
jk)及び基準特徴ベクトルY
ASV(y
jk)を、それぞれ、Y
A、Y
ASVと記す。
【0016】
路面特徴ベクトルY
Aの算出方法は、前述した特徴ベクトルX
jと同様で、例えば、DRY路面の基準特徴ベクトルY
Dなら、DRY路面を走行したときのタイヤ振動の時系列波形を時間幅ΔTで窓掛けし、時間窓毎にタイヤ振動の時系列波形を抽出し、抽出された各時間窓の時系列波形のそれぞれに対してDRY路面特徴ベクトルY
Dを算出する。同様に、WET路面特徴ベクトルY
Wは、WET路面を走行したときの時間窓毎の時系列波形から算出される。
また、基準特徴ベクトルY
ASVは、DRY路面特徴ベクトルY
DとWET路面特徴ベクトルY
Wとを学習データとしたサポートベクトルマシーン(SVM)により、サポートベクトルとして選択された特徴ベクトルである。
なお、記憶手段15には全ての基準特徴ベクトルY
ASVを記憶する必要はなく、一般には、ラグランジュ乗数λが、所定の値λ
min(例えば、λ
min=0.05)以上であるサポートベクトルY
ASVのみを、基準特徴ベクトルY
ASVとして記憶すればよい。
ここで、時間幅ΔTが、特徴ベクトルX
jを求める場合の時間幅ΔTと同じ値であることが肝要である。時間幅Tが一定なら、時間窓の時系列波形の数Mはタイヤ種と車速によって異なる。すなわち、路面特徴ベクトルY
ASVの時間窓の時系列波形の数Mは、特徴ベクトルX
jの時間窓の時系列波形の数Nとは必ずしも一致しない。例えば、タイヤ種が同じでも、特徴ベクトルX
jを求めるときの車速が路面特徴ベクトルY
ASVを求めたときの車速よりも遅い場合には、M>Nとなり、速い場合にはM<Nとなる。
【0017】
図6は、入力空間上におけるDRY路面特徴ベクトルY
DとWET路面特徴ベクトルY
Wを示す概念図で、同図の黒丸がDRY路面、白丸がWET路面である。
なお、前述したように、DRY路面特徴ベクトルY
DもWET路面特徴ベクトルY
Wも行列であるが、グループの識別境界の求め方を説明するため、
図6では、DRY路面特徴ベクトルY
DとWET路面特徴ベクトルY
Wとをそれぞれ2次元のベクトルで示した。
グループの識別境界は、一般には、線形分離が不可能である。そこで、カーネル法を用いて、路面特徴ベクトルY
V及びY
Wを非線形写像φによって高次元特徴空間に写像して線形分離を行うことで、元の入力空間において路面特徴ベクトルY
D及びY
Wに対して非線形な分類を行う。
DRY路面とWET路面とを区別するには、DRY路面特徴ベクトルY
DjとWET路面特徴ベクトルY
Wjとを分離する分離超平面である識別関数f(x)に対してマージンを持たせることで、DRY路面とWET路面とを精度よく区別することができる。
マージンとは、分離超平面から一番近いサンプルまでの距離をいい、識別境界である分離超平面はf(x)=0である。また、DRY路面特徴ベクトルY
Djは全てf(x)≧+1の領域にあり、WET路面特徴ベクトルY
Wjは全てf(x)≦−1の領域にある。
【0018】
次に、データの集合X=(x
1,x
2,……x
n)と所属クラスz={1、−1}とを用いて、データを識別する最適な識別関数f(x)=w
Tφ(x)−bを求める。ここで、wは重み係数を表すベクトルで、bは定数である。
また、データはDRY路面特徴ベクトルY
DjとWER路面特徴ベクトルY
Wjであり、所属クラスはz=1が同図のχ
1で示すDRY路面のデータで、z=−1がχ
2で示すWET路面のデータである。f(x)=0が識別境界で、1/||w||が路面特徴ベクトルY
Aj(A=D,W)とf(x)=0との距離である。
識別関数f(x)=w
Tφ(x)−bは、例えば、ラグランジュ未定乗数法を用いて最適化される。最適化問題は、以下の式(1),(2)に置き換えられる。
【数1】
ここで、α,βは複数ある学習データの指標である。また、λはラグランジュ乗数で、λ=0である路面特徴ベクトルY
Ajは、識別関数f(x)には関与しない(サポートベクトルではない)ベクトルデータである。
ここで、内積φ
T(x
α)φ(x
β)をカーネル関数K(x
α,x
β)に置き換えることで、識別関数f(x)=w
Tφ(x)−bを非線形化できる。
なお、φ
T(x
α)φ(x
β)は、x
αとx
βを写像φで高次元空間へ写像した後の内積である。
ラグランジュ乗数λは、前記の式(2)について、最急下降法やSMO(Sequential Minimal Optimization)などの最適化アルゴリズムを用いて求めることができる。
このように、内積φ
T(x
α)φ(x
β)を直接求めずに、カーネル関数K(x
α,x
β)に置き換えるようにすれば、高次元の内積を直接求める必要がないので、計算時間を大幅に縮減できる。
【0019】
本例では、カーネル関数K(x
α,x
β)として、グローバルアライメントカーネル関数(GAカーネル)を用いた。
GAカーネルK(x
α,x
β)は、
図7及び以下の式(3),(4)に示すように、特徴ベクトルx
αと特徴ベクトルx
βとの類似度を示すローカルカーネルκ
ij(x
αi,x
βj)の総和もしくは総積から成る関数で、時間長さの異なる時系列波形を直接比較することができる。
ローカルカーネルκ
ij(x
αi,x
βj)は、時間間隔Tの窓毎に求められる。
なお、
図7は、時間窓の数が6である特徴ベクトルx
αiと、時間窓の数が4である特徴ベクトルx
βとのGAカーネルを求めた例である。
【数2】
ここで、||x
αi−x
βj||は、特徴ベクトル間の距離(ノルム)で、σは定数である。
【0020】
演算用特徴量抽出手段18は、記憶手段15に記録されているDRY路面の基準特徴ベクトルY
DSVとWET路面の基準特徴ベクトルY
WSVとの中から、カーネル関数の演算に使用するための基準特徴ベクトルY
DKとY
WKとを選択して抽出し、それぞれ、DRY路面の演算用特徴ベクトルY
DK及びWET路面の演算用特徴ベクトルY
WKとして、カーネル関数算出手段16に送る。
演算用特徴ベクトルY
AKの選択基準としては、例えば、以下の3つの選択基準が挙げられる。
選択基準1;λ≧mである基準特徴ベクトルY
AKを採用する。
但し、m>λ
min=0.05
選択基準2;λの配列を降順に並べ替え、値の大きいものから一定数N個採用する。
選択基準3;λの配列を降順に並べ替え、それぞれのλをλ配列の合計でわることで、
割合を算出し、それぞれのλが全体の何%の大きさを占めるかを評価、
つまり、寄与率を計算して採用する。
具体的には、寄与率をλの大きいほうから足していき、
寄与率の積算値がk%(例えば、80%)を超えるλまでを採用する。
具体例を、以下の表1に示す。
【表1】
本例では、選択基準1(λ≧0.3)とした。
これにより、データ量を削減できるので、カーネル関数K(X,Y)の演算時間を速くすることができる。
【0021】
カーネル関数算出手段16は、特徴ベクトル算出手段14にて算出された特徴ベクトルX
iと、演算用特徴量抽出手段18で抽出されたDRY路面の演算用特徴ベクトルY
DKとWET路面の演算用特徴ベクトルY
WKとから、DRYGAカーネルK
D(X,Y
DK)とWETGAカーネルK
W(X,Y
WK)とを算出する。
DRYGAカーネルK
D(X,Y
DK)は、上記式(3)及び(4)において、特徴ベクトルx
iαを特徴ベクトル算出手段14で算出された特徴ベクトルX
iとし、特徴ベクトルx
βをDRY路面の演算用特徴ベクトルY
DKjとしたときのローカルカーネルκ
ij(X
i,Y
DKj)の総和もしくは総積から成る関数で、WETGAカーネルK
W(X,Y
WK)は、特徴ベクトルx
βをWET路面の演算用特徴ベクトルY
WKjとしたときのローカルカーネルκ
ij(X
i,Y
Kj)の総和もしくは総積から成る関数である。これらのGAカーネルK
D(X,Y
DK)及びGAカーネルK
W(X,Y
WK)を用いることで、時間長さの異なる時系列波形を直接比較することができる。
なお、上記のように、特徴ベクトルX
iを求めた場合の時間窓の時系列波形の数nと路面特徴ベクトルY
Ajを求めた場合の時間窓の時系列波形の数mとが異なっている場合でも、特徴ベクトルX
iと基準特徴ベクトルY
ASVjである演算用特徴ベクトルY
WKj間の類似度を求めることができる。
【0022】
路面状態判別手段17では、以下の式(5)式に示す、カーネル関数K
D(X,Y
DK)とカーネル関数K
W(X,Y
WK)を用いた識別関数f
DW(x)の値とに基づいて路面状態を判別する。
【数3】
ここで、N
DKはDRY路面の演算用特徴ベクトルY
DKjの個数で、N
WKはWET路面の演算用特徴ベクトルY
WKjの個数である。
本例では、識別関数f
DWを計算し、f
DW>0であれば、路面がDRY路面であると判別し、f
DW<0であれば、路面がWET路面であると判別する。
演算用特徴ベクトルY
DKjの個数N
DK及び演算用特徴ベクトルY
WKjの個数N
WKは、それぞれ基準特徴ベクトルY
DSVの個数N
DSV及び基準特徴ベクトルY
WSVの個数N
WSVよりも少ないので、カーネル関数K(X,Y)の演算時間を速くすることができる。
なお、後述する[実施例1]に示すように、演算用特徴ベクトルY
DKj及び演算用特徴ベクトルY
WKjの選定基準をλ≧0.3としても、DRY/WETの2路面の判別精度を十分確保することができる。
【0023】
次に、路面状態判別装置10を用いて、タイヤ20の走行している路面の状態を判別する方法について、
図8のフローチャートを参照して説明する。
まず、加速度センサー11によりタイヤ20が走行している路面Rからの入力により発生したタイヤ振動を検出し(ステップS10)、検出されたタイヤ振動の信号からタイヤ振動の時系列波形を抽出する(ステップS11)。
そして、抽出されたタイヤ振動の時系列波形を予め設定した時間幅ΔTで窓掛けして、時間窓毎のタイヤ振動の時系列波形を求める。ここで、時間窓毎のタイヤ振動の時系列波形の数をm個とする(ステップS12)。
次に、抽出された各時間窓の時系列波形のそれぞれに対して特徴ベクトルX
i=(x
i1,x
i2,x
i3,x
i4,x
i5,x
i6)を算出する(ステップS13)。本例では時間幅Tを3msec.とした。また、特徴ベクトルX
iの数は6個である。
特徴ベクトルX
iの各成分x
i1〜x
i6(i=1〜6)は、前述したように、タイヤ振動の時系列波形のフィルター濾過波のパワー値である。
次に、算出された特徴ベクトルX
iと記憶手段15に記録されているDRY路面及びWET路面の基準特徴ベクトルY
ASVjとの中から、DRY路面の演算用特徴ベクトルY
DKとWET路面の演算用特徴ベクトルY
WKとを抽出する(ステップS14)。そして、これら演算用特徴ベクトルY
DK及び演算用特徴ベクトルY
WKと、特徴ベクトルX
iとから、ローカルカーネルκ
ij(X
i,Y
AKj)を算出した後、ローカルカーネルκ
ij(X
i,Y
AKj)の総和を求めて、GAカーネル関数K
A(X,Y
AK)をそれぞれ算出する(ステップS15)。
A=DであるGAカーネル関数K
D(X,Y
DK)がDRY路面のGAカーネル関数で、A=WであるGAカーネル関数K
W(X,Y
WK)がWET路面のGAカーネル関数である。
そして、DRY路面のGAカーネル関数K
DとWET路面のGAカーネル関数K
Wとを用いた識別関数f
DW(x)を計算(ステップS16)し、f
DW>0であれば、路面がDRY路面であると判別し、f
DW<0であれば、路面がWET路面であると判別する。(ステップS17)。
このように、カーネル関数の計算に使用する基準特徴ベクトルである演算用特徴ベクトルY
AKとして、λ≧m(>λ
min=0.05)である基準特徴ベクトルY
ADVを採用することで、路面状態の判別精度を確保しつつ、データ量を削減できるので、路面判別時間を効果的に短縮することができる。
【0024】
[実施例]
DRY路面のサポートベクトルとWET路面のサポートベクトルとを、予めDRY路面とWET路面にて求めておいた、DRY路面とWET路面とを走行したときのタイヤ振動の時系列波形から算出された時間窓毎の特徴量である路面データを学習データとして、機械学習(SVM)により求めた。
具体的には、以下の表2に示すように、使用した路面データを、訓練用(Train用)とテスト用(Test用)とに分け、DRY路面のサポートベクトルとWET路面のサポートベクトルとを求めた後、DRY路面のサポートベクトルとWET路面のサポートベクトルの境界面とを求めた。このとき、サポートベクターマシーンのハイパーパラメータC,σは、それぞれ、C=2、σ=125とした。
このとき、サポートベクトルの数は最大で415個であった。
【表2】
図9(a)はサポートベクトルの分布を示す図で、
図9(b)はλ≧mであるサポートベクトルの個数を示す図である。
図9(b)に示すように、mを0.3とすれば、λ≧m以上であるサポートベクトルの個数は、従来のm=λ
min=0.05に比較して、約半分になることがわかる。
また、
図10は、m=0.05,0.1,0.3,0.5,1.0としたときの、判別精度を示すグラフで、演算用特徴ベクトルY
AKの選択基準をλ≧0.3とした場合、判別精度は、従来のλ≧0.05とした場合の95%を確保しつつ、サポートベクトルの個数を415個から260個(およそ、47%減)に減らすことができた。
また、同様に、計算時間を計測したところ、従来の42%減を達成できた。
これにより、ラグランジェ未定乗数λが予め設定された閾値m以上である基準特徴量を、カーネル関数を演算に使用する特徴量とすれば、路面状態の判別精度を確保しつつ、計算速度を速くすることができることが確認された。なお、従来の90%以上の判別精度を確保するには、m<0.35とすることが好ましい。
【0025】
以上、本発明を実施の形態及び実施例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0026】
例えば、前記実施の形態では、DW識別モデルを用いてタイヤ20の走行している路面が、DRY路面であるかWET路面であるかの2路面判別を行ったが、以下の6つの路面識別モデルを用いれば、タイヤ20の走行している路面が、DRY路面、WET路面、SNOW路面、ICE路面のいずれであるか判別することができる。
ここで、A,A’=DRY,WET,SNOW,ICE(A≠A’)とすると、AA’識別モデルは、A路面とA’路面とを分離超平面を表わす識別関数f
AA’(x)により分離するための基準特徴量であるA路面特徴ベクトルY
ASVとラグランジュ乗数λ
AA’、及び、A’路面特徴ベクトルY
A’SVラグランジュ乗数λ
A’Aを備える。
基準特徴量Y
ASV及びλ
Aは、加速度センサーを取り付けたタイヤを搭載した試験車両を、DRY,WET,SNOW,ICEの各路面にて、様々な速度で走行させて得られたタイヤ振動の時系列波形から算出された時間窓毎の特徴ベクトルである路面特徴ベクトルY
A(y
jk)を入力データとして、学習により求められる。
なお、A路面のデータは、
図6のχ
1で示すz=1に所属するデータで、A’路面のデータは、χ
2で示すz=−1に所属するデータである。
【0027】
ところで、基準特徴ベクトルY
ASVに対応するラグランジュ乗数λ
Aが識別モデル毎にあることに注意する必要がある。例えば、DRY路面特徴ベクトルY
DSVに対応する3つのラグランジュ乗数λ
DW,λ
DS,λ
DIはそれぞれ異なる値をもつ。他の路面特徴ベクトルY
WSV,Y
SSV,Y
ISVについても同様である。
ここでは、GAカーネル関数K(X,Y)に使用する特徴ベクトルを演算用特徴ベクトルY
AKとして、GAカーネル関数K
A(X,Y
AK)を算出している。
GAカーネル関数K
A(X,Y
AK)の算出方法は実施の形態1と同様で、A=DであるGAカーネル関数K
D(X,Y
DK)がDRY路面のGAカーネル関数、A=WであるGAカーネル関数K
W(X,Y
WK)がWET路面のGAカーネル関数、A=SであるGAカーネル関数K
S(X,Y
SK)がSNOW路面のGAカーネル関数、A=IであるGAカーネル関数K
I(X,Y
IK)がICE路面のGAカーネル関数である。
路面状態の判別は、以下の式(6)〜(11)に示す6つの識別関数f
AA’(x)を用いて行う。
【数4】
上記のように、識別関数がf
AA’(x)であれば、A路面のデータがz=1に所属するデーで、A’路面のデータがz=−1に所属するデータであるので、6つの識別関数f
AA’から、以下のように路面判別することができる。
f
DW >0、f
DS>0、f
DI>0であれば、路面がDRY路面であると判別する。
f
DW <0、f
WS>0、f
WI>0であれば、路面がWET路面であると判別する。
f
DS <0、f
WS>0、f
SI>0であれば、路面がSNOW路面であると判別する。
f
DI <0、f
WI<0、f
SI<0であれば、路面がICE路面であると判別する。
なお、GAカーネル関数K(X,Y)に使用する特徴ベクトルを基準特徴ベクトルY
ASVとした場合には、式(6)〜(11)において、Y
AA’KをY
AA’SVとし、N
AA’KをN
AA’SVとすればよい。
【0028】
また、前記実施の形態では、タイヤ振動検出手段を加速度センサー11としたが、圧力センサーなどの他の振動検出手段を用いてもよい。また、加速度センサー11の設置箇所についても、タイヤ幅方向中心から幅方向に所定距離だけ離隔した位置に1個ずつ配設したり、ブロック内に設置するなど他の箇所に設置してもよい。
また、前記実施の形態では、特徴ベクトルX
iをフィルター濾過波のパワー値x
ikとしたが、フィルター濾過波のパワー値x
ikの時変分散(log[x
ik(t)
2+x
ik(t-1)
2])を用いてもよい。あるいは、特徴ベクトルX
iを、タイヤ振動時系列波形をフーリエ変換したときの特定周波数帯域の振動レベルであるフーリエ係数、もしくは、ケプストラム係数としてもよい。ケプストラム係数は、フーリエ変換後の波形をスペクトル波形とみなし、再度フーリエ変換して得られるか、もしくは、ARスペクトルを波形とみなし、更にAR係数を求めて得られる(LPC Cepstrum)もので、絶対レベルに影響されずにスペクトルの形状を特徴付けできるので、フーリエ変換により得られる周波数スペクトルを用いた場合よりも判別精度が向上する。
また、前記実施の形態では、カーネル関数としてGAカーネルを用いたが、ダイナミックタイムワーピングカーネル関数(DTWカーネル)を用いてもよい。あるいは、GAカーネルとDTWカーネル演算値を用いてもよい。