【文献】
精神雑誌,2012年,114巻, 3号,p. 276-282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
認知症は、通常の老化現象では説明できない複数の認知領域の障害と、機能の著しい低下と、せん妄がないこととを特徴とする臨床症候群である。加えて、神経精神症状が最初の診断時にすでに認められる場合が多く、そのうえ、疾患が進行するにつれて時間の経過とともに回数及び強度が増大する。アルツハイマー病(AD)患者における神経精神症状は多様であり、アパシーから情動不安におよぶ。
【0003】
選択的5−HT
6受容体アンタゴニストを認知機能障害の治療に使用することが提案されており、それはいくつかの理由に基づく。例えば、選択的5−HT
6受容体アンタゴニストは、コリン作動性及びグルタミン酸作動性のニューロン機能を調節することが示されてきた。選択的5−HT
6受容体アンタゴニストの活性は、認知機能の動物モデルにおいて示されてきた。最初の選択的5−HT
6受容体アンタゴニストが開示されて以来、認知機能のインビボモデルにおける、これらの選択的化合物の活性に関する報告がいくつかなされている。
【0004】
N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミン(INN名はイダロピルジン)は、現在臨床開発中の強力で選択的な5−HT
6受容体アンタゴニストである。N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンはまた、Lu AE58054としても開示された。
【0005】
N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンは、国際公開第02/078693号パンフレットにおいて最初に開示され、N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンの用量範囲は国際公開第2014/037532号パンフレットにおいて開示されている。
【0006】
無作為化二重盲検プラセボ対照第2相試験は、Lancet Neurol 2014;13:141−49(オンラインで発行 2014年10月6日)において報告された。この研究(以下LADDER研究と称される)では、ドネペジルにより治療した中等度ADの患者において、イダロピルジンの認知機能に対する効果を評価した。
【0007】
Avineuro Pharmaceuticalsは、認知症状及びアルツハイマー病の潜在的な治療のための経口低分子5−HT
6受容体アンタゴニスト(AVN−211(CD−008−0173))を開発している。AVN−211は、3−スルホニル−ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン誘導体であり、国際公開第2009/093206号パンフレットに3−ベンゼンスルホニル−5,7−ジメチル−2−メチルスルファニル−ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンとして開示されている。
【0008】
Axovant Sciences Ltdは、アルツハイマー病の潜在的な治療のための経口低分子5−HT
6受容体アンタゴニスト(RVT−101(SB−742457、CAS登録番号607742−69−8))を開発している。RVT−101は、8−ピペラジン−1−イルキノリン誘導体であり、国際公開第2009/093206号パンフレットに3−フェニルスルホニル−8−ピペラジン−1−イル−キノリンとして開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
アパシーは、活動に参加するための始動及び意欲の喪失、引きこもり、並びに情動不関によって特徴付けられる。アパシーを伴う患者は、日常生活機能の低下及び実行認知機能障害などの特定の認知障害を漸進的に患う危険性が増大する。そのため、このような患者は、アルツハイマー病に罹患している他の患者よりも早期からより多くのケアを与えてくれる家族に依存する傾向があり、その結果家族のストレスが増大する。
【0011】
本発明の発明者らは驚くべきことに、アパシーが、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のドネペジル((RS)−2−[(1−ベンジル−4−ピペリジル)メチル]−5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロインデン−1−オン)との併用において、5−HT
6受容体アンタゴニストであるイダロピルジンの治療応答が高まったアルツハイマー病患者のサブグループに対する表現型マーカーであることを見出した。
【0012】
イダロピルジンは、高い特異性及び他の薬理学的受容体に実質的に結合しない5−HT
6受容体アンタゴニストであるため、AVN−211及びRVT−101などの他の5−HT
6受容体アンタゴニストも、アパシーを併発する患者のアルツハイマー病において、治療応答を増大させることになると考えられる。
【0013】
発明の実施形態
以下に本発明の実施形態を開示する。第1の実施形態をE1と表し、第2の実施形態をE2などのように表す。
【0014】
E1 アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の効果を向上又は増大させることによる、アパシーがアルツハイマー病と併存するアルツハイマー病の治療に使用するための、5−HT
6受容体アンタゴニスト又はその薬学的に許容される塩。
【0015】
E2 E1の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストは、イダロピルジン、AVN−211及びRVT−101、又は前記5−HT
6受容体アンタゴニストの薬学的に許容される塩からなる群から選択される。
【0016】
E3 E1又はE2の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストは、イダロピルジン又はその薬学的に許容される塩である。
【0017】
E4 E1又はE3の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストは、イダロピルジンの塩酸塩である。
【0018】
E5 E1又はE2の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストは、AVN−211又はその薬学的に許容される塩である。
【0019】
E6 E1又はE2の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストは、RVT−101又はその薬学的に許容される塩である。
【0020】
E7 E1の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミン、又は前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の薬学的に許容される塩からなる群から選択される。
【0021】
E8 E1又はE7の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル又はその薬学的に許容される塩である。
【0022】
E9 E1又はE8の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジルの塩酸塩である。
【0023】
E10 E1又はE7の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、リバスチグミン又はその薬学的に許容される塩である。
【0024】
E11 E1又はE10の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、リバスチグミンの塩酸塩又は酒石酸塩である。
【0025】
E12 E1又はE7の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン又はその薬学的に許容される塩である。
【0026】
E13 E1又はE12の実施形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミンの臭化水素酸塩である。
【0027】
E14 E1、E3又はE8の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストはイダロピルジンであり、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤はドネペジルである。
【0028】
E15 E1又はE14の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストはイダロピルジンの塩酸塩であり、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤はドネペジルの塩酸塩である。
【0029】
E16 E1、E14又はE15の実施形態では、イダロピルジンの用量範囲は10mg/日〜90mg/日である。
【0030】
E17 E1、E3、E4、E14又はE15の実施形態では、イダロピルジンの用量範囲は30mg/日〜60mg/日である。
【0031】
E18 E17の実施形態では、イダロピルジンの用量は30mg/日である。
【0032】
E19 E17の実施形態では、イダロピルジンの用量は60mg/日である。
【0033】
E20 E1、E8、E9、E14又はE15の実施形態では、ドネペジルの用量範囲は2mg/日〜25mg/日、好ましくは5mg/日〜23mg/日である。
【0034】
E21 アパシーがアルツハイマー病と併存するアルツハイマー病の治療のための、イダロピルジン、RVT−101及びAVN−211、又は前記5−HT
6受容体アンタゴニストの薬学的に許容される塩からなる群から選択される5−HT
6受容体アンタゴニストと、ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミン、又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤と、を含む医薬組成物。
【0035】
E22 アパシーがアルツハイマー病と併存するアルツハイマー病の治療用薬剤の製造のための、イダロピルジン、RVT−101及びAVN−211、又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される5−HT
6受容体アンタゴニストの使用。
【0036】
E23 アパシーがアルツハイマー病と併存するアルツハイマー病の治療用薬剤の製造のための、イダロピルジン、RVT−101及びAVN−211、又は薬学的に許容される塩5−HT
6受容体アンタゴニストからなる群から選択される5−HT
6受容体アンタゴニストと、ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミン、又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の薬学的に許容される塩からなる群から選択されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との使用。
【0037】
E24 E1〜E23のいずれかの実施形態では、アルツハイマー病は軽度から中等度の段階である。
【0038】
E25 E1〜E24のいずれかの実施形態では、アルツハイマー病は中等度から重度の段階である。
【0039】
定義
本明細書を通して、用語「5−HT
6受容体アンタゴニスト」、及びイダロピルジン、AVN−211又はRVT−101などの任意の特定の5−HT
6受容体アンタゴニストは、他に断りがなければ、遊離塩基及び薬学的に許容される塩などのあらゆる形態の化合物を含むものとする。遊離塩基及び薬学的に許容される塩には、無水物の形態、及び水和物などの溶媒和形態が含まれる。無水物の形態には、非晶質及び結晶の形態が含まれ、溶媒和物には結晶の形態が含まれる。更に、他に断りがなければ、用語「5−HT
6受容体アンタゴニスト」は、ヒト5−HT
6受容体アンタゴニスト(「h5−HT
6受容体アンタゴニスト」と表される場合もある)を含む。
【0040】
同様に、用語「アセチルコリンエステラーゼ阻害剤」(「AChEI」と略記される)及び「ドネペジル」などの任意の特定のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(acethylcholinesterase inhibitor)は、遊離塩基及び薬学的に許容される塩などのあらゆる形態の化合物を含むものとする。
【0041】
用語「アセチルコリンエステラーゼ阻害剤」(AChEI)は、当業者に既知であり、ドネペジル((RS)−2−[(1−ベンジル−4−ピペリジル)メチル]−5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロインデン−1−オン)、リバスチグミン((S)−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニル N−エチル−N−メチルカルバマート)、ガランタミン((4aS,6R,8aS)−5,6,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル−4aH−[1]ベンゾフロ[3a,3,2−ef][2]ベンゾアゼピン−6−オール)、及びタクリン(1,2,3,4−テトラヒドロアクリジン−9−アミン)からなる群から選択される化合物を含む。FDAが承認したアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の用量は、本発明に包含される。例えば、軽度から中等度のアルツハイマー病の治療の対照臨床試験において有効であると示されているドネペジルの用量は、1日1回経口投与される5mg又は10mgである。ドネペジルの1日1回の経口用量23mgも、中等度から重度のADの治療に承認されている。
【0042】
本明細書の文脈では、イダロピルジン、AVN−211若しくはRVT−101、又は任意の他の5−HT
6受容体アンタゴニストなどの5−HT
6受容体アンタゴニストが、ドネペジル、リバスチグミン、タクリン又はガランタミンなどのAChEIと組み合わされて用いられるとき、一実施形態では、このことは、前記2つの化合物を、例えば、両化合物を含有する医薬組成物において同時に投与することができることを示す。別の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストがAChEIと組み合わされて用いられるとき、このことは、前記2つの化合物を好適な個別の医薬組成物において別々に投与することを示す。これらの個別の組成物を、例えば、朝又は夜のいずれかに1日1回の規則的な間隔で同時に投与してもよく、あるいは、例えば、朝に1日1回の規則的な間隔で一方の化合物を、また夜に1日1回の規則的な間隔で他方の化合物を、別々に投与してもよい。
【0043】
本発明の文脈では、併存疾患は、一次診断(アルツハイマー病など)と共に存在する2以上の障害又は疾患(アパシーなど)を指し、ここで、一次診断は、患者が受診し、且つ/又は治療される理由である。
【0044】
本発明の文脈では、アパシーは、NPI法の適用を通して得られる2、3、4、6、8、又は12のスコアなど、1以上のスコアとして定義される。NPIは、介護者による構造化面接が検証される12個の項目であり、認知症患者の行動障害を評価するために設計され、また、アパシーを含む10個の行動に関する領域及び2個の自律神経に関する領域を含んでいる。NPIについては、Cummings JL et al.The Neuropsychiatric Inventory:comprehensive assessment of psychopathology in dementia.Neurology 1994;44:2308−14に更に記載されている。
【0045】
5−HT
6受容体アンタゴニストの「治療有効用量」とは、ADAS−cog(Rosen WG et al.A new scale for Alzheimer’s disease.Am J Psychiatry 1984;141:1356−64)で測定されるアルツハイマー病及び併用療法と共に治療されるアルツハイマー病に関連する認知症の、ベースラインの臨床的に観察可能な徴候並びに症状と比較して、観察可能な治療効果を生むのに十分な量である。
【0046】
用語「1日」は、所与の連続的な24時間を意味する。
【0047】
用語「用量」は、本明細書では、治療される患者に1つの剤形で5−HT
6受容体アンタゴニスト又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与することを意味するのに使用される。いくつかの実施形態では、用量は単一の経口製剤である。いくつかの実施形態では、用量は、患者に投与される、錠剤、カプセル剤、丸剤又は貼付剤として製剤化される。
【0048】
本明細書の文脈では、「単位剤形」とは、医薬組成物の製剤単位、例えば1つの錠剤又は1つのカプセル剤を指す。
【0049】
用語「有効1日用量」は、治療を必要とする患者に、連続した24時間のうちに投与される5−HT
6受容体アンタゴニスト又はAChEIの総量を意味する。この用語の意味を単に例示するために本明細書で使用する非限定的な例として、有効1日量90mgは、24時間以内に単一用量90mgを投与すること、24時間以内に各45mgの用量を2回投与すること、及び24時間以内に各30mgの用量を3回投与することなどを意味し、含むものとする。5−HT
6受容体アンタゴニストをこのような方法で、すなわち、24時間以内に2回以上投与する場合、このような投与は24時間を通して均一に分散させてもよく、あるいは同時に又はほぼ同時に投与してもよい。
【0050】
用語「用量範囲」は、本明細書で使用する場合、指定された薬剤の量の許容される変化量の上限及び下限を指す。通常、指定した範囲内の任意の量の薬剤の用量を、治療を受ける患者に投与することができる。
【0051】
用語「治療する」は、本明細書では、対象の疾患の少なくとも1つの症状を緩和する、低減する又は軽減することを意味するのに使用される。例えば、認知症に関して、用語「治療する」とは、認知機能障害(記憶及び/又は見当識の障害など)又は全般的な機能(日常生活の動作を含む全体的な機能)の障害を緩和するか又は軽減すること、及び/又は全般的障害又は認知機能障害の悪化の進行を遅延させるか又は好転させることを意味し得る。
【0052】
薬学的に許容される塩
本発明はまた、5−HT
6受容体アンタゴニストの塩、典型的には、薬学的に許容される塩を含む。このような塩は、薬学的に許容される酸付加塩を含む。酸付加塩は、無機酸及び有機酸の塩を含む。
【0053】
好適な無機酸の代表例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸などが挙げられる。好適な有機酸の代表例としては、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、安息香酸、ケイ皮酸、クエン酸、フマル酸、グリコール酸、イタコン酸、乳酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、シュウ酸、ピクリン酸、ピルビン酸、サリチル酸、コハク酸、メタン スルホン酸、エタンスルホン酸、酒石酸、アスコルビン酸、パモ酸、ビスメチレンサリチル酸、エタンジスルホン酸、グルコン酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、EDTA、グリコール酸、p−アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、テオフィリン酢酸及び8−ハロテオフィリン(例えば、8−ブロモテオフィリンなど)が挙げられる。薬学的に許容される無機酸付加塩又は有機酸付加塩の更なる例としては、Berge,S.M.et al.,J.Pharm.Sci.1977,66,2に記載の薬学的に許容される塩が挙げられ、その内容が本明細書に参照により組み込まれる。
【0054】
更に、本発明の化合物は、水、エタノールなどの薬学的に許容される溶媒と共に非溶媒和形態及び溶媒和形態において存在し得る。一般に、溶媒和形態は、本発明の目的で非溶媒和形態と等価であるとみなされる。
【0055】
本発明の特定の実施形態では、5−HT
6受容体アンタゴニストは、イダロピルジンの塩酸塩の形態である。
【0056】
医薬組成物
本発明は更に、治療有効量の5−HT
6受容体アンタゴニスト及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。本発明はまた、治療有効量の5−HT
6受容体アンタゴニストの1つ及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0057】
5−HT
6受容体アンタゴニストは、単独で、又は薬学的に許容される担体、希釈剤若しくは賦形剤と組み合わせて、単回用量又は複数回用量で投与され得る。本発明による医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は希釈剤並びに任意の他の公知の補助剤及び賦形剤と共に、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21
st Edition,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA,2005に開示されているものなど従来の技法に従って製剤化され得る。
【0058】
医薬組成物は、経口、直腸、鼻腔、肺、局所(頬側及び舌下を含む)、経皮及び非経口(皮下、筋肉内、及び静脈内を含む)経路などの任意の好適な経路による投与のために特異的に製剤化され得る。経路が、治療すべき対象の全般的な状態及び年齢、治療すべき病態の性質、並びに有効成分に依存することを理解されよう。
【0059】
経口投与用の医薬組成物としては、カプセル剤、錠剤、糖衣錠剤、丸剤、ロゼンジ剤、散剤、及び顆粒剤などの固体剤形が挙げられる。適切な場合、組成物を、腸溶性コーティングなどのコーティングと共に調製してもよく、又は当技術分野において周知である方法に従って、徐放又は持続放出などの有効成分の放出制御を実現するように製剤化してもよい。経口投与用の液体剤形としては、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤、及びエリキシル剤が挙げられる。
【0060】
非経口投与用の医薬組成物としては、滅菌した水性及び非水性の注射用液剤、分散剤、懸濁剤、又は乳剤、並びに使用前に滅菌注射用液剤又は分散液中で再構成される滅菌散剤が挙げられる。他の好適な投与形態としては、坐剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、吸入剤、皮膚パッチ剤、及びインプラントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
典型的な経口用量は、1日あたり約0.001〜約100mg/kg体重の範囲である。典型的な経口用量はまた、1日あたり約0.01〜約50mg/kg体重の範囲である。典型的な経口用量は更に、1日あたり約0.05〜約10mg/kg体重の範囲である。経口用量は、1日あたり、通常1つ以上の用量で、典型的には1〜3つの用量で投与される。正確な用量は、投与の頻度及び方法、治療される対象の性別、年齢、体重、及び全般的な状態、治療される病態及び治療すべきあらゆる随伴性疾患の性質及び重症度、並びに当業者に明らかな他の因子に依存することになる。
【0062】
製剤はまた、当業者に公知である方法により単位剤形で提供され得る。説明のために、経口投与の典型的な単位剤形は、約0.01〜約1000mg、約0.05〜約500mg、又は約0.5mg〜約200mgを含有し得る。
【0063】
本発明の5−HT
6受容体アンタゴニストは通常、遊離物質又はその薬学的に許容される塩として利用される。一例は、遊離塩基と同じ有用性を有する、5−HT
6受容体アンタゴニストの酸付加塩である。5−HT
6受容体アンタゴニストが遊離塩基を含有する場合、そのような塩は、5−HT
6受容体アンタゴニストの遊離塩基の溶液又は懸濁液を薬学的に許容される酸で処理することにより、従来の方法で調製される。好適な有機酸及び無機酸の代表例は上述されている。
【0064】
非経口投与については、滅菌水溶液、水性プロピレングリコール、又はゴマ油若しくは落花生油中の5−HT
6受容体アンタゴニスト溶液を用いることができる。このような水溶液を必要に応じて適切に緩衝化し、初めに希釈された液体を十分な生理食塩水又はグルコースで等張とすべきである。水溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与及び腹腔内投与に特に好適である。5−HT
6受容体アンタゴニストは、公知の滅菌水性媒体に、当業者に公知の標準的な技法を利用して、容易に組み込むことができる。
【0065】
好適な医薬担体としては、不活性な固体希釈剤又は充填剤、滅菌水溶液、及び種々の有機溶媒が挙げられる。固体担体の例としては、ラクトース、白土、スクロース、シクロデキストリン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、及びセルロースの低級アルキルエーテルが挙げられる。液体担体の例としては、シロップ、落花生油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン、及び水が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、担体又は希釈剤は、グリセリルモノステアラート又はグリセリルジステアラートなどの当技術分野において公知である任意の徐放性材料を、単独又は蝋と混合して含み得る。5−HT
6受容体アンタゴニストと薬学的に許容される担体とを組み合わせることにより形成される医薬組成物は、その際、開示された投与経路に好適な種々の剤形で容易に投与される。製剤は、好都合なことに、調剤の技術分野において公知の方法により、単位剤形で提供され得る。
【0066】
経口投与に好適な本発明の製剤は、それぞれが所定量の有効成分及び任意選択で好適な賦形剤を含む、カプセル剤又は錠剤などの別個の単位で提供され得る。更に、経口投与可能な製剤は、散剤若しくは顆粒剤、水性若しくは非水性液体中の液剤若しくは懸濁剤、又は水中油型若しくは油中水型液体エマルションの形態であってもよい。
【0067】
固体担体が経口投与に使用される場合、調合剤は、錠剤にされるか、粉末又はペレット形態でハードゼラチンカプセル中に配置されてもよく、又はトローチ剤又は舐剤の形態でもよい。固体担体の量は、広範にわたって変動するが、用量単位当たり約25mg〜約1gの範囲となる。液体担体を使用する場合、調合剤は、シロップ剤、乳剤、ソフトゼラチンカプセル剤、又は水性若しくは非水性の懸濁剤若しくは液剤などの滅菌注射用液剤の形態であってもよい。
【0068】
本発明の医薬組成物は、当技術分野の従来の方法により調製することができる。例えば、錠剤は、有効成分を通常の補助剤及び/又は希釈剤と混合し、その後、錠剤を調製する従来の打錠機中で混合物を圧縮することにより調製してもよい。補助剤又は希釈剤の例は、コーンスターチ、ポテトスターチ、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、ラクトース、ゴムなどを含む。着色剤、着香剤、保存剤などの目的に通常使用される任意の他の補助剤又は添加剤は、それらが有効成分と適合性があるならば使用してもよい。
【0069】
5−HT6受容体アンタゴニストは通常、遊離物質又はその薬学的に許容される塩として利用される。好適な有機酸及び無機酸の例は上述されている。
【0070】
投与計画
5−HT
6アンタゴニストの投与計画は、このアンタゴニストの実際の薬物動態学的プロファイルに依存することになるが、一般に、用量範囲は、1日に1回又は2回の投与で、5〜200mg/日になる。イダロピルジンについては、好ましい用量範囲は、1日に1回又は2回の投与で、10〜90mg/日であり、好ましくは、1日に1回の投与である。イダロピルジンのための好ましい用量範囲は、1日に1回の投与で30〜60mg/日である。
【0071】
AChEIの投与計画は、この阻害剤の実際の薬物動態学的プロファイルに依存することになるが、一般に、用量範囲は、1日に1回又は2回の投与で、5〜200mg/日になる。ガランタミンは通常、8mg/日〜24mg/日で投与され、リバスチグミンは通常、3mg/日〜12mg/日で投与され、また、ドネペジルは通常、5mg/日〜23mg/日で投与される。
【0072】
5−HT
6アンタゴニストは、AChEIと同時に投与されてもよく、又は5−HT
6アンタゴニスト及びAChEIは、お互いに単独で投与されてもよい。
【0073】
5−HT
6アンタゴニストがAChEIと同時に投与される場合、この2つの化合物は、同一の単位剤形(例えば、5−HT
6受容体アンタゴニスト及びAChEIの両方を含む単一の錠剤)、又は別々の単位剤形(例えば、5−HT
6受容体アンタゴニスト及びAChEIをそれぞれ含む2つの錠剤)中に含有され得る。
【0074】
他に断りがなければ、用量は有効な薬剤成分の遊離塩基に基づいて計算される。
【0075】
本明細書中に引用される刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が参照によって組み込まれると個々に且つ具体的に示され、そしてその全体が説明された場合と同じ程度まで(法律で許容される最大範囲まで)、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0076】
見出し及び小見出しは本明細書において便宜のためにのみ使用され、本発明をいかようにも制限するものとして解釈されるべきではない。
【0077】
本明細書におけるあらゆる例又は代表的な語(「例えば(for instance)」、「例えば(for example)」、「例えば(e.g.)」、及び「そのような(as such)」を含む)の使用は、単に本発明をより明らかにすることが意図され、特記されない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。
【0078】
本発明の説明に関する(とりわけ以下の特許請求項に関する)用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」の使用は、本明細書に特記しない限り又は文脈と明確に矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するものと解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」は、特記しない限り、オープンエンドの用語である(すなわち、「含むが、これに限定されるものではない」を意味する)ものと解釈すべきである。本明細書における値の範囲の記載は、特記しない限り、単に、その範囲に入る別個の値の各々を個々に指す簡単な方法に過ぎないものとし、別個の値の各々は、それが個々に本明細書に記載されるものとして、本明細書に組み込まれる。
【0079】
本明細書での特許文献の引用及び組み込みは、便宜のためのみに実施され、そのような特許文献の妥当性、特許性、及び/又は実行可能性のいずれの見方も反映しない。
【0080】
本発明は、該当する法により認められる通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に列挙される対象の変形形態及び等価物を全て含む。
【実施例】
【0081】
実験
実施例1:イダロピルジンの結合親和性
以前に実施されたインビトロの結合研究(Arnt J,et al.Lu AE58054,a 5−HT
6 receptor antagonist,reverses cognitive impairment induced by subchronic phencyclidine in a novel object recognition test in rats.Int J Neuropsychopharmacol 2010;13:1021−1033)では、N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンが、強力で選択的なヒト5−HT
6受容体アンタゴニストであり、ヒト5−HT
6受容体及び他のヒト5−HT受容体サブタイプに対して以下の親和性を有することが報告されている。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例2:LADDER研究
ドネペジルにより治療した中等度アルツハイマー病患者において、イダロピルジンの認知機能に対する効果を評価するために実施されたLADDER研究。
【0084】
LADDER研究は、ClinicalTrials.gov(番号NCT01019421)に登録され、Wilkinson D,et al.Safety and efficacy of idalopirdine,a 5−HT
6 receptor antagonist,in patients with moderate Alzheimer’s disease(LADDER):a randomised,double−blind,placebo−controlled phase 2 trial Lancet Neurol 2014;13:141−49にて報告されている。
【0085】
男性及び女性の両方、50歳以上、スクリーニング及びベースライン時のミニメンタルステート検査(MMSE)のスコアが12〜19であり、ドネペジルで4ヶ月以上の間毎日治療し、且つスクリーニング前に3ヶ月以上の間1日あたり10mgで安定している278人の患者が、この研究の選択対象であった。患者は無作為にイダロピルジン又はプラセボの二重盲検治療に割り当てられた(1:1)。
【0086】
70個の認知についての下位尺度、11項目のアルツハイマー病評価尺度(ADAS−cog)を、ベースライン並びに4週目、12週目及び24週目で評価した。ADAS−Cogの尺度については、Rosen WG et al.A new scale for Alzheimer’s disease.Am J Psychiatry 1984;141:1356−64に記載されている。24週目におけるベースラインからのADAS−cogの変化が、主要評価項目であり、この研究は、認知機能の向上が、プラセボよりもイダロピルジンにおいて有意に高くなることを示した。
【0087】
加えて、有効性の副次評価項目の数は、事前に規定されており、24週目で評価された。事前に規定した副次評価項目では、24週目において統計的に有意なイダロピルジンの効果は1つとしてなかった。
【0088】
実施例3:アパシーがアルツハイマー病と併存するアルツハイマー病に罹患している患者の認知におけるイダロピルジンの治療効果
上記実施例2に記載のLADDER研究の主要評価項目及び副次評価項目の解析に続いて、事後解析を実施した。事後解析は、有効性の副次評価項目である神経精神症状評価(NPI)による測定で1以上のアパシースコアを有する、本研究に登録された患者を対象とした。
【0089】
登録された患者の約44%が、ベースラインにおいて1以上のアパシースコアを有した。
【0090】
【表2】
【0091】
事後解析については、神経精神症状評価(NPI)の測定によるアパシースコアが1以上の場合、アパシーがあるものとして考えた。
【0092】
統計解析により、アパシースコアと、ADAS−Cogスコア(負のスコアは認知力の低下がより少ないことを意味し、そのため望ましい)により測定された認知におけるイダロピルジンの治療効果との間で有意水準5%の有意な相互作用を予測した。
【0093】
【表3】
【0094】
予測された相互作用はまた、2つのサブグループ(アパシーを伴う又は伴わない)におけるイダロピルジンによる治療の実際の有効性の推定値において反映されている。
【0095】
【表4】
【0096】
実施例4:アパシーが併存するアルツハイマー病に罹患している患者の日常生活動作(ADL)におけるイダロピルジンの治療効果
実施例3と同一の患者集団が、事後解析において解析された。
【0097】
事後解析については、神経精神症状評価(NPI)の測定によるアパシースコアが1以上の場合、アパシーがあるものとして考えた。
【0098】
統計解析により、アパシースコアと、ADCS−ADLスコア(Galasko et al;An inventory to assess activities of daily living for clinical trials in Alzheimer’s Disease.Alzheimer Dis Assoc Disord.1997;11(Suppl 2):22−32)(正のスコアが向上を意味する)により測定された日常生活動作におけるイダロピルジンの治療効果との間で有意水準5%の有意な相互作用を予測した。
【0099】
【表5】
【0100】
予測された相互作用はまた、2つのサブグループ(アパシーを伴う又は伴わない)におけるイダロピルジンによる治療の実際の有効性の推定値において反映されている。
【0101】
【表6】
【0102】
アルツハイマー病及び併存疾患のアパシーを伴う患者に対して、また、認知及びADLの向上に関しても、向上した有効性を有する治療法は先行技術において確立されていないため、これらの知見は新規であり、予想外のものである。
【0103】
アッセイ
5−HT結合親和性は、Arnt J,et al.Lu AE58054,a 5−HT
6 receptor antagonist,reverses cognitive impairment induced by subchronic phencyclidine in a novel object recognition test in rats.Int J Neuropsychopharmacol 2010;13:1021−1033に記載のように決定した。
【0104】
関連のある精神医学的な試験(ADAS−cog及びNPIにより評価されるアパシー)は、上の説明において参照されており、全体が本明細書に組み込まれる。
本発明は以下の態様を含み得る。
[1]
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の効果を向上又は増大させることによる、アパシーがアルツハイマー病と併存するアルツハイマー病の治療に使用するための、5−HT6受容体アンタゴニスト又はその薬学的に許容される塩。
[2]
前記5−HT6受容体アンタゴニストが、N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミン、3−ベンゼンスルホニル−5,7−ジメチル−2−メチルスルファニル−ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン及び3−フェニルスルホニル−8−ピペラジン−1−イル−キノリン並びにその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための5−HT6受容体アンタゴニスト又はその薬学的に許容される塩。
[3]
前記5−HT6受容体アンタゴニストが、N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンの薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の使用のための5−HT6受容体アンタゴニスト又はその薬学的に許容される塩。
[4]
前記5−HT6受容体アンタゴニストが、N−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンの塩酸塩である、請求項1に記載の使用のための5−HT6受容体アンタゴニスト又はその薬学的に許容される塩。
[5]
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミン又はその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[6]
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がドネペジルの塩酸塩である、請求項1に記載の使用のためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[7]
前記5−HT6受容体アンタゴニストがN−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンの塩酸塩であり、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がドネペジルの塩酸塩である、請求項1に記載の使用のための5−HT6受容体アンタゴニスト及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[8]
用量範囲が30mg/日〜60mg/日である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の使用のための5−HT6受容体アンタゴニスト。
[9]
5−HT6受容体アンタゴニスト又はその薬学的に許容される塩、及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物。
[10]
前記5−HT6受容体アンタゴニストがN−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミン又はその薬学的に許容される塩であり、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がドネペジル又はその薬学的に許容される塩である、請求項9に記載の医薬組成物。
[11]
前記5−HT6受容体アンタゴニストがN−(2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−エチル)−3−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)−ベンジルアミンの塩酸塩であり、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がドネペジルの塩酸塩である、請求項9に記載の医薬組成物。