特許第6961628号(P6961628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961628
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】外科用縫合針の急速黒色化のプロセス
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/78 20060101AFI20211025BHJP
   A61B 17/06 20060101ALI20211025BHJP
   C23C 22/62 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C23C22/78
   A61B17/06 510
   C23C22/62
【請求項の数】28
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-567211(P2018-567211)
(86)(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公表番号】特表2019-531401(P2019-531401A)
(43)【公表日】2019年10月31日
(86)【国際出願番号】US2017037611
(87)【国際公開番号】WO2017222904
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2020年3月19日
(31)【優先権主張番号】15/190,437
(32)【優先日】2016年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】オウ・デュアン・リ
(72)【発明者】
【氏名】バイレ・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】アルハマイリー・イナス
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03314812(US,A)
【文献】 特開昭61−045745(JP,A)
【文献】 特表2011−509144(JP,A)
【文献】 特開2006−028573(JP,A)
【文献】 特開平01−195286(JP,A)
【文献】 特開2001−158982(JP,A)
【文献】 特開昭57−101658(JP,A)
【文献】 特開平09−316657(JP,A)
【文献】 米国特許第05104463(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第104357826(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
A61B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用縫合針を黒色化する方法であって、
A.外表面を有する少なくとも1本の外科用縫合針を前処理浴に入れる工程であって、前記前処理浴は、
0重量%〜0重量%の水溶性塩化物塩と、
%〜5重量%の無機酸と、
5重量%〜0重量%の水と、を含み、
前記前処理浴は、.5〜.2のpHを有する、工程と、
B.次いで、前記外科用縫合針を黒色化浴に入れる工程であって、前記黒色化浴は、
重量%〜0重量%の高可溶性硝酸塩と、
8重量%〜8重量%の強塩基と、
0重量%〜5重量%の水と、
.2重量%〜重量%の強酸の遷移金属塩と、
.2重量%〜重量%のイオウ含有還元剤化合物と、を含む、工程と、
C.前記外科用縫合針の前記外表面に黒色化コーティングを提供するのに十分有効な時間、前記外科用縫合針を前記黒色化浴中に維持する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記遷移金属塩が、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、及び過塩素酸コバルトからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオウ含有還元剤化合物が、N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、及びジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理浴中の前記水溶性塩化物塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化リチウムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記前処理浴中の前記無機酸が、リン酸、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
外科用縫合針を黒色化する方法であって、
A.外表面を有する少なくとも1本の外科用縫合針を前処理浴に入れる工程であって、前記前処理浴は、
0重量%〜0重量%の水溶性塩化物塩と、
%〜5重量%の無機酸と、
5重量%〜0重量%の水と、を含み、
前記前処理浴は、.5〜.2のpHを有する、工程と、
B.次いで、前記外科用縫合針を黒色化浴に入れる工程であって、前記黒色化浴は、
重量%〜0重量%の高可溶性硝酸塩と、
8重量%〜8重量%の強塩基と、
0重量%〜5重量%の水と、
.2重量%〜重量%の高可溶性過マンガン酸塩と、
.2重量%〜重量%のチオシアン酸塩と、を含む、工程と、
C.前記外科用縫合針の前記外表面に黒色化コーティングを提供するのに十分有効な時間、前記外科用縫合針を前記黒色化浴中に維持する工程と、を含む、方法。
【請求項9】
前記高可溶性過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、及び過マンガン酸リチウムからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記黒色化浴が、水溶性塩化物塩を追加的に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、及びチオシアン酸リチウムからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記黒色化浴が、.2重量%〜重量%のモリブデン酸塩を追加的に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
ステンレス鋼合金の外科用縫合針を黒色化するためのシステムであって、
A.前処理浴であって、前記前処理浴は、
重量%〜0重量%の水溶性塩化物塩と、
重量%〜5重量%の無機酸と、
0重量%〜0重量%の水と、を含み、前記前処理浴は、.5〜.2のpHを有する、前処理浴と、
B.黒色化浴であって、前記黒色化浴は、
重量%〜5重量%の高可溶性硝酸塩と、
8重量%〜8重量%の強塩基と、
0重量%〜5重量%の水と、
.2重量%〜重量%の強酸の遷移金属塩と、
.2重量%〜重量%のイオウ含有還元剤化合物と、を含む、黒色化浴と、を含む、システム。
【請求項16】
前記遷移金属塩が、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、及び過塩素酸コバルトからなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記イオウ含有還元剤化合物が、N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、及びジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記水溶性塩化物塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化リチウムからなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
前記無機酸が、リン酸、硫酸、塩酸、及び硝酸からなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
ステンレス鋼合金の外科用縫合針を黒色化するためのシステムであって、
A.前処理浴であって、前記前処理浴は、
重量%〜0重量%の水溶性塩化物塩と、
重量%〜5重量%の無機酸と、
0重量%〜0重量%の水と、を含み、前記前処理浴は、.5〜.2のpHを有する、前処理浴と、
B.黒色化浴であって、前記黒色化浴は、
重量%〜0重量%の高可溶性硝酸塩と、
8重量%〜8重量%の強塩基と、
0重量%〜5重量%の水と、
.2重量%〜重量%の高可溶性過マンガン酸塩と、
.2重量%〜重量%のチオシアン酸塩と、を含む、黒色化浴と、を含む、システム。
【請求項23】
前記高可溶性過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、及び過マンガン酸リチウムからなる群から選択される、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記黒色化浴が、水溶性塩化物塩を追加的に含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、及びチオシアン酸リチウムからなる群から選択される、請求項22に記載のシステム。
【請求項26】
前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、請求項22に記載のシステム。
【請求項27】
前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
前記黒色化浴が、.2重量%〜重量%のモリブデン酸塩を追加的に含む、請求項22に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関連する技術分野は、外科用縫合針の製造プロセス、より具体的には、外科用縫合針の表面を黒色化するためのプロセスである。
【背景技術】
【0002】
外科用縫合針は、典型的に、外科用ステンレス鋼及び他の生体適合性金属合金等の従来の金属から作製される。針は、組織への通過を容易にし、汚染物又は異物の付着を最小限にするために、平滑な外表面を有することが望ましい。針表面は、典型的に、明るく、光沢があり、かつ反射性である、平滑な表面を提供するように研磨される。外科用縫合針は、典型的に、組織内の複数の通路を通る針の刺入を改善するため、シリコーンコーティングでコーティングされる。
【0003】
内視鏡及び腹腔鏡外科手術等、ある一定のタイプの外科手術では、外科医は、手術野のカメラ及びスクリーン表示を介して遠隔で手術部位を表示する。このような外科手術では、外科チームは、光沢のある反射面のために従来の外科用縫合針を見ることを困難に感じ得ることが知られている。このことは、組織貫通点を有する針の遠位端に特に当てはまる。腹腔鏡縫合処置を実施する際に、迅速かつ効率的に針及び針先の位置を特定できないことが、黒色化された表面を有する外科用縫合針の開発につながっている。黒色化された針は、手術野におけるより良好な可視性を有することが証明されており、多くの場合は、間接可視化を利用した最小侵襲性外科手術で好まれる。
【0004】
外科用縫合針の明るく光沢のある表面を黒色化するための黒色化プロセスは、当技術分野で既知である。プロセスとしては、化学浴、プラズマ暴露、レーザーエネルギー、酸化ヒューム等が挙げられ得る。黒色化プロセスの目的は、ステンレス鋼針の表面上に、黒色化された外観をもたらす酸化鉄(Fe)ベースの層を形成することである。
【0005】
従来技術のプロセスで使用される化学浴は、典型的に、浴の構成成分としてクロム(VI)を含有する。かかるプロセスは、多くの場合は長時間に及び、典型的に、針上の効果的に黒色化された表面を提供するのに20時間を超える処理時間を必要とする。
【0006】
従来技術の化学針黒色化プロセスは、外科用縫合針上の黒色化表面を提供するのに有効であるが、それらの使用に関連付けられた既知の欠陥が存在する。まず、必要とされる高濃度のクロム(VI)化合物を含有する黒色化浴の使用は、環境リスク及び安全上の危険の両方をもたらす。安全上の危険は、クロム(VI)化合物の発癌性を含む。六価クロム化合物の慢性吸入は、肺癌のリスクを増大させることが知られている(肺は最も脆弱であり、腎臓及び腸内の細かい毛細血管がそれに続く)。従来の針黒色化溶液中の可溶性クロム(VI)化合物は、接触皮膚炎を引き起こす又は悪化させ得る。また、クロムVIの摂取は、胃及び腸内の炎症又は潰瘍を引き起こし得る。クロム(VI)含有黒色化浴に関連付けられた環境リスクとしては、地下水及び土壌汚染が挙げられ、これは、ヒト、飼育動物、家畜、及び野生生物への曝露のリスクにつながる。かかるプロセスに関連付けられた安全上の危険及び環境リスクに加えて、既存のプロセスは非常に遅く、十分に有効な黒色化を得るため、典型的に20時間を超える最大36時間の処理時間を必要とすることが知られている。このことは、かかる黒色化プロセスが、より大きな針のバッチを黒色化浴に浸漬するバッチ式プロセスであることを余儀なくさせる。従来のプロセスは、針をストリップに取り付け、相対的に高い速度で各種の製造工程を行き来させる、高速な針製造プロセスでは使用することができない。最後に、既存のプロセスは、生産効率、有害廃棄物の生成及び処分、負担のかかる工学的制御、実質的な安全性要件、潜在的な法的責任等を含む様々な理由から、費用効果的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その結果、当技術分野においては、黒色化浴中のクロム(VI)化合物の必要性を排除する、外科用縫合針を黒色化するための新たな方法及びプロセスが必要とされる。迅速な処理時間を提供し、環境に優しく、操作が安全であり、かつ費用効果的である、黒色化方法及びプロセスも更に必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これにより、外科用縫合針の表面を黒色化する新たな方法を開示する。本発明の新たな方法では、外表面を有する少なくとも1本の外科用縫合針が前処理浴に入れられる。前処理浴は、約8重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩、約5重量%〜約15重量%の無機酸、及び約60重量%〜約90重量%の水を含有する。前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する。外科用縫合針は、次いで、黒色化浴に入れられる。黒色化浴は、約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩、約18重量%〜約38重量%の強塩基、約50重量%〜約75重量%の水、約0.2重量%〜約5重量%の強酸の遷移金属塩、及び約0.2重量%〜約5重量%のイオウ含有還元剤化合物を含有する。針は、針の外表面に黒色化コーティングを提供するための十分に有効な時間、浴中に維持される。
【0009】
本発明の別の態様は、外科用縫合針の表面を黒色化する新たな方法である。本発明の新たな方法では、外表面を有する少なくとも1本の外科用縫合針が前処理浴に入れられる。前処理浴は、約8重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩、約5重量%〜約15重量%の無機酸、及び約60重量%〜約90重量%の水を含有する。前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する。外科用縫合針は、次いで、黒色化浴に入れられる。黒色化浴は、約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩、約18重量%〜約38重量%の強塩基、約50重量%〜約75重量%の水、約0.2重量%〜約5重量%の高可溶性過マンガン酸塩、及び約0.2重量%〜約5重量%のチオシアン酸塩を含有する。針は、針の外表面に黒色化コーティングを提供するための十分に有効な時間、浴中に維持される。
【0010】
本発明の更に別の態様は、針黒色化浴として使用する新たな組成物である。この組成物は、約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩、約18重量%〜約38重量%の強塩基、約50重量%〜約75重量%の水、約0.2重量%〜約5重量%の強酸の遷移金属塩、及び約0.2重量%〜約5重量%のイオウ含有還元剤化合物を含有する。
【0011】
本発明のなお更に別の態様は、針黒色化浴として使用する新たな組成物である。この組成物は、約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩、約18重量%〜約38重量%の強塩基、約50重量%〜約75重量%の水、約0.2重量%〜約5重量%の高可溶性過マンガン酸塩、及び約0.2重量%〜約5重量%のチオシアン酸塩を含有する。
【0012】
本発明の付加的な態様は、ステンレス鋼合金製の外科用縫合針を黒色化するためのシステムである。このシステムは、前処理浴及び黒色化浴を有する。前処理浴は、約8重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩、約5重量%〜約15重量%の無機酸、及び約60重量%〜約90重量%の水を含有する。前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する。黒色化浴は、約3重量%〜約15重量%の高可溶性硝酸塩、約18重量%〜約38重量%の強塩基、約50重量%〜約75重量%の水、約0.2重量%〜約5重量%の強酸の遷移金属塩、及び約0.2重量%〜約5重量%のイオウ含有還元剤化合物を含有する。
【0013】
本発明の更なる態様は、ステンレス鋼合金製の外科用縫合針を黒色化するためのシステムである。このシステムは、前処理浴及び黒色化浴を有する。前処理浴は、約8重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩、約5重量%〜約15重量%の無機酸、及び約60重量%〜約90重量%の水を含有する。前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する。黒色化浴は、約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩、約18重量%〜約38重量%の強塩基、約50重量%〜約75重量%の水、約0.2重量%〜約5重量%の高可溶性過マンガン酸塩、及び約0.2重量%〜約5重量%のチオシアン酸塩を含有する。
【0014】
本発明のこれら及びその他の態様並びに利点は、以下の説明及び添付の図面からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施において有用な回転バスケットの側面斜視図を示す写真であり、バスケットの内部底面には、マグネチックバーが取り付けられている。
図2】バスケットの底面に取り付けられたマグネチックバーを示す、図1のバスケットの平面斜視図の写真である。
図3A】本発明のプロセスを使用して黒色化された針の写真であり(実施例6)、完了までの処理時間は2分であった。
図3B図3Aの針と同じ針の写真であるが、従来技術の黒色化プロセスを使用して処理され(実施例15)、処理時間は同じく2分であった。実質上、針の表面の黒色化は観察できない。
図4】実施例5に記載された本発明のプロセスと、従来のクロム(VI)ベースのプロセスとの間の処理時間の差を示すグラフである。
図5】実施例5のオージェ表面分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の新たなプロセスを使用して黒色化され得る外科用縫合針は、従来の外科等級のステンレス鋼合金から作製された従来の形状を有する従来の外科用縫合針を含むことになる。ステンレス鋼合金としては、限定するものではないが、タイプ455、タイプ316、タイプ4310、タイプ420等が挙げられる。本発明のプロセスを使用して黒色化され得るステンレス鋼合金の別のタイプは、Ethicon,Inc.(Somervilee,NJ 08876 USA)から入手可能な専有合金「ETHALLOY」である。ETHALLOY合金の組成物は、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第5,000,912号に記載されている。本発明のプロセス、浴及びシステムは、針に加え、かかる合金から作製された、他のタイプの医療用装置の表面を黒色化するためにも使用され得る。
【0017】
本発明の実施において有用な処理備品は、開放型桶、タンク、混合用器具、及びバスケット等の従来の処理備品を含む。備品としては、高速針製造プロセスを使用するときにストリップ上の針を受容するために特に設計され、適合されたタンクが挙げられ得る。備品は、ナイロン、ガラス、PEEK、Teflon、PVDF等の従来の耐食性材料で作製されることになる。備品は、接触面をセラミック、PTFE、FEP等の従来の耐食性コーティングでコーティングされた接触面を有する、アルミニウム及びステンレス鋼等の従来の金属で作製されてもよい。
【0018】
本発明のプロセスの前処理工程で使用される浴は、水性ベースの組成物となる。前処理浴は、有効な前処理を提供するのに十分な量の浴成分を有することになる。前処理浴は、典型的には約8重量%〜約20重量%、より典型的には約10重量%〜約18重量%、好ましくは約15重量%〜約17重量%の水溶性塩化物塩を含有することになる。前処理浴はまた、約5重量%〜約15重量%、より典型的には約6重量%〜約10重量%、好ましくは約7重量%〜約8重量%の無機酸を含有することになる。また、前処理浴は、典型的には約60重量%〜約90重量%、より典型的には約70重量%〜約80重量%、好ましくは約75重量%〜約78重量%の水を含有することになる。前処理浴中の有用な水溶性塩化物塩としては、限定するものではないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等が挙げられる。前処理浴中の有用な無機酸としては、限定するものではないが、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。前処理浴のpHは、典型的には約0.1〜約1.2、より典型的には約0.3〜約1、好ましくは約0.5〜約0.8となる。
【0019】
本発明の黒色化プロセスで有用な黒色化浴組成物は、水性ベースの組成物となる。黒色化浴は、針の表面の有効な黒色化を提供するのに十分な量の浴成分を有することになる。黒色化浴は、典型的には約18重量%〜約38重量%、より典型的には約20重量%〜約35重量%、好ましくは約26重量%〜約30重量%の強塩基を含有することになる。本発明の黒色化浴は、典型的には約3重量%〜約20重量%、より典型的には約5重量%〜約15重量%、好ましくは約11重量%〜約13重量%の高可溶性硝酸塩を含有することになる。また、黒色化浴は、典型的には約50重量%〜約75重量%、より典型的には約55重量%〜約70重量%、好ましくは約58重量%〜約65重量%の水を含有することになる。本発明の黒色化浴に有用な硝酸塩としては、限定するものではないが、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム等が挙げられる。本発明の黒色化浴に有用な強塩基としては、限定するものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
【0020】
第1の実施形態では、本発明の黒色化浴はまた、遷移金属硫化物を形成するために2つの異なる前駆体を含有する成分を含有することになる。第1の前駆体は、強酸の遷移金属塩である。かかる前駆体としては、限定するものではないが、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、過塩素酸コバルト等が挙げられる。第2の前駆体は、イオウ含有還元剤である。かかる第2の前駆体としては、限定するものではないが、N,N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等が挙げられる。形成される遷移金属硫化性化合物としては、限定するものではないが、NiS、CoS、AgS等が挙げられる。本発明の黒色化浴のこの実施形態に含まれる強酸の遷移金属塩の量は、典型的には約0.1重量%〜約3重量%、より典型的には約0.2重量%〜約2重量%、好ましくは約0.3重量%〜約1重量%である。本発明の黒色化浴のこの実施形態に含まれるイオウ含有還元剤の量は、典型的には約0.1重量%〜約3重量%、より典型的には約0.2重量%〜約2重量%、好ましくは約0.3重量%〜約1重量%である。
【0021】
第2の実施形態では、本発明の黒色化浴はまた、限定するものではないが、過マンガン酸塩カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸リチウム等、高可溶性過マンガン酸塩とも呼ばれる、マンガン含有酸化剤を含有することになる。第2の実施形態の浴はまた、チオシアン酸塩を含むことになる。黒色化浴のこの実施形態で有用なチオシアン酸塩としては、限定するものではないが、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム等が挙げられる。本発明の黒色化浴のこの第2の実施形態におけるマンガン含有酸化剤(高可溶性過マンガン酸塩)の量は、典型的には約0.1重量%〜約5重量%、より典型的には約0.2重量%〜約3重量%、好ましくは約0.3重量%〜約1重量%である。本発明の黒色化浴のこの実施形態に含まれるチオシアン酸塩の量は、典型的には約0.1重量%〜約5重量%、より典型的には約0.2重量%〜約3重量%、好ましくは約0.3重量%〜約1重量%である。
【0022】
黒色化浴の第2の実施形態は、黒色酸化物層の色を強くするためにいくつかの添加剤を任意追加的に含み、黒色化浴の繰り返し使用を可能にしてもよい。添加剤としては、限定するものではないが、1.モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムを含むモリブデン酸塩と、2.塩化ナトリウムと、が挙げられる。この実施形態において任意追加的に提示されるモリブデン酸塩の量は、有効な黒色化の向上を提供するのに十分であり、典型的には0.1重量%〜約3重量%となる。この実施形態において任意追加的に提示される塩化ナトリウムの量は、有効な黒色化の向上を提供するのに十分であり、典型的には0.3重量%〜約1重量%となる。
【0023】
前処理浴組成物及び黒色化浴組成物は、従来のプロセス及び混合用備品を使用した従来の方法で作製されてもよい。例えば、黒色化及び前処理浴組成物は、以下の方法で作製されてもよい。すなわち、全ての固体構成成分が水溶液に完全に溶解されるまで、最大約1時間の十分に有効な時間、機械式ミキサーを用いて全ての構成成分を混合する。
【0024】
外科用縫合針を黒色化するための本発明の新たな方法は、2つの主な工程からなる。初期工程は、針の黒色化工程の前に行われる前処理工程である。前処理工程では、表面酸化物が、針の表面から除去される。第2の工程は、針の黒色化工程である。黒色化工程では、黒色酸化物コーティングが、針の表面上に形成される。
【0025】
前処理工程は、表面酸化物の除去するために行われる。ステンレス鋼は、それらを耐食性にするクロム酸化物の層で覆われる。この酸化物層は、結果的に表面を不動態化し、更なる化学処理に耐える。活性化溶液は、酸化クロムと反応し、ステンレス鋼製の針の表面が、第2の黒色化工程で利用される様々な黒色化溶液に化学的に受容されることを可能にする。機械油及びグリース等の針表面に存在するあらゆる表面汚染物も、この工程で除去される。塩酸、リン酸、及び硫酸等の様々な酸が、この目的のために高温で一般に使用される。これにより、第1の工程は、典型的には約10分〜約1時間持続する酸洗処理工程とも呼ばれる。下の表1に記載する前処理浴の配合は、インラインプロセスに適合された30秒の活性化プロセスと、3分の大規模なバッチ式プロセスと、のために開発された。この浴配合に対するプロセス温度は、有害物質のヒュームの形成を防止するため、溶液の沸点よりかなり低い80℃である。
【0026】
前処理プロセスでは、上記の、並びに表及び実施例内の前処理浴溶液は、従来の混合用備品及びプロセス備品を使用して準備される。溶液は、所望の寸法及び容積を有する従来の浴容器に移送される。前処理工程は、バッチ式プロセス又は連続プロセスとして行うことができる。浴構成はまた、前処理プロセスがバッチ式であるか連続的であるかに依存することが理解されよう。バッチ式プロセスでは、針は、典型的に、バスケットに装填され、浴溶液の浴中に浸漬される。針は、針の表面を有効に前処理するのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。この時間は、バッチ内の針の量に応じて、典型的には約30秒〜約1時間、より典型的には約1分〜約30分、好ましくは約2分〜約5分となる。前処理浴の温度は、典型的には約60℃〜約100℃、より典型的には約70℃〜約90℃、好ましくは約75℃〜約85℃となる。
【0027】
連続プロセスでは、針は、典型的に、高速針動作における製造ステーション間の急速移動に対応するストリップに取り付けられる。かかるプロセスでは、ストリップに取り付けられた針は、ストリップに取り付けられた状態で前処理浴中を移動させられる。針は、針の表面を有効に前処理するのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。時間は、典型的には約20秒〜約60秒、より典型的には約25秒〜約45秒、好ましくは約30秒〜約40秒となる。前処理浴の温度は、典型的には約60℃〜約100℃、より典型的には約70℃〜約80℃、好ましくは約75℃〜約85℃となる。
【0028】
黒色化プロセスは、前処理プロセスと同様に行われる。黒色化プロセスでは、上記のような黒色化浴溶液が、従来の混合用備品及びプロセス備品を使用して準備される。溶液は、所望の寸法及び容積を有する従来の浴容器に移送される。黒色化処理工程は、バッチ式プロセス又は連続プロセスとして行うことができる。浴構成はまた、黒色化プロセスがバッチ式であるか連続的であるかに依存することが理解されよう。いずれの場合も、浴は、従来の備品によって任意追加的に攪拌されてもよい。バッチ式プロセスでは、針は、典型的に、バスケットに装填され、浴溶液の浴中に浸漬される。バッチ内の針の量は、システムの大きさに応じて変化し、例えば10本未満の針から10,000本を超える針であってもよい。針は、針の表面を効果的に処理して黒色化した表面を得るのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。時間は、典型的には約1分〜約60分、より典型的には約2分〜約30分、好ましくは約2分〜約4分となる。黒色化処理浴の温度は、典型的には約90℃〜約140℃、より典型的には約95℃〜約110℃、好ましくは約98℃〜約105℃となる。連続プロセスでは、針は、典型的に、高速針動作における製造ステーション間の急速移動に対応するストリップに取り付けられる。かかるプロセスでは、ストリップに取り付けられた針は、ストリップに取り付けられた状態で黒色化浴中を移動させられる。針は、針の表面を効果的に黒色化するのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。処理浴中の針の典型的な数は、例えば、一度に20本以下から100本以上であってもよい。処理時間は、典型的には約5秒〜約40秒、より典型的には約10秒〜約30秒、好ましくは約15秒〜約25秒となる。黒色化処理浴の温度は、典型的には約90℃〜約140℃、より典型的には約95℃〜約110℃、好ましくは約98℃〜約105℃となる。
【0029】
当技術分野で現在使用される酸/Cr(VI)ベースのプロセスとは異なり、本発明の新たなプロセスは、ステンレス鋼製の外科用縫合針の表面における黒色酸化物の急速形成を提供する、かつこれを可能にする、アルカリベースのプロセスである。活性化したステンレス鋼製の針は、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、及びいくつかの他の微量構成成分(黒色化溶液の基本組成物は、表2に概説されており、それぞれの微量構成成分の重量%は典型的に0.5未満である)からなる水溶性アルカリ溶液にその沸点より低い高温で浸漬され、これは、他の従来及び商用の黒色化プロセスと異なる。これにより、黒色化処理工程中の有害なヒュームの形成が実質的に低減又は排除される。本発明の新たなプロセスを使用すると、驚くべきことに、かつ予期せぬことに、針の小さいバッチ(50単位未満)が30秒以内に黒色化され(10秒程度の短さであり得る)、針の大きいバッチ(最大数千本以上)は、本発明の新たな黒色化浴溶液での2分間の浸漬後に黒色化されることが観察されている。プロセス温度は、有害物質を含有するヒュームの形成を実質的に低減又は排除するため、溶液の沸点よりかなり低い100℃である。
【0030】
黒色酸化物(Fe)層がCrの形成と並行して形成される従来技術のCr(VI)ベースのプロセスと同様に、第2のセラミック材料の形成が、本発明の新たな黒色化プロセスで酸化鉄の形成を開始するために必要とされる。配合内の微量構成成分は、第2相セラミック材料のための前駆体である。典型的に、2つの異なるタイプの微量構成成分が、配合に使用される。
【0031】
遷移金属硫化物を形成するための2つの異なる前駆体を含有するタイプ1の構成成分。
1.硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、コバルト又は過塩素酸塩等の強酸の遷移金属塩。
2.N,N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のイオウ含有還元剤化合物。
【0032】
遷移金属硫化物は、タイプ1の構成成分による黒色化プロセスの結果として、ステンレス鋼の表面上に形成される。
【0033】
過マンガン酸カリウム等のマンガン含有酸化剤を含有するタイプ2の構成成分、及び黒色酸化物層の色を強くし、黒色化浴の繰り返し使用を可能にするための、前述のようないくつかの添加剤。
【0034】
酸化マンガンは、タイプ2の構成成分による黒色化プロセスの結果としてステンレス鋼の表面上に形成される。
【0035】
また、複数の使用を可能にし、黒色化溶液のポットライフを長引かせるため、安定剤を本発明の黒色化浴配合に使用してもよい。黒色化浴溶液に取り込むための安定剤の例としては、限定するものではないが、塩化ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、及びシアン酸ナトリウムが挙げられる。黒色化溶液は、安定剤化合物を添加した後、複数回使用することができる。結果的に黒色化した針の色は、黒色化溶液の繰り返し使用後にバッチ間で一貫性を維持する。このことは、改善された生産能力の利点をもたらし、黒色化プロセスから生成される化学廃棄物の量を最小化する。
【0036】
以下の実施例では、新たな回転バスケット10を針の黒色化プロセスの両方の工程に使用した。バスケットの構造を図1及び図2に示す。ナイロン又は高気密ポリプロピレン(HDPP)等の高温プラスチックを、バスケット10のフレーム20を構築するのに使用した。ナイロンメッシュ30を使用してバスケット10のフレーム20全体を覆い、両工程で使用される化学溶液が、バスケット内のバッチに含まれる数千本の針の表面に浸透して反応することを可能にした。回転機構は、図1に見られるように、メッシュバスケット10の底面12に取り付けられたマグネチックバー40からなる。メッシュバスケット10は、従来のマグネチックスターラー上で制御可能な速度で回転することができる。この備品は、実質的な量の針(例えば、3,000本を超える大きめの針及び20,000本を超えるマイクロ針)が、短時間(例えば、5分)で黒色化されることを可能にする。外科用縫合針のバッチ全体を黒色化溶液に十分かつ完全に曝露することにより、それぞれの針の表面全てが黒色(均質な色合い)に変換される。このバスケットによって提供される緩やかな回転は、攪拌中の針の衝突によって生じ得え、引き起こされ得る点損傷を防止する。
【0037】
以下の実施例は、本発明の原理及び実施を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【実施例】
【0040】
(実施例1)
硫酸ニッケル含有の酸化鉄黒色層の形成
少量の遷移金属塩(硝酸ニッケル)及び硫化物前駆体(硫化ナトリウム)を、表2に記載の硝酸ナトリウムのアルカリ溶液に添加した。この黒色化溶液の配合を表3に記載する。
【0041】
【表3】
【0042】
30本の0.56mm(22mil)タイプ4310 SH針(Ethicon,Inc.製)の量を、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で2分間浸漬した。次いで、針を水ですすぎ、表3に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で1分間浸漬した。銀針の表面は、完全に黒色になった。
【0043】
(実施例2)
硫化銅含有の酸化鉄黒色層の形成
少量の遷移金属塩(硝酸銅)及び硫化物前駆体(硫化ナトリウム)を、表2に記載の硝酸ナトリウムのアルカリ溶液に添加した。この黒色化溶液の配合を表4に要約する。
【0044】
【表4】
【0045】
30本の0.56mm(22mil)タイプ4310 SH針(Ethicon,Inc.製)の量を、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で2分間浸漬した。針を取り出して水ですすぎ、次いで、表4に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で1分間浸漬した。銀針の表面の色は、完全に黒色になった。
【0046】
(実施例3)
硫化コバルト含有の酸化鉄黒色層の形成
少量の遷移金属塩(硝酸コバルト)及び硫化物前駆体(硫化ナトリウム)を、表2に記載の硝酸ナトリウムのアルカリ溶液に添加した。この黒色化溶液の配合を表5に要約する。
【0047】
【表5】
【0048】
30本の0.56mm(22mil)タイプ4310 SH針(Ethicon,Inc.製)の量を、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で2分間浸漬し、取り出して水ですすいだ。次いで、針を、表5に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で1分間浸漬した。針を浴から取り出すと、針の表面が黒色になったことが観察された。
【0049】
(実施例4)
酸化マンガン含有の酸化鉄黒色層の形成
少量の過マンガン酸カリウム及びチオシアン酸ナトリウムを、表2に記載の硝酸ナトリウムのアルカリ溶液に添加して、黒色溶液を形成した。この黒色化溶液の配合を表6に記載する。
【0050】
【表6】
【0051】
20本の0.56mm(22mil)タイプ4310 SH針(Ethicon,Inc.製)の量を、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で2分間浸漬してから、水ですすいだ。次いで、針を、表6に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で1分間浸漬し、その後、浴から取り出した。銀針が黒色化された針になった。銀針の表面が完全に黒色化されたことが観察された。
【0052】
また、より大きいバッチ試行を、工程のそれぞれの処理時間をわずかに変更した同様の方法で、750本の0.61mm(24mil)タイプ4310 MH針(Ethicon,Inc.製)のバッチに対して、活性化及び黒色化溶液の規模の8倍のバッチ溶液体積(1kg)を使用して行った。針のこの大きいバッチを回転バスケットに入れ(図1及び図2を参照のこと)、活性化溶液を含有する浴中に、80℃で2分間浸し、取り出して水ですすぎ、次いで、黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で2分間浸漬した。針を浴から取り出すと、バッチ内の全ての銀針の表面が完全に黒色化されていることが観察された。
【0053】
(実施例5)
4310合金から作製される外科用縫合針の表面での酸化マンガン含有の酸化鉄黒色層の形成:黒色化溶液の繰り返し使用
実施例5は、実施例4に類似しており、黒色化溶液への0.1gの塩化ナトリウムの添加を伴う。これにより、黒色化溶液の繰り返し使用と共に、より早い黒色化反応が可能になった。この黒色化溶液の配合は、表7に含まれる。
【0054】
【表7】
【0055】
50本の0.56mm(22mil)タイプ4310 SH針(Ethicon,Inc.製)のバッチを、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で30秒間浸漬してから、取り出して水ですすいだ。次いで、針を、表7に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で10秒間浸漬した。針を浴から取り出すと、バッチ内の全ての銀針の表面が完全に黒色化されていることが観察された。
【0056】
また、より大きいバッチの試行を、工程それぞれの処理時間をわずかに変更した同様の方法で、750本の0.61mm(24mil)タイプ4310 MH針(Ethicon,Inc.製)のバッチに対して、活性化及び黒色化溶液の規模の8倍のバッチ溶液体積(1kg)を使用して行った。針のこの大きいバッチを回転バスケットに入れ(図1及び図2)、活性化溶液を含有する浴中に、80℃で2分間浸し、取り出して水ですすぎ、次いで、黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で2分間浸漬した。針を浴から取り出すと、バッチ内の全ての銀針の表面が完全に黒色化されていることが観察された。
【0057】
追加の黒色化サイクルに使用される黒色化溶液の能力も調査し、試験した。必要に応じて追加量のチオシアン酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを添加して、黒色化溶液を表7の配合に維持することにより、黒色化溶液を繰り返し再使用して、750本の0.61mm(24mil)MH針のバッチを同じ活性化及び黒色化パラメータを使用して効果的に黒色化できることが観察された。浴中の黒色化溶液を、黒色化溶液のそれぞれの使用後に、針の表面の黒色化した色を一定に保ちながら、少なくとも10回再使用できることが観察された。
【0058】
実施例5のMH針は、この針上の表面コーティングの組成物及び厚さを測定するため、オージェ電子分光法分析(計器モデル:PHI680走査型オージェマイクロプローブ)用に提出された。図5に示すように、スパッタ深さ特性は、1,500Å以下の酸化物層厚さを明らかにした。マンガンは、外側の750Å以下の表面における一次酸化物であり、次いで、鉄濃度の漸増が観察された。
【0059】
(実施例6)
実施例5に記載の大きいバッチ製造から作製されるシリコーンコーティングされた針の形成
実施例5の黒色化された0.56mm(22mil)SH及び0.61mm(24mil)タイプ4310 MH針のバッチ全体を、50gのNusil MED 4162及び450gのヘプタンからなるシリコーン溶液に浸漬してから、それらを従来のクラフト紙の上に置き、ドラフト内で周囲条件にて30分間乾燥させた。次いで、シリコーンコーティングした黒色化針を、160℃で1時間、従来のオーブン内で硬化させた。通常の(銀針)0.56mm(22mil)タイプ4310 SH及び0.61mm(24mil)MH針のバッチも同様(manor)に準備し、試験用の対照試料として使用した。
【0060】
シリコーンコーティング組成物でコーティングされた医療用装置のコーティング性能は、様々な従来の摩擦又は接着試験を用いて試験することができる。外科用縫合針の場合、従来の針刺入試験装置を用いてコーティング性能、耐久性、及び一体性を評価する。コーティングされた外科用縫合針は、自動ロック式ピンセット、又は類似の保持具を使用して保持される。コーティングされた針は、次いで、一般的なヒト組織を再現するために選択された高分子媒体に通される。針の長さの約半分が媒体に通され、その後、次の通過前に引き抜かれる。試験媒体は、ある種の合成ゴム(例えば、Monmouth Rubber and Plastic Corporation(Monmouth,NJ)製のDuraflex(商標))であってもよい。典型的な試験は、それぞれ個々に20回媒体に通した複数の針を用いることを含む。各通過における最大力を記録し、コーティング性能の指標として使用する。通常、刺入力は、摩耗によりコーティングが針から剥がれるので、通過する毎に増加する。備品及び方法の更なる詳細はまた、米国特許第5,181,416号で見ることができ、この特許は、参照により本明細書で組み込まれる。ASTM F3014は、湾曲した針の刺入試験プロトコルの一例である。
【0061】
刺入試験を、これら2セットの湾曲した針に対して行った。得られた結果は、30本の個々の針の試料を用いて行った刺入試験のものであった。それぞれの通過における平均刺入力を表8及び表9に要約する。両セットの針に対する対照試料も比較のために試験し、その結果もこれら2つの表に含まれる。
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
実施例6の両方のコードの4310黒色化針と制御試料との間の針刺入試験では、わずかな差が見られた。かかる差は、測定法の誤差(約10%)以内である。実施例6に示した黒色化プロセスは、結果として得られた黒色化し、湾曲した針の刺入性能に対する負の影響を生み出さなかった。
【0065】
コーティングされた0.56mm(22mil)タイプ4310黒色化SH針の曲げ剛性を、制御試料のコーティングされた0.56mm(22mil)の通常の光沢のある銀色4310 SH針に対し、10本の針1セットでASTM F1874に従って評価した。その結果を表10に要約する。
【0066】
予期したとおり、針の色を変える表面処理は、針の剛性及び外科的収量に有意な影響を及ぼすことはなかった。変形値にも有意差がなかったことから、黒色化プロセスは、合金の大部分の特性に影響がなく、表面を亀裂形成に対して敏感にすることもないことがわかった。最も重要なことに、黒色化した針は、使用者に対する異なる「感触」又は挙動を有しなかった。
【0067】
【表10】
【0068】
(実施例7)
タイプ420 SS合金から作製された外科用縫合針の表面での酸化マンガン含有の酸化鉄黒色層の形成
実施例5で使用した黒色化溶液(表8)を試料の準備に使用した。20本の0.61mm(24mil)420 SH針(Ethicon,Inc.製)の量を、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で30秒間浸漬した。次いで、針を水ですすぎ、表7に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で30秒間浸漬した。針を浴から取り出すと、バッチ内の全ての銀針の表面が完全に黒色化されていることが観察された。
【0069】
(実施例8)
ETHALLOY合金から作製された外科用縫合針の表面での酸化マンガン含有の酸化鉄黒色層の形成
実施例5で使用した黒色化溶液(表7)をこの実施例8A及び8Bにおける試料の準備に使用した。
【0070】
8A−Nusil MED 4162シリコーンを用いたバッチコーティング試行用のETHALLOYばら針:
製造プロセスのストリップから切り離してばらにした、30本の0.61mm(24mil)ETHALLOY SH針(Ethicon,Inc.製)の量又はバッチを、表1の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で30秒間浸漬してから、取り出して水ですすぎ、次いで表7に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で30秒間浸漬した。針を浴から取り外すと、浴中の全ての銀針の表面が黒色化されていることが観察された。
【0071】
8B−Gelest XG−2385シリコーンによるストリップコーティング試行用のETHALLOY針が取り付けられたストリップ:
10本の0.61mm(24mil)ETHALLOY SH針(Ethicon,Inc.製)の量が取り付けられたストリップを、表1の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で30秒間浸漬してから、水ですすぎ、次いで表7に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で30秒間浸漬した。針を浴から取り出すと、バッチ内の全ての銀針の表面が完全に黒色化されていることが観察された。
【0072】
8C−バッチコーティング試行用のETHALLOYばら針の大きいバッチ、黒色化浴の複数の使用サイクル
正常なサイクルを介したETHALLOY針の色の均一性及び黒色化溶液の繰り返し使用に対応するために、付加的な構成成分である、モリブデン酸アンモニウム四水和物を表7の基本配合に追加した。また、他の添加剤、塩化ナトリウムの量も増やした。この黒色化溶液の配合は、表11に含まれる。
【0073】
【表11】
【0074】
860本の0.66mm(26mil)V−7針(Ethicon,Inc.製)のバッチを、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で3分間浸漬してから、取り出して水ですすいだ。次いで、針を、表11に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で1時間浸漬した。針を浴から取り出すと、バッチ内の全ての銀針の表面が完全に黒色化されていることが観察された。
【0075】
追加の黒色化サイクルに使用される黒色化溶液の能力も調査し、試験した。必要に応じて追加量のチオシアン酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを添加して、黒色化溶液を表7の配合に適合するように維持することにより、黒色化溶液を繰り返し再使用して、860本の0.66mm(26mil)V−7針のバッチを同じ活性化及び黒色化パラメータを用いて効果的に黒色化できることが観察された。浴中の黒色化溶液を、黒色化溶液のそれぞれの使用後に、針の表面の黒色化した色を一定に保ちながら、少なくとも3回再使用できたことが観察された。黒色化溶液は、必要に応じて活性化構成成分の添加を繰り返して配合を維持することにより、有意に多くの回数、再使用できると考えられる。
【0076】
(実施例9)
実施例8Aの針のバッチコーティング
この実施例は、従来のクロムベースの黒色化針生産で使用されるプロセスと類似のバッチコーティングプロセスを使用して、実施例8Aで取り上げたバッチ生産から作製されるシリコーンコーティングされたEthalloy SH針の形成を目的とする。黒色化された0.61mm(24mil)SH針のバッチ全体を、50gのNusil MED 4162及び450gのヘプタンからなるコーティング溶液に浸漬してから、針をクラフト紙基材上に置き、ドラフト内で周囲条件にて30分間乾燥させた。次いで、シリコーンコーティングされた黒色化針を、160℃で1時間、従来の対流式オーブン内で硬化させた。
【0077】
次いで、コーティングされた針の代表試料に対して、上記のように刺入試験を行った。結果は、10本の個々の針の試料を用いて行った刺入試験のものである。コーティングされた針をそれぞれ20回刺入した。それぞれの通過における平均刺入力を表12に要約する。
【0078】
【表12】
【0079】
(実施例10)
実施例8Bのストリップコーティング針
この実施例は、全ての針を金属ストリップに取り付け、連続的な方法で浸漬タンク内のコーティング溶液に通過させる、ストリップコーティングプロセスを使用する、実施例8Bで取り上げたストリッププロセスから作製されるシリコーンコーティングされたEthalloy SH針の形成を目的とする。黒色化された0.61mm(24mil)SH針のストリップを、23.8gのGelest XG−2385A、23.8gのGelest XG−2385B、及び52.4gのIsopar Kからなるシリコーンコーティング溶液を含有する浴中に浸漬した。針付きのストリップを浴から取り出し、従来のオーブン内に195℃で30秒間置いた。シリコーンコーティングされた黒色化針を、更に195℃で2時間、従来の対流式オーブン内で硬化させた。
【0080】
硬化したシリコーンコーティングを有する針に対して、前述のように刺入試験を行った。結果は、ストリップから取り出された10本の個々の針の代表試料を使用して行った刺入試験のものであった。コーティングされた針をそれぞれ20回刺入した。それぞれの通過における平均刺入力を表13に記載する。試験は、上記のように実施された。
【0081】
【表13】
【0082】
バッチプロセスを使用して、Nusil MED6162でコーティングされた同一ロットの針と比べて、ストリップコーティングされたEthalloy黒色SH針(実施例10)の20回目の通過の刺入で57%の低下が観察された。短い反応時間は、針黒色化プロセスをストリップフローに変換し、白金硬化シリコーンGelest XG−2385(Gelest,Inc.(Morrisville,PA)製)を使用することを可能にする。この実施例で実証されたように、黒色化針では、刺入性能の有意な改善が達成され得る。
【0083】
(実施例11)
比較例−NaNO3を含まない実施例6の黒色化浴
この実施例は、実施例6で実証された黒色酸化物層の代わりに、タイプ4310 SS合金からなる外科用縫合針の表面における深緑マンガン含有の酸化鉄黒色層の形成を目的とする。この黒色化溶液の配合を表14に記載する。
【0084】
【表14】
【0085】
750本の0.66mm(26mil)MH針(Ethicon,Inc.製)の量又はバッチを、表1の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で3分間浸漬してから、水ですすぎ、次いで、表14に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で2分間浸漬した。浴から取り出した後、銀針は、深緑色の外観を有することが観察された。浴溶液中の処理時間の長さを増やしても、針の色は変わらなかった。この表14の溶液における処理の結果として、真に億色の針を得ることはできなかった。
【0086】
(実施例12)
比較例−NaOHを含まない実施例6の黒色化浴
この実施例は、実施例5で実証され、得られた黒色酸化物層と比較して、タイプ4310 SS合金から作製される外科用縫合針の表面での黒色酸化物黒色層の形成につながらなかった。この実施例で使用された黒色化浴溶液の配合を表15に記載する。
【0087】
【表15】
【0088】
750本の0.66mm(26mil)MH針(Ethicon,Inc.製針コードMH002640P)の量又はバッチを、表1に記載の活性化溶液を含有する浴中に、80℃で3分間浸漬してから、水ですすぎ、次いで、表15に記載の溶液を含有する浴中に、100℃で2分間浸漬した。浴から取り出した後、針の表面は、光沢のある銀色のままであることが観察された。黒色化浴溶液中の処理時間の長さを増やしても、針の色は変わらなかった。この例の溶液中での処理の結果として、黒色化された針は得られなかった。
【0089】
(実施例13)
本発明のプロセスとクロム(VI)ベースのプロセスとの比較例
実施例5に記載したように、本発明のプロセスによって黒色化された針を、クロムVI(EP1051538)を使用する先行技術のプロセスによって処理された針と比較した。先行技術プロセスの黒色化浴の組成物を表16に記載する。
【0090】
【表16】
【0091】
実施例5のプロセスによって黒色化された針に類似する0.61mm(24mil)タイプ4310 MH針のバッチを同様の方法で前処理し、表16に含まれる組成物を有する黒色化浴溶液に浸漬した。針は、本発明のプロセスで処理した実施例6の針と同じ処理時間である2分間、表16のコーティング浴中に浸漬した。本発明のプロセスで処理された針は、その表面の全てが完全に黒色化されていることが観察された。先行技術のプロセスで処理された針の色は、未処理の0.61mm(24mil)タイプ4310 MH針と同様に、光沢のある銀色のままであったことが更に観察された。針の写真が、図3A及び図3Bに見られる。
【0092】
図4は、実施例5に記載された本発明のプロセスと、従来のクロム(VI)ベースのプロセスとの間の処理時間の差を示すグラフである。本発明の処理時間は、クロム(VI)ベースのプロセスよりも有意に小さく、時間効率がより高いことが見られ得る。
【0093】
(実施例14)
前処理浴のない黒色化浴で処理された針
この実施例は、実施例1で実証され、得られた黒色酸化物層と比較して、タイプ4310 SS合金から作製される外科用縫合針の表面での黒色酸化物黒色層の形成につながらなかった。この実施例で使用された、実施例1で使用した配合と同じ黒色化浴溶液の配合を表3に記載する。
【0094】
750本の0.66mm(26mil)MH針の量又はバッチを、表3に記載の黒色化溶液を含有する浴中に、100℃で2分間浸漬した。針は前処理工程を経ていなかった。浴から取り出した後、実質上、黒色化は発生しないことが観察され、針の表面は、実質的に光沢のある銀色のままであることが観察された。黒色化浴溶液中の処理時間の長さを10分に増やしても、針の色は変わらなかった。この実施例の黒色化溶液中での処理の結果として、黒色化された針は得られなかった。
【0095】
本発明の新たな黒色化方法及び黒色化浴組成物は、多くの利点を有する。利点としては、処理時間の有意な削減、毒性発癌物質の欠如、改善された安全条件、有害廃棄物の排除、及び環境への負の影響の排除が挙げられる。
【0096】
以上、本発明をその詳細な実施形態について図示及び説明してきたが、当業者であれば、特許請求される発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明の形態及び詳細に様々な変更を行い得る点が理解されるであろう。
【0097】
〔実施の態様〕
(1) 外科用縫合針を黒色化する方法であって、
A.外表面を有する少なくとも1本の外科用縫合針を前処理浴に入れる工程であって、前記前処理浴は、
約10重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩と、
約5%〜約15重量%の無機酸と、
約65重量%〜約80重量%の水と、を含み、
前記前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する、工程と、
B.次いで、前記外科用縫合針を黒色化浴に入れる工程であって、前記浴は、
約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩と、
約18重量%〜約38重量%の強塩基と、
約50重量%〜約75重量%の水と、
約0.2重量%〜約5重量%の強酸の遷移金属塩と、
約0.2重量%〜約5重量%のイオウ含有還元剤化合物と、を含む、工程と、
C.前記針の前記外表面に黒色化コーティングを提供するのに十分有効な時間、前記針を前記黒色化浴中に維持する工程と、を含む、方法。
(2) 前記遷移金属塩が、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン(ion perchlorate)、及び過塩素酸コバルトからなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記イオウ含有還元剤が、N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、及びジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムからなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記前処理浴中の前記水溶性塩化物塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化リチウムからなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
【0098】
(6) 前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記前処理浴中の前記無機酸が、リン酸、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
(8) 外科用縫合針を黒色化する方法であって、
A.外表面を有する少なくとも1本の外科用縫合針を前処理浴に入れる工程であって、前記前処理浴は、
約10重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩と、
約5%〜約15重量%の無機酸と、
約65重量%〜約80重量%の水と、を含み、
前記前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する、工程と、
B.次いで、前記外科用縫合針を黒色化浴に入れる工程であって、前記浴は、
約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩と、
約18重量%〜約38重量%の強塩基と、
約50重量%〜約75重量%の水と、
約0.2重量%〜約5重量%の高可溶性過マンガン酸塩と、
約0.2重量%〜約5重量%のチオシアン酸塩と、を含む、工程と、
C.前記針の前記外表面に黒色化コーティングを提供するのに十分有効な時間、前記針を前記黒色化浴中に維持する工程と、を含む、方法。
(9) 前記過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、及び過マンガン酸リチウムからなる群から選択される、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記黒色化浴が、水溶性塩化物塩を追加的に含む、実施態様8に記載の方法。
【0099】
(11) 前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、及びチオシアン酸リチウムからなる群から選択される、実施態様8に記載の方法。
(12) 前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、実施態様8に記載の方法。
(13) 前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、実施態様8に記載の方法。
(14) 前記黒色化浴が、約0.2重量%〜約5重量%のモリブデン酸塩を追加的に含む、実施態様8に記載の方法。
(15) 外科用縫合針用の黒色化浴組成物であって、
約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩と、
約18重量%〜約38重量%の強塩基と、
約50重量%〜約75重量%の水と、
約0.2重量%〜約5重量%の強酸の遷移金属塩と、
約0.2重量%〜約5重量%のイオウ含有還元剤化合物と、を含む、組成物。
【0100】
(16) 前記遷移金属塩が、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、及び過塩素酸コバルトからなる群から選択される、実施態様15に記載の組成物。
(17) 前記イオウ含有還元剤が、N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、及びジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムからなる群から選択される、実施態様15に記載の組成物。
(18) 前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、実施態様15に記載の組成物。
(19) 前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、実施態様15に記載の組成物。
(20) 外科用縫合針用の黒色化浴組成物であって、
約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩と、
約18重量%〜約38重量%の強塩基と、
約50重量%〜約75重量%の水と、
約0.2重量%〜約5重量%の高可溶性過マンガン酸塩と、
約0.2重量%〜約5重量%のチオシアン酸塩と、を含む、組成物。
【0101】
(21) 前記黒色化浴が、水溶性塩化物塩を追加的に含む、実施態様20に記載の組成物。
(22) 前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、及びチオシアン酸リチウムからなる群から選択される、実施態様20に記載の組成物。
(23) 前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、実施態様20に記載の組成物。
(24) 前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、実施態様20に記載の組成物。
(25) 前記黒色化浴が、約0.2重量%〜約5重量%のモリブデン酸塩を追加的に含む、実施態様20に記載の組成物。
【0102】
(26) ステンレス鋼合金の外科用縫合針を黒色化するためのシステムであって、
A.前処理浴であって、前記前処理浴は、
約8重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩と、
約5重量%〜約15重量%の無機酸と、
約60重量%〜約90重量%の水と、を含み、前記前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する、前処理浴と、
B.黒色化浴であって、前記黒色化浴は、
約3重量%〜約15重量%の高可溶性硝酸塩と、
約18重量%〜約38重量%の強塩基と、
約50重量%〜約75重量%の水と、
約0.2重量%〜約5重量%の強酸の遷移金属塩と、
約0.2重量%〜約5重量%のイオウ含有還元剤化合物と、を含む、黒色化浴と、を含む、システム。
(27) 前記遷移金属塩が、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、及び過塩素酸コバルトからなる群から選択される、実施態様26に記載のシステム。
(28) 前記イオウ含有還元剤が、N’−ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、及びジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムからなる群から選択される、実施態様26に記載のシステム。
(29) 前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、実施態様26に記載のシステム。
(30) 前記水溶性塩化物塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化リチウムからなる群から選択される、実施態様26に記載のシステム。
【0103】
(31) 前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、実施態様26に記載のシステム。
(32) 前記無機酸が、リン酸、硫酸、塩酸、及び硝酸からなる群から選択される、実施態様26に記載のシステム。
(33) ステンレス鋼合金の外科用縫合針を黒色化するためのシステムであって、
A.前処理浴であって、前記前処理浴は、
約8重量%〜約20重量%の水溶性塩化物塩と、
約5重量%〜約15重量%の無機酸と、
約60重量%〜約90重量%の水と、を含み、前記前処理浴は、約0.5〜約1.2のpHを有する、前処理浴と、
B.黒色化浴であって、前記黒色化浴は、
約3重量%〜約20重量%の高可溶性硝酸塩と、
約18重量%〜約38重量%の強塩基と、
約50重量%〜約75重量%の水と、
約0.2重量%〜約5重量%の高可溶性過マンガン酸塩と、
約0.2重量%〜約5重量%のチオシアン酸塩と、を含む、黒色化浴と、を含む、システム。
(34) 前記過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、及び過マンガン酸リチウムからなる群から選択される、実施態様33に記載のシステム。
(35) 前記黒色化浴が、水溶性塩化物塩を追加的に含む、実施態様33に記載のシステム。
【0104】
(36) 前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、及びチオシアン酸リチウムからなる群から選択される、実施態様33に記載のシステム。
(37) 前記高可溶性硝酸塩が、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸リチウムからなる群から選択される、実施態様33に記載のシステム。
(38) 前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される、実施態様33に記載のシステム。
(39) 前記黒色化浴が、約0.2重量%〜約5重量%のモリブデン酸塩を追加的に含む、実施態様33に記載のシステム。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5