(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961700
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】生体サンプル中の遺伝物質を検出する方法及びその実施のための装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20211025BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20211025BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20211025BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6813 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【請求項の数】31
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-534892(P2019-534892)
(86)(22)【出願日】2017年12月20日
(65)【公表番号】特表2020-513762(P2020-513762A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】PL2017050065
(87)【国際公開番号】WO2018117882
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】P.419907
(32)【優先日】2016年12月21日
(33)【優先権主張国】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】519224731
【氏名又は名称】ゲノムテック、スプウカ、アクツィーナ
【氏名又は名称原語表記】GENOMTEC SA
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】ミロン、トカルスキ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク、バルデマール、ログシュチャク
(72)【発明者】
【氏名】タデウシュ、マリアン、ドボシュ
(72)【発明者】
【氏名】レシェック、ゴロンカ
(72)【発明者】
【氏名】アルカディウシュ、ピォトル、ドンブロフスキ
(72)【発明者】
【氏名】マウゴジャタ、マロドブラ−マズール
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン、ロムアルド、アンジェイェフスキ
【審査官】
西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−505010(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/004539(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/172724(WO,A1)
【文献】
特表2016−516562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体サンプル中の遺伝物質を検出する方法であって、
a)前記生体サンプルを反応カートリッジ(6)内に取り込み、前記反応カートリッジ(6)を測定装置内に配置する段階と、
b)前記生体サンプルを単離チャンバ(7)に移動させる段階と、
c)前記単離チャンバ(7)を加熱することによって、前記サンプルから遺伝物質を単離する段階と、
d)単離された前記遺伝物質を複数の反応チャンバ(8.1、8.2、8.3、8.4)に移動させる段階と、
e)前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)を加熱することによって、前記遺伝物質を増幅させる段階と、
f)蛍光色素に結合することによって、増幅された前記遺伝物質を検出する段階であって、前記単離チャンバ(7)及び/又は前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)の加熱は、温度検出器(23)を伴うLED上の複数の加熱ユニットによって行われる、段階と、
を含む方法。
【請求項2】
複数の反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)のうちの少なくとも1つの内側には、蛍光色素と共に遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬が存在し、前記凍結乾燥試薬は、遺伝物質に結合する蛍光色素を含み、遺伝物質を増幅する前記段階と同時に蛍光マーカーからの蛍光信号の検出が記録される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体サンプルがサンプリングシステム(1)から採取され、前記サンプリングシステム(1)を前記反応カートリッジ(6)内に取り込むことによって前記段階a)が行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
毛細管(2)における毛細管力を使用して生体サンプルが前記サンプリングシステム(1)内に採取され、遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬は、デオキシヌクレオチド、特異的プライマー配列、反応緩衝剤、マグネシウムイオンMg2+、増幅反応を行うことができるポリメラーゼであり、検出された遺伝物質とインターカレートする凍結乾燥蛍光タグは、SYBR Greenである、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反応カートリッジ(6)は、3つの反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)を備え、前記3つの反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)は、試験される前記遺伝物質に特異的なプライマーを含む試験チャンバ(8.1)と、生体物質サンプルを導出する前記遺伝物質の特定の部分に特異的なプライマーを収容するポジティブコントロールチャンバ(8.2)と、プライマーを伴わない反応成分を収容するネガティブコントロールチャンバ(8.3)とを含む、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
平面視における前記複数の反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)は、複数の円であり、相補的であり、かつ、その中間で弁又はダイヤフラム(33)と相互に接続される、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記段階c)では、前記単離チャンバが5分〜10分にわたって95℃に加熱され、前記段階e)では、前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)が15分〜60分にわたって65℃に加熱され、前記段階b)は、第1のポンプ(P1)によって達成される、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1ポンプ(P1)は、圧力生成チャンバ又はピストン及びベローズに接続されるダイヤフラムで閉じられる水タンクの形態を成し、前記段階d)は、第2のポンプ(P2)によって達成される、ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2のポンプ(P2)は、圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる中空チャンバの形態を成し、前記ステップd)は、反応カートリッジ(6)を100℃を超える温度に加熱する段階を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
反応カートリッジ(6)を加熱する前記段階は、温度検出器(23)を伴うLED上の複数の加熱ユニットを通じて行われる、ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応カートリッジ(6)と測定装置とを備える生体サンプル中の遺伝物質を検出するための装置であって、前記測定装置は、前記反応カートリッジ(6)を収容するレセプタクルを有する測定チャンバ(10)を備え、前記反応カートリッジ(6)は、遺伝物質を単離するための単離チャンバ(7)を備え、前記単離チャンバ(7)は、単離された遺伝物質を増幅するための複数のチャネル(8.1、8.2、8.3)を介して複数の反応チャンバと接続され、複数の反応チャンバ(8.1、8.2、8.3、8.4)のうちの少なくとも1つの内側は、遺伝物質に結合する蛍光色素を、検出されるべき遺伝物質の増幅用の他の凍結乾燥試薬と共に含み、前記測定装置は、反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)用の温度検出器(23)を伴うLED上の複数の加熱ユニットを備える、ことを特徴とする装置。
【請求項12】
前記単離チャンバ(7)は、更なる反応チャンバ(8.4)と接続されている、ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記装置は、取り外し可能なサンプリングシステム(1)を備え、前記取り外し可能なサンプリングシステム(1)は、プラグ(4)を備え、前記反応カートリッジ(6)は、前記プラグ(4)に取り付けられるレセプタクル(5)を備え、かつ、前記サンプリングシステム(1)と前記反応カートリッジ(6)との間に安定した緊密な流体接続をもたらし、前記装置は、画像制御及び分析のための測定モジュール(16)と、通信モジュール(17)と、電源モジュール(18)と、ディスプレイモジュール(19)とを備える、ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項14】
LED上の複数の加熱ユニットは、350nm〜530nmの範囲内の波長を有する電磁放射線を放射し、前記複数のLEDにより放射される光ビームが前記単離チャンバ(7)及び前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)を照らすように、前記単離チャンバ(7)及び前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3、8.4)のほぼ反対側に配置され、温度検出器を伴うLEDの前記加熱ユニットは、4μm〜12μmの波長範囲の電磁放射線を検出し、平面視における前記複数の反応チャンバ(8.1、8.2、8.3、8.4)は、複数の円であり、相補的であり、かつ、その中間で弁又はダイヤフラムと相互に接続される、ことを特徴とする請求項11から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記サンプリングシステム(1)は、毛細管(2)を備え、前記毛細管には、生体サンプルが採取され、前記毛細管は、第1のポンプ(P1)と接続される、ことを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項16】
第1のポンプ(P1)は、圧力生成チャンバ又はピストン及びベローズに接続されるダイヤフラムで閉じられる水タンクの形態を成し、遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬は、デオキシヌクレオチド、特異的プライマー配列、反応緩衝剤、マグネシウムイオンMg2+、増幅反応を行うことができるポリメラーゼであり、検出された遺伝物質とインターカレートする凍結乾燥蛍光タグは、SYBR Greenであり、遺伝物質を増幅する段階と同時に発光マーカーからの発光信号の検出が記録される、ことを特徴とする請求項15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
マグネシウムイオンMg2+は、MgSO4の形態を成す、ことを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
増幅反応を行うことができるポリメラーゼは、Bst3.0ポリメラーゼである、ことを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記反応カートリッジ(6)は、3つの反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)を備え、前記3つの反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)は、試験される前記遺伝物質に特異的なプライマーを含む試験チャンバ(8.1)と、生体物質サンプルを導出する前記遺伝物質の特定の部分に特異的なプライマーを収容するポジティブコントロールチャンバ(8.2)と、プライマーを伴わない反応成分を収容するネガティブコントロールチャンバ(8.3)とを含み、前記反応カートリッジ(6)は、第2のポンプ(P2)を備え、前記第2のポンプ(P2)は、前記単離チャンバ(7)に接続され、かつ、前記単離チャンバ(7)から前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)へ向かう単離された遺伝物質の移動を引き起こす圧力をもたらす、ことを特徴とする請求項11から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
第2のポンプ(P2)は、圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる空のチャンバの形態を成す、ことを特徴とする請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記反応カートリッジ(6)及び/又はサンプリングシステム(1)は、疎水性ポリマーで形成され、かつ、完全に受動的なシステムであり、単離チャンバ(7)及び複数の反応チャンバ(8.1、8.2、8.3、8.4)並びに前記反応カートリッジ(6)内の前記第2のポンプ(P2)は、弁(Z11)、(Z5、Z6、Z7)、(Z8、Z9、Z10)、(Z3)、(Z4)を備える、ことを特徴とする請求項19または20に記載の装置。
【請求項22】
弁(Z11)、(Z5、Z6、Z7)、(Z8、Z9、Z10)、(Z3)、(Z4)は、入口及び出口チャネルのそれぞれの光学的な弁である、ことを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記単離チャンバ(7)を前記第2のポンプ(P2)と接続するチャネル内には、液体検出器(D1)があり、液体検出器(D2、D3、D4)が、前記反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)からの出口チャネルに配置され、測定チャンバ(10)は、加熱システム(13)を介して実現される4℃〜40℃の範囲の制御された等温温度を有し、前記加熱システム(13)は、接続されるファン(14)及びラジエータ(15)を備え、前記測定チャンバ(10)内には、空気混合ホイール(22)が配置される、ことを特徴とする請求項19または20に記載の装置。
【請求項24】
液体検出器(D1)は、反射型赤外線検出器である、ことを特徴とする請求項23に記載の装置。
【請求項25】
液体検出器(D2、D3、D4)は、反射型赤外線検出器である、ことを特徴とする請求項23に記載の装置。
【請求項26】
加熱システム(13)は、ペルチェアセンブリの形態を成す、ことを特徴とする請求項23に記載の装置。
【請求項27】
前記測定チャンバ(10)は、断熱体(12)により断熱され、かつ、前記反応カートリッジ(6)の位置決め機構(11)と、前記反応カートリッジ(6)内の前記ポンプ(P1)に圧力を及ぼす圧力設定機構(20)と、反対側にセットされた圧力センサ(21)と、検出領域を照らす付加的なUV LED(29)とを備える、ことを特徴とする請求項15または16に記載の装置。
【請求項28】
液体検出器(D1〜D4)及び弁(Z1〜Z11)を動作させるための付加的なLED(27)を備え、前記単離チャンバ(7)及び/又は反応チャンバ(8.1、8.2、8.3)の底部には、好ましくは酸化物で被覆されたCu又はAl(好ましくは染色された黒色Al2O3)で形成された、光子エネルギーを吸収する吸収層がある、ことを特徴とする請求項11から27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
LEDの加熱ユニットは、350nm〜530nmの範囲内の波長を有する電磁放射線を放射し、温度検出器(23)を伴うLEDの前記加熱ユニットは、4μm〜12μmの波長範囲の電磁放射線を検出する光学温度検出器(25)を備える、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
マグネシウムイオンMg2+は、MgSO4の形態を成す、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項31】
増幅反応を行うことができるポリメラーゼは、Bst3.0ポリメラーゼであり、検出された遺伝物質とインターカレートする凍結乾燥蛍光タグは、SYBR Greenである、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、特に遺伝物質を増幅するためのLAMP技術(ループ媒介等温増幅)を使用して生体物質サンプル中の遺伝物質(DNA及びRNAを含む)を検出する方法及びその実施のための装置である。本発明の対象は、得られる生体物質中の細菌性、ウイルス性、及び、真菌性の病原体の迅速且つ移動可能な検出のために使用される。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば食品の微生物汚染物質となり得る細菌性、ウイルス性、及び、真菌性の病原体を同定するための迅速で、安価で、効果的な診断方法に対する要求がある。
【0003】
米国特許出願公開第2009061450号明細書は、経鼻サンプリング装置と、標的核酸増幅のためのシングルエントリー使い捨てマイクロ流体カートリッジと、内蔵分析制御プラットフォーム及び標的検出手段を伴う機器とを備える、呼吸器病原体の診断及び分析のための装置を開示する。サンプリングのための装置は、互いにシール状態で流体接続されるようにマイクロ流体カートリッジ内の適切なレセプタクル内に配置されているサンプルキャリアである。マイクロ流体カートリッジ内では、病原体分析法のその後のステップが実行される多くのチャンバを区別することができ、その場合、第1の段階は、試験されたサンプルからの遺伝物質の単離を含み、単離された物質は、その後、増幅されて検出に晒される。引用された解決策の1つの実施形態では、遺伝物質の増幅がLAMP法を用いて達成される。増幅が行われる反応チャンバでは、設定された安定した温度を与えることが必要であり、これは、提示された解決策では、マイクロ流体装置上に印刷されるITO加熱素子によって達成される。遺伝物質増幅を行った後に遺伝物質とインターカレートする蛍光タグが付加され、それにより、リアルタイムで光学的検出を行うことができる。
【0004】
また、米国特許出願公開第2012264132号明細書は、本質的に等温の核酸増幅を含むサンプルの処理装置及び処理方法を開示する。引用発明に係る装置は、第1の母集団領域を有する第1の基板を備え、第1の母集団のうちの少なくとも1つの領域が少なくとも1つの領域に近接して配置される少なくとも1つの付随体領域を有し、少なくとも1つの付随体領域が第1の領域からの物質を保持するようになっている。装置は、第2の母集団領域が形成されてなる第2の基板を更に備え、第1及び第2の基板は、第1及び第2の基板間の相対的な動きが第1の母集団領域の少なくとも幾つかを第2の母集団領域の少なくとも幾つかと整列する状態で配置することによりそれらが互いに流体連通するように互いに係合される。前述の方法を使用して遺伝物質を増幅することは、複数の第1の領域内に配置されるサンプル物質と接触することにあり、サンプル物質は核酸標的を含み、また、第1の領域のうちの少なくとも1つは1つの核酸標的分子を含み、この場合、複数の第2の領域には反応物質が配置され、接触は、第1の領域の少なくとも一部と第2の領域の少なくとも一部とを互いに直接に流体連通する状態へと対にして配置することによって行われる。物質の前記接触は、核酸標的分子の増幅をもたらす。
【0005】
米国特許出願公開第20140335527号明細書は、核酸及びタンパク質の可動分析のためのシステム及び方法を開示する。可動分析システムは、ディスプレイとキーボードとを介して使用されると通信する小型の無線装置である。可動分析システムは、サンプルから核酸を抽出、増幅、及び、検出するために接続されたモジュールを使用している。全体のプロセスに要する時間は、データ処理と共に、通常は20分以下である。遺伝物質の分析方法の第1の段階では、生体サンプルが集積チップに取り込まれる。生体サンプルの取り込みは、サンプル入口ポートを介して又は自動サンプリングを介して手動で達成され得る。集積チップでは、サンプルが抽出モジュールに輸送され、該抽出モジュールにおいて、生体サンプルから遺伝物質を抽出するプロセスが行われる。その後、単離された核酸が増幅モジュールに輸送され、該増幅モジュールにおいて、一実施形態では、増幅がLAMP法を用いて行われる。抽出方法及び増幅方法は、それらを実施するために必要な全ての試薬を含む。増幅は設定された高い温度の保持を必要とし、これは赤外線加熱素子によって達成され得る。増幅された遺伝物質は検出モジュールへ進み、この検出モジュールでは、例えば検出されたDNAに付着される適切なタグから得られる蛍光信号によって遺伝物質が検出される。したがって、遺伝物質増幅のチャンバのうちの1つには、例えば蛍光タグが付されたLAMPマスターミックスが予め取り込まれてもよい。集積チップ全体は透明であり、それにより、それぞれのモジュールを加熱して蛍光信号を検出するための光ビームの透過が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009061450号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012264132号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20140335527号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決されるべき技術的課題は、好ましい病原体の迅速な検出を同時に行うことができる、生体物質サンプル中の遺伝物質(特にDNA及び/又はRNA)を検出する方法及びその実施のための装置を提供することであり、装置は、製造が簡単で、完備しており、移動可能で、製造するのが比較的安価であるとともに、反応カートリッジを長期間にわたって保管でき、非常に低い温度のような特定の保管条件とは関連付けられない。また、生体物質サンプル中の病原体を検出するための装置の一部である反応カートリッジが廃棄に適していること、及び、装置自体が限られたエネルギー消費料を有することも好ましい。更に、開発された病原体検出方法が必要な工程数を減らして実施をより簡単且つ迅速にすること、及び、その実施のための装置の構造が生体物質サンプルの汚染の危険性の減少させることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、前述の課題は、示された発明によって解決された。
【0009】
本発明の第1の対象は
a)生体サンプルが反応カートリッジ内へ取り込まれた後に又はその前に反応カートリッジが測定装置内に配置される段階と、
b)収集された生体サンプルが単離チャンバに送られる段階と、
c)単離チャンバを加熱することによって試験されたサンプルから生体物質を単離する段階と、
d)単離された遺伝物質が複数の反応チャンバへ移動される段階と、
e)反応チャンバを加熱することによって遺伝物質が増幅される段階と、
を含む、生体サンプル中の遺伝物質を検出する方法であって、
反応チャンバのうちの少なくとも1つの内側には、蛍光色素又は検出されるべき量子ドット結合遺伝物質を含む、発光色素と共に遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬が存在し、遺伝物質を増幅する段階と同時に、発光マーカーからの発光信号の検出が記録されることを特徴とする方法である。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、生体サンプルがサンプリングシステムから採取され、サンプリングシステムを反応カートリッジ(6)内に取り込むことによって段階a)が行われる。
【0011】
本発明の他の好ましい実施形態において、単離チャンバ及び/又は反応チャンバの加熱は、好ましくは350nm〜530nmの範囲内の波長を有する電磁放射線を放射することによって、温度検出器を伴うLED上の複数の加熱ユニットによって行われる。
【0012】
本発明の他の好ましい実施形態において、温度検出器伴うLEDの加熱ユニットは、4μm〜12μmの波長範囲の電磁放射線を検出する光学温度検出器を備える。
【0013】
本発明の他の好ましい実施形態では、毛細管における毛細管力を使用して生体サンプルがサンプリングシステム内に採取される。
【0014】
好ましくは、遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬は、デオキシヌクレオチド、特異的プライマー配列、反応緩衝剤、好ましくはMgSO
4の形態のマグネシウムイオンMg
2+、増幅反応を行うことができるポリメラーゼ、好ましくはBst 3.0ポリメラーゼを含む。
【0015】
同様に好ましくは、検出された遺伝物質とインターカレートする凍結乾燥蛍光タグがSYBR Greenである。
【0016】
検出に関し、本発明の第1及び第2の態様によれば、核酸増幅生成物、並びに、量子ドット分子が5’末端に付着されるとともに消光剤が3’末端に付着されるエンドポイント技術オリゴヌクレオチドの検出がリアルタイムでなされる。使用されるオリゴヌクレオチドの配列は、設計されたプライマーF1,B1c間に位置されるデオキシリボ核酸断片の増幅領域の部分に対して、及び、設計されたプライマーF1c,B1間に位置される核酸断片の増幅領域の部分に関して相補的である。増幅反応中、鎖置換活性及び5’>3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ、例えば実物大のBst DNAポリメラーゼが使用される。
【0017】
デオキシリボ核酸増幅反応中、増幅されたDNAセグメント中の相補的な断片にプローブが結合し、アンプリコン伸長中に、ポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ特性に起因して、付着されたオリゴヌクレオチドが分解され、その結果、量子ドットから消光剤が分離される。量子ドットからの消光剤の分離の結果として、量子ドットを形成した物質に特有の放射波長を伴う量子ドットの励起後に、電磁放射線がUV、IR又はVISの範囲で放射される。放射された信号は感光性要素によって記録される。
【0018】
量子ドットの使用は、より高いパワーを有する励起光源を使用する可能性に起因して検出閾値のかなりの減少をもたらし、それにより、非常に少ない量の放出量子ドットによりもたらされる電磁放射線の放射を記録することができる。更に、オリゴヌクレオチド断片をマーキングするための量子ドットの使用は、電磁放射線の検出が行われる放射信号の波長から励起波長をより良く分離できるようにする。更には、量子ドットは、従来の蛍光色素と比べて向上した漂白耐久性を有し、それにより、増幅反応の全体にわたって検出が容易となる。
【0019】
より好ましくは、反応カートリッジが3つの反応チャンバを備え、これらのチャンバは、試験される遺伝物質に特異的なプライマーを含む試験チャンバと、生体物質サンプルを導出する遺伝物質の特定の部分に特異的なプライマーを収容するポジティブコントロールチャンバと、プライマーを伴わない反応成分を収容するネガティブコントロールチャンバとを含む。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、平面視(top view)における複数の反応チャンバは、複数の円であり、相補的であり、かつ、その中間で弁又はダイヤフラムと相互に接続される。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態において、段階c)では、単離チャンバが5分〜10分にわたって95℃に加熱される。
【0022】
本発明の更に他の好ましい実施形態において、段階e)では、反応チャンバが15分〜60分にわたって65℃に加熱される。
【0023】
好ましくは、段階b)は、好ましくは圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる水タンクの形態を成す第1のポンプ又はピストン及びベローズによって達成される。
【0024】
同様に好ましくは、ステップd)は、好ましくは圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる中空チャンバの形態を成す第2のポンプによって達成される。
【0025】
より好ましくは、方法は、好ましくは温度検出器を伴うLED上の複数の加熱ユニットを通じて反応カートリッジを100℃を超える温度に加熱する段階を更に含む。
【0026】
本発明の第2の対象は、反応カートリッジと測定装置とを備える生体サンプル中の遺伝物質を検出するための装置であって、測定装置が反応カートリッジを収容するレセプタクルを有する測定チャンバを備え、反応カートリッジが遺伝物質を単離するための単離チャンバを備え、該単離チャンバが、単離された遺伝物質を増幅するためのチャネルを介して前記反応チャンバと接続される、装置において、反応チャンバのうちの少なくとも1つの内側には、蛍光色素又は検出されるべき量子ドット結合遺伝物質を含む、発光色素と共に遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬が存在し、遺伝物質を増幅する段階と同時に、発光マーカーからの発光信号の検出が記録されることを特徴とする装置である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、装置は、取り外し可能なサンプリングシステムを備え、取り外し可能なサンプリングシステムがプラグを備え、反応カートリッジが、前記プラグに取り付けられるレセプタクルを備えるとともに、サンプリングシステムと反応カートリッジとの間に安定した緊密な流体接続をもたらす。
【0028】
本発明の他の好ましい実施形態において、装置は、画像制御及び分析のための測定モジュールと、通信モジュールと、電源モジュールと、ディスプレイモジュールとを更に備える。
【0029】
本発明の他の好ましい実施形態において、測定装置は、好ましくは350nm〜530nmの範囲内の波長を有する電磁放射線を放射する、温度検出器を伴うLED上の複数の加熱ユニットを備え、これらの加熱ユニットは、前記複数のLEDにより放射される光ビームが前記単離チャンバ及び反応チャンバを照らすように単離チャンバ及び反応チャンバのほぼ反対側に配置される。
【0030】
本発明の他の好ましい実施形態において、温度検出器伴うLEDの加熱ユニットは、4μm〜12μmの波長範囲の電磁放射線を検出する光学温度検出器を備える。
【0031】
好ましくは、平面視における複数の反応チャンバは、複数の円であり、相補的であり、かつ、その中間で弁又はダイヤフラムと相互に接続される。
【0032】
同様に好ましくは、サンプリングシステムが毛細管を備え、該毛細管には生体サンプルが採取され、毛細管は、好ましくは圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる水タンクの形態を成す第1のポンプ又はピストン及びベローズと接続される。
【0033】
より好ましくは、遺伝物質増幅用の凍結乾燥試薬は、デオキシヌクレオチド、特異的プライマー配列、反応緩衝剤、好ましくはMgSO
4の形態のマグネシウムイオンMg
2+、増幅反応を行うことができるポリメラーゼ、好ましくはBst3.0ポリメラーゼを含む。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、検出された遺伝物質とインターカレートする凍結乾燥蛍光剤がSYBR Greenである。
【0035】
本発明の更なる他の好ましい実施形態では、反応カートリッジが3つの反応チャンバを備え、これらのチャンバは、試験される遺伝物質に特異的なプライマーを含む試験チャンバと、生体物質サンプルを導出する遺伝物質の特定の部分に特異的なプライマーを収容するポジティブコントロールチャンバと、プライマーを伴わない反応成分を収容するネガティブコントロールチャンバとを含む。
【0036】
本発明の更に他の好ましい実施形態において、反応カートリッジは、好ましくは圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる空のチャンバの形態を成す第2のポンプを備え、該第2のポンプは、単離チャンバから反応チャンバへ向かう単離された遺伝物質の移動を引き起こす。
【0037】
好ましくは、反応カートリッジ及び/又はサンプリングシステムは、疎水性ポリマーから形成されるとともに、完全に受動的なシステムである。
【0038】
同様に好ましくは、単離チャンバ及び反応チャンバ並びに反応カートリッジ内の第2のポンプは、弁、好ましくは入口及び出口チャネルのそれぞれの光学的な弁を備える。
【0039】
より好ましくは、単離チャンバを第2のポンプと接続するチャネル内には液体検出器、好ましくは反射型赤外線検出器がある。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、液体検出器、好ましくは反射型赤外線検出器が反応チャンバからの出口チャネルに位置される。
【0041】
本発明の他の好ましい実施形態において、測定チャンバは、好ましくはペルチェアセンブリの形態を成す加熱システムを介して実現される4℃〜40℃の範囲の制御された等温温度を有する。
【0042】
本発明の他の好ましい実施形態では、加熱システムが接続されるファン及びラジエータを備え、測定チャンバ内には空気混合ホイールが位置される。
【0043】
好ましくは測定チャンバが断熱体により断熱される。
【0044】
同様に好ましくは、装置が反応カートリッジの位置決め機構を備える。
【0045】
より好ましくは、装置は、反応カートリッジ内のポンプに圧力を及ぼす圧力設定機構と、反対側にセットされた圧力センサとを備える。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、装置は、検出領域を照らす付加的なUV LEDとを備える。
【0047】
本発明の他の好ましい実施形態において、装置は、液体検出器及び弁を動作させるための付加的なLEDを備える。
【0048】
本発明の他の好ましい実施形態において、単離チャンバ及び/又は反応チャンバの底部には、好ましくは酸化物で被覆されたCu又はAl、好ましくは染色された黒色Al
2O
3から形成される、光子エネルギーを吸収する吸収層がある。
【0049】
本発明に係る生体サンプル中の遺伝物質を検出する方法は、生体物質サンプルを装置内に配置することによって生体物質サンプルを改質する必要性を回避できるようにし、それにより、汚染の可能性を減らすとともに、ユーザがエンドユーザのみにより試験を行うことができるようにする。更に、試験を完了するために付加的な実験装置又は滅菌反応調製条件は必要とされない。また、反応成分の製造プロセスにおける凍結乾燥は、(製造日から1年を超えても)反応カートリッジの有用性のかなりの増大をもたらし、反応カートリッジを冷凍下で保管する必要はない。増幅された核酸断片に特異的なプライマーを反応チャンバの内側に配置することにより、汚染に対する手続の感受性が更に減少され、エンドユーザへの研究が更に容易になる。加えて、反応チャンバ内への色素の配置は、エンドユーザが措置を講じることなく結果として生じる反応生成物の即時検出を可能にするとともに、必要な工程数を減らすことによって検出プロセス全体を著しく単純化する。反応カートリッジ及びサンプリングシステムは、完全に受動的な構成要素として、1つのポリマー材料から形成され、それにより、これらを安全に処分することができ、環境に有益である。更に、制御装置で使用される単離チャンバ及び反応チャンバを加熱するためのLEDは、全プロセスのエネルギー消費料を低減する。
【0050】
本発明の典型的な実施形態が図に示される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の一実施形態に係るサンプリングシステム及び反応カートリッジの概略図を示す。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る反応カートリッジを示す。
【
図3】本発明の更に他の実施形態に係る反応カートリッジを示す。
【
図4】反応カートリッジの異なる実施形態で使用される弁の様々な実施形態を示す。
【
図5】本発明の一実施形態に係る測定装置のブロック図を示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係るサンプリングシステム及び反応カートリッジの概略図を示す。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る反応カートリッジを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
例1
本発明の実施形態に係る生体サンプル中の遺伝物質を検出するための装置が
図1に部分的に概略的に示され(測定装置を伴わない)、その変形が
図6に示された。サンプリングシステム1を使用して採取される生体物質サンプル(例えば、毛細管血、全血、唾液、体腔液)は、抗凝固剤層、例えばクエン酸ナトリウム、EDTAでコーティングされる親水性ポリマーから形成される反応カートリッジ6内へ、1mlを超えない体積(
図1に示される実施形態では、体積が10μlである)で毛細管力によって導入される。毛細管2を充填した後、チャネルの端部のタグ(図示せず)によって、例えば、制御窓にまで至るチャネル充填を観察することによって或いは光及び/又は音の信号によってエンドユーザに知らされると、分子診断用の水を収容するチャンバから出る流体の圧力によって生体物質が輸送される。
【0053】
生体物質と水との混合物は毛細管2からその端部で単離チャンバ7に入る。単離チャンバ7内には、Chelex 100固定化イオン交換樹脂又は遺伝物質の増幅反応の阻害剤に結合できる他の物質がある。混合物が通過した後、単離チャンバ7の内容物が5分を超える時間にわたって70℃以上に加熱される。この時点で、細胞の熱溶解があり、場合によっては、ウイルスヌクレオカプシドも生体物質中に含まれ、したがって、それらの内側から遺伝物質が放出される。病原体の種類に応じて、温度を98℃まで上げることができる。加熱プロセスの終わりに、混合物が、(受動的又は能動的に、例えばファンを通って流れる空気流により)冷却されて、少なくとも0.1μlの容積の少なくとも1つの反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4(
図1及び
図6に示される実施形態では、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4が20μlの容積を有する)へと移動され、該チャンバ内には、特定の等温増幅反応と反応中に増幅される遺伝物質の選択された断片の検出とを行うために必要な適切な量の物質を含む凍結乾燥物が位置される。反応成分の製造プロセスにおける凍結乾燥は、(製造日から1年を超えても)反応カートリッジの有用性のかなりの増大を可能にし、反応カートリッジを冷凍下で保管する必要はない。反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4は、DNAとインターカレートする凍結乾燥色素も収容する。反応チャンバ内の色素の配置は、エンドユーザが措置を講じることなく結果として生じる反応生成物の即時の検出を可能にする。使用される蛍光色素に応じて、挿入色素を引き起こす光の長さが異なる。マーキングに使用される色素は可視光を与える。DNAとインターカレートする蛍光色素(例えば、SYBRグリーン、エバグリーン、ピコグリーン、臭化エチジウム、カルセイン、アクリジンオレンジ、プロフラビン、アクリフラビンなど)は、増幅反応生成物を検出するために使用される。
【0054】
検出に関し、本発明の第1及び第2の態様によれば、核酸増幅生成物、並びに、量子ドット分子が5’末端に付着されるとともに消光剤が3’末端に付着されるエンドポイント技術オリゴヌクレオチドの検出がリアルタイムでなされる。使用されるオリゴヌクレオチドの配列は、設計されたプライマーF1,B1c間に位置されるデオキシリボ核酸断片の増幅領域の部分に対して、及び、設計されたプライマーF1c,B1間に位置される核酸断片の増幅領域の部分に関して相補的である。増幅反応中、鎖置換活性及び5’>3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ、例えば実物大のBst DNAポリメラーゼが使用される。
【0055】
デオキシリボ核酸増幅反応中、増幅されたDNAセグメント中の相補的な断片にプローブが結合し、アンプリコン伸長中に、ポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ特性に起因して、付着されたオリゴヌクレオチドが分解され、その結果、量子ドットから消光剤が分離される。量子ドットからの消光剤の分離の結果として、量子ドットを形成した物質に特有の放射波長を伴う量子ドットの励起後に、電磁放射線がUV、IR又はVISの範囲で放射される。放射された信号は感光性要素によって記録される。
【0056】
量子ドットの使用は、より高いパワーを有する励起光源を使用する可能性に起因して検出閾値のかなりの減少をもたらし、それにより、非常に少ない量の放出量子ドットによりもたらされる電磁放射線の放射を記録することができる。更に、オリゴヌクレオチド断片をマーキングするための量子ドットの使用は、電磁放射線の検出が行われる放射信号の波長から励起波長をより良く分離できるようにする。更には、量子ドットは、従来の蛍光色素と比べて向上した漂白耐久性を有し、それにより、増幅反応の全体にわたって検出が容易となる。
【0057】
特異的反応生成物を増幅するために、以下の等温増幅技術、すなわち、ループ媒介等温増幅(LAMP)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ニッキング酵素増幅反応(NEAR)が使用されてもよい。凍結乾燥物は、実験量のデオキシヌクレオチド(dNTP)、特異的プライマー配列、反応緩衝剤成分、マグネシウムイオンMg
2+、増幅反応を行うことができるポリメラーゼ、場合によっては、逆転写酵素及び遺伝物質の選択された配列を増幅するのに必要な他の成分を含む。所定の病原体のゲノムに特異的な固有の配列を伴う一組のプライマー(少なくとも一対のプライマー)が反応の特異性を決定する。単離チャンバ7からくる水は、その中に溶解している物質と共に、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内へ取り込まれる。
【0058】
選択された核酸断片の増幅プロセスは、最低限5分間にわたって少なくとも40℃の一定の温度で反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内で行われる。特異的プライマー配列は、生体物質中に存在する様々な病原体に由来するテンプレートDNA(事前単離チャンバ7内で単離される)に結合している。生体物質がRNAである場合、増幅プロセスは、いわゆるランダムプライマーを用いた逆転写によって先行され、それにより、cDNAがもたらされる。プライマーによって特異性が決定された時点で、DNAポリメラーゼが相補鎖を合成する。LAMPプロセス中、約30pg/μlのDNAが受けられる。そのような大量の二本鎖DNAは、遺伝物質とインターカレートする色素によって示される。凍結乾燥物に蛍光色素を添加することにより、色素とDNAとの結合が反応中のその増幅と同時に起こる。反応の完了時、反応混合物が特定波長の光で照らされ、それにより、DNAとインターカレートする色素が蛍光ベースで励起される。反応生成物の検出は、光伝導体ユニットを使用して、色素及び使用される色素に特異的な二本鎖DNA複合体により放射される波長を記録することによって達成される。反応カートリッジ6及び反応カートリッジを形成した材料(すなわち透明ポリマー)の構造は、色素−DNA複合体を励起する光及びこの複合体により放射される光の両方の透過を可能にする。結果は、光の有無に基づいて解釈される(肯定的な結果−現在のライト、否定的な結果−無光)。
【0059】
例2
本実施形態において、生体サンプル中の遺伝物質を検出するための装置は、一般に、3つの主要な要素、すなわち、測定装置(
図5にブロック図の形で示される)、反応カートリッジ6、及び、サンプリングシステム1を備える。
図1は、反応カートリッジ6及びサンプリングシステム1の1つの非限定的な実施形態の構成を概略的に示す。接続されたサンプリングシステム1及び反応チャンバ6は、遺伝物質分析の全プロセスを誘導して制御するように設計される測定装置内に配置されている。測定装置は、反応カートリッジ6を収容するレセプタクルを含む携帯電話のような小型携帯機器の形態を成す。
【0060】
サンプリングシステム1は、圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられた水タンクである水チャンバに接続される採血毛細管2を備える。そのようなシステムは、サンプリングされた生体物質と共に毛細管2を通じて水チャンバから水を及ぼす圧力を生成する第1のポンプ1として働く。適切な動作のサンプリングシステム1は、毛細管2の分岐を形成する通気孔3と、共に制御される弁Z1,Z2とを備える。使用中、サンプリングシステム1は、毛細管力の影響下で毛細管2に充填される液状の生体物質(例えば血液)と接触している。毛細管2に生体物質を充填すると、システムの適切な動作を確保するために、弁Z1が開くとともに、弁Z2が閉じられる。毛細管2に生体物質を充填した後、サンプリングシステム1が反応カートリッジ6内に配置される。これらの要素の緊密で安定した接続は、サンプリングシステム1内の適合プラグ4と反応カートリッジ6内のレセプタクル5とによってもたらされる。レセプタクル5に対するこのプラグ4の接続は、サンプリングシステム1と反応カートリッジ6との間に安定した密封された流体接続をもたらす。サンプリングシステム1を反応カートリッジ6内に配置した後、弁Z1が閉じられ、弁Z2が開かれ、また、第1のポンプP1が作動される(すなわち、水タンクが圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる)。第1のポンプP1の作動は、チャンバの機械的圧縮によって行われる。この場合、第1のポンプP1の作動方法は限定されず、また、液体を輸送するために、従来技術で知られている任意の方法が使用されてもよく、例えば、高い熱膨張係数を伴う物質をLEDで加熱する。この動作は、水チャンバからの水と共に毛細管2から生体物質を除去する。水と生体物質との混合物は、適切なチャネルを通じて単離チャンバ7へ輸送される。単離チャンバ7内には遺伝物質の増幅反応の阻害剤を結合できる材料があり、単離チャンバ7は水チャンバにアクセスできる。収集された生体物質はこの単離チャンバ7内へ供給される。この単離チャンバの容量は約100μlである。単離チャンバ7から延在する、第2の圧力生成ポンプP2を形成する圧力生成チャンバに接続されるダイヤフラムで閉じられる中空チャンバを有する接続チャネルがある。単離チャンバ7は、反射型赤外線液体検出器D1と常開弁Z3とによって第2のポンプP2に接続される。第2のP2ポンプは、常開弁Z4により、レセプタクル5とは反対側の反応カートリッジ6の端部に位置される通気孔9と接続される。弁Z3,Z4のこの構成は、生体物質と水との混合物を単離チャンバ7を通じて更に第2のポンプP2へ向けて導入できるようにする。試験混合物が液体検出器D1に到達すると、単離チャンバ7がその充填を知らせ、弁Z11,Z3が閉じられる。その後、単離チャンバ7内の生体物質が特定の期間にわたって適切な温度まで加熱され、それにより、細胞/タンパク質エンベロープ内に封入された遺伝物質の放出が引き起こされる。
【0061】
収集されたサンプルから遺伝物質を単離する段階が完了した後、弁Z3,Z5,Z6,Z7が開かれ、第2のポンプP2が作動される。弁Z5,Z6,Z7は、単離チャンバ7を対応する反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4に接続する別個のチャネルに位置される。また、各反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4は、液体検出器D1、D2、D3をそれぞれ介して、及び、常時開弁Z8、Z9、Z10をそれぞれ介して、反応カートリッジ6の端部に位置される対応する通気孔9と接続される。第2のポンプP2の作動は、弁Z5,Z6,Z7及びZ8,Z9,Z10の構成と共に、単離された遺伝物質を反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内へ移動させることができるようにする。液体検出器D1、D2、D3から信号を受信した後、弁Z8、Z9、Z10が閉じられる。その後、次に弁Z5、Z6、Z7が閉じられる。このようにして、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4に単離された遺伝物質が充填される。反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4は、遺伝物質の増幅に必要な全ての原材料を含む凍結乾燥試薬をそれらの容積内に収容する。また、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内の主たる混合物は、遺伝物質とインターカレートする凍結乾燥蛍光色素も備える。反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の容量は20μl〜25μlの範囲である。本実施形態では、3つの反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4が設けられ、これらのチャンバは、試験される遺伝物質に特異的なプライマーを備える試験チャンバ8.1、生体物質サンプルを導出する遺伝物質の特定の部分に特異的なプライマーを収容するポジティブコントロールチャンバ8.2、及び、プライマーを収容しないが他の反応成分を収容するネガティブコントロールチャンバ8.3を含む。ポジティブコントロールチャンバ8.2は、ポリメラーゼ、温度条件、及び、遺伝物質の単離の制御を可能にするように設計される。ネガティブコントロールチャンバ8.3は、凍結乾燥プロセス(例えば無菌性)の制御及び弁挙動の制御を可能にし、それにより、これらの反応チャンバの内容物の混合を引き起こすことができる。勿論、使用されるチャンバの数は本発明を限定するものではなく、また、当業者は、例えば、様々な病原体の同時分析のためにチャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の数の同時増大を使用する。
【0062】
遺伝物質を増幅するために、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4は、その後、遺伝物質を増幅する適切な温度まで加熱される。増幅と同時に(又はその後に)、使用された蛍光タグから検出される蛍光信号が増幅された遺伝物質に付着される。生成物増分は、使用される蛍光タグにより生成される光強度の増大に等しい。
【0063】
全プロセス後及びカメラ28を伴う光学系によって結果を読み取った後、生物学的危害を無効化するために、生体物質を含む領域が、350〜450nmの範囲の波長の放射線(又はレーザ)を放射するUV LED29を用いて2〜3秒間にわたって150℃まで加熱される。より低いUV出力では、これらのUV LED29が同時に蛍光を励起する(反応カートリッジ6を照らす)のに役立つ。UV暴露は、生体物質の破壊及び反応チャンバ物質6の解重合をもたらし、それにより、生物学的危害が減少されてポリマーが崩壊され、好ましくは環境が保護されて適切な廃棄が確保される。
【0064】
生体物質分析のプロセス全体にわたって、液状生体物質の熱処理が単離チャンバ7内及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内で行われる。単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4を加熱するのに必要なエネルギーが非接触で伝達される。エネルギー源は、UV−VIS範囲からの光放射線を放出するLED発光ダイオードである。例えば、LEDによって放射される波長は、350nmから500nmまで選択され得る。発光ダイオードは、測定装置の内部に位置されるとともに、単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の領域を照らすように配置される。高い光透過率を特徴とする反応カートリッジ6の構成のために透明材料を使用することにより、それぞれのチャンバに関してエネルギー効率の良い加熱方法を使用することができる。反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4及び単離チャンバ7の温度は、デジタル処理ブロックを用いてパイロメータによる接触を伴うことなく制御される。システム全体は、ソフトウェアを内蔵したマイクロプロセッサドライバによって制御される。また、反応器内を照らすために、CCDによる画像記録に必要な低出力UV LEDが測定装置で使用される。生化学反応生成物の検出は、CCD検出器のRGBチャネルからの信号の量子化レベルを決定することに基づいている。装置の形態はカラー信号の連続記録を可能にする。照明ダイオードを使用することにより、外部光源を用いてサンプルを絶えず照らす必要がなくなるため、検出器による画像の連続記録を行うことができる。
【0065】
本発明の一実施形態に係る測定装置の構成が
図5にブロック図形式で示される。一般に、反応カートリッジ6を収容するように構成される測定チャンバ10は、測定装置において区別される。反応カートリッジ6を測定チャンバ10内に適正に位置決めするために、反応カートリッジ6の位置決め機構11が設けられる。測定チャンバ10は、外側断熱体12により覆われる密閉構造であり、それにより、内側を設定温度に保つことが容易となる。測定チャンバ10内の等温制御された温度(例えば、4℃〜40℃の範囲内)を維持することにより、(例えばペルチェアセンブリの形態で)加熱システム13が確保される。測定チャンバ11内で加熱空気を適切に分配するために、ファン14及び空気混合ホイール22が使用される。加熱システム13の効率は、測定チャンバ10の外側に位置されるラジエータ15によっても確保される。また、測定装置は、画像制御・分析モジュール16、通信モジュール17、電源モジュール18、及び、ディスプレイ19など、装置の適切な機能に必要な更なるブロックも含む。前述のブロックの機能及びそれらの構成は当業者に良く知られており、そのため、それらの正確な記述は説明を簡単にするために省かれる。測定装置の測定チャンバ20は、反応カートリッジ6内のポンプP1を作動させる目的で圧力設定機構10も備える。圧力センサ21は、ポンプP1の設定圧力を制御するために反対側に位置される。単離チャンバ7内及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内の正確な温度を確保するために、測定チャンバ10内には、放射光ストリームが単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4をそれぞれ照らすように反応カートリッジ6に対して位置される多くの加熱ユニット23が設けられる。より具体的には、各加熱ユニット23は、ラジエータ24と、温度検出器25と、温度検出器スタビライザ26とを有するLEDから成る。単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の加熱は、400nm〜500nmの範囲で連続調整可能な光子エネルギーストリームを伴うLEDを用いて行われ、このLEDは、高い光子放出性能に起因して好ましく、単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の底部で吸収層に達する高出力になる。チャンバ7、8.1、8.2、8.3、8.4の底部の温度及びエネルギーの吸収を補償してチャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内の凍結乾燥された生体物質の分解を防止するため、光子エネルギーを完全に吸収する吸収層が使用された。この層は、例えば酸化物で被覆されたCu又はAl(この例ではAl
2O
3、染色された黒色)などの材料、及び、良好な吸収特性及び良好な熱伝導率を有する他の材料(改質ポリマー、例えばカーボン又はグラフェンを含む)から形成される。
【0066】
チャンバ7、8.1、8.2、8.3、8.4内の経時的な温度上昇は、光ストリームのパワーを増大させることによって達成され、温度低下は、4℃〜40℃の温度の等温測定チャンバ10によって達成される。周囲に対する単離チャンバ7又は反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の耐熱性を一定にした状態で、反応カートリッジ6の周囲温度を変えることによって温度の低下速度を制御することができる。所望の温度低下速度に応じて、装置内(すなわち、測定チャンバ10内)の温度が設定され、適切な出力がチャンバ7、8.1、8.2、8.3、8.4の吸収層に加えられる。このようにすると、任意の温度プロファイルを25℃〜100℃の範囲で高い上昇速度及び低下速度を伴って得ることができる。チャンバの吸収層は、LEDからの光ストリームの想定し得る不均一性を排除して作業チャンバの領域内に温度勾配がないようにする高い熱伝導率を有する。
【0067】
温度測定は、午後8時から午後12時までの範囲で内蔵の放射線透過性フィルタを伴うパイロメータなどの温度検出器によって行われるため、温度を同時に測定して単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4にエネルギーを供給することができる。この場合、単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内の温度制御にわたって制御不足期間はない。更に、PIDコントローラの動作に関連する温度のピークはなく、また、パルス幅変調PWMによる出力制御が不要であり、それにより、熱雑音を殆どもたらさないという利点を有する。
【0068】
更に、生成される光のビームが装置を照らすように類推的に配置される一連のLED27が弁Z1−Z11及び液体検出器D1−D4を動作させるために設けられる。カメラ28を伴う光学系は、CCD検出器の形態を有してもよく、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内での反応によりもたらされる蛍光色素から生じる光信号を検出するようになっている。これを可能にするために、検出領域を照らすUV LED29も設けられる。
【0069】
例2
図2は、本発明に係る生体サンプル中の遺伝物質を検出するための装置で使用される反応カートリッジ6の他の実施形態を概略的に示す。本実施形態に示される反応カートリッジ6の全体的な形態及び動作原理は、例1の反応カートリッジ6の構成及び動作原理と一致する。比較の反応カートリッジ6との基本的な相違点は、例2の反応カートリッジ6では一体型のサンプリングシステム1が使用される(それは本発明の第1の実施形態の場合のような別個の装置ではない)という点である。したがって、反応カートリッジ6は、取り外し可能な要素がないコンパクトな構造である。この場合、収集された生体物質は、反応カートリッジ6の一体部分を形成するサンプリングシステム1に導入される。また、この例では、毛細管力によって生体物質を吸収する毛細管2を区別することができる。毛細管2の他端には、生体物質による毛細管2の充填を知らせる制御窓30が設けられる。本実施形態では、第1のポンプP1がピストン及びベローズなどの機械的要素によって形成される。この実施形態では、反応チャンバ6のための水がカプセルの形態で供給され、これにより、反応チャンバ6の製造において容易に滅菌を行うことができるとともに湿式プロセスを分離できることが強調されるべきである。水の放出は、試験の直前に行われ、ポンプP1が動作し始める際に針注入31によって実行される。単離チャンバ7から反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4への生体物質及び生成物の輸送は、カプセルから水を押し出すことによってポンプP1によりもたらされる。これは装置のプロセス制御を単純化する。加熱中の適切な圧力は、測定装置内の圧力センサ21及び弁Z5、Z8、Z9、Z10の対応する制御によってもたらされる。この実施形態では、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の構成も言及に値する。平面視における反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4のそれぞれは相補的な円である。反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4は、互いに補完し合って、弁又はダイヤフラム33により中央で接続される全ての反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4を備える円形領域を形成する。この実施形態では、実施形態の全体性に影響を及ぼさない様々な弁形態33が使用されてもよい。反応カートリッジ6で使用できる典型的な弁33が
図4A〜
図4Dに示され、これらの弁はそれぞれ、疎水性円形弁、疎水性−機械的円形弁、疎水性−機械的楕円弁、疎水性−機械的矩形弁である。提示された機械的な弁は、弁を形成した可撓性材料の変形に作用する。特定の力が必要とされ、この力は同時に圧力を規定し、この圧力を超えると、所定の方向の液体の流れを引き起こす。弁の形状は、第2の方向で弾性変形が阻止されることによってその方向での液体の流れが遮断されるようになっている。疎水性弁は、液体が(空気が自由に流れる間に)疎水性弁材料と接触して表面張力に打ち勝たなければならないという原理に基づいて動作する。これにより、弁における開口の直径と弁を形成する材料の疎水性とに応じて、チャネル内の液体の流れを所定の圧力まで遮断することができる。3つのチャネルを液体で同時に充填する場合には、疎水性弁をチャネルの端部に配置した後、それらのチャンバが自動的に充填される。空気が妨げられることなく流れ、液体がこれらの弁で連続的に停止する。これは、液体がこれらの弁を通って流れるためにより大きな圧力が必要とされるからである。これらの2種類の弁を組み合わせることにより、反応カートリッジ6内の液体の流れを制御し易くなる。
【0070】
更に、本実施形態では、付加的なポンプP2が使用されず、(第1の実施形態の反応カートリッジ6と比較して)使用される弁の数が実質的に減少された。更に、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の構成に起因して、出口チャネルが反応カートリッジ6の3つの異なる縁部へと方向付けられ、また、液体が反応カートリッジ6から抜け出て測定装置へと向かわないようにするための補償室33が通気孔9の前に設けられる。
【0071】
反応カートリッジ6の他の構成要素及び動作原理は、反応カートリッジ6の第1の実施形態で開示されたものと一致する。
【0072】
例3
本発明の更なる他の実施形態である
図3に示される反応カートリッジ6は、各反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4において2つの弁33が反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4の入口及び出口で使用されるとともに、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4を加熱することによって引き起こされる圧力変動を伴って安定した制御された液体流を一方向で供給するようになっている接続チャネル34が使用されるという点でのみ
図2に示される反応カートリッジ6と異なる。本実施形態で提示される解決策では、第2の実施形態で提示される解決策とは対照的に、弁Z8,Z10弁が存在せず、そのため、反応カートリッジ6の形態及びその動作が大幅に単純化される。接続チャネル34は、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4を通気する役目を果たす。弁が液体の引き込みを防止するという事実に起因して、反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内で制御されない液体の混合はない。反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内に2つの弁を配置することにより、出口で1つの常開弁のみを使用して、システムの適切な動作を確保することができる。
【0073】
例4
本発明の方法及び本発明の装置を用いた血液中のHIVの検出。
【0074】
患者から採取されたサンプル中のHIVウイルスの存在を分析するため、本発明に係る生体サンプル中の遺伝物質の検出のための方法及び装置が例1及び例2に詳しく記載される。単離チャンバ7では、Chelex 100が使用される。DNA単離は、細胞膜又はウイルスタンパク質エンベロープの熱分解と、ウイルス細胞/タンパク質エンベロープ内に封入される遺伝物質の放出とを伴う。Chelex 100は、ポリメラーゼをブロックして偽陰性結果をもたらし得る阻害剤を捕捉するために必要である。Chelex 100は、ヌクレアーゼがない脱イオン水中の5%混合物として調製されるとともに、多孔質層の形態を成して単離チャンバの底部で固定化され得る。単離チャンバ内で単離を実行するために、血液が5〜10分間にわたって95℃で加熱される。
【0075】
緩衝剤、dNTP、MgSO
4、Primer Mixer、Bst3.0ポリメラーゼ、SYBR Greenを含む凍結乾燥試薬が反応チャンバ内にある。遺伝物質の増幅は、30分間にわたって65℃で加熱することによって反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内で行われる。試験チャンバ8.1内には特異的HIVプライマーが存在する。内因性ポジティブコントロールチャンバ8.2内には、ヒト遺伝子における特異的プライマーが存在する。ネガティブコントロールチャンバ8.3内には、添加プライマーがないが、反応の他の成分を含有している。LAMP反応及び検出は−反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4内で行われ、Bst3.0ポリメラーゼ酵素を使用して所定の病原体の遺伝物質(及び内因性制御のためのヒト遺伝物質)を増幅することにある。反応に添加される特異的プライマーは、試験されたゲノムの選択された断片に結合しており、反応で増幅された断片を決定する。反応の終了時に、約10〜50μg/μlの増幅DNA断片が形成される。反応混合物中に存在するSYBR Greenは、反応生成物と組み合わされ、また、二本鎖DNAと組み合わされると、蛍光になる(光が十分な長さであるときに明るくなる)。生成物増分は、色素からの光の増大に等しい。反応の終了時、結果が陽性であり且つ試験断片が増幅されるときには、光が可視であり、結果が陰性であるときには、光が存在しない。Bst3.0ポリメラーゼに適した作業条件を与えるために、他の反応成分(緩衝剤、MgSO
4、dNTP)が添加される。
【0076】
反応チャンバ内のDNA/RNA物質を単離するプロセスでは、病原体が中和される。唯一の危険は、毛細管2内又は反応カートリッジ6のチャネル内の遺伝物質の残留物となり得る。したがって、検出後、遺伝物質の残留物がリサイクルされ、このリサイクルは、反応カートリッジ6(特に、単離チャンバ7及び反応チャンバ8.1、8.2、8.3、8.4)をUV放射線に晒して100℃を超える温度まで個体成分を加熱することにより遺伝物質を廃棄することによって行われる。これにより、煩雑な廃棄処理を行う必要なく、使用済みの反応カートリッジ6を安全に廃棄することができる。