【文献】
Nat. Chem. Biol.,2015年,Vol. 11,p. 207-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記転写アクチベーターが、Gal4VP16、Gal4vp64、dCas9−VPR、dCas9−VP64、dCas9−VP16、dCas9−VTR、及びrtTAからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の発現系。
前記第1の認識配列及び前記第2の認識配列が、それぞれ独立して、5×UAS、7×tetO、及びdCas9の標的配列の少なくとも1つから選択される請求項1に記載の発現系。
前記第1の調節タンパク質及び前記第2の調節タンパク質が、それぞれ独立して、LacI、tetR、ジンクフィンガー、KRAB、tetR−KRAB、及びdCas9−KRABの少なくとも1つから選択される請求項1に記載の発現系。
前記第1の調節エレメント及び前記第2の調節エレメントが、それぞれ独立して、tetO、LacO、ジンクフィンガー標的部位、及びdCas9の標的配列の少なくとも1つから選択される請求項6に記載の発現系。
前記第1の調節タンパク質が、LacIであり、前記第2の調節エレメントが、複数の繰り返されたLacO配列を含み、前記複数の繰り返されたLacO配列の少なくとも1つが、前記第2のプロモーターの下流に設定される請求項7に記載の発現系。
前記第2の調節タンパク質が、tetR−KRABであり、前記第1の調節エレメントが、複数の繰り返されたtetO配列を含み、前記複数の繰り返されたtetO配列の少なくとも1つが、前記第1のプロモーターの下流に設定される請求項6に記載の発現系。
前記第1のmicroRNAが、miR199a、miR95、miR125、miR25b、Let−7、miR143、miR145、及びmiR200Cからなる群から選択される少なくとも1つを含む請求項1に記載の発現系。
前記第2のmicroRNAが、miR21、miR223、miR224、miR221、miR18、miR214、miR146a、及びmiR1792からなる群から選択される少なくとも1つを含む請求項1に記載の発現系。
前記第1の核酸分子及び前記第2の核酸分子が、第1の発現ベクターにローディングされ;前記第3の核酸分子、前記第4の核酸分子、前記第5の核酸分子、及び任意に前記第9の核酸分子が、第2の発現ベクターにローディングされ;前記第6の核酸分子、前記第7の核酸分子、前記第8の核酸分子、及び任意に前記第10の核酸分子が、第3の発現ベクターにローディングされる請求項1に記載の発現系。
前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターが、それぞれ独立して、プラスミド、ウイルス、ナノ物質、リポソーム、分子結合ベクター、ネイキッドDNA、染色体ベクター、及びポリマーの少なくとも1つから選択される請求項19に記載の発現系。
前記ウイルスが、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、及びレトロウイルスからなる群から選択される少なくとも1つを含む請求項20に記載の発現系。
前記第2の発現ベクターが、5’末端から3’末端に、BsaI、5×UAS、tetO、miniCMV、tetO、E1A、2A、免疫効果因子、LacI、microRNA199a特異的認識配列、及びBsaIを含み、
任意に、前記第2の発現ベクターが、配列番号2〜7からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する請求項19に記載の発現系。
前記第3の発現ベクターが、5’末端から3’末端に、BsaI、5×UAS、LacO、miniCMV、LacO、tetR−KRAB、microRNA21特異的認識配列、及びBsaIを含み、
任意に、前記第3の発現ベクターが、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する請求項19に記載の発現系。
前記アデノウイルスが、5’末端から3’末端に、第1の末端逆位配列、パッケージングシグナル、AFPIII、Gal4VP16、5×UAS、tetO、miniCMV、tetO、E1A、2A、免疫エフェクター、2A、LacI、microRNA199a特異的認識配列、5×UAS、LacO、miniCMV、LacO、tetR−KRAB、microRNA21特異的認識配列、アデノウイルスE2遺伝子領域、アデノウイルスE3遺伝子領域、アデノウイルスE4遺伝子領域、及び第2の末端逆位配列を含み、
任意に、前記アデノウイルスベクターが、配列番号9〜14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する請求項23に記載の発現系。
前記組換えウイルスが、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、及びヘルペスウイルスからなる群から選択される少なくとも1つを含む請求項29に記載の組換えウイルス。
前記免疫エフェクターが、PD−1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、PD−L1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、CTLA4遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、Tim−3遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、IL−2、IL−12、IL−15、又はGM−CSFからなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む請求項29に記載の組換えウイルス。
癌の治療のための医薬の調製における、請求項1から28のいずれかに記載の発現系、請求項29から32のいずれかに記載の組換えウイルス、及び請求項33から34のいずれかに記載の組換え細胞の使用。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、前述の技術的問題の幾つかを少なくともある程度解決することを目的とする。
【0008】
発明者の研究室での研究成果に基づいて、本発明者らは、アデノウイルス調節に適し、異なる微小環境に反応する遺伝子回路を設計及び構築した。この遺伝子回路において、本発明者らは、複数レベルのバイオマーカーを使用する。具体的には、第1に、特異的プロモーターを、遺伝子回路を調節するためのマスタースイッチとして使用する。即ち、特異的プロモーターを使用してマスターアクチベーターの発現を調節し、アデノウイルスE1A遺伝子の発現を更に調節する。第2に、microRNA標的配列は、異なる微小環境下でのmicroRNAの発現特性に応答するために使用され、遺伝子回路を調節するための第2のスイッチとして機能する。第3に、閉ループ遺伝子回路を使用して相互抑制スイッチを構築し、そのような相互抑制閉ループスイッチは、リーク(leakage)を効果的に回避しながら、微小環境の変化に対してより効果的に抑制応答することができる。第4に、E1B遺伝子が除去されるので、それによって操作されたアデノウイルスは、E1B遺伝子が存在しないため、正常細胞からP53欠損腫瘍細胞を区別する改善された能力を有する。第5に、E3遺伝子が除去されるため、正常細胞における腫瘍溶解性アデノウイルスの毒性が減少し、一方でアデノウイルスベクターのパッケージング容量が増加する。
【0009】
一般に、タイプ2及びタイプ5のヒトアデノウイルスのゲノム長は36K
bpであるため、切断、ライゲーションなどの従来のプラスミド構築方法を用いてアデノウイルスを遺伝的に改変することは非常に難しく、時間がかかる。この問題を解決するために、本発明者らは、本遺伝子回路により構築されるアデノウイルスを迅速に構築する方法を設計し、前記方法は、以下の3つの工程を含む。第一の工程では、一次エレメントライブラリーが構築され、必要なコンポーネントが対応するプラスミドに構築される。そのような一次エレメントライブラリーは、3つの遺伝子部分を含み、前記3つの遺伝子部分は、遺伝子回路の一方の側における抑制コンポーネント、アデノウイルスのE1A遺伝子、及びアデノウイルスE1A遺伝子と同時発現されるとエフェクター遺伝子(免疫性因子遺伝子又はキラー遺伝子など)を主に発現する抑制エレメントライブラリーAと;遺伝子回路の他方の側で抑制遺伝子を主に発現し、遺伝子回路の効果的な反転を調節し、スイッチの安全性を高めるように構成された抑制エレメントライブラリーBと;組織又は腫瘍特異的プロモーターを介して遺伝子回路の下流遺伝子を調節するマスタースイッチである特異的プロモーターライブラリーと、を含む。第2の工程では、発現されるエフェクターとバイオマーカーを決定した後、一次エレメントライブラリーから選択された対応するプラスミドは、ゴールデンゲート(Golden Gate)法により遺伝子回路に迅速にアセンブルされる。第3の工程では、操作されたアデノウイルスベクターに遺伝子回路をローディングする(アデノウイルスの人為的調節を容易にするためのE1遺伝子の除去、及びパッケージング容量を拡大するためのE3配列の除去)。
【0010】
複数の遺伝子を有すると同時に発現させることは、腫瘍溶解性アデノウイルスの他の注目すべき特徴である。本開示では、IL−2、GM−CSF、抗−PD−1 scFv、抗−PD−L1 scFv、及びこれらの遺伝子間の融合タンパク質などの1つ以上の細胞性免疫関連遺伝子が、本発明者らの開示による溶解性アデノウイルスによって同時に発現される。腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍細胞を攻撃すると体系的な免疫反応を引き起こすが、免疫関連遺伝子の存在により免疫過剰反応を引き起こすリスクを有する。したがって、腫瘍溶解性ウイルスの治療効果は、運ばれる免疫関連遺伝子、対応する投与用量、及び投与経路に強く影響される。本開示において、本発明者らは、バイオインフォマティクス法により標的細胞に対するアデノウイルスの感染プロセスをモデル化することを試み、腫瘍溶解性アデノウイルスの有効性を改善するために、腫瘍細胞を殺す際の腫瘍溶解性アデノウイルスの特性を可能な限り研究した。
【0011】
第1の態様においては、実施形態における本開示は発現系を提供する。本開示の実施形態によれば、前記発現系は、細胞特異的プロモーターを組み込む第1の核酸分子と;前記第1の核酸分子に機能可能に結合され、転写アクチベーターをコードする第2の核酸分子と;前記転写アクチベーターの第1の認識配列を組み込む第3の核酸分子と;前記第3の核酸分子に機能可能に結合され、第1のプロモーター及び第1の調節エレメントを組み込む第4の核酸分子と;前記第4の核酸分子に機能可能に結合され、第1の調節タンパク質をコードする第5の核酸分子と;前記転写アクチベーターの第2の認識配列を組み込む第6の核酸分子と;前記第6の核酸分子に機能可能に結合され、第2のプロモーター及び第2の調節エレメントを組み込む第7の核酸分子と;前記第7の核酸分子に機能可能に結合され、第2の調節タンパク質をコードする第8の核酸分子と;前記第5の核酸分子に機能可能に結合され、前記第1の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第9の核酸分子、及び前記第8の核酸分子に機能可能に結合され、前記第2の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第10の核酸分子からなる群から選択される少なくとも1つと、を含み、前記第1の調節エレメントは、前記第2の調節タンパク質に結合することによって前記第1のプロモーターの機能を阻害するようにされ、前記第2の調節エレメントは、前記第1の調節タンパク質に結合することによって前記第2のプロモーターの機能を阻害するようにされる。強力な制御、高い効率、及び特異性を有する本開示の実施形態に係る前記発現系を用いて、特定の細胞環境下で目的の遺伝子を特異的に発現させながら、相互抑制方式によって調節されることができる。
【0012】
本開示の実施形態においては、前記発現系は、下記に記載される追加の技術的特徴の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0013】
本開示の実施形態においては、前記細胞特異的プロモーターは、腫瘍細胞特異的プロモーターである。前記腫瘍細胞特異的プロモーターは、αフェトプロテイン特異的プロモーター、サバイビンプロモーター、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子プロモーター、コレシストキニンA受容体遺伝子プロモーター、癌胎児抗原プロモーター、癌原遺伝子ヒト上皮成長因子受容体2プロモーター、プロスタグランジンエンドキシゲナーゼ(endoxygenase)還元酵素2プロモーター、ケモカイン受容体−4、E2F−1遺伝子プロモーター、ムチンプロモーター、前立腺特異抗原、ヒトチロシナーゼ関連タンパク質1、及びチロシナーゼプロモーターからなる群から選択される少なくとも1つである。実施形態における前記発現系は、上記に記載される腫瘍細胞特異的プロモーターの制御下で特定の腫瘍細胞の微小環境で開始され、それによって調節及び遺伝子発現の特異性を更に高めることができる。
【0014】
本開示の実施形態においては、前記転写アクチベーターは、Gal4VP16、Gal4VP64、Gal4esn、dCas9−VP16、dCas9−VP64、dCas9−VPR、dCas9−VTR、及びrtTAからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0015】
本開示の実施形態においては、前記第1の認識配列及び前記第2の認識配列は、それぞれ独立して、5×UAS、7×tetO、及びdCas9の標的配列の少なくとも1つから選択される。
【0016】
本開示の実施形態においては、前記第1のプロモーター及び前記第2のプロモーターは、それぞれ独立して、miniCMV及びTATA boxから選択される。
【0017】
本開示の実施形態においては、前記第1の調節タンパク質及び前記第2の調節タンパク質は、それぞれ独立して、LacI、tetR、ジンクフィンガー、KRAB、tetR−KRAB、及びdCas9−KRABの少なくとも1つから選択される。
【0018】
本開示の実施形態においては、前記第1の調節エレメント及び前記第2の調節エレメントは、それぞれ独立して、tetO、LacO、ジンクフィンガー標的部位、及びdCas9の標的配列の少なくとも1つから選択される。
【0019】
本開示の実施形態においては、前記第1の調節タンパク質は、LacIであり、前記第2の調節エレメントは、複数の繰り返されたLacO配列を含み、前記複数の繰り返されたLacO配列の少なくとも1つは、前記第2のプロモーターの下流に設定される。発現後の前記LacIは、前記LacO配列に特異的に結合し、それによって前記第2のプロモーターの機能を抑制することができる。実施形態に係るLacI/LacO抑制系は、実験により実証されるように、前記第2のプロモーターの下流遺伝子の発現を効果的に阻害することができる。
【0020】
本開示の実施形態においては、前記第2の調節タンパク質は、tetR−KRABであり、前記第1の調節エレメントは、複数の繰り返されたtetO配列を含み、前記複数の繰り返されたtetO配列の少なくとも1つは、前記第1のプロモーターの下流に設定される。実施形態に係るtetR−KRAB/tetO抑制系は、前記第1のプロモーターの下流遺伝子の発現を効果的に阻害することができる。
【0021】
本開示の実施形態においては、前記第5の核酸分子及び前記第9の核酸分子の少なくとも1つは、目的のタンパク質をコードする配列を更に含む。本開示の実施形態に係る発現系を用いると、特定の細胞微小環境で前記目的のタンパク質を特異的に発現させながら、相互抑制方式で調節されることができる。本開示の具体的な実施形態によれば、前記発現系は、前記目的のタンパク質の発現における顕著に増加した特異性及び調節を示す。
【0022】
本開示の実施形態においては、前記第5の核酸分子は、前記目的のタンパク質をコードする配列を含み、前記目的のタンパク質は、ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質、及び免疫エフェクターから選択される少なくとも1つを含む。任意に、前記ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質、及び前記免疫エフェクターは、融合タンパク質の形態で存在することができる。前記ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質は、宿主における発現系ベクターの生存及び複製を効果的に保証することができる。前記免疫エフェクターの発現は、体内の免疫系を効果的に活性化し、それによって腫瘍細胞などの特定の細胞に対する免疫殺傷を促進することができる。
【0023】
本開示の実施形態においては、前記ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質は、アデノウイルスE1遺伝子、アデノウイルスE1A遺伝子、アデノウイルスE1B遺伝子、アデノウイルスE2遺伝子、及びアデノウイルスE4遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0024】
本開示の実施形態においては、前記免疫エフェクターが、PD−1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、PD−L1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、CTLA4遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、Tim−3遺伝子アンタゴナイズする阻害配列、GM−CSF、IL−2、IL−12、及びIL−15からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。任意に、上記に記載される免疫エフェクターは、融合タンパク質の形態で存在することができる。
【0025】
本開示の実施形態においては、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、融合タンパク質の形態で発現され、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、切断可能なリンカーペプチドによって結合される。前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、同じプロモーターによって調節及び発現され、発現後前記リンカーペプチドで切断され、それによって前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は分離され、互いに独立して機能する。
【0026】
本開示の実施形態においては、前記第9の核酸分子及び前記第10の核酸分子は、独立して、RNA干渉を介して前記第1の調節タンパク質又は前記第2の調節タンパク質の発現を阻害し、microRNAは、異なる細胞微小環境で発現される特異的なmicroRNAであり、前記第9の核酸分子又は前記第10の核酸分子は、前記microRNAの特異的標的配列である。特異的微小環境で発現される前記microRNAは、RNA干渉を介して前記標的配列に特異的に作用することができるので、それによって前記第1の調節タンパク質又は前記第2の調節タンパク質の発現は、特異的に調節されることができる。本開示の実施形態においては、前記第9の核酸分子は、第1のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含み、前記第1のmicroRNAは、正常細胞特異的microRNAであり;前記第10の核酸分子は、第2のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含み、前記第2のmicroRNAは、異常細胞特異的microRNAである。更に、前記第1の調節タンパク質は、異常細胞で発現され、正常細胞では発現されない又は低い発現であり、一方前記第2の調節タンパク質は、正常細胞で発現され、異常細胞では発現されない又は低い発現である。
【0027】
本開示の具体的な実施形態においては、前記第1のmicroRNAは、miR199a、miR95、miR125、miR25b、Let−7、miR143、miR145、及びmiR200Cからなる群から選択される少なくとも1つを含む。上記に記載されるmicroRNAは、正常な肝細胞で発現される。
【0028】
本開示の具体的な実施形態においては、前記第2のmicroRNAは、miR21、miR223、miR224、miR221、miR18、miR214、miR146a、及びmiR1792からなる群から選択される少なくとも1つを含む。上記に記載される第2のmicroRNAは、肝細胞癌細胞(HepG2、Huh7、及びPLCなど)で特異的に発現されるmicroRNAである。更に、前記第1の調節タンパク質は、肝細胞癌細胞で発現され、正常細胞では発現されない又は低い発現であり、一方前記第2の調節タンパク質は、正常細胞で発現され、肝細胞癌では発現されない又は低い発現である。
【0029】
本開示の実施形態においては、前記第1の核酸分子及び前記第2の核酸分子は、第1の発現ベクターにローディングされ;前記第3の核酸分子、前記第4の核酸分子、前記第5の核酸分子、及び任意に前記第9の核酸分子は、第2の発現ベクターにローディングされ;前記第6の核酸分子、前記第7の核酸分子、前記第8の核酸分子、及び任意に前記第10の核酸分子は、第3の発現ベクターにローディングされる。前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターは、前記発現系のためのローディングベクターとして機能し、それによって細胞などの好適な微小環境において目的の遺伝子の特異性発現を調節する。
【0030】
前記発現ベクターの選択は、前記発現系が好適な微小環境でその機能を示すことができる限り、特に限定されない。本開示の具体的な実施形態によれば、前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターは、それぞれ独立して、プラスミド、ウイルス、安定発現株、及びナノ物質、リポソーム、分子結合ベクター、ネイキッドDNA、染色体ベクター、及びポリマーなど他のキャリアの少なくとも1つから選択される。
【0031】
本開示の実施形態においては、前記ウイルスは、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、及びレトロウイルスからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0032】
本開示の実施形態においては、前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターは、1つの同じベクターにローディングされる。前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターの接続順序は、前記発現系の生物学的機能の実現に影響を与えない限り、特に限定されないことに留意されるべきである。本開示の具体的な実施形態によれば、複数の大きな断片ベクターの同時トランスフェクション効率が非常に低いという問題は、1つの同じ発現ベクターにローディングすることによって、効果的に解決されることができる。
【0033】
本開示の実施形態においては、前記1つの同じベクターは、アデノウイルスベクターである。遺伝子治療ベクターとして、アデノウイルスは、広範な宿主、ヒトへの低い病原性、増殖及び非増殖細胞での感染及び遺伝子発現、高力価、ヒト遺伝子との相同性、挿入後の変異原性がないこと、及び懸濁液中で増幅し、同時に複数の遺伝子の発現をすることといった利点を有する。
【0034】
本開示の具体的な実施形態においては、前記第1の発現ベクターは、5’末端から3’末端に、BsaI、AFPIII、Gal4VP16、及びBsaIを含む(BsaI−AFPIII−Gal4VP16−BsaI)。
【0035】
本開示の実施形態においては、前記第1の発現ベクターは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する。
【化1-1】
【化1-2】
【0036】
本開示の具体的な実施形態においては、前記第2の発現ベクターは、5’末端から3’末端に、BsaI、5×UAS、tetO、miniCMV、tetO、E1A、2A、免疫効果因子(エフェクター)、LacI、microRNA199a特異的認識配列(標的部位)、及びBsaIを含む(BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−エフェクター−LacI−miR199a標的部位−BsaI)。本開示の具体的な実施形態においては、前記エフェクターは、IL−2、hGM−CSF、mGM−CSF、抗−PD−1scFv、抗−PD−L1scFv、IL−2−抗−PD−1scFv融合タンパク質、hGM−CSF−抗−PD−1scFv融合タンパク質、mGM−CSF−抗−PD−1scFv融合タンパク質、IL−2−抗−PD−L1scfv融合タンパク質、hGM−CSF−抗−PD−L1scfv融合タンパク質、mGM−CSF−抗−PD−L1scfv融合タンパク質を具体的に含む。
【0037】
本開示の実施形態においては、前記第2の発現ベクターは、配列番号2〜7からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する。
【化2-1】
【化2-2】
【化3-1】
【化3-2】
【化4-1】
【化4-2】
【化5-1】
【化5-2】
【化6-1】
【化6-2】
【化7-1】
【化7-2】
配列番号2は、BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−EBFP−2A−LacI−miR199a標的部位−BsaIの配列である。
配列番号3は、BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−hIL−2−2A−LacI−miR199a標的部位−BsaIの配列である。
配列番号4は、BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−hGM−CSF−2A−LacI−miR199a標的部位−BsaIの配列である。
配列番号5は、BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−mGM−CSF−2A−LacI−miR199a標的部位−BsaIの配列である。
配列番号6は、BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−抗−PD−1scFv−2A−LacI−miR199a標的部位−BsaIの配列である。
配列番号7は、BsaI−5×UAS−tetO−miniCMV−tetO−E1A−2A−抗−PD−L1scFv−2A−LacI−miR199a標的部位−BsaIの配列である。
【0038】
本開示の具体的な実施形態においては、前記第3の発現ベクターは、5’末端から3’末端に、BsaI、5×UAS、LacO、miniCMV、LacO、tetR−KRAB、microRNA21特異的認識配列(標的部位)、及びBsaIを含む(BsaI−5×UAS−LacO−miniCMV−LacO−tetR−KRAB−microRNA21標的部位−BsaI)。
【0039】
本開示の実施形態においては、前記第3の発現ベクターは、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する。
【化8】
【0040】
本開示の具体的な実施形態においては、前記アデノウイルスは、5’末端から3’末端に、第1の末端逆位配列(ITR)、パッケージングシグナル、AFPIII、Gal4VP16、5×UAS、tetO、miniCMV、tetO、E1A、2A、エフェクター、2A、LacI、miR199a標的部位、5×UAS、LacO、miniCMV、LacO、tetR−KRAB、miR21標的部位、アデノウイルスE2遺伝子領域、アデノウイルスE3遺伝子領域(領域28922−30801の除去)、アデノウイルスE4遺伝子領域、及び第2の末端逆位配列(ITR)を含む。本発明者らが腫瘍マウスモデルに注射すると、上記アデノウイルスは、マウスにおける腫瘍の成長を有意に阻害することができる。上記アデノウイルスは、安全で効果的な腫瘍溶解性ウイルスワクチンとして使用され、関連する腫瘍を安全且つ効果的な方法で特異的に死滅させることができる。
【0041】
本開示の実施形態においては、前記アデノウイルスベクターは、配列番号9〜14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を有する。
【化9-1】
【化9-2】
【化9-3】
【化9-4】
【化10-1】
【化10-2】
【化10-3】
【化10-4】
【化11-1】
【化11-2】
【化11-3】
【化11-4】
【化12-1】
【化12-2】
【化12-3】
【化12-4】
【化13-1】
【化13-2】
【化13-3】
【化13-4】
【化14-1】
【化14-2】
【化14-3】
【化14-4】
配列番号9は、アデノウイルスベクターが有するEBFPを担持する核酸の配列である。
配列番号10は、アデノウイルスベクターが有するhIL−2を担持する核酸の配列である。
配列番号11は、アデノウイルスベクターが有するhGMCSFを担持する核酸の配列である。
配列番号12は、アデノウイルスベクターが有するmGMCSFを担持する核酸の配列である。
配列番号13は、アデノウイルスベクターが有する抗−PD−1scFvを担持する核酸の配列である。
配列番号14は、アデノウイルスベクターが有する抗−PD−L1 scFvを担持する核酸の配列である。
【0042】
本開示の実施形態においては、前記アデノウイルスは、アデノウイルスベクターから、アデノウイルス複製及びパッケージングに関連する前記アデノウイルスE1遺伝子及び前記アデノウイルスE3遺伝子の一部を除去する工程と;段階的ゴールデンゲート法によって、遺伝子回路に前記アデノウイルスE1A遺伝子を挿入する工程と;ゲートウェイ(Gateway)法又はギブソン(Gibson)法によって、前記アデノウイルスベクターに前記遺伝子回路を組み込む工程と、によって得られる。上記に記載されるアデノウイルスを得る方法は、複雑で大きな断片の腫瘍溶解性アデノウイルスベクターの迅速なエンジニアリングが可能になる。
【0043】
第2の態様においては、実施形態における本開示は、組換えウイルスを提供する。本開示の実施形態においては、前記組換えウイルスは、αフェトプロテイン特異的プロモーターである腫瘍細胞特異的プロモーターを含む第1の核酸分子と;前記第1の核酸分子に機能可能に結合され、Gal4VP16である転写アクチベーターをコードする第2の核酸分子と;前記転写アクチベーターの5×UASである第1の認識配列を含む第3の核酸分子と;前記第3の核酸分子に機能可能に結合され、第1のプロモーター及び第1の調節エレメントを含む第4の核酸分子であって、前記第1のプロモーターは、miniCMVであり、前記第1の調節エレメントは、複数の繰り返されたtetO配列を含み、前記複数の繰り返されたtetO配列の少なくとも1つは、前記第1のプロモーターの下流に設定される第4の核酸分子と;前記第4の核酸分子に機能可能に結合され、LacIである第1の調節タンパク質をコードする第5の核酸分子であって、前記第5の核酸分子は、目的のタンパク質をコードする配列を更に含み、前記目的のタンパク質は、ウイルス性複製タンパク質及び免疫エフェクターを含み、前記免疫エフェクターは、個々のタンパク質又は融合タンパク質の形態で発現され、前記ウイルス性複製タンパク質及び前記免疫エフェクターは、切断可能なリンカーペプチドによって結合され、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、融合タンパク質の形態で発現され、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、切断可能なリンカーペプチドによって結合される第5の核酸分子と;前記転写アクチベーターの5×UASである第2の認識配列を含む第6の核酸分子と;前記第6の核酸分子に機能可能に結合され、第2のプロモーター及び第2の調節エレメントを含む第7の核酸分子であって、前記第2のプロモーターは、miniCMVであり、前記第2の調節エレメントは、複数の繰り返されたLacO配列を含み、前記複数の繰り返されたLacO配列の少なくとも1つは、前記第2のプロモーターの下流に挿入される第7の核酸分子と;前記第7の核酸分子に機能可能に結合され、tetR−KRABである第2の調節タンパク質をコードする第8の核酸分子と;前記第5の核酸分子に機能可能に結合され、前記第1の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第9の核酸分子であって、前記第9の核酸分子は、正常細胞特異的microRNAである第1のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含む第9の核酸分子と;前記第8の核酸分子に機能可能に結合され、前記第2の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第10の核酸分子であって、前記第10の核酸分子は、腫瘍細胞特異的microRNAである第2のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含む第10の核酸分子と、を含み、前記第1の調節エレメントは、前記第2の調節タンパク質に結合することによって前記第1のプロモーターの機能を阻害するようにされ、前記第2の調節エレメントは、前記第1の調節タンパク質に結合することによって前記第2のプロモーターの機能を阻害するようにされる。本開示の実施形態に係る組換えウイルスを用いて、前記αフェトプロテイン特異的プロモーター、前記第9の核酸分子、及び前記第10の核酸分子の同時調節下で、前記第1の調節タンパク質LacI及び前記目的のタンパク質は、腫瘍細胞で特異的に発現され、特異的に腫瘍細胞において、前記第2の調節タンパク質tetR−KRABは、発現されない又は低い発現であり、それによって、第1のプロモーターminiCMVにおけるtetR−KRAB媒介抑制メカニズムが解放されるので、前記第1の調節タンパク質LacI及び前記目的のタンパク質は、前記第1のプロモーターminiCMVの制御下で効果的に発現され、前記第2のプロモーターminiCMVの機能は、LacI媒介阻害メカニズムを介して効果的に阻害され、tetR−KRABの発現は更に抑制される。更に、高い効率及び特異性を有する本開示の実施形態に係る組換えウイルスを用いることにより、標的タンパク質LacIのようなタンパク質は、腫瘍細胞で特異的に発現され、tetR−KRABのようなタンパク質は、腫瘍細胞で特異的に発現されない。
【0044】
本開示の実施形態においては、前記組換えウイルスは、下記の追加の技術的特徴の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0045】
本開示の実施形態においては、前記組換えウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、及びワクシニアウイルスからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0046】
本開示の実施形態においては、前記組換えウイルスは、アデノウイルスである。上記に記載されるように、遺伝子治療ベクターとして、アデノウイルスは、広範な宿主、ヒトへの低い病原性、増殖及び非増殖細胞での感染及び遺伝子発現、高力価、ヒト遺伝子との相同性、挿入後の変異原性がないこと、及び懸濁液中で増幅し、同時に複数の遺伝子の発現をすることといった利点を有する。
【0047】
本開示の実施形態においては、前記免疫エフェクターは、PD−1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、PD−L1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、CTLA4遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、Tim−3遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、IL−2、IL−12、IL−15、及びGM−CSFからなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。任意に、前記免疫エフェクターは、融合タンパク質の形態で存在することができる。
【0048】
第3の態様においては、実施形態に係る本開示は、組換え細胞を提供する。本開示の実施形態においては、前記組換え細胞は、上記に記載される発現系を含む。本開示の実施形態に係る組換え細胞は、人体の全身性免疫応答を効果的に活性化し、腫瘍細胞などの異種細胞を高い安全性及び特異性で攻撃することができる。
【0049】
本開示の実施形態においては、前記組換え細胞は、下記の追加の技術的特徴の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0050】
本開示の実施形態においては、前記発現系の少なくとも一部は、前記組換え細胞のゲノムに組み込まれる。前記組換え細胞のゲノムが複製すると、前記発現系は、複製し、前記発現系は、前記目的のタンパク質の発現を更に効果的に調節することができる。
【0051】
第4の態様においては、実施形態における本開示は、癌の治療のための医薬の調製における、上記の発現系、上記の組換えウイルス、及び上記の組換え細胞の使用を提供する。本開示に記載される発現系は、前記目的のタンパク質を腫瘍細胞で特異的に発現させることを可能にし、実施形態における前記医薬は、癌の治療においてより強い有効性、特異性、及び安全性を示す。
【0052】
本開示の実施形態においては、上記に記載される使用は、下記の追加の技術的特徴の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0053】
本開示の実施形態においては、前記癌は、肝癌、肺癌、結腸直腸癌、メラノーマ、乳癌、又は前立腺癌を含む。発明者らは、実施形態における前記医薬が、肝癌、肺癌、結腸直腸癌、メラノーマ、乳癌、及び前立腺癌の治療において、より有意な有効性を有することを見出した。
【0054】
第5の態様においては、実施形態における本開示は、上記に記載される発現系である発現系の使用によって、目的のタンパク質を発現させる方法を提供する。本開示の実施形態においては、前記方法は、(1)前記目的のタンパク質をコードする核酸配列を含む第5の核酸分子を提供することと;(2)第10の核酸分子によって、第2の調節タンパク質の発現を阻害し、前記目的のタンパク質を発現させることと、を含む。実施形態において上記に記載される目的のタンパク質を発現させる方法を用いて、前記第1のプロモーターにおける前記第2の調節タンパク質媒介抑制メカニズムが解放され、それによって前記目的のタンパク質は、前記細胞特異的プロモーター及び前記第2のプロモーターの相互作用下で特定の細胞で効果的に発現される。
【0055】
本開示の実施形態においては、上記の方法は、下記の追加の技術的特徴の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0056】
本開示の実施形態においては、前記発現は、細胞内で行われる。前記細胞は、前記目的のタンパク質の発現のための微小環境を提供することができ、前記細胞内の前記目的のタンパク質の発現は、より効率的である。
【0057】
本開示の実施形態においては、前記第10の核酸分子は、第2のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含み、前記工程(2)は、前記第2のmicroRNAを前記第10の核酸分子に接触させることを更に含む。
【0058】
第6の態様においては、実施形態における本開示は、上記に記載される発現系である発現系の使用によって、目的のタンパク質を発現させる方法を提供する。本開示の実施形態においては、前記方法は、(1)第1の目的のタンパク質をコードする核酸配列を含む第8の核酸分子を提供し、第2の目的のタンパク質をコードする核酸配列を含む第5の核酸分子を提供することと;(2)前記第9の核酸分子によって、前記第1の調節タンパク質の発現を阻害することによって、前記第1の目的のタンパク質を発現させ、前記第1の目的タンパク質を発現させること、又は前記第10の核酸分子によって、前記第2の調節タンパク質の発現を阻害することによって、前記第2の目的のタンパク質を発現させ、前記第2の目的のタンパク質を発現させることと、を含む。実施形態において上記に記載される目的のタンパク質を発現させる方法を用いて、前記第1のプロモーターにおける前記第2の調節タンパク質媒介抑制メカニズムが解放され、それによって前記第2の目的のタンパク質は、前記細胞特異的プロモーター及び前記第1のプロモーターの相互作用下で特定の細胞で効果的に発現される、又は前記第2のプロモーターにおける前記第1の調節タンパク質媒介抑制メカニズムが解放され、それによって前記第1の目的のタンパク質は、前記細胞特異的プロモーター及び前記第2のプロモーターの相互作用下で特定の細胞で効果的に発現される。
【0059】
本明細書に記載される融合タンパク質は、同じプロモーターの制御下で共転写されるタンパク質を指し、タンパク質間で結合されていない融合タンパク質、又は他のリンカーペプチドによって結合された融合タンパク質(GGGS又は2A配列)を含むことに留意されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本開示の実施形態を以下に詳細に説明する。以下に記載される実施形態は、例示にすぎず、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0062】
発現系
本開示の第1の態様においては、発現系が実施形態において提供される。本開示の実施形態によれば、前記発現系は、細胞特異的プロモーターを組み込む第1の核酸分子と;前記第1の核酸分子に機能可能に結合され、転写アクチベーターをコードする第2の核酸分子と;前記転写アクチベーターの第1の認識配列を組み込む第3の核酸分子と;前記第3の核酸分子に機能可能に結合され、第1のプロモーター及び第1の調節エレメントを組み込む第4の核酸分子と;前記第4の核酸分子に機能可能に結合され、第1の調節タンパク質をコードする第5の核酸分子と;前記転写アクチベーターの第2の認識配列を組み込む第6の核酸分子と;前記第6の核酸分子に機能可能に結合され、第2のプロモーター及び第2の調節エレメントを組み込む第7の核酸分子と;前記第7の核酸分子に機能可能に結合され、第2の調節タンパク質をコードする第8の核酸分子と;前記第5の核酸分子に機能可能に結合され、前記第1の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第9の核酸分子、及び前記第8の核酸分子に機能可能に結合され、前記第2の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第10の核酸分子からなる群から選択される少なくとも1つと、を含み、前記第1の調節エレメントが、前記第2の調節タンパク質に結合することによって前記第1のプロモーターの機能を阻害するようにされ、前記第2の調節エレメントが、前記第1の調節タンパク質に結合することによって前記第2のプロモーターの機能を阻害するようにされる。強力な制御、高い効率、及び特異性を有する本開示の実施形態に係る前記発現系を用いて、特定の細胞環境下で目的の遺伝子を特異的に発現させながら、相互抑制方式によって調節されることができる。
【0063】
本開示の実施形態によれば、前記細胞特異的プロモーターは、腫瘍細胞特異的プロモーターである。前記腫瘍細胞特異的プロモーターは、αフェトプロテイン特異的プロモーター(AFP)、サバイビン遺伝子プロモーター(SUR)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーター、コレシストキニンA受容体遺伝子プロモーター(CCKARプロモーター)、癌胎児抗原プロモーター(CEAプロモーター)、癌原遺伝子ヒト上皮成長因子受容体2プロモーター(ヒト上皮成長因子受容体−2、HER2)、プロスタグランジンオキシダーゼ還元酵素2プロモーター(シクロオキシゲナーゼ2、COX2)、ケモカイン受容体−4(CXCR4)、E2F−1遺伝子プロモーター(E2F−1プロモーター)、ムチンプロモーター(ムチン1MUC1)、前立腺特異抗原(PSA)、ヒトチロシン関連タンパク質1(TRP1)、及びチロシナーゼ(Tyr)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つである。実施形態における前記発現系は、上記に記載される腫瘍細胞特異的プロモーターの制御下で特定の腫瘍細胞の微小環境で開始され、それによって調節及び遺伝子発現の特異性を更に高めることができる。
【0064】
本開示の実施形態によれば、前記転写アクチベーターは、Gal4VP16、Gal4esn、Gal4VP64、dCas9−VP16、dCas9−VP64、dCas9−VPR、dCas9−VTR、及びrtTAからなる群から選択される少なくとも1つである。酵母Gal4−UAS遺伝子発現系は、真核細胞の最もよく理解されている転写調節系の1つであり、Gal4遺伝子は、酵母(
Saccharomyces cerevisiae)中の転写アクチベータータンパク質をコードする。Gal4は、5’−CGGRNNRCYNYNYNCNCCG−3’(Rはプリンを表し、Yはピリミジンを表し、Nは、任意のデオキシヌクレオチドを表す)である遺伝子プロモーターの上流活性化領域(UAS)における17bpの配列を認識することができる。Gal4は、ガラクトース代謝物に結合するGal80と相互作用する。Gal4は、2つのドメイン(DNA結合ドメイン(N末端ドメイン)及び活性化ドメイン(C末端ドメイン))を含み、更に通常はホモダイマーの形態で機能するジンククラスタードメイン(特にZn(2)−Cys(6)デュアルコアクラスタードメイン)を含む。GAL4タンパク質に結合するUAS配列内のコア配列は、4つのコピーのタンデムリピートであり、各コピーは、17塩基対(即ち、配列5’−CGGAGTACTGTCGTGGG−3’)を含む。哺乳類細胞に存在するGal4は、UASが認識された場合にのみ標的遺伝子を活性化し、良好な特異性と誘導性で下流遺伝子の転写を開始する。Gal4タンパク質の活性化ドメインは、単純ヘルペスウイルスVP16タンパク質又はVP16の4つのコピー(VP64)の活性化ドメインで置き換えられることができる。形成された融合転写因子は、Gal4タンパク質の結合特異性を維持しながら、Gal4タンパク質の転写活性化活性を増加させる。テトラサイクリン誘導系は、テトラサイクリン応答エレメント及びテトラサイクリン誘導タンパク質を含む、真核細胞のための細菌由来の転写活性化系である。Tet応答エレメント(TRE)は、テトラサイクリン誘導タンパク質によって認識されることができる、7つのリピートの19ヌクレオチドのテトラサイクリンオペロン配列(即ち、5’−TCCCTATCAGTGATAGAGA−3’)を含む。テトラサイクリン誘導系は、テトラサイクリン誘導抑制系及びテトラサイクリン誘導活性化系を含む。前記テトラサイクリン誘導抑制系は、テトラサイクリン応答エレメント及びテトラサイクリンリプレッサーtetRを含む。テトラサイクリンが存在しない場合、リプレッサーが応答エレメントに結合することにより、下流遺伝子の発現が活性化される;テトラサイクリンが存在する場合、リプレッサーはテトラサイクリンに結合し、それによって下流遺伝子の発現を阻害する。テトラサイクリン誘導活性化系は、テトラサイクリン応答エレメント及びリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子rtTAを含む。テトラサイクリンが存在しない場合、rtTAはTREエレメントに結合できないので、下流遺伝子の発現を活性化できず、一方、テトラサイクリンが存在する場合、rtTAはテトラサイクリンの作用下でTREに結合し、それによって下流遺伝子の発現を活性化させる。
【0065】
ヌクレアーゼ不活性化Cas9(dCas9)は、Cas9の変異体型であり、gRNA媒介を介して標的配列を認識することができ、DNAに特異的な認識及び結合があり、標的配列の切断活性はない。dCas9が活性化エレメントと共に融合発現されると、標的遺伝子の発現が効果的に活性化されることができる。
【0066】
本開示の実施形態によれば、前記第1の認識配列及び前記第2の認識配列は、それぞれ独立して、5×UAS、7×tetO、及びdCas9の標的配列の少なくとも1つから選択される。5×UASは、5つのコピーのGal4VP16調節系の応答エレメントである。Gal4タンパク質に結合するUAS配列におけるコア配列は、4つのコピーのタンデムリピートで、各コピーは、17塩基対(配列5’−CGGAGTACTGTCGTGGG−3’)を含む。7×tetOは、テトラサイクリン調節系の応答エレメントである7つのコピーのTREである。Tet応答エレメント(TRE)は、テトラサイクリン誘導タンパク質によって認識されることができる、7つのリピートの19ヌクレオチドのテトラサイクリンオペロン配列(5’−TCCCTATCAGTGATAGAGA−3’)を含む。
【0067】
本開示の実施形態によれば、前記第1のプロモーター及び前記第2のプロモーターは、miniCMVである。5×UAS−miniCMVは、合成誘導性プロモーターである。5×UASは、Gal4タンパク質の認識配列であり、miniCMVは、サイトメガロウイルスのプロモーター配列の一部である。TREは、誘導性プロモーターでもある。7×tetO−miniCMVにおいては、tetOは、テトラサイクリン系の応答エレメントの認識配列である。
【0068】
本開示の実施形態においては、前記第1の調節タンパク質及び前記第2の調節タンパク質は、それぞれ独立して、LacI、tetR、ジンクフィンガー、KRAB、及びdCas9−KRABの少なくとも1つから選択される。ラクトースリプレッサー(LacI)は、自身のDNA結合ドメインのヘリックス−ターン−ヘリックスエレメントを介して、特定の配列を認識することにより、ラクトースオペロン(LacO)の主要なくぼみに結合し、また対称性に関連するαヘリックス残基を介して、LacOの小さいくぼみにおける塩基配列にしっかりと結合する。このようなしっかりとした結合は、RNAポリメラーゼのプロモーター領域への高親和性結合を引き起こし、DNAの伸長を防ぎ、それによってmRNAの転写及び下流遺伝子の発現を阻害する。テトラサイクリンリプレッサー(TetR)は、テトラサイクリンオペロン(tetO)に結合する、保存されたヘリックス−ターン−ヘリックスDNA結合領域(ホモダイマーを形成)を含むので、下流遺伝子の転写発現が阻害される。ジンクフィンガータンパク質は、約30個のアミノ酸を含む環と、前記環上の4個のCysタンパク質(又は2個のCys)及び2個のHisタンパク質に配位したZn
2+からなり、指の形態の構造を形成する。ジンクフィンガータンパク質は、遺伝子調節において重要な役割を果たすタンパク質のクラスである。ジンクフィンガータンパク質は、保存されているドメインに応じて、主にC2H2タイプ、C4タイプ、C6タイプに分類されることができる。ジンクフィンガーは、DNA、RNA、DNA−RNA分子の標的配列、又はそれ自身若しくは他のジンクフィンガータンパク質に特異的に結合することにより、転写及び翻訳レベルで遺伝子発現、細胞分化、及び胚発生を調節することができる。Kruppel関連ボックス(KRAB)ドメインは、ヒトにおいて約400個のジンクフィンガータンパク質に存在する転写抑制領域のクラスである。KRABは、一般に75個のアミノ酸残基からなり、その最小有効阻害領域は45個のアミノ酸からなり、タンパク質間の両親媒性らせん状接続を通じて役割を果たす。KRABは、異なるエクソンによってコードされる2つの領域(Aボックス及びBボックス)に分割されることができ、Aボックスは転写抑制において中心的な役割を果たし、BボックスはAボックスの転写抑制を高める。
【0069】
ヌクレアーゼ不活性化Cas9(dCas9)は、Cas9の変異体型であり、gRNA媒介を介して標的配列を認識することができ、DNA配列におけるに特異的な認識及び結合活性があり、標的配列の切断活性はない。dCas9が抑制領域と共に融合発現されると、標的遺伝子の発現を効果的に阻害されることができる。
【0070】
本開示の実施形態によれば、前記第1の調節エレメント及び前記第2の調節エレメントは、それぞれ独立して、tetO、LacO、ジンクフィンガー標的部位、及びdCas9の標的配列の少なくとも1つから選択される。テトラサイクリンオペロン(tetO)は、テトラサイクリンリプレッサーによって認識され、それによって下流遺伝子の発現を阻害することができる。ラクトースオペロン(LacO)は、ラクトースリプレッサー(LacI)によって認識され、下流遺伝子の発現を阻害することができる。ジンクフィンガー標的部位は、ジンクフィンガータンパク質によって認識され、下流遺伝子の発現を調節することができる。dCas9標的配列は、相補gRNAの助けを借りて、dCas9−KRABによって認識され、下流遺伝子の発現を阻害することができる。
【0071】
本開示の実施形態によれば、前記第1の調節タンパク質は、LacIであり、前記第2の調節エレメントは、複数の繰り返されたLacO配列を含み、前記複数の繰り返されたLacO配列の少なくとも1つは、前記第2のプロモーターの下流に設定される。発現したLacIは、LacO配列に特異的に結合し、それによって前記第2のプロモーターの機能を阻害することができる。本開示の実施形態のLacI/LacO抑制系によれば、ラクトースリプレッサー(LacI)は、自身のDNA結合ドメインのヘリックス−ターン−ヘリックスエレメントを介して、特定の配列を認識することにより、ラクトースオペロン(LacO)の主要なくぼみに結合し、また対称性に関連するαヘリックス残基を介して、LacOの小さいくぼみにおける塩基配列にしっかりと結合する。このようなしっかりとした結合は、RNAポリメラーゼのプロモーター領域への高親和性結合を引き起こし、DNAの伸長を防ぎ、それによってmRNAの転写及び下流遺伝子の発現を阻害する。本開示の実施形態によれば、実験に示されるように、5×UAS−miniCMVプロモーターにおけるminiCMV配列の2つの側に、発明者らによってLacOがそれぞれ挿入され、プロモーターの下流遺伝子の発現を効果的に阻害することができる。しかしながら、本発明者らは、それらの位置で使用されることができる他の抑制系を除外していない。
【0072】
本開示の実施形態によれば、前記第2の調節タンパク質はtetR−KRABであり、前記第1の調節エレメントは、複数の繰り返されたtetO配列を含み、前記複数の繰り返されたtetO配列の少なくとも1つは、前記第1のプロモーターの下流に設定される。本開示の実施形態に係るtetR−KRAB/tetO抑制系によれば、テトラサイクリンリプレッサー(TetR)は、保存されたヘリックス−ターン−ヘリックスDNA結合領域(ホモダイマーを形成)を含み、テトラサイクリンオペロン(tetO)に結合し、下流遺伝子の転写発現を阻害する。この実施形態においては、実験に示されるように、5×UAS−miniCMVプロモーターにおけるminiCMV配列の2つの側に、発明者らによってtetOがそれぞれ挿入され、プロモーターの下流遺伝子の発現を効果的に阻害することができる。前記第1の調節タンパク質及び前記第2の調節タンパク質を含むスイッチ系は、対応する入力シグナルに効果的に応答することができ、それによって異なる細胞株を効果的に区別することができる。しかしながら、本発明者らは、それらの位置で使用されることができる他の抑制系を除外していない。
【0073】
本開示の実施形態によれば、前記第5の核酸分子及び前記第9の核酸分子の少なくとも1つは、目的のタンパク質をコードする配列を更に含む。本開示の実施形態に係る発現系を用いると、特定の細胞微小環境で前記目的のタンパク質を特異的に発現させながら、相互抑制方式で調節されることができる。本開示の具体的な実施形態によれば、前記発現系は、前記目的のタンパク質の発現における顕著に増加した特異性及び調節を示す。
【0074】
本開示の実施形態においては、前記第5の核酸分子は、前記目的のタンパク質をコードする配列を含み、前記目的のタンパク質は、ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質、及び免疫エフェクターからなる群から選択される少なくとも1つを含む。前記ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質は、宿主における発現系ベクターの生存及び複製を効果的に保証する。前記免疫エフェクターの発現は、体内の免疫系を効果的に活性化し、それによって腫瘍細胞などの特定の細胞に対する免疫殺傷を促進することができる。
【0075】
本開示の実施形態によれば、前記ウイルス性複製及びパッケージングタンパク質は、アデノウイルスE1遺伝子、アデノウイルスE1A遺伝子、アデノウイルスE1B遺伝子、アデノウイルスE2遺伝子、及びアデノウイルスE4遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つを含む。転写のタイミングに従って、アデノウイルス遺伝子は、主に初期発現遺伝子(E1〜4)と後期発現遺伝子(L1〜5)に分けられる。アデノウイルスのゲノムが核に入ると、細胞性転写因子は、最初にE1A領域の上流に位置されるエンハンサーに結合し、細胞の代謝を調節し、ウイルスDNAを細胞内で複製しやすくするE1Aタンパク質を発現する。前記E1Aタンパク質は、他の初期遺伝子(E1B、E2A、E2B、E3、及びE4)のプロモーターを活性化することもでき、E2Bは、ウイルス複製に関与する初期遺伝子の3つの追加転写ユニット(即ち、前駆体末端タンパク質(pTP)、一本鎖DNA結合タンパク質(ssDBP)、及びDNAポリメラーゼ(DNApol))の発現を駆動する。これらの3つの遺伝子の発現産物は、複合体にしっかりと結合され、少なくとも3つの細胞タンパク質と相互作用して、ウイルスゲノムの複製を開始する。E1領域遺伝子の発現産物は、E1AとE1Bに分けられる。E1Aは、主に289R(又は13S)と243R(又は12S)の2つのコンポーネントからなる。E1Aタンパク質の主な機能は、細胞の代謝を調節することであり、それによって細胞中でのウイルス複製がより行われやすくなる。E1B19Kは、Bcl−2遺伝子の発現産物と相同であり、Baxファミリーのメンバーを不活性化及び除去することにより、細胞のアポトーシス又はネクローシスを防ぐことができる。E1B55K遺伝子産物は、関与する他のアデノウイルス遺伝子(E4又はf6など)と共に、p53遺伝子の転写レベルをダウンレギュレートすることができる。E1B55K遺伝子産物は、ウイルス複製、ウイルス後期mRNAの転写、及びウイルスRNAの輸送にも関与する。E2領域遺伝子の発現産物は、E2AとE2Bに分けられ、E2Aは、DNA結合タンパク質(DBP)であり、E2Bは、主に2つの産物(即ち、それぞれ、前駆体末端タンパク質(pTP)及びウイルス性DNAポリメラーゼ(pol))を有する。このような3つのタンパク質は、少なくとも3つの細胞内因子と相互作用して、アデノウイルスDNA複製、並びにウイルス後期遺伝子の転写及び翻訳を開始する。E4領域遺伝子の遺伝子産物は通常orf1から6/7と呼ばれ、主に、宿主におけるウイルスメッセンジャーRNAの代謝、並びにウイルスDNAの複製の促進、及びタンパク質合成の停止に関与する。幾つかのE4産物がDNA活性化タンパク質キナーゼに結合して、ウイルスDNAを鎖状に繋ぐことから防ぐことができることが研究で見出されている。このキナーゼは、p53遺伝子を活性化することができるので、E4領域遺伝子の幾つかの産物が細胞のアポトーシスを阻害することができると考えられている。E1B及びE4遺伝子の多くの産物が、E1Aタンパク質をアンタゴナイズすることに関与している。例えば、E4は、E1Aを介したE2Fプロモーターの活性化を阻害する。
【0076】
本開示の実施形態によれば、前記免疫エフェクターは、PD−1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、PD−L1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、CTLA4遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、Tim−3遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、GM−CSF、IL−2、IL−12、IL−15、又はこれらの因子の融合発現形態からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。プログラム死(programmed death)1(プログラム死受容体1、PD−1)は、CD28スーパーファミリーのメンバーに属する重要な免疫抑制分子であり、本来、アポトーシスマウスT細胞ハイブリドーマ2B4.11からクローン化される。PD−1は、T細胞表面の重要な阻害分子であり、その細胞内ドメインは、免疫受容体チロシン阻害モチーフ(ITIM)及び免疫受容体チロシン導入モチーフ(ITSM)を含む。ITSMは、タンパク質チロシンホスファターゼファミリーホスファターゼの会合及びT細胞活性化シグナルの阻害を媒介する。ITSMのリガンドは、PD−L1及びPD−L2であり、主に、免疫系の免疫応答時の腫瘍微小環境におけるT細胞の活性化を阻害することにおいて主要な役割を果たす。プログラム細胞死(Programmed cell death)1リガンド(PD−L1)は、分化のクラスター274(CD274)又はB7ホモログ(B7ホモログ1、B7−H1)としても知られ、CD274遺伝子でコードされる体内のヒトタンパク質である。PD−L1は、腫瘍細胞微小環境における様々な腫瘍細胞及び造血細胞で誘導的に発現され、その発現レベルは、腫瘍の悪性度と正の相関がある。PD−1抗体及びPD−L1抗体は、PD−1のPD−L1への結合を遮断することができる。しかしながら、組織内の腫瘍細胞は、PD−1/PD−L1経路によって免疫系から逃れることができる。CTLA−4の略である細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質−4は、T細胞の表面に発現される副刺激分子の一種である。CTLA−4は、APCの表面におけるCD80/CD86に特異的に結合し、CD28の機能と同様に、T細胞の活性化中に下流シグナルを活性化することができる。研究によって、T細胞の中でCTLA−4を主に発現する細胞は、細胞性免疫を負に調節するT細胞のクラスである調節性T細胞(Treg)であることが見出された。CTLA−4受容体の非存在下では、マウスは、T細胞の過剰発現を示し、それによって重度の自己免疫疾患を伴う。上記の結果は、Tregがその機能を発揮するにはCTLA−4が必要であることを示す。更に、CTLA−4は、conT細胞においても発現され、T細胞活性化のシグナル伝達を阻害する役割を果たす。T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有分子(TIM)遺伝子ファミリーは、2001年にMclntireがマウス喘息感受性遺伝子を求めて発見された新規遺伝子ファミリーであり、ゲノム解析及びポジショナルクローニングにより更に特定される。TIMファミリー遺伝子は、免疫グロブリンV領域及びムチン領域を含む。Tim−3は、TIMファミリーの重要なメンバーであり、活性化Th1細胞の表面に負の調節分子を発現する。現在、TIM3はCD8
+T細胞、Th17細胞、Treg、NK細胞、及び他のリンパ球サブセットで発現されていることが分かっている。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、マクロファージ、T細胞、NK細胞などによって分泌される単量体糖タンパク質サイトカインであり、幹細胞を刺激して、顆粒細胞(好中球、好酸球、好塩基球、及び単球)を生成する。GM−CSFは、好中球の移動の阻害や細胞表面上の受容体の発現の変化など、免疫系の成熟細胞においても影響を及ぼす。この因子は、マクロファージを活性化することにより真菌感染を阻害することもできる。インターロイキン2(IL−2)は、白血球と白血球との間、及び白血球と他の細胞との間のサイトカインを媒介することができる。IL−2は、主に活性化T細胞によって産生され、オートクリン及びパラクリン的に局所的な標的細胞に作用し、免疫応答に関与する主要なサイトカインであり、それによって顕著な免疫効果を示す。IL−2はまた、T細胞の増殖を促進し、サイトカインを産生し、B細胞の増殖を促進し、Igを分泌し、マクロファージを活性化し、NK細胞の活性化及び増殖を促進する。更に、IL−2には、負の調節効果も有し、Agを活性化し、免疫応答の強度を制限し、明らかな免疫損傷を回避するT細胞のアポトーシスを誘導することができる。インターロイキン−12(IL−12)は、抗原刺激に応答して樹状細胞、マクロファージ、好中球、及びヒトBリンパ芽球(nc−37)によって産生されるインターロイキンの一種である。T細胞刺激因子と呼ばれるIL−12は、未感作細胞のTh1細胞への分化に関与し、インターフェロンガンマ(IFN−γ)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)の産生を刺激する。IL−12は、ナチュラルキラー細胞及びTリンパ球の活性を調節する上で重要な役割を果たす。IL−12は、NK細胞及びCD8+細胞傷害性Tリンパ球の増加した細胞傷害活性を媒介する。IL−12は、抗−血管新生活性も有し、新しい血管の形成を遮断することができることを示す。IL−12は、ガンマインターフェロン(INF−γ)の産生を増加させるので、タンパク質10(IP−10又はCXCL10)の誘導を増加させ、IP−10は抗−血管新生を媒介する。IL−12は、免疫応答と抗−血管新生を誘導する能力があるので、潜在的な抗癌薬剤として試験されている。IL−15は、活性化された単球−マクロファージ、表皮細胞、線維芽細胞などの様々な細胞によって産生され得る最近発見された因子である。IL−15の分子構造は、IL−2のものと非常に似ているため、標的細胞へのIL−2受容体のβ鎖とγ鎖の結合に基づいて、IL−15は、IL−2と同様の生物学的活性を発揮することができる。IL−15は、B細胞の増殖と分化を誘導でき、IL−2を部分的に置換して初期抗体産生を誘導することができる唯一のサイトカインである。IL−15は、T細胞及びNK細胞の増殖を刺激し、LAK細胞活性を誘導することができ、IL−12と相互作用し、NK細胞を相乗的に刺激し、それによってIFN−γを産生することもできる。
【0077】
本開示の実施形態によれば、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、1つの同じプロモーターの制御下で同時発現し、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、切断可能なリンカーペプチドによって結合される。前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、前記1つの同じプロモーター下で調節及び発現され、発現後リンカーペプチドによって更に切断される。前記目的のタンパク質は、前記第1の調節タンパク質から分離され、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、互いに独立して機能する。
【0078】
本開示の実施形態によれば、前記第9の核酸分子及び前記第10の核酸分子は、それぞれ独立して、RNA干渉を介して前記第1の調節タンパク質又は前記第2の調節タンパク質の発現を阻害する。microRNAは、異なる細胞微小環境で発現される特異的なmicroRNAであり、前記第9の核酸分子又は前記第10の核酸分子は、microRNAの特異的標的配列である。特異的微小環境内で発現されるmicroRNAとその標的配列との特異的効果は、RNA干渉を介して実現されることができ、それによって前記第1の調節タンパク質又は前記第2の調節タンパク質の発現を特異的に調節する。microRNA(miRNA)は、約20〜24個のヌクレオチドを有する内在性小型RNAのクラスであり、幾つかのmiRNAは1つの同じ遺伝子を調節することができる。遺伝子の発現は、幾つかのmiRNAの組合せによって細かく調節されることができる。microRNAは、約300〜1000塩基の長さのものである、原形におけるpri−miRNAと;前記pri−miRNAのプロセシングにより形成され、約70〜90塩基の長さのものである、microRNA前駆体の形態であるpre−miRNAと;Dicerを用いて前記pre−miRNAの切断(digestion)によって生成される約20〜24ntの成熟miRNAと、を含む多くの形態を有する。RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)は、標的遺伝子の発現を阻害する。標的遺伝子のmRNAにおけるmicroRNA−RISCの効果は、3つの方法で行われるmicroRNA−RISCと標的遺伝子転写配列との間の相補度に常に大きく依存してきた。第1の方法では、標的遺伝子のmRNA分子が切断され、即ち標的遺伝子に対して完全に相補的なmiRNA(siRNAのものと密接に類似したメカニズムと機能を有する)が切断される。植物においては、標的遺伝子のmiRNAの多くが上記の方法で切断され、poly(A)を有さない分子は、3’末端にウラシル(Us)が追加され、急速に分解されるが、poly(A)を有する分子は、一定期間安定して存在できる(Arabidopsis miR−171など)。現在、これらの遺伝子がmiRNAのターゲットであるかどうかは不明であるが、1つのmiRNAが、植物における3つの潜在的な標的遺伝子に対して完全に相補的であることが分かっている。しかしながら、miRNAが潜在的な標的に対して完全に相補的であり得ることが初めて見出され、miRNAがsiRNAと同様のメカニズムを有することできることが示唆されている。第2の方法では、標的遺伝子の翻訳が阻害される。miRNAは、標的遺伝子に完全に相補的ではないので、mRNAの安定性に影響を与えることなく、標的遺伝子の翻訳を阻害する。このようなmiRNAは、線虫lin−4のように最も広く発見されているmiRNAであるが、植物におけるmiRNAの殆どは、このようにして標的遺伝子を阻害しない。第3の方法は、結合阻害を指し、即ち上記の2つの方法で2つのメカニズムを組み込む。miRNAが標的遺伝子に完全に相補的である場合、直接切断される。miRNAが標的遺伝子に完全に相補的でない場合、遺伝子発現の調節に関与する。
【0079】
本開示の実施形態によれば、前記第9の核酸分子は、第1のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含み、前記第10の核酸分子は、第2のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含み、前記第1のmicroRNAが、正常細胞特異的microRNAであり、前記第2のmicroRNAは、異常細胞特異的microRNAである。更に、前記第1の調節タンパク質は、異常細胞で発現され、正常細胞では発現されない又は低い発現であり、一方前記第2の調節タンパク質は、正常細胞で発現され、異常細胞では発現されない又は低い発現である。
【0080】
本開示の更に他の具体的な実施形態によれば、前記第1のmicroRNAは、miR199a、miR95、miR125、mi
R125b、Let−7、miR143、miR145、及びmiR200Cからなる群から選択される少なくとも1つを含む。上記に記載されるmicroRNAは、正常な肝細胞で発現される。
【0081】
本開示の更に他の具体的な実施形態によれば、前記第2のmicroRNAは、肝細胞癌細胞(HepG2、Huh7、及びPLC)で発現されるmiR21、miR223、miR224、miR221、miR18、miR214、miR146a、及びmiR1792からなる群から選択される少なくとも1つを含む。上記に記載される第2のmicroRNAは、肝細胞癌細胞で特異的に発現されるmicroRNAである。更に、前記第1の調節タンパク質は、肝癌細胞で発現され、正常細胞では発現されない又は低い発現であり、一方前記第2の調節タンパク質は、正常細胞で発現され、肝癌細胞では発現されない又は低い発現である。
【0082】
本開示の実施形態によれば、前記第1の核酸分子及び前記第2の核酸分子は、第1の発現ベクターにローディングされ;前記第3の核酸分子、前記第4の核酸分子、前記第5の核酸分子、及び任意に前記第9の核酸分子は、第2の発現ベクターにローディングされ;前記第6の核酸分子、前記第7の核酸分子、前記第8の核酸分子、及び任意に前記第10の核酸分子は、第3の発現ベクターにローディングされる。前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターは、前記発現系のためのローディングベクターとして機能し、細胞などの好適な微小環境において目的の遺伝子の特異性発現を調節する。
【0083】
前記発現ベクターの選択は、好適な微小環境において前記発現系の機能が達成されることができる限り、特に限定されない。本開示の具体的な実施形態によれば、前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターは、それぞれ独立して、プラスミド、ウイルス、安定発現株、並びにナノ物質、リポソーム、分子複合型ベクター(molecular−conjugated vector)、ネイキッドDNA、染色体ベクター、及びポリマーなど他の物質キャリアの少なくとも1つから選択される。リポソームキャリアは、DNAを人工の二重層リン脂質でパッケージ化することによって形成されたリポソーム−DNA複合体である。リポソームキャリアは、非毒性且つ非抗原性であり、大きな容量を有し、リポソームキャリアの被包によって、標的遺伝子をヌクレアーゼ分解から防止することができる。このようなリポソームキャリアは、単独で、又は他のキャリアと組み合わせて用いられることができ、標的遺伝子をカプセル化したリポソームキャリアを静脈内注射することで特定の部位に標的遺伝子を導入することができるが、発現時間が短く、細胞膜バリアを通過できないという欠点を有する。分子複合型ベクターは、DNA、DNA結合因子、及びリガンドの3つの部分からなる。
【0084】
本開示の実施形態によれば、前記ウイルスは、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、及びレトロウイルスからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0085】
本開示の実施形態によれば、前記第1の発現ベクター、前記第2の発現ベクター、及び前記第3の発現ベクターは、1つの同じベクターである。本開示の具体的な実施形態によれば、本開示における発現系のコンポーネントは、本発明者らによって、Cascade Golden−Gate Gibson/Gateway Assemble法により1つの同じ発現ベクターにローディングされ、それによって複数の大きなフラグメントがトランスフェクトされる場合の非常に低いトランスフェクション効率の問題を効果的に解決する。
【0086】
本開示の実施形態によれば、前記1つの同じベクターは、アデノウイルスである。遺伝子治療ベクターとしてのアデノウイルスは、下記の利点を有する。
1)アデノウイルスは、広範囲の宿主に有用であり、ヒトに対する病原性が低く、それによってアデノウイルスベクター系は、ヒト及び非ヒトタンパク質の発現に広く用いられる。更に、アデノウイルスは、様々な哺乳類細胞に感染することができるため、殆どの哺乳類細胞及び組織における組換えタンパク質の発現に有用であることができる。アデノウイルスは、上皮細胞性(epitheliophilic)であり、ヒト腫瘍の殆どは上皮細胞から由来されることに特に留意される。更に、アデノウイルスの複製遺伝子及び病原性遺伝子は、十分に明確であり、アデノウイルスに対する抗体は、ヒト集団において存在する(70〜80%の大人は、アデノウイルスに対する中和抗体を有する)。ヒトは、野生型アデノウイルスに感染した後にのみ僅かな自己制限症状を引き起こし、リバビリンによる処置が有効である。
2)アデノウイルスは、増殖細胞及び非増殖細胞において感染し、遺伝子発現することができる。レトロウイルスは、増殖細胞のみ感染することができ、DNAトランスフェクションは、非増殖細胞で行われることができず、それによって細胞は、インキュベーション中に保持される必要がある。アデノウイルスは、アデノウイルスに対する幾つかのリンパ腫細胞を除き、ほぼ全ての細胞型に感染することができる。アデノウイルスは、非増殖性の初代細胞での遺伝子発現を研究するのに最も良好な系であり、形質転換細胞及び初代細胞から得られた結果間の直接比較を可能にする。
3)アデノウイルスは、効果的に増殖でき、高い力価を有する。アデノウイルス系は、10
10〜10
11VP/mlLの力価を生じさせることができ、濃縮後に最大10
13VP/mLになることができる。したがって、この機能は、遺伝子治療を非常に好適にする。
4)アデノウイルスは、ヒトの遺伝子と相同である。ヒトウイルスは、一般にベクターとして用いられ、ヒト細胞は、アデノウイルスベクター系の宿主として用いられ、これは正確な翻訳後プロセッシング及びヒトタンパク質の適切なフォールディングのための理想的な環境を提供する。殆どのヒトタンパク質は、高い発現レベルを達成でき、完全に機能する。
5)アデノウイルスは、染色体に組み込まれず、挿入後に変異原性を引き起さない。レトロウイルスは、宿主の染色体にランダムに組み込まれ、遺伝子の不活性化又は癌遺伝子の活性化を引き起こす。しかしながら、アデノウイルスは、卵細胞を除く殆ど全ての公知の細胞の染色体に組み込まれないため、宿主における他の遺伝子を妨害しない。アデノウイルスの単一コピーで組み込まれた卵細胞は、特定の特性を有するトランスジェニック動物を作製するための優れた系である。
6)アデノウイルスは、懸濁培養培地で増幅されることができる。293細胞は、懸濁培養によって調整されることができるため、アデノウイルスの大幅の増幅を可能にする。293細胞の懸濁液が、1〜20Lのバイオリアクターにおいて組換えタンパク質を発現することができることが多数の事実によって示されている。
7)アデノウイルスは、複数の遺伝子を同時に発現させる能力を有する。これは、同じ細胞株又は組織において複数の遺伝子を発現するように設計された最初の発現系である。発現系の構築のための最も簡単な方法は、2つの遺伝子を含む二重発現カセットをアデノウイルス導入ベクターに挿入する、又は目的の細胞株を異なる組換えウイルスでそれぞれコトランスフェクトし、タンパク質を発現させることを含む。個々の組換えタンパク質の相対的な同時発現は、異なる組換えウイルスのMOI比を決定することにより正確に推定されることができる。
【0087】
本開示の具体的な実施形態によれば、上記アデノウイルスは、本発明者らによって腫瘍マウスモデルに注入され、マウス腫瘍の成長を有意に阻害する。上記アデノウイルスは、安全で効果的な方法で、関連する腫瘍を特異的に死滅させるために、安全で効果的な腫瘍溶解性ウイルスワクチンとして用いられることができる。
【0088】
本開示の実施形態によれば、前記アデノウイルスは、アデノウイルスベクターから、アデノウイルス複製及びパッケージングに関連する前記アデノウイルスE1遺伝子及び前記アデノウイルスE3遺伝子の一部を除去する工程と;段階的ゴールデンゲート法によって、遺伝子回路に前記アデノウイルスE1A遺伝子を挿入する工程と;ゲートウェイ法又はギブソン法によって、前記アデノウイルスベクターに前記遺伝子回路を組み込む工程と、によって得られる。具体的には、本発明者らは、3つの工程によって、癌細胞を認識する遺伝子回路をアデノウイルスベクターに挿入する。第1に、正常細胞から癌細胞を区別することに関連するマーカー要素(腫瘍−特異的プロモーター、遺伝子回路関連抑制エレメント、及び癌細胞を区別するmiRNA認識配列など)が一次ベクタープラスミドに構築され、一次エレメントライブラリーを形成し、一次エレメントの2つの端部は、それぞれ、Esp3Iの認識部位に挿入され、それによって、ゴールデンゲート法によって1つの第2の発現系に構築された複数の一次エレメントを生成する。第2に、発現系ライブラリーが構築され、一次エレメントライブラリーから選択された複数の一次エレメントは、ゴールデンゲート法によって3つの発現系にアセンブルされ、このような3つの発現系は、腫瘍−特異的プロモーター系、第1の調節エレメント媒介抑制系、及び第2の調節エレメント媒介抑制系を含み、各発現系の2つの端部は、BsaIエンドヌクレアーゼの認識部位で挿入されている。第三に、ゴールデンゲート法により3つの発現系をランダムにアセンブルすることにより、完全な遺伝子回路が形成される。更なる実験のため、遺伝子回路の2つの端部には、ギブソン相同配列又はゲートウェイ認識部位がそれぞれ挿入される。最後に、遺伝子回路は、ギブソン法又はゲートウェイ法により、アデノウイルスベクター(E1遺伝子及びE3遺伝子の一部は除去される)に構築される。上記アデノウイルスを得る方法は、大きな断片を含む複雑な腫瘍溶解性アデノウイルスベクターの迅速な改変を保証する。
【0089】
組換えウイルス
本開示の第2の態様においては、実施形態において、組換えウイルスが提供される。本開示の実施形態においては、前記組換えウイルスは、αフェトプロテイン特異的プロモーターである腫瘍細胞特異的プロモーターを含む第1の核酸分子と;前記第1の核酸分子に機能可能に結合され、Gal4VP16である転写アクチベーターをコードする第2の核酸分子と;前記転写アクチベーターの5×UASである第1の認識配列を含む第3の核酸分子と;前記第3の核酸分子に機能可能に結合され、第1のプロモーター及び第1の調節エレメントを含む第4の核酸分子であって、前記第1のプロモーターは、miniCMVであり、前記第1の調節エレメントは、複数の繰り返されたtetO配列を含み、前記複数の繰り返されたtetO配列の少なくとも1つは、前記第1のプロモーターの下流に設定される第4の核酸分子と;前記第4の核酸分子に機能可能に結合され、LacIである第1の調節タンパク質をコードする第5の核酸分子であって、前記第5の核酸分子は、目的のタンパク質をコードする配列を更に含み、前記目的のタンパク質は、ウイルス性複製タンパク質及び免疫エフェクターを含み、前記免疫エフェクター及び前記ウイルス性複製タンパク質は、同時発現され、前記免疫エフェクターは、切断可能なリンカーペプチドによって結合され、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、1つの同じプロモーターによって調節及び同時発現され、前記目的のタンパク質及び前記第1の調節タンパク質は、切断可能なリンカーペプチドによって結合される第5の核酸分子と;前記転写アクチベーターの5×UASである第2の認識配列を含む第6の核酸分子と;前記第6の核酸分子に機能可能に結合され、第2のプロモーター及び第2の調節エレメントを含む第7の核酸分子であって、前記第2のプロモーターは、miniCMVであり、前記第2の調節エレメントは、複数の繰り返されたLacO配列を含み、前記複数の繰り返されたLacO配列の少なくとも1つは、前記第2のプロモーターの下流に挿入される第7の核酸分子と;前記第7の核酸分子に機能可能に結合され、tetR−KRABである第2の調節タンパク質をコードする第8の核酸分子と;前記第5の核酸分子に機能可能に結合され、前記第1の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第9の核酸分子であって、前記第9の核酸分子は、正常細胞特異的microRNAである第1のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含む第9の核酸分子と;前記第8の核酸分子に機能可能に結合され、前記第2の調節タンパク質の発現を条件付きで阻害するように構成される第10の核酸分子であって、前記第10の核酸分子は、腫瘍細胞特異的microRNAである第2のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含む第10の核酸分子と、を含み、前記第1の調節エレメントは、前記第2の調節タンパク質に結合することによって前記第1のプロモーターの機能を阻害するようにされ、前記第2の調節エレメントは、前記第1の調節タンパク質に結合することによって前記第2のプロモーターの機能を阻害するようにされる。本開示の実施形態に係る組換えウイルスを用いて、前記αフェトプロテイン特異的プロモーター、前記第9の核酸分子、及び前記第10の核酸分子の同時調節下で、前記第1の調節タンパク質LacI及び前記目的のタンパク質は、腫瘍細胞で特異的に発現され、特異的に腫瘍細胞において、前記第2の調節タンパク質tetR−KRABは、発現されない又は低い発現であり、それによって、前記第1のプロモーターminiCMVにおけるtetR−KRAB−媒介抑制メカニズムが解放されるので、前記第1の調節タンパク質LacI及び前記目的のタンパク質は、前記第1のプロモーターminiCMVの制御下で効果的に発現され、前記第2のプロモーターminiCMVの機能は、LacI媒介阻害メカニズムを介して効果的に阻害され、tetR−KRABの発現は更に阻害される。更に、高い効率及び特異性を有する本開示の実施形態に係る組換えウイルスを用いることによって、タンパク質(前記目的のタンパク質E1A及び前記第1の調節タンパク質LacIなど)は、腫瘍細胞でより特異的に発現され、前記第2の調節タンパク質tetR−KRABなどのタンパク質は、腫瘍細胞では特異的に発現されない。
【0090】
本開示の実施形態によれば、前記組換えウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、及びワクシニアウイルスからなる群から選択される少なくとも1つである。(1)レトロウイルスベクターは、一般的なレトロウイルスのものと類似の構造及び感染プロセス、形質転換された標的細胞における目的遺伝子の安定した発現、標的細胞の感染後の拡散がないこと、感染している標的細胞における偽ウイルスの高い効率、並びに非増殖細胞への感染がないこと、という特徴を有する。(2)アデノウイルスベクターは、広範囲の宿主であること、アデノウイルスタンパク質の発現時に宿主増殖に依存しないこと、高いウイルス力価であること、安定的な組換えであること、腫瘍への誘導がないこと、高い安全性を有すること、エンベロープタンパク質がないこと、補体により容易に不活性化されないこと、体内において直接適用できること、並びに染色体への組み込みがないことという特徴を有する。(3)単純ヘルペスウイルスベクターは、高力価、大容量、増殖細胞と非増殖細胞の両方への感染、組込みがないこと、並びに長期的な存在及び安定した発現という特徴を有する。
【0091】
本開示の実施形態によれば、前記組換えウイルスは、アデノウイルスである。上記に記載されるように、遺伝子治療ベクターとしてのアデノウイルスは、多くの利点を有する。
1.アデノウイルスは、広範囲の宿主に有用であり、ヒトに対する病原性が低く、それによってアデノウイルスベクター系は、ヒト及び非ヒトタンパク質の発現に広く用いられる。更に、アデノウイルスは、様々な哺乳類細胞に感染することができるため、殆どの哺乳類細胞及び組織における組換えタンパク質の発現に有用であることができる。アデノウイルスは、上皮細胞性であり、ヒト腫瘍の殆どは上皮細胞から由来されることに特に留意される。更に、アデノウイルスの複製遺伝子及び病原性遺伝子は、十分に明確であり、アデノウイルスに対する抗体は、ヒト集団において存在する(70〜80%の大人は、アデノウイルスに対する中和抗体を有する)。ヒトは、野生型アデノウイルスに感染した後にのみ僅かな自己制限症状を引き起こし、リバビリンによる処置が有効である。
2.アデノウイルスは、増殖細胞及び非増殖細胞において感染し、遺伝子発現することができる。レトロウイルスは、増殖細胞のみ感染することができ、DNAトランスフェクションは、非増殖細胞で行われることができず、それによって細胞は、インキュベーション中に保持される必要がある。アデノウイルスは、アデノウイルスに対する幾つかのリンパ腫細胞を除き、ほぼ全ての細胞型に感染することができる。アデノウイルスは、非増殖性の初代細胞での遺伝子発現を研究するのに最も良好な系であり、形質転換細胞及び初代細胞から得られた結果間の直接比較を可能にする。
3.アデノウイルスは、効果的に増殖でき、高い力価を有する。アデノウイルス系は、10
10〜10
11VP/mlLの力価を生じさせることができ、濃縮後に最大10
13VP/mLになることができる。したがって、この機能は、遺伝子治療を非常に好適にする。
4.アデノウイルスは、ヒトの遺伝子と相同である。ヒトウイルスは、一般にベクターとして用いられ、ヒト細胞は、アデノウイルスベクター系の宿主として用いられ、これは正確な翻訳後プロセッシング及びヒトタンパク質の適切なフォールディングのための理想的な環境を提供する。殆どのヒトタンパク質は、高い発現レベルを達成でき、完全に機能される。
5.アデノウイルスは、染色体に組み込まれず、挿入後に変異原性を引き起さない。レトロウイルスは、宿主の染色体にランダムに組み込まれ、遺伝子の不活性化又は癌遺伝子の活性化を引き起こす。しかしながら、アデノウイルスは、卵細胞を除く殆ど全ての公知の細胞の染色体に組み込まれないため、宿主における他の遺伝子を妨害しない。アデノウイルスの単一コピーで組み込まれた卵細胞は、特定の特性を有するトランスジェニック動物を作製するための優れた系である。
6.アデノウイルスは、懸濁培養培地で増幅されることができる。293細胞は、懸濁培養によって調整されることができるため、アデノウイルスの大幅の増幅を可能にする。293細胞の懸濁液が、1〜20Lのバイオリアクターにおいて組換えタンパク質を発現することができることが多数の事実によって示されている。
7.アデノウイルスは、複数の遺伝子を同時に発現させる能力を有する。これは、同じ細胞株又は組織において複数の遺伝子を発現するように設計された最初の発現系である。発現系の構築のための最も簡単な方法は、2つの遺伝子を含む二重発現カセットをアデノウイルス導入ベクターに挿入する、又は目的の細胞株を異なる組換えウイルスでそれぞれコトランスフェクトし、タンパク質を発現させることを含む。個々の組換えタンパク質の相対的な同時発現は、異なる組換えウイルスのMOI比を決定することにより正確に推定されることができる。
【0092】
本開示の実施形態によれば、前記免疫エフェクターは、PD−1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、PD−L1遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、CTLA4遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、Tim−3遺伝子をアンタゴナイズする阻害配列、IL−2、IL−12、IL−15、及びGM−CSF、又はこれらの因子の融合発現形態からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。プログラム死1(プログラム死受容体1、PD−1)は、CD28スーパーファミリーのメンバーに属する重要な免疫抑制分子であり、本来、アポトーシスのマウスT細胞ハイブリドーマ2B4.11からクローン化される。PD−1は、T細胞表面の重要な阻害分子であり、その細胞内ドメインは、免疫受容体チロシン阻害モチーフ(ITIM)及び免疫受容体チロシン導入モチーフ(ITSM)を含む。ITSMは、タンパク質チロシンホスファターゼファミリーホスファターゼの会合及びT細胞活性化シグナルの阻害を媒介する。ITSMのリガンドは、PD−L1及びPD−L2であり、主に、免疫系の免疫応答時の腫瘍微小環境におけるT細胞の活性化を阻害することにおいて大きな役割を果たす。プログラム細胞死1リガンド(PD−L1)は、分化のクラスター274(CD274)又はB7ホモログ(B7ホモログ1、B7−H1)としても知られ、CD274遺伝子でコードされる体内のヒトタンパク質である。PD−L1は、腫瘍細胞微小環境における様々な腫瘍細胞及び造血細胞で誘導的に発現され、その発現レベルは、幾つかの腫瘍の悪性度と正の相関がある。PD−1抗体及びPD−L1抗体は、PD−1のPD−L1への結合を遮断することができる。しかしながら、組織内の腫瘍細胞は、PD−1/PD−L1経路によって免疫系から逃れることができる。CTLA−4の略である細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質−4は、T細胞の表面に発現される副刺激分子の一種である。CTLA−4は、APCの表面におけるCD80/CD86に特異的に結合することができ、CD28の機能と同様に、T細胞の活性化中に下流シグナルを活性化する。研究によって、T細胞の中でCTLA−4を主に発現する細胞は、細胞性免疫を負に調節するT細胞のクラスである調節性T細胞(Treg)であることが見出された。CTLA−4受容体の非存在下では、マウスはT細胞の過剰発現を示し、それによって重度の自己免疫疾患を伴う。上記の結果は、Tregがその機能を発揮するにはCTLA−4が必要であることを示す。更に、CTLA−4は、conT細胞においても発現され、T細胞活性化のシグナル伝達を阻害する役割を果たす。T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有分子(TIM)遺伝子ファミリーは、2001年にMclntireがマウス喘息感受性遺伝子を求めて発見された新規遺伝子ファミリーであり、ゲノム解析及びポジショナルクローニングにより更に特定される。TIMファミリー遺伝子は、免疫グロブリンV領域及びムチン領域を含む。Tim−3はTIMファミリーの重要なメンバーであり、活性化Th1細胞の表面に負の調節分子を発現する。現在、TIM3はCD8
+T細胞、Th17細胞、Treg、NK細胞、及び他のリンパ球サブセットで発現されていることが分かっている。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、マクロファージ、T細胞、NK細胞などによって分泌される単量体糖タンパク質サイトカインであり、幹細胞を刺激して、顆粒細胞(好中球、好酸球、好塩基球、単球)を生成する。GM−CSFは、好中球の移動の阻害や細胞表面上の受容体の発現の変化など、免疫系の成熟細胞においても影響を及ぼす。この因子は、マクロファージを活性化することにより真菌感染を阻害することもできる。インターロイキン2(IL−2)は、白血球と白血球との間、及び白血球と他の細胞との間のサイトカインを媒介することができる。IL−2は、主に活性化T細胞によって産生され、オートクリン及びパラクリン的に局所的な標的細胞に作用し、免疫応答に関与する主要なサイトカインであり、それによって顕著な免疫効果を示す。IL−2はまた、T細胞の増殖を促進し、サイトカインを産生し、B細胞の増殖を促進し、Igを分泌し、マクロファージを活性化し、NK細胞の活性化及び増殖を促進する。更に、IL−2には負の調節効果も有し、Agを活性化し、免疫応答の強度を制限し、明らかな免疫損傷を回避するT細胞のアポトーシスを誘導することができる。インターロイキン−12(IL−12)は、抗原刺激に応答して樹状細胞、マクロファージ、好中球、及びヒトBリンパ芽球(nc−37)によって産生されるインターロイキンの一種である。T細胞刺激因子と呼ばれるIL−12は、未感作細胞のTh1細胞への分化に関与し、インターフェロンガンマ(IFN−γ)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)の産生を刺激する。IL−12は、ナチュラルキラー細胞及びTリンパ球の活性を調節する上で重要な役割を果たす。IL−12は、NK細胞及びCD8+細胞傷害性Tリンパ球の増加した細胞傷害活性を媒介する。IL−12は、抗−血管新生活性も有し、新しい血管の形成を遮断することができることを示す。IL−12は、ガンマインターフェロン(INF−γ)の産生を増加させるので、タンパク質10(IP−10又はCXCL10)の誘導を増加させ、IP−10は抗−血管新生を媒介する。IL−12は、免疫応答と抗−血管新生を誘導する能力があるので、潜在的な抗癌薬剤として試験されている。IL−15は、活性化された単球−マクロファージ、表皮細胞、線維芽細胞などの様々な細胞によって産生され得る最近発見された因子である。IL−15の分子構造はIL−2のものと非常に似ているため、標的細胞へのIL−2受容体のβ鎖とγ鎖の結合に基づいて、IL−15は、IL−2と同様の生物学的活性を発揮することができる。IL−15は、B細胞の増殖と分化を誘導でき、IL−2を部分的に置換して初期抗体産生を誘導することができる唯一のサイトカインである。IL−15は、T細胞及びNK細胞の増殖を刺激し、LAK細胞活性を誘導することができ、IL−12と相互作用し、NK細胞を相乗的に刺激し、それによってIFN−γを産生することもできる。
【0093】
組換え細胞
本開示の第3の態様においては、実施形態において、組換え細胞が提供される。本開示の実施形態によれば、前記組換え細胞は、上記に記載される発現系を含む。本開示の実施形態に係る組換え細胞は、人体の全身性免疫応答を効果的に活性化し、腫瘍細胞などの異種細胞を高い安全性及び特異性で攻撃することができる。
【0094】
本開示の実施形態によれば、前記発現系の少なくとも一部は、前記組換え細胞のゲノムに組み込まれる。前記組換え細胞のゲノムが複製すると、前記発現系は、複製し、前記発現系は、前記目的のタンパク質の発現を一定且つ効果的に調節することができる。
【0095】
医薬の調製における使用
本開示の第4の態様においては、実施形態においては、癌の治療のための医薬の調製における、上記発現系、上記組換えウイルス、及び上記組換え細胞の使用が提供される。本開示に記載される発現系は、目的のタンパク質を腫瘍細胞で特異的に発現させることができる。本開示の実施形態に係る薬剤は、より効果的、特異的、及び安全な方法で、癌を治療することができる。この実施形態においては、本発明者らは、合成生物学の概念に従って、アデノウイルス転写に関連する重要な遺伝子E1Aの発現を調節するために、複数の標的に応答した遺伝子回路を設計した。同時に、そのような同時発現は、全身性免疫応答に関連するサイトカイン又は抗体遺伝子を活性化することができる。第一に、本発明者らによって設計された遺伝子回路は、従来の腫瘍溶解性アデノウイルスとは異なり、アデノウイルスのパッケージングを複数のレベルで調節できる。第1の工程においては、本発明者らによって、腫瘍−特異的プロモーターが用いられ、遺伝子回路においてマスタースイッチGal4VP16の発現を調節する。第2の工程においては、遺伝子回路におけるmicroRNAの標的配列は、異なる細胞株におけるmicroRNAの発現に応じて、非腫瘍細胞から腫瘍細胞を区別することができる。第3の工程においては、安定した相互抑制スイッチが、細胞特異的プロモーター及びmicroRNAシグナルなどの外部入力シグナルに効率的に応答することができる本発明者らによって設計された遺伝子回路で用いられ、前記遺伝子回路は、入力シグナルの差を更に拡大することができ、非腫瘍細胞から腫瘍細胞を区別することにおいてより効率的であることができる。第4の工程においては、本発明者らによって設計されたアデノウイルスベクターにおける発現系は、アデノウイルスE1B遺伝子を含まず、E1B遺伝子は、正常細胞内のP53遺伝子と相互作用し、正常細胞における成功した(successful)アデノウイルスの増殖を保証することができる。E1B遺伝子を有さないアデノウイルスは、P53を発現する正常細胞では増殖できないが、一方P53遺伝子を欠く腫瘍細胞では更に効率的に増殖することができる。したがって、実施形態におけるアデノウイルスベクターは、マルチレベル調節により、従来の腫瘍溶解性アデノウイルスよりも、より特異的で安全である。更に、この操作されたアデノウイルスは、実施形態において様々なサイトカイン及び抗体を発現する遺伝子を有するためのベクターとして用いられる。したがって、アデノウイルスは、腫瘍溶解性効果を示すだけでなく、同時発現因子を使用することにより、全身性免疫応答を活性化することもでき、腫瘍溶解性アデノウイルスの有効性を改善する。
【0096】
具体的には、本出願は、遺伝子回路を構築して、合成生物学的手段により肝細胞癌細胞における腫瘍溶解性アデノウイルスの特異的発現及びパッケージングを調節する。腫瘍溶解性の有効性を有することを除いて、本発明者らによって構築されたアデノウイルスは、体内で免疫応答を活性化できるサイトカインを発現する遺伝子もローディングされている。一度発現したそのようなサイトカインは、腫瘍の成長を阻害する免疫応答を刺激して腫瘍を治療することができる。本出願で設計された発現系は、以下のように大きな革新と技術的利点を有する。
【0097】
効率的で安全:本出願で設計された遺伝子回路は、複数のレベルで癌細胞から正常細胞を区別するバイオマーカーに応答することができ、異なる細胞でアデノウイルスの複製を調節する相互抑制的閉ループ遺伝子回路を含み、それによって遺伝子発現ノイズの効果を低減しながら、異なる細胞株における微小環境により高感度に反応することができる。
【0098】
効率的:本出願における遺伝子回路には、種々のサイトカイン及び/又は抗体を発現する遺伝子がローディングされているため、目的の細胞で効果的な免疫応答を誘導することができる。
【0099】
遺伝子回路のモジュール化:遺伝子回路に関与するバイオマーカーは、モジュールにモジュール化され、それぞれ、異なる疾患に対するバイオマーカーを含む異なるモジュールライブラリーにモジュール化され、それによって、関連モジュールを迅速にアセンブルすることにより、疾患固有の遺伝子回路を構築することができる。
【0100】
正確さ:発明者らは、迅速なアセンブリ技術に基づいて様々な腫瘍マーカーを置き換えることができるため、正確な処置のために、異なる患者に向けた遺伝子回路を設計することができる。
【0101】
本開示の実施形態によれば、前記癌は、肝癌、肺癌、結腸直腸癌、メラノーマ、乳癌、又は前立腺癌を含む。本発明者らは、本開示の実施形態における薬剤は、肝癌、肺癌、結腸直腸癌、メラノーマ、乳癌、及び前立腺癌におけるより顕著な治療効果を有することを見出した。
【0102】
本開示の具体的な実施形態によれば、本発明者らは、異なる腫瘍細胞株におけるmicroRNAの発現が表1に示されることを見出した。上向きの矢印は、正常細胞と比較して癌細胞で高く発現されるmicroRNAを示す、下向きの矢印は、正常細胞と比較して癌細胞で低く発現されるmicroRNAを示す。
【表1】
【0103】
発現系を用いて目的のタンパク質を発現させる方法
本開示の第5の態様においては、実施形態において、発現系を用いることによって目的のタンパク質を発現させる方法が、提供される。前記発現系は、上記に記載される発現系である。本開示の実施形態によれば、前記方法は、(1)前記目的のタンパク質をコードする核酸配列を含む第5の核酸分子を提供することと;(2)第10の核酸分子によって、第2の調節タンパク質の発現を阻害し、前記目的のタンパク質を発現させることと、を含む。実施形態において発現系を用いて目的のタンパク質を発現させる方法を用いて、前記第1のプロモーターにおける前記第2の調節タンパク質媒介抑制メカニズムが解放され、それによって前記目的のタンパク質は、前記細胞特異的プロモーター及び前記第1のプロモーターの相互作用下で特定の細胞で効果的に発現される。
【0104】
本開示の実施形態によれば、発現は、細胞内で行われる。前記細胞は、目的のタンパク質の発現のための微小環境を提供できるため、前記目的のタンパク質をより効率的に細胞内で発現させることができる。
【0105】
本開示の実施形態によれば、前記第10の核酸分子は、前記第2のmicroRNAによって特異的に認識される核酸配列を含み、前記方法は、工程(2)において、前記第2のmicroRNAを前記第10の核酸分子に接触させることを更に含む。microRNA(miRNA)は、約20〜24個のヌクレオチドを有する内在性小型RNAのクラスであり、幾つかのmiRNAは1つの同じ遺伝子を調節することができる。遺伝子の発現は、幾つかのmiRNAの組合せによって細かく調節されることができる。microRNAは、約300〜1000塩基の長さのものである原形におけるpri−miRNAと;前記pri−miRNAのプロセシングにより形成され、約70〜90塩基の長さのものである、microRNA前駆体の形態であるpre−miRNAと;Dicerを用いて前記pre−miRNAの切断(digestion)によって生成される約20〜24ntの成熟miRNAと、を含む多くの形態を有する。RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)は、標的遺伝子の発現を阻害する。標的遺伝子のmRNAにおけるmicroRNA−RISCの効果は、3つの方法で行われるmicroRNA−RISCと標的遺伝子転写配列との間の相補度に常に大きく依存してきた。第1の方法では、標的遺伝子のmRNA分子が切断され、即ち標的遺伝子に対して完全に相補的なmiRNA(siRNAのものと密接に類似したメカニズムと機能を有する)が切断される。植物においては、標的遺伝子のmiRNAの多くが上記の方法で切断され、poly(A)を有さない分子は3’末端にウラシル(Us)が追加され、急速に分解されるが、poly(A)を有する分子は一定期間安定して存在できる(Arabidopsis miR−171など)。現在、これらの遺伝子がmiRNAのターゲットであるかどうかは不明であるが、1つのmiRNAが、植物における3つの潜在的な標的遺伝子に対して完全に相補的であることが分かっている。しかしながら、miRNAが潜在的な標的に対して完全に相補的であり得ることが初めて見出され、miRNAがsiRNAと同様のメカニズムを有することできることが示唆されている。第2の方法では、標的遺伝子の翻訳が阻害される。miRNAは、標的遺伝子に完全に相補的ではないので、mRNAの安定性に影響を与えることなく、標的遺伝子の翻訳を阻害する。このようなmiRNAは、線虫lin−4のように最も広く発見されているmiRNAであるが、植物におけるmiRNAの殆どは、このようにして標的遺伝子を阻害しない。第3の方法は、結合阻害を指し、即ち上記の2つの方法で2つのメカニズムを組み込む。miRNAが標的遺伝子に完全に相補的である場合、直接切断される。miRNAが標的遺伝子に完全に相補的でない場合、遺伝子発現の調節に関与する。
【0106】
本開示の第6の態様においては、実施形態において、発現系を用いることによって目的のタンパク質を発現させる方法が、提供される。前記発現系は、上記に記載される発現系である。本開示の実施形態によれば、前記方法は、(1)第1の目的のタンパク質をコードする核酸配列を含む第8の核酸分子を提供し、第2の目的のタンパク質をコードする核酸配列を含む第5の核酸分子を提供することと;(2)前記第9の核酸分子によって、前記第1の調節タンパク質の発現を阻害し、前記第1の目的のタンパク質を発現させること、又は前記第10の核酸分子によって、前記第2の調節タンパク質の発現を阻害し、前記第2の調節タンパク質を発現させること、とを含む。実施形態において発現系を用いることによって目的のタンパク質を発現させる方法を用いて、前記第1のプロモーターにおける前記第2の調節タンパク質媒介抑制メカニズムが解放され、それによって前記第2の目的のタンパク質は、前記細胞特異的プロモーター及び前記第1のプロモーターの相互作用下で特定の細胞で効果的に発現される、又は前記第2のプロモーターにおける前記第1の調節タンパク質媒介抑制メカニズムが解放され、それによって前記第1の目的のタンパク質は、前記細胞特異的プロモーター及び前記第2のプロモーターの相互作用下で特定の細胞で効果的に発現される。
【0107】
本開示の実験的実施形態を以下に詳細に説明する。以下に記載される実施形態は、例示にすぎず、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。実施例において特定の技術又は条件が示されていない場合、それらは当該技術分野の文献に記載されている技術又は条件に従って、又は製品の仕様に従って実施される。製造元によって示されていない使用された試薬又は機器は、全て商業的に得られることができる従来の製品である。
【0108】
実験材料及び方法
1.細胞培養及びトランスフェクション
HEK293(293−H)細胞株は、Invitrogen Co.,Ltdから購入した。ヒト肝癌細胞株HepG2、正常肝細胞Chang及びHepa1−6は、ATCCから購入した。ヒト肝癌細胞株Huh7は、BeNa Co.,Ltdから購入した。細胞を、4.5g/Lのグルコース、0.045ユニット/mLのペニシリン、0.045g/mLのストレプトマイシン、及び10%FBS(Invitrogen Co.,Ltd.から購入)を含む高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(即ち、DMEM完全培地)で、37℃、湿度100%、5%CO
2濃度にて培養した。
【0109】
細胞トランスフェクションを以下のように行った。高グルコースDMEM完全培地0.5mL中の約7.5×10
4個のHEK293細胞を、24ウェルプレート(Falcon)の各ウェルに播種し、24時間インキュベートした後、培地を新鮮なDMEM完全培地と交換し、Attracteneトランスフェクション試薬(Qiagen)又はリポフェクタミンLTX(Life Technologies)をトランスフェクションのために添加した。具体的には、Attracteneを使用したときは、1.5μLのAttracteneを一定量の混合DNAプラスミドに添加し、室温で15分間放置し、次いで、対応するウェルに添加した。ただし、リポフェクタミンLTXを使用したときは、適切な量のPlus試薬を混合DNAプラスミドにまず添加し、室温で5分間放置し、次いで、1.25μLのリポフェクタミンLTXを添加し、更に25分間室温で放置してから、24ウェルプレートに移した。トウモロコシユビキチンプロモーター(UBI)と、UBIとNOSとの間にタンパク質コード配列を有しないNOSターミネーターとを含むpDT7004(pUBI−リンカー−NOS)を使用して、異なる実験群のプラスミドDNAの量が等しくなるようにした。トランスフェクション後の細胞を48時間培養した後、フローサイトメトリー分析又はサイトカイン検出に関連する幾つかの実験を行った。
【0110】
2.アデノウイルスベクター
この実施例では、2つの初期アデノウイルスベクター配列を用いる。即ち、ViraPower
TM Adenoviral Gateway
TM Expression Kit(K49300 Invitrogen)とAdeno−X−Adenoviral System 3(632266 Clontech)である。これらの2つのアデノウイルスベクターの構造をそれぞれ
図1と
図2に示す。
【0111】
3.プラスミド構築
トランケートされたAFPプロモーター誘導体に関連するプラスミドを構築した。AFPエンハンサー及びAFPプロモーター配列は、PCR増幅を介して、特異的に設計されたPCRプライマーの下で肝癌細胞株のゲノムから直接得た。AFPプロモーター配列の点突然変異は、オーバーラップエクステンションPCR法を使用して取得した。AFPエンハンサー及びAFPプロモーター配列は、エントリークローン中に構築され、エントリークローンの両端に特異的に設計されたLRクロナーゼの認識配列が存在する。特異的プロモーターと活性化遺伝子Gal4VP16は、LR反応により1つの同一ベクター中に構築した。microRNAの標的配列は、プライマーアニーリング、酵素消化、及びライゲーションによりCMV−EYFPベクター(XbaI/SalI)に挿入した。発現系の一次エレメントライブラリーは、ゴールデンゲート法によって構築した。タイプIIs制限酵素(例えば、BsaI、BbsI、BsmBI、SapIなど)は、その認識部位が非パリンドロームであり且つ対称な配列であり、その切断部位が認識部位の外側に位置する特定のクラスの制限酵素である。これは、その認識部位がパリンドロームであり且つ対称な配列であり、その切断部位が認識配列と重複している分子生物学で最も一般的に使用されるタイプII制限酵素とは異なる。したがって、タイプIIs制限酵素によって消化された2つのフラグメントを後続の消化及びライゲーション反応でライゲーションすると、以前あった認識部位が存在しないため再度は切断されることがなく、接続(welding)の効果が得られる。ゴールデンゲートクローニング法では、タイプIIs制限酵素の特性により、異なる切断部位配列が認識配列の外側に人工的に設計される。これにより、1つの同一のタイプIIs制限酵素が異なる付着末端を生成することができるので、複数のフラグメントを一度に組み立てることを確実にし、複数の異なる制限酵素を使用するなどの、従来のマルチフラグメントアセンブリの欠点を克服する。このゴールデンゲートクローニング法の最大の特徴は、従来の消化連結法と比較して、更なる「傷跡(scar)」が導入されず、DNAフラグメントのシームレスな連結が達成されることである。この実施例の一次エレメントライブラリーで使用されるタイプIIs制限酵素は、Esp3Iである。発現系の2番目の論理回路ライブラリーも、IIs型制限酵素BsaIを使用して、ゴールデンゲート法によって構築した。次に、ゲートウェイ(Gateway)法によりViraPower
TM Adenoviral Gateway
TM Expression Kitのアデノウイルスベクター配列に2番目の論理回路を挿入した、又はギブソン(Gibson)クローニングによりAdeno−X Adenoviral System 3のアデノウイルスベクター配列に挿入した。ゲートウェイ技術は、BP及びLR反応からなる、十分に研究されたファージλ部位特異的組換え系(attB×attP→attL×attR)に基づく。BP反応は、attB DNAフラグメント又は発現クローンと、attPドナーベクターとの間の組換え反応であり、エントリークローンを作成する。LR反応は、attLエントリークローンとattR宛先ベクターとの間の組換え反応であり、並行反応における1以上の宛先ベクターに目的の配列を挿入するために使用される。本発明者らは、この実施例においてLR反応を使用した。「ギブソンサーモスタットワンステップアセンブリ法」としても知られるギブソンアセンブリ技術は、米国のJ.CraigVenter Instituteでギブソンらによって作成されたDNAアセンブリ法であり、T5エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、及びリガーゼの相乗効果の下で、重複する末端配列を有する複数のDNAフラグメントがin vitroで組み立てられる。中でも、T5エキソヌクレアーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有し、DNAフラグメントの一方の鎖の5’末端から重複末端配列を有するDNAフラグメントを切断し、相補鎖の3’末端に重複配列を有するオーバーハング末端を生成する。この相補鎖は、50℃で特異的にアニーリングされ(この温度で、T5エキソヌクレアーゼは徐々に不活性化される)、最後に、DNAポリメラーゼとTaqリガーゼの存在下で完全なDNA分子が形成され、シームレスなアセンブリが達成される。
【0112】
4.細胞RNA抽出、逆転写、及び定量的PCR反応
細胞RNAはTrizol法により抽出した。1mLのTrizolを遠心分離によりペレット化した5×10
6個の細胞に添加した後、ピペットで繰り返しピペッティングする又は激しく振とうして細胞を溶解した。15〜30℃の室温で5分間放置した後、0.2mLのクロロホルムを添加し、混合物を15秒間激しく振とうし、室温で更に2〜3分間維持し、12,000×gで4℃にて15分間、遠心分離した。0.5mLのイソプロパノールを、分離した上部の水層に添加し、室温で10分間放置し、12,000×gで4℃にて10分間、遠心分離した後、1mLの75%エタノールを添加し、ボルテックスし、7500×gで4℃にて5分間、遠心分離した。上清を廃棄し、沈殿したRNAを室温で自然乾燥させた。乾燥したRNAをRNaseフリー水に溶解させた。QuantiTect Rev. Transcription Kit(カタログ番号/ID:205310 QIAGEN)を使用して、逆転写実験を行った。定量的PCRプライマーは、qAFP for:CAAAGCTGAAAATGCAGTTGAATG(配列番号15)、qAFP rev:TTCCCCATCCTGCAGACAATCC(配列番号16)、GAPDH for:AGAAGGCTGGGGCTCATTTG(配列番号17)、及びGAPDH rev:AGGGGCCATCCACAGTCTTC(配列番号18)である。蛍光色素は、PowerUp
TM SYBR(登録商標)GreenMaster Mix(A25741 Thermo Fisher)である。
【0113】
5.アデノウイルスのパッケージング、精製、及び滴定
高純度のエンドトキシンフリー組換えアデノウイルスプラスミドを抽出した。HEK293細胞に、線状化したアデノウイルスDNAをトランスフェクトし、これを一晩PacIで消化した後、培養培地を完全培地に交換した。培養1週間後に、細胞を培養培地1mLと共に15mL遠心管に回収した(培養中の細胞増殖状態に応じて新鮮な培地を添加)。次いで、これを液体窒素による37℃での3回連続の凍結融解サイクルにより溶解させ、2000rpmで5分間、遠心分離した。上清を一次ウイルス溶液として得た。連続する3世代のトランスフェクション後、得られたアデノウイルスを増幅のために10枚の15cmプレートに播種し、CsCl密度勾配遠心分離と透析との組合せにより更に精製した。CsCl密度勾配は、1.4g/mLの密度のCsCl溶液2mLを添加し、更に1.3g/mLの密度のCsCl溶液3mLをゆっくりと添加した後、5mLのウイルス懸濁液を添加することにより調製した。20000rpm、4℃にて10時間の遠心分離後、1.3g/mL〜1.4g/mLの密度のCsCl溶液に濃縮されたアデノウイルスを透析バッグに回収し、使用前に10分間、10mM EDTA−Na
2で煮沸した。透析バッファーは、50gのスクロース、10mLの1M Tris−HCl、及び2mLの1M MgCl
2を使用して調製し、水で1Lにし、pH8.0に調整する。4℃で一晩攪拌し、透析バッファーを2回交換した後、ウイルス力価の測定のためにアデノウイルスを回収した。ウイルス力価は、感染細胞から抽出されたウイルスDNAを定量することにより検出した。具体的には、約2×10
6のHeLa細胞/ウェルを6ウェル組織培養プレートに播種し(インキュベーション1日間後に細胞被覆率が90〜100%に達する)、無血清培地500μLで希釈したウイルスストックの5μLにて2連で感染させた後、37℃で3〜6時間インキュベートし、培養培地を除去し、1mLのPBSで2回洗浄した。500μLの新鮮なNP−40溶解バッファー(0.65%NP−40(Calbiochem、Billerica、MA、USA)、150mMのNaCl、10mMのTris、pH8.0を含む)を添加し、室温で5〜10分間インキュベートすることにより細胞を溶解した。ここで、完全に溶解するために10〜15回ピペッティングした後、ウイルス沈殿のために2000×gで3分間、遠心した。上清を廃棄した後、1mLのNP−40溶解バッファーを添加し、短時間ボルテックスして、2000×gで3分間、遠心分離した。上清を再び廃棄し、沈殿物を200μLのPBSに懸濁した。DNAの単離及び精製中に、DNeasy Blood&Tissue Kit(QIAgen、Valencia、CA、USA)を使用してDNAを抽出し、その後の定量反応に使用した。定量プライマーは、L2フォワードプライマー:TTGTGGTTCTTGCAGATATGGC(配列番号19)、及びL2リバースプライマー:TCGGAATCCCGGCACC(配列番号20)である。
【0114】
標準曲線を作成した。PCR L2標的配列をTベクター中に構築し、これを、標準配列として1×10
9〜1×10
2コピー/μLに希釈した。希釈式は次のように示される:[プラスミド濃度(μg/μL)×アボガドロ数×
106]/[ヌクレオチド数×1bp分子量]=粒子コピー/μL
【0115】
6.細胞実験
アデノウイルスを、各種細胞に対する認識能力と殺滅能力について検出した。Chang細胞(1×10
4細胞/ウェル)、HepG2及びHuh7細胞(それぞれ5×10
4細胞/ウェル)を96ウェルプレートに播種し、10
2〜10
−4に10倍希釈された7種の感染多重度(MOI)勾配でアデノウイルスベクターに感染させた。ここで、6日間の観察後に、MTS法にて細胞生存率を測定した。
【0116】
7.MTS検出
細胞数はMTS法で測定した。20μLのMTS/PMS混合物(Promega)を、試験対象細胞を含む96ウェルプレートの各ウェルに添加した後、混合し、37℃で1〜4時間インキュベートした。発色後、プレートを10秒間振とうして均一な色を得た。マイクロプレートリーダーを使用して、490nmの波長での吸光度(OD値)を測定した。標準曲線を確立した。目的細胞の数は、標準曲線を参照して検出した。
【0117】
8.サイトカイン検出
サイトカインの生物活性は、サイトカイン依存性細胞株の増殖を介して検出できる。IL−2、mGM−CSF、及びhGM−CSFの生物学的活性は、それぞれCTLL−2、FDC−P1、及びTF−1細胞株を使用して検出した。回収後、1×10
4個の試験対象のサイトカイン依存性細胞を96ウェルプレートに播種し、試験対象のサイトカインを含むサンプルを感染させ、37℃で24時間又は48時間、恒温培養した。増幅した細胞をMTS法により測定した。用量増殖標準曲線を確立した。測定したサンプル中のサイトカインの生物活性は、標準曲線を使用して推定した。
【0118】
9.共免疫沈降アッセイ
共免疫沈降は、以下のようにして行った。適切な量のタンパク質溶解バッファー(Biyuntian Co.,Ltd.)を、試験対象の回収した細胞に添加し、遠心分離して細胞片を除去した。後続のウエスタンブロット分析のために、少量のタンパク質溶解バッファーを残した。残りのタンパク質溶解バッファーと、対応するタグ抗体(Thermo Fisher Scientific Co.、Ltd.)をコンジュゲートさせた10〜30μLのプロテインA/G−アガロースビーズとを、得られた細胞溶解物に添加し、軽く振とうしながら4℃で一晩インキュベートした後、遠心分離して上清を除去した。沈殿したビーズを3回洗浄した後、溶離液を使用して抗体及び捕捉されたタンパク質をアガロースビーズから溶出し、次いで、SDS−PAGEローディングバッファー(Shanghai Shenggong Co.,Ltd.)を添加して煮沸した。関連タンパク質の濃縮は、ウエスタンブロット法によって検出した。
【0119】
10.動物試験
実験動物は、HuafuKang Co.,Ltd.又はWeitonglihua Co.,Ltd.から購入した。腫瘍モデルは、SPF環境で飼育された6週齢の雄又は雌のマウスを使用して構築した。ヒト腫瘍モデルでは、6週齢のヌードマウスの右側腹部にマトリゲル(BD Co.,Ltd.)中の1×10
7個のヒト肝癌細胞HepG2を皮下注射した。マウス腫瘍モデルでは、1×10
6個のマウス肝癌細胞Hepa1−6を、6週齢の野生型C57BL/6Jマウスの右側腹部に皮下注射した。皮下腫瘍サイズは、3日ごとにノギスで測定し、次の式を使用して計算した:体積=0.5×長さ×幅
2。腫瘍体積が100mm
3を超えた後、腫瘍溶解性アデノウイルス又は対照処置を行った。動物実験倫理の要求にしたがって、腫瘍サイズが直径15mmに到達後、担腫瘍マウスを安楽死させた。
【0120】
実験結果
1.合成生物学の使用によって癌細胞を非癌細胞から区別する各種バイオマーカーに対応する相互抑制スイッチの構築
近年、関連する研究により、腫瘍溶解性ウイルスが癌の治療に非常に有効であり、腫瘍溶解性アデノウイルスに関する多くの臨床研究が開発されていることが示されている。既存の臨床研究結果によると、腫瘍溶解性アデノウイルスのリークの割合が比較的高いので、臨床段階で腫瘍溶解性アデノウイルスの安全性をいかにして改善するかが重要な課題である。既存の腫瘍溶解性アデノウイルスの分析に基づくと、大部分の腫瘍溶解性アデノウイルスは、アデノウイルス複製の鍵となる遺伝子E1の発現を調節する腫瘍特異的プロモーターなど、単一のバイオマーカーに応じて調節される。しかし、1つのバイオマーカーだけが、比較的高いリーク確率を引き起こすことがある。したがって、本発明者らは、この実施例において、各種バイオマーカーに対応する相互抑制スイッチを設計し、様々なレベルでアデノウイルスE1A遺伝子の発現を調節することにより、認識に対する腫瘍溶解性アデノウイルスの特異性を改善し、安全性を向上させた。
【0121】
図3に示すように、相互抑制スイッチは、次の特徴を有する。腫瘍特異的プロモーター(pC)は、相互抑制スイッチのマスターアクチベーターを調節する。マスターアクチベーターは、アクチベーター応答プロモーター(pAct)に作用して、下流遺伝子の発現を調節する。相互抑制スイッチの第1の側は、アデノウイルスパッケージング関連E1A遺伝子、エフェクター、リプレッサーa(Rep−a)、及び非腫瘍細胞で高度に発現したmicroRNAa(miRNAa)の標的配列を発現する。これは更に、第2の側に発現するリプレッサーbの認識配
列を含み、リプレッサーbの認識配列は、第1の側の第1のプロモーターの両側にそれぞれ位置する。相互抑制スイッチの第2の側は、リプレッサーb(Rep−b)
並びに腫瘍細胞で高度に発現するmicroRNAb(miRNAb)の標的配列を発現し、これは更に、第1の側で発現するリプレッサーaの認識配列を含み、リプレッサーaの認識配列は、第2の側の第2のプロモーターの両側にそれぞれ位置する。腫瘍細胞では、腫瘍特異的プロモーター(pC)は、系全体の発現を開始する。リプレッサーbは、腫瘍細胞でのmiRNAbの高発現とmiRNAaの低発現によるRNA干渉を介して分解されるので、第1の側の遺伝子発現に対するリプレッサーbの阻害は排除される。更に、リプレッサーaの高発現は、リプレッサーbの発現を更に抑制でき、相互抑制スイッチが迅速且つ効率的にE1A発現状態に切り替わることを可能にし、それによってアデノウイルスのパッケージングとエフェクターの発現を開始する。反対に、相互抑制スイッチが非腫瘍細胞に入ると、腫瘍特異的プロモーター、miRNAマーカー、及び論理回路の組合せによりE1A及びエフェクターが発現できなくなり、アデノウイルスのパッケージングプロセスが効果的に閉じられ、特異性と、この論理回路の安全性とが保証される。したがって、このような相互抑制スイッチは、様々な入力信号に応答でき、転写レベル及び転写後レベルで標的細胞を非標的細胞と区別することができる。また、本発明者らが提案する本発現系は、E1B遺伝子が除去されたE1A遺伝子のみを発現できるので、機能欠損の補完の観点から、標的細胞に対する腫瘍溶解性ウイルスの認識能力を向上させる。したがって、本発明者らによって設計された発現系は、アデノウイルスの安全性を効果的に改善しながら、複数のレベルで標的細胞を区別することができる。
【0122】
2.肝癌細胞と正常細胞を区別するバイオマーカーの検証と分析
2.1肝癌特異的アルファ−フェトプロテイン(AFP)プロモーターの構築
アルファ−フェトプロテイン(αFP又はAFP)は、主に胎児の肝臓で合成され、健常な成人では発現しないが、肝細胞が癌になると再び発現し、肝癌の進行に伴って血清中のAFP量は劇的に増加する。現在、アルファ−フェトプロテインは、原発性肝癌の診断のための特異的臨床指標であるので、本発明者らは、実施例において肝癌細胞を非肝癌細胞と区別するためのプロモーターマーカーとしてアルファ−フェトプロテインプロモーターを選択した。
【0123】
本発明者らは、実験によりAFPの特異的発現を更に検出した。まず、一連の非肝癌細胞及び肝癌細胞におけるヒトAFP遺伝子の発現を、qPCR法で検出した。
図4に示すように、Chang、HepG2、Huh7、PLC、Hep3B、及びHepa1−6細胞株のRNAをそれぞれ抽出し、これらの細胞におけるAFP遺伝子の発現レベルを定量的PCR法で検出した。ここで、Chang細胞が健常なヒトの肝細胞であり、HepG2、Huh7、PLC、Hep3B細胞、及びHepa1−6細胞が、マウス肝癌細胞である。結果から、ヒトAFP遺伝子がHepG2及びHuh7細胞株で高レベル発現し、PLC及びHep3B細胞株で低レベル発現し、マウスHepa1−6肝癌細胞で僅かに発現することが示され、本発明者らが、AFPプロモーターを、その特異的発現により、肝癌細胞のプロモーターマーカーとして使用できることを示唆している。
【0124】
現在広く使用されているAFPプロモーターは、エンハンサーとプロモーターからなる。エンハンサーは、プロモーターを活性化できる2つの配列、即ち、ドメインA(DA)とドメインB(DB)を含む。プロモーターの効率を高めるために、本発明者らは、プロモーターの位置−119のグアニン(G)をアデニン(A)に変異させた。加えて、本発明者らは、エンハンサー領域を異なる程度にトランケートした。
図5に示されるように、AFP Iは、1.8K
bpの長さのAFPのエンハンサー配列を含む(配列番号21に示す);AFP IIは、活性化領域A(DA)、活性化領域B(DB)、及び2つの活性化領域間の配列を含む(配列番号22に示す);AFP IIIは、活性化領域A(DA)及び活性化領域B(DB)のみを含む(配列番号23に示す);AFP IVは、活性化領域A(DA)のみを含む(配列番号24に示す);AFP Vは、活性化領域B(DB)のみを含む(配列番号25に示す)。AFPプロモーターの発現効率と特異性を検出するために、これらの5種のAFPプロモーターレポーター系プラスミドを、それぞれ正常な肝細胞Changと肝癌細胞HepG2に一過性トランスフェクトした。
図6の結果から、5種のAFPプロモーターがいずれも、肝癌細胞株で高レベルに発現され、通常発現されるCMVプロモーターの発現レベルを超えることが示される。特異性の分析に基づき、AFP IIプロモーターを除く他の4種のプロモーターは、Chang細胞で明らかにリークされて(leaked)おらず、Chang細胞でのAFP IIレポーター遺伝子の発現は僅かであった。挿入される配列の長さ、及びプロモーターの効率及び特異性を考慮し、本発明者らは、後続の実験で本相互抑制スイッチを調節するためにAFP IIIプロモーターを選択した。
【化15-1】
【化15-2】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【0125】
2.2各種細胞株の発現レベルを検出するためのmicroRNA(miRNA)蛍光プラスミドレポーター系の構築
最近の研究から、腫瘍の形成と成長が、microRNA(miRNA)の発現レベルを大きく変えることが示されている。表1に示すように、各種癌細胞で様々なmicroRNAが高レベルに発現している。本発明者らは、正常な肝細胞の高発現を特徴付けるmicroRNAマーカーとしてmiR199aを選択し、同様に、既知の研究結果の分析に基づき、肝癌細胞の高発現を特徴付けるmicroRNAマーカーとしてmiR21及びmiR122を選択した。まず、本発明者らは、microRNA蛍光プラスミドレポーター系を設計、構築した。
図7に示すように、本発明者らは、microRNAの標的配列を、通常発現されるEYFPの3’非翻訳領域に挿入し、別の通常発現されるEBFPを蛍光対照として使用した。幾つかの異なる細胞株に、EYFP及びEBFP蛍光プラスミドをそれぞれトランスフェクトして、microRNA標的配列の発現を検出した。実験結果を
図8に示す。これは、miR199aが肝癌細胞株と比較して正常肝細胞で高度に発現している一方で、miR21は、肝癌細胞株で有意に高い発現レベルを示しているので、miR199aとmiR21を、肝癌細胞と正常細胞を区別するために本発明者らが設計した相互抑制スイッチの有効なマーカーとして使用できることを示している。
【0126】
2.3相互抑制スイッチは、microRNA入力信号に効果的に応答し、各種細胞株で安定に機能することができる
腫瘍溶解性アデノウイルスの限られたパッケージング能力(最大8K
bpの外来遺伝子しかパッケージできない)のため、本発明者らは、この実施例ではできる限り短く有効な阻害エレメントを選択した。本発明者らは、この実施例でLacI及びtetR−KRABを選択した。
図9に示すように、本発明者らは、EYFP遺伝子がtetR−KRAB側で共発現されるかどうかに応じて2つの論理回路、即ち、EYFPを発現しないSwitch I(SI)と、EYFPを発現するSwitch II(SII)を構築した。2つのスイッチを個別にHEK293細胞に一過性トランスフェクトし、それぞれを、shRNA−FF4及びshRNA−FF5のそれぞれで共トランスフェクトした。
図10に示すように、これらの2つのスイッチはいずれも、各種入力信号下で効率的に反転できる。SIは、LacI側でより高いレベルで発現するが、tetR−KRAB側ではSIIよりも高いリークレベルを示す。総合的に考慮した後、本発明者らは、後続の実験で異なるエフェクターを有する本腫瘍溶解性アデノウイルスを構築するためのバックボーンとしてSI系を選択した。これは、SIスイッチ系が、各種入力信号に応答し、目的の細胞中でE1遺伝子を効率的に発現することができるからである。実験室での過去の結果に基づいて、本発明者らは、相互抑制スイッチSIに対する各種アクチベーターの調節効果を試験した。
図11に示すように、本発明者らは、アクチベーターGal4VP16、Gal4esn、dCas9−VP64、及びrtTAの調節効率を試験した。実験結果から、遺伝子回路がこれらの各種アクチベーターに効果的に応答することができ、そのような遺伝子回路の安定性を証明していることが示されている。
【0127】
2.4CGGA法を用いた腫瘍溶解性アデノウイルスの構築
多くの臨床情報は、腫瘍マーカーの発現が個人によって大きく異なることを示す。したがって、本発明者らは、各個人に異なるマーカーを選択することができる。個々の患者の正確な治療を達成するために、本発明者らは、各種バイオマーカーを有する様々な腫瘍溶解性アデノウイルスを調製する必要がある。しかし、これらの腫瘍溶解性アデノウイルスを従来の酵素消化及びライゲーション法により迅速に構築することは非常に困難である。本実施例において、本発明者らは、3段階ライブラリーを設計、構築し、CGGA法(カスケードゴールデンゲートゲートウェイ/ギブソンアセンブル法)により腫瘍溶解性アデノウイルスを迅速に改変した。まず、癌細胞と正常細胞の区別に関連するマーカーエレメント(例えば、腫瘍特異的プロモーター、論理回路関連抑制エレメント、癌細胞を区別するmiRNA認識配列など)を一次プラスミド上に構築することにより、
図12に示す一次エレメントライブラリーを作製した。一次エレメントの2つの端部にはそれぞれ、EI(認識部位と切断部位が異なる制限酵素、例えば、Esp3IやBsaIなど)の認識部位が挿入され、ゴールデンゲート法により複数の一次エレメントを1つの二次発現系に構築する。発現系は、以下のように構築される。具体的には、複数の一次エレメントが一次エレメントライブラリーから選択され、ゴールデンゲート法によって3つの発現系に組み立てられる。このような3つの発現系は、腫瘍特異的プロモーター系、第1の調節エレメント媒介抑制系、及び第2の調節エレメント媒介抑制系を含む。次いで、
図13に示すように、ゴールデンゲート法によって3つの発現系をランダムに組み立てることにより、完全な論理回路が形成される。更なる実験のために、論理回路の両端に、ギブソン相同配列又はゲートウェイ認識部位(標的配列)が挿入される。最後に、論理回路は、
図14に示すように、ギブソン法又はゲートウェイ法によってアデノウイルスベクター(E1及びE3の一部を除去)に構築される。操作されたアデノウイルスベクターは、PacI消化により線状化され、特定の細胞にトランスフェクトされ、アデノウイルス粒子をパッケージングする。したがって、1以上の腫瘍バイオマーカーを、本発明者らによって置き換えることができる。
【0128】
2.5細胞レベルでの肝癌細胞の効果的な殺滅に対する腫瘍溶解性アデノウイルスの検出
本発明者らによって構築された腫瘍溶解性アデノウイルスにおける相互抑制スイッチが、肝癌細胞を効果的に区別し、殺滅できるかどうかを検出するために、本発明者らは、腫瘍溶解性アデノウイルスのin vitro細胞殺滅アッセイを設計した。各種細胞株に、様々な感染多重度で腫瘍溶解性アデノウイルスを感染させた。ここで、Chang細胞は正常な肝細胞であり、Huh7及びHepG2細胞はヒト肝癌細胞株である。細胞の生存率は、インキュベーションの6日後にMTS法で測定した。
図15に示すように、感染の多重度がそれぞれ100、10、1の場合、肝細胞腫細胞は重篤な細胞毒性により重度の死滅を示し、肝癌細胞は0.1の感染多重度において僅かな細胞死を示すことが分かった。同様に、感染多重度が10以下の場合、Chang細胞は、細胞死を示さずに正常な増殖状態である一方、感染多重度100では僅かな細胞毒性応答を示し、細胞体積が大きくなり、細胞成長が遅くなった。このデータは、特定の感染多重度の範囲内でパッケージされたアデノウイルスが、正常な肝細胞の成長と増殖に干渉することなく、肝癌細胞を効果的に区別して殺滅できることを示している。
【0129】
2.6腫瘍溶解性アデノウイルスが有するエフェクターの発現レベルのin vitro検出
現在臨床診療で使用されているアデノウイルスベクターは、自然界に広く存在するヒトAd2又はAd5型アデノウイルスである。更に、これらのアデノウイルスに拮抗する中和抗体は、人体に存在することが知られている。したがって、臨床データは、アデノウイルス単独の腫瘍溶解効果に依存する腫瘍治療の治療効果が低いことを示した。そのため、本発明者らは、実施例において、腫瘍部位にエフェクター遺伝子を運ぶ送達系として腫瘍溶解性アデノウイルスを使用し、全身性免疫応答を引き起こすようにした。
図16に示すように、本発明者らは、まず、これらのエフェクター遺伝子を高頻度に発現するプラスミドベクターに構築し、一過性トランスフェクションによりこれらのエフェクターの活性を検出した。結果は、本発明者らによって構築されたエフェクター遺伝子が、生物学的機能を有する免疫因子、及び免疫学的チェックポイント遺伝子の抑制因子を効率的に発現できることを示している。本発明者らは、腫瘍溶解性アデノウイルスベクター上でこれらのエフェクター遺伝子を更に構築して、パッケージング及び精製後にこれらのエフェクターを発現できる腫瘍溶解性アデノウイルスを得た。本発明者らは、肝癌細胞HepG2の感染後、上清を抽出して、上清中の免疫因子の活性を検出した。
【0130】
一方、本発明者らは、アデノウイルスベクターのエフェクター遺伝子によって発現されるエフェクターの活性も検出した。
図17に示すように、アデノウイルスによって発現されるエフェクターは、経時で効果的に向上される。3種のサイトカインを以下の方法で検出する。
図17(a)では、3×10
6個のHepG2細胞を12ウェルプレートに播種し、synOV−EBFP及びsynOV−mGM−SCFをそれぞれ感染多重度10で感染させ、感染後1、2、3、及び4日目に上清を回収した。上清中のマウスGM−CSF含有量は、ELISAキットで検出した。
図17(b)では、3×10
6個のHepG2細胞を12ウェルプレートに播種し、synOV−EBFP及びsynOV−hIL−2をそれぞれ感染多重度10で感染させ、感染後1、2、3、及び4日目に上清を回収した。上清を、IL−2依存性細胞を含む培地に添加し、上清中のIL−2含有量をMTS法により検出した。
図17(c)では、3×10
6個のHepG2細胞を12ウェルプレートに播種し、synOV−EBFP、synOV−抗−PD−1 scFv、及びsynOV−抗−PD−L1 scFvをそれぞれ感染多重度10で感染させ、感染後1、2、3、及び4日目に上清を回収した。得られた上清を、1:10の希釈比で脾臓細胞系(T細胞活性化のために単離された脾臓細胞に2μg/mLの抗マウスCD3抗体を添加することにより生成)に添加し、脾臓細胞系におけるIFN−γ産生を、48時間のインキュベーション後にELISA法で検出した。
【0131】
2.7動物実験による腫瘍溶解性アデノウイルスの治療効果の検出
図18に示すように、1×10
7個のHepG2、Huh7、及びHepa1−6肝癌細胞をヌードマウスの右側腹部に皮下移植し、3日ごとに皮下腫瘍体積を測定した。HepG2及びHuh7細胞はヒト肝癌細胞であり、Hepa1−6細胞はマウス肝癌細胞である。腫瘍体積が100mm
3を超えた後、マウスをランダムに2つの群に分け、処置群には、1×10
9個の腫瘍溶解性アデノウイルスを腫瘍内注射し、対照群には、PBSを注射した。処置後の腫瘍体積の変化を継続的に観察した。PBSを注射した対照群の腫瘍は成長を続け、腫瘍体積が増大していくのに対し、処置群の腫瘍は、腫瘍溶解性アデノウイルスの注射後に有意に抑制されており、腫瘍溶解性アデノウイルスが、腫瘍細胞の溶解によってin vivoでの腫瘍成長を抑制でき、形成された腫瘍に対する顕著な治療効果を発揮することを示す。マウス肝癌の処置において、本発明者らは、非腫瘍溶解性ウイルス(第二世代アデノウイルスベクター、GFP遺伝子含有ウイルス、Ad−GFP)を別のウイルス対照として使用した。実験結果から、PBS及びAd−GFP処置群の腫瘍は成長し続け、腫瘍溶解性ウイルス処置群は腫瘍
HepG2及びHuh7の成長がある程度抑制され、腫瘍
Hepa1−6の成長を僅かに抑制することが分かる。これは恐らく、HepG2及びHuh7細胞よりもHepa1−6細胞の成長速度が速いことと、Hepa1−6細胞でのAFPの発現レベルが比較的低いことに起因する。したがって、本発明者らは、後続の実験において、免疫エフェクター含有腫瘍溶解性アデノウイルスを使用してHepa1−6腫瘍モデルを処置し、非常に効果的な結果を達成した。
【0132】
担腫瘍マウスを腫瘍溶解性アデノウイルスで2週間又は1ヶ月間処置した後、マウスの様々な臓器の組織サンプルを採取し、ホモジナイズ後にウイルスDNAを抽出した。ウイルス力価はqPCR法で検出した。ウイルスは腫瘍細胞でのみ複製され、ウイルス感染後に他の組織に広がらないことが分かる。結果は、in vivoでの腫瘍溶解性アデノウイルスが高い特異性を有し、正常な組織細胞に対して安全であることを示す。
【0133】
免疫系を有するC57マウスモデルに対する本腫瘍溶解性アデノウイルスの治療効果を更に実証する。
図19に示すように、1×10
6個のマウス肝癌細胞Hepa1−6を野生型C57BL/6Jマウスの右側腹部に皮下注射した。腫瘍体積が100mm
3に達した後、各種サイトカインを発現する1×10
9個の腫瘍溶解性アデノウイルスを各群に腫瘍内注射し、PBS注射を陰性対照として使用した。処置後の腫瘍体積を観察し、腫瘍を有するマウスの生存期間をカプラン・マイヤー法で分析した。実験結果は、腫瘍溶解性アデノウイルスが依然として腫瘍成長を阻害し、無傷の免疫系を有する担腫瘍マウスの生存期間を顕著に延長できることを示す。一部の担癌マウスは処置後に治癒し、腫瘍は完全に消失した。腫瘍溶解性アデノウイルスによる最初の治療の
2ヶ月間後、生存マウスに、1×10
6個のマウス肝癌細胞Hepa1−6を再度接種した。同じマウスに、最初の移植部位から離れた部位に、最初に注射された腫瘍細胞と同じ腫瘍細胞を移植した場合、腫瘍塊を形成できないことが分かる。これらの結果は、腫瘍溶解性ウイルスで処置したマウスが体内の腫瘍細胞に対して特異的な免疫性を生成し、同じ腫瘍細胞が体内で再度成長するのを阻止できることを示す。
【0134】
腫瘍組織におけるリンパ球浸潤の検出のために、担癌マウスの腫瘍を採取、固定、切片化し、HE染色した。腫瘍溶解性アデノウイルスで処置されたマウスの腫瘍組織におけるリンパ球浸潤は、PBS対照群と比較して有意に増加することが分かり、腫瘍溶解性アデノウイルスの処置が腫瘍組織でより多くのリンパ球を動員できることを示す。これらの結果から、免疫刺激剤の発現が腫瘍溶解性ウイルス療法中の細胞傷害性T細胞応答を促進できることが示された。腫瘍内の浸潤リンパ球を単離精製し、マウス腫瘍内の浸潤T細胞の表現型をフローサイトメトリーで検出した。腫瘍溶解性ウイルスで処置したマウスの腫瘍の浸潤T細胞中でKi−67
+細胞の割合が高いことが分かり、これは、腫瘍溶解性アデノウイルスによる処置が腫瘍内のT細胞の増殖を促進し、より強い免疫応答を引き起こすことを示す。腫瘍浸潤リンパ球を、PMA(20ng/mL)及びイオノマイシン(1μg/mL)を含むRPMI 1640培地に添加し、ブレベドリンAの存在下で37℃にて4時間培養した後、細胞を固定及び染色し、フローサイトメトリーでCD4
+及びCD8
+T細胞のγ−インターフェロンの発現を検出した。本発明者らは、腫瘍溶解性アデノウイルス処置群の腫瘍におけるT細胞でのγ−インターフェロンの発現がより高いことを見出し、これが、腫瘍の免疫微小環境を変化させ、腫瘍細胞の死滅を促進した(
図20(a)及び
図20(b)に示す)。
【0135】
腫瘍溶解性アデノウイルスの処置による全身性抗腫瘍免疫応答
C57BL/6マウスの左右側腹部に、マウス肝癌細胞
Hepa1−6を皮下注射した。腫瘍塊の形成後、サイトカインhIL−2、mGM−CSF、及び抗PD−1 scFvをそれぞれ発現する腫瘍溶解性アデノウイルスを、右側腹部の腫瘍に注射した。対照としてPBS及びAdGFPを注射した。腫瘍成長を継続的に測定した。処置の14日間後の担癌マウスの左右側腹部の腫瘍における浸潤リンパ球を単離精製し、腫瘍内の浸潤T細胞の表現型をフローサイトメトリー法により検出した。本発明者らは、Ki−67
+T細胞又はインターフェロン−γを発現しているT細胞の割合が、腫瘍溶解性アデノウイルスを右側腹部に注射した腫瘍だけではなく、腫瘍溶解性アデノウイルスを注射しなかった左側腹部の腫瘍においても、対照群に比べて高いことを見出した。腫瘍溶解性アデノウイルスの処置によって引き起こされる免疫応答は、注射部位の腫瘍だけでなく、遠位側の腫瘍でも機能できるが示される。これは、腫瘍溶解性アデノウイルスが注射部位の腫瘍に治療効果があるだけでなく、遠位転移の腫瘍にも治療効果を示すことを示唆する。
【0136】
同時に、腫瘍溶解性アデノウイルスの処置が生存マウスで有効な全身性免疫応答を生成したかどうかを検出するために、本発明者らは、処置後のマウスに、Hepa1−6を再度、皮下注射した。
図21に示すように、全てのマウスの拒絶率が100%であることが分かる。
【0137】
2.8腫瘍溶解性アデノウイルスの処置プロセスのモデリング
図22に示すように、腫瘍溶解性アデノウイルスの処置プロセスを、非感染腫瘍細胞、感染腫瘍細胞、遊離ウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス抗原活性化免疫細胞、及び腫瘍抗原活性化免疫細胞(これらの5種の成分をS、I、V、Z
V、及びZ
Tでそれぞれ表す)を含む腫瘍ウイルス免疫系に抽象化する。モデルは、非感染腫瘍細胞の成長が一般化されたロジスティック成長モデルに適合することを想定しており、γは成長速度を示し、Kは収容力を示し、εは非線形性を示す。非感染腫瘍細胞に遊離ウイルスを感染させ、κの割合で感染腫瘍細胞に変換することができる。感染腫瘍細胞は速度δで溶解し、速度αで大量の遊離ウイルスを放出する。遊離ウイルスは、環境内で、速度ωで自然減衰する。Z
Vは、腫瘍溶解性アデノウイルス又はウイルス感染腫瘍細胞の表面抗原の活性化によってそれぞれc
V1及びc
V2の速度で増加する一方、速度p
Vで感染腫瘍細胞の生成を阻害する。Z
Tは、溶解した腫瘍細胞から放出される抗原の活性化により速度c
Tで増加し、速度p
Tで感染及び非感染腫瘍細胞の生成を阻害する。Z
V及びZ
Tは、環境内で、速度βで自然減衰する。
【0138】
免疫系を考慮しなければ、腫瘍ウイルス系の最終状態は、ウイルス複製速度の上昇と共に収束(convergence)から振動(oscillation)の状態に変換される。シミュレーションは、異なる初期ウイルス力価、初期腫瘍サイズ、及びウイルス複製速度において、腫瘍ウイルス系の最小腫瘍体積の初期状態から最終状態への経時変化を示す。シミュレーション結果から、初期のウイルス力価の上昇が腫瘍サイズの制御に寄与することが分かる。実際の用途では、
図23に示すように、予測される時点で腫瘍を除去する又は他の補助療法を提供するために、初期腫瘍サイズと投与量制限の組合せにおいて適切な初期投与量を選択できる。
【0139】
腫瘍及びウイルスに対する免疫細胞の阻害効果が異なる条件でのシミュレーション期間中の最終状態での腫瘍ウイルス免疫系の腫瘍サイズ
シミュレーション結果から、系は、完全な腫瘍の除去、飽和に向かう腫瘍成長、安定した腫瘍体積、及び不安定な腫瘍体積に対する傾向を含む幾つかの動的な挙動を示すことが分かる。一般に、腫瘍に対する免疫細胞の阻害効果が強いほど、系により多くの腫瘍が除去され、一方、ウイルスに対する免疫細胞の抑制効果が強いほど、系内のより多くの腫瘍が制御不能となる。しかし、
図24に示すように、系は、腫瘍の安定性と不安定性の傾向に非単調な変化を示す。
【0140】
本開示の明細書において、「実施形態」、「幾つかの実施形態」、「特定の実施形態」、「例」、「特定の例」、「幾つかの例」などの用語は、実施例又は実施形態によって記載される特定の特徴、構造、材料、又は特性を指すことを意図し、本開示の少なくとも1つの実施形態又は実施例に含まれる。本明細書においては、上記の用語の概略図は、必ずしも同じ実施形態又は例を指すものではない。更に、記載された特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ以上の実施形態又は実施例において任意の適切な方法で組み合わされることができる。更に、本明細書に記載した様々な実施形態又は実施例、及び様々な実施形態又は実施例の特徴は、矛盾することなく当業者によって組み合わされることができる。
【0141】
本開示の実施形態を詳細に説明したが、実施形態は例示であり、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解される。当業者は、本開示の範囲内で、これらの実施形態において変更、修正、置換、及び変形を行うことができる。