特許第6961807号(P6961807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961807メタハロイサイト粉末およびメタハロイサイト粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961807
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】メタハロイサイト粉末およびメタハロイサイト粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   C01B33/40
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-515509(P2020-515509)
(86)(22)【出願日】2019年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2019017357
(87)【国際公開番号】WO2019208612
(87)【国際公開日】20191031
【審査請求日】2020年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2018-84243(P2018-84243)
(32)【優先日】2018年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】近内 秀文
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−004452(JP,A)
【文献】 特表2009−513709(JP,A)
【文献】 特開2009−091236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/40
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状のメタハロイサイトであるメタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末であって、
前記顆粒が、前記メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、前記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有し、
窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布が、10nm以上の範囲内に、2つ以上の細孔径ピークを示す、メタハロイサイト粉末。
【請求項2】
平均粒径が、0.5〜200μmである、請求項1に記載のメタハロイサイト粉末。
【請求項3】
BET比表面積が、10m2/g以上である、請求項1または2に記載のメタハロイサイト粉末。
【請求項4】
平均細孔径が、11.0nm以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のメタハロイサイト粉末。
【請求項5】
全細孔面積が、12.0m2/g以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のメタハロイサイト粉末。
【請求項6】
全細孔容積が、0.10cm3/g以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のメタハロイサイト粉末。
【請求項7】
純水に24時間浸漬して含水させた前記顆粒の破壊強度が7.6MPa以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のメタハロイサイト粉末。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載のメタハロイサイト粉末を製造する方法であって、
ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトのスラリーを準備する工程と、
前記スラリーから粉末を調製する工程と、
前記調製された粉末を500℃以上の焼成温度で焼成する工程と、を備えるメタハロイサイト粉末の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーから粉末を調製する工程が、前記スラリーをスプレードライする工程である、請求項に記載のメタハロイサイト粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタハロイサイト粉末およびメタハロイサイト粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チューブ状のハロイサイトであるハロイサイトナノチューブは、その形状を生かして、種々の用途に利用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−91236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、種々の用途展開を期待して、新たな微細構造を有する材料の開発が求められている。本発明者は、ハロイサイトの変種であるメタハロイサイトの粉末(メタハロイサイト粉末)に着目した。
【0005】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、従来にはない新規なメタハロイサイト粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、例えば、ハロイサイトナノチューブを含有するスラリーをスプレードライ等し、その後、所定温度で焼成することにより得られる顆粒が、メタハロイサイトになっていることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[11]を提供する。
[1]チューブ状のメタハロイサイトであるメタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末であるメタハロイサイト粉末。
[2]上記顆粒が、上記メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、上記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有する、上記[1]に記載のメタハロイサイト粉末。
[3]窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布が、10〜100nmの範囲内に、2つ以上の細孔径ピークを示す、上記[2]に記載のメタハロイサイト粉末。
[4]平均粒径が、0.5〜200μmである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末。
[5]BET比表面積が、10m2/g以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末。
[6]平均細孔径が、11.0nm以上である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末。
[7]全細孔面積が、12.0m2/g以上である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末。
[8]全細孔容積が、0.10cm3/g以上である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末。
[9]純水に24時間浸漬して含水させた上記顆粒の破壊強度が7.6MPa以上である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末。
[10]上記[1]〜[9]のいずれかに記載のメタハロイサイト粉末を製造する方法であって、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトのスラリーを準備する工程と、上記スラリーから粉末を調製する工程と、上記調製された粉末を500℃以上の焼成温度で焼成する工程と、を備えるメタハロイサイト粉末の製造方法。
[11]上記スラリーから粉末を調製する工程が、上記スラリーをスプレードライする工程である、上記[10]に記載のメタハロイサイト粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来にはない新規なメタハロイサイト粉末およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】遠心分離後に回収された分散相のTEM写真である。
図2】遠心分離後に回収された分散相のTEM写真であり、図1とは異なる視野のTEM写真である。
図3】実施例7の粉末を示すSEM写真である。
図4】実施例7の粉末を示すSEM写真であり、図3の拡大写真である。
図5】実施例7の粉末を示すSEM写真であり、図4の拡大写真である。
図6】比較例4の粉末を示すSEM写真である。
図7】実施例8の粉末を示すSEM写真である。
図8】実施例9の粉末を示すSEM写真である。
図9】実施例10の粉末を示すSEM写真である。
図10】実施例11の粉末を示すSEM写真である。
図11】実施例7の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図12】比較例4の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図13】実施例8の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図14】実施例9の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図15】実施例10の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図16】実施例11の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図17】実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3の粉末のXRDパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のメタハロイサイト粉末および本発明のメタハロイサイト粉末の製造方法について、説明する。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[ハロイサイトの説明]
ハロイサイトとは、Al2Si25(OH)4・2HO、または、Al2Si25(OH)4で表される粘土鉱物である。
ハロイサイトは、チューブ状(中空管状)、球状、角ばった団塊状、板状、シート状など多様な形状を示す。
チューブ状(中空管状)のハロイサイトであるハロイサイトナノチューブの内径(チューブ孔の径)は、例えば、10〜20nm程度である。ハロイサイトナノチューブは、外表面は主にケイ酸塩SiOからなり、内表面は主にアルミナAlからなる。
【0012】
[メタハロイサイトの説明]
「メタハロイサイト」は、Al2Si25(OH)4で表されるハロイサイトのOHが脱水し、低結晶質の状態になったものであり、ハロイサイトの変種を表す用語として、従来、一般的または慣用的に用いられている。
【0013】
もっとも、本発明において、「メタハロイサイト」は、「ハロイサイトを特定焼成温度で焼成して得られるもの」とする。「特定焼成温度」は、例えば、500℃以上であり、500℃以上1000℃以下が好ましく、500℃以上900℃以下がより好ましく、500℃以上900℃未満が更に好ましく、500℃以上850℃以下が特に好ましく、500℃以上800℃以下が最も好ましい。
【0014】
後述する図17のXRDパターンに示すように、例えば、400℃または450℃で焼成した場合には、未焼成の場合と比較して、ハロイサイトの回折線に変化は無い。
しかし、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃または1000℃で焼成した場合には、2θ=12°付近や2θ=25°付近などに現れるハロイサイトを表すピークが消失して、ハロイサイトが低結晶質の状態になる。そして、2θ=20°付近にブロードなピークを認めることができる。このようなXRDパターンは、メタハロイサイトの存在を示していると言える。
なお、900℃または1000℃で焼成した場合には、メタハロイサイトに加え、γ−Alを表すピークが出現する。
【0015】
なお、メタハロイサイトの化学組成は、上述したハロイサイトとAl/Si比が共通している。このため、メタハロイサイトを、化学組成によって、ハロイサイトと区別しつつ、直接特定することは、実質的に不可能である。
そのほか、他の方法や装置を用いて、メタハロイサイトの特徴を特定する指標を見出すには、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要であり、およそ実際的ではない。
【0016】
なお、「メタハロイサイトナノチューブ」は、「チューブ状のメタハロイサイト」であり、「ハロイサイトナノチューブを特定焼成温度で焼成して得られるもの」と言える。
【0017】
[メタハロイサイト粉末の製造方法]
本発明のメタハロイサイト粉末を説明する前に、まず、本発明のメタハロイサイト粉末を製造する方法の一態様(以下、「本発明のメタハロイサイト粉末の製造方法」または単に「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
本発明の製造方法は、後述する本発明のメタハロイサイト粉末を製造する方法であって、少なくとも、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトのスラリーを準備する工程(スラリー準備工程)と、上記スラリーから粉末を調製する工程(粉末調製工程)と、上記調製された粉末を500℃以上の焼成温度で焼成する工程と、を備える方法である。
以下、本発明の製造方法の好適態様について、説明する。
【0018】
〈スラリー準備工程〉
スラリー準備工程は、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが水などの分散媒に分散したスラリーを準備できる工程であれば、特に限定されないが、以下に、スラリー準備工程の好適態様を説明する。以下に説明する態様においては、遠心分離後に回収される分散相が、スラリー準備工程で調製されるスラリーに相当する。
【0019】
《原料(飯豊粘土)》
JFEミネラル社の飯豊鉱業所の遅谷工場(山形県西置賜郡飯豊町大字遅谷)においては、珪砂および粘土の鉱床から珪砂が生産されているが、その精製過程で副生する粘土分(以下、便宜的に「飯豊粘土」と呼ぶ)を、原料として用いることができる。
飯豊粘土は、含水率が40質量%程度で可塑性を有する粘土であり、主成分として、ハロイサイトおよびSiO2で表される微砂(石英)を含有する。飯豊粘土は、更に、少量のカチオン系高分子凝集剤を含む場合もある。
飯豊粘土は、含水しているものをそのまま(40質量%程度の水を含んだまま)使用してもよいし、天日によって自然に乾燥(半乾きを含む)したものを使用してもよい。含水している、または、半乾きの飯豊粘土を、設備を使用して乾燥してもよい。
乾燥した飯豊粘土は、粉砕し、更に必要に応じて、乾式精製、分級、磁選、色彩選別などを施してから使用してもよい。
なお、ハロイサイト分の多い飯豊粘土を原料に用いるほかにも、その原鉱を使用できることは言うまでもない。
【0020】
《前スラリー化》
次に、飯豊粘土が水に分散したスラリー(前スラリー)を得る。飯豊粘土を水に分散させる方法は、特に限定されず、例えば、高速ミキサー、ディスパー、ビーズミルおよびホモミキサーなどの従来公知の装置を使用できる。
前スラリーの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、5〜20質量%である。
【0021】
《粗粒除去》
次に、前スラリーを、例えば篩に掛けることにより、粗粒を除去する。使用する篩の目開きとしては、例えば、25〜100μmが挙げられる。篩としては、例えば、JIS試験用ふるいが使用できるが、量産時には、一般的な大型の湿式篩い分け装置を使用できる。篩を用いるほかには、沈降分離させたり、湿式サイクロン用いたりして、粗粒を除去してもよい。
【0022】
《ろ過》
次に、粗粒が除去された前スラリーを、フィルタを用いて吸引ろ過し、脱水ケーキとして回収する。量産時には、例えば、フィルタプレスまたはオリバーフィルタなどの脱水機を使用できる。
このろ過を省略し、粗粒が除去されたスラリーをそのまま後述する後スラリーとして使用することもできる。このとき、必要があれば分散剤を添加してもよい。
【0023】
《後スラリー化》
脱水ケーキに水を加えて高速撹拌することにより、粗粒が除去された飯豊粘土が水に分散したスラリー(後スラリー)を得る。分散機としては、前スラリー化と同様に、例えば、高速ミキサー、ディスパー、ビーズミルおよびホモミキサーなどの従来公知の装置を使用できる。
後スラリーの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、5〜30質量%である。
【0024】
スラリー中の粒子(飯豊粘土)の分散状態が後の遠心分離の精度に大きく関わることから、後スラリー化においては、分散剤として界面活性剤を添加することが好ましい。
界面活性剤としては、飯豊粘土がカチオン系高分子凝集剤を含む場合は、アニオン性界面活性剤を用いることが好ましく、なかでも、少ない使用量で安定なスラリーが得られるという理由から、高分子型のアニオン性界面活性剤(アニオン性高分子界面活性剤)を用いることがより好ましい。
【0025】
飯豊粘土がカチオン系高分子凝集剤を含まない場合であっても、得られる後スラリーが高い分散状態を維持し、かつ、後述する遠心分離において安定して微砂を除去する観点から、アニオン性高分子界面活性剤を添加することが好ましい。
アニオン性高分子界面活性剤を添加することにより、より高濃度の後スラリーが得られるため、後述するスプレードライヤなどを用いた乾燥における生産性を向上させる効果もある。
【0026】
アニオン性高分子界面活性剤の具体例としては、放置しても沈降しない安定な後スラリーを得る観点から、特殊ポリカルボン酸型のポイズ520、521、530または532A(いずれも花王社製)などが挙げられる。
目的用途によってはナトリウムおよびカリウムなどの金属イオンを含んでいない、カオーセラ2000、2020または2110(同)なども使用できる。
【0027】
後スラリーにおける界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、後スラリーの全固形分に対して、0.5〜3.0質量%が好適に挙げられる。
界面活性剤の含有量が少なすぎると、後スラリー中でのハロイサイトと微砂の粒子の分散が不十分になる場合がある。一方、界面活性剤が多すぎると、凝集状態を起こしたり、コストが増加したりする場合がある。更に、後工程における不具合(遠心分離での分散相の回収率の低下、スプレードライでの乾燥不十分、または、焼成における固結もしくは焼失不十分など)が発生しやすくなる場合がある。
【0028】
《遠心分離》
得られた後スラリーについて、遠心分離を行ない、下層の沈降相と、上相の分散相とに分離する。沈降相には微砂が多く含まれ、分散相にはハロイサイトが多く含まれる。分散相(スラリー)の固形分濃度は、例えば、2〜10質量%である。
遠心分離に際しての遠心力および処理時間は、一例として、それぞれ、2000〜3000Gおよび3〜30分間であるが、これに限定されず、分散状態、用途、コストなどを考慮して、適宜設定される。
量産には大型の遠心分離機を使用できる。
遠心分離後、ポンプ等を用いて吸引することにより、分散相を回収できる。分散相の回収にはスキミングノズルを用いてもよい。こうして、ハロイサイトおよび微砂を含む飯豊粘土から、ハロイサイトを精製分離することができる。回収した分散相が、ハロイサイトナノチューブを含むことは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)写真により確認できる(図1および図2を参照)。
【0029】
《その他の態様》
スラリー準備工程は、上記態様に限定されない。例えば、飯豊粘土以外の原料を使用した場合には、後スラリーの固形分濃度、後スラリーにおける界面活性剤の含有量、および、遠心分離の条件などは、適宜変更される。
工程の短縮(例えば、前スラリー化、篩、および/または、ろ過の省略)または追加なども適宜変更される。
例えば、市販品として、SIGMA−ALDRICH社製などのハロイサイト(ハロイサイトナノチューブ)を、従来公知の装置を使用して、水に分散させたものを、本工程で準備されるスラリーとしてもよい。市販品のハロイサイトナノチューブは、必要に応じて、乾式精製、分級、磁選、色彩選別などを施してから使用してもよい。
【0030】
スラリー準備工程において調製されたスラリーは、必要に応じて、湿式精製、分級、磁選などを施してから使用してもよい。
【0031】
〈粉末調製工程〉
粉末調製工程は、スラリー準備工程において調製されたスラリーから粉末を調製する工程である。
粉末調製工程において得られた粉末は、更に、転動、撹拌、押出し等の処理を施すことによって、造粒してもよい。これにより、粉末を構成する顆粒のサイズを大きくできる。
【0032】
《スプレードライ》
粉末調製工程としては、例えば、スラリー準備工程において調製されたスラリー(例えば、上述した遠心分離により得られた分散相)をスプレードライすることにより粉末を得る工程が挙げられる。
【0033】
準備されたスラリーをスプレードライするためには、液体原料を微小液滴状に噴霧(微粒化)し、これを熱風に当てて乾燥することにより、瞬時に粉末を得る装置であるスプレードライヤが使用される。スプレードライヤは、従来公知の装置であり、例えば、大川原化工機社製、藤崎電機社製、日本化学機械製造社製、または、ヤマト科学社製のスプレードライヤが挙げられる。
スプレードライヤにおいては、液体原料を噴霧(微粒化)して得られる液滴のサイズを変更することにより、乾燥して得られる粉末粒子(顆粒)の粒径も制御される。
スプレードライヤを用いて液体原料を微粒化する方式としては、特に限定されず、所望する液滴のサイズに応じて、例えば、二流体ノズル方式、圧力ノズル(加圧ノズル)方式、四流体ノズル方式(ツインジェットノズル方式)、または、回転ディスク方式などの従来公知の方式を、適宜選択できる。乾燥して得られる粉末粒子(顆粒)の粒径は、スラリーの濃度および/または処理量などによっても変化するので、目的の粒径を得るためには、微粒化方式に加え、スラリーの状態を適宜選択することになる。
熱風と噴霧液滴との接触方式についても、例えば、熱風と噴霧液滴とがともに下方向に向かう一般的な並流型;噴霧液滴が下方向に対して熱風が上方向の向流となる向流型;上方に噴霧液滴が向かい、下方に熱風が向かう並向流型;などが適宜選択される。
【0034】
スプレードライは、瞬間的に熱をかけるため、粉末そのものに高い温度がかかることがない。スプレードライは、スラリーを乾燥させて直接的に粉末を得るため、ろ過、乾燥および粉砕などの処理が不要であり、これらの一連の作業時に発生し得るコンタミを抑制できる。
【0035】
《媒体流動乾燥》
上記スラリーから粉末を調製する手段としては、上述したスプレードライに限定されず、例えば、媒体流動乾燥(ボール入り流動層乾燥)であってもよい。
すなわち、粉末調製工程は、スラリー準備工程において調製されたスラリーを媒体流動乾燥することにより粉末を得る工程であってもよい。
媒体流動乾燥は、概略的には、例えば、まず、被乾燥物であるスラリーを、流動中の1〜3mmφのセラミックボール層に連続的に供給することにより、ボール表面に付着させる。被乾燥物は、加熱されたボールからの熱伝導と流動化熱風からの対流伝熱とによって瞬時に乾燥され、ボールどうしの衝突によりボール表面から剥離する。こうして粉末が得られる。
【0036】
〈焼成工程〉
本発明の製造方法は、粉末調製工程において得られた粉末を500℃以上の焼成温度で焼成する工程(焼成工程)を備える。このような焼成温度で焼成することにより、顆粒を構成するハロイサイトがメタハロイサイトとなる。また、このような焼成温度で焼成することにより、焼成前の顆粒構造が維持される。
【0037】
更に、このような焼成工程を経ることにより、顆粒の破壊強度が所定値以上となり、耐水性に優れる。これは、焼成工程を経ることにより、顆粒を構成するメタハロイサイトの一次粒子どうしが強固に結合するためと推測される。もっとも、このメカニズムは推定であり、このメカニズム以外であっても、本発明の範囲内であるものとする。
【0038】
なお、上述した後スラリー化において界面活性剤を使用する場合には、スプレードライ等によって得られる粉末にも界面活性剤が残存している場合があるが、大気雰囲気で焼成を施すことにより、界面活性剤が除去される。
【0039】
焼成温度は、500℃以上1000℃以下が好ましく、500℃以上900℃以下がより好ましく、500℃以上900℃未満が更に好ましく、500℃以上850℃以下が特に好ましく、500℃以上800℃以下が最も好ましい。
焼成時間は、特に限定されず、例えば、0.5〜2時間であり、0.75〜1.5時間が好ましい。
焼成雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気雰囲気、窒素雰囲気などが挙げられ、大気雰囲気が好ましい。
【0040】
以上、本発明の製造方法の好適態様を説明した。
ただし、本発明の製造方法は、後述する本発明のメタハロイサイト粉末が得られる方法であれば、上述した好適態様に限定されず、例えば、メタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトのスラリーを準備するスラリー準備工程と、上記スラリーから粉末(本発明のメタハロイサイト粉末)を調製する粉末調製工程と、を備える方法であってもよい。この場合、各工程の詳細は、上述した好適態様における各工程の説明に準ずる。
【0041】
[メタハロイサイト粉末]
次に、上述した本発明の製造方法によって得られる本発明のメタハロイサイト粉末について説明する。
本発明のメタハロイサイト粉末(以下、単に「本発明の粉末」ともいう)は、チューブ状のメタハロイサイトであるメタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒を含む粉末である。
本明細書においては、複数個の「顆粒」の集合体を「粉末」と呼ぶ。
本発明の粉末は、このような顆粒を含まない粉末(例えば、単なるメタハロイサイトの粉末)と比べて、流動性が良いので、輸送、供給、包装などの自動化、定量化が容易になる;かさ密度が高いため、輸送、貯蔵、包装などの点でコンパクト化できる;微粉が飛散して周辺の環境を汚染する発塵が抑制され、とりわけ、ナノサイズ粒子の人体への安全性への懸念を軽減できる;粒子の形状や大きさなどの違いによる容器内での偏り、すなわち偏析が起こりにくく、また、容器、機壁、包装材などへの付着が減る;触媒や吸着剤などとして、気体や液体と接触させて利用する場合、流体抵抗を減少でき、また、分離・回収や、乾燥・再生がしやすい;等の効果を有する。
本発明の粉末における顆粒は、顆粒を構成する一次粒子でもあるメタハロイサイトナノチューブの機能を阻害せずに、上記効果を有する。
【0042】
また、本発明の粉末において、上記顆粒は、上記メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、上記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有することが好ましい。
【0043】
〈XRD〉
図17は、後述する実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3の粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図17に示すように、比較例1(未焼成)、比較例2(焼成温度:400℃)および比較例3(焼成温度:450℃)のXRDパターンにおいては、ハロイサイトを表すピークが確認される。
これに対して、図17に示すように、実施例1(焼成温度:500℃)〜実施例6(焼成温度:1000℃)のXRDパターンにおいては、ハロイサイトを表すピークが消失している一方で、2θ=20°付近にブロードなピークを認めることができる。このようなXRDパターンは、メタハロイサイトの存在を示していると言える。
なお、図17に示すように、実施例5(焼成温度:900℃)および実施例6(焼成温度:1000℃)のXRDパターンにおいては、更に、γ−Alを表すピークが確認される。
【0044】
XRD測定における具体的な条件は、以下のとおりである。
・使用装置:X線回折分析装置D8ADVANCE(BRUKER社製)
・X線管球:CuKα
・光学系:集中法
・管電圧:35kV
・管電流:40mA
・検出器:一次元半導体検出器
・スキャン範囲:2〜70deg
・スキャンステップ:0.021deg
・スキャンスピード:4deg/min
【0045】
〈SEM〉
本発明の粉末が含む顆粒(以下、便宜的に「本発明の顆粒」ともいう)が、メタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒であること、および、メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)を有することは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により確認できる。
【0046】
図3図5は、後述する実施例7の粉末(スプレードライ後に500℃で焼成したメタハロイサイト粉末)を示すSEM写真である。図3の拡大写真が図4であり、図4の拡大写真が図5である。
【0047】
図3および図4においては、球体状の顆粒が確認される。図4および図5からは、その顆粒が、メタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなることが確認できる。
更に、図4および図5(特に、図5)においては、顆粒表面に、メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔(に由来する第1の細孔)の存在も確認できる。
このような第1の細孔を有する顆粒構造が得られる理由は、ハロイサイトナノチューブを含むスラリーがスプレードライ等されることにより、ハロイサイトナノチューブが、そのチューブ形状を維持したまま凝集するためと考えられる。その後、焼成されることにより、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトがメタハロイサイトになる。
【0048】
また、図4および図5においては、顆粒表面に、メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔(通常、内径は、10〜20nm程度)よりも大径の孔(第2の細孔)の存在を確認することができる。
なお、本発明の顆粒が、第1の細孔とは異なる第2の細孔を有することは、例えば、顆粒断面のSEM写真(図示せず)によっても確認できる。顆粒の断面は、例えば、顆粒を集束イオンビーム(FIB)で加工することにより露出させる。
このような第2の細孔が得られる理由は、スプレードライ等によってスラリーが顆粒となる際に、スラリーの分散媒が顆粒(の内部)から蒸発して抜けるためと考えられる。
【0049】
図6は、後述する比較例4の粉末(スプレードライ後に焼成をしなかったハロイサイト粉末)を示すSEM写真であり、倍率は図5と同等である。
図6においては、図5と同様に、顆粒表面に、チューブ孔に由来する第1の細孔、および、このチューブ孔よりも大きい第2の細孔を確認できる。
したがって、図5図6との対比から、500℃の焼成後(図5)においても、焼成前(図6)の顆粒構造は失われず、維持されることが分かる。
【0050】
図7は後述する実施例8(焼成温度:600℃)、図8は後述する実施例9(焼成温度:700℃)、図9は後述する実施例10(焼成温度:800℃)、図10は後述する実施例11(焼成温度:900℃)の粉末を示すSEM写真であり、いずれも倍率は図5と同等である。
図7図10においては、図5と同様に、顆粒表面に、チューブ孔に由来する第1の細孔、および、このチューブ孔よりも大きい第2の細孔を確認できる。
したがって、600〜900℃の焼成後(図7図10)においても、焼成前(図6)の顆粒構造は維持されることが分かる。
【0051】
〈細孔分布測定〉
本発明の粉末が含む顆粒が上記特有の構造を有することは、本発明の粉末を細孔分布測定した結果からも、確認することができる。
本発明の粉末は、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布(Log微分細孔容積分布)が、2つ以上の細孔径ピークを示すことがより好ましい。
このとき、2つ以上の細孔径ピークが現れる範囲は、10〜100nmが好ましく、10〜70nmがより好ましく、10〜50nmが更に好ましく、10〜40nmが特に好ましい。
以下、より詳細に説明する。
【0052】
図11は、後述する実施例7の粉末(スプレードライ後に500℃で焼成したメタハロイサイト粉末)について、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布(Log微分細孔容積分布)を示すグラフであり、横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm3/g]を表す(以下、同様)。
【0053】
図11のグラフ(実施例7)においては、10〜100nmの範囲内に、3つの細孔径ピークが明確に現れている。10nm以上20nm以下の細孔径ピークは、メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔(内径:10〜20nm程度)に由来する第1の細孔を表しており、20nm超の2つの細孔径ピークは、どちらも、チューブ孔とは異なる第2の細孔を表していると解される。
実施例7の粉末(メタハロイサイト粉末)においては、顆粒に第2の細孔が形成されているが、その細孔径が大きく2種類に分かれているものと解される。調製に用いるスラリーの粘度や粒子の分散性などが、第2の細孔に影響を与えると推測される。
第1の細孔に対応する細孔径ピークが現れる範囲は、10nm以上20nm以下が好ましい。一方、第2の細孔に対応する細孔径ピークが現れる範囲は、20nm超100nm以下が好ましく、20nm超70nm以下がより好ましく、20nm超50nm以下が更に好ましく、20nm超40nm以下が特に好ましい。
【0054】
図12は、後述する比較例4の粉末(スプレードライ後に焼成をしなかったハロイサイト粉末)の微分細孔分布を示すグラフである。図12には、図11と同様の細孔径ピークが示されている。したがって、500℃の焼成後(図11)においても、焼成前(図12)の顆粒構造は失われず、維持されることが分かる。
【0055】
図13は後述する実施例8(焼成温度:600℃)、図14は後述する実施例9(焼成温度:700℃)、図15は後述する実施例10(焼成温度:800℃)、図16は後述する実施例11(焼成温度:900℃)の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。
図13図16では、図11と同様に、10〜100nmの範囲内に、少なくとも2つの細孔径ピークが明確に現れており、10nm以上20nm以下の細孔径ピークが第1の細孔を、また、20nm超の細孔径ピークが第2の細孔を表していると解され、顆粒構造の維持が示唆される。
【0056】
本発明の粉末は、第2の細孔を有する場合、後述する全細孔面積および全細孔容積が大きい。
【0057】
具体的には、本発明の粉末の全細孔面積は、例えば、12.0m2/g以上であり、50.0m2/g以上が好ましく、59.0m2/g以上がより好ましく、65.0m2/g以上が更に好ましく、75.0m2/g以上が特に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、200.0m2/g以下であり、150.0m2/g以下が好ましい。
【0058】
本発明の粉末の全細孔容積は、例えば、0.10cm3/g以上であり、0.20cm3/g以上が好ましく、0.23cm3/g以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、0.80cm3/g以下であり、0.60cm3/g以下が好ましい。
【0059】
そのほか、本発明の粉末の平均細孔径は、例えば、5.0nm以上であり、11.0nm以上が好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、30.0nm以下であり、25.0nm以下が好ましい。
【0060】
本発明の粉末のBET比表面積(BET法により求める比表面積)は、例えば、10m2/g以上であり、30m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、200m2/g以下であり、150m2/g以下が好ましい。
【0061】
次に、細孔分布などの測定方法を説明する。
まず、粉末に前処理(120℃で、8時間の真空脱気)を施した後に、定容法を用いて、下記条件で、窒素による吸脱着等温線を測定する。平衡待ち時間は、吸着平衡状態に達してからの待ち時間である。
BET比表面積[m2/g]は、窒素吸着等温線からBET法を適用することにより求める。
平均細孔径[nm]は、BET比表面積および全細孔容積[cm3/g]の値から算出する。平均細孔径の算出に用いる全細孔容積(便宜的に「算出用全細孔容積」ともいう)は、吸着等温線の相対圧0.99までに存在する細孔で毛管凝縮が成立していると仮定し、吸着等温線の相対圧0.99の吸着量から求める。
更に、窒素吸着等温線からFHH基準曲線を用いてBJH法を適用することにより、Log微分細孔容積分布、全細孔容積[cm3/g]および全細孔面積[m2/g]を求める。約2.6nmから約200nmの細孔のプロット間隔は、解析ソフトウェアの標準条件を使用する。BJH法により求める全細孔容積および全細孔面積を、それぞれ、「BJH全細孔容積」および「BJH全細孔面積」ともいう。
本発明において、単に「全細孔容積」および「全細孔面積」という場合は、特に断りのない限り、それぞれ、「BJH全細孔容積」および「BJH全細孔面積」を意味するものとする。
・吸着温度:77K
・窒素の断面積:0.162nm2
・飽和蒸気圧:実測
・平衡待ち時間:500sec
・前処理装置:BELPREP−vacII(マイクロトラック・ベル社製)
・測定装置:BELSORP−mini(マイクロトラック・ベル社製)
・解析ソフトフェア:BELMaster Version 6.4.0.0(マイクロトラック・ベル社製)
【0062】
〈平均粒径〉
本発明の粉末の平均粒径は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択されるが、例えば、0.5〜200μmである。本発明の粉末がスプレードライによって調製される場合、平均粒径は1〜100μmが好ましい。
このような粒径の顆粒は、上述したように造粒してサイズを大きくしてもよい。ただし、その場合、平均粒径は5mm以下が好ましい。
なお、有害性への懸念から呼吸器に侵入するサイズを考慮すると、顆粒の最小サイズは1μm以上であることが好ましい。
【0063】
平均粒径は、マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)を用いて乾式で測定する。
【0064】
〈破壊強度〉
本発明の粉末は、純水に24時間浸漬して含水させた顆粒の破壊強度が7.6MPa以上であることが好ましい。これにより、本発明の粉末は、耐水性に優れる。
耐水性がより優れるという理由から、破壊強度は、8.0MPa以上がより好ましく、8.3MPa以上がさらに好ましい。
一方、破壊強度の上限は特に限定されない。
【0065】
顆粒の破壊強度は、微小圧縮試験機を用いた圧縮試験により測定され、5回の試験結果の平均値である。
より詳細には、まず、粉末(顆粒)を、純水(脱イオン水)に24時間浸漬することにより含水させたものを、試料とする。この試料を、微小圧縮試験機MCT−510(島津製作所社製)における試料台(下部加圧板)の上に極微量散布し、試料1粒ずつ圧縮試験を行ない、破壊強度を求める。5回の試験結果(破壊強度)の平均値を、その粉末の破壊強度とする。
なお、圧縮試験に際しては、試料台上で、各試料のX方向およびY方向の径を測り、その平均値を、各試料の粒径とする。
【0066】
〈メタハロイサイト粉末の用途〉
本発明のメタハロイサイト粉末は、多種多様な用途に展開できる。
用途の例として、化粧品、色材、精密ポリシングナノ粒子、ナノ磁性材、触媒、触媒担体、調湿材、消臭材、脱臭材、吸着剤、徐放剤、抗菌剤、医薬品、および、人工酵素などが挙げられる。これらの用途には限定されない。
例えば、本発明のメタハロイサイト粉末は、チューブ孔に由来する第1の細孔を有することにより、チューブ孔に由来する第1の細孔を有さない粉末と比較して、調湿特性などの特性に優れる。
本発明のメタハロイサイト粉末は、軽量、断熱、吸音、環境浄化などの特性を付与する充填剤、コーティング材等としても好適である。
また、本発明のメタハロイサイト粉末は、これらの用途に単独で用いられる以外にも、機能性を向上させる目的で、100nm以下のサイズのイオン、分子、高分子、ナノ粒子などの1種以上を包含させたハイブリット体としても適用できる。例えば、薬剤などの有効成分を包含させたハイブリッド体として利用した場合には、その有効成分が均一に作用し、効能を長く維持できる効果が期待できる。
【0067】
なお、本発明のメタハロイサイト粉末は、第2の細孔を有する場合であって、かつ、その第2の細孔の細孔径が細菌やウイルスのサイズに近い場合には、細菌やウイルス(以下、「ウイルス等」と呼ぶ)をトラップする用途にも適用できる。
具体的には、例えば、本発明のメタハロイサイト粉末は、耐水性に優れる場合には、水中でウイルス等をトラップする水質浄化フィルタとして好適である。
ウイルス等をトラップした後の本発明のメタハロイサイト粉末は、熱処理を施すことによってトラップされたウイルス等を除去し、その後、再利用することもできる。
このような用途以外に、最終製品へ加工される過程で水と接触することがあっても、本発明のメタハロイサイト粉末は、耐水性に優れる場合には、顆粒構造を維持し、その機能を発現する。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0069】
〈粉末の調製〉
以下のようにして、実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末を調製した。
後述するように、実施例1〜実施例16の粉末はメタハロイサイト粉末であるが、比較例1〜比較例7の粉末はメタハロイサイト粉末ではない。
【0070】
《原料(飯豊粘土)》
上述した飯豊粘土を、原料として用いた。飯豊粘土のXRD測定を行なったところ、ハロイサイトおよび微砂(石英)を表すピーク(図示せず)が確認された。
【0071】
《前スラリー化》
高速ミキサー(日本精機製作所社製、ウルトラホモミキサーUHM−20(20リットル))に、飯豊粘土および水を投入し、10分間、8,000rpmの処理を行なうことにより、飯豊粘土が水に分散した前スラリー(固形分濃度:10質量%)を得た。
【0072】
《粗粒除去》
前スラリーを、目開き45μmのJIS試験用ふるいを全通させることにより、網上+45μmの粗粒(約30%)を除去した。このとき、目詰まりを防ぎ、網下−45μmの回収を高めるために、適宜、篩上には水を加え、はけで篩上を落とす操作を行なった。目開き25μmまたは100μmの篩を使用しても、最終的な品質は同様であった。
【0073】
《ろ過》
網下−45μmの前スラリーを、フィルタを用いて、吸引ろ過し、脱水ケーキとして回収した。
【0074】
《後スラリー化》
高速ミキサー(日本精機製作所社製、ウルトラホモミキサーUHM−20)に、脱水ケーキおよび水を加え、アニオン性高分子界面活性剤(花王社製、ポイズ520)を添加し、10分間、10,000rpmの処理を行なうことにより、飯豊粘土が水に分散した後スラリー(固形分濃度:20質量%)を得た。後スラリーの全固形分に対するアニオン性高分子界面活性剤の含有量は、1.5質量%とした。
【0075】
《遠心分離》
後スラリーを攪拌し、攪拌状態の後スラリーからチューブ1本当たり80mLを採取し、遠心機(コクサン社製、小型卓上遠心機H−19α、ロータ:RF−109L、バケット:MF−109L、チューブ:100mL×4本、PP製、外径45mm、内径40mm、高さ:100mm)にセットした。
2470Gの遠心力で、10分間の遠心操作を行ない、沈降相と分散相とに分離した。
沈降相から高さ+5mm以上の部分を、ポンプで吸引することにより、分散相を回収した。回収した分散相(スラリー)の固形分濃度は、下記表1に示した。
図1および図2は、実施例1において遠心分離後に回収された分散相のTEM写真である。図1図2とは互いに視野が異なる。図1および図2に示すように、回収した分散相においては、ハロイサイトナノチューブの存在を確認できた。より詳細には、図1には長尺のハロイサイトナノチューブが、図2にはハロイサイトナノチューブの側面(断面)が視認される。TEM写真には示さないが、チューブ状以外の形状(例えば、シート状など)のハロイサイトも確認された。
【0076】
《スプレードライ》
回収した分散相(スラリー)を、スプレードライヤを用いてスプレードライすることにより、粉末(ハロイサイト粉末)を得た。
スプレードライヤとしては、大川原化工機社製のスプレードライヤL−8iを用い、スラリーをポンプで定量供給して、スラリーの微粒化(噴霧)を行なった。熱風と噴霧液滴との接触方式については、熱風と噴霧液滴とがともに下方向に向かう並流型で行なった。
このとき、各例ごとに、下記表1に示すように、スプレードライ条件(スラリーの固形分濃度、微粒化方式、水分蒸発量[kg/h]、入口温度[℃]および出口温度[℃])を変更することにより、得られる粉末の平均粒径を調整した。
微粒化方式として、回転ディスク方式を採用した場合には、下記表1に示すように、回転ディスクの回転数[rpm]も各例ごとに変更した。微粒化方式として、四流体ノズル方式(ツインジェットノズル方式)を採用した場合には、下記表1に、噴霧エア圧力[MPa]を記載した。
【0077】
【表1】
【0078】
《焼成》
一部の例を除いて、スプレードライ後の粉末に焼成を施した。
具体的には、スプレードライ後の粉末を、シリコニット発熱体の電気炉を用いて、室温から5℃/分の昇温速度で昇温し、上記表1に示す焼成温度で1時間保持し、その後、炉冷した。昇温および焼成温度での保持中、界面活性剤の焼失を促進するため、炉内には一定量の空気を供給しつつ、排気を行なった。
焼成後の粉末については、TG−DTA(熱重量測定−示差熱分析)により、界面活性剤が除去されていることが確認された。
焼成しなかった場合には、上記表1の焼成温度の欄には「−」を記載した。
【0079】
〈粉末の評価〉
実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末を、次のように評価した。
【0080】
《XRD》
実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末について、XRD測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図17は、実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3の粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図17に示すように、比較例1(未焼成)、比較例2(焼成温度:400℃)および比較例3(焼成温度:450℃)のXRDパターンにおいては、ハロイサイト(Al2Si25(OH)4)を表すピークが確認された。この場合、下記表2の「XRD」の欄には「ハロイサイト」と記載した。
これに対して、図17に示すように、実施例1(焼成温度:500℃)〜実施例6(焼成温度:1000℃)のXRDパターンにおいては、ハロイサイトを表すピークが消失していた。一方で、2θ=20°付近にブロードなピークを認めることができた。このようなXRDパターンは、メタハロイサイトの存在を示している。この場合、下記表2の「XRD」の欄には「メタハロイサイト」と記載した。
なお、2θ=26°付近のピークは、石英を表すピークであり、原料に含まれていた石英が微量存在していることを示している。
図17に示すように、実施例5(焼成温度:900℃)および実施例6(焼成温度:1000℃)のXRDパターンにおいては、γ−Alを表すピークが確認された。この場合、下記表2の「XRD」の欄には、更に「γ−Al」を記載した。
【0081】
残りの実施例7〜実施例16および比較例4〜比較例7の粉末についても、同様に、XRD測定した結果を、下記表2の「XRD」の欄に示す。
【0082】
《SEM》
実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末のSEM写真を撮影した。
図3図5は、実施例7の粉末を示すSEM写真であり、図4図3の拡大写真であり、図5図4の拡大写真である。
図6は、比較例4の粉末を示すSEM写真である。図7は、実施例8の粉末を示すSEM写真である。図8は、実施例9の粉末を示すSEM写真である。図9は、実施例10の粉末を示すSEM写真である。図10は、実施例11の粉末を示すSEM写真である。図6図10は、図5と同等の倍率のSEM写真である。
図3図5および図7図10のSEM写真から、実施例7〜実施例11の粉末(メタハロイサイト粉末)については、メタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒を含むこと、その顆粒にメタハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)が存在すること、および、その顆粒にメタハロイサイトナノチューブのチューブ孔よりも大径の孔(第2の細孔)が存在することが確認できた。
これは、実施例1〜実施例6および実施例12〜実施例16のメタハロイサイト粉末のSEM写真(図示せず)においても同様であった。
また、比較例4のSEM写真(図6)においても同様であった。
図5および図7図10(実施例7〜実施例11)と図6(比較例4)との対比から、500〜900℃の焼成後(図5および図7図10)においても、焼成前(図6)の顆粒構造は失われず、維持されることが確認できた。
【0083】
《細孔分布測定》
実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末について、窒素吸脱着等温線を測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図11図16は、それぞれ、窒素吸着等温線からBJH法により求めた、実施例7、比較例4、実施例8、実施例9、実施例10、および、実施例11の粉末の微分細孔分布を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm3/g]を表す。
図11および図13図16のグラフ(実施例7〜実施例11)においては、10〜100nmの範囲内に2つ以上の細孔径ピークが確認された。
これは、実施例1〜実施例6および実施例12〜実施例16の粉末の微分細孔分布を示すグラフ(図示せず)においても同様であった。また、比較例4のグラフ(図12)においても同様であった。
図11および図13図16図12との対比から、500〜900℃の焼成後(図11および図13図16)においても、焼成前(図12)の顆粒構造は失われず、維持されることが確認できた。
【0084】
細孔分布測定に伴い、実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末について、BJH全細孔面積、BJH全細孔容積、BET比表面積、算出用全細孔容積および平均細孔径を求めた。結果を下記表2に示す。
【0085】
《平均粒径》
実施例および比較例の粉末について、平均粒径を測定した。結果を下記表2に示す。平均粒径を測定しなかった実施例7〜実施例11については、下記表2の「平均粒径」の欄に「−」を記載した。
【0086】
《圧縮試験(含水後)》
実施例および比較例の粉末を純水に24時間浸漬して含水させたものを試料とした。この試料について、粒径を測定しつつ、圧縮試験を行ない、破壊強度を求めた。圧縮試験の詳細は、上述したとおりである。5回の試験結果の平均値を下記表2に示す。圧縮試験をしなかった実施例3、実施例5、実施例6、実施例9、実施例11および実施例13〜実施例16については、下記表2の「圧縮試験」の欄に「−」を記載した。
【0087】
《耐水性》
実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例7の粉末について、耐水性を評価した。
具体的には、2gの粉末(試料)と8gの純水とを、蓋付きのガラス製容器に入れ、5回の振とうを行ない、その後、超音波洗浄器を用いて容器の内容物を30分間分散させ、更に、超音波による分散を110分間行なった。
静置後、容器内を観察し、試料と純水とが分離していた場合は「A」を、試料と純水とが分離しておらず一様にゲル化していた場合は「B」を下記表2に記載した。「A」であれば粉末は耐水性に優れるものと評価できる。
【0088】
【表2】
【0089】
上記表2に示すように、実施例1〜実施例16の粉末は、いずれも、メタハロイサイト粉末であった。実施例1〜実施例16の粉末には、メタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒が含まれていた。
また、上述したように、SEMや細孔分布測定の結果から、実施例1〜実施例16の粉末に含まれる顆粒には、チューブ孔に由来する第1の細孔と、この第1の細孔とは異なる第2の細孔とが存在することが確認された。
【0090】
なお、BJH全細孔面積などに関して、比較例1(焼成なし)と実施例1〜実施例4(500〜800℃で焼成)とを対比すると、その差は大きくなく、焼成後においても、焼成前の顆粒構造は維持されることが分かった。
実施例5(900℃で焼成)では、実施例1〜実施例4(500〜800℃で焼成)よりも、BJH全細孔面積などがやや低下していた。
実施例6(1000℃で焼成)では、実施例1〜実施例4(500〜800℃で焼成)よりも、BJH全細孔面積などが更に低下していた。
【0091】
同様に、BJH全細孔面積などに関して、例えば比較例4(焼成なし)と実施例7〜実施例10(500〜800℃で焼成)とを対比すると、その差は大きくなく、焼成後においても、焼成前の顆粒構造は維持されることが分かった。
実施例11(900℃で焼成)では、実施例7〜実施例10(500〜800℃で焼成)よりも、BJH全細孔面積などがやや低下していた。
【0092】
同様に、BJH全細孔面積などに関して、比較例6(焼成なし)と実施例12〜実施例15(500〜800℃で焼成)とを対比すると、その差は大きくなく、焼成後においても、焼成前の顆粒構造は維持されることが分かった。
実施例16(900℃で焼成)では、実施例12〜実施例15(500〜800℃で焼成)よりも、BJH全細孔面積などがやや低下していた。
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