特許第6961814号(P6961814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961814真空アーク再溶解システム用コンパクトコイルアセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961814
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】真空アーク再溶解システム用コンパクトコイルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/21 20060101AFI20211025BHJP
   C22B 9/04 20060101ALI20211025BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C22B9/21
   C22B9/04
   F27D11/08 B
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-521567(P2020-521567)
(86)(22)【出願日】2018年10月17日
(65)【公表番号】特表2020-537715(P2020-537715A)
(43)【公表日】2020年12月24日
(86)【国際出願番号】US2018056302
(87)【国際公開番号】WO2019079463
(87)【国際公開日】20190425
【審査請求日】2020年6月10日
(31)【優先権主張番号】62/573,229
(32)【優先日】2017年10月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514179078
【氏名又は名称】チタニウム メタルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パテル、アシシュ・ディー
(72)【発明者】
【氏名】センセニグ、ジェレミー・エル
(72)【発明者】
【氏名】マクファーランド、ロバート、ジェームス・ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス、ジェームス・レロイ
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第00953800(GB,A)
【文献】 特開昭61−165584(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105132705(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/00−9/22
F27D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極からインゴットを形成するための真空アーク再溶解システムであって、
前記電極及び前記インゴットを収容するように構成されたるつぼアセンブリと、
前記るつぼアセンブリの周りに配置された電磁エネルギー源であって、前記電磁エネルギー源及び前記るつぼアセンブリは、前記るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って互いに相対的に動くように構成された、前記電磁エネルギー源とを備え、
回転磁場は、前記電磁エネルギー源により発生し、再溶解中に前記インゴットのアーク領域に局所化される回転磁場であり、前記アーク領域は、前記電極と前記インゴットとの間のギャップである
【請求項2】
前記電磁エネルギー源は、磁気コア及びコアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含むコイルアセンブリであって、前記コイルアセンブリは、前記複数のコイルペアに流れる電流に基づいて、コイルから磁場を発生するように動作可能である、請求項1に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項3】
前記コイルアセンブリは、3つのコイルペアを含む、請求項2に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項4】
前記3つのコイルペアの各々における電流は、120°位相がずれている、請求項3に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項5】
前記複数のコイルペアの各コイルにおける双方向の電流の流れを可能にするように構成された制御システムをさらに備える、請求項1に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項6】
前記制御システムは、所定の位相角オフセットで正弦波状に前記コイルを通る電流を循環させて、前記コイルから前記磁場を発生させる、請求項5に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項7】
前記制御システムは、各コイルペアに対して少なくとも1つのH−ブリッジボードを含む、請求項5に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項8】
前記コアは、磁性材料で作られる、請求項1に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項9】
磁気コア及びコアの周りに巻かれた複数のコイルペアを備えるコイルアセンブリと、
前記るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って前記電磁エネルギー源を移動するように動作可能なリフト機構とをさらに備え、
前記リフト機構は、コイルアセンブリが配置されるプラットフォーム、及び、前記プラットフォームと前記コイルアセンブリを前記るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って動くように動作可能な少なくとも1つのモータを含む、請求項1に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項10】
リフト機構の少なくとも1つのモータを駆動し、再溶解中にインゴットの高さに基づいて前記コイルアセンブリを動かすように構成された制御システムをさらに備える、請求項9に記載の真空アーク再溶解システム。
【請求項11】
インゴットの長手方向軸に垂直で、再溶解中に前記インゴットのアーク領域に局所化される回転磁場を発生させるように動作可能なコイルアセンブリを備え、前記アーク領域は、電極と前記インゴットとの間のギャップであり、前記回転磁場は、溶解電流と相互作用して、放射状に外向きの回転アークを生成すること、を含むインゴットを真空アーク再溶解する方法。
【請求項12】
前記インゴットが形成されているときに、前記インゴットの長手方向軸に沿って電磁エネルギー源を移動させることをさらに含み、前記電磁エネルギー源は前記回転磁場を発生させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記回転磁場を発生させることは、所定の位相角オフセットで正弦波状にコイルアセンブリを通る電流を循環させて、前記回転磁場を発生させることをさらに含み、前記コイルアセンブリは、磁気コア及びコアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記インゴットが形成されているときに、前記インゴットの長手方向軸に平行な軸に沿って前記回転磁場を移動させることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記インゴットが形成されているときに、前記回転磁場に対して前記インゴットを含むるつぼアセンブリを移動させることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2017年10月17日に出願された米国仮出願第62/573,229号に対する優先権及び利益を主張する。上記出願の開示は、参照によりここに組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、真空アーク再溶解システムに関する。
【背景技術】
【0003】
このセクションの記述は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成しないことがある。
【0004】
真空アーク再溶解(VAR)プロセスは、他の合金の中でも、高性能チタン、ジルコニウム、ニッケルベースの合金、及び、鋼の処理に一般に使用される。一般に、VARシステムは、電極を流れる電流により電極を徐々に溶かし、るつぼ内に含まれる溶融した金属にアークする。印加される溶解電流は、プロセス中に変化し、所望の溶融金属プール形状を得る。時々、電気アークにより、溶融金属の上にあるるつぼの壁の部分に金属のビーズが飛び散ることがある。これらの部分は冷たく、ビーズを凝固させて、多孔質で不均一な塊にする可能性があり、インゴットの表面を不規則にする可能性がある。VARインゴットの表面品質及び内部品質に関連する問題、並びに、他の問題が本開示により扱われる。
【発明の概要】
【0005】
このセクションは、開示の一般的な要約を提供し、その全範囲又はその全ての特徴の包括的な開示ではない。
【0006】
本開示の一形態では、電極からインゴットを形成するための真空アーク再溶解システムが提供される。このシステムは、電極及びインゴットを収容するように構成されたるつぼアセンブリ、るつぼアセンブリの周りに配置された電磁エネルギー源、及び、電磁エネルギー源をるつぼアセンブリの長手方向軸に沿って移動するように動作可能なリフト機構を備える。このシステムでは、電磁エネルギー源により発生される磁場は、再溶解中にアーク領域に局所化される。本開示のいくつかの態様では、電磁エネルギー源は、磁気コア、及び、コアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含むコイルアセンブリである。コイルアセンブリは、複数のコイルペアを流れる電流に基づいてコイルから磁場を発生するように動作可能である。本開示のいくつかの態様では、コアは、透磁性の強磁性材料で作られる。また、本開示の一態様では、コイルアセンブリは、3つのコイルペアを含む。そのような態様では、3つのコイルペアのそれぞれにおける電流は、120°位相がずれていてもよい。
【0007】
本開示のいくつかの態様において、システムは、複数のコイルペアの各コイルにおける双方向電流の流れを可能にするように構成された制御システムをさらに含む。1つの変形例では、制御システムは、所定の位相角オフセットで正弦波のようにコイルを通る電流を循環させて、コイルから磁場を発生させる。本開示の一態様では、制御システムは、各コイルペアに対して少なくとも1つのH−ブリッジボードを含む。
【0008】
本開示の別の形態では、電極からインゴットを形成するための真空アーク再溶解システムが提供される。システムは、電極及びインゴットを収容するように構成されたるつぼアセンブリ、コイルアセンブリ、及び、リフト機構を備える。コイルアセンブリは、るつぼアセンブリの周りに配置され、磁気コア、及び、磁気コアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含む。コイルアセンブリは、複数のコイルペアの各コイルにより受ける電流により形成される(即ち、それにより回転される)コイルから磁場を発生するように動作可能である。リフト機構は、コイルアセンブリと動作可能に連動し、コイルからの磁場が再溶解中にアーク領域に局所化されるように、るつぼアセンブリの長手方向軸に沿ってコイルアセンブリを移動するように動作可能である。本開示のいくつかの態様では、リフト機構は、コイルアセンブリが配置されるプラットフォームを含む。そのような態様では、プラットフォーム及びコイルアセンブリをるつぼアセンブリの長手方向軸に沿って移動するように動作可能な少なくとも1つのモータが含まれる。本開示の一態様では、システムは、リフト機構の少なくとも1つのモータを駆動し、再溶解中にインゴットの高さに基づいてコイルアセンブリを動かすように構成された制御システムをさらに含む。
【0009】
本開示のさらに別の形態では、電極からインゴットを形成するための真空アーク再溶解システムが提供される。システムは、電極、インゴット、及び、電磁エネルギー源を収容するように構成されたるつぼアセンブリを備える。電磁エネルギー源は、るつぼアセンブリの周りに配置され、電磁エネルギー源及びるつぼアセンブリは、るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って互いに相対的に動くように構成される。さらに、電磁エネルギー源により発生する磁場は、再溶解中にアーク領域に局所化される。
【0010】
本開示のさらに別の形態では、インゴットを真空アーク再溶解する方法が提供される。この方法は、インゴットの長手方向軸に垂直で、再溶解中にアーク領域に局所化される回転磁場を発生させることを含む。回転磁場は、溶解電流と相互作用して、放射状に外向きの回転アークを生成する。本開示のいくつかの形態では、方法は、インゴットが形成されているときにインゴットの長手方向軸に沿って電磁エネルギー源を移動させ、電磁エネルギー源が回転磁場を発生させることを含む。回転磁場は、回転磁場を発生させるために所定の位相角オフセットを用いて正弦波状にコイルアセンブリを通る電流を循環させることにより形成されてもよい。また、コイルアセンブリは、磁気コア、及び、コアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含む。本開示のいくつかの態様では、方法は、インゴットが形成されているときに、インゴットの長手方向軸に平行な軸に沿って回転磁場を移動させることを含む。本開示の他の態様では、方法は、インゴットが形成されているときに、インゴットを含むるつぼアセンブリを回転磁場に対して移動させることを含む。さらに他の態様では、方法は、インゴットが形成されているときにインゴットの長手方向軸に平行な軸に沿って回転磁場を移動することと、インゴットが形成されているときにインゴットを含むるつぼアセンブリを回転磁場に対して移動することとの組合せを含む。
【0011】
ここで提供される説明から、さらなる適用の領域が明らかになる。説明及び特定の例は、例示のみを目的としており、本開示の範囲を限定することは意図していないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示を十分に理解できるようにするために、例として与えられ、添付の以下の図面を参照して、その様々な形態をここで説明する。
図1図1は、本開示の教示によるコイルアセンブリ及びリフト機構を有するVARシステムを図示する斜視図である。
図2図2は、図1のVARシステムの部分断面図である。
図3図3は、図1のVARシステムの部分上面図である。
図4図4は、本開示の教示によるコイルコントローラを図示する概略図である。
図5図5は、本開示の教示によるリフトコントローラを図示する概略図である。
図6図6は、本開示の教示による3つの正弦波電流波形のグラフである。 ここで説明される図面は、例示目的のみであり、決して本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明は、実際には単なる例示であり、本開示、用途又は使用を限定することを意図しない。図面全体を通して、対応する参照番号は、同様又は対応する部品及び特徴を示すことを理解されたい。
【0014】
形成されたインゴットの表面の不規則性に対処するために、VARシステムは、るつぼの周りに配置されたヘルムホルツ構成の大きな固定コイルを含めてもよい。固定コイルは、るつぼの全長に沿って延びており、横磁場を発生させるために使用される。このようなVARシステムは、本出願の譲受人に譲渡された米国特許第4,581,745号に詳細に記載されており、その開示は参照によりここに組み込まれる。
【0015】
ヘルムホルツ構成のコイルを有するVARシステムは、表面の不規則性を低減する可能性があるが、コイルは、るつぼからかなり離して配置する必要がある。さらに、コイルはサイズが大きいため、必要な磁場を発生させるためにより多くの電力を必要とする。
【0016】
一般に、本開示のVARシステムは、磁場が局所化されるように、電磁エネルギー源、及び、成長する溶融金属(即ち、インゴット)と共に電磁エネルギー源を動かすためのリフト機構を含む。一形態では、電磁エネルギー源は、コンパクトなコイルアセンブリであり、ここでさらに説明するように、一形態では、コイルアセンブリは、高透磁率材料で構成され、絶縁ワイヤで巻かれたリング形状の磁気コアを含む。コイルアセンブリは、コイルアセンブリの垂直軸に垂直な回転磁場を発生させるように動作可能である。この発生した回転磁場は、溶解電流と相互作用して、アークを電極とインゴットの垂直軸に垂直な方向に放射状に動く。
【0017】
リフト機構は、インゴットに対して電磁エネルギー源を移動させるものとして図示及び説明されているが、インゴットが電磁エネルギー源に対して移動してもよいし、電磁エネルギー源とインゴットの両方が、本開示の範囲内にとどまりながら移動してもよいことも理解されたい。
【0018】
これから、本開示のVARシステムの一形態が、添付の図面を参照して説明される。
【0019】
図1及び図2を参照すると、VAR炉とも呼ばれることもあるVARシステム100は、電極102を徐々に溶解して、溶融金属103のプールを有するインゴット104を形成するために使用される。一形態では、VARシステムは、るつぼアセンブリ106、るつぼアセンブリ106の周りに配置されたコイルアセンブリ108(即ち、電磁エネルギー源)、及び、るつぼアセンブリ106の外側に沿ってコイルアセンブリ108を移動させるためのリフト機構110を含む。
【0020】
るつぼアセンブリ106は、電極102を収容し、電極102から形成されたインゴット104を保持する。一形態では、るつぼアセンブリ106は、るつぼ112(以下「るつぼ」)、及び、るつぼ112の温度を下げるために水などの冷却剤を受けるためにるつぼ112の周りにチャンバ116を定める冷却部材114を含む。るつぼを冷却するための他の適切なシステムも、使用してもよく、本開示の範囲内である。るつぼ112及び冷却部材114は、銅及びステンレス鋼などの非磁性材料から作られてもよい。
【0021】
再溶解プロセス中、電極102を溶解するように機能する電気アークは、電極102とるつぼ112の内壁との間に延在し、通常は、図示するアーク領域105を定める。有利には、以下でより詳細に説明するように、電磁エネルギー源により発生した磁場は、再溶解中にこのアーク領域105に局所化され(又は換言すれば、るつぼ112全体又はその実質的な部分に沿ってではなく、このアーク領域105に限定され)、それにより、インゴット104の表面品質が改善され、再溶解プロセスの終了時に電極の残りの量が減少する。
【0022】
コイルアセンブリ108は、るつぼ112アセンブリに隣接して配置され、インゴット104が成長するにつれて、るつぼ112、るつぼアセンブリ6、及び、インゴット104の長手方向軸2に沿って移動する。コイルアセンブリは、コア120の周りに巻かれた複数のコイル122を備えたコア120を含む。以下でさらに説明するように、コア120及びコイル122は、電極102とインゴット104との間のギャップに実質的に閉じ込められる横磁場を形成するように動作可能である。一形態では、コア120は、長方形の断面のリング形状の環状体であり、焼鈍された電磁鋼などの高透磁率強磁性材料の層を積み重ねることにより構成される。コアは、他の適切な形状及び材料で構成することができ、ここで提供される例に限定されるべきではない。
【0023】
コイル122は、コア120の周りに巻かれた絶縁された固体銅線又は中空の銅管でもよい。巻線は、1以上のコイルペアを形成するように分割され、コイルペアのコイルは、コア120の両側に配置される。例えば、図3に示されるように、コイルアセンブリ108は、3つのコイルペア(例えば、コイルペアA−A’、コイルペアB−B’、及び、コイルペアC−C’)を含み、各ペアのコイルは、コアの両側に配置される。各コイルペアは、正弦波電流を受けるように構成され、各ペアの電流は120度位相がずれている。各ペアからの磁場の方向は、図3の矢印により表される。
【0024】
コイルアセンブリ108を通る電流を制御し、したがって磁場を制御するために、VACシステム100は、コイル電流コントローラをさらに備える。図4を参照し、コイル電流コントローラ130は、マイクロコントローラ132、各コイルペアのための少なくとも1つのH−ブリッジ(例えば、コイルペアA−A’,B−B’,C−C’のそれぞれのためのH−ブリッジ134A,134B,134C)、及び、1以上のDC電源136を含む。H−ブリッジ134A,134B,134Cは、H−ブリッジ134と総称することがある。H−ブリッジ134は、それぞれのコイルペアに双方向の電流の流れを可能にする。
【0025】
マイクロコントローラ132は、コイルペアを通る電流を制御することにより、磁場を制御するようにプログラムされている。より具体的には、生成可能な最大磁場も制限する最大電流は、DC電源136からの電源電圧とコイル122の抵抗との比に基づいて決定される。任意の瞬間における各コイルペアの電流は、以下の式1〜式3で与えられ、ここで、Voは電源電圧、Rは各コイルペアの抵抗、ωは角周波数(即ち、ω=2πf)、tは時間である。
【数1】

【数2】

【数3】
【0026】
正弦波電流がコイルペアを循環するため、ドウェル(dwell)時間は
【数4】
で与えられ、ここで、θは度単位の増分角度で、
【数5】
はアークの回転周波数であり、
【数6】
として定義される。各コイルペアは、瞬時電流に比例する磁場を発生させ、3つの個別の磁場のベクトル和から得られた結果の磁場(即ち、磁束密度(B))は、式4で与えられ、ここで、Boは最大電流でのコアの中心の場であり、
【数7】
は単位ベクトルである。式4で示されるように、任意の瞬間の中心で生じた磁場の大きさは一定であり、個々のコイルペアからの磁場の1.5倍増加する。
【数8】
【0027】
外部からかけられた磁場は、電極とインゴットの間のギャップに大きく制限され、電極とインゴットの間のアークをるつぼ112の壁に向かって移動させる。コイルを流れる電流を正弦波状に適切な位相角オフセットで循環させることにより、回転磁場が発生する。アークの回転方向(例えば、時計回り又は反時計回り)は、コイルに通電する順序に基づいて制御され、回転の速度は、コイルの通電の周波数に依存する。さらに、コイルペアを流れる電流を制御することにより、適切な磁場を発生させて、アークの位置を制御できる。即ち、磁場は、溶解DC電流と相互作用してアークに力(F)を発生させ、これは、式5で定義される。ここで、Jは適用された電流密度、Bは磁束密度である。
【数9】
【0028】
適切なプロセス設定点(例えば、コイル抵抗、電源、位相角オフセット、その他)を選択することにより、アークは、インゴットの外周に沿って掃引され、これにより、次には、インゴット表面の滑らかさを改善するのに役立つ。
【0029】
るつぼの高さ全体に磁場を形成する代わりに、コイルアセンブリ108は、インゴットの成長に従ってリフト機構110により動かされる。図1及び図3を引き続き参照すると、リフト機構110は、コイルアセンブリ108が上に配置されたプラットフォーム150、及び、コイルアセンブリ108を有するプラットフォーム150を徐々に移動させるように動作可能な1以上のドライブモータ152を含む。一形態では、プラットフォーム150は、4つのポスト154に取り付けられた絶縁プレートであり、各ポストは、プラットフォーム150を動かすためのドライブモータ152により制御される。
【0030】
リフト機構110を制御するために、VARシステム100はさらに、リフトドライブコントローラを含む。図5を参照すると、一形態では、リフトドライブコントローラ160は、マイクロコントローラ162、各ドライブモータ152用の1つのH−ブリッジ164を含み、H−ブリッジ164は、DC電源(例えば、12V)に結合される。マイクロコントローラ162は、インゴット溶融物の高さに基づいて、リフト機構110の高さを調整するようにプログラムされ、それは、インゴットに関連する特性に基づいて決定することができる。例えば、一形態では、VARシステム100は、ロードセルを備えており、したがって、インゴットの高さ(h)は、ρiをインゴットの密度、Aiをインゴットの面積、mを溶解速度とし、式6に示される関係を使用して推定することができる。あるいは、VARシステムにロードセルが含まれていない場合、インゴットの高さは、Xをラムの移動量、ρeを電極の密度、Aeを電極の面積とし、式7により提供される電極の移動量(即ち、ラムの移動量)から推定することができる。式6及び式7の変数は、マイクロコントローラ162に入力することができ、図面では炉入力として表されている。
【数10】

【数11】
【0031】
上記に基づいて、動作中、VARシステム100は、コンパクトで、かつ、リフト機構110により移動可能なコアアセンブリ108を含むので、インゴットが成長するにつれてコアアセンブリ108が移動する。コアアセンブリ108は、電極とインゴットとの間に回転アークを形成するための局所的な回転磁場を発生させるように動作可能である。具体的には、磁場は、アークプラズマと相互作用してそれを放射状(即ち、電極の垂直軸に垂直)に増進し、それにより、るつぼに向かってそれを移動させる。この動作は、次に、アークからの熱エネルギーがるつぼ上のスプラッタを除去する(溶かす)ため、インゴットの表面品質に好ましい影響を及ぼし、したがって、インゴットが成長するにつれて、それは、スプラッタの殻ではなく、むき出しのるつぼの上で凝固する。
【0032】
コイルアセンブリのコンパクトな設計は、既存のVAR炉への容易な改造を可能にし、るつぼアセンブリの周りの最小限のクリアランスを必要とする。さらに、コイルアセンブリのコンパクトなサイズにより、磁場を生成するために必要な電圧及び電流は、るつぼ全体に磁場を発生させる、より大きなコイルを備えたシステムと比較して、比較的小さい。コイルアセンブリは、3つのコイルペアを有するものとして説明されているが、本開示の範囲は、複数のコイルペアに適用可能であり、3つに限定されるべきではない。
【0033】
本開示のVARシステムは、アークをインゴットの表面に向けて配置及び制御をするように構成され、したがって、インゴットの表面品質を大幅に改善する。コイルは、アークを横切るため、外部の横磁場は、アーク領域にのみ印加され、溶融金属プールには印加されない。これは、次に、印加された磁場の影響をアークの近くに制限することにより、所望の溶融金属プール形状を得るのに役立つ。さらに、プロセスの最後にアークの動作を修正することにより、電極の残りの量を最小限に抑えることができる。
【0034】
インゴットの表面の完全性と残部の形状及び重量を管理するためにコイルアセンブリを制御することに加えて、本開示のVARシステムは、溶解中にアーク位置を制御するために使用されてもよく、したがって、全体的なプール形状に影響を及ぼし、それにより凝固構造を改善する。さらなる使用は、始動のための時間を減らし、ベースの全体的な完全性を改善するために、始動として知られる真空アーク溶解の初期段階であってもよい。実際に、有益な効果をもたらすように、アークの位置を経時的に管理するように、コイルの配置及び制御アプローチを使用することができる任意のアプローチを想定することができ、本開示の範囲内である。
【0035】
コイル電流コントローラ及びリフトコントローラは、VARシステムの制御システムと総称されてもよい。コイル電流コントローラ及びリフトコントローラは、独立したマイクロコントローラを有するものとして説明されているが、1つのマイクロコントローラが、コイル電流コントローラ及びリフトコントローラの動作を実行するように構成されてもよい。
【0036】
コイル電流コントローラ用アルゴリズムは、テキストベースのプログラミング言語を使用して、既存のPLCベースのVAR制御システムに組込まれてもよい。或いは、コイル電流コントローラは、スタンドアロンシステムにすることができる。
【0037】
その場強度及び回転(RPM)は、標準的な溶解の異なる段階の間に容易に変えることができるソフトウェアパラメータである。例えば、パラメータは、始動段階、定常状態、及び、ホットトップ段階の各加熱段階用にカスタマイズすることができる。場強度及び回転(RPM)は、溶解している合金の種類、関連するアークギャップ、及び、環状距離に基づいて調整することもできる。
【0038】
本開示のVARシステムの実験的実施において、コイルアセンブリは、コイルアセンブリと炉の間に設けられた25.4mm(1インチ)のギャップを伴う203mm(8インチ)のVAR炉の周りに配置された。コイルアセンブリは、内径が381mm(15インチ)、外径が432mm(17インチ)、高さが76mm(3インチ)であった。コイルアセンブリは、工業用グレードの電気鋼の厚さ0.254mm(0.01インチ)のシートを積み重ねてコアを形成し、1mm(18ゲージ)の絶縁銅線の3つの層をコアの周りに巻いて形成された。
【0039】
1つの実験的発見では、0から1.6Aの範囲の電流、及び、0から10Vの範囲の電圧は、るつぼの中心でコイルペアあたり20Gの最大磁場と30Gのネットフィールド(net field)を発生させるのに十分であった。アークは、2から5RPMで回転し、増分角度は1から15度の範囲で5分ごとに反転した。テスト中の3つの正弦波電流波形のプロットが図6に示される。これらのテスト条件下で、インゴットの高さを追跡するために、リフト機構を0から0.5分/分の範囲で動かした。この実験的実施は、本開示のVARアセンブリの動作をさらに例示するために提供されており、VARアセンブリを実験で説明されたパラメータに限定することは意図されていない。
【0040】
本開示の説明は、本質的に単なる例示であり、したがって、本開示の本質から逸脱しない変形は、本開示の範囲内であることが意図されている。そのような変形は、本開示の精神及び範囲からの逸脱とはみなされない。
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
電極からインゴットを形成するための真空アーク再溶解システムであって、
前記電極及び前記インゴットを収容するように構成されたるつぼアセンブリと、
前記るつぼアセンブリの周りに配置された電磁エネルギー源であって、前記電磁エネルギー源及び前記るつぼアセンブリは、前記るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って互いに相対的に動くように構成された、前記電磁エネルギー源とを備え、
前記電磁エネルギー源により発生する磁場は、再溶解中に前記インゴットのアーク領域に局所化される。
[2]
前記電磁エネルギー源は、磁気コア及びコアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含むコイルアセンブリであって、前記コイルアセンブリは、前記複数のコイルペアに流れる電流に基づいて、コイルから磁場を発生するように動作可能である、[1]に記載の真空アーク再溶解システム。
[3]
前記コイルアセンブリは、3つのコイルペアを含む、[2]に記載の真空アーク再溶解システム。
[4]
前記3つのコイルペアの各々における電流は、120°位相がずれている、[3]に記載の真空アーク再溶解システム。
[5]
前記複数のコイルペアの各コイルにおける双方向の電流の流れを可能にするように構成された制御システムをさらに備える、[1]に記載の真空アーク再溶解システム。
[6]
前記制御システムは、所定の位相角オフセットで正弦波状に前記コイルを通る電流を循環させて、前記コイルから前記磁場を発生させる、[5]に記載の真空アーク再溶解システム。
[7]
前記制御システムは、各コイルペアに対して少なくとも1つのH−ブリッジボードを含む、[5]に記載の真空アーク再溶解システム。
[8]
前記コアは、透磁性の強磁性材料で作られる、[1]に記載の真空アーク再溶解システム。
[9]
磁気コア及びコアの周りに巻かれた複数のコイルペアを備えるコイルアセンブリと、
前記るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って前記電磁エネルギー源を移動するように動作可能なリフト機構とをさらに備え、
前記リフト機構は、コイルアセンブリが配置されるプラットフォーム、及び、前記プラットフォームと前記コイルアセンブリを前記るつぼアセンブリの長手方向軸に沿って動くように動作可能な少なくとも1つのモータを含む、[1]に記載の真空アーク再溶解システム。
[10]
リフト機構の少なくとも1つのモータを駆動し、再溶解中にインゴットの高さに基づいて前記コイルアセンブリを動かすように構成された制御システムをさらに備える、[9]に記載の真空アーク再溶解システム。
[11]
インゴットの長手方向軸に垂直で、再溶解中に前記インゴットのアーク領域に局所化される回転磁場を発生させ、前記回転磁場は、溶解電流と相互作用して、放射状に外向きの回転アークを生成すること、を含むインゴットを真空アーク再溶解する方法。
[12]
前記インゴットが形成されているときに、前記インゴットの長手方向軸に沿って電磁エネルギー源を移動させることをさらに含み、前記電磁エネルギー源は前記回転磁場を発生させる、[11]に記載の方法。
[13]
前記回転磁場を発生させることは、所定の位相角オフセットで正弦波状にコイルアセンブリを通る電流を循環させて、前記回転磁場を発生させることをさらに含み、前記コイルアセンブリは、磁気コア及びコアの周りに巻かれた複数のコイルペアを含む、[11]に記載の方法。
[14]
前記インゴットが形成されているときに、前記インゴットの長手方向軸に平行な軸に沿って前記回転磁場を移動させることをさらに含む、[11]に記載の方法。
[15]
前記インゴットが形成されているときに、前記回転磁場に対して前記インゴットを含むるつぼアセンブリを移動させることをさらに含む、[11]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6