特許第6961819号(P6961819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961819L−リジンを生産する組換え菌、その構築方法およびL−リジンの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961819
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】L−リジンを生産する組換え菌、その構築方法およびL−リジンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20211025BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20211025BHJP
   C12R 1/15 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 9/78 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20211025BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   C12N1/21
   C12P13/08 A
   C12N1/19
   C12N15/55
   C12R1:15
   C12N9/04 Z
   C12N9/12
   C12N9/78
   C12N9/88
   C12N15/53
   C12N15/54
   C12N15/60
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-524437(P2020-524437)
(86)(22)【出願日】2018年5月22日
(65)【公表番号】特表2021-500914(P2021-500914A)
(43)【公表日】2021年1月14日
(86)【国際出願番号】CN2018087894
(87)【国際公開番号】WO2019085445
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年5月1日
(31)【優先権主張番号】201711058221.4
(32)【優先日】2017年11月1日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517403123
【氏名又は名称】寧夏伊品生物科技股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】517121939
【氏名又は名称】中国科学院微生物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MICROBIOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】温 廷益
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲ちょん▼
(72)【発明者】
【氏名】商 秀玲
(72)【発明者】
【氏名】柴 欣
(72)【発明者】
【氏名】張 芸
(72)【発明者】
【氏名】劉 樹文
(72)【発明者】
【氏名】王 国強
(72)【発明者】
【氏名】李 忠財
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−533740(JP,A)
【文献】 特表2013−539358(JP,A)
【文献】 特表2004−534501(JP,A)
【文献】 特開2002−191370(JP,A)
【文献】 MESAS J. M. et al.,Journal of General Microbiology,136 (1990),p.515-519
【文献】 SINHA R. et al.,International Journal of Innovative Research in Science, Engineering and Technology,Vol.2 Issue 11 (2013),p.7031-7051
【文献】 PATEK M. et al.,Microbial Biotechnology,6 (2013),p.103-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/08
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 15/09−15/90
C12N 9/00−9/99
C12R 1:15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−リジンを生産する組換え菌であって、前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたアスパラギナーゼの発現および/または活性、低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼの発現および/または活性、向上されたピルビン酸カルボキシラーゼの発現および/または活性、低下されたホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの発現および/または活性、向上されたジヒドロジピコリン酸レダクターゼの発現および/または活性、並びに、向上されたアスパラギン酸キナーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼおよび/またはジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼの発現および/または活性を有し、前記出発菌は野生型コリネバクテリウム属の一種であることを特徴とする組換え菌。
【請求項2】
前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたアスパラギナーゼをコードする遺伝子を有し、および/または前記組換え菌のアスパラギナーゼをコードする遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介され、好ましくは、前記調節因子は、強力プロモーターであり、より好ましくは、前記強力プロモーターは、Ptufプロモーターであることを特徴とする請求項1に記載の組換え菌。
【請求項3】
前記組換え菌は、出発菌に比べて、低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼの発現および/または活性を有し、好ましくは、前記低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼの発現は下記方法の少なくとも一つによって実現される:(A)前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を失活させる、(B)前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が低転写または低発現活性の調節因子によって媒介される、前記低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼの活性は、前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼの59番目のバリンがアラニンに突然変異する方法によって実現され、前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、好ましくはSEQ ID NO.1に示されるようであることを特徴とする請求項1に記載の組換え菌。
【請求項4】
前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたピルビン酸カルボキシラーゼの発現および/または活性を有し、好ましくは、前記向上されたピルビン酸カルボキシラーゼの発現は下記方法の少なくともひとつによって実現される:(C)前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子を有する、(D)前記組換え菌のピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介され、前記向上されたピルビン酸カルボキシラーゼの活性は、前記ピルビン酸カルボキシラーゼの458番目のプロリンがセリンに突然変異する方法で実現され、前記組換え菌のピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子は、好ましくはSEQ ID NO.8に示されるようであることを特徴とする請求項1に記載の組換え菌。
【請求項5】
前記組換え菌は、出発菌に比べて、低下したホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの発現および/または活性を有し、好ましくは、前記組換え菌のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする遺伝子を失活させ、および/またはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする遺伝子の発現が低転写または低発現活性の調節因子によって媒介され、より好ましくは、前記失活は、前記組換え菌のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする遺伝子をノックアウトすることであることを特徴とする請求項1に記載の組換え菌。
【請求項6】
前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたジヒドロジピコリン酸レダクターゼの発現および/または活性を有し、好ましくは、前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子を有し、および/またはジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介され、より好ましくは、前記調節因子は、強力プロモーターであり、最も好ましくは、前記強力プロモーターは、前記出発菌のPtufプロモーターであることを特徴とする請求項1に記載の組換え菌。
【請求項7】
前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたアスパラギン酸キナーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼおよび/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼの発現および/または活性を有し、好ましくは、前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたアスパラギン酸キナーゼをコードする遺伝子、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子を有し、および/またはアスパラギン酸キナーゼをコードする遺伝子、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介され、より好ましくは、前記調節因子は、強力プロモーターであり、最も好ましくは、前記強力プロモーターは、前記出発菌のPtufプロモーターであることを特徴とする請求項1に記載の組換え菌。
【請求項8】
前記出発菌におけるアスパラギナーゼの発現および/または活性を向上させるステップを含み、好ましくは、前記出発菌におけるアスパラギナーゼの発現および/または活性を向上させることは、下記方法の少なくとも一つによって実現される:(E)前記出発菌におけるアスパラギナーゼをコードする遺伝子のコピー数を増やす、(F)前記出発菌におけるアスパラギナーゼをコードする遺伝子の調節因子を高転写または高発現活性の調節因子に置き換える、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の組換え菌の構築方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のコリネバクテリウム属の組換え菌を発酵培養するステップを含むことを特徴とするL−リジンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の発酵分野に関するものであり、具体的に、L−リジンを生産する組換え菌、その構築方法およびL−リジンの生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
L−リジンは人間に9種類の必須アミノ酸の1つであり、生体の代謝バランスを調整し、成長と発育を促進するなど様々な生理機能を持ち、食品、飼料や医薬分野に広く応用されている。飼料業界では、リジンは豚や家禽の成長の第1制限性アミノ酸である。飼料にL−リジンを添加すると、飼料の中のアミノ酸とタンパク質の利用率を高め、飼料の栄養価を改善し、家畜の成長を促進することができる。食品業界では、L−リジンは主に栄養強化剤と消臭剤に使われている。医薬分野では、L−リジンは複合アミノ酸製剤の主成分の1つである。現在、リジン工業はグルタミン酸に次ぐ第2のアミノ酸工業であるため、L−リジンの工業生産研究は重要な意義を持っている。
【0003】
現在、L−リジンは主に微生物直接発酵法で生産されている。リジン生産菌の発酵生産の性能は発酵法の生産コストに影響する重要な要素である。
【0004】
リジン高産菌株の育成方法は主に伝統的な誘導法と代謝工学的改造がある。
【0005】
誘導スクリーニングによって得られた菌株は大量の負効果の突然変異を蓄積して、菌株の成長の遅緩、環境耐性の低下や栄養需要の高まりなどの問題を引き起こす。これらの欠陥は菌株の工業化への応用を制限している。
【0006】
図1に示すように、コリネバクテリウム・グルタミクムリジンの合成代謝経路において、リジンの合成前駆体はトリカルボン酸サイクル(TCA回路)のオキサロ酢酸であり、オキサロ酢酸はアミノ基転移でアスパラギン酸を生成し、リジン合成経路に入る。したがって、従来の技術では、リジン生産菌株に対する代謝工学的改造は主にリジン端末合成経路、合成前駆体を提供する解糖系、TCA回路、および補因子NADPHを提供するペントースリン酸経路の鍵遺伝子の修飾に集中している。具体的には、ピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(pyc遺伝子)の発現を強化し、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子(pck遺伝子)の発現を弱化するなどの方法によって、オキサロ酢酸の合成を高め、リジンの蓄積を高める。しかし、今まで、アスパラギン酸の供給に影響を与える視点からリジン生産菌株に対して代謝工学的改造を行う従来の技術はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は前期の研究に、アスパラギン酸の供給もリジンの合成に影響する重要な要素であることを発見した。アスパラギン酸の合成を向上させることで、リジンの大量合成の前駆体物質の供給を保証し、菌株リジンの合成効率を向上させることができる。アスパラギン酸の代謝過程において、アスパラギン酸はアスパラギンシンテターゼを経てアスパラギンを触媒生成し、アスパラギンはまたアスパラギナーゼの触媒加水分解を経てアスパラギン酸とアンモニアを生成する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、リジン酸生産菌株に対して代謝工学的改造を行うことによって、L−リジンを生産する組換え菌を提供することである。
【0009】
本発明は、L−リジンを生産する組換え菌であって、前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたアスパラギナーゼ(EC 3.5.1 asparaginase)の発現および/または活性を有し、前記出発菌はリジンを蓄積できる菌株である。
【0010】
好ましくは、前記組換え菌により、前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたアスパラギナーゼ符号化遺伝子を有し、および/または前記組換え菌のアスパラギナーゼ符号化遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介される。好ましくは、前記調節因子は、強力プロモーターである。より好ましくは、前記強力プロモーターは、前記出発菌のPtufプロモーターである。
【0011】
好ましくは、前記組換え菌により、前記組換え菌は、出発菌に比べて、低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼ(Hom)の発現および/または活性を有する。前記低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼの発現は、(A)前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼ符号化遺伝子を失活させる、(B)前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼ符号化遺伝子の発現が低転写または低発現活性の調節因子によって媒介される少なくとも1つの方法で実現される。前記低下されたホモセリンデヒドロゲナーゼの活性は、前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼの59番目のバリンがアラニンに突然変異される方法で実現され、前記組換え菌のホモセリンデヒドロゲナーゼ符号化遺伝子は、好ましくはSEQ ID NO.1に示される。
【0012】
好ましくは、前記による組換え菌の中に、前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc)の発現および/または活性を有する。好ましくは、前記向上されたピルビン酸カルボキシラーゼの発現は、下記方法のすくなくとも一つによって実現される:(C)前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたピルビン酸カルボキシラーゼ符号化遺伝子を有する、(D)前記組換え菌のピルビン酸カルボキシラーゼ符号化遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介される。前記向上されたピルビン酸カルボキシラーゼの活性は、前記ピルビン酸カルボキシラーゼの458番目のプロリンがセリンに突然変異する方法で実現され、前記組換え菌のピルビン酸カルボキシラーゼ符号化遺伝子は、好ましくはSEQ ID NO.8に示されるようなものである。
【0013】
好ましくは、前記による組換え菌の中に、前記組換え菌は、出発菌に比べて、低下されたホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(pck)の発現および/または活性を有する。好ましくは、前記組換え菌のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ符号化遺伝子を失活させ、および/またはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ符号化遺伝子の発現が低転写または低発現活性の調節因子によって媒介される。より好ましくは、前記失活は、前記組換え菌のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ符号化遺伝子をノックアウトすることである。
【0014】
好ましくは、前記による組換え菌の中に、前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dapB)の発現および/または活性を有する。好ましくは、前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたジヒドロジピコリン酸レダクターゼ符号化遺伝子を有し、および/またはジヒドロジピコリン酸レダクターゼ符号化遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介される。より好ましくは、前記調節因子は、強力プロモーターである。最も好ましくは、前記強力プロモーターは、前記出発菌のPtufプロモーターである。
【0015】
好ましくは、前記による組換え菌の中に、前記組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたアスパラギン酸キナーゼ(lysC)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(ddh)および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼ(lysA)の発現および/または活性を有する。好ましくは、前記組換え菌は、少なくとも2つのコピーされたアスパラギン酸キナーゼ符号化遺伝子、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ符号化遺伝子および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼ符号化遺伝子を有し、および/またはアスパラギン酸キナーゼ符号化遺伝子、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ符号化遺伝子および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼ符号化遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介される。より好ましくは、前記調節因子は、強力プロモーターである。最も好ましくは、前記強力プロモーターは、前記出発菌のPtufプロモーターである。
【0016】
または、好ましくは、前記による組換え菌の中に、前記出発菌は、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、バチルス属、ビフィズス菌属およびラクトバシラス属のうちから選ばれる1本の細菌または酵母から選ばれる1本の真菌である。
【0017】
前記コリネバクテリウム属の細菌はコリネバクテリウム・グルタミクムCorynebacterium glutamicum、コリネバクテリウム・北京Corynebacterium pekinense、コリネバクテリウム・エフィシエンスCorynebacterium efficiens、コリネバクテリウム・クレナツムCorynebacterium crenatum、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスCorynebacterium thermoaminogenes、コリネバクテリウム・アミノゼンCorynebacterium aminogenes、コリネバクテリウム・リリウムCorynebacterium lilium、コリネバクテリウム・カルーナCorynebacterium callunaeおよびコリネバクテリウム・ハーキュリスCorynebacterium herculisのうちから選ばれる1本の細菌である。
【0018】
前記ブレビバクテリウム属の細菌はブレビバクテリウム・フラバムBrevibacteriaceae flvum、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムBrevibacteriaceae lactofermentumおよびブレビバクテリウム・アンモニアゲネスBrevibacteriaceae ammoniagenesのうちから選ばれる1本の細菌である。
【0019】
前記バチルス属の細菌はバシラス・リケニフォルミスBacillus licheniformis、バチルス・サブティリスBacillus subtilisおよびバチルス・プミルスBacillus pumilusのうちから選ばれる1本の細菌である。
【0020】
前記ビフィズス菌属の細菌はビフィドバクテリウム・ビフィドゥムBifidobacterium bifidum、ビフィドバクテリウム・ロングムBifidobacterium longum、ビフィドバクテリウム・ブレーベBifidobacterium breveおよびビフィドバクテリウム・アドレッセンティスBifidobacterium adolescentisのうちから選ばれる1本の細菌である。
【0021】
前記ラクトバシラス属の細菌は好酸性乳酸桿菌Lactobacillus acidophilus、ラクトバチルス・カゼイLactobacillus casei、ラクトバチラス・デルブルッキー・サブスピーシスLactobacillus delbrueckii subspおよびラクトバチルス・ファーメンタムLactobacillus fermentumのうちから選ばれる1本の細菌である。
【0022】
前記酵母の真菌は、カンジダ・ユチリスCadida utilis、サッカロマイセス・セレビシエSacharmycess cerevisia、ピキア酵母Pichia pastoresおよびハンセニューラ・ポリモルファHansenula polymorphaのうちから選ばれる1本の真菌である。
【0023】
本発明は、更に前記組換え菌の構築方法を提供し、その中に、前記出発菌におけるアスパラギナーゼの発現および/または活性を向上させるステップを含む。具体的には、前記出発菌におけるアスパラギナーゼの発現および/または活性を向上させることは、下記方法の少なくとも1つによって実現される:(E)前記出発菌におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子のコピー数を増やす、(F)前記出発菌におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子の調節因子を高転写または高発現活性の調節因子に置き換える。
【0024】
好ましくは、前記構築方法は、前記出発菌におけるホモセリンデヒドロゲナーゼの発現および/または活性を低下させるステップをさらに含む。
【0025】
好ましくは、前記構築方法は、前記出発菌におけるピルビン酸カルボキシラーゼの発現および/または活性を向上させるステップをさらに含む。
【0026】
好ましくは、前記構築方法は、前記出発菌におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの発現および/または活性を低下させるステップをさらに含む。具体的には、前記出発菌におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの発現および/または活性を低下させることは、下記方法の少なくとも一つによって実現したされる:(G)前記出発菌染色体のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ符号化遺伝子を失活させ、前記失活はノックアウトであることが好ましく、(H)前記出発菌におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ符号化遺伝子の調節因子を低転写または低発現活性の調節因子に置き換える。
【0027】
好ましくは、前記構築方法は、前記出発菌におけるジヒドロジピコリン酸レダクターゼの発現および/または活性を向上させるステップをさらに含む。具体的には、前記出発菌におけるジヒドロジピコリン酸レダクターゼの発現および/または活性を向上させることは、下記方法の少なくとも一つによって実現される:(I)前記出発菌におけるジヒドロジピコリン酸レダクターゼ符号化遺伝子のコピー数を増やす、(J)前記出発菌におけるジヒドロジピコリン酸レダクターゼの調節因子を高転写または高発現活性の調節因子に置き換える。
【0028】
または、好ましくは、前記構築方法は、前記出発菌におけるアスパラギン酸キナーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼおよび/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼの発現および/または活性を向上させるステップをさらに含む。具体的には、前記出発菌におけるアスパラギン酸キナーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼおよび/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼの発現および/または活性を向上させることは、下記方法の少なくとも一つによって実現される:(L)前記出発菌におけるアスパラギン酸キナーゼ符号化遺伝子、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ符号化遺伝子および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼ符号化遺伝子のコピー数を増やす、(M)前記出発菌におけるアスパラギン酸キナーゼ符号化遺伝子、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ符号化遺伝子、および/またはジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼ符号化遺伝子の調節因子を高転写または高発現活性の調節因子に置き換える。
【0029】
また、本発明はL−リジンの生産方法であって、前記組換え菌を発酵培養するステップを含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るL−リジンを生産する組換え菌は、発酵培養することによって収量を重ね合わせて高める効果が認められ、L−リジンの収量を著しく向上させた。48時間発酵したリジンの生産強度は0.05〜5G/L/Hで、発酵が終了する時のリジンの収量は1〜300G/Lである。
【0031】
本発明は、アスパラギナーゼの発現を強化することにより、リジンの合成前駆体であるアスパラギン酸の供給を高める代謝工学的改造策を初めて提案し、リシンの収量を著しく向上させ、細菌の発酵によるリジンの生産に実際に利用されることができる。本発明は新たなリジンの発酵収量を高める方法を開発しかつ実践的に証明し、収量を重ね合わせて高める効果を観察できた。、従って、本発明は細菌発酵によるリジンの生産に実際的に利用されることができ、応用を広めるのに便利である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】コリネバクテリウム・グルタミクムのリジン合成と代謝の経路を示す図である。
図2】組換えプラスミドYZ022を示す図である。
図3】組換えプラスミドYZ023を示す図である。
図4】組換えプラスミドYZ025を示す図である。
図5】組換えプラスミドYE019を示す図である。
図6】組換えプラスミドYZ037を示す図である。
図7】組換えプラスミドYZ039を示す図である。
図8】組換えプラスミドYZ035を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の方案およびその様々な態様の利点をよく理解するために、以下、添付図面および実施形態を参照しながら本発明の具体的な実施形態をより詳細に説明するが、以下に説明する具体的な実施形態および実施例は、説明のためだけであって、本発明を限定するものではない。
【0034】
本発明は、L−リジンを生産する組換え菌に関し、その中に、組換え菌は、出発菌に比べて、向上されたアスパラギナーゼの発現および/または活性を有し、出発菌はリジンを蓄積できる菌株である。
【0035】
向上されたアスパラギナーゼの発現および/または活性は、符号化遺伝子のコピー数の増加、より効果的な強力プロモーターで天然のプロモーターの置換、および活性化の増加を目的とする人工的な突然変異を含むさまざまな要因に基づくことができる。具体的には、遺伝子のコピー数は、内因性および/または外因性対立遺伝子の導入および/または増幅によって増加することができる。遺伝子プロモーターの置換について、例えば、内因性および/または外因性プロモーターを導入すること、使用するプロモーターは、その下流構造の遺伝子の発現を効果的に強化するための有効的な活性を有すること、などを含む。
【0036】
ある実施形態では、組換え菌は少なくとも2つのコピーされたアスパラギナーゼ符号化遺伝子を有する。具体的には、組換え菌は、その核DNAにおいて、内因性由来のアスパラギナーゼ符号化遺伝子の1つのコピーのほかに、内因性および/または外因性由来の1つまたは複数のアスパラギナーゼ符号化遺伝子のコピーを有する。より具体的には、アスパラギナーゼ符号化遺伝子のヌクレオチド配列はSEQ ID NO.39に示すようになることができる。
【0037】
ある一実施形態では、組換え菌のアスパラギナーゼ符号化遺伝子の発現が高転写または高発現活性の調節因子によって媒介される。好ましくは、調節因子は、強力プロモーターである。より好ましくは、強力プロモーターは、出発菌のPtufプロモーターである。具体的には、組換え菌の核DNAの中のアスパラギナーゼ符号化遺伝子の上流に有効な内因性と/または外因性強力プロモーターがあるため、アスパラギナーゼ符号化遺伝子の発現を効果的に向上させる。
【0038】
本発明に記載の「出発菌」(または「出発菌株」ともいう)は、本発明の遺伝子改造策に用いられる初期菌株を指す。この菌株は天然に存在する菌株であっても良いし、誘発突然変異や遺伝子工学による改造などの方法で育成した菌株であっても良い。
【0039】
本発明に記載の「失活」とは改造される対象に応じて変化することにより、一定の効果を達することを指し、特定部位の突然変異、挿入失活および/またはノックアウトを含むが、これらに限られない。
【0040】
本発明に記載の遺伝子ノックアウト、遺伝子挿入、プロモーター置換や特定部位の突然変異の方法は、担体がターゲット遺伝子を改造するホモロジーアームを携帯して相同組換えすることにより実現する。
【0041】
本発明に記載のある遺伝子に導入することまたはある遺伝子のコピー数を増やすことは、当該遺伝子を含む組換えプラスミドを構築し、そしてまた組換えプラスミドを出発菌に導入することによって実現されてもよいし、あるいはある遺伝子を出発菌染色体の適切な部位に直接挿入することによって実現されてもよい。
【0042】
本発明では、高転写または高発現活性の調節因子の一例を示したが、高転写または高発現活性の調節因子については、本発明には特に制限されず、プロモーター遺伝子の発現を強化することさえできればよい。本発明に使用可能な調節因子は、出発菌のP45、Peftu、Psod、PglyA、Ppck、Ppgkプロモーターなどが挙げられるが、これらに限られない。低転写または低発現活性の調節因子についても、本発明には特に制限されず、プロモーター遺伝子の発現を低減することさえできればよい。
【0043】
以下の実施形態で使用する実験方法は、特に説明しない限り、従来の方法である。以下の実施形態で使用する材料、試薬などは、特に説明しない限り、ビジネスルートから入手できるものである。
【0044】
特に指摘しない限り、実施形態で使用される技術的手段は、当業者がよく知っている従来の手段であり、「分子クローン実験ガイド(第3版)」(科学出版社)、「微生物学実験(第4版)」(高等教育出版社)および対応機器や試薬のメーカー説明書などを参照することができる。実施例において使用される機器と試薬は市販の常用機器、試薬である。以下の実施例における定量試験は、いずれも3回の繰り返し実験を設定し、その結果は平均値をとる。
【0045】
実施例1 リジンシャーシ工学菌の構築
【0046】
本実施形態は、コリネバクテリウム・グルタミクム野生型ATCC13032を出発菌株とし、特定部位の突然変異hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼ、GenBank:CAF19887.1)遺伝子により、分岐経路のスレオニン合成経路の代謝流量を弱め、特定部位の突然変異pyc(ピルビン酸カルボキシラーゼ、GenBank:CAF19394.1)遺伝子により、リジン合成前駆体であるオキサロ酢酸の供給を高め、pck(ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ、GenBank:CAF20888.1)遺伝子をノックアウトするとともにpyc*とdapB(ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、GenBank:CAF20314.1)遺伝子のコピー数を増やし、プラスミド過剰発現lysC(アスパラギン酸キナーゼ、GenBank:CAF18822.1)、ddh(ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、GenBank:CAF21279.1)、lysA(ジアミノヘプタナートデカルボキシラーゼ、GenBank:CAF19884.1)遺伝子により、リジンの合成経路をさらに強化し、産リジンのシャーシ工学菌を構築する。
【0047】
(1)染色体hom遺伝子の特定部位の突然変異
【0048】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のhom遺伝子およびその上下流の配列に基づいてそれぞれプライマーを設計する。
【0049】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとし、突然変異部位にプライマーを設計して、突然変異部位の上流と下流の2つの部分のhom遺伝子をそれぞれ増幅する。P1とP2をプライマーとしてhom遺伝子の上半分を増幅し、P3とP4をプライマーとしてhom遺伝子の下半分を増幅する。また、純化された上記PCR産物をテンプレートとし、P1とP4をプライマーとして、重合と長PCR技術(SOE)を採用して増幅し、1638bpのPCR産物を得て、この産物には第59位のバリンがアラニン(V59A突然変異)に突然変異されたhom遺伝子(SEQ ID NO.1)が含まれている。
【0050】
上記1638bpのPCR産物をXbaIとEcoRIでダブルダイジェストした後、同じダブルダイジェスト処理を経た相同組換え担体pk18mobsacB( AMERICAN TYPE CULTURE COLLECTION (ATCC)から購入、品番87097)と連結する。連結された産物を化学的な転換法を採用して大腸菌DH5αに転換して、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代の後に、P5とP6をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出し、プラスミドをXbaIとEcoRIでダブルダイジェスト鑑定を行い、1638bpを得たものは陽性とする。
【0051】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドは配列表のSEQ ID NO.1に示すヌクレオチドを担体pk18mobsacBに挿入して得られた組換えプラスミドであり、YE019と名付けて、その構成は図5に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYE019をコリネバクテリウム・グルタミクム野生型ATCC13032の中に電気転換する。カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。P5とP6をプライマーとして、陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、正確と鑑定された組換え菌を得て、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1000と名付ける。
【0054】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクム野生型ATCC13032の中のhom遺伝子をV59Aのhom遺伝子に置換えることに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1000の構築が成功した。
【0055】
(2)染色体pyc遺伝子の特定部位の突然変異
【0056】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のpyc遺伝子およびその上下流の配列に基づいてそれぞれプライマーを設計する。
【0057】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとし、突然変異部位にプライマーを設計して、突然変異部位の上流と下流の2つの部分のpyc遺伝子をそれぞれ増幅する。P7とP8をプライマーとしてpyc遺伝子の上半分を増幅し、P9とP10をプライマーとしてpyc遺伝子の下半分を増幅する。また、純化された上記PCR産物をテンプレートとし、P7とP10をプライマーとして、重合伸長PCR技術(SOE)を採用して増幅し、3423bpのPCR産物を得て、この産物には、第458位のプロリンがセリン(P458S突然変異)に突然変異されたpyc遺伝子(SEQ ID NO.8)、即ちpyc*遺伝子が含まれている。
【0058】
上記3423bpのPCR産物をXbaIとHindIIIでダブルダイジェストした後、同じダブルダイジェストで処理された相同組換え担体pk18mobsacB( American Type Culture Collection (ATCC)から購入、品番87097)と連結する。連結された産物は化学的な転換法を採用して大腸菌DH5αに転換して、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代の後に、P11とP12をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出し、プラスミドをXbaIとHindIIIでダブルダイジェスト鑑定を行い、3423bpを得たものは陽性とする。
【0059】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドは配列表のSEQ ID NO.8に示すヌクレオチドを担体pk18mobsacBに挿入して得られた組換えプラスミドであり、YZ037と名付けて、その構成は図6に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYZ037をコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1000に電気転換する。カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。P11とP12をプライマーとして陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、正確と鑑定された組換え菌を得て、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1007と名付ける。
【0062】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1000の中のpyc遺伝子をP458S突然変異のpyc*遺伝子に置換えることに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1007の構築が成功した。
【0063】
(3)pck遺伝子のノックアウトとpyc*−dapBのコピーの増加
【0064】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のpck遺伝子およびその上下流の配列に基づいてそれぞれプライマーを設計する。
【0065】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとし、P13とP14をプライマーとして、pck遺伝子の上流部分の配列(SEQ ID NO.15)を増幅し、P15とP16をプライマーとして、pck遺伝子のプロモーターを増幅し、P21とP22をプライマーとして、pck遺伝子の下流部分の配列(SEQ ID NO.16)を増幅する。純化された上記PCR産物をそれぞれpyc*−dapBオペロンの上下流ホモロジーアームとして、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムに統合されるとき、pckをノックアウトする目的が達成できる。
【0066】
(2)で構築された点突然変異付きのpyc*遺伝子とコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをそれぞれテンプレートとして、プライマーを設計し、それぞれpyc*とdapB(SEQ ID NO.17)を増幅する。NCBIデータベースから関連する遺伝子配列の塩基情報を取得し、6対のプライマーを設計し、pyc*−dapB遺伝子の断片を構築する(表3)。
【0067】
【表3】
【0068】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとして、それぞれP13とP14、P15とP16、P17とP18、P19とP20、P21とP22をもって、長さ750bp、244bp、3423bp、896bpおよび767bpの遺伝子を増幅し、それぞれはpck遺伝子の上流部分の配列、pyc遺伝子のプロモーターサブ配列(SEQ ID NO.57)、pyc*遺伝子配列、dapB遺伝子配列およびpck遺伝子の下流部分の配列である。
【0069】
純化された上記PCR産物を大腸菌クローン担体pk18mobsacBと混合して、NEbuilder(NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit)を利用して連結組立を行い、その後、大腸菌DH5αに転換し、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代の後に、P23とP24をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出する。
【0070】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドはpyc*−dapBを担体pk18mobsacBに挿入して得られた組換えプラスミドであり、YZ039と名付けて、その構成は図7に示す。
【0071】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYZ039をコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1007に電気転換する。カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。陽性コロニーをP23とP24をプライマーとしてPCR増幅鑑定を行い、正確と鑑定された組換え菌を得て、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1009と名付ける。
【0072】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1007中のpck遺伝子をノックアウトするとともにpyc*−dapB遺伝子断片を挿入することに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1009の構築が成功した。
【0073】
(4)lysC、ddh、lysA遺伝子のコピーの増加
【0074】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のlysC(SEQ ID NO.30)、ddh(SEQ ID NO.31)、lysA(SEQ ID NO.32)遺伝子およびその上下流の配列に基づいてそれぞれプライマーを設計する。
【0075】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーを設計し、lysC、ddh、lysA遺伝子をそれぞれ増幅する。
【0076】
【表4】
【0077】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとして、それぞれP25とP26、P27とP28、P29とP30をもって、長さ1266bp、963bpおよび1338bpの遺伝子を増幅する。
【0078】
純化された上記PCR産物を大腸菌クローン担体pXMJ19と混合して、NEbuilder(NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit)を利用して連結組立を行い、その後、大腸菌DH5αに転換し、クロロマイセチン(20μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代の後に、P25とP30をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出する。
【0079】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドはlysC、ddh、lysAを担体pXMJ19に挿入して得られた組換えプラスミドであり、YZ035と名付けて、その構成は図8に示す。
【0080】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYZ035をコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1009に電気転換する。P25とP30をプライマーとして耐性平板の上で成長できる陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、正確と鑑定された組換え菌を得て、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010と名付ける。
【0081】
この組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1009に遊離プラスミドYZ035を導入することに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010の構築が成功した。
【0082】
実施例2 リジンシャーシ工学菌におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子NCgl2062のプロモーター置き換え
【0083】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のNCgl2062遺伝子プロモーターの上下流配列とPtufプロモーター(SEQ ID No.40)に基づいてそれぞれプライマーを設計する。
【0084】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとし、P31とP32をプライマーとして、NCgl2062遺伝子プロモーターの上流ホモロジーアームをPCR増幅し、P33とP34をプライマーとして、プロモーターPtufを増幅し、P35とP36をプライマーとして、NCgl2062遺伝子プロモーターの下流ホモロジーアームを増幅する。純化された上記PCR産物をテンプレートとし、P31とP36をプライマーとして、重合伸長PCR技術(SOE)を採用して増幅し、1800bpのPCR産物を得て、この産物は置き換えプロモーターPtufおよび置き換えられたプロモーターの上下流ホモロジーアームを含む断片である。
【0085】
上記1800bpのPCR産物をXbaIとEcoRIでダブルダイジェストした後、同じダブルダイジェストで処理された相同組換え担体pk18mobsacB(AMERICAN TYPE CULTURE COLLECTION(ATCC)から購入、品番87097)と連結する。連結された産物は化学的な転換法を採用して大腸菌DH5Αに転換され、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代後、P31とP36をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、1800bpを得られれば陽性転換体とし、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出し、プラスミドに対してXbaIとEcoRIでダブルダイジェスト鑑定を行い、1800bpを得たものは陽性とする。
【0086】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドは上下流ホモロジーアームが含まれる強力プロモーターPtufを担体pk18mobsacBに挿入して得られた組換えプラスミドであり、YZ022と名付けて、その構成は図2に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYZ022をコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010に電気転換する。カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。陽性コロニーをP31とP36をプライマーとしてPCR増幅鑑定を行い、1800bpを得たものは組換え菌とし、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1036と名付ける。
【0089】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010の中のNCgl2062プロモーターをコリネバクテリウム・グルタミクム内因性の強力Ptufに置き換えることに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1036の構築が成功した。
【0090】
実施例3 リジンシャーシ工学菌におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子NCgl2062のコピーの増加
【0091】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のNCgl2062遺伝子およびその上下流配列に基づいてプライマーを設計する。
【0092】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとし、P37とP38をプライマーとし、目的挿入部位の上流配列をPCR増幅してNCgl2062遺伝子の増加したコピーの上流ホモロジーアームとする、P39とP40をプライマーとして、NCgl2062遺伝子を増幅し、P41とP42をプライマーとして、目的挿入部位の下流配列を増幅してNCgl2062遺伝子の増加したコピーの下流ホモロジーアームとする。純化された上記PCR産物をテンプレートとし、P37とP42をプライマーとして、重合伸長PCR技術(SOE)を採用して増幅し、2778bpのPCR産物を得て、この産物は目的挿入部位の上下流ホモロジーアームおよびNCgl2062 遺伝子を含む断片である。
【0093】
上記2778bpのPCR産物をXbaIとNheIでダブルダイジェストした後、同じダブルダイジェストで処理された相同組換え担体pk18mobsacB( AMERICAN TYPE CULTURE COLLECTION (ATCC)から購入、品番87097)と連結する。連結された産物は化学的な転換法を採用して大腸菌DH5αに転換して、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代の後に、P37とP42をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、2778bpを得られれば陽性転換体であり、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出し、プラスミドをXbaIとNheIでダブルダイジェスト鑑定を行い、2778bpを得たものは陽性とする。
【0094】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドは目的挿入部位の上下流ホモロジーアームを含み、およびNCgl2062遺伝子を担体pk18mobsacBに挿入して得られた組換えプラスミドであり、YZ023と名付けて、その構成は図3に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYZ023をコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010の中に電気転換する。カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。P37とP42をプライマーとして陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、2778bpを得たものは組換え菌とし、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1039と名付ける。
【0097】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010の目的部位にコピーされたNCgl2062 遺伝子を挿入することに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1039の構築が成功した。
【0098】
実施例4 リジンシャーシ工学菌におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子NCgl2062のノックアウト
【0099】
Genbankにおけるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のNCgl2062遺伝子およびその上下流配列に基づいてプライマーを設計する。
【0100】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAをテンプレートとし、P43とP44をプライマーとして、NCgl2062遺伝子の上流ホモロジーアームをPCR増幅し、P45とP46をプライマーとして、NCgl2062遺伝子の下流ホモロジーアームを増幅する。純化された上記PCR産物をテンプレートとし、P43とP46をプライマーとして、重合伸長PCR技術(SOE)を採用して増幅し、1600bpのPCR産物を得て、この産物はNCgl2062遺伝子上下流ホモロジーアームを含む断片である。
【0101】
上記1600bpのPCR産物をEcoRIとNheIでダブルダイジェストした後、同じダブルダイジェストで処理されたた相同組換え担体pk18mobsacB(AMERICAN TYPE CULTURE COLLECTION(ATCC)から購入、品番87097)と連結する。連結された産物は化学的な転換法を採用して大腸菌DH5αに転換して、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板の上で転換体をスクリーニングし、転換体を継代培養して三世代の後に、P43とP46をプライマーとして、コロニーPCRを採用して転換体を鑑定し、1600bpを得られれば陽性転換体であり、正確と鑑定された転換体に対してプラスミドを抽出し、プラスミドに対してEcoRIとNheIでダブルダイジェスト鑑定を行い、1600bpを得たものは陽性とする。
【0102】
陽性プラスミドをシークエンシングし、結果として、このプラスミドはNCgl2062遺伝子の上下流ホモロジーアームを含む断片を担体pk18mobsacBに挿入して得られた組換えプラスミドであり、YZ025と名付けて、その構成は図4に示す。
【0103】
【表8】
【0104】
シークエンシングで正確と測定された相同組換えプラスミドYZ025をコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010の中に電気転換する。カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。P43とP46をプライマーとして陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、1600bpを得たものは組換え菌とし、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1038と名付ける。
【0105】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングし、結果として、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1010からNCgl2062遺伝子をノックアウトすることに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1038の構築が成功した。
【0106】
実施例5 コリネバクテリウム・グルタミクムリジン工学菌のリジン発酵生産における応用
【0107】
それぞれ振盪レベルと3L発酵槽レベルにおいて、実施例2〜4で構築された産L−リジンコリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1036、EPCG1038、EPCG1039および出発菌株EPCG1010を培養することによって、L−リジンを生産する方法は以下の通りである。
【0108】
(1)振盪発酵:
【0109】
コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1036、EPCG1038、EPCG1039およびEPCG1010を下記の種子培地50mlを含む500mlの三角フラスコの中に接種し、30℃、220rpmで8〜9時間振動培養する。その後、5mlの各種子培養液を下記の発酵培地50mlを含む500MLのバッフルフラスコの中に接種し、37℃、220rpmで42〜46時間振動培養する。発酵培養6h時に最終濃度1mmol/Lのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加入して目的遺伝子の誘導発現を行う。間欠的に濃アンモニアを追加して発酵液のpHを7.0〜7.2の間に制御し、殘糖の状況に応じて、濃度400g/Lのグルコース母液を追加し、発酵液殘糖を5〜10g/Lに制御する。
【0110】
(2)3L発酵槽発酵:
【0111】
コリネバクテリウム・グルタミクムEPCG1036、EPCG1038、EPCG1039およびEPCG1010を下記の種子培地100mlを含む1000mlの三角フラスコの中に接種し、30℃、220rpmで8〜9時間振動培養する。その後、各種子培養液を下記の発酵培地900mlを含む3L発酵槽の中に接種し、37℃、0.01MPaタンク圧で42〜46時間培養する。種子液を体積含有率10%で最終濃度10μg/mlのクロロマイセチンを含む発酵培地の中に接種する。採用する発酵槽は3L発酵槽であり、定速度プログラマポンプを内蔵し、定速度で材料を補充することが実現できる。発酵の過程中に蠕動ポンプを通じて600g/Lのグルコースを追加し、発酵システムでのグルコースの濃度を5〜10g/Lに制御するとともに、加熱マントルおよび冷却水を通じて発酵温度を30℃に維持するように制御し、空気を入れて溶存酸素を提供し、回転速度と溶存酸素信号がカスケード制御して溶存酸素を30%に維持し、濃アンモニアを追加してpHをコントロールし、約6.9に維持する。発酵が52h連続で行う。OD600=4〜5になる時、IPTG(イソプロピルチオガラクトシド、最終濃度は0.1mmol/L)を加入して、組換えプラスミドが携帯している遺伝子の発現を誘導する。
【0112】
種子培地と発酵培地は以下の通りである。
【0113】
種子培地(pH 7.0)
【0114】
ショ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素3.5g、リン酸二水素カリウム4g、リン酸水素二カリウム10g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、ビオチン0.2mg、ビタミンB11.5mg、D-パントテン酸カルシウム2mg、ニコチンアミド3mg(1リットル蒸留水に溶ける)。
【0115】
発酵培地(pH 7.0)
【0116】
グルコース40g、糖蜜20g、リン酸0.4g、硫酸アンモニウム15g、硫酸マグネシウム七水和物0.87g、ビオチン0.88mg、ビタミンB16.3mg、D-パントテン酸カルシウム6.3mg、ニコチンアミド42mg(1リットル蒸留水に溶ける)。
【0117】
(3)リジンの収量の測定
【0118】
HPLC方法:
【0119】
1、流動相:
【0120】
有機相:メタノール:アセトニトリル:水=45:45:10(V/V);
【0121】
水相:12.436g NAHPO・2HOは2Lの超純水に溶解し、NAOHでPHを7.8に調整する。
【0122】
2、溶離手順:
【0123】
【0124】
リジン標準品で標準濃度の溶液を調製し、濃度はそれぞれ0.2g/L、0.4g/L、0.8g/L、1.6g/Lで、ピーク面積に基づいて標準曲線を描き、発酵液中のリジン濃度を以下のように計算する。
【0125】
【表9】
【0126】
振盪発酵実験の結果は、アスパラギナーゼの遺伝子の発現を強化すると、リジンの収量が著しく向上し、この遺伝子をノックアウトすると、リジンの収量が明らかに減少したことを明示した。
【0127】
振盪発酵の結果に対応して、3L発酵槽レベルの発酵では、アスパラギナーゼ符号化遺伝子のコピーをひとつ追加すると、リジンの収量は59.48%向上し、アスパラギナーゼ符号化遺伝子プロモーターを強力プロモーターに置き換えると、リジンの収量は14.83%向上したが、アスパラギナーゼ符号化遺伝子をノックアウトすると、リジンの収量は27.39%減少した。
【0128】
実施例6 コリネバクテリウム・北京1.563におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子NCgl2062の発現の強化
【0129】
リジンを蓄積できるコリネバクテリウム・北京AS1.563を出発菌株として、アスパラギナーゼ遺伝子の発現がリジン酸の蓄積に与える影響を分析する。
【0130】
(1)NCgl2062遺伝子の強力プロモーターの置き換え
【0131】
実施例2で構築された組換え担体YZ022を、コリネバクテリウム・北京AS1.563(中国工業微生物菌種保蔵管理センター、CIC10178)の中に変換することによって、NCgl2062遺伝子プロモーターを強力プロモーターPtufに置き換えることを実現する。
【0132】
カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。陽性コロニーをP31とP36をプライマーとしてPCR増幅鑑定を行い、1800bpを得たものを組換え菌とし、コリネバクテリウム・グルタミクムCP1008と名付ける。
【0133】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・北京AS1.563中のNCgl2062のプロモーターをコリネバクテリウム・グルタミクム内因性強力プロモーターPtufに置換えることに成功し、コリネバクテリウム・グルタミクムCP1008の構築が成功した。
【0134】
(2)NCgl2062遺伝子のコピーの増加
【0135】
実施例3で構築された組換え担体YZ023を、コリネバクテリウム・北京AS1.563に転換して、NCgl2062遺伝子のコピーの増加を実現する。
【0136】
カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。P37とP42をプライマーとして陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、2778bpを得たものは組換え菌とし、コリネバクテリウム・グルタミクムCP1009と名付ける。
【0137】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・北京AS1.563の目的部位にNCgl2062遺伝子のコピーをひとつ挿入することに成功し、コリネバクテリウム・北京CP1009の構築が成功した。
【0138】
(3)コリネバクテリウム・北京AS1.563におけるアスパラギナーゼ符号化遺伝子NCgl2062のノックアウト
【0139】
実施例4で構築された組換え担体YZ025を、コリネバクテリウム・北京AS1.563の中に転換することによって、NCgl2062遺伝子のノックアウトを実現する。
【0140】
カナマイシン耐性の正の選択を通じて組換えプラスミドが染色体の上に統合されたコロニーを得る。蔗糖の負の選択を通じて、相同組換えが2回発生した陽性コロニーを得る。P43とP46をプライマーとして陽性コロニーをPCR増幅鑑定を行い、1600bpを得たものは組換え菌とし、コリネバクテリウム・グルタミクムCP1010と名付ける。
【0141】
当該組換え菌からゲノムDNAを抽出してシークエンシングを行い、結果として、コリネバクテリウム・北京AS1.563からNCgl2062遺伝子をノックアウトすることに成功し、コリネバクテリウム・北京CP1010の構築が成功した。
【0142】
実施例7 コリネバクテリウム・北京リジン工学菌のリジン発酵生産における応用
【0143】
それぞれ振盪レベルと3L発酵槽レベルで実施例6に構築された産L−リジンコリネバクテリウム・北京CP1008、CP1009、CP1010および出発菌株AS1.563を培養することによって、L−リジンを生産する方法は以下の通りである。
【0144】
(1)振盪発酵:
【0145】
コリネバクテリウム・北京CP1008、CP1009、CP1010およびAS1.563を下記の種子培地50mlを含む500mlの三角フラスコの中に接種し、30℃、220rpmで8〜9時間振動培養する。その後、5mlの各種子培養液を下記の発酵培地50mlを含む500mlのバッフルフラスコの中に接種し、37℃、220rpmで42〜46時間振動培養する。間欠的に濃アンモニアを追加して発酵液のpHは7.0〜7.2の間に制御し、殘糖の状況に応じて、濃度400g/Lのグルコース母液を追加し、発酵液殘糖を5〜10g/Lに制御する。
【0146】
(2)3L発酵槽発酵:
【0147】
コリネバクテリウム・北京CP1008、CP1009、CP1010およびAS1.563を下記の種子培地100mlを含む1000mlの三角フラスコ中に接種し、30℃、220rpmで8〜9時間振動培養する。その後、各種子培養液を下記の発酵培地900mlを含む3L発酵槽の中に接種し、37℃、0.01MPaタンク圧で42〜46時間培養する。採用する発酵槽は3L発酵槽であり、定速度プログラマポンプを内蔵し、定速度で材料を補充することが実現できる。発酵の過程中に蠕動ポンプを通じて600g/Lのグルコースを追加し、発酵システムでのグルコースの濃度を5〜10g/Lに制御するとともに、加熱マントルおよび冷却水を通じて発酵温度を30℃に維持するように制御し、空気を入れて溶存酸素を提供し、回転速度と溶存酸素信号がカスケード制御して溶存酸素を30%に維持し、濃アンモニアを追加してpHをコントロールし、約6.9に維持する。発酵が52h連続で行う。
【0148】
種子培地と発酵培地は以下の通りである。
【0149】
種子培地(pH 7.0)
【0150】
ショ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素3.5g、リン酸二水素カリウム4g、リン酸水素二カリウム10g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、ビオチン0.2mg、ビタミンB11.5mg、D-パントテン酸カルシウム2mg、ニコチンアミド3mg(1リットルの蒸留水に溶ける)。
【0151】
生産培地(pH 7.0)
【0152】
グルコース40g、糖蜜20g、リン酸0.4g、硫酸アンモニウム15g、硫酸マグネシウム七水和物0.87g、ビオチン0.88mg、ビタミンB16.3mg、D-パントテン酸カルシウム6.3mg、ニコチンアミド42mg(1リットルの蒸留水に溶ける)。
【0153】
培養が完了した後、HPLC分析を行い、菌株生産のL−リジンの含有量を測定する。コリネバクテリウム・北京CP1008、CP1009、CP1010およびAS1.563におけるL−リジン濃度は表10に示す。
【0154】
【表10】
【0155】
上記の表から、振盪レベルにおいても、3L発酵槽レベルにおいても、改造菌株の間では大きな違いが見られる。
【0156】
振盪発酵と発酵槽発酵の違いの傾向は一致している。即ち、アスパラギナーゼ遺伝子の発現を強化した後、リジンの収量が増加した。それに応じて,この遺伝子をノックアウトした後,リジンの収量は明らかに減少した。
【0157】
発酵槽の発酵産酸データについては、CP1008はAS1.563に比べて、リジンの収量は86.6%向上し、CP1009はAS1.563に比べて、リジンの収量は36.3%向上した。一方、CP1010はAS1.563に比べて、リジンの収量は29.5%減少した。
【0158】
最後に、上記の実施例は、実施形態に限定されるものではなく、本発明の例示を明確に説明するためにのみなされていることを説明すべきである。当業者にとっては、上記の説明をもとに、他の異なる形態の変化や変動が可能である。ここではすべての実施形態を列挙することはできないし、必要もない。これによってもたらす明らかな変化または変動は、本発明の保護範囲にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]