【文献】
SMITH, G. et al.,Effects of ascorbic acid and disodium edetate on the stability of isoprenaline hydrochloride injecti,Journal of Clinical and Hospital Pharmacy,1984年,Vol.9,pp.209-215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コーティング液における、イソプロテレノール又はその薬学的に許容可能な塩に対するエチレンジアミン四酢酸又はその薬学的に許容可能な塩の質量比が、0.013以上である、請求項1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイスの製造方法は、マイクロニードルにコーティング液を塗布して、マイクロニードル上にコーティングを形成する工程(塗布工程)を備える。塗布工程の後、コーティングを乾燥させる工程(乾燥工程)を実施してもよい。ここで、マイクロニードルデバイスは、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備えるデバイスである。コーティングの組成については後述する。
【0012】
本発明におけるマイクロニードルデバイスの一実施形態を
図1に示す。マイクロニードルデバイス10は、基板2と、基板2の主面上に配置された複数のマイクロニードル4と、マイクロニードル4上に形成されたコーティング6と、を備える。本明細書において、基板2上にマイクロニードル4が複数配置された構成をマイクロニードルアレイという。
【0013】
基板2は、マイクロニードル4を支持するための土台である。基板2の形状は特に限定されず、例えば、矩形又は円形であってよく、かつ、主面は平坦又は曲面であってよい。基板2の面積は、例えば、0.5cm
2〜10cm
2、0.5cm
2〜5cm
2、1cm
2〜5cm
2、0.5cm
2〜3cm
2、又は1cm
2〜3cm
2であってよい。基板2の厚みは、例えば、50μm〜2000μm、300μm〜1200μm、又は500μm〜1000μmであってよい。
【0014】
マイクロニードル4は、針形状の凸状構造物であってよい。マイクロニードル4の形状は、例えば、四角錐形等の多角錐形又は円錐形であってよい。マイクロニードル4は微小構造であり、マイクロニードル4の、基板2の主面に対する垂直方向の長さ(高さ)H
Mは、例えば、50μm〜600μm、100μm〜500μm又は300μm〜500μmであってよい。
【0015】
マイクロニードル4は、基板の主面上に、例えば、正方格子状、長方格子状、斜方格子状、45°千鳥状、又は60°千鳥状に配置される。
【0016】
マイクロニードル4が基板2上に配置される密度(針密度)は、マイクロニードル4を実質的に備える領域における、単位面積あたりのマイクロニードル4の本数で表される。マイクロニードル4を実質的に備える領域とは、マイクロニードルデバイス10に配置された複数のマイクロニードル4のうち最外部のマイクロニードル4を結んで得られる領域である。より多くのデクスメデトミジンを皮膚内に導入する観点から、針密度は、例えば、10本/cm
2以上、50本/cm
2以上、又は100本/cm
2以上であってよい。皮膚刺激を低減する観点から、針密度は、例えば、2000本/cm
2以下、850本/cm
2以下、500本/cm
2以下、200本/cm
2以下、又は160本/cm
2以下であってよい。
【0017】
基板2及びマイクロニードル4の材質は、例えば、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属、多糖類、又は合成の若しくは天然の樹脂素材であってよい。多糖類としては、プルラン、キチン、及びキトサンが例示される。樹脂素材は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸−co−ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−アミノ酪酸)等の生分解性ポリマーであってよく、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、環状オレフィン共重合体等の非分解性ポリマーであってもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る、マイクロニードルデバイス10の製造方法における塗布工程では、マイクロニードル4にコーティング液を塗布して、マイクロニードル4上にコーティング6を形成する。コーティング液は、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩と、イソプロテレノール又はその薬学的に許容可能な塩と、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその薬学的に許容可能な塩と、硫酸化多糖と、を含む。本明細書において、特に区別しない限り、「デクスメデトミジン」は「デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩」を意味し、「イソプロテレノール」は「イソプロテレノール又はその薬学的に許容可能な塩」を意味し、「エチレンジアミン四酢酸」は「エチレンジアミン四酢酸又はその薬学的に許容可能な塩」を意味する。
【0019】
本発明において、デクスメデトミジンは有効成分であり、イソプロテレノールは、血漿中のデクスメデトミジン濃度をより速く上昇させる成分であり、EDTAは、イソプロテレノールの安定性を高める成分であり、硫酸化多糖は、デクスメデトミジン及びイソプロテレノールをマイクロニードル4上に担持することを助ける成分である。
【0020】
硫酸化多糖は、水酸基又はアミノ基に硫酸が結合した多糖である。硫酸化多糖は、例えば、コンドロイチン硫酸、カラギーナン、フコイダン、アスコフィラン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン類似物質、ケラタン硫酸、フノラン、ポルフィラン、アガロペクチン、ファーセルラン、ラムナン硫酸、グルクロノキシロラムナン硫酸、キシロアラビノガラクタン硫酸、グルクロノキシロラムノガラクタン硫酸、アラビナン硫酸、及びアラビノラムナン硫酸、硫酸化デキストラン、硫酸化ペントサン、硫酸化カードラン、及び硫酸化セルロース、並びにこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の硫酸化多糖であってよい。硫酸化多糖は、好ましくはコンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容可能な塩であり、より好ましくはコンドロイチン硫酸ナトリウムである。
【0021】
コーティング液は、コーティング液中の成分(すなわち、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、及び硫酸化多糖)を溶解させる溶媒を1種以上含む。溶媒としては、例えば、水、多価アルコール、低級アルコール、及びトリアセチンが挙げられ、水が好ましい。
【0022】
コーティング液は、イソプロテレノールの安定性を損なわない限り、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、硫酸化多糖、及び溶媒以外に、他の成分(例えば、pH調整剤、血漿中へのデクスメデトミジンの移行を促進する成分、油脂、又は無機物)をさらに含んでいてよい。ただし、コーティング液は、界面活性剤、単糖、及び二糖を含まないことが好ましい。界面活性剤、単糖、及び二糖は、コーティング液の表面張力及び粘度を低下させ、マイクロニードル4の1本あたりの生理活性物質の担持量を低下させる可能性がある。また、イソプロテレノールの安定性を維持する観点から、コーティング液は、アスコルビン酸若しくはその塩、アルファチオグリセリン、L−システイン、及びピロ亜硫酸若しくはその塩を含まないことが好ましい。
【0023】
コーティング液におけるデクスメデトミジンの濃度は、例えば、0.5質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、又は40質量%以上であってよく、60質量%以下又は50質量%以下であってよい。デクスメデトミジンの有する治療効果を十分に得る観点から、コーティング液におけるデクスメデトミジンの濃度は、好ましくは0.5質量%〜60質量%又は5質量%〜50質量%、より好ましくは30質量%〜50質量%、さらに好ましくは40質量%〜50質量%である。
【0024】
コーティング液におけるイソプロテレノールの濃度は、例えば、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、10質量%以下、5質量%以下、2.5質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。血漿中のデクスメデトミジン濃度をより速く上昇させる観点から、コーティング液におけるイソプロレテノールの濃度は、好ましくは0.01質量%〜10質量%又は0.1質量%〜5質量%、より好ましくは0.2〜2.5質量%、さらに好ましくは0.3質量%〜1.5質量%である。
【0025】
コーティング液におけるEDTAの濃度は、例えば、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、10質量%以下、5質量%以下、2.5質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。イソプロレテノールの安定性を高める観点から、コーティング液におけるEDTAの濃度は、好ましくは0.01質量%〜10質量%、0.02質量%〜5質量%、又は0.05質量%〜5質量%、より好ましくは0.1質量%〜2.5質量%、さらに好ましくは0.1質量%〜1.5質量%である。
【0026】
コーティング液における硫酸化多糖の濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、6質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、又は12質量%以上であってよく、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、6質量%以下、又は4質量%以下であってよい。マイクロニードル4の1本あたりにつきより多くのデクスメデトミジン及びイソプロテレノールを担持させる観点から、コーティング液における硫酸化多糖の濃度は、好ましくは、0.5質量%〜16質量%又は1質量%〜16質量%、より好ましくは2質量%〜16質量%又は2質量%〜14質量%、さらに好ましくは4質量%〜12質量%である。
【0027】
コーティング液における、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、硫酸化多糖、及び溶媒以外の、その他の成分の合計濃度は、例えば、80質量%以下、60質量%以下、30質量%以下、又は20質量%以下であってよい。コーティング液は、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、硫酸化多糖、及び溶媒以外の成分を含まなくてもよい。
【0028】
コーティング液における、イソプロテレノールに対するEDTAの質量比は、例えば、0.0067以上、0.013以上、0.033以上、0.067以上、0.33以上、0.67以上、又は1以上であってよく、5以下、3.3以下、又は2以下であってよい。イソプロテレノールの安定性を高める観点から、コーティング液における、イソプロテレノールに対するEDTAの質量比は、好ましくは0.013以上又は0.033以上、より好ましくは0.067以上又は1以上、さらに好ましくは0.033〜5、0.033〜1、又は0.067〜1である。
【0029】
コーティング液における、デクスメデトミジンに対する硫酸化多糖の質量比は、例えば、0.01以上、0.02以上、0.04以上、0.09以上、0.13以上、0.18以上、0.22以上、又は0.27以上であってよく、0.36以下、0.31以下、0.27以下、0.22以下、0.18以下、0.13以下、又は0.09以下であってよい。マイクロニードル4の1本あたりにつきより多くのデクスメデトミジンを担持させる観点から、コーティング液における、デクスメデトミジンに対する硫酸化多糖の質量比は、好ましくは0.01〜0.36又は0.02〜0.36であり、より好ましくは0.04〜0.36又は0.04〜0.31であり、さらに好ましくは0.09〜0.27である。
【0030】
コーティング液における、イソプロテレノールに対する硫酸化多糖の質量比は、例えば、0.3以上、0.7以上、1以上、3以上、4以上、5以上、7以上、又は8以上であってよく、40以下、27以下、16以下、11以下、9以下、8以下、7以下、5以下、4以下、又は3以下であってよい。マイクロニードル4の1本あたりにつきより多くのイソプロテレノールを担持させる観点から、コーティング液における、イソプロテレノールに対する硫酸化多糖の質量比は、好ましくは0.3〜11又は0.7〜11であり、より好ましくは1〜11又は1〜9であり、さらに好ましくは3〜8である。
【0031】
コーティング液における、デクスメデトミジンに対するイソプロテレノールの質量比は、血漿中のデクスメデトミジン濃度の上昇速度を向上させる観点から、0.003以上、0.008以上、0.01以上、0.03以上、又は0.07以上であってよい。コーティング液における、デクスメデトミジンに対するイソプロテレノールの質量比は、0.18以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下、若しくは0.03以下であってよく、又は0.003〜0.18若しくは0.008〜0.09であってよい。デクスメデトミジンに対するイソプロテレノールの質量比は、好ましくは0.008〜0.03である。
【0032】
コーティング液に含まれる各成分の濃度は、例えば、液体クロマトグラフ法により測定することができる。
【0033】
マイクロニードル4により多くのコーティング液を塗布する観点及び、マイクロニードル4の先端部分にコーティング6を形成する観点から、コーティング液の粘度は、25℃において、好ましくは500mPa・s〜30000mPa・sであり、より好ましくは1000mPa・s〜10000mPa・sである。同様の観点から、コーティング液の表面張力は、好ましくは10mN/m〜100mN/mであり、より好ましくは20mN/m〜80mN/mである。
【0034】
コーティング液は、上記成分を混合することにより調製できる。すなわち、一実施形態において、本発明の方法は、塗布工程の前に、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、及び硫酸化多糖を混合して、コーティング液を調製する工程を備えてよい。成分を混合する順番は特に限定されず、例えば、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、硫酸化多糖、及び溶媒を同時に混合してもよい。あるいは、まず、デクスメデトミジン、EDTA及び硫酸化多糖を溶媒と混合し、次いで混合溶液にイソプロテレノールを加えて混合してもよい。コーティング液は、マイクロニードル4に塗布するまでの間、例えばヘラを用いて混合又はかき混ぜてもよい。ヘラは特に限定されず、例えば、スキージ、スクレッパー等、スクリーン印刷用のヘラを用いることができる。
【0035】
マイクロニードル4にコーティング液を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、インクジェット式コーティング又は浸漬コーティングにより、コーティング液を塗布することができる。なかでも、浸漬コーティングが好ましい。浸漬コーティングでは、コーティング液が溜められたリザーバーにマイクロニードル4を一定の深さまで浸漬し、次いでリザーバーからマイクロニードル4を引き出すことにより、マイクロニードル4にコーティング液が塗布される。EDTAを含むコーティング液を用いる本実施形態に係る方法によれば、コーティング液を調製してからマイクロニードルに塗布するまでに時間がかかった場合であっても、リザーバー中のコーティング液におけるイソプロテレノールの分解が抑えられる。すなわち、マイクロニードルデバイスの製造過程におけるイソプロテレノールを安定化することができる。
【0036】
マイクロニードル4に塗布されるコーティング液の量は、一例として、浸漬コーティングによる塗布の場合、マイクロニードル4を浸漬する深さによって調整することができる。ここで、マイクロニードル4を浸漬する深さとは、浸漬されたマイクロニードル4の頂点から塗布液の表面までの距離を示す。浸漬する深さは、マイクロニードル4の長さH
Mにもよるが、例えば、H
M以下又はH
M/2以下であってよい。ただし、コーティング6に含まれる成分のうち、マイクロニードル4の基底部分に形成された部分に含まれる成分は、マイクロニードル4の先端部分に形成された部分に含まれる成分に比べて、皮膚内に導入されにくい。したがって、より多くのコーティング液をマイクロニードル4の主に先端部分に塗布することが好ましい。ここで、マイクロニードル4の先端部分とは、後述するように、マイクロニードル4の頂点から、基板2の主面(すなわち、基底部分)に対して垂直方向に測った長さが、例えば、マイクロニードル4の長さH
Mの50%以内の長さとなる部分を示す。
【0037】
塗布工程の後の任意の乾燥工程では、コーティング6を乾燥させる。ここで、コーティング6を乾燥させるとは、コーティング6に含まれる溶媒の一部又は全部を揮発させることを意味する。コーティング6は、例えば、マイクロニードルデバイス10を吸湿性のアルミラミネート包装材に密封することにより、又は、風乾、真空乾燥、凍結乾燥などの方法若しくはそれらの組み合わせにより、乾燥させることができる。好適な乾燥方法は、風乾である。
【0038】
ここで、硫酸化多糖を含む本発明に係るコーティング液は、高い粘度及び表面張力を有するため、コーティング6を乾燥させる前又は乾燥させている間にコーティング6が重力によって下方へ流れ広がることを、より低減することができる。したがって、マイクロニードル4が上を向くようにマイクロニードルアレイを置いてコーティング6を乾燥させた場合であっても、マイクロニードル4の主に先端部分にコーティング6を維持することができる。
【0039】
塗布工程及び乾燥工程は、繰り返し行うことができる。これらの工程を繰り返すことにより、形成されるコーティング6の量をより増やすことができる。
【0040】
以上の方法により製造される、本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイス10は、デクスメデトミジンと、イソプロテレノールと、EDTAと、硫酸化多糖と、を含むコーティング6をマイクロニードル4上に備える。
【0041】
マイクロニードルデバイス10を構成する、マイクロニードルアレイ、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、及び硫酸化多糖の詳細は上述したとおりである。上述のコーティング液とコーティング6とは、溶媒を除いて、同じ成分を有する。しかし、コーティング6は、上述の溶媒を含んでいてもよい。
【0042】
デクスメデトミジンの量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、10質量部以上、40質量部以上、45質量部以上、又は60質量部以上であってよく、90質量部以下又は85質量部以下であってよい。デクスメデトミジンの有する治療効果を十分に得る観点から、デクスメデトミジンの量は、100質量部のコーティング6に対して、好ましくは10質量部〜90質量部又は40質量部〜85質量部、より好ましくは45質量部〜85質量部、さらに好ましくは60質量部〜85質量部である。
【0043】
イソプロテレノールの量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、0.2質量部以上、0.6質量部以上、0.8質量部以上、1.5質量部以上、2.4質量部以上、又は4.8質量部以上であってよく、12質量部以下、9質量部以下、5.5質量部以下、5.0質量部以下、4.8質量部以下、又は2.7質量部以下であってよい。血漿中のデクスメデトミジン濃度をより速く上昇させる観点から、イソプロレテノールの量は、100質量部のコーティング6に対して、好ましくは0.2質量部〜12質量部又は0.6質量部〜9質量部、より好ましくは0.6質量部〜5質量部、さらに好ましくは0.6〜2.7質量部である。
【0044】
EDTAの量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、0.02質量部以上、0.04質量部以上、0.09質量部以上、0.2質量部以上、0.9質量部以上、1.8質量部以上、又は2.7質量部以上であってよく、10質量部以下、6質量部以下、4質量部以下、又は2.7質量部以下であってよい。イソプロテレノールの安定性を高める観点から、EDTAの量は、100質量部のコーティング6に対して、好ましくは0.01質量部〜10質量部、0.02質量部〜6質量部、又は0.04質量部〜6質量部、より好ましくは0.2質量部〜4質量部、さらに好ましくは0.2質量部〜2.7質量部である。
【0045】
硫酸化多糖の量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、1質量部以上、2質量部以上、4質量部以上、8質量部以上、11質量部以上、15質量部以上、18質量部以上、又は20質量部以上であってよく、25質量部以下、23質量部以下、20質量部以下、18質量部以下、15質量部以下、11質量部以下、又は8質量部以下であってよい。マイクロニードル4の1本あたりにつきより多くのデクスメデトミジン及びイソプロテレノールを担持させる観点から、硫酸化多糖の量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、1質量部〜25質量部、2質量部〜25質量部、4質量部〜25質量部、4質量部〜23質量部、又は8質量部〜20質量部であってよい。
【0046】
デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、硫酸化多糖、及び溶媒以外の、その他の成分の合計量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、95質量部以下、75質量部以下、50質量部以下、又は30質量部以下であってよい。コーティング6は、デクスメデトミジン、イソプロテレノール、EDTA、硫酸化多糖、及び溶媒以外の成分を含まなくてもよい。
【0047】
イソプロテレノールに対するEDTAの質量比、デクスメデトミジンに対する硫酸化多糖の質量比、イソプロテレノールに対する硫酸化多糖の質量比、及びデクスメデトミジンに対するイソプロテレノールの質量比は、上述のとおりである。すなわち、これら質量比は、コーティング液における質量比と同じであってよい。
【0048】
マイクロニードル4の1本あたりのコーティング6の担持量は、例えば、10ng〜10000ng、490ng〜700ng、516ng〜642ng、456ng〜836ng、又は819ng〜836ngであってよい。十分な薬効を発揮する観点から、マイクロニードル4の1本あたりのデクスメデトミジンの担持量は、390ng以上、451ng以上、又は670ng以上であってよい。マイクロニードル4の1本あたりのデクスメデトミジンの担持量の上限は特にないが、例えば、2μg以下、1μg以下、755ng以下、545ng以下又は500ng以下であってよい。マイクロニードル4の1本あたりのイソプロテレノールの担持量は、例えば、0.1ng〜100ng、0.6ng〜25ng、又は0.4ng〜25ngであってよい。
【0049】
コーティング6に含まれる各成分の量は、例えば、液体クロマトグラフ法により測定することができる。
【0050】
マイクロニードル4が複数本ある場合、コーティング6は、全てのマイクロニードル4に形成されていてもよく、一部のマイクロニードル4にのみ形成されていてもよい。コーティング6は、マイクロニードル4の一部分だけに形成されていてもよく、マイクロニードル4の全体を覆うように形成されていてもよい。コーティング6は、マイクロニードル4の先端部分に形成されていることが好ましい。ここで、マイクロニードル4の先端部分とは、マイクロニードル4の頂点から、基板2の主面(すなわち、基底部分)に対して垂直方向に測った長さが、マイクロニードル4の長さH
Mの50%以内、40%以内、30%以内、又は20%以内の長さとなる部分を示す。コーティング6の平均の厚さは、100μm未満、50μm未満、又は1μm〜30μmであってよい。
【実施例】
【0051】
<試験例1−1>マイクロニードルデバイスにおけるイソプロテレノールの安定性
以下のとおり、異なる安定化剤を用いてマイクロニードルデバイスを製造し、1ヶ月後のイソプロテレノール塩酸塩の安定性を評価した。
【0052】
表1に示す組成のコーティング液を調製し、コーティング液をリザーバーに充填して、60分間スキージで混合した。1cm
2の領域に密度156本/cm
2でマイクロニードルを備え、各マイクロニードルの形状は高さ500μmの四角錐である、ポリ乳酸のマイクロニードルアレイを用意し、マイクロニードルの先端をリザーバー中のコーティング液に浸漬した。
【0053】
コーティング液からマイクロニードルを引き上げた後、マイクロニードルデバイスを吸湿性のアルミラミネート包装材に密封し、50℃、75%RHの条件で保管した。1ヶ月保管後、マイクロニードル上のコーティングを抽出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により抽出物中のイソプロテレノール塩酸塩及びイソプロテレノール類縁物を定量した。
HPLCの条件は次のとおりである:
カラム:ODS 80Ts QA5μm(4.6mmI.D.×150mm)
流速:0.5mL/min
測定波長:280nm
【0054】
下式1により表されるコーティング中のイソプロテレノール塩酸塩の量(%)、及び下式2により表されるイソプロテレノール類縁物の生成率(%)を算出し、これらの結果に基づき、コーティング中のイソプロテレノール塩酸塩の安定性を評価した。結果を表1に示す。なお、式2における「ピーク面積」とは、1ヶ月保管後のHPLCの結果におけるピーク面積を指す。イソプロテレノール類縁物のイソプロテレノール塩酸塩に対する相対保持時間(RRT)は、1.05付近であった。
(式1):
コーティング中のイソプロテレノール塩酸塩の量(%)=1ヶ月保管後のコーティング中のイソプロテレノール塩酸塩の量/1ヶ月保管前のコーティング中のイソプロテレノール塩酸塩の量×100
(式2):
イソプロテレノール類縁物の生成率(%)=イソプロテレノール類縁物のピーク面積/イソプロテレノール塩酸塩のピーク面積×100
【0055】
【表1】
【0056】
本明細書における表中、「IP」とは、イソプロテレノールを示し、「コンドロイチン硫酸Na」とは、コンドロイチン硫酸ナトリウムを示し、「EDTA・2Na」とは、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを示す。表1中、イソプロテレノール塩酸塩の安定性が高かったマイクロニードルデバイスをAと評価し、イソプロテレノール塩酸塩の安定性が十分でなかったマイクロニードルデバイスをBと評価した。表1に示すとおり、コーティングにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、L−システイン又はアスコルビン酸を含むマイクロニードルデバイスにおいては、製造後のイソプロテレノール塩酸塩の安定性が高かった。
【0057】
<試験例1−2>製造過程におけるイソプロテレノールの安定性
以下のとおり、異なる安定化剤を用いてマイクロニードルデバイスを製造し、製造過程(1〜約24時間)におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性を評価した。本試験は、温度19〜23℃及び湿度79〜83%RHの条件で行った。また、本試験で用いたマイクロニードルアレイは、試験例1−1で用いたマイクロニードルアレイと同様である。
【0058】
表2に示す組成のコーティング液を調製し、コーティング液をリザーバーに充填して、60分間スキージで混合した。60分後、マイクロニードルアレイのマイクロニードルの先端をリザーバー中のコーティング液に浸漬して引き上げ、マイクロニードルにコーティング液を塗布した。得られたマイクロニードルデバイスのコーティング中のイソプロテレノール塩酸塩及びイソプロテレノール類縁物を定量した。
【0059】
さらに75分後(すなわち、コーティング液の調製から135分後)、新たなマイクロニードルアレイのマイクロニードルの先端をリザーバー中のコーティング液に浸漬して引き上げ、得られたマイクロニードルデバイスのコーティング中のイソプロテレノール塩酸塩及びイソプロテレノール類縁物を定量した。同様にして、75分毎にマイクロニードルを製造及び評価した。
【0060】
作製した各マイクロニードルデバイスについて、下式3により表されるイソプロテレノール類縁物の生成率(%)を算出した。コーティング液を調製してからマイクロニードルに塗布するまでの時間(すなわち、製造時間)に対するイソプロテレノール類縁物の生成率を示すグラフを
図2に示す。また、コーティング液を調製してから約24時間後にコーティング液を塗布した(すなわち、製造時間が約24時間である)マイクロニードルデバイスにおける、イソプロテレノール類縁物の生成率(%)とコーティングの外観に基づき、製造過程におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性を評価した。結果を表2に示す。なお、式3における「ピーク面積」とは、各マイクロニードルデバイスのHPLCの結果におけるピーク面積を指す。イソプロテレノール類縁物のイソプロテレノール塩酸塩に対する相対保持時間(RRT)は、1.05付近であった。
(式3):
イソプロテレノール類縁物の生成率(%)=イソプロテレノール類縁物のピーク面積/イソプロテレノール塩酸塩のピーク面積×100
【0061】
【表2】
【0062】
表2中、マイクロニードルデバイスの製造過程におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性が高かった場合をAと評価し、マイクロニードルデバイスの製造過程におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性が十分でなかった場合をBと評価した。表2に示すとおり、コーティング液にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを加えた実施例2では、コーティング液の調製からマイクロニードルへの塗布までに約24時間かかった場合であっても、イソプロテレノール塩酸塩の分解は抑えられた。一方、コーティング液にL−システインを加えた比較例6では、イソプロテレノール類縁物の生成率が高く、イソプロテレノール塩酸塩の分解が示唆された。コーティング液にアスコルビン酸を加えた比較例7では、イソプロテレノール類縁物の生成率が高いだけでなく、コーティングが褐色に変色しており、イソプロテレノール塩酸塩が複数の類縁物へと分解したことが示唆された。
【0063】
<試験例1−3>マイクロニードルデバイスにおけるイソプロテレノールの安定性
以下のとおり、異なる濃度のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム及びイソプロテレノール塩酸塩を用いてマイクロニードルデバイスを製造し、1〜2ヶ月後のイソプロテレノール塩酸塩の安定性を評価した。
【0064】
コーティング液の組成を表3及び表4に示す組成に変更したこと以外は試験例1−1と同様にして、マイクロニードルデバイスを製造し、1ヶ月保管後のイソプロテレノール類縁物の生成率(%)を算出した。また、マイクロニードルデバイスの保管期間を2ヶ月に延長して、同様の試験を行った。結果を表3及び表4に併せて示す。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
<試験例1−結果>
試験例1−1〜1−3の結果から、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含むコーティング液を用いてマイクロニードルデバイスを製造すると、製造過程及び製造後におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性が高くなることが示された。一方、EDTA以外の安定化剤を含むコーティング液を用いてマイクロニードルデバイスを製造すると、製造過程又は製造後におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性が十分でないことも示された。また、試験例1−3の結果から、イソプロテレノール塩酸塩に対するエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの比が一定以上であると、製造後におけるイソプロテレノール塩酸塩の安定性がより高くなることが示された。
【0068】
<試験例2>デクスメデトミジン及びイソプロテレノールの担持量
表5に示す組成のコーティング液を調製し、コーティング液をリザーバーに充填して、60分間スキージで混合した。試験例1で用いたマイクロニードルアレイと同様のマイクロニードルアレイを用意し、マイクロニードルの先端をリザーバー中のコーティング液に約140μmの深さまで浸漬した。コーティング液からマイクロニードルを引き上げた後、マイクロニードル上のコーティングを乾燥させた。
【0069】
マイクロニードル上に形成されたコーティング中のデクスメデトミジン塩酸塩及びイソプロテレノール塩酸塩の量をHPLCにより定量し、そこからマイクロニードル1本あたりのデクスメデトミジン塩酸塩及びイソプロテレノール塩酸塩の量を算出した。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示すように、コーティング液にコンドロイチン硫酸ナトリウムを特定量加えることにより、マイクロニードル1本あたりにつきより多くのデクスメデトミジン塩酸塩を担持させることができた。
本発明は、デクスメデトミジン及びイソプロテレノールを含むコーティングを備えるマイクロニードルデバイスの製造方法であって、マイクロニードルデバイスの製造過程及び製造後におけるイソプロテレノールの安定性が高い、マイクロニードルデバイスの製造方法を提供することを目的とする。本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイスを製造する方法は、マイクロニードルにコーティング液を塗布して、マイクロニードル上にコーティングを形成する工程を備える。マイクロニードルデバイスは、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備える。コーティング液は、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩と、イソプロテレノール又はその薬学的に許容可能な塩と、エチレンジアミン四酢酸又はその薬学的に許容可能な塩と、硫酸化多糖と、を含む。