特許第6961872号(P6961872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961872高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維及びそれを含む高強度セメント硬化体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961872
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維及びそれを含む高強度セメント硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 16/06 20060101AFI20211025BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20211025BHJP
   D01F 6/06 20060101ALI20211025BHJP
   C04B 111/28 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   C04B16/06 A
   C04B16/06 E
   C04B28/02
   D01F6/06 Z
   C04B111:28
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-23174(P2017-23174)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-171567(P2017-171567A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2020年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-55518(P2016-55518)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516083508
【氏名又は名称】菊田 貴恒
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菊田 貴恒
(72)【発明者】
【氏名】岡屋 洋志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 駿介
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−261371(JP,A)
【文献】 特開2009−96032(JP,A)
【文献】 特開2003−306366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮強度が80N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いる高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維であって、
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、ポリプロピレン系樹脂で構成されており、単繊維強度が5.61cN/dtex以上であることを特徴とする高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維。
【請求項2】
単繊維繊度が0.3〜20dtexである請求項1に記載の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維。
【請求項3】
繊維長が1〜25mmである請求項1又は2に記載の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維。
【請求項4】
単繊維伸度が5〜80%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維をセメント硬化体に対して0.01〜1.0Vol%含み、圧縮強度が80N/mm2以上である高強度セメント硬化体。
【請求項6】
800℃で2時間加熱した後に質量減少率が23質量%以下である請求項5に記載の高強度セメント硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維及びそれを含む高強度セメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
高層マンションや各種トンネル、橋梁といった、大型の建造物において、その構造を支える部材として、コンクリートやモルタルを始めとするセメント硬化体(水硬性材料とも称される)が使用されている。セメント硬化体を構造材料として用いている大型建造物の代表として高層マンションが挙げられる。高層マンションでは、更なる高層化が求められているだけでなく、建物内部の空間を広げたり、空間設計の自由度を高めたりすることを目的として構造部材の断面積を小さくすることが求められていることから、セメント硬化体のさらなる高強度化が課題として挙げられている。
【0003】
各種セメント硬化体を得るには、普通ポルトランドセメントや早強セメント等の各種セメントに対し、砂利や砂といった骨材や、フライアッシュや珪石粉、シリカフュームといった混和材料、合成繊維や鋼繊維といった繊維、各種添加剤(減水剤など)を加えてセメント組成物とし、これに水を適量加えて練ることでセメントスラリーにする。このとき、セメントスラリー内部ではセメントと水の水和反応が開始し、水和反応が進むことでセメントスラリーが徐々に硬化し、セメント硬化体となる。一般的に、セメント組成物を練る際の水の量を減らすことで、その密度が上昇し、より高強度のセメント硬化体となることが知られている。一方でセメント硬化体の密度を高め、より密な組織にすることで爆裂現象が発生しやすくなることが知られている。
【0004】
爆裂現象とは、セメント硬化体を用いた建造物において火災が起きると発生しうる現象である。火災が発生すると、建物の内部は400℃以上、場合によっては建物の内部は800〜1200℃になるが、セメント硬化体がこのような高温環境下にさらされることで、セメント硬化体の内部に残存している空気や残存していた水分が気化・膨張することで内部の圧力が増加する。加えてセメント硬化体の表面と内部の熱膨張量の違いなどにより、歪みが発生し、蓄積する。セメント硬化体内部の圧力上昇、歪みの増加が続き、セメント硬化体が耐えられなくなったところで、表面に亀裂が発生し、鱗状のセメント片が次々と剥離することで爆裂現象が発生する。爆裂が進行することで、セメント硬化体の強度は急激に低下し、最悪の場合、建造物全体の崩壊の原因となる。火災の際に発生した水蒸気や膨張した気体の逃げ道がないことが原因で爆裂現象が発生すると考えられることから、爆裂現象は特にセメント組成物と水を混ぜてセメントスラリーとする際、水と反応するセメント、シリカ等の結合材の配合量を多くして圧縮強度を高めた高強度セメント硬化体において発生しやすくなると考えられている。
【0005】
セメント硬化体の爆裂を防止するため、セメント硬化体に繊維を混入させ、火災時に空隙を形成することが提案されている。例えば、特許文献1には、融解エネルギーが150mJ/mg以下、分解終了温度が460℃以下のコンクリート爆裂防止用ポリオレフィン系繊維が記載されている。特許文献2には、アルカリ可溶樹脂成分を含有してなるコンクリート爆裂防止用繊維が記載されている。特許文献3及び4には、ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール繊維を用いてセメント成形体の爆裂を防止することが提案されている。特許文献5には、ポリプロピレンやポリビニルアルコールで構成された有機繊維及び鋼繊維、ステンレスなどの無機繊維をコンクリートに含有させて耐爆裂性を付与することが記載されている。特許文献6には、モルタル組成物にポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維等の有機繊維を含ませることで耐火性能を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−160950号公報
【特許文献2】特開2003−112954号公報
【特許文献3】特開2003−160366号公報
【特許文献4】特開2004−323330号公報
【特許文献5】特開2003−306366号公報
【特許文献6】特開2011−42534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜6に記載の繊維を用いても、火災時の高強度セメント硬化体の爆裂を防止するには不十分となる可能性が指摘されている。特に、圧縮強度が80N/mm2以上の高強度セメント硬化体において、セメント硬化体の圧縮強度を更に高めつつ、爆裂現象の発生を抑える効果をより高めた爆裂防止用繊維の開発が求められている。
【0008】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、火災時の高強度セメント硬化体の爆裂を効果的に防止することができる高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維及びそれを含む高強度セメント硬化体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、圧縮強度が80N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いる高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維であって、前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、ポリプロピレン系樹脂で構成されており、単繊維強度が4.0cN/dtex以上であることを特徴とする高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維に関する。
【0010】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、単繊維繊度が0.3〜20dtexであることが好ましい。また、繊維長が1〜25mmであることが好ましい。また、単繊維伸度が5〜80%であることが好ましい。
【0011】
本発明は、また、前記の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維をセメント硬化体に対して0.01〜1.0Vol%含み、圧縮強度が80N/mm2以上であることを特徴とする高強度セメント硬化体に関する。
【0012】
前記高強度セメント硬化体は、800℃で2時間加熱した後に質量減少率が23質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、火災時に、高強度セメント硬化体の爆裂を有効に防止することができる高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維及びそれを含む高強度セメント硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
[図1]図1は耐火試験で用いる目視による評価基準の説明図である。
[図2]図2は実施例1〜4及び比較例1〜4におけるセメント硬化体ブロックの耐
火試験の結果を示す図である。
[図3]図3参考例5〜6、実施例7〜10及び比較例5におけるセメント硬化体
ブロックの耐火試験の結果を示す図である。
[図4]図4Aは、セメント硬化体の加熱試験において、温度計を設置する箇所のセ
メント硬化体の側面部の表面からの距離を示す模式的説明図であり、図4Bは、セメント硬化体の加熱試験において、温度計を設置する箇所のセメント硬化体の上面部からの距離を示す模式的説明図である。
[図5]図5は、セメント硬化体の加熱試験におけるセメント硬化体の内部温度を示
すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、圧縮強度が80N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いる。好ましくは圧縮強度が100N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いることができ、より好ましくは圧縮強度が120N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いることができ、特に好ましくは圧縮強度が130N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いることができ、最も好ましくは圧縮強度が140N/mm2以上の高強度セメント硬化体の爆裂防止に用いることができる。
【0016】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、ポリプロピレン系樹脂で構成されている。ポリプロピレン系樹脂は、特に限定されず、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンとその他の炭素数2〜20程度のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。その他の炭素数2〜20程度のα−オレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。プロピレン共重合体において、プロピレンの含有量は90mol%以上であることが好ましく、より好ましくは95mol%以上、さらに好ましくは98mol%以上である。立体規則性の点で高強度繊維が得られるということから、アイソタクチックペンタッド分率(IPF:モル%)が、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上のポリプロピレン系樹脂を用いることができる。なおIPFは、n−ヘプタン不溶分成分について「マクロモレキュラーズ」(Macromoleculer,Vol.6,925(1973)及びMacromoleculer,Vol.8,687(1975))に準じて測定するとよい。
【0017】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されないが、Q値(Mw/Mn)が6未満であると、未延伸状態の繊維を延伸する延伸工程において、高い延伸倍率で延伸できるため高強度の繊維が得られやすく、かつ高い延伸倍率で延伸しても糸切れ等が発生しにくいため好ましい。より好ましいQ値は、5未満であり、さらに好ましくは4未満である。
【0018】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、単繊維強度が、4.0cN/dtex以上であり、好ましくは4.5cN/dtex以上であり、より好ましくは4.8cN/dtex以上であり、さらに好ましくは5.2cN/dtex以上であり、最も好ましくは6.0cN/dtex以上である。単繊維強度の上限は、20cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは15cN/dtex以下であり、さらに好ましくは12cN/dtex以下であり、さらにより好ましくは10cN/dtex以下である。単繊維強度がかかる範囲であると、セメント硬化体の圧縮強度や曲げ強度が向上し、火災時に、高強度セメント硬化体の爆裂を効果的に防止することができる。また、セメントなどとの攪拌時にファイバーボール(ダマ)が形成されにくい。本発明において、繊維の単繊維強度は、JIS L 1015に準じて測定する。
【0019】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維の伸度は特に限定されず、単繊維伸度が5〜80%であればよいが、10〜60%であることが好ましく、15〜45%であることがより好ましく、15〜40%であることが特に好ましく、18〜38%であることが最も好ましい。単繊維伸度がかかる範囲であると、セメント硬化体の衝撃強度が向上するとともに、セメント硬化体にクラックが発生しにくい。それゆえ、火災時に、高強度セメント硬化体の爆裂を効果的に防止することができる。本発明において、繊維の単繊維伸度は、JIS L 1015に準じて測定する。
【0020】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維の繊度は特に限定されず、単繊維繊度が0.3〜20dtexであればよいが、0.5〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは、0.8〜5dtexであり、特に好ましくは1〜3.5dtexであり、最も好ましくは1〜2.8dtexである。繊度がかかる範囲であると、セメント硬化体に対し、同じ割合で高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を添加したときに、繊度が大きい繊維を用いた場合と比較して、添加される繊維の本数が増えるため、セメント硬化体内部に繊維がより密に張り巡らされているような状態になると推測される。これにより火災時に、密に張り巡らされていたポリプロピレン繊維のネットワークが、ポリプロピレンが熱分解することで消失し、微小な空隙が密に張り巡らせたような状態となる。このようになることで膨張した空気や水蒸気が密に張り巡らされている空隙から排出されやすくなり、内圧が上昇にくくなることで高強度セメント硬化体の爆裂を防止する効果が高まると考えられる。単繊維繊度が0.3dtex未満であると、繊維をセメントスラリーに投入した際、均一に混ざりにくくファイバーボール発生の原因になりやすい。単繊維繊度が20dtexよりも大きくなると、セメント硬化体内部に存在する繊維の本数が少なくなるため、火災時に形成される空隙部分が少なくなり、膨張した気体や水蒸気が排出されにくくなることが推測され、爆裂を防ぐ効果が低下するおそれがある。
【0021】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維の繊維長は特に限定されず、繊維長が1〜25mmであればよいが、繊維長が2〜20mmであることが好ましく、より好ましくは3〜15mmであり、特に好ましくは3〜10mmであり、4〜8mmであると最も好ましい。繊維長がかかる範囲であると、セメント硬化体に対し、同じ割合で高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を添加したときに、繊維長が長い繊維を用いた場合と比較して、添加される繊維の本数が増えるため、セメント硬化体内部に繊維がより密に張り巡らされているような状態になり、上述した細繊度の繊維を用いた場合と同様に、高強度セメント硬化体の爆裂を防止する効果が高まると考えられる。細く短い繊維ほど、火災時に、高強度セメント硬化体の爆裂を防止する効果が高まる。
【0022】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、単繊維強度、単繊維伸度、単繊維繊度及び繊維長が上述した範囲内において、単繊維強度がより強く、単繊維伸度がより小さく、単繊維繊度がより細く、繊維長がより短いほど、火災時に、高強度セメント硬化体の爆裂を防止する効果が高くなる。
【0023】
圧縮強度が80N/mm2以上である高強度セメント硬化体、特に圧縮強度が120N/mm2以上や140N/mm2以上のセメント硬化体において、爆裂防止効果の面で、添加する繊維がより細繊度、より高強度即ち低伸度であって、より繊維長が短い方が好ましい理由は以下のように推測される。
【0024】
セメント硬化体の爆裂現象は、火災によってセメント硬化体内部に発生する内圧の上昇や、熱膨張の違いによって発生する歪みに対し、セメント硬化体が耐えきれなくなったときに、亀裂が発生、伝播し、鱗状の小片として剥離することで生じる。従って、内圧の上昇や歪みに耐えられるセメント硬化体、即ち曲げ強度や圧縮強度といった機械的強度の高いセメント硬化体であれば、爆裂はある程度防止できると考えられる。そこで、添加する繊維も単繊維強度が高い(言い換えるならば伸度が低い)の繊維の方が好ましい。繊維の単繊維強度が高いことで、発生した微小亀裂の進行に対し、切断したり伸びたりする(即ち亀裂の幅が広がる)ことなく抵抗し、亀裂の伝播を押さえることができると考えられるためである。
【0025】
そして、高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、細繊度であることが好ましい。セメント硬化体に対し、同じ体積%(Vol%)或いは同じ質量%にするなどして、高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を一定の添加量で混合して得られたセメント硬化体を比較すると、同じ熱可塑性樹脂からなる繊維であれば、より細繊度の繊維を混合したときのほうが、混合される繊維の本数が多くなり、セメント硬化体内部に添加した繊維が密に張り巡らされているような状態になると推測される。その結果、火災の際に、これらの繊維が熱分解すると、密に張り巡らされていた繊維のネットワークが、微小な空隙が密に張り巡らせたような状態となり、膨張した空気や水蒸気をセメント硬化体の外部に排出しやすくなると考えられる。また、繊度の大きい繊維を添加した場合、繊維が熱分解することでセメント硬化体内部に大きな空隙が発生し、セメント硬化体の強度が低下しやすくなると推測されるが、繊度の小さい繊維を添加した場合、形成される空隙の直径が小さいため、繊維が熱分解して繊維の部分が空洞部分に変化してもセメント硬化体の強度低下が小さいと推測される。
【0026】
加えて、添加する繊維の繊維長は上記範囲内であれば、繊維長が短い方が好ましいと考えられる。前記のように、高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は細繊度であることが好ましいが、細繊度の繊維は繊維同士が絡まりやすく、セメントスラリー内部でファイバーボールを形成しやすい。繊維長を短くすることで、ファイバーボールが形成されにくくなるだけでなく、繊維のセメント硬化体内部への分散が均一になると考えられる。また、セメント硬化体に対し、同じ割合になるように繊維を添加したとき、繊維長が短い方が添加される繊維の本数が増えるため、前述の効果がより高められると考えられる。
【0027】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、単一繊維であってもよく、複合繊維であってよい。また、複合繊維は、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、分割型複合繊維及び海島型複合繊維のいずれであってもよい。また、断面形状は特に限定されない。
【0028】
前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維は、以下の手順で製造することができる。まず、前記ポリプロピレン系樹脂を1種又は2種以上用いて、所定の形状になるような単一型又は複合型ノズルを用いて、ポリプロピレン系樹脂が溶融する温度、例えば、紡糸温度250〜350℃で溶融紡糸し、引取速度100〜2000m/minで引き取り、繊度が3〜20dtexの紡糸フィラメントを得ることができる。次いで、紡糸フィラメントは、単繊維強度を高くするために、延伸される。延伸温度は80〜160℃、延伸倍率2.7〜8倍の条件で延伸することが好ましい。より好ましい延伸温度は、110〜155℃である。より好ましい延伸倍率は、3〜6倍である。延伸方法は、特に限定されず、高温の熱水などの高温の液体で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の方法で延伸処理を行うことができ、これらの延伸方法を組みあわせ、湿式延伸後に乾式延伸をしたり、乾式延伸を複数回行ったりするなどして延伸処理を行うこともできる。延伸工程は、1段階延伸、又は複数の段階に分けて行う、いわゆる多段延伸処理のいずれで行ってもよい。本発明の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を製造するには、できるだけ単繊維強度が高く、繊度の小さい繊維にしたほうが好ましいことから、乾式延伸又は水蒸気延伸を1回又は複数回行うことが好ましい。得られた延伸フィラメントは、必要に応じて界面活性剤等の繊維処理剤が付与され、必要があれば捲縮付与処理が施され、所定の繊維長に切断する。セメントスラリーへの分散を均一にし、繊維が浮いてしまうのを防ぐため、繊維の親水性を高める親水性の繊維処理剤、より好ましくは繊維から脱落しにくい耐久性の高い親水性の繊維処理剤を付与することが好ましい。また、繊維の親水性を高めるために、フッ素ガスによる親水化処理、スルホン化による親水化処理、コロナ放電処理やプラズマ放電処理といった各種親水化処理を延伸フィラメントに行ってもよい。
【0029】
(高強度セメント硬化体)
本発明の高強度セメント硬化体は、上記方法で得られた高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を一定の割合で含むようにセメント組成物に添加し、適量の水を加えて十分に混練した後硬化させたり、既にセメント組成物と水とを混ぜ合わせたセメントスラリー中に上記方法で得られた高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を一定の割合で添加し、十分に混練した後硬化させたりすることで得ることができる。本発明の高強度セメント硬化体に含まれるセメント組成物には、各種セメント、細骨材、必要に応じて粗骨材、混和材料や混和剤などが含まれる。前記セメント組成物を構成するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなど、各種セメントを使用することができる。前記セメント組成物を構成する細骨材や粗骨材としては珪砂、川砂、海砂、浜砂、砕石の他高炉スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、電気炉傘下スラグといった各種スラグなどを使用することができ、この中から高強度セメント硬化体の用途に応じて骨材の粒子径を選択して細骨材、粗骨材として使用することができる。前記セメント組成物に含まれる混和材料としては、フライアッシュ、珪石粉、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、エトリンガイト等の各種膨張材を使用することができる。前記セメント組成物に含まれる混和剤としてはAE剤、AE減水剤、高機能AE減水剤、流動化剤、硬化促進剤、防錆剤、凝結遅延剤、急結剤、収縮低減剤を始めとする各種混和剤を目的や用途よって適宜選択して使用することができる。
【0030】
本発明の高強度セメント硬化体は、前記高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を0.01〜1.0Vol%含み、好ましくは0.03〜0.8Vol%含み、さらに好ましくは0.05〜0.7Vol%含む。本発明の高強度セメント硬化体爆裂防止用繊維を前記の割合でセメント硬化体に添加することで、火災時の耐火性が高くなり、爆裂が抑制される。高強度セメント硬化体に含まれる本発明の爆裂防止用繊維の割合が0.01Vol%未満であると、セメント硬化体内部に含まれる繊維の量が少ないことから火災時に膨張した空気の排出が進まず、爆裂を防ぐ効果が低下するおそれがある。高強度セメント硬化体に含まれる本発明の爆裂防止用繊維の割合が1.0Vol%を越えるとセメントスラリーを製造する際、ファイバーボールが発生しやすくなるだけでなく、セメント硬化体内部に含まれる繊維の割合が多くなりすぎることでセメント硬化体の圧縮強度や曲げ強度といった機械的強度が低下するおそれがある。
【0031】
前記高強度セメント硬化体は、圧縮強度が80N/mm2以上であり、好ましくは100N/mm2以上であり、より好ましくは120N/mm2以上であり、さらに好ましくは130N/mm2以上であり、さらにより好ましくは140N/mm2以上である。高い強度が求められる高層のセメント硬化体建築物やトンネルなどに好適に用いることができる。
【0032】
前記高強度セメント硬化体は、800℃で2時間加熱後の質量減少率が23質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、14質量%以下であることがさらにより好ましい。火災時に、効果的に爆裂防止が図れる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度1000m/minで引き取り、9dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、4.5倍に乾式延伸(一段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対して有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維A」とも記す。)の単繊維繊度は2.2dtex、単繊維強度は7.34cN/dtex、単繊維伸度は24%であった。
【0035】
<セメント硬化体の製造>
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、実施例1のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した。十分に混練した後、型に流し込み、型に入れたまま養生室内にて24時間養生(湿空養生)し、湿空養生後、型から取り出して蒸気養生を24時間行った。蒸気養生後、セメント硬化体を水中に入れて1週間水中養生を行い、1週間後、水中から取り出し空気中にて空気養生を1週間行い、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。セメントは早強ポルトランドセメント、細骨材は7号珪砂を用いた。以下の実施例及び比較例でも同様のものを用いた。
【0036】
(実施例2)
PP繊維Aをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0037】
(実施例3)
繊維長が12mmになるように切断した以外は、実施例1と同様にして、単繊維繊度が2.2dtexのポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維B」とも記す。)を得た。得られた単繊維繊度が2.2dtexであり、繊維長12mmのPP繊維Bを用いた以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0038】
(実施例4)
PP繊維Bをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例3と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0039】
参考例5)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度420m/minで引き取り、4.1dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で2.0倍に乾式延伸(一段目延伸倍率が1.8倍、二段目延伸倍率が1.1倍であり、全体延伸倍率が2.0倍の乾式二段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対して有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維a」とも記す。)の単繊維繊度は2.2dtex、単繊維強度は4.17cN/dtex、単繊維伸度は49.2%であった。
【0040】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、参考例5のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0041】
参考例6)
PP繊維aをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、参考例5と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0042】
(実施例7)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度810m/minで引き取り、5.3dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.4倍に乾式延伸(一段目延伸倍率が2.2倍、二段目延伸倍率が1.1倍、全体延伸倍率が2.4倍の乾式二段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対して有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維b」とも記す。)の単繊維繊度は2.3dtex、単繊維強度は5.61cN/dtex、単繊維伸度は35.9%であった。
【0043】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、実施例7のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0044】
(実施例8)
PP繊維bをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例7と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0045】
(実施例9)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度390m/minで引き取り、7.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、3.5倍に乾式延伸(一段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量を100としたときに有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維c」とも記す。)の単繊維繊度は2.3dtex、単繊維強度は6.96cN/dtex、単繊維伸度は29.6%であった。
【0046】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、実施例9のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0047】
(実施例10)
PP繊維cをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例9と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0048】
参考例11)
セメント組成物に水結合材比(W/B)が13質量%になるように水を加えた以外は参考例5と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0049】
(実施例12)
セメント組成物に水結合材比(W/B)が13質量%になるように水を加えた以外は実施例7と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0050】
(実施例13)
セメント組成物に水結合材比(W/B)が13質量%になるように水を加えた以外は実施例9と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0051】
(比較例1)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度1000m/minで引き取り、繊度が5dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.5倍に乾式延伸(乾式一段)し、実施例1で使用した親水性の繊維処理剤と同じ繊維処理剤を繊維の質量に対し0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維C」とも記す。)の単繊維繊度は2.2dtexであった。
【0052】
<セメント硬化体の作製>
PP繊維Cを用いた以外は、実施例2と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0053】
(比較例2)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度500m/minで引き取り、繊度が15dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.5倍に乾式延伸(一段)し、実施例1で使用した親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対し有効成分が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長12mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維D」とも記す。)の単繊維繊度は6.4dtexであった。
【0054】
<セメント硬化体の作製>
PP繊維Dを用いた以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0055】
(比較例3)
PP繊維Dをセメント硬化体(セメント硬化体組成物から水を除く)に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、比較例2と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0056】
(比較例4)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を丸断面の中空紡糸ノズル(中空部分は繊維断面中心部に存在)を用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度200m/minで引き取り、繊度が40dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.5倍に乾式延伸(乾式一段)し、実施例1で使用した親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対し有効成分が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長10mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維E」とも記す。)の単繊維繊度は17.0dtexであった。
【0057】
<セメント硬化体の作製>
PP繊維Eを用いた以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0058】
(比較例5)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度550m/minで引き取り、2.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、1.35倍に乾式二段延伸(一段目延伸倍率が1.23倍、二段目延伸倍率1.10倍、全体延伸倍率が1.35倍の乾式二段延伸)し、延伸(二段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量を100としたときに有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維d」とも記す。)の単繊維繊度は2.3dtex、単繊維強度は2.67cN/dtex、単繊維伸度は141.7%であった。
【0059】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、比較例5のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0060】
(参考例1)
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に、水結合材比(W/B)が45質量%となるように水を加え、スラリー状にした後、PP繊維Aをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0061】
(参考例2)
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に、水結合材比(W/B)が45質量%となるように水を加え、スラリー状にした後PP繊維Cをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0062】
(参考例3)
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合した、セメント組成物に、水結合材比(W/B)が16質量%となるように水を加え、スラリー状にした後、ジュートをセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0063】
実施例1〜4、7〜10、12、13、比較例1〜5及び参考例1〜3、5、6、11で得られたセメント硬化体ブロックの圧縮強度を下記のように測定した。また、下記の耐火試験を行い、下記のような基準で爆裂の程度を判断した。また、PP繊維A〜PP繊維E、PP繊維a〜PP繊維dの単繊維強度及び単繊維伸度を測定した。これらの結果を下記表1〜表3に示した。
【0064】
(単繊維強度及び単繊維伸度)
JIS L 1015に基づいて測定した。
【0065】
(圧縮強度)
耐火試験の前に、JIS A 1108に準じて圧縮強度試験を行い、圧縮強度を測定した。
【0066】
(耐火試験)
試験体をJIS A 1304に準じ、800℃で2時間加熱させた。加熱後の試験体を目視で観察し、図1の評価基準に基づいて耐火性を評価した。図2に、耐火試験後の実施例1〜4及び比較例1〜4のセメント硬化体ブロックを示した。また、セメント硬化体ブロックの加熱前の質量(Wa)及び加熱後の質量(Wb)を測定し、下記式(1)に基づいて、質量減少率を算出した。
質量減少率(質量%)=[Wa(g)−Wb(g)]/Wa(g)×100
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
表1〜表4の結果から、単繊維強度が4.0cN/dtex以上のポリプロピレン系繊維を用いた実施例1〜4、7〜10、12、13及び参考例5、6、11のセメント硬化体ブロックは、耐火試験後の目視評価において、2.5以下の評価を得ており、爆裂が防止されていることが分かった。また、質量減少率が23質量%以下であり、爆裂が防止されていることが分かった。実施例1と実施例3の対比、及び実施例2と実施例4の対比から分かるように、繊維長が短いほど、爆裂防止効果が高かった。
【0072】
圧縮強度が80N/mm2以上の高強度のセメント硬化体において、爆裂現象の起こりにくさ、即ち爆裂現象の抑制効果が、セメント硬化体に含まれるポリプロピレン系繊維の単繊維強度に依存していることがわかる。具体的には、表1、表2及び表4において、ポリプロピレン系繊維の繊維量がいずれも0.2Vol%である実施例2、8、10、参考例6及び比較例5を比較するとわかる。単繊維強度が4.0cN/dtex未満であるポリプロピレン系繊維を用いた比較例5では、耐火試験後の質量減少量が24%、目視評価も2.5となっているのに対し、単繊維強度が4.0cN/dtex以上のポリプロピレン系繊維を用いた参考例6では、耐火試験後の質量減少量が15.2%、目視評価が2と比較例5より大きく改善しており、参考例6で使用したポリプロピレン系繊維よりも更に単繊維強度の大きいポリプロピレン系繊維を用いた実施例8及び10では、いずれの硬化体でも質量減少量がさらに減少し、目視検査の評価も高くなっている。
【0073】
単繊維強度の高いポリプロピレン系繊維を使用することで効果的に爆裂を防止することができるが、セメント硬化体への添加量を増やすことで、その効果を更に高めることができる。ポリプロピレン系繊維の添加量を0.5Vol%とした参考例11、実施例12〜13では、水結合材比(W/B)を13質量%に減らし、圧縮強度が200N/mm2と高い圧縮強度、言い換えるならば、さらに密度が高く、爆裂が発生しやすいセメント硬化体であっても爆裂を防止することが確認できた。
【0074】
セメント硬化体に含まれるポリプロピレン系繊維の単繊維強度によって、セメント硬化体の爆裂現象に差が出た原因は特定できないが、次のように考えられる。
【0075】
図4Aに示すように、セメント硬化体側面部の表面からの距離がそれぞれ50mm、40mm、30mm、20mm、10mm、5mm、2mmであって、図4Bに示すように、セメント硬化体の上面部からの距離(深さ)が100mmの位置に温度計を埋め込み、前記耐火試験と同じ条件で加熱試験を行い、炉内温度の上昇の伴い、セメント硬化体内部の温度が、側面部表面からの距離によってどう変化するか測定した。その結果を図5に示すが、炉内温度が400℃に達したときでも、セメント硬化体の側面部表面から10mmの位置では100℃であり、ポリプロピレン系繊維の大部分がガス化する温度(350℃)はおろかポリプロピレン樹脂の融点(約160℃)にも達していないことがわかった。
【0076】
セメント硬化体を加熱すると、爆裂現象はセメント硬化体の周辺温度(具体的には、耐火試験であれば炉内の温度、実際の火災現場であれば建物内部の温度)が350〜400℃に到達すると発生する可能性がある。このとき、セメント硬化体を取り巻く気体の温度は350〜400℃に到達しているものの、セメント硬化体内部は十分に加熱されておらず、セメント硬化体表面から10mm以上の深さにおいては、ポリプロピレン系繊維は、ガス化しておらず、繊維の状態を保ったままセメント硬化体内部に残存していると推定される。
【0077】
加熱されたセメント硬化体の内部では、熱膨張が拘束されることで圧縮応力や引張応力といった熱応力が発生する。熱応力に対し、セメント硬化体が耐えられなくなるとセメント硬化体内部には微小なひび割れが発生する。加えて、セメント硬化体内部の温度が次第に上昇することによって水分が蒸発し、乾燥領域、蒸気領域が形成される。この蒸気領域ではコンクリート内部に存在した水分が気体として存在するため、セメント硬化体の側面部表面に向け引張応力が発生する。熱応力によりひび割れが形成され、水蒸気圧による引張応力に対しセメント硬化体が耐えられなくなった段階で爆裂が発生すると推測されるが、ポリプロピレン繊維の融点に達していないセメント硬化体内部ではポリプロピレン系繊維の架橋効果によりセメント硬化体の強度・靱性が強化され、爆裂現象が抑制される。このとき、単繊維強度が大きいポリプロピレン系繊維を使用することでセメント硬化体への補強効果、架橋効果がより強く発現するようになり、単繊維強度の高いポリプロピレン系繊維を使用した実施例において、効果的に爆裂が抑えられたと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5