【実施例】
【0033】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度1000m/minで引き取り、9dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、4.5倍に乾式延伸(一段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対して有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維A」とも記す。)の単繊維繊度は2.2dtex、単繊維強度は7.34cN/dtex、単繊維伸度は24%であった。
【0035】
<セメント硬化体の製造>
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、実施例1のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した。十分に混練した後、型に流し込み、型に入れたまま養生室内にて24時間養生(湿空養生)し、湿空養生後、型から取り出して蒸気養生を24時間行った。蒸気養生後、セメント硬化体を水中に入れて1週間水中養生を行い、1週間後、水中から取り出し空気中にて空気養生を1週間行い、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。セメントは早強ポルトランドセメント、細骨材は7号珪砂を用いた。以下の実施例及び比較例でも同様のものを用いた。
【0036】
(実施例2)
PP繊維Aをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0037】
(実施例3)
繊維長が12mmになるように切断した以外は、実施例1と同様にして、単繊維繊度が2.2dtexのポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維B」とも記す。)を得た。得られた単繊維繊度が2.2dtexであり、繊維長12mmのPP繊維Bを用いた以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0038】
(実施例4)
PP繊維Bをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例3と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0039】
(
参考例5)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度420m/minで引き取り、4.1dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で2.0倍に乾式延伸(一段目延伸倍率が1.8倍、二段目延伸倍率が1.1倍であり、全体延伸倍率が2.0倍の乾式二段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対して有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維a」とも記す。)の単繊維繊度は2.2dtex、単繊維強度は4.17cN/dtex、単繊維伸度は49.2%であった。
【0040】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、
参考例5のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0041】
(
参考例6)
PP繊維aをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、
参考例5と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0042】
(実施例7)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度810m/minで引き取り、5.3dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.4倍に乾式延伸(一段目延伸倍率が2.2倍、二段目延伸倍率が1.1倍、全体延伸倍率が2.4倍の乾式二段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対して有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維b」とも記す。)の単繊維繊度は2.3dtex、単繊維強度は5.61cN/dtex、単繊維伸度は35.9%であった。
【0043】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、実施例7のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0044】
(実施例8)
PP繊維bをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例7と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0045】
(実施例9)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度390m/minで引き取り、7.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、3.5倍に乾式延伸(一段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量を100としたときに有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維c」とも記す。)の単繊維繊度は2.3dtex、単繊維強度は6.96cN/dtex、単繊維伸度は29.6%であった。
【0046】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、実施例9のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0047】
(実施例10)
PP繊維cをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、実施例9と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0048】
(
参考例11)
セメント組成物に水結合材比(W/B)が13質量%になるように水を加えた以外は
参考例5と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0049】
(実施例12)
セメント組成物に水結合材比(W/B)が13質量%になるように水を加えた以外は実施例7と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0050】
(実施例13)
セメント組成物に水結合材比(W/B)が13質量%になるように水を加えた以外は実施例9と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱型のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0051】
(比較例1)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度1000m/minで引き取り、繊度が5dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.5倍に乾式延伸(乾式一段)し、実施例1で使用した親水性の繊維処理剤と同じ繊維処理剤を繊維の質量に対し0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維C」とも記す。)の単繊維繊度は2.2dtexであった。
【0052】
<セメント硬化体の作製>
PP繊維Cを用いた以外は、実施例2と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0053】
(比較例2)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度500m/minで引き取り、繊度が15dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.5倍に乾式延伸(一段)し、実施例1で使用した親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対し有効成分が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長12mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維D」とも記す。)の単繊維繊度は6.4dtexであった。
【0054】
<セメント硬化体の作製>
PP繊維Dを用いた以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0055】
(比較例3)
PP繊維Dをセメント硬化体(セメント硬化体組成物から水を除く)に対して0.2Vol%になるように混入して混練した以外は、比較例2と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0056】
(比較例4)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を丸断面の中空紡糸ノズル(中空部分は繊維断面中心部に存在)を用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度200m/minで引き取り、繊度が40dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、2.5倍に乾式延伸(乾式一段)し、実施例1で使用した親水性の繊維処理剤を繊維の質量に対し有効成分が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長10mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維E」とも記す。)の単繊維繊度は17.0dtexであった。
【0057】
<セメント硬化体の作製>
PP繊維Eを用いた以外は、実施例1と同様にして直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0058】
(比較例5)
<ポリプロピレン系繊維の製造>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「SA01A」、Q値:3.0)を円形のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を270℃として溶融押出し、引取速度550m/minで引き取り、2.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントを使用し、140℃で、1.35倍に乾式二段延伸(一段目延伸倍率が1.23倍、二段目延伸倍率1.10倍、全体延伸倍率が1.35倍の乾式二段延伸)し、延伸(二段延伸)し、リン酸エステルカリウム塩を主成分として含む親水性の繊維処理剤を繊維の質量を100としたときに有効成分の割合が0.3質量%となるように付着させた後、繊維長6mmに切断した。得られたポリプロピレン系繊維(以下において、「PP繊維d」とも記す。)の単繊維繊度は2.3dtex、単繊維強度は2.67cN/dtex、単繊維伸度は141.7%であった。
【0059】
<セメント硬化体の製造>
実施例1のセメント硬化体作製時に用いたのと同じセメント及び細骨材を用い、セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に水結合材比(W/B)が16質量%のとなるように水を加え、スラリー状にした後、比較例5のポリプロピレン系繊維をセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0060】
(参考例1)
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に、水結合材比(W/B)が45質量%となるように水を加え、スラリー状にした後、PP繊維Aをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0061】
(参考例2)
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合したセメント組成物に、水結合材比(W/B)が45質量%となるように水を加え、スラリー状にした後PP繊維Cをセメント硬化体に対して0.2Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0062】
(参考例3)
セメント:細骨材を質量比で1:0.35の割合で配合した、セメント組成物に、水結合材比(W/B)が16質量%となるように水を加え、スラリー状にした後、ジュートをセメント硬化体に対して0.5Vol%になるように混入し、混練した以外は、実施例1と同様にして、直径が100mm、高さが200mmの円柱状のセメント硬化体ブロック(n=3)を製造した。
【0063】
実施例1〜
4、7〜10、12、13、比較例1〜5及び参考例1〜3
、5、6、11で得られたセメント硬化体ブロックの圧縮強度を下記のように測定した。また、下記の耐火試験を行い、下記のような基準で爆裂の程度を判断した。また、PP繊維A〜PP繊維E、PP繊維a〜PP繊維dの単繊維強度及び単繊維伸度を測定した。これらの結果を下記表1〜表3に示した。
【0064】
(単繊維強度及び単繊維伸度)
JIS L 1015に基づいて測定した。
【0065】
(圧縮強度)
耐火試験の前に、JIS A 1108に準じて圧縮強度試験を行い、圧縮強度を測定した。
【0066】
(耐火試験)
試験体をJIS A 1304に準じ、800℃で2時間加熱させた。加熱後の試験体を目視で観察し、
図1の評価基準に基づいて耐火性を評価した。
図2に、耐火試験後の実施例1〜4及び比較例1〜4のセメント硬化体ブロックを示した。また、セメント硬化体ブロックの加熱前の質量(Wa)及び加熱後の質量(Wb)を測定し、下記式(1)に基づいて、質量減少率を算出した。
質量減少率(質量%)=[Wa(g)−Wb(g)]/Wa(g)×100
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
表1〜表4の結果から、単繊維強度が4.0cN/dtex以上のポリプロピレン系繊維を用いた実施例1
〜4、7〜10、12、13
及び参考例5、6、11のセメント硬化体ブロックは、耐火試験後の目視評価において、2.5以下の評価を得ており、爆裂が防止されていることが分かった。また、質量減少率が23質量%以下であり、爆裂が防止されていることが分かった。実施例1と実施例3の対比、及び実施例2と実施例4の対比から分かるように、繊維長が短いほど、爆裂防止効果が高かった。
【0072】
圧縮強度が80N/mm
2以上の高強度のセメント硬化体において、爆裂現象の起こりにくさ、即ち爆裂現象の抑制効果が、セメント硬化体に含まれるポリプロピレン系繊維の単繊維強度に依存していることがわかる。具体的には、表1、表2及び表4において、ポリプロピレン系繊維の繊維量がいずれも0.2Vol%である実施例2
、8、10
、参考例6及び比較例5を比較するとわかる。単繊維強度が4.0cN/dtex未満であるポリプロピレン系繊維を用いた比較例5では、耐火試験後の質量減少量が24%、目視評価も2.5となっているのに対し、単繊維強度が4.0cN/dtex以上のポリプロピレン系繊維を用いた
参考例6では、耐火試験後の質量減少量が15.2%、目視評価が2と比較例5より大きく改善しており、
参考例6で使用したポリプロピレン系繊維よりも更に単繊維強度の大きいポリプロピレン系繊維を用いた実施例8及び10では、いずれの硬化体でも質量減少量がさらに減少し、目視検査の評価も高くなっている。
【0073】
単繊維強度の高いポリプロピレン系繊維を使用することで効果的に爆裂を防止することができるが、セメント硬化体への添加量を増やすことで、その効果を更に高めることができる。ポリプロピレン系繊維の添加量を0.5Vol%とした
参考例11、実施例
12〜13では、水結合材比(W/B)を13質量%に減らし、圧縮強度が200N/mm
2と高い圧縮強度、言い換えるならば、さらに密度が高く、爆裂が発生しやすいセメント硬化体であっても爆裂を防止することが確認できた。
【0074】
セメント硬化体に含まれるポリプロピレン系繊維の単繊維強度によって、セメント硬化体の爆裂現象に差が出た原因は特定できないが、次のように考えられる。
【0075】
図4Aに示すように、セメント硬化体側面部の表面からの距離がそれぞれ50mm、40mm、30mm、20mm、10mm、5mm、2mmであって、
図4Bに示すように、セメント硬化体の上面部からの距離(深さ)が100mmの位置に温度計を埋め込み、前記耐火試験と同じ条件で加熱試験を行い、炉内温度の上昇の伴い、セメント硬化体内部の温度が、側面部表面からの距離によってどう変化するか測定した。その結果を
図5に示すが、炉内温度が400℃に達したときでも、セメント硬化体の側面部表面から10mmの位置では100℃であり、ポリプロピレン系繊維の大部分がガス化する温度(350℃)はおろかポリプロピレン樹脂の融点(約160℃)にも達していないことがわかった。
【0076】
セメント硬化体を加熱すると、爆裂現象はセメント硬化体の周辺温度(具体的には、耐火試験であれば炉内の温度、実際の火災現場であれば建物内部の温度)が350〜400℃に到達すると発生する可能性がある。このとき、セメント硬化体を取り巻く気体の温度は350〜400℃に到達しているものの、セメント硬化体内部は十分に加熱されておらず、セメント硬化体表面から10mm以上の深さにおいては、ポリプロピレン系繊維は、ガス化しておらず、繊維の状態を保ったままセメント硬化体内部に残存していると推定される。
【0077】
加熱されたセメント硬化体の内部では、熱膨張が拘束されることで圧縮応力や引張応力といった熱応力が発生する。熱応力に対し、セメント硬化体が耐えられなくなるとセメント硬化体内部には微小なひび割れが発生する。加えて、セメント硬化体内部の温度が次第に上昇することによって水分が蒸発し、乾燥領域、蒸気領域が形成される。この蒸気領域ではコンクリート内部に存在した水分が気体として存在するため、セメント硬化体の側面部表面に向け引張応力が発生する。熱応力によりひび割れが形成され、水蒸気圧による引張応力に対しセメント硬化体が耐えられなくなった段階で爆裂が発生すると推測されるが、ポリプロピレン繊維の融点に達していないセメント硬化体内部ではポリプロピレン系繊維の架橋効果によりセメント硬化体の強度・靱性が強化され、爆裂現象が抑制される。このとき、単繊維強度が大きいポリプロピレン系繊維を使用することでセメント硬化体への補強効果、架橋効果がより強く発現するようになり、単繊維強度の高いポリプロピレン系繊維を使用した実施例において、効果的に爆裂が抑えられたと考えられる。