特許第6961912号(P6961912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961912エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料、成形品および圧力容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961912
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料、成形品および圧力容器
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20211025BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20211025BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20211025BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20211025BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20211025BHJP
   C08J 5/04 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   C08G59/42
   C08K7/02
   C08L63/00 C
   F16J12/00 Z
   F17C1/06
   !C08J5/04CFC
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-124183(P2016-124183)
(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公開番号】特開2017-8317(P2017-8317A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2019年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-127392(P2015-127392)
(32)【優先日】2015年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 亜弓
(72)【発明者】
【氏名】三好 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−087799(JP,A)
【文献】 特開平05−020918(JP,A)
【文献】 特開平10−041435(JP,A)
【文献】 特開平11−279262(JP,A)
【文献】 特開2013−216830(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/133992(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/208618(WO,A1)
【文献】 特開2017−119812(JP,A)
【文献】 特開2017−119813(JP,A)
【文献】 特開2017−008316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
C08L 63/00− 63/10
C08J 3/00− 7/18
F16J 12/00
F17C 1/00− 13/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも次の構成要素[A]〜[C]を含むエポキシ樹脂組成物であって、構成要素[A]は、構成要素[a1]として、フルオレン構造を有する2官能以上のエポキシ樹脂を含み、該エポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物の動的粘弾性評価におけるゴム状態弾性率が10MPa以下であり、かつ該硬化物のガラス転移温度が95℃以上であることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
[A]芳香環を含む2官能以上のエポキシ樹脂
[B]次の一般式(I)で表される酸無水物
【化1】
(Rは、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルキニル基のいずれかを示す。)
[C]テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸無水物
【請求項2】
構成要素[B]の質量部の割合が、構成要素[B]と[C]の質量部の合計に対して0.3〜0.6の範囲にある、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
25℃における粘度が2,000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とからなる繊維強化複合材料。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維強化複合材料からなる成形品。
【請求項6】
請求項4に記載の繊維強化複合材料からなる圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、その硬化物をマトリックス樹脂としてなる繊維強化複合材料、成形品および圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂はその優れた機械的特性を活かし、塗料、接着剤、電気電子情報材料、先端複合材料などの産業分野に広く使用されている。特に炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料では、エポキシ樹脂が多用されている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法としては、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM(Resin Transfer Molding)法等の工法が適宜選択される。これらの工法のうち、液状樹脂を用いるフィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM法は、圧力容器、電線、自動車などの産業用途への適用が特に活発化している。
【0004】
一般にプリプレグ法により製造された繊維強化複合材料は、強化繊維の配置が精緻に制御されるため、優れた機械特性を示す。一方で近年の環境への関心の高まり、温室効果ガスの排出規制の動きを受け、プリプレグ以外の、液状樹脂を用いた繊維強化複合材料でも、さらなる高強度化が求められている。
【0005】
特許文献1は、硬化剤に酸無水物を用いた、耐熱性と破壊靱性に優れるトウプリプレグ向けエポキシ樹脂組成物を開示している。
【0006】
特許文献2は、耐熱性に優れる多官能エポキシ樹脂と、硬化剤に酸無水物を用いた、耐熱性と速硬化性に優れる低粘度のエポキシ樹脂組成物を開示している。
【0007】
特許文献3は、脂環式エポキシ樹脂を用い、強度、伸度のバランスに優れたRTM向けエポキシ樹脂組成物を開示している。
【0008】
特許文献4は、ゴム状平坦部剛性率が10MPa以下であることを特徴とする、ハニカムコアとの接着性と引張強度に優れるプリプレグを与える、エポキシ樹脂組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−56980号公報
【特許文献2】特開2015−3938号公報
【特許文献3】特開2013−1711号公報
【特許文献4】特開2001−323046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、低粘度で耐熱性と破壊靱性に優れる樹脂は開示されているものの、CFRPとしての機械特性は十分とは言えず、引張強度も十分とはいえない。特許文献2および3においても、低粘度で耐熱性を有する樹脂は開示されているものの、CFRPとしての機械特性は十分とはいえない。特許文献4はプリプレグ向けの樹脂設計であり、粘度が高く液状樹脂を用いるプロセスには適用できない。さらに、高い耐熱性を有するものの、繊維強化複合材料の引張強度は十分とはいえなかった。
【0011】
そこで、本発明は、耐熱性と引張強度を高いレベルで両立する繊維強化複合材料を得るための、液状エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。また、このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料、その成形品および圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成からなるエポキシ樹脂組成物を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の構成からなる。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記構成要素[A]〜[C]を含むエポキシ樹脂組成物であって、構成要素[A]は、構成要素[a1]として、フルオレン構造を有する2官能以上のエポキシ樹脂を含み、該エポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物の動的粘弾性評価におけるゴム状態弾性率が10MPa以下であり、かつ該硬化物のガラス転移温度が95℃以上であることを特徴とする。
[A]芳香環を含む2官能以上のエポキシ樹脂
[B]次の一般式(I)で表される酸無水物
【0014】
【化1】
【0015】
(Rは、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルキニル基のいずれかを示す。)
[C]テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸無水物。
【0016】
また、本発明の繊維強化複合材料は、上記エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とからなる。
【0017】
さらに、本発明の成形品および圧力容器は、上記繊維強化複合材料からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いることで、耐熱性と引張強度に優れる繊維強化複合材料を提供できる。また、前記繊維強化複合材料からなる成形品および圧力容器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記構成要素[A]〜[C]を含むエポキシ樹脂組成物であって、構成要素[A]は、構成要素[a1]として、フルオレン構造を有する2官能以上のエポキシ樹脂を含み、該エポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物の動的粘弾性評価におけるゴム状態弾性率が10MPa以下であり、かつ該硬化物のガラス転移温度が95℃以上であることを特徴とする。
[A]芳香環を含む2官能以上のエポキシ樹脂
[B]次の一般式(I)で表される酸無水物
【0020】
【化2】
【0021】
(Rは、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素数が6〜16の直鎖または分岐のアルキニル基のいずれかを示す。)
[C]テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸無水物。
【0022】
本発明の構成要素[A]は、芳香環を含む2官能以上のエポキシ樹脂である。2官能以上のエポキシ樹脂とは、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物である。かかるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を含むエポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型やザイロック型のエポキシ樹脂、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−4−アミノ−3−メチルフェノール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンジアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−2,2’−ジエチル−4,4’−メチレンジアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂などを挙げられる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせても良い。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、構成要素[A]として、構成要素[a1]であるフルオレン構造を有する2官能以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスヒドロキシフェニルフルオレンのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、構成要素[A]以外のエポキシ樹脂を配合することができる。構成要素[A]以外のエポキシ樹脂は、機械特性、耐熱性、耐衝撃性などのバランスや、粘度などのプロセス適合性を目的に応じて調節することができ、好適に用いられる。
【0025】
構成要素[A]以外のエポキシ樹脂としては、例えば、脂環式エポキシ樹脂や脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0026】
本発明の構成要素[B]である一般式(I)で表される酸無水物は、耐熱性と引張強度利用率の両立に必要な成分である。構成要素[B]は、耐熱性の低下を抑えつつ、引張強度利用率を高めるために含有される。また、耐熱性と引張強度利用率の両立させるため、構成要素[B]のRで表される置換基の炭素数は、6〜16の範囲とする必要があり、その中でも8〜12の範囲とすることが好ましい。かかる酸無水物としては、例えば、3−ドデセニル無水コハク酸、オクテニル無水コハク酸などが挙げられる。
【0027】
構成要素[C]は、構成要素[B]と組み合わせることで、優れた耐熱性と引張強度利用率を示す。
【0028】
構成要素[C]は、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸無水物である。
【0029】
構成要素[B]および構成要素[C]の総量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対し、酸無水物当量が0.6〜1.2当量の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることにより、耐熱性と機械特性のバランスに優れた繊維強化複合材料を与える樹脂硬化物が得られやすくなる。
【0030】
酸無水物を硬化剤として使用する場合は、一般に硬化促進剤を併用する。硬化促進剤としては、イミダゾール系硬化促進剤、DBU塩、三級アミン、ルイス酸などが用いられる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、構成要素[B]と構成要素[C]との質量部の合計に対する構成要素[B]の質量部の割合が、0.3〜0.6であることが好ましい。構成要素[B]の含有割合を当該範囲とすることで、ゴム状態弾性率とガラス転移温度のバランスに優れた硬化物を与える、エポキシ樹脂組成物が得られやすくなる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、フィラメントワインディング法やプルトルージョン法などの液状プロセスに製造される繊維強化複合材料に好適に用いられる。該エポキシ樹脂組成物は強化繊維束への含浸性を向上させるため、液状であることが好ましい。具体的には、25℃における粘度が2000mPa・s以下であることが好ましい。粘度がこの範囲にあることで、樹脂槽に特段の加温機構や、有機溶剤などによる希釈を必要とせず、エポキシ樹脂組成物を強化繊維束に含浸させることができる。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を失わない範囲において、熱可塑性樹脂を配合することができる。熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等を配合することができる。
【0034】
エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂としては、例えばポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリスルホンを挙げることができる。
【0035】
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子を挙げることができる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物の動的粘弾性評価により得られるゴム状態弾性率は10MPa以下であり、かつ該硬化物のガラス転移温度は95℃以上である。ゴム状態弾性率とガラス転移温度を該範囲とすることで、得られる繊維強化複合材料が、優れた耐熱性と引張強度利用率を示す。
【0037】
なお、本発明において、繊維強化複合材料の耐熱性は、繊維強化複合材料のガラス転移温度で評価する。また、繊維強化複合材料の引張強度は、引張強度利用率により評価する。引張強度利用率は、繊維強化複合材料が、強化繊維の強度をどれだけ活用しているかの指標である。引張強度利用率が高い繊維強化複合材料は、同じ種類と量の強化繊維を用いた場合、より高い強度が得られる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物の動的粘弾性評価により得られるゴム状態弾性率を10MPa以下とすることで、引張強度利用率に優れる、すなわち引張強度に優れる繊維強化複合材料が得られる。ここで、ゴム状態弾性率とは、架橋密度と相関がある指標であり、一般的に架橋密度が低いほど、ゴム状態弾性率も低くなる。引張強度利用率は、繊維強化複合材料の引張強度/(強化繊維のストランド強度×繊維体積含有率)×100で示され、この数値が高いことは強化繊維の性能をより高く引き出していることを表し、軽量化効果が大きいといえる。
【0039】
また、エポキシ樹脂組成物を硬化した硬化物のガラス転移温度を95℃以上とすることで、繊維強化複合材料に発生するゆがみや、変形が原因となる力学特性の低下を抑制でき、耐環境性に優れた繊維強化複合材料が得られる。本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化する条件は特に規定されず、硬化剤の特性に応じて適宜選択される。
【0040】
ゴム状態弾性率とガラス転移温度は、いずれもエポキシ樹脂硬化物の架橋密度と関連する指標である。ゴム状態弾性率が高いと架橋密度が高くなり、ガラス転移温度が上昇する。一方、ゴム状態弾性率が低いと架橋密度が低くなり、ガラス転移温度が低下する。本発明では、ゴム状態弾性率が低い、すなわち架橋密度が低いほど繊維強化複合材料の引張強度が向上することを見出した。また、同時に、耐熱性が低下する問題も克服した。
【0041】
すなわち、一般に低いゴム状態弾性率と高いガラス転移温度はトレードオフの関係にあるが、本発明のエポキシ樹脂組成物は、このトレードオフを打破し、優れた耐熱性と引張強度を両立した繊維強化複合材料を与える、液状のエポキシ樹脂組成物である。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物が、耐熱性と引張強度利用率を両立できる理由、言い換えると耐熱性と低いゴム状態弾性率を両立できる理由は定かではないが、以下のように推測している。構成要素[B]の置換基部分、つまり式(I)中のRで表される部分の可撓性により、ゴム状態弾性率が低下すると同時に、構成要素[B]のRと構成要素[C]のシクロアルカンまたはシクロアルケン部分が干渉し、分子鎖の運動を制限するためと推測している。つまり、構成要素[B]および構成要素[C]の組み合わせにより硬化されたエポキシ樹脂硬化物は、低いゴム状態弾性率と優れた耐熱性を両立できる。さらに、該エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いることで、耐熱性と引張強度利用率に優れる繊維強化複合材料を得ることができる。
【0043】
構成要素[A]が構成要素[a1]を含むことで、この効果はさらに大きくなる。
【0044】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中で、構成要素[a1]のフルオレン環は、立体障害として構成要素[B]のRや構成要素[C]のシクロアルカンまたはシクロアルケン部分と干渉し、分子鎖の運動を制限する。その結果、共有結合に由来する架橋密度が低くとも、高い耐熱性を示す。また、構成要素[a1]は、固形であるため、エポキシ樹脂組成物の粘度上昇の要因となるため、通常低粘度樹脂が要求されるフィラメントワインディング法やプルトルージョン法での適用は困難である。しかし、本発明では、硬化剤として用いる構成要素[B]および構成要素[C]が非常に低粘度であるため、構成要素[a1]のような固形成分を含んでも十分に低粘度なエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばプラネタリーミキサー、メカニカルスターラーといった機械を用いて混練しても良いし、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜても良い。
【0046】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とからなる。本発明の繊維強化複合材料は、耐熱性と引張強度利用率を高いレベルで両立できるため好ましい。
【0047】
上記方法で調製された本発明のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維と複合一体化した後、硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物をマトリックス樹脂として含む繊維強化複合材料を得ることができる。
【0048】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが用いられる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる炭素繊維を用いることが好ましい。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法に好適に使用できる。フィラメントワインディング法は、マンドレルまたはライナーに、強化繊維に樹脂を付着させながら巻きつけ、硬化させて成形品を得る成形法である。プルトルージョン法は、強化繊維のロービングに樹脂を付着させ、金型を通過させながら樹脂を連続的に硬化させて成形品を得る成形法である。本発明のエポキシ樹脂組成物は、いずれの工法においても、調製後に樹脂槽に投入して用いることができる。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は、圧力容器、プロペラシャフト、ドライブシャフト、電線ケーブルコア材、自動車、船舶および鉄道車両などの移動体の構造体、ケーブル用途に好ましく用いられる。なかでも、フィラメントワインディング法による圧力容器の製造に、好適に用いられる。
【0051】
本発明の成形品は、本発明の繊維強化複合材料からなる。本発明の圧力容器は、フィラメントワインディング法により好ましく製造される。フィラメントワインディング法は、ライナーに、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を付着させながら巻きつけた後、硬化させることで、ライナーと、ライナーを被覆する、熱硬化性樹脂組成物の硬化剤と強化繊維から成る繊維強化複合材料により構成される繊維強化複合材料層を備える成形品を得る成形法である。圧力容器の製造には、金属製やポリエチレンやポリアミドなどの樹脂製のライナーが用いられ、所望の素材を適宜選択できる。また、ライナー形状においても、所望の形状に合わせ適宜選択できる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、実施例1、2、5、6、9および10はそれぞれ参考例1、2、3、4、5および6と読み替えるものとする。
【0053】
本実施例で用いる構成要素は以下の通りである。
【0054】
<使用した材料>
・構成要素[A]:芳香環を含む2官能以上のエポキシ樹脂
[A]−1 “jER(登録商標)”828(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
[A]−2 “jER(登録商標)”825(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
[A]−3 “jER(登録商標)”830(液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
[A]−4 “エポトート(登録商標)”YDF2001(固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学(株)製)
[A]−5 GAN(N,N’−ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製)
[A]−6 “スミエポキシ(登録商標)”ELM−434(N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製)
[A]−7 “ARALDITE(登録商標)”MY721(N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ハンツマン・ジャパン(株)製)
[A]−8 “ARALDITE(登録商標)”MY0510(アミノフェノール型エポキシ樹脂、ハンツマン・ジャパン(株)製)
[A]−9 “ARALDITE(登録商標)”PY307−1(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハンツマン・ジャパン(株)製)
[A]−10 “jER(登録商標)”YX4000H(ビフェニル型エポキシ、三菱化学(株)製)。
【0055】
(芳香環を含む2官能以上のエポキシ樹脂であり、かつフルオレン構造を有するエポキシ樹脂)
[a1]−1 “オグソール(登録商標)”PG−100(フルオレン型エポキシ樹脂、大阪ガスケミカル(株)製)
[a1]−2 “オグソール(登録商標)”EG−200(フルオレン型エポキシ樹脂、大阪ガスケミカル(株)製)。
【0056】
・構成要素[A]以外のエポキシ樹脂
[A’]−1 “セロキサイド(登録商標)”2021P(脂環式エポキシ樹脂、(株)ダイセル製)
[A’]−2 “エポトート(登録商標)”YH−300(脂肪族ポリグリシジルエーテル、新日鉄住金化学(株)製)。
【0057】
・構成要素[B]:
[B]−1 “リカシッド(登録商標)”DDSA(3−ドデセニル無水コハク酸、新日本理化(株)製)。
【0058】
・構成要素[C]:
[C]−1 HN2200(メチルテトラヒドロ無水フタル酸、日立化成(株)製)
[C]−2 “KAYAHARD(登録商標)”MCD(無水メチルナジック酸、日本化薬(株)製)。
【0059】
・構成要素[B]・[C]以外のエポキシ硬化剤[D]
[D]−1 3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化工業(株)製)。
【0060】
・硬化促進剤[E]:
[E]−1 DY070(イミダゾール、ハンツマン・ジャパン(株)製)
[E]−2 “キュアゾール(登録商標)”1B2MZ(イミダゾール、四国化成工業(株)製)
[E]−4 “カオーライザー(登録商標)”No.20(N,N−ジメチルベンジルアミン、花王(株)製)
[E]−5 “U−CAT(登録商標)”SA102(DBU−オクチル酸塩、サンアプロ(株)製)。
【0061】
・その他の成分[F]:
[F]−1 ビスフェノールS(小西化学(株)製)
[F]−2 Victrex100P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製)
[F]−3 “テクポリマ(登録商標)”MBX−20(架橋PMMA微粒子、積水化成品工業(株)製)
[F]−4 “カネエース(登録商標)”MX−113(コアシェルポリマー33wt%配合マスターバッチ(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む)、(株)カネカ製)。
【0062】
・強化繊維
“トレカ(登録商標)”T700SC−12K−50C(引張強度:4.9GPa、東レ(株)製)。
【0063】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
ビーカー中に、構成要素[A]のエポキシ樹脂を投入し、80℃の温度まで昇温させ30分加熱混練を行った。その後、混練を続けたまま30℃以下の温度まで降温させ、構成要素[B]および[C]の酸無水物や硬化促進剤を加えて10分間撹拌させ、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0064】
各実施例および比較例の成分配合比について表1および2に示した。
【0065】
<エポキシ樹脂組成物の粘度測定>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物の粘度を、JIS Z8803(2011)における「円すい−平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計(東機産業(株)製、TVE−30H)を使用して、回転速度10回転/分で測定した。なお、エポキシ樹脂組成物を調製後、25℃に設定した装置に投入し、1分後の粘度を測定した。
【0066】
<繊維強化複合材料の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を、一方向に引き揃えたシート状にした炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700S−12K−50C(東レ(株)製、目付150g/m)に含浸させ、エポキシ樹脂含浸炭素繊維シートを得た。得られたシートを繊維方向が同じになるよう8枚重ねた後、金属製スペーサーにより厚み1mmになるよう設定した金型に挟み、その金型を100℃に加熱したプレス機で2時間加熱硬化を実施した。その後、プレス機から金型を取り出し、さらに150℃に加熱したオーブンで4時間加熱硬化し、繊維強化複合材料を得た。
【0067】
<樹脂硬化物の特性評価方法>
エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、100℃の温度で2時間硬化させた後、さらに150℃の温度で4時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。得られた樹脂硬化物から、幅12.7mm、長さ45mmの試験片を切り出し、粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、ねじり振動周波数1.0Hz、昇温速度5.0℃/分の条件下で、30〜250℃の温度範囲でDMA測定を行い、ガラス転移温度およびゴム状態弾性率を読み取った。ガラス転移温度は、貯蔵弾性率G’曲線において、ガラス状態での接線と転移状態での接線との交点における温度とした。また、ゴム状態弾性率は、ガラス転移温度を上回る温度領域で、貯蔵弾性率が平坦になった領域での貯蔵弾性率であり、ここではガラス転移温度から40℃上の温度での貯蔵弾性率とした。
【0068】
<繊維強化複合材料の引張強度測定>
上記<繊維強化複合材料の作製方法>に従い作製した繊維強化複合材料から、幅12.7mm、長さ229mmになるように切り出し、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製タブを接着した試験片を用い、ASTM D 3039に準拠して、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/分で引張強度を測定した。サンプル数n=6で測定した値の平均値を引張強度とした。
【0069】
引張強度利用率は、繊維強化複合材料の引張強度/(強化繊維のストランド強度×繊維体積含有率)×100により算出した。
【0070】
なお、繊維体積含有率は、ASTM D 3171に準拠し、測定した値を用いた。
【0071】
<繊維強化複合材料のガラス転移温度測定>
上記<繊維強化複合材料の作製方法>に従い作製した繊維強化複合材料から、小片(5〜10mg)を採取し、JIS K7121(1987)に従い、中間点ガラス転移温度(Tmg)を測定した。測定には示差走査熱量計DSC Q2000(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、窒素ガス雰囲気下においてModulatedモード、昇温速度5℃/分で測定した。
【0072】
(実施例1)
構成要素[A]として“jER(登録商標)”828を100質量部、構成要素[B]として“リカシッド(登録商標)”DDSAを18質量部、構成要素[C]としてHN2200を72質量部、硬化促進剤として“U−CAT(登録商標)”SA102を2質量部用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0073】
このエポキシ樹脂組成物を上記方法で硬化して硬化物を作製し、動的粘弾性評価を行ったところ、ガラス転移温度は129℃、ゴム状態弾性率は10.0MPaであり、耐熱性とゴム状態弾性率は良好であった。
【0074】
得られたエポキシ樹脂組成物から、<繊維強化複合材料の作製方法>に従って繊維強化複合材料を作製し、繊維体積含有率が65%の繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料の引張強度を上記方法で測定し、引張強度利用率を算出したところ、75%であった。また、得られた繊維強化複合材料のガラス転移温度は、130℃であった。
【0075】
(実施例2〜10)
樹脂組成をそれぞれ表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、および繊維強化複合材料を作製した。評価結果は表1に示した。得られたエポキシ樹脂硬化物は、いずれも良好な耐熱性、ゴム状態弾性率を示した。得られた繊維強化複合材料の引張強度利用率および耐熱性も良好であった。
【0076】
(比較例1)
構成要素[B]を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。ガラス転移温度は134℃と良好であったが、ゴム状態弾性率が12.1MPaと高い値を示した。その結果、繊維強化複合材料の引張強度利用率は71%と、不十分であった。
【0077】
(比較例2)
構成要素[C]を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。ゴム状態弾性率は4.0MPaと良好であったが、ガラス転移温度が73℃であった。その結果、繊維強化複合材料のガラス転移温度が75℃と、耐熱性が不十分であった。
【0078】
(比較例3)
特許文献1(特開2012−56980号公報)の実施例4に記載の方法に従い、エポキシ樹脂組成物を作製した。得られた樹脂硬化物のガラス転移温度は128℃と良好であったが、ゴム状態弾性率が13.2MPaと高い値を示した。(表2)その結果、繊維強化複合材料の引張強度利用率は70%と、不十分であった。
【0079】
(比較例4)
特許文献2(特開2015−3938号公報)の実施例7に記載の方法に従い、エポキシ樹脂組成物を作製した。得られた樹脂硬化物のガラス転移温度は184℃と高かったが、ゴム状態弾性率が18.8MPaと非常に高い値を示した。(表2)その結果、繊維強化複合材料の引張強度利用率は65%と、不十分であった。
【0080】
(比較例5)
特許文献3(特開2013−1711号公報)の実施例2に記載の方法に従い、エポキシ樹脂組成物を作製した。得られた樹脂硬化物のガラス転移温度は121℃と良好であったが、ゴム状態弾性率が13.0MPaと高い値を示した。(表2)その結果、繊維強化複合材料の引張強度利用率は70%と、不十分であった。
【0081】
(比較例6)
特許文献4(特開2001−323046号公報)の実施例6に記載の方法に従い、エポキシ樹脂組成物を作製した。これを硬化させて得られた樹脂硬化物のガラス転移温度は173℃と高かったが、ゴム状態弾性率は18.0MPaと非常に高い値を示した(表2)。上記<繊維強化複合材料の作製方法>では樹脂が繊維に含浸せず、エポキシ樹脂含浸炭素繊維シートが作製できなかった。そこで、エポキシ樹脂組成物をアセトンに溶解し、液状とせしめた後に炭素繊維に含浸させ、その後減圧乾燥してアセトンを留去することで、エポキシ樹脂含浸炭素繊維シートを作製した。以降は上記<繊維強化複合材料の作製方法>と同様にして、繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料の引張強度利用率は63%と、不十分であった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性と引張強度利用率を高いレベルで両立する繊維強化複合材料を作製するために好適に用いられる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物および繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。