特許第6961914号(P6961914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961914油脂組成物およびその水希釈物である乳化組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961914
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】油脂組成物およびその水希釈物である乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20211025BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20211025BHJP
   A23D 9/00 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   A23D7/00
   A23D7/00 508
   A23L9/20
   !A23D9/00 514
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-173230(P2016-173230)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-38292(P2018-38292A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】日下 仁
(72)【発明者】
【氏名】宇野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓太
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 知也
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/035543(WO,A1)
【文献】 特開昭56−144053(JP,A)
【文献】 特開平01−016554(JP,A)
【文献】 特開昭62−044135(JP,A)
【文献】 特開2004−298061(JP,A)
【文献】 特開2000−093070(JP,A)
【文献】 特開2015−104345(JP,A)
【文献】 特開2015−204790(JP,A)
【文献】 特開2003−274864(JP,A)
【文献】 特開2004−329025(JP,A)
【文献】 特開2007−275020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のa〜d成分を含有し、前記c成分の食用油脂の含有量が0.1〜20質量%となるように水に希釈して用いられることを特徴とする油脂組成物。
a ソルビトール 12〜40質量%
b カゼインナトリウム 0.02〜2質量%
c 食用油脂 45〜80質量%
d 水 5〜25質量%
【請求項2】
請求項1に記載の油脂組成物を、前記c成分の食用油脂の含有量が0.1〜20質量%となるように水に希釈してなる乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤の異味を低減しつつ、油脂を高濃度で含有する油脂組成物に関する。より詳しくは、その水希釈物が、分散性や分散後の乳化安定性に優れ、希釈された乳化組成物に良好なコクや油脂感を有する乳化組成物となる油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品全般において、油脂は、栄養素としてだけではなく、コク味や油脂感を付与することによって飲食物においしさを付与する素材として広く使用されてきた。具体的には、牛乳や生クリームが挙げられ、コーヒーやシチューなどに混ぜることで、食品にコク味や油脂感を与え、深みや奥行きのある優れた風味へ改良することができる。しかし、牛乳は油脂分が5質量%以下と少なく、十分な油脂感を付与するためには大量に添加する必要があり、同時に添加される水分によって、食品が水っぽくなってしまう欠点があった。また、生クリームなどの乳製品は、日持ちが悪いことや作業性が悪いという欠点や、その生産量が牛乳の搾取量によって大きく左右され、収穫時期や飼料などの違いによって風味に違いが生じるという欠点があった。
【0003】
そのため、これらの油脂分を植物由来の油脂に置き換えた乳化油脂が開発されてきた。植物由来の油脂を水中に均一に乳化させるには、乳化剤を使用することが一般的とされ、レシチンなどの天然添加物やグリセリン脂肪酸エステルなどの合成乳化剤が乳化油脂に含有されてきた。食品中により多くの油脂分を配合させるためには、乳化油脂中に高濃度で油脂が含有されることが望まれるが、油分含量を高めるためには、より多くの乳化剤を必要とする。乳化剤は油脂を均一に分散させる優れた乳化性を与える一方で、多量に使用した場合は、乳化剤由来のしゅうれん味やエグみによって、目的であるコク味や食品本来の風味を失うという欠点を有している。また、風味への影響に加え、現在の消費者は天然志向を高めており、食品添加物をより少ない食品を好む傾向があり、食品添加物である乳化剤も敬遠される場合がある。
【0004】
油脂は乳化組成物中に含有されていれば一定のコク味を発現するが、本発明者らの検討からは、通常の乳化組成物に見られる乳化粒子径である0.1μmよりも大きい場合のほうが、舌の上で油脂を感じやすいため、コク味を強く感じられることが分かった。しかし、油滴の大きさが大きすぎる場合には、乳化組成物の液表面に油膜が浮上する場合や、油水分離を引き起こすなどの乳化不良を発生しやすくなる。不安定な乳化状態の乳化組成物は、商品として見た目も悪く、喫食した際もコク味を感じることはなく、好ましくない油っぽさを感じることになる。また、乳化組成物が大量生産される商品においては、個々の容器に充填される前の段階で乳化状態が不安定になると、充填後の商品の組成が均一でなくなるなど問題に繋がってしまう。発明者らによるこれまでの検証において、コク味に優れ、かつ、乳化安定性を保つ乳化粒子径としては、1〜10μm程度であると推定している。
【0005】
特許文献1には、乳化粒子径を2〜15μmに調整した乳化油脂を含有する嗜好性食品が開示されており、この乳化油脂によれば、油脂含量が少量であっても、十分に油脂の旨みが維持された嗜好性食品を提供することができる。しかしながら、この乳化油脂では、乳化粒子径の調整に特定の乳化剤を多量に使用しており、乳化剤独特の異味を感じやすく、コク味の低下に繋がってしまう課題がある。
【0006】
特許文献2には、脂溶性ビタミンを加工食品中に均一に分散させることができる技術として、乳蛋白質と糖質、水、脂溶性ビタミンを溶解させた食用油脂からなる乳化油脂組成物が開示されている。この乳化油脂組成物では、合成乳化剤を使用することなく乳化油脂組成物を形成しているが、必要な乳蛋白質が多いため、水相に分散・溶解させる際に時間がかかることや、タンパク質を由来とする泡立ちや粘度上昇が発生すると推定され、製造工程に制限があるなどの課題がある。
【0007】
特許文献3には、酸性デザートに練込使用した場合に、ザラが生じることなく、良好な乳風味を呈し、また、酸性食品素材の風味発現を阻害することがない、酸性デザート練込用水中油型乳化油脂組成物であって、カゼイン蛋白質とリン脂質を含有することを特徴とする乳化油脂組成物が開示されている。これは、乳化剤の一種であるレシチンの主成分であるリン脂質を含有することを規定しており、多量に使用した場合には独特の異味を感じやすく、コク味の低下に繋がってしまう課題がある。また、実施例には、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分を用いて乳化油脂組成物を形成しており、乳製品に由来することによる風味のバラつきがあるなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−170449号公報
【特許文献2】特開2007−275020号公報
【特許文献3】特開2008−086212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、乳化剤の異味を低減しつつ、油脂を高濃度で含有する油脂組成物を提供することである。さらにその油脂組成物を水性溶液に希釈する際には、分散性や分散後の乳化安定性に優れ、希釈された乳化組成物に良好なコクや油脂感を付与させることができる油脂組成物およびこれを希釈した乳化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する油脂組成物について検討した結果、特定の水酸基含有物質とタンパク質を特定の配合範囲で混合させたものに油脂を添加することで、乳化剤の異味を低減しつつ、油脂を高濃度で含有する油脂組成物を形成することができ、さらにその油脂組成物を水性溶液に希釈する際には、分散性や分散後の乳化安定性に優れ、希釈された乳化組成物に良好なコク味や油脂感を付与させることができることを見出した。特に、特定のタンパク質は疎水性と親水性の両方のアミノ酸残基を持つため、油脂組成物中で油脂との界面に配列し界面活性剤様に働くことに寄与し、水酸基含有物質はタンパク質の油脂組成物中での分散性や界面配列の補助に寄与すると考えられ、両者の配合バランスと油脂含量は本発明の油脂組成物を形成するにあたり非常に重要な要素であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕および〔2〕である。
【0011】
〔1〕下記のa〜d成分を含有することを特徴とする油脂組成物。
a 多価アルコール、または糖類である水酸基含有物質 12〜70質量%
b カゼインナトリウム、乳ホエイ分離物若しくは分離大豆タンパク質のいずれか1つ又は2つ以上からなる乳化タンパク質 0.01〜5質量%
c 食用油脂 20〜80質量%
d 水 5〜25質量%
〔2〕前記の〔1〕に記載の油脂組成物の水希釈物である乳化組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1から第2の発明によれば、乳化剤の異味を低減しつつ、油脂を高濃度で含有する油脂組成物を形成することができ、さらにその油脂組成物を水性溶液に希釈する際には、分散性や分散後の乳化安定性に優れており、希釈して成る乳化組成物にコク味や油脂感を付与させる油脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の油脂組成物は、下記のa〜d成分を含有する。
a 多価アルコール、または糖類である水酸基含有物質
b カゼインナトリウム、乳ホエイ分離物若しくは分離大豆タンパク質のいずれか1つ又は2つ以上からなる乳化タンパク質
c 食用油脂
d 水
【0014】
本発明の油脂組成物に使用される水酸基含有物質は、多価アルコール、または糖類である。
糖類の例としては、単糖類であるグルコース、ガラクトース、キシルロース、フルクトースや、二糖類であるスクロース、ラクトース、マルトース、トレハロースが挙げられる。また、三糖類以上の多糖類としては、オリゴ糖、水あめ、デキストリンが挙げられる。
また、多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトールなどが挙げられる。上記のこれらの糖質は単独、または2つ以上を組み合わせて使用することができる。
これらの水酸基含有物質のうち、タンパク質の界面活性能を補助する能力が高い点からは、多価アルコールを使用することが望ましい。使用される多価アルコールの価数は、特に制限されないが、好ましくは3〜8価であり、より好ましくは3〜6価である。また、炭素数は、特に制限されないが、好ましくは3〜8であり、より好ましくは3〜6である。
水酸基含有物質として好ましくはグリセリン、ショ糖、キシリトール、ソルビトール、マンニトールであり、より好ましくはソルビトールである。
【0015】
本発明油脂組成物中の水酸基含有物質の配合量は、12〜70質量%であり、より好ましくは15〜55質量%であり、特に好ましくは20〜40である。12質量%未満では、乳化タンパク質を分散させるための溶液が少なく、うまく分散されないために目的とする油脂組成物を形成することができない。70質量%より多い場合には、同時に配合する油脂の量が少なくなり、目的とするコク味や油脂感を乳化組成物に付与することができない。
【0016】
本発明の油脂組成物に使用される乳化タンパク質は、カゼインナトリウム、または乳ホエイ分離物、または分離大豆タンパク質であり、それぞれ単独または2種以上組み合わせて使用することができる。乳化タンパク質のうち、好ましくはカゼインナトリウム、乳ホエイ分離物であり、より好ましくはカゼインナトリウムである。本発明油脂組成物中の乳化タンパク質の配合量は、0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.02〜2質量%である。0.01質量%未満では、油脂組成物中で乳化タンパク質が油脂表面の界面に配列することができずに、油脂が分離しやすく、目的とする油脂組成物を形成することができない。5質量%より多い場合には、水酸基含有物質の溶液に分散・溶解させる際に時間がかかり、乳化タンパク質を由来とする泡立ちや粘度上昇が発生し、目的とする油脂組成物を形成することができなくなる。
【0017】
本発明の油脂組成物に使用される食用油脂は、たとえば、コーン油、菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、米油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油等の植物性油脂、乳脂、豚脂、牛脂、魚油などの動物性油脂、及びこれらの油脂を水素添加した硬化油、組成を分別した分別油、エステル交換したエステル油などが挙げられる。さらに、精製した脂肪酸などを用いた合成油、たとえば中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。これらの食用油脂のうち、油脂結晶の成長による乳化破壊による油脂組成物の安定性低下を防止する点から、上昇融点が5℃以下であることが望ましい。上昇融点が5℃以下である食用油脂の例としては、コーン油、菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、米油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられる。
本発明の油脂組成物中の食用油脂の配合量は、20〜80質量%であり、より好ましくは35〜80質量%であり、更に好ましくは45〜80質量%であり、特に好ましくは60〜80質量%である。20質量%未満では、希釈した乳化組成物にコクや油脂感を与えるには、油脂含量が少なすぎる。80質量%より多い場合には、食用油脂を乳化タンパク質と水酸基含有物質が抱えきれないため、油脂組成物表面に食用油脂が染み出るなどの状態不良になり、希釈した乳化組成物においても、液面に食用油脂の分離がみられ、官能評価でもコク味よりも油っぽさを感じるなど好ましくない食感を示す。
【0018】
本発明の油脂組成物に使用される水については特に制限はなく、水道水、天然水、純水、海洋深層水、アルカリイオン水など何れも使用できる。本発明の油脂組成物中の水の配合量は、5〜25質量%であり、より好ましくは7〜18質量%である。5質量%未満では、乳化タンパク質の分散、溶解が困難になる。25質量%より多い場合には、油脂組成物中の糖質や乳化タンパク質の濃度が少なくなりすぎるため、油脂を抱えきれずに、油脂組成物から油脂が分離しやすくなる。また、油脂組成物中の水分が多くなることで、保存性が悪くなる。
【0019】
上記a成分(水酸基含有物質)と上記d成分(水)の配合量の和に対する上記a成分の配合量の質量比[a/(a+d)]は、特に制限されないが、好ましくは0.5〜0.9であり、より好ましくは0.6〜0.8である。この範囲とすることにより、水酸基含有物質の溶液中に乳化タンパク質が溶解する余地があり、かつ、乳化タンパク質の界面配列の補助に適する糖質濃度になるため、油脂組成物が形成されやすくなる。
【0020】
また、上記a成分(水酸基含有物質)の配合量と上記d成分(水)の配合量の和に対するb成分(乳化タンパク質)の配合量の質量比[b/(a+d)]は、特に制限されないが、好ましくは0.001〜0.2であり、より好ましくは0.004〜0.1である。この範囲とすることにより、乳化タンパク質を水酸基含有物質の溶液に溶解分散する際に、泡立ちや粘度上昇を起こさずに十分に溶解分散でき、乳化タンパク質が油脂組成物内の界面に配列しやすくなり、油脂組成物が形成されやすくなる。
【0021】
本発明の油脂組成物は、必要に応じて上記a成分〜d成分以外のその他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、例えば、乳化剤、甘味料、酸味料、無機塩、アミノ酸、核酸、有機酸塩、香料、果汁、栄養強化剤、着色料、保存料、抗酸化剤、多糖類、増粘剤等を添加することができる。
なお、上記成分の配合量は特に制限されないが、異味を低減するという観点から、乳化剤の配合量は、好ましくは3質量%であり、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%であり、特に好ましくは0.01質量%である。
【0022】
本発明の油脂組成物の製造方法については、特に制限されないが、例えば、a成分(水酸基含有物質)とd成分(水)を混合させた水溶液を20〜70℃に調温した後、b成分(乳化タンパク質)を溶解分散し、攪拌混合しながらc成分(食用油脂)を少量ずつ添加することで油脂組成物を得ることが出来る。攪拌混合には、一般的な撹拌混合機が利用され、撹拌混合機としては、例えば、プロペラ羽根(4枚)を備えたスリーワンモーター(新東科学「汎用攪拌機BL600」)やホモミキサー(特殊機化工業製「TKホモミキサー」)等が挙げられる。また、油脂組成物の粘度が高い場合には、カッターミキサー(愛工舎製作所、「カッターミキサー」)等を使用してもよい。
【0023】
本発明の乳化組成物は、本発明の油脂組成物の水希釈物である。本発明の乳化組成物は、油脂組成物を乳化組成物中の油脂として0.01〜30%含有させることが好ましく、より好ましくは0.1〜20%含有させることが好ましい。この範囲内であれば、乳化組成物において油脂組成物由来のコク味や油脂感を識別できる。
【0024】
本発明の乳化組成物の乳化粒子径は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜30μmであり、より好ましくは0.5〜20μmであり、特に好ましくは1〜10μmである。この範囲とすることにより、コク味に優れ、かつ、乳化安定性に優れた乳化組成物を提供することができる。なお、本発明における乳化組成物の乳化粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所「LA−950」)にて測定した平均粒子径である。
【0025】
乳化組成物の種類は食品であれば特に限定されるものではなく、飲料、調理素材、健康食品、加工食品などが挙げられる。例えば、コーヒー飲料やスープなどそのまま喫食する食品である。またその他には、天ぷらやコロッケなどのバッター液やスポンジケーキの生地などの調理工程途中の組成物に対しても油脂組成物を加えることによって、調理後の食品に好ましいコク味や油脂感を付与することができる。このように例示される乳化組成物は多岐にわたる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。まず、用いた評価方法と内容を示す。
【0027】
1.<油脂組成物の状態の評価>
得られた油脂組成物の状態を以下の4段階で評価した。
評価◎;油脂の分離がなく、かつ非常に滑らかである。
評価○;分離がなく、かつなめらかである。
評価△;やや油脂の分離があり、べたべたする。
評価×;油脂の分離がはっきりと認められる。
【0028】
2.<油脂組成物の乳化性>
得られた油脂組成物を乳化組成物中の油脂含量として1質量%になるように、水道水に希釈したときの乳化性を以下の3段階で評価した。なお、分散は、スプーンを用いて1分間軽く攪拌して行った。
評価◎;油脂の分離がなく、均一である。
評価○;乳化組成物の表面にわずかな油膜が確認されるが、軽い攪拌で再分散する。
評価×;乳化組成物の表面に油膜が確認され、攪拌しても再分散しない。
【0029】
3.<乳化組成物の乳化粒子径>
上記2.で得られた乳化組成物の油滴の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所「LA−950」)にて測定した。
【0030】
4.<コーヒー飲料におけるコク味評価>
下記の方法でコーヒー飲料を試作し、コク味の官能評価を行い、以下の4段階で評価した。
評価◎;好ましいコク味があり後味も良好である。
評価○;コク味をやや感じる。
評価△;コク味をあまり感じない、または好ましくない油っぽさを感じる。
評価×;油脂感が薄くてコク味を感じない、または、油っぽさを強く感じ後味が不良である。
【0031】
(コーヒー飲料の調製方法)
インスタントコーヒー0.5%と脱脂粉乳5.0%と上白糖3.0%を水91.5%に溶解させ、コーヒー飲料中の油分が1.5%になるように油脂組成物を添加し、スプーンで5分間攪拌し、コーヒー飲料を得た。
【0032】
実施例1
ソルビトール(物産フードサイエンス製「ソルビトールS」、75%ソルビトール水溶液)に水道水を混合したものを70℃まで加温し、カゼインナトリウム(フォンテラジャパン製「SodiumCaseinate180」)を加えながらカッターミキサー(愛工舎製作所、「カッターミキサー」)を500rpmで10分間攪拌し、分散溶解させた。溶解液を500〜1500rpmで攪拌しながら菜種油(日清オイリオ製「キャノーラ油」)を30分かけて混合し、油脂組成物を得た。組成を表1にまとめた。なお、表1に記載された組成は、最終的な成分組成であり、ソルビトール水溶液の原材料等は、ソルビトールと水に分けて記した。
【0033】
実施例2
水あめ(林原製「ハローデックス」)を70%水溶液になるように水道水と混合したものを70℃まで加温し、カゼインナトリウムを加えながらホモミキサー(特殊機化工業製「TKホモミキサー」)を3000rpmで10分間攪拌し、分散溶解させた。溶解液を10000〜120000rpmで攪拌させながら菜種油を20分かけて混合し、油脂組成物を得た。
【0034】
実施例3〜6
実施例2と同様の方法で、ソルビトール水溶液に対して乳ホエイ分離物(アーラフーズ製「ラクプロダン80」)、分離大豆たんぱく質(不二製油製「プロリーナRD−1」)、カゼインナトリウムをそれぞれ、または3種同時に加えながら、ホモミキサーを3000rpmで10分間攪拌し分散溶解させた。溶解液を10000rpmで攪拌しながら菜種油、またはコーン油(日油製「コーン油」)を20〜30分かけて混合し、油脂組成物を得た。
【0035】
比較例1
実施例1と同様の方法で、ソルビトール水溶液に対して乳タンパク質濃縮物(全国酪農業協同組合連合会製「脱脂粉乳」)を加えながら、カッターミキサーを500rpmで10分間攪拌し、分散溶解させた。溶解液を500〜1500rpmで攪拌しながら菜種油を30分かけて混合し、油脂組成物を得た。
【0036】
比較例2
実施例2と同様の方法で、ソルビトール水溶液に対してカゼインナトリウムを加えながら、ホモミキサーを3000rpmで10分間攪拌し分散溶解させた。溶解液を10000〜12000rpmで攪拌しながら菜種油を20分かけて混合し、油脂組成物を得た。ここで、比較例2はc成分の範囲外の配合で行った。
【0037】
比較例3〜4
実施例1と同様の方法で、ソルビトール水溶液に対してカゼインナトリウムを加えながら、カッターミキサーを500rpmで10分間攪拌し、分散溶解させた。溶解液を500〜1500rpmで攪拌しながら菜種油を30分かけて混合し、油脂組成物を得た。ここで、比較例3はc成分の範囲外の配合で、比較例4はb成分の範囲外の配合で行った。
【0038】
実施例と比較例の組成とその評価結果について表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1〜6で得られた油脂組成物の状態については、いずれも油脂の分離がなく非常に滑らかな状態であった。水道水で希釈した油脂組成物の乳化性については、いずれも油脂の分離はなく均一な状態、または、乳化組成物の表面にわずかな油膜が確認されたが、スプーンで軽く攪拌することで再分散する良好な乳化状態であった。乳化組成物の乳化粒子径は、1.6〜8.2μmであり、本発明の目的とする乳化粒子径の範囲内であった。コーヒー飲料におけるコク味の評価については、いずれもコク味が感じられ、目的とするコーヒー飲料を調製できたことが示された。
【0041】
比較例1では、b成分として乳タンパク質濃縮物を用いたところ、油脂含量が実施例1と同じにもかかわらず、油脂組成物から油脂の分離があり、水道水に希釈したところ油脂が分離し、乳化粒子径は非常に大きかった。コーヒー飲料では、表面に油脂が浮きており、好ましくない油っぽさを強く感じた。
【0042】
比較例2では、c成分の範囲外の配合で油脂組成物を調製したところ、油脂組成物は良好な状態を示し、乳化組成物も分離がなく良好な乳化粒子径であることが認められたが、油脂分が少ないため、コーヒー飲料ではコク味を感じなかった。
【0043】
比較例3では、c成分の範囲外の配合で油脂組成物を調製したところ、油脂組成物から明らかな油分の分離が認められた。乳化組成物においても液面に油分が分離している状態で、コーヒー飲料では、後味まで油っぽさを強く感じ不良であった。
【0044】
比較例4では、b成分の範囲外の配合で油脂組成物を調製したところ、多価アルコールに分散溶解させるにはカゼインナトリウムの量が多く、分散中に溶液に大量の泡が発生し、かつ、粘度が上昇してしまったため攪拌しても油脂を抱き込みにくい状態であった。調製した油脂組成物は油脂を抱え込んでおらず、やや分離が認められた。乳化組成物においても液面に油分が分離している状態で、コーヒー飲料では、好ましくない油っぽさを強く感じた。
【0045】
以上の結果から、本発明によると、乳化剤の異味を低減しつつ、油脂を高濃度で含有する油脂組成物を形成することができた。さらにその油脂組成物を水性溶液に希釈する際には、分散性や分散後の乳化安定性に優れており、希釈して成る乳化組成物にコク味や油脂感を付与させる油脂組成物を提供できる。