特許第6961931号(P6961931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961931メタチタン酸粒子及びその製造方法、光触媒形成用組成物、光触媒、並びに、構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961931
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】メタチタン酸粒子及びその製造方法、光触媒形成用組成物、光触媒、並びに、構造体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20211025BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20211025BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20211025BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C01G23/04 B
   B01J35/02 J
   B01J21/06 M
   B01J37/08
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-240462(P2016-240462)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-95498(P2018-95498A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 広良
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英昭
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 保伸
(72)【発明者】
【氏名】岩永 猛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 栄
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−171408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
B01J 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、炭化水素基を有する金属含有化合物が結合してなる構造を有し
表層から内部にかけて炭化水素及び炭化したカーボンを有し、
波長450nm及び750nmに吸収を持ち、
紫外可視吸収スペクトルにおいて、波長350nmの吸光度を1としたとき、波長450nmの吸光度が0.1以上であり、
表面における炭素CとチタンTiとの元素比C/Tiが0.3以上1.2以下であり、
メタチタン酸粒子に対して波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した場合の、前記メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1以上0.9以下である
メタチタン酸粒子。
【請求項2】
可視吸収スペクトルにおいて波長400nm以上800nm以下の全範囲に吸収を持つ請求項1に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項3】
前記金属含有化合物の金属が、ケイ素である請求項1又は請求項2に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項4】
前記炭化水素基を有する金属含有化合物が、一般式:RMR(Rは炭素数1以上20以下の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、Rはハロゲン原子又はアルコキシ基を示し、nは1以上3以下の整数を示し、mは1以上3以下の整数を示す。ただし、n+m=4である。また、nが2又は3の整数を示す場合、複数のRは同じ基を示してもよいし、異なる基を示してもよい。mが2又は3の整数を示す場合、複数のRは同じ基を示してもよいし、異なる基を示してもよい。)で表される化合物である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項5】
前記炭化水素基が、飽和脂肪族炭化水素基である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項6】
前記飽和脂肪族炭化水素基の炭素数が、4以上10以下である請求項5に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項7】
前記メタチタン酸粒子の体積平均粒径が、10nm以上1μm以下である請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項8】
紫外可視吸収スペクトルにおいて、波長350nmの吸光度を1としたとき、波長750nmの吸光度が0.02以上である請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子。
【請求項9】
炭化水素基を有する金属含有化合物により未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程、及び、前記未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程中又は後に、メタチタン酸粒子を加熱処理する工程、を含む請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子と、分散媒及びバインダーよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物とを含む光触媒形成用組成物。
【請求項11】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子を含む、又は、からなる光触媒。
【請求項12】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のメタチタン酸粒子を有する構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタチタン酸粒子及びその製造方法、光触媒形成用組成物、光触媒、並びに、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粒子は、光触媒として利用することが知られている。例えば、特許文献1には、「赤外線吸収スペクトルにおいて650〜990cm−1の吸収ピークを有し、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらを化学結合しているチタン−ケイ素化学結合複合酸化物により対象物を分解する分解方法」が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、「アナタース型結晶構造を有するチタニア結晶格子中のテトラヘドラルホールにSiが挿入されたシリカ修飾チタニアにさらに窒素が導入された窒素導入シリカ修飾チタニア光触媒」が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、「結晶質のチタニアに非晶質のシリカが担持された複合型の光触媒」が開示されている。
また、特許文献4には、「有機溶媒水溶液中にチタニウムブトキシトを混合し、150〜220℃に加熱して上記チタニウムブトキシトを加水分解し、これを乾燥させて中間生成物を得る第1ステップ、上記中間生成物を150〜300℃で焼成する第2ステップ、を含む光触媒の製造方法」が開示されている。
【0005】
また、特許文献5乃至9には、「酸化チタンをシリカ等で被覆する方法」が開示されている。
また、特許文献10には、「酸化チタン微粒子をアルカリ性水溶液に分散させ、該分散液に、酸化チタン微粒子100重量部当り、1〜1000重量部の割合でトリアルコキシシランを添加して加水分解を行うことにより、酸化チタン微粒子表面上にトリアルコキシシラン加水分解縮合生成物の皮膜を形成させる疎水性酸化チタン微粒子の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−212841号公報
【特許文献2】特開2006−21112号公報
【特許文献3】特開2014−188417号公報
【特許文献4】特開2014−128768号公報
【特許文献5】特開2013−249229号公報
【特許文献6】特開2004−115541号公報
【特許文献7】特開2001−269573号公報
【特許文献8】特開2007−16111号公報
【特許文献9】特開2010−6629号公報
【特許文献10】特開平5−221640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理されたメタチタン酸粒子の表面における炭素Cとチタンとの元素比C/Tiが0.3未満若しくは1.2を超え、メタチタン酸粒子の表面に対する波長 352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した前後でのメタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1未満若しくは0.9超えである場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
は、
炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理され、
波長450nm及び750nmに吸収を持ち、
表面における炭素CとチタンTiとの元素比C/Tiが0.3以上1.2以下であり、
メタチタン酸粒子に対して波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した場合の、前記メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1以上0.9以下である
メタチタン酸粒子である。
は、
可視吸収スペクトルにおいて波長400nm以上800nm以下の全範囲に吸収を持つに記載のメタチタン酸粒子である。
【0010】
は、
前記金属含有化合物の金属が、ケイ素である又はに記載のメタチタン酸粒子である。
【0011】
は、
前記炭化水素基を有する金属含有化合物が、一般式:RMR(Rは炭素数1以上20以下の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、Rはハロゲン原子又はアルコキシ基を示し、nは1以上3以下の整数を示し、mは1以上3以下の整数を示す。ただし、n+m=4である。また、nが2又は3の整数を示す場合、複数のRは同じ基を示してもよいし、異なる基を示してもよい。mが2又は3の整数を示す場合、複数のRは同じ基を示してもよいし、異なる基を示してもよい。)で表される化合物である乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子である。
【0012】
は、
前記炭化水素基が、飽和脂肪族炭化水素基である乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子である。
【0013】
は、
前記飽和脂肪族炭化水素基の炭素数が、4以上10以下であるに記載のメタチタン酸粒子である。
【0014】
は、
前記メタチタン酸粒子の体積平均粒径が、10nm以上1μm以下である乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子である。
【0015】
は、
炭化水素基を有する金属含有化合物により未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程、及び、前記未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程中又は後に、メタチタン酸粒子を加熱処理する工程、を含む乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子の製造方法である。
【0016】
は、
乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子と、分散媒及びバインダーよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物とを含む光触媒形成用組成物である。
【0017】
10は、
乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子を含む、又は、からなる光触媒である。
【0018】
11は、
乃至のいずれか1に記載のメタチタン酸粒子を有する構造体である。
【発明の効果】
【0019】
又はによれば、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理されたメタチタン酸粒子の表面におけるC/Tiが0.3未満若しくは1.2を超え、表面に対する波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した前後でのメタチタン酸粒子表面におけるC/Ti元素比の減少量が0.1未満若しくは0.9超えである場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子が提供される。
によれば、前記金属含有化合物の金属がケイ素以外の場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子が提供される。
によれば、前記金属含有化合物がヘキサメチルジシラザンである場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においてもより高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子が提供される。
によれば、前記炭化水素基が芳香族炭化水素基である場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においてもより高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子が提供される。
によれば、前記金属含有化合物が炭素数3以下又は11以上である飽和脂肪族炭化水素基を有する場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においてもより高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子が提供される。
によれば、メタチタン酸粒子の体積平均粒径が10nm未満又は1μm超えの場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においてもより高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子が提供される。
【0020】
によれば、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理されたメタチタン酸粒子の表面におけるC/Tiが0.3未満若しくは1.2を超え、表面に対する波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した前後でのメタチタン酸粒子表面におけるC/Ti元素比の減少量が0.1未満若しくは0.9超えである場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現するメタチタン酸粒子の製造方法が提供される。
10又は11によれば、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理されたメタチタン酸粒子の表面におけるC/Tiが0.3未満若しくは1.2を超え、表面に対する波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した前後でのメタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1未満若しくは0.9超えである場合に比べ、粒子分散性に優れ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現する光触媒形成用組成物、光触媒、又は、構造体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0022】
<メタチタン酸粒子>
本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理され、波長450nm及び750nmに吸収を持ち、表面における炭素CとチタンTiとの元素比C/Tiが0.3以上1.2以下であり、メタチタン酸粒子に対して波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した場合の、前記メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1以上0.9以下である。
本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、光触媒として好適に用いられる。
【0023】
本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、上記構成により、可視光領域においても高い光触媒機能を発現する。この理由は、次のように推測される。
【0024】
まず、通常、光触媒としての未処理の酸化チタン粒子は、紫外光を吸収することにより光触媒機能(光触媒活性)を発揮する。このため、未処理の酸化チタン粒子は、紫外光を十分に確保できる晴れた日の昼間は光触媒機能が発揮されるものの、夜又は日陰には十分な機能を発揮でき難い。例えば、未処理の酸化チタン粒子を外壁材に用いた場合は、日向と日陰では耐汚染性能が低下する傾向がある。また、未処理の酸化チタン粒子を空気清浄機又は浄水器等に用いた場合は、機器の内部に、紫外線の光源となるブラックライト等を設置するなど、設置空間が必要になる場合がある。
【0025】
近年、可視光の光吸収で光触媒機能(光触媒活性)を発現する酸化チタン粒子も知られている。例えば、このような可視光吸収型の酸化チタン粒子としては、異種金属(鉄、銅、タングステン等)を酸化チタンに付着させた酸化チタン粒子、窒素元素、イオウ元素等をドーピングした酸化チタン粒子等が知られている。一方で、光触媒機能が高くなると、光触媒材料を基材表面に固定化するための有機樹脂などのバインダーを分解したり、基材そのものを劣化させるなどの問題もある。
【0026】
また、これまで知られている酸化チタン系の光触媒材料は、その殆どが親水性である為、材料を固定化するために用いる有機・無機バインダーとの親和性が低い傾向があり、粒子が凝集し易く、光触媒性能の低下やバインダーからの脱離といった問題が生じやすかった。この問題に対し表面処理剤等により材料表面を処理する方法があるが、この方法によると粒子凝集やバインダーへの分散性は向上するものの、表面処理剤が光触媒材料の表面を覆うことで光触媒性能が低下することがあった。従って、可視光領域においても高い光触媒機能を発現し、粒子凝集性が少なくバインダーへの分散性が良好なメタチタン酸粒子が求められている。
【0027】
それに対して、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理したメタチタン酸粒子とし、このメタチタン酸粒子が、可視吸収スペクトルにおいて波長450nm及び750nmに吸収を持ち、表面における炭素とチタンとの元素比C/Tiが0.3以上1.2以下であり、前記メタチタン酸粒子に対して波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した場合の、前記紫外線照射の前後での前記メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1以上0.9以下であるようにする。
【0028】
前記粒子表面におけるC/Tiの前記数値範囲を満たすメタチタン酸粒子は、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理した通常のメタチタン酸粒子や未処理のメタチタン酸粒子と比べ、適度なC/Tiを示している。
メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiが0.3以上1.2以下であることにより、メタチタン酸粒子表面における炭化水素基等の炭素量が適度であり、波長450nm及び750nmに十分な吸収を有し、可視光領域において高い光触媒機能を発現する。また、適度なメタチタン酸粒子表面における炭化水素基等の炭素量により粒子凝集性が少なくバインダーへの分散性が向上する。
前記C/Tiが0.3未満であると、メタチタン酸粒子表面における炭素量が少ないため、波長450nm及び750nmに十分な吸収が得られず、可視光領域における光触媒機能が劣り、また粒子凝集性やバインダーへの分散性が劣る。また、前記C/Ti元素比が1.2を超えると、メタチタン酸粒子表面における炭化水素基の量が多いため、メタチタン酸粒子表面におけるメタチタン酸の活性部分の露出量が減少し、可視光領域における光触媒機能が劣る。
【0029】
前記紫外線照射前後のC/Tiの減少量を満たすメタチタン酸粒子は、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理した通常のメタチタン酸粒子や未処理のメタチタン酸粒子と比べ、C/Tiの減少量が大きい値を示している。
メタチタン酸粒子に対して波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した場合の、前記紫外線照射の前後での前記メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1以上0.9以下であることにより、メタチタン酸粒子表面における炭化水素基等の炭素量や炭化水素が炭化した炭素量(カーボン)が適度であり、波長450nm及び750nmに十分な吸収を有し、可視光領域において高い光触媒機能を発現する。またメタチタン酸粒子表面の炭化水素基等がメタチタン酸粒子の光触媒活性により適度に分解することによりバインダーや基材の劣化を抑制する。
前記C/Tiの減少量が0.9を超えると、メタチタン酸粒子表面における炭化水素基等の炭素や炭化水素が炭化した炭素(カーボン)が光触媒活性により分解されメタチタン酸粒子から離脱し易いため、可視光領域における光触媒機能が劣化し易い。また、前記C/Tiの減少量が0.1未満であると、メタチタン酸粒子表面における炭素量が少ないため、波長450nm及び750nmに十分な吸収が得られず、可視光領域における光触媒機能が劣る。また、メタチタン酸粒子表面の炭化水素基等の分解が少ないため、バインダーや基材の劣化を抑制する機能が低下する。
【0030】
また、前記粒子表面におけるC/Ti及び紫外線照射前後のC/Tiの減少量の前記数値範囲を満たすメタチタン酸粒子は、例えば、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理したメタチタン酸粒子を、加熱等の処理により一部の炭化水素基を酸化分解することで作製される。このようなメタチタン酸粒子は、メタチタン酸粒子の細孔の内部に炭化水素及び炭化水素が炭化した炭素(カーボン)が存在し、つまりメタチタン酸粒子の表層から内部にかけて炭化水素及び炭化水素が炭化した炭素(カーボン)が取り込まれていると考えられる。一方、取り込まれた炭素は、紫外光と共に可視光の光吸収を有し、電荷分離物質及び助触媒として機能すると考えられる。
【0031】
つまり、メタチタン酸粒子の細孔の内部に存在する炭素は、紫外光と共に可視光の光吸収によって、メタチタン酸粒子表面の電子の励起を促進し、また励起した電子と正孔が再結合する確率を低くしており、光触媒機能が向上すると考えられる。
【0032】
また、一般的に、未処理のメタチタン酸粒子は粒径、粒径分布、及び粒子形状の制御自由度が低く、粒子凝集性が高い傾向がある。このため、樹脂中、液体中でのメタチタン酸粒子の分散性が悪く、1)光触媒機能が発揮されに難い、2)フィルム等の透明性、塗布液の塗膜の均一性が低下し易い傾向がある。
しかし、本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、表面に金属含有化合物に由来する炭化水素基を有するため、塗膜中における一次粒子の分散性も確保されている。このため、均一に近い塗膜が形成でき、効率良くメタチタン酸粒子に光が当たり、光触媒機能が発揮され易くなる。また、フィルム等の透明性、塗布液の塗膜の均一性も高まりデザイン性も保たれる。その結果、例えば、外壁材、板、パイプ、不織布(セラミック等の不織布)の表面に、メタチタン酸粒子を含む塗料を塗着するとき、メタチタン酸粒子の凝集、塗布欠陥が抑制され、長期にわたり、光触媒機能が発揮され易くなる。
【0033】
以上から、本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、上記構成により、粒子分散性に優れ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現すると推測される。
【0034】
以下、本実施形態に係るメタチタン酸粒子の詳細について説明する。
【0035】
(未処理のメタチタン酸粒子)
未処理のメタチタン酸粒子(表面処理の対象となるメタチタン酸粒子)は、チタン酸水和物TiO・nHOのうち、n=1のチタン酸の粒子をいう。
なお、本実施形態における未処理のメタチタン酸粒子は、炭化水素基を有する金属含有化合物により表面処理されていないメタチタン酸粒子であり、他の表面処理を除外するものでないことは言うまでもないが、本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、炭化水素基を有する金属含有化合物のみにより表面処理されたメタチタン酸粒子であることが好ましい。
【0036】
未処理のメタチタン酸粒子の製法は、特に制限はないが、例えば、塩素法(気相法)、硫酸法(液相法)が挙げられる。
【0037】
塩素法(気相法)の一例は、次の通りである。まず、原料であるルチル鉱石をコークス及び塩素と反応させ、一度、ガス状の四塩化チタンにした後、冷却して、液状の四塩化チタンを得る。次に、四塩化チタンを水に溶解させ、これに強塩基を投入しながら加水分解させることにより、未処理のメタチタン酸[オキシ水酸化チタン(TiO(OH))]粒子が得られる。
硫酸法(液相法)の一例は、次の通りである。まず、原料であるイルメナイト鉱石(FeTiO)又はチタンスラグを濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄成分を硫酸鉄(FeSO)として分離し、一度、オキシ硫酸チタン(TiOSO)とする(硫酸チタニル溶液)。次に、オキシ硫酸チタン(TiOSO)を加水分解することにより、未処理のメタチタン酸[オキシ水酸化チタン(TiO(OH))]粒子が得られる。
【0038】
(金属含有化合物)
本実施形態における前記金属含有化合物は、炭化水素基を有する。
金属含有化合物が有する炭化水素基としては、炭素数1以上20以下(好ましくは炭素数1以上18以下、より好ましくは炭素数4以上12以下、更に好ましくは炭素数4以上10以下)の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基等が挙げられる。
また、前記炭化水素基は、前記金属含有化合物における金属に直接結合していても、直接結合していなくともよいが、高い光触媒機能の発揮及び分散性の向上の観点から、直接結合していることが好ましい。
【0039】
炭化水素基を有する金属含有化合物の金属原子としては、Si、Ti及びAlよりなる群から選択される金属原子であることが好ましく、Siであることが特に好ましい。すなわち、炭化水素基を有する金属含有化合物としては、炭化水素基を有するシラン化合物が特に好ましい。
前記シラン化合物としては、例えば、クロロシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シラザン化合物(ヘキサメチルジシラザン等)等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、高い光触媒機能の発揮及び分散性の向上の観点から、シラン化合物としては、一般式:RSiRで表される化合物が好ましい。
一般式:RSiRにおいて、Rは炭素数1以上20以下の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、Rはハロゲン原子又はアルコキシ基を示し、nは1以上3以下の整数を示し、mは1以上3以下の整数を示す。ただし、n+m=4である。また、nが2又は3の整数を示す場合、複数のRは同じ基を示してもよいし、異なる基を示してもよい。mが2又は3の整数を示す場合、複数のRは同じ基を示してもよいし、異なる基を示してもよい。
【0041】
が示す脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、分散性の観点から、直鎖状又は分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、炭素数1以上18以下が好ましく、炭素数4以上12以下がより好ましく、炭素数4以上10以下が更に好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和及び不飽和のいずれの脂肪族炭化水素基でもよいが、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0042】
飽和脂肪族炭化水素基としては、直鎖状アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、イコシル基等)、分岐鎖状アルキル基(イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基、ターシャリーブチル基、ターシャリーペンチル基、イソペンタデシル基等)、環状アルキル基(シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等)などが挙げられる。
不飽和脂肪族炭化水素基としては、アルケニル基(ビニル基(エテニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基、2−ドデセニル基、ペンテニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、3−ヘキシニル基、2−ドデシニル基等)などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基は、置換された脂肪族炭化水素基も含む。脂肪族炭化水素基に置換し得る置換基としては、エポキシ基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0043】
が示す芳香族炭化水素基は、炭素数6以上27以下(好ましくは6以上18以下)の芳香族炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフタレン基、アントラセン基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、置換された芳香族炭化水素基も含む。芳香族炭化水素基に置換し得る置換基としては、エポキシ基、グリシジル基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0044】
が示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子が好ましい。
【0045】
が示すアルコキシ基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは1以上8以下、より好ましくは3以上8以下)のアルコキシ基が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、n−ヘキシロキシ基、2−エチルヘキシロキシ基、3,5,5−トリメチルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
アルコキシ基は、置換されたアルコキシ基も含む。アルコキシ基に置換し得る置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アミド基、カルボニル基等が挙げられる。
【0046】
一般式:RSiRで表される化合物は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、Rが飽和炭化水素基を示す化合物が好ましい。特に、一般式:RSiRで表される化合物は、Rは炭素数1以上20以下の飽和脂肪族炭化水素基を示し、Rはハロゲン原子又はアルコキシ基を示し、nは1以上3以下の整数を示し、mは1以上3以下の整数を示す(ただし、n+m=4である)化合物であることが好ましい。
【0047】
一般式:RSiRで表される化合物として、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−グリドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o−メチルフェニルトリメトキシシラン、p−メチルフェニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、i−ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
なお、シラン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0048】
これらの中でも、前記シラン化合物における前記炭化水素基は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、アルキル基であることが特に好ましい。
また、前記シラン化合物における前記炭化水素基は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、炭素数1以上18以下であることが好ましく、炭素数4以上12以下であることがより好ましく、炭素数4以上10以下であることが特に好ましい。
【0049】
また、前記金属含有化合物の金属原子がTiである炭化水素基を有するチタン化合物としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート等のチタネートカップリング剤、ジ−i−プロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ−i−プロポキシビス(トリエタノールアミナート)チタニウム、ジ−i−プロポキシチタンジアセテート、ジ−i−プロポキシチタンジプロピオネート等のチタニウムキレートが挙げられる。
【0050】
前記金属含有化合物の金属原子がAlである炭化水素基を有するアルミニウム化合物としては、例えば、トリエトキシアルミニウム、トリ−i−プロポキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム等のアルキルアルミネート、ジ−i−プロポキシ・モノ−sec−ブトキシアルミニウム、ジ−i−プロポキシアルミニウム・エチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウムカップリング剤が挙げられる。
【0051】
(メタチタン酸粒子の特性)
本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、紫外可視吸収スペクトルにおいて波長450nm及び750nmに吸収を持つ、
本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、可視光領域においても高い光触媒機能を発現させる観点から、可視吸収スペクトルにおいて波長450nm、600nm及び750nmに吸収を持つことが好ましく、可視吸収スペクトルにおいて波長450nm以上750nm以下の全範囲に吸収を持つことがより好ましく、可視吸収スペクトルにおいて波長400nm以上800nm以下の全範囲に吸収を持つことが特に好ましい。
また、可視光領域においても高い光触媒機能を発現させる観点から、メタチタン酸粒子は、紫外可視吸収スペクトルにおいて、波長350nmの吸光度を1としたとき、波長450nmの吸光度が0.02以上(好ましくは0.1以上)であることが好ましく、波長450nmの吸光度が0.2以上(好ましくは0.3以上)、波長750nmの吸光度が0.02以上(好ましくは0.1以上)であることがより好ましい。
【0052】
紫外可視吸収スペクトルの測定は、次に示す方法により測定される。まず、測定対象となるメタチタン酸粒子に対して、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製:U−4100)[測定条件;スキャンスピード:600nm、スリット幅:2nm、サンプリング間隔:1nm]により、波長200nm以上900nmの範囲を測定し、紫外可視吸収スペクトルを得る。なお、本測定は、粒子を成形した薄膜状の試料に対して実施してもよい。
【0053】
本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、表面におけるC/Tiが0.3以上1.2以下であり、メタチタン酸粒子に対して波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を20時間照射した場合の、前記紫外線照射の前後での前記メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの減少量が0.1以上0.9以下である。
また、可視光領域においても高い光触媒機能を発現させる観点から、本実施形態に係るメタチタン酸粒子は、表面におけるC/Tiが、0.4以上1.1以下であることが好ましく、0.5以上1.0以下であることがより好ましく、0.6以上0.9以下であることが特に好ましい。
また、紫外線照射の前後での粒子表面におけるC/Tiの減少量が、0.2以上0.85以下であることが好ましく、0.25以上0.8以下であることがより好ましい。
【0054】
メタチタン酸粒子表面におけるC/Tiの測定は、次に示す方法により測定される。まず、測定対象となるメタチタン酸粒子に対して、X線光電子分光(XPS)分析装置(日本電子(株)製JPS−9000MXを使用し、X線源としてMgKα線を用い、加速電圧を10kV、エミッション電流を20mAに設定して測定し、各元素のピークの強度からC/Tiを算出する。
メタチタン酸粒子表面に対する紫外線の照射は、波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を照射するものとする。紫外線の照射開始時のメタチタン酸粒子の温度は15℃以上30℃以下で行うものとし、照射時間は20時間で行うものとする。
前記紫外線の照射後、前記方法により、C/Tiを測定し、前記紫外線の照射前後におけるC/Tiの減少量を算出する。
【0055】
本実施形態に係るメタチタン酸粒子の体積平均粒径は、10nm以上1μm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、15nm以上200nm以下が更に好ましい。
メタチタン酸粒子の体積平均粒径を10nm以上にすると、メタチタン酸粒子の凝集し難く、光触媒機能が高まりやすい。メタチタン酸粒子の体積平均粒径を1μm以下にすると、量に対する比表面積の割合が大きくなり、光触媒機能が高まりやすい。このため、メタチタン酸粒子の体積平均粒径を上記範囲にすると、可視光領域において高い光触媒機能を発現させ易くなる。
【0056】
メタチタン酸粒子の体積平均粒径は、ナノトラックUPA−ST(マイクロトラック・ベル社製動的光散乱式粒度測定装置)を用いて測定する。また、測定条件は、サンプル濃度は20%、測定時間は300秒とする。この装置は、分散質のブラウン運動を利用して粒子径を測定するものであり、溶液にレーザー光を照射し、その散乱光を検出することにより粒子径を測定する。
そして、動的光散乱式粒度測定装置により測定される粒度分布を基にして、分割された粒度範囲(チャンネル)に対して個々の粒子の体積をそれぞれ小径側から累積分布を描いて、累積50%となる粒径を体積平均粒径として求める。
【0057】
<メタチタン酸粒子の製造方法>
本実施形態に係るメタチタン酸粒子の製造方法は、特に制限はないが、炭化水素基を有するシラン化合物により未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程、及び、前記未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程中又は後に、メタチタン酸粒子を加熱処理する工程、を含むことが好ましい。
【0058】
まず、金属含有化合物よる未処理のメタチタン酸粒子の表面処理について説明する。
金属含有化合物より、未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する方法としては、特に制限はないが、例えば、金属含有化合物自体を直接、未処理のメタチタン酸粒子に接触させる方法、溶媒に金属含有化合物を溶解させた処理液を、未処理のメタチタン酸粒子に接触させる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、未処理のメタチタン酸粒子を溶媒に分散した分散液に、撹拌下で、金属含有化合物自体又は処理液を添加する方法、ヘンシェルミキサー等の撹拌などにより流動している状態の未処理のメタチタン酸粒子に添加(滴下、噴霧等)する方法などが挙げられる。
これら方法により、金属含有化合物中の反応性基(例えば加水分解性基)が、未処理のメタチタン酸粒子の表面に存在する加水分解性基(水酸基、ハロゲノ基、アルコキシ基等)等と反応し、金属含有化合物よる未処理のメタチタン酸粒子の表面処理がなされる。
【0059】
ここで、金属含有化合物を溶解する溶媒としては、有機溶媒(例えば、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、アルコール系溶媒等)、水、また、これらの混合溶媒などが挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、オクタン、ヘキサデカン、シクロヘキサンなどが挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸アミルなどが挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、ジブチルエーテル、ジベンジルエーテルなどが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素などが挙げられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、i−プロピルアルコールなどが挙げられる。水としては、例えば、水道水、蒸留水、純水などが挙げられる。
なお、溶媒としては、これら以外に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、硫酸などの溶媒を用いてもよい。
【0060】
溶媒に金属含有化合物を溶解させた処理液において、金属含有化合物の濃度は、溶媒に対して、0.05mol/L以上500mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以上10mol/L以下がより好ましい。
【0061】
金属含有化合物よるメタチタン酸粒子の表面処理の条件は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、次の条件がよい。未処理のメタチタン酸粒子に対して、10質量%以上100質量%以下(好ましくは20質量%以上75質量%以下、より好ましくは25質量%以上50質量%以下)の金属含有化合物により、未処理のメタチタン酸粒子を表面処理することがよい。金属含有化合物の処理量を10質量%以上にすると、可視光領域においても高い光触媒機能がより発現し易くなる。また、分散性も高まり易くなる。金属含有化合物の処理量を100質量%以下にすると、メタチタン酸粒子の表面(そのTi−O−)に対するシリコン(Si)量が過剰になることを抑え、余剰のシリコン(Si)による光触媒機能の低下が抑制され易くなる。
【0062】
また、金属含有化合物による未処理のメタチタン酸粒子の表面処理温度は、15℃以上150℃以下が好ましく、20℃以上100℃以下がより好ましい。表面処理時間は、10分以上120分以下が好ましく、30分以上90分以下がより好ましい。
【0063】
金属含有化合物よる未処理のメタチタン酸粒子の表面処理後は、乾燥処理を行うことがよい。乾燥処理の方法は、特定制限はなく、例えば、真空乾燥法、噴霧乾燥法等の周知の乾燥法を利用する。また、乾燥温度は、20℃以上150℃以下が好ましい。
【0064】
次に、加熱処理について説明する。
【0065】
加熱処理は、未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程中、又は、未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程後に実施する。具体的には、加熱処理は、シラン化合物より未処理のメタチタン酸粒子の表面処理するとき、表面処理後の乾燥処理をするとき、又は、乾燥処理後に別途実施することができるが、加熱処理する前にメタチタン酸粒子とシラン化合物を十分反応させる必要があるため、表面処理後の乾燥処理をするとき、又は、乾燥処理後に別途実施することが好ましく、メタチタン酸粒子の表面処理、乾燥を適正に実施する上では、乾燥処理後に別途実施することがより好ましい。
【0066】
加熱処理の温度は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、180℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上450℃以下がより好ましく、250℃以上400℃以下が更に好ましい。
なお、未処理のメタチタン酸粒子を表面処理する工程中に加熱処理を行う場合、先ず始めに前記表面処理の温度でシラン化合物を十分反応させた後に前記加熱処理の温度で加熱処理を実施する。また、表面処理後の乾燥処理において加熱処理を行う場合、前記乾燥処理の温度は、加熱処理温度として実施する。
加熱処理の時間は、高い光触媒機能の発現及び分散性の向上の観点から、10分以上300分以下が好ましく、30分以上120分以下がより好ましい。
【0067】
加熱処理の方法は、特に限定されず、例えば、気炉、焼成炉(ローラーハースキルン、シャトルキルン等)、輻射式加熱炉等による加熱、レーザー光、赤外線、UV、マイクロ波等による加熱など、周知の加熱方法を利用する。
【0068】
以上の工程を経て、本実施形態に係るメタチタン酸粒子が好適に得られる。
【0069】
<光触媒形成用組成物>
本実施形態に係る光触媒形成用組成物は、本実施形態に係るメタチタン酸粒子と、分散媒及びバインダーよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物とを含む。
本実施形態に係る光触媒形成用組成物の態様としては、例えば、本実施形態に係るメタチタン酸粒子、及び、分散媒を含む分散液、本実施形態に係るメタチタン酸粒子、及び、有機・無機バインダーを含む組成物などの態様が挙げられる。
なお、前記分散液は、粘度が高いペースト状のものであってもよい。
【0070】
前記分散媒としては、水、有機溶媒等が好ましく用いられる。
水としては、例えば、水道水、蒸留水、純水などが挙げられる。
有機溶媒としては、特に制限はなく、例えば、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、アルコール系溶媒等が挙げられる。
また、前記分散液は、分散安定性及び保存安定性の観点から、分散剤、及び、界面活性剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有することが好ましい。分散剤及び界面活性剤としては、公知のものが用いられる。
【0071】
前記組成物に用いられるバインダーとしては、特に制限はないが、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合(ABS)樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリサルファイド樹脂、ポリフェノール樹脂、それらの複合物、それらをシリコーン変性又はハロゲン変性させた樹脂等の有機系バインダー、ガラス、セラミック、金属粉などの無機系バインダーが挙げられる。
また、前記分散液は、前記バインダーをエマルションとして含んでいてもよい。
【0072】
本実施形態に係る光触媒形成用組成物は、前記以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、公知の添加剤が用いられ、例えば、助触媒、着色剤、充填剤、防腐剤、消泡剤、密着改良剤、増粘剤などが挙げられる。
【0073】
本実施形態に係る光触媒形成用組成物は、本実施形態に係るメタチタン酸粒子を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
本実施形態に係る光触媒形成用組成物における本実施形態に係るメタチタン酸粒子の含有量は、特に制限はなく、分散液、樹脂組成物等の各種態様、及び、所望の光触媒量等に応じて、適宜選択すればよい。
【0074】
本実施形態に係る光触媒形成用組成物を用いる光触媒又は光触媒を有する構造体の製造方法としては、特に制限はなく、公知の付与方法が用いられる。
本実施形態に係る光触媒形成用組成物の付与方法としては、例えば、スピンコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り法、スポンジ塗り法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などが挙げられる。
【0075】
<光触媒、及び、構造体>
本実施形態に係る光触媒は、本実施形態に係るメタチタン酸粒子を含む、又は、からなる。
また、本実施形態に係る構造体は、本実施形態に係るメタチタン酸粒子を有する。
【0076】
本実施形態に係る光触媒は、本実施形態に係るメタチタン酸粒子のみからなる光触媒であってもよいし、本実施形態に係るメタチタン酸粒子に助触媒を混合した光触媒であっても、本実施形態に係るメタチタン酸粒子を接着剤や粘着剤により所望の形状に固めた光触媒であってもよい。
【0077】
本実施形態に係る構造体は、光触媒活性の観点から、本実施形態に係るメタチタン酸粒子を表面に少なくとも有することが好ましい。
また、本実施形態に係る構造体は、光触媒として、本実施形態に係るメタチタン酸粒子を有することが好ましい。
本実施形態に係る構造体は、基材表面の少なくとも一部に本実施形態に係るメタチタン酸粒子を少なくとも有する構造体であることが好ましく、基材表面の少なくとも一部に本実施形態に係る光触媒形成用組成物を付与して形成された構造体であることが好ましい。
前記構造体において、本実施形態に係る光触媒形成用組成物を付与する量は、特に制限はなく、所望に応じて選択すればよい。
更に、本実施形態に係る構造体においては、基材表面に本実施形態に係るメタチタン酸粒子が付着した状態であっても、固定化されていてもよいが、光触媒の耐久性の観点から、固定化されていることが好ましい。固定化方法は、特に制限はなく、公知の固定化方法が用いられる。
【0078】
本実施形態に用いられる基材は、無機材料、有機材料を問わず種々の材料が挙げられ、その形状も限定されない。
基材の好ましい例としては、金属、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴム、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの表面に少なくとも一層の被膜を有するものが挙げられる。
用途の観点からみた基材の好ましい例としては、建材、外装材、窓枠、窓ガラス、鏡、テーブル、食器、カーテン、レンズ、プリズム、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ポリマーフィルム、ポリマーシート、フィルター、屋内看板、屋外看板、車両用照明灯のカバー、屋外用照明器具、空気清浄器、浄水器、医療用器具、介護用品などが挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を、実施例を挙げて更に具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。また、「部」、「%」は、特に断りがない限り、質量基準である。各実施例及び比較例における各操作は、特に断りのない限り、空気中にて行った。
【0080】
<実施例1>
−メタチタン酸スラリーの調製−
TiO濃度が260g/L、Ti3+濃度がTiO換算で6.0g/Lの硫酸チタニル溶液に、別途作製したアナターゼシードを硫酸チタニル溶液中のTiOに対してTiO換算で8質量%添加した。次に、この溶液を沸点以上で加熱し、硫酸チタニル(TiOSO)を加水分解し、粒状のメタチタン酸を生成した。次に、このメタチタン酸粒子を濾過及び洗浄し、その後、スラリー化して、pH7で中和洗浄した。このようにして、体積平均粒径40nmのメタチタン酸スラリーを得た。
【0081】
−メタチタン酸粒子の調製−
体積平均粒径40nmのメタチタン酸スラリーに、撹拌しながら5N水酸化ナトリウム水溶液を加えpH8.5として2時間撹拌保持後、6N塩酸にてpH5.8まで中和し、ろ過、水洗を行った。洗浄後、更に水を加え再びスラリーとし、撹拌をしながら6N塩酸を加えpH1.3とし、3時間撹拌保持した。このスラリーからメタチタン酸として、100部分を分取し、60℃に加温保持し、撹拌しながら、イソブチルトリメトキシシラン40部を添加し、30分間撹拌保持後、7N水酸化ナトリウム水溶液を加えpH7まで中和し、ろ過、水洗を行った。ろ過、水洗済み残留分を、気流式乾燥機により出口温度150℃の条件で噴霧乾燥して、乾燥粉体を得た。
そして、得られた乾燥粉体に対し、電気炉で400℃、1時間の加熱処理を行い、メタチタン酸粒子1を得た。
【0082】
<実施例2>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをヘキシルトリメトキシシランとした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子2を得た。
【0083】
<実施例3>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをデシルトリメトキシシランとした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子3を得た。
【0084】
<実施例4>
実施例2において、ヘキシルトリメトキシシランの添加量を40部から50部に変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子4を得た。
【0085】
<実施例5>
実施例2において、乾燥後の粉体粒子を加熱処理するときの電気炉での温度を400℃から250℃とした以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子5を得た。
【0086】
<実施例6>
実施例1において、乾燥後の粉体粒子を加熱処理するときの電気炉での温度を400℃から500℃とした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子6を得た。
【0087】
<実施例7>
実施例2において、ヘキシルトリメトキシシランの添加量を40部から25部に変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子7を得た。
【0088】
<実施例8>
実施例2において、ヘキシルトリメトキシシランの添加量を40部から75部に変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子8を得た。
【0089】
<実施例9>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシラン40部をオクチルトリメトキシシラン35部に変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子9を得た。
【0090】
<実施例10>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをメチルトリメトキシシランに変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子10を得た。
【0091】
<実施例11>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをヘキサメチルジシラザンに変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒11を得た。
【0092】
<実施例12>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシラン40部をドデシルトリメトキシシラン30部に変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子12を得た。
【0093】
<実施例13>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをフェニルトリメトキシシランに変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子13を得た。
【0094】
<実施例14>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランの添加量を40部から10部に変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子14を得た。
【0095】
<実施例15>
実施例2において、乾燥後の粉体粒子を加熱処理するときの電気炉での温度を400℃から180℃とした以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子15を得た。
【0096】
<実施例16>
実施例2において、メタチタン酸スラリーの体積平均粒径を40nmから15nmに変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子16を得た。
【0097】
<実施例17>
実施例2において、メタチタン酸スラリーの体積平均粒径を40nmから980nmに変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子17を得た。
【0098】
<実施例18>
実施例2において、メタチタン酸スラリーの体積平均粒径を40nmから10nmに変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子18を得た。
【0099】
<実施例19>
実施例2において、メタチタン酸スラリーの体積平均粒径を40nmから1100nmに変更した以外は、実施例2と同様にして、メタチタン酸粒子19を得た。
【0100】
<実施例20>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをイソプロピルトリイソステアロイルチタネート(TTS、味の素(株)製)とした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子20を得た。
【0101】
<実施例21>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランをアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート(AL−M、味の素(株)製、なお、アセトアルコキシのアルコキシ基は、オキサデシルオキシ基である。)とした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子21を得た。
【0102】
<比較例1>
市販のアナターゼ型酸化チタン粒子(「SSP−20(堺化学工業(株)製)」体積平均粒径12nm))を、そのまま、酸化チタン粒子C1とした。
【0103】
<比較例2>
市販のルチル型酸化チタン粒子(「STR−100N(堺化学工業(株)製)」体積平均粒径16nm))を、そのまま、酸化チタン粒子C2とした。
【0104】
<比較例3>
市販のアナターゼ型酸化チタン粒子(「SSP−20(堺化学工業(株)製)」体積平均粒径12nm))に対して、電気炉で400℃、1時間の加熱処理を行い、酸化チタン粒子C3を得た。
【0105】
<比較例4>
市販のルチル型酸化チタン粒子(「STR−100N(堺化学工業(株)製)」体積平均粒径16nm))に対して、電気炉で400℃、1時間の加熱処理を行い、酸化チタン粒子C4を得た。
【0106】
<比較例5>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランの添加量を40部から5部に変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子C5を得た。
【0107】
<比較例6>
実施例1において、イソブチルトリメトキシシランの添加量を40部から120部に変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子C6を得た。
【0108】
<比較例7>
実施例1において、乾燥後の粉体粒子を加熱処理するときの電気炉での温度を400℃から600℃とした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子C7を得た。
【0109】
<比較例8>
実施例1において、乾燥後の粉体粒子を加熱処理するときの電気炉での温度を400℃から160℃とした以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子C8を得た。
【0110】
<比較例9>
実施例1において、乾燥後の粉体粒子の加熱処理を実施しない以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子C9を得た。
【0111】
<比較例10>
実施例1において、メタチタン酸スラリーの体積平均粒径を40nmから6nmに変更した以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸粒子C10を得た
【0112】
<測定>
各例で得られた粒子について、可視吸収スペクトル特性を確認し、実施例1〜21及び比較例5〜7の粒子は波長400nm以上800nm以下の範囲に吸収を有していた。(表1及び表2中「UV−Vis特性」と表記:波長350nmの吸光度を1にとしたとき、波長450nmの吸光度及び波長600nm吸光度及び750nm吸光度)、XPSによる粒子表面におけるC/Ti元素比、並びに、体積平均粒径(表中「D50v」と表記)を既述の方法に従って測定した。
また、各例で得られた粒子表面に、波長352nm、照射強度1.3mW/cmの紫外線を照射開始時25℃において20時間照射した後、XPSによる粒子表面におけるC/Ti元素比を既述の方法に従って測定し、前記紫外線の照射前後におけるC/Ti元素比の減少量を算出した。
【0113】
<評価>
(分解性(光触媒活性))
可視光領域での光触媒特性として、分解性を評価した。そして、分解性の評価は、メチレンブルーの分解性(色度変動)により評価した。具体的には、各例で得られた粒子を固形分濃度2重量部になるように4重量部のメタノールを含む純水に分散させた後、その分散液をろ紙(5cm四方:アドバンテック社製:No.5A)に噴霧塗布、乾燥し、ろ紙表面に均一にサンプル粒子を付着させる。
続いて、その表面に、2質量%メチレンブルー水溶液をメタノールで5倍に希釈調整したメチレンブルー希釈液を噴霧塗布、乾燥し、試験片を作製した。
メチレンブルーの吸収波長領域(波長400nm以上800nm以下)を有さない、波長400nm以上550nm以下の可視光を照射する発光ダイオード(LED)を使用し、試験片作製直後の試験片に可視光(10,000LX(ルクス))を2時間連続照射した。その際、試験片の照射面中央部に5円玉を設置し、照射の遮蔽部分を形成した。
【0114】
試験片作製直後、可視光の2時間照射後の試験片における色相を分光色差計「RM200QC(エックスライト社製)」により測定し、下記式で算出されるΔE1、及びΔE2を求めた。
なお、色度EはE=((L+(a+(b0.5で算出される値であり、各L、a、bはL表色系を基準とした値である。
・式:ΔE1=可視光の2時間連続照射後の照射面の色度−試験片作製直後の試験片面の色度
・式:ΔE2=可視光の2時間連続照射後の照射遮蔽面の色度−試験片作製直後の試験片面の色度
そして、消色変動値ΔE=ΔE1−ΔE2に基づいて、分解性を評価した。評価基準は以下の通りである。
【0115】
−分解性の評価基準−
A(○):15%≦ΔE
B(△):5%≦ΔE<15%
C(×):ΔE<5%
【0116】
(分散性(粒子凝集))
分散性について、次のように評価した。ビーカーに各例で得られた粒子0.05gを入れ、メチルエチルケトン40gを添加し、続いて超音波分散機で10分間分散した後の粒度分布をナノトラックUPA−ST(マイクロトラック・ベル社製動的光散乱式粒度測定装置)により測定し、体積粒度分布の分布形態により評価した。評価基準は以下の通りである。
【0117】
−分散性の評価基準−
A(○):体積粒度分布のピーク値が一山であり、分散性が良好なもの
B(△):体積粒度分布が二山であるが、メインピーク値が他ピーク値の10倍以上あり、実用上分散性に問題が無いもの
C(×):体積粒度分布のピーク値が三山以上あり、分散不良なもの
【0118】
(分散性(バインダーへの分散))
分散性について、次のように評価した。ビーカーに各例で得られた粒子0.05gを入れ、アクリル樹脂(Mw=10,000)を1.8質量%の濃度で溶解したメチルエチルケトン溶液1gを添加し、粒子を充分馴染ませた後、メチルエチルケトン40gを添加、続いて超音波分散器で10分間分散した後の粒度分布をナノトラックUPA−ST(マイクロトラック・ベル社製動的光散乱式粒度測定装置)により測定し、体積粒度分布の分布形態により評価した。評価基準は以下の通りである。
【0119】
−分散性の評価基準−
A(○):体積粒度分布のピーク値が一山であり、分散性が良好なもの
B(△):体積粒度分布が二山であるが、メインピーク値が他ピーク値の10倍以上あり、実用上分散性に問題が無いもの
C(×):体積粒度分布のピーク値が三山以上あり、分散不良なもの
【0120】
(バインダーの分解抑制性)
バインダーの分解抑制性について、次のように評価した。ビーカーに各例で得られた粒子0.5gを入れ、アクリル樹脂(Mw=10,000)を13質量%の濃度で溶解したメチルエチルケトン溶液2gを添加し、撹拌した後、ガラスピペットで1ml分取し、ガラスプレート(50mm×50mm)に塗広げた後、充分に乾燥し、試験片を作製した。なお、この試験片を二つ準備した。
次に波長400nm以上800nm以下の可視光を照射する発光ダイオード(LED)を使用し、試験片の一方に可視光(30,000LX(ルクス))を30時間連続照射した。また、もう一方の試験片は暗所に保管した。
これら、暗所保管、可視光の30時間照射後の試験片それぞれにおける表面塗布膜について、赤外分光光度計FTIR−410(日本分光(株)製)を用い、アクリルポリマー(バインダー)中のカルボニル基(C=O)の赤外分光ピーク強度を測定し、下記式で算出されるΔTを求めた。
・式:ΔT=可視光30時間照射後の試料のカルボニル基(C=O)の赤外分光ピーク強度/暗所保管試料のカルボニル基(C=O)の赤外分光ピーク強度
そして、カルボニル基(C=O)の赤外ピーク強度比ΔTの値により、バインダーポリマーの分解抑制性について、評価した。
評価基準は以下の通りである。
【0121】
−バインダーの分解抑制性の評価基準−
A(○):0.8≦ΔT
B(△):0.6≦ΔT<0.8
C(×):ΔT<0.6
【0122】
各例の詳細、及び評価結果を表1及び表2に一覧にして示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
上記結果から、本実施例は、比較例に比べ、分解性が良好であることがわかる。これにより、本実施例は、比較例に比べ、可視光領域においても高い光触媒機能を発現していることがわかる。また、本実施例は、分散性、バインダーの分解抑制性も確保されていることがわかる。