特許第6961971号(P6961971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961971
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】コイル装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20211025BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20211025BHJP
   H01F 27/22 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   H01F37/00 S
   H01F37/00 E
   H01F37/00 J
   H01F41/12 D
   H01F27/22
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-56578(P2017-56578)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-160542(P2018-160542A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年11月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 勝
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 正明
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−139699(JP,A)
【文献】 特開2010−118503(JP,A)
【文献】 特開2015−050435(JP,A)
【文献】 特開2001−237125(JP,A)
【文献】 特開2015−050252(JP,A)
【文献】 特開平10−189351(JP,A)
【文献】 特開2009−147041(JP,A)
【文献】 実公昭48−28133(JP,Y1)
【文献】 特開2016−139744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00−19/08、27/02、27/08−27/22
H01F 27/24、27/28、27/32、30/00−38/12
H01F 38/16、38/42、41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性コアと、ボビンと、前記ボビンに装着してあるコイルと、を有するコイル装置であって、
前記ボビンの2つのボビン底部と、2つの前記ボビン底部の内側に挟んで配置される前記磁性コアのコア底部と、に対向するように配置される放熱部材と、
前記放熱部材の前記ボビン底部および前記コア底部と対向する側に、前記磁性コア、前記ボビンおよび前記コイルを取り囲むように取り付けられる枠状のケースとを有し、
前記ボビン底部には、前記放熱部材との間に放熱経路を形成する凹凸形状が形成されており、
前記凹凸形状の凹部に形成された前記放熱経路は、前記ボビン底部の外側側面から、前記コア底部まで連続しており、
前記放熱経路を含み、前記放熱部材、前記ケース、前記磁性コアおよび前記ボビンとの間に形成される隙間は、ポッティング樹脂で満たされていることを特徴とするコイル装置。
【請求項2】
前記凹凸形状は、前記ボビン底部の内側側面から前記外側側面へ向かって続いており前記放熱部材に向かって突出するフィン状突起を有することを特徴とする請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
前記凹凸形状は、前記ボビン底部の内側側面から前記外側側面へ断続的に設けられており前記放熱部材に向かって突出する複数の柱状突起を有することを特徴とする請求項1に記載のコイル装置。
【請求項4】
前記放熱経路は、2つの前記ボビン底部のうち一方の前記ボビン底部と前記放熱部材の間に設けられる第1放熱経路と、2つの前記ボビン底部のうち他方の前記ボビン底部と前記放熱部材の間に設けられる第2放熱経路とを有し、
前記ポッティング樹脂は、前記第1放熱経路と前記第2放熱経路とを接続していることを特徴とする請求項1に記載のコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばAC−DCパワーサプライのようなスイッチング電源、たとえば車載バッテリーを充電するためのAC−DCパワーサプライに用いられるノイズフィルター等としても好適に用いることができるコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばEV用のバッテリー充電のためなどに用いられるトランスとして、下記の特許文献1が知られている。このように車載などに用いられるトランスには、高電流が印加され、放熱対策が必要となっている。
【0003】
従来提案されているコイル装置は、ボビン及び磁性コアと放熱部材とを、ボビン設置部又はコア設置部で熱伝達可能に接続することにより、発熱するコイルが巻回してあるボビンの内部や磁性コアにたまっている熱を、ボビン設置部及びコア設置部で、ボビン及び磁性コアから放熱部材に良好に伝達し、放熱部材から熱を発散させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−139699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載バッテリーを充電するためのAC−DCパワーサプライに用いられるノイズフィルターの冷却では、車載用のトランスの冷却で採用される水冷システムではなく、自然冷却システムが採用される場合があるなど、コイル装置は、その用途によって、採用される冷却システムに違いがある。したがって、このような用途にも対応可能なコイル装置として、従来よりもさらに放熱特性を向上させたコイル装置が求められている。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、放熱性を向上させることにより、コイル装置の大電流化に対応できるコイル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るコイル装置は、
磁性コアと、ボビンと、前記ボビンに装着してあるコイルと、を有するコイル装置であって、
前記ボビンの2つのボビン底部と、2つの前記ボビン底部の内側に挟んで配置される前記磁性コアのコア底部と、に対向するように配置される放熱部材を有し、
前記ボビン底部には、前記放熱部材との間に放熱経路を形成する凹凸形状が形成されており、
前記放熱経路は、前記ボビン底部の外側側面から、前記コア底部まで連続していることを特徴とする。
【0008】
ボビン底部に放熱経路を形成する凹凸形状が形成されている本発明のコイル装置では、ボビンからの放熱特性が大きく改善されている。すなわち、凹凸形状が形成されることにより、放熱経路との接触面積が大きくなり、放熱特性が向上する。また、凹凸形状が形成されていることにより、ボビン底部を構成する樹脂の肉厚を薄くすることができるため、従来のボビンより放熱特性が向上する。たとえば、ボビンを構成する樹脂として熱伝導を向上させるフィラーを含む樹脂を採用している場合、フィラーの配向により、厚み方向への熱伝導率が十分に向上しないという問題点が生じる場合があるが、ボビン底部の肉厚が薄い本発明のコイル装置では、このような問題を防止できる。
【0009】
さらに、放熱経路が、ボビンの外側側面からコア底部まで連続していることにより、コア底部周辺の熱が放熱経路を介して放熱されることにより、コア底部付近の磁性コアやコイルからの放熱特性が向上する。また、放熱部材を介した放熱だけでなく、ボビンの外側側面からの放熱が向上するため、放熱部材から集中的に熱を逃がす水冷システムだけでなく、放熱部材以外の部分からも放熱することが求められる自然冷却システムが採用される場合にも、本発明のコイル装置は、良好な放熱特性を奏する。
【0010】
また、例えば、前記放熱経路の少なくとも一部は、ポッティング樹脂で満たされてもよい。
【0011】
放熱経路が、空気よりも熱伝導率の高い樹脂で満たされることにより、このようなコイル装置では、特にボビン底部と放熱部材との間の熱交換が、ポッティング樹脂を介して効率的になる。また、放熱経路を介して、コア底部の熱をボビンの外側側面から放熱するシステムも、ポッティング樹脂を介してより効率的になると考えられる。したがって、このようなコイル装置は、良好な放熱特性を奏する。
【0012】
また、例えば、前記凹凸形状は、前記ボビン底部の内側側面から前記外側側面へ向かって続いており前記放熱部材に向かって突出するフィン状突起を有してもよい。
【0013】
凹凸形状がフィン状突起を有することにより、放熱経路を形成して放熱特性を向上させるとともに、ボビン自体からも、肉厚方向とは垂直方向への高い熱伝導率を生かした放熱を行うことができる。したがって、このようなコイル装置は、良好な放熱特性を奏する。
【0014】
また、例えば、前記凹凸形状は、前記ボビン底部の内側側面から前記外側側面へ断続的に設けられており前記放熱部材に向かって突出する複数の柱状突起を有してもよい。
【0015】
凹凸形状が複数の柱状突起を有することにより、放熱経路を形成して放熱特性を向上させるとともに、ボビン底部の表面積を効果的に広げ、ボビン底部と放熱経路との接触面積を拡大することができる。したがって、このようなコイル装置は、良好な放熱特性を奏する。
【0016】
また、例えば、前記放熱経路は、2つの前記ボビン底部のうち一方の前記ボビン底部と前記放熱部材の間に設けられる第1放熱経路と、2つの前記ボビン底部のうち他方の前記ボビン底部と前記放熱部材の間に設けられる第2放熱経路とを有してもよく
前記ポッティング樹脂は、前記第1放熱経路と前記第2放熱経路とを接続してもよい。
【0017】
ポッティング樹脂が第1放熱経路と第2放熱経路とを接続することにより、コイル装置の一部に局所的に熱が溜まる部分が生じる問題を効果的に防止することができる。また、第1放熱経路と第2放熱経路とを接続するポッティング樹脂がコア底部に接触することにより、このようなコイル装置は、磁性コアの放熱も効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
図2図2は、図1に示すコイル装置の分解斜視図である。
図3図3は、図1に示すコイル装置におけるボビン底部及びコア底部を示す斜視図である。
図4図4は、図1に示すコイル装置における放熱経路及び放熱経路を満たすポッティング樹脂を表す断面図である。
図5図5は、実装面に垂直であって図1に示すV−V線に沿う断面によるコイル装置の断面斜視図である。
図6図6は、実装面に垂直であって図1に示すVI−VI線に沿う断面によるコイル装置の断面斜視図である。
図7図7は、本発明の他の実施形態に係るコイル装置の断面図であり、図5に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0020】
第1実施形態
図1および図2に示すように、本実施形態に係るコイル装置10は、たとえばノイズフィルターなどとして、車載バッテリーを充電するためのAC−DCパワーサプライに用いられる。ただし、コイル装置10の用途はこれに限定されず、PHVやEVのバッテリー充電のための車載用のトランス等として用いられてもよい。コイル装置10は、図2に示すように、ボビン20と、磁性コア40と、放熱板80とを有している。また、図2では図示していないが、コイル装置10は、断面図である図5及び図6に示すように、コイルを構成する第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38と、ポッティング樹脂90とを有する。なお、図2では、コイル装置10における第1ワイヤ37、第2ワイヤ38、ポッティング樹脂90は図示を省略している。
【0021】
図2に示すように、ボビン20は、巻回筒部26と、巻回筒部26の上方(Z軸正方向側)に接続しており巻回筒部26と一体である端部隔壁鍔29及びリード線設置部22と、巻回筒部26の下方に接続しており巻回筒部26と一体である端部隔壁鍔28及びボビン底部21とを有する。ボビン20の上方には、X軸方向の両端部に備えられる2つのリード線設置部22が備えられ、ボビン20の下方には、X軸方向の両端部に2つのボビン底部21が備えられる。リード線設置部22には、後述する第1ワイヤ37のリード部および第2ワイヤ38のリード部が設置される。また、リード線設置部22に設置された第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38のリード部は、ボビン20に備えられるリード線絶縁カバー54によってカバーされる。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、磁性コア40は、上部コア40aと、下部コア40bとを有する。これらの上部コア40a及び下部コア40bは、それぞれ同じ形状を持つ2つの分割コア42a、42aおよび42b、42bに分離可能である。本実施形態では、各分割コア42a、42aおよび42b、42bは、全て同じ形状であり、Z−Y断面で断面コ字形状を有し、U型コアの一種である。
【0023】
Z軸方向の上部に配置される一対の分割コア42a、42aが組み合わされることにより、Z−Y断面で断面E字形状を有し、いわゆるE型コアである上部コア40aを構成する。Z軸方向の下部に配置される他の一対の分割コア42b、42bも、組み合わされることにより、Z−Y断面で断面E字形状を有し、いわゆるE型コアである下部コア40bを構成する。
【0024】
Z軸方向の上側に配置される各分割コア42aは、Y軸方向に延びる上ベース部44aと、上ベース部44aのY軸方向の両端からZ軸方向に突出している一対の中脚部46aおよび側脚部48aとを有する。Z軸方向の下側に配置される各分割コア42bは、Y軸方向に延びるコア底部としての下ベース部44bと、下ベース部44bのY軸方向の両端からZ軸方向に突出している一対の中脚部46bおよび側脚部48bとを有する。
【0025】
図2に示すように、一対の中脚部46aは、ボビン20の巻回筒部26を貫通するコア脚用貫通孔26aの内部にZ軸方向の上方から挿入されるようになっている。同様に、一対の中脚部46bは、ボビン20のコア脚用貫通孔26aの内部にZ軸方向の下方から挿入され、コア脚用貫通孔26aの内部において、それらの先端は、中脚部46aの先端に接触または所定のギャップで向き合うように構成してある。
【0026】
コア脚用貫通孔26aの内部には、コア脚用貫通孔26aを中央部でY軸方向に区切るように、X軸方向に沿って、分離用板部27(図2参照)または凸部がZ軸方向に沿って形成してあってもよい。分離用板部27(凸部も同様)は、一対の中脚部46a、46aの間に介在されると共に、中脚部46b、46bの間に介在され、これらの中脚部46a、46aまたは中脚部46b、46bの相互が、コア脚用貫通孔26aの内部において、所定の隙間で向き合い、接触しないように構成してある。所定の隙間は、分離用板部27のY軸方向の厚みにより調整することができる。
【0027】
中脚部46a、46aまたは中脚部46b、46bは、それぞれ組み合わされた状態で、コア脚用貫通孔26aの内周面形状に一致するように、X軸方向に長い楕円柱形状を有しているが、その形状は、特に限定されず、コア脚用貫通孔26aの形状に合わせて変化させても良い。また、側脚部48a、48bは、巻回筒部26の外周面形状に合わせた内側凹曲面形状を有し、その外面は、X−Z平面に平行な平面を有している。本実施形態では、各分割コア42a、42bの材質は、金属、フェライト等の軟磁性材料が挙げられるが、特に限定されない。
【0028】
なお、図面において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸は、後述する第1ワイヤ37および第2ワイヤ38の巻軸と一致し、コイル装置10の高さ(厚み)に対応する。本実施形態では、コイル装置10のZ軸方向の下方が、コイル装置10の放熱板80(コイル装置10の設置面)となる。また、Y軸は、一対の分割コア42a、42aまたは一対の分割コア42b、42bが分割される方向に一致する。さらに、X軸は、中脚部46a、46bの長手方向(楕円柱における楕円の長軸方向)に一致するようになっている。
【0029】
図2図5及び図6に示すように、本実施形態のコイル装置10におけるボビン20の巻回筒部26のZ軸方向の両端には、端部隔壁鍔28、29が接続している。端部隔壁鍔28、29は、巻回筒部26から半径方向の外方に延びるように、X−Y平面に略平行に成形してある。端部隔壁鍔28、29のZ軸方向の間に位置する巻回筒部26の外周面には、巻回隔壁鍔23〜25が径方向外方に突出するように、Z軸方向に所定間隔で形成してある。なお、断面図5及び図6で示される断面は、図4に示すようにコイル装置10の中心から離れた位置を通過する断面であるため、図5及び図6には、磁性コア40の中脚部46a、46bは現れない。
【0030】
端部隔壁鍔28、29と、端部隔壁鍔28、29の間に形成された巻回隔壁鍔23〜25により、これらの端部隔壁鍔29、29及び巻回隔壁鍔23〜25の間には、図5に示すように、Z軸方向の下から順に、4つの巻回区画S1〜S4が形成される。なお、巻回隔壁鍔23〜25および巻回区画S1〜S4の数は、特に限定されない。
【0031】
本実施形態では、図5及び図6に示すように、巻回区画S1、S2に、第1ワイヤ37が連続して巻回してあり、巻回区画S3〜S4に、第2ワイヤ38が連続して巻回してある。本実施形態では、第1ワイヤ37が一次コイルを構成し、第2ワイヤ38が二次コイルを構成するが、逆であっても良い。なお、図5及び図6では、第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38は簡略化して表示されているが、第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38は、巻回筒部26の周りに、所定の巻き数で渦巻き状に巻かれている。
【0032】
また、本実施形態では、図5に示す巻回隔壁鍔23には、上下に隣接する巻回区画S1と巻回区画S2相互を連絡する連絡溝が形成してある。連絡溝を通して、巻回区画S1に巻回してある第1ワイヤ37が巻回区画S2に通され、第1ワイヤ37は、巻回区画S1、S2でボビン20の巻回筒部26の外周に巻回可能になっている。
【0033】
これと同様に、図5に示す巻回隔壁鍔25には、上下に隣接する巻回区画S3と巻回区画S4とを相互に連絡する連絡溝が形成してある。連絡溝を通して、巻回区画S3に巻回してある第2ワイヤ38が巻回区画S4に通され、第2ワイヤ38は、巻回区画S3、S4でボビン20の巻回筒部26の外周に巻回可能になっている。
【0034】
巻回隔壁鍔24に関しては、第1ワイヤ37と第2ワイヤ38とを絶縁するために、これらと同様な連絡溝は形成する必要がない。第1ワイヤ37のための連絡溝と、第2ワイヤ38のための連絡溝とは、X軸方向の相互に反対側に形成してあることが好ましいが、特に限定されない。なお、図2に示すように、ボビン20の側方には、巻回区画S1〜S4に巻回された第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38と、磁性コア40の側脚部48a、48bとを絶縁するための側方絶縁カバー50が取り付けられている。
【0035】
図5に示すように、第1ワイヤ37が巻回される各巻回区画S1、S2におけるZ軸に沿っての区画幅T1は、Z軸方向に1本のみの第1ワイヤ37が入り込める幅に設定してある。ただし、区画幅T1を、二本以上の第1ワイヤ37が入り込める幅に設定してもよい。また、本実施形態では、区画幅T1は、全て同じであることが好ましいが、多少異なっていても良い。
【0036】
また、第2ワイヤ38が巻回される各巻回区画S3、S4におけるZ軸に沿っての区画幅T2は、Z軸方向に1本のみの第2ワイヤ38が入り込める幅に設定してあり、各巻回区画S3、S4毎に、ワイヤ巻回部分相互を分離可能になっている。本実施形態では、各巻回区画S3、S4におけるZ軸に沿っての区画幅T2は、第2ワイヤ38の線径に合わせて、区画幅T1と同じでも異なっていても良い。
【0037】
また、端部隔壁鍔28、29及び巻回隔壁鍔23〜25の高さ(巻回筒部26から半径方向の長さ)は、1本(1層以上)以上の第1ワイヤ37または第2ワイヤ38が入り込める高さに設定してあり、本実施形態では、好ましくは2〜8層のワイヤが巻回できる高さに設定してある。端部隔壁鍔28、29及び巻回隔壁鍔23〜25の高さは、全て同じであることが好ましいが、異なっていても良い。本実施形態では、巻回区画S1〜S4に巻回される第1ワイヤ37または第2ワイヤ38の巻回方法は、特に限定されず、通常巻でもα巻でも良い。
【0038】
第1ワイヤ37および第2ワイヤ38は、単線で構成されても良く、あるいは撚り線で構成されても良く、絶縁被覆導線で構成されることが好ましい。第1ワイヤ37および第2ワイヤ38の外径は、特に限定されないが、大電流を流す場合には、たとえばφ1.0〜φ3.0mmが好ましい。第2ワイヤ38は、第1ワイヤ37と同じであっても良いが、異なっていても良い。
【0039】
コイル装置10から放熱板80、ケース88及びポッティング樹脂90を取り除き、斜め下方(Z軸負方向側の斜め方向)から観察した図3に示すように、磁性コア40のコア底部である下ベース部44bは、2つのボビン底部21の内側にX軸方向の両側を挟まれて配置されている。断面図である図5に示すように、2つのボビン底部21と、ボビン底部21の間に配置される下ベース部44bとは、放熱部材としての放熱板80に対向している。
【0040】
図3に示すように、ボビン底部21には、凹凸形状21aが形成されている。凹凸形状21aは、X軸方向に沿って互いに平行に延びる複数のフィン状突起21aaを有している。図5に示すように、フィン状突起21aaは、ボビン底部21において下ベース部44bを挟む内側側面21cから、X軸方向の両端部である外側側面21bへ向かって続いている。また、フィン状突起21aaは、端部隔壁鍔28から放熱板80に向かってZ軸負方向へ突出しており、図6に示すように、複数のフィン状突起21aaは、Y軸方向に所定の間隔を空けて配列されている。
【0041】
図1に示すコイル装置10を、Z軸に直交する断面で観察した図4に示すように、ボビン底部21の凹凸形状21aは、下方(Z軸正方向)に対向する放熱板80との間に、放熱経路92を形成している。図4に示すように、放熱経路92は、ポッティング樹脂90で満たされている。図4及び図6に示すように、放熱経路92は、凹凸形状21aにおける凹部、すなわち隣接する2つのフィン状突起21aaの間に形成されている。図4に示すように、フィン状突起21aaがX軸に平行に形成されているため、放熱経路92は、ボビン底部21の外側側面21bから、下ベース部44bまで連続している。
【0042】
図4に示すように、放熱経路92は、2つのボビン底部21のうちX軸負方向側に配置される一方のボビン底部21と放熱板80との間に設けられる第1放熱経路92aと、2つのボビン底部21のうちX軸正方向側に配置される他方のボビン底部21と放熱板80との間に設けられる第2放熱経路92bとを有する。第1放熱経路92aおよび第2放熱経路92bは、いずれもポッティング樹脂90で満たされており、ポッティング樹脂90は、第1放熱経路92aと第2放熱経路92bとを接続している。本実施形態では、ポッティング樹脂90は、下ベース部44bの外周で第1放熱経路92aと第2放熱経路92bとを接続しているだけでなく、分割された下ベース部44bの隙間を介して、下ベース部44bの中央でも第1放熱経路92aと第2放熱経路92bとを接続している。
【0043】
図5に示すように、フィン状突起21aaの先端は、放熱板80との間にポッティング樹脂90の層が形成されるように、放熱板80に対して僅かな隙間を空けて配置されることが好ましい。例えば、フィン状突起21aaのZ方向の突出長さを、ボビン底部21の間に挟まれる下ベース部44bのZ方向長さ(厚み)より僅かに短くすることにより、フィン状突起21aaの先端と放熱板80との間に、ポッティング樹脂90の層を形成することができる。また、フィン状突起21aaのZ方向の突出長さを、下ベース部44bのZ方向長さより短くすることにより、磁性コア40を構成する各分割コア42a、42bの製造誤差や、ボビンの製造誤差があったとしても、磁性コア40とボビン20との密着性が良好になり、伝熱特性が向上する。また、磁性コア40の下ベース部44bは、放熱板80に直接に接触してもよく、ポッティング樹脂90を介して接続していてもよい。
【0044】
ポッティング樹脂90としては、シリコン系やエポキシ系の一般的なポッティング樹脂を採用することができるが、ポッティング樹脂90の種類は特に限定されない。また、ポッティング樹脂90は、図4に示すように、ボビン底部21の凹凸形状21aによって形成される放熱経路92を全て満たしていても良いが、放熱経路92の一部がポッティング樹脂90で満たされており、放熱経路92の他の一部は、空気で満たされていてもよい。ポッティング樹脂90は、磁性コア40、ボビン20、第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38の熱を放熱させるための伝熱材料として機能する他、磁性コア40やボビン20と放熱板80とを連結する連結部材としても機能する。
【0045】
ボビン20は、たとえばPPS、PET、PBT、LCP、ナイロンなどのプラスチックで構成してあるが、その他の絶縁部材で構成されても良い。ただし、本実施形態では、ボビン20としては、たとえば1W/m・K以上に熱伝導率が高いプラスチックで構成することが好ましく、たとえばPPS、ナイロンなどで構成してある。また、ボビン20を構成する材料には、プラスチックに加えて、熱伝導性を高めるためのフィラーが含まれていることが好ましい。
【0046】
図5に示すように、放熱部材としての放熱板80は、コイル装置10における底面に位置しており、2つのボビン底部21と、ボビン底部21の内側に挟まれる下ベース部44bに対向するように配置されている。放熱板80のZ軸正方向側には、枠状のケース88が取り付けられており、放熱板80とケース88に囲まれた略直方体状のスペースに、磁性コア40、ボビン20、第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38等が配置される。放熱板80及びケース88と、内部に収納される磁性コア40、ボビン20等との間に形成される隙間は、ポッティング樹脂90で満たされている。
【0047】
図2に示す放熱板80は、金属等のような熱伝導性が高い部材で構成してある。また、ケース88の材質は特に限定されないが、樹脂や金属等で構成することが可能であり、たとえばケース88を放熱板80と同様に金属で構成することにより、コイル装置10の外周側面からの放熱特性を向上させることができる。
【0048】
本実施形態では、図5に示すように、X軸方向の両側から磁性コア40の下ベース部44bを挟むボビン底部21が、放熱板80に熱伝達可能に接続している。このため、発熱するコイル状の第1ワイヤ37または第2ワイヤ38が巻回してあるボビン20の内部にたまっている熱が、ボビン底部21を介してボビン20から放熱板80に良好に伝達され、コイル装置10の過度な温度上昇を防ぐことができる。
【0049】
また、磁性コア40が、放熱板80に対して熱伝達可能に接続している。このため、発熱するコイル状の第1ワイヤ37または第2ワイヤ38が巻回してあるボビン20の内部にたまっている熱は、ボビン20から磁性コア40に伝達し、磁性コア40から放熱板80に良好に伝達され、コイル装置10の熱が発散される。
【0050】
また、本実施形態のコイル装置10におけるボビン底部21には、図4に示すような放熱経路92を形成する凹凸形状21aが形成されているため、ボビン20や磁性コア40からの放熱特性が優れている。すなわち、コイル装置10では、凹凸形状21aが形成されることにより、放熱経路92との接触面積が大きくなり、放熱特性が向上する。また、ボビン20の材料として導電性のフィラーを含有するプラスチックを採用している場合、凹凸形状21aを形成してボビン底部21を構成する樹脂の肉厚を薄くすることにより、ボビン底部21の放熱特性を向上させることができる。なぜなら、仮に放熱板80とボビンとの距離を近づけるために、ボビン底部を単純な肉厚形状としても、ボビンを構成する樹脂に含まれるフィラーの配向により、ボビン底部の厚み方向(Z軸正方向)への熱伝導率が十分に向上しないという問題点が生じる場合があるが、コイル装置10は、ボビン底部21の肉厚が薄く、ボビン底部21での放熱特性が良好である。
【0051】
さらに、図4に示すように、放熱経路92が、ボビン底部21の外側側面21bからコア底部である下ベース部44bまで連続していることにより、下ベース部44b周辺の熱が放熱経路92を介して放熱されるため、下ベース部44b付近の磁性コア44や、コイルを構成する第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38からの放熱特性が向上する。また、放熱板80を介した放熱だけでなく、ボビン20の外側側面からの放熱特性が向上するため、放熱板80から集中的に熱を逃がす水冷システムだけでなく、放熱板80以外の部分からも放熱することが求められる自然冷却システムが採用される場合にも、コイル装置10は、良好な放熱特性を奏する。
【0052】
また、コイル装置10では、凹凸形状21aがフィン状突起21aaを有することにより、フィン状突起21aaの間に放熱経路92を形成して放熱特性を向上させるとともに、ボビン20自体からも、肉厚方向とは垂直方向への高い熱伝導率を生かした放熱を行うことができる。
【0053】
コイル装置10では、第1ワイヤ37または第2ワイヤ38が巻回してあるボビン20の内部にたまっている熱は、放熱板80、放熱経路92、ポッティング樹脂90及びケース88等をたどってコイル装置10の外部へ発散される。そのため、コイル装置10の大電流化に対応が可能であり、放熱性が向上し、コイル部の過熱による磁気特性の劣化を抑制することができる。
【0054】
さらに、本実施形態に係るコイル装置10では、第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38の巻回軸(Z軸)に沿って相互に隣り合うワイヤ巻回部分相互を分離する巻回隔壁鍔23〜25が形成してあることから、第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38の外径を太くしても絶縁化が容易であり、大電流化(高出力化)に対応しやすい。また、従来では、電圧の高周波化に伴い、相互に隣接するワイヤ相互が影響し合い、電流が流れ難くなると言う悪影響もあるが、本実施形態のコイル装置10では、巻回隔壁鍔23〜25を有するために、このような悪影響を少なくすることができ、高周波特性も向上する。さらにまた、端部隔壁鍔28、29、巻回隔壁鍔23〜25は、放熱フィンとしても作用するために、コイル装置10は優れた放熱特性を有する。
【0055】
さらに本実施形態では、各区画S1〜S4においては巻回軸方向に沿って単一のワイヤのみが存在するように第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38を巻回するために、一層当たりの第1ワイヤ37及び第2ワイヤ38の巻回数のバラツキを防止することが容易になり、コイル特性の安定化に寄与する。すなわち、一次コイルと二次コイルとの結合係数を厳密に制御することができる。
【0056】
さらに本実施形態では、ボビン20のコア脚用貫通孔26aには、断面コ字形状に分割された分割コア42a、42bの分割された中脚部46a、46bが挿入される。本発明者等の実験によれば、このような構成にすることで、コアが大型になったとしても、従来のE型コアを用いる場合に比較して、中脚とベースとの交差部に発生する局所的な応力を、分散させることができる。そのため、本実施形態に係るコイル装置10では、コアに熱応力が発生してもクラックなどが発生することを効果的に抑制することができる。
【0057】
また、分割コア42a,42bが組み合わされて構成されるE型コアにおける中脚部46a、46b、上ベース部44a及び下ベース部44bは、分割コア42a、42bの分割面で分離されており、分割面の相互間には所定の隙間を形成することが可能であり、放熱性も向上する。さらに、E型コアを、それぞれが単純な形状を持つ一対の分割コア42a、42bを組み合わせて構成することとなり、コアの製造も容易となり、製造コストの低減も図れる。しかも分割型のE型コアは、全体としては、E型コアと同様な磁力線を有することになるため、コアの磁気特性は、一般的なE型コアと同等である。
【0058】
また、コイル装置10では、放熱経路92が、空気よりも熱伝導率の高い樹脂で満たされることにより、このようなコイル装置10では、特にボビン底部21と放熱板80との間の熱交換が、ポッティング樹脂90を介して効率的になる。また、放熱経路92を介して、下ベース部44bの熱をボビン底部21の外側側面21bから放熱する仕組みも、ポッティング樹脂90を介してより効率的になると考えられる。したがって、このようなコイル装置10は、良好な放熱特性を奏する。
【0059】
また、コイル装置10では、図4に示すように、ポッティング樹脂90が第1放熱経路92aと第2放熱経路92bとを接続することにより、コイル装置10の一部に局所的に熱が溜まる部分が生じる問題を効果的に防止することができる。また、第1放熱経路92aと第2放熱経路92bとを接続するポッティング樹脂90が下ベース部44bに接触することにより、このようなコイル装置10は、磁性コア40の放熱も効率的に行うことができる。
【0060】
以上のように、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、多くの他の実施形態が本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。たとえば、他の実施形態では、磁性コア40の分割の態様を変化させてもよい。たとえば上述したコイル装置10では、分割コア42a、42bであるUコア−Uコアの組合せにより、磁性コア40を構成したが、Uコア−Iコアの組合せにより、磁性コアを組み立てても良い。また、ボビン20の形状や構造、第1ワイヤ37および第2ワイヤ38の巻回数や巻回方法なども、図示する実施形態に限定されず、種々に改変しても良い。
【0061】
また、例えば、第1実施形態に係るコイル装置10において、放熱経路92はポッティング樹脂90で満たされているが、放熱経路92は他の材料または空気で満たされていてもよい。空気のような流体が放熱経路92に存在する場合は、その流体が放熱経路92を流動できる構成とすることにより、コイル装置10の放熱性を高めることができる。
【0062】
また、ボビン底部21に形成される凹凸形状21aは、ボビン底部21の外側側面21bから下ベース部44bまで連続する放熱経路92を形成するものであればよく、図3及び図5に示すフィン状突起21aaを有するもののみには限定されない。図7は、本発明の第2実施形態に係るコイル装置110の断面図であり、第1実施形態に係るコイル装置10の図5に相当する。
【0063】
図7に示すように、コイル装置110は、ボビン120のボビン底部121における凹凸形状121aが、図5に示すようなフィン状突起21aaではなく、複数の柱状突起121aaを有する点で相違するが、凹凸形状121a以外の部分は、第1実施形態に係るコイル装置10と同様である。したがって、コイル装置110については、コイル装置10との相違点のみを説明し、コイル装置10との共通点については説明を省略する。
【0064】
図7に示すように、コイル装置110のボビン底部121には、凹凸形状121aが形成されており、凹凸形状121aは、端部隔壁鍔28から放熱板80に向かって突出する複数の柱状突起121aaを有する。柱状突起121aaは、ボビン底部121の内側側面121cから外側側面121bへ断続的に設けられている。
【0065】
コイル装置110においても、コイル装置10と同様に、柱状突起121aaの間に形成された凹部に放熱経路が形成されており、放熱経路は、図4に示す放熱経路92と同様に、ボビン底部21の外側側面21bから、下ベース部44bまで連続している。また、コイル装置110の放熱経路は、コイル装置10と同様に、ポッティング樹脂90で満たされている。このようなコイル装置110は、凹凸形状121aが複数の柱状突起121aaを有することにより、放熱経路を形成して放熱特性を向上させるとともに、ボビン底部121の表面積を効果的に拡大し、ボビン底部121と放熱経路との接触面積を拡大することができる。したがって、コイル装置110も、コイル装置10と同様の効果を奏し、良好な放熱特性を有する。
【符号の説明】
【0066】
10、110…コイル装置
20、120…ボビン
21、121…ボビン底部
21a、121a…凹凸形状
21aa…フィン状突起
121aa…柱状突起
21b、121b…外側側面
21c、121c…内側側面
28、29…端部隔壁鍔
22…リード線設置部
23、24、25…巻回隔壁鍔
26…巻回筒部
26a…コア脚用貫通孔
27…分離用板部
37…第1ワイヤ
38…第2ワイヤ
40…磁性コア
40a…上部コア
40b…下部コア
42a…分割コア
44a…上ベース部
44b…下ベース部
46a、46b…中脚部
48a、48b…側脚部
50…側方絶縁カバー
54…リード線絶縁カバー
80…放熱板
88…ケース
90…ポッティング樹脂
92…放熱経路
92a…第1放熱経路
92b…第2放熱経路
S1、S2、S3、S4…巻回区画
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7