特許第6961999号(P6961999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961999
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】車両用情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20211025BHJP
   G01S 19/49 20100101ALI20211025BHJP
【FI】
   G01C21/28
   G01S19/49
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-98582(P2017-98582)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-194440(P2018-194440A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】津田 隆太
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−298766(JP,A)
【文献】 特開2008−178136(JP,A)
【文献】 特開平10−239077(JP,A)
【文献】 特開平07−035646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/28
G01S 19/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載するための車両用情報処置装置であって、
前記車両の傾きを出力する角度センサの出力値を修正するための修正値の学習結果を不揮発性記憶装置から読み出して一時記憶部に格納する学習結果読出部と、
前記一時記憶部に記憶された学習結果を参照して角度センサの出力値を修正する修正部と、
前記不揮発性記憶装置から読み出した地図データと前記修正部が修正した角度センサの出力値とに基づいて、前記地図データにおける前記車両の走行位置を算出する位置算出部と、
前記学習結果が前記一時記憶部から消失した場合、前記車両が走行中の道路の種類に応じて自律航法の継続の有無を変更する航法制御部と、
を備える車両用情報処理装置。
【請求項2】
前記航法制御部は、前記学習結果が前記一時記憶部から消失した場合において、前記車両が走行中の道路が自動車専用道路のときは、前記学習結果読出部に前記不揮発性記憶装置から前記一時記憶部に前記学習結果を再度読み出させ、自律航法を継続する、
請求項1に記載の車両用情報処理装置。
【請求項3】
航法衛星から受信した電波に基づいて位置座標を取得する衛星測位部と、
前記角度センサの出力値から算出した位置座標が、前記衛星測位部が取得した位置座標となるように、前記角度センサの出力値を修正するための修正値を学習する学習部とをさらに備え、
前記航法制御部は、前記学習結果が前記一時記憶部から消失した場合において、前記車両が走行中の道路が自動車専用道路とは異なる道路のときは、自律航法を中止するとともに、前記学習部に前記修正値の学習をさせる、
請求項1又は2に記載の車両用情報処理装置。
【請求項4】
前記航法制御部は、前記学習部による学習が開始されてから当該学習が完了するまでの間においては、前記車両が走行中の道路が自動車専用道路であるか否かに基づいて、前記自律航法を継続するか否かを決定する、
請求項3に記載の車両用情報処理装置。
【請求項5】
前記航法制御部は、(1)前記車両の傾きを出力する角度センサに関する前記学習結果が前記一時記憶部から消失しており、(2)前記車両が走行中の道路が自動車専用道路であり、(3)前記学習部による前記修正値の学習が未完了であり、かつ(4)前記車両のステアリングの操舵角を検出する操舵角センサの出力値が利用可能なときは、前記操舵角センサの出力値に基づいて前記位置算出部に前記車両の走行位置を算出させ、自律航法を継続する、
請求項3又は4に記載の車両用情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置に関し、特に車両に搭載して用いられる車両用情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航法衛星からの信号をもとに車両の位置情報を取得して走行する衛星航法や、車両に搭載された種々のセンサの出力値に基づいて取得した車両の位置情報に基づいて走行する自律航法、及び両者を併用するハイブリッド航法が知られている。特許文献1には、航法衛星と自律航法との両者を併用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−41932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド航法においては、例えば車両がトンネル内を走行中のように航法衛星から受信する電波強度が弱くなる場合、自律航法によって車両の位置を取得することになる。自律航法を実現するために、自律航法を担う装置が搭載される車両が存在する。このような装置は、角度センサや加速度センサ等の出力値に基づいて自律航法を実現する。これらのセンサは、車両への取り付け方や個体差によって出力値にばらつきが生じる場合がある。そのため、例えばGPS(Global Positioning System)センサから得られた位置情報等を教師データとして、センサの出力値を修正するための修正値を学習することが行われている。
【0005】
自律航法を担う装置は、不揮発性の記憶部や揮発性の一時記憶部に格納した学習結果である変更値を参照してセンサの出力値を変更する。ここで、変更値を学習する前の初期学習段階においては、当然ながら学習結果は存在しない。また、学習途中の場合には、不完全な学習結果しか存在しない。さらに、学習結果が揮発性の一時記憶部に格納される場合は、例えば車両の電源の瞬断や負サージ発生等が原因となり、一時記憶部の記憶内容がリセットされてしまう場合がある。加えて、例えば車両に備え付けるタイヤのサイズが変更された場合などは、センサの変更値を再学習する必要がある。このような場合、車両は、正確な自律航法の継続が困難となる。
【0006】
ところで、トラック等の大型の長距離輸送用車両は、高速道路等の自動車専用道路を走行する機会が多い。自動車専用道路は、道路の設計速度が勘案されている。このため、地形状況にもよるが市街地等にある一般道よりも道路の曲率や勾配が穏やかな傾向がある。たとえば、自動車専用道路を走行中は、角度センサの学習をする場合は、搭載している角度センサの出力値の振れ幅が小さく、出力値の学習に不向きである。一方角度センサの学習値が正しくなくても道路の曲率が小さいためあまり問題にはならないという性質がある。
【0007】
一方、車両が自動車専用道路ではない道路を走行中であれば、角度センサを含む各種センサの出力値の学習がしやすい環境となりやすい。このように、各種センサの修正に関する学習結果を消失した場合、車両が走行している道路を含む車両の走行状況によって対応を変えることが求められている。
【0008】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車載センサを利用して自律航法を行う車両において、車載センサの出力値の修正に関する学習結果を消失した場合の対処技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、車両に搭載するための車両用情報処置装置である。この装置は、車載センサの出力値を修正するための修正値の学習結果を不揮発性記憶装置から読み出して一時記憶部に格納する学習結果読出部と、前記一時記憶部に記憶された学習結果を参照して車載センサの出力値を修正する修正部と、前記不揮発性記憶装置から読み出した地図データと前記修正部が修正した車載センサの出力値とに基づいて、前記地図データにおける前記車両の走行位置を算出する位置算出部と、前記学習結果が前記一時記憶部から消失した場合、前記車両が走行中の道路の種類に応じて自律航法の継続の有無を変更する航法制御部と、を備える。
【0010】
前記航法制御部は、前記学習結果が前記一時記憶部から消失した場合において、前記車両が走行中の道路が自動車専用道路のときは、前記学習結果読出部に前記不揮発性記憶装置から前記一時記憶部に前記学習結果を再度読み出させ、自律航法を継続してもよい。
【0011】
前記車両用情報処理装置は、航法衛星から受信した電波に基づいて位置座標を取得する衛星測位部と、前記車載センサの出力値から算出した位置座標が、前記衛星測位部が取得した位置座標となるように、前記角度センサの出力値を修正するための修正値を学習する学習部とをさらに備えてもよく、前記航法制御部は、前記学習結果が前記一時記憶部から消失した場合において、前記車両が走行中の道路が自動車専用道路とは異なる道路のときは、自律航法を中止するとともに、前記学習部に前記修正値の学習をさせてもよい。
【0012】
前記航法制御部は、前記学習部による学習が開始されてから当該学習が完了するまでの間においては、前記車両が走行中の道路が自動車専用道路であるか否かに基づいて、前記自律走行を継続するか否かを決定してもよい。
【0013】
前記航法制御部は、(1)角度センサに関する前記学習結果が前記一時記憶部から消失しており、(2)前記車両が走行中の道路が自動車専用道路であり、(3)前記学習部による前記修正値の学習が未完了であり、かつ(4)前記車両のステアリングの操舵角を検出する操舵角センサの出力値が利用可能なときは、前記操舵角センサの出力値に基づいて前記位置算出部に前記車両の走行位置を算出させ、自律航法を継続してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車載センサを利用して自律航法を行う車両において、車載センサの出力値の修正に関する学習結果を消失した場合の対処技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係る車両用情報処理装置の概要を説明するための模式図である。
図2】実施の形態に係る車両用情報処理装置の機能構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係る車両用情報処理装置が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図4】実施の形態の第1の変形例に係る車両用情報処理装置の機能構成を模式的に示す図である。
図5】角度センサの出力値と操舵角センサの出力値との関係を示す出力値変換グラフを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態の概要>
図1を参照して、実施の形態の概要を述べる。
図1は、実施の形態に係る車両用情報処理装置1の概要を説明するための模式図である。図1に示す例では、車両用情報処理装置1は運転者Dが運転する車両Vに搭載されている。車両Vは車両用情報処理装置1の他、車載センサ2及びGPS受信部3も備えている。以下、車載センサ2が角度センサの場合を例として「角度センサ2」と記載するが、車載センサは角度センサに限られず、自律航法に利用されるセンサであれば加速度センサ等の他のセンサであってもよい。
【0017】
角度センサ2は例えば既知のジャイロセンサ等で実現され、車両Vの傾きを出力する。図1に図示してはいないが、車両Vは加速度センサも備えている。車両用情報処理装置1は、角度センサ2及び加速度センサの出力値を積分することにより、起点位置から車両Vが移動した軌跡を取得する、いわゆる自律航法を実現することができる。
【0018】
GPS受信部3は、複数の航法衛星それぞれが送信する電波を受信する。車両用情報処理装置1は、GPS受信部3が受信した電波を解析することによって、車両用情報処理装置1を搭載している車両Vの現在位置を取得する、いわゆる衛星航法を実現することもできる。
【0019】
ここで、例えばトンネル内部等の航法衛星から電波を受信できない場所では、車両用情報処理装置1は衛星航法を実行することができない。一方、自律航法は車両Vに搭載されている各センサの出力値を利用するため、車両用情報処理装置1は基本的にいつでも自律航法を実行することができるという利点がある。
【0020】
しかしながら、角度センサ2や加速度センサの出力値は、それらの取り付け方や個体差によってばらつきが生じる場合がある。このため車両用情報処理装置1は、例えば衛星航法で取得した位置等を教師データとして、角度センサ2や加速度センサの出力値を修正するための修正値を求める学習を実行する。これにより、車両用情報処理装置1は精度の高い自律航法を実現している。なお学習処理は、最小二乗法を用いる最適化やニュートラルネットワーク等の機械学習等、既知の手法を用いることで実現できる。
【0021】
車両用情報処理装置1はCPU(Central Processing Unit)やメモリ等の計算リソースを備えており、この計算リソースを用いてセンサの出力値の修正を実行する。具体的には、車両用情報処理装置1は、センサの出力値やその出力値を修正するための学習結果を高速に読み書きが可能な一時記憶部に格納し、出力値を修正する。一般的に揮発性の記憶部のほうが低価格で大容量で構成できるという特徴があるため、最新の学習結果の格納部位として揮発性の記憶部が選択されることが多い。しかしながら、一時記憶部は揮発性メモリであり、車両Vの電源の瞬断や負サージ発生によって内容が消失してしまうこともある。
【0022】
センサの出力値を修正するための学習結果を消失した場合であっても、すぐに再学習をすることができれば、車両用情報処理装置1は自律航法を継続できる。例えば、車両Vがどのような種類の道路を走行している場合であっても、車両Vは頻繁に加減速をすると考えられる。したがって、加速度センサの出力値に関する学習については、再学習は比較的容易な場合が多い。
【0023】
これに対し、車両Vが自動車専用道路を走行している場合は、車両Vがそれ以外の道路を走行している場合と比較して、車両Vは車体の向きを変更する頻度及びその量が少ない。自動車専用道路は車両Vが高速で走行することを前提としており、カーブにおける曲率が小さく設定されているからである。
【0024】
また、自動車専用道路はそうではない道路と比較すると交差点等が少なく、また車両Vの右左折の機会も少ない。このため、車両Vが自動車専用道路を走行している場合、角度センサの出力値の振れ幅が小さく、再学習が困難か、できたとしても時間を要する。
【0025】
一方で、車両Vが自動車専用道路を走行している場合は車両Vの車体の向きの変化は小さいため、一般道を走行する場合よりも角度センサ2の出力値を修正する必要性は小さいといえる。つまり、車両Vが自動車専用道路を走行している場合、角度センサの出力値の修正精度が低いとしても自律航法を継続しうる。
【0026】
そこで実施の形態に係る車両用情報処理装置1は、角度センサ2の出力値を修正するための修正値の学習結果が一時記憶部から消失した場合、車両Vが走行中の道路の種類に応じて自律航法の継続の有無を変更する。
【0027】
具体的には、車両用情報処理装置1は車両Vが走行中の道路が自動車専用道路のときは、不揮発性記憶装置に格納されている過去の学習結果を一時記憶部に再度読出し、自律航法を継続する。車両用情報処理装置1はまた、車両Vが、自動車専用道路とは異なる道路を走行中のときは、自律航法を中止するとともに、角度センサの出力値を修正するための修正値の学習を実行する。
【0028】
これにより、実施の形態に係る車両用情報処理装置1は、角度センサ2の出力値の修正に関する学習結果を消失した場合に適切に対処することができる。
以下、実施の形態に係る車両用情報処理装置1についてより詳細に説明する。
【0029】
<車両用情報処理装置1の機能構成>
図2は、実施の形態に係る車両用情報処理装置1の機能構成を模式的に示す図である。車両用情報処理装置1は、角度センサ2、GPS受信部3、記憶部10、及び制御部20を備える。
【0030】
記憶部10はHDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置11、及びDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の一時記憶部12を含む。不揮発性記憶装置11は、実施の形態に係る車両用情報処理装置1を実現するための各種プログラムや、センサの出力値を修正するための修正値の学習結果等の各種データの格納部として機能する。一時記憶部12は、制御部20の作業メモリとして機能する。不揮発性記憶装置11は不揮発性のメモリであり、一時記憶部12は揮発性のメモリである。
【0031】
制御部20は、車両VのECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサである。制御部20は、不揮発性記憶装置11に格納されているプログラムを実行することにより、学習結果読出部21、修正部22、位置算出部23、航法制御部24、衛星測位部25、及び学習部26として機能する。
【0032】
学習結果読出部21は、角度センサ2及び加速度センサの出力値を修正するための修正値の学習結果を不揮発性記憶装置11から読み出して一時記憶部12に格納する。修正部22は、一時記憶部12に記憶された学習結果を参照して角度センサ2及び加速度センサの出力値を修正する。
【0033】
位置算出部23は、不揮発性記憶装置11から読み出した地図データと修正部22が修正した角度センサ2及び加速度センサの出力値とに基づいて、地図データにおける車両Vの走行位置を算出する。航法制御部24は、学習結果が一時記憶部12から消失した場合、車両Vが走行中の道路の種類に応じて位置算出部23による自律航法の継続の有無を変更する。
【0034】
より具体的には、航法制御部24は、学習結果が一時記憶部12から消失した場合において、車両Vが走行中の道路が高速道路等の自動車専用道路のときは、学習結果読出部21に不揮発性記憶装置11から一時記憶部12に学習結果を再度読み出させ、自律航法を継続する。
【0035】
なお、航法制御部24は、車両Vが走行中の道路の種類を、車両Vの現在位置と不揮発性記憶装置11から読み出した地図データとを照合することにより決定できる。航法制御部24はまた、ETC(Electronic Toll Collection)等の情報を利用できる場合には、車両Vが高速道路の入り口を通過しかつ出口を通過していないか否かを判定することで車両Vが高速道路を走行中か否かを判定してもよい。
【0036】
ここで、車両Vが市街地等の角度センサ2の学習に適した道路を走行した場合、角度センサの出力値を修正する修正値が学習され、その学習結果が更新される。更新された学習結果は一時記憶部12に格納されるが、車両Vのエンジンが停止されるとき等の所定のタイミングにおいて、不揮発性記憶装置11に格納される。
【0037】
したがって、不揮発性記憶装置11に格納されている学習結果と、一時記憶部12に格納されている学習結果とは異なる場合がある。具体的には、一時記憶部12に格納されている学習結果の方が、不揮発性記憶装置11に格納されている学習結果よりも、最新の学習が反映されている場合がある。
【0038】
したがって、航法制御部24が学習結果読出部21に一時記憶部12に再度読み出させた学習結果は、最新の学習結果ではない過去の学習結果であることも起こりうる。車両Vが自動車専用道路を走行している場合には角度センサ2の学習に適した条件ではないため、学習結果が一時記憶部12から消失したときは、いわば次善策として、過去の学習結果を利用する。これにより、車両用情報処理装置1は自律航法を継続することができる。
【0039】
これに対し、学習結果が一時記憶部12から消失した場合において、車両Vが走行中の道路が自動車専用道路とは異なる道路のときは、航法制御部24は自律航法を中止するとともに、学習部26に修正値の学習をさせる。
【0040】
この学習を実現するために、衛星測位部25は、GPS受信部3が航法衛星から受信した電波に基づいて、車両Vの位置座標を取得する。学習部26は、角度センサ2の出力値から算出した位置座標が、衛星測位部25が取得した位置座標となるように、角度センサ2の出力値を修正するための修正値を学習する。
【0041】
車両Vが走行する道路が自動車専用道路ではない場合には、車両Vがカーブや右左折をする機会が多く、角度センサ2の出力値のバリエーションも豊富となる。このため、学習部26は、学習結果が一時記憶部12から消失したとしても、車両Vが自動車専用道路を走行している場合と比較すると短時間で再学習を終えることができる。したがって、車両Vが走行する道路が自動車専用道路ではない場合には、航法制御部24は学習部26に再学習させることにより、短時間で自律航法を再開することができる。
【0042】
また一方で、車両Vが走行中の道路が自動車専用道路である場合であっても、学習部26に修正値の学習をさせてもよい。この場合、学習部26による学習は自動車専用道路ではない場合における学習よりも進みが遅くなり得るが、それでも時間とともに学習は進むことになる。車両Vが走行中の道路が自動車専用道路である場合には、学習部26による学習がある程度進めば、完全に終了する前であっても、学習途中の修正値を使用することができる場合がある。車両Vが自動車専用道を走行中の場合には少なくとも自動車専用道を走行中における修正については学習でき、またその修正量も小さいため自律航法できるからである。
【0043】
このように、航法制御部24は、学習部26による学習が開始されてから当該学習が完了するまでの間においては、車両Vが走行中の道路が自動車専用道路であるか否かに基づいて、自律航法を継続するか否かを決定する。
【0044】
<車両用情報処理装置1が実行する情報処理の処理フロー>
図3は、実施の形態に係る車両用情報処理装置1が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば車両Vのエンジンが始動したときに開始する。
【0045】
学習結果読出部21は、センサの出力値を修正するための修正値の学習結果を不揮発性記憶装置11から読み出して一時記憶部12に格納する(S2)。一時記憶部12に格納された学習結果が消失していない場合(S4のNo)、修正部22は、一時記憶部12に記憶された学習結果を参照して角度センサ2の出力値を修正する(S6)。位置算出部23は、不揮発性記憶装置11から読み出した地図データと修正部22が修正した角度センサ2の出力値とに基づいて、地図データにおける車両Vの走行位置を算出する(S8)。
【0046】
一時記憶部12に格納された学習結果が消失している場合(S4のYes)、航法制御部24は、車両Vが走行中の道路の種類を判定する。車両Vが自動車専用道路を走行中の場合(S10のYes)、航法制御部24は、学習結果読出部21に不揮発性記憶装置11から一時記憶部12に学習結果を再度読み出させる(S12)。
【0047】
修正部22は、一時記憶部12に再度読み出された学習結果を参照して角度センサ2の出力値を修正する(S6)。位置算出部23は、不揮発性記憶装置11から読み出した地図データと修正部22が修正した角度センサ2の出力値とに基づいて、地図データにおける車両Vの走行位置を算出する(S8)。
【0048】
車両Vが自動車専用道路とは異なる道路を走行中の場合(S10のNo)、GPS受信部3は、航法衛星からGPSデータを受信する(S14)。衛星測位部25は、車両VのGPSデータに基づいて車両Vの位置情報の変化を算出する(S16)。学習部26は、角度センサの出力値を修正するための修正値を学習する(S18)。
【0049】
<実施の形態に係る車両用情報処理装置1が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る車両用情報処理装置1によれば、様々なセンサを利用して自律航法を行う車両において、各センサの出力値の修正に関する学習結果、例えば、角度センサ2を利用して自律航法を行う車両Vにおいて、角度センサ2の出力値の修正に関する学習結果を消失した場合の対処技術を提供することができる。
【0050】
特に、車両Vが自動車専用道路を走行している場合は、角度センサ2の出力値に関する修正値の再学習が困難であるため、航法制御部24は不揮発性記憶装置11に格納されている過去の学習結果を学習結果読出部21に読み出させる。これにより、車両Vは自律航法を継続することができる。
【0051】
また、車両Vが自動車専用道路とは異なる道路を走行している場合は、角度センサ2の出力値に関する修正値の再学習が比較的容易であるため、航法制御部24は車両Vの自律航法を停止するとともに、学習部26にセンサ出力値に関する修正値を学習させる。これにより、車両Vは比較的短時間で自律航法を再開することができる。
【0052】
このように実施の形態に係る車両用情報処理装置1によれば、車両Vが高速道路等の自動車専用道路を走行中に意図せず学習結果を消失した場合であっても、ある程度精度よく自律航法をすることができる。また、車両Vが市街地等を走行中において学習結果を消失した場合は、自律航法を使用することで発生する誤差によって車両Vの走行に支障が出ることを抑制することができる。
【0053】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。以下そのような変形例を説明する。
【0054】
<第1の変形例>
図4は、実施の形態の第1の変形例に係る車両用情報処理装置1の機能構成を模式的に示す図である。上述した実施の形態に係る車両用情報処理装置1と比較すると、第1の変形例に係る車両用情報処理装置1は操舵角センサ4を備えており、位置算出部23が操舵角センサ4の出力を参照できる点で異なる。
以下実施の形態の第1の変形例に係る車両用情報処理装置1について説明するが、実施の形態に係る車両用情報処理装置1と共通する部分については、適宜省略又は簡略化して説明する。
【0055】
航法制御部24は、車両Vが以下に示す4つの条件を満たすときは、自律航法を継続する。すなわち、
(条件1)学習結果が一時記憶部12から消失していること、
(条件2)車両Vが走行中の道路が自動車専用道路であること、
(条件3)学習部26による修正値の学習が未完了であること、
(条件4)車両Vのステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ4の出力値が利用可能であること、
の4つの条件である。
【0056】
この4つの条件を満たすとき、航法制御部24は、操舵角センサ4の出力値に基づいて位置算出部23に車両Vの走行位置を算出させ、自律航法を継続する。以下、条件4についてより詳細に説明する。
【0057】
車両Vは、運転者Dがステアリングを操作することによってその向きを変える。また、ステアリングの操作量が大きいほど、車両Vの向きの変化も大きい。すなわち、車両Vのステアリングの操作量(すなわち操舵角センサ4の出力値)と、車両Vの向きの変化(すなわち角度センサ2の出力値)には相関があると考えられる。したがって、例えば不揮発性記憶装置11が、操舵角センサ4の出力値と角度センサ2の出力値との対応関係を示す情報をあらかじめ格納しておけば、角度センサ2の出力値を操舵角センサ4の出力値で代替できる。
【0058】
図5は、角度センサ2の出力値と操舵角センサ4の出力値との関係を示す出力値変換グラフを模式的に示す図である。図5に示す出力値変換グラフは不揮発性記憶装置11に格納され、位置算出部23によって参照される。出力値変換グラフは、例えば車両Vの製造者によって、車両Vの出荷前に測定され不揮発性記憶装置11に格納される。
【0059】
図5に示すように、操舵角センサ4の出力値と角度センサ2の出力値とは正の相関があるため、位置算出部23は出力値変換グラフを参照することにより、操舵角センサ4の出力値を角度センサ2の出力値に変換することができる。位置算出部23は変換後の値を用いることにより、車両Vの位置情報を算出することができる。これにより、学習結果が一時記憶部12から消失しており、車両Vが走行中の道路が自動車専用道路であり、かつ学習部26による修正値の学習が未完了であっても、車両Vは自律航法を継続することができる。
【0060】
<第2の変形例>
上記では、学習部26は、衛星測位部25が算出した位置情報を教師データとして、角度センサ2の出力値の修正量を学習する場合について主に説明した。ここで学習部26が教師データとして用いる情報は、GPS情報以外の他の情報であってもよい。例えば学習部26は、不揮発性記憶装置11に格納されている地図データに道路の曲率情報が紐づけられている場合には、その情報から予想される車両の傾きを教師データとして角度センサ2の出力値の修正量を学習してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1・・・車両用情報処理装置
2・・・角度センサ
3・・・GPS受信部
4・・・操舵角センサ
10・・・記憶部
11・・・不揮発性記憶装置
12・・・一時記憶部
20・・・制御部
21・・・学習結果読出部
22・・・修正部
23・・・位置算出部
24・・・航法制御部
25・・・衛星測位部
26・・・学習部
V・・・車両
図1
図2
図3
図4
図5