(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記(i)〜(vi)の特性を有し、長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)5〜30重量%と、MFRが0.1〜10g/10minであり且つポリプロピレン樹脂(X)を除くポリプロピレン樹脂(Y)95〜70重量%とを含む微多孔性フィルム用ポリプロピレン樹脂組成物を用いて得られたTダイフィルムから製造された微多孔性フィルムからなる、電池用セパレータ、濾過膜又は分離膜。
特性(i):MFRが0.1〜30.0g/10分である。
特性(ii):GPCによる分子量分布Mw/Mnが3.0〜10.0であり、かつMz/Mwが2.5〜10.0である。
特性(iii):溶融張力(MT)(単位:g)が下記式を満たす。
log(MT)≧−0.9×log(MFR)+0.7 または MT≧15
特性(iv):分岐指数g’が0.30以上0.95未満である。
特性(v):13C−NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率が95%以上である。
特性(vi):厚み25μmの無延伸フィルムとした場合に、長径0.5mm以上のゲルの個数が10個/m2以下である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態について、項目毎に、詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に本発明は、何ら限定されるものではない。
【0026】
I.ポリプロピレン樹脂組成物
1.長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)
本発明のポリプロピレン樹脂組成物においては、以下の(i)〜(vi)の特性を有し、長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)を使用することを特徴とする。
特性(i):MFRが0.1〜30.0g/10分である。
特性(ii):GPCによる分子量分布Mw/Mnが3.0〜10.0であり、かつMz/Mwが2.5〜10.0である。
特性(iii):溶融張力(MT)(単位:g)が下記式を満たす。
log(MT)≧−0.9×log(MFR)+0.7 または MT≧15
特性(iv):分岐指数g’が0.30以上0.95未満である。
特性(v):
13C−NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率が95%以上である。
特性(vi):厚み25μmの無延伸フィルムとした場合に、長径0.5mm以上のゲルの個数が10個/m
2以下である。
【0027】
以下、本発明で規定する上記の各特性、長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)の製造方法などについて、具体的に述べる。
【0028】
(1)特性(i):MFR
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜30.0g/10分、好ましくは0.3〜20.0g/10分、より好ましくは0.5〜10.0g/10分である。該MFRが0.1g/10分以上であると、良好な流動性となり、押出成形に対して押出機の負荷が低減でき、一方、該MFRが30.0g/10分以下であると、充分な歪硬化性を有することができ、成膜安定性が向上する。
なお、MFRは、ISO 1133:1997に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定した。単位はg/10分である。
【0029】
(2)特性(ii):GPCによる分子量分布
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分布Mw/Mn(ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。)は、3.0〜10.0、好ましくは3.5〜8.0、より好ましくは4.1〜6.0である。
また、Mz/Mw(ここで、MzはZ平均分子量である。)は、2.5〜10.0、より好ましくは2.8〜8.0、さらに好ましくは3.0〜6.0の範囲である。
分子量分布の広いものほど押出成形加工性が向上するが、Mw/Mnが3.0〜10.0の範囲にあり且つMz/Mwが2.5〜10.0の範囲にあるものは、押出成形加工性に、特に優れるものである。
なお、Mn、Mw、Mzの定義は、「高分子化学の基礎」(高分子学会編、東京化学同人、1978)等に記載されており、GPCによる分子量分布曲線から計算可能である。
【0030】
GPCの具体的な測定法は、以下の通りである。
・装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
・検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
・カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本直列)
・移動相溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
・測定温度:140℃
・流速:1.0ml/min
・注入量:0.2ml
・試料の調製:試料は、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて試料濃度1mg/mLの溶液を調製するために、140℃で約1時間を要して溶解させる。
【0031】
GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレン(PS)による検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
なお、分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×M
αは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10
−4、α=0.7
PP:K=1.03×10
−4、α=0.78
【0032】
Mw/MnおよびMz/Mwを上記範囲にするには、重合の温度や重合の圧力条件を変える方法、または、一般的な手法としては、水素等の連鎖移動剤を重合時に添加する方法により、容易に調整を行なうことができる。触媒を2種以上使用し、その量比を変える方法によっても調整することができる。
【0033】
(3)特性(iii):溶融張力(MT)
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)は、下記式(1)を満たす。
式(1)
log(MT)≧−0.9×log(MFR)+0.7 または MT≧15
ここでMTは、(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1Bを用いて、キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm、シリンダー径:9.55mm、シリンダー押出速度:20mm/分、引き取り速度:4.0m/分、温度:230℃の条件で、測定したときの溶融張力を表し、単位はグラムである。ただし、試料のMTが極めて高い場合には、引き取り速度4.0m/分では、樹脂が破断してしまう場合があり、このような場合には、引き取り速度を0.1m/分ずつ下げ、引き取りのできる最高の速度における張力をMTとする。また、MFRの測定条件、単位は、前述の通りである。
一般に、ポリプロピレン樹脂のMTは、MFRと相関を有していることから、MFRとの関係式によって記述される場合があり、この規定は、長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が充分な溶融張力を有することの指標である。
【0034】
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)は、上記式(1)を満たせば、充分に溶融張力の高い樹脂といえ、ダイから押出された溶融樹脂を高ドラフト比で成膜するフィルム成膜において、溶融張力が保持されるため、ダイ端部が千切れる現象が抑制され、フィルム面内の配向の均一性が保持される。
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)は、下記式(1)’を満たすことが好ましく、下記式(1)”を満たすことがより好ましい。
式(1)’
log(MT)≧−0.9×log(MFR)+0.9 又は MT≧15
式(1)”
log(MT)≧−0.9×log(MFR)+1.1 又は MT≧15
【0035】
MTの上限値については、これを特に定める必要はないが、MTが40gを超えるような場合には、上記測定法では、引き取り速度が著しく遅くなり、測定が困難となる。このような場合は、樹脂の延展性も低下しているものと考えられるため、好ましくは40g以下、より好ましくは35g以下、さらに好ましくは30g以下である。
【0036】
上記式を満たすためには、ポリプロピレン樹脂(X)の長鎖分岐の量を増大させて、溶融張力を高くすればよい。触媒の選択、触媒を2種以上使用する場合の組み合わせ、および量比、ならびに予備重合条件を制御して長鎖分岐を多く導入することにより可能となる。
【0037】
(4)特性(iv):分岐指数g’
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が長鎖分岐構造を有することの直接的な指標として、分岐指数g’を挙げることができる。
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)の光散乱によって求めた絶対分子量Mabsが100万の成分のg’は、0.30以上0.95未満、好ましくは0.55以上0.95未満、より好ましくは0.75以上0.95未満、さらに好ましくは0.78以上0.95未満である。g’が0.30未満であると、主鎖が少なく側鎖の割合が極めて多いこととなり、このような場合には、溶融張力が向上しなかったり、ゲルが生成したりするおそれがある。一方、g’が0.95〜1.05である場合には、これは分岐が存在しないことを意味し、溶融張力が不足しやすくなる傾向にあり、フィルム成膜安定性が得られないおそれがある。
g’は、長鎖分岐構造を有するポリマーの固有粘度[η]brと同じ分子量を有する線状ポリマーの固有粘度[η]linの比、すなわち、[η]br/[η]lin によって与えられ、長鎖分岐構造が存在すると、1.0よりも小さな値をとる。
定義は、例えば「Developments in Polymer Characterization−4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers, 1983)に、記載されており、当業者にとって公知の指標である。
g’は、例えば、下記に記すような光散乱計と粘度計を検出器に備えたGPCを使用することによって、絶対分子量Mabsの関数として得ることができる。
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)は、櫛型鎖構造を有することが好ましい。
【0038】
具体的なg’の算出方法は、以下の通りである。
示差屈折計(RI)および粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社製のAlliance GPCV2000を用いる。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technology社のDAWN−Eを用いる。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続する。移動相溶媒は、1,2,4−トリクロロベンゼン(BASFジャパン社製酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。
流量は1mL/分で、カラムは、東ソー社製GMHHR−H(S) HTを2本連結して用いる。カラム、試料注入部および各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとし、注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。
MALLSから得られる絶対分子量(Mabs)、二乗平均慣性半径(Rg)およびViscometerから得られる固有粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行う。
参考文献:
・ 「Developments in Polymer Characterization-4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers, 1983. Chapter1.)
・ Polymer, 45, 6495-6505(2004)
・ Macromolecules, 33, 2424-2436(2000)
・ Macromolecules, 33, 6945-6952(2000)
【0039】
分岐指数g’は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる固有粘度([η]br)と、別途、線状ポリマーを測定して得られる固有粘度([η]lin)との比([η]br/[η]lin)として算出する。
ポリマー分子に長鎖分岐構造が導入されると、同じ分子量の線状ポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると、固有粘度が小さくなることから、長鎖分岐構造が導入されるに従い、同じ分子量の線状ポリマーの固有粘度([η]lin)に対する分岐状ポリマーの固有粘度([η]br)の比([η]br/[η]lin)は、小さくなっていく。
したがって、分岐指数g’([η]br/[η]lin)が1.0より小さい値になる場合には、長鎖分岐構造を有することを意味する。
ここで、[η]linを得るための線状ポリマーとしては、市販のホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製ノバテックPP(登録商標)グレード名:FY6)を用いる。線状ポリマーの[η]linの対数は分子量の対数と線形の関係があることは、Mark−Houwink−Sakurada式として公知であるから、[η]linは、低分子量側や高分子量側に適宜外挿して数値を得ることができる。
【0040】
分岐指数g’を0.30以上0.95未満にするには、長鎖分岐を多く導入することにより達成され、触媒の選択やその組み合わせ、およびその量比、ならびに予備重合条件を制御して重合することで可能となる。
【0041】
(5)特性(v):
13C−NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)の
13C−NMRによって得られるプロピレン単位3連鎖のmm分率は、95%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上である。
mm分率は、ポリマー鎖中、頭−尾結合からなる任意のプロピレン単位3連鎖中、各プロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位3連鎖の割合であり、上限は100%である。mm分率は、ポリプロピレン分子鎖中のメチル基の立体構造がアイソタクチックに制御されていることの指標であり、高いほど、高度にアイソタクチックに制御されていることを意味する。mm分率が95%以上であると、フィルムを高剛性化できる。
【0042】
なお、
13C−NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率の測定法は、以下の通りである。
試料375mgをNMRサンプル管(10φ)中で重水素化1,1,2,2−テトラクロロエタン2.5mlに完全に溶解させた後、125℃においてプロトン完全デカップリング法で測定する。ケミカルシフトは、重水素化1,1,2,2−テトラクロロエタンの3本のピークの中央のピークを74.2ppmに設定する。他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。
・フリップ角:90度
・パルス間隔:10秒
・共鳴周波数:100MHz以上
・積算回数:10,000回以上
・観測域:−20ppmから179ppm
・データポイント数:32768
【0043】
mm分率の解析は、前記の条件により測定された
13C−NMRスペクトルを用いて行う。スペクトルの帰属は、Macromolecules,(1975年)8巻,687頁やPolymer, 30巻 1350頁(1989年)を参考に行う。
なお、mm分率決定のより具体的な方法は、特開2009−275207号公報の段落[0053]〜[0065]に詳細に記載されており、本発明においても、この方法に従って行うものとする。
【0044】
mm分率を上記範囲にするには、高結晶性の重合体を達成する重合触媒により可能であり、メタロセン触媒を使用して重合することが好ましい。
【0045】
(6)特性(vi):ゲルの個数
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)は、厚み25μmの無延伸フィルムとした場合に、長径0.5mm以上のゲルの個数が10個/m
2以下である。好ましくは厚み25μmの無延伸フィルムとした場合に、長径0.5mm以上のゲルの個数が10個/m
2以下、長径0.2mm以上0.5mm未満のゲルの個数が50個/m
2以下である。より好ましくは、厚み25μmの無延伸フィルムとした場合に、長径0.5mm以上のゲルの個数が10個/m
2以下、長径0.2mm以上0.5mm未満のゲルの個数が50個/m
2以下、長径0.1mm以上0.2mm未満のゲルの個数が100個/m
2以下である。ゲルの個数がこの範囲内であると、延伸工程において、延伸中にゲル部分生じるクラックを抑制でき、延伸性が向上する。
なお、無延伸フィルムは、慣用のフィルム成形装置で作製することができる。例えば、試料を、Tダイを取り付けた慣用の押出機に投入し、適当な条件下に押出し加工を行い、慣用のフィルム引取機で引き取ることにより作製することができる。作製した無延伸フィルムのゲルの個数は、慣用の欠点検出器によりカウントすることができる。ゲルの個数のカウントは、引取機と巻き取り機の間、フィルムの中央部で行うのが便利である。検査幅、検査長及び検査回数を適宜設定し、サイズ区分毎に得られた値の平均値を単位面積換算して算出することが推奨される。詳細は下記の実施例において説明する。
【0046】
(7)長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)のその他の特性
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)の、付加的特徴として、歪み速度0.1s
−1での伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax(0.1))は6.0以上、好ましくは8.0以上であることが挙げられる。
歪硬化度(λmax(0.1))は、溶融時強度を表す指標であり、この値が大きいと、溶融張力が向上する効果がある。その結果、フィルム成膜において、ダイの端部の耳千切れ現象が抑制されて、フィルム面内の配向が均一となり、さらに分子鎖が均一に延伸されるために分子鎖配向が励起され、フィルムの剛性が向上する。さらに、歪硬化度が6.0以上であると、充分なフィルム成膜安定性が発現する。
【0047】
λmax(0.1)の算出方法を、以下に記す。
温度180℃、歪み速度=0.1s
−1の場合の伸長粘度を、横軸に時間t(秒)、縦軸に伸長粘度ηE(Pa・秒)を両対数グラフでプロットする。その両対数グラフ上で歪み硬化を起こす直前の粘度を直線で近似する。
具体的には、まず、伸長粘度を時間に対してプロットした際の各々の時刻での傾きを求めるが、それに当っては、伸長粘度の測定データは離散的であることを考慮し、種々の平均法を利用する。たとえば隣接データの傾きをそれぞれ求め、周囲数点の移動平均をとる方法等が挙げられる。
伸長粘度は、低歪み量の領域では、単純増加関数となり、次第に一定値に漸近し、歪み硬化がなければ充分な時間経過後にトルートン粘度に一致するが、歪み硬化のある場合には、一般的に歪み量(=歪み速度×時間)1程度から、伸長粘度が時間と共に増大を始める。すなわち、上記傾きは、低歪み領域では時間と共に減少傾向があるが、歪み量1程度から逆に増加傾向となり、伸長粘度を時間に対してプロットした際の曲線上に、変曲点が存在する。そこで歪み量が0.1〜2.5程度の範囲で、上記で求めた各々の時刻の傾きが最小値をとる点を求めて、その点で接線を引き、直線を歪み量が4.0となるまで外挿する。歪み量4.0となるまでの伸長粘度ηEの最大値(ηmax)を求め、また、その時間までの上記近似直線上の粘度をηlinとする。ηmax/ηlinを、λmax(0.1)と定義する。
【0048】
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)の、付加的特徴として、融点が高いことが好ましい。具体的には、示差走査熱量測定(DSC)によって得られた融点は、好ましくは145℃以上、より好ましくは150℃以上である。融点が上記範囲にあると、製品の耐熱性が向上する。融点の上限は、特に定めはないが、通常170℃である。
なお、融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって求められ、一旦200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて測定した際の、吸熱ピークトップの温度とする。
【0049】
ポリプロピレン樹脂(X)は、上述した特性を満足する限り、ホモポリプロピレンでも少量のエチレンや1−ブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィンその他のコモノマーを含むプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体であってもよい。
【0050】
(8)長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)の製造方法
長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)は、上述した特性を満足する限り、特に製造方法を限定するものではないが、ゲルの個数に関する特性(vi)を満たす観点から好ましい製造方法として、メタロセン触媒の組み合わせを利用したマクロマー共重合法を用いる方法がある。メタロセン触媒の組み合わせを利用したマクロマー共重合法の例としては、例えば、特開2009−57542号公報に開示される方法が挙げられる。
この方法は、プロピレンマクロマーを生成する能力を有する特定の構造の触媒成分と、プロピレンマクロマーとプロピレンとを共重合する能力を有する特定の構造の触媒成分とを組み合わせた触媒を用いて、長鎖分岐構造を有する櫛形構造のポリプロピレン樹脂を製造することが可能な方法である。この方法によれば、バルク重合や気相重合といった工業的に有効な方法で、特に実用的な重合温度や重合圧力の条件下での単段重合で、しかも、分子量調整剤である水素を用いて、目的とする物性を有する長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂の製造が可能である。
【0051】
2.ポリプロピレン系樹脂(Y)
本発明のポリプロピレン樹脂組成物においては、上記の長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)とともに、ポリプロピレン樹脂(Y)を使用することを特徴とする。
【0052】
ポリプロピレン系樹脂(Y)のMFRは、0.1〜10g/10分、好ましくは0.5〜7g/10分、より好ましくは1.0〜5g/10分である。該MFRが0.1g/10分以上であると、良好な流動性となり、フィルム成膜時の押出不良を低減することができる。一方、該MFRが10g/10分以下であると、ポリプロピレン系樹脂(Y)へのポリプロピレン樹脂(X)の分散性が高まるため、フィルムの外観が優れる。
なお、MFRは、ISO 1133:1997に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定した。単位はg/10分である。
ポリプロピレン系樹脂(Y)のMFRは、重合温度や重合圧力の条件を変えるか、または、水素等の連鎖移動剤を重合時に添加する方法により、容易に調整される。
【0053】
ポリプロピレン樹脂(Y)の、付加的特徴として、ポリプロピレン樹脂(X)を除くこと、好ましくは分岐指数g’は0.95〜1.05であること、特に好ましくは分岐指数g’は1.00であることが挙げられる。
【0054】
ポリプロピレン樹脂(Y)は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。耐熱性と高剛性の観点から、プロピレン単独重合体を用いることが好ましい。
【0055】
ポリプロピレン樹脂(Y)は、上述した特性を満足する限り、特に製造方法を限定するものではないが、好ましい製造方法は、プロピレン及び必要なコモノマーをチーグラー・ナッタ系触媒で重合する方法である。
チーグラー・ナッタ系触媒は、たとえば「ポリプロピレンハンドブック」エドワード・P・ムーアJr.編著、保田哲男・佐久間暢翻訳監修、工業調査会(1998)の2.3.1節(20〜57ページ)に概説されているような触媒系のことであり、例えば、三塩化チタンとハロゲン化有機アルミニウムからなる三塩化チタニウム系触媒や、塩化マグネシウム、ハロゲン化チタン、電子供与性化合物を必須として含有する固体触媒成分と有機アルミニウムと有機珪素化合物からなるマグネシウム担持系触媒や、固体触媒成分に有機アルミニウム及び有機珪素化合物を接触させて形成した有機珪素処理固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物成分を組み合わせた触媒のことを指す。
【0056】
ポリプロピレン樹脂(Y)の製造方法については、特に制限はなく、従来公知のスラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等のいずれでも製造可能であり、また、上述した特性の範囲内であれば、多段重合法を利用して、プロピレン単独重合体及びプロピレンランダム共重合体を製造することも可能である
【0057】
3.ポリプロピレン樹脂(X)とポリプロピレン樹脂(Y)との割合
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物における上記ポリプロピレン樹脂(X)と上記ポリプロピレン樹脂(Y)との割合は、(X)と(Y)の合計100重量%基準で、ポリプロピレン樹脂(X)5〜30重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)70〜95重量%である。好ましくはポリプロピレン樹脂(X)7〜27重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)73〜93重量%、より好ましくはポリプロピレン樹脂(X)10〜25重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)75〜90重量%である。
上記の範囲とすることで、フィルム成膜安定性効果が得られることによりフィルム面内の配向が均一となり、また延伸工程においてクラックが生じにくいシシ構造の形成が抑制されるため、微多孔性フィルムを安定的に成膜することができ、剛性を維持することができる。
【0058】
4.添加剤
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、必要に応じて、上記ポリプロピレン樹脂(X)とポリプロピレン樹脂(Y)以外の、下記各種成分を添加して用いることができる。
【0059】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂組成物には、酸化防止剤などの添加剤を加えることができる。具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(BASFジャパン社製、商品名「IRGANOX 1010」)やn−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート(BASFジャパン社製、商品名「IRGANOX 1076」)で代表されるフェノール系安定剤、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトやトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどで代表されるホスファイト系安定剤、芳香族カルボン酸金属塩、芳香族リン酸金属塩、ソルビトール系誘導体等で代表されるα晶核剤、高級脂肪酸アミドや高級脂肪酸エステルで代表される滑剤、炭素原子数8〜22の脂肪酸のグリセリンエステルやソルビタン酸エステル、ポリエチレングリコールエステルなどの帯電防止剤、シリカ、炭酸カルシウム、タルクなどで代表されるブロッキング防止剤などを添加してもよい。ただし、β晶核剤を添加することは前述のとおり実用上の問題があるので望ましくない。
【0060】
また、紫外線吸収剤を加えることができる。紫外線吸収剤は、紫外線領域に吸収帯を持つ化合物であり、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケルキレート系、無機微粒子系、などが知られている。この中で最も汎用的に用いられているのは、トリアゾール系である。
紫外線吸収剤として、トリアゾール系の化合物では、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ200、TinuvinP)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ340、Tinuvin399)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ320、Tinuvin320)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ350、Tinuvin328)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ300、Tinuvin326)を例示することができる。ベンゾフェノン系の化合物では、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(商品名:スミソーブ110)、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(商品名:スミソーブ130)を例示することができる。
サリシレート系の化合物では、4−t−ブチルフェニルサリシレート(商品名:シーソーブ202)を例示することができる。シアノアクリレート系の化合物では、エチル(3,3−ジフェニル)シアノアクリレート(商品名:シーソーブ501)を例示することができる。ニッケルキレート系の化合物では、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(商品名:アンチゲンNBC)を例示することができる。無機微粒子系の化合物では、TiO
2、ZnO
2、CeO
2を例示することができる。
【0061】
また、光安定剤を加えることができる。光安定剤は、ヒンダードアミン系の化合物を用いることが一般的であり、HALSと呼ばれる。HALSは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン骨格を持ち、紫外線を吸収することはできないが、多種多様な機能により光劣化を抑制する。主な機能は、ラジカルの捕捉、ハイドロキシパーオキサイド化合物の分解、ハイドロキシパーオキサイドの分解を加速する重金属の捕捉、の3つと言われている。
HALSとして代表的な化合物として、セバケート型の化合物では、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(商品名:アデカスタブLA−77、サノールLS−770)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(商品名:サノールLS−765)を例示することができる。ブタンテトラカルボキシレート型の化合物では、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(商品名:アデカスタブLA−57)、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(商品名:アデカスタブLA−52)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及びトリデシルアルコールとの縮合物(商品名:アデカスタブLA−67)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及びトリデシルアルコールとの縮合物(商品名:アデカスタブLA−62)を例示することができる。
コハク酸ポリエステル型の化合物では、コハク酸と1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの縮合重合体を例示することができる。トリアジン型の化合物では、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス{N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ}−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物(商品名:Chimasorb119)、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](商品名:Chimasorb944)、ポリ[(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](商品名:Chimasorb3346)を例示することができる。
【0062】
これらの添加剤の使用量は、特に制限はないが、ポリプロピレン樹脂(X)とポリプロピレン樹脂(Y)との合計100重量部に対して、0.01〜5重量部程度である。
【0063】
5.ポリプロピレン樹脂組成物
本発明のポリプロピレン樹脂組成物のMFRは、好ましくは0.1〜10g/10分、より好ましくは0.5〜7g/10分、さらに好ましくは1.0〜5g/10分である。MFRが0.1g/10分以上であると、良好な流動性となり、フィルム成膜時の押出不良を低減することができる。一方、該MFRが10g/10分以下であると、フィルム面内の配向の均一性が保持され、多孔形成に優れる。
なお、MFRは、ISO 1133:1997に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定した。単位はg/10分である。
【0064】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の、Cogswell法により測定される、測定温度200℃、伸長速度10s
−1における伸長粘度は、多孔形成の容易さと成膜安定性の向上の観点から、好ましくは7500Pa・s〜41000Pa・sであり、より好ましくは7500Pa・s〜35000Pa・s、さらに好ましくは7500Pa・s〜30000Pa・sである。Cogswell法による伸長粘度が7500Pa・s以上であると、フィルム面内の配向の均一性が保持され、多孔形成に優れる。Cogswell法による伸長粘度が41000Pa・s以下であると、ダイ端部が千切れる現象が抑制されて成膜安定性に優れる。
【0065】
6.ポリプロピレン樹脂組成物の製造
ポリプロピレン樹脂組成物の調製方法としては、パウダー状もしくはペレット状のポリプロピレン樹脂(X)、ポリプロピレン樹脂(Y)および必要に応じて添加する添加剤をドライブレンド、ヘンシェルミキサー(登録商標)等で混合する方法やさらに単軸押出機、二軸押出機等で溶融混練する方法を挙げることができる。
【0066】
II.微多孔性フィルム
1.微多孔性フィルム
本発明の微多孔性フィルムは、前記ポリプロピレン樹脂組成物からなる層が延伸されている延伸フィルムが用いられる。
微多孔性フィルムの厚みは、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。
微多孔性フィルムは、2μm以下の微小孔が多数空いた高分子フィルムであり、後述する、JIS P8117に準拠して測定されるガーレー透気度が10秒/100ml〜5000秒/100mlである。
本発明の微多孔性フィルムは、必要に応じてシャットダウン機能を付与する目的で、前記ポリプロピレン樹脂組成物以外の120℃から140℃の融点を有するポリオレフィン樹脂からなる微多孔フィルムを積層してもよい。120℃から140℃の融点を有するポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン樹脂が好適に挙げられる。
前記ポリプロピレン樹脂組成物からなる微多孔性フィルムと、ポリエチレン樹脂からなる微多孔性フィルムとが積層される場合は、ポリエチレン微多孔性フィルムの両面を、前記ポリプロピレン樹脂組成物からなる微多孔性フィルムで挟むように積層されることが好ましい。
さらに、本発明の微多孔性フィルムは、耐熱性を付与するために、フィルムの最外層に無機微粒子からなる耐熱層を積層する事ができる。無機微粒子はAl、Si、Ti、Zrから選択される元素の酸化物または水酸化物を少なくとも1種含むものであればよいが、入手の容易性の点から、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミノシリケートが好適に用いる事ができる。
【0067】
2.微多孔性フィルムの製造方法
微多孔性フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、(A)前記ポリプロピレン樹脂組成物からなるフィルム(以下、原反フィルムと表記する)を成膜する成膜工程、(B)原反フィルムを加熱炉内でアニーリング処理する養生工程、(C)アニーリング処理したフィルムを、0℃以上90℃未満の温度雰囲気下で延伸する冷延伸工程、(D)冷延伸工程にて延伸されたフィルムを90℃以上養生温度未満の温度で延伸する熱延伸工程、を含むことが好ましい。なお、微多孔性フィルムの製造方法は、上述の各工程に加えて、更なる延伸工程や熱固定工程を含んでもよい。
【0068】
(A)成膜工程
原反フィルムの製造方法としては、Tダイ押出成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法等のフィルム成形法から選択できる。その中で、フィルムの配向の均一さや、膜厚の均一さの観点からTダイ押出成形法が好ましい。
ポリプロピレン樹脂組成物を押出機にて溶融押出する際の樹脂温度は、180℃以上260℃未満であることが好ましい。樹脂温度が180℃以上であれば、Tダイ全面に均一に樹脂が流動するため、均一な膜厚のフィルムを得る事が出来る。樹脂温度が260℃未満であれば、後述するドラフト比を高めた溶融樹脂配向処理において、ポリプロピレン樹脂組成物の配向性が向上するため、均一な多孔が形成される。
Tダイのリップ開度(単位:μm)を原反フィルムの厚み(単位:μm)で除した値で定義されるドラフト比は、70以上300未満であることが好ましい。ドラフト比が70以上であると、溶融状態のポリプロピレン樹脂組成物に十分な配向が付与されるため、均一な多孔が形成される。また、ドラフト比が300未満であれば、Tダイの端部の千切れが抑えられるため、均一な膜厚を有する原反フィルムを得ることができる。
Tダイから押出された溶融状態の原反フィルムを冷却する方法としては、一本の冷却ロールにエアナイフユニットやエアチャンバーユニットにより排出された空気を介して溶融状態の原反フィルムを接触させる方法や、複数の冷却ロールで圧着して冷却する方法が挙げられる。冷却ロールの温度は、40℃〜130℃が好ましく、この範囲であれば、ポリプロピレン樹脂組成物を十分に結晶化することが出来る。
【0069】
(B)養生工程
原反フィルムの養生工程は、加熱炉内で原反フィルムをアニール処理することで、成膜工程において原反フィルム中に生成された結晶ラメラを成長させるために行う。このことにより、後述する延伸工程において、ラメラ間にクラックを発生させ、このクラックを起点として微小な貫通孔を形成することができる。
原反フィルムの養生温度は加熱炉内の雰囲気温度を意味し、120℃〜155℃であることが好ましい。この温度範囲とすることで、原反フィルム内のラメラが部分融解する事なく、成長させることができる。
原反フィルムを養生する方法としては、原反フィルムを加熱炉内に設置されたロールを介して走行させて養生する方法、原反フィルムをロール状に巻き取った状態で加熱炉内に保持する方法が挙げられ、養生時間の調整の簡易さや、長時間の養生を施すことができるため、ロール状に巻き取った状態での養生方法が好ましい。
養生時間は、走行しながら行う場合は5分〜60分、ロール状で行う場合は1時間〜30時間が好ましい。
【0070】
(C)冷延伸工程
冷延伸工程では、原反フィルムを押出方向に一軸延伸する。冷延伸工程では、ラメラが溶解しない状態で延伸することでラメラ間に微細なクラックを多数生じさせるため、ポリプロピレン樹脂組成物のガラス転移温度以上、α緩和温度未満であることが好ましく、0℃以上90℃未満の温度であることがより好ましい。
延伸倍率は、1.05倍以上であるとラメラ間のクラックが形成されやすくなり、1.50倍以下であるとラメラの再配列が発生してクラックが消失するのを抑制するため、1.05〜1.50倍が好ましい。
延伸速度は、0.5%/秒以上であると生産性に優れ、100%/秒以下であると原反フィルムが破断するのを抑制するため、0.5%/秒〜100%/秒が好ましい。
原反フィルムの延伸方法としては、原反フィルムを一軸延伸することができれば特に限定されず、例えば、所定の温度にて延伸可能な、引張試験に用いられるチャック式延伸法、パンタグラフ式バッチ延伸法、テンター延伸法などが挙げられる。
【0071】
(D)熱延伸工程
熱延伸工程では、冷延伸工程において冷延伸されたフィルムを、所定の延伸温度に保持した状態で、冷延伸方向と同一方向に延伸することで、冷延伸にて生じたラメラ間のクラックが拡大され、リチウムイオンが透過可能なサイズの多孔が形成される。
延伸温度は、90℃以上であるとラメラの再配列が生じないため、クラックが拡大しやすく、養生温度未満であるとラメラの部分融解が発生してクラックが閉塞するのを抑制するため、90℃以上養生温度未満であることが好ましい。
延伸倍率は、冷延伸工程での初期長基準で、1.5倍以上であるとクラックの拡大が十分となり透気度が優れる結果となり、3.0倍以下であるとラメラの再配列が発生してクラックが閉塞するのを抑制して透気度が優れる結果となるため、1.5〜3.0倍が好ましい。
延伸速度は、0.1%/秒以上であると生産性に優れ、50%/秒以下であるとクラックの拡大が不均一となるのを抑制するため、0.1%/秒〜50%/秒が好ましい。
【0072】
(その他の工程)
更なる工程として、熱固定工程を含んでもよい。熱固定工程は、上記工程により得られた微多孔性フィルムを延伸方向の寸法が変化しないようにする方法であり、熱固定前の微多孔性フィルムの長さに対して3〜50%減少させた状態で100℃以上170℃以下の温度を付与し、熱収縮させる工程である。
【0073】
3.用途
本発明の微多孔性フィルムは、セパレータ、濾過膜、分離膜およびフィルター用として用いることが出来る。特に、セパレータは、携帯電話、スマートフォン、ノート型パソコン等の小型電子機器用途や、電池用途、特にはハイブリット電気自動車やスマートグリット電池等の大容量二次電池用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
実施例、比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0075】
1.評価方法
(1)メルトフローレート(MFR)
ISO 1133:1997 Conditions Mに準拠し230℃、2.16kg荷重の条件で測定した。単位はg/10分である。
【0076】
(2)分子量分布(Mw/MnおよびMz/Mn)
前述した方法に従って、GPC測定により求めた。
【0077】
(3)溶融張力(MT)
東洋精機製作所製キャピログラフを用いて、以下の条件で測定した。
・キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
・シリンダー径:9.55mm
・シリンダー押出速度:20mm/分
・引き取り速度:4.0m/分
・温度:230℃
MTが極めて高い場合には、引き取り速度4.0m/分では、樹脂が破断してしまう場合があり、このような場合には、引取り速度を0.1m/分ずつ下げ、引き取りのできる最高の速度における張力をMTとする。単位はグラム(g)である。
【0078】
(4)分岐指数(g’)
前述した方法に従って、示差屈折計(RI)、粘度検出器(Viscometer)、光散乱検出器(MALLS)を検出器として備えたGPCによって求めた。
【0079】
(5)mm分率
前述した方法に従って、日本電子社製、GSX−400、FT−NMRを用い、特開2009−275207号公報の段落[0053]〜[0065]に記載の方法で測定した。単位は%である。
【0080】
(6)ゲルの個数
クリエイトプラスチック社製CF−350型フィルム成形装置(下記CR45−25型押出機、ダブルチルロール型フィルム引取機(CR−400型)及び巻き取り機を備える)で厚さ25μmのフィルムを作製し、そのフィルムのゲルの個数を長瀬産業社製CCD式欠点検出器(SCANTEC7000)によりカウントした。以下にその詳細を示す。
フルフライトメタリング型スクリューを有し、先端に幅350mmのストレートマニホールド型Tダイ(350型フィルムダイ)を取り付けたCR45−25型押出機(口径40mm、L/D=25)に試料を投入する。押出機の設定条件は、表1に示す条件から試料のMFRに準じて選択した。スクリュー回転数は55rpmとした。Tダイから出た溶融樹脂は冷却ロール温度を40℃に設定したダブルチルロール型フィルム引取機(CR−400型)で引き取り無延伸フィルムとした。
ゲルの個数のカウントは上記の欠点検出器を用い、引取機と巻き取り機の間、フィルムの中央部で行った。その検査幅及び検査長はそれぞれ10mm幅、5m長(検査面積0.05m
2)、検査回数は600回とし、サイズ区分毎に得られた値の平均値を単位面積換算して算出した。
【0081】
【表1】
【0082】
(7)歪硬化度(λmax)
伸長粘度の測定を、以下の条件で行った。
・装置:Rheometorics社製Ares
・冶具:ティーエーインスツルメント社製Extentional Viscosity Fixture
・測定温度:180℃
・歪み速度:0.1/sec
・試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成する。
λmaxの算出方法の詳細は、前述した通りである。
【0083】
(8)融点
示差操作熱量計(DSC)を用い、一旦200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて測定した際の、吸熱ピークトップの温度を融点とした。単位は℃である。
【0084】
(9)Cogswell法による伸長粘度
Cogswell法による伸長粘度は、F.N.Cogswell,Polym.Eng.Sci.,12,64(1972)に記載の方法に基づき算出した。測定の条件は以下の通りである。
・装置:Malvern社製Rosand RH2000ツインキャピラリレオメータ
・使用ダイ:ロングダイ 長さ16mm,直径1mm,流入角180度
ショートダイ 長さ0.25mm,直径1mm,流入角180度
・設定温度:200℃
・設定剪断速度範囲:10〜3000sec
−1
伸長粘度
【数1】
は、上記文献記載の手法に基づいて算出することが出来る。
ここでは、専用のソフトウェア“Flowmaster”を使用した。ソフトウェアの設定において、バグレイ補正(Bagley correction)を適用し、剪断応力の剪断速度依存性(Power low−n)は「Quadratic」とした。この手法において伸長粘度は、設定した剪断速度に応じて決まる伸長速度
【数2】
に対して、離散的な数値として得られる。従って、特定の伸長速度における伸長粘度を得るためには、伸長粘度を伸長速度に対してプロットし、これを下記式にてAとBを変数としてフィッティングして、適宜内挿または外挿すればよい。
【数3】
ただしこの際、ショートダイ側の圧力損失が0.3MPaを下回る場合には、測定精度が低くデータが荒れる傾向が見られたので、フィッティングからは当該データを除外した。
得られた変数A,Bを用いて、伸長速度
【数4】
=10s
−1での伸長粘度
【数5】
を計算することで、Cogswell法による伸長粘度を算出した。
【0085】
2.使用材料
(1)長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)
ポリプロピレン樹脂(X)として、以下のポリプロピレン樹脂を用いた。
(X−1):マクロマー共重合法により製造された長鎖分岐を有するプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「WAYMAX(登録商標)MFX3」
(X−2):マクロマー共重合法により製造された長鎖分岐を有するプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「WAYMAX(登録商標)MFX6」
(X−3):マクロマー共重合法により製造された長鎖分岐を有するプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「WAYMAX(登録商標)MFX8」
(X−4):架橋法により製造された長鎖分岐を有するプロピレン単独重合体、ボレアリス社製、商品名「Daproy(登録商標)WB140HMS」
これらの樹脂に対して、MFR、GPC、溶融張力(MT)、分岐指数g’、
13C−NMR、ゲルの個数、歪硬化度(λmax)、融点の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
(2)ポリプロピレン樹脂(Y)
ポリプロピレン樹脂(Y)として、以下のポリプロピレン樹脂を用いた。
(Y−1):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)FY6H」、MFR=1.9g/10分、Tm=165℃、g’=1.00
(Y−2):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)EA9HD」、MFR=0.4g/10分、Tm=165℃、g’=1.00
(Y−3):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)FL1105F」、MFR=3.5g/10分、Tm=165℃、g’=1.00
(Y−4):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)FL4」、MFR=4.2g/10分、Tm=164℃、g’=1.00
(Y−5):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)SA3A」、MFR=11g/10分、Tm=161℃、g’=1.00
【0088】
[実施例1]
1.樹脂組成物の製造
ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を10重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−1)を90重量%となるように計量し、ヘンシェルミキサー(登録商標)で、3分間攪拌混合した後、スクリュー口径25mmのテクノベル社製「KZW−25」二軸押出機を用い、スクリュー回転数300rpm、混練温度は、ホッパー下からC1/C2/C3〜C7/ヘッド/ダイス=150℃/180℃/230℃/230℃/230℃にて、溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径3mm、長さ2mmに切断することで、ポリプロピレン樹脂組成物原料ペレットを得た。得られたポリプロピレン樹脂組成物原料ペレットのMFRと、Cogswell法による伸長粘度を表3に示す。
【0089】
2.原反フィルムの製造
原反フィルムの製造は、口径30mm、L/D=32の単軸押出機の先端に、ダイス幅150mm、リップ開3.0mmに調整したTダイが接続された単層フィルム成膜機を用いた。得られたポリプロピレン樹脂組成物原料ペレットを押出機に投入し、成膜温度200℃にて溶融押出を行った。押出機の吐出量は0.6kg/hとなるように調整した。溶融押出されたフィルムは、80℃に温調され8m/minで回転する冷却ロールにて冷却固化させて巻取り、厚さ約20μmの原反フィルムを得た。ドラフト比は150であった。
【0090】
3.原反フィルムの養生
得られた原反フィルムを紙管に巻き取った状態で、雰囲気温度140℃に調整されたスピードドライヤー((株)松井製作所製、スピードドライヤー PO‐120)に投入して6時間アニールした後、23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間保管することで養生フィルムを得た。
【0091】
4.微多孔フィルムの製造
養生フィルムを、フィルム流れ方向(MD方向)が長手方向となるように、長さ35mm、幅25mmの長方形に切り出した。延伸部が加熱炉で覆われた一軸延伸機((株)井元製作所製、恒温槽付き超小型引張試験機 IMC−18E0)を用い、延伸方向がフィルムのMD方向となるようにチャック間距離20mmで延伸機に養生フィルムを設置した。23℃でMD方向に、延伸速度3%/sで1.2倍に延伸し、続いて延伸速度を変えずに、115℃で2.0倍まで延伸した。その後、チャックした状態で23℃まで加熱炉内温度を冷却して微多孔性フィルムを得た。
【0092】
5.物性評価
(1)ダイ端部安定性
上述した原反フィルムの成形において、ダイから押出された溶融樹脂の端部を5分間目視にて観察し、以下に示した基準でダイ端部安定性を評価した。
○:フィルム成形時に、端部が一度も千切れずに安定して成膜できる。
△:フィルム成形時に、若干千切れが発生するが、すぐに回復して安定するため、フィルムの流れ方向の厚さが比較的均一である。
×:フィルム成形時に、常に千切れが発生し、フィルムの流れ方向の厚さが不均一である。
【0093】
(2)厚さ
微多孔性フィルムの厚さを、ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製、ABSデジマチックインジケーター)を用いて測定した。単位はμmである。
【0094】
(3)フィッシュアイ(FE)測定
原反フィルムを20cm×8cmのサイズに切り出し、5枚のフィルムを目視にて観察した。直径0.2mm以上のサイズのフィッシュアイが見られないものを○、散見されるものを×とした。
【0095】
(4)透気度
微多孔性フィルムの透気度を、JIS P8117に準拠したガーレー式透気度計((株)安田精機製作所製、自動ガーレー式デンソメーター)を用いて測定した。ガーレー式透気度計に、ガスケットの内径が10mmとなるアタッチメントを装着して透気度を測定し、得られた測定値を下記式(2)を用いて換算することで、ガスケットの内径が28.6mmで測定した透気度とした。単位は秒/100mlである。
式(2)
透気度=測定値÷(2.86)
2
【0096】
(5)ヤング率
剛性の指標として、JIS K7127−1989に準拠し、養生フィルムの引張弾性率(ヤング率)を、下記条件にてフィルム流れ方向(MD)に対して測定した。単位はMPaである。
サンプル形状:短冊
サンプル長さ:150mm
サンプル幅:15mm
チャック間距離:100mm
クロスヘッド速度:1mm/min
【0097】
得られた微多孔性フィルムの評価結果を表3に示す。ポリプロピレン樹脂組成物が全ての規定を満たしているため、いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0098】
[実施例2]
原反フィルムの製造において、溶融押出温度を240℃とした以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0099】
[実施例3]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)を(X−2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0100】
[実施例4]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)を(X−3)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0101】
[実施例5]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y)を(Y−2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。ポリプロピレン樹脂(Y−2)のMFRが0.4g/10分と低いため、原反フィルムの製造において若干のダイ端部の千切れが発生したが、実用上問題ないものであった。それ以外の評価結果は満足される結果であった。
【0102】
[実施例6]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を5重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−1)を95重量%に各々変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。ポリプロピレン樹脂(X−1)の配合量が減少したため、原反フィルムの製造において若干のダイ端部の千切れが発生したが、実用上問題ないものであった。それ以外の評価結果は満足される結果であった。
【0103】
[実施例7]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を20重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−1)を80重量%に各々変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0104】
[実施例8]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を30重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−1)を70重量%に各々変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。ポリプロピレン樹脂(X−1)の配合量が上限のため、フィルム面内に若干のシシ構造が形成されたと考えられ、若干透気度が悪化したが、実用上問題ないものであった。それ以外の評価結果は満足される結果であった。
【0105】
[実施例9]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y)を(Y−3)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0106】
[実施例10]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y)を(Y−4)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に示す。いずれの評価結果も満足される結果であった。
【0107】
[比較例1]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y−1)単独で100重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が含まれていないため、原反フィルムの製造において、ダイ端部の千切れが頻発したため、安定してフィルムの製造を行うことが出来なかった。また、フィルム内の分子鎖の配向が不十分であるため、剛性に劣るものであった。
【0108】
[比較例2]
比較例1の樹脂組成物の製造において、溶融押出温度を240℃とした以外は、比較例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が含まれていないため、原反フィルムの製造においてフィルム内の分子鎖の配向が不十分となり、微多孔フィルムの製造において多孔が形成されず、透気度が著しく劣る結果であった。
【0109】
[比較例3]
比較例1の樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y)を(Y−2)に変更した以外は、比較例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が含まれておらず、Cogswell法による伸長粘度も41000Pa・sを超えているため、原反フィルムの製造において、ダイ端部の千切れが頻発し、安定してフィルムの製造を行うことが出来なかった。
【0110】
[比較例4]
比較例1の樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y)を(Y−3)に変更した以外は、比較例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が含まれていないため、原反フィルムの製造において、ダイ端部の千切れが頻発したため、安定してフィルムの製造を行うことが出来なかった。また、フィルム内の分子鎖の配向が不十分であるため、剛性に劣るものであった。
【0111】
[比較例5]
比較例1の樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(Y)を(Y−4)に変更した以外は、比較例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。長鎖分岐構造を有するポリプロピレン樹脂(X)が含まれていないため、原反フィルムの製造においてフィルム内の分子鎖の配向が不十分となり、微多孔フィルムの製造において多孔が形成されず、透気度が著しく劣る結果であった。また、フィルム内の分子鎖の配向が不十分であるため、剛性に劣るものであった。
【0112】
[比較例6]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を20重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−5)を80重量%に各々変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。ポリプロピレン樹脂(Y−5)のMFRが11g/10分と高いため、原反フィルムの製造においてフィルム内の分子鎖の配向が不十分となり、微多孔フィルムの製造において多孔が形成されず、透気度が著しく劣る結果であった。
【0113】
[比較例7]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を3重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−1)を97重量%に各々変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。ポリプロピレン樹脂(X−1)の配合量が3重量%と少ないため、原反フィルムの製造において、ダイ端部の千切れが頻発したため、安定してフィルムの製造を行うことが出来なかった。
【0114】
[比較例8]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)として(X−1)を50重量%、ポリプロピレン樹脂(Y)として(Y−1)を50重量%に各々変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。ポリプロピレン樹脂(X−1)の配合量が50重量%と多いため、フィルム面内に多数のシシ構造が形成されたと考えられ、透気度が7000秒/100mlと著しく悪化した。
【0115】
[比較例9]
樹脂組成物の製造において、ポリプロピレン樹脂(X)を(X−4)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表4に示す。ポリプロピレン樹脂(X−4)は非常に多くのゲルを含むため、原反フィルムの製造により得られた原反フィルムに多数のFEが観察され、微多孔フィルムの製造における23℃での延伸時にFE部からフィルムが千切れ、微多孔フィルムを得ることが出来なかった。
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】