(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料を噴射する噴孔(39)が形成され、燃料が充填される制御室(35)、前記制御室に燃料を流入させる流入流路(32)及び前記制御室から燃料を流出させる流出流路(33)、が内部に設けられる弁ボデー(20,220,320)と、
前記制御室の燃料圧力の変動によって変位し、前記噴孔を開閉するニードル(50)と、
前記制御室に変位可能に収容され、前記制御室に臨む開口壁(27)への着座によって当該開口壁に開口する前記流入流路の流入開口(32a)を閉塞する閉塞部材(60)と、
前記制御室に収容され、前記閉塞部材を前記開口壁へ向けて付勢する付勢部材(68)と、を備え、
前記制御室を区画する区画壁(70a)には、前記閉塞部材及び前記付勢部材を収容する収容室部(37)と、前記ニードルに燃料圧力を作用させる背圧室部(36)とに前記制御室を区分けする分割壁部(75)が形成され、
前記分割壁部には、前記収容室部及び前記背圧室部を互いに連通させる絞り孔(77)と、前記付勢部材を挟んで前記閉塞部材と対向する位置にて前記付勢部材を支持する支持面部(76)と、が設けられており、
前記収容室部に充填される燃料の容量は、前記ニードルが前記噴孔を閉じた状態にて前記背圧室部に充填される燃料の容量よりも少ない燃料噴射装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。そして、複数の実施形態及び変形例に記述された構成同士の明示されていない組み合わせも、以下の説明によって開示されているものとする。
【0015】
(第一実施形態)
本開示の第一実施形態による燃料噴射装置10は、
図1に示す燃料供給システム1に用いられている。燃料噴射装置10は、内燃機関であるディーゼルエンジン(以下、「エンジン2」)の各燃焼室2bに、燃料タンク4に貯留された燃料を供給する。燃料供給システム1は、フィードポンプ5、高圧燃料ポンプ6、コモンレール3、及び制御装置9等を、燃料噴射装置10と共に備えている。
【0016】
フィードポンプ5は、例えばトロコイド式の電動ポンプである。フィードポンプ5は、高圧燃料ポンプ6に内蔵されている。フィードポンプ5は、燃料タンク4に貯留された燃料としての軽油を、高圧燃料ポンプ6に圧送する。フィードポンプ5は、高圧燃料ポンプ6と別体で、例えば燃料タンク4の内部に配置される構成であってもよい。
【0017】
高圧燃料ポンプ6は、例えばプランジャ式のポンプである。高圧燃料ポンプ6は、エンジン2の出力軸によって駆動される。高圧燃料ポンプ6は、燃料配管6aによってコモンレール3と接続されている。高圧燃料ポンプ6は、フィードポンプ5により供給された燃料をさらに昇圧し、高圧燃料としてコモンレール3に供給する。
【0018】
コモンレール3は、高圧燃料配管3bを介して複数の燃料噴射装置10と接続されている。コモンレール3は、余剰燃料配管8aを介して燃料タンク4と接続されている。コモンレール3は、高圧燃料ポンプ6から供給される高圧燃料を一時的に蓄え、圧力を保持したまま各燃料噴射装置10に分配する。コモンレール3には、減圧弁8が備えられている。減圧弁8は、コモンレール3の燃料圧力が目標圧力よりも高い場合に、余剰になった燃料を余剰燃料配管8aへ排出する。
【0019】
制御装置9は、各燃料噴射装置10と電気的に接続された電子制御ユニットである。制御装置9は、エンジン2の稼動状態に応じて、各燃料噴射装置10による燃料の噴射を制御する。制御装置9は、マイクロコンピュータ又はマイクロコントローラを主体に構成された演算回路と、各燃料噴射装置10の電磁制御弁40(
図2参照)に駆動電流を印加する駆動回路等とによって構成されている。
【0020】
燃料噴射装置10は、燃焼室2bを形成するヘッド部材2aの挿入孔に挿入された状態で、ヘッド部材2aに取り付けられている。燃料噴射装置10は、高圧燃料配管3bを介して供給される高圧燃料を、噴孔39から燃焼室2bへ向けて直接的に噴射する。燃料噴射装置10は、噴孔39からの燃料の噴射を制御する弁構造を備えている。燃料噴射装置10は、高圧燃料の一部を、噴孔39の開閉に使用する。燃料噴射装置10に供給された燃料の一部は、戻り配管8b及び余剰燃料配管8aを通じて燃料タンク4へ戻される。
【0021】
燃料噴射装置10は、
図2及び
図3に示すように、弁ボデー20、ノズルニードル50、電磁制御弁40、可動プレート60及びサポートスプリング68を備えている。
【0022】
弁ボデー20は、インジェクタボデー部材21、流路形成部材22、ノズルボデー部材23、リテーニングナット24、及びシリンダ70等の複数の金属部材を組み合わせることによって構成されている。弁ボデー20の内部には、高圧燃料通路31、流入流路32、流出流路33、制御室35、及び低圧室38が設けられている。加えて弁ボデー20には、制御シート面部26、開口壁27、及び噴孔39が形成されている。
【0023】
高圧燃料通路31は、インジェクタボデー部材21、流路形成部材22、及びノズルボデー部材23に亘って形成されている。高圧燃料通路31は、高圧燃料配管3b(
図1参照)と接続されている。高圧燃料通路31は、高圧燃料配管3bを通じてコモンレール3(
図1参照)から供給される高圧燃料を、噴孔39へ向けて流通させる。
【0024】
流入流路32は、流路形成部材22にて高圧燃料通路31から分岐されており、高圧燃料通路31と制御室35とを連通させている。流入流路32は、高圧燃料通路31を流通する高圧燃料の一部を制御室35に流入させる。流入流路32の制御室35側の端部は、開口壁27に流入開口32aとして開口している。流入開口32aは、真円状の開口であってもよく、円環状の開口であってもよい。
【0025】
流出流路33は、流路形成部材22にて流入流路32と隣接する位置に設けられた燃料流路である。流出流路33は、制御室35と低圧室38とを連通させている。流出流路33は、制御室35から燃料を流出させる。流出流路33の制御室35側の端部は、開口壁27に流出開口33aとして開口している。流出開口33aの低圧室38側の端部は、制御シート面部26の中央に排出開口33bとして開口している。流出開口33a及び排出開口33bは、それぞれ真円状の開口である。
【0026】
制御室35は、流路形成部材22、シリンダ70、及びノズルニードル50等によって区画された空間である。制御室35は、ノズルニードル50を挟んで噴孔39の反対側に位置している。制御室35には、流入流路32を通じて供給された燃料が充填されている。制御室35の燃料圧力は、流入流路32を通じた燃料の流入と、流出流路33を通じた燃料の流出とにより、変動する。
【0027】
低圧室38は、インジェクタボデー部材21に設けられた収容空間である。低圧室38には、電磁制御弁40が収容されている。低圧室38は、制御室35よりも低圧な燃料によって満たされている。低圧室38は、戻り配管8b(
図1参照)と接続されており、流出流路33を通じて排出された余剰燃料を戻り配管8bに流通させる。
【0028】
制御シート面部26は、流路形成部材22においてインジェクタボデー部材21と接する上端面に設けられている。制御シート面部26は、排出開口33bの周囲を囲む平坦な円環状に形成されている。
【0029】
開口壁27は、流路形成部材22においてノズルボデー部材23と接する下端面の中央に設けられている。開口壁27は、制御室35を区画する区画壁70aの一部であって、制御室35の天井面を形成している。開口壁27には、上述した流入開口32a及び流出開口33aが設けられている。開口壁27には、可動プレート60が離着座する。
【0030】
噴孔39は、ヘッド部材2a(
図1参照)へ挿入される弁ボデー20において、挿入方向の先端部に形成されている。噴孔39は、燃焼室2b(
図1参照)に露出している。弁ボデー20の先端部は、円錐状又は半球状に形成されている。噴孔39は、弁ボデー20の内側から外側に向けて放射状に複数設けられている。各噴孔39は、燃焼室2bへ向けて高圧燃料を噴射する。高圧燃料は、噴孔39を通過することによって霧化され、空気と混合容易な状態となる。
【0031】
ノズルニードル50は、金属材料により円柱形に形成されている。ノズルニードル50は、制御室35の燃料圧力の変動により、軸方向に沿って弁ボデー20に対し相対変位し、噴孔39の開閉を行う。ノズルニードル50の噴孔39側の先端は円錐形に形成されている。ノズルニードル50は、ノズルボデー部材23に収容されており、高圧燃料通路31を通じて供給された高圧燃料から噴孔39を開く方向(以下、「開弁方向」)の力を受ける。ノズルニードル50は、ニードルスプリング53の付勢力により、シリンダ70に対して噴孔39を閉じる方向(以下、「閉弁方向」)へ付勢されている。ノズルニードル50には、ニードル受圧面51及びニードル摺動面52が形成されている。
【0032】
ニードル受圧面51は、制御室35に臨むノズルニードル50の軸方向の端面に形成されている。ニードル受圧面51は、制御室35に充填された高圧燃料から、閉弁方向の力を受ける。ニードル摺動面52は、ノズルニードル50の外周壁面のうちで、シリンダ70に内嵌された部分である。ニードル摺動面52は、シリンダ70によって摺動可能に支持されている。ニードル摺動面52は、シリンダ70との間で油密を形成している。
【0033】
電磁制御弁40は、低圧に収容され、排出開口33bを開閉する機構である。電磁制御弁40は、制御弁体42及び駆動部41を有している。制御弁体42は、排出開口33bを開閉する弁体である。駆動部41は、駆動電流に基づいて制御弁体42を変位させることにより、排出開口33bを開閉する。制御装置9からの電力供給が無い場合、駆動部41は、制御弁体42を制御シート面部26に着座させて、制御室35から低圧室38への燃料流出を中断させる。一方、制御装置9からの電力供給が有る場合、駆動部41は、制御弁体42を制御シート面部26から離座させ、制御室35から低圧室38への燃料流出を可能にする。
【0034】
可動プレート60は、金属材料によって円盤状に形成されている。可動プレート60は、制御室35に配置されている。可動プレート60は、ノズルニードル50の軸方向に沿って往復変位する。可動プレート60には、連通孔61が形成されている。連通孔61は、可動プレート60の径方向の中心に設けられており、軸方向に沿って可動プレート60を貫通している。制御弁体42によって排出開口33bが開弁状態とされると、制御室35の燃料は、連通孔61及び流出流路33を順に流通し、低圧室38に排出される。連通孔61には、アウトオリフィス62が設けられている。
【0035】
アウトオリフィス62は、開口壁27に着座した可動プレート60が流入開口32aを閉じた状態にて、連通孔61を流れる燃料流量を規定し、所定流量の燃料を制御室35から流出流路33へと流出させる。連通孔61の内径d2は、例えばφ0.1mm程度に規定されており、連通孔61においてアウトオリフィス62を除く区間の内径よりも小さくされている。アウトオリフィス62は、可動プレート60の軸方向の上下における燃料の圧力差を拡大させる。圧力差によって流出開口33aに吸引された可動プレート60は、開口壁27に押し付けられて、流入開口32aを閉じることができる。可動プレート60は、三方弁として機能し、流入開口32aから制御室35への常時の高圧燃料の流入を防ぐ静リークレス構造を実現させている。
【0036】
サポートスプリング68は、金属材料よりなる線材を円筒螺旋状に巻回してなる弾性部材である。サポートスプリング68の外径は、可動プレート60の外径よりも小さくされている。サポートスプリング68は、可動プレート60と実質的に同軸となる配置にて、軸方向に押し縮められた状態で、制御室35に配置されている。サポートスプリング68は、可動プレート60を開口壁27へ向けて付勢しており、開口壁27と当接する初期位置に可動プレート60を戻す機能を有している。
【0037】
次に、制御室35を区画しているシリンダ70の構成を、さらに詳しく説明する。シリンダ70は、全体として略円柱状に形成された制御室35を、軸方向において二つの空間に分割しており、具体的には、制御室35を背圧室部36と収容室部37とに区分けしている。シリンダ70には、制御室35を区画し、且つ、背圧室部36及び収容室部37を規定する区画壁70aとして、分割壁部75、第一周壁部71、第二周壁部72、及び第三周壁部73が形成されている。
【0038】
背圧室部36は、軸方向に分割された制御室35の二つの空間のうちで、ニードル受圧面51に接する一方の空間である。背圧室部36は、分割壁部75、第三周壁部73、及びニードル受圧面51によって円柱状に区画されている。背圧室部36の内径d1は、例えばφ3.5mm程度に規定されている。背圧室部36は、ノズルニードル50に燃料圧力を作用させる。
【0039】
収容室部37は、軸方向に分割された制御室35の二つの空間のうちで、開口壁27と接する他方の空間である。収容室部37は、分割壁部75、第一周壁部71、第二周壁部72、及び開口壁27によって二段円柱状に区画されている。収容室部37は、背圧室部36と実質的に同軸となるように形成されている。収容室部37は、可動プレート60及びサポートスプリング68を収容している。収容室部37に充填される燃料の容量は、ノズルニードル50が噴孔39を閉じた状態にて背圧室部36に充填される燃料の容量よりも小さい。換言すれば、可動プレート60及びサポートスプリング68の各体積を収容室部37の容積から差し引いた値は、噴孔39の閉弁時における背圧室部36の容積よりも小さい。
【0040】
分割壁部75は、シリンダ70の軸方向にて、第二周壁部72及び第三周壁部73の間に設けられている。分割壁部75は、シリンダ70の軸方向と直交する横断面に沿った平板状に形成されている。分割壁部75によって制御室35は、上述の背圧室部36と収容室部37とに分割されている。分割壁部75には、支持面部76及び絞り孔77が設けられている。
【0041】
支持面部76は、分割壁部75の両側のうちで、収容室部37に臨む上側面に設けられている。支持面部76には、サポートスプリング68の一端が載置されている。支持面部76は、サポートスプリング68を挟んで可動プレート60と軸方向に対向する位置にて、サポートスプリング68を支持している。支持面部76によって支持されることで、サポートスプリング68は、ノズルニードル50の変位から物理的に遮断される。
【0042】
絞り孔77は、分割壁部75を厚さ方向に貫通する円筒孔状の貫通開口である。絞り孔77は、分割壁部75の中央であって、支持面部76の内周側に設けられている。絞り孔77は、背圧室部36及び収容室部37と同軸となる配置で形成されている。絞り孔77は、収容室部37及び背圧室部36を互いに連通させている。
【0043】
絞り孔77の内径d3は、アウトオリフィス62の内径d2よりも大きく、且つ、背圧室部36の内径d1よりも小さい。絞り孔77の内径d3は、例えばφ0.2〜0.8程度に規定されている。絞り孔77の内径d3は、アウトオリフィス62の内径d2の2〜7倍程度である。換言すれば、絞り孔77の流路面積A3は、アウトオリフィス62の流路面積A2よりも大きく、アウトオリフィス62の流路面積A2に対して4〜50倍程度に設定されている。一方で、絞り孔77の内径d3は、背圧室部36の内径d1の2分の1以下であることが望ましく、後述するような背圧室部36の脈動を低減するため、より望ましくは、背圧室部36の内径d1の5分の1以下である方がよい。
【0044】
第一周壁部71は、シリンダ70の内周壁のうちで、最も開口壁27に近い部分である。第一周壁部71は、収容室部37を区画しており、可動プレート60の周囲を囲む円筒状に形成されている。第一周壁部71の内径(内法)d21は、可動プレート60の外径よりも僅かに大きくされている。
【0045】
第二周壁部72は、シリンダ70の内周壁のうちで、第一周壁部71と分割壁部75との間の部分である。第二周壁部72は、収容室部37を区画しており、サポートスプリング68の周囲を囲む円筒状に形成されている。第二周壁部72の内径(内法)d22は、サポートスプリング68の外径よりも僅かに大きくされており、且つ、第一周壁部71の内径d21よりも小さくされている。
【0046】
第三周壁部73は、シリンダ70の内周壁のうちで、分割壁部75よりもニードル受圧面51側に位置する部分である。第三周壁部73は、第二周壁部72及び第一周壁部71と実質的に同軸である。第三周壁部73は、背圧室部36を区画すると共に、ニードル摺動面52を摺動可能に支持している。第三周壁部73の内径(内法)は、背圧室の内径d1であり、第一周壁部71の内径d21よりも僅かに小さくされている。一方で、第三周壁部73の内径d1は、第二周壁部72の内径d22よりも大きくされている。
【0047】
ここまで説明した燃料噴射装置10では、制御装置9から入力される駆動電流によって燃料の噴射が指示されると、電磁制御弁40の開弁により、アウトオリフィス62及び流出流路33を通じた制御室35から低圧室38への燃料流出が開始される。これによる制御室35の圧力降下により、ノズルニードル50は、噴孔近傍の高圧燃料に押し上げられ、開弁方向へ向けて変位し、噴孔39からの燃料噴射を開始させる。
【0048】
一方、制御装置9の制御による電磁制御弁40の閉弁によれば、可動プレート60を開口壁27に押し付けていた油圧力が低下する。その結果、可動プレート60は、流入開口32aの燃料圧力によって開口壁27から離座し、制御室35への高圧燃料の流入を可能にする。これによる制御室35の圧力回復によれば、ノズルニードル50は、閉弁方向に押し下げられて、噴孔39からの燃料流出を停止させる。
【0049】
以上の第一実施形態では、分割壁部75により制御室35が収容室部37及び背圧室部36に区分けされたうえで、収容室部37及び背圧室部36は、絞り孔77によって互に連通されている。故に、制御室35の容積を増加させても、分割壁部75が無い場合と比較して、背圧室部36の容積は、小さく抑制され得る。以上によれば、制御室35からの燃料流出に伴う背圧室部36の燃料圧力の脈動周期が短くなるため、脈動の早期の収束が可能になる。故に、ノズルニードル50の開弁方向への変位速度が波打つように変動する事態は、防がれ得る。その結果、電磁制御弁40の開弁時間に対する燃料噴射量のばらつきが低減され得る。
【0050】
加えて第一実施形態では、サポートスプリング68が、分割壁部75の支持面部76によって支持される構成である。そのため、ノズルニードル50の開弁方向への大きな変位によってニードル受圧面51が可動プレート60に接近しても(
図3 二点鎖線参照)、サポートスプリング68の過剰な圧縮は生じない。故に、サポートスプリング68は、可動プレート60を正しい姿勢で開口壁27へ向けて付勢できる。その結果、流入開口32aを開閉する可動プレート60の挙動のばらつきは、抑制され得る。以上によれば、電磁制御弁40の閉弁後に制御室35へ流入する燃料流量の変動が抑制されるため、ノズルニードル50の閉弁方向への変位の態様も安定化し得る。その結果、電磁制御弁40の開弁時間に対する燃料噴射量のばらつきが低減され得る。
【0051】
したがって、燃料噴射装置10は、噴射量の増加のためにノズルニードル50の開弁方向への変位量が拡大されても、噴孔39から噴射される燃料の噴射量の精度を維持できる。
【0052】
さらに、支持面部76にてサポートスプリング68を支持する構成であれば、サポートスプリング68に許容される圧縮の縮み代の制約が実質的に無くなる。その結果、ノズルニードル50の最大リフト量の拡大が容易に実現され得る。加えて、サポートスプリング68は、開弁方向に変位するノズルニードル50から上昇力を受けない。故に、サポートスプリング68による可動プレート60の付勢が安定的に実施され、可動プレート60は、傾くことなく正しい姿勢を維持できる。以上によれば、燃料噴射の精度は、いっそう向上可能となる。
【0053】
加えて第一実施形態では、絞り孔77の内径d3は、背圧室部36の内径d1の2分の1以下とされている。このように絞り孔77の内径d1が設定されれば、背圧室部36に生じる脈動を抑える絞り孔77の機能は、高い確実性をもって発揮される。
【0054】
また第一実施形態のように、絞り孔77の流路面積A3は、アウトオリフィス62の流路面積A2よりも大きくされている。こうした構成であれば、絞り孔77は、背圧室部36からの燃料流出を実質的に妨げない。故に、分割壁部75が形成されていても、電磁制御弁40の開弁後における背圧室部36の圧力降下は、分割壁部75の無い構成と同様、早急に生じ得る。したがって、噴射精度と応答性の両立が可能となる。
【0055】
さらに第一実施形態では、収容室部37に充填される燃料の容量は、背圧室部36に充填される燃料の容量よりも少なくされている。このように、収容室部37を満たす燃料量が少なく抑えられていれば、電磁制御弁40の開弁後に、燃料流出に伴った制御室35の圧力降下は、速やかに生じ得る。以上によれば、制御装置9の制御に対する高い応答性が確保される。
【0056】
加えて第一実施形態では、第二周壁部72の内径d22が第一周壁部71の内径d21よりも小さく設定されている。以上によれば、収容室部37の余分な容積が低減され得るため、収容室部37に充填される燃料量を少なくできる。以上によれば、燃料流出に伴う制御室35の圧力降下の遅延を抑え、ノズルニードル50のリフト開始のタイミングは、電磁制御弁40の開弁タイミングに近づき得る。したがって、制御室35を分割しても、燃料噴射装置10の高い応答性は、確保可能となる。
【0057】
尚、第一実施形態では、ノズルニードル50が「ニードル」に相当し、可動プレート60が「閉塞部材」に相当し、サポートスプリング68が「付勢部材」に相当する。
【0058】
(第二実施形態)
図4に示す第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二実施形態の弁ボデー220は、第一実施形態のノズルボデー部材23(
図3参照)に相当するノズルボデー部材223に加えて、バルブ収容部材123を有している。さらに、第二実施形態のシリンダ270は、背圧室部36及び収容室部37のうちで、背圧室部36のみを区画する構成とされている。
【0059】
バルブ収容部材123は、金属材料によって円盤状に形成されている。バルブ収容部材123は、流路形成部材22とノズルボデー部材223との間に、これらの部材と実質的に同軸に配置されている。バルブ収容部材123には、縦孔131aが形成されている。縦孔131aは、軸方向に沿ってバルブ収容部材123を貫通している。縦孔131aは、高圧燃料通路31の一部であって、ノズルボデー部材223へ向けて高圧燃料を流通させる。
【0060】
バルブ収容部材123には、収容室部37が設けられている。バルブ収容部材123には、収容室部37を区画する区画壁70aとして、第一周壁部71、第二周壁部72、及び分割壁部75が形成されている。バルブ収容部材123には、可動プレート60及びサポートスプリング68が収容されている。サポートスプリング68は、分割壁部75の支持面部76と可動プレート60との間に、圧縮された状態で配置されている。
【0061】
シリンダ270は、ノズルボデー部材223に収容されている。シリンダ270は、バルブ収容部材123の下端面123aに、ニードルスプリング53の付勢力によって押し当てられている。シリンダ270の内周壁には、背圧室部36を区画する第三周壁部73が形成されている。背圧室部36は、バルブ収容部材123の分割壁部75に設けられた絞り孔77を通じて、収容室部37と連通している。
【0062】
ここまで説明した第二実施形態でも、収容室部37と背圧室部36とに区分けされた制御室35の構造により、第一実施形態と同様に、背圧室部36に生じる脈動を早期に収束させることが可能になる。加えて、サポートスプリング68がノズルニードル50の変位から遮断されているため、第一実施形態と同様に、可動プレート60は、流入開口32aの開閉する作動を正しく行い得る。したがって、第二実施形態による燃料噴射装置でも、噴孔39(
図2参照)から噴射される燃料の噴射量の精度は、維持可能となる。
【0063】
また第二実施形態では、背圧室部36がシリンダ270によって区画されており、収容室部37がバルブ収容部材123によって区画されている。こうした構成により、分割壁部75及び絞り孔77は、バルブ収容部材123の下端面123aの部分に形成されている。そのため、シリンダ内側の中間に分割壁部及び絞り孔を設ける構成と比較して、収容室部37及び絞り孔77を例えば切削可能等によって形成する加工の難易度は、低く抑制され得る。以上のように、制御室35を分割する構成において、背圧室部36及び収容室部37をそれぞれ別の部材によって区画すれば、高い加工精度の確保が容易となる。さらに、切削加工後の洗浄工程における切削クズの洗浄の容易性も、確保され易くなる。
【0064】
(第三実施形態)
図5に示す第三実施形態は、第一実施形態の別の変形例である。第三実施形態の弁ボデー320には、第一実施形態のシリンダ70(
図3参照)に替えて、外シリンダ370及び内シリンダ170が設けられている。
【0065】
外シリンダ370は、金属材料により、制御室35の全体の周囲を囲む円筒状に形成されている。外シリンダ370の内周壁には、第一周壁部71及び第三周壁部73に加えて、摺動壁部74及び規制部78が形成されている。摺動壁部74は、外シリンダ370の軸方向にて、第一周壁部71と第三周壁部73の間に形成されており、第一周壁部71と軸方向に連続している。摺動壁部74の内径は、第一周壁部71の内径と実質的に同一であり、内シリンダ170の外径とも実質的に同一である。規制部78は、摺動壁部74と第三周壁部73との間に形成された径方向の段差である。規制部78は、内シリンダ170との当接により、ノズルニードル50に近接する方向への内シリンダ170の変位を規制する。
【0066】
内シリンダ170は、金属材料により、有底の円筒状に形成されている。内シリンダ170は、可動プレート60と軸方向に間隔を開けて並ぶ配置にて、外シリンダ370の内側に収容されている。内シリンダ170は、摺動壁部74に内嵌されており、外シリンダ370の軸方向に沿って、摺動壁部74に対し摺動可能である。内シリンダ170には、第二周壁部72及び分割壁部75が設けられている。
【0067】
分割壁部75は、内シリンダ170の底壁171によって形成されている。底壁171において収容室部37に臨む内側面が支持面部76となる。支持面部76には、サポートスプリング68が載置されている。支持面部76に作用するサポートスプリング68の復元力により、内シリンダ170は、底壁171を規制部78に当接させた初期位置に戻される。また、底壁171の中央に形成された貫通開口が、絞り孔77となっている。
【0068】
ここまで説明した第三実施形態でも、収容室部37と背圧室部36とに制御室35を区分けした構造により、背圧室部36に生じる脈動を早期に収束させることが可能になる。加えて、サポートスプリング68がノズルニードル50の変位から遮断されているため、可動プレート60は、流入開口32aを開閉する作動を正しく行い得る。したがって、第三実施形態による燃料噴射装置でも、噴孔39(
図2参照)から噴射される燃料の噴射量の精度は、維持可能となる。
【0069】
加えて第三実施形態では、制御室35を分割する絞り孔77の位置が、内シリンダ170の摺動によって変位可能である。故に、背圧室部36に生じる脈動に伴った絞り孔77の移動が、脈動を低減させるダンパー効果を発揮する。こうしたダンパー効果が発揮されることによれば、背圧室部36に生じる脈動は、さらに早期に収束可能となる。
【0070】
また第三実施形態でも、分割壁部75及び絞り孔77が内シリンダ170の底壁171に形成されるため、シリンダ内側の中間に分割壁部及び絞り孔を設ける構成と比較して、加工の難易度を低く抑えることが可能となる。その結果、高い加工精度の維持が容易となる。加えて、切削クズを洗浄する工程の容易性も確保可能となる。
【0071】
尚、第三実施形態では、内シリンダ170が「内シリンダ部材」に相当し、外シリンダ370が「外シリンダ部材」に相当する。
【0072】
(他の実施形態)
以上、本開示の複数の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0073】
上記第一実施形態では、サポートスプリングを支持する分割壁部のような支持部材が、シリンダと一体で設けられていた。また上記第二,第三実施形態では、サポートスプリングを支持する支持部材が、バルブ収容部材及び内シリンダとして、各シリンダとは別体で設けられていた。以上のように、制御室の区分けする構造を実現するための各部材の構成は、適宜変更されてよい。
【0074】
上記実施形態では、可動プレートを付勢するサポートスプリングとして、コイルスプリングが用いられていた。しかし、可動プレートを付勢する付勢部材は、例えば板バネ等であってもよい。
【0075】
上記実施形態にて、絞り孔は、円筒孔状に形成されていた。しかし、絞り孔の形状及び大きさは、脈動の抑制が可能であれば、適宜変更されてよい。さらに、背圧室部及び収容室部の各形状及び各容積も、適宜変更可能である。
【0076】
上記実施形態では、電磁制御弁が制御室からの燃料流出を制御していた。しかし、燃料噴射装置は、電磁制御弁に替えて、ピエゾアクチュエータを有する制御弁を備えていてもよい。また上記実施形態では、燃料として軽油を噴射する燃料噴射装置に本開示の制御室の分割構造を適用した例を説明した。しかし、上記の制御室の分割構造は、軽油以外の燃料を噴射する燃料噴射装置にも適用可能である。