特許第6962055号(P6962055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962055
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/08 20060101AFI20211025BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   F01M1/08 B
   F01P3/08
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-150575(P2017-150575)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2019-27417(P2019-27417A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西浦 和正
【審査官】 池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−084731(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0283968(US,A1)
【文献】 特開平06−221127(JP,A)
【文献】 特開2016−113982(JP,A)
【文献】 特開2012−136953(JP,A)
【文献】 特開2010−285906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/08
F01P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室からピストンの下面へオイルを噴射するピストンクーリングジェットと、前記ピストンクーリングジェットに前記オイルを圧送するオイルポンプと、を有する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記ピストンを冷却するように、前記ピストンクーリングジェットの噴射状態および前記オイルポンプの発生する油圧を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記内燃機関が過渡状態で機関負荷が所定負荷以上に上昇した場合、
前記機関負荷の上昇前の前記油圧に基づいて、前記機関負荷の上昇前よりも増大させた油圧である増大後油圧と、前記増大後油圧を保持する前記内燃機関のサイクル数である保持サイクル数とを決定し、
前記増大後油圧および前記保持サイクル数に従って、前記ピストンクーリングジェットの噴射状態および前記オイルポンプが発生する油圧を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記内燃機関が前記機関負荷の負荷上昇率が所定上昇率以上となる過渡状態であること、または前記内燃機関がノッキングの発生しやすいノッキング状態であること、を判定している場合、
前記増大後油圧または前記保持サイクル数の少なくとも一方を増加することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記内燃機関の吸気の吸気温度、冷却水の水温または前記オイルの油温の少なくとも1つに基づいて、前記内燃機関がプレイグニッションの発生しやすい状態であること、または前記内燃機関が冷機状態であること、を判定している場合、
前記保持サイクル数を減少することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記保持サイクル数の経過後、前記オイルポンプの発生する油圧を前記増大後油圧から所定の減少率で漸減し、
前記プレイグニッションの発生しやすい状態であること、または前記冷機状態であること、を判定している場合、前記油圧の減少率を大きくすることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関にあっては、高回転高負荷運転時におけるピストンやシリンダの温度上昇を抑制するため、ピストンに向けてエンジンオイルを噴射するノズル状のピストンクーリングジェットを備えるものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のものは、エンジン負荷が増大した場合、ECUは、電磁スプール弁の電磁アクチュエータへの励磁電流の供給を停止する。すると、リターンスプリングに付勢されたスプールが移動し、電磁スプール弁からのコントロール油が増量側コントロール油路を介してオイルポンプの増量側ポートに流入する。
【0004】
これにより、油圧アクチュエータが可動ハウジングを左回転方向に駆動し、オイルポンプの吐出量が増大する。一方、PCJバルブでは、増量側コントロール油路からのコントロール油がコントロールポートに供給され、弁体による閉鎖が解かれて第4フィード油路が開放されてジェットノズルからエンジンオイルがピストンの下面等に向けて噴射される。このため、特許文献1に記載のものは、ピストンクーリングジェットの設置に起因する駆動損失や暖機の遅延等を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−142297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、低回転高負荷時においてノッキングの発生を抑制するためピストンクーリングジェットの噴射圧力を増大させた場合、ピストンに噴射された大量のオイルの一部が燃焼室に侵入するオイル上がりが発生し、燃焼室に侵入したオイルに起因してプレイグニッションが発生しやすくなるという問題があった。
【0007】
すなわち、ピストンへのオイル噴射量が十分でない場合はピストンを良好に冷却できずにノッキングが発生してしまうが、一方でオイル噴射量が多すぎる場合はプレイグニッションが発生する可能性が高まってしまう。また、オイル噴射量の適正範囲は一定ではなく、内燃機関の運転状態によって異なる。したがって、内燃機関の運転状態に応じてピストンクーリングジェットのオイル噴射量を適正量に制御し、ノッキングの抑制とプレイグニッションの抑制を両立させることが求められていた。
【0008】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、ノッキングの抑制とプレイグニッションの抑制を両立することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、クランク室からピストンの下面へオイルを噴射するピストンクーリングジェットと、前記ピストンクーリングジェットに前記オイルを圧送するオイルポンプと、を有する内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記ピストンを冷却するように、前記ピストンクーリングジェットの噴射状態および前記オイルポンプの発生する油圧を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記内燃機関が過渡状態で機関負荷が所定負荷以上に上昇した場合、前記機関負荷の上昇前の前記油圧に基づいて、前記機関負荷の上昇前よりも増大させた油圧である増大後油圧と、前記増大後油圧を保持する前記内燃機関のサイクル数である保持サイクル数とを決定し、前記増大後油圧および前記保持サイクル数に従って、前記ピストンクーリングジェットの噴射状態および前記オイルポンプが発生する油圧を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノッキングの抑制とプレイグニッションの抑制を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置を示す図であり、制御装置を搭載する内燃機関および車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置によるPCJ制御動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、図2のステップS2の詳細を説明するフローチャートである。
図4図4は、図2のステップS3の詳細を説明するフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置により内燃機関の定常時の目標油圧を算出する際に参照される定常時目標油圧マップである。
図6図6は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置により内燃機関の過渡時の保持サイクル数を算出する際に参照される過渡時油圧保持時間テーブルである。
図7図7は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置により内燃機関の過渡時の増大後油圧を算出する際に参照される過渡時油圧テーブルである。
図8図8は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置により内燃機関の定常時のピストンクーリングジェットの噴射状態を決定する際に参照される定常時PCJONOFFマップである。
図9図9は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置によりPCJ制御動作を実施する際の内燃機関の運転状態および制御状態の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、クランク室からピストンの下面へオイルを噴射するピストンクーリングジェットと、ピストンクーリングジェットにオイルを圧送するオイルポンプと、を有する内燃機関の制御装置であって、内燃機関の運転状態に基づいてピストンを冷却するように、ピストンクーリングジェットの噴射状態およびオイルポンプの発生する油圧を制御する制御部を備え、制御部は、内燃機関の機関負荷が所定負荷以上に上昇した場合、機関負荷の上昇前の油圧に基づいて、機関負荷の上昇前よりも増大させた油圧である増大後油圧と、増大後油圧を保持する内燃機関のサイクル数である保持サイクル数とを決定し、増大後油圧および保持サイクル数に従って、ピストンクーリングジェットの噴射状態およびオイルポンプが発生する油圧を制御することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、ノッキングの抑制とプレイグニッションの抑制を両立することができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置について図面を用いて説明する。
【0014】
図1において、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置を搭載した車両50は、内燃機関60と、制御部としてのECU(Electronic Control Unit)70とを含んで構成されている。
【0015】
内燃機関60は、ピストン5が気筒を2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う4サイクルエンジンによって構成されている。
【0016】
内燃機関60はターボ過給機3を備えており、このターボ過給機3は、コンプレッサ3Aと、このコンプレッサ3Aに連結されたタービン3Bとからなる。
【0017】
内燃機関60は、吸気通路61Aを形成する吸気管61と、排気通路62Aを形成する排気管62とを備えている。
【0018】
吸気通路61Aには、上流側から順次に、エアクリーナ1と、ターボ過給機3のコンプレッサ3Aと、インタークーラ4と、インテークマニホールド6とが配置されている。エアクリーナ1は吸気を濾過する。コンプレッサ3Aは吸気を圧縮する。インタークーラ4は吸気を冷却する。インテークマニホールド6は吸気を各気筒の燃焼室に64に分配する。
【0019】
排気通路62Aには、上流側から順次に、ターボ過給機3のタービン3Bと、排気ガス浄化装置24とが配置されている。タービン3Bは排気ガスにより回転し、回転力をコンプレッサ3Aに伝達する。排気ガス浄化装置24は排気を浄化する。
【0020】
内燃機関60は、インジェクタ23を備えており、このインジェクタ23は、高圧の燃料を燃焼室64に噴射する。インジェクタ23が噴射する燃料は、ガソリンまたはディーゼル燃料である。すなわち、内燃機関60は、直噴ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンとして構成されている。
【0021】
内燃機関60は、吸気通路61Aにおけるコンプレッサ3Aよりも上流側に、MAF(Mass Air flow)センサ10を備えている。MAFセンサ10は、吸気通路61Aを通過する吸入空気の量(以下、吸気量ともいう)を検出し、検出信号をECU70に出力する。MAFセンサ10は、エアフローメータまたはエアフローセンサとも呼ばれる。
【0022】
内燃機関60は、シリンダブロック60A内に油温油圧センサ11を備えており、この油温油圧センサ11は、オイルの油温および油圧を検出し、検出信号をECU70に出力する。
【0023】
内燃機関60は、シリンダブロック60A内にピストンクーリングジェット20およびPCJ制御バルブ21を備えている。オイルポンプ12から吐出されたオイルは、PCJ制御バルブ21を経てピストンクーリングジェット20に導入される。
【0024】
ピストンクーリングジェット20は、シリンダブロック60Aの内部に形成されたクランク室65に設けられており、クランク室65からピストン5の下面に向けてオイルを噴射するようになっている。ピストンクーリングジェット20はオイルジェットとも呼ばれる。PCJ制御バルブ21は、ピストンクーリングジェット20からのオイル噴射のオン(噴射)またはオフ(非噴射)を制御するバルブである。
【0025】
内燃機関60は、シリンダブロック60A内にオイルポンプ12を備えており、このオイルポンプ12は、ピストンクーリングジェット20および内燃機関60の複数の潤滑対象部位にオイルを圧送する。オイルポンプ12は、可変容量オイルポンプからなり、オイルの吐出量を変化させることで油圧を変化させる。
【0026】
ECU70は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータを含んで構成されており、内燃機関60の運転状態を電気的に制御するようになっている。
【0027】
CPUは、RAMの一時記憶機能を利用するとともにROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うようになっている。ROMには、各種制御定数や各種マップ等が予め記憶されている。
【0028】
ECU70は、内燃機関60の運転状態に基づいてピストン5を冷却するように、ピストンクーリングジェット20の噴射状態およびオイルポンプ12の発生する油圧を制御する。ECU70は、PCJ制御バルブ21の開閉を制御することでピストンクーリングジェット20の噴射状態を制御する。
【0029】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る内燃機関の制御装置においてECU70により実行されるPCJ制御動作について説明する。このPCJ制御動作は、所定条件の成立時に所定の保持時間、ピストンクーリングジェット20へ供給する油圧を増大させる制御である。
【0030】
図2において、ECU70は、ステップS1で内燃機関60の機関負荷が所定値以上に上昇したか否かを繰り返し判別し、所定値以上に上昇した場合は、過渡前の油圧に基づいて増大後油圧を決定する(ステップS2)。なお、内燃機関60の機関負荷は、例えば吸気管圧力に基づいて算出することができる。
【0031】
なお、ステップS2における過渡前の油圧とは、機関負荷が上昇する前、すなわち過渡状態の前の定常状態のときの油圧のことである。また、増大後油圧とは、機関負荷の上昇した運転状態においてピストン5を過不足なく冷却してノッキングを抑制可能なように、増大された油圧である。
【0032】
ここで、機関負荷の変動のない定常状態において、ECU70は、図5に示す定常時目標油圧マップを参照し、この定常時目標油圧マップに定められた油圧の目標値(目標油圧)となるよう油圧を制御するようになっている。
【0033】
この定常時目標油圧マップは機関負荷(図中、エンジン負荷率と記す)とエンジン回転数との組み合わせからなる領域ごとに目標油圧を定めたものである。前述のステップS2では、機関負荷が上昇する前の定常状態における油圧に基づいて、増大後油圧を決定している。
【0034】
また、機関負荷の変動のない定常状態において、ECU70は、図8に示す定常時PCJONOFFマップを参照し、この定常時PCJONOFFマップに従って、PCJ制御バルブ21を開閉するようになっている。この定常時PCJONOFFマップは機関負荷(図中、エンジン負荷率と記す)とエンジン回転数との組み合わせからなる領域ごとにPCJ制御バルブ21の開弁または閉弁を定めたものである。
【0035】
ステップS2では、図3に示すように、ECU70は、過渡前の油圧を取得し(ステップS21)、この油圧に基づいて増大後油圧を算出する(ステップS22)。このステップS22では、ECU70は、図7に示す過渡時油圧テーブルを参照し、過渡前の定常時油圧に基づいて、増大後油圧(図中、過渡時油圧と記す)を算出する。過渡時油圧テーブルにおける増大後油圧は、ノッキングの発生を抑制することを優先して大きめの油圧に設定されている。
【0036】
次いで、ECU70は、負荷上昇率が所定上昇率以上、または内燃機関60の運転領域がノック領域であるかを判別する(ステップS23)。ECU70は、負荷上昇率が所定上昇率以上であること、または運転領域がノック領域であること、の何れかが成立している場合にこのステップS23でYESと判別する。
【0037】
ステップS23の判別がYESの場合、ECU70は増大後油圧をプラス補正し(ステップS24)、プラス補正された増大後油圧を、変更後の増大後油圧として決定する(ステップS25)。
【0038】
ステップS23の判別がNOの場合、ECU70はステップS24をスキップし、ステップS25を実施する。この場合、増大後油圧は変更されない。ステップS25の実施後、ECU70は、呼び出し元プログラムである図2のフローチャートに処理を戻す。
【0039】
図2に戻り、ECU70は、ステップS3で増大後油圧の保持サイクル数を決定する。ここで、保持サイクル数とは、増大後油圧によりピストンクーリングジェット20からオイルを噴射する際の噴射時間(保持時間)を、内燃機関60のサイクル数で表わしたものである。このサイクル数のカウント方法は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる4行程を1サイクルとしてもよいし、各行程を1サイクルとしてもよい。
【0040】
ステップS3では、図4に示すように、ECU70は、過渡前の油圧を取得し(ステップS31)、この油圧に基づいて保持サイクル数を算出する(ステップS32)。このステップS32では、ECU70は、図6に示す過渡時油圧保持時間テーブルを参照し、過渡前の定常時油圧に基づいて、保持サイクル数を算出する。なお、図6において保持サイクル数のことを保持時間と記している。
【0041】
次いで、ECU70は、負荷上昇率が所定上昇率以上、または内燃機関60の運転領域がノック領域であるかを判別する(ステップS33)。ECU70は、負荷上昇率が所定上昇率以上であること、または運転領域がノック領域であること、の何れかが成立している場合にこのステップS33でYESと判別する。
【0042】
ステップS33の判別がYESの場合、ECU70は保持サイクル数をプラス補正し(ステップS34)、次いでエンジン温度情報を取得する(ステップS35)。エンジン温度情報には、オイルの油温、冷却水の水温、吸気の吸気温度、等が含まれる。
【0043】
ステップS33の判別がNOの場合、ECU70はステップS34をスキップし、ステップS35を実施する。この場合、増大後油圧は変更されない。
【0044】
ステップS35の次に、ECU70は、ステップS36で内燃機関60がプレイグ発生状態であるか否かを判別する。プレイグ発生状態とは、プレイグニッションが発生しやすい状態のことである。このステップS36において、ECU70は、油温が所定の高油温であること、水温が所定の高水温であること、または吸気温度が所定の高吸気温度であること、の何れかの条件が成立している場合にプレイグ発生状態であると判別する。
【0045】
ステップS36でプレイグ発生状態であると判別した場合、ECU70は、保持サイクル数をマイナス補正し(ステップS37)、変更後の保持サイクル数を決定する(ステップS38)。ステップS38における変更後の保持サイクル数は、ステップS37でマイナス補正された保持サイクル数、または後述するステップS40でマイナス補正された保持サイクル数となる。
【0046】
ステップS36でプレイグ発生状態ではないと判別した場合、ECU70は内燃機関60が冷機状態であるか否かを判別する(ステップS39)。
【0047】
ステップS39で冷機状態であると判別した場合、ECU70は、保持サイクル数をマイナス補正し(ステップS40)、その後、ステップS38を実施する。ステップS39で冷機状態ではないと判別した場合、ECU70はステップS40をスキップし、ステップS38を実施する。この場合、保持サイクル数は変更されない。
【0048】
ステップS38の実施後、ECU70は、呼び出し元プログラムである図2のフローチャートに処理を戻す。
【0049】
図2に戻り、ECU70は、ステップS4において増大後油圧でオイルポンプ12を駆動し、ステップS5にいて保持サイクル数が経過したか否かを繰り返し判別し、保持サイクル数が経過した場合はステップS6で油圧が漸減するようオイルポンプ12を制御する。
【0050】
次に、図9を参照し、PCJ制御動作を実施する際の内燃機関60の運転状態および制御状態の推移を説明する。
【0051】
図9に示すように、初期状態のt0において、エンジン回転数が1000rpm、機関負荷(図中、エンジン負荷率と記す)が20%、ピストンクーリングジェット20(図中、PCJと記す)が噴射停止状態、油圧が150KPaとなっている。また、この初期状態では、ノック制御はオフである。ノック制御とは、図2のステップS4のように増大後油圧にまで油圧を増大させてピストン5の冷却を促進し、ノッキングの発生を抑制する制御のことである。
【0052】
図9の例では、時刻t0以降に機関負荷が所定負荷(20%)以上に上昇したことを受けて、時刻t1でノック制御がオンにされている。そして、この時刻t1で油圧が増大後油圧としての350KPAに増大され、ピストンクーリングジェット20の噴射状態が噴射に切り替えられている。
【0053】
また、時刻t1から保持サイクル数が経過した時刻t2において、所定の保持サイクルが経過したために油圧が漸減されている。また、油圧を漸減する際に、プレイグニッションの発生しやすい状態または冷機状態であるため、油圧の減少率が大きく設定されており、図9に実線で示すように油圧が速やかに漸減している。なお、プレイグニッションの発生しやすい状態または冷機状態の何れでもない場合は、破線で示すように油圧の漸減率が大きく設定されない。
【0054】
以上説明したように、本実施例では、ECU70は、内燃機関60の機関負荷が所定負荷以上に上昇した場合、機関負荷の上昇前の油圧に基づいて、機関負荷の上昇前よりも増大させた油圧である増大後油圧と、増大後油圧を保持する内燃機関60のサイクル数である保持サイクル数とを決定する。そして、ECU70は、決定した増大後油圧および保持サイクル数に従って、ピストンクーリングジェット20の噴射状態およびオイルポンプ12が発生する油圧を制御する。
【0055】
これにより、機関負荷が所定負荷以上に上昇した過渡状態において、機関負荷の上昇前の油圧に応じた過不足のない増大後油圧および保持サイクル数で、ピストンクーリングジェット20からオイルを噴射できる。
【0056】
このため、十分な量のオイルによりピストン5を十分に冷却でき、機関負荷の上昇後のノッキングの発生を抑制できる。また、オイルが供給過剰となることがないため、噴射したオイルがピストン5の外周を通って燃焼室64に侵入することによるオイル上がりを防止でき、オイル上がりに起因するプレイグニッションの発生を抑制できる。すなわち、本実施例では、増大後油圧のみではなく保持サイクル数も過不足のない適正範囲となるように制御し、オイルの供給過剰状態が長期間継続することを回避しているため、ピストン5が上死点方向に移動する際のオイルの掻き上げに起因するオイル上がりを好適に防止することができる。この結果、ノッキングの抑制とプレイグニッションの抑制を両立することができる。
【0057】
また、本実施例では、ECU70は、内燃機関60が機関負荷の負荷上昇率が所定上昇率以上となる過渡状態であること、または内燃機関60がノッキングの発生しやすいノッキング状態であること、を判定している場合、増大後油圧または保持サイクル数の少なくとも一方を増加する。
【0058】
これにより、過渡状態である場合またはノッキングが発生しやすい状態である場合は、増大後油圧または保持サイクル数の少なくとも一方を増加することで、内燃機関60の冷却能力を向上させることができるので、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0059】
また、本実施例では、ECU70は、内燃機関60の吸気の吸気温度、冷却水の水温またはオイルの油温の少なくとも1つに基づいて、内燃機関60がプレイグニッションの発生しやすい状態であること、または内燃機関60が冷機状態であること、を判定している場合、保持サイクル数を減少する。
【0060】
これにより、プレイグニッションの発生しやすい状態である場合は、保持サイクル数を減少することで、供給過剰のオイルによるオイル上がりをより一層低減できるので、オイル上がりに起因するプレイグニッションの発生をさらに抑制できる。また、内燃機関60が冷機状態である場合は、保持サイクル数を減少することで、ピストン5の過冷却を防止することができる。
【0061】
また、本実施例では、ECU70は、保持サイクル数の経過後、オイルポンプ12の発生する油圧を増大後油圧から所定の減少率で漸減する。
【0062】
また、ECU70は、油圧を漸減する際に、プレイグニッションの発生しやすい状態であること、または冷機状態であること、を判定している場合、油圧の減少率を大きくする。
【0063】
これにより、増大後油圧を漸減しているので、ピストン温度が急激に変化することを防止でき、一時的な機関負荷が上昇する際のピストン温度の変化の遅れを考慮した冷却が可能となる。
【0064】
また、内燃機関60が冷機状態の場合は、増大後油圧まで増大した油圧を大きな減少率で速やかに減少できるので、ピストン5の過冷却を防止できる。
【0065】
また、プレイグニッションの発生しやすい状態である場合は、増大後油圧まで増大した油圧を大きな減少率で速やかに減少できるので、プレイグニッションの誘発を防止できる。このため、ノッキングの抑制とプレイグニッションの抑制を両立することができる。
【0066】
上述の通り、本発明の一実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0067】
5 ピストン
12 オイルポンプ
20 ピストンクーリングジェット
60 内燃機関
65 クランク室
70 ECU(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9