特許第6962056号(P6962056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962056不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962056
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20211025BHJP
   B29D 30/32 20060101ALI20211025BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20211025BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20211025BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29D30/32
   B60C9/08 B
   B60C11/03 300Z
   B29C35/02
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-150921(P2017-150921)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2019-25878(P2019-25878A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】疋田 真浩
(72)【発明者】
【氏名】青木 鎮也
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−321403(JP,A)
【文献】 特開2006−199084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29D 30/32
B60C 9/08
B60C 11/03
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不整地走行用のモーターサイクルタイヤを製造するための方法であって、
トレッド部、一対のサイドウォール部及び一対のビード部を有する生タイヤを成形する工程と、
金型を用いて前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記金型において、前記一対のビード部の外面を成形する一対のビード成形面間のタイヤ軸方向の距離であるクリップ幅が、完成後のモーターサイクルタイヤが装着される正規リムのリム幅の100%〜110%であり、
前記生タイヤは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部に至るカーカスを含み、
前記カーカスは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部のビードコアに至る本体部と、前記本体部に連なり前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返される折返し部とを有しかつカーカスコードの配列体からなる第1カーカスプライを含み、
前記加硫工程は、前記折返し部の前記カーカスコードを、タイヤ周方向に対して前記本体部の前記カーカスコードよりも大きい角度に傾斜させる、
不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記金型において、前記トレッド部を成形するトレッド成形面の最大外径が、前記正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填されかつ無負荷である正規状態のタイヤの外径の99.5%〜110%である、
請求項1記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記金型において、前記トレッド部を成形するトレッド成形面のタイヤ軸方向の幅が、完成後のモーターサイクルタイヤを前記正規リムにリム組みしかつ正規内圧が充填されかつ無負荷とした正規状態のトレッド幅の100%〜110%である、
請求項1又は2記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記加硫工程は、前記本体部の前記カーカスコードを、タイヤ周方向に対して27〜45°の角度に傾斜させる、
請求項1乃至3のいずれかに記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記加硫工程は、前記折返し部の前記カーカスコードを、タイヤ周方向に対して41〜50°の角度に傾斜させる、
請求項1ないし4のいずれかに記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記カーカスは、前記本体部のタイヤ半径方向外側に配されたカーカスコードの配列体からなる第2カーカスプライを含み、
前記加硫工程は、前記本体部の前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θ1と、前記第2カーカスプライの前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θ2との比θ1/θ2を、1.05〜1.15にする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記トレッド部は、タイヤ赤道を中心とするトレッド展開幅の1/3の領域であるクラウン領域と、前記クラウン領域に配された複数のクラウンブロックとを含み、
前記加硫工程は、前記各クラウンブロックのタイヤ周方向の長さの総和を、タイヤ赤道におけるタイヤ外周長さの0.20〜0.30倍にする、
請求項1乃至6のいずれかに記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記クラウンブロックのタイヤ周方向の長さは、前記クラウンブロックのタイヤ軸方向の長さの0.40〜0.60倍である、
請求項7記載の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整地走行用のモーターサイクルタイヤを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不整地走行用のモーターサイクルタイヤが種々提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。上記タイヤが装着される車両は、不整地走行時やモトクロス競技時に、路面から大きく跳ねることがある。このため、上記タイヤには、駆動時の剛性感と、ジャンプ後の着地時のショック吸収性との両立が望まれていた。
【0003】
しかしながら、ショック吸収性を高めるためにトレッド部の剛性が緩和されると、サイドウォール部の剛性も緩和されるため、駆動時の剛性感が損なわれる傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5174142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、駆動時の剛性感及びショック吸収性を両立し得る不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、不整地走行用のモーターサイクルタイヤを製造するための方法であって、トレッド部、一対のサイドウォール部及び一対のビード部を有する生タイヤを成形する工程と、金型を用いて前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、前記金型において、前記一対のビード部の外面を成形する一対のビード成形面間のタイヤ軸方向の距離であるクリップ幅が、完成後のモーターサイクルタイヤが装着される正規リムのリム幅の100%〜110%である。
【0007】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法は、前記金型において、前記トレッド部を成形するトレッド成形面の最大外径が、前記正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填されかつ無負荷である正規状態のタイヤの外径の99.5%〜110%であるのが望ましい。
【0008】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法は、前記金型において、前記トレッド部を成形するトレッド成形面のタイヤ軸方向の幅が、完成後のモーターサイクルタイヤを前記正規リムにリム組みしかつ正規内圧が充填されかつ無負荷とした正規状態のトレッド幅の100%〜110%であるのが望ましい。
【0009】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法において、前記生タイヤは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部に至るカーカスを含み、前記カーカスは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部のビードコアに至る本体部と、前記本体部に連なり前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返される折返し部とを有しかつカーカスコードの配列体からなる第1カーカスプライを含み、前記加硫工程は、前記折返し部の前記カーカスコードを、タイヤ周方向に対して前記本体部の前記カーカスコードよりも大きい角度に傾斜させるのが望ましい。
【0010】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法において、前記加硫工程は、前記本体部の前記カーカスコードを、タイヤ周方向に対して27〜45°の角度に傾斜させるのが望ましい。
【0011】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法において、前記加硫工程は、前記折返し部の前記カーカスコードを、タイヤ周方向に対して41〜50°の角度に傾斜させるのが望ましい。
【0012】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法において、前記カーカスは、前記本体部のタイヤ半径方向外側に配されたカーカスコードの配列体からなる第2カーカスプライを含み、前記加硫工程は、前記本体部の前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θ1と、前記第2カーカスプライの前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θ2との比θ1/θ2を、1.05〜1.15にするのが望ましい。
【0013】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法において、前記トレッド部は、タイヤ赤道を中心とするトレッド展開幅の1/3の領域であるクラウン領域と、前記クラウン領域に配された複数のクラウンブロックとを含み、前記加硫工程は、前記各クラウンブロックのタイヤ周方向の長さの総和を、タイヤ赤道におけるタイヤ外周長さの0.20〜0.30倍にするのが望ましい。
【0014】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法において、前記クラウンブロックのタイヤ周方向の長さは、前記クラウンブロックのタイヤ軸方向の長さの0.40〜0.60倍であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤの製造方法は、生タイヤを成形する工程と、金型を用いて生タイヤを加硫する加硫工程とを含んでいる。また、本発明では、前記金型において、一対のビード部の外面を成形する一対のビード成形面間のタイヤ軸方向の距離であるクリップ幅が、完成後のモーターサイクルタイヤが装着される正規リムのリム幅の100%〜110%とされている。このような製造方法で得られたタイヤは、金型の成形面のプロファイルと内圧充填後のタイヤのプロファイルとの差が小さい。このため、内圧充填時、カーカスの全体に亘って均一に張力が作用する。その結果、上記タイヤは、荷重の大きさに関わらず一定の撓みが実現され、優れた駆動時の剛性感及びショック吸収性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の製造方法で製造された不整地走行用のモーターサイクルタイヤの横断面図である。
図2】加硫工程における金型及び生タイヤの横断面図である。
図3】金型の成形面のプロファイル及びタイヤの外面のプロファイルである。
図4】加硫工程後のトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。図1には、本実施形態の製造方法で製造された不整地走行用のモーターサイクルタイヤ1(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)の横断面図が示されている。より詳しくは、図1は、モトクロス競技用の後輪タイヤの正規状態におけるタイヤ回転軸を含む子午線断面図である。
【0018】
正規状態とは、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0019】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0020】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0021】
図1に示されるように、タイヤ1は、トレッド部2、一対のサイドウォール部3及び一対のビード部4を有する。トレッド部2は、その外面が、タイヤ半径方向外側に凸で湾曲している。サイドウォール部3は、トレッド部2のタイヤ軸方向の両側からタイヤ半径方向内側にのびている。ビード部4は、サイドウォール部3のタイヤ半径方向内側に連なっている。
【0022】
本発明の不整地走行用のモーターサイクルタイヤ1の製造方法(以下、単に「製造方法」という場合がある。)は、生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、金型を用いて生タイヤを加硫する加硫工程とを含む。本発明の製造方法について、特に説明されていない事項は、公知のものが適用される。
【0023】
図2には、加硫工程における金型10及び生タイヤ1Nの横断面図が示されている。図2に示されるように、生タイヤ1Nは、トレッド部2、一対のサイドウォール部3及び一対のビード部4を有する。また、生タイヤ1Nは、カーカス6と、ベルト層7とを有している。カーカス6は、例えば、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至る。ベルト層7は、トレッド部2の内部かつカーカス6のタイヤ半径方向外側に配されている。
【0024】
金型10は、例えば、トレッドセグメント11と、サイドウォールリング12と、ビードリング13とを含む。トレッドセグメント11は、トレッド部2の外面を成形する。サイドウォールリング12は、サイドウォール部3の外面を成形する。ビードリング13は、ビード部4の外面を成形する。加硫工程では、生タイヤ1Nが金型10と加硫ブラダー14との間で加硫成形され、タイヤ1が得られる。
【0025】
図3には、本発明の製造方法における金型10の成形面10sのプロファイル及び正規状態のタイヤ1の外面1sのプロファイルが示されている。なお、図3において、金型10の成形面10sのプロファイルは、2点鎖線で示されている。タイヤ1の外面1sのプロファイルは、実線で示されている。図3に示されるように、本発明の製造方法では、金型10において、クリップ幅W2が正規リムRのリム幅W1の100%〜110%と従来よりも小さく設定されている。なお、金型10のクリップ幅W2は、一対のビード部4の外面を成形する一対のビード成形面間のタイヤ軸方向の距離である。
【0026】
従来の不整地走行用のモーターサイクルタイヤ1の製造方法では、上記クリップ幅W2が上記リム幅W1に対して上記範囲よりも大きく設定される傾向がある。このため、従来の製造方法で得られたタイヤは、タイヤがリム組みされたとき、ビード部及びサイドウォール部が、タイヤ軸方向内側に撓む傾向がある。この状態で内圧が付加されると、トレッド部に配されたカーカスには大きな張力が作用する一方、サイドウォール部及びビード部に配されたカーカスにはあまり張力が作用しない。このため、従来の製造方法で得られたタイヤは、カーカスの張力の分布が不均一であり、駆動時の剛性感及びショック吸収性が両立し難い傾向があった。
【0027】
これに対し、本発明の製造方法で得られたタイヤ1は、ビード部4の外面間の距離が正規リムRのリム幅W1と近似しているため、タイヤがリム組みされたとき、サイドウォール部3及びビード部4が殆ど変形しない。従って、上記タイヤ1は、金型10の成形面10sのプロファイルと内圧充填後のタイヤ1のプロファイルとの差が小さい。このため、内圧充填時、カーカス6の全体に亘って均一に張力が作用する。その結果、上記タイヤは、荷重の大きさに関わらず一定の撓みが実現され、優れた駆動時の剛性感及びショック吸収性を発揮することができる。
【0028】
同様の観点から、金型10において、トレッド部2を成形するトレッド成形面の最大外径L1は、例えば、上記正規状態のタイヤの外径L2の99.5%〜110%であるのが望ましい。また、このようなトレッド成形面10の最大外径とタイヤの外径との関係を得るために、トレッド成形面の最大外径L1は、例えば、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるタイヤの外径の設計寸法の100%〜105%に設定されるのが望ましい。
【0029】
金型10において、トレッド部2を成形するトレッド成形面のタイヤ軸方向の幅W3は、完成後のモーターサイクルタイヤの上記正規状態のトレッド幅W4の100%〜110%であるのが望ましい。また、このようなトレッド成形面の幅とタイヤのトレッド幅との関係を得るために、一対のサイドウォール部3の外面を成形する一対のサイドウォール成形面10b間のタイヤ軸方向の距離であるサイドウォール幅W5が、例えば、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるタイヤの断面幅の設計寸法の100%〜105%に設定されるのが望ましい。
【0030】
図1に示されるように、カーカス6は、カーカスコードの配列体からなる1枚又は複数枚のカーカスプライを含む。望ましい態様として、本実施形態のカーカス6は、例えば、第1カーカスプライ6A及び第2カーカスプライ6Bで構成されている。
【0031】
第1カーカスプライ6Aは、例えば、本体部6aと折返し部6bとを有する。本体部6aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る。折返し部6bは、例えば、本体部6aに連なりビードコア5の回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返される。
【0032】
加硫前の状態において、本体部6aのカーカスコードは、例えば、タイヤ周方向に対して30〜35°の角度θ3で配されているのが望ましい。なお、角度θ3は、例えば、タイヤ赤道上で測定されるのが望ましい。折返し部6bのカーカスコードは、例えば、タイヤ周方向に対して42〜47°の角度θ4で配されているのが望ましい。なお、角度θ4は、例えば、ビード下部、例えば、ビードコアとタイヤ軸方向で隣り合う部分で測定されるのが望ましい。また、折返し部6bの上記角度θ4は、本体部6aの上記角度θ3よりも大きいのが望ましい。折返し部6bの上記角度θ4と本体部6aの上記角度θ3との差は、例えば、12〜15°であるのが望ましい。このようなカーカスコードの配置により、上述した金型のプロファイルとタイヤのプロファイルとの関係が得られる。
【0033】
第2カーカスプライ6Bは、例えば、トレッド部2において、第1カーカスプライ6Aの本体部6aのタイヤ半径方向外側に配されている。第2カーカスプライ6Bは、例えば、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4に至る。第2カーカスプライ6Bは、例えば、各ビード部4において、第1カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ軸方向外側に配され、折り返されることなく終端している。第2カーカスプライ6Bは、内圧充填時にトレッド部2のみが膨張するのを抑制し、ひいてはカーカス6全体に張力を作用させるのに役立つ。
【0034】
第2カーカスプライ6Bは、例えば、タイヤ周方向に対して第1カーカスプライ6Aの本体部6aのカーカスコードとは逆向きに傾斜するカーカスコードを有している。これにより、トレッド部2が効果的に補強される。従って、従来の製造方法の様にトレッド部2のみが過度に膨張せず、カーカス6全体に張力が作用する。第2カーカスプライ6Bのカーカスコードは、例えば、加硫前の状態において、タイヤ周方向に対して32〜40°の角度θ5で配されているのが望ましい。
【0035】
ベルト層7は、例えば、トレッド部2の内部かつカーカス6のタイヤ半径方向外側に配されている。ベルト層7は、例えば、1枚のベルトプライ7Aで構成されている。ベルトプライ7Aは、例えば、タイヤ周方向に対して傾斜して配されたベルトコードの配列体で構成されている。ベルトコードは、例えば、タイヤ周方向に対して15〜40°の角度で配されているのが望ましい。
【0036】
加硫工程は、折返し部6bのカーカスコードを、タイヤ周方向に対して本体部6aのカーカスコードよりも大きい角度に傾斜させるのが望ましい。これにより、内圧充填時、本体部6aに適度に張力が作用するため、優れた駆動時の剛性感が得られる。
【0037】
駆動時の剛性感とショック吸収性とをバランス良く高めるために、加硫工程は、例えば、本体部6aのカーカスコードを、タイヤ周方向に対して27〜45°の角度θ1に傾斜させるのが望ましい。上記角度θ1は、より望ましくは28〜33°である。また、加硫工程は、例えば、折返し部6bのカーカスコードを、タイヤ周方向に対して41〜50°の角度θ6に傾斜させるのが望ましい。上記角度θ6は、より望ましくは42〜47°である。
【0038】
加硫工程は、本体部6aのカーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θ1と、第2カーカスプライ6Bのカーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θ2との比θ1/θ2を、1.05〜1.15にするのが望ましい。これにより、トレッド部2がバランス良く補強され、優れた駆動時の剛性感及びショック吸収性を発揮することができる。
【0039】
なお、加硫工程における上記各カーカスコードの態様は、例えば、加硫前の生タイヤ時の各部のカーカスコードの角度を上述の様に配することで得られる。
【0040】
図4には、加硫工程後のトレッド部2の展開図が示されている。なお、図1は、図4のA−A線断面図に相当する。図4に示されるように、トレッド部2は、例えば、クラウン領域20と、一対のミドル・ショルダー領域21とを含んでいる。クラウン領域20は、タイヤ赤道Cを中心とするトレッド展開幅の1/3の領域である。ミドル・ショルダー領域21は、クラウン領域20のタイヤ軸方向の一方側及び他方側にそれぞれ設けられている。
【0041】
クラウン領域20には、例えば、クラウンブロック22がタイヤ周方向に複数設けられている。クラウンブロック22は、例えば、タイヤ軸方向に横長状であるのが望ましい。本実施形態のクラウンブロック22は、例えば、タイヤ軸方向の中央部にブロックをタイヤ周方向に横切るスロット23が設けられている。これにより、クラウンブロック22は、矩形状の2つの踏面を有している。
【0042】
クラウンブロック22のタイヤ周方向の長さL3は、クラウンブロック22のタイヤ軸方向の長さL4の好ましくは0.40倍以上、より好ましくは0.45倍以上であり、好ましくは0.60倍以下、より好ましくは0.55倍以下である。
【0043】
さらに望ましい態様では、本実施形態の加硫工程は、各クラウンブロック22のタイヤ周方向の長さL3の総和Lbを、タイヤ赤道Cにおけるタイヤ外周長さLtの0.20〜0.30倍にするのが望ましい。これにより、トレッド部2が適度に補強され、ショック吸収性を維持しつつ、駆動時の剛性感が効果的に高められる。
【0044】
ミドル・ショルダー領域21には、例えば、複数のミドルブロック24及び複数のショルダーブロック25が設けられている。ショルダーブロック25は、例えば、ミドルブロック24よりもタイヤ軸方向外側に設けられている。望ましい態様では、1つのミドル・ショルダー領域21において、ミドルブロック24とショルダーブロック25とがタイヤ周方向に交互に設けられている。
【0045】
以上、本発明の製造方法の一態様が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0046】
図1の基本構造を有するサイズ120/80−19のモトクロス用の後輪タイヤが、上述の製造方法で試作された。また、比較例1として、上記クリップ幅W2が、正規リムのリム幅の137%である製造方法でテストタイヤが試作された。各テストタイヤについて、駆動時の剛性感及びショック吸収性がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
使用車両:排気量450cc モトクロス競技車両
リムサイズ:2.15×19
内圧:80kPa
【0047】
<駆動時の剛性感及びショック吸収性>
上記テスト車両でモトクロスコーズを走行したときの駆動時の剛性感及びショック吸収性が、テストライダーの官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点であり、数値が大きい程、駆動時の剛性感又はショック吸収性が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0048】
【表1】
【0049】
テストの結果、実施例のタイヤは、優れた駆動時の剛性感及びショック吸収性を発揮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0050】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
10 金型
W1 リム幅
W2 クリップ幅
図1
図2
図3
図4