特許第6962061号(P6962061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962061燃料電池セパレータ用導電性シート及び燃料電池セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962061
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】燃料電池セパレータ用導電性シート及び燃料電池セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0221 20160101AFI20211025BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20211025BHJP
   H01M 8/0226 20160101ALI20211025BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   H01M8/0221
   H01M8/0213
   H01M8/0226
   B29C43/18
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-155564(P2017-155564)
(22)【出願日】2017年8月10日
(65)【公開番号】特開2019-36417(P2019-36417A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 光介
(72)【発明者】
【氏名】大慶 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】芦崎 翔也
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−188696(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/131566(WO,A1)
【文献】 特開2009−093937(JP,A)
【文献】 特開平05−307967(JP,A)
【文献】 特開2004−356091(JP,A)
【文献】 特開2005−100703(JP,A)
【文献】 特開2006−202730(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0229993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0202
B29C 43/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性フィラー(ただし、膨張黒鉛を除く。)、第1の有機繊維及び第2の有機繊維を含む燃料電池セパレータ用導電性シートであって、
前記第1の有機繊維の融点が、該導電性シートを成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも高く、第2の有機繊維の融点が前記加熱温度よりも低いものである、燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項2】
前記第1の有機繊維が、アラミド、セルロース、アセテート及びナイロンポリエステルから選ばれる少なくとも1種であり、前記第2の有機繊維が、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項3】
前記導電性フィラーが、人造黒鉛である請求項1又は2記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項4】
前記導電性フィラーの平均粒径が、5〜200μmである請求項1〜3のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項5】
前記第1の有機繊維及び第2の有機繊維の平均繊維長が0.1〜10mmであり、平均繊維径が0.1〜100μmである請求項1〜4のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項6】
更に、導電助剤を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項7】
前記導電助剤が、繊維状である請求項6記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項8】
前記導電助剤の平均繊維長が0.1〜10mmであり、平均繊維径が3〜50μmである請求項7記載の燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シートから得られる燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シートに樹脂を含浸してなる燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項11】
請求項9又は10記載の燃料電池用セパレータ前駆体から得られる燃料電池セパレータ。
【請求項12】
導電性フィラー(ただし、膨張黒鉛を除く。)、第2の有機繊維よりも融点が高い第1の有機繊維、及び第2の有機繊維を含む組成物を抄造する工程を含む、燃料電池セパレータ用導電性シートの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シートを圧縮する工程を含む、燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ用導電性シートに樹脂を含浸させ、圧縮する工程を含む、燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
【請求項15】
導電性フィラー、第1の有機繊維及び第2の有機繊維を含む燃料電池セパレータ用導電性シートであって、前記第1の有機繊維の融点が、該導電性シートを成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも高く、第2の有機繊維の融点が前記加熱温度よりも低いものである、燃料電池セパレータ用導電性シートから得られる燃料電池セパレータ前駆体を、前記第1の有機繊維の融点よりも低く、前記第2の有機繊維の融点よりも高い温度に加熱し、成形する工程を含む、燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項16】
導電性フィラー、第1の有機繊維及び第2の有機繊維を含む燃料電池セパレータ用導電性シートであって、前記第1の有機繊維の融点が、該導電性シートを成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも高く、第2の有機繊維の融点が前記加熱温度よりも低いものである、燃料電池セパレータ用導電性シートに樹脂を含浸してなる燃料電池セパレータ前駆体を、前記第1の有機繊維の融点よりも低く、前記第2の有機繊維の融点よりも高い温度に加熱し、成形する工程を含む、燃料電池セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータ用導電性シート及び燃料電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料及び空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。このため、セパレータには高導電性、高ガス不浸透性、化学的安定性、耐熱性、親水性等の諸特性が要求される。
【0003】
燃料電池セパレータの製造方法として、導電性フィラー及びバインダー樹脂を造粒し作製したコンパウンドを金型内に充填後、圧縮成型する方法が挙げられる。しかし、当該方法は、成形前の造粒工程、搬送工程に時間がかかる、導電性を得るため導電性フィラーが高割合で含まれるため得られたセパレータの強度が小さく割れやすい(薄肉化できない)といった問題があった。
【0004】
前記問題を解決するため、造粒時にコンパウンド内に繊維質を含有させ補強する技術が提案されている(特許文献1)。しかし、このような方法も、繊維質を均一に分散できないためコンパウンド間の繊維同士がうまく絡まない、前駆体をシート状体で搬送できる強度になるまで繊維質を増やすと成形性が悪くなる、といった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−82476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、繊維質を含むにもかかわらず、燃料電池セパレータ製造の際の成形性に優れるとともに、シート状で搬送できる強度と成形後の薄肉化されたセパレータの強度にも優れる、燃料電池セパレータ用導電性シート、及びこれを用いて得られる燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、導電性フィラーと、融点が異なる2種の有機繊維を含む導電性シートによって、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記燃料電池セパレータ用導電性シート及び燃料電池セパレータを提供する。
1.導電性フィラー、第1の有機繊維及び第2の有機繊維を含む燃料電池セパレータ用導電性シートであって、
前記第1の有機繊維の融点が、該導電性シートを成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも高く、第2の有機繊維の融点が前記加熱温度よりも低いものである、燃料電池セパレータ用導電性シート。
2.前記第1の有機繊維が、アラミド、セルロース、アセテート及びナイロンポリエステルから選ばれる少なくとも1種であり、前記第2の有機繊維が、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも1種である1の燃料電池セパレータ用導電性シート。
3.前記導電性フィラーが、人造黒鉛である1又は2の燃料電池セパレータ用導電性シート。
4.前記導電性フィラーの平均粒径が、5〜200μmである1〜3のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シート。
5.前記第1の有機繊維及び第2の有機繊維の平均繊維長が0.1〜10mmであり、平均繊維径が0.1〜100μmである1〜4のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シート。
6.更に、導電助剤を含む1〜5のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シート。
7.前記導電助剤が、繊維状である6の燃料電池セパレータ用導電性シート。
8.前記導電助剤の平均繊維長が0.1〜10mmであり、平均繊維径が3〜50μmである7の燃料電池セパレータ用導電性シート。
9.1〜8のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シートから得られる燃料電池セパレータ前駆体。
10.1〜8のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シートに樹脂を含浸してなる燃料電池セパレータ前駆体。
11.9又は10の燃料電池用セパレータ前駆体から得られる燃料電池セパレータ。
12.導電性フィラー、第2の有機繊維よりも融点が高い第1の有機繊維、及び第2の有機繊維を含む組成物を抄造する工程を含む、燃料電池セパレータ用導電性シートの製造方法。
13.1〜8のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シートを圧縮する工程を含む、燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
14.1〜8のいずれかの燃料電池セパレータ用導電性シートに樹脂を含浸させ、圧縮する工程を含む、燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
15.9又は10の燃料電池セパレータ前駆体を、前記第1の有機繊維の融点よりも低く、前記第2の有機繊維の融点よりも高い温度に加熱し、成形する工程を含む、燃料電池セパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートは強度に優れるため、従来の製法では不可能だった低坪量材料のロール搬送が可能となり、サイクルタイムを短縮することができる。また、本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートには繊維質が含まれるため、これを用いて薄肉化された燃料電池セパレータを製造することが可能となり、曲げ弾性等の機械的物性向上に加え、耐脆性破壊性や損傷許容性を向上させることができる。更に、本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートは、融点が異なる2種の有機繊維を含み、その一方を成形時に溶融させることで、内側からマトリックス繊維の一部まで流動化させることができ、成形性を向上できるとともに、得られる燃料電池セパレータにおける多孔質構造の偏在や凝集等により生じる導通性のバラつきを解消できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[導電性シート]
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シート(以下、単に導電性シートともいう。)は、導電性フィラー、第1の有機繊維及び第2の有機繊維を含むものである。
【0011】
[導電性フィラー]
前記導電性フィラーは、特に限定されず、燃料電池セパレータ用として従来公知のものを使用することができる。前記導電性フィラーとしては、例えば、炭素材料、金属粉末、無機粉末や有機粉末に金属を蒸着あるいはメッキした粉末等が挙げられるが、炭素材料が好ましい。前記炭素材料としては、天然黒鉛、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、天然黒鉛を化学処理して得られる膨張黒鉛等の黒鉛、炭素電極を粉砕したもの、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、活性炭、ガラス状カーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらのうち、導電性フィラーとしては、導電性の観点から、黒鉛が好ましく、人造黒鉛がより好ましい。前記導電性フィラーは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
前記導電性フィラーの形状は、特に限定されず、球状、鱗片状、塊状、箔状、板状、針状、無定形のいずれでもよいが、セパレータのガスバリア性の観点から、鱗片状が好ましい。特に、本発明においては、導電性フィラーとして鱗片状黒鉛を使用することが好ましい。
【0013】
前記導電性フィラーの平均粒径は、5〜200μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。導電性フィラーの平均粒径が前記範囲であれば、ガスバリア性を確保しながら必要な導電性を得ることができる。なお、本発明において平均粒径とは、レーザー回折法による粒度分布測定におけるメジアン径(d50)である。
【0014】
前記導電性フィラーの含有量は、本発明の導電性シート中、50〜96質量%が好ましく、50〜85質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわない範囲で、必要な導電性を得ることができる。
【0015】
[第1の有機繊維及び第2の有機繊維]
前記第1の有機繊維は、その融点が本発明の導電性シートを成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも高いものであり、前記第2の有機繊維は、その融点が前記加熱温度よりも低いものである。このとき、第1の有機繊維の融点は、耐衝撃性付与のため、繊維形態で確実に保持させる観点から、前記加熱温度よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことが更に好ましい。第2の有機繊維の融点は成形性の観点から、前記加熱温度よりも10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましく、30℃以上低いことが更に好ましい。また、前記第1の有機繊維と第2の有機繊維の融点の温度差は、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
【0016】
第1の有機繊維及び第2の有機繊維の平均繊維長は、導電性シートの強度確保の観点から、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜6mmがより好ましく、0.5〜6mmが更に好ましい。また、第1の有機繊維及び第2の有機繊維の平均繊維径は、成形性の観点から、0.1〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、1〜50μmが更に好ましい。なお、本発明において平均繊維長及び平均繊維径は、光学顕微鏡ないし電子顕微鏡を用いて、任意の100本の繊維について測定した繊維長及び繊維径の算術平均値である。
【0017】
前記有機繊維の材質としては、ポリp−フェニレンテレフタルアミド(分解温度500℃)、ポリm−フェニレンイソフタルアミド(分解温度500℃)等のアラミド、セルロース(融点260℃)、アセテート(融点260℃)、ナイロンポリエステル(融点260℃)、ポリエチレン(PE)(融点120〜140℃(HDPE)、95〜130℃(LDPE))、ポリプロピレン(PP)(融点160℃)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)(融点280℃)等が挙げられる。
【0018】
これらのうち、第1の有機繊維としては、アラミド、セルロース、アセテート又はナイロンポリエステルが好ましく、このとき第2の有機繊維としては、PE、PP又はPPSが好ましい。ただし、第2の有機繊維としてPE又はPPを用いる場合は、アラミド、セルロース、アセテート、ナイロンポリエステルのほか、PPSを第1の有機繊維として用いることも可能である。
【0019】
前記第1の有機繊維の含有量は、本発明の導電性シート中、1〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。第1の有機繊維の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに、成形後の損害許容性を付与できる。前記第1の有機繊維は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
前記第2の有機繊維の含有量は、本発明の導電性シート中、0.1〜25質量%が好ましく、0.1〜20質量%がより好ましい。第2の有機繊維の含有量が前記範囲であれば、成形体の導電性を低下させることなく、成形性を付与できる。前記第2の有機繊維は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
また、前記第1の有機繊維に対する第2の有機繊維の含有比率は、質量比で、0.1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。含有比率が前記範囲であれば、導電性シートの強度と成形性を両立できる。ただし、後述するように、第2の有機繊維と相溶性又は親和性を有する樹脂を前記導電性シートに含浸させ燃料電池セパレータ前駆体とする場合は、前記導電性シートにおける第2の有機繊維の含有量は、0.1〜25質量%が好ましく、0.1〜20質量%がより好ましい。
【0022】
[導電助剤]
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートは、これから得られる燃料電池セパレータの抵抗を小さくするために、更に導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、各種金属繊維、無機繊維や有機繊維に金属を蒸着あるいはメッキさせた繊維等が挙げられる。これらのうち、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料の繊維状のものが耐食性の観点から好ましい。
【0023】
前記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油ピッチ等のピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂を原料とするフェノール系炭素繊維等が挙げられるが、PAN系炭素繊維がコストの観点から好ましい。
【0024】
前記繊維状の導電助剤の平均繊維長は、成形性と導電性を両立する観点から、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜7mmがより好ましく、0.1〜5mmが更に好ましい。また、その平均繊維径は、成形性の観点から、3〜50μmが好ましく、3〜30μmが好ましく、3〜15μmが好ましい。
【0025】
前記導電助剤の含有量は、本発明の導電性シート中、1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。導電助剤の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに必要な導電性を確保できる。前記導電助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
[その他の成分]
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートは、前述した成分以外に、燃料電池セパレータに通常使用されるその他の成分を含んでもよい。前記その他の成分としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等の内部離型剤、アニオン系、カチオン系又はノニオン系の界面活性剤、強酸、強電解質、塩基、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリメタクリル酸エステル系等の界面活性剤に合わせた公知の凝集剤、カルボキシメチルセルロース、デンプン、酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンオキシド等の増粘剤等が挙げられる。これらの成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、任意とすることができる。
【0027】
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートは、その厚さが、0.2〜1.0mm程度であることが好ましい。
【0028】
[燃料電池セパレータ用導電性シートの製造方法]
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートの製造方法は、特に限定されないが、抄造法が好ましい。抄造方法は、特に限定されず、従来公知の方法でよい。例えば、前述した各成分を含む組成物をこれらの成分を溶解しない溶媒中に分散させ、得られた分散液中の各成分を基材上に堆積させ、得られた堆積物を乾燥させることで、本発明の導電性シートを製造することができる。抄造法によってシートを作製することで、シート中に繊維を均一に分散させることができ、十分な強度を有する抄造シートとなるまで繊維を含有させることができる。
【0029】
また、前記抄造シートは、低坪量であるにもかかわらず、搬送可能な程度の強度を有し、これを用いて燃料電池セパレータを製造する際の成形性を向上させることができるものである。具体的には、抄造法によって得られた本発明の導電性シートは、その坪量が150〜300g/m2程度の低坪量であっても、十分な強度を有する。
【0030】
[燃料電池セパレータ前駆体]
本発明の燃料電池セパレータ用導電性シートを圧縮することで、燃料電池セパレータ前駆体を製造することができる。このとき、圧縮方法としては、特に限定されないが、ロールプレス、平板プレス、ベルトプレス等が挙げられる。
【0031】
また、このとき、第2の有機繊維と相溶性又は親和性を有する樹脂を前記導電性シートに含浸させ、燃料電池セパレータ前駆体としてもよい。第2の有機繊維と相溶性又は親和性を有する樹脂としては、相溶性又は親和性を有する限り特に限定されないが、同じ成分のものが導電性シート中の該繊維分散不均一の抑制の点から好ましい。例えば、第2の有機繊維として、PEやPPを用いた場合は、第2の有機繊維と相溶性又は親和性を有する樹脂としては、PE、PP、酸変性PP、酸変性PE等が挙げられる。
【0032】
第2の有機繊維と相溶性又は親和性を有する樹脂を含浸させる場合、その含浸させる量は、第2の有機繊維及びこれと相溶性又は親和性を有する樹脂が合計で、前駆体中0.1〜50質量%になるような量が好ましく、0.1〜30質量%になるような量がより好ましい。また、第2の有機繊維及びこれと相溶性又は親和性を有する樹脂の合計が、第1の有機繊維に対し質量比で、1〜10となるように含浸させることが好ましく、3〜8となるように含浸させることがより好ましい。
【0033】
前記第2の有機繊維と相溶性又は親和性を有する樹脂を含浸させる方法としては、含浸させる樹脂を加熱し溶融させて含浸させる方法や、含浸させる樹脂の溶液を含浸させる方法が挙げられるが、含浸させる樹脂をシート状に成形したものを加熱し溶融させて含浸させる方法が、含浸させる樹脂量の均一化、生産性の点から好ましい。含浸後、前述した方法で圧縮することで、燃料電池セパレータ前駆体を製造することができる。
【0034】
[燃料電池セパレータ]
前記燃料電池セパレータ前駆体を、第1の有機繊維の融点より低く、第2の有機繊維の融点より高い温度に加熱し、成形することで、本発明の燃料電池セパレータを製造することができる。前記成型方法としては、特に限定されないが、圧縮成形が好ましい。圧縮成形を行う際の温度(金型温度)は、第1の有機繊維の融点より10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましく、第2の有機繊維の融点より10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。また、成形圧力は、1〜100MPaが好ましく、1〜60MPaがより好ましい。
【0035】
前記方法によって燃料電池セパレータを製造することで、成型時に第2の有機繊維が溶融するため、成形性が向上し、他の成分が均一に分散された燃料電池セパレータを製造することができる。また、第1の有機繊維が繊維のまま残るため、本発明の燃料電池セパレータは、その厚さが0.1〜0.6mm程度と薄肉化されているにもかかわらず、強度が向上したものとなる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、下記実施例で使用した材料は、以下のとおりである。
・人造黒鉛:平均粒径50μm
・PAN系炭素繊維:平均繊維長3.0mm、平均繊維径7μm
・セルロース繊維:平均繊維長1.2mm、平均繊維径25μm
・ポリプロピレン(PP)繊維:平均繊維長0.9mm、平均繊維径30μm
【0037】
[1]燃料電池セパレータ用導電性シートの作製
[実施例1−1]
人造黒鉛73質量部、PAN系炭素繊維6質量部、セルロース繊維4質量部及びPP繊維17質量部を水中に入れ、攪拌し、繊維質スラリーを得た。このスラリーを抄造し、導電性シートAを作製した。導電性シートAの坪量は、264g/m2であった。
【0038】
[実施例1−2]
人造黒鉛84質量部、PAN系炭素繊維6質量部、セルロース繊維5質量部及びPP繊維5質量部を水中に入れ、攪拌し、繊維質スラリーを得た。このスラリーを抄造し、導電性シートBを作製した。導電性シートBの坪量は、229g/m2であった。
【0039】
[比較例1−1]
人造黒鉛84質量部、PAN系炭素繊維6質量部及びセルロース繊維10質量部を水中に入れ、攪拌し、繊維質スラリーを得た。このスラリーを抄造し、導電性シートCを作製した。導電性シートCの坪量は、229g/m2であった。
【0040】
[2]燃料電池セパレータの作製
[実施例2−1]
導電性シートAを185℃で5分間置き、樹脂含浸前駆体を得た。該前駆体を金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータA(厚さ0.15mm)を得た。
【0041】
[実施例2−2]
導電性シートBの上下面にPPフィルム(オカモト(株)製XF、厚さ25μm)を重ね、185℃で5分間置き、樹脂含浸前駆体を得た。該前駆体を金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータB(厚さ0.15mm)を得た。
【0042】
[比較例2−1]
導電性シートCの上下面にPPフィルム(オカモト(株)製XF、厚さ25μm)を重ね、185℃で5分間置き、樹脂含浸前駆体を得た。該前駆体を金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータC(厚さ0.16mm)を得た。なお、圧力47MPaでは、狙い密度に到達しなかった。
【0043】
[比較例2−2]
PPと黒鉛とからなるコンパウンドを金型に敷き詰め、金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータD(厚さ0.20mm)を得た。
【0044】
[3]燃料電池セパレータ用導電性シートの評価
(1)ハンドリング性にかかる強度の評価
JIS K 7127(プラスチック−引張特性の試験方法−)に基づき、導電性シートA〜Cの引張強度を求めた。製造工程のハンドリング性を考慮すると8N/40mm以上の引張強度があればよい。結果を表1に示す。
【0045】
(2)成形性の評価
成形圧力47MPaの圧縮成形によって、成形物組成から計算される理論密度×0.9以上の密度になるものを「〇」、ならないものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0046】
[4]燃料電池セパレータの評価
(1)導電性の評価
JIS H 0602(シリコン単結晶及びシリコンウェーハの4探針法による抵抗率測定方法)に基づいて、燃料電池セパレータA〜Dの固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(2)セパレータ強度の評価
JIS K 7127(プラスチック−引張特性の試験方法−)に基づき、燃料電池セパレータA〜Dの引張強度を求めた。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示した結果より、本発明の導電性シートは、成形性に優れ、シート状で搬送できる強度を有し、成形後の薄肉化されたセパレータの強度にも優れ、燃料電池セパレータとして必要な物性を有していた。