(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の構造の場合、比較的高いスピン注入効率を有するが、さらにスピン注入効率を高めることが可能な構造が期待されている。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、磁気抵抗効果素子に適用した場合には、スピン注入効率を高めることが可能な積層体、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、センサ、高周波フィルタ及び発振素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者が鋭意検討を行ったところ、非磁性金属層と強磁性層とを直接接合した場合には、磁気的に作用しないデッドレイヤー(Dead Layer)が大きくなり、スピン注入効率が向上しない旨を発見した。更に、非磁性金属層と強磁性層との間に、NiAlX合金層(Xは所定の金属又は半導体)を用いることで、スピン注入効率を高めることができる旨を発見した。非磁性金属層及び強磁性層間の格子不整合が緩和可能なNiAlX合金層を用いることで、これらの結晶品質を向上させ、磁気的に作用しないデッドレイヤーの領域を小さくし、磁気抵抗効果素子に適用した場合には、スピン注入効率を高めることが可能となる。
【0007】
上述の課題を解決するため、第1の積層体は、非磁性金属層上に位置する積層体であって、強磁性層と、前記非磁性金属層と前記強磁性層との間に介在する中間層と、を備え、前記中間層は、下記一般式(1):Ni
γ1Al
γ2X
γ3 …(1)、[Xは、Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaからなる群より選択される1以上の元素を表し、γ=γ3/(γ1+γ2+γ3)とした場合に、0<γ<0.5を満たす]で表されるNiAlX合金層を含
み、γ3の値は、面内方向又は厚み方向に沿って変化する。
【0008】
この積層体では、強磁性層のみで非磁性金属層と積層される場合に比べて、強磁性層と非磁性金属層との間の格子不整合が小さくなるように、当該一般式(1)で表されるNiAlX合金を有する積層体とする。そのため、この積層体によれば、強磁性層と非磁性金属層におけるデッドレイヤーが小さくなる。
【0009】
この場合、中間層の存在により、非磁性金属層と強磁性層との間の格子不整合が緩和され、これらの結晶性が改善することにより、デッドレイヤーの領域が小さくなる。したがって、磁気的に作用する領域が大きくなるため、スピン注入効率を高めることができる。特に、γが上記範囲内にある場合には、デッドレイヤーの領域が特に小さくなる。
【0010】
上記のように、γ3の値は、面内方向又は厚み方向に沿って変化する。すなわち、局所的な格子不整合の度合に応じて、上記格子不整合が緩和するように、γ3の値を設定し、X元素濃度を変化させることで、結果的に強磁性層及び非磁性金属層の品質の改善効果が期待される。
【0011】
また、
第2の積層体
は、非磁性金属層上に位置する積層体であって、強磁性層と、前記非磁性金属層と前記強磁性層との間に介在する中間層と、を備え、前記中間層は、下記一般式(1):Niγ1Alγ2Xγ3 …(1)、[Xは、Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaからなる群より選択される1以上の元素を表し、γ=γ3/(γ1+γ2+γ3)とした場合に、0<γ<0.5を満たす]で表されるNiAlX合金層を含み、前記強磁性層は、Lを、Mn及びFeからなる群から選択される1以上の元素とし、Mを、Si、Al、Ga及びGeからなる群より選択される1以上の元素とし、α及びβを正の値とした場合に、下記一般式(2):Co
2L
αM
β…(2)、で表されるホイスラー合金を含む。強磁性層がホイスラー合金である場合には、スピン分極率が高くなり、スピン注入効率が高くなる。
【0012】
なお、L、Mが上記の元素の場合、強磁性層であるホイスラー合金は、一般式(1)で表されるNiAlX合金層と近い格子定数対応基準値を有する。なお、上記元素の数は1つでなく、1以上であってもNiAlX合金層と近い格子定数を有することが容易に推測されるため、強磁性層の結晶性と磁性の品質を良好に保持することができる。その結果、強磁性層と非磁性金属層におけるデッドレイヤーをさらに小さくできる。なお、ここでの格子定数対応基準値とは、それぞれ結晶面が0度傾いて整合するときは、格子定数a、又はaを2倍した値のどちらか一方の値であり、45度傾いて整合するときは、aに2の平方根を掛けた値を意味する。
【0013】
第3の積層体
は、非磁性金属層上に位置する積層体であって、強磁性層と、前記非磁性金属層と前記強磁性層との間に介在する中間層と、を備え、前記中間層は、下記一般式(1):Niγ1Alγ2Xγ3 …(1)、[Xは、Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaからなる群より選択される1以上の元素を表し、γ=γ3/(γ1+γ2+γ3)とした場合に、0<γ<0.5を満たす]で表されるNiAlX合金層を含み、γ3の値は、前記強磁性層から、その厚み方向に沿って離れるに従って減少する。この積層体では、強磁性層のみで積層される場合に比べて、一般式(1)で表されるNiAlX合金層において、強磁性層側でX元素濃度が高いため、強磁性層と非磁性金属層との間の格子不整合がより小さくなる。また、非磁性金属層側でX元素濃度が低いため、強磁性層と非磁性金属層との間の格子不整合がより小さくなる。そのため、この積層体によれば、強磁性層及び非磁性金属層におけるデッドレイヤーの領域がさらに小さくなる。
【0014】
第4の積層体においては、前記非磁性金属層は、Ag、Cr、Al、Au及びNiAlからなる群から選択される1以上の元素を含む。この非磁性金属層によれば、X元素が非磁性金属層に拡散するのを容易に抑えることができる。X元素に対する拡散定数が小さい元素は、1つである必要はなく、1以上であれば拡散抑制効果が得られると考えられる。
【0015】
第5の積層体においては、前記NiAlX合金層におけるXは、Si、Cr、Fe、Co、及びZrからなる群より選択される1以上の元素である。この積層体では、強磁性層の格子定数対応基準値≦NiAlX合金層の格子定数対応基準値≦非磁性金属層の格子定数対応基準値、又は、強磁性層の格子定数対応基準値≧NiAlX合金層の格子定数対応基準値≧非磁性金属層の格子定数対応基準値の関係を成立させることが可能なので、強磁性層と非磁性金属層との間の格子不整合が緩和される。なお、ここでの格子定数対応基準値とは、それぞれ結晶面が0度傾いて整合するときは、格子定数a、又はaを2倍した値のどちらか一方の値であり、45度傾いて整合するときは、aに2の平方根を掛けた値を意味する。そのため、この積層体によれば、強磁性層及び非磁性金属層におけるデッドレイヤーが小さくなる。上記の格子定数対応基準値間の関係は、元素数が1以上であっても成立することが可能である。
【0016】
第6の積層体においては、一般式(1)において、0<γ<0.3を満たす。γが上記範囲内にある場合には、デッドレイヤーの領域が更に小さくなる。なお、この積層体では、NiAlX合金層の結晶構造が安定して面心立方格子構造を取ることができる。その結果、強磁性層と非磁性金属層の間の格子不整合を緩和し、デッドレイヤーの領域を小さくすることができる。
【0017】
第7の積層体においては、前記NiAlX合金層の厚さをt1としたとき、0.2nm≦t1≦10nmを満たす。この積層体によれば、t1≦10nmのときには、強磁性層から移動する/または強磁性層へ移動する電子において、スピン散乱がより減少する。また、0.2nm≦t1のときには、強磁性層と非磁性金属層との間において格子不整合がより減少する。その結果、強磁性層及び非磁性金属層におけるデッドレイヤーが小さくなる。
【0018】
第8の積層体においては、前記一般式(2)で表されるホイスラー合金において、α及びβは、以下の関係式(2−1)、(2−2)、(2−3):0.7<α<1.6 …(2−1)、0.65<β<1.35 …(2−2)、2<α+β<2.6 …(2−3)を満たす。この積層体によれば、0.7<α<1.6かつ0.65<β<1.35であるので、強磁性層であるホイスラー合金は、化学量論的組成を有する場合に近い格子定数を有し、格子整合性が良好となる。また、2<α+β<2.6であるので、強磁性層であるホイスラー合金がハーフメタル特性を維持しやすくなり、大きな磁気抵抗効果(MR比)を得ることができる。
【0019】
本発明に係る磁気抵抗効果素子は、上述のいずれかの積層体を備え、本発明に係る磁気ヘッドは、センサ、高周波フィルタ及び発振素子は、それぞれ上述の磁気抵抗効果素子を備える。
【0020】
なお、電子スピンを利用できるものであれば、デッドレイヤーの領域が小さくなるため、積層体は、磁気抵抗効果素子以外の用途(スピンホール効果/逆スピンホール効果、スピン移行トルクといった技術)にも適用可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スピン注入効率を高めることが可能な積層体、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、センサ、高周波フィルタ及び発振素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は、省略する。三次元直交座標系を用いる場合には、各層の厚み方向をZ軸方向とし、Z軸に垂直な2つの直交軸をX軸及びY軸とする。
【0024】
図1は、実施例に係る磁気抵抗効果素子MRの正面図である。
【0025】
磁気抵抗効果素子MRは、第1基材層1上に、第1非磁性金属層2、第2非磁性金属層3を順次備えており、この上に、磁化固定層としての第1の強磁性層4と、非磁性スペーサ層5と、磁化自由層としての第2の強磁性層6とが、順次積層されている。第2の強磁性層6上には、キャップ用非磁性金属層7と、コンタクト用金属層8とが、順次形成されているが、キャップ用非磁性金属層7は省略することもできる。下部に位置する第1非磁性金属層2、または第2非磁性金属層3と、上部に位置するコンタクト用金属層8との間にバイアスを印加して、特定の向きのスピンを有する電子を膜面に垂直な方向に流すことができる。
【0026】
磁化固定層と磁化自由層の磁化の向きが同一の方向(例:+X方向,+X方向)の場合(平行)、スピンの向きがこれに等しい電子が、膜面を垂直方向に通過する。磁化固定層と磁化自由層の磁化の向きが互いに逆方向(例:+X方向,−X軸方向)の場合(反平行)、磁化の向きと反対の向きのスピンを有する電子は反射され、膜面を通過しない。
【0027】
第1の強磁性層4(磁化固定層)の磁化の向きは固定されており、第2の強磁性層6(磁化自由層)の磁化の向きは、外部磁界によって変更することができるので、外部磁界の大きさに応じて通過電子量が変化する。通過電子量が多ければ抵抗は低く、通過電子量が少なければ抵抗は高い。磁化固定層としての第1の強磁性層4は、第2の強磁性層6の厚みよりも大きく、第1の強磁性層4よりも外部磁界によって磁化の向きが変更されにくいため、実質的に磁化の向きが固定された磁化固定層として機能する。なお、磁気抵抗効果素子の性能を評価する指標としてMR比がある。MR比は、[(磁化の向きが反平行の場合の素子の抵抗値−磁化の向きが平行な場合の素子の抵抗値)/磁化の向きが平行な場合の素子の抵抗値]で与えられる。
【0028】
なお、
図1では、理解を容易とするため、使用される代表的な材料名を、各層内に表記しているが、各層には、この他の材料も適用可能である。
【0029】
第1の強磁性層4と第2の強磁性層6との間には、非磁性スペーサ層5が設けられている。非磁性スペーサ層5は、Agからなる非磁性金属層5Bと、非磁性金属層5Bの下面に設けられる第1の中間層5A及び当該非磁性金属層5Bの上面に設けられる第2の中間層5Cの少なくとも一つとを有している。すなわち、第1の中間層5A及び第2の中間層5Cの一方を省略し、中央の非磁性金属層5Bが、上下いずれかの強磁性層と接触する構造とすることもできる。
【0030】
第1の中間層5A及び第2の中間層5Cは、下記一般式(1)で表わされるNiAlX合金層を含んでいる。
【0031】
一般式(1):Ni
γ1Al
γ2X
γ3 …(1)。
【0032】
ここで、Xは、Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaからなる群より選択される1以上の元素を表し、γ=γ3/(γ1+γ2+γ3)とした場合に、0<γ<0.5を満たす。
【0033】
すなわち、Ni−Al−Si、Ni−Al−Sc、Ni−Al−Ti、Ni−Al−Cr、Ni−Al−Mn、Ni−Al−Fe、Ni−Al−Co、Ni−Al−Cu、Ni−Al−Zr、Ni−Al−Nb、Ni−Al−Taなどの組み合わせからなるNiAlX合金の他、これらと電気的な性質及び結晶構造上の格子定数が近いV−Ni−Al、Ni−Al−Ge、Ni−Al−Sn、Ni−Al−Sb、Hf−Ni−AlなどのNiAlX合金も、用いることが可能である。
【0034】
この場合、NiAlX合金層を含むいずれかの中間層(第1の中間層5A,第2の中間層5C)と、Cu又はAg等を含む非磁性金属層5Bとの間の格子整合性が高くなり、また、中間層(第1の中間層5A,第2の中間層5C)とこの外側に位置する強磁性層(第1の強磁性層4,第2の強磁性層6)との格子整合性も高めることが可能なので、上述のデッドレイヤーの領域を小さくし、スピン注入効率を改善することができる。
【0035】
なお、好適例としての各層の材料及び厚み(好適範囲)は、以下の通りである。
・コンタクト用金属層8:Ru、5nm、(3nm以上8nm以下)
・キャップ用非磁性金属層7:Ag、5nm、(3nm以上8nm以下)
・第2の強磁性層6:CMS(コバルトマンガンシリコン合金)、5nm、(3nm以上20nm以下)
・第2の中間層5C:NiAlX合金(上記のNi
γ1Al
γ2X
γ3)1nm、(0.1nm以上15nm以下)
・非磁性金属層5B: Ag、5nm、(3nm以上10nm以下)
・第1の中間層5A:NiAlX合金(上記のNi
γ1Al
γ2X
γ3)、1nm、(0.1nm以上15nm以下)
・第1の強磁性層4:CMS(コバルトマンガンシリコン合金)、10nm、(3nm以上20nm以下)
・第2非磁性金属層3:Ag、50nm、(20nm以上100nm以下)
・第1非磁性金属層2:Cr、20nm、(10nm以上30nm以下)
・第1基材層1:MgO、0.5mm(0.1mm以上2mm以下)
【0036】
なお、上述の各層の厚みは、磁気抵抗効果素子に用いる場合でなければ、上述の範囲に限定されなくてもよい。
【0037】
次に、磁気抵抗効果素子を構成する各層の材料例について、更に説明する。
【0038】
コンタクト用金属層8としては、好適にはRuを用いることができるが、その他、例えば、Ru、Ag、Al、Cu、Au、Cr、Mo、Pt、W、Ta、Pd、及びIrの一以上の金属元素、これら金属元素の合金、又は、これら金属元素の2種類以上からなる材料の積層体を含んでよい。
【0039】
キャップ用非磁性金属層7としては、好適にはAgを用いることができるが、その他、例えば、Ru、Ag、Al、Cu、Au、Cr、Mo、Pt、W、Ta、Pd、及びIrの一以上の金属元素、これら金属元素の合金、又は、これら金属元素の2種類以上からなる材料の積層体を含んでよい。
【0040】
第2の強磁性層6としては、好適にはホイスラー合金であるCMS(Co
2L
αM
β)を用いることができるが、その他、Co
2MnGe、Co
2MnGa、Co
2FeGa、Co
2FeSi、Co
2MnSn、Co
2MnAl、Co
2FeAl、Co
2CrAl、Co
2VAl、Co
2MnGaSn、Co
2FeGeGa、Co
2MnGeGa、Co
2FeGaSi、Co
2FeGeSi、Co
2CrIn、Co
2CrSn等のホイスラー合金又は、Fe
3O
4、CrO
2、CoFeB等の強磁性材料を含むことができ、又は実質的に当該強磁性材料から成ることができる。なお、Co
2L
αM
βは、Coの原子数を2とした場合において、この合金全体を構成するLの原子数の比率がα、Mの原子数の比率がβであることを示している。
【0041】
第1の強磁性層4としては、好適にはホイスラー合金であるCMS(Co
2L
αM
β)を用いることができるが、その他、Co
2MnGe、Co
2MnGa、Co
2FeGa、Co
2FeSi、Co
2MnSn、Co
2MnAl、Co
2FeAl、Co
2CrAl、Co
2VAl、Co
2MnGaSn、Co
2FeGeGa、Co
2MnGeGa、Co
2FeGaSi、Co
2FeGeSi、Co
2CrIn、Co
2CrSn等のホイスラー合金又は、Fe
3O
4、CrO
2、CoFeB等の強磁性材料を含むことができ、又は実質的に当該強磁性材料から成ることができる。
【0042】
第2非磁性金属層3としては、好適にはAgを用いることができるが、その他、例えば、Ag、Au、Cu、Cr、V、Al、W、及びPtの少なくとも一つの金属元素を含み、これらの金属元素の合金、又はこれら金属元素の2種類以上からなる材料の積層体を含んでもよい。金属元素の合金には、例えば、立方晶系のAgZn合金、AgMg合金及びNiAl合金なども含まれる。
【0043】
第1非磁性金属層2としては、好適にはCrを用いることができるが、その他、上部の層の結晶配向を制御するための例えば、Ag、Au、Cu、Cr、V、Al、W、及びPtの少なくとも一つの金属元素を含み、これらの金属元素の合金、又はこれら金属元素の2種類以上からなる材料の積層体を含んでもよい。金属元素の合金には、例えば、立方晶系のAgZn合金、AgMg合金及びNiAl合金なども含まれる。
【0044】
第1基材層1としては、好適にはMgOを用いることができるが、その他、例えば、金属酸化物単結晶、シリコン単結晶、熱酸化膜付シリコン単結晶、サファイア単結晶、セラミック、石英、及びガラスなど、適度な機械的強度を有し、且つ熱処理や微細加工に適した材料であれば、特に限定されない。MgO単結晶を含む基板によれば、容易にエピタキシャル成長膜が形成される。このエピタキシャル成長膜は、大きな磁気抵抗特性を示すことができる。
【0045】
次に、上記の構造の比較例に対する優位性について説明する。
【0046】
図2は、比較例に係る磁気抵抗効果素子MRの正面図である。
【0047】
比較例に係る磁気抵抗効果素子の基本構造は、
図1に示したものから、NiAlX合金からなる中間層(第1の中間層5A,第2の中間層5C)を取り除いたものであり、その他の構造は、
図1に示したものと同一である。
【0048】
図3は、上記実施例の構造(好適例の構造)において、一般式(1):Ni
γ1Al
γ2X
γ3からなる中間層において、γとデッドレイヤーの厚み(nm)との関係を示す図表である。
【0049】
図3は、
図1の構造において、非磁性金属層5B、中間層5C、第2の強磁性層6のみを第1基材層1に形成してなる積層体で、第2の強磁性層6としてCo
2Mn
1.0Si
1.0、を用いた場合(実施例Rとする)である。すなわち、第1基材層1上に、直接、非磁性金属層5B、中間層5C、第2の強磁性層6を順次形成したものである。各層の材料と厚みは、以下の通りである。
【0050】
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.0Si
1.0、10nm
・第2の中間層5C:Ni
γ1Al
γ2X
γ3、10nm
・非磁性金属層5B:Ag、100nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0051】
なお、比較例Aとして、実施例Rから中間層のみを除いたものを用意した。材料及び厚みは、以下の通りである。
【0052】
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.0Si
1.0、10nm
・第2の中間層5C:なし
・非磁性金属層5B:Ag、100nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0053】
以上のように、実施例Rにおいては、X=Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaのいずれを用いた場合も、比較例Aでは、デッドレイヤーが0.8nmであったが、デッドレイヤーの厚みが小さくなっている。実施例Rの積層体は、強磁性層と非磁性金属層が直接接触する場合(比較例A)に比べて、強磁性層6と非磁性金属層5Bとの間の格子不整合が小さくなるように、上記の一般式(1)で表されるNiAlX合金を有する。そのため、この積層体によれば、強磁性層と非磁性金属層におけるデッドレイヤーが小さくなる。この場合、中間層5Cの存在により、非磁性金属層5Bと強磁性層6との間の格子不整合が緩和され、これらの結晶性が改善することにより、デッドレイヤーの領域が小さくなる。したがって、磁気的に作用する領域が大きくなるため、MR比、スピン注入効率を高めることができる。特に、γが上記範囲(0<γ<0.5)内にある場合には、デッドレイヤーの領域が特に小さくなる。
【0054】
また、γが上記範囲(0<γ<0.3)内にある場合には、デッドレイヤーの領域がさらに小さくなり、MR比、スピン注入効率を高めることができる。なお、この積層体では、NiAlX合金層の結晶構造が安定して面心立方格子構造を取ることができる。その結果、強磁性層と非磁性金属層の間の格子不整合を緩和し、デッドレイヤーの領域を小さくすることができる。
【0055】
なお、中間層(NiAlX合金層)におけるXが、Si、Cr、Fe、Co、及びZrからなる群より選択される元素である場合、強磁性層の格子定数対応基準値≦NiAlX合金層の格子定数対応基準値≦非磁性金属層の格子定数対応基準値、又は、強磁性層の格子定数対応基準値≧NiAlX合金層の格子定数対応基準値≧非磁性金属層の格子定数対応基準値の関係を成立させることが可能なので、強磁性層と非磁性金属層との間の格子不整合が緩和される。なお、ここでの格子定数対応基準値とは、それぞれ結晶面が0度傾いて整合するときは、格子定数a、又はaを2倍した値のどちらか一方の値であり、45度傾いて整合するときは、aに2の平方根を掛けた値を意味する。そのため、この積層体によれば、強磁性層及び非磁性金属層におけるデッドレイヤーが小さくなる。また、上記の格子定数間の関係は、選択される元素数が1以上であっても成立することが可能である。
【0056】
その他、中間層と強磁性層を変更した場合のデッドレイヤーの厚みについて検討を行った。
【0057】
図4は、各種材料を用いた場合の磁気抵抗効果素子(比較例1、実施例1〜5)におけるデッドレイヤー厚み等を示す図表である。
【0058】
実施例1〜実施例5は、
図1の構造において、非磁性金属層5B、中間層5C、第2の強磁性層6のみを第1基材層1に形成してなる積層体である。すなわち、第1基材層1上に、直接、非磁性金属層5B、中間層5C、第2の強磁性層6を順次形成したものである。各層の材料と厚みは、以下の通りである。
【0059】
(実施例1)
・第2の強磁性層6:Co
2TiSn、5nm
・第2の中間層5C:NbNi
2Al、50nm
・非磁性金属層5B:Cu、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0060】
(実施例2)
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.3Si
0.95、5nm
・第2の中間層5C:NbNi
2Al、50nm
・非磁性金属層5B:Cu、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0061】
(実施例3)
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.3Si
0.95、5nm
・第2の中間層5C:NbNi
2Al、50nm
・非磁性金属層5B:Ag、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0062】
(実施例4)
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.3Si
0.95、5nm
・第2の中間層5C:Cr
0.66Ni
0.67Al
0.67、50nm
・非磁性金属層5B:Ag、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0063】
(実施例5)
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.3Si
0.95、5nm
・第2の中間層5C:CrNi
2Al、50nm
・非磁性金属層5B:Ag、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0064】
比較例1は、
図2の構造において、非磁性金属層5B、第2の強磁性層6のみを第1基材層1に形成してなる積層体である。すなわち、第1基材層1上に、直接、非磁性金属層5B、第2の強磁性層6を順次形成したものである。各層の材料と厚みは、以下の通りである。
【0065】
(比較例1)
・第2の強磁性層6:Co
2TiSn、5nm
・非磁性金属層5B:Cu、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0066】
図4の結果から、以下のことが分かる。
【0067】
実施例1のデッドレイヤーの厚みt2は、比較例1のデッドレイヤーの厚みt2よりも小さく、中間層を用いることで、結晶品質が向上している。
【0068】
実施例2のデッドレイヤーの厚みt2は、実施例1のデッドレイヤーの厚みt2と同じであり、比較例1よりも小さく、結晶品質が優れている。
【0069】
実施例3のデッドレイヤーの厚みt2は、非磁性金属層をNiAlX合金層の格子定数に近いAgとすることにより、デッドレイヤーの厚みt2が、実施例2よりも格段に小さくなることを示している。
【0070】
実施例4のデッドレイヤーの厚みt2は、実施例3のデッドレイヤーの厚みt2よりも小さく、中間層の材料を変更することで、結晶品質が向上している。
【0071】
実施例5のデッドレイヤーの厚みt2は、実施例4のデッドレイヤーの厚みt2よりも小さく、中間層の材料の組成を変更することで、さらに結晶品質が向上している。
【0072】
次に、中間層5Cの厚みt1について検討を行った。
【0073】
図5は、実施例A群において、中間層5Cの厚みt1(nm)とデッドレイヤーの厚みt2(nm)との関係を示す図表であり、
図6は、実施例A群において、中間層5Cの厚みt1(nm)とデッドレイヤーの厚みt2(nm)との関係を示すグラフである。
【0074】
実施例A群は、中間層5Cの厚みt1を変更した以外は、実施例5と同様の構造を有し、以下の材料と厚みを有している。
【0075】
(実施例A群)
・第2の強磁性層6:Co
2Mn
1.3Si
0.95、5nm
・第2の中間層5C:CrNi
2Al(0.1nm〜50nm)
・非磁性金属層5B:Ag、50nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0076】
この積層体においては、中間層5C(NiAlX合金層)の厚さをt1としたとき、t1は以下の関係式を満たすことが好ましい。
【0078】
すなわち、t1≦10nmのときには、強磁性層から移動する/または強磁性層へ移動する電子において、スピン散乱が、より減少する。また、0.2nm≦t1のときには、強磁性層と非磁性金属層との間において格子不整合がより減少し、その結果、強磁性層及び非磁性金属層におけるデッドレイヤーの厚みt2が小さくなる。
【0079】
次に、強磁性層(4,6)の組成(α、β)について検討を行った。
【0080】
図7は、実施例B群において、強磁性層(4,6)を構成するCo
2L
αM
β(L=Mn、M=Si)における各種パラメータ(α+β、α、β)と、MR比(%)との関係(β=0.95)を示す図表である。
【0081】
実施例B群は、
図1の構造を有し、強磁性層の組成を変更した以外は、以下の材料と厚みを有している。βは0.95の固定値であり、αは0.5〜1.8まで変化させた。
・コンタクト用金属層8:Ru、5nm
・キャップ用非磁性金属層7:Ag、5nm
・第2の強磁性層6:Co
2L
αM
β(L=Mn、M=Si)、5nm
・第2の中間層5C:CrNi
2Al、1nm
・非磁性金属層5B:Ag、5nm
・第1の中間層5A:CrNi
2Al、1nm
・第1の強磁性層4:Co
2L
αM
β(L=Mn、M=Si)、10nm
・第2非磁性金属層3:Ag、50nm
・第1非磁性金属層2:Cr、20nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0082】
図8は、実施例C群において、強磁性層(Co
2L
αM
β)における各種パラメータ(α+β、α、β)と、MR比(%)との関係(α=1.3)を示す図表である。
【0083】
実施例C群は、
図1の構造を有し、強磁性層の組成を変更した以外は、実施例B群と同一の材料と厚みを有している。αは1.3の固定値であり、βは0.55〜1.45まで変化させた。
【0084】
強磁性層(4,6)は、LをMnとし、MをSiとし、α及びβを正の値とした場合に、下記一般式(2)で表されるホイスラー合金を含んでいる。
【0086】
強磁性層(4,6)がホイスラー合金である場合には、NiAlX合金の格子定数が近くなるため、結晶性が高くなり、スピン注入効率が高くなる。
【0087】
図9は、実施例B群及び実施例C群において、α+βとMR比(%)との関係を示すグラフである。
【0089】
一般式(2)で表されるホイスラー合金において、α及びβは、以下の関係式(2−1)、(2−2)、(2−3)を満たすことが好ましい。
0.7<α<1.6 …(2−1)、
0.65<β<1.35 …(2−2)、
2<α+β<2.6 …(2−3)。
【0090】
この積層体によれば、0.7<α<1.6かつ0.65<β<1.35であるので、強磁性層(4,6)であるホイスラー合金は、化学量論的組成を有する場合に近い格子定数を有し、NiAlX合金との格子整合性が良好となる。また、2<α+β<2.6であるので、強磁性層NiAlX合金であるホイスラー合金がハーフメタル特性を維持しやすくなり、大きな磁気抵抗効果(MR比)を得ることができる。
【0091】
なお、強磁性層(4,6)は、Lを、Mn及びFeからなる群から選択される1以上の元素とし、Mを、Si、Al、Ga及びGeからなる群より選択される1以上の元素とし、α及びβを正の値とした場合に、一般式(2):Co
2L
αM
β …(2)で表されるホイスラー合金を含むことができる。上記のように、強磁性層(4,6)がホイスラー合金である場合には、結晶性が高くなり、スピン注入効率が高くなる。
【0092】
なお、L、Mが上記の元素の場合、強磁性層であるホイスラー合金は、一般式(1)で表されるNiAlX合金層と近い格子定数対応基準値を有する。なお、上記元素の数は1つでなく、1以上であってもNiAlX合金層と近い格子定数を有することが容易に推測されるため、強磁性層の結晶性と磁性の品質を良好に保持することができる。その結果、強磁性層と非磁性金属層におけるデッドレイヤーをさらに小さくできる。なお、ここでの格子定数対応基準値とは、それぞれ結晶面が0度傾いて整合するときは、格子定数a、又はaを2倍した値のどちらか一方の値であり、45度傾いて整合するときは、aに2の平方根を掛けた値を意味する。
なお、上記と同様の観点から、以下の範囲が更に好ましい。
【0093】
0.8≦α≦1.5 …(2−1’)、
0.75≦β≦1.25 …(2−2’)、
2.05≦α+β≦2.55 …(2−3’)。
【0094】
次に、各層の格子定数について考察する。
【0095】
図1に示した非磁性金属層5BはAgであり、第1の中間層5A及び第2の中間層5Cは、NiAlX合金であるが、Xは、Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaからなる群より選択される元素である。Xは、これらの中の1つの元素、又は、2以上の元素(X1、X2)を含んでもよく、この場合の格子定数は、近似的には、例えば、X1を用いた場合の格子定数と、X2を用いた場合の格子定数の中間値をとることができる。また、γの値は、0<γ<0.5の範囲をとる。
【0096】
図10及び
図11においては、NiAlSi、NiAl
0.75Si
0.25、ScNi
2Al、TiNi
2Al、TiNi
0.25Al
2.75、CrNi
2Al、Cr
0.66Ni
0.67Al
0.67、MnNi
2Al、Mn
0.5Ni
0.5Al、Fe
2NiAl、Co
0.5Ni
0.5Al、Cu
0.4Ni
0.6Al、ZrNi
2Al、ZrNi
0.48Al
2.52、NbNi
2Al、TaNi
2Alの格子定数a、2a、aに2の平方根を掛けた値、結晶の構造タイプ、ピアソン記号(Pearson Symbol)が示されている。中間層(5A、5C)が、これに隣接する強磁性層(4、6)の鉛直方向の結晶軸に対して45°回転して成長する場合には、aに2の平方根を掛けた値が、強磁性層の格子定数に近くなる。また、中間層の格子定数の2倍(2a)が、強磁性層の格子定数に近くなる場合もある。同図中の(*)印は、隣接する強磁性層(4、6)に格子定数が近くなる値であり、格子整合をとるため、(*)印のついたa、2a、又は、aに2の平方根を掛けた値が選択される。
【0097】
図12は強磁性層(4、6)(各種ホイスラー合金)の格子定数を示す図表である。
【0098】
同図中では、Co
2MnSi、Co
2MnGe、Co
2MnGa、Co
2FeGa、Co
2FeSi、Co
2MnSn、Co
2MnAl、Co
2FeAl、Co
2CrAl、Co
2VAl、Co
2MnGa
0.5Sn
0.5、Co
2FeGeGaの格子定数aが示されている。
【0099】
図13、
図14、
図15及び
図16は、Ag(非磁性金属層)又はNiAlX合金(中間層)と、各種ホイスラー合金(強磁性層)との格子不整合率を示す図表である。
【0100】
なお、格子不整合率=[(Ag又は中間層の格子定数a、2a又はaに2の平方根を掛けた値−強磁性層の格子定数)/強磁性層の格子定数]である。
【0101】
これらの材料の組み合わせの中で、格子不整合率が小さいものは、MR比を大きくすることができる。具体的には、格子不整合率が、Ag(非磁性金属層)と各種ホイスラー合金(強磁性層)との格子不整合率よりも小さいNiAlX合金(中間層)を設けることで、デッドレイヤーを小さくし、MR比を向上させることができる。異種物質の接合であるため、格子不整合率の絶対値はゼロよりも大きい。なお、格子定数は室温(300K)における値を意味している。
【0102】
なお、非磁性金属層5Bは、Ag、Cr、Al、Au及びNiAlからなる群から選択される1以上の元素を含むことができる。この非磁性金属層によれば、X元素が非磁性金属層に拡散するのを容易に抑えることができる。X元素に対する拡散定数が小さい元素は、1つである必要はなく、1以上であれば拡散抑制効果が得られると考えられる。また、これらの材料は、格子定数を中間層に近くすることも可能である。
【0103】
図17は磁気抵抗効果素子を有する磁気ヘッドの再生部の断面構成を示す図である。
【0104】
この磁気ヘッドは、
図1に示した磁気抵抗効果素子MRを備えている。詳細には、磁気ヘッドは、下部磁気シールド21と、磁気シールド上に固定された磁気抵抗効果素子MRと、磁気抵抗効果素子MRの上部に固定された上部磁気シールド22と、上部磁気シールド22の周囲に固定された側部磁気シールド23とを備えている。磁気シールドは、NiFeなどから構成される。このような構造の磁気ヘッドは、公知であり、米国特許5,695,697号に記載されるので、これを参照することができる。
【0105】
図18は磁気抵抗効果素子MRを有する磁気ヘッドの断面構成を示す図である。
【0106】
この磁気記録ヘッドは、主磁極61と、環流磁極62と、主磁極61に併置されたスピントルク発振子(発振素子)10とを備えている。スピントルク発振子10は、上述の磁気ヘッドと同様の構造であり、磁気抵抗効果素子MRの上下に下部磁気シールド21及び上部磁気シールド22を電極として配置した構造となっている。
【0107】
主磁極61の基端部にはコイル63が巻かれているので、電流源I
Rに駆動電流を供給すると、主磁極61の周囲に書き込み磁界が発生する。発生した磁界は磁極を通って閉磁路を構成する。
【0108】
磁気抵抗効果素子MRを含むスピントルク発振子10の上下の電極間に直流電流を通電すると、スピン注入層によって生じたスピントルクにより、強磁性共鳴が生じ、スピントルク発振子10から高周波磁界が発生する。主磁極61による記録磁界と、スピントルク発振子10による高周波磁界とが重畳した部分のみで、これらに対向する磁気記録媒体80に対して、高密度磁気記録が行われる。このような構造の磁気記録ヘッドは、公知であり、特許第5173750号に記載されているので、これを参照することができる。
【0109】
図19は複数の磁気抵抗効果素子を有する電流センサの構造を示す図である。
【0110】
この電流センサは、複数の磁気抵抗効果素子MRを電気的に接続してなるブリッジ回路から構成される。同図では、4つの磁気抵抗効果素子MRによって、ブリッジ回路が構成されており、グランド電位と電源電位Vddとの間には、直列に2つの磁気抵抗効果素子MRが接続されてなる回路列が、2つ並列に接続されている。それぞれの2つの磁気抵抗効果素子MRの接続点が、それぞれ第1出力端子Out1、第2出力端子Out2となり、これらの間の電圧が出力信号となる。
【0111】
被測定対象の電線は、Z軸方向に沿って延びているとすると、電線の周囲には磁界が発生し、磁界の大きさに応じて、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値が変化する。出力信号の大きさは、磁界の大きさ、すなわち、電線を流れる電流量に従うので、この装置は、電流センサとして機能することができる。なお、この装置は、直接的には、磁界の大きさを検出する磁気センサとしても機能している。
【0112】
図20は複数の磁気抵抗効果素子を有する高周波フィルタの構造を示す図である。
【0113】
高周波フィルタは、複数の磁気抵抗効果素子MRを電気的に並列に接続したものである。すなわち、磁気抵抗効果素子MRの上部電極(シールド電極又はコンタクト電極)同士を接続し、又は、共通化すると共に、磁気抵抗効果素子MRの下部電極(シールド電極又は第1非磁性金属層)同士を接続し、又は、共通化する。
【0114】
複数の磁気抵抗効果素子MRは、水平断面積(XY平面内断面積)がそれぞれ異なるため、共鳴周波数が異なる。入力端子Inから高周波信号が入力されると、入力された高周波信号のうち、各磁気抵抗効果素子MRは、各自の共鳴周波数と同じ周波数の信号成分を吸収し、残りの高周波信号成分が出力端子Outから出力される。したがって、この装置は、高周波フィルタとして機能する。このような構造の装置は、公知であり、例えば、国際公開WO2011/033664号公報に記載されているので、これを参照することができる。
【0115】
なお、
図1の磁気抵抗効果素子は、以下のように製造することができる。
【0116】
まず、第1基材層1上に、第1非磁性金属層2、第2非磁性金属層3、第1の強磁性層4、非磁性スペーサ層5と、第2の強磁性層6、キャップ用非磁性金属層7、コンタクト用金属層8を順次堆積する。なお、非磁性スペーサ層5は、第1の強磁性層4上に、第1の中間層5A、非磁性金属層5B、第2の中間層5Cを堆積して形成する。
【0117】
この堆積には、公知の技術であるスパッタ法にて堆積した。本実施例では、各層の構成材料からなるスパッタ用のターゲットを用い、超高真空スパッタ装置を用いて、各層を室温にて成膜することにより形成したが、2つ以上のスパッタ用ターゲットを同時に用いることもできる。すなわち、異なる材料AとBの2つ(以上)のターゲットを用いて、ターゲットを同時スパッタすることで、AとBの合金膜や、各層の材料組成を調整することも可能である。例えば、NiAlのターゲットと他金属Xのターゲットを一緒に(同時に)スパッタすることで、合金膜を成膜することができる。また、基板材料に関しては市販品を使うことができ、上記の第1基材層としては市販品のMgOを使用した。なお、第1の強磁性層4は、成膜後に500℃でアニーリング処理を行っている。第2の強磁性層6は、成膜後に450℃でアニーリング処理を行っている。磁気抵抗効果素子は、電子線リソグラフィーおよびArイオンミリングにより、磁気抵抗特性を評価可能な形状に微細加工される。なお、スパッタ装置を用いたCMS等の作製方法は、例えば、米国特許出願公開2007/0230070号公報、米国特許出願公開2013/0229895号公報、米国特許出願公開2014/0063648号公報、米国特許出願公開2007/0211391号公報、米国特許出願公開2013/0335847号公報などに記載されている。
【0118】
図21は、実施例6として、
図1の変形を行った場合の材料、格子定数、膜厚、MR比(%)を示す図表であり、説明に示されない構造は、
図1の場合と同一である。
第1の中間層5A及び第2の中間層5Cを、NiAl合金及びNiAlX合金の積層構造としたものである。なお、非磁性金属層5Bと接するようにNiAl合金、NiAl合金と強磁性層との間にNiAlX合金が積層されている。第1の強磁性層4及び第2の強磁性層6として、Co
2Mn
1.0Si
0.95を用いた場合であり、その他の材料及び膜厚は以下の通りである。
・コンタクト用金属層8:Ru、5nm
・キャップ用非磁性金属層7:Ag、5nm
・第2の強磁性層6:CMS(コバルトマンガンシリコン合金)、5nm
・第2の中間層5C:NiAl合金とNiAlX合金の積層(非磁性金属層5B側にNiAl合金)、各0.5nmで合計1nm
・非磁性金属層5B:Ag、5nm
・第1の中間層5A:NiAl合金とNiAlX合金の積層(非磁性金属層5B側にNiAl合金)、各0.5nmで合計1nm
・第1の強磁性層4:CMS(コバルトマンガンシリコン合金)、10nm
・第2非磁性金属層3:Ag、50nm
・第1非磁性金属層2:Cr、20nm
・第1基材層1:MgO、0.5mm
【0119】
図21の通り、厚み方向に従って中間層の組成が変化した場合、MR比が10.1%から12.3%へ向上した。ここで、強磁性層CMS(コバルトマンガンシリコン合金)の格子定数(対応基準値)が0.5606nm、中間層CrNi
2Alの格子定数(対応基準値)が0.5737nm、非磁性金属層Agの格子定数(対応基準値)が0.5798であり、γ=0であるNiAlX合金(即ち、NiAl合金)の格子定数(対応基準値)が0.5760である。よって、格子定数の大小関係からγ=0であるNiAlX合金、即ち、γが小さいNiAlX合金を非磁性金属層とNiAlX合金との間に介在させることで、中間層の厚み方向にしたがって連続的に格子定数(対応基準値)の変化がおこるため、より強磁性層と非磁性金属層との結晶品質を向上させることが出来る。これにより、MR比を向上させることができた。なお、ここでの格子定数対応基準値とは、それぞれ結晶面が0度傾いて整合するときは、格子定数a、又はaを2倍した値のどちらか一方の値であり、45度傾いて整合するときは、aに2の平方根を掛けた値を意味する。
【0120】
よって、γ3の値は、強磁性層(4,6)から、その厚み方向に沿って離れるに従って減少することができる。この積層体では、強磁性層のみで積層される場合に比べて、一般式(1)で表される中間層(5A,5C)(NiAlX合金層)において、強磁性層側でX元素濃度が高いため、強磁性層(4,6)と非磁性金属層5Bとの間の格子不整合がより小さくなる。また、非磁性金属層5B側でX元素濃度が低いため、強磁性層(4,6)と非磁性金属層4Bとの間の格子不整合がより小さくなる。そのため、この積層体によれば、強磁性層及び非磁性金属層におけるデッドレイヤーの領域がさらに小さくなり、MR比を低減することができる。なお、γ3の値は、面内方向又は厚み方向に沿って変化することもできる。局所的な格子不整合の度合に応じて、上記格子不整合が緩和するように、γ3の値を設定し、X元素濃度を変化させることで、結果的に強磁性層及び非磁性金属層の品質の改善効果が期待される。
【0121】
以上、説明したように、上述の積層体及び磁気抵抗効果素子は、非磁性金属層5B上に位置する積層体であって、強磁性層6と、非磁性金属層5Bと強磁性層6との間に介在する中間層5Cと、を備え、中間層5Cは、一般式(1):Ni
γ1Al
γ2X
γ3…(1)、[Xは、Si、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zr、Nb及びTaからなる群より選択される1以上の元素を表し、γ=γ3/(γ1+γ2+γ3)とした場合に、0<γ<0.5を満たす]で表されるNiAlX合金層を含み、デッドレイヤーを小さくすることができ、高いMR比を得ることができる。上記いずれかの磁気抵抗効果素子を備えた磁気ヘッド、センサ、高周波フィルタ又は発振素子は、磁気抵抗効果が大きいため、これに起因する優れた特性を発揮することができる。
【0122】
なお、上述の構造における磁気抵抗効果素子のスピンに対する挙動は、原理的には、CPP−GMR素子のみでなく、CIP−GMR素子(面内通電型GMR素子)においても、同様に生じると考えられるため、上述の構造は、MR比の向上という観点から、CIP−GMR素子においても有効であると考えられる。なお、磁性が利用できるものであれば、デッドレイヤーの領域が小さくなるため、積層体は、磁気抵抗効果素子以外の用途(スピンホール効果/逆スピンホール効果、スピン移行トルクといった技術)にも適用可能である。