【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としての昇圧システムを搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、モータ32と、インバータ34と、電源としてのバッテリ36と、昇圧コンバータ40と、電子制御ユニット50と、を備える。実施例では、昇圧コンバータ40および電子制御ユニット50が「昇圧システム」に相当する。
【0014】
モータ32は、同期発電電動機として構成されており、永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相コイルが巻回された固定子と、を備える。このモータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
【0015】
インバータ34は、モータ32の駆動に用いられる。このインバータ34は、高電圧側電力ライン42を介して昇圧コンバータ40に接続されており、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、6つのトランジスタT11〜T16のそれぞれに並列に接続された6つのダイオードD11〜D16と、を有する。トランジスタT11〜T16は、それぞれ、高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。また、トランジスタT11〜T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相のコイル)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11〜T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ46が取り付けられている。
【0016】
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧側電力ライン44を介して昇圧コンバータ40に接続されている。低電圧側電力ライン44の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
【0017】
昇圧コンバータ40は、高電圧側電力ライン42と低電圧側電力ライン44とに接続されており、2つのトランジスタT31,T32と、2つのトランジスタT31,T32のそれぞれに並列に接続された2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLと、を有する。トランジスタT31は、高電圧側電力ライン42の正極側ラインに接続されている。トランジスタT32は、トランジスタT31と、高電圧側電力ライン42および低電圧側電力ライン44の負極側ラインと、に接続されている。リアクトルLは、トランジスタT31,T32同士の接続点と、低電圧側電力ライン44の正極側ラインと、に接続されている。昇圧コンバータ40は、電子制御ユニット50によって、トランジスタT31,T32のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧側電力ライン44の電力を昇圧して高電圧側電力ライン42に供給したり、高電圧側電力ライン42の電力を降圧して低電圧側電力ライン44に供給したりする。以下、トランジスタT31,T32をそれぞれ「上アーム」,「下アーム」ということがある。
【0018】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52に加えて、処理プログラムを記憶するROM54や、データを一時的に記憶するRAM56、入出力ポートを備える。電子制御ユニット50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ(例えばレゾルバ)32aからの回転位置θmや、モータ32の各相の相電流を検出する電流センサ32u,32vからの相電流Iu,Ivを挙げることができる。また、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流Ibも挙げることができる。さらに、リアクトルLに直列に取り付けられた電流センサ40aからの電流ILや、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46(高電圧側電力ライン42)の電圧VH、コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48(低電圧側電力ライン44)の電圧VLも挙げることができる。加えて、イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSPも挙げることができる。また、アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ68からの車速Vも挙げることができる。
【0019】
電子制御ユニット50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット50から出力される信号としては、例えば、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号を挙げることができる。電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算している。また、電子制御ユニット50は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算している。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ36の全容量に対するバッテリ36の蓄電量(放電可能な電力量)の割合である。
【0020】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。また、電子制御ユニット50は、モータ32をトルク指令Tm*で駆動できるように高電圧側電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、電圧センサ46aからの高電圧側電力ライン42(コンデンサ46)の電圧VHとその目標電圧VH*との差分が打ち消されるようにリアクトルLの目標電流IL*を設定し、電流センサ40aからのリアクトルLの電流ILとその目標電流IL*との差分が打ち消されるように要求デューティDtagを設定し、設定した要求デューティDtagに基づいてデューティ指令D*を設定し、デューティ指令D*と昇圧キャリアとの比較結果に基づいてデッドタイムを設けて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
【0021】
要求デューティDtagやデューティ指令D*は、デッドタイムを考慮しないときの上アーム(トランジスタT31)のオン時間とオフ時間との和に対するオン時間の割合(下アーム(トランジスタT32)のオン時間とオフ時間との和に対するオフ時間の割合)の要求値や指令値に相当する。
【0022】
実施例では、昇圧キャリアの谷(極小値)のタイミングからの演算処理(割込処理)で、昇圧キャリアが次回に山(極大値)から谷に減少する減少区間の要求デューティDtag(以下、「Dtagdn」と表記することがある)を設定し、昇圧キャリアの山のタイミングからの演算処理で、昇圧キャリアが次回に谷から山に増加する増加区間の要求デューティDtag(以下、「Dtagup」と表記することがある)を設定するものとした。
【0023】
また、実施例では、減少区間の要求デューティDtag(Dtagdn)と増加区間の要求デューティDtag(Dtagup)とのうちの一方については、要求デューティDtagをデューティ指令D*に設定し、他方については、昇圧キャリアの各1周期における平均デューティDave(=(Dtagup+Dtagdn)/2)が下限デューティDmin以上となるように要求デューティDtagに下限ガードを施してデューティ指令D*を設定するものとした。平均デューティDaveが小さくなると、トランジスタT32のオン時間が長くなると共にオフ時間が短くなる。このため、リアクトルLの電流ILの単位時間当たりの変化量(増加量)が大きくなりやすく、リアクトルLの電流ILおよびバッテリ36の電流Ibが過大になりやすく、バッテリ36の内部抵抗による電圧降下によりバッテリ36から電力を十分に取り出すことができなくなる場合が生じる。下限デューティDminは、こうした不都合が生じるのを抑制するために設けられる。この下限デュ−ティDminとしては、例えば、35%や40%、45%などが用いられる。
【0024】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に、平均デューティDaveの計算用の昇圧キャリアの各1周期である計算用周期を減少区間、増加区間の順の各1周期と増加区間、減少区間の順の各1周期とのうちの何れとするかを決定する処理、および、下限ガードを施す対象であるガード対象を減少区間の要求デューティDtagdnと増加区間の要求デューティDtagupとのうちの何れとするかを決定する処理について説明する。
図2は、電子制御ユニット50により実行される処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。システム起動時(イグニッションスイッチ60がオンされたとき)に実行される。
【0025】
図2の処理ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ40の駆動要求が行なわれたか否か否かを判定し(ステップS100)、昇圧コンバータ40の駆動要求が行なわれていないときには、昇圧コンバータ40の駆動要求が行なわれるのを待つ。昇圧コンバータ40の駆動要求が行なわれたか否かの判定は、高電圧側電力ライン42の目標電圧VH*が低電圧側電力ライン44の電圧VLよりも高くなったか否かを調べることにより行なうことができる。
【0026】
ステップS100で昇圧コンバータ40の駆動要求が行なわれたと判定したときには、高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう(ステップS110)。そして、電圧センサ46aから高電圧側電力ライン42(コンデンサ46)の電圧VHを入力し(ステップS120)、入力した高電圧側電力ライン42の電圧VHを目標電圧VH*と比較し(ステップS130)、高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*未満のときには、ステップS120に戻る。このようにして高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*以上に至るのを待つ。
【0027】
そして、高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*以上に至ると、減少区間の要求デューティDtagdnと増加区間の要求デューティDtagupとを取得し(ステップS140)、両者を比較する(ステップS150)。
【0028】
ステップS150で減少区間の要求デューティDtagdnが増加区間の要求デューティDtagupよりも小さいときには、計算用周期を増加区間、減少区間の順の各1周期と決定すると共に(ステップS160)、ガード対象を減少区間の要求デューティDtagdnと決定して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。
【0029】
ステップS150で増加区間の要求デューティDtagupが減少区間の要求デューティDtagdn以下のときには、計算用周期を減少区間、増加区間の順の各1周期と決定すると共に(ステップS180)、ガード対象を増加区間の要求デューティDtagupと決定して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0030】
この
図2の処理ルーチンにより計算用周期およびガード対象を決定すると、その後、決定した計算用周期およびガード対象を考慮して要求デューティDtagに基づいてデューティ指令D*を設定し、このデューティ指令D*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32を制御する。なお、増加区間の要求デューティDtagupと減少区間の要求デューティDtagdnとの大小関係は、トランジスタT31,T32を実際にスイッチングする際のデッドタイムや制御遅れ、電流センサ40aや電圧センサ46aの検出遅れなどに基づくものであり、一旦定まると、基本的に、そのトリップでは変化しない。
【0031】
このようにして、減少区間の要求デューティDtag(Dtagdn)と増加区間の要求デューティDtag(Dtagup)とのうちの小さい方について、計算用周期の平均デューティDaveが下限デューティDmin以上となるように要求デューティDtagに下限ガードを施してデューティ指令D*を設定することにより、減少区間の要求デューティDtag(Dtagdn)と増加区間の要求デューティDtag(Dtagup)とのバラツキが大きくなるのを抑制することができる。
【0032】
図3および
図4は、要求デューティDtagとデューティ指令D*と昇圧キャリアと上アームのオンオフとの様子の一例を示す説明図である。
図3は、実施例の様子を示し、
図4は、比較例の様子を示す。比較例の場合、
図4に示すように、減少区間の要求デューティDtagdnと増加区間の要求デューティDtagupとのうちの大きい方に下限ガードを施すことにより、デューティ指令D*のバラツキが大きくなっている。これに対して、実施例の場合、
図3に示すように、減少区間の要求デューティDtagdnと増加区間の要求デューティDtagupとのうちの小さい方に下限ガードを施すことにより、デューティ指令D*のバラツキが大きくなるのを抑制することができる。
【0033】
以上説明した実施例の電気自動車20に搭載される昇圧システムでは、減少区間の要求デューティDtag(Dtagdn)と増加区間の要求デューティDtag(Dtagup)とのうちの大きい方については、要求デューティDtagをデューティ指令D*に設定し、小さい方については、計算用周期の平均デューティDaveが下限デューティDmin以上となるように要求デューティDtagに下限ガードを施してデューティ指令D*を設定する。これにより、減少区間の要求デューティDtag(Dtagdn)と増加区間の要求デューティDtag(Dtagup)とのバラツキが大きくなるのを抑制することができる。
【0034】
実施例の電気自動車20に搭載される昇圧システムでは、システム起動後に昇圧コンバータ40の駆動により高電圧側電力ライン42の電圧VHを初めて昇圧したときに、減少区間の要求デューティDtagdnと増加区間の要求デューティDtagupとを取得して比較するものとした。しかし、トランジスタT31,T32を実際にスイッチングする際のデッドタイムや制御遅れ、電流センサ40aや電圧センサ46aの検出遅れなどに基づいて、増加区間の要求デューティDtagupと減少区間の要求デューティDtagdnとの大小関係が予め一義的に定まるものとしてもよい。
【0035】
実施例の電気自動車20では、電源として、バッテリ36を用いるものとしたが、バッテリ36に代えて、キャパシタを用いるものとしてもよい。
【0036】
実施例では、モータ32を備える電気自動車20に搭載される昇圧システムの形態としたが、モータ32に加えてエンジンも備えるハイブリッド自動車に搭載される昇圧システムの形態としてもよいし、自動車以外の車両や船舶、航空機などの移動体に搭載される昇圧システムの形態としてもよいし、建設設備などの移動しない設備に搭載される昇圧システムの形態としてもよい。
【0037】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御装置」に相当する。
【0038】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0039】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。