特許第6962251号(P6962251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962251ポリエチレン系樹脂、及び、当該ポリエチレン系樹脂を含む成形品
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  • 特許6962251-ポリエチレン系樹脂、及び、当該ポリエチレン系樹脂を含む成形品 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962251
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂、及び、当該ポリエチレン系樹脂を含む成形品
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   C08F10/02
【請求項の数】4
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2018-56680(P2018-56680)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2019-167457(P2019-167457A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 和博
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−180079(JP,A)
【文献】 特開2012−144724(JP,A)
【文献】 特開2008−114819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性(1)〜(3)を満足することを特徴とする燃料タンク用のポリエチレン系樹脂。
特性(1):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量10,000以下の成分の存在比が20%以下である。
特性(2):−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上である。
特性(3):下記条件で測定した炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)とが下記式(A)で示される関係を満たす。
式(A): P ≦ −7.692× D + 7.471
条件:金属容器(材質:アルミニウム、内径60mmφ、深さ50mmの円筒状容器であって、上面が開口している容器)に、前記炭化水素化合物としての液体燃料としてトルエン25mLとイソオクタン25mLの混合物を投入し、当該金属容器の上面枠部分にフッ素系エラストマー製のシール材を配して圧縮成形にて作製した前記ポリエチレン系樹脂のシート(直径70mmφ、厚さ2.0mmのシート)を載せて当該金属容器の上面を覆い、クランプ器具を用いて当該ポリエチレン系樹脂のシートを固定して当該金属容器を密閉し、当該密閉金属容器を60℃の環境下の防爆型強制循環式恒温槽に静置する。前記密閉金属容器を24時間ごとに恒温槽より取り出し、室温に戻した後に当該密閉金属容器の重量を測定し減少量を評価する。前記密閉金属容器の24時間当たりの重量減少を評価した後に、再度当該密閉金属容器を恒温槽に戻す。前記密閉金属容器の24時間当たりに減少する重量がほぼ一定となるまで測定を継続し、安定した減少する重量を前記透過量(P)とする。
【請求項2】
さらに、下記の特性(4)を満足する、請求項1に記載のポリエチレン系樹脂。
特性(4):全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)の破断時間が20時間以上である。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のポリエチレン系樹脂を含む成形品。
【請求項4】
燃料タンクである請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性、成形性、耐衝撃性、及び耐久性のバランスに優れ、さらに燃料バリア性に優れるポリエチレン系樹脂、及び、当該ポリエチレン系樹脂を含む成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
液体物質の貯蔵又は輸送に用いられる中空プラスチック成形品は、日常生活、産業分野で広く用いられており、現在、プラスチックは、可燃性の液体、有害な物質等の燃料缶及びプラスチックボトル等の運搬容器の製造に最も多く使用されている材料である。プラスチック材料は、金属材料に比べて、重量/体積比が小さいので軽量化が可能であり、錆びなどの腐食が起こりにくく、耐衝撃性が良好であるという特長を有していることから、特に自動車部品において燃料タンクとして使用され、従来の金属材料に取って代わりつつある。
一方、自動車用燃料タンクの分野においては、ガソリン由来の炭化水素化合物が環境汚染の原因物質の一つに挙げられるため、国内外において燃料蒸発ガス排出量の低減対策が実施されている。燃料蒸発ガスの主な発生原因の一つとして、自動車用燃料タンク関連部品のゴムや樹脂などの材質から透過によって発生するものが挙げられる。このようなゴムや樹脂などの材質からの燃料透過を低減することが強く望まれている。
【0003】
このような状況下、各種性能が改善されたポリエチレン材料を提供する試みがなされてきた。
例えば、特許文献1には、成形性と耐久性とのバランスに優れた大型容器用小部品を提供するための技術が開示されている。
また、特許文献2には、中空プラスチック成形品用途の、成形性及び耐久性に優れ、且つ耐衝撃性と剛性とのバランスに優れるポリエチレン系樹脂を提供するための技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、燃料タンク等の成形品用途の、成形性と耐久性とのバランスに優れた射出成形用ポリエチレンを提供するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240648号公報
【特許文献2】特開2009−173889号公報
【特許文献3】特開2016−183338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に記載された樹脂は、成形性及び耐久性に優れ、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れているが、自動車の排出規制強化等に伴い自動車用プラスチック燃料タンク用途等の燃料バリア性に優れる樹脂として更なる性能の向上が求められている。
また、ポリエチレン系樹脂を用いて中空成形容器を成形する場合には、当該中空成形容器を多層構造とし、その内の1層として内溶液透過防止のためのバリア層を設けることが一般的であるが、その他の層に用いられる樹脂も燃料バリア性が高いことが望まれる。
さらに、射出成形品等のポリエチレン単層構造で用いられる部品に関しても同様に燃料バリア性が高いことが望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、剛性、成形性、耐衝撃性、及び耐久性のバランスに優れ、さらに燃料バリア性に優れるポリエチレン系樹脂、及び、当該ポリエチレン系樹脂を含む成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリエチレン系樹脂は、下記の特性(1)〜(3)を満足することを特徴とする。
特性(1):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量10,000以下の成分の存在比が20%以下である。
特性(2):−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上である。
特性(3):炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)とが下記式(A)で示される関係を満たす。
式(A): P ≦ −7.692 × D + 7.471
【0007】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、さらに、下記の特性(4)を満足してもよい。
特性(4):全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)の破断時間が20時間以上である。
【0008】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、大型容器用小部品、燃料タンク、パイプ、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器及びプラスチックボトルからなる群より選ばれる少なくとも1種の材料として用いてもよい。
【0009】
本発明のポリエチレン系樹脂は、燃料タンク用であってもよい。
【0010】
本発明の成形品は、前記ポリエチレン系樹脂を含む。
【0011】
本発明の成形品においては、当該成形品が燃料タンクであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、、剛性、成形性、耐衝撃性、及び耐久性のバランスに優れ、さらに燃料バリア性に優れるポリエチレン系樹脂、及び、当該ポリエチレン系樹脂を含む成形品を提供することができる。
また、本発明のポリエチレン系樹脂及びその成形品により、国内外における自動車の燃料蒸発ガス排出規制に対応可能な燃料タンク用材料及び燃料タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)との関係を示すグラフである。グラフ内の破線は、特性(3)に係る式(A)により特定される透過量(P)の上限値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリエチレン系樹脂は、下記の特性(1)〜(3)を満足することを特徴とする。
特性(1):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量10,000以下の成分の存在比が20%以下である。
特性(2):−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上である。
特性(3):炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)とが下記式(A)で示される関係を満たす。
式(A): P ≦ −7.692 × D + 7.471
【0015】
従来は、ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量Mnが低い方が、又は短鎖分岐数が少ない方が樹脂の結晶性が向上し、密度が高くなるため、燃料バリア性が向上すると考えられていた。しかし、重量平均分子量Mnが低い場合であっても、所望の剛性、成形性、耐衝撃性、耐久性、及び燃料バリア性を兼ね備えるポリエチレン系樹脂が得られない場合があった。そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、所定の特性を満足するポリエチレン系樹脂が、所望の剛性、成形性、耐衝撃性、耐久性、及び燃料バリア性を有することを見出し、本発明に至った。
【0016】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂及びその用途などについて、項目毎に詳細に説明する。また、本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0017】
特性(1):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量10,000以下の成分の存在比
本発明のポリエチレン系樹脂においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量10,000以下の成分の存在比が20%以下である。
当該分子量10,000以下の成分の存在比が20%以下であることにより、樹脂の燃料バリア性を向上させることができる。
当該分子量10,000以下の成分の存在比は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量の測定を行うことにより算出することができる。
当該分子量10,000以下の成分の存在比を20%以下にするためには、たとえば、エチレン系重合体の重合時の重合温度を90℃以上にする、分子量分布がより狭いエチレン系重合体が得られるメタロセン触媒などを使用する等の方法により、分子量10,000以下の成分の存在比を少なくすることができる。
【0018】
特性(2):−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度(kJ/m
本発明のポリエチレン系樹脂は、−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上、好ましくは5.0kJ/m以上、より好ましくは7.0kJ/m以上、更に好ましくは7.1kJ/m以上、更に好適には10kJ/m以上である。シャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上であると、ポリエチレン系樹脂の耐衝撃性が向上する。シャルピー衝撃強度の上限値は特に制限ないが、通常は50kJ/m以下である。
シャルピー衝撃強度は、JIS K−7111(2004年)に準拠し、タイプ1の試験片を作製し、打撃方向はエッジワイズ、ノッチのタイプはタイプA(0.25mm)として、恒温槽で冷却し、−40℃で測定することができる。
シャルピー衝撃強度は、密度、分子量分布により、その値を制御することができる。即ち、密度を高くすればシャルピー衝撃強度は高くなる。また、分子量分布を狭くすればシャルピー衝撃強度は高くなる。
【0019】
特性(3):炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)との関係
本発明のポリエチレン系樹脂は、炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)とが下記式(A)で示される関係を満たす。
式(A): P ≦ −7.692 × D + 7.471
炭化水素化合物の透過量がこの上限以下であると、ポリエチレン系樹脂の燃料バリア性が向上する。
また、式(A)の条件を満たすことは、剛性と燃料バリア性とのバランスに優れることの指標となる。
式(A)の条件を満たすポリエチレン系樹脂は、重合条件の調整、使用する重合触媒の選択等によって得られる。
本発明のポリエチレン系樹脂は、炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)と密度(D、単位:g/cm)とが下記式(A’)で示される関係を満たすことが好ましく、下記式(A’’)で示される関係を満たすことがより好ましい。
式(A’): P ≦ −7.778 × D + 7.540
式(A’’): P ≦ −7.778 × D + 7.580
また、透過量の下限値は限定されるものではないが、概ね下記式(B)を満足するものである。
式(B): P ≧ −7.778 × D + 7.400
【0020】
炭化水素化合物の透過量は、液体燃料としてトルエンとイソオクタンの混合液を投入した金属容器の上面をポリエチレン系樹脂で覆うことにより金属容器を密閉し、一日当たりに液体燃料が揮発してガスとなってポリエチレン系樹脂を透過した量を測定することにより得られる。即ち、本発明において、炭化水素化合物の透過量の指標とする化合物として、トルエンとイソオクタンの混合液を挙げることができる。
具体的には、金属容器(材質:アルミニウム、内径60mmφ、深さ50mmの円筒状容器であって、上面が開口している容器)に、液体燃料としてトルエン25mLとイソオクタン25mLの混合物を投入し、その金属容器の上面枠部分にフッ素系エラストマー製のシール材を配して圧縮成形にて作製したポリエチレン系樹脂シート(直径70mmφ、厚さ2.0mmのシート)を載せて上面を覆い、クランプ器具を用いてポリエチレン系樹脂シートを固定して金属容器を密閉し、当該密閉金属容器を60℃の環境下の防爆型強制循環式恒温槽に静置する。24時間ごとに恒温槽より取り出し、室温に戻した後に当該密閉金属容器の重量を測定し減少量を評価する。24時間当たりの重量減少を評価した後に、再度当該密閉金属容器を恒温槽に戻す。24時間当たりに減少する重量がほぼ一定となるまで測定を継続し、安定した減少する重量を透過量(P)とする。試験片(ポリエチレン系樹脂シート)の数は2(試験片:2)とし、2点の平均値を求めることができる。
本発明において燃料バリア性が優れるとは、炭化水素化合物の透過量(P)が少ないことを意味し、上記試験において、1日当たりのガス透過量が0.21g/日以下であることをいう。炭化水素化合物の透過量(P)が少ないと、燃料バリア性が優れるので、燃料タンクとしての材料適性に優れることになる。
炭化水素化合物の透過量(P)は、ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量Mnを低くするか短鎖分岐数を少なくすることにより結晶性が向上し密度を高くすることにより小さくすることができ、また、ポリエチレン系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量10,000以下の成分の存在比を小さくすることにより小さくすることができる。
なお、炭化水素化合物の透過量(P)は、温度や炭化水素化合物の性状に依存するので、本発明における透過量(P)の測定においては、特定の試験条件及び炭化水素化合物を設定して、材料の炭化水素化合物透過量特性を評価し、材料の燃料バリア性の指標としている。
【0021】
特性(4):全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)の破断時間(単位:時間)
本発明のポリエチレン系樹脂は、全周ノッチ式クリープ試験(FNCT)の破断時間(T)(単位:時間)が好ましくは2時間以上、より好ましくは20時間以上、更に好ましくは40時間以上、更に好適には100時間以上であってもよい。
破断時間が2時間以上であると、ポリエチレン系樹脂を含む成形品の耐久性が向上する。破断時間の上限値は特に制限されない。
【0022】
全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)による破断時間は、以下の方法で測定することができる。
即ち、JIS K−6992−2(2004年版)に準拠し、厚さ5.9mmのシートを圧縮成形した後、JIS K−6774(2004年版)附属書5(規定)図1に示された区分「呼び50」の形状と寸法の試験片を作製し、80℃の純水中で全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)を行なう。引張荷重は88N、98N、108Nとし、試験点数は各荷重で2点とする。得られた両対数スケールにおける破断時間と公称応力の6点のプロットから最小二乗法により公称応力6MPaにおける破断時間を耐クリープ性の指標とする。
同一HLMFR、同一密度の重合体を製造する場合、破断時間は、重合時の水素濃度の制御などの方法で調整することができる。例えば、破断時間は、ポリエチレン系樹脂の分子量分布が広いほど、また長鎖分岐量が少ないほど高いため、水素濃度を高くすることにより、破断時間を大きくすることができる。
【0023】
特性(5):HLMFR(単位:g/10分)
本発明のポリエチレン系樹脂は、温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)の下限値が0.1g/10分以上であってもよく、好ましくは5g/10分以上であってもよく、上限値が200g/10分以下であってもよく、好ましくは100g/10分以下であってもよく、より好ましくは67g/10分以下であってもよい。
ポリエチレン系樹脂がブロー成形用の場合は、HLMFRは、0.1〜20g/10分、好ましくは1〜15g/10分、更に好ましくは3〜10g/10分である。
ブロー成形においては、HLMFRが0.1g/10分以上であると、所望のパリソンの押出量が得られ、成形安定な状態とすることができ、HLMFRが20g/10分以下であると、所望のパリソンの溶融粘度及び溶融張力が得られるため成形安定とすることができる。
ポリエチレン系樹脂が射出成形用の場合は、HLMFRは、1〜200g/10分、好ましくは5〜180g/10分、更に好ましくは10〜150g/10分である。
射出成形においては、HLMFRが1g/10分以上であると、射出成形時に流動性が向上し、成形性を向上させることができ、HLMFRが200g/10分以下であると、耐衝撃性を向上させることができる。
HLMFRは、重合の際に、重合温度や水素濃度の制御などの方法で調整することができる。例えば、重合温度を高くする、又は水素濃度を高くすることによりHLMFRを高くすることができる。
ここで、HLMFRは、JIS K6922−2:1997に準拠し、温度190℃、荷重21.6kgの条件で測定することができる。
【0024】
特性(6):密度(D、単位:g/cm
本発明のポリエチレン系樹脂は、密度の下限値が0.940g/cm以上であってもよく、0.943g/cm以上であってもよく、0.944g/cm以上であってもよく、上限値が0.970g/cm以下であってもよく、0.965g/cm以下であってもよく、0.960g/cm以下であってもよい。
密度が0.940g/cm以上であると、ポリエチレン系樹脂の所望の剛性が得られ、0.970g/cm以下であると、ポリエチレン系樹脂の所望の耐久性が得られる。
密度は、重合の際にα−オレフィンの種類や含有量の制御などの方法で調整することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂中のα−オレフィン含有量を低くする(重合時のα−オレフィン添加量を低くする)、又は同じ含有量であれば、炭素数の小さいα−オレフィンを用いることにより、密度を高くすることができる。
密度は、JIS K−7112:2004に準拠し、ペレットを温度160℃の熱圧縮成形機により溶融した後、25℃/分の速度で降温して厚み2mmのシートを成形し、このシートを温度23℃の室内で48時間状態調節した後、密度勾配管に入れて測定することができる。
【0025】
特性(7):Mw/Mn
本発明のポリエチレン系樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)の下限値が3.0以上であってもよく、3.4以上であってもよく、上限値は10以下であってもよく、8.4以下であってもよい。Mw/Mnが3.0以上であると、成形品の耐久性が向上する。一方、Mw/Mnが10以下であると耐衝撃性が向上する。
【0026】
なお、本明細書において、ポリエチレン系樹脂のMw/Mnは、GPCで測定される重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnから計算される値をいう。
Mw/Mnは、主に、重合触媒及び重合条件を選択することにより達成することができる。
【0027】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量の測定(重量平均分子量Mw)は以下の方法で行なうことができる。
即ち、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
装置:WATERS社製150C
カラム:昭和電工社製AD80M/Sを3本
測定温度:140℃
濃度:1mg/1ml
溶媒:o−ジクロロベンゼン
なお、分子量の計算及びカラムの較正は、以下の方法に準拠して行なう。
GPCクロマトデータは、1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行ない、Mw値を計算する。
カラムの較正は、昭和電工社製単分散ポリスチレン(S−7300、S−3900、S−1950、S−1460、S−1010、S−565、S−152、S−66.0、S−28.5、S−5.05)、n−エイコサン及びn−テトラコンタンの各0.2mg/ml溶液を用いて、一連の単分散ポリスチレンの測定を行い、それらの溶出ピーク時間と分子量の対数の関係を4次多項式でフィットしたものを較正曲線とする。
なお、ポリスチレンの分子量(MPS)は、次式を用いてポリエチレンの分子量(MPE)に換算する。MPE=0.468×MPS
【0028】
[ポリエチレン系樹脂の構成]
本発明のポリエチレン系樹脂は、エチレン単量体単位を主成分として含み、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を含有してもよい。
なお、主成分とは、ポリエチレン系樹脂の総mol量を100mol%としたとき、50mol%以上含むことをいう。
本発明においてエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体は、炭素数3〜12のα−オレフィンから導かれる構成単位を、通常40mol%以下、好ましくは0.1〜40mol%、より好ましくは0.1〜30mol%含むエチレン系重合体であってもよい。
ここで、炭素数3〜12のα−オレフィン(以下単に「α−オレフィン」ともいう。)としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられる。本発明においては、これらのα−オレフィンの中で、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0029】
ポリエチレン系樹脂は、複数の成分により構成することが可能である。
該ポリエチレン系樹脂は、1種類の触媒を用いて多段重合反応器にて順次連続的に重合された重合体でもよく、複数種類の触媒を用いて単段又は多段重合反応器にて製造された重合体でもよいし、1種類又は複数種類の触媒を用いて重合された重合体を混合したものでもよい。
【0030】
直列に接続した複数の反応器で順次連続して重合するいわゆる多段重合方法を用いる場合は、所定の範囲を満たす限り、始めの重合域(第1段目の反応器)において高分子量成分を製造する製造条件を採用して重合し、得られた重合体を次の反応域(第2段目の反応器)に移送し、第2段目の反応器において低分子量成分を製造する順序でも、逆に、始めの重合域(第1段目の反応器)において低分子量成分を製造する製造条件を採用して重合し、得られた重合体を次の反応域(第2段目の反応器)に移送し、第2段目の反応器において高分子量成分を製造する順序のどちらでもよい。
なお、多段重合の場合、第2段目以降の重合域で生成するポリエチレン系樹脂の量とその性状については、各段における重合体生成量(未反応ガス分析等により把握できる)を求め、各段の後でそれぞれ抜出した重合体の物性を測定し、加成性に基づいて各段で生成した重合体の物性を求めることができる。
【0031】
ポリエチレン系樹脂に使用されるエチレンは、通常の化石原料由来の原油から製造されるエチレンであってもよいし、植物由来のエチレンであってもよい。
植物由来のエチレン及びポリエチレンとしては、例えば、特表2010−511634号公報に記載のエチレンやそのポリマーが挙げられる。
植物由来のエチレンやそのポリマーは、カーボンニュートラル(化石原料を使わず大気中の二酸化炭素の増加につながらない)の性質を持ち、環境に配慮した製品の提供が可能である。
【0032】
[ポリエチレン系樹脂の製造方法]
ポリエチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等との共重合により得られる。
また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。
なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は、0.1〜40mol%、好ましくは0.1〜30mol%である。
【0033】
生成重合体の分子量は、重合温度、触媒のモル比等の重合条件を変えることによってもある程度調節可能であるが、重合反応系に水素を添加することで、より効果的に分子量調節を行うことができる。
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。
なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
水素濃度、モノマー量、重合圧力、重合温度等の重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
【0034】
ポリエチレン系樹脂は、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの製造プロセスにより製造することができ、好ましくはスラリー重合法が望ましい。
ポリエチレン系樹脂の重合条件のうち重合温度としては、0〜200℃の範囲から選択することができる。
スラリー重合においては、生成ポリマーの融点より低い温度で重合を行う。
重合圧力は、大気圧〜約10MPaの範囲から選択することができる。
実質的に酸素、水等を断った状態で、ヘキサン、ヘプタン、イソブタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下でエチレン及びα−オレフィンのスラリー重合を行うことにより製造することができる。
【0035】
重合方法としては、反応器を一つ用いて重合体を製造する単段重合だけでなく、生産量を向上させるため、少なくとも二つの反応器を連結させて多段重合を行うこともできる。多段重合の場合、二つの反応器を連結させ、第一段の反応器で重合して得られた反応混合物を続いて第二段の反応器に連続して供給する二段重合が好ましい。
ポリエチレン系樹脂は、本発明で規定の範囲を満たせば、複数のエチレン重合体を別々に重合した後に混合したものでもよい。
【0036】
ポリエチレン系樹脂の製造には、重合触媒として、例えば、メタロセン系触媒、クロム触媒、及びチーグラー触媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の触媒を用いることができる。
【0037】
[メタロセン系触媒]
メタロセン系触媒としては、メタロセン錯体と呼ばれる、シクロペンタジエン骨格を有する配位子が遷移金属に配位してなる錯体と助触媒とを組み合わせたものが例示される。
具体的なメタロセン系触媒としては、Ti、Zr、Hfなどを含む遷移金属に、メチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、インデン等のシクロペンタジエン骨格を有する配位子が配位してなるメタロセン錯体と、助触媒として、アルミノキサン等の周期表第1族〜第3族元素の有機金属化合物とを、組み合わせたものや、これらの錯体触媒をシリカ等の担体に担持させた担持型のものが挙げられる。
【0038】
本発明で用いられるメタロセン系触媒は、以下の触媒成分(A)及び触媒成分(B)を含むものであり、必要に応じて触媒成分(C)と組み合わせてなる触媒である。
触媒成分(A):メタロセン錯体
触媒成分(B):触媒成分(A)と反応して、カチオン性メタロセン化合物を形成する化合物
触媒成分(C):微粒子担体
【0039】
(1)触媒成分(A)
触媒成分(A)は、周期表第4族遷移金属のメタロセン化合物が用いられる。具体的には、一般式(I)〜(VII)で表される化合物が使用される。
【0040】
(C5−a)(C5−b)MXY 一般式(I)
(C4−c)(C4−d)MXY 一般式(II)
(C4−e)ZMXY 一般式(III)
(C5−f)ZMXY 一般式(IV)
(C5−f)MXYW 一般式(V)
(C5−g)(C5−h)MXY 一般式(VI)
(C3−i)(C3−j)MXY 一般式(VII)
【0041】
ここで、Q、Q、Qは二つの共役五員環配位子を架橋する結合性基を、Qは共役五員環配位子とZ基を架橋する結合性基を、QはRとRを架橋する結合性基を、Mは周期表第3〜12族遷移金属を、X、Y及びWはそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のリン含有炭化水素基又は炭素数1〜20の珪素含有炭化水素基を、Zは酸素、イオウを含む配位子、炭素数1〜40の珪素含有炭化水素基、炭素数1〜40の窒素含有炭化水素基又は炭素数1〜40のリン含有炭化水素基を示す。Mは好ましくはTi、Zr、Hf等の第4族遷移金属である。
【0042】
〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、酸素含有炭化水素基、珪素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基又はホウ素含有炭化水素基を示す。これらの中で、R〜Rの少なくとも1つが複素環式芳香族基であることが好ましい。複素環式芳香族基の中でも、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基が好ましく、更には、フリル基、ベンゾフリル基が好ましい。これらの複素環式芳香族基は、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、珪素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基又はホウ素含有炭化水素基を有していても良いが、その場合、炭素数1〜20の炭化水素基、珪素含有炭化水素基が好ましい。また、隣接する2個のR、2個のR、2個のR、2個のR、2個のR、2個のR、又は2個のRが、それぞれ結合して炭素数4〜10個の環を形成していてもよい。a、b、c、d、e、f、g、h、i及びjは、それぞれ0≦a≦5、0≦b≦5、0≦c≦4、0≦d≦4、0≦e≦4、0≦f≦5、0≦g≦5、0≦h≦5、0≦i≦3、0≦j≦3を満足する整数である。
【0043】
2個の共役五員環配位子の間を架橋する結合性基Q、Q、Q、共役五員環配位子とZ基とを架橋する結合性基Q、及び、RとRを架橋するQは、具体的には下記のようなものが挙げられる。メチレン基、エチレン基のようなアルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、フェニルメチリデン基、ジフェニルメチリデン基のようなアルキリデン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジプロピルシリレン基、ジフェニルシリレン基、メチルエチルシリレン基、メチルフェニルシリレン基、メチル−t−ブチルシリレン基、ジシリレン基、テトラメチルジシリレン基のような珪素含有架橋基、ゲルマニウム含有架橋基、アルキルフォスフィン、アミン等である。これらのうち、アルキレン基、アルキリデン基、珪素含有架橋基、及びゲルマニウム含有架橋基が特に好ましく用いられる。
【0044】
上述の一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)及び(VII)で表される具体的なZr錯体を下記に例示するが、ZrをHf又はTiに置き換えた化合物も同様に使用可能である。また、一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)及び(VII)で示されるメタロセン錯体は、同一の一般式で示される化合物、又は異なる一般式で示される化合物の二種以上の混合物として用いることができる。
【0045】
一般式(I)の化合物
ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド、
ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)ジルコニウムジクロリド、
ビスフルオレニルジルコニウムジクロリド、
ビス(4H−アズレニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−メチル−4H−アズレニル)シクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド、
ビス(2−メチルビスシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−フリルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−フリルインデニル)ジルコニウムジクロリド、
ビス(2−フリル−4,5−ベンゾインデニル)ジルコニウムジクロリド。
【0046】
一般式(II)の化合物
ジメチルシリレンビス(1,1’−シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス[1,1’−(2−メチルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス[1,1’−(2−メチル−4−フェニル−インデニル)]ジルコニウムジクロリド、
エチレンビス[1,1’−(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス[1,1’−(2−メチル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス[1,1’−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス[1,1’−(2−エチル−4−フェニル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、
エチレンビス[1,1’−(2−メチル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド。
ジメチルシリレンビス[1,1’−(2−フリルシクロペンタジエニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−フリル)−4,5−ジメチル−シクロペンタジエニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−{2−[2−(5−トリメチルシリル)フリル]−4,5−ジメチル−シクロペンタジエニル}}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−フリル)インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−フリル)−4−フェニル−インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−(5−メチル)フリル)−4−フェニル−インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−(5−メチル)フリル)−4−(4−イソプロピル)フェニル−インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−(5−メチル)フリル)−4−(4−t−ブチル)フェニル−インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)[9−(2,7−t−ブチル)フルオレニル]ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)[9−(2,7−t−ブチル)フルオレニル]ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルシリレン(シクロペンタジエニル)[9−(2,7−t−ブチル)フルオレニル]ジルコニウムジクロリド。
【0047】
一般式(III)の化合物
(t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルジルコニウムジクロライド、
(メチルアミド)−(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル−ジルコニウムジクロライド、
(エチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−メチレンジルコニウムジクロライド、
(t−ブチルアミド)ジメチル−(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジクロライド、
(t−ブチルアミド)ジメチル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジベンジル、
(ベンジルアミド)ジメチル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジクロライド、
(フェニルホスフィド)ジメチル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジベンジル。
【0048】
一般式(IV)の化合物
(シクロペンタジエニル)(フェノキシ)ジルコニウムジクロリド、
(2,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(フェノキシ)ジルコニウムジクロリド、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(フェノキシ)ジルコニウムジクロリド、
(シクロペンタジエニル)(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)ジルコニウムジクロリド、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(2,6−ジ−i−プロピルフェノキシ)ジルコニウムジクロリド。
【0049】
一般式(V)の化合物
(シクロペンタジエニル)ジルコニウムトリクロリド、
(2,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムトリクロリド、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムトリクロリド、
(シクロペンタジエニル)ジルコニウムトリイソプロポキシド、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムトリイソプロポキシド。
【0050】
一般式(VI)の化合物
エチレンビス(7,7’−インデニル)ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{7,7’−(1−メチル−3−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{7,7’−[1−メチル−4−(1−ナフチル)インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス[7,7’−(1−エチル−3−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジメチルシリレンビス{7,7’−[1−イソプロピル−3−(4−クロロフェニル)インデニル]}ジルコニウムジクロリド。
【0051】
一般式(VII)の化合物
(i)2級炭素を含む錯体の例示:
(MeSi){η−CH−3,5−(CHMeZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(CHMeZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(CHMeZr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(CHMeZr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(2−アダマンチル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(2−アダマンチル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(2−アダマンチル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(2−アダマンチル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}Zr(CH
【0052】
meso−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(2−アダマンチル)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(シクロヘキシル)ZrCl、(MeSi){η−CH−3,5−(シクロヘキシル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(シクロヘキシル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(シクロヘキシル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(シクロヘキシル)−5−Me}Zr(CH、である。
【0053】
(ii)3級炭素を含む化合物の例示:
(MeSi){η−CH−3,5−(CMeZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(CMeZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(CMeZr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(CMeZr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(CMe)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(1−アダマンチル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(1−アダマンチル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(1−アダマンチル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(1−アダマンチル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(1−アダマンチル)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(1,1−ジメチルプロピル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(1,1−ジメチルプロピル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(1,1−ジメチルプロピル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(1,1−ジメチルプロピル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(1,1−ジメチルプロピル)−5−Me}Zr(CH、である。
【0054】
(iii)アルキルシリル基を含む化合物の例示:
(MeSi){η−CH−3,5−(ジメチルシリル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(ジメチルシリル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(ジメチルシリル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(ジメチルシリル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(トリメチルシリル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(トリメチルシリル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(トリメチルシリル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(トリメチルシリル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(トリメチルシリル)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(ジフェニルシリル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(ジフェニルシリル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(ジフェニルシリル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(ジフェニルシリル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジフェニルシリル)−5−Me}Zr(CH
(MeSi){η−CH−3,5−(フェニルメチルシリル)ZrCl
(MeSi){η−CH−3,5−(フェニルメチルシリル)ZrMe
(MeSi){η−CH−3,5−(フェニルメチルシリル)Zr(n−C
(MeSi){η−CH−3,5−(フェニルメチルシリル)Zr(CH
rac−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}Zr(n−C
rac−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}Zr(CH
meso−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}Zr(n−C
meso−(MeSi){η−CH−3−(フェニルメチルシリル)−5−Me}Zr(CH、である。
【0055】
上述した一般式(VII)の(i)〜(iii)の例示の中で好ましいのは、
rac−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(CHMe)−5−Me}ZrMe
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrCl
rac−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrMe
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrCl
meso−(MeSi){η−CH−3−(ジメチルシリル)−5−Me}ZrMe、である。
なお、これら具体例の化合物のシリレン基をゲルミレン基に置き換えた化合物も好適な化合物として例示される。
メタロセン錯体の特殊な例として、特開平7−188335号公報やJounal of American Chemical Society,1996、Vol.11 8,2291に開示されている5員環或いは6員環に炭素以外の元素を一つ以上含む配位子を有する遷移金属化合物も使用可能である。
また、複素環式炭化水素基を置換基として有するメタロセン錯体の例としては、特許第3674509号公報に開示されている。
【0056】
以上において記載した触媒成分(A)の中で、ポリエチレン系樹脂を製造するための好ましいメタロセン錯体としては、一般式(I)又は一般式(II)で表されるメタロセン錯体が好ましく、なかでも、シクロペンタジエニル環及び複素環式芳香族基を有するメタロセン錯体が好ましく、更には、インデニル環骨格を有するメタロセン錯体が好ましい。高分子量のポリマーを生成可能であり、エチレンと他のα−オレフィンとの共重合において共重合性に優れるという観点から、一般式(II)で表されるメタロセン錯体が好ましく、一般式(II)で表されインデニル環骨格を有するメタロセン錯体が最も好ましい。高分子量体を製造可能ということは、後述するような種々のポリマーの分子量の調整手法により、様々な分子量のポリマーの設計が行えるという利点がある。
更に、高分子量でかつ長鎖分岐を有するポリエチレン系樹脂を製造可能という観点から、一般式(II)で表されるメタロセン錯体の中でも、以下の化合物群が好ましい。
【0057】
好ましい態様の一例として、化合物群は、R〜Rとして、化合物内に少なくとも一つ、複素環式芳香族基を含有している架橋メタロセン錯体である。好ましい複素環式芳香族基としては、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基よりなる群が挙げられる。これらの置換基は、更に珪素含有基等の置換基を有していてもよい。フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基よりなる群から選択される置換基の中で、フリル基、ベンゾフリル基が更に好ましい。更には、これらの置換基が、置換シクロペンタジエニル基又は置換インデニル基の2位に導入されていることが好ましく、少なくとも1つ、他に縮環構造を有しない置換シクロペンタジエニル基を有している化合物であることが特に好ましい。
【0058】
これらの化合物をメタロセン錯体として用いることにより、更には、特定の重合条件を採用することにより、本発明において好ましいポリエチレン系樹脂を容易に製造することができる。
【0059】
これらのメタロセン錯体は、後述するような担持触媒として用いることが好ましい。第一の化合物群においては、フリル基はチエニル基に含有されるいわゆるヘテロ原子と担体上の固体酸などの相互作用により、活性点構造に不均一性が生じ、長鎖分岐が生成しやすくなったものと考えている。また、第二の化合物群においても、担持触媒にすることで、活性点まわりの空間が変化するため、長鎖分岐が生成しやすくなったものと考えている。
【0060】
(2)触媒成分(B)
本発明のポリエチレン系樹脂の製造方法は、重合用触媒の必須成分として、上記触媒成分(A)以外に、触媒成分(A)のメタロセン化合物(触媒成分(A)、以下、単にAと記すこともある。)と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物(触媒成分(B)、以下、単にBと記すこともある。)、必要に応じて微粒子担体(触媒成分(C)、以下、単にCと記すこともある。)を含んでいてもよい。
【0061】
触媒成分(B)の一つとして、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。
上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al−O−Al結合を有し、その結合数は通常1〜100個、好ましくは1〜50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
有機アルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
【0062】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、一般式(VIII)で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
AlX3−t 一般式(VIII)
(一般式(VIII)中、Rは、炭素数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等の炭化水素基を示し、Xは、水素原子又はハロゲン原子を示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
【0063】
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のいずれでも差し支えないが、メチル基であることが特に好ましい。
上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
【0064】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1〜1.2/1、特に、0.5/1〜1/1であることが好ましく、反応温度は、通常−70〜100℃、好ましくは−20〜20℃の範囲にある。反応時間は、通常5分〜24時間、好ましくは10分〜5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物等に含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。
もちろん、有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、前記有機アルミニウムオキシ化合物を前述の不活性炭化水素溶媒に溶液又は分散させた溶液としたものを用いても良い。
【0065】
また、触媒成分(B)の他の具体例として、ボラン化合物やボレート化合物が挙げられる。
上記ボラン化合物をより具体的に表すと、トリフェニルボラン、トリ(o−トリル)ボラン、トリ(p−トリル)ボラン、トリ(m−トリル)ボラン、トリ(o−フルオロフェニル)ボラン、トリス(p−フルオロフェニル)ボラン、トリス(m−フルオロフェニル)ボラン、トリス(2,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランなどが挙げられる。
【0066】
これらの中でも、トリス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランがより好ましく、更に好ましくはトリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボランが好ましい化合物として例示される。
【0067】
また、ボレート化合物を具体的に表すと、第1の例は、次の一般式(IX)で示される化合物である。
[L−H][BR 一般式(IX)
【0068】
一般式(IX)中、Lは、中性ルイス塩基であり、Hは、水素原子であり、[L−H]は、アンモニウム、アニリニウム、ホスフォニウム等のブレンステッド酸である。
アンモニウムとしては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウムなどのトリアルキル置換アンモニウム、ジ(n−プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウムなどのジアルキルアンモニウムを例示できる。
【0069】
また、アニリニウムとしては、N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムなどのN,N−ジアルキルアニリニウムが例示できる。
更に、ホスフォニウムとしては、トリフェニルホスフォニウム、トリブチルホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)ホスフォニウムなどのトリアリールホスフォニウム、トリアルキルホスフォニウムが挙げられる。
【0070】
また、一般式(IX)中、R及びRは、6〜20、好ましくは6〜16の炭素原子を含む、同じか又は異なる芳香族又は置換芳香族炭化水素基で、架橋基によって互いに連結されていてもよく、置換芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等に代表されるアルキル基やフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンが好ましい。
更に、X及びXは、ハイドライド基、ハライド基、1〜20の炭素原子を含む炭化水素基、1個以上の水素原子がハロゲン原子によって置換された1〜20の炭素原子を含む置換炭化水素基である。
【0071】
上記一般式(IX)で表される化合物の具体例としては、
トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
トリフェニルホスホニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリフェニルホスホニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルホスホニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
トリメチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリエチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリエチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリエチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
トリプロピルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリプロピルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリプロピルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
ジ(1−プロピル)アンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジシクロヘキシルアンモニウムテトラフェニルボレートなどを例示することができる。
【0072】
これらの中でも、
トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
ジメチルアニリニウテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートが好ましい。
【0073】
また、ボレート化合物の第2の例は、次の一般式(X)で表される。
[L[BR 一般式(X)
【0074】
一般式(X)中、Lは、カルボカチオン、メチルカチオン、エチルカチオン、プロピルカチオン、イソプロピルカチオン、ブチルカチオン、イソブチルカチオン、tert−ブチルカチオン、ペンチルカチオン、トロピニウムカチオン、ベンジルカチオン、トリチルカチオン、ナトリウムカチオン、プロトン等が挙げられる。また、R、R、X及びXは、前記一般式(IX)における定義と同じである。
【0075】
上記化合物の具体例としては、
トリチルテトラフェニルボレート、
トリチルテトラ(o−トリル)ボレート、
トリチルテトラ(p−トリル)ボレート、
トリチルテトラ(m−トリル)ボレート、
トリチルテトラ(o−フルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(p−フルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(m−フルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
トロピニウムテトラフェニルボレート、
トロピニウムテトラ(o−トリル)ボレート、
トロピニウムテトラ(p−トリル)ボレート、
トロピニウムテトラ(m−トリル)ボレート、
トロピニウムテトラ(o−フルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(p−フルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(m−フルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、NaBPh
NaB(o−CH−Ph)
NaB(p−CH−Ph)
NaB(m−CH−Ph)
NaB(o−F−Ph)
NaB(p−F−Ph)
NaB(m−F−Ph)
NaB(3,5−F−Ph)
NaB(C
NaB(2,6−(CF−Ph)
NaB(3,5−(CF−Ph)
NaB(C10
BPh・2ジエチルエーテル、
B(3,5−F−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(C・2ジエチルエーテル、
B(2,6−(CF−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(3,5−(CF−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(C10・2ジエチルエーテルを例示することができる。
【0076】
これらの中でも、
トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(3,5−ジトフルオロメチルフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、
NaB(C
NaB(2,6−(CF−Ph)
NaB(3,5−(CF−Ph)
NaB(C10
B(C・2ジエチルエーテル、
B(2,6−(CF−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(3,5−(CF−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(C10・2ジエチルエーテルが好ましい。
【0077】
更に好ましくは、これらの中でも
トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、
NaB(C
NaB(2,6−(CF−Ph)
B(C・2ジエチルエーテル、
B(2,6−(CF−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(3,5−(CF−Ph)・2ジエチルエーテル、
B(C10・2ジエチルエーテルが挙げられる。
【0078】
更に特に好ましい触媒成分(B)としては、有機アルミニウムオキシ化合物である。
これらの化合物を触媒成分(B)として用いることにより、更には、特定の重合条件を採用することにより、本発明において好ましいポリエチレン系樹脂を容易に製造することができる。
【0079】
(3)触媒成分(C)
触媒成分(C)である微粒子担体としては、無機物担体、粒子状ポリマー担体又はこれらの混合物が挙げられる。無機物担体は、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素質物、又はこれらの混合物が使用可能である。
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。
【0080】
また、金属酸化物としては、周期表1〜14族の元素の単独酸化物又は複合酸化物が挙げられ、例えば、SiO、Al、MgO、CaO、B、TiO、ZrO、Fe、Al・MgO、Al・CaO、Al・SiO、Al・MgO・CaO、Al・MgO・SiO、Al・CuO、Al・Fe、Al・NiO、SiO・MgOなどの天然又は合成の各種単独酸化物又は複合酸化物を例示することができる。
ここで、上記の式は、分子式ではなく、組成のみを表すものであって、本発明において用いられる複合酸化物の構造及び触媒成分比率は特に限定されるものではない。
また、本発明において用いる金属酸化物は、少量の水分を吸収していても差し支えなく、少量の不純物を含有していても差し支えない。
【0081】
金属塩化物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物が好ましく、具体的にはMgCl、CaClなどが特に好適である。
金属炭酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。
炭素質物としては、例えば、カーボンブラック、活性炭などが挙げられる。
以上の無機物担体は、いずれも本発明に好適に用いることができるが、特に金属酸化物、シリカ、アルミナなどの使用が好ましい。
【0082】
これら無機物担体は、通常、200〜800℃、好ましくは400〜600℃で空気中又は窒素、アルゴン等の不活性ガス中で焼成して、表面水酸基の量を0.8〜1.5mmol/gに調節して用いるのが好ましい。
これら無機物担体の性状としては、特に制限はないが、通常、平均粒径は5〜200μm、好ましくは10〜150μm、平均細孔径は20〜1000Å、好ましくは50〜500Å、比表面積は150〜1000m/g、好ましくは200〜700m/g、細孔容積は0.3〜2.5cm/g、好ましくは0.5〜2.0cm/g、見掛比重は0.10〜0.50g/cmを有する無機物担体を用いるのが好ましい。
【0083】
上記した無機物担体は、そのまま用いることもできるが、予備処理としてこれらの担体をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物に接触させた後、用いることができる。
【0084】
更に特に好ましい触媒成分(C)としては、SiO、Al、Al・SiOが挙げられる。
これらの化合物を触媒成分(C)として用いることにより、更には、特定の重合条件を採用することにより、本発明において好ましいポリエチレン系樹脂を容易に製造することができる。
【0085】
(4)接触方法等
本発明に用いるメタロセン系触媒は、触媒成分(A)と、触媒成分(B)、及び必要に応じて触媒成分(C)からなる触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
【0086】
接触方法(1):触媒成分(A)と、触媒成分(B)とを接触させた後、触媒成分(C)を接触させる。
接触方法(2):触媒成分(A)と、触媒成分(C)とを接触させた後、触媒成分(B)を接触させる。
接触方法(3):触媒成分(B)と、触媒成分(C)とを接触させた後、触媒成分(A)を接触させる。
【0087】
これらの接触方法の中で接触方法(1)及び(3)が好ましく、更に接触方法(1)が最も好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6〜12)、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素(通常炭素数5〜12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。
この接触は、通常−100℃〜200℃、好ましくは−50℃〜100℃、更に好ましくは0℃〜50℃の温度にて、5分〜50時間、好ましくは30分〜24時間、更に好ましくは30分〜12時間で行うことが望ましい。
【0088】
また、触媒成分(A)、触媒成分(B)と触媒成分(C)の接触に際しては、上記した通り、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族又は脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
【0089】
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素或いは芳香族炭化水素)を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、或いは一旦可溶性溶媒の一部又は全部を、乾燥等の手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本発明では、各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
【0090】
本発明において、触媒成分(A)と、触媒成分(B)と、触媒成分(C)の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
【0091】
触媒成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物を用いる場合、触媒成分(A)中の遷移金属(M)に対する有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウムの原子比(Al/M)は、通常、1〜100,000、好ましくは5〜1,000、更に好ましくは50〜200の範囲が望ましく、また、ボラン化合物やボレート化合物を用いる場合、メタロセン化合物中の遷移金属(M)に対する、ホウ素の原子比(B/M)は、通常、0.01〜100、好ましくは0.1〜50、更に好ましくは0.2〜10の範囲で選択することが望ましい。
更に、触媒成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物と、ボラン化合物、ボレート化合物との混合物を用いる場合にあっては、混合物における各化合物について、遷移金属(M)に対して上記と同様な使用割合で選択することが望ましい。
【0092】
触媒成分(C)の使用量は、触媒成分(A)中の遷移金属0.0001〜5mmol当たり、好ましくは0.001〜0.5mmol当たり、更に好ましくは0.01〜0.1mmol当たり、1gである。
【0093】
触媒成分(A)と、触媒成分(B)と、触媒成分(C)とを、前記接触方法(1)〜(3)のいずれかで相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下又は減圧下、0〜200℃、好ましくは20〜150℃で1分〜50時間、好ましくは10分〜10時間で行うことが望ましい。
【0094】
なお、メタロセン系触媒は、以下の方法によっても得ることができる。
接触方法(4):触媒成分(A)と触媒成分(C)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物、ボレート化合物又はこれらの混合物と接触させる。
接触方法(5):有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物、ボレート化合物又はこれらの混合物と触媒成分(C)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で触媒成分(A)と接触させる。
上記接触方法(4)、(5)の場合も、成分比、接触条件及び溶媒除去条件は、前記と同様の条件が使用できる。
【0095】
また、本発明のポリエチレン系樹脂の製造に用いる触媒成分(B)と触媒成分(C)とを兼ねる成分として、層状珪酸塩を用いることもできる。
層状珪酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる珪酸塩化合物である。
大部分の層状珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状珪酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0096】
これらの中では、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が好ましい。
【0097】
一般に、天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合は好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては、次のような化学処理が挙げられる。
ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。
具体的には、(イ)塩酸、硫酸等を用いて行う酸処理、(ロ)NaOH、KOH、NH等を用いて行うアルカリ処理、(ハ)周期表第2族〜第14族から選ばれた少なくとも1種の原子を含む陽イオンとハロゲン原子又は無機酸由来の陰イオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンからなる塩類を用いた塩類処理、(ニ)アルコール、炭化水素化合物、ホルムアミド、アニリン等の有機物処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
【0098】
前記層状珪酸塩は、全ての工程の前、間、後のいずれの時点においても、粉砕、造粒、分粒、分別等によって、粒子性状を制御することができる。その方法は、合目的的な任意のものであり得る。特に、造粒法について示せば、例えば、噴霧造粒法、転動造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、ブリケッティング法、コンパクティング法、押出造粒法、流動層造粒法、乳化造粒法及び液中造粒法等が挙げられる。特に好ましい造粒法は、上記の内、噴霧造粒法、転動造粒法及び圧縮造粒法である。
【0099】
上記した層状珪酸塩は、そのまま用いることもできるが、これらの層状珪酸塩をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物と組み合わせて用いることができる。
【0100】
本発明に用いるメタロセン系触媒において、触媒成分(A)を、層状珪酸塩に担持するには、触媒成分(A)と層状珪酸塩を相互に接触させる、或いは触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物、層状珪酸塩を相互に接触させてもよい。
各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
接触方法(6):触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物を接触させた後、層状珪酸塩担体と接触させる。
接触方法(7):触媒成分(A)と層状珪酸塩担体を接触させた後、有機アルミニウム化合物と接触させる。
接触方法(8):有機アルミニウム化合物と層状珪酸塩担体を接触させた後、触媒成分(A)と接触させる。
【0101】
これらの接触方法の中で接触方法(6)と(8)が好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6〜12)、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素(通常炭素数5〜12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。
【0102】
触媒成分(A)と、有機アルミニウム化合物、層状珪酸塩担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
触媒成分(A)の担持量は、層状珪酸塩担体1gあたり、0.0001〜5mmol、好ましくは0.001〜0.5mmol、更に好ましくは0.01〜0.1mmolである。
また、有機アルミニウム化合物を用いる場合のAl担持量は、0.01〜100mol、好ましくは0.1〜50mol、更に好ましくは0.2〜10molの範囲であることが望ましい。
【0103】
担持及び溶媒除去の方法は、前記の無機物担体と同様の条件が使用できる。
触媒成分(B)と触媒成分(C)とを兼ねる成分として、層状珪酸塩を用いると、重合活性が高く、長鎖分岐を有するエチレン系重合体の生産性が向上する。
こうして得られる重合用触媒は、必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用しても差し支えない。
【0104】
メタロセン系触媒の製造例として、例えば、特表2002−535339号公報や特開2004−189869号公報に記載の「触媒」及び「原料の配合比や条件」を参酌することにより、製造することができる。また、重合体のインデックスは、各種重合条件により制御することができ、例えば、特開平2−269705号公報や特開平3−21607号公報記載の方法により制御することができる。
【0105】
[チーグラー触媒]
チーグラー触媒は、Ti及び/又はVの化合物と周期表第1族〜第3族元素の有機金属化合物からなる固体チーグラー触媒等が挙げられる。
固体チーグラー触媒として、チタン(Ti)及び/又はバナジウム(V)並びにマグネシウム(Mg)を含有する固体触媒が挙げられ、これらの成分と共に用いることのできる有機金属化合物として、有機アルミニウム化合物、中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましいものとして挙げられる。
重合反応中における有機アルミニウム化合物の使用量は、特に制限されないが、用いる場合には、通常遷移金属化合物1モルに対して、0.05〜1000モルの範囲が好ましい。
【0106】
チーグラー触媒の例として、例えば、特開昭63−202602号公報の実施例1等に記載の「触媒」を使用し、重合方法として、特開2004−123995号公報の実施例1等に記載の「原料の配合比や条件」を参酌することにより、本発明におけるポリエチレン系樹脂を製造することができる。
【0107】
[クロム触媒]
クロム触媒は、一般にフィリップス触媒として知られているものが挙げられる。この触媒の概要は、下記の文献等に記載されている。
M.P.McDaniel著,Advances in Catalysis,Volime 33,47頁,1985年,Academic Press Inc.
M.P.McDaniel著,Handbook of Heterogeneous Catalysis,2400頁,1997年,VCH
M.B.Welchら著,Handbook of Polyolefins:Synthesis and Properties,21頁,1993年,Marcel Dekker
【0108】
クロム触媒は、有機アルミニウム化合物担持クロム触媒でもよい。中でも、ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物担持クロム触媒が好ましく、クロム化合物を無機酸化物担体に担持し、非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子を6価とした後、さらに不活性炭化水素溶媒中でジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物を担持させ、次いで溶媒を除去・乾燥することにより調製されたクロム触媒であることがより好ましい。
【0109】
クロム触媒における無機酸化物担体としては、周期律表第2、4、13又は14族の金属の酸化物が好ましい。具体的にはマグネシア、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、トリア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナまたはこれらの混合物が挙げられる。なかでもシリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナが好ましい。シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナの場合、シリカ以外の金属成分としてチタン、ジルコニウムまたはアルミニウム原子が0.2〜10質量%、好ましくは0.5〜7質量%、更に好ましくは1〜5質量%含有されたものが用いられる。
これらのクロム触媒に適する担体の製法、物理的性質および特徴は、下記の文献等に記載されている。
C.E.Marsden著,Preparation of Catalysts,Volume V,215頁,1991年,Elsevier Science Publishers
C.E.Marsden著,Plastics,Rubber and Composites Processing and Applications,Volume 21,193頁,1994年
【0110】
本発明において、焼成活性化前のクロム触媒の担体の比表面積が250〜1000m/g、好ましくは300〜900m/g、更に好ましくは400〜800m/gとなるように無機酸化物担体を選択することが好ましい。比表面積が250m/g以上の場合は、分子量分布が広くかつ長鎖分岐が少なくなることと関係すると考えられるが、耐久性、耐衝撃性をともに向上させることができる。また、比表面積が1000m/g以下の担体は、製造が容易である。
【0111】
無機酸化物担体の細孔体積としては、0.5〜3.0cm/g、好ましくは1.0〜2.0cm/g、更に好ましくは1.2〜1.8cm/gの範囲のものが用いられる。細孔体積が0.5cm/g以上の場合は、重合時に重合ポリマーによって細孔が小さくなるのを抑制し、モノマーが拡散できなくなることによる活性の低下を抑制することができる。細孔体積が3.0cm/g以下の担体は、製造が容易である。
無機酸化物担体の平均粒径としては、10〜200μm、好ましくは20〜150μm、更に好ましくは30〜100μmの範囲のものが用いられる。
【0112】
上記無機酸化物担体にクロム化合物を担持させる。クロム化合物としては、担持後に非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となる化合物であればよく、酸化クロム、クロムのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、クロム酸塩、重クロム酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、クロム−1,3−ジケト化合物、クロム酸エステル等が挙げられる。具体的には三酸化クロム、三塩化クロム、塩化クロミル、クロム酸カリウム、クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、トリス(2−エチルヘキサノエート)クロム、クロムアセチルアセトネート、ビス(tert−ブチル)クロメート等が挙げられる。なかでも三酸化クロム、酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートが好ましい。酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートのような有機基を有するクロム化合物を用いた場合でも、後に述べる非還元性雰囲気での焼成活性化によって有機基部分は燃焼し、最終的には三酸化クロムを用いた場合と同様に無機酸化物担体表面の水酸基と反応し、少なくとも一部のクロム原子は6価となってクロム酸エステルの構造で固定化されることが知られている(V.J.Ruddickら著,J.Phys.Chem.,Volume100,11062頁,1996年、S.M.Augustineら著,J.Catal.,Volume 161,641頁,1996年)。
【0113】
無機酸化物担体へのクロム化合物の担持は、含浸、溶媒留去、昇華等の公知の方法によって行うことができ、使用するクロム化合物の種類によって適当な方法を用いればよい。
担持するクロム化合物の量は、クロム原子として担体に対して0.2〜2.0質量%、好ましくは0.3〜1.7質量%、更に好ましくは0.5〜1.5質量%である。
【0114】
クロム化合物の担持後に焼成して活性化処理を行う。焼成活性化は水分を実質的に含まない非還元性雰囲気、例えば酸素又は空気下で行うことができる。この際、不活性ガスを共存させてもよい。好ましくは、モレキュラーシーブス等を流通させ十分に乾燥した空気を用い、流動状態下で行う。焼成活性化は、350〜900℃、好ましくは420〜850℃、更に好ましくは450〜800℃にて、30分〜48時間、好ましくは1時間〜36時間、更に好ましくは2時間〜24時間行う。この焼成活性化により、無機酸化物担体に担持されたクロム化合物のクロム原子が少なくとも一部は6価に酸化されて担体上に化学的に固定される。焼成活性化を350℃以上で行うと、所望の重合活性が得られる。一方、900℃以下の温度で焼成活性化を行うと、シンタリングを抑制し、活性の低下を抑制することができる。
【0115】
ポリエチレン系樹脂の製造に際して、クロム化合物担持前又はクロム化合物担持後の焼成活性化前に、チタンテトライソプロポキシドのようなチタンアルコキシド類、ジルコニウムテトラブトキシドのようなジルコニウムアルコキシド類、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド類、トリアルキルアルミニウムのような有機アルミニウム類、ジアルキルマグネシウムのような有機マグネシウム類などに代表される金属アルコキシド類若しくは有機金属化合物やケイフッ化アンモニウムのようなフッ素含有塩類等を添加して、エチレン重合活性、ポリエチレン系樹脂の分子量、分子量分布を調節することができる。
【0116】
これらの金属アルコキシド類若しくは有機金属化合物は、非還元性雰囲気での焼成活性化によって有機基部分は燃焼し、チタニア、ジルコニア、アルミナ又はマグネシアのような金属酸化物に酸化されて触媒中に含まれる。また、フッ素含有塩類の場合は無機酸化物担体がフッ素化される。これらの方法は、下記の文献等に記載されている。
C.E.Marsden著,Plastics,Rubber and Composites Processing and Applications,Volume 21,193頁,1994年
T.Pullukatら著,J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.,Volume 18,2857頁,1980年
M.P.McDanielら著,J.Catal.,Volume 82,118頁,1983年
【0117】
本発明において、焼成活性化したクロム触媒に不活性炭化水素溶媒中でジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物を担持し、更に溶媒を除去・乾燥して、ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物担持クロム触媒として用いてもよい。
ジアルキルアルミニウムアルコキシドは、一般式(XI)で示される化合物である。
Al(OR) 一般式(XI)
(式中、R、R、Rは炭素原子数1〜18のアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
【0118】
ジアルキルアルミニウムアルコキシドの具体例としては、下記のもの等が挙げられる。
ジメチルアルミニウムメトキシド、
ジメチルアルミニウムエトキシド、
ジメチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジメチルアルミニウムイソプロポキシド、
ジメチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジメチルアルミニウムイソブトキシド、
ジメチルアルミニウムアミルオキシド、
ジメチルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジメチルアルミニウムオクチルオキシド、
ジエチルアルミニウムメトキシド、
ジエチルアルミニウムエトキシド、
ジエチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジエチルアルミニウムイソプロポキシド、
ジエチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジエチルアルミニウムイソブトキシド、
ジエチルアルミニウムアミルオキシド、
ジエチルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジエチルアルミニウムオクチルオキシド、
ジn−プロピルアルミニウムメトキシド、
ジn−プロピルアルミニウムエトキシド、
ジn−プロピルアルミニウムn−プロポキシド、
ジn−プロピルアルミニウムイソプロポキシド、
ジn−プロピルアルミニウムn−ブトキシド、
ジn−プロピルアルミニウムイソブトキシド、
ジn−プロピルアルミニウムアミルオキシド、
ジn−プロピルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジn−プロピルアルミニウムオクチルオキシド、
ジn−ブチルアルミニウムメトキシド、
ジn−ブチルアルミニウムエトキシド、
ジn−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジn−ブチルアルミニウムイソプロポキシド、
ジn−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジn−ブチルアルミニウムイソブトキシド、
ジn−ブチルアルミニウムアミルオキシド、
ジn−ブチルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジn−ブチルアルミニウムオクチルオキシド、
ジイソブチルアルミニウムメトキシド、
ジイソブチルアルミニウムエトキシド、
ジイソブチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジイソブチルアルミニウムイソプロポキシド、
ジイソブチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、
ジイソブチルアルミニウムアミルオキシド、
ジイソブチルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジイソブチルアルミニウムオクチルオキシド、
ジヘキシルアルミニウムメトキシド、
ジヘキシルアルミニウムエトキシド、
ジヘキシルアルミニウムn−プロポキシド、
ジヘキシルアルミニウムイソプロポキシド、
ジヘキシルアルミニウムn−ブトキシド、
ジヘキシルアルミニウムイソブトキシド、
ジヘキシルアルミニウムアミルオキシド、
ジヘキシルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジヘキシルアルミニウムオクチルオキシド、
ジオクチルアルミニウムメトキシド、
ジオクチルアルミニウムエトキシド、
ジオクチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジオクチルアルミニウムイソプロポキシド、
ジオクチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジオクチルアルミニウムイソブトキシド、
ジオクチルアルミニウムアミルオキシド、
ジオクチルアルミニウムヘキシルオキシド、
ジオクチルアルミニウムオクチルオキシド
【0119】
なかでも、下記のもの等が好ましい。
ジエチルアルミニウムエトキシド、
ジエチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジエチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジn−ブチルアルミニウムエトキシド、
ジn−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジn−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、
ジイソブチルアルミニウムエトキシド、
ジイソブチルアルミニウムn−プロポキシド、
ジイソブチルアルミニウムn−ブトキシド。
【0120】
ジアルキルアルミニウムアルコキシドは、(i)トリアルキルアルミニウムとアルコールを反応させる方法、(ii)ジアルキルアルミニウムハライドと金属アルコキシドを反応させる方法等により簡単に合成することができる。
【0121】
ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物の担持量は、クロム原子に対する有機アルミニウム化合物のモル比が0.1〜20、好ましくは0.3〜15、更に好ましくは0.5〜10である。このモル比が20を越えるとエチレン重合活性がジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物を担持しない場合よりも低下するとともに、分子量分布が広くなり耐久性は向上するものの耐衝撃性は低下してしまうおそれがある。この活性低下の理由は不明であるが、過剰のジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物がクロム活性点と結合してエチレン重合反応を阻害しているためと考えられる。
【0122】
ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物を担持する方法としては、焼成活性化後のクロム触媒を不活性炭化水素中の液相で接触させる方法ならば特に限定されない。例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒に焼成活性化後のクロム触媒を混合してスラリー状態とし、これにジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物を添加する方法が好ましい。添加するジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物は、上記不活性炭化水素溶媒で希釈してもよいし、希釈せずに添加してもよい。希釈用溶媒と担持用の溶媒は同じでも異なってもよい。
【0123】
不活性炭化水素溶媒の使用量は、触媒の調製時に少なくともスラリー状態で攪拌を行えるに十分な量であることが好ましい。このような量であれば、溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば焼成活性化後のクロム触媒1g当たり溶媒2〜20gを使用することができる。また担持反応を行う際の攪拌の速度は、スラリー状態で攪拌を均一に行える程度であることが好ましい。
【0124】
本発明において、不活性炭化水素溶媒中でクロム触媒をジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物により処理する際の溶媒へのジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物とクロム触媒の添加順序は任意である。具体的には、不活性炭化水素溶媒にクロム触媒を懸濁させ、ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物を添加してこれを攪拌する担持反応の操作が好ましい。
また、触媒の活性を上げるためにジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物の他に、修飾メチルアルミノキサン(MMAO)、又はジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウムといった有機マグネシウムを別途加えることが好ましい。この中でMMAOが触媒活性を上げるために好ましく用いられる。その具体的な方法としては、不活性炭化水素溶媒にクロム触媒を懸濁させ、MMAOを添加する。これを攪拌した後、ジアルキルアルミニウム化合物を添加して攪拌する担持反応の操作が好ましい。
【0125】
該担持反応の温度は0〜150℃、好ましくは10〜100℃、更に好ましくは20〜80℃、担持反応の時間は5分〜8時間、好ましくは30分〜6時間、更に好ましくは1〜4時間である。有機アルミニウム化合物は焼成活性化後に少なくとも一部が6価となったクロム原子と反応し、これを低原子価のクロム原子に還元する。この現象は焼成活性化後のクロム触媒が6価のクロム原子特有のオレンジ色であるのに対して、有機アルミニウム化合物による担持操作をされたクロム触媒が緑色もしくは青緑色であることから確認できる。即ち、このクロム触媒の色の変化から6価クロム原子の少なくとも一部が3価又は2価のクロム原子に還元されているものと推定される。
近年、Teranoらは、賦活したクロム触媒にトリエチルアルミニウムをヘプタン溶媒中で担持後に乾燥し、X線光電子分光法(XPS)でCr原子の原子価を測定しており、6価クロム原子だけではなく、2価、3価、5価のクロム原子の存在を観測している(M.Teranoら著,J.Mol.Catal.A:Chemical,Volume 238,142頁,2005年)。
ただし、全Cr原子のなかで実際の重合活性点の割合は約10%〜30%と言われており(M.P.McDanielら著、J.Phys.Chem.,Volume 95,3289頁、1991年)、重合活性点のクロム原子の原子価が何であるかは現時点で結論は得られていない。
Monoiらはトリアルキルクロム錯体をシリカに担持した触媒がフィリップス触媒と同様の重合挙動を示すこと(T.Monoiら著,Polym.J.,Volume 35,608頁,2003年)、また、Espelidらはフィリップス触媒のモデル活性点におけるエチレン挿入反応の活性化エネルギーを理論計算することにより、3価のクロム原子が活性点の原子価であることを提唱している(O.Espelidら著,J.Catal.,Volume 195,125頁,2000年)。
【0126】
攪拌を停止して担持操作を終了した後は、速やかに溶媒を除去することが必要である。
この溶媒の除去は減圧乾燥により行うが、この際濾過を併用することもできる。この減圧乾燥では、有機アルミニウム化合物担持クロム触媒が自由流動性の粉末として得られるように乾燥させる。触媒を溶媒と分離せずに長時間保管すると触媒が経時劣化し、エチレン重合活性が低下する。従って、担持反応の際の溶媒との接触時間をも含めて、溶媒との接触時間を極力短縮し、速やかに溶媒を分離・除去することが好ましい。
【0127】
速やかな溶媒の分離・除去によって重合活性が向上する効果が得られる理由の詳細は不明であるが、溶媒存在下ではクロム活性点と有機アルミニウム化合物の反応が進行し続けることになり、その結果非還元性雰囲気で焼成活性化され一部が6価となったクロム原子が2価、1価、0価のクロム原子に過還元されてエチレン重合反応を阻害するような触媒構造に変化することによるものと考えられる。
ただし、過還元状態におけるクロムの原子価の具体的な価数等を示すこと等過還元状態を具体的に示すことは困難である。或いは、ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物と6価クロム原子(正確にはシリカ表面のシラノール基と化学結合した酸化クロム)の反応によって生成すると推定される有機アルミニウム種が重合活性点に配位し、エチレン重合反応を阻害していることも考えられる。
担持反応終了後、溶媒を分離し乾燥するのに要する時間は担持反応時間の3倍以内が好ましく、更に2倍以内が好ましく、特に1倍以内が好ましい。担持開始から溶媒除去・乾燥完了となるまでの合計の時間は、5分〜24時間、好ましくは30分〜18時間、更に好ましくは1〜12時間である。
【0128】
乾燥完了後の有機アルミニウム化合物担持クロム触媒は自由流動性(free flowing)のさらさらの状態にあることが好ましい。
【0129】
なお、有機アルミニウム化合物をクロム触媒と併用する場合、クロム触媒と有機アルミニウム化合物とを反応器に希釈溶媒の存在下又は不存在下に直接又は別々にフィードする方法と、クロム触媒と有機アルミニウム化合物を一旦溶媒中で予備混合又は接触させ、この混合スラリーを反応器にフィードする方法が考えられる。
しかし、いずれの方法も、クロム触媒と有機アルミニウム化合物を反応器に別々に供給しながら連続生産を行うものであるから、連続的に供給するクロム触媒と有機アルミニウム化合物の量とその比率を正確に調整しなければ、得られるポリエチレン系樹脂の重合活性や分子量が変動して同一規格の成形品を連続的に生産することは困難となる。
【0130】
クロム触媒を用いる製造方法によれば、クロム含有量が0.1〜20質量ppmであるポリエチレン系樹脂であることが好ましく、より好ましくは0.2〜15質量ppmである。クロム含有量が20質量ppm以下であると、ポリエチレン系樹脂中の触媒残渣が少なくなり、樹脂が色相を帯びにくく、また、成形品の内容物のクリーン性が保たれるために好ましい。
【0131】
[その他の添加物]
本発明のポリエチレン系樹脂は、特性(1)〜(3)を同時に満足する範囲内で、下記の物質を任意成分として配合することができる。
例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、極性モノマーグラフト変性ポリエチレン、エチレン系ワックス、超高分子量ポリエチレン、エチレン系エラストマー等の各種エチレン系重合体及びその変性体を使用できる。
高密度ポリエチレンの添加は、剛性、耐熱性、衝撃強度等を向上するのに好ましい。
低密度ポリエチレンの添加は、柔軟性、衝撃強度、易接着性、透明性、低温強度等を向上するのに好ましい。
高圧法ポリエチレンの添加は、柔軟性、易接着性、透明性、低温強度、成形加工性等を向上するのに好ましい。
マレイン酸変性ポリエチレンやエチレン・アクリル酸誘導体共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の極性モノマーグラフト変性ポリエチレンの添加は、柔軟性、易接着性、着色性、各種材料親和性、燃料バリア性等を向上させるためには好ましい。
エチレン系ワックスの添加は、着色性、各種材料親和性、成形加工性等を向上させるためには好ましい。
超高分子量ポリエチレンの添加は、機械的強度、耐摩耗性等を向上させるためには好ましい。
エチレン系エラストマーの添加は、柔軟性、機械的強度、衝撃強度等を向上させるためには好ましい。
また、上記の重合体以外に、各種樹脂を使用できる。具体的には、各種ナイロン樹脂、各種ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、各種ポリエステル、ポリカーボネート樹脂、EVOH、EVA、PMMA、PMA、各種エンジニアリングプラスチック、ポリ乳酸等、セルロース類、天然ゴム類、ポリウレタン、塩ビ、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、シリコン樹脂等の無機系重合体等である。
【0132】
また、上記の方法により得られるポリエチレン系樹脂には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上、適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能であり、なかでも炭酸カルシウム、タルク及びマイカ等を用いるのが好ましい。いずれの場合でも、上記ポリエチレン系樹脂に、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0133】
酸化防止剤として、例えば、下記のもの等が挙げられる。
2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系。
4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール等のビスフェノール系。
1,1,3−トリス(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス〔β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等のトリ以上のポリフェノール系。
2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のチオビスフェノール系、アルドール−α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン等のナフチルアミン系。
p−イソプロポキシジフェニルアミン等のジフェニルアミン系。
N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系。
これらの中で、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系等が好ましい。
【0134】
光安定剤や紫外線吸収剤の具体例としては、4−t−ブチルフェニルサリシレート、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、エチル−2−シアノ−3,3′−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−ジアノ−3,3′−ジフェニルアクリレート、2(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2(2′−ヒドロキシ−3,5′−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−5−クロルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2(2′−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、モノグリコールサリチレート、オキザリック酸アミド、フェニルサリチレート、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0135】
金属害防止剤は、ヒドラジド誘導体、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体などを挙げることができる。
ヒドラジド誘導体金属害防止剤としては、N,N′−ジアセチルアジピン酸ヒドラジド、アジピン酸ビス(α−フェノキシプロピオニルヒドラジド)、テレフタル酸ビス(α−フェノキシプロピオニルヒドラジド)、セバチン酸ビス(α−フェノキシプロピオニルヒドラジド)、イソフタル酸ビス(β−フェノキシプロピオニルヒドラジド)などが挙げられる。
シュウ酸誘導体金属害防止剤としては、N,N′−ジベンザル(オキザリルジヒドラジド)、N−ベンザル−(オキザリルジヒドラジド)、オキザリルビス−4−メチルベンジリデンヒドラジド、オキザリルビス−3−エトキシベンジリデンヒドラジド等が挙げられる。
また、サリチル酸誘導体金属害防止剤としては、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドが挙げられる。
本発明において好ましい金属害防止剤は、サリチル酸誘導体金属害防止剤である。
【0136】
これらの安定剤の添加量は、特に限定されるものではないが、ポリエチレン系樹脂100質量部に対し、好ましくは0.001〜5質量部であり、更に好ましくは0.001〜3質量部である。0.001質量部以上では十分な安定化効果が得られ、5質量部以下では着色等の影響を抑制し、また成形不良を抑制することができ、添加量を節約でき経済的である。
ポリエチレン系樹脂中の安定剤は、蛍光X線分析、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0137】
[ポリエチレン系樹脂の用途]
本発明のポリエチレン系樹脂は、上記特性を満足するものであるので、これを用いた成形体は、剛性、成形性、耐衝撃性、及び耐久性のバランスに優れ、さらに燃料バリア性に優れる。
従って、ポリエチレン系樹脂の用途としては、例えば、大型容器用小部品、燃料タンク、パイプ、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器及びプラスチックボトル等に使用でき、特に自動車の燃料タンク等の中空プラスチック製品等に好適に用いることができる。
その他の用途として、ガス用及び上水道用等の各種パイプ、フィルム、ラミネート、コーティング、繊維、食品用及び日用雑貨用等の射出成形体、圧縮射出成形体、回転成形体又は押出成形体等が挙げられる。
また本発明で得られるポリエチレン系樹脂は、単一材としてだけではなく、張力改善のために他の樹脂とのブレンド材として、上記に挙げた製品用途として用いることもできる。
【0138】
[ポリエチレン系樹脂の成形]
本発明のポリエチレン系樹脂は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができる。
本発明のポリエチレン系樹脂を用いた成形品の製造方法は、特に限定されるものではないが、公知の押出ブロー成形法、射出成形法等により製造することができる。
【0139】
本発明のポリエチレン系樹脂を用いて成形される小部品としては、特に射出成形による大型容器用小部品が好ましい例として挙げられる。
大型容器用小部品とは、大型容器に取り付ける小部品であって、工業薬品缶、ドラム缶においては蓋(キャップ)、内溶液供給口、または取り出し口等の部品が該当し、燃料タンクにおいては、燃料タンク本体に溶着された燃料供給口、バルブまたは燃料ポンプ固定用蓋(キャップ)等が該当する。
この小部品とは、大型容器に溶着、ウェルドすることによって大型容器に一体に取り付ける、取っ手、内溶液供給口、または取り出し口等の役割を果たす中空パイプ状小部品、大型容器の開口部の補強部品、インレット、開口部ライナーのような各種部品を挙げることが出来る。
また、大型容器の蓋(キャップ)のような、大型容器のネジ山に取り付ける為の内面にネジ山を設けたキャップ、大型容器の口への単なるはめ込み式のキャップなど、いわゆる大型容器とは別体で取り扱われる多くの所定の形状に設計変更された小部品を対象とする。
【0140】
なお、大型容器とは、通常、内容積5L以上の容器をいい、工業薬品缶、燃料タンク、ドラム缶等が当てはまり、80℃定荷重破断時間(TB)が通常100〜300時間程度のものが一般的である。
詳細には、本発明の用途である小部品を装着する大型容器とは、大きさ、容量およびその形状はその大型容器の用途を考慮して任意に変えることができるが、通常ジェリカン(20〜50L程度)、ドラム(20〜220L程度)、IBC(約1000L程度)、タンク(約1000L程度)、燃料タンク(約5〜150L程度)のような、ポリエチレン単独あるいは多層構造であってポリエチレンを主体とするプラスチック製のものを対象にしている。
【0141】
[成形品]
本発明の成形品は、前記本発明のポリエチレン系樹脂を含み、好ましくは当該ポリエチレン系樹脂で構成される。
本発明の成形品は、各種の公知の成形方法で得られ、一例として、中空成形法による中空成形品が挙げられる。
中空成形品は、前記本発明のポリエチレン系樹脂からなる層を少なくとも1層有する構造、好ましくは多層有する構造のもの等が挙げられる。
また、当該中空成形品は、前記本発明のポリエチレン系樹脂からなる単層構造のものであってもよい。
中空成形品が多層構造の場合、浸透低減遮断層を有するのが好ましく、浸透低減遮断層には、通常バリア層が用いられる。
本発明の成形品の用途としては、例えば、自動車用燃料タンク、各種燃料タンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器、各種プラスチックボトル等が挙げられ、軽量かつ高い耐衝撃性が要求される自動車用燃料タンクに好適である。
【0142】
中空成形品(中空プラスチック成形品)の層構造が2層以上であるとき、最内層と最外層が前記本発明のポリエチレン系樹脂からなるものが好ましい。
中空成形品は、少なくとも1層のバリア層を存在させて、揮発性物質の浸透を減らし且つ該バリア層が極性の遮断ポリマーから構成されている浸透低減遮断層を含む多層構造が好ましい。例えば、プラスチック燃料タンクの場合、タンクの壁を多層構造とすると、バリア層(それ単独では成形性及び機械強度が十分ではない)を、本発明のポリエチレン系樹脂からなる2層の間に固定化できるという利点がある。結果として、特に共押出ブロー成形中に、本発明のポリエチレン系樹脂を2層以上有する材料の成形性は、主として本発明のポリエチレン系樹脂の有する成形性の影響を受けて改善される。更に、本発明のポリエチレン系樹脂の有する性能は、材料の機械強度に極めて重要な影響を及ぼすので、本発明の中空成形品の強度を顕著に増大させることが可能となる。
また、中空成形品においては、フッ素化、表面被覆又はプラズマ重合等の処理により、本発明のポリエチレン系樹脂からなる層の表面に基層を被覆するようにしてもよい。
【0143】
中空成形品は、内側から最内層、接着層、バリア層、接着層、再生材層、最外層の順に積層されている5種6層の中空成形品であることが好ましい。バリア層を接着層で挟むことにより、高度な燃料バリア性が発揮される。最外層と接着層の間に再生材層を有することにより、原材料費の削減によるコストダウンおよび中空成形品の剛性の保持という効果が発揮される。
【0144】
以下に、上記態様における各層の構成、層構成比について詳細に説明する。
【0145】
(1)最外層
中空成形品の最外層を構成する樹脂は、本発明のポリエチレン系樹脂とするのが好ましい。
【0146】
(2)最内層
中空成形品の最内層を構成する樹脂は、本発明のポリエチレン系樹脂とするのが好ましく、上記の最外層を構成する樹脂と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0147】
(3)バリア層
中空成形品のバリア層を形成する樹脂は、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等から選ばれるものであるが、特にエチレンビニルアルコール樹脂からなることが好ましい。エチレンビニルアルコール樹脂は、ケン化度が好ましくは93%以上、より好ましくは96%以上で、エチレン含量が、好ましくは25〜50モル%である。
【0148】
(4)接着層
中空成形品の接着層を形成する樹脂は、不飽和カルボン酸又はその誘導体によりグラフト変性した高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等から選ばれるものであるが、特に不飽和カルボン酸又はその誘導体によりグラフト変性した高密度ポリエチレンからなることが好ましい。
不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有量は、接着層を構成する樹脂中、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.01〜3質量%、更に好ましくは0.01〜1質量%である。不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有量が0.01質量%未満であると十分な接着性能が発現せず、5質量%を超えると接着性に寄与しない不飽和カルボン酸が接着性に悪影響を与える。
【0149】
(5)再生材層
中空成形品の再生材層を形成する樹脂は、最外層を形成するポリエチレン系樹脂、最内層を形成するポリエチレン系樹脂、バリア層を形成する樹脂、及び接着層を形成する樹脂を含む組成物である。
再生材層を形成する樹脂の各成分は新品を使用することもできるし、それぞれの樹脂からなる各層を含む多層積層体のスクラップ、バリ等の不要部分を回収、再利用してこのようなリサイクル品を各成分の成分原料とすることもできる。例えば、一旦成形され、使用されて利用済みの中空成形品(自動車用燃料タンク製品等)を粉砕してなるリグラインド樹脂が挙げられる。多層積層体を作製する際に発生した成形バリや未使用パリソンをリサイクル材として使用する場合、各種成分の相溶性が低下することがあるので、相溶化剤や接着層を構成する樹脂をさらに混合してもよい。
【0150】
(6)中空成形品の層構成比
中空成形品は、各層の厚み構成によって制限されないが、例えば厚み比で最外層が10〜30%、最内層が20〜50%、バリア層が1〜15%、接着層が1〜15%、及び再生材層が30〜60%(ただし全ての層厚み構成比の合計が100%)である。
最外層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは10〜30%、より好ましくは10〜25%、更に好ましくは10〜20%である。最外層の層構成比が10%未満であると、衝撃性能が不足し、30%を超えると中空成形品の成形安定性が損なわれる傾向にある。
最内層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜50%、更に好ましくは40〜50%である。最内層の層構成比が20%未満であると、中空プラスチック成形品の剛性不足が顕在化し、50%を超えると中空プラスチック成形品の成形安定性が損なわれる傾向にある。
バリア層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは1〜15%、より好ましくは1〜10%、更に好ましくは1〜5%である。バリア層の層構成比が1%未満であると、燃料バリア性能が不足し、15%を超えると衝撃性能が不足する傾向にある。
接着層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは1〜15%、より好ましくは1〜10%、更に好ましくは1〜5%である。接着層の層構成比が1%未満であると、接着性能が不足し、15%を超えると中空成形品の剛性不足が顕在化する傾向にある。
再生材層の構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは30〜60%、より好ましくは35〜50%、更に好ましくは35〜45%である。再生材層の層構成比が30%未満であると、中空プラスチック成形品の成形安定性が損なわれ、60%を超えると衝撃性能が不足する傾向にある。
【実施例】
【0151】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。
【0152】
1.各種評価(測定)方法
(1)温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)
JIS K6922−2:1997に準拠して測定した。
(2)密度(D、単位:g/cm
JIS K7112:2004に準拠して測定した。
(3)−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度
JIS K−7111(2004年)に準拠し、タイプ1の試験片を作製し、打撃方向はエッジワイズ、ノッチのタイプはタイプA(0.25mm)として、恒温槽で冷却し、−40℃で測定した。
【0153】
(4)全周ノッチ式引張クリープ試験による破断時間(T)
JIS K−6992−2(2004年版)に準拠し、厚さ5.9mmのシートを圧縮成形した後、JIS K−6774(2004年版)附属書5(規定)図2に示された区分「呼び50」の形状と寸法の試験片を作製し、80℃の純水中で全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)を行った。引張荷重は88N、98N、108Nとし、試験点数は各荷重で2点とした。得られた両対数スケールにおける破断時間と公称応力の6点のプロットから最小二乗法により公称応力6MPaにおける破断時間を耐クリープ性の指標とした。
【0154】
(5)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる分子量
以下に示す条件で測定し、重量平均分子量と数平均分子量の比を求めた。単分散ポリスチレンでユニバーサルな検量線を作成し、直鎖のポリエチレンの分子量として計算した。
装置:WATERS社製Alliance GPC V2000型
カラム:昭和電工社製HT−806Mを2本+HT−Gを1本
測定温度:145℃
濃度:1mg/1ml
溶媒:o−ジクロロベンゼン
なお、分子量の計算及びカラムの較正は、以下の方法に準拠して行うことができる。
GPCクロマトデータは、1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行ない、Mw、Mn値を計算することができる。測定保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行った。
【0155】
(6)炭化水素化合物の透過量(P、単位:g/日)
金属容器(材質:アルミニウム、内径60mmφ、深さ50mmの円筒状容器であって、上面が開口している容器)に、液体燃料としてトルエン25mLとイソオクタン25mLの混合物を投入し、その金属容器の上面枠部分にフッ素系エラストマー製のシール材を配して圧縮成形にて作製したポリエチレン系樹脂シート(直径70mmφ、厚さ2.0mmのシート)を載せて上面を覆い、クランプ器具を用いてポリエチレン系樹脂シートを固定して金属容器を密閉し、当該密閉金属容器を60℃の環境下の防爆型強制循環式恒温槽に静置した。24時間ごとに恒温槽より取り出し、室温に戻した後に当該密閉金属容器の重量を測定し減少量を評価した。24時間当たりの重量減少を評価した後に、再度当該密閉金属容器を恒温槽に戻した。24時間当たりに減少する重量がほぼ一定となるまで測定を継続し、安定した減少する重量を透過量(P)とした。試験片(ポリエチレン系樹脂シート)の数は2(試験片:2)とし、2点の平均値を求めた。
【0156】
(7)燃料バリア性能
炭化水素化合物の透過量(P)が0.21g/日以下を満たすものを「○」、それ以外のものを「×」とした。
【0157】
(8)耐衝撃性
シャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上であるものを「○」、それ以外のものを「×」とした。
【0158】
(9)総合評価
式(A)適合性、耐衝撃性、及び、燃料バリア性能評価が全て「○」であるものを「○」、それ以外のものを「×」とした。
【0159】
2.使用材料の調製
[メタロセン触媒(M)の調製]
トルエン17mlにメチルアルモキサンのトルエン溶液(Albemarle社製、Al濃度 2.93mol/L)8.5ml(25mmol)とジメチルシリレンビス{1,1’−[2−(2−(5−メチル)フリル)−4−(4−t−ブチル)フェニル−インデニル]}ジルコニウムジクロリド(触媒成分(A))105mgを添加し、遮光下、室温で30分間撹拌して触媒成分溶液を得た。
次いで、600℃、8時間焼成したSiO(GRACE社製、Sylopol2212、平均粒径12μ)5.0gに窒素雰囲気下で上記触媒成分溶液を添加し、40℃、1時間撹拌した。その後、40℃を維持して真空乾燥を行い、メタロセン触媒(M)を得た。
【0160】
[クロム触媒(C)の調製]
クロム原子担持量=1.1質量%(担体:シリカ)、比表面積=500m/g、細孔体積=1.5cm/gを有する「触媒−1」(フィリップス触媒)5kgを内径25cmの賦活用電気炉に投入し、乾燥空気にて流動化させ、賦活温度450℃で20時間賦活を行った。触媒は乾燥窒素中で抜き出し、クロム触媒(C)を得た。
【0161】
[チーグラー触媒(Z)の調製]
直径が10mmの磁性ボール約700個を入れた内容積が1Lのポット(粉砕用容器)に窒素雰囲気で市販のマグネシウムエチラート(平均粒径860μm)20g(17.8mmol)、粒状の三塩化アルミニウム1.64g(12.3mmol)及びジフェニルジエトキシシラン2.40g(8.81mmol)を入れた。次いで、振動ボールミルを用い、振幅が6mm及び振動数が30Hzの条件で3時間共粉砕を行なった。共粉砕後、内容物を窒素雰囲気下で磁性ボールと分離した。
以上のようにして得られた共粉砕生成物10.0g及び40mlのヘプタンを200mlの三つ口フラスコに加えた。撹拌しながら室温において10.0g(52.7mmol)の四塩化チタンを滴下し、90℃まで昇温し、90分間撹拌を続けた。次いで、反応系を冷却した後、上澄み液を抜き取り、ヘキサンを加えた。この操作を3回繰り返した。得られた淡黄色の固体を50℃にて減圧下で6時間乾燥を行なって、固体触媒15.6gを得た。
この固体触媒のヘキサンスラリー溶液を誘導攪拌装置付き重合反応器に入れ、温度を40℃に維持し、0.27mmolのトリイソブチルアルミニウムを加えて水素分圧0.074MPa、エチレン分圧0.20MPaにて予備重合を実施し、固体触媒1gあたりポリマー生成量0.46gの予備重合チーグラー触媒(Z)を得た。
【0162】
(実施例1)
[ポリエチレン系樹脂の製造]
窒素置換した内容積1.5Lのオートクレーブにトリイソブチルアルミニウム1mmol、STADIS450の2%ヘキサン溶液を2ml、1−ヘキセン0.9mlを添加し、イソブタン800mlを導入した。
オートクレーブの内温を80℃に昇温し、水素を70ml添加、エチレン分圧が1.0MPaとなるようにエチレンを導入した。
次に、メタロセン触媒(M)27mgをオートクレーブに導入し重合を開始した。
重合中は、80℃、エチレン分圧1.0MPaを維持するようにエチレンを追加した。
また、重合中の水素濃度を一定に保つために、オートクレーブ気相部の水素濃度を測定し、適宜、水素を追添しながら重合を継続した。
さらに、追加されたエチレンの2質量%の比率で1−ヘキセンを連続的に供給した。
2時間後、オートクレーブの内圧とイソブタンをパージすることにより反応を停止した。
その結果、得られたポリエチレン系樹脂の物性及び評価結果を表1に示した。
得られたポリエチレン系樹脂は、剛性、成形性、耐衝撃性、耐久性、燃料バリア性などの物性が優れていた。
【0163】
(実施例2〜11)
表1に示す特性を有するポリエチレン系樹脂を製造したこと以外は実施例1と同様に行った。
ポリエチレン系樹脂の物性及び評価結果を表1に示した。
得られたポリエチレン系樹脂は、剛性、成形性、耐衝撃性、耐久性、燃料バリア性などの物性が優れていた。
【0164】
(比較例1〜10)
表2に示す特性を有するポリエチレン系樹脂を製造したこと以外は実施例1と同様に行った。
ポリエチレン系樹脂の物性及び評価結果を表2に示した。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
3.評価
表1〜2に示す実験結果を参酌しながら、実験結果を説明する。
実施例1〜11のポリエチレン系樹脂は、HLMFRが5〜67g/10分であることから、成形性が良好であることが示された。
実施例1〜11のポリエチレン系樹脂は、−40℃で測定されるシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上であり、耐衝撃性の試験においても液漏れを生じさせなかった。
実施例1〜11のポリエチレン系樹脂は、全周ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)が2時間以上であり、変形が少なく、高い耐久性を示した。
実施例1〜11のポリエチレン系樹脂は、特性(3)の条件を満たし、剛性と燃料バリア性のバランスが良いことを示した。
そして、表1に示すように、実施例1〜11のポリエチレン系樹脂は、特性(1)〜(3)を全て満たし、式(A)適合性、耐衝撃性、及び、燃料バリア性のいずれの評価でも良好な結果が得られ、さらに、所望の耐久性が得られたことがわかる。
一方、表2に示すように、比較例1〜10のポリエチレン系樹脂では、特性(1)〜(3)の少なくともいずれか一つの特性を満たさず、式(A)適合性、耐衝撃性、及び、燃料バリア性の少なくともいずれか一つの評価で良好な結果が得られなかったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のポリエチレン系樹脂は、剛性、成形性、耐衝撃性、及び耐久性のバランスに優れ、さらに燃料バリア性に優れるため、大型容器用小部品、燃料タンク、パイプ、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器及びプラスチックボトル等に使用でき、特に自動車の燃料タンク等の中空プラスチック製品の材料として有用な材料を提供することができ、国内外における自動車の燃料蒸発ガス排出規制に対応可能な燃料タンク用材料及び燃料タンクを提供することができるため、産業上極めて有用である。
図1