特許第6962266号(P6962266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962266
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20211025BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20211025BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   F01N3/20 C
   F01N3/08 B
   F01N11/00
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-83345(P2018-83345)
(22)【出願日】2018年4月24日
(65)【公開番号】特開2019-190360(P2019-190360A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2020年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】特許業務法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 厚平
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−176719(JP,A)
【文献】 特開2012−082718(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、アンモニアを還元剤として排気中の窒素酸化物を還元する選択還元型触媒と、
前記選択還元型触媒より上流側に設置され、前記排気通路に尿素水を供給する尿素水供給装置と、
前記選択還元型触媒に流入する窒素酸化物の濃度に応じた目標供給量の尿素水が、前記選択還元型触媒に供給されるように、前記尿素水供給装置を制御するように構成された制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、更に、
前記目標供給量より多い供給量である異常診断時供給量の尿素水が、前記選択還元型触媒に供給されるように、前記尿素水供給装置を制御して、
前記異常診断時供給量の尿素水が供給されている間に、前記選択還元型触媒の下流側に排出されるアンモニアの量に応じて、前記選択還元型触媒の異常の有無を診断し、
前記選択還元型触媒の異常の有無の診断後に、
前記選択還元型触媒に吸着されているアンモニアの推定量が基準吸着量より多く、かつ、
単位あたりの窒素酸化物の浄化に必要とされる尿素水の量が、基準尿素水量より少ない場合に、
前記尿素水の供給量が、前記目標供給量より少なくなるように、前記尿素水供給装置を制御する、
ように構成されている内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを還元剤として排気中の窒素酸化物を還元する選択還元型触媒を備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気中の窒素酸化物(以下「NOx」とも記載する)を浄化するため、排気通路に配置された選択還元型触媒を備える内燃機関の排気浄化装置が知られている。この排気浄化装置は、例えば尿素水等の還元剤を排気通路に添加する添加装置を備え、添加された還元剤に由来するアンモニア(以下「NH」とも記載する)を還元剤として、NOxを還元処理する。
【0003】
また、排気浄化装置には、選択還元型触媒の異常診断を行う機能を有するものがある。例えば、特開2004−176719号公報には、排気中のNOxを還元剤により浄化する選択還元型触媒を有する排気ガス後処理システムにおいて、システムの欠陥の有無を診断する制御が記載されている。具体的に、この欠陥診断の制御では、供給する還元剤の量を変更し、排気系統に配置されたセンサの信号が還元剤の供給量の変更に相応する変化を示すかが検査される。その結果、センサの信号が所期の変化をしない場合、排気ガス後処理システムに欠陥が存在すると診断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−176719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
選択還元型触媒の異常を診断するため、触媒に供給する還元剤の量を増量して、触媒の下流に所定より多くのNHが流出した場合に、触媒の異常を診断する方法が知られている。このように、触媒の異常の診断のため、供給する還元剤の量を増量する場合、異常診断の制御の後、一時的に触媒に吸着されるNHの量が増加する。触媒のNH吸着量が閾値を超えた状態で、次回の異常診断のため多量の還元剤供給が実行されると、触媒でのNHの吸着が飽和する。その結果、触媒の正常及び異常に関わらず、触媒下流にNHが流出することとなる。
【0006】
従って、触媒下流のNHの流出量に基づいて触媒の異常を診断する制御により、正しく触媒の異常を検出するためには、NH吸着量が閾値未満となるまで待機する必要がある。
【0007】
しかし、例えばNOx排出量が低い運転条件が連続するような場合、触媒に吸着したNHの消費は遅く、触媒のNH吸着量を閾値未満に低下させるまでには、相当の時間を要する。このため、触媒の異常診断の機会を十分に確保することができないこととなる。
【0008】
本発明は、以上の課題を解決することを目的として、選択還元型触媒の異常診断後、選択還元型触媒のNH吸着量を早期に低下させることで、次回、異常診断の機会を早期に確保できるように改良した内燃機関の排気浄化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置であって、選択還元型触媒と、尿素水供給装置と、制御装置とを備える。選択還元型触媒は、内燃機関の排気通路に配置され、アンモニアを還元剤として排気中の窒素酸化物を還元する。尿素水供給装置は、選択還元型触媒より上流側に設置され、排気通路に尿素水を供給する。
【0010】
制御装置は、目標供給量の尿素水が選択還元型触媒に供給されるように、尿素水供給装置を制御する。ここでの目標供給量は選択還元型触媒に流入する窒素酸化物の濃度に応じたものである。
【0011】
制御装置は、更に、選択還元型触媒の異常の有無を診断する制御を行う機能を有する。この制御において、制御装置は、目標供給量より多い供給量である異常診断時供給量の尿素水が、選択還元型触媒に供給されるように、尿素水供給装置を制御する。制御装置は、異常診断時供給量の尿素水が供給されている間に、選択還元型触媒の下流側に排出されるアンモニアの量に応じて、選択還元型触媒の異常の有無を診断する。
【0012】
制御装置は、更に、選択還元型触媒の異常の有無を診断する制御を行った後、尿素水の供給量を減量する制御を行う機能を有する。この制御は、選択還元型触媒の異常の有無の診断後、所定の条件が満たされる場合に実行される。この制御において、制御装置は、尿素水の供給量が、目標供給量より少なくなるように、尿素水供給装置を制御する。所定の条件は、選択還元型触媒に吸着されているアンモニアの推定量が基準吸着量より多いこと、かつ、単位あたりの窒素酸化物の浄化に必要とされる尿素水の量が、基準尿素水量より少ないことである。
【発明の効果】
【0013】
選択還元型触媒の異常の有無の診断時には、尿素水の供給量が増量されるため、一時的に選択還元型触媒のアンモニア吸着量が増加する。選択還元型触媒の異常の有無は、触媒の下流に流出するアンモニア量に応じて診断されるので、この異常診断を正しく行うためには、選択還元型触媒のアンモニア吸着量をある程度低下させる必要がある。本実施の形態では、選択還元型触媒の異常診断後に、尿素水の供給量を減量するように構成されている。従って、早期に選択還元型触媒のアンモニア吸着量を通常時の吸着量にまで低下させることができ、より早い段階で、次回の異常診断を実行可能な状態とすることができる。従って、選択還元型触媒の異常診断の実行機会をより多く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態の排気浄化システムの全体構成を模式的に示す図である。
図2】浄化性能に異常のある選択還元型触媒における触媒床温とNH吸着量との関係を示す図である。
図3】正常な浄化性能を有する選択還元型触媒における触媒床温とNH吸着量との関係を示す図である。
図4】本発明の実施の形態のNH吸着量を算出する機能について説明するためのブロック図である。
図5】本発明の実施の形態の選択還元型触媒の異常診断の制御について説明するためのタイミングチャートである。
図6】本発明の実施の形態において制御装置が実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態におけるSCR床温と、排気ガス流量と、NH吸着量と、要求当量比との関係について説明するための図である。
図8】本発明の実施恩形態における尿素水供給量の減量制御について説明するためのタイミングチャートである。
図9】本発明の実施の形態において制御装置が実行する制御ルーチンについて説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態.
1.システム全体構成について
図1は、本発明の実施の形態の排気浄化装置及びその周辺機器を含むシステム全体の構成を模式的に示す図である。図1のシステムは、圧縮自着火式の内燃機関(以下「エンジン」と称する)2を有する。図1には、4つの気筒が図示されているが、気筒の数及びその配列に限定はない。エンジン2の排気通路4のターボチャージャの下流には、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)10及びDPF(Diesel Particulate Filter)12が配置されている。
【0017】
DOC10には、排気中の未燃焼ガスであるHC等を酸化処理する触媒が担持されている。DPF12は、排気中のPM(微粒子成分)を捕集する部材であって、例えば多孔質セラミックで構成されている。DPF12には、PMの酸化を促進するための触媒が担持されている。排気通路4のDOC10の上流には、DOC10やDPF12に燃料を供給するための燃料添加弁14が設置されている。
【0018】
排気通路4のDPF12より下流には、選択還元型触媒であるSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒20が設置されている。DPF12の下流側、かつ、SCR触媒20の上流側の排気通路4には、尿素水供給装置である尿素添加弁22が設置されている。尿素添加弁22は図示しない尿素水タンクに接続されている。尿素添加弁22から排気通路4に噴射された尿素水は、加水分解されてアンモニア(以下「NH」と称する)となり、SCR触媒20に供給される。SCR触媒20は、供給された尿素水由来のNHを還元剤として、排気中の窒素酸化物(以下「NOx」と称する)を還元する。
【0019】
排気浄化装置は、更に、制御装置30を有している。制御装置30には、排気温度センサ32、NOxセンサ34、NHセンサ36の他、エンジン2が有する各種のセンサが電気的に接続されている。制御装置30には、その動作を制御するための複数のアクチュエータが接続されている。
【0020】
このアクチュエータには、少なくとも、尿素添加弁22が含まれている。制御装置30は、設定される尿素水の供給量に応じて、尿素添加弁22の操作量を算出し、尿素添加弁22に制御信号を出力することで、尿素添加弁22を操作して、尿素水の供給量を制御する。
【0021】
制御装置30は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのメモリとを有するECU(Electronic Control Unit)である。制御装置30では、メモリ記憶されているプログラムがロードされて、プロセッサで実行されることで、制御に係る様々な機能が実現される。制御装置30には各種のセンサから様々な情報が入力される。制御装置30は、これらの情報に基づいて、各アクチュエータの操作量を決定する。なお、制御装置30は、複数のECUから構成されていてもよい。
【0022】
2.SCR触媒の異常診断について
(1)SCR触媒の異常診断の概念
制御装置30が有する機能の1つに、SCR触媒20の異常の有無を自己診断するOBD(On-board diagnostics)機能がある。以下、制御装置30によるSCR触媒20の異常診断の制御について説明する。図2は、異常劣化触媒のSCR床温とNH吸着量との関係を示す図であり、図3は正常触媒のSCR床温とNH吸着量との関係を示す図である。「異常劣化触媒」とは、浄化性能に異常有りと診断されるほどに劣化したSCR触媒を意味し、「正常触媒」とは、正常な浄化性能を有するSCR触媒を意味するものとする。また、「SCR床温」はSCR触媒20の床温を意味する。
【0023】
図2において曲線aは異常劣化触媒の吸着可能なNH吸着量の上限値である最大吸着量を示し、図3において曲線bは正常触媒の吸着可能なNHの上限値である最大吸着量を表している。つまり、異常劣化触媒においては曲線aを超える場合、又は、正常触媒においては曲線bを超える場合に、NHがSCR触媒20から脱離するNHスリップが起こると考えられる。
【0024】
制御装置30は、SCR20の異常診断に際し、多量のNHを供給する「アクティブ添加」を実行する。そして、尿素水のアクティブ添加によって、NHスリップが発生するか否かに基づいて、SCR20の異常の有無を診断する。ここで、アクティブ添加におけるNHの供給量を供給量Aとする。
【0025】
SCR20が正常触媒である場合、図3に示されるように、最大吸着量(曲線b参照)が大きいため、現在のNH吸着量Dと最大吸着量との差も大きい。従って、供給量AのNHが供給された場合であっても、最大吸着量を超えることはなく、NHスリップは発生しない。
【0026】
一方、SCR20が異常劣化触媒である場合、図2に示されるように、最大吸着量(曲線a参照)が小さいため、現在のNH吸着量Cと最大吸着量との差も小さい。従って、少量のNHを供給しただけでもNHスリップが起きる状態にある。アクティブ添加によって、供給量AのNHが供給されると、異常劣化触媒のNH吸着量は直ぐに最大吸着量に達し、NHスリップが発生する。このように、アクティブ添加の結果、NHスリップが発生するか否かに基づいて、SCR触媒20の異常の有無が診断される。
【0027】
なお、NHスリップが発生すると、SCR触媒20の下流側にNHが流出することになる。従って、NHスリップの発生の有無は、SCR触媒20の下流側に排出される排気のNH濃度が閾値より高いか否かに基づいて判定することができる。SCR触媒20の下流側のNH濃度は、NHセンサ36の出力に基づいて検出される。
【0028】
(2)アクティブ添加の実行条件
図2において、SCR触媒20が異常劣化触媒である場合に、NHスリップが確実に発生するNHの吸着上限を破線a1で示す。破線a1で示した吸着上限は、異常劣化触媒における最大吸着量(曲線a)に対して、ばらつき等を考慮したマージンを加算した値である。アクティブ添加における供給量である異常診断時供給量Aは、現在のNH吸着量Cと吸着上限(破線a1)との差分よりも確実に大きくなる値に設定されている。これにより、SCR触媒20が異常劣化触媒である場合、アクティブ添加によって確実にNHスリップを起こし、触媒異常有りの判定がされるようになっている。
【0029】
図3において、SCR触媒20が正常触媒である場合でもNHスリップが発生し得るNHの吸着下限を破線b1で示す。破線b1で示した吸着下限は、正常触媒における最大吸着量(曲線b)に対して、ばらつきを考慮したマージンを減算した値である。図3に示す吸着下限は、正常触媒においてNHスリップが発生し得る下限値であり、逆に、正常触媒であれば、この吸着下限を超えなければNHスリップが発生しないと言える。
【0030】
ここで、現在のSCR床温T1におけるNH吸着量と吸着下限(破線b1)との差分である限界供給量Bは、SCR触媒20が正常触媒であれば、アクティブ添加によってもNHスリップが発生せず、「正常触媒」の判定が得られる量の上限値であることを意味する。従って、本実施の形態の異常診断の制御では、異常診断時供給量A<限界供給量Bであることを、アクティブ添加条件とする。これにより、SCR触媒20が正常である場合に、「異常」と判定される誤判定を避けることができる。
【0031】
(3)SCR触媒20のNH吸着量の推定
ところで、上述したアクティブ添加の条件成立の判断等のためには、SCR触媒20のNH吸着量を把握する必要がある。本実施の形態において、制御装置30は、SCR触媒20のNH吸着量を算出するための機能を有する。
【0032】
図4は、制御装置30が有するNH吸着量を算出する機能を示すブロック図である。図4には、制御装置30が有する機能のうち、NH吸着量の算出に係る機能が抽出されてブロックで表現されている。図4では、機能ごとに演算ユニット41、42、43、44が割り当てられている。但し、演算ユニット41〜44は、ハードウェアとして存在するものではなく、メモリに記憶されたプログラムが実行されたときに、仮想的に実現される。
【0033】
演算ユニット41では、供給NH量が算出される。供給NH量は、尿素添加弁22からの尿素水の供給量に基づいて算出される。
【0034】
演算ユニット42では、消費NH量が算出される。NH消費量は、SCR触媒20のNOx浄化率と、流入するNOx量とから算出される。ここで、NOx浄化率は、空気量(即ち、SCR触媒20に流入する排気流量)と、SCR床温と、SCR触媒20でのNH吸着量と相関を有する。具体的な相関関係は、予め実験等により求めることができる。本実施の形態では、この相関関係に基づいて空気量、SCR床温、及び、NH吸着量を引数とするマップを作成し、予め制御装置30に記憶しておく。演算ユニット42には、後述するSCR触媒20のNH吸着量と、SCR触媒20の入口のNOx濃度と、SCR触媒20に流入する空気量と、SCR床温とが入力される。演算ユニット42は、入力された空気量、SCR床温、NH吸着量に応じて、NOx浄化率のマップに従って、NOx浄化率を算出する。更に、算出されたNOx浄化率と、SCR触媒20に流入するNOx量とに応じて、消費NH量が算出される。
【0035】
なお、NOx浄化率は、SCR触媒20が正常であるか異常劣化しているかによって、大きく異なる。従って、SCR触媒20が正常触媒である場合と異常劣化触媒である場合との両方を想定し、正常触媒及び異常劣化触媒のそれぞれの特性に応じて、NOx浄化率のマップを個別に準備しておく。演算ユニット42は、それぞれのマップを用いて、SCR触媒20が正常であると想定した場合の消費NH量と、異常劣化していると想定した場合の消費NH量とをそれぞれ算出する。
【0036】
演算ユニット43では、脱離NH量が算出される。脱離NH量は、空気量と脱離NH濃度から算出される。ここで、脱離NH濃度と、SCR床温と、NH吸着量とは相関を有し、NH吸着量が同一であれば、SCR床温が高いほど脱離NH量も多くなり、SCR床温が同一であれば、NH吸着量が多いほど脱離NH量も多くなる。具体的な相関関係は、予め実験等により求めることができる。本実施の形態では、この相関関係に基づいて、SCR床温、及び、NH吸着量を引数とする脱離NH濃度のマップを作成し、予め制御装置30に記憶しておく。演算ユニット43には、空気量とSCR床温と、後述するSCR触媒のNH吸着量が入力される。演算ユニット43は、SCR床温とNH吸着量とに応じて、脱離NH濃度のマップに従って、脱離NH濃度を算出する。更に、演算ユニット43は、算出された脱離NH濃度に、空気量を乗算することで、脱離NH量を算出する。
【0037】
ところで脱離NH濃度は、SCR触媒20が正常であるか異常劣化しているかによって大きく異なる。従って、SCR触媒20が正常触媒である場合と異常劣化触媒である場合との両方を想定して、正常触媒及び異常劣化触媒のそれぞれの特性に応じて、脱離NH濃度のマップを個別に準備しておく。演算ユニット43は、それぞれのマップを用いて、SCR触媒20が正常であると想定した場合の脱離NH濃度と、異常劣化していると想定した場合の脱離NH濃度とをそれぞれ算出する。
【0038】
演算ユニット44では、NH吸着量が算出される。具体的に、演算ユニット44には、供給NH量と、演算ユニット42で算出された消費NH量と、演算ユニット43で算出された脱離NH量が入力される。演算ユニット44は、入力された供給NH量、消費NH量、及び脱離NH量に応じて、数式1に従って、NH吸着量を算出する。
【数1】
【0039】
演算ユニット44で算出されたNH吸着量は、NH吸着量の推定値として出力されると共に、メモリに記憶され、更に、演算ユニット42及び43にそれぞれ入力され、演算ユニット42及び43における演算に用いられる。
【0040】
(4)異常診断の制御について
図5は、制御装置30による異常診断の制御のタイミングチャートである。図5に示す例では、アクティブ添加条件が成立し、アクティブ添加フラグがONとされると、アクティブ添加が実行される。
【0041】
SCR触媒20が正常であると想定した場合の、アクティブ添加時に推定されるNHスリップ濃度の上限値は、図5の破線Aで示される。この値は、正常触媒の場合のNH吸着量の推定値とアクティブ添加時のNHの異常診断時供給量Aとから、正常時の吸着下限(図3の破線b1)を減じた値に応じた値である。一方、SCR触媒20が異常劣化していると想定した場合の、アクティブ添加時に想定されるNHスリップ濃度の下限値は、実線Bで示される。この値は、異常劣化触媒の場合のNH吸着量の推定値と異常診断時供給量Aから、異常劣化時の吸着上限(図2の破線a1)を減じた値に応じた値である。
【0042】
上述したように、異常診断時供給量A<限界供給量Bであることがアクティブ添加の条件となるので、SCR触媒20が正常である場合の推定NHスリップ濃度(破線A)の上限値は、ゼロ付近に安定した値である。一方、SCR触媒20が異常劣化していると想定した場合の推定NHスリップ濃度の下限値(実線B)は、アクティブ添加によって大幅に増加している。本実施の形態では、この推定NHスリップ濃度の下限値(実線B)を閾値として、実際にSCR触媒20の下流側に排出されるNH濃度が下限値を超えた場合に、SCR触媒20は異常有りと診断される。
【0043】
図5には、SCR触媒20が異常劣化している場合の例が示されている。従って、実際のSCR触媒20の下流側のNH濃度の実測値である実NH濃度も、アクティブ添加と共に大きく増加している。この値は、上述した推定NHスリップ濃度の下限値(実線B)である閾値を大きく上回っており、図5の例では、SCR触媒20は異常有りと診断される。
【0044】
図6は、制御装置30が実行する具体的な制御のルーチンを示すフローチャートである。図6のルーチンでは、まず、ステップS12において、SCR触媒20の現在のNH吸着量が算出される。ここでは、上述したようにSCR触媒20が正常であると想定した場合と異常劣化していると想定した場合とのそれぞれの場合におけるNH吸着量が算出される。
【0045】
次に、ステップS14において、アクティブ添加の実施条件が成立しているか否かが判別される。上述したように、アクティブ添加の実施条件は、アクティブ添加時の供給量である異常診断時供給量Aより、限界供給量Bが大きいことである。
【0046】
ステップS14において、アクティブ添加の実施条件が成立していないと判別された場合、今回の処理はこのまま終了する。
【0047】
一方、ステップS14において、アクティブ添加の実施条件が成立していると判別された場合、次に、ステップS16においてアクティブ添加が実行される。即ち、SCR触媒20に異常診断時供給量AのNHが供給されるように、尿素添加弁22から、異常診断時供給量Aに応じた量の尿素水が供給される。
【0048】
次にステップS18に進み、SCR触媒20の異常の有無が診断される。即ち、アクティブ添加実行後、SCR触媒20の下流側のNH濃度が取得され、取得されたNH濃度が閾値より大きいか否かに基づいて、異常劣化の有無の判定が行われる。その後、今回の処理は一旦終了する。
【0049】
3.尿素水供給量の減量制御について
(1)尿素水供給量の減量制御の概要
制御装置30が有する機能の1つに、SCR触媒20の異常の有無の診断後に、NHを減量する機能がある。以下、制御装置30のこの機能による、尿素水供給量の減量制御について説明する。
【0050】
上記の触媒の異常劣化の診断制御では、アクティブ添加が実行されるため、一時的に、SCR触媒20に吸着するNH量が増加する。上述した通り、異常診断の制御を実行するためには、異常診断時供給量A<限界供給量Bが成立する必要がある。ここで限界供給量Bは、NHスリップが発生するNHの吸着下限(破線a1)から、SCR触媒20が正常であると想定した場合のNH吸着量の推定値を減じた値である。従って、アクティブ添加の実行条件を早期に成立させるためには、SCR触媒20に吸着するNHを早期に減量する必要がある。
【0051】
そのため本実施の形態では、制御装置30は、アクティブ添加実行後、尿素水の添加量を一時的に減量する。但し、アクティブ添加実行後もNH吸着量が少ない場合には、減量を行わない。また、NOxの浄化には、NH吸着量に加え瞬時供給NH量も影響する。従って、要求当量比が高い場合には、尿素水の供給量の減量を実行しない。これにより、NOx浄化率の低下を避けることができる。また要求当量比が高ければ、NH消費量も高くなるため、尿素水添加の減量を実行しなくても、早期にNH吸着量を通常の吸着量まで減量できることが予想される。
(2)要求当量比
図7は、SCR床温と、排気ガス流量と、NH吸着量と、当量比との関係について説明するための図である。図7を用いて、要求当量比の算出方法について説明する。ここで要求当量比は、NOxを還元処理するために必要な過不足ない尿素水の添加量であり、単位濃度あたりに必要な添加量を示す。要求当量比に、NOx濃度が乗じられることで、尿素水供給量が算出される。
【0052】
図7に示されるように、要求当量比は、排気ガス流量とSCR床温とNH吸着量と相関を有する。例えばSCR床温とNH吸着量とが一定である場合、排気ガス流量が大きい場合ほど要求当量比も大きく、排気ガス流量とNH吸着量とが一定である場合、SCR床温が高い場合ほど要求当量比も大きくなる。また、SCR床温と排気ガス流量とが一定である場合、NH吸着量が大きい場合ほど要求当量比は小さくなる。図7に示されるような、排気ガス流量とSCR床温とNH吸着量と要求当量比との具体的な関係は、予め実験等により求められる。これをマップとして定め制御装置30に記憶しておく。要求当量比は、このマップに従って、排気ガス流量とSCR床温とNH吸着量とを引数として算出される。
【0053】
(3)尿素水供給量の減量制御の例
図8は、本実施の形態の尿素水供給量の減量制御について説明するためのタイミングチャートである。図8に示されるように、アクティブ添加及びSCR触媒の異常診断実行中のt1〜t2の期間に、SCR触媒20のNH吸着量は通常時の吸着量から急増している。なお、図8の例では、SCR触媒20は正常触媒である。
【0054】
SCR触媒20の異常診断の制御が終了した時点T2において、要求当量比が基準当量比より小さいこと、及びNH吸着量が基準吸着量より大きいことを条件として、通常時の尿素水供給量より尿素水供給量を減量する減量補正が行われる。なお、基準当量比は、必要な瞬時NH供給量が低く、尿素水の供給量を減量しても、NOx浄化率を低下させない程度の当量比に基づいて、適合により定められた値である。また、基準吸着量は、アクティブ添加を実行しても、正常触媒であれば、NHスリップを発生させない程度の吸着量に基づいて、適合により定められた値である。
【0055】
尿素水供給量の減量補正は、NH吸着量と要求当量比とに応じて決定される補正係数を乗じる補正である。この補正係数は1より小さい値であり、要求当量比が一定の条件下で比較した場合、NH吸着量が大きいほど小さな値に設定される。即ち、NH吸着量が大きいほど減量分も大きくなる。また、補正係数は、NH吸着量が一定の条件下で比較した場合、要求当量比が大きい場合ほど大きな値に設定される。即ち、要求当量比が大きいほど減量分は小さくなる。NH吸着量と要求当量比と補正係数との関係は、適合により定められる。
【0056】
図8では減量補正しない場合の尿素水供給量を破線A、減量補正後の尿素水供給量を実線Bで示している。図8の例では、時点t3において、要求当量比が基準当量比を超えているため、この時点t3で、尿素水供給量の減量補正は一旦停止される。再び、時点t4において、要求当量比が基準当量比より小さくなると、尿素水供給量の減量補正が再開される。図8の例では、尿素水供給量の減量補正は、NH吸着量が基準吸着量以下となる時点t5まで継続され、その後、減量補正は終了する。
【0057】
(4)尿素水供給量の減量制御の制御ルーチン
図9は、制御装置30が実行する具体的な制御ルーチンについて説明するためのフローチャートである。図9に示されるように、まず、ステップS102において、NH吸着量が算出される。ここでは、SCR触媒20の診断結果に基づき、例えばSCR触媒20が正常であれば、正常触媒の場合のNH吸着量のみが算出される。算出の方法は上述した通りである。
【0058】
次に、ステップS110に進み、要求当量比が算出される。要求当量比は、上述した通り、SCR床温と排気ガス流量とNH吸着量に応じて、マップに従って算出される。
【0059】
次に、ステップS112に進み、ステップS110で算出されたNH吸着量が、基準吸着量より大きいか否かが判別される。
【0060】
ステップS112において、NH吸着量が基準吸着量より大きいと判別された場合、次に、ステップS114に進み、減量補正係数が算出される。減量補正係数は、NH吸着量及び要求当量比に応じて算出される値である。
【0061】
次に、ステップS116に進み、要求当量比が基準当量比より小さいか否かが判別される。ステップS116において、要求当量比が基準当量比より小さいと判別された場合には、次に、ステップS118に進み、減量補正有りに設定される。
【0062】
一方、ステップS112において「NO」と判別された場合、即ち、NH吸着量が基準吸着量以下であると判別された場合、あるいは、ステップS116において「NO」と判別された場合、即ち、要求当量比が基準当量比以上であると判別された場合、ステップS120に進み、減量補正無しとされる。
【0063】
ステップS118又はステップS120の後、次に、ステップS122に進み、尿素水供給量が算出される。即ち、減量補正無しとされた場合には、要求当量比にNOx濃度を乗じて尿素水供給量が算出される。このとき算出される尿素水供給量は、SCR触媒20に流入するNOx濃度に応じて設定された、通常のNOx浄化時に要求される目標供給量である。
【0064】
一方、減量補正有りとされ、補正係数が設定されている場合には、要求当量比とNOx濃度と補正係数とを乗じて、尿素水供給量が算出される。このとき算出される尿素水の供給量は、そのNOx濃度の排気を浄化するために通常時に要求される目標供給量に比べて、少ない量となる。その後、今回の処理が終了する。
【0065】
以上説明した通り、本実施の形態の制御では、アクティブ添加により一時的にNH吸着量が増量した場合、尿素水供給量が減量補正される。これにより、SCR触媒20に吸着するNHの消費を促し、NH吸着量を早期に減量させることができる。従って、従来に比べて早い段階で、次回のSCR触媒の異常診断の機会を確保することができる。また、ここでの尿素水供給量の減量は、NH吸着量が基準吸着量より大きく、かつ、要求当量比が基準当量比より小さいことを条件として実行される。従って、尿素水供給量の減量によるNOx浄化率の低下を避けることができる。
【0066】
なお、以上の実施の形態において、要求当量比が基準当量比より小さい場合に、NH吸着量と要求当量比に応じて設定された補正係数を乗じることで尿素水供給量を減じる補正を実行する場合について説明した。しかしながら、尿素水供給量の減量制御は、アクティブ添加実行後に、必要な瞬時供給NH量が確保される範囲で、尿素水供給量を減量する補正であればよい。
【0067】
従って、要求当量比に替えて、単位NOx濃度あたりのNOx浄化に必要とされる尿素水の量に相関する他のパラメータを用いることができる。また、減量補正の補正量は、一定量又は固定の補正係数よって算出される量であってもよい。あるいは、また、減量補正の補正量は、NH吸着量と要求当量比(又は要求当量比に替えて用いられる他のパラメータ)とのいずれか1つ以上に応じて変化する量であってもよいし、NH吸着量と要求当量比(又は要求当量比に替えて用いられる他のパラメータ)とのいずれか1つ以上に応じて変化する補正係数によって算出される量であってもよい。
【0068】
SCR触媒20の異常診断又は尿素水供給量の減量制御において用いられる各推定値の算出方法について具体的に説明したが、例えばNH吸着量等の推定方法等は種々に知られており、周知の他の推定方法によって算出してもよい。
【符号の説明】
【0069】
2 エンジン
4 排気通路
10 DOC
12 DPF
14 燃料添加弁
20 SCR触媒
22 尿素添加弁
30 制御装置
32 排気温度センサ
34 NOxセンサ
36 NHセンサ
41―44 演算ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9