【実施例】
【0025】
以下、実施例等により本発明の実施形態についてさらに具体的に記載する。なお、以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【0026】
(試験例1) 各種豆類の検討
表1の条件に従い、未加熱の豆類またはオーブンで加熱処理した豆類(未粉砕)200gに、水800gを加え、約90℃の熱水で80分間煮て、豆類から抽出液を分離した。表1に該抽出液の分析結果を示す。なお、各抽出液中の脂質含量は、いずれも固形分換算で0.3%程度、炭水化物に対する蛋白質の含量比は7%程度であった。次に、下記の評価試験により、得られた豆類抽出液を呈味液に添加し、該抽出液の呈味増強効果について評価した。
【0027】
(表1)
【0028】
(評価試験)
呈味液として0.3%のうま味調味料(MSG)溶液(うま味調味料には「味の素」(味の素(株)製)を使用した。)と0.5%の塩味液(塩化ナトリウム溶液)を用い、これらの溶液に対してそれぞれ上記各豆類抽出液を10%加え、うま味と塩味の増強効果について官能で評価した。
評価基準として、呈味液に10%の水を加えた液のうま味と塩味の強度を5とし、強度が弱いものを1、強度が強いものを10として10段階で評価した。
さらに、水に各豆類抽出液を10%加えた液のうま味と塩味について、同様に10段階で評価し、呈味液に加えた場合の点数との差が基準の数値より高いものを合格とした。
さらに全体の風味について、最も良好なものを5点、最も不良なものを1点とし、合格ラインは3点として5段階で評価した。官能評価の結果を表2に示す。
【0029】
(表2)
【0030】
以上の結果から、試験区S2〜S5,M2,P2ではいずれの種類の豆類においても、予め加熱処理を行うことによって呈味増強効果が見られた。しかも試験区S3(NSI 66),S4(NSI 16),M2(NSI 58),P2(NSI 60)の豆類を原料とした場合にはより風味も優れていた。
【0031】
(試験例2) 呈味増強剤の添加量の検討
試験1の試験区A3と同様にして、予めオーブンで120℃、10分間加熱処理した丸大豆200gに、水800gを加え、約90℃の熱水で80分間煮て、大豆抽出液をざるで分離した。次に、該抽出液をフリーズドライした後、表3の各種固形分濃度となるように水に分散させ、各呈味増強剤を得た。該呈味増強剤を呈味液に添加した場合の呈味増強効果について、試験例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0032】
(表3)
【0033】
(表4)
【0034】
以上の通り、試験区S7〜S9において呈味増強効果が見られ、特に呈味増強の強さと風味のバランスの点から試験区S7,S8がより好ましかった。
【0035】
(試験例3) 各種大豆抽出物の呈味増強効果の検討
試験に用いる大豆抽出物として、全脂豆乳粉末、脱脂豆乳粉末、低脂肪豆乳粉末、および大豆ホエー粉末の4点を試験サンプルとして表5の通り用意した。
【0036】
(表5)
【0037】
次に、各大豆抽出物の粉末を固形分濃度が5%となるように水に分散させ、溶液を得た。試験例1と同様にして呈味液として0.3%のうま味調味料(MSG)溶液と0.5%の塩味液(塩化ナトリウム溶液)を用い、これらの溶液に対してそれぞれ上記各大豆抽出溶液を10%加え、うま味と塩味への影響について官能評価した。
試験区S10、S11の全脂豆乳粉末と脱脂豆乳粉末を添加した場合、うま味と塩味はあまり変化がなく、むしろ豆乳粉末そのものの特有の風味(苦味や酸味、収斂味など)を強く感じた。
一方、試験区S11の低脂肪豆乳粉末を添加した場合、豆乳粉末そのものの風味により阻害されることなくうま味と塩味が強く感じられ、苦味や収斂味等の悪風味が少なかった。
また、試験区S12の大豆ホエー粉末を添加した場合、試験区S11よりもさらにうま味と塩味が増強され、最も良好であった。
【0038】
(試験例4) 低脂肪豆乳の限外ろ過膜透過液の添加効果
試験例3の結果を受け、試験区S13と同様にして、表5に記載した「低脂肪豆乳」(不二製油(株)製、以下の実施例において同じ。)をダイセン・メンブレン・システムズ(株)製の分画分子量1万の限外ろ過膜(以下、「UF膜」という。)に通してUF膜透過液(固形分4.5%)を回収した。
次の通り、3種類のダシ液を用意した。
(1) 昆布ダシ
昆布を水に浸漬し、さらに加熱し沸騰する直前に昆布を取り除いて、昆布ダシを作製した。
(2) 鰹ダシ
まず水を沸騰させて火を止めた後、熱湯に鰹節を加えて1分間静置した後に粕を取り除いて鰹ダシを作製した。
(3) 合わせダシ
(1)と同様にして得た昆布ダシをさらに加熱して沸騰させて火を止めた後、鰹節を加えて1分間静置した後、粕を取り除いて合わせダシを作製した。
表6の混合比に従って各3つのダシ液とUF膜透過液と水を混合した。
【0039】
(表6)
【0040】
各混合液を味認識装置「SA402B」((株)インテリジェントセンサーテクノロジー製)を用いて人工脂質膜型味覚センサーのCPA(Change of membrane Potential by Adsorption)測定法により、膜電位の変化量(mV)を測定した。
味覚センサーには表7に示したうま味、塩味、酸味、苦味、渋味の5種類のセンサーを用いて、先味である酸味、苦味雑味、渋味刺激、旨味、塩味と、後味である苦味、渋味、うま味コクの計8つの味覚項目について測定を行った。
【0041】
膜電位の測定は、表7の8つの測定手順を1反復として測定を行った。まず、プラス膜及びマイナス膜用の洗浄液で味覚センサーを90秒間洗浄し(1)、次に基準液で120秒×2回洗浄を行い(2)(3)、続いて味覚センサーを安定液(基準液)に30秒間浸漬して安定化した後(4)、サンプルの測定を30秒間行った(5)。サンプル測定後は、基準液で3秒×2回洗浄した後(6)(7)、CPA液で30秒間測定を行った(8)。
先味の膜電位変化量は、サンプル液中で測定した膜電位(Vs)から、基準液中で測定した膜電位(Vr)を減算して算出した。また、後味の膜電位変化量は、サンプル液に浸した味覚センサーをCPA液で洗浄した後に測定した膜電位(Vr’)から、基準液中で測定した膜電位(Vr)を減算して算出した。
【0042】
膜電位の測定結果を表8〜10を示し、その一部を
図1〜6にグラフで示した。表中の数値はそれぞれ3回の膜電位の測定値の平均値である。
【0043】
(表7) 味認識装置の測定条件
【0044】
(表8) 昆布ダシ 味覚センサー測定結果
【0045】
(表9) 鰹ダシ 味覚センサー測定結果
【0046】
(表10) 合わせダシ 味覚センサー測定結果
【0047】
以上の結果より、いずれのダシにおいても「低脂肪豆乳」のUF膜透過液を混合することにより、コントロールに比べてうま味、塩味、うま味コクの膜電位の変化量が大きくなり、これらの呈味が増強される傾向にあった。一方で、酸味、苦味雑味、渋味刺激、苦味、渋味の膜電位の変化量は同等ないし小さくなり、これらの呈味が抑制される傾向にあった。このように、「低脂肪豆乳」のUF膜透過液は、酸味抑制剤、苦味や雑味の抑制剤、渋味抑制剤としても機能することも示された。
【0048】
(実施例1) カレーソース
市販のカレーソース120gに対して、試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液を2.4g添加したところ、添加前に比べてカレーソースが持つうま味がより底上げされた風味となった。
【0049】
(実施例2) 煮込みハンバーグ用ソース
市販のトマトソース260gに、菜種油2.6gと試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液5.2gを添加し、煮込みハンバーグ用ソースを調製した。フライパンに焼成済みのハンバーグ4個と前記ソースを加え、蓋をして煮込んだ。得られたソースは低脂肪豆乳を添加しないものに比べてコクがあり、ハンバーグの風味とも調和したものであった。
【0050】
(実施例3) ノンオイルドレッシング
玉ねぎピューレ100g、米酢20g、うすくち醤油10g、食塩1g、砂糖0.5gに試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液50gを混合し、ノンオイルドレッシングを調製した。得られたドレッシングはさっぱりとしていながら、うま味と塩味が引き立った風味であった。また、これをレタス、トマト、ワカメなどの生野菜や海草にかけると素材の味を消さずに素材本来のおいしさが引き出された。
【0051】
(実施例4) 味噌
市販の液体状の味噌12.8gに、試験例3の試験区S13で用いた大豆ホエー粉末0.4gを加え、味噌改良品を得た。これに湯150gを加えて混合し、味噌汁を調製した。得られた味噌汁はうま味と塩味が付与され、おいしさがさらに増していた。そのため、味噌の減塩にも寄与すると考えられた。
【0052】
(実施例5) 甘酒
市販の甘酒70gに、試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液30gを加えた。得られた甘酒改良品は、酸味や苦味が抑えられ、うま味が付与されたおいしい風味であった。
【0053】
(実施例6) 漬け物(浅漬け)
ポリ袋に食塩2g、砂糖6g、粉末かつおだし0.1g、水5g、試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液5gをよく混合し、漬け物用調味液を得た。きゅうり1/2本を厚み1cmの輪切りにし、前記調味液を漬け、2時間以上冷蔵庫に保管し、浅漬けを調製した。得られた浅漬けは塩味とうま味が増強されており、おいしい風味であった。そのため、漬け物の減塩効果にも寄与すると考えられた。