(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示の幾つかの実施形態を、図面を参照しながら以下に詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一構造又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、各層の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0031】
<透明導電体>
[第1実施形態]
図1は、透明導電体の一実施形態を示す模式断面図である。透明導電体10は、透明基材11と、第1の金属酸化物層12と、金属層18と、第3の金属酸化物層14と、第2の金属酸化物層16がこの順に配置された積層構造を有する。
【0032】
本明細書における「透明」とは、可視光が透過することを意味しており、光をある程度散乱してもよい。光の散乱度合いについては、透明導電体10の用途によって要求されるレベルが異なる。一般に半透明といわれるような光の散乱があるものも、本明細書における「透明」の概念に含まれる。光の散乱度合いは小さい方が好ましく、透明性は高い方が好ましい。透明導電体10全体の全光線透過率は、例えば82%以上であり、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上である。この全光線透過率は、積分球を用いて求められる、拡散透過光を含む透過率であり、市販のヘイズメーターを用いて測定される。
【0033】
透明基材11は、特に限定されず、可撓性を有する透明樹脂基材であってもよい。透明樹脂基材は、例えば有機樹脂フィルムは有機樹脂シートであってもよい。透明基材11としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、ノルボルネンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、ポリミイド、並びにトリアセチルセルロースフィルム等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルムが好ましい。
【0034】
透明基材11の厚みは、透明導電体10の屈曲性を一層高くする観点から、例えば200μm以下である。透明基材の屈折率は、光学特性に優れる透明導電体10とする観点から、例えば1.50〜1.70である。なお、本明細書における屈折率は、λ=633nm、温度20℃の条件下で測定される値である。透明基材11は、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、及びオゾン処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの表面処理が施されたものであってもよい。
【0035】
透明基材11が透明樹脂基材であることによって、透明導電体10を柔軟性に優れたものとすることができる。これによって、透明導電体10を、フレキシブルな有機デバイス用の透明導電体として好適に用いることできる。
【0036】
第1の金属酸化物層12は、金属酸化物を含む透明の層である。第1の金属酸化物層12は、金属層18を保護する機能を有する。第1の金属酸化物層12は、ITO(酸化インジウムスズ)とは異なる金属酸化物で構成される。第1の金属酸化物層12はITOを含まないこと以外は、その組成は特に限定されない。第1の金属酸化物層12はITOを含まないため、金属層18に含まれる銀合金の腐食を抑制することができる。
【0037】
透明性と耐食性を一層高い水準で両立する観点から、第1の金属酸化物層12は、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化チタンの3成分を主成分として含有していてもよく、3成分と不可避的不純物から構成されていてもよい。
【0038】
第1の金属酸化物層12に含まれる酸化亜鉛は例えばZnOであり、酸化インジウムは例えばIn
2O
3である。酸化チタンは例えばTiO
2である。上記各金属酸化物における金属原子と酸素原子の比は、化学量論比からずれていてもよい。また、酸化数が異なる別の酸化物を含んでいてもよい。第1の金属酸化物層12は、酸化スズを含んでいてもよいが、金属層18に含まれる銀合金の腐食を低減する観点から、酸化スズ(SnO
2)の含有量は少ない方が好ましく、酸化スズを含有しないことがより好ましい。第1の金属酸化物層12における3成分の合計の含有量は、それぞれ、ZnO、In
2O
3及びTiO
2に換算して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
第1の金属酸化物層12の厚みは、透明性を一層向上する観点から、例えば60nm以下である。一方、耐食性を一層向上するとともに生産性向上の観点から、上記厚さは、例えば5nm以上であってよく、20nm以上であってもよい。
【0040】
第1の金属酸化物層12は、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化チタンを、それぞれZnO、In
2O
3及びTiO
2に換算したときに、ZnO、In
2O
3及びTiO
2の合計に対するZnOの含有量は、20〜85mol%であることが好ましく、30〜80mol%であることがより好ましい。同様に換算したときに、ZnO、In
2O
3及びTiO
2の合計に対するIn
2O
3の含有量は、透明性向上の観点、並びに高い導電性及び高い耐食性を両立する観点から、10〜35mol%であることが好ましく、10〜25mol%であることがより好ましい。
【0041】
同様に換算したときに、ZnO、In
2O
3及びTiO
2の合計に対するTiO
2の含有量は、高い透明性と優れた耐食性を両立する観点から、5〜15mol%であることが好ましく、7〜13mol%であることがより好ましい。
【0042】
第1の金属酸化物層12は、導電性が低くてもよく、絶縁体であってもよい。この場合、透明導電体10の導電性は、金属層18及び第3の金属酸化物層14によって担われてもよい。第1の金属酸化物層12は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、又はCVD法などの真空成膜法によって作製することができる。これらのうち、成膜室を小型化できる点、及び成膜速度が速い点で、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、DCマグネトロンスパッタリングが挙げられる。ターゲットとしては、金属ターゲット又は金属酸化物ターゲットを用いることができる。第1の金属酸化物層12は、酸性エッチング液に溶解しない層であってもよい。透明基材11と第1の金属酸化物層12との間に、水蒸気バリア層、第1の金属酸化物層とは異なる組成を有する金属酸化物層、又は金属窒化物層を備えていてもよい。
【0043】
金属層18は、主成分として銀合金を含むことが好ましい。金属層18は、酸性エッチング液に溶解する層であってもよい。これによって、容易にパターニングすることができる。金属層18が高い透明性と導電性を有することによって、透明導電体10の可視光透過率を十分高くしつつ表面抵抗を十分に低くすることができる。銀合金の構成元素としては、Agと、Pd、Cu、Nd、In、Sn、及びSbから選ばれる少なくとも1種と、が挙げられる。銀合金の例としては、Ag−Pd、Ag−Cu、Ag−Pd−Cu、Ag−Nd−Cu、Ag−In−Sn、及びAg−Sn−Sbが挙げられる。銀合金は、Agを主成分として含有し、副成分として上述の各金属を含むものが好ましい。金属層18は、金属のみからなる層であってもよい。
【0044】
銀合金におけるAg以外の金属の含有量は、耐食性と透明性を一層向上させる観点から、例えば0.5〜5質量%である。銀合金はAg以外の金属としてPdを含有することが好ましい。これによって、高温高湿環境下における耐食性を一層向上することができる。
【0045】
金属層18の厚さは、例えば5〜25nmであってもよい。金属層18の厚さが小さくなり過ぎると、金属層18の連続性が損なわれて透明導電体10の表面抵抗値が高くなる傾向にある。一方、金属層18の厚さが大きくなりすぎると、十分に優れた透明性が損なわれる傾向にある。
【0046】
金属層18は、透明導電体10の導電性及び表面抵抗を調整する機能を有している。金属層18は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、又はCVD法などの真空成膜法によって作製することができる。これらのうち、成膜室を小型化できる点、及び成膜速度が速い点で、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、DCマグネトロンスパッタリングが挙げられる。ターゲットとしては、金属ターゲットを用いることができる。
【0047】
第3の金属酸化物層14は、金属酸化物を含む透明の層である。第3の金属酸化物層14は、金属層18を保護する機能と導電性を調整する機能を兼ね備える。第3の金属酸化物層14は、ITOとは異なる金属酸化物で構成される。第3の金属酸化物層14と第1の金属酸化物層12は、互いに異なる組成を有することが好ましい。
【0048】
第3の金属酸化物層14は、金属層18の腐食を十分に抑制する観点から、主成分としてITOを含まなくてよい。また、第3の金属酸化物層14は、導電性向上の観点から、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズの4成分を含有してよい。金属層18に含まれる銀合金の腐食を抑制しつつ、導電性を十分に高くする観点から、第3の金属酸化物層14は、この4成分を主成分として含有していてもよく、4成分と各酸化物原料の不純物等に由来する不可避的不純物から構成されていてもよい。第3の金属酸化物層14における4成分の合計の含有量は、それぞれ、ZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2に換算して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0049】
酸化亜鉛は例えばZnOであり、酸化インジウムは例えばIn
2O
3である。酸化チタンは例えばTiO
2であり、酸化スズは例えばSnO
2である。上記各金属酸化物における金属原子と酸素原子の比は、化学量論比からずれていてもよい。また、酸化数が異なる別の酸化物を含んでいてもよい。
【0050】
第3の金属酸化物層14は、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズを、それぞれZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2に換算したときに、ZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2の合計に対するZnOの含有量は、20〜60mol%であることが好ましく、25〜50mol%であることがより好ましい。同様に換算したときに、ZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2の合計に対するIn
2O
3の含有量は、透明性と導電性と耐食性を一層高水準とする観点から、10〜40mol%であることが好ましく、15〜35mol%であることがより好ましい。
【0051】
同様に換算したときに、ZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2の合計に対するTiO
2の含有量は、高い透明性と優れた耐食性を両立する観点から、5〜30mol%であることが好ましく、10〜20mol%であることがより好ましい。同様に換算したときに、ZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2の合計に対するSnO
2の含有量は、導電性を一層向上させる観点から、5〜40mol%であることが好ましく、10〜30mol%であることがより好ましい。
【0052】
第3の金属酸化物層14の厚みは、透明導電体10の表面抵抗を低減するとともに透明性を一層向上する観点から、例えば60nm以下である。一方、透明導電体10の耐食性を一層向上するとともに生産性向上の観点から、上記厚さは例えば5nm以上である。
【0053】
第2の金属酸化物層16は、金属酸化物を含む透明の層である。第2の金属酸化物層16は、例えば、有機デバイスの有機層に隣接して配置されたときに、正孔の移動を円滑にする機能を有する。第2の金属酸化物層16は、ITOを含む金属酸化物で構成される。第2の金属酸化物層16は、ITOを主成分として含有していてもよく、ITOと原料の不純物等に由来する不可避的不純物から構成されていてもよい。第2の金属酸化物層16におけるITOの含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0054】
ITOは、インジウムとスズの酸化物である。当該酸化物は、構成元素としてIn、Sn及びO(酸素)を有する複合酸化物である。また、第2の金属酸化物層16は、別の複合酸化物を含んでいてもよい。
【0055】
第2の金属酸化物層16の第3の金属酸化物層14側(金属層18側)とは反対側の表面16aの仕事関数は、4.5eV以上であり、好ましくは4.7eVを超える値であり、より好ましくは5.0eV以上であり、さらに好ましくは5.1eV以上である。このような高い仕事関数を有する第2の金属酸化物層16の表面16a上に有機層を設けて有機デバイスを作製した場合に、有機層への正孔の注入又は有機層からの正孔の受け入れを十分円滑に行うことができる。このため有機デバイスの性能を向上することができる。第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数は、市販の測定装置を用いて測定することができる。
【0056】
透明電極の表面の仕事関数を高くする手段としては、UVオゾン処理及びプラズマ処理などの表面処理が挙げられる。この場合、表面処理の工程を別途設ける必要がある。一方、本実施形態の第2の金属酸化物層16は、バルクとして高い仕事関数を有することから、表面処理を必要としない点で有利である。ただし、表面処理によって仕事関数をさらに向上することを排除するものではない。
【0057】
第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数は、表面16a近傍における組成に依存する傾向にある。例えば、ITOにおける酸素原子の割合を変えることによって調整することができる。具体的には、ITOの焼結体からなるターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリングによって第2の金属酸化物層16を形成する場合、スパッタリング時の不活性ガスに対する酸素ガスの割合を変えることで第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数を調整することができる。
【0058】
スパッタリング時のガスとして、不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを用いる場合、不活性ガスに対する酸素ガスの流量比率が高くなるにつれて、第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数は大きくなる傾向にある。
【0059】
第2の金属酸化物層16のキャリア密度は、好ましくは3.5×10
20[cm
−3]以下であり、より好ましくは2.5×10
20[cm
−3]である。このような低いキャリア密度を有する第2の金属酸化物層16上に有機層を設けて有機デバイスを作製すれば、有機層への正孔の注入又は有機層からの正孔の受け入れを十分円滑に行うことができる。キャリア密度の測定は、透明導電体10における第2の金属酸化物層16と同じ組成及び構造を有する単層のサンプルを別途作製し、市販の測定装置を用いて当該サンプルのキャリア密度を測定することによって求めることができる。
【0060】
透明導電体10の第2の金属酸化物層16の表面16aにおける表面抵抗は、好ましくは30Ω/sq.以下であり、より好ましくは25Ω/sq.以下である。このように表面抵抗が低い透明導電体10は、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、有機EL素子に用いた場合、有機EL素子の発光効率を向上することができる。また例えば、有機薄膜太陽電池に用いた場合、有機薄膜太陽電池の発電効率を向上することができる。本明細書における表面抵抗は、4端子法によって測定される値である。
【0061】
一方、単層としての第2の金属酸化物層16の表面抵抗は、200Ω/sq.以上であってもよいし、400Ω/sq.以上であることが好ましい。このように比較的高い表面抵抗を有する第2の金属酸化物層16は、大きい仕事関数を有する傾向にある。したがって、有機デバイスに有用な透明導電体10とすることができる。
【0062】
第2の金属酸化物層16の厚みは、表面16aにおける仕事関数を安定的に大きくする観点から、好ましくは2nm以上であり、より好ましくは5nm以上であり、さらに好ましくは10nm以上である。一方、第2の金属酸化物層16の厚みは、透明導電体10の透明性と屈曲性を十分に高くする観点から、例えば100nm以下である。
【0063】
透明導電体10を構成する各層の厚みは、以下の手順で測定することができる。集束イオンビーム装置(FIB,Focused Ion Beam)によって透明導電体10を切断して断面を得る。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて当該断面を観察し、各層の厚みを測定する。測定は、任意に選択された10箇所以上の位置で測定を行い、その平均値を求めることが好ましい。断面を得る方法として、集束イオンビーム装置以外の装置としてミクロトームを用いてもよい。厚みを測定する方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。また蛍光X線装置を用いても膜厚を測定することが可能である。
【0064】
透明導電体10の厚みは、210μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。このような厚みであれば、透明性と屈曲性の要求レベルを十分に満足することができる。
【0065】
第1の金属酸化物層12と第3の金属酸化物層14の組成は、厚み、構造、組成の点で同一であってもよく、厚み、構造及び組成の少なくとも一つの点において互いに異なっていてもよい。第1の金属酸化物層12の組成と第3の金属酸化物層14の組成とを異ならせることによって、一つの工程で、第2の金属酸化物層16、第3の金属酸化物層14及び金属層18のみを酸性のエッチング液を用いてエッチングにより除去し、第1の金属酸化物層12を残存させることができる。
【0066】
上述の構成を備える透明導電体10は、アルカリ耐性にも優れている。したがって、パターニングを効率よく行うことができる。透明導電体10は、有機ELディスプレイ、有機EL照明、有機薄膜太陽電池等の有機デバイス用として好適に用いることができる。
【0067】
[第1実施形態の変形例]
本変形例も、
図1の積層構造を有する。透明基材11、第1の金属酸化物層12、金属層18及び第3の金属酸化物層14は、上述の第1実施形態と同じである。そして、本変形例の第2の金属酸化物層16も、金属酸化物を含む透明の層であり、ITOを含有する。第2の金属酸化物層16は、例えば、有機デバイスの有機層に隣接して配置されたときに、正孔の移動を円滑にする機能を有する。第2の金属酸化物層16は、ITOを主成分として含有していてもよく、ITOと原料の不純物等に由来する不可避的不純物から構成されていてもよい。また、第2の金属酸化物層16は、別の複合酸化物を含んでいてもよい。第2の金属酸化物層16におけるITOの含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0068】
本変形例では、第2の金属酸化物層16の第3の金属酸化物層14側(金属層18側)とは反対側の表面16aのX線光電子分光分析によって得られるX線光電子分光スペクトルにおいて、14〜21eVの結合エネルギー領域のピーク面積Aに対する、0.5〜2.3eVの結合エネルギー領域のピーク面積Bの比率(B/A)は、1.0×10
−3以下である。このような比率(B/A)を有する表面16aは、大きい仕事関数を有する。
【0069】
ピーク面積Aに対するピーク面積Bの比率(B/A)は以下の手順で測定することができる。まず、市販の装置を用いて表面16aのX線光電子分光分析を行う。ピーク強度は、例えば0.1eV毎に測定する。そして、得られるX線光電子分光スペクトルにおいて、炭素[C1s]ピークの位置を確認する。そして、炭素[C1s]ピークの結合エネルギーが284.8eVになるようにX線光電子分光スペクトルをずらす、シフト補正を行う。
【0070】
0〜0.5eVの結合エネルギー領域にあるピーク強度の平均値をバックグラウンド強度として、0.5〜2.3eVの結合エネルギー領域にあるピーク強度から差し引く(バックグラウンド補正)。バックグラウンド補正後のピーク強度を積分することによって、ピーク面積Bが求められる。
【0071】
結合エネルギーが14eV及び21eVの2点のピーク強度をそれぞれ始点及び終点として一次式を求める。この一次式で求められる強度をバックグラウンド強度とみなす。結合エネルギーが14〜21eVの領域にある各ピーク強度から一次式で求められる強度を差し引く(バックグラウンド補正)。バックグラウンド補正後のピーク強度を積分することによって、ピーク面積Aが求められる。
【0072】
なお、ある結合エネルギー領域において、ピーク強度よりもバックグラウンド強度の方が大きく、ピーク強度からバックグラウンド強度を差し引いたときの強度が負の値になる場合は、当該結合エネルギー領域におけるピーク強度は0とみなす。このようにして、ピーク面積A,Bが求められる。
【0073】
上述のとおりにして求めたピーク面積A及びピーク面積Bから、ピーク面積Aに対するピーク面積Bの比率(B/A)が算出される。ピーク面積Bは、エネルギーバンド図における価電子帯上端部の電子密度(分布又は確率)と関連性があると考えられる。このピーク面積Bが小さくなれば、表面16a近傍の電子密度が低くなると推察される。この場合、価電子帯上端部の電子密度が低く、深いエネルギー準位に電子が存在していることになるため、電子を取り出すためにより大きなエネルギーが必要となる。この結果、表面16aにおける仕事関数を大きくすることができる。このように大きい仕事関数を有する第2の金属酸化物層16を備える透明導電体は、第2の金属酸化物層16の上に有機層が積層された場合に正孔の移動を円滑にすることができる。
【0074】
一方、14〜21eVの結合エネルギー領域にあるピーク面積Aは、ITOに主成分として含まれるインジウムのピーク強度[In4d]に依存する。このため、ピーク面積Bのみではなく、ピーク面積Aに対する比率(B/A)で特定することによって、測定装置及び測定条件等によるばらつきを十分に低減し、精度を向上することができる。
【0075】
比率(B/A)は、表面16aにおける仕事関数を一層大きくする観点から、好ましくは8×10
−4以下であり、より好ましくは7×10
−4以下である。比率(B/A)の下限は、例えば、1×10
−6である。なお、比率(B/A)は、精度向上の観点から、X線光電子分光スペクトルの測定を2回以上行い、その平均値を求めることが好ましい。
【0076】
第2の金属酸化物層16の内部における、ピーク面積Aに対するピーク面積Bの比率(以下、「比率(B/A)’」という。)は、第2の金属酸化物層16の表面における(B/A)よりも大きいことが好ましい。具体的には、比率(B/A)’は、8×10
−4を超えることが好ましい。なお、ここでいう内部とは、表面16aから1.7nm以上の深さにある部分をいう。このように、表面16aから1.7nm以上の深さにある部分における比率(B/A)’を大きくすることによって、第2の金属酸化物層16の表面に近いほど仕事関数を高くすることができる。このような第2の金属酸化物層16は、有機層が積層された場合に正孔の移動を円滑にしつつ、導電性も十分に高くすることができる。
【0077】
比率(B/A)’を算出するためのピーク面積A及びピーク面積Bは、第2の金属酸化物層16の表面16aのエッチングを行って第2の金属酸化物層16の内部を露出させた後、その露出面のX線光電子分光分析を行って測定されるX線光電子スペクトルに基づいて求めることができる。なお、X線光電子スペクトルからピーク面積A及びピーク面積Bを求める手順は、表面16aのX線光電子スペクトルからピーク面積A及びピーク面積Bを求める手順と同じである。
【0078】
第2の金属酸化物層16の表面16aにおける比率(B/A)の値は、表面16aにおける電子密度に依存すると考えられる。電子密度は、第2の金属酸化物層(ITO)の表面16aにおける酸素原子の割合を変えることによって調整することができる。例えば、ITOの焼結体からなるターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリングによって第2の金属酸化物層16を形成する場合、スパッタリング時の不活性ガスに対する酸素ガスの割合を変えることで第2の金属酸化物層16の表面16aの比率(B/A)を調整することができる。また、スパッタリングの最中に、不活性ガスに対する酸素ガスの割合を変更することによって、第2の金属酸化物層16の表面の比率(B/A)と、内部の比率(B/A)’の差異を大きくしてもよい。
【0079】
比率(B/A)が1.0×10
−3以下である第2の金属酸化物層16の表面16aは、大きい仕事関数を有する。表面16aの仕事関数は、好ましくは4.5eV以上であり、より好ましくは4.7eVを超える値であり、さらに好ましくは5.0eV以上であり、特に好ましくは5.1eVである。このような大きい仕事関数を有する第2の金属酸化物層16の表面16a上に有機層を設けて有機デバイスを作製すると、有機層への正孔の注入又は有機層からの正孔の受け入れを十分円滑に行うことができる。このため有機デバイスの性能を向上することができる。第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数は、市販の測定装置を用いて測定することができる。
【0080】
スパッタリング時のガスとして、不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを用いる場合、不活性ガスに対する酸素ガスの流量比率が高くなるにつれて、第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数は大きくなる傾向にある。
【0081】
透明導電体10の第2の金属酸化物層16の表面16aにおける表面抵抗値は、好ましくは30Ω/sq.以下であり、より好ましくは25Ω/sq.以下である。このように表面抵抗値が低い透明導電体10は、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、有機EL素子に用いた場合、有機EL素子の発光効率を向上することができる。また例えば、有機薄膜太陽電池に用いた場合、有機薄膜太陽電池の発電効率を向上することができる。本明細書における表面抵抗値は、4端子法によって測定される値である。
【0082】
第2の金属酸化物層16の厚みは、表面16aにおける仕事関数を安定的に大きくする観点から、好ましくは2nm以上であり、より好ましくは5nm以上であり、さらに好ましくは10nm以上である。一方、第2の金属酸化物層16の厚みは、透明導電体10の透明性と屈曲性を十分に高くする観点から、例えば100nm以下である。
【0083】
透明導電体10を構成する各層の厚みは、以下の手順で測定することができる。集束イオンビーム装置(FIB,Focused Ion Beam)によって透明導電体10を切断して断面を得る。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて当該断面を観察し、各層の厚みを測定する。測定は、任意に選択された10箇所以上の位置で測定を行い、その平均値を求めることが好ましい。断面を得る方法として、集束イオンビーム装置以外の装置としてミクロトームを用いてもよい。厚みを測定する方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。また蛍光X線装置を用いても膜厚を測定することが可能である。
【0084】
透明導電体10の厚みは、210μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。このような厚みであれば、透明性と屈曲性の要求レベルを十分に満足することができる。
【0085】
第1の金属酸化物層12と第3の金属酸化物層14は、厚み、構造、組成の点で同一であってもよく、厚み、構造及び組成の少なくとも一つの点において異なっていてもよい。第1の金属酸化物層12の組成と第3の金属酸化物層14の組成とを異ならせることによって、一つの工程で、第2の金属酸化物層16、第3の金属酸化物層14及び金属層18のみを酸性のエッチング液を用いてエッチングにより除去し、第1の金属酸化物層12を残存させることができる。
【0086】
本変形例の透明導電体10も、有機ELディスプレイ、有機EL照明、有機薄膜太陽電池等の有機デバイス用として好適に用いることができる。
【0087】
[第2実施形態]
図2は、透明導電体の別の実施形態を示す模式断面図である。透明導電体10Aは、フィルム状の透明基材11、第1の金属酸化物層12、金属層18、第3の金属酸化物層14及び第2の金属酸化物層16をこの順に有する第1積層部21と、透明基材11及び第1の金属酸化物層12をこの順に有する第2積層部22とを備える。第1積層部21と第2積層部22は、これらの積層方向(
図2の上下方向)とは垂直方向(
図2の左右方向)に隣接して設けられている。第1積層部21と第2積層部22は、上記垂直方向に沿って、交互に並ぶように設けられていてもよい。
【0088】
第1積層部21は、例えばパターニングプロセスによって形成される導電部分である。第2積層部22は、例えばパターニングプロセスによって形成される、導電体を有しない絶縁部分となる。透明導電体10Aは、
図1の透明導電体10のパターニングを行うことによって製造することができる。この製造方法の一例を以下に説明する。
【0089】
図1の透明導電体10の第2の金属酸化物層16の表面にフォトレジストを塗布して加熱しレジスト膜を形成する。所定のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線をレジスト膜に照射して一部を感光する。その後、現像液を用いて感光した部分を溶解して除去し、第2の金属酸化物層16の表面の一部を露出させる(ポジ型)。
【0090】
酸性エッチング液を用いて第2の金属酸化物層16の当該一部とその下側にある第3の金属酸化物層14及び金属層18を溶解して除去する。第1の金属酸化物層12を酸性エッチング液に溶解しない組成にしておくことによって、金属層18の下側にある第1の金属酸化物層12を残存させることができる。
【0091】
第2の金属酸化物層16、第3の金属酸化物層14及び金属層18を溶解して第2積層部22を形成した後、レジスト膜を除去する。このようにして、透明導電体10Aを得ることができる。なお、上述の手順ではポジ型のフォトレジストを用いたときの例を説明したが、これに限定されず、ネガ型のフォトレジストを用いてもよい。
【0092】
透明導電体10Aの製造方法、つまり、透明導電体10のパターニングの方法は、上述のフォトレジストを用いた方法に限定されず、例えば印刷法であってもよい。印刷法の場合、
図1の透明導電体10の第2の金属酸化物層16の表面の一部に、インクジェット印刷、スクリーン印刷、又はグラビア印刷等の方法によって、パターン形状に応じてインクを印刷する。印刷後、酸性エッチング液を用いてインクが印刷されていない部分のエッチングを行う。これによって、第2の金属酸化物層16、第3の金属酸化物層14及び金属層18を溶解して第2積層部22を形成する。その後、インクを除去することによって透明導電体10Aを得ることができる。
【0093】
図1の透明導電体10及び
図2の透明導電体10Aは、各層の間に任意の層を備えていてもよい。例えば、透明基材11と第1の金属酸化物層12の間にハードコート層を備えていてもよいし、金属層18と第1の金属酸化物層12の間に耐エッチング層を備えていてもよい。透明基材11と透明電極20との間に、水蒸気バリア層を備えてもよい。ハードコート層は、透明基材11を挟むように対をなして設けられてもよい。透明基材11と第1の金属酸化物層12との間に、第1の金属酸化物層12とは異なる組成を有する別の金属酸化物層、又は金属窒化物層を設けてもよい。
【0094】
透明導電体10,10Aは、導電性、屈曲性及び耐食性に十分に優れることから、有機ELディスプレイ、有機EL照明、及び有機薄膜太陽電池等の有機デバイスの電極として好適に用いられる。この場合、第1の金属酸化物層12、金属層18、第3の金属酸化物層14及び第2の金属酸化物層16が透明電極20として機能する。透明電極20はアノードであってもよいし、カソードであってもよい。
【0095】
[第3実施形態]
図3は、透明導電体の第3実施形態を示す模式断面図である。透明導電体10Bは、フィルム状の透明基材11、第1の金属酸化物層12、金属層18、及び第2の金属酸化物層16をこの順に備える。すなわち、透明導電体10Bは、第3の金属酸化物層14を備えていない点で、上述の第1実施形態の透明導電体10と異なる。この点以外の構成は、第1実施形態と同じである。
【0096】
透明導電体10Bは、ITOとは異なる金属酸化物で構成される第1の金属酸化物層12を備える。これによって、金属層18がITOを含む金属酸化物層で挟まれる構成を有する透明導電体よりも、金属層18の腐食を抑制することができる。
【0097】
第2の金属酸化物層16の表面16aの仕事関数は、好ましくは4.5eV以上であり、より好ましくは4.7eVを超える値であり、さらに好ましくは5.0eV以上であり、特に好ましくは5.1eVである。このように仕事関数を高くすることによって、有機デバイス用の透明導電体として好適に用いることができる。
【0098】
第2の金属酸化物層16の表面16aの上記比率(B/A)は、1.0×10
−3以下であってよく、8×10
−4以下であってもよく、7×10
−4以下であってもよい。比率(B/A)の下限は、例えば、1×10
−6であってよい。これによって仕事関数を高くすることができ、有機デバイス用の透明導電体として好適に用いることができる。
【0099】
<有機デバイス>
図4は、有機デバイスの一実施形態を模式的に示す図である。有機デバイス100は、例えば有機EL照明であり、透明基材11、透明電極(アノード)20、正孔輸送層30、発光層40、電子輸送層50及び金属電極(カソード)60をこの順に有する積層体を備える。有機デバイス100における透明基材11及び透明電極20として、透明導電体10を用いることができる。
【0100】
透明導電体10は、透明電極20の第2の金属酸化物層16の表面(
図1の表面16a)が正孔輸送層30と接するように設けられる。アノードとして機能する透明電極20とカソードとして機能する金属電極60には電源80が接続されている。電源80による電界の印加によって、透明電極20から正孔輸送層30に正孔(ホール)が注入されるとともに、金属電極60から電子輸送層50に電子が注入される。
【0101】
正孔輸送層30に注入された正孔と電子輸送層50に注入された電子は発光層40において再結合する。この再結合によって、発光層40中の有機化合物が発光する。この発光によって生じた光は、正孔輸送層30、透明電極20及び透明基材11を通過して、有機デバイス100の側面20aから放射される。
【0102】
有機デバイス100は、透明基材11及び透明電極20として透明導電体10を用いている。したがって、透明電極20から正孔輸送層30に効率よく正孔を注入することができる。このため、有機デバイス100の発光効率を高くすることができる。透明電極20に含まれる第2の金属酸化物層16のキャリア密度を低くすること、及び、第2の金属酸化物層16の表面16aにおける仕事関数を大きくすることによって、有機デバイス100の発光効率を十分に高くすることができる。
【0103】
正孔輸送層30、発光層40、電子輸送層50及び金属電極(カソード)60は、通常の材料を用いて形成することができる。例えば、正孔輸送層30の材料としては、芳香族アミン化合物が挙げられる。発光層40としては、ホスト材料とドーパント材料を組み合わせた2成分系のものが挙げられる。ホスト材料としては、1,10−フェナントロリン誘導体、有機金属錯体化合物、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペリレン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテン等の芳香族炭化水素化合物及びそれらの誘導体、並びにスチリルアミン及びテトラアリールジアミン誘導体等が挙げられる。ドーパント材料としては、ベンゾジフルオランテン誘導体及びクマリン誘導体等が挙げられる。
【0104】
電子輸送層50としては、トリニトロフルオレノン、オキサジアゾール又はトリアゾール構造を有する化合物等の有機材料を用いて形成されていてもよいし、リチウム等のアルカリ金属、フッ化リチウム、又は酸化リチウム等の無機材料を用いて形成されていてもよい。金属電極60としては、アルミニウム等の金属材料、有機金属錯体又は金属化合物で構成されたものを用いることができる。各層は、真空蒸着法、イオン化蒸着法、及び塗布法等の通常の方法によって形成することができる。
【0105】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、
図4の有機デバイスは、透明導電体10の代わりに透明導電体10A又は透明導電体10Bを有していてもよい。また、有機デバイスは
図4に示すような有機EL照明に限定されず、有機ELディスプレイ又は有機薄膜太陽電池等であってもよい。
【実施例】
【0106】
以下に実施例及び比較例を挙げて本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
[実施例1]
(透明導電体の作製)
図1に示すような積層構造を有する透明導電体を作製した。透明導電体は、透明基材、第1の金属酸化物層、金属層、第3の金属酸化物層及び第2の金属酸化物層がこの順で積層された積層構造を有していた。この透明導電体を以下の要領で作製した。
【0108】
市販のポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:125μm)を準備した。このPETフィルムを透明基材として用いた。DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材の上に、第1の金属酸化物層、金属層、第3の金属酸化物層、及び第2の金属酸化物層を順次形成した。
【0109】
酸化亜鉛、酸化インジウム、及び酸化チタンの3成分で構成されるターゲットを用いて、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気の減圧下(0.5Pa)、DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材上に第1の金属酸化物層(厚さ:40nm)を形成した。第1の金属酸化物層において、酸化亜鉛、酸化インジウム、及び酸化チタンを、それぞれ、ZnO、In
2O
3、及びTiO
2に換算したときに、上記3成分の合計に対し、ZnOの含有量は74mol%、In
2O
3の含有量は15mol%、及びTiO
2の含有量は11mol%であった。
【0110】
Ag、Pd及びCuの銀合金で構成されるターゲットを用いて、アルゴンガス雰囲気の減圧下(0.5Pa)、DCマグネトロンスパッタリングによって、第1の金属酸化物層の上に金属層(厚さ:10nm)を形成した。金属層を構成する銀合金の各金属の質量比率は、Ag:Pd:Cu=99.0:0.7:0.3であった。
【0111】
酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズの4成分で構成されるターゲットを用いて、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気の減圧下(0.5Pa)、DCマグネトロンスパッタリングによって、金属層の上に第3の金属酸化物層(厚さ:20nm)を形成した。第3の金属酸化物層において、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズを、それぞれ、ZnO、In
2O
3、TiO
2及びSnO
2に換算したときに、上記4成分に対し、ZnOの含有量は35mol%、In
2O
3の含有量は29mol%、TiO
2の含有量は14mol%、及び、SnO
2の含有量は22mol%であった。
【0112】
ITOで構成されるターゲットを用いて、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気の減圧下(0.5Pa)、DCマグネトロンスパッタリングによって、第3の金属酸化物層の上に第2の金属酸化物層(厚さ:20nm、ITO層)を形成した。DCマグネトロンスパッタリングの際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率は1.1体積%であった。なお、この流量比率は、標準状態(25℃、1bar)における比率であり、以下の各実施例及び各比較例においても同様である。
【0113】
(透明導電体の評価)
作製した透明導電体の全光線透過率(透過率)を、ヘイズメーター(商品名:NDH−7000、日本電色工業社製)を用いて測定した。測定結果が85%以上の場合を「A」、85%未満の場合を「B」と判定した。結果を表1の「透過率」の欄に示す。
【0114】
作製した透明導電体の透明基材側とは反対側における表面抵抗値を、4端子抵抗率計(商品名:ロレスタGP、三菱化学株式会社製)を用いて測定した。測定結果が30Ω/sq.以下の場合を「A」と判定し、測定結果が30Ω/sq.を超える場合を「B」と判定した。結果を表1の「表面抵抗値」の欄に示す。
【0115】
作製した透明導電体の第2の金属酸化物層の表面における仕事関数を、光電子分光装置(理研計器株式会社製、商品名:FAC−1)を用いて測定した。結果を表1の「仕事関数」の欄に示す。
【0116】
作製した透明導電体の屈曲性を以下の手順で評価した。透明導電体を直径5mmのマンドレルに巻き付けて180°の角度に屈曲させた。マンドレルに1回巻き付けた後に、上述の表面抵抗値の測定を行った。マンドレルに巻き付ける前と巻き付けた後の表面抵抗値の差異がなかった場合を「A」と判定し、差異があった場合を「B」と判定した。なお、上記差異が4端子抵抗率計の測定誤差の範囲内である場合は「A」と判定した。結果を表1の「屈曲性」の欄に示す。なお、当該欄の数値は巻き付け後の表面抵抗値である。
【0117】
作製した透明導電体の耐食性を以下の手順で評価した。透明導電体を60℃、90%RHの高温高湿環境下で240時間保存した。その後、目視で、透明導電体に変色が認められない場合を「A」と判定した。また、微小な変色領域(概ね1mm
2以下)が認められた場合を「B」、「B」よりも大きな変色領域が認められた場合を「C」と判定した。結果を表1の「耐食性」の欄に示す。
【0118】
[実施例2]
第2の金属酸化物層をDCマグネトロンスパッタリングで形成する際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率を、1.7体積%にしたこと以外は実施例1と同じ条件で透明導電体を作製し、評価を行った。各評価の結果は表1に示すとおりであった。
【0119】
[実施例3]
第2の金属酸化物層をDCマグネトロンスパッタリングで形成する際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率を、2.4体積%にしたこと以外は実施例1と同じ条件で透明導電体を作製し、評価を行った。各評価の結果は表1に示すとおりであった。
【0120】
[実施例4]
第2の金属酸化物層をDCマグネトロンスパッタリングで形成する際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率を、3.0体積%にしたこと以外は実施例1と同じ条件で透明導電体を作製し、評価を行った。各評価の結果は表1に示すとおりであった。
【0121】
[実施例5]
第2の金属酸化物層をDCマグネトロンスパッタリングで形成する際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率を、4.3体積%にしたこと以外は実施例1と同じ条件で透明導電体を作製し、評価を行った。各評価の結果は表1に示すとおりであった。
【0122】
[
比較例6]
第3の金属酸化物層を設けなかったこと、及び第2の金属酸化物層(ITO層)の厚みを40nmにしたこと以外は、実施例4と同様にして透明導電体を作製した。すなわち、この透明導電体は、透明基材、第1の金属酸化物層、金属層及び第2の金属酸化物層をこの順で有していた。この透明導電体の評価を実施例1と同様にして行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0123】
【表1】
【0124】
表1中、透過率、表面抵抗値及び屈曲性の欄の括弧内の数値は測定値を表す。表1に示すとおり、第2の金属酸化物層を形成する際の酸素ガスの比率が増加するにつれて、仕事関数が大きくなる傾向にあることが確認された。実施例1〜
5及び比較例6の透明導電体は、表面抵抗値が9Ω/sq.以下であり、導電性に優れることが確認された。また、実施例1〜
5及び比較例6の透明導電体は、屈曲性及び耐食性にも優れることが確認された。このうち、実施例1〜5の透明導電体は、耐食性に十分に優れることが確認された。
【0125】
(有機デバイスの素子特性の評価)
透明基材として、PETフィルムの代わりにガラス基板を用いたこと以外は、実施例1〜5と同じ条件で、透明基材の上に、第1の金属酸化物層、金属層、第3の金属酸化物層、及び第2の金属酸化物層を順次形成して、各透明導電体を得た。それぞれの透明導電体の第2の金属酸化物層の表面に、正孔輸送層(厚み:50nm)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを含む発光層(厚み:50nm)、LiFを含む電子輸送層(厚み:12nm)、アルミニウム電極(300nm)を、それぞれ蒸着により形成して、
図4に示すような有機EL発光素子を得た。
【0126】
得られた有機EL発光素子に電流を流した時の電圧値を測定した。結果は、
図5に示すとおりであった。
図5では、同じ電圧値で比較したときに、電流密度(単位面積当たりの電流値)が高いほど、透明導電体から有機層へのホール注入性に優れることを示している。すなわち、電流密度が高いほど、有機EL発光素子を低電圧で駆動することができる。
【0127】
電圧10Vの時の電流密度を表2に示す。
図5及び表2から、仕事関数が高いほど、電流密度が高くなり、ホール注入性に優れることが確認された。仕事関数が5.0eV以上の場合に、10V以下の電圧で5mA/cm
2以上の電流密度が得られ、十分に優れた素子特性が得られることが確認された。
【0128】
【表2】
【0129】
[参考例1]
実施例1で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例1と同じ手順で第2の金属酸化物層(ITO単層)を形成した。このITO単層の表面抵抗値及び仕事関数を、実施例1と同様にして測定した。また、表面抵抗値とITO単層の厚みの積から、ITO単層の比抵抗値を求めた。さらに、ホール効果測定装置(ECOPIA社製、商品名:HMS−3000)を用いてITO単層のキャリア密度を測定した。結果は表3に示すとおりであった。
【0130】
[参考例2]
実施例2で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例2と同じ手順で第2の金属酸化物層(ITO単層)を形成した。このITO単層の表面抵抗値及び仕事関数を、実施例1と同様にして測定した。また、参考例1と同じ方法でITO単層の比抵抗値及びキャリア密度を測定した。結果は表3に示すとおりであった。
【0131】
[参考例3]
実施例3で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例3と同じ手順で第2の金属酸化物層(ITO単層)を形成した。このITO単層の表面抵抗値及び仕事関数を、実施例1と同様にして測定した。また、参考例1と同じ方法でITO単層の比抵抗値及びキャリア密度を測定した。結果は表3に示すとおりであった。
【0132】
[参考例4]
実施例4で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例4と同じ手順で第2の金属酸化物層(ITO単層)を形成した。このITO単層の表面抵抗値及び仕事関数を、実施例1と同様にして測定した。また、参考例1と同じ方法でITO単層の比抵抗値及びキャリア密度を測定した。結果は表3に示すとおりであった。
【0133】
[参考例5]
実施例5で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例5と同じ手順で第2の金属酸化物層(ITO単層)を形成した。このITO単層の表面抵抗値及び仕事関数を、実施例1と同様にして測定した。また、参考例1と同じ方法でITO単層の比抵抗値及びキャリア密度を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0134】
【表3】
【0135】
表3の参考例1〜5の仕事関数と、表1の実施例1〜5の仕事関数は同一であった。このことから、仕事関数は、内側の層の組成に影響されず、第2の金属酸化物層によって決まる特性であることが確認された。また、第2の金属酸化物層の表面抵抗値及び比抵抗値は、第2の金属酸化物層を形成する際の酸素ガスの比率の影響を受けることが確認された。このことは、第2の金属酸化物層を形成する際の酸素ガスの比率を変えると、第2の金属酸化物層の構造が変化することを示している。また、表3より、仕事関数を高めていくとキャリア密度が低下し表面抵抗値が悪化することから、ITO単層から構成される透明導電膜では、高仕事関数化と低抵抗化の両立が困難であることが分かる。
【0136】
図6は、参考例1〜5のITO単層のキャリア密度と仕事関数の関係を示すグラフである。キャリア密度と仕事関数はほぼ比例関係にあり、キャリア密度を小さくすると仕事関数が大きくなることが確認された。キャリア密度[cm
−3]をx、仕事関数[eV]をyとしたとき、両者の相関式は、y=−9×10
−22x+5.3269であり、相関係数(r
2)は0.9943であった。仕事関数を5.0eV以上にするためには、キャリア密度を3.5×10
20cm
−3以下にする必要がある。
【0137】
[比較例1]
実施例1で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例4の第2の金属酸化物層を形成する際と同じ条件(アルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率:3.0体積%)で、ITO層(厚さ:40nm)を形成した。これによって、透明基材とITO層とからなる透明導電体を得た。この透明導電体の評価を実施例1と同様にして行った。結果は表4に示すとおりであった。
【0138】
[比較例2]
実施例1で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例4の第2の金属酸化物層を形成する際と同じ条件(アルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率:3.0体積%)で、ITO層(厚さ:150nm)を形成した。これによって、透明基材とITO層とからなる透明導電体を得た。この透明導電体の評価を実施例1と同様にして行った。結果は表4に示すとおりであった。
【0139】
[比較例3]
実施例1で用いた市販のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、実施例4の第2の金属酸化物層を形成する際と同じ条件(アルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率:3.0体積%)で、ITO層(厚さ:40nm)を形成した。このITO層の上に、実施例1と同じ金属層を形成した。さらに、この金属層の上に、実施例4の第2の金属酸化物層を形成する際と同じ条件(アルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率:3.0体積%)で、ITO層(厚さ:40nm)を形成した。これによって、透明基材、ITO層、金属層、及びITO層がこの順に積層された透明導電体を得た。この透明導電体の評価を実施例1と同様にして行った。結果は表4に示すとおりであった。
【0140】
[比較例4]
金属層の形成まで比較例3と同じ手順を行った。金属層の上に、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズの4成分を含む金属酸化物層(厚さ:40nm)を形成した。この金属酸化物層は、実施例1の第3の金属酸化物層と同じ方法で形成した。すなわち、この透明導電体は、透明基材、ITO層、金属層及び金属酸化物層(実施例1の第3の金属酸化物層に相当)をこの順で有していた。この透明導電体の評価を実施例1と同様にして行った。結果は表4に示すとおりであった。
【0141】
【表4】
【0142】
表4中、透過率、表面抵抗値及び屈曲性の欄の括弧内の数値は測定値を表す。表4に示すとおり、比較例1〜4の透明導電体は、導電性、屈曲性及び耐食性の少なくとも一つの判定結果が「B」であった。比較例1は表面抵抗値がいずれの実施例よりも高かった。比較例
2はITO層の厚みを大きくすることで表面抵抗値が低減できたものの、屈曲性の評価の際にITO層にクラックが発生し絶縁膜状態となった。比較例3,4は、ITO層と金属層とが接触しているため、耐食性が実施例1〜5よりも劣っていた。
【0143】
[実施例7〜10]
第2の金属酸化物層の厚みを表5に示すとおりに変更し、それに応じて第3の金属酸化物層の厚みを変更して、第2の金属酸化物層と第3の金属酸化物層の合計厚みを40nmとしたこと以外は、実施例4と同様にして透明導電体を作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0144】
【表5】
【0145】
表5中、括弧内の数値は測定値を表す。表5に示すとおり、実施例7〜10の透明導電体は、導電性、屈曲性及び耐食性に優れることが確認された。また、仕事関数は、第3の金属酸化物層の厚みに殆ど依存しないことが確認された。
【0146】
[実施例11]
実施例1と同じ手順で、透明基材の上に、第1の金属酸化物層、金属層、第3の金属酸化物層をこの順で形成した。続いて、ITOで構成されるターゲットを用いて、アルゴンと酸素の混合ガス雰囲気の減圧下(0.5Pa)、DCマグネトロンスパッタリングによって、第3の金属酸化物層の上に第2の金属酸化物層(厚さ:20nm、ITO層)を形成した。DCマグネトロンスパッタリングの際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率は、約6.5体積%であった。このようにして実施例11の透明導電体を得た。
【0147】
[実施例12]
第
2の金属酸化物層をDCマグネトロンスパッタリングで形成する際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率を約2.2体積%にしたこと以外は、実施例11と同じ条件で透明導電体を作製した。
【0148】
[比較例5]
第
2の金属酸化物層をDCマグネトロンスパッタリングで形成する際のアルゴンガスに対する酸素ガスの流量比率を0体積%にしたこと以外は、実施例1と同じ条件で透明導電体を作製した。
【0149】
(XPSの測定)
市販の装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:QUANTERAII)を用いて、実施例11、実施例12及び比較例5の第2の金属酸化物層の表面におけるX線光電子分光分析を行った。また、この分析後、第2の金属酸化物層の表面にArイオンビームをラスタースキャニング照射してスパッタエッチングを行い、第2の金属酸化物層の表面から深さ1.7nmまでの部分を除去した。このようなArイオンエッチングを行って露出させた第2の金属酸化物層の内部のX線光電子分光分析を、表面の分析と同様にして行った。
【0150】
図7(A)、
図8、
図9、
図10(A)及び
図11は、Arイオンエッチング前の実施例11、実施例12及び比較例5のX線光電子分光スペクトルを示している。
図7(A)は、実施例11、実施例12及び比較例5の第2の金属酸化物層の表面において測定された、0.5〜2.3eVの結合エネルギー領域を含むX線光電子分光スペクトルを示している。実施例11、実施例12及び比較例5のそれぞれにおいて、2回測定を行っているため、
図7〜
図11においては、各実施例及び比較例について2本ずつスペクトルが示されている。
図7(A)に示されるように、実施例11及び実施例12のスペクトルと比較例5のスペクトルの形状は互いに異なっていた。
【0151】
図8は、実施例11と比較例5のArイオンエッチング前における第2の金属酸化物層の表面における0.5〜2.3eVの結合エネルギー領域のX線光電子分光スペクトルを拡大して示す図である。
図9は、実施例12と比較例5のArイオンエッチング前における第2の金属酸化物層の表面における0.5〜2.3eVの結合エネルギー領域のX線光電子分光スペクトルを拡大して示す図である。
図8においては、実施例11の2つのX線光電子分光スペクトルを、実施例11−1及び実施例11−2と表示している。
図9においては、実施例12の2つのX線光電子分光スペクトルを、実施例12−1及び実施例12−2と表示している。
図8及び
図9における比較例5も同様に比較例5−1及び比較例5−2と表示している。
図7(A)、
図8及び
図9に示されるように、比較例5に比べて実施例11及び実施例12のスペクトルは、下側にシフトしていることが確認された。
【0152】
図10(A)は、実施例11、実施例12及び比較例5のArイオンエッチング前における第2の金属酸化物層の表面における14〜21eVの結合エネルギー領域を含むX線光電子分光スペクトルを示す図である。この結合エネルギー領域はインジウム[In4d]のピークを含んでいる。実施例11、実施例12及び比較例5のX線光電子分光スペクトルにおいて、このピークはほぼ同じ位置(同じ結合エネルギー)に観察された。
【0153】
図11は、実施例11、実施例12及び比較例5のArイオンエッチング前における第2の金属酸化物層の表面における276〜293eV付近の結合エネルギー領域のX線光電子分光スペクトルを示す図である。284.8eV付近のピークは炭素[C1s]である。実施例11、実施例12及び比較例5のX線光電子分光スペクトルにおいて、このピーク位置はほぼ同じ位置に観察された。
【0154】
上述のとおり測定されたX線光電子分光スペクトルから、14〜21eVの結合エネルギー領域にあるピーク面積Aと、0.5〜2.3eVの結合エネルギー領域にあるピーク面積Bをそれぞれ算出した。なお、算出にあたっては、それぞれのスペクトルにおいて上述のシフト補正及びバックグラウンド補正を行い、ピーク面積A,Bを算出した。ピーク面積A,Bの値、及びその比率(B/A)は、表
6に示すとおりであった。実施例
11,
12及び比較例
5のそれぞれにおいて、X線光電子分光分析を2回ずつ行っているため、比率(B/A)は2回の平均値として表6に示した。
【0155】
図7(B)、及び
図10(B)は、Arイオンエッチング後の実施例11、実施例12及び比較例5の第2の金属酸化物層の露出面におけるX線光電子分光スペクトルを示している。
図7(A)と
図7(B)を対比すると、第2の金属酸化物層の表面と内部とでは、X線光電子分光スペクトルが異なっている。これは、両者の表面状態が互いに異なっていることを示している。
図7(B)に示されるとおり、Arイオンエッチング後では、実施例11,実施例12と比較例5のX線光電子分光スペクトルに、Arイオンエッチング前ほどの大きな差異はなかった。
【0156】
Arイオンエッチング後の露出面におけるピーク面積A,Bを、Arイオンエッチング前の表面の場合と同様にして求め、ピーク面積Aとピーク面積Bの比率(B/A)’を算出した。その結果は表7に示すとおりであった。
【0157】
(透明導電体の評価)
実施例1と同様にして、実施例11、実施例12及び比較例5の仕事関数、全光線透過率(透過率)、表面抵抗値、屈曲性及び耐食性をそれぞれ測定した。これらの結果を表6に示す。
【0158】
【表6】
【0159】
表6に示すとおり、比率(B/A)の値が比較例5よりも小さい実施例11及び実施例12の透明導電体は、比較例5よりも大きい仕事関数を有していた。実施例11の透明導電体は、最も大きい仕事関数を有していた。実施例11及び実施例12の透明導電体は、全光線透過率が高く、表面抵抗値は十分に低かった。また、屈曲性及び耐食性にも優れていた。
【0160】
【表7】
【0161】
表7に示すとおり、実施例11、実施例12及び比較例5の比率(B/A)’の値に、表6の比率(B/A)ほどの差異は見られなかった。実施例11及び実施例12は、ともに、表6の比率(B/A)の方が表7の比率(B/A)’よりも小さくなっていた。このため、第2の金属酸化物層の表面に近いほど仕事関数が高い状態であると考えられる。