特許第6962387号(P6962387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962387液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962387
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20211025BHJP
   C08G 73/02 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   G02F1/1337 520
   C08G73/02
【請求項の数】14
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2019-567917(P2019-567917)
(86)(22)【出願日】2018年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2018046723
(87)【国際公開番号】WO2019146319
(87)【国際公開日】20190801
【審査請求日】2020年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2018-10894(P2018-10894)
(32)【優先日】2018年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−351924(JP,A)
【文献】 特表2003−513146(JP,A)
【文献】 特表2002−515067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエナミンを含有し、
前記ポリエナミンは、下記式(1)又は式(2)で表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有するα,β−不飽和化合物と、ジアミン化合物との反応生成物である液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、Lは、ジアミン化合物との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。一分子内の複数のX、R、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項2】
前記α,β−不飽和化合物は、下記式(4−1)〜式(4−4)のそれぞれで表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有する化合物、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物(ただし、互変異性体を含む。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(4−1)〜式(4−4)、式(5)及び式(6)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、R〜R及びR〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基であり、Rは、炭素数2〜5のアルカンジイル基又は当該アルカンジイル基の炭素−炭素結合間に−O−又は−S−を有する基である。Lは、ジアミン化合物との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子である。一分子内の複数のX、R〜R10、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項3】
前記ポリエナミンは、下記式(d−1)〜式(d−4)のそれぞれで表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物に由来する部分構造を有する、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(d−1)中、X11及びX12は、それぞれ独立に、単結合、−O−、−S−、−OCO−又は−COO−であり、Y11は、酸素原子又は硫黄原子であり、R11及びR12は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルカンジイル基である。n1は0又は1であり、n2及びn3は、n1=0の場合、n2+n3=2を満たす整数であり、n1=1の場合、n2=n3=1である。式(d−2)中、X13は、単結合、−O−又は−S−であり、m1は0〜3の整数である。m2は、m1=0の場合に1〜12の整数であり、m1が1〜3の整数の場合にm2=2である。式(d−3)中、X14及びX15は、それぞれ独立に、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、R17は、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、A11は、単結合又は炭素数1〜3のアルカンジイル基である。aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、kは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。式(d−4)中、A12は単結合、炭素数1〜12のアルカンジイル基又は炭素数1〜6のフルオロアルカンジイル基を示し、A13は、−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−又は−CO−を示し、A14は、ステロイド骨格を有する1価の有機基を示す。)
【請求項4】
前記ポリエナミンは、下記式(9)で表される2級又は3級アミン構造、及び窒素含有複素環構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有するジアミン化合物に由来する部分構造を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化4】
(式(9)中、R51及びR52は、それぞれ独立に2価の芳香環基であり、R53は、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項5】
前記ポリエナミンは、カルボキシル基を有するジアミン化合物に由来する部分構造と、窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物に由来する部分構造と、を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記ポリエナミンは、下記式(7−1)又は式(7−2)で表される基を有するジアミン化合物に由来する部分構造を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化5】
(式(7−1)及び式(7−2)中、A21は、単結合又は炭素数1以上の2価の有機基であり、Yは保護基であり、R21〜R23は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。mは0〜6の整数である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項7】
前記ポリエナミンは、下記式(8)で表されるジアミン化合物に由来する部分構造を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化6】
(式(8)中、A31は2価の芳香環基であり、R31は炭素数1〜5のアルカンジイル基であり、R32は炭素数1〜4の1価の炭化水素基である。)
【請求項8】
シクロカーボネート基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、オキセタニル基、トリアルコキシシリル基、及び重合性不飽和結合基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性基を有する化合物を更に含有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
下記式(E−1)〜式(E−5)のそれぞれで表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ1気圧での沸点が180℃以下である有機溶剤を含有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化7】
(式(E−1)中、R41は、炭素数1〜4のアルキル基又はR40−CO−(ただし、R40は炭素数1〜3のアルキル基)であり、R42は、炭素数1〜4のアルカンジイル基又は−(R47−O)r−R48−(ただし、R47及びR48は、それぞれ独立に炭素数2又は3のアルカンジイル基であり、rは1〜4の整数である。)であり、R43は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【化8】
(式(E−2)中、R44は、炭素数1〜4のアルカンジイル基である。)
【化9】
(式(E−3)中、R45及びR46は、それぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基である。)
【化10】
(式(E−4)中、R49は、水素原子又は水酸基であり、R50は、R49が水素原子の場合、炭素数1〜9の2価の炭化水素基、又は炭素数3〜9の鎖状炭化水素基の炭素−炭素結合間に−CO−を有する2価の基であり、R49が水酸基の場合、炭素数1〜9の2価の炭化水素基、又は炭素数2〜9の炭化水素基の炭素−炭素結合間に酸素原子を有する2価の基である。)
【化11】
(式(E−5)中、R51は、炭素数1〜6の1価の炭化水素基、炭素数1〜6の炭化水素基が有する水素原子が水酸基で置換された1価の基、又は炭素数2〜6の炭化水素基の炭素−炭素結合間に−CO−を有する1価の基であり、R52は、炭素数1〜6の1価の炭化水素基である。)
【請求項10】
前記ポリエナミンとは異なる重合体を更に含有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項12】
請求項11に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【請求項13】
染料を含有するカラーフィルタ層を備える、請求項12に記載の液晶素子。
【請求項14】
ポリエナミンを含有する液晶配向剤を用いて、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を形成した一対の基板を、液晶層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを構築する工程と、
前記一対の基板が有する前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、
を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年1月25日に出願された日本出願番号2018−10894号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶素子としては、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型などに代表される、正の誘電異方性を有するネマチック液晶を用いる水平配向モードの液晶素子や、負の誘電異方性を有するネマチック液晶を用いる垂直(ホメオトロピック)配向モードのVA(Vertical Alignment)型の液晶素子など、各種液晶素子が知られている。これら液晶素子は、液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を具備している。
【0004】
一般に、液晶配向膜は、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板に塗布し、加熱することにより形成される。液晶配向剤の重合体成分としては、ポリアミック酸、可溶性ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルガノシロキサン等が知られており、特にポリアミック酸及び可溶性ポリイミドは、耐熱性、機械的強度、液晶分子との親和性に優れること等から、古くから好ましく使用されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−153622号公報
【特許文献2】特開昭56−91277号公報
【特許文献3】特開平11−258605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリアミック酸及び可溶性ポリイミドは有機溶媒に対する溶解性が比較的低く、液晶配向剤の溶剤成分としては、非プロトン性極性溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の高沸点溶剤が一般に使用されている。ここで、良好な電気特性及び信頼性を有する液晶素子を得るためには、液晶配向膜中の残存溶剤を極力少なくする必要がある。しかしながら、液晶配向膜を形成する際に高温での加熱が必要になると、基板の材料が制約される等の不都合が生じ、例えば液晶素子の基板としてフィルム基材を適用することが制限されることがある。また、カラー液晶表示素子において、カラーフィルタ用の着色剤として用いられる染料は熱に比較的弱く、膜形成時の加熱を高温で行う必要がある場合には染料の使用が制限されることがある。
【0007】
こうした問題を解消するための方法として、液晶配向剤の調製に際し高沸点溶剤の使用量を減らしたり、高沸点溶剤の代わりに低沸点溶剤を使用したりすることが考えられる。しかしながら、液晶配向剤の重合体成分に対する溶解性が十分に高く、かつ沸点が十分に低い溶剤は限られており、選択の幅が狭いという実情がある。また、重合体成分が溶剤に均一に溶解されないと、基板上に形成した液晶配向膜に塗布ムラ(膜厚ムラ)やピンホールが生じたり、塗布領域の端部において直線性を確保できなかったり平坦面とならなかったりすることが懸念される。この場合、製品歩留まりが低下したり、液晶配向性や電気特性等の表示性能に影響が及んだりすることが懸念される。
【0008】
また、ポリアミック酸については、ポリイミドよりも溶解性の面では良好であるものの、ポリアミック酸をポリイミドへ環化して良好な電気特性を確保するようにするためには、素子製造時の加熱を比較的高温で行う必要がある。
【0009】
そこで、液晶配向剤の重合体成分として、低沸点溶剤に対しても高溶解性を示すことにより、液晶配向剤とした場合に基板に対して良好な塗布性を示し、かつ液晶配向性及び電気特性に優れた新たな材料が求められている。特に近年では、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶パネルに対する高品質化の要求は更に高まりつつある。そのため、優れた表示品位を確保することが重要である。
【0010】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、基板に対する塗布性が良好であり、かつ液晶配向性及び電圧保持率に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示によれば、以下の手段が提供される。
[1] ポリエナミンを含有する、液晶配向剤。
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4] 上記[1]の液晶配向剤を用いて、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗膜を形成する工程と、前記塗膜を形成した一対の基板を、液晶層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを構築する工程と、前記一対の基板が有する前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
重合体成分としてポリエナミンを含有する液晶配向剤を用いることにより、液晶配向性及び電圧保持率に優れた液晶素子を得ることができる。また、当該液晶配向剤は、基板に対する塗布性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0014】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、重合体成分としてポリエナミンを含有する。ポリエナミンは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素−炭素二重結合を有する重合体であり、ポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニルを含む。使用するポリエナミンは、モノマーの入手容易性や合成しやすさの点で、下記式(1)又は式(2)で表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有するα,β−不飽和化合物と、ジアミン化合物との反応生成物であることが好ましい。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、Lは、ジアミン化合物との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。一分子内の複数のX、R、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【0015】
(α,β−不飽和化合物)
上記式(1)及び式(2)において、Xは、モノマーの選択の自由度が高い点でカルボニル基であることが好ましい。
上記式(1)のLとしては、ジアミン化合物のアミノ基との反応により脱離する基であれば特に限定されないが、例えば炭素数1〜5のアルコキシ基、ピロリジニル基、ハロゲン原子、水酸基、置換又は無置換のフェノキシ基、複素環基、複素環の環部分に水酸基又はチオール基が導入されてなる1価の基等が挙げられる。Lが置換フェノキシ基である場合、フェノキシ基が有する置換基としては、例えばアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)などが挙げられる。なお、本明細書において「複素環基」とは、複素環(例えば、窒素含有複素環、酸素原子複素環、硫黄含有複素環等)の環からn個(nは整数)の水素原子を取り除いたn価の基を意味する。
【0016】
α,β−不飽和化合物の好ましい具体例としては、下記式(4−1)〜式(4−4)のそれぞれで表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有する化合物、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物(ただし、互変異性体を含む。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、下記式(4−1)、式(4−2)、式(4−4)、式(5)及び式(6)のそれぞれで表される構造が上記式(1)で表される部分構造を有するものに該当し、下記式(4−3)で表される構造が上記式(2)で表される部分構造を有するものに該当する。
【化2】
(式(4−1)〜式(4−4)、式(5)及び式(6)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、R〜R及びR〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基であり、Rは、炭素数2〜5のアルカンジイル基又は当該アルカンジイル基の炭素−炭素結合間に−O−又は−S−を有する基である。Lは、ジアミン化合物との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子である。一分子内の複数のX、R〜R10、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【0017】
上記式(4−1)、式(4−2)、式(4−4)及び式(5)中のLの具体例については、上記式(1)中のLの説明が適用される。
〜R及びR〜R10の1価の有機基は、好ましくは炭素数1〜20の1価のアルキル基、アルコキシ基又はシクロアルキル基である。
α,β−不飽和化合物が上記式(4−1)〜式(4−4)のそれぞれで表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有する場合、一分子内における当該部分構造の数は、好ましくは2〜4個であり、より好ましくは2個である。具体的には、下記式(M−1)〜式(M−4)のそれぞれで表される化合物を好ましく用いることができる。
【化3】
(式(M−1)〜式(M−4)中、B〜Bは、単結合又は2価の有機基である。X、R〜R、L及びLは、上記式(4−1)〜式(4−4)と同義である。)
【0018】
上記式(M−1)〜式(M−4)において、B〜Bの2価の有機基としては、例えば炭素数1〜20の2価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−、−S−、−NH−等を有する2価の基等が挙げられる。B〜Bが2価の有機基である場合、B〜Bは、上記式(4−1)〜式(4−4)に対して芳香環基で結合する基であることが好ましい。当該芳香環基は、好ましくはフェニレン基又はナフタレン基であり、フェニレン基であることが特に好ましい。この芳香環基は、環部分にメチル基、エチル基、アルコキシ基等を置換基として有していてもよい。
【0019】
α,β−不飽和化合物の具体例としては、下記式(A−1)〜式(A−14)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、ポリエナミンの合成に際し、α,β−不飽和化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化4】
【化5】
【0020】
本明細書において「α,β−不飽和化合物」には、互変異性を示す化合物についてはその互変異性体を含む意味である。例えば、上記式(4−1)のLが水酸基である部分構造は下記式(4−1A)で表される部分構造との間で相互に変換するが、ポリエナミンの合成に際しては、下記式(4−1A)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物が存在していることを許容する。上記式(4−2)のLが水酸基である部分構造及び上記式(6)で表される化合物についても同様であり、下記式(4−2A)で表される部分構造、下記式(6A)で表される化合物との間でそれぞれ相互に変換する。上記式(A−5)、式(A−9)及び式(A−10)のそれぞれで表される化合物の互変異性体を下記に示す。
【化6】
【化7】
【0021】
なお、上記で例示したα,β−不飽和化合物のうち、上記式(A−8)、(A−9)、(A−11)、(A−12)及び(A−14)のそれぞれで表される化合物が、上記式(4−1)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当し、上記式(A−10)で表される化合物が、上記式(4−2)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当する。また、上記式(A−13)で表される化合物が、上記式(4−3)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当し、上記式(A−6)及び(A−7)のそれぞれで表される化合物が、上記式(4−4)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当する。また、上記式(A−1)〜式(A−3)のそれぞれで表される化合物が上記式(5)で表される化合物に相当し、上記式(A−4)及び式(A−5)のそれぞれで表される化合物が上記式(6)で表される化合物に相当する。
【0022】
(ジアミン化合物)
ポリエナミンの合成に使用するジアミン化合物は特に限定されず、公知のジアミン化合物を使用することができる。ポリエナミンは、これらのうち、得られる液晶素子の液晶配向性を優れたものとすることができることから、下記式(d−1)〜式(d−4)のそれぞれで表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物(以下、「特定ジアミン」ともいう。)に由来する部分構造を有していることが好ましい。
【化8】
(式(d−1)中、X11及びX12は、それぞれ独立に、単結合、−O−、−S−、−OCO−又は−COO−であり、Y11は、酸素原子又は硫黄原子であり、R11及びR12は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルカンジイル基である。n1は0又は1であり、n2及びn3は、n1=0の場合、n2+n3=2を満たす整数であり、n1=1の場合、n2=n3=1である。式(d−2)中、X13は、単結合、−O−又は−S−であり、m1は0〜3の整数である。m2は、m1=0の場合に1〜12の整数であり、m1が1〜3の整数の場合にm2=2である。式(d−3)中、X14及びX15は、それぞれ独立に、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、R17は、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、A11は、単結合又は炭素数1〜3のアルカンジイル基である。aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、kは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。式(d−4)中、A12は単結合、炭素数1〜12のアルカンジイル基又は炭素数1〜6のフルオロアルカンジイル基を示し、A13は、−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−又は−CO−を示し、A14は、ステロイド骨格を有する1価の有機基を示す。)
【0023】
(式(d−1)で表される化合物)
上記式(d−1)において、R11及びR12の炭素数1〜3のアルカンジイル基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−2,3−ジイル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、メチレン基、エチレン基又はプロパン−1,3−ジイル基である。
11及びX12は、単結合、−O−又は−S−であることが好ましい。
11は、酸素原子又は硫黄原子であり、好ましくは酸素原子である。
【0024】
式(d−1)で表される化合物が有する2つの一級アミノ基は、n1=0の場合、同一のベンゼン環に結合されていてもよいし、2つの異なるベンゼン環に1つずつ結合されていてもよい。n1=1の場合には、2つの一級アミノ基は異なるベンゼン環にそれぞれ1つずつ結合されている。
ベンゼン環上の1級アミノ基の結合位置は特に限定しない。例えば、ベンゼン環上の一級アミノ基が1つの場合、その結合位置は、他の基に対して、2−位、3−位、4−位のいずれでもよく、3−位又は4−位であることが好ましく、4−位であることがより好ましい。また、ベンゼン環上の1級アミノ基が2つの場合、その結合位置は、他の基に対して、例えば2,4−位、2,5−位等が挙げられ、中でも2,4−位が好ましい。
【0025】
1級アミノ基が結合するベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、若しくは該炭化水素基上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された1価の基、又はフッ素原子で置換されていてもよい。この場合の1価の炭化水素基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数5〜10のアリール基(フェニル基、トリル基など)、炭素数5〜10のアラルキル基(ベンジル基など)等が挙げられる。
【0026】
上記式(d−1)で表される化合物の好ましい具体例としては、n1=0である化合物として、例えば4,4’−ジアミノジフェニルアミン、2,4−ジアミノジフェニルアミン等を;n1=1である化合物として、例えば1,3−ビス(4−アミノベンジル)ウレア、1,3−ビス(4−アミノフェネチル)ウレア、1,3−ビス(3−アミノベンジル)ウレア、1−(4−アミノベンジル)−3−(4−アミノフェネチル)ウレア、1,3−ビス(2−(4−アミノフェノキシ)エチル)ウレア、1,3−ビス(3−(4−アミノフェノキシ)プロピル)ウレア、1,3−ビス(4−アミノベンジル)チオウレア、1,3−ビス(2−アミノベンジル)ウレア、1,3−ビス(2−アミノフェネチル)ウレア、1,3−ビス(2−(2−アミノベンゾイルオキシ)エチル)ウレア、1,3−ビス(3−(2−アミノベンゾイルオキシ)プロピル)ウレア等を;それぞれ挙げることができる。なお、上記式(d−1)で表される化合物としては、これらの化合物を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
(式(d−2)で表される化合物)
上記式(d−2)において、X13は、単結合、−O−又は−S−であり、好ましくは単結合又は−O−である。
m1=0の場合、m2は1〜12の整数である。この場合、得られる重合体の耐熱性を良好にする観点からすると、好ましくはm2が1〜10であり、より好ましくは1〜8である。また、液晶配向膜の用途において、良好な液晶配向性を保持しつつラビング耐性を良好にする観点では、m1=0であることが好ましく、液晶分子のプレチルト角を小さくする観点では、m1は1〜3の整数であることが好ましい。
ベンゼン環上の1級アミノ基の結合位置は特に限定しないが、各々の1級アミノ基が、他の基に対して3−位又は4−位であることが好ましく、4−位がより好ましい。なお、1級アミノ基が結合するベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、若しくは該炭化水素基上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された1価の基、又はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0028】
上記式(d−2)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えばビス(4−アミノフェノキシ)メタン、ビス(4−アミノフェノキシ)エタン、ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ブタン、ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、ビス(4−アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス(4−アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス(4−アミノフェノキシ)オクタン、ビス(4−アミノフェノキシ)ノナン、ビス(4−アミノフェノキシ)デカン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)エタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ビス(4−アミノフェニル)ブタン、ビス(4−アミノフェニル)ペンタン、ビス(4−アミノフェニル)ヘキサン、ビス(4−アミノフェニル)ヘプタン、ビス(4−アミノフェニル)オクタン、ビス(4−アミノフェニル)ノナン、ビス(4−アミノフェニル)デカン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルファニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルファニル)ブタン等を挙げることができる。なお、上記式(d−2)で表される化合物としては、これら例示の化合物を1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
(式(d−3)で表される化合物)
式(d−3)において、「−X14−(R17−X15−」で表される二価の基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基、*−O−、*−COO−又は*−O−C−O−(但し、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。
基「−C2c+1」は、直鎖状であることが好ましく、その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基等が挙げられる。
ジアミノフェニル基における2つの一級アミノ基は、基「X」に対して2,4−位又は3,5−位であることが好ましく、2,4−位であることがより好ましい。なお、一級アミノ基が結合するベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、若しくは該炭化水素基上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された1価の基、又はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0030】
上記式(d−3)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(d−3−1)〜式(d−3−12)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。
【化9】
【化10】
【0031】
(式(d−4)で表される化合物)
上記式(d−4)のA12における炭素数1〜12のアルカンジイル基としては、炭素数1〜4のアルカンジイル基が好ましく、メチレン基、エチレン基、1,3−プロパンジイル基、1,4−ブタンジイル基がより好ましい。炭素数1〜6のフルオロアルカンジイル基としては、炭素数1〜4のパーフルオロアルカンジイル基が好ましく、−CF−、パーフルオロエチレン基、1,3−パーフルオロプロパンジイル基、1,4−パーフルオロブタンジイル基がより好ましい。
13は−O−が好ましい。
14におけるステロイド骨格とは、シクロペンタノ−ペルヒドロフェナントレン核からなる構造又はその炭素−炭素結合の一つもしくは二つ以上が二重結合となった構造をいう。かかるステロイド骨格を有する1価の有機基としては、炭素数17〜40のものが好ましい。
【0032】
上記式(d−4)で表される化合物の好ましい具体例としては、液晶配向膜の用途において塗膜に高いプレチルト角を与える点から、1−コレステリルオキシメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−(1−コレステリルオキシ−1,1−ジフルオロメチル)−2,4−ジアミノベンゼン、1−(1−コレスタニルオキシ−1,1−ジフルオロメチル)−3,5−ジアミノベンゼン、3−(2,4−ジアミノフェニルメトキシ)−4,4−ジメチルコレスタン、3−(3,5−ジアミノフェニルメトキシ)−4,4−ジメチルコレスタン、3−(1−(3,5−ジアミノフェニル)−1,1−ジフルオロメトキシ)−4,4−ジメチルコレスタン、3−((2,4−ジアミノフェニル)メトキシ)コラン−24−酸 ヘキサデシル、3−(2,4−ジアミノフェニルメトキシ)コラン−24−酸 ステアリル、3−(1−(2,4−ジアミノフェニル)−1,1−ジフルオロメトキシ)コラン−24−酸 ステアリル、3−(3,5−ジアミノフェニルメトキシ)コラン−24−酸 ステアリル、1−コレステリルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレステリル、1−コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン及び3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニルよりなる群から選択される1種以上を使用することが好ましく、さらにこれらのうち、少ない使用割合で高いプレチルト角を与える点から、1−コレステリルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレステリル、1−コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン及び3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニルよりなる群から選択される1種以上を使用することが特に好ましい。
【0033】
ポリエナミンの合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、使用するジアミン化合物に応じて任意に設定することができる。上記式(d−1)で表される化合物を使用する場合、その使用量は、全ジアミンに対して、1モル%以上とすることが好ましく、3モル%以上とすることがより好ましい。また、上記式(d−2)で表される化合物を使用する場合、液晶分子に対して低い傾斜配向角を付与する観点から、その使用量は、全ジアミンに対して、10モル%以上とすることが好ましく、30モル%以上とすることがより好ましく、50モル%以上とすることが更に好ましい。
【0034】
上記式(d−3)で表される化合物及び上記式(d−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種を使用する場合、良好な配向性を付与する観点から、その使用割合(2種以上の化合物を使用する場合にはその合計量)は、全ジアミンに対して、5モル%以上とすることが好ましく、10モル%以上とすることがより好ましい。なお、特定ジアミンとしては、上記で例示した化合物のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
ポリエナミンの合成に使用するジアミン化合物として、上記の特定ジアミン以外のジアミン化合物(以下、「他のジアミン」ともいう。)を用いることもできる。他のジアミンとして具体的には、例えば以下に示す化合物等が挙げられる。なお、ポリエナミンの合成に際して、以下に示す各ジアミン化合物を用いることにより、当該ジアミン化合物に由来する構造単位を有するポリエナミンを得ることができる。
【0036】
(カルボキシル基を有するジアミン化合物)
カルボキシル基を有するジアミン化合物(以下、「カルボキシル基含有ジアミン」ともいう。)は、得られる液晶素子の電気特性(特に蓄積電荷の緩和効果)を改善することを目的として使用することができる。カルボキシル基含有ジアミンは、得られる液晶素子の電気特性を改善する効果がさらに高くなる点で、後述する窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物と併用することが好ましい。使用するカルボキシル基含有ジアミンは芳香族ジアミンであることが好ましく、具体的には、例えば下記式(d−5−1)及び式(d−5−2)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化11】
(式(d−5−1)及び式(d−5−2)中、R20は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基であり、Zは、単結合、酸素原子又は炭素数1〜3のアルカンジイル基である。r2、r5及びr6は、それぞれ独立に1又は2の整数であり、r1、r3及びr4は、それぞれ独立に0〜2の整数であり、r7及びr8は、それぞれ独立に、r7+r8=2を満たす0〜2の整数である。但し、r3+r5+r7≦5であり、r4+r6+r8≦5である。式中、複数のR20が存在する場合、それらR20は独立して上記定義を有する。)
【0037】
式(d−5−1)及び式(d−5−2)について、R20における炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられ、これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数1〜10のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基などが挙げられる。Zにおける炭素数1〜3のアルカンジイル基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基などを挙げることができる。r1、r3及びr4は、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0038】
カルボキシル基含有ジアミンの具体例としては、上記式(d−5−1)で表される化合物として、例えば3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノ安息香酸、2,5−ジアミノ安息香酸などを;上記式(d−5−2)で表される化合物として、例えば4,4’−ジアミノビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、3,3’−ジアミノビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、3,3’−ジアミノビフェニル−2,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノビフェニル−3−カルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン−3−カルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエタン−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエタン−3−カルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル−3−カルボン酸などを;挙げることができる。なお、カルボキシル基含有ジアミンとしては、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を使用することができる。
【0039】
カルボキシル基含有ジアミンを使用する場合、その使用割合は、全ジアミンに対して、2モル%以上とすることが好ましく、3〜90モル%がより好ましく、5〜70モル%が更に好ましい。
【0040】
(窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物)
窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物は、得られる液晶素子の電気特性(特に、直流電圧による焼き付き低減の効果)を改善することを目的として使用することができる。当該ジアミン化合物が有する窒素含有芳香族複素環としては、例えばピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、ナフチリジン、カルバゾール、アクリジン等が挙げられる。中でも、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン及びイミダゾールよりなる群から選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。
【0041】
窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物の具体例としては、例えば2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、3,6−ジアミノアクリジン、下記式(d−6−1)〜式(d−6−8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物としては、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化12】
【0042】
窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物の使用割合は、全ジアミンに対して、2モル%以上とすることが好ましく、3〜50モル%とすることがより好ましく、5〜40モル%とすることが更に好ましい。
【0043】
(保護基を有するジアミン化合物)
保護基を有するジアミン化合物(以下、「保護基含有ジアミン」ともいう。)は、ポリエナミンの溶剤に対する溶解性を改善すること、及びポリエナミンと他の重合体とを併用する場合に他の重合体との親和性を改善することを目的として使用することができる。保護基含有ジアミンは、窒素原子に保護基が結合された部分構造を有することが好ましく、具体的には、下記式(7−1)又は式(7−2)で表される基を有するジアミン化合物が挙げられる。
【化13】
(式(7−1)及び式(7−2)中、A21は、単結合又は炭素数1以上の2価の有機基であり、Yは保護基であり、R21〜R23は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。mは0〜6の整数である。「*」は結合手であることを示す。)
【0044】
上記式(7−1)及び式(7−2)において、Yの保護基は、熱により脱離する基であることが好ましく、例えばカルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。保護基としては、中でもカルバメート系保護基が好ましく、その具体例としては、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−ハロエチルオキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−シアノエチルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点、及び脱保護された部分の膜中での残存量をより少なくできる点で、tert−ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
21及びR22の1価の有機基は、炭素数1〜10の1価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基又はシクロアルキル基であることがより好ましい。
23の1価の有機基は、炭素数1〜10の1価のアルキル基又は保護基であることが好ましい。A21の2価の有機基としては、例えば2価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−、−CO−、−COO−、−NH−を有する基等が挙げられる。A21は、芳香環に結合していることが好ましく、ベンゼン環に結合していることが特に好ましい。
【0045】
保護基含有ジアミンとしては、例えば下記式(d−7−1)〜式(d−7−12)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、保護基含有ジアミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化14】
【化15】
(式中、TMSはトリメチルシリル基を示す。)
【0046】
保護基含有ジアミンを使用する場合、その使用割合は、全ジアミンに対して、2モル%以上とすることが好ましく、3〜80モル%とすることがより好ましく、5〜70モル%とすることが更に好ましい。
【0047】
(2級又は3級アミン構造/窒素含有複素環構造含有ジアミン)
ポリエナミンの合成に際しては、下記式(9)で表される2級又は3級アミン構造、及び窒素含有複素環構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有するジアミン化合物(以下、「2級又は3級アミン構造/窒素含有複素環構造含有ジアミン」ともいう。)を用いてもよい。2級又は3級アミン構造/窒素含有複素環構造含有ジアミンを用いることにより、直流電圧による焼き付き低減の改善効果を高めることができる点で好ましい。
【化16】
(式(9)中、R51及びR52は、それぞれ独立に2価の芳香環基であり、R53は、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0048】
上記式(9)において、R51及びR52の2価の芳香環基としては、芳香族炭化水素基、窒素含有芳香族複素環基等が挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素基であり、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。R51及びR52は、フェニレン基であることが特に好ましい。
53の1価の有機基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基等のアリール基、tert−ブトキシカルボニル基等の保護基、等が挙げられる。R53は、好ましくは水素原子又はメチル基である。
窒素含有複素環としては、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン等の窒素含有複素脂環式構造、上記で例示した窒素含有芳香族複素環等が挙げられる。これらのうち、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン及びカルバゾールよりなる群から選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。
【0049】
2級又は3級アミン構造/窒素含有複素環構造含有ジアミンの具体例としては、例えばビス(4−アミノフェニル)アミン、2,4−ジアミノピリミジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、窒素含有芳香族複素環を有するジアミン化合物の説明で例示した化合物、下記式(d−9−1)〜式(d−9−8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、2級又は3級アミン構造/窒素含有複素環構造含有ジアミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化17】
【0050】
2級又は3級アミン構造/窒素含有複素環構造含有ジアミンを使用する場合、その使用割合は、全ジアミンに対して、2モル%以上とすることが好ましく、3〜60モル%とすることがより好ましく、5〜50モル%とすることが更に好ましい。
【0051】
(2級アミノ基含有ジアミン化合物)
ポリエナミンの合成に際し、他のジアミンとして、下記式(8)で表されるジアミン化合物(以下、「2級アミノ基含有ジアミン化合物」ともいう。)を用いてもよい。2級アミノ基含有ジアミン化合物を用いることにより、液晶配向剤の重合体成分としてポリエナミンと他の重合体とを併用する場合に、他の重合体との相分離性を制御することができる点で好ましい。
【化18】
(式(8)中、A31は2価の芳香環基であり、R31は炭素数1〜5のアルカンジイル基であり、R32は炭素数1〜4の1価の炭化水素基である。)
【0052】
上記式(8)において、A31の2価の芳香環基としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基が挙げられる。A31は、好ましくはフェニレン基である。
31のアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えばメチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基が挙げられる。
32の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基等のアルキレン基、等が挙げられる。R32は、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0053】
2級アミノ基含有ジアミン化合物の具体例としては、例えば下記式(d−8−1)〜式(d−8−4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、2級アミノ基含有ジアミン化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化19】
【0054】
2級アミノ基含有ジアミン化合物を使用する場合、その使用割合は、全ジアミンに対して、2モル%以上とすることが好ましく、3〜90モル%とすることがより好ましく、5〜70モル%とすることが更に好ましい。
【0055】
他のジアミンとしては、上記のほか、例えば、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;
1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、下記式(d−11−1)〜式(d−11−6)
【化20】
のそれぞれで表される化合物等の脂環式ジアミン;
p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4−ジアミノ−N,N−ジアリルアニリン、2,5−ジアミノ−N,N−ジアリルアニリン、下記式(d−10−1)〜式(d−10−5)
【化21】
のそれぞれで表される化合物等の芳香族ジアミン;
1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサン等のジアミノオルガノシロキサン、などをそれぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。なお、他のジアミンは、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0056】
(その他の単量体)
ポリエナミンの合成に際しては、α,β−不飽和化合物及びジアミン化合物以外のその他の単量体を用いてもよい。その他の単量体としては、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル、テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物、ビスラクトン化合物等が挙げられる。これらのうち、テトラカルボン酸二無水物を好ましく使用することができる。
【0057】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3a,4,5,9b−テトラヒドロナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−8−メチル−3a,4,5,9b−テトラヒドロナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物;
ピロメリット酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3−プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、等を挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
テトラカルボン酸ジエステルとしては、上記のテトラカルボン酸二無水物を、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類を用いて開環することにより得ることができる。テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、例えば上記で得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。
【0059】
ビスラクトン化合物としては、例えば環内エノールエステル類、環外エノールエステル類、環内アシルイミドエステル類、環外アシルイミドエステル類、オキシムエステル類等が挙げられる。合成に使用するビスラクトン化合物の具体例としては、例えば下記式(b−1)〜式(b−11)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化22】
【0060】
なお、本明細書において「α,β−不飽和化合物とジアミン化合物との反応生成物」とは、本開示の効果を損なわない限り、合成に使用するモノマーとしてα,β−不飽和化合物及びジアミン化合物と共に、α,β−不飽和化合物及びジアミン化合物以外の他のモノマーを併用することを許容するものである。他のモノマー(好ましくはテトラカルボン酸二無水物)の使用割合は、ポリエナミンの合成に使用するモノマーの合計量に対して、40モル%以下とすることが好ましく、30モル%以下とすることがより好ましい。
【0061】
(ポリエナミンの合成反応)
ポリエナミンの合成方法は特に限定されないが、例えばビニル求核置換重合により合成することができる。この合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒(N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等)、フェノール系溶媒(フェノール、クレゾール等)、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。有機溶媒の使用割合は、α,β−不飽和化合物及びジアミン化合物の合計量が、反応溶液の全量に対して、0.1〜50質量%になる量とすることが好ましい。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、反応時間は0.1〜24時間が好ましい。上記反応は、必要に応じて、トリフルオロ酢酸等の触媒の存在下で行ってもよい。
【0062】
上記反応によりポリエナミンを溶解してなる反応溶液を得た場合、その反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に用いてもよく、あるいは、反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで得られる析出物を減圧下乾燥する方法、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法等の公知の単離方法を用いて、反応溶液中に含まれるポリエナミンを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0063】
得られるポリエナミンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜300,000であり、より好ましくは2,000〜100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下である。なお、液晶配向剤の調製に使用するポリエナミンは、1種のみでもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0064】
液晶配向剤中におけるポリエナミンの含有割合は、基板に対する塗布性を十分に高くし、かつ液晶素子の液晶配向性及び電圧保持率を良好にする観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上とすることがより好ましく、40質量%以上とすることがさらに好ましい。また、ポリエナミンの含有割合は、液晶配向剤に含まれる全重合体に対して、90質量%以下とすることが好ましく、80質量%以下とすることがより好ましく、70質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0065】
ポリエナミンの合成例の一例として、下記式(M−1)〜(M−4)、(5)又は(6)で表されるα,β−不飽和化合物と、「NH−Y−NH」で表される化合物との反応スキームを以下に示す。なお、下記スキーム中、Yは、ジアミン化合物から2個の1級アミノ基を取り除いた2価の有機基である。
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【0066】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、ポリエナミン以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分は、本開示の効果を損なわない限り特に限定されない。その他の成分の具体例としては、ポリエナミンとは異なる重合体(以下、「その他の重合体」ともいう。)、架橋性基を有する化合物(以下、「架橋性基含有化合物」ともいう。)、官能性シラン化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤、溶剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0067】
(その他の重合体)
その他の重合体は、溶剤に対する溶解性や電気特性を改善すること等を目的として使用することができる。その他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、(スチレン−マレイミド)系重合体、ポリ(メタ)アクリレート等を主骨格とする重合体が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを含むことを意味する。液晶配向剤の調製に際し、その他の重合体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
その他の重合体は、ポリエナミンとの親和性が良好であり、得られる液晶素子の液晶配向性及び電気特性を高くできる点で、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び(スチレン−マレイミド)系重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらのうち、液晶配向剤を用いて形成された有機膜に対しラビング処理により液晶配向能を付与する場合、本開示の液晶配向剤は、その他の重合体として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することがより好ましい。当該有機膜に対し光配向処理により液晶配向能を付与する場合又はPSA処理により液晶素子を得る場合、本開示の液晶配向剤は、その他の重合体として、ポリオルガノシロキサン及び(スチレン−マレイミド)系重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することがより好ましい。(スチレン−マレイミド)系重合体は、好ましくは(スチレン−フェニルマレイミド)系重合体である。
【0069】
液晶配向剤中にその他の重合体を含有させる場合、その他の重合体の配合割合は、液晶配向剤中に含有されるポリエナミンの合計量100質量部に対して、10〜1000質量部とすることが好ましく、30〜500質量部とすることがより好ましい。
【0070】
液晶配向剤の重合体成分の好ましい態様としては、以下の(I)〜(IV)が挙げられる。
(I)重合体成分が、ポリエナミンと、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種とからなる態様。
(II)重合体成分が、ポリエナミンと、ポリオルガノシロキサンとからなる態様。
(III)重合体成分が、ポリエナミンと、(スチレン−フェニルマレイミド)系重合体とからなる態様。
(IV)重合体成分がポリエナミンからなる態様。
これらのうち、塗布性、液晶配向性及び電気特性により優れた液晶素子を得ることができる点で(I)が特に好ましい。
【0071】
(架橋性基含有化合物)
本開示の液晶配向剤は、シクロカーボネート基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、オキセタニル基、トリアルコキシシリル基、及び重合性不飽和結合基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性基を有する化合物(以下、「架橋性基含有化合物」ともいう。)を含有していてもよい。架橋性基含有化合物を含むことにより、液晶配向膜の基板との接着性、液晶素子の電気特性及び信頼性を向上させることができる点で好ましい。
架橋性基含有化合物が重合性不飽和結合基を有する場合、当該重合性不飽和結合基としては、(メタ)アクリロイル基、エチレン性炭素−炭素二重結合、ビニルフェニル基、ビニルオキシ基(CH=CH−O−)、ビニリデン基、マレイミド基等が挙げられ、光又は熱による反応性が高い点で、シクロカーボネート基、エポキシ基又は(メタ)アクリロイル基が好ましい。架橋性基含有化合物の分子量は、保存安定性の点で、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下である。
【0072】
架橋性基含有化合物の具体例としては、シクロカーボネート基含有化合物として、例えば下記式(11−1)で表される化合物、下記式(11−2)で表される化合物等を;
エポキシ基を有する化合物として、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を;
トリアルコキシシリル基を有する化合物として、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、下記式(11−3)で表される化合物、下記式(11−4)で表される化合物等を;
ブロックイソシアネート基を有する化合物として、例えば下記式(11−5)で表される化合物、下記式(11−6)で表される化合物等を;
(メタ)アクリロイル基を有する化合物として、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、下記式(11−7)で表される化合物、下記式(11−8)で表される化合物等を;
オキセタニル基を有する化合物として、例えば下記式(11−9)で表される化合物、下記式(11−10)で表される化合物等を、それぞれ挙げることができる。その他、エポキシ基含有化合物の例としては、国際公開第2009/096598号記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサンを用いることができる。
【化29】
【化30】
【0073】
架橋性基含有化合物を液晶配向剤に配合する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100質量部に対して、40質量部以下とすることが好ましく、0.1〜30質量部とすることがより好ましい。なお、架橋性基含有化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分、及び必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。当該有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。溶剤成分は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0075】
本開示の液晶配向剤の溶剤成分としては、下記式(E−1)〜式(E−5)のそれぞれで表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ1気圧での沸点が180℃以下である溶剤(以下、「特定溶剤」ともいう。)を使用してもよい。溶剤成分の少なくとも一部として特定溶剤を用いることにより、膜形成時の加熱を低温(例えば200℃以下)で行った場合にも液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子を得ることができる点で好ましい。また、ポリエナミンは、溶剤に対する溶解性に優れており、よって溶剤成分として特定溶剤のような低沸点溶剤を用いた場合にも、基板に対する塗布性(膜厚ムラやピンホールの抑制、塗布領域の端部の直線性や平坦性の確保)に優れ、かつ液晶配向性及び電気特性のいずれも良好な液晶素子を得ることができる点で好適である。
【化31】
(式(E−1)中、R41は、炭素数1〜4のアルキル基又はR40−CO−(ただし、R40は炭素数1〜3のアルキル基)であり、R42は、炭素数1〜4のアルカンジイル基又は−(R47−O)r−R48−(ただし、R47及びR48は、それぞれ独立に炭素数2又は3のアルカンジイル基であり、rは1〜4の整数である。)であり、R43は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【化32】
(式(E−2)中、R44は、炭素数1〜4のアルカンジイル基である。)
【化33】
(式(E−3)中、R45及びR46は、それぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基である。)
【化34】
(式(E−4)中、R49は、水素原子又は水酸基であり、R50は、R49が水素原子の場合、炭素数1〜9の2価の炭化水素基、又は炭素数3〜9の鎖状炭化水素基の炭素−炭素結合間に−CO−を有する2価の基であり、R49が水酸基の場合、炭素数1〜9の2価の炭化水素基、又は炭素数2〜9の炭化水素基の炭素−炭素結合間に酸素原子を有する2価の基である。)
【化35】
(式(E−5)中、R51は、炭素数1〜6の1価の炭化水素基、炭素数1〜6の炭化水素基が有する水素原子が水酸基で置換された1価の基、又は炭素数2〜6の炭化水素基の炭素−炭素結合間に−CO−を有する1価の基であり、R52は、炭素数1〜6の1価の炭化水素基である。)
【0076】
特定溶剤の具体例としては、上記式(E−1)で表される化合物として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコールの部分エーテル:エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールの部分エステルなどを;
上記式(E−2)で表される化合物として、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンを;
上記式(E−3)で表される化合物として、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−i−ブチルケトン等を;
上記式(E−4)で表される化合物として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジアセトンアルコール等を;
上記式(E−5)で表される化合物として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸t−ブチル、酢酸3−メトキシブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル等を、それぞれ挙げることができる。なお、特定溶剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
液晶配向剤の溶剤成分は、特定溶剤のみからなるものであってもよいが、特定溶剤以外のその他の溶剤と特定溶剤との混合溶媒であってもよい。その他の溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,2−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の高極性溶剤;のほか、
4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、乳酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサン、オクタノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。なお、上記その他の溶剤のうち、高極性溶剤は、溶解性及びレベリング性の更なる向上を目的として使用することができる。また、アミド構造を含まない炭化水素系の溶剤は、プラスチック基材への適用や低温焼成を可能にする目的で使用することができる。
【0078】
液晶配向剤中に含まれる溶剤成分につき、特定溶剤の含有割合は、液晶配向剤中に含まれる溶剤の全体量に対して、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。本開示の液晶配向剤は、液晶配向剤中の溶剤成分を特定溶剤のみとした場合にも、液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子が得られる点で好適である。
【0079】
本開示の液晶配向剤は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を実質的に含んでいない場合にも、液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子が得られる点で好適である。なお、本明細書において「NMPを実質的に含んでいない」とは、NMPの含有割合が、液晶配向剤に含まれる溶剤の全体量に対して、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0080】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜が得にくくなる。一方、固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0081】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA−MVA型、VA−PVA型などを含む。)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)など種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1〜工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0082】
<工程1:塗膜の形成>
先ず基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0083】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体成分中のアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80〜250℃であり、より好ましくは80〜200℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分である。特に、ポリエナミンは特定溶剤に対する溶解性が良好であり、ポストベーク温度を例えば200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下にした場合にも、液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子を得ることができる。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmである。
【0084】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理や、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等を用いることができる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜は、PSA型の液晶素子にも好適に用いることができる。
【0085】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200〜400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0086】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは400〜50,000J/mであり、より好ましくは1,000〜20,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0087】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0088】
PSA型の液晶素子を製造する場合には、液晶と共に光重合性化合物を注入又は滴下する点以外は上記と同様にして液晶セルを構築する。その後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5〜50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000〜200,000J/mであり、より好ましくは1,000〜100,000J/mである。
【0089】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0090】
液晶素子の製造プロセスでは、機械トラブルやタクト調整等により、基板上に液晶配向膜を形成した後に基板がそのまま放置される(引き置きされる)ことがある。その際、空気中の水分が液晶配向膜に吸着又は吸収されることがあり、構築された液晶素子において電気特性が低下し、表示ムラ等を招くことがある。この点、上記液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜は、液晶配向膜が形成された状態のまま基板が放置された場合にも、電気特性が良好な(引き置き耐性が良好な)液晶素子を得ることができる点で優れている。
【0091】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。また、本開示の液晶素子は、カラーフィルタ層の着色剤として染料を用いた液晶素子にも好適に用いられる。ここで染料としては、液晶素子に使用され得る公知の染料を用いることができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により具体的に説明するが、本開示の内容は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の例において、重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は以下の方法により測定した。
<重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。また、分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
GPCカラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
移動相:リチウムブロミド及びリン酸含有のN,N−ジメチルホルムアミド溶液
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
圧力:68kgf/cm
【0093】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示す場合がある。
(α,β−不飽和化合物)
【化36】
【0094】
(テトラカルボン酸二無水物)
【化37】
【0095】
(ジアミン化合物)
【化38】
【化39】
【0096】
(架橋剤)
【化40】
【0097】
<α,β−不飽和化合物の合成>
[合成例1−1〜1−8]
化合物(VL−1)〜(VL−8)を下記文献に記載の方法に従ってそれぞれ合成した。
・化合物(VL−1):佐藤良和,武者義彦,雨宮康裕,片山将道,日本大学工学部紀要,16,A,113 (1975)
・化合物(VL−2):M. Ueda, K. Kino, T. Hirono, Y. Imai, J. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., 14, 931 (1976)
・化合物(VL−3):S. Kimura, Makromol. Chem., 117, 203 (1968)
・化合物(VL−4):S. J. Huang, J. Pavlisko, E. Hong, Am. Chem. Soc. Polym. Preprints, 19 [2], 57 (1978)
・化合物(VL−5):J. A. Moore, T. D. Mitchell, Am. Chem. Soc. Polym. Preprints, 19 [2], 13 (1978)
・化合物(VL−6):谷本重夫,黒崎正雄,小田良平,有合化,26, 361 (1968)
・化合物(VL−7):M. Ueda, M. Funayama, Y. Imai, Polym. J., 11, 491 (1979)
・化合物(VL−8):Y. Imai, N. Sakai, J. Sasaki, M. Ueda, Makromol. Chem., 180, 1797 (1979)
【0098】
<ポリエナミンの合成>
[合成例2−1]
窒素下、100mL二口フラスコに、化合物(VL−1)1.68g(10mmol)、ピロメリット酸二無水物2.18(10mmol)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)60gに溶解し、ジアミン化合物として化合物(DA−1)0.60g(2mmol)及び化合物(DA−2)4.39g(18mmol)を加えて、60℃で4時間反応を行い、ポリエナミンである重合体(P−1)を含有する溶液を得た。
【0099】
[合成例2−2〜2−13、2−20、2−21]
使用するモノマーの種類及び量を下記表1に示すように変更した以外は合成例2−1と同様の操作を行い、ポリエナミン(それぞれ重合体(P−2)〜(P−15)とする。)を含有する溶液を得た。なお、重合時において、モノマーの溶解性が不足している場合は、NMP又はm−クレゾールにより希釈し、重合速度が遅い場合はオイルバスで60℃以上に加熱することにより目的の重合体を合成した。
【0100】
<ポリアミック酸の合成>
[合成例2−14〜2−19]
使用するモノマーの種類及び量を下記表1に示すように変更した以外は合成例2−1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(それぞれ重合体(C−1)〜(C−6)とする。)を含有する溶液を得た。
【0101】
なお、合成例2−1〜2−21では、α,β−不飽和化合物及びテトラカルボン酸無水物を「単量体群A」、ジアミン化合物を「単量体群B」とし、単量体群Aとして2種類以上のモノマーを用いる場合には、単量体群Aのモノマーの合計が20mmolとなるように用い、単量体群Bとして2種類以上のジアミン化合物を用いる場合には、ジアミン化合物の合計が20mmolとなるように用いた。また表1には、単量体群Aにおけるα,β−不飽和化合物及びテトラカルボン酸ニ無水物のモル比を示し、単量体群Bにおけるジアミン化合物のモル比を示した。
【0102】
【表1】
【0103】
表1において、液晶配向剤の固形分濃度はいずれの例も同じ(4.0質量%)とした。「−」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを意味する。
【0104】
<ポリオルガノシロキサンの合成>
[合成例3−1]
下記スキーム1に従って重合体(C−7)を合成した。
【化41】
【0105】
1000ml三口フラスコに2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン90.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗から30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去した。メチルイソブチルケトンを適量添加し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(E−1)の50質量%溶液を得た。
500ml三口フラスコに、下記に示す側鎖カルボン酸(ca−1)26.69g(0.3mol当量)、テトラブチルアンモニウムブロミド2.00g、ポリオルガノシロキサン(E−1)含有溶液80g、及びメチルイソブチルケトン239gを加え、110℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、蒸留水で分液洗浄操作を10回繰り返した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレータにより濃縮とNMP希釈を2回繰り返し、重合体(C−7)中間体の15質量%NMP溶液を得た。この中間体溶液50gに、トリメリット酸無水物0.45g(0.1mol当量)を加えた後、NMPを用いて固形分濃度が10質量%になるように調製した後、室温で4時間撹拌することで、重合体(C−7)のNMP溶液を得た。
【化42】
【0106】
[合成例3−2]
合成例3−1において、側鎖カルボン酸(ca−1)の代わりに、下記に示す側鎖カルボン酸(ca−2)を用いた以外は合成例3−1と同様の操作を行うことにより、重合体(C−8)を含有するNMP溶液を得た。
【化43】
【0107】
[合成例3−3]
合成例3−1において、側鎖カルボン酸(ca−1)の代わりに、下記に示す側鎖カルボン酸(ca−3)を用いた以外は合成例3−1と同様の操作を行うことにより、重合体(C−9)を含有するNMP溶液を得た。
【化44】
【0108】
<スチレン−マレイミド共重合体の合成>
[合成例3−4]
1.化合物(MI−1)の合成
下記スキーム2に従って化合物(MI−1)を合成した。
【化45】
【0109】
攪拌子を入れた100mLナスフラスコに(E)−3−(4−((4−(4,4,4−トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ)フェニル)アクリル酸11.8g、塩化チオニル20g、N,N−ジメチルホルムアミド0.01gを加え,80℃で1時間攪拌した。その後、過剰の塩化チオニルをダイヤフラムポンプで除去し、テトラヒドロフランを100g加え、溶液Aとした。新たに、攪拌子を入れた500mL三口フラスコに4−ヒドロキシフェニルマレイミドを5.67g、テトラヒドロフラン200g、トリエチルアミン12.1gを加え、氷浴した。そこに溶液Aを滴下し、室温で3時間撹拌した。反応液を水800mLで再沈殿し、得られた白色固体を真空乾燥することで化合物(MI−1)を13.3g得た。
【0110】
2.重合体の合成
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、上記で得られた化合物(MI−1)5.00g(8.6mmol)、4−ビニル安息香酸0.64g(4.3mmol)、4−(2,5−ジオキソ−3−ピロリン−1−イル)安息香酸2.82g(13.0mmol)、及び4−(グリシジルオキシメチル)スチレン3.29g(17.2mmol)、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.31g(1.3mmol)、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.52g(2.2mmol)、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン25mlを加え、70℃で5時間重合した。n−ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(C−10)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30000、分子量分布Mw/Mnは2であった。
【0111】
<ラビング水平型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例1]
1.液晶配向剤(AL−1)の調製
上記合成例2−1で得た重合体(P−1)100質量部を含む溶液に、重合体(C−4)200質量部、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL−1)を調製した。
【0112】
2.塗布性(膜厚ムラ・ピンホール、エッジ形状及び膜厚均一性)の評価
上記で調製した液晶配向剤(AL−1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜を倍率100倍及び10倍の顕微鏡で観察して膜厚ムラ及びピンホールの有無を調べた。評価は、100倍の顕微鏡で観察しても膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されなかった場合に「良好(A)」、100倍の顕微鏡では膜厚ムラ及びピンホールの少なくともいずれかが観察されたが、10倍の顕微鏡では膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されなかった場合に「可(B)」、10倍の顕微鏡で膜厚ムラ及びピンホールの少なくともいずれかが明確に観察された場合に「不良(C)」とした。この実施例では、100倍の顕微鏡でも膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されず、塗布性は「良好(A)」の評価であった。
【0113】
更に詳細な塗布性の評価として、エッジ部分(形成された塗膜の外縁部分)での塗布性の評価を実施した。上記で調製した液晶配向剤(AL−1)を、液晶配向膜塗布用印刷機を用いて、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の上に透明電極面に塗布し、上記の要領で乾燥した。エッジ部分の形状及び平坦性を観察し、直線性が高くかつ平坦面である場合に「良好(A)」、直線性は高いが凸凹がある場合に「可(B)」、凸凹があり、かつエッジからの液戻りがある(直線性が低い)場合に「不良(C)」とした。その結果、この実施例では「良好(A)」と判断された。
また更に、触針式膜厚計を用いて、塗膜の面内の4点において膜厚を測定し、測定値のバラツキ(平均膜厚δ(実施例1はδ=0.1μm)との差)により膜厚均一性を評価した。評価は、4点の測定値が平均膜厚δに対して±25Åの範囲内にあり、均一な膜厚が得られた場合に「良好(A)」、平均膜厚δに対して±25Åの範囲から外れた測定値があったものの、4点の測定値全てが平均膜厚δに対して±50Åの範囲内にあった場合に「可(B)」、平均膜厚δに対して±50Åの範囲から外れた測定値があり、測定値のバラツキが大きかった場合に「不良(C)」とした。その結果、この実施例では、「良好(A)」の評価であった。
【0114】
3.ラビング水平型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この一連の操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC−6221)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、水平配向型の液晶表示素子を製造した。
【0115】
4.液晶配向性の評価
上記で製造したラビング水平型液晶表示素子につき、5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの明暗の変化における異常ドメインの有無を光学顕微鏡により観察し、異常ドメインがない場合を「A」、一部に異常ドメインがある場合を「B」、全体的に異常ドメインがある場合を「C」として液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では液晶配向性は「A」であった。
【0116】
5.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したラビング水平型液晶表示素子につき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置は(株)東陽テクニカ製VHR−1を使用した。このとき、電圧保持率が95%以上の場合に「A」、80%以上95%未満の場合に「B」、50%以上80%未満の場合に「C」、50%未満の場合に「D」とした。その結果、この実施例では電圧保持率は「A」の評価であった。
【0117】
6.引き置き耐性の評価
上記の「3.ラビング水平型液晶表示素子の製造」と同様の操作を行うことにより、液晶配向膜を有する一対の基板を2組(合計4枚)作成した。
ステンレス製バット(約20cm×約30cm)の中に、上記で作成した基板のうち一対の基板(2枚)と、NMPを入れたシャーレとを入れ、基板及びシャーレを入れたステンレス製バットをアルミホイルで覆い、25℃で2時間静置した後に基板を取り出した。このような操作により、一対の基板(2枚)をNMP雰囲気に暴露した。その後、この一対の基板を用い、上記の「3.ラビング水平型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子A」とする。)を製造した。
また、もう1組の一対の基板(2枚)についてはNMP雰囲気に暴露することなく、上記の「3.ラビング水平型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子B」とする。)を製造した。
続いて、2個の液晶表示素子のプレチルト角を、非特許文献(T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19. p2013(1980))に記載の方法に準拠し、He−Neレーザー光を用いる結晶回転法によりそれぞれ測定し、下記数式(2)によりチルト差Δθ[%]を求めた。
Δθ=((θ1−θ2)/θ1)×100 …(2)
(数式(2)中、θ1は素子Bのプレチルト角であり、θ2は素子Aのプレチルト角である。)
Δθが5%以下の場合に「A」、5%以上10%未満の場合に「B」、10%以上の場合に「C」とした。その結果、この実施例では引き置き耐性は「A」の評価であった。
【0118】
[実施例5〜7,14〜20及び比較例1]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、それぞれの液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例1と同様にしてラビング水平型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。なお、下記表3では、膜厚ムラ及びピンホールの観察結果を「塗布性」の欄に示し、エッジ部分の観察結果を「エッジ形状」の欄に示し、膜厚のバラツキに基づく評価結果を「膜厚均一性」の欄に示している。実施例6、7では、重合体成分とともに架橋剤を配合した。なお、表2中、「−」は、該当する欄の重合体を使用しなかったことを意味する。
【0119】
<光FFS型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例2]
1.液晶配向剤(AL−2)の調製
使用する重合体を、重合体(P−2)100質量部及び重合体(C−9)50質量部に変更した以外は上記実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−2)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−2)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では、膜厚ムラ・ピンホール、エッジ形状及び膜厚均一性の評価結果は全て「A」であった。
【0120】
3.光FFS型液晶表示素子の製造
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−2)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg−Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を行い、基板上に液晶配向膜を形成した。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネマチック液晶(メルク社製、MLC−7028)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と90°の角度をなすように貼り合わせることにより液晶表示素子を製造した。
【0121】
4.液晶配向性の評価
上記で製造した光FFS型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では液晶配向性は「A」であった。
5.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造した光FFS型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では電圧保持率は「A」の評価であった。
6.引き置き耐性の評価
上記の「3.光FFS型液晶表示素子の製造」と同様の操作を行うことにより、液晶配向膜を有する一対の基板を2組(合計4枚)作成した。これらのうち1組の一対の基板については、実施例1と同様にしてNMP雰囲気に暴露し、その後、この一対の基板を用いて上記の「3.光FFS型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子A」とする。)を製造した。また、もう1組の一対の基板(2枚)についてはNMP雰囲気に暴露することなく、上記の「3.光FFS型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子B」とする。)を製造した。これら素子A及び素子Bを用いて、上記実施例1と同様にして引き置き耐性の評価を行った。その結果、この実施例では引き置き耐性は「A」の評価であった。
【0122】
[比較例2]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤(BL−2)を得た。また、液晶配向剤(BL−2)を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例2と同様にして光FFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。
【0123】
<VA型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例3]
1.液晶配向剤(AL−3)の調製
使用する重合体を、重合体(P−3)100質量部及び重合体(C−6)300質量部に変更した以外は上記実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−3)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−3)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では、膜厚ムラ・ピンホール、エッジ形状及び膜厚均一性の評価結果は全て「A」であった。
【0124】
3.VA型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−3)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることによりVA型液晶表示素子を製造した。
【0125】
4.液晶配向性の評価
上記で製造したVA型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では液晶配向性は「A」であった。
5.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したVA型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では電圧保持率は「A」の評価であった。
6.引き置き耐性の評価
上記の「3.VA型液晶表示素子の製造」と同様の操作を行うことにより、液晶配向膜を有する一対の基板を2組(合計4枚)作成した。これらのうち1組の一対の基板については、実施例1と同様にしてNMP雰囲気に暴露し、その後、この一対の基板を用いて上記の「3.VA型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子A」とする。)を製造した。また、もう1組の一対の基板(2枚)についてはNMP雰囲気に暴露することなく、上記の「3.VA型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子B」とする。)を製造した。これら素子A及び素子Bを用いて、上記実施例1と同様にして引き置き耐性の評価を行った。その結果、この実施例では引き置き耐性は「A」の評価であった。
【0126】
[実施例4及び比較例3]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、それぞれの液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例3と同様にしてVA型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。
【0127】
<PSA型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例9]
1.液晶配向剤(AL−9)の調製
使用する重合体を、重合体(P−6)200質量部及び重合体(C−7)50質量部に変更した以外は実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−9)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−9)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では、膜厚ムラ・ピンホール、エッジ形状及び膜厚均一性の評価結果は全て「A」であった。
【0128】
3.液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)10gに対し、下記式(L1−1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2−1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合することにより液晶組成物LC1を得た。
【化46】
【0129】
4.PSA型液晶表示素子の製造
上記で調製した液晶配向剤(AL−9)を、ITO電極からなる導電膜をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で2分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.06μmの塗膜を形成した。これら塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板のうち一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。その後、液晶セルの導電膜間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、100,000J/mの照射量にて紫外線を照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて測定した値である。その後、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより液晶表示素子を製造した。
【0130】
5.液晶配向性の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では液晶配向性は「A」であった。
6.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では電圧保持率は「A」の評価であった。
7.引き置き耐性の評価
上記の「3.PSA型液晶表示素子の製造」と同様の操作を行うことにより、液晶配向膜を有する一対の基板を2組(合計4枚)作成した。これらのうち1組の一対の基板については、実施例1と同様にしてNMP雰囲気に暴露し、その後、この一対の基板を用いて上記の「4.PSA型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子A」とする。)を製造した。また、もう1組の一対の基板(2枚)についてはNMP雰囲気に暴露することなく、上記の「4.PSA型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子B」とする。)を製造した。これら素子A及び素子Bを用いて、上記実施例1と同様にして引き置き耐性の評価を行った。その結果、この実施例では引き置き耐性は「A」の評価であった。
【0131】
[実施例10,11及び比較例5]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、得られた液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例9と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造し、実施例1と同様にして各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。実施例10、11では、重合体成分とともに架橋剤を配合した。
【0132】
<光垂直型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例8]
1.液晶配向剤(AL−8)の調製
使用する重合体を、重合体(P−7)200質量部及び重合体(C−8)50質量部に変更した点以外は実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−8)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−8)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では、膜厚ムラ・ピンホール、エッジ形状及び膜厚均一性の評価結果は全て「A」であった。
【0133】
3.光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−8)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg−Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/mを、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより液晶表示素子を製造した。
【0134】
4.液晶配向性の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では液晶配向性は「A」であった。
5.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では電圧保持率は「A」の評価であった。
6.引き置き耐性の評価
上記の「3.光垂直型液晶表示素子の製造」と同様の操作を行うことにより、液晶配向膜を有する一対の基板を2組(合計4枚)作成した。これらのうち1組の一対の基板については、実施例1と同様にしてNMP雰囲気に暴露し、その後、この一対の基板を用いて上記の「3.光垂直型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子A」とする。)を製造した。また、もう1組の一対の基板(2枚)についてはNMP雰囲気に暴露することなく、上記の「3.光垂直型液晶表示素子の製造」と同様の方法により液晶表示素子(これを「素子B」とする。)を製造した。これら素子A及び素子Bを用いて、上記実施例1と同様にして引き置き耐性の評価を行った。その結果、この実施例では引き置き耐性は「A」の評価であった。
【0135】
[実施例12,13及び比較例4,6]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、それぞれの液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例8と同様にして光垂直型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。実施例12、13では、重合体成分とともに架橋剤を配合した。
【0136】
【表2】
【0137】
【表3】
【0138】
[実施例21〜23]
実施例9において、溶剤組成をNMP/BC=50/50(質量比)の代わりに下記表4に示す通り変更した以外は実施例9と同様にして液晶配向剤(AL−21)〜(AL−23)をそれぞれ調製した。また、使用する液晶配向剤を変更した点及びポストベーク温度を230℃から200℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例9と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表5に示した。
[比較例7〜9]
実施例21〜23において、重合体(P−6)200質量部の代わりに重合体(C−5)300質量部を用いた以外は実施例21〜23と同様にして液晶配向剤(BL−7)〜(BL−9)をそれぞれ調製した(下記表4参照)。また、使用する液晶配向剤を変更した点及びポストベーク温度を230℃から200℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例9と同様にしてPSA型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表5に示した。なお、表5では、溶剤に対する重合体の溶解性不足が見られ、これにより評価できなかった項目に「−」と示した(比較例10、11についても同じ)。
【0139】
[実施例24]
実施例8において、溶剤組成をNMP/BC=50/50(質量比)の代わりに下記表4に示す通り変更した以外は実施例8と同様にして液晶配向剤(AL−24)を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いた点及びポストベーク温度を230℃から200℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例8と同様にして光VA型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。その結果を下記表5に示した。
【0140】
[比較例10]
実施例24において、重合体組成を下記表4に示す通り変更した以外は実施例24と同様にして液晶配向剤(BL−10)を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いた点及びポストベーク温度を230℃から200℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例8と同様にして光VA型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。その結果を下記表5に示した。
【0141】
[実施例25]
実施例2において、溶剤組成をNMP/BC=50/50(質量比)の代わりに下記表4に示す通り変更した以外は実施例2と同様にして液晶配向剤(AL−25)を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いた点及びポストベーク温度を230℃から200℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例2と同様にして光FFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。その結果を下記表5に示した。
【0142】
[比較例11]
実施例25において、重合体組成を下記表4に示す通り変更した以外は実施例25と同様にして液晶配向剤(BL−11)を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いた点及びポストベーク温度を230℃から200℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性の評価を行うとともに、実施例2と同様にして光FFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。その結果を下記表5に示した。
【0143】
【表4】
【0144】
表4中、溶剤組成の数値は、液晶配向剤の調製に使用した溶剤の全体量に対する質量比(質量%)を表す。溶剤の略称は以下の意味である。
CHN:シクロヘキサノン
DIBK:ジイソブチルケトン
BC:ブチルセロソルブ
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
EDM:ジエチレングリコールメチルエチルエーテル
【0145】
【表5】
【0146】
表3に示すように、ポリエナミンを含有する液晶配向剤を用いた実施例1〜20では、塗布性(エッジ形状及び膜厚均一性を含む。)はいずれも「A」の評価であった。また、実施例1〜20では、得られた液晶表示素子の液晶配向性及び電圧保持率についても良好であり、全ての実施例で「A」の評価であった。
さらに表4に示すように、ポリエナミンはアミド系極性溶媒(NMP)を含まない溶剤組成に対しても溶解性が十分に高く、塗布性(エッジ形状及び膜厚均一性を含む。)、液晶配向性及び電圧保持率では「A」又は「B」の評価であり、良好な結果が得られた(実施例21〜25)。この結果から、耐熱性に劣る染料を着色剤として用いて液晶素子のカラーフィルタ層を作成した場合にも、好適に用いることができるものであるといえる。
これに対し、重合体成分としてポリエナミンを含有しない液晶配向剤を用いた比較例では、アミド系極性溶媒(NMP)を用いた例のうち比較例1〜4,6では、エッジ形状の評価が「B」であり、実施例よりも劣っていた。さらに比較例1については、膜厚均一性の評価も「B」であった。また、比較例2では、電圧保持率の評価が「C」であり、比較例4では「B」であった。また、表5に示すように、比較例では、アミド系極性溶媒(NMP)を含まない溶剤組成に対しては溶解性が不足し、良好な結果が得られなかった(比較例7〜11)。
これらの結果から、ポリエナミンを含む液晶配向剤は、塗布性、液晶配向性及び電圧保持率に優れていることが分かった。加えて、ポリエナミンを含む液晶配向剤は引き置き耐性も優れていた。