(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962448
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】コイル部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20211025BHJP
H01F 41/08 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F41/08 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-504770(P2020-504770)
(86)(22)【出願日】2018年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2018039317
(87)【国際公開番号】WO2019171652
(87)【国際公開日】20190912
【審査請求日】2020年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2018-38775(P2018-38775)
(32)【優先日】2018年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】森長 哲也
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−110908(JP,A)
【文献】
特開2006−351860(JP,A)
【文献】
特開平07−220948(JP,A)
【文献】
特開2016−025150(JP,A)
【文献】
特開平06−310334(JP,A)
【文献】
特開2016−184732(JP,A)
【文献】
特開2017−150022(JP,A)
【文献】
特開2017−112344(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/036854(WO,A1)
【文献】
国際公開第2017/208428(WO,A1)
【文献】
特開2015−216319(JP,A)
【文献】
特開2017−085044(JP,A)
【文献】
特開2013−175505(JP,A)
【文献】
特開2007−081051(JP,A)
【文献】
特開2005−322766(JP,A)
【文献】
特開2009−105365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H01F 41/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部を直方体状の巻芯部とし、貫通孔を有する環状であって、非導電性材料からなる一体構造のコア、ならびに、
前記巻芯部のまわりで螺旋状に延びるように配置された螺旋状導線と、前記螺旋状導線の両端部にそれぞれ形成された第1および第2の端子電極と、を有する、一体構造のコイル導体、
を備え、
前記コアは、前記巻芯部に加えて、前記巻芯部の互いに反対側の第1端および第2端にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部を有する、ドラム状部分と、前記ドラム状部分と一体化され、かつ前記貫通孔を形成しながら前記巻芯部に対向する状態で前記第1および第2の鍔部間に渡された、板状部分と、を有する、コイル部品。
【請求項2】
前記コアは、磁性体からなり、完全閉磁路を形成する、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記螺旋状導線は、前記巻芯部と一体化され、かつ、前記第1および第2の端子電極は、それぞれ、前記第1および第2の鍔部と一体化されている、
請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
少なくとも前記巻芯部と前記板状部分との間に充填される電気絶縁性材料からなる形状保持部材をさらに備え、前記螺旋状導線の少なくとも前記巻芯部と前記板状部分との間に位置する部分は、前記形状保持部材中に埋められる、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記形状保持部材は、ガラスからなる、請求項4に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記形状保持部材は、前記螺旋状導線および前記巻芯部、ならびに前記第1および第2の端子電極の各一部を覆うように設けられる、請求項4または5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記螺旋状導線は、断面円形である、請求項1ないし6のいずれかに記載のコイル部品
【請求項8】
前記第1および第2の端子電極の各々は、前記コアの前記貫通孔を通過し得ない形状を有する、請求項1ないし7のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項9】
少なくとも一部を巻芯部とし、貫通孔を有する環状であって、非導電性材料からなる一体構造のコア、ならびに、
前記巻芯部のまわりで螺旋状に延びるように配置された螺旋状導線と、前記螺旋状導線の両端部にそれぞれ形成された第1および第2の端子電極と、を有する、一体構造のコイル導体、
を備える、コイル部品を製造する方法であって、
前記コアと、前記コイル導体と、前記貫通孔を規定する前記コアの壁面の形状を保持するための形状保持部材と、を、3Dプリンタを用いて3次元造形する工程を備える、コイル部品の製造方法。
【請求項10】
前記3次元造形する工程において、前記3Dプリンタとして、インクジェット吐出型3Dプリンタが用いられ、前記コアを非導電性材料粉末含有溶液によって造形する工程、前記コイル導体を導電性金属粉末含有溶液によって造形する工程および前記形状保持部材を電気絶縁性材料粉末含有溶液によって造形する工程が実施され、
さらに、前記3Dプリンタによって造形された前記コア、前記コイル導体および前記形状保持部材を焼成する工程を備える、
請求項9に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記3次元造形する工程において、前記3Dプリンタとして、インクジェット吐出型3Dプリンタが用いられ、前記コアを非導電性材料粉末含有溶液によって造形する工程、前記コイル導体を導電性金属粉末含有溶液によって造形する工程および前記形状保持部材を樹脂含有溶液によって造形する工程が実施され、
さらに、前記3Dプリンタによって造形された前記コア、前記コイル導体および前記形状保持部材を焼成する工程を備え、
前記焼成する工程は、前記形状保持部材を焼失させる工程を含む、
請求項9に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項12】
前記非導電性材料粉末含有溶液として、磁性体粉末含有溶液が用いられ、前記導電性金属粉末含有溶液として、銅粉末含有溶液または銀粉末含有溶液が用いられ、前記電気絶縁性材料粉末含有溶液として、ガラス粉末含有溶液、アルミナ粉末含有溶液またはジルコニア粉末含有溶液が用いられる、請求項10に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コイル部品およびその製造方法に関するもので、特に、コアに巻回されたコイル導体を備えるコイル部品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、磁性体からなる環状のコアに導線を螺旋状に巻き付けた構造のトロイダルコイルにあっては、環状のコアと螺旋状の導線とは鎖交構造をなしている。トロイダルコイルにおいて、磁束は、環状のコア内に閉じ込められながら、コアの中を通ることにより、閉磁路を形成する。そのため、コア内の磁束は、コア外の状態の変化の影響を受けず、また、コア外には、磁束はほとんど存在しない。
【0003】
このようなトロイダルコイルは、磁路の磁気抵抗が小さいことから、同じ導線ターン数、同じコア断面積、同じ磁路長で比較したとき、空芯型や開磁路型のコイルに比べて、より多くの磁束を発生し、また、より大きなインダクタンス値を実現することができる。
【0004】
一方、トロイダルコイルは、これを製造するためには、環状のコアの少なくとも一部を巻芯部として、そのまわりに導線を螺旋状に巻回する工程を実施しなければならない。このとき、巻芯部は環状のコアの少なくとも一部によって与えられるので、導線を1ターンごとにコアの貫通孔に通すことを繰り返さなければならない。しかし、この工程を機械化することは困難であり、通常は煩雑な手作業に頼らなければならない。
【0005】
上述したような煩雑な手作業を回避できるものとして、たとえば、特開2001−68364号公報(特許文献1)に記載の技術、または特開平8−203762号公報(特許文献2)に記載の技術がある。
【0006】
特許文献1には、環状のコアを分割したものを用意しておき、導線を予め螺旋状に巻回した形態とした筒状コイルを環状に撓めながら、当該筒状コイルの空芯部に分割された上記コアを挿入し、その後、コアの分割面同士を接着剤で接合することによって、トロイダルコイルを製造する方法が記載されている。
【0007】
特許文献2には、螺旋状の導線を、逆U字状の複数の導体と配線基板上の複数の導体膜とを交互に接続することにより実現しようとするもので、配線基板上に、導体膜と位置合わせされた状態で環状のコアを配置し、その後、螺旋状の導線を実現するため、コアを跨ぐように逆U字状の複数の導体を配置しながら、逆U字状の複数の導体と配線基板上の複数の導体膜とをはんだ付けで接合する、トロイダルコイルの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−68364号公報
【特許文献2】特開平8−203762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術および特許文献2に記載の技術のいずれにも、解決されるべき課題がある。
【0010】
まず、特許文献1に記載の技術および特許文献2に記載の技術は、いずれも、導線を1ターンごとにコアの貫通孔に通す手作業に比べて、トロイダルコイルを製造するための工程数がより多くなるという課題がある。特許文献1に記載の技術では、少なくとも、コアの分割面同士を接着する工程が追加されなければならない。特許文献2に記載の技術では、少なくとも、逆U字状の複数の導体と配線基板上の複数の導体膜とをはんだ付けする工程が追加されなければならない。
【0011】
また、特許文献1に記載の技術および特許文献2に記載の技術では、いずれも、トロイダルコイルを得るため、接着またははんだ付けといった接合工程は避けられない。そのため、一体物に比べて、接合部分での信頼性が懸念される。特に、特許文献1に記載の技術では、コイル部品の主要部分であるコア自体が割れてしまうと、そもそも部品として破壊されるという大きな問題がある。また、コア自体が割れないにしても、コアの接合部分で磁束が漏れることによって、インダクタンス取得効率が低下するという問題がある。他方、特許文献2に記載の技術では、逆U字状の複数の導体と配線基板上の複数の導体膜とによって構成される螺旋状の導線における断線といった致命的な問題を無視できない。
【0012】
また、一般に、表面実装型のコイル部品にあっては、コアの表面に沿って端子電極が設けられ、螺旋状導線の各端部が端子電極に接合される。この場合にも、螺旋状導線と端子電極とは別体であるので、接合部分での信頼性が懸念される。
【0013】
さらに、コイル部品の小型化が進み、市場要求は、たとえば、長手寸法で1mm以下にまで及んでいる。しかし、現状では、このような寸法のトロイダルコイルにおいて、環状のコアに巻線を施さなければならないが、環状のコアに巻線を施すことは、ほぼ不可能であると言わざるを得ない。手作業では巻線は到底不可能であり、自動巻線機によるとしても、そのような小型用の自動巻線機は存在しない。これは、機械的な面での小型化の限界もあるが、主因は、巻回される導線の強度不足(腰がないこと)のためである。
【0014】
そこで、この発明の目的は、螺旋状導線および端子電極といった電気的要素についても、環状のコアについても、信頼性が懸念されるような接合部分がない、巻線型のコイル部品を提供しようとすることである。
【0015】
この発明の他の目的は、信頼性が懸念されるような接合部分がなく、長手寸法でたとえば1mm以下といった小型化が可能である、コイル部品を容易に製造することができる方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、環状のコアを備える巻線型のコイル部品にまず向けられる。
【0017】
この発明に係るコイル部品は、
少なくとも一部を直方体状の巻芯部とし、貫通孔を有する環状であって、非導電性材料からなる一体構造のコア、ならびに、
巻芯部のまわりで螺旋状に延びるように配置された螺旋状導線と、螺旋状導線の両端部にそれぞれ形成された第1および第2の端子電極と、を有する、一体構造のコイル導体、
を備え
、
コアは、巻芯部に加えて、巻芯部の互いに反対側の第1端および第2端にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部を有する、ドラム状部分と、ドラム状部分と一体化され、かつ貫通孔を形成しながら巻芯部に対向する状態で第1および第2の鍔部間に渡された、板状部分と、を有することを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、コア、および螺旋状導線と端子電極とを有するコイル導体が、鎖交構造でありながら、ともに一体構造であるので、特性低下や信頼性が懸念される接合部分が存在しない。
【0019】
好ましくは、上記コアは、磁性体からなり、完全閉磁路を形成する。この構成によれば、コイル部品において、高いインダクタンス値を得ることができる。
【0020】
この発明において、好ましく
は、螺旋状導線は、巻芯部と一体化され、かつ、第1および第2の端子電極は、それぞれ、第1および第2の鍔部と一体化されている。この構成によれば、コイル部品を表面実装に適した形態とすることができる。
【0021】
上記好ましい実施形態において、より好ましくは、少なくとも巻芯部と板状部分との間に充填される電気絶縁性材料からなる形状保持部材をさらに備え、螺旋状導線の少なくとも巻芯部と板状部分との間に位置する部分は、形状保持部材中に埋められる。この構成において、形状保持部材は、コアの上記貫通孔を規定する壁面の形状を保持する機能を果たす。したがって、巻芯部と板状部分との間の空間が形状保持部材で埋められるので、コイル部品の強度を増すことができる。
【0022】
上述の形状保持部材は、ガラスからなることが好ましい。ガラスは比較的安価であり、かつ、ガラスからなる形状保持部材は、コイル部品の電気的特性に悪影響を及ぼすことはない。
【0023】
また、形状保持部材は、螺旋状導線および巻芯部、ならびに第1および第2の端子電極の各一部を覆うように設けられてもよい。この構成によれば、形状保持部材が螺旋状導線を含むコイル部品の主要部分を覆うので、コイル部品の耐環境性を向上させることができる。
【0024】
この発明において、螺旋状導線は、断面円形であることが好ましい。この構成によれば、螺旋状導線の隣り合うターン間に発生する浮遊容量を減じることができる。
【0025】
この発明において、第1および第2の端子電極の各々は、コアの貫通孔を通過し得ない形状を有することが好ましい。この構成によれば、コイル部品の実装状態での実装基板との電気的接続および機械的固定の信頼性が高められる。この好ましい構成は、以下の製造方法を採用することによって初めて可能となる特徴的構成である。
【0026】
この発明は、上述したコイル部品、すなわち、少なくとも一部を巻芯部とし、貫通孔を有する環状であって、非導電性材料からなる一体構造のコア、ならびに、巻芯部のまわりで螺旋状に延びるように配置された螺旋状導線と、螺旋状導線の両端部にそれぞれ形成された第1および第2の端子電極と、を有する、一体構造のコイル導体、を備える、コイル部品を製造する方法にも向けられる。
【0027】
この発明に係るコイル部品の製造方法は、コアと、コイル導体と、上記貫通孔を規定するコアの壁面の形状を保持するための形状保持部材と、を、3Dプリンタを用いて3次元造形する工程を備えることを特徴としている。3Dプリンタを用いて3次元造形することにより、コアとコイル導体と、より特定的には、鎖交構造の巻芯部と螺旋状導線とを一体的に造形することができる。また、形状保持部材は、貫通孔の形状を保持しながら、コアおよびコイル導体の3次元造形を可能にする。
【0028】
上述した3次元造形する工程において、好ましくは、3Dプリンタとして、インクジェット吐出型3Dプリンタが用いられ、コアを非導電性材料粉末含有溶液によって造形する工程、コイル導体を導電性金属粉末含有溶液によって造形する工程および形状保持部材を電気絶縁性材料粉末含有溶液によって造形する工程が実施される。そして、当該製造方法は、さらに、3Dプリンタによって造形されたコア、コイル導体および形状保持部材を焼成する工程を備える。
【0029】
上述した好ましい実施形態に代えて、3次元造形する工程において、3Dプリンタとして、インクジェット吐出型3Dプリンタが用いられ、コアを非導電性材料粉末含有溶液によって造形する工程、コイル導体を導電性金属粉末含有溶液によって造形する工程および形状保持部材を樹脂含有溶液によって造形する工程が実施されてもよい。そして、当該製造方法は、さらに、3Dプリンタによって造形されたコア、コイル導体および形状保持部材を焼成する工程を備え、この焼成する工程において、形状保持部材を焼失させてもよい。
【0030】
上述した好ましい実施形態の各々において、より好ましくは、非導電性材料粉末含有溶液として、磁性体粉末含有溶液が用いられ、導電性金属粉末含有溶液として、銅粉末含有溶液または銀粉末含有溶液が用いられ、電気絶縁性材料粉末含有溶液として、低誘電率のガラス粉末含有溶液、アルミナ粉末含有溶液またはジルコニア粉末含有溶液が用いられる。
【発明の効果】
【0031】
この発明に係るコイル部品によれば、環状のコアについても、螺旋状導線と端子電極とを有するコイル導体についても、ともに一体構造であるので、信頼性が懸念される接合部分が存在しない。したがって、電気的にも、機械的にも、信頼性の高いコイル部品を得ることができる。
【0032】
この発明に係るコイル部品の製造方法によれば、環状のコア、および螺旋状導線と端子電極とを有するコイル導体が、鎖交構造でありながら、ともに一体構造であるコイル部品が、3Dプリンタを用いて3次元造形する工程を経て製造される。したがって、信頼性が懸念されるような接合部分がなく、長手寸法でたとえば1mm以下というように小型化された、コイル部品を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】この発明の一実施形態によるコイル部品1の外観を示す斜視図である。
【
図4】
図1に示したコイル部品1の右側面図である。
【
図5】
図1に示したコイル部品1の製造方法を説明するためのもので、3Dプリンタを用いて3次元造形を開始した直後の造形物16aを示す正面図である。
【
図6】
図5に示した状態から3次元造形を継続して得られた造形物16bを示す正面図である。
【
図7】
図6に示した状態から3次元造形をさらに継続して得られた造形物16cを示す正面図である。
【
図8】
図7に示した造形物16cの一部を拡大して示す断面図である。
【
図9】
図7に示した状態から3次元造形をさらに継続して得られた造形物16dを示す正面図である。
【
図10】
図9に示した状態から3次元造形をさらに継続して得られた造形物16eを示す正面図である。
【
図11】
図10に示した状態から3次元造形をさらに継続して得られた造形物16fを示す正面図である。
【
図12】
図11に示した状態から3次元造形をさらに継続し、造形を完了して得られた造形物16gを示す正面図である。
【
図13】(A)は、この発明の実施例に係るコイル部品のインダクタンス特性を示し、(B)は、この発明の範囲外の比較例に係るコイル部品のインダクタンス特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1ないし
図4を参照して、この発明の一実施形態によるコイル部品1の構造について説明する。図示したコイル部品1は、たとえば単一のコイルを構成するものである。
【0035】
コイル部品1は、コア2とコイル導体3と形状保持部材4とを備えている。なお、
図1ないし
図4において、形状保持部材4は、透明のものとして、1点鎖線で示されている。
【0036】
コア2は、非導電性材料から構成されるが、好ましくは、フェライトまたは金属磁性体といった磁性体から構成される。ただし、コア2はアルミナなどの非磁性体から構成されていてもよい。コア2は、断面矩形
であって直方体状の巻芯部5と、巻芯部5の互いに反対側の第1端および第2端にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部6および7と、を有する、ドラム状部分8を備えるとともに、第1および第2の鍔部6および7間に渡された板状部分9を備えている。板状部分9は、巻芯部5と対向している。
【0037】
コア2は、磁性体から構成されるとき、完全閉磁路を形成するもので、一体構造物である。すなわち、ドラム状部分8と板状部分9とは一体化されている。コア2は、互いに対向する巻芯部5と板状部分9との間に貫通孔10を形成しており、全体として環状をなしている。
【0038】
コイル導体3は、巻芯部5のまわりで螺旋状に延びるように配置された螺旋状導線11と、螺旋状導線11の両端部にそれぞれ形成された第1および第2の端子電極12および13と、を有する。より詳細には、第1および第2の端子電極12および13は、それぞれ、貫通孔10内に張り出した接続片14および15を形成しており、これら接続片14および15に、螺旋状導線11の両端部がそれぞれ接続される。コイル導体3は一体構造物である。したがって、螺旋状導線11と第1および第2の端子電極12および13とは一体化されている。
【0039】
螺旋状導線11は、好ましくは、断面円形である(
図8参照)。この構成によれば、螺旋状導線11の隣り合うターン間に発生する浮遊容量を減じることができる。また、コイル部品1の実装状態での実装基板との電気的接続および機械的固定の信頼性を高めるためには、第1および第2の端子電極12および13には所定以上の寸法が必要である。この実施形態では、第1および第2の端子電極12および13の各々は、コア2の貫通孔10を通過し得ない形状、たとえば、第1および第2の端子電極12および13の各々が、貫通孔10よりも大きい寸法を有している。この構成は、後述する製造方法を採用することによって初めて可能となる特徴的構成である。
【0040】
形状保持部材4は、貫通孔10を規定するコア2の壁面の形状を保持するためのもので、少なくとも巻芯部5と板状部分9との間に充填される。したがって、螺旋状導線11の、少なくとも巻芯部5と板状部分9との間に位置する部分は、形状保持部材4中に埋められる。このように、巻芯部5と板状部分9との間の空間が形状保持部材4で埋められると、コイル部品1の強度を増すことができる。なお、形状保持部材4は、後述する製造方法において実施される、3Dプリンタを用いての3次元造形を可能とする重要な機能を有している。
【0041】
形状保持部材4は、ガラス、アルミナまたはジルコニアなどの電気絶縁性材料からなる。中でも、形状保持部材4はガラスからなることが好ましい。なぜなら、ガラスは比較的安価であり、かつ、ガラスからなる形状保持部材4は、コイル部品1の電気的特性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0042】
この実施形態では、形状保持部材4は、螺旋状導線11および巻芯部5、ならびに第1および第2の端子電極12および13の各一部を覆うように設けられる。この構成によれば、形状保持部材4が螺旋状導線11を含むコイル部品1の主要部分を覆うので、コイル部品1の耐環境性を向上させることができる。
【0043】
次に、
図5ないし
図12を参照して、コイル部品1の有利な製造方法について説明する。
【0044】
ここで説明する製造方法は、コア2、コイル導体3および形状保持部材4を、3Dプリンタを用いて3次元造形することを特徴としている。3Dプリンタを用いて3次元造形することにより、鎖交構造のコア2とコイル導体3とを一体的に造形することができる。
【0045】
図12には、
図2に示したコイル部品1を上下逆にした造形物16gが示されている。以下に説明する工程を順次実施することによって、
図12に示した造形物16gが得られる。
【0046】
まず、
図5に示すように、造形台17が用意され、この造形台17上で3Dプリンタを用いた3次元造形が開始される。3次元造形が開始して間もなく、造形台17上に形状保持部材4の一部となるべき造形物16aが得られる。
【0047】
その後、3次元造形が継続する。そして、3次元造形が継続する時間の経過とともに、
図6、
図7、
図9、
図10、
図11および
図12にそれぞれ示した造形物16b、16c、16d、16e、16fおよび16gが順次生成される。
【0048】
図6では、形状保持部材4となるべき部分の高さが増すとともに、コイル導体3における螺旋状導線11の一部となるべき部分を有する造形物16bが生成される。
【0049】
次に、
図7では、形状保持部材4および螺旋状導線11となるべき各部分の高さが増すとともに、コア2における巻芯部5の一部ならびに第1および第2の鍔部6および7の各一部となるべき部分を有する造形物16cが生成される。
【0050】
ここで、造形物16cの一部を拡大して断面図で示す
図8を参照すると、螺旋状導線11は断面円形であり、形状保持部材4中に埋められながら、巻芯部5に接していることがわかる。また、螺旋状導線11の隣り合うターン間には、所定の間隔が置かれ、これら間隔部分は、形状保持部材4で充填されていることが、
図8によく示されている。なお、用いる3Dプリンタの解像度によっては、螺旋状導線11の断面形状は、
図8に示すような、きれいな円の輪郭を描かず、ぎざぎざの輪郭となることもある。
【0051】
次に、
図9では、形状保持部材4、螺旋状導線11ならびに第1および第2の鍔部6および7の各一部となるべき各部分の高さがより増すとともに、コイル導体3における第1および第2の端子電極12および13の各一部となるべき部分を有する造形物16dが生成される。この造形物16dにおいて、巻芯部5の造形は完了している。また、第1および第2の端子電極12および13は、それぞれ、第1および第2の鍔部6および7とともに造形されるため、第1および第2の鍔部6および7と一体化される。
【0052】
次に、
図10では、第1および第2の鍔部6および7ならびに第1および第2の端子電極12および13の各一部となるべき部分の高さがさらに増した、造形物16eが得られる。造形物16eでは、形状保持部材4および螺旋状導線11の造形が完了している。
【0053】
次に、
図11では、第1および第2の鍔部6および7ならびに第1および第2の端子電極12および13の各一部となるべき部分の高さがさらに増すとともに、コア2における板状部分9の造形が開始された、造形物16fが生成される。ここで、巻芯部5と板状部分9との間に貫通孔10が形成されるが、貫通孔10は、形状保持部材4によって埋められるため、3Dプリンタによる板状部分9の造形が可能とされることに注目すべきである。
【0054】
次に、
図12では、第1および第2の鍔部6および7、第1および第2の端子電極12および13ならびに板状部分9の造形が完了し、
図2に示したコイル部品1に備えるすべての要素を備えた造形物16gが生成される。
【0055】
以上のようにして、3Dプリンタによる3次元造形が完了する。
【0056】
上述した3次元造形工程において、3Dプリンタとして、インクジェット吐出型3Dプリンタが用いられることが好ましい。インクジェット吐出型3Dプリンタにおいて、コア2は非導電性材料粉末含有溶液によって造形され、コイル導体3は導電性金属粉末含有溶液によって造形され、形状保持部材4は電気絶縁性材料粉末含有溶液によって造形される。そして、インクジェット吐出型3Dプリンタによって造形されたコア2、コイル導体3および形状保持部材4は、さらに焼成される。これによって、コイル部品1が完成される。
【0057】
上述の造形工程において、より具体的には、非導電性材料粉末含有溶液として、磁性体粉末含有溶液、より好ましくは、フェライト粉末含有溶液または金属磁性体粉末含有溶液が用いられ、導電性金属粉末含有溶液として、銅粉末含有溶液または銀粉末含有溶液が用いられ、電気絶縁性材料粉末含有溶液として、低誘電率のガラス粉末含有溶液、アルミナ粉末含有溶液またはジルコニア粉末含有溶液が用いられる。導電性金属粉末含有溶液として、銅粉末含有溶液が用いられる場合には、前述した焼成工程は還元性雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0058】
なお、コア2、コイル導体3および形状保持部材4を焼成する工程は、通常、コア2、コイル導体3および形状保持部材4の造形を終えた後に実施されるが、これに代えて、たとえばレーザ光による焼成を適用し、コア2、コイル導体3および形状保持部材4の造形と同時に焼成するようにしてもよい。この後者の焼成方法は、特に、導電性金属粉末含有溶液として、銅粉末含有溶液が用いられる場合に好適である。
【0059】
上述した実施形態では、製品としてのコイル部品1は、形状保持部材4を備えていたが、形状保持部材4は製品としてのコイル部品に存在していなくてもよい。
【0060】
すなわち、3次元造形する工程において、コア2は非導電性材料粉末含有溶液によって造形され、コイル導体3は導電性金属粉末含有溶液によって造形されるが、形状保持部材4は樹脂含有溶液によって造形される。そして、3Dプリンタによって造形されたコア2、コイル導体3および形状保持部材4が焼成されるが、この焼成工程において、形状保持部材4が焼失するため、製品としてのコイル部品には残らないようにすることができる。
【0061】
以上説明した3Dプリンタを用いた3次元造形によれば、プログラムを変えるだけで、以下のように、製品としてのコイル部品の設計変更を容易に行なうことができる。
【0062】
たとえば、図示の実施形態では、螺旋状導線11が単層巻きにされたが、螺旋状導線は2層以上の多層巻きにされてもよい。また、この多層巻きにおいて、螺旋状導線が1本のみであっても、複数本であってもよい。したがって、コイル部品としては、単一のコイルを構成するものの他、コモンモードチョークコイル、トランスなどであってもよい。また、板状部分9側にも螺旋状導線11が巻回されてもよい
また、図示の実施形態では、コイル部品1は2つの端子電極12および13を備えていたが、4つの端子電極を備えたり、6つの端子電極を備えたり、さらには端子電極が非対称に配置されたものであってもよい。また、端子電極の形状や大きさ、配置も自由に変更することができる。
【0063】
また、コアの形状も自由に変更することができる。たとえば、巻芯部をコニカル形状にすることも容易である。
【0064】
また、コイル部品の寸法、あるいはコイル部品に備える各要素の寸法についても自由に変更することができる。
【0065】
さらに、多数のコイル部品を同時に造形することができる。この場合、同時に造形されるコイル部品は、すべて同型であっても、異種類のものであってもよい。
【0066】
図13には、この発明の実施例に係るコイル部品とこの発明の範囲外の比較例に係るコイル部品とについて、インダクタンス特性が比較されている。
図13において、(A)は、実施例に係るコイル部品のインダクタンス特性を示し、(B)は、比較例に係るコイル部品のインダクタンス特性を示している。
【0067】
実施例に係るコイル部品および比較例に係るコイル部品は、ともに、平面寸法を0.4mm×0.2mmとした。また、実施例に係るコイル部品は、
図1ないし
図4に示したコイル部品1と同等の構造を有し、比較例に係るコイル部品は、板状部分9を有さない開磁路構造であり、実施例に係るコイル部品と同じ巻芯部断面積および同じ磁路長とした。
【0068】
図13(A)および(B)において、横軸は、螺旋状導線の巻芯部上でのターン数を示し、縦軸は、インダクタンス値を示している。また、インダクタンス値は、コアの透磁率が60の場合と340の場合との2つの場合について示している。
【0069】
まず、
図13(B)に示した比較例では、コアの透磁率が60の場合と340の場合とのいずれでも、インダクタンス値はほぼ同じであり、導線ターン数を20まで増やしても、インダクタンス値は500nHを下回った。
【0070】
一方、
図13(A)に示した実施例では、コアの透磁率が60の場合には、導線ターン数が20のとき、インダクタンス値は500nHを超え、1000nH近くまで上昇した。また、コアの透磁率が340の場合には、導線ターン数が10においても、インダクタンス値は1000nH近くにまで達し、ターン数が15、20と増えるにつれて、インダクタンス値が上昇し、ターン数が20のときには、3500nHを超えるインダクタンス値を示した。
【0071】
以上、いくつかの異なる実施形態について説明したが、この発明を実施するにあたり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 コイル部品
2 コア
3 コイル導体
4 形状保持部材
5 巻芯部
6,7 鍔部
8 ドラム状部分
9 板状部分
10 貫通孔
11 螺旋状導線
12,13 端子電極
14,15 接続片
16a,16b,16c,16d,16e,16f,16g 造形物
17 造形台