特許第6962451号(P6962451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6962451-冷延鋼板およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962451
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】冷延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/78 20060101AFI20211025BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20211025BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20211025BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20211025BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20211025BHJP
   C23C 22/07 20060101ALI20211025BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C23C22/78
   C21D9/46 H
   C22C38/00 301T
   C22C38/06
   C22C38/58
   C23C22/07
   C23C28/04
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-510785(P2020-510785)
(86)(22)【出願日】2019年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2019011723
(87)【国際公開番号】WO2019188667
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2018-67012(P2018-67012)
(32)【優先日】2018年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】増岡 弘之
(72)【発明者】
【氏名】古谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】松崎 晃
(72)【発明者】
【氏名】竹山 隼人
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2018−505314(JP,A)
【文献】 特開2014−240505(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099712(WO,A1)
【文献】 特開2013−237912(JP,A)
【文献】 特開2013−60630(JP,A)
【文献】 特開2003−113441(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0014903(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/78
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/58
C21D 9/46
C23C 22/07
C23C 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.01〜0.30mass%、
Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、
Mn:2.0〜3.5mass%、
P:0.05mass%以下、
S:0.01mass%以下、
Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼板表面に存在する、長径が200nm超えの酸化物の面積率が1%未満である、冷延鋼板。
【請求項2】
前記成分組成に加えてさらに、
Nb:0.3mass%以下、
Ti:0.3mass%以下、
V:0.3mass%以下、
Mo:0.3mass%以下、
Cr:0.5mass%以下、
B:0.006mass%以下および
N:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項3】
前記成分組成に加えてさらに、
Ni:2.0mass%以下、
Cu:2.0mass%以下、
Ca:0.1mass%以下および
REM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の冷延鋼板。
【請求項4】
C:0.01〜0.30mass%、
Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、
Mn:2.0〜3.5mass%、
P:0.05mass%以下、
S:0.01mass%以下、
Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼板表面において、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物の存在面積率1〜10%であり、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物が占める面積以外の面積は、長径が200nm以下のMn酸化物と、鋼板素地とにより占められる、冷延鋼板。
【請求項5】
前記成分組成に加えてさらに、
Nb:0.3mass%以下、
Ti:0.3mass%以下、
V:0.3mass%以下、
Mo:0.3mass%以下、
Cr:0.5mass%以下、
B:0.006mass%以下および
N:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項4に記載の冷延鋼板。
【請求項6】
前記成分組成に加えてさらに、
Ni:2.0mass%以下、
Cu:2.0mass%以下、
Ca:0.1mass%以下および
REM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項4または5に記載の冷延鋼板。
【請求項7】
前記鋼板表面に存在する、長径が200nm超えの酸化物の面積率が1%未満である、請求項4から6のいずれかに記載の冷延鋼板。
【請求項8】
鋼板表面に、Siおよび/またはSi酸化物を平均皮膜厚さとして1〜20nm付与した後、焼鈍を行う、請求項4から7のいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷延鋼板がさらにリン酸塩処理に用いられる冷延鋼板である請求項1から7のいずれかに記載の冷延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディ用途に使用される冷延鋼板に対して行われる、塗装前処理工程(リン酸塩処理工程)において、良好なリン酸塩処理性を示す冷延鋼板およびその製造方法ならびに焼鈍用冷延鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物の低減(スラッジの生成抑制)およびランニングコストの削減を目的として、リン酸塩処理液の低温度化(以下、低温のリン酸塩処理液を低温型リン酸処理液と称することがある。)および電着塗膜の薄膜化が進んでいる。リン酸塩処理液の低温度化により、従来のリン酸塩処理条件と比較して、鋼板に対するリン酸塩処理液の反応性が大きく低下してきている。一方で、電着塗膜の薄膜化の流れもあり、リン酸塩結晶を均一に形成させること、および、電着塗膜の密着性を向上させることが非常に重要であると考えられる。
【0003】
リン酸塩処理液が低温度化するにつれて、リン酸塩処理液と鋼板表面との反応性は低下する。このため、低温型リン酸塩処理液に対しては、連続焼鈍時に形成されるわずかな酸化物も反応性阻害因子として働き、リン酸塩処理性を劣化させると考えられる。さらに、電着塗膜の薄膜化の流れにおいては、このリン酸塩処理性の劣化が塗膜の密着性や塗装後の耐食性へ及ぼす影響がこれまで以上に大きくなるものと予想される。
【0004】
リン酸塩処理液の低温度化に伴うリン酸塩処理性の劣化に対する改善策としては、例えば、特許文献1には、酸洗および再酸洗を行うことで鋼板表面に形成される酸化物を除去し、リン酸塩処理性を向上させる方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2のように、リン酸塩処理性を阻害するSiが連続焼鈍時に表面に濃化することを抑える合金元素を添加する技術もある。特許文献2の方法では、NiやCuを使用することでリン酸塩処理性を阻害する表面濃化を抑制し、リン酸塩処理性を確保している。
【0006】
また、特許文献3のように、鋼中のSi、Mnバランスを適正にすることで連続焼鈍時に化成処理液と鋼板表面との反応を阻害しないMn−Si複合酸化物を形成させ、リン酸塩処理性を確保する技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−132092号公報
【特許文献2】特許第3266328号公報
【特許文献3】特許第3889769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたような冷延鋼板においても、電着塗膜の薄膜化の流れの中では、十分な塗膜密着性が得られない。
【0009】
また、特許文献2の方法では、高価な合金元素であるNiやCuを使用するため、コストアップを避けられない。
【0010】
また、特許文献3では、Siを鋼中に添加するため、Si添加によるコストアップを伴い、さらに引張強度・伸び等の鋼板に求められる機械特性を満足しなくなる場合がある。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リン酸塩処理液が低温であっても、リン酸塩処理性に優れる冷延鋼板およびその製造方法ならびに焼鈍用冷延鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく検討を重ねた結果、焼鈍後の鋼板表面に長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物が存在することによって、および/または、焼鈍後の鋼板表面に存在する粗大な酸化物の面積率が一定以下であることによって、良好な化成処理性が得られることを見出した。長径が200nm以下の酸化物は非常に微細であり、リン酸塩処理液に易溶な特性を有する。その結果、良好な化成処理性(リン酸塩処理性)が得られる。しかしながら、鋼板中にSiを0.10mass%以上含有しなければ、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物は形成されず、また、粗大な酸化物の面積率を低く抑えることも困難であった。鋼板としての要求特性から、Siを0.10mass%以上含有することが必要な鋼板であれば問題は無い。しかし、要求特性、製造制約、および/または製造コストの点から必ずしもSiを0.10mass%以上含有することが必要ではない鋼板、すなわちSi含有量が0.10mass%未満の鋼板では、200nmを超える粗大な酸化物が焼鈍時に形成してしまう。200nmを超える粗大な酸化物は、リン酸塩処理液中において所定時間で溶解せずに残存してしまい、リン酸塩処理性を劣化させることがわかった。
【0013】
そこで本発明者らは、鋼板中にSiを0.10mass%以上含有することが、要求特性、製造制約、および/または製造コストの点で問題となる場合に、鋼板中のSiが0.10mass%未満でも、焼鈍後の鋼板表面に長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物を存在させること、および/または、焼鈍後の鋼板表面に存在する粗大な酸化物の面積率を一定以下にすることの達成を目的としてさらに検討を重ねた。その結果、本発明者らは、連続焼鈍前に鋼板表面にSi元素を予め付与し、連続焼鈍時に濃化するMn元素と反応させることで、上述の目的が達成され、その結果、リン酸塩処理性を向上させることを見出した。
【0014】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]C:0.01〜0.30mass%、Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、Mn:2.0〜3.5mass%、P:0.05mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板表面に、Siおよび/またはSi酸化物が平均皮膜厚さとして1〜20nm存在する、焼鈍用冷延鋼板。
[2]前記成分組成に加えてさらに、Nb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[1]に記載の焼鈍用冷延鋼板。
[3]前記成分組成に加えてさらに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[1]または[2]に記載の焼鈍用冷延鋼板。
[4]C:0.01〜0.30mass%、Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、Mn:2.0〜3.5mass%、P:0.05mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板の表面に、Siおよび/またはSi酸化物を平均皮膜厚さとして1〜20nm付与した後、焼鈍を行う、冷延鋼板の製造方法。
[5]前記鋼板は、前記成分組成に加えてさらに、Nb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[4]に記載の冷延鋼板の製造方法。
[6]前記鋼板は、前記成分組成に加えてさらに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[4]または[5]に記載の冷延鋼板の製造方法。
[7]C:0.01〜0.30mass%、Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、Mn:2.0〜3.5mass%、P:0.05mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板表面に存在する、長径が200nm超えの酸化物の面積率が1%未満である、冷延鋼板。
[8]前記成分組成に加えてさらに、Nb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[7]に記載の冷延鋼板。
[9]前記成分組成に加えてさらに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[7]または[8]に記載の冷延鋼板。
[10]C:0.01〜0.30mass%、Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、Mn:2.0〜3.5mass%、P:0.05mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板表面に長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物が面積率で1〜10%存在する冷延鋼板。
[11]前記成分組成に加えてさらに、Nb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[10]に記載の冷延鋼板。
[12]前記成分組成に加えてさらに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[10]または[11]に記載の冷延鋼板。
[13]前記鋼板表面に存在する、長径が200nm超えの酸化物の面積率が1%未満である、[10]から[12]のいずれかに記載の冷延鋼板。
[14]鋼板表面に、Siおよび/またはSi酸化物を平均皮膜厚さとして1〜20nm付与した後、焼鈍を行う、[10]から[13]のいずれかに記載の冷延鋼板の、製造方法。
[15]前記冷延鋼板がさらにリン酸塩処理に用いられる冷延鋼板である[7]から[13]のいずれかに記載の冷延鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温型リン酸塩処理液を用いた場合においても、優れたリン酸塩処理性を有する冷延鋼板および焼鈍用冷延鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例における表2のNo.5の試験片表面のSiの厚さをGDSで測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の基本的な技術思想について説明する。
【0018】
冷間圧延した冷延鋼板を再結晶させ、所望の組織、強度、および加工性を付与するために行われる連続焼鈍炉を用いた焼鈍工程では、通常、雰囲気ガスとして非酸化性または還元性のガスが用いられており、露点も厳格に管理されている。そのため、合金添加量の少ない普通の一般冷延鋼板では、鋼板表面の酸化は抑制されている。しかし、Feよりも易酸化性元素であるMn、Al、Siが含まれる鋼板では、焼鈍時の雰囲気ガスの成分や露点を厳格に管理しても、Feよりも易酸化性である元素が選択酸化して、鋼板表面に易酸化性元素を含む酸化物が形成されることが避けられない。また、上記易酸化性元素を含む酸化物は鋼板表面に形成されるため、電着塗装の下地処理としてなされるリン酸塩処理における鋼板表面のエッチング性を阻害する。特に低温型リン酸塩処理液の場合には健全なリン酸塩処理皮膜が形成されず、結果として、電着塗膜が薄い場合には、塗膜の密着性が著しく劣化することが考えられる。
【0019】
低温型リン酸塩処理液中でも鋼板表面が反応する、良好なリン酸塩処理性を発揮するためには、従来と比較して、鋼板表面に形成する酸化物種を易溶性にすることが必要とされている。
【0020】
本発明者らは、リン酸塩処理液の低温度化に対応すべく、酸化物種を易溶性にする方法について検討を重ねた。その結果、連続焼鈍前に鋼板表面にSi元素を予め付与し、連続焼鈍時に濃化する元素(Mn)と反応させ、鋼板表面に形成する酸化物種をリン酸塩処理液に易溶な非常に微細なMn−Si複合酸化物とすることで、リン酸塩処理性を向上させることを見出した。また、同様の処理によって、鋼板表面に形成する酸化物のうち、長径200nm超えの酸化物を面積率で1%未満とすることでも、リン酸塩処理性を向上させることを見出した。なお、低温のリン酸塩処理液とは、リン酸塩処理液の温度が33〜37℃であることを指す。
【0021】
次に、本発明の冷延鋼板の成分組成の限定理由について説明する。
【0022】
C:0.01〜0.30mass%
Cは、鋼板の強度を高める作用を有する重要な元素である。自動車用鋼板として用いられる引張強さ(270MPa〜1470MPa)を得るためには、Cは0.01mass%以上とする必要がある。また、Cは0.30mass%を超えると自動車製造工程で行われる溶接が困難となる。なお、Cは0.02〜0.20mass%とすることが好ましい。
【0023】
Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)
Siは、一般に鋼板の強度を高めて、伸びを低下させる。鋼板の用途によって、要求される強度範囲と伸びの範囲は限定されるため、Siを0.10mass%以上含有することが不適な用途が存在する。また、そのような用途では不必要なSi添加はコストアップを伴う。そのため、Siは0.10mass%未満とする。ただし、C量の制御のみで所望の引張強さが得られる場合には、含有しなくてもよい(Si含有量が0.0mass%)。なお、Siは0.05mass%以下とすることが好ましい。
【0024】
Mn:2.0〜3.5mass%
Mnは、Siと同じく連続焼鈍時に鋼板表面に濃化しMn−Si複合酸化物を形成する。Mn量が多い場合には、粗大なMn−Si複合酸化物が形成され、所定のリン酸塩処理時間では溶解しきらずに残り、リン酸塩結晶の析出を阻害する。そのため、Mnは2.0〜3.5mass%とする。なお、Mnは2.0〜2.8mass%とすることが好ましい。
【0025】
P:0.05mass%以下
Pは、鋼の強度を調整するのに有効な元素であるため、0.005mass%以上含有させることが好ましい。一方で、Pは、スポット溶接性を害する元素であり、0.05mass%以下であれば問題は生じない。よって、Pは0.05mass%以下とする。なお、Pは0.02mass%以下とすることが好ましい。
【0026】
S:0.01mass%以下
Sは、不可避的に混入してくる不純物元素であり、鋼中にMnSとして析出し、鋼板の伸びフランジ性を低下させる有害な成分である。伸びフランジ性を低下させないためには、Sは0.01mass%以下とする。好ましくは0.005mass%以下、さらに好ましくは0.003mass%以下である。
【0027】
Al:0.15mass%以下
Alは、製鋼工程で脱酸剤として添加される元素であり、また、伸びフランジ性を低下させる非金属介在物をスラグとして分離するのに有効な元素であるので、0.01mass%以上含有させるのが好ましい。一方、Alが0.15mass%を超えると鋼板表面の性状が劣化するため、Alは0.15mass%以下とする。
【0028】
本発明の冷延鋼板は、上記成分組成に加えてさらに、Nb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
【0029】
Nb、TiおよびVは、炭化物や窒化物を形成し、焼鈍時の加熱段階でフェライトの成長を抑制して組織を微細化させ、成形性、特に伸びフランジ性を向上させるため、上記範囲であれば0mass%超えの量が添加されてもよい。Mo、CrおよびBは、鋼の焼入性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進するため、上記範囲であれば0mass%超えの量が添加されてもよい。Nは、Nb、TiおよびVと窒化物を形成して、または鋼中に固溶して鋼の高強度化に寄与する。このため、0mass%超えのNが添加されてもよい。一方、Nを過剰に添加すると窒化物が多量に形成され、プレス成形時にボイド形成による破断が生じるため、Nを添加する場合には0.008mass%以下とすることが好ましい。
【0030】
また、本発明の冷延鋼板は、上記成分組成に加えてさらに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
【0031】
NiおよびCuは、低温変態相の生成を促進し、鋼を高強度化する効果があるので、上記範囲であれば0mass%超えの量が添加されてもよい。また、CaおよびREM(Rare Earth Metals:希土類金属)は、硫化物系介在物の形態を制御し、鋼板の伸びフランジ性を向上させるため、上記範囲であれば0mass%超えの量が添加されてもよい。
【0032】
本発明の冷延鋼板は、上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。ただし、本発明の作用効果を害しない範囲であれば、その他の成分の添加を拒むものではない。
【0033】
本発明の冷延鋼板では、鋼板表面に長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物が面積率で1〜10%存在すること、および/または、鋼板表面に存在する、長径が200nm超えの酸化物の面積率が1%未満であること、を特徴とする。長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物は、非常に微細であり、リン酸塩処理液に易溶な特性を有する。その結果、良好なリン酸塩処理性が得られる。長径が200nm超えの酸化物は、所定のリン酸塩処理時間では溶解できずに残存し、リン酸塩処理性を阻害する場合がある。しかし、鋼板表面に存在する長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物の面積率を1〜10%とすることにより、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物が所定のリン酸塩処理時間で溶解するため、酸化物の残存によるリン酸塩処理性の劣化を避けることができる。
【0034】
同様に、鋼板表面に存在する長径が200nm以下の酸化物の面積率を1%未満とすることによっても、リン酸塩処理性の劣化を避けることができる。
【0035】
本発明におけるMn−Si複合酸化物の具体例としては、MnSiO、MnSiOが挙げられる。また、本発明における酸化物の具体例としては、Mn−Si複合酸化物のほか、例えばMnOが挙げられる。
【0036】
なお、Mn−Si複合酸化物の長径の求め方は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて加速電圧が0.8kV、倍率が30,000倍の二次電子像を撮影し、その視野内で最も大きいMn−Si複合酸化物の長さを計測し求めればよい。また、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物の面積率は、上記二次電子像の撮影視野内において加速電圧が5kVでEDS(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)マッピングを行い、Si強度2wt%以上の酸化物の存在面積率を求めることで得られる。
【0037】
本発明の冷延鋼板の鋼板表面において、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物の存在面積率を1〜10%とする場合、長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物が占める面積以外の面積は、好ましくは、長径が200nm以下の、Mn−Si複合酸化物を除くMn酸化物と鋼板素地とにより占められる。すなわち、本発明の冷延鋼板の鋼板表面には、Mn−Si複合酸化物を含む酸化物であって長径が200nm超えのものが存在しないことが好ましい。より具体的には、本発明の冷延鋼板の表面には、長径が200nm超えのMnO、MnSiO、および/またはMnSiO等の酸化物が存在しないことが好ましい。
【0038】
なお、Mn−Si複合酸化物以外の酸化物の長径の求め方は、Mn−Si複合酸化物の場合と同様に、走査型電子顕微鏡を用いて加速電圧が0.8kV、倍率が30,000倍の二次電子像を撮影し、その視野内で最も大きい酸化物の長さを計測し求めればよい。また、鋼板表面に長径が200nm超えの酸化物が存在しない状態とは、上記二次電子像の撮影視野内において、長径が200nm超えの酸化物の存在面積率が1%未満である状態を含む。長径が200nm超えの酸化物の面積率は、上記二次電子像の撮影視野内において長径が200nm超えの酸化物の存在面積率を求めることで得られる。
【0039】
一方で、本発明の冷延鋼板の鋼板表面において、長径が200nm超えの酸化物の存在面積率を1%未満とする場合、長径が200nm超えの酸化物が占める面積以外の面積は、好ましくは、長径が200nm以下の酸化物と鋼板素地とにより占められる。
【0040】
本発明の焼鈍用冷延鋼板は、C:0.01〜0.30mass%、Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、Mn:2.0〜3.5mass%、P:0.05mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板表面に、Siおよび/またはSi酸化物が平均皮膜厚さとして1〜20nm存在する。本焼鈍用冷延鋼板も、焼鈍後には、同様に、低温型リン酸塩処理液を用いた場合であっても優れたリン酸処理性を有する。
【0041】
本発明の焼鈍用冷延鋼板は、上記成分組成に加えてさらにNb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
【0042】
また、本発明の焼鈍用冷延鋼板は、上記成分組成に加えてさらにNi:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
【0043】
また、上記成分組成に加えてさらにNb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上、ならびに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
【0044】
次に、本発明の冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0045】
本発明では、鋼板表面に、Siおよび/またはSi酸化物を平均皮膜厚さとして1〜20nm付与した後、焼鈍を行うことを特徴とする。焼鈍前の鋼板表面にSi元素(Siおよび/またはSi酸化物)を予め付与し、連続焼鈍時に濃化するMn元素と反応させることで、鋼板表面に形成する酸化物種を長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物とすることができ、また、鋼板表面に形成する、長径が200nm超えの酸化物の面積率を1%未満とすることができる。本発明においては、鋼板表面に比較的少量のSiおよび/またはSi酸化物を付与するため、Mn−Si複合酸化物が生成される際にSiがMn−Si複合酸化物により吸収される。結果として、本発明の冷延鋼板の鋼板表面には、鋼板素地が露出する箇所が存在し得る。
【0046】
焼鈍前の鋼板表面に付与するSi元素として、Siおよび/またはSi酸化物を鋼板表面に付与すればよい。Si酸化物は、例えばSiOである。また、鋼板表面に形成する酸化物種を長径が200nm以下のMn−Si複合酸化物とするため、または/および、鋼板表面に形成する、長径が200nm超えの酸化物の面積率を1%未満とするために、本発明では、鋼板表面に付与するSiおよび/またはSi酸化物の皮膜の厚さは、平均皮膜厚さとして1〜20nmとする。
【0047】
Siおよび/またはSi酸化物を鋼板表面に付与する方法は特に限定されず、1〜20nmに相当する量のSi元素(Siおよび/またはSi酸化物)を付与することができる方法であればよい。例えばPVD(Physical Vapor Deposition)を用いることができる。PVDは、物理気相成長とも呼ばれ、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質の薄膜を堆積する方法である。PVDの具体的手法としては、蒸着、イオンプレーティング、イオンビームデポジション、スパッタリング等が挙げられ、いずれを採用してもよい。なお、PVDのようなドライプロセス以外に薬剤へ浸漬するウエットプロセスにより鋼板表面にSi元素を付与することも有効である。ウエットプロセスとしては、例えば、Siを含む塩化物、硫酸塩及び硝酸塩の水溶液を作成してスプレーし、その後、乾燥させてもよい。
【0048】
鋼板表面にSi酸化物を付与するために用いる酸化物は、Si元素を含んでさえいればどのような酸化物でもよく、例としてSiO、SiOなどがある。また、鋼板表面にSiを付与するために用いる化合物は、Si元素を含んでさえいればどのような化合物であってもよく、化合物の例として、ケイ酸ナトリウムなどがある。
【0049】
Siおよび/またはSi酸化物を鋼板表面に1〜20nm付与した後に焼鈍を行った冷延鋼板は、その後、調質圧延等の通常の処理工程を経て製品板とする。
【0050】
その他の製造条件については特に限定されず、通常行われている通り、上記成分組成を有する溶鋼を転炉等で溶製後に連続鋳造或いは鋳型鋳造してスラブを得てから、得られたスラブに対し熱間圧延(熱延)や更にその後に冷間圧延(冷延)を行って鋼板を得ればよい。次いで、得られた鋼板表面にSi元素を付与した後、連続焼鈍を施せばよい。また、連続焼鈍後に調質圧延を行ってもよい。
【0051】
なお、焼鈍は以下の条件で行うことが好ましい。
露点:−35℃以下
露点が−35℃を超えると、焼鈍時に形成する酸化物量が著しく増加しリン酸塩処理性が大きく低下する。従って、焼鈍時の露点は−35℃以下とすることが好ましく、より好ましくは−40℃以下である。
保持温度:750〜900℃
焼鈍時の保持温度が750℃未満では、再結晶が十分に起こらず加工性が低下する。一方、900℃を超えると鋼組織が粗大化し、強度と加工性のバランスが悪くなる。したがって、焼鈍時の保持温度は750〜900℃の範囲とすることが好ましい。
保持時間:60秒以上
焼鈍時の保持時間が60秒未満では、再結晶が不均一に起こってしまう。そのため、焼鈍時の保持時間は60秒以上とすることが好ましい。より好ましくは120秒以上である。
【0052】
以上の製造方法により、低温型リン酸塩処理液を用いた場合においても、優れたリン酸処理性を有する冷延鋼板を得ることができる。
【0053】
本発明の焼鈍用冷延鋼板は、C:0.01〜0.30mass%、Si:0.10mass%未満(0.0mass%を含む)、Mn:2.0〜3.5mass%、P:0.05mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.15mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板表面に、Siおよび/またはSi酸化物を平均皮膜厚さとして1〜20nm付与することにより得られる。このような製造方法により得られた焼鈍用冷延鋼板も、焼鈍後には、同様に、低温型リン酸塩処理液を用いた場合であっても優れたリン酸処理性を有する。上記成分組成に加えてさらにNb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する焼鈍用冷延鋼板、ならびに、上記成分組成に加えてさらにNi:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する焼鈍用冷延鋼板についても同様に、焼鈍後には優れたリン酸塩処理性を有する。また、上記成分組成に加えてさらにNb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Mo:0.3mass%以下、Cr:0.5mass%以下、B:0.006mass%以下およびN:0.008mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上、ならびに、Ni:2.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下、Ca:0.1mass%以下およびREM:0.1mass%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、焼鈍用冷延鋼板についても同様に、焼鈍後には優れたリン酸塩処理性を有する。
【実施例】
【0054】
本発明の実施例を下記に記載する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0055】
表1に示す鋼を、転炉、脱ガス処理等を経る通常の精錬プロセスで溶製し、連続鋳造して鋼素材(スラブ)とした。次いで、得られた鋼素材を熱間圧延し、酸洗し、冷間圧延し、板厚が1.8mmの鋼板とした。
【0056】
【表1】
【0057】
次いで、これらの鋼板表面に対して、PVDにより表2に示す厚さのSiおよび/またはSi酸化物を付与して焼鈍用冷延鋼板とした。続いて、得られた焼鈍用冷延鋼板に対し、表2に示す温度で焼鈍を施した後、伸び率0.7%の調質圧延を施して、表2に示すNo.1〜18の冷延鋼板を得た。参考例とするNo.10の冷延鋼板は、Siを0.10mass%以上含有することが必要な冷延鋼板である。PVD装置は、昭和真空株式会社製の、バッチ式の高周波励起方式(RF式)イオンプレーティング装置を用いた。
【0058】
なお、PVD後の鋼板から採取した試験片の表面についてのSiおよびFeの深さ方向分布をGDS(Glow Discharge Spectrometer)にて測定し、付与したSiおよび/またはSi酸化物の厚さを確認した。GDSの測定条件は、アルゴンガス圧力2.9hPa、定電流50mAとした。図1は、No.5の試験片表面をGDSで測定した結果に基づいて、試験片表面におけるSiの厚さを測定した結果である。図1に示すように、Siプロファイルの最大値及び最小値の半分となる半価幅をSiまたはSi酸化物厚みと定義し、付与したSiおよび/またはSi酸化物の厚さを求めた。
【0059】
焼鈍後に得られた各冷延鋼板から試験片を採取し、下記条件にて鋼板表面の酸化物を調べるとともに、下記条件で低温型リン酸塩処理を施し、リン酸塩処理性を評価した。
(1)鋼板表面の酸化物
鋼板表面の酸化物の長径は、加速電圧が0.8kV、倍率が30,000倍の二次電子像を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影し、その視野内で最も大きい酸化物の長さを計測し求めた。酸化物の同定は薄膜X線回析法を用いて行った。また、上記二次電子像の撮影視野内において長径200nm以下のMn−Si複合酸化物の存在面積率を求めた。また、上記二次電子像の撮影視野内において、長径200nm超えの酸化物の存在面積率を求めた。
(2)リン酸塩処理評価
得られた各冷延鋼板から採取した試験片に、日本パーカライジング社製の脱脂剤:FC−E2001、表面調整剤:PL−Xおよびリン酸塩処理剤:パルボンド(登録商標)PB−SX35用いてリン酸塩処理75秒を施した。ここで、リン酸塩処理は通常120秒で行われるが、実際の自動車メーカでの処理では油等の汚れによる汚染(コンタミネーション)により条件が厳しいことが予想されるため、通常の120秒よりも短時間である75秒で評価を実施した。なお、リン酸塩処理液の温度は、33℃とした。
【0060】
リン酸塩処理後の鋼板に対し、走査型電子顕微鏡を用いて1000倍の視野で鋼板表面の観察を実施し、リン酸塩処理時に生じるリン酸塩結晶の未形成部(いわゆる「スケ」;以下、結晶未形成部と称する)の有無を調査し、結晶未形成部があるものを「有」、結晶未形成部がないものを「無」と評価した。
【0061】
製造条件および評価結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
比較例1〜3に示すように、鋼板中のSi含有量が0.10mass%未満であって、鋼板表面にSi付与をしない場合は、連続焼鈍後に鋼板表面には1000nmを超える粗大なMnO酸化物が形成している。また、比較例1〜4において、長径が200nm超えの酸化物の存在面積率は、いずれも1%以上であった。例えば比較例4においては、長径が200nmを超えるMnO酸化物が連続焼鈍後の鋼板表面に形成され、その存在面積率は15.2%であった。粗大なMnO酸化物はリン酸塩処理液で溶解せずにリン酸塩結晶の形成を妨げ、その結果、結晶未形成部が発生しリン酸塩処理性に劣る結果であることがわかる。
【0064】
一方、発明例1〜13に示すように、鋼板中のSi含有量が0.10mass%未満であっても、鋼板表面にSiおよび/またはSi酸化物が付与された焼鈍用冷延鋼板は、連続焼鈍後の鋼板表面に100nm程度の微細なMnSiO酸化物が形成している。また、発明例1〜13において、長径が200nm超えの酸化物の存在面積率は、いずれも1%未満であった。微細なMnSiO酸化物はリン酸塩処理液に溶解するため、結晶未形成部のない非常に良好なリン酸塩処理性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により製造される冷延鋼板は、リン酸塩処理性に優れており、自動車ボディ部材に用いられる素材としてだけでなく、家電製品や建築部材などの分野で同様の特性が求められる用途の素材としても好適に用いることができる。
図1