(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、拡散性水素量が少なく、優れた耐遅れ破壊特性を有する高強度溶融亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、さらに延性および穴拡げ性にも優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、溶融亜鉛系めっき鋼板に含まれる拡散性水素を適切に除去することができる方法を見出すべく鋭意検討を行った。そのなかで、GA鋼板のめっき層を構成するFe−Zn金属間化合物が脆性材料である点に着目し、この脆性材料であるFe−Zn金属間化合物(めっき層)に外力を作用させて微細な亀裂を導入することにより水素の離脱経路を確保し、その上でベーキング処理を施すことにより、鋼板に含まれる拡散性水素をその離脱経路を通じて放出させるという着想を得た。そこで、このような着想に基づきさらに検討を進めた結果、めっき層が所定のFe濃度を有するGA鋼板では、これを圧延(比較的軽圧下の圧延でよい)することによりめっき層に微細な亀裂を導入することができ、この圧延されたGA鋼板を所定の条件でベーキング処理することにより、鋼板から拡散性水素を適切に除去することができ、鋼板中の拡散性水素量を所定のレベルまで低減できることが判った。すなわち、EG鋼板(電気めっき鋼板)やGI鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板)とは異なるGA鋼板のめっき層の性質を利用して、鋼板中の拡散性水素を効果的に除去することができる方法を見出したものである。
【0011】
また、GA鋼板に含まれる拡散性水素は、主にCGLの焼鈍工程で侵入し、その後に施される溶融亜鉛めっきにより拡散性水素の離脱が阻害されているものと、一般には考えられる。本発明者らは、高強度・高延性を狙いとした高Mn添加鋼板を母材とするGA鋼板の延性(全伸び)と穴拡げ性(限界穴拡げ率)が冷延鋼板に比べ著しく劣るのも、鋼板中の拡散性水素に起因しているものと推定した。そこで、本発明者らは、高Mn添加鋼板を母材とし、めっき層が所定のFe濃度を有するGA鋼板に対して、圧延を実施してめっき層に微細な亀裂を導入した上でベーキング処理する方法を適用したところ、延性および穴拡げ性を大幅に改善できることが判った。
【0012】
また、以上のような方法では、ベーキング処理を比較的低温で行うことができ、しかも雰囲気の制御も特段必要ないことが判った。
【0013】
また、以上のような方法によれば、ベーキング処理を比較的低温で行うことができ、しかも雰囲気の制御も特段必要ないことが判った。
【0014】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1] 高強度鋼板を母材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
Fe濃度が8〜17質量%のめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を圧延する圧延工程(x)と、該圧延工程(x)を経ためっき鋼板を下記(1)式および(2)式を満たす条件で加熱する加熱処理工程(y)を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0015】
(273+T)×(20+2× log
10(t))≧8000 ・・・(1)
40≦T≦160 ・・・(2)
但し、T:めっき鋼板の加熱温度(℃)
t:加熱温度Tでの保持時間(hr)
[2]前述の圧延工程(x)の前に、鋼板の焼鈍工程(a)と、該焼鈍工程(a)を経た鋼板に溶融亜鉛めっきを施すめっき処理工程(b)と、該めっき処理工程(b)で得られためっき層に合金化処理を施し、前述のFe濃度が8〜17質量%のめっき層とする合金化処理工程(c)とを有する[1]に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前述の圧延工程(x)では、めっき鋼板を圧下率0.10〜1%で軽圧下圧延する[1]または[2]に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前述の鋼板が、質量%で、C:0.03〜0.35%、Si:0.01〜2.00%、Mn:2.0〜10.0%、Al:0.001〜1.000%、P:0.10%以下、S:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、引張強度が980MPa以上、引張強度(TS)と全伸び(EL)の積(TS×EL)が16000MPa・%以上であり、めっき層のめっき付着量が片面当たり20〜120g/m
2である[1]〜[3]のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]前述の鋼板が、さらに、質量%で、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.080%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sb:0.001〜0.200%の中から選ばれる1種以上を含有する[4]に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]前述の焼鈍工程(a)では、鋼板のAc
1点およびAc
3点に応じて鋼板温度(℃)を[Ac
1+(Ac
3−Ac
1)/6]〜950℃とし、当該温度における保持時間を60〜600秒とし、合金化処理工程(c)では、合金化処理温度を460〜650℃とする[2]〜[5]のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[7]前述の焼鈍工程(a)では、鋼板温度が600〜900℃の領域をH
2濃度が3〜20vol%、露点が−60℃〜−30℃の雰囲気とする[2]〜[6]のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[8]高強度鋼板を母材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、めっき層のFe濃度が8〜17質量%であり、鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量が0.35質量ppm以下である高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[9]前述の鋼板が、質量%で、C:0.03〜0.35%、Si:0.01〜2.00%、Mn:2.0〜10.0%、Al:0.001〜1.000%、P:0.10%以下、S:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、引張強度が980MPa以上、引張強度(TS)と全伸び(EL)の積(TS×EL)が16000MPa・%以上であり、めっき層のめっき付着量が片面当たり20〜120g/m
2である[8]に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[10]前述の鋼板が、さらに、質量%で、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.080%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sb:0.001〜0.200%の中から選ばれる1種以上を含有する[9]に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[11]前述の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、鋼板表面のめっき層に入った微細な亀裂の単位面積当たりの長さの平均値(L)が0.010μm/μm
2以上0.070μm/μm
2以下であり、このうち、圧延方向に対して略直角方向に延びる亀裂の割合が亀裂の長さ全体の60%以下である[8]〜[10]のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、拡散性水素量が少なく、優れた耐遅れ破壊特性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して提供することができる。また、本発明において、高Mn添加の所定の成分組成を有する母材鋼板を用いることにより、さらに延性および穴拡げ性にも優れた高強度・高延性合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびそれらの製造方法について、詳細に説明する。
【0019】
本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、高強度鋼板を母材とし、Fe濃度が8〜17質量%のめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を圧延する圧延工程(x)と、圧延工程(x)を経ためっき鋼板を所定の加熱条件で加熱する加熱処理工程(y)を有する。
【0020】
本発明において、GA鋼板の母材となる高強度鋼板の強度などに特別な制限はないが、一般に引張強度が590MPa以上の鋼板を対象とすることが好ましい。また、その中でも、特に引張強度が980MPa以上の鋼板を母材とする場合に拡散性水素による問題を生じやすいので、本発明は、特に引張強度が980MPa以上の鋼板を母材とするGA鋼板に、より有用であると言える。更により有用と言えるのは、引張強度が1180MPa以上の鋼材を母材とするGA鋼板である。
【0021】
また、本発明の製造方法は、さらに、CGLなどで行われる焼鈍工程・めっき処理工程・合金化処理工程を含むことができる。すなわち、この製造方法は、鋼板の焼鈍工程(a)と、焼鈍工程(a)を経た鋼板に溶融亜鉛めっきを施すめっき処理工程(b)と、めっき処理工程(b)で得られためっき層に合金化処理を施し、Fe濃度が8〜17質量%のめっき層とする合金化処理工程(c)と、合金化処理工程(c)を経ためっき鋼板を圧延する圧延工程(x)と、圧延工程(x)を経ためっき鋼板を所定の加熱条件で加熱する加熱処理工程(y)を有する。
【0022】
本発明の製造方法は、GA鋼板のめっき層を構成するFe−Zn金属間化合物の脆性を利用し、圧延工程(x)でGA鋼板に圧延を施すことにより、めっき層に水素の離脱経路となる微細な亀裂を導入し、その上でベーキング処理を行うものである。圧延工程(x)は比較的低い圧下率(軽圧下)の圧延でよく、この圧延でめっき層を圧潰することにより亀裂を生じさせる。
【0023】
ここで、圧延工程(x)での圧延によりめっき層に水素の離脱経路となる微細な亀裂を導入するには、めっき層(合金化溶融亜鉛めっき層)のFe濃度が重要である。Znは金属であるため延性を有し、圧延などの加工を加えても、その加工度が極端に大きなものでなければ、めっき層に亀裂が発生することはない。一方、めっき層のZnとFe(母材)との合金化が進むに従い、延性を有するZn相の比率が低下し(すなわちFe−Zn金属間化合物の比率が増す)、めっき層が脆性となるため亀裂が入りやすくなる。比較的小さい圧下率で十分な亀裂量を導入するためには、めっき層のFe濃度は8質量%以上とすることが好ましい。一方、めっき層のZnとFe(母材)との合金化が過剰に進むと鋼板−めっき界面に脆弱なΓ相が形成され、パウダリング不良を生じる恐れがあるので、このような問題を回避するには、めっき層のFe濃度を17質量%以下とすることが好ましい。以上より、本発明では、圧延工程(x)に供されるGA鋼板のめっき層のFe濃度を8〜17質量%とする。めっき層のFe濃度は、より好ましくは9質量%以上である。これは、延性を有するZn相が完全に消失し、めっき層全体に均一に微細亀裂を入れることができ、水素の効率的な離脱を促進できるためである。めっき層のFe濃度は、より好ましくは15質量%以下である。これは、めっき層のFe濃度が15質量%を超えると鋼板−めっき界面に脆弱なΓ相が部分的に形成する場合があり、該当箇所に亀裂が集中し、亀裂が入りにくい部分での水素離脱速度が低下する可能性があるためである。
【0024】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の圧延工程(x)での圧下率は特に制限はないが、圧下率が小さすぎるとめっき層への亀裂の導入が不十分となり、一方、圧下率が大きすぎると加工性の低下(歪の導入による延性の低下)を招くため、一般には0.10〜1%程度の圧下率で圧延(軽圧下圧延)することが好ましい。なお、圧延工程(x)で使用する圧延手段は、一般的な圧延機や圧延ロールでよい。圧下率は、より好ましくは0.2%以上である。圧下率は、より好ましくは1.0%以下であり、更により好ましくは、後述する亀裂導入の目的から、0.5%以下である。
【0025】
圧延によりめっき層へ亀裂を導入した場合、亀裂の導入方向は圧延方向に対して直角に入る場合が多い。しかしながら、同じ方向に入った亀裂が多いと自動車用部品としてプレス加工を受けた際に、めっきの剥離が多くなり、パウダリング不良となる場合がある。また、パウダリング不良に至らない場合でも、亀裂導入方向が一定ではない場合と比較して、耐パウダリング性は劣化する。このような問題を回避するためには、圧延方向に対して略直角方向に延びる亀裂の長さの割合が亀裂の長さ全体の60%以下であることが好ましい。圧延方向に対して略直角方向に延びる亀裂の長さが、亀裂の長さ全体の55%以下であることがより好ましく、50%以下であることが、さらにより好ましい。なお、本発明において、「圧延方向」とは、圧延される鋼板の通板される方向である、また、「圧延方向に対して略直角方向」とは、後述する実施例でも述べるとおり、圧延される鋼板の通板方向に対して80〜100°の範囲の方向である。
【0026】
さらに、水素の離脱経路を確保しつつ、耐パウダリング性の劣化を抑制するためには、めっき層に入った微細な亀裂の単位面積当たりの長さの平均値(L)が0.010μm/μm
2以上0.070μm/μm
2以下であることが好ましい。平均値(L)は、より好ましくは0.020μm/μm
2以上であり、更により好ましくは0.030μm/μm
2以上である。平均値(L)は、より好ましくは0.075μm/μm
2以下であり、更により好ましくは0.060μm/μm
2以下である。
【0027】
このような亀裂を導入するためには、圧下率は0.10〜0.5%とし、さらに圧延(軽圧下圧延)する場合のワークロール径を600mm以下とすることが好ましい。圧下率が0.1%未満であると、微細な亀裂の導入が不十分となり、一方、圧下率が0.5%を超えると微細な亀裂の単位面積当たりの長さの平均値(L)が0.07μm/μm
2を超えるため、耐パウダリング性が劣化するためである。圧下率は、より好ましくは0.2%以上である。圧下率は、より好ましくは0.4%以下である。また、ワークロール径が600mmを超えると、圧下時に鋼板とロールの接触面積が増加し、これにより、ロールから剪断方向(圧延方向)の力を受ける時間が増大し、亀裂が圧延方向に対して直角方向に入りやすくなるためである。ワークロール径は、より好ましくは500mm以下である。
【0028】
圧延(軽圧下圧延)に用いるワークロール表面の粗さは、好ましくは1.5μm以下である。圧延(軽圧下圧延)に用いるワークロール表面の粗さは、好ましくは1.0μm以上である。
【0029】
圧延工程(x)を経たGA鋼板には、加熱処理工程(y)において、拡散性水素の除去を目的とした加熱処理(ベーキング処理)が施される。
【0030】
加熱処理工程(y)では、加熱温度が比較的高い場合には、コイル内の温度が不均一となってコイル内で機械的特性のばらつきが生じるおそれがあり、また、拡散性水素を適切に排出するには、加熱温度が低いほど加熱時間(保持時間)を長くすることが必要である。これらの観点から、本発明では下記(1)式および(2)式を満たす条件でめっき鋼板を加熱する。また、下記(1)式および(3)式を満たす条件でめっき鋼板を加熱することがより望ましい。
図1は、(1)式を満足する加熱温度Tと加熱温度Tでの保持時間tとの関係を示している。
【0031】
(273+T)×(20+2×log
10(t))≧8000 ・・・(1)
40≦T≦160 ・・・(2)
60≦T≦120 ・・・(3)
但し、T:めっき鋼板の加熱温度(℃)
t:加熱温度Tでの保持時間(hr)
本発明では、加熱処理工程(y)での加熱条件は上記(1)式および(2)式に従うことが望ましいが、より広い加熱条件で加熱処理してもよく、例えば、加熱温度に関わりなく保持時間を1〜500時間程度としてもよい。加熱時間は、より好ましくは5時間以上であり、更により好ましくは8時間以上である。加熱時間は、より好ましくは300時間以下であり、更により好ましくは100時間以下である。
【0032】
本発明では、圧延工程(x)でめっき層に水素の離脱経路となる微細な亀裂を導入してあるため、比較的低温の加熱温度でも拡散性水素を適切に離脱させることができるが、上記(2)式の条件において、加熱温度Tが40℃未満では、水素の拡散が十分に生じないため、鋼板中の拡散性水素を十分に低減させることができないか、若しくは加熱処理に多大な日数を要し、生産性が低下する。一方、加熱温度Tが160℃を超えると、コイル内の温度が不均一になってコイル内で機械的特性のばらつきが生じる可能性がある。また、上記(1)式の条件を満足することで、加熱温度に応じた加熱時間を確保することができる。したがって、上記(1)式および(2)式を満たす条件、より好ましくは上記(1)式および(3)式を満たす条件でめっき鋼板を加熱することにより、GA鋼板に機械的特性のばらつきを生じさせることなく、拡散性水素量を十分に低い所望のレベルまで低減させることができる。
【0033】
加熱処理工程(y)は雰囲気の制御も特段必要なく、大気雰囲気で実施することができる。また、使用する加熱設備も特に制限はなく、例えば、電気炉やガス加熱炉を備えた倉庫などを利用してもよい。
【0034】
以下、本発明の詳細と好ましい条件について説明する。
まず、GA鋼板の母材となる高強度鋼板について説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の単位は「質量%」であるが、便宜上「%」で示す。
【0035】
本発明において、GA鋼板の母材となる高強度鋼板の成分組成に特に制限はないが、高Mn添加の高強度・高延性GA鋼板とする場合には、基本成分として、C:0.03〜0.35%、Si:0.01〜2.00%、Mn:2.0〜10.0%、Al:0.001〜1.000%、P:0.10%以下、S:0.01%以下を含有することが好ましく、さらに必要に応じて、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.080%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sb:0.001〜0.200%の中から選ばれる1種以上を含有することができる。以下、これらの限定理由について説明する。
・C:0.03〜0.35%
Cは鋼板の強度を高める効果を有する元素であり、このためC含有量は0.03%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.35%を超えると自動車や家電の素材として用いる場合に必要な溶接性が劣化するので、C含有量は0.35%以下とすることが好ましい。Cは、より好ましくは0.05%以上、更により好ましくは0.08%以上である。Cは、より好ましくは0.30%以下、更により好ましくは0.28%以下である。
・Si:0.01〜2.00%
Siは鋼を強化し、延性を向上させるのに有効な元素であり、このためSi含有量は0.01%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が2.00%を超えると、Siが鋼板表面に酸化物を形成し、めっき外観が劣化するので、Si含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Siは、より好ましくは0.02%以上、更により好ましくは0.05%以上である。Siは、より好ましくは1.80%以下、更により好ましくは1.70%以下である。
・Mn:2.0〜10.0%
Mnはオーステナイト相を安定化させ、延性を大きく向上させる元素であり、高強度・高延性GA鋼板において重要な元素である。そのような効果を得るために、Mn含有量は0.1%以上、望ましくは2.0%以上とすることが好ましい。一方、Mn含有量が10.0%を超えるとスラブ鋳造性や溶接性が劣化するので、Mn含有量は10.0%以下とすることが好ましい。Mnは、より好ましくは2.50%以上、更により好ましくは3.00%以上である。Mnは、より好ましくは8.50%以下、更により好ましくは8.00%以下である。
・Al:0.001〜1.000%
Alは溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、Al含有量が0.001%未満では、その目的が達成されない。一方、Al含有量が1.000%を超えると、Alが鋼板表面に酸化物を形成し、めっき外観(表面外観)が劣化する。このためAl含有量は0.001〜1.000%とすることが好ましい。Alは、より好ましくは0.005%以上、更により好ましくは0.010%以上である。Alは、より好ましくは0.800%以下、更により好ましくは0.500%以下である。
・P:0.10%以下
Pは不可避的に含有される元素のひとつであり、Pの増加に伴いスラブ製造性が劣化する。さらに、Pの含有は合金化反応を抑制し、めっきムラを引き起こす。このためP含有量は0.10%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。一方、P含有量を0.005%未満にするには、コストの増大が懸念されるため、P含有量は0.005%以上が望ましい。Pは、より好ましくは0.05%以下、更により好ましくは0.01%以下である。Pは、より好ましくは0.007%以上、更により好ましくは0.008%以上である。
・S:0.01%以下
Sは製鋼過程で不可避的に含有される元素であるが、多量に含有すると溶接性が劣化するので、S含有量は0.01%以下とすることが好ましい。Sは、より好ましくは0.08%以下、更により好ましくは0.006%以下である。Sは、より好ましくは0.001%以上、更により好ましくは0.002%以上である。
・B:0.001〜0.005%
Bは0.001%以上で焼き入れ促進効果が得られる。一方、0.005%を超えると化成処理性が劣化する。このためBを含有する場合には、その含有量は0.001〜0.005%とすることが好ましい。Bを含有する場合には、その含有量は0.002%以上がより好ましい。Bを含有する場合には、その含有量は0.004%以下がより好ましい。
・Nb:0.005〜0.050%
Nbは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、0.050%を超えるとコストアップを招く。このためNbを含有する場合には、その含有量は0.005〜0.050%とすることが好ましい。Nbを含有する場合には、その含有量は0.01%以上がより好ましく、0.02%以上が更により好ましい。Nbを含有する場合には、その含有量は0.045%以下がより好ましく、0.040%以下が更により好ましい。
・Ti:0.005〜0.080%
Tiは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、0.080%を超えると化成処理性の劣化を招く。このためTiを含有する場合には、その含有量は0.005〜0.080%とすることが好ましい。Tiを含有する場合には、その含有量は0.010%以上がより好ましく、0.015%以上が更により好ましい。Tiを含有する場合には、その含有量は0.070%以下がより好ましく、0.060%以下が更により好ましい。
・Cr:0.001〜1.000%
Crは0.001%以上で焼き入れ性効果が得られる。一方、1.000%を超えるとCrが鋼板表面に濃化するため、溶接性が劣化する。このためCrを含有する場合には、その含有量は0.001〜1.000%とすることが好ましい。Crを含有する場合には、その含有量は0.005%以上がより好ましく、0.100%以上が更により好ましい。Crを含有する場合には、その含有量は0.950%以下がより好ましく、0.900%以下が更により好ましい。
・Mo:0.05〜1.00%
Moは0.05%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、1.00%を超えるとコストアップを招く。このためMoを含有する場合には、その含有量は0.05〜1.00%とすることが好ましい。Moを含有する場合には、その含有量は0.08%以上がより好ましい。Moを含有する場合には、その含有量は0.80%以下がより好ましい。
・Cu:0.05〜1.00%
Cuは0.05%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、1.00%を超えるとコストアップを招く。このためCuを含有する場合には、その含有量は0.05〜1.00%とすることが好ましい。Cuを含有する場合には、その含有量は0.08%以上がより好ましく、0.10%以上が更により好ましい。Cuを含有する場合には、その含有量は0.80%以下がより好ましく、0.60%以下が更により好ましい。
・Ni:0.05〜1.00%
Niは0.05%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、1.00%を超えるとコストアップを招く。このためNiを含有する場合には、その含有量は0.05〜1.00%とすることが好ましい。Niを含有する場合には、その含有量は0.10%以上がより好ましく、0.12%以上が更により好ましい。Niを含有する場合には、その含有量は0.80%以下がより好ましく、0.50%が更により好ましい。
・Sb:0.001〜0.200%
Sbは鋼板表面の窒化、酸化、或いは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有させることができる。窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、0.001%以上で得られる。一方、0.200%を超えると靭性が劣化する。このためSbを含有する場合には、その含有量は0.001〜0.200%とすることが好ましい。Sbを含有する場合には、その含有量は0.003%以上がより好ましく、0.005%以上が更により好ましい。Sbを含有する場合には、その含有量は0.100%以下がより好ましく、0.080%以下が更により好ましい。
【0036】
以上述べた基本成分および任意添加成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0037】
また、高強度・高延性GA鋼板とするために、鋼板(母材鋼板)は、引張強度が980MPa以上、引張強度(TS)と全伸び(EL)の積(TS×EL)が16000MPa・%以上であることが好ましい。
【0038】
ここで、引張強度(TS)、全伸び(EL)は引張試験により測定する。この引張試験では、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z2241(2011)に準拠して行い、引張強度(TS)、全伸び(EL)を測定する。
【0039】
次に、本発明の製造方法における工程(a)〜(c)について説明する。
・焼鈍工程(a)
焼鈍工程(a)の焼鈍条件に特別な制限はないが、最適な強度・延性バランス、特に上述した成分組成を有する高Mn添加鋼板を母材とするGA鋼板の強度・延性バランスを確保するために、鋼板のAc
1点とAc
3点に応じた鋼板温度(℃)を[Ac
1+(Ac
3−Ac
1)/6]〜950℃とするとともに、当該温度における保持時間を60〜600秒とすることが好ましい。また、鋼板温度(℃)は[Ac
1+(Ac
3−Ac
1)/6]〜900℃とすることがより好ましい。鋼板温度(℃)は870℃以下とすることがさらにより好ましい。鋼板温度(℃)は650℃以上とすることが、より好ましく、670℃以上とすることがさらにより好ましい。
【0040】
なお、鋼板のAc
1点(℃)とAc
3点(℃)は、それぞれ下記式により求めることができる。
【0041】
Ac
3点(℃)=937.2−436.5C+56Si−19.7Mn−16.3Cu−26.6Ni−4.9Cr+38.1Mo+124.8V+136.3Ti−19.1Nb+198.4Al+3315B
Ac
1点(℃)=750.8−26.6C+17.6Si−11.6Mn−22.9Cu−23Ni+24.1Cr+22.5Mo−39.7V−5.7Ti+232.4Nb−169.4Al−894.7B
ここで、上記式中のC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ti、Nb、Al、Bは、鋼板中でのそれぞれの元素の含有量(質量%)である。
【0042】
CGLなどにおける焼鈍の主目的は、鋼板の加工組織の再結晶による加工性の向上および冷却前の組織形成である。鋼板温度(℃)を[Ac
1+(Ac
3−Ac
1)/6]以上とすることにより、焼鈍時のオーステナイト相の量を20vol%以上とすることができ、その後冷却することでマルテンサイト、焼き戻しマルテンサイト、ベイナイトおよび残留オーステナイト組織が形成され、マルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトが強度を、残留オーステナイトが伸びを担うことで優れた強度および伸びを達成できる。一方、鋼板温度(℃)が950℃を超えると、鋼板の結晶粒の粗大化により強度・延性バランスが低下する。このため、鋼板温度(℃)は[Ac
1+(Ac
3−Ac
1)/6]〜950℃とすることが好ましい。鋼板温度(℃)は900℃以下とすることがより好ましく、870℃以下とすることがさらにより好ましい。鋼板温度(℃)は650℃以上とすることが、より好ましく、670℃以上とすることがさらにより好ましい。
【0043】
また、上記鋼板温度(℃)での保持時間が60秒未満では、再結晶が十分に進行しないことにより、鋼板の加工性が低下するおそれがある。一方、保持時間が600秒を超えると、鋼板中に侵入する水素量が増大し、圧延工程(x)と加熱処理工程(y)を実施しても鋼板中の拡散性水素量を十分低減することができなくなるおそれがある。このため、上記鋼板温度(℃)での保持時間は60〜600秒とすることが好ましい。上記鋼板温度(℃)での保持時間は500秒以下とすることがより好ましい。上記鋼板温度(℃)での保持時間は30秒以上とすることがより好ましい。
【0044】
さらに、焼鈍工程(a)では、鋼板温度が600〜900℃の領域をH
2濃度が3〜20vol%、露点が−60℃〜−30℃の雰囲気とすることが好ましい。また、H
2濃度は5〜15vol%がより好ましい。H
2濃度は12vol%以下とすることがさらにより好ましい。露点は−15℃以下とすることがさらにより好ましい。露点は−20℃以上とすることがさらにより好ましい。
【0045】
CGLなどにおける焼鈍では、還元性雰囲気において鋼板を加熱することで表面酸化を防ぎ、溶融亜鉛に対する濡れ性の低下を抑えることが可能である。このような還元性雰囲気での焼鈍は、鋼板温度を反応速度が大きい600〜900℃の範囲として実施すれば十分に効果がある。その効果を得るために、焼鈍雰囲気のH
2濃度は3vol%以上であることが好ましい。一方、H
2濃度が20vol%超えでは、鋼板中に侵入する水素量が増大し、圧延工程(x)と加熱処理工程(y)を実施しても鋼板中の拡散性水素量を十分低減することができなくなるおそれがある。
【0046】
また、鋼板温度を反応速度が大きい600〜900℃の範囲として焼鈍雰囲気の露点を管理することにより、鋼板の内部酸化を制御することが可能である。水蒸気により内部酸化が生じる反応は、酸化される合金元素をMとすると、以下のように表される。なお、鋼板温度(℃)は870℃以下とすることがより好ましく、860℃以下とすることがさらにより好ましい。鋼板温度(℃)は620℃以上とすることが、より好ましく、640℃以上とすることがさらにより好ましい。
【0047】
M+XH
2O=MO
X+XH
2
この反応により発生する水素は鋼中に残存しやすい。焼鈍雰囲気の露点が−30℃よりも大きいと、内部酸化により発生する水素量が多くなり、圧延工程(x)と加熱処理工程(y)を実施しても鋼板中の拡散性水素量を十分低減することができなくなるおそれがある。一方、露点を−60℃未満にしても、露点を制御することによる効果は飽和するので、却って経済性を損なう。
【0048】
以上の理由から、焼鈍工程(a)の鋼板温度が600〜900℃の領域では、H
2濃度を3〜20vol%、露点を−60℃〜−30℃の雰囲気とすることが好ましい。H
2濃度は5vol%以上とすることがより好ましい。H
2濃度は15vol%以下とすることがより好ましい。露点は−55℃以上とすることがより好ましく、−50℃以上とすることがさらにより好ましい。露点は−35℃以下とすることがより好ましい。
なお、その他の領域での雰囲気は任意であり、非酸化性の雰囲気であればよい。
・めっき処理工程(b)
めっき処理工程(b)では、焼鈍工程(a)で焼鈍後、所定温度まで冷却された鋼板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施す。溶融亜鉛めっき浴を出ためっき鋼板に対して、通常、ガスワイピングなどによりめっき目付量の調整がなされる。めっき処理条件に特別な制限はないが、めっき付着量(片面当たりの付着量)は、耐食性およびめっき付着量制御上の観点から20g/m
2以上とすることが好ましく、また、密着性の観点から120g/m
2以下とすることが好ましい。めっき付着量は25g/m
2以上とすることがより好ましく、30g/m
2以上とすることがさらにより好ましい。めっき付着量は100g/m
2以下とすることがより好ましく、70g/m
2以下とすることがさらにより好ましい。
【0049】
溶融亜鉛めっき浴の組成としては、従来のものと同じく、Zn以外のめっき成分として、例えば、Al、Mg、Siなどの1種以上を適量含有する(残部はZnおよび不可避不純物)ことができる。具体的には、浴中Al濃度は0.001〜0.2質量%程度とすることが望ましい。浴中Al濃度は0.01%以上とすることがより好ましく、0.05%以上とすることがさらにより好ましい。浴中Al濃度は0.17%以下とすることがより好ましく、0.15%以下とすることがさらにより好ましい。さらに、めっき浴中にAl、Mg、Si以外にPb、Sb、Fe、Mg、Mn、Ni、Ca、Ti、V、Cr、Co、Sn等の元素が混入していても本発明の効果は変わらない。
・合金化処理工程(c)
合金化処理工程(c)では、めっき処理工程(b)を経た鋼板を加熱し、溶融亜鉛めっき層を合金化処理する。合金化処理条件に特別な制限はないが、合金化処理温度(鋼板最高到達温度)は460〜650℃が望ましく、480〜570℃がより好ましい。合金化処理温度が460℃未満では合金化反応の速度が遅くなり、めっき層の所望のFe濃度が得られなくなるおそれがあり、一方、650℃を超えると、過合金により地鉄界面に硬くて脆いZn−Fe合金層が厚く生成してめっき密着性が劣化するおそれがあるとともに、残留オーステナイト相が分解することにより強度・延性バランスも低下してしまうおそれがある。合金化処理温度(鋼板最高到達温度)は550℃以下とすることがさらにより好ましい。合金化処理温度(鋼板最高到達温度)は490℃以上とすることがさらにより好ましい。
【0050】
以上の焼鈍工程(a)、めっき処理工程(b)、合金化処理工程(c)を経て得られたGA鋼板は、さきに述べたような条件で圧延工程(x)と加熱処理工程(y)に付される。これにより、拡散水素量が十分に低いレベルまで低減され、優れた耐遅れ破壊特性を有する高強度GA鋼板が得られる。また、上述したように、高Mn添加の所定の成分組成を有する母材鋼板を用いることにより、さらに延性および穴拡げ性にも優れた高強度・高延性GA鋼板が得られる。
【0051】
次に、本発明の高強度GA鋼板の構成について説明する。
【0052】
本発明の高強度GA鋼板は、上述した本発明の製造方法で得られるものであって、高強度鋼板を母材とするGA鋼板である。その構成は、めっき層のFe濃度が8〜17質量%であり、さらに、鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量が0.35質量ppm以下であるものである。
【0053】
まず、本発明の高強度GA鋼板において、めっき層のFe濃度が8〜17質量%であることの限定理由は、さきに述べたとおりである。また、鋼板の好ましい引張強度(TS)やその理由についても、さきに述べたとおりである。
【0054】
また、GA鋼板の母材(鋼板)に含まれる拡散性水素量の指標として、「鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量が0.35質量ppm以下」であるということは、拡散性水素量が十分に低減されているということであり、これにより優れた耐遅れ破壊特性を有するものとなる。また、上述したように、高Mn添加の所定の成分組成を有する鋼板を母材鋼板とすることにより、さらに延性および穴拡げ性にも優れたものとなる。放出される水素量は0.20質量ppm以下とすることが好ましい。放出される水素量は0.10質量ppm以下とすることがさらにより好ましい。放出される水素量は可能な限り0とすることが好ましいが、長時間の熱処理は生産コストの増加を招く。したがって、材質に大きな影響を及ぼさない0.02質量ppm以下の水素量残留は認められる。
【0055】
ここで、「鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量」は、以下のようにして測定することができる。まず、GA鋼板の表裏のめっき層を除去する。除去の方法としては、リューター等を用いて物理的に削ってもよいし、アルカリを用いて化学的にめっき層を溶解除去してもよい。ただし、物理的に削る場合、鋼板の研削量は板厚の5%以下とする。めっき層の除去後、試験片中の水素量をガスクロマトグラフィーによる昇温分析により測定するが、この分析における試験片の昇温時到達温度を200℃とする。昇温速度は特に限定しないが、大きすぎると正確に測定できないおそれがあるので、500℃/hr以下が好ましく、特に200℃/hr程度が好ましい。昇温速度は100℃/hr程度とすることがさらにより好ましい。このようにして測定された水素量を鋼板の質量で除した値を、「鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量(質量ppm)」とする。なお、昇温は、通常、室温から開始される。室温の具体的な値として、例えば20℃が挙げられる。
【0056】
また、本発明の高強度GA鋼板のなかでも、先に述べたような高Mn添加の高強度・高延性GA鋼板は、上記の構成に加えて、鋼板が、質量%で、C:0.03〜0.35%、Si:0.01〜2.00%、Mn:2.0〜10.0%、Al:0.001〜1.000%、P:0.10%以下、S:0.01%以下を含有し、必要に応じてさらに、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.080%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sb:0.001〜0.200%の中から選ばれる1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、引張強度が980MPa以上、引張強度(TS)と全伸び(EL)の積(TS×EL)が16000MPa・%以上であり、めっき層のめっき付着量が片面当たり20〜120g/m
2であることが好ましい。このGA鋼板において、母材の成分組成および機械的特性値、めっき付着量の限定理由は、さきに述べたとおりである。
【0057】
また、本発明のGA鋼板は、圧延工程(x)を経たものであるので、めっき層は微細な亀裂を有している。
【0058】
また、本発明のGA鋼板は、圧延工程(x)を経たものであるので、めっき層は軽度に圧潰された圧潰組織であり、このため微細な亀裂を有している。
【0059】
また、本発明の高強度GA鋼板のなかで、上述したような特定の成分組成を有する高Mn添加の高強度・高延性GA鋼板は穴拡げ性に優れている。ここで、穴拡げ性に優れるとは、引張強度TSに応じて、限界穴拡げ率λ(この限界穴拡げ率λの測定方法は後述する実施例で記載してある)が以下のような値であるということである。
【0060】
980≦TS<1180の場合、λ≧30%
1180≦TS<1470の場合、λ≧20%
1470≦TSの場合、λ≧15%
本発明のGA鋼板が有するめっき層(合金化溶融亜鉛めっき層)は、合金化処理によるFe濃度が8〜16質量%であるが、従来のGA鋼板と同じく、Zn以外のめっき成分として、例えば、Al、Mg、Siなどの1種以上を適量含有する(残部はZn及び不可避不純物)ことができる。さらに、Pb、Sb、Fe、Mg、Mn、Ni、Ca、Ti、V、Cr、Co、Sn等の1種以上が含有される場合がある。
【0061】
本発明のGA鋼板は、車体の軽量化・高強度化を図ることができる表面処理鋼板として自動車用途に好適なものであるが、それ以外にも、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板として、家電や建材用途をはじめとする広範な用途に適用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0063】
表1に示す鋼組成のスラブを加熱炉にて1260℃で60分間加熱した後、板厚2.8mmまで熱間圧延し、540℃で巻き取った。この熱延鋼板を酸洗して黒皮スケールを除去した後、板厚1.6mmまで冷間圧延し、冷延鋼板を得た。
【0064】
入側から順に還元炉(ラジアントチューブ式加熱炉)、冷却帯、溶融亜鉛ポット、合金化用IH炉および軽圧下圧延装置を備えた連続溶融亜鉛めっき設備において、表2および表4に示す条件で、上記冷延鋼板に焼鈍(焼鈍工程(a))、めっき処理(めっき処理工程(b))、合金化処理(合金化処理工程(c))および軽圧下圧延(圧延工程(x))を順次施した後、巻き取った。次いで、ガス加熱により雰囲気温度の調整が可能な加熱設備において、そのGA鋼板(コイル)に表2および表4に記載の条件で加熱処理(加熱処理工程(y))を施した。この加熱処理は、雰囲気の温度以外の制御は特に行わず、大気雰囲気で実施した。軽圧下圧延に用いたワークロールのロール径は530mmであり、ワークロールの表面の粗さは、1.3μmであった。
【0065】
連続溶融亜鉛めっき設備では、還元炉の雰囲気ガスとしてH
2−N
2混合ガスを用い、その雰囲気の露点は加湿ガスを還元炉内に導入することで制御した。また、溶融亜鉛ポットに保持された溶融亜鉛めっき浴は、浴温度を500℃とし、浴組成をAlが0.1質量%で残部がZnおよび不可避不純物となるように調整した。鋼板は溶融亜鉛めっき浴に浸漬した後、ガスワイピングによりめっき付着量を制御した。溶融亜鉛めっき後の合金化処理は、鋼板をIHヒーターで加熱することで行った。
【0066】
以上のようにして得られたGA鋼板について、引張強度(TS)、全伸び(EL)、限界穴拡げ率(λ)、めっき付着量及びめっき層のFe濃度、「鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量」を測定した。それぞれの測定方法を以下に示す。
・引張強度(TS)および全伸び(EL)の測定
引張強度(TS)、全伸び(EL)は引張試験により測定した。この引張試験は、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z2241(2011)に準拠して行い、引張強度(TS)、全伸び(EL)を測定した。ここで、高強度・高延性GA鋼板としては、TS≧980MPa以上かつ引張強度(TS)×全伸び(EL)が16000MPa・%以上が“好ましい特性”であるといえる。
・限界穴拡げ率(λ)の測定
限界穴拡げ率(λ)は、穴拡げ試験により測定した。この穴拡げ試験は、JIS Z2256(2010)に準拠して行った。GA鋼板を100mm×100mmのサイズに切断して供試体とし、この供試体にクリアランス12%±1%で直径10mmの穴を打ち抜いた後、内径75mmのダイスを用いてしわ押さえ力9ton(88.26kN)で抑えた状態で、60°円錐のポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定した。ポンチの押し込み速度は10mm/minとした。下記の式から限界穴拡げ率を求め、この限界穴広げ率から穴拡げ性を評価した。
【0067】
限界穴拡げ率(%)={(D
f−D
0)/D
0}×100
但し、D
f:亀裂発生時の穴径(mm)
D
0:初期穴径(mm)
ここで、高強度・高延性GA鋼板としては、限界穴拡げ率(λ)が以下の場合が“好ましい特性”であるといえる。
【0068】
980≦TS<1180の場合、λ≧30%
1180≦TS<1470の場合、λ≧20%
・めっき付着量およびめっき層のFe濃度の測定
鉄に対する腐食抑制剤(朝日化学工業(株)製「イビット」(登録商標))を添加した10質量%塩酸中に供試体(GA鋼板)を浸漬し、めっき層を溶解させた。溶解に伴う供試体の質量減少量を測定し、その値を鋼板の表面積で規格化した値をめっき付着量(g/m
2)とした。また、ICP発光分光分析法を使用して塩酸に溶解したZn、Feの量を測定し、{Fe溶解量/(Fe溶解量+Zn溶解量)}×100をめっき層のFe濃度(質量%)とした。
・「鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量」の測定
GA鋼板の試験片の表裏のめっき層を、リューターを用いて物理的に削って除去した。この際の鋼板の研削量は板厚の5%以下とした。めっき層の除去後、試験片中の水素量をガスクロマトグラフィーによる昇温分析により測定した。この分析における試験片の昇温時到達温度を200℃とし、昇温速度は200℃/hrとした。このようにして測定された水素量を鋼板の質量で除した値を、「鋼板中に存在する水素のうち、鋼板を200℃まで昇温した際に放出される水素量(質量ppm)」とした。
・めっき外観の評価
GA鋼板のめっき外観を以下のように評価した。
【0069】
GA鋼板のめっき表面の外観観察を行い、不めっきの有無およびめっき表面に色調差として認められる模様の有無によりめっき外観を評価した。すなわち、GA鋼板について1m
2の範囲を無作為に5箇所選び、目視で不めっきの有無と色調差として認められる模様の有無を調べ、めっき外観を以下のように評価した。
【0070】
○:5箇所すべてにおいて不めっきおよび模様が認められない(優良)
△:5箇所すべてにおいて不めっきが認められないが、1箇所以上で模様が認められる(良好)
×:1箇所以上で不めっきが認められる(不良)
・GA鋼板の亀裂の確認
GA鋼板の亀裂の確認は以下のように行った。走査型電子顕微鏡(SEM)でGA表面を観察し、領域内に存在する亀裂の長さを測定して、観察領域の面積で割った数値を計算した。これを任意の領域10か所で行い、その平均値をLとした。さらに、亀裂の方向が圧延方向に対して80〜100°の範囲にあるものを、圧延方向に対して直角に進展した亀裂として、その長さを測定し全体の亀裂に対する割合を計算した。この割合が60%超のものを不良(×)、60%以下のものを良好(○)とした。Lが0.010μm/μm
2未満または0.070μm/μm
2以上のものについては、亀裂割合の計算は行わなかった。
・耐パウダリング性の測定
GA鋼板の耐パウダリング性は以下のように測定した。GA鋼板にセロテープ(登録商標)を貼り、テープ面に90度曲げ、曲げ戻しを施し、テープを剥がす。剥がしたテープに付着した鋼板から剥離しためっきの量を、蛍光X線によるZnカウント数として測定し、下記基準に照らしてランク2以下のものを特に良好(○)、ランク3のものを良好(△)、4以上のものを不良(×)と評価し、ランク3以下を合格とした。またFe濃度が8質量%未満の鋼板については、耐パウダリング試験は行わなかった。
蛍光X線カウント数 ランク
0以上2000未満 :1 (良)
2000以上5000未満 :
5000以上8000未満 :
8000以上12000未満:
12000以上 :5 (劣)
・耐遅れ破壊性の評価
GA鋼板の耐遅れ破壊性を以下のようにして評価した。予備加工で得られた試験片に研削加工を施して30mm×100mmの二次試験片を得た。この二次試験片を曲率半径10mmRで180°曲げ加工し、板間を12mm絞め込み、遅れ破壊評価用試験片とした。この遅れ破壊評価用試験片を、pH1とpH3の塩酸水溶液中にそれぞれ浸漬し、96時間後の割れの発生の有無を調査した。本試験は、各鋼板3検体ずつ実施し、1検体でも割れが発生した場合は、割れ発生とした。この試験結果を以下のように評価した。
【0071】
◎:pH1の塩酸水溶液による試験とpH3の塩酸水溶液による試験のいずれでも割れ発生無し(優良)
○:pH1の塩酸水溶液による試験では割れ発生。pH3の塩酸水溶液による試験では割れ発生無し(良好)
×:pH1の塩酸水溶液による試験とpH3の塩酸水溶液による試験のいずれでも割れ発生(不良)
以上の測定・評価結果を製造条件とともに表2〜表5に示す。
【0072】
表2〜表5から明らかなように、本発明例の高強度GA鋼板は、いずれも拡散性水素量が低く抑えられているため耐遅れ破壊性に優れており、さらに延性、穴拡げ性、めっき外観にも優れている。これに対して、比較例の高強度GA鋼板は、拡散性水素量が多いため耐遅れ破壊性に劣り、また延性、穴拡げ性、めっき外観の1つ以上が劣っている。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】