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特許6962462インバータ制御方法及びインバータ制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962462
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】インバータ制御方法及びインバータ制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20211025BHJP
【FI】
   H02M7/48 M
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-520995(P2020-520995)
(86)(22)【出願日】2018年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2018020209
(87)【国際公開番号】WO2019225016
(87)【国際公開日】20191128
【審査請求日】2020年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永山 和俊
(72)【発明者】
【氏名】菊地 貴裕
【審査官】 白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/092435(WO,A1)
【文献】 特開2017−163728(JP,A)
【文献】 特開2011−172343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42〜 7/98
H02P 3/00〜 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに供給する電力を調節するインバータを備えたインバータ制御システムにおいて、前記モータのトルク指令値に応じ前記インバータのスイッチングを行う通常スイッチング制御を実行するとともに、所定の停止信号に応じて前記通常スイッチング制御を停止するインバータ制御方法であって、
前記モータの状態を表すモータ状態パラメータを検出する工程と、
前記通常スイッチング制御の実行中に、該通常スイッチング制御を停止した後の前記インバータの直流電圧であるインバータ電圧の推定値としての停止後インバータ電圧を、検出した前記モータ状態パラメータに基づいて推定する推定工程と、
推定された前記停止後インバータ電圧が所定の閾値電圧未満である場合に前記通常スイッチング制御を停止すると判断し、前記停止後インバータ電圧が前記閾値電圧以上である場合に前記通常スイッチング制御を継続すると判断する判断工程と、を含む、
インバータ制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ制御方法であって、
前記推定工程では、検出した前記モータ状態パラメータとしてのモータ速度に基づいて、記停止後インバータ電圧を演算する、
インバータ制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインバータ制御方法であって、
前記推定工程では、
前記通常スイッチング制御中の前記モータのインダクタンスエネルギーに起因した、該通常スイッチング制御の停止前後の前記インバータ電圧の上昇分である第1電圧上昇値を演算し、
前記通常スイッチング制御の停止後モータ誘起電圧に起因して、前記インバータ電圧が前記第1電圧上昇値を考慮した上昇分に対してさらに上昇する分を第2電圧上昇値として演算し、
前記第1電圧上昇値及び前記第2電圧上昇値に基づいて前記停止後インバータ電圧を演算する、
インバータ制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ制御方法であって、
前記第1電圧上昇値及び前記第2電圧上昇値は、前記モータ状態パラメータ及び前記インバータ電圧の検出値に基づいて演算される、
インバータ制御方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のインバータ制御方法であって、
前記第2電圧上昇値の演算における前記モータ誘起電圧を、前記モータの温度に基づいて補正する、
インバータ制御方法。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載のインバータ制御方法であって、
前記第1電圧上昇値の演算において用いる前記インバータの平滑コンデンサのキャパシタ容量を、前記平滑コンデンサの温度に基づいて補正する、
インバータ制御方法。
【請求項7】
モータに供給する電力を調節するインバータと、前記モータのトルク指令値に応じ前記インバータのスイッチングを行う通常スイッチング制御を実行するとともに、所定の停止信号に応じて前記通常スイッチング制御を停止するインバータ制御装置と、を備えたインバータ制御システムであって、
前記インバータ制御装置は、
前記モータの状態を表すモータ状態パラメータを検出する検出部と、
前記通常スイッチング制御の実行中に、該通常スイッチング制御を停止した後の前記インバータの直流電圧であるインバータ電圧の推定値としての停止後インバータ電圧を、検出した前記モータ状態パラメータに基づいて推定する推定部と、
推定された前記停止後インバータ電圧が所定の閾値電圧未満である場合に前記通常スイッチング制御を停止すると判断し、前記停止後インバータ電圧が前記閾値電圧以上である場合に前記通常スイッチング制御を継続すると判断する判断部と、を備えた、
インバータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御方法及びインバータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
JP2006-74841Aには、モータの回転中にモータへの電力供給が停止した場合に、インバータの入力側に接続されたコンデンサ(平滑コンデンサ)の電圧(インバータの直流電圧)が所定値以上になるとモータのコイルを短絡するようにインバータを制御(非通常スイッチング制御)するモータ制御装置が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
上記モータ制御装置において、モータへの電力供給中におけるインバータのスイッチング制御(通常スイッチング制御)から、上記非通常スイッチング制御に切り替えた時に平滑コンデンサが充電されることで、インバータの直流電圧が上昇して過電圧となることがある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、通常スイッチング制御から非通常スイッチング制御への切り替え時におけるインバータの過電圧を抑制し得るインバータ制御方法及びインバータ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様によれば、モータに供給する電力を調節するインバータを備えたインバータ制御システムにおいて、モータの要求に応じてインバータのスイッチングを行う通常スイッチング制御を実行するインバータ制御方法が提供される。このインバータ制御方法は、通常スイッチング制御の実行中に、該通常スイッチング制御を停止した場合のインバータの直流電圧であるインバータ電圧の上昇を、モータの状態を表すモータ状態パラメータに基づいて推定する推定工程を含む。また、このインバータ制御方法は、インバータ電圧の上昇の推定結果に基づいて、通常スイッチング制御を停止するか否かを判断する判断工程を含む。
【0006】
また、本発明の他の態様によれば、モータに供給する電力を調節するインバータと、モータの要求に応じてインバータのスイッチングを行う通常スイッチング制御を実行するインバータ制御装置と、を備えたインバータ制御システムが提供される。インバータ制御装置は、通常スイッチング制御の実行中に、該通常スイッチング制御を停止した場合のインバータの直流電圧であるインバータ電圧の上昇を、モータの状態を表すモータ状態パラメータに基づいて推定する推定部を備える。また、インバータ制御装置は、インバータ電圧の上昇の推定結果に基づいて、通常スイッチング制御を停止するか否かを判断する判断部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の第1実施形態によるインバータ制御システムを構成するモータ制御装置の概略構成図である。
図2図2は、第1実施形態における通常スイッチング制御の停止判定の流れを説明するフローチャートである。
図3図3は、停止後インバータ電圧算出の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、通常スイッチング制御実行中と通常スイッチング制御停止後のモータに流れる電流の態様を説明する図である。
図5図5は、通常スイッチング制御が停止される場合におけるインバータ電圧の変化を説明するグラフである。
図6図6は、第2実施形態によるインバータ制御システムを構成するモータ制御装置の概略構成図である。
図7図7は、第3実施形態における通常スイッチング制御の停止判定の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、図1図5に基づいて、本発明の第1実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、記載の簡略化のため、電流及び電圧等の3相成分及びd−q座標成分を、「dq軸電流値(id,iq)」、及び「3相電流値(iu,iv,iw)」等のように必要に応じてまとめて表記する。
【0009】
図1は、本実施形態のモータ制御装置100の構成を説明する図である。なお、モータ制御装置100の構成は、CPU等の各種演算・制御装置、ROM及びRAM等の各種記憶装置、並びに入出力インターフェース等を備える1又は2以上のコンピュータにより実現される。
【0010】
本実施形態のモータ制御装置100は、電動車両などに搭載されて車両の駆動輪に接続される電動機としてのモータ109の動作を制御する装置である。
【0011】
図示のように、モータ制御装置100は、主として、ドライバ操作情報指令部101と、車両コントローラ102と、バッテリ103と、リレー104と、インバータ105と、モータ制御部106と、を有している。
【0012】
ドライバ操作情報指令部101は、EVキー、シフト・ブレーキ、及びアクセルペダルなどにドライバによる操作が行われた場合に、当該操作に基づいた操作検出信号を車両コントローラ102に送信する。
【0013】
車両コントローラ102は、受信した操作検出信号に基づいて、リレー104にオン/オフを指令するオン/オフ指令信号を送信する。また、車両コントローラ102は、上記操作検出信号に応じたトルク指令値T*をモータ制御部106の電圧指令値演算部201に出力する。
【0014】
さらに、本実施形態の車両コントローラ102は、バッテリ103のSOC(state of charge)などの状態を表すパラメータに基づいて、バッテリ103の充電量が所定の基準値より低下した状態としての電欠状態であるか否かの判断を含むバッテリ103が正常であるか否かを判定するバッテリ診断を実行する。
【0015】
そして、車両コントローラ102は、バッテリ103が正常ではないと判定すると、バッテリ103の充電量の消費を抑制する観点から、トルク指令値T*をゼロに設定して電圧指令値演算部201に出力する。さらに、この場合、車両コントローラ102は、リレー104にオフ指令信号を送信する。
【0016】
バッテリ103は、力行時にインバータ105を介してモータ109に電力を供給する電源として機能する。また、バッテリ103は、回生時にインバータ105を介してモータ109から供給される電力を蓄電する。
【0017】
リレー104は、車両コントローラ102からの上記オン/オフ指令信号に応じて、バッテリ103とインバータ105との間を導通させる状態(オン状態)、及びこれらの間を電気的に遮断する状態(オフ状態)が切り替わるように開閉する。特に、リレー104は、車両コントローラ102からのオフ指令信号を受けると、バッテリ103とインバータ105との間を電気的に遮断するように開放する。
【0018】
インバータ105は、上記トルク指令値T*に基づいて生成されるモータ制御部106からのスイッチング信号に応じて、バッテリ103からの直流電力を3相交流電力に変換してモータ109に供給する。
【0019】
より具体的に、インバータ105は、直流電力と3相交流電力の間の変換を行うためのスイッチング素子107と、当該インバータ105内部の電圧を平滑化する平滑コンデンサ108と、を有する。
【0020】
スイッチング素子107は、上アームSupの3相(U相、V相、W相)のスイッチング素子Supu,Supv,Supwと、下アームSdwの3相のスイッチング素子Sdwu,Sdwv,Sdww(U相、V相、W相)とを備える。なお、各スイッチング素子は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)により構成されるが、他にも、バイポーラトランジスタ、MOSFET、及びGTO(Gate Turn-Off thyristor)などを用いてもよい。また、各スイッチング素子Supu,Supv,Supw,Sdwu,Sdwv,Sdwwには、逆並列にダイオードが接続されている。そして、各スイッチング素子Supu,Supv,Supw,Sdwu,Sdwv,Sdwwは、後述するスイッチ信号変換部204からスイッチング信号としてのPWM(Pulse Wide Modulation)信号を受信すると、当該PWM信号に応じたディーティー比で開閉される。すなわち、スイッチング素子107は、PWM信号に基づいたスイッチング制御(通常スイッチング制御)にしたがって開閉される。
【0021】
これにより、モータ109は、トルク指令値T*(>0)に応じたモータ駆動力を発生することとなる。なお、トルク指令値T*が負の場合には、インバータ105は、モータ109の回生電力を直流電力に変換してバッテリ103に充電する。
【0022】
次に、モータ制御部106は、電圧指令値演算部201と、電流制御部202と、2相/3相変換部203と、スイッチ信号変換部204と、3相/2相変換部205と、モータ角検出部206と、直流電圧検出部207と、電源供給停止判定部208と、を有している。
【0023】
電圧指令値演算部201は、トルク指令値T*、モータ109の電気角速度(以下では、「モータ電気角速度ω」とも称する)、インバータ105の直流電圧であるインバータ電圧HVに基づいて、d軸電流指令値id*、及びq軸電流指令値iq*を演算する。
【0024】
より詳細には、電圧指令値演算部201は、トルク指令値T*、モータ電気角速度ω、及びインバータ電圧HVの間の関係を定めた所定のテーブルに基づいて、dq軸電流指令値(id*,iq*)を演算する。電圧指令値演算部201は、演算したdq軸電流指令値(id*,iq*)を電流制御部202に出力する。
【0025】
電流制御部202は、モータ109に実際に流れるdq軸電流値(id,iq)が、電圧指令値演算部201から入力されるdq軸電流指令値(id*,iq*)に近づくように、dq軸電圧指令値(vd*,vq*)を演算する。なお、以下では、モータ109に実際に流れるdq軸電流値を、「モータ電流値(id,iq)」又は「モータ電流値i」とも称する。
【0026】
例えば、電流制御部202は、以下の式(1)にしたがうPI制御に基づいて、dq軸電圧指令値(vd*,vq*)を演算する。
【0027】
【数1】
【0028】
なお、式(1)中のKpd及びKpqはそれぞれd軸比例ゲイン及びq軸比例ゲインを意味する。また、Kid及びKiqはそれぞれd軸積分ゲイン及びq軸積分ゲインを意味する。さらに、Ld及びLqはそれぞれd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを意味する。また、φは永久磁石鎖交磁束数を意味する。
【0029】
そして、電流制御部202は、演算したdq軸電圧指令値(vd*,vq*)を2相/3相変換部203に出力する。
【0030】
2相/3相変換部203は、モータ角検出部206で検出したモータ109の回転子の電気角θを用いて、入力されたdq軸電圧指令値(vd*,vq*)を以下の式(2)に基づいて3相電圧指令値(vu*,vv*,vw*)に変換する。
【0031】
【数2】
【0032】
そして、2相/3相変換部203は、演算した3相電圧指令値(vu*,vv*,vw*)をスイッチ信号変換部204に出力する。
【0033】
スイッチ信号変換部204は、3相電圧指令値(vu*,vv*,vw*)と搬送波(例えば数kHz〜10数kHz程度の三角波)を比較結果に基づいて、インバータ105にスイッチング素子107をスイッチングするためのスイッチング信号(PWM信号)を生成する。そして、スイッチ信号変換部204は、このスイッチング信号をインバータ105に出力する。さらに、本実施形態のスイッチ信号変換部204は、電源供給停止判定部208からスイッチング停止信号を受信した場合には、スイッチング信号に基づく通常スイッチング制御の停止を指令する停止信号をインバータ105に出力する。
【0034】
これにより、インバータ105は、上記スイッチング信号に基づいて、バッテリ103の直流電力をモータ3相交流電力に変換するようにスイッチング素子107をスイッチングする通常スイッチング制御によって動作する。また、電源供給停止判定部208からスイッチング停止信号を受けた場合はスイッチングを停止する。すなわち、通常スイッチング制御が停止される。
【0035】
3相/2相変換部205は、モータ角検出部206からの電気角θに基づいて、電流センサ111で検出された3相実電流値(iu,iv,iw)を以下の式(3)に基づいてモータ電流値(id,iq)に変換する。
【0036】
【数3】
【0037】
3相/2相変換部205は、得られたモータ電流値(id,iq)を電流制御部202及び電源供給停止判定部208に出力する。
【0038】
モータ角検出部206は、モータ109に設けたレゾルバ等の回転位置検出器110により、電気角θ、及びモータ電気角速度ωを検出する。モータ角検出部206は、検出した電気角θを3相/2相変換部205に出力するとともに、検出したモータ電気角速度ωを電圧指令値演算部201及び電源供給停止判定部208に出力する。
【0039】
直流電圧検出部207は、インバータ電圧HVを検出する。より詳細には、直流電圧検出部207は、インバータ105の平滑コンデンサ108の電圧をインバータ電圧HVとして検出する。直流電圧検出部207は、検出したインバータ電圧HVを電圧指令値演算部201に出力する。
【0040】
電源供給停止判定部208は、車両コントローラ102から入力されるリレーオン/オフ信号に基づいて、モータ109の状態に応じて通常スイッチング制御を停止するか否かの判定を行う。電源供給停止判定部208は、通常スイッチング制御を停止すると判定した場合には、上記スイッチング停止信号をスイッチ信号変換部204に出力する。以下では、電源供給停止判定部208による処理について詳細に説明する。
【0041】
図2は、電源供給停止判定部208により実行される通常スイッチング制御の停止判定の流れを説明するフローチャートである。なお、以下の制御ルーチンは、通常スイッチング制御中に所定周期で繰り返し実行される。
【0042】
ステップS110において、電源供給停止判定部208は、車両コントローラ102からリレーオフ信号を受信したか否かを判定する。電源供給停止判定部208は、リレーオフ信号を受信したと判定すると、ステップS120の処理へ以降する。なお、電源供給停止判定部208は、リレーオフ信号を受信していないと判定すると、ステップS160へ移行し、通常スイッチング制御を継続する。
【0043】
すなわち、車両コントローラ102は、上述のように、バッテリ103のSOCなどに応じて、当該バッテリ103の状態が電欠状態などの異常状態である場合にリレーオフ信号を生成して出力する。したがって、電源供給停止判定部208は、このリレーオフ信号を受信した場合には、後述するステップS120及びステップS140の判定を実行し、好適なタイミングで通常スイッチング制御を停止すべきと判断する。
【0044】
ステップS120において、電源供給停止判定部208は、交流であるモータ誘起電圧HVm(ω)の全波整流ピーク値HVmp(ω)が所定の電圧閾値HVth未満であるか否かを判定する。なお、以下では、記載の簡略化の観点から、全波整流ピーク値HVmp(ω)を意味する場合にも、特に区別すべき場合を除いて単に「モータ誘起電圧HVm(ω)」という用語を用いる。
【0045】
ここで、電圧閾値HVthは、通常スイッチング制御が停止された場合にインバータ電圧HVが意図しない過電圧状態となるか否かという観点から定まるインバータ電圧HVの上限値である。
【0046】
したがって、モータ誘起電圧HVm(ω)が電圧閾値HVthを超えるようであれば、後述するステップS130における停止後インバータ電圧HVoffの演算、及びステップS140以降のこれに基づく判断処理を実行するまでも無く、通常スイッチング制御を継続すべきと判断できる。このような、車両コントローラ102からのトルク指令値T*がゼロでリレーオフ時に、停止後インバータ電圧HVoffが高い場合は、弱め磁界(d軸電流指令値id*<0)でのスイッチング制御が実行される。
【0047】
ステップS120に係る処理をより詳細に説明する。電源供給停止判定部208は、先ず、モータ誘起電圧HVm(ω)を以下の式(4)を用いて演算する。
【0048】
【数4】
【0049】
なお、式(4)中のKは、誘起電圧定数を意味する。
【0050】
電源供給停止判定部208は、演算したモータ誘起電圧HVm(ω)と電圧閾値HVthとの大小を比較する。電源供給停止判定部208は、モータ誘起電圧HVm(ω)が電圧閾値HVth未満であると判定すると、ステップS130の処理を実行する。なお、電源供給停止判定部208は、モータ誘起電圧HVm(ω)が電圧閾値HVth以上であると判定すると、ステップS160へ移行し、通常スイッチング制御を継続する。
【0051】
ステップS130において、電源供給停止判定部208は、通常スイッチング制御を停止した後のインバータ電圧HVの推定値である停止後インバータ電圧HVoffを算出する処理を実行する。
【0052】
図3は、停止後インバータ電圧HVoffの算出について説明するフローチャートである。
【0053】
ステップS131において、電源供給停止判定部208は、仮停止後インバータ電圧HViを推定する。ここで、仮停止後インバータ電圧HViとは、通常スイッチング制御を停止する直前のインバータ電圧HVである停止直前インバータ電圧HVbとすると、通常スイッチング制御を停止した場合に、インダクタンスエネルギーULに起因した電圧上昇(第1電圧上昇値ΔHVi)のみを考慮した場合における当該停止後のインバータ電圧HVである。
【0054】
図4は、スイッチ制御の停止前後におけるモータ電流iの流れについて説明する図である。特に、図4(a)は、通常スイッチング制御実行中のモータ109に流れる電流の態様を示している。また、図4(b)は、通常スイッチング制御停止後のモータ109に流れる電流の態様を示している。なお、以下では、記載の簡略化のため、モータ電流等の各物理量をdq軸座標系で表した量で説明を行う。
【0055】
先ず、モータ109のインダクタンス109aのインダクタンスエネルギーULは、通常スイッチング制御中のモータ電流値(id,iq)に対して、以下の式(5)で与えられる。
【0056】
【数5】
【0057】
一方、通常スイッチング制御が停止された場合には、インダクタンス109aの有するインダクタンスエネルギーULに起因して平滑コンデンサ108が充電される。ここで、トルク指令値T*がゼロでリレー104の遮断時にスイッチングしている場合(非通常スイッチング制御を実行している場合)、当該スイッチングによる損失でインバータ電圧HVは低下する。したがって、インバータ電圧HVが十分に低下して停止直前インバータ電圧HVbをゼロとみなし、上記インダクタンスエネルギーULに起因する充電による平滑コンデンサ108の電圧の上昇量を第1電圧上昇値ΔHViとすると、当該電圧上昇による平滑コンデンサ108のエネルギー増加量ΔUCは、以下の式(6)で与えられる。
【0058】
【数6】
【0059】
ここで、インダクタンス109aがインダクタンスエネルギーULを有する状態で通常スイッチング制御を停止する場合、リレー104が遮断されていることから、インダクタンスエネルギーULのほぼ全てが、平滑コンデンサ108の充電に用いられることとなる。
【0060】
したがって、通常スイッチング制御が停止される直前のインダクタンスエネルギーULと通常スイッチング制御が停止された後の平滑コンデンサ108のエネルギー増加量ΔUCとが等しいとみなすことができる。
【0061】
さらに、インダクタンスエネルギーULに起因した電圧上昇のみを考慮した通常スイッチング制御のインバータ電圧HVである仮停止後インバータ電圧HViは、以下の式(7)により定めることができる。
【0062】
【数7】
【0063】
すなわち、式(7)から明らかなように、仮停止後インバータ電圧HViは、停止直前インバータ電圧HVbと第1電圧上昇値ΔHViの和となる。
【0064】
さらに、上述のように、インダクタンスエネルギーUL=平滑コンデンサ108のエネルギー増加量ΔUCであることから、式(5)及び式(6)に基づけば、以下の式(8)の関係が導かれる。
【0065】
【数8】
【0066】
したがって、電源供給停止判定部208は、式(7)及び式(8)から仮停止後インバータ電圧HViを求めることができる。より具体的に、電源供給停止判定部208は、停止直前インバータ電圧HVbとして直流電圧検出部207の電圧検出値、電流センサ111で検出された電流値のdq軸座標系に変換した値、並びにこれら電流検出値及び電圧検出値に基づいて予め定められたマップから得られるインダクタンスLd,Lqを式(7)及び式(8)に適用することで、仮停止後インバータ電圧HViを計算することができる。
【0067】
なお、式(8)における第1電圧上昇値ΔHViの演算については、予め、モータ電流iの実効値と第1電圧上昇値ΔHViの関係が定められたマップを用いて行っても良い。
【0068】
図3に戻り、ステップS132において、電源供給停止判定部208は、モータ誘起電圧HVm(ω)による平滑コンデンサ108の充電に基づく電圧上昇値としての第2電圧上昇値ΔHVmを演算する。
【0069】
図5は、通常スイッチング制御が停止される場合におけるインバータ電圧HVの変化を説明するグラフである。
【0070】
特に、図5(a)は、通常スイッチング制御の停止前後におけるインバータ電圧HVの時間変化を示すグラフである。なお、図5(a)において、通常スイッチング制御を停止するタイミングを「t_off」として示す。また、図5(a)には、モータ電流iの大きさの変化を二点鎖線グラフで示している。
【0071】
さらに、図5(b)は、弱め界磁電流を最大とした時(弱め界磁電流でモータ誘起電圧HVm(ω)をできるだけ下げるようにした時)のモータ電気角速度ωに対する停止後インバータ電圧HVoffの変化を示すグラフである。
【0072】
図5(a)のスイッチング停止タイミングt_off以降において、モータ誘起電圧HVm(ω)が上述の仮停止後インバータ電圧HViより大きい場合、これらの電圧差を解消するように平滑コンデンサ108が充電されて、インバータ電圧HVが少なくともモータ誘起電圧HVm(ω)まで上昇することとなる。
【0073】
このとき、平滑コンデンサ108が充電される過程において、主にモータ109からインバータ105側に向かう電流が流れる。この電流によって、モータ109のインダクタンス109aにおけるインダクタンスエネルギーULが変化する。
【0074】
したがって、本実施形態では、このインダクタンスエネルギーULの変化も考慮すべく、第2電圧上昇値ΔHVmを演算し、上述の仮停止後インバータ電圧HViに第2電圧上昇値ΔHVmを加えて、停止後インバータ電圧HVoffを算出する。
【0075】
一方、インバータ電圧HVがモータ誘起電圧HVm(ω)以上となる場合であっても、仮停止後インバータ電圧HViとモータ誘起電圧HVm(ω)が相互に近い値の場合には、第2電圧上昇値ΔHVmが生じることがある。
【0076】
より詳細に説明すると、例えば、図5(b)に示すように、モータ電気角速度ωがω1〜ω2の区間においては、インバータ電圧HVがモータ誘起電圧HVm(ω)以上であるものの、停止後インバータ電圧HVoffが仮停止後インバータ電圧HViを越えて増大している。
【0077】
これは、スイッチング停止タイミングt_off後におけるインバータ電圧HVの上昇過渡状態においては、上述した通常スイッチング制御が停止される直前のインダクタンスエネルギーULに起因する平滑コンデンサ108への充電と、モータ誘起電圧HVm(ω)に起因する平滑コンデンサ108への充電が並行して行われることで、インバータ電圧HVをより増大させる作用が働くためである。
【0078】
これに対して、本実施形態では、当該作用を考慮した第2電圧上昇値ΔHVmと仮停止後インバータ電圧HViの関係を定める予め実験等に基づいて得られるマップを用いて、仮停止後インバータ電圧HViから第2電圧上昇値ΔHVmを演算する。
【0079】
そして、ステップS133において、電源供給停止判定部208は、以下の式(9)に基づいて、停止後インバータ電圧HVoffを演算する。
【0080】
【数9】
【0081】
そして、電源供給停止判定部208は、以上説明した流れでステップS130におけるインバータ電圧HVの上昇の推定を実行すると、図2に示すステップS140の処理を実行する。
【0082】
ステップS140において、電源供給停止判定部208は、停止後インバータ電圧HVoffが、電圧閾値HVth未満であるか否かを判定する。そして、電源供給停止判定部208は、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVth未満と判定した場合には、ステップS150の処理に移行する。
【0083】
ステップS150において、電源供給停止判定部208は、通常スイッチング制御を停止する。具体的に、電源供給停止判定部208は、スイッチ信号変換部204にスイッチング停止信号を出力する。
【0084】
すなわち、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVth未満である場合には、通常スイッチング制御を停止した場合のインバータ電圧HVが、意図しない過電圧状態となる可能性が無いか、又はこの可能性が低いと判断されることとなる。
【0085】
一方、上記ステップS140において、電源供給停止判定部208は、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVth以上であると判定した場合には、ステップS160の処理に移行する。
【0086】
ステップS160において、電源供給停止判定部208は、通常スイッチング制御を継続する。すなわち、モータ109は、車両コントローラ102からのトルク指令に基づいた通常スイッチング制御を継続することとなる。
【0087】
すなわち、本実施形態では、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVth以上である状態では通常スイッチング制御が継続され、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVth未満となった場合に、通常スイッチング制御を停止することとなる。
【0088】
以上説明した第1実施形態に係るによれば、以下の作用効果を奏する。
【0089】
本実施形態では、モータ109に供給する電力を調節するインバータ105を備えたインバータ制御システム(モータ制御装置100)において、モータ109の要求に応じてインバータ105のスイッチングを行う通常スイッチング制御を実行するインバータ制御方法が提供される。
【0090】
そして、このインバータ制御方法は、通常スイッチング制御の実行中に、該通常スイッチング制御を停止した後のインバータ105の直流電圧であるインバータ電圧HVの上昇を、モータ109の状態を表すモータ状態パラメータ(モータ電気角速度ω及びモータ電流i等)に基づいて推定する推定工程を有する(図2のステップS120及びステップS130参照)。
【0091】
さらに、このインバータ制御方法は、インバータ電圧HVの上昇の推定結果に基づいて、通常スイッチング制御を停止するか否かを判断する判断工程(ステップS120、及びステップS140〜ステップS160)を有する。
【0092】
すなわち、本実施形態のインバータ制御方法によれば、通常スイッチング制御中において当該通常スイッチング制御を停止した場合のインバータ電圧HVの上昇を考慮しつつ、通常スイッチング制御の停止及び継続を判断することができる。
【0093】
より詳細には、通常スイッチング制御を停止した場合のインバータ電圧HVの上昇が、過電圧状態となることを抑制する観点から定まる所定範囲以下に抑えるように、好適な通常スイッチング制御の停止タイミングを判断することができる。したがって、インバータ電圧HVが過電圧状態となることを抑制できるタイミングで、通常スイッチング制御を停止させることができる。
【0094】
結果として、本実施形態のシステムにおいてインバータ105の過電圧診断を実行する場合、インバータ105、又はモータ109に実際には異常が無いにもかかわらず、通常スイッチング制御を停止した際のインバータ電圧HVの上昇によって異常と判断される事態を好適に抑制することができる。
【0095】
特に、コスト低減及び小型化などの観点から平滑コンデンサ108のサイズが比較的小さく構成される場合においては、そのキャパシタ容量Cが小さくなる。このため、通常スイッチング制御が停止された後において、上述したインダクタンスエネルギー等に起因して生じる電力を平滑コンデンサ108が吸収する能力も低くなる。
【0096】
このため、小型の平滑コンデンサ108を有するインバータ105では、上述の過電圧診断において過電圧と判断するためのインバータ電圧HVの閾値も相対的に小さい値に設定される。結果として、通常スイッチング制御の停止時におけるインバータ電圧HVの電圧上昇に起因した意図しない過電圧判定が生じ易くなる。
【0097】
これに対して、本実施形態の構成であれば、上述のように、意図しない過電圧判定を好適に回避し得るタイミングで、通常スイッチング制御を停止させることができる。すなわち、平滑コンデンサ108が小型化されたシステムにおいては、過電圧判定の頻発を抑制する効果をより顕著に発揮することができる。
【0098】
また、本実施形態において、上記推定工程では、上記モータ状態パラメータとしてのモータ速度としてのモータ電気角速度ωに基づいて、通常スイッチング制御を停止した後のインバータ電圧HVの推定値である停止後インバータ電圧HVoffを演算する(図3のステップS130〜ステップS133)。また、上記判断工程では、停止後インバータ電圧HVoffが所定の閾値電圧である電圧閾値HVth未満である場合に通常スイッチング制御を停止すると判断し(ステップS140のYes)、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVth以上である場合に通常スイッチング制御を継続すると判断する(ステップS140のNo)。
【0099】
これにより、通常スイッチング制御を停止した後のインバータ電圧HVの上昇の推定、及び通常スイッチング制御を停止するか否かの判断を実行するための具体的な態様が提供される。
【0100】
さらに、本実施形態では、通常スイッチング制御中のモータ109のインダクタンスエネルギーULによるインバータ電圧HVの上昇分としての第1電圧上昇値ΔHViを演算する(図3のステップS131)。さらに、通常スイッチング制御の停止後においてモータ誘起電圧HVm(ω)に起因するインバータ電圧HVの上昇分としての第2電圧上昇値ΔHVmを演算する(図3のステップS132)。
【0101】
第1電圧上昇値ΔHVi及び第2電圧上昇値ΔHVmに基づいて、上記インバータ電圧HVの上昇を推定する(図3のステップS131〜ステップS133)。
【0102】
これにより、通常スイッチング制御中のモータ109のインダクタンスエネルギーUL、及びモータ誘起電圧HVm(ω)の双方を考慮し、通常スイッチング制御を停止した場合のインバータ電圧HVの上昇を推定することができる。このため、インバータ電圧HVの上昇の推定精度をより向上させることができるので、より好適な通常スイッチング制御の停止又は継続の判断を実現することができる。
【0103】
さらに、第1電圧上昇値ΔHVi及び第2電圧上昇値ΔHVmは、モータ状態パラメータの検出値(モータ角検出部206により検出されるモータ電気角速度ω及び電流センサ111により検出されるモータ電流i)、並びにインバータ電圧HVの検出値(直流電圧検出部207による検出値)に基づいて演算される。
【0104】
これにより、リアルタイムに取得される各パラメータに基づいて、第1電圧上昇値ΔHVi及び第2電圧上昇値ΔHVmの演算を実行することができる。これにより、停止後インバータ電圧HVoffの推定精度がより向上するので、通常スイッチング制御の停止又は継続の判断の精度をさらに向上させることができる。結果として、インバータ電圧HVが過電圧状態となり得る状態で通常スイッチング制御を停止してしまう事態を、より好適に抑制できる。
【0105】
また、本実施形態では、上記インバータ制御方法を実行するためのインバータ制御システムであるモータ制御装置100が提供される。
【0106】
このモータ制御装置100は、モータ109に供給する電力を調節するインバータ105と、モータ109の要求に応じてインバータ105のスイッチングを行う通常スイッチング制御を実行するインバータ制御装置としてのモータ制御部106と、を有する。
【0107】
そして、モータ制御部106の電源供給停止判定部208は、通常スイッチング制御の実行中に、該通常スイッチング制御を停止した後のインバータ105の直流電圧であるインバータ電圧HVの上昇を、モータ109の状態を表すモータ状態パラメータに基づいて推定する推定部と、インバータ電圧HVの上昇の推定結果に基づいて、通常スイッチング制御を停止するか否かを判断する判断部として機能する。
【0108】
これにより、上記インバータ制御方法を実行するための具体的なシステム構成が提供されることとなる。
【0109】
(第2実施形態)
次に、図6を参照しつつ第2実施形態について説明する。なお、以下では上記実施形態の構成に対する変更点のみを説明する。したがって、以下において特に明確に説明しない構成については、第1実施形態の構成と同一である。
【0110】
図6は、本実施形態のモータ制御装置200の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態のモータ制御装置200は、第1実施形態のモータ制御装置100の構成に加えて、モータ109に設けられてモータ温度Tmoを検出するサーミスタ112と、平滑コンデンサ108に設けられてコンデンサ温度Tcを検出するサーミスタ113と、有している。
【0111】
そして、本実施形態では、電源供給停止判定部208は、上記図2のステップS120におけるモータ誘起電圧HVm(ω)の演算(式(4)参照)において用いる誘起電圧定数Kを、サーミスタ112で検出されるモータ温度Tmoを用いて補正した補正誘起電圧定数K´を求める。
【0112】
また、電源供給停止判定部208は、上記ステップS131において、平滑コンデンサ108のキャパシタ容量Cを、サーミスタ113で検出されるコンデンサ温度Tcにより補正して補正後キャパシタ容量C´を求める。
【0113】
具体的には、第1実施形態で説明した式(6)中の「キャパシタ容量C」を、「補正後キャパシタ容量C´」に置き換えて、平滑コンデンサ108のエネルギー増加量ΔUCを演算する。そして、この補正後のエネルギー増加量ΔUCを用いて第1実施形態と同様の方法で第1電圧上昇値ΔHViを演算する。
【0114】
また、電源供給停止判定部208は、上記ステップS132における第2電圧上昇値ΔHVmの演算において、式(4)中の「誘起電圧定数K」を「補正誘起電圧定数K´」に置き換えて、補正後モータ誘起電圧HVm´(ω)を演算する。そして、補正後モータ誘起電圧HVm´(ω)を用いて、第1実施形態と同様に第2電圧上昇値ΔHVmを演算する。
【0115】
以上説明したように、本実施形態によれば、第2電圧上昇値ΔHVmの演算におけるモータ誘起電圧HVm(ω)を、モータ109の温度であるモータ温度Tmoに基づいて補正する。
【0116】
また、第1電圧上昇値ΔHViの演算において用いるインバータ105の平滑コンデンサ108のキャパシタ容量Cを、平滑コンデンサ108の温度であるコンデンサ温度Tcに基づいて補正する。
【0117】
すなわち、一般に、誘起電圧定数K及びキャパシタ容量Cは、それぞれモータ温度Tmo及びコンデンサ温度Tcに応じて変化する。したがって、これら誘起電圧定数K及びキャパシタ容量Cを、モータ温度Tmo及びコンデンサ温度Tcに基づいて補正し、当該補正後の補正誘起電圧定数K´及び補正後キャパシタ容量C´に基づいて第1電圧上昇値ΔHVi及び第2電圧上昇値ΔHVmを演算することで、これら値に基づいた通常スイッチング制御を停止した場合のインバータ電圧HVの上昇をより高精度に推定することができる。
【0118】
(第3実施形態)
次に、図7を参照して第3実施形態について説明する。なお、以下では上記第1実施形態の構成に対する変更点のみを説明する。したがって、以下において特に明確に説明しない構成については、上記第1実施形態と同一である。本実施形態では、第1実施形態における停止後インバータ電圧HVoffに基づいた通常スイッチング制御の停止又は継続の判断に代えて、モータ電気角速度ωに基づいて当該判断を実行する。
【0119】
図7は、本実施形態における通常スイッチング制御の停止判定の流れを説明するフローチャートである。
【0120】
図示のように、本実施形態では、電源供給停止判定部208は、第1実施形態と同様にステップS110の判定を行う。そして、電源供給停止判定部208は、当該判定の結果が肯定的である場合にステップS120´の判定を行う。
【0121】
ステップS120´において、電源供給停止判定部208は、モータ電気角速度ωの絶対値(以下、単に「角速度絶対値|ω|」とも記載する)が、所定の角速度閾値ωth未満であるか否かを判定する。すなわち、本実施形態では、第1実施形態における上記モータ誘起電圧HVm(ω)と電圧閾値HVthとの間の大小関係の判定、及び停止後インバータ電圧HVoffと電圧閾値HVthの大小関係の判定に代えて、角速度絶対値|ω|と角速度閾値ωthとの間の大小関係の判定に基づいて通常スイッチング制御の停止判定を実行する。
【0122】
ここで、式(4)から理解されるように、モータ誘起電圧HVm(ω)は、実質的にモータ電気角速度ωに基づいて決定される。また、図5(b)から理解されるように、インバータ電圧HVが電圧閾値HVthに近い領域では、停止後インバータ電圧HVoffもモータ電気角速度ωに依存する。特に図5(b)に示す例では、当該領域では、モータ電気角速度ωと停止後インバータ電圧HVoffの間の関係は、モータ電気角速度ωとモータ誘起電圧HVm(ω)の間の関係と同様に略線形の関係となっている。したがって、モータ誘起電圧HVm(ω)及び停止後インバータ電圧HVoffに基づく判定に代えて、角速度絶対値|ω|を用いても第1実施形態におけるステップS120と同様の判定を実行することができる。
【0123】
すなわち、本実施形態では、モータ電気角速度ωと、通常スイッチング制御の停止前後におけるインバータ電圧HVの上昇の間の予め定められた関係(図5(b))を取得する。そして、電源供給停止判定部208は、当該インバータ電圧HVの上昇に相関するモータ電気角速度ωに基づいて、通常スイッチング制御の停止判定を実行する。
【0124】
なお、角速度閾値ωthは、上記電圧閾値HVthに対応する角速度絶対値|ω|の上限値である。特に、本実施形態では、モータ109の個体差によるバラつき、及びモータ温度Tmoを考慮してモータ誘起電圧HVm(ω)が最も大きくなる条件、及びトルク指令値T*をゼロと仮定した場合におけるインバータ電圧HVの時のモータ電流i(インダクタンスエネルギー相当の量)が最も大きくなる条件から角速度閾値ωthを設定することができる。
【0125】
例えば、角速度閾値ωthは、図5(b)に示すマップに基づいて、停止後インバータ電圧HVoffが電圧閾値HVthとなるときの角速度絶対値|ω|を、角速度閾値ωthに設定する。
【0126】
これにより、角速度絶対値|ω|と角速度閾値ωthの大小関係の判定は、第1実施形態で説明したステップS120におけるモータ誘起電圧HVm(ω)と電圧閾値HVthの間の大小関係の判定、及びステップS140における停止後インバータ電圧HVoffと電圧閾値HVthの大小関係の判定と実質的に等価となるか、より安全度が高い判定になる。
【0127】
そして、電源供給停止判定部208は、角速度絶対値|ω|が角速度閾値ωth未満であると判定すると、ステップS150の処理に移行し、通常スイッチング制御を停止する。なお、電源供給停止判定部208は、角速度絶対値|ω|が角速度閾値ωth以上であると判定すると、ステップS160へ移行し、通常スイッチング制御を継続する。
【0128】
以上説明した本実施形態の構成によれば、上記推定工程では、上記モータ状態パラメータをモータ電気角速度ωとインバータ電圧HVの上昇の間の予め定められた関係を取得する(図5参照)。そして、判定工程では、モータ電気角速度ωの絶対値である角速度絶対値|ω|が所定の閾値速度としての角速度閾値ωth未満である場合には、通常スイッチング制御を停止すると判断し、角速度絶対値|ω|が角速度閾値ωth以上である場合には、通常スイッチング制御を継続すると判断する(ステップS120´、ステップS150、及びステップS160)。
【0129】
これにより、停止後インバータ電圧HVoffを直接演算することなく、通常スイッチング制御の停止又は継続の判断を実行することができる。すなわち、当該判断を、簡易な制御ロジックの構成で実現することができるので、モータ制御装置100の演算負担を軽減しつつ、インバータ電圧HVの意図しない上昇を抑制し得る好適なタイミングで通常スイッチング制御の停止を実行することができる。
【0130】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記各実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0131】
例えば、上記各実施形態では、電源供給停止判定部208は、リレー104がオフ(遮断)されたことを示すリレーオフ信号の受信をトリガとして、通常スイッチング制御の停止判定に係る処理を実行している。しかしながら、リレーオフ信号の受信に代えて、インバータ電圧HVがバッテリ103の仕様電圧範囲を超えたことをトリガとして、通常スイッチング制御の停止判定に係る処理を実行するようにしても良い。すなわち、通常スイッチング制御の停止判定のトリガとしては、バッテリ103の状態に応じて通常スイッチング制御の停止要求が生じたことを示す任意のイベントの検出を採用することができる。
【0132】
また、上記各実施形態では、モータ109の状態を表すパラメータとしてのモータ電気角速度ω、モータ電流値i、及びモータ温度Tmoなどに基づいて、通常スイッチング制御の停止判定を実行する例を説明した。
【0133】
しかしながら、通常スイッチング制御の停止後におけるインバータ電圧HVの上昇を示唆し得るものであれば、モータ109の状態を表す他のパラメータを用いても通常スイッチング制御の停止判定を実行しても良い。
【0134】
さらに、図2のステップS130における停止後インバータ電圧HVoffを求めるための各演算は、dq軸座標系以外の座標系(例えば、uvw座標系)に基づいて行っても良い。
【0135】
さらに、上記各実施形態の構成は、相互に矛盾しない範囲で適宜組み合わせが可能である。特に、第3実施形態の構成に第2実施形態で説明した構成を組み合わせても良い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7