(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記速度算出工程では、前記排ガスを湿式集塵した集塵水を連続的に採取し、密度計及び温度計を通過させ、前記密度計で測定した集塵水の密度と、前記温度計で測定した集塵水の温度から予測される純水の密度との差より、集塵水中のダスト濃度を算出して前記ダスト量を求める、請求項1又は請求項2に記載の転炉吹錬方法。
【背景技術】
【0002】
転炉においては、上吹きランス(以下、適宜「ランス」と記載する。)を用いて吹錬が行われている。この吹錬では、ランスに設けられたノズル孔から溶銑面(湯面)に向けて酸素ガスが噴射されて、溶銑の撹拌と、酸化反応によるSi、Mn、PやCの除去が行われる。吹錬時には、ランスのノズル孔から噴射された酸素ガスの溶銑面における跳ね返りや脱炭反応によって、転炉からはダストが発生する。発生したダストは、排ガスと共に排出される。このダストは鉄分(鉄、酸化鉄)を主体としており、排出すると鉄分のロスに繋がるため低減することが望ましい。
【0003】
上吹きランスを用いて吹錬するに際しては、送酸速度とランス高さ(ノズル先端位置)によって、酸素ガスが溶銑面に衝突するときに、転炉内の溶銑面の形状が変化する。
一定の送酸速度では、溶銑面とノズル先端との距離であるランスギャップを小さくするほど、酸素ガスが溶銑面に衝突するときの溶銑の形状が滝壺状(断面逆Ω状)となり、発生したダストが飛散せず溶銑内に取り込まれやすくなるため、ダストの発生量を低減することができることが知られている。これをハードブローという。
一方、ランスギャップを小さくし過ぎると、ノズルが溶銑面からの熱影響を強く受けるため、ノズルの損耗が激しくなって、ランスの寿命が短くなることが知られている。このようにランスの寿命が短くなることで、ランスの交換頻度が高くなるため操業に悪影響を及ぼす。
【0004】
以上のことから、ランスギャップには、ランスの寿命を維持しつつダストの発生量を低減する最適な間隔があり、その間隔によって吹錬を行うことが望まれる。ランスギャップの最適な間隔(以下、適宜「最適ランスギャップ」と記載する。)は、転炉のサイズや送酸速度に応じて設定されるものである。
ランスギャップを最適な間隔に設定するには、溶銑面の高さを把握する必要があり、その方法としては、例えば、特開平11−52049号公報に開示の技術がある。具体的には、転炉内に、溶銑と、スクラップ又は缶合金(ドラム缶等に入れた合金鉄)を装入した後、転炉上部フードのサブランス孔に設置された移動型のマイクロ波送受信アンテナより、炉内に向けてマイクロ波を送信し、受信した信号から溶銑面の高さ(湯面レベル)を測定する方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶銑面の高さの測定は、転炉に溶銑等を装入した後、吹錬を開始するまでの間(吹錬の開始前)に行っている。特開平11−52049号公報には、溶銑面高さの測定に要する時間について明確な記載はないが、装入直後の溶銑面は揺動しているため正確な高さの把握には揺動が小さくなるまで待つ必要があり、生産性に影響を及ぼすことから、転炉に溶銑等を装入するごとに毎回、溶銑面高さを測定するのは困難である。
【0006】
そこで、マイクロ波溶銑面計により実測したときの溶銑面高さの測定値を基に、実測しないときの吹錬ごとの溶銑面高さの推定値(推定溶銑面高さ)を、下記式(1)を用いて算出している。
(推定溶銑面高さ)={(WTn−WT
0)/(ρπr
02)}+l
0 ・・・(1)
ここで、ρは鉄比重、r
0は溶銑面付近の転炉の断面半径(内径)、l
0はマイクロ波溶銑面計による溶銑面高さの測定値、WT
0はマイクロ波溶銑面計による測定時の転炉への装入鉄量、WTnは推定溶銑面高さ算出時の転炉への装入鉄量、である。
【0007】
しかし、転炉の内面に張り付いた耐火物は損耗と補修が繰り返されるため、転炉の断面半径が吹錬ごとに変化する。このため、マイクロ波溶銑面計による溶銑面高さの測定から吹錬を重ねるごとに、推定溶銑面高さと実際の溶銑面高さとに乖離が生じてしまう。このため、ランスギャップを最適な間隔に設定できなくなっていた。
【0008】
本開示はかかる事情に鑑みてなされたもので、溶銑面高さを実測しないときも適切なランスギャップで吹錬を実施可能な転炉吹錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示者らは、転炉内に上吹きランスを装入して吹錬を行う方法において、最適なランスギャップを設定する方法を鋭意検討した結果、下記の知見を見出した。
ランスギャップの変動によりダストの発生速度が変化することを利用して、ダスト発生速度からランスギャップを推定できる。
ただし、上吹きランスの使用回数が増えると、ランス(ノズル形状)の変形によって噴射される酸素ガスの流れ(酸素ジェット)が変化するため、ランスギャップが一定であってもダスト発生速度が変化する。即ち、ダストの発生速度のみではランスギャップの推定は困難である。
そこで、ランスの使用回数の影響も考慮したダスト発生速度をもとに、ランスギャップを調整する。
本開示は、以上の知見をもとになされたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0010】
本開示の一態様の転炉吹錬方法は、上吹きランスのノズルから転炉内の溶銑面に酸素ガスを吹き付ける転炉吹錬方法であって、吹錬中に発生する排ガス中のダスト量を求めて前記転炉におけるダスト発生速度を算出する速度算出工程と、予め求めた、前記溶銑面と前記上吹きランスの先端との距離であるランスギャップを最適な間隔にした際の、前記上吹きランスの使用回数と前記ダスト発生速度との関係R1に対する、前記速度算出工程で算出した前記ダスト発生速度のずれ量を求めるずれ量算出工程と、予め求めた、前記ランスギャップの変化量と前記ダスト発生速度の変化量との関係R2から、前記ずれ量算出工程で求めた前記ずれ量を補正するために、前記吹錬中に前記ランスギャップを調整する位置調整工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、溶銑面高さを実測しないときも適切なランスギャップで吹錬を実施可能な転炉吹錬方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
本開示の一実施形態に係る転炉吹錬方法は、
図1A及び
図1Bに示される精錬設備9で用いられる吹錬方法である。まず、本実施形態の精錬設備9について説明した後で、本実施形態の転炉吹錬方法について説明する。
【0015】
図1A及び
図1Bに示されるように、精錬設備9は、転炉10と、上吹きランス11(以下、適宜「ランス」と記載する。)と、排ガス処理装置17と、を備えている。
【0016】
図2Aに示されるように、ランス11は、後述するノズル11Aから転炉10内の溶銑面Sに酸素ガスを吹き付けるための部材である。このランス11は、筒状とされており、図示しない昇降装置によって鉛直方向の上方及び下方に移動可能とされている。ランス11を上下動させることで、ランス11の下部(先端側)を転炉10内に対し挿入又は抜去させることができる。また、ランス11は、昇降装置によって任意の高さ位置で停止させることができる。このランス11の上下動によって後述するランスギャップGを調整することができる。なお、
図2Aにおける矢印UPは、鉛直方向の上方を示している。また、
図2Aにおける矢印AXLは、ランス11の中心軸を示している。
【0017】
また、ランス11の先端部は、ノズル部とされており、このノズル部には複数のノズル11Aが設けられている。これらのノズル11Aは、中間部が絞られた形状の貫通孔、すなわち、ラバルノズル(De Laval nozzle)であり、ランス11の中心軸AXLを中心とした同心円上に一定間隔をあけて複数設けられている。なお、ノズル11Aに関しては、ランス11の中心軸AXL上にも形成されてもよい。
【0018】
図2Aに示されるように、ランス11に供給された酸素ガスAがノズル11Aから噴射されるようになっている。ここで、ノズル11Aから溶銑面Sへ向けて噴射された酸素ガスAの噴流は、ジェットコアを形成したのちに、自由広がり角度をφとする角度で広がり、転炉10内の溶銑に衝突して溶銑面Sに滝壺状に凹んだ火点が形成される(なお、
図2Aでは火点の図示を省略している)。
【0019】
図1Aに示されるように、排ガス処理装置17は、転炉10から発生したダストを含む排ガス(CO、CO
2、N
2ガスを主成分とするガス)を湿式で処理する装置である。この排ガス処理装置17は、炉口フード18、排ガスダクト12、一次集塵機13及び二次集塵機19等を備える。
【0020】
炉口フード18及び排ガスダクト12は、転炉10の上方に設けられている。また、排ガスダクト12の下流側には、一次集塵機13、二次集塵機19及び図示しない誘引送風機が順次設けられている。転炉10の排ガスは誘引送風機で吸引され、炉口フード18及び排ガスダクト12を通って、一次集塵機13及び二次集塵機19で除塵される。さらに、除塵された排ガスは誘引送風機を経由し、CO濃度の高い排ガスは有価ガスとして図示しないガスホルダーに送られ、一方CO濃度の低い排ガスは図示しない煙突を通って頂部で燃焼されて大気中に放散される。
【0021】
一次集塵機13と二次集塵機19はそれぞれ、排ガスを湿式集塵するものであり、例えばベンチュリスクラバーが用いられる。
【0022】
一次集塵機13に導入された集塵水(
図1A及び
図1Bにおいて矢印Wで示す)は排ガス中のダストを取り込み、ダストを含む集塵水となる。集塵水は一次集塵機13の直下に設けられた下部水槽14に一時的に貯留され、その後、図示しない集塵水処理装置へ送られ、集塵水中のダストが除去される。
【0023】
また、
図1Bに示されるように、排ガス処理装置17は、ダスト濃度を測定するためのダスト濃度測定装置(以下、適宜「測定装置」と記載する。)20を備えている。この測定装置20は、一次集塵機13を通過した集塵水を連続的に採取するポンプ15と、集塵水の密度を測定するための振動式密度計16とを備えている。この測定装置20では、ポンプ15により集塵水が連続的に採取され、振動式密度計16を用いて、その時の水温との関係により単位時間当たりの集塵水中のダスト濃度の連続測定が行われる(転炉10の吹錬中に発生する排ガス中のダスト量の連続測定が行われる)。ここで、転炉10で発生するダストの大部分、少なくとも90%以上が、一次集塵機13で除去される。このため、一次集塵機13で集塵された集塵水中のダスト濃度を測定すれば、転炉10の排ガス中のダスト濃度を推定することができる。
なお、ダスト濃度測定後の集塵水は下部水槽14へ戻されるようになっている。
【0024】
次に、本実施形態の転炉吹錬方法について説明する。
本実施形態の転炉吹錬方法は、
図1A及び
図1Bに示されるように、転炉10内にランス11の先端側を挿入し、ランス11のノズル11Aから転炉10内の溶銑面Sに酸素ガスAを吹き付けて脱炭処理する吹錬方法である。そして、この転炉吹錬方法は、吹錬を行う際に、溶銑面Sとランス11の先端との距離であるランスギャップG(
図2A参照)を最適な間隔にすることを特徴としている。なお、吹錬は、上吹きのみでなく、底吹きを併用した上底吹きでもよい。
【0025】
詳細には、上記した転炉吹錬方法は、吹錬中に発生する排ガス中のダスト量を求めてダスト発生速度GRを算出する速度算出工程と、
予め求めた、ランスギャップGを最適な間隔にした際の、ランス11の使用回数とダスト発生速度GRとの関係R1に対する、速度算出工程で算出したダスト発生速度GRのずれ量を求めるずれ量算出工程と、
予め求めた、ランスギャップGの変化量とダスト発生速度GRの変化量との関係R2から、ずれ量算出工程で求めたずれ量を補正するために、上記吹錬中にランスギャップGを調整する位置調整工程と、
を有する方法である。
【0026】
なお、上記した速度算出工程、ずれ量算出工程、及び、位置調整工程は、転炉操業を行う作業者のコンピュータ(演算手段)で処理される。また、ずれ量算出工程で使用する関係R1と位置調整工程で使用する関係R2は、例えば、データベース化されている。なお、上記したコンピュータは、転炉操業を行うための各種情報を受信し、転炉操業の制御(例えば、吹錬の開始や停止、ランスギャップGの調整)等も行う(すなわち、コンピュータが制御手段となる)。
なお、上記したコンピュータは、RAM、CPU、ROM、I/O、及び、これらの要素を接続するバスを備えた従来公知のものであるが、これに限定されるものではない。
【0027】
まず、上記したダスト発生速度、関係R1、及び、関係R2の各算出方法について説明する。
【0028】
転炉操業においては、
図1Aに示されるように、転炉10上方より炉内にランス11が挿入され、溶銑に高速で酸素ガスAが吹き付けられることにより、Si、C、P、Mnといった不純物が除去される(脱炭処理される)。その際、吹き付けられた酸素ガスAの溶銑面Sでの跳ね返りや、脱炭反応に伴ったCOガスの溶銑面Sでの破泡によって、微細なダストが発生する。
発生したダストは、転炉10から発生した排ガスと共に炉口フード18を通して排ガスダクト12内に吸引され、一次集塵機13から供給される集塵水中に含有されながら、下部水槽14を介して集塵水処理装置へ送られ、分離回収される。なお、一次集塵機13での集塵水の散布により、転炉10から発生したダストは排ガスと分離され、排ガスは下流側へ送られる。
【0029】
(転炉10におけるダスト発生速度の算出方法)
図1Bに示されるように、測定装置20では、ポンプ15により集塵水を連続的に採取し、振動式密度計16を用いて、その時の水温との関係により単位時間当たりの集塵水中のダスト濃度の連続測定を行う。上記した方法で測定したダスト濃度と、集塵水の単位時間当たりの散水量(一次集塵機13からの散水量)との積から、転炉10の吹錬中におけるダスト発生速度を算出できる。
【0030】
(関係R2の算出方法)
図示しないマイクロ波溶銑面計により転炉10(例えば、転炉の溶銑量400トン程度)内の溶銑面Sを測定し、ランス11の使用回数ごとのランスギャップGと、送酸に対して脱炭が優先的に起こる時期である脱炭最盛期の平均ダスト発生速度GRとの関係を見積もると、
図3に示す関係が得られる。このランス11の使用回数Nは、転炉10の吹錬の回数に対応している(以下同様)。なお、
図3では、ランスの使用回数が50回程度の場合(使用回数が少ない場合:
図3中の黒丸印)と、200回程度の場合(使用回数が多い場合:
図3中の白丸印)について図示しているが、50〜200回の範囲内においても、同様の挙動を示している。
図3に示されるように、ダスト発生速度GRは、ランスギャップG(ここでは、2500〜3000mmの範囲)の上昇に伴って直線的に増加し、その関係は、ランス使用回数Nの増加に伴うランス11のノズル11Aの変形によらず、傾きが一定となっている。なお、ここでいう「傾き」とは、ダスト発生速度GRの変化量をランスギャップGの変化量で除した勾配である(すなわち、関係R2)。
【0031】
(関係R1の算出方法)
マイクロ波溶銑面計により転炉10内の溶銑面Sを測定し、ランスギャップGを最適な間隔にした際の、ランス使用回数Nに対する脱炭最盛期のダスト発生速度GRは、
図4に示す関係(すなわち、関係R1)となる。
図4に示されるように、ランスギャップGを最適値に設定した場合、ランス使用回数Nの増加に伴ってダスト発生速度GRが増加している。なお、
図4に示す曲線は、ダスト発生速度をyとし、ランス使用回数をxとすると、y=6.9492x
0.0698、となっている。
【0032】
上記した方法で転炉10のダスト発生速度GRを算出し、予め求めた関係R1と関係R2を用いて、速度算出工程、ずれ量算出工程、及び、位置調整工程を順次行う。
【0033】
(速度算出工程)
まず、前記した式(1)によって求めた推定溶銑面高さを基に、最適なランスギャップGになるようにランス高さを設定して、転炉10の吹錬を実施し、前記した吹錬方法を用い、脱炭最盛期に発生する排ガス中の平均ダスト発生量(ダスト量)を求めて、転炉10のダスト発生速度GRを算出する。
【0034】
(ずれ量算出工程)
前記した
図4に示す、予め求めた、最適ランスギャップでの上吹きランス11の使用回数と、転炉10のダスト発生速度との関係R1から、速度算出工程で算出した転炉10のダスト発生速度GRがどれだけずれているかを求める。具体的には、ランス使用回数Nに応じて
図4から求められるダスト発生速度GRの値と、速度算出工程で算出したダスト発生速度の値との差(即ち、ずれ量)を求める。
ここで、算出したダスト発生速度GRの値が、
図4に示すランス使用回数Nに応じたダスト発生速度GRの値よりも低位の場合は、最適ランスギャップGに対して実際のランスギャップGが小さい(ハードブローである)ことを示しているため、ランスギャップGを大きく調整する必要がある。一方、算出したダスト発生速度GRの値が、
図4に示すランス使用回数Nに応じたダスト発生速度GRの値よりも高位の場合は、最適ランスギャップGに対して実際のランスギャップGが大きい(ソフトブローである)ことを示しているため、ランスギャップGを小さく調整する必要がある。
【0035】
(位置調整工程)
前記した
図3に示す、予め求めた、ランスギャップGの変化量とダスト発生速度GRの変化量との関係R2から、ずれ量算出工程で求めたずれ量を補正するために、吹錬中にランスギャップGを調整する。なお、本実施形態では、吹錬による脱炭最盛期中にダスト発生速度GRを求めると共にランスギャップGが調整される。
【0036】
前記したように、ランスギャップGの変化量とダスト発生速度GRの変化量との関係R2を示す、ダスト発生速度GRの変化量をランスギャップGの変化量で除した勾配は、ランス使用回数Nによらず略一定である。この両者の関係から、ダスト発生速度GRのずれ量を補正するためのランスギャップGの調整量を求め、転炉10の吹錬中にランスギャップGを調整する。
【0037】
具体的には、ずれ量算出工程で求めたダスト発生速度GRのずれ量を、上記した勾配で除して、ダスト発生速度GRのずれ量に対応したランスギャップGの調整量を求め、この調整量分だけランス11の高さ位置を変更してランスギャップGを調整する。
なお、上記したランスギャップGの調整(即ち、速度算出工程、ずれ量算出工程、及び、位置調整工程)は、1回の吹錬で1回実施すればよいが、必要に応じて複数回実施することもできる。
【0038】
ここで、
図2Bに示されるように、ランス11は、使用回数Nが増えると、ノズル11Aの出口部が摩耗して、出口径が増大する傾向がある。ノズル11Aの出口径が拡がるとノズル出口でのエネルギーロスが発生し、ジェットコア長さが短くなるため、酸素ガスAの勢いが低下する。しかし、本実施形態の転炉吹錬方法では、ランス11の使用回数Nの影響も考慮したダスト発生速度GRをもとに、ランスギャップGを調整するため、マイクロ波溶銑面計を用いて溶銑面高さを実測しないときでも、適切なランスギャップGで転炉10の吹錬を実施できる。これにより、過度にソフトブローになる(ランスギャップGが大きくなる)ことでダスト量が過多になることや、過度にハードブローになる(ランスギャップGが小さくなる)ことでランス11の寿命を著しく低下させることを抑制、更には防止できる。
【実施例】
【0039】
次に、本開示の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、溶銑量が400トン、最適ランスギャップGが3000mmの条件で、転炉の吹錬を行うに際し、実施例と比較例の各方法を適用した結果について説明する。
なお、実施例は、本開示の前記した実施形態の速度算出工程、ずれ量算出工程、及び、位置調整工程を順次行い、ダスト発生速度GRに合わせてランスギャップGを調整した結果であり、比較例は、前記した式(1)から得られる推定溶銑高さを基にランスギャップを調整した結果である。
【0040】
評価は、ランス1本分の試験を試行回数1(N=1)とした10回分(N=10)の実施回数において、ランスからの水漏れが発生するまでのチャージ数の平均値である平均寿命と、測定したダスト発生量(ダスト量)を用いて行った。なお、ランスからの水漏れは、ランスが水冷構造となっていることに起因するものであり、ランスの長期使用に伴う損耗により発生するものである。また、ダスト発生量は、ダスト濃度測定装置で測定した集塵水中のダスト濃度と、集塵水の単位時間(1秒)当たりの散水量との積を、1チャージ通して加算して、溶銑量400トンで除した値とした。
平均寿命は、比較例の250チャージに対して、実施例では約300チャージとなり、50チャージ優位となった。
ダスト発生量は、比較例の全試験チャージの平均値15kg/トンに対して、実施例ではランス1本分の試験チャージの平均値で0.3〜0.7kg/トン低減できた。
【0041】
以上のことから、本開示の転炉吹錬方法を適用することで、適切なランスギャップで吹錬を実施でき、ランスの寿命を維持しつつダストの発生量を低減できることを確認できた。
【0042】
以上、本開示を、実施の形態を参照して説明してきたが、本開示は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本開示の転炉吹錬方法を構成する場合も本開示の権利範囲に含まれる。
【0043】
前記実施形態においては、関係R1と関係R2にそれぞれ、過去の操業実績であるデータから算出された近似式を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、過去の操業実績であるデータベース化されたデータを用いてもよい。
【0044】
また、前記実施形態においては、ずれ量の補正に、転炉のダスト発生速度の変化量をランスギャップGの変化量で除した勾配を用いた。この勾配は、ランス使用回数Nによらず一定であることに基づいて使用したが、例えば、ランス使用回数ごとに得られた勾配を用いて、ずれ量を補正することもできる。
【0045】
さらに、前記実施形態においては、測定装置20が、ポンプ15と振動式密度計16を備えており、ポンプ15により集塵水を連続的に採取し、振動式密度計16を用いて、その時の水温との関係により単位時間当たりの集塵水中のダスト濃度の連続測定を行ってダスト量を求めているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、測定装置20に更に温度計を備えさせて、排ガスを湿式集塵した集塵水を連続的に採取し、振動式密度計16及び温度計を通過させ、振動式密度計16で測定した集塵水の密度と、温度計で測定した集塵水の温度から予測される純水の密度との差より、集塵水中のダスト濃度を算出してダスト量を求めてもよい。具体的には、下記式(2)を用いてダスト濃度を算出する。なお、下記式(2)における濃度又は密度の単位は、本実施形態のkg/m
3であってもよいし、g/L又はkg/Lであってもよい。
C=(ρmeasure−ρwater)×ρdust/(ρdust−ρwater) ・・・(2)
但し、C:ダスト濃度(kg/m
3)、ρmeasure:振動式密度計16で測定した集塵水の密度(kg/m
3)、ρwater:温度計で測定した集塵水の温度から予測される純水の密度(kg/m
3)、ρdust:ダスト粒子の密度(例えば7800kg/m
3)。
なお、振動式密度計16と温度計は、どちらが上流でも下流でも構わない。
例えば、超音波や光を用いたダスト濃度測定装置を用いる場合、減衰率からダスト濃度を推定するため、ダスト粒径に影響を受けるが、上記温度計を備えさせた測定装置20を用いることで、集塵水中のダストの密度、すなわち質量を直接測定することができ、ダスト粒径に影響を受けることがない。したがって、精度よく正確に集塵水中のダスト濃度を測定することができるようになる。これにより、より適切なランスギャップGで転炉10の吹錬を実施できるようになる。
【0046】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0047】
(付記1)
転炉内に上吹きランスを装入して吹錬を行う方法において、
前記転炉の吹錬中に発生する排ガス中のダスト量を測定してダスト発生速度を算出する速度算出工程と、
予め求めた、前記転炉内の湯面と前記上吹きランスの先端との距離であるランスギャップを最適な間隔にした際の、前記上吹きランスの使用回数と前記転炉のダスト発生速度との関係R1に対する、前記速度算出工程で算出した前記転炉のダスト発生速度のずれ量を求めるずれ量算出工程と、
予め求めた、前記ランスギャップの変化量と前記転炉のダスト発生速度の変化量との関係R2から、前記ずれ量算出工程で求めた前記ずれ量を補正するために、前記転炉の吹錬中における前記ランスギャップを調整する位置調整工程とを有することを特徴とする転炉吹錬方法。
【0048】
(付記2)
付記1に記載の転炉吹錬方法において、前記ずれ量の補正に、前記転炉のダスト発生速度の変化量を前記ランスギャップの変化量で除した勾配を用いることを特徴とする転炉吹錬方法。
【0049】
上記転炉吹錬方法は、ずれ量算出工程で、ランスギャップを最適な間隔にした際の上吹きランスの使用回数とダスト発生速度との関係R1に対する、速度算出工程で算出したダスト発生速度のずれ量を求め、位置調整工程で、ランスギャップとダスト発生速度の各変化量の関係R2から、ずれ量算出工程で求めたずれ量を補正するようにランスギャップを調整するので、適切なランスギャップで吹錬を実施できる。
これにより、過度にソフトブローになる(ランスギャップが大きくなる)ことでダスト量が過多になることや、過度にハードブローになる(ランスギャップが小さくなる)ことで上吹きランスの寿命を著しく低下させることを抑制、更には防止できる。
【0050】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。