(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
変圧器の鉄心材料などに用いる方向性電磁鋼板に要求される主要な特性である鉄損値を低減する方策として、鋼板表面を平滑化(鏡面化)することが知られている。しかし、鏡面化した鋼板表面と、鉄心材料として不可欠な絶縁性と張力付与のための張力被膜(絶縁被膜)との密着性を確保することが、製品化における課題である。該課題を解決するため、様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、張力被膜の密着性を確保する技術として、特許文献1に、張力被膜と鋼板との界面に、40nm以上500nm以下、空洞が断面面積率で30%以下を占める外部酸化型酸化膜を形成する技術が開示されている。この技術では、熱酸化焼鈍を1000℃以上としている。
【0004】
特許文献2には、張力被膜と鋼板との界面に、2nm以上500nm以下、鉄、アルミニウム、チタン、マンガン、クロムの1種又は2種以上の元素で構成される酸化物が、断面面積率で50%以下を占める外部酸化型酸化膜を形成する技術が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1又は2の技術により、工業的に製品を製造する場合、現実的に、1000℃以上での焼鈍によって外部酸化層を形成する必要がある。このような1000℃以上での焼鈍時には、張力通板が適正に行われないと、通板時に、鋼板への歪導入が起きて、鉄損特性が低下するという課題がある。
【0006】
特許文献3には、850℃での熱酸化焼鈍において、鋼板表面に片面当たり100mg/m
2以下の外部酸化型SiO
2膜を形成すると、鋼板と外部酸化型SiO
2膜との間に起こる界面荒れを防止することができ、良好な鉄損特性が得られることが開示されている。しかし、この技術では、張力被膜焼付後の被膜密着性は、必ずしも良好でない。
【0007】
特許文献4には、外部酸化型SiO
2膜を形成するのに先立ち、鋼板表面を砥粒入りブラシで払拭して微小歪を導入したり、又は、酸洗によって微小凹凸を形成したりして、微小歪又は微小凹凸を起点として、外部酸化型SiO
2の成長を促すと同時に、粒状酸化物を形成すると、被膜密着性を改善できることが開示されている。しかし、この技術では、熱処理温度が1000℃未満での被膜の密着性は良好でない。
【0008】
特許文献5には、鏡面方向性電磁鋼板において、鋼板表面に、TiN等の中間層をPVD、CVDなどで形成し、張力被膜の密着性を確保する技術が提案されている。しかし、この技術は、コストが高く、工業化には至っていない。
【0009】
特許文献6には、鏡面方向性電磁鋼板において、比較的低い酸化ポテンシャルで熱酸化を行うことにより、外部酸化型SiO
2膜を形成する技術が提案されている。しかし、この技術は、張力被膜の密着性が安定しないことが問題となっている。
【0010】
特許文献7には、鋼板表面に酸化物または水酸化物を形成した上、コロイダルシリカや珪酸塩などからなる液を塗布し、これを乾燥後、張力被膜形成熱処理を実施し、鋼板と張力被膜の間にSiを含むコーティング層を形成すると同時に、コーティング層と母鋼板の界面にSiO
2膜を形成する技術が提案されている。しかし、この技術で形成されるSiO
2膜は、張力被膜形成後の密着性が安定しないことが問題となっている。
【0011】
特許文献8には、鋼板表面にアルミ酸化物の膜を形成し、歪緩和のため熱処理した後、張力被膜形成熱処理を実施する例が開示されている。この技術では、歪緩和のための熱処理における外部酸化型SiO
2膜の形成については何ら言及がないが、上記熱処理後にSiO
2膜が形成されていたとしても、酸化物種、酸化物量および熱処理の雰囲気が適切でないため、本発明のようなSiO
2膜が形成されることはなく、張力被膜形成後の密着性は十分に向上しない。
【0012】
特許文献9には、鋼板表面に酸化物が残存する鋼板を還元性熱処理した後、張力被膜形成熱処理を実施する技術が提案されている。この技術では、外部酸化型SiO
2膜の形成については何ら言及がないが、還元性熱処理後にSiO
2膜が形成されていたとしても、熱処理前の酸化物量および熱処理の雰囲気が適切でないため、本発明のような適切な酸素バランスを有するSiO
2膜が形成されることはなく、張力被膜形成後の密着性は十分に向上しない。
【0013】
特許文献10には、鋼板表面にAl、Si、Ti、Cr、Yの酸化物を形成した鋼板を熱処理しSiO
2膜を形成した後、張力被膜形成熱処理を実施する技術が提案されている。しかし、酸化物種、酸化物量および熱処理の雰囲気が適切でないため、形成されるSiO
2膜自体は他の従来技術の範疇を外れるものではなく、張力被膜形成後の密着性は十分に向上しない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板用原板(以下「本実施形態に係る原板」ということがある。)等について説明する。ここでは、本実施形態に係る原板は、張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板として説明される。しかし、本実施形態に係る原板の技術的範囲は、張力被膜を形成した後の方向性電磁鋼板にも及ぶ。
【0027】
本実施形態に係る原板は、原板の表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる原板の表面のSiO
2のピーク(ΔR/R
0 @1250cm
−1)の値yが、
y≧1500x
2.5 ・・・・(1)
かつ y≧0.24 ・・・・(2)
を満たすことを特徴とする。また、本実施形態に係る原板は、さらに必要に応じて、以下の数式を満たしてもよい。
y≦0.89 ・・・・(3)
6440x
2.5≧y ・・・・(4)
【0028】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板用原板の製造方法(以下「本実施形態に係る原板製造方法」ということがある。)は、本実施形態に係る原板を製造する製造方法であって、仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板の表面の片面当たりの酸素量を0.01g/m
2超0.05g/m
2以下、又は0.05g/m
2超0.10g/m
2以下に整える工程と、仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比P
H2O/P
H2で示す酸化ポテンシャルが、表面酸素量が0.01g/m
2超0.05g/m
2以下である場合に0.0081以下の雰囲気中、表面酸素量が0.05g/m
2超0.10g/m
2以下である場合に0.005以下(0.0055未満)の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施し、前記方向性珪素鋼板の表面に外部酸化層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0029】
本実施形態に係る方向性珪素鋼板は、本実施形態に係る原板の材料となる方向性珪素鋼板であって、且つ上述の仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板であって、表面の片面当たりの酸素量が0.01g/m
2超0.1g/m
2以下であることを特徴とする。
【0030】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、本実施形態に係る原板に、張力被膜形成用コーティング剤を塗布する工程と、水蒸気圧と水素圧の比P
H2O/P
H2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施す工程とを備えることを特徴とする。
【0031】
以下、本実施形態に係る原板、本実施形態に係る原板の製造方法、及び、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
【0032】
最初に、本実施形態に係る原板の素材鋼板として使用する、表面にグラス被膜のない仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)について説明する。
図2に示されるように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板用原板は、まず鋼片に熱間圧延、冷間圧延、脱炭焼鈍、焼鈍分離剤の塗布及び乾燥、巻取、並びに仕上げ焼鈍をすることによって仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板を製造し、次いで、仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板に表面酸素量制御、及び熱酸化焼鈍をすることによって得られる。即ち仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板は、方向性電磁鋼板用原板の中間材料である。
【0033】
本実施形態に係る原板は、その表面性状(原板表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる原板表面のSiO
2のピーク(ΔR/R
0 @1250cm
−1)の値yが、前記式(1)及び式(2)を満たし、さらに必要に応じて、前記式(3)及び式(4)を満たす)を特徴とするものである。原板の該表面性状は、素材鋼板として使用する仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板のSi以外の化学組成の影響を実質的に受けないので、仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板の化学組成は、特に、Si以外の化学組成に限定されない。以下に、例示的に、好ましい化学組成について説明する。
【0034】
この仕上げ焼鈍鋼板の化学組成は、質量%で、基本元素として、Si:0.8〜7.0%を含み、選択元素として、C:0〜0.085%、酸可溶性Al:0〜0.065%、N:0〜0.012%、Mn:0〜1.0%、Cr:0〜0.3%、Cu:0〜0.4%、P:0〜0.5%、Sn:0〜0.3%、Sb:0〜0.3%、Ni:0〜1.0%、S:0〜0.015%、Se:0〜0.015%の1種又は2種を含み、残部がFe及び不純物からなる化学組成が好ましい。
【0035】
上記化学成分は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織を形成するのに好ましい化学成分である。上記選択元素は、目的に応じて適宜含有させればよいので、下限は0%でもよい。また、上記選択元素が不純物として含有されていてもよい。不純物は、鋼原料(鉱石、スクラップ等)から及び/又は製造環境から、仕上げ焼鈍鋼板中に混入する元素を意味する。
【0036】
方向性電磁鋼板の製造では、通常、二次再結晶時に、インヒビター形成元素を鋼板外へ排出する純化焼鈍を同時に行う。特に、N及びSの含有量は、それぞれ50ppm以下に低減する。好ましくは、N及びSの含有量はそれぞれ9ppm以下、より好ましくは6ppm以下に低減する。純化焼鈍を十分に行い、通常の分析では検出できない程度(1ppm以下)にまでN及びSの含有量をそれぞれ低減してもよい。
【0037】
仕上げ焼鈍鋼板の化学成分は、一般的な分析方法によって分析すればよい。例えば、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic
Emission Spectrometry)を用いて仕上げ焼鈍鋼板の化学成分を分析すればよい。例えば、仕上げ焼鈍鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を採取し、島津製作所製ICPS−8100等(測定装置)を用い、予め作成した検量線に基づいて分析することができる。なお、C及びSは、燃焼−赤外線吸収法を用い、Nは、不活性ガス融解−熱伝導度法を用いて分析すればよい。
【0038】
なお、一般的な方向性電磁鋼板用原板の製造方法では、仕上げ焼鈍鋼板の表面にグラス被膜を形成する。グラス被膜は、例えば、フォルステライト(Mg
2SiO
4)、スピネル(MgAl
2O
4)、又は、コーディエライト(Mg
2Al
4Si
5O
16)などの複合酸化物によって構成されている。グラス被膜は、鋼板と張力被膜との間に介在し、特に、鋼板と張力被膜との界面に複雑な凹凸を形成し、いわゆる、アンカー効果によって、鋼板への酸化物膜(グラス被膜及び張力被膜)の密着性を確保するために形成される被膜である。グラス被膜は、方向性電磁鋼板の製造プロセスの1つの仕上げ焼鈍工程において形成される。
【0039】
一方、本実施形態に係る原板の製造方法は、グラス被膜が生成しない条件で仕上げ焼鈍を実施した鋼板を原板素材(即ち、仕上げ焼鈍鋼板)として用いることを特徴とする。または、原板素材は、グラス被膜が生成した鋼板から、酸洗等で、グラス被膜を除去したのち、化学研磨等により鏡面化した鋼板でもよい。
【0040】
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板用原板の製造方法(原板製造方法)について説明する。以下の説明において、本実施形態に係る原板製造方法において限定要件としていない条件については、一般的な条件を例示的に説明する。しかし本実施形態に係る製造方法は、限定要件としていない条件については後述の一般的な条件に限定されるものではない。限定要件としていない条件について、公知の目的で公知の条件を適用しても、本実施形態に係る製造方法は所要の効果を発現する。
【0041】
まず、溶鋼を連続鋳造してスラブとする。このスラブの化学組成は特に限定されないが、例えば、質量%で、Si:0.8〜7.0%、C:0超〜0.085%、酸可溶性Al:0〜0.065%、N:0〜0.012%、Mn:0〜1.0%、Cr:0〜0.3%、Cu:0〜0.4%、P:0〜0.5%、Sn:0〜0.3%、Sb:0〜0.3%、Ni:0〜1.0%、S:0〜0.015%、Se:0〜0.015%、残部:Fe及び不純物からなる。
【0042】
上記スラブを、所定の温度(例えば、1050〜1400℃)に加熱して、熱間圧延に供する。この熱間圧延によって上記スラブを、板厚が、例えば、1.8〜3.5mmの熱延鋼板とする。続いて、この熱延鋼板に、所定の熱処理条件(例えば、750〜1200℃で30秒〜10分)で焼鈍処理を施す。焼鈍後の熱延鋼板に酸洗処理を施した後、冷間圧延に供する。この冷間圧延によって熱延鋼板を、板厚が、例えば、0.15〜0.35mmの冷延鋼板とする。
【0043】
次に、冷延鋼板に、所定の熱処理条件(例えば、700〜900℃で1〜3分)で脱炭焼鈍処理を施す。この脱炭焼鈍により、冷延鋼板のCが所定量以下に低減され、一次再結晶組織が形成される。また、脱炭焼鈍後の冷延鋼板(以下、脱炭焼鈍鋼板と呼ぶ)の表面には、シリカ(SiO
2)を主成分とする酸化物層が形成される。
【0044】
なお、必要に応じて、焼鈍分離剤を塗布する前に、脱炭焼鈍鋼板を窒化させる処理を含んでもよい。
【0045】
続いて、脱炭焼鈍鋼板の表面(酸化物層の表面)に、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、乾燥させた後に、この脱炭焼鈍鋼板を巻き取る。そして、所定の加熱条件(例えば、コイルのまま、1100〜1300℃で20〜24時間加熱)で、脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍処理を施す。この仕上げ焼鈍処理により、脱炭焼鈍鋼板において、二次再結晶が生じるとともに、該鋼板が純化される。その結果、結晶粒の磁化容易軸と圧延方向が一致するように結晶方位が制御された、仕上げ焼鈍鋼板を得ることができる。
【0046】
一般に、焼鈍分離剤は、マグネシア(MgO)を主成分とする。このような焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板の仕上げ焼鈍にて、脱炭焼鈍鋼板の表面のシリカを主成分とする酸化物層と、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤とが反応して、該鋼板の表面に、フォルステライト(Mg
2SiO
4)等の複合酸化物を含むグラス被膜が形成される。
【0047】
しかし、本実施形態に係る原板製造方法では、仕上げ焼鈍鋼板の表面にグラス被膜を形成させないことが好ましい。焼鈍分離剤として、例えばアルミナ(Al
2O
3)を主成分とする焼鈍分離剤を用いれば、仕上げ焼鈍において、鋼板の表面にグラス被膜を形成させずに、二次再結晶を完了することができる。ただし、仕上げ焼鈍鋼板の表面に一旦グラス被膜を形成させ、その後除去してもよい。
【0048】
一般的な方向性電磁鋼板の製造においては、仕上げ焼鈍鋼板に、直ちに、張力被膜を形成する。しかし本実施形態に係る原板製造方法では、グラス被膜のない仕上げ焼鈍鋼板に、張力被膜の形成に先立って、表面の酸素量の制御処理を施し、さらに熱酸化焼鈍を施すことを特徴とする。本実施形態に係る原板製造方法では、表面の酸素量を整えた仕上げ焼鈍鋼板を熱酸化焼鈍することにより、薄くて緻密な外部酸化膜を形成する。
【0049】
そして、上記外部酸化膜の上に、張力被膜を、良好な被膜密着性を確保して形成することにより、鉄損特性に優れる、グラス被膜のない方向性電磁鋼板を得ることができる。この本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法については後述する。
【0050】
上述の方法によって得られた原板は、鋼板と、その表面に配されたSiO
2を主体とする外部酸化膜とを備える。次に、本実施形態に係る原板製造方法で形成する外部酸化膜の特徴について説明する。
【0051】
特許文献1、特許文献2、特許文献4等には、外部酸化型SiO
2膜として良好な膜厚が40nm以上であることが記載されている。また、特許文献3には、原板片面当たりのSiO
2量を100mg/m
2以下とすることが、鉄損特性の低下抑制に有効であると記載されている。ここで、“SiO
2量100mg/m
2以下”を、SiO
2の比重を2として膜厚に換算すると、特許文献3に開示された鋼板の外部酸化型SiO
2膜の膜厚は“50nm以下”と推定される。このような膜厚の外部酸化型SiO
2膜においては、鉄損特性の低下抑制と張力被膜の密着性確保の両立に関する課題が残っている。外部酸化型SiO
2の量が少ない場合、密着性が確保しがたい傾向にある。
【0052】
また、原板表面のSiO
2量を原板片面当たり100mg/m
2以下とした場合、又は、原板表面のSiO
2膜厚を40nm未満とした場合、張力被膜を、通常の焼付雰囲気の窒素雰囲気中で焼き付けると、後述する方法で測定される被膜残存面積率が90〜95%程度の比較的良好な被膜密着性が得られる場合と、得られない場合が混在する。即ち、上述の場合、張力被膜の密着性が安定しない。この傾向は、特に張力被膜形成熱処理を低酸化ポテンシャルで実施した場合に顕著となる。
【0053】
そこで、本発明者らは、膜厚が40nm未満の薄い外部酸化型SiO
2膜を形成する場合、従来法以上に、SiO
2膜の構造を積極的に制御する必要があると考え、該制御方法について鋭意検討した。
【0054】
本発明者らは、原板片面当たりの外部酸化型SiO
2量と絶縁被膜密着性との間には基本的に相関関係があるものの、特異的に、外部酸化型SiO
2量は増えているのに被膜密着性がかえって悪くなる場合があることを見出した。特に、外部酸化型SiO
2を形成するための熱酸化焼鈍における均熱時間を延長した場合に、この傾向が顕著であることを本発明者らは見出した。この原因を調査するにあたり、本発明者らは、原板片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる原板表面のSiO
2のピーク(ΔR/R
0 @1250cm
−1)の値yに着目した。
【0055】
一方、本発明者らは、熱酸化焼鈍における均熱時間を延長していった際、原板片面当たりの外部酸化型SiO
2量がほとんど増えず、さらに原板片面当たりの酸素量が若干減少する場合があり、この現象が生じた場合には、良好な被膜密着性が得られることを発見した。このことを踏まえ、本発明者らは、この現象が生じた原板と生じなかった原板との間には、外部酸化型SiO
2の形態に何らかの違いがあると発想し、最表面のSiO
2の存在量を示す1250cm
−1でのIRスペクトルに着目した。
【0056】
そこで、本発明者らは、原板片面当たりの酸素量xと、最表面のSiO
2量を示す1250cm
−1でのIRスペクトルのピーク強度△R/R
0の値yを変えて、張力被膜の被膜密着性を評価した。
【0057】
その結果、熱酸化焼鈍において、原板片面当たりの酸素量と、原板の外部酸化型SiO
2膜の最表面において反射型赤外分光分析で得られるSiO
2のピーク(ΔR/R
0 @1250cm
−1)を所要の関係の下で制御すると、張力被膜の良好な被膜密着性を確保し得る外部酸化膜を原板表面上に形成できることを知見した。
【0058】
図1に、原板表面の片面当たりの酸素量(g/m
2)、及び反射型赤外分光分析で得られる原板表面のSiO
2のピーク(IRスペクトル強度:ΔR/R
0 @1250cm
−1)と、張力被膜の密着性との関係を示す。
【0059】
図1に示す関係は、Si:3.3質量%を含む仕上げ焼鈍鋼板に、均熱温度:1000℃未満で、焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャル及び焼鈍均熱時間を変えて熱酸化焼鈍を施して得た熱酸化焼鈍鋼板(方向性電磁鋼板用原板)において、原板の片面当たりの酸素量x(g/m
2)及び反射型赤外分光分析で得られる原板表面のSiO
2のピーク(IRスペクトル強度:ΔR/R
0 @1250cm
−1)と、酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2:0.012の窒素水素雰囲気中で該原板上に形成した張力被膜の被膜密着性との関係である。ここで、被膜密着性は、該方向性電磁鋼板試料を直径20mmの円筒に巻きつけた後、ほどいて評価した曲率中心側の鋼板表面の被膜残存面積率である。
図1において、記号「〇」によってプロットされた試料は、被膜残存面積率が95%以上であり、記号「×」によってプロットされた試料は、被膜残存面積率が95%未満であった。
【0060】
図1より、張力被膜形成熱処理が低酸化ポテンシャルで実施される場合、原板片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる表面のSiO
2のピーク(ΔR/R
0 @1250cm
−1)の値yとが、y≧1500x
2.5を満たす場合に、被膜残存面積率が95%以上の良好な被膜密着性が確実に得られることが解る。y≧1500x
2.5が満たされない試料においては、良好な被膜密着性が安定的に得られなかった。y≧1500x
2.5が満たされない試料のうち一部では被膜残存面積率が95%以上となったが、これは偶発的なものであったと考えられる。
【0061】
SiO
2のピークの算出は一般的な手法による。例えば、500〜2000cm
−1の範囲で得られる赤外吸収スペクトル曲線において、最表面近傍でのSiO
2の存在を示す1250cm
−1吸収ピークの位置におけるバックグランドの高さをR
0としたとき、ピークトップとバックグランドの強度の差を△Rとして、△R/R
0を算出する。この△R/R
0は、最表面近傍でのSiO
2の存在量およびOの結合状態に相当すると考えている。なお、△R/R
0はピークトップ及びバックグランドの強度の比率であるので、測定条件が△R、及びR
0の測定値に与える影響は、△R/R
0においては相殺される。この算出を原板の表面の5箇所において実施し、その平均値を△R/R
0とすることがよい。
【0062】
原板片面当たりの酸素量は、HORIBA製のEMGA−920で原板の表面の5箇所における酸素量を分析し、その分析値から、測定箇所における原板片面当たりの酸素量を、供試材の板厚とSi量に応じたJISに記載のFe−Si合金の比重を用いて算出し、これら値を平均することにより求められる。
【0063】
注意を要するのは、ここで得られる原板片面当たりの酸素量は、Siの酸化物によるものだけでなく、Fe、Mn、Al、Cr、Tiなどの酸化物(即ち、本実施形態において主に制御される外部酸化型SiO
2膜とは異なる酸化物)による酸素量も含んでいることである。つまり、ここで得られる酸素量は、外部酸化型SiO
2膜の厚さとは全く無関係の値ともなる。Fe、Mn、Al、Cr、Tiなどの酸化物が外部酸化に限らず内部酸化も含めて形成されている鋼板では、この酸素量と別途定量化される外部酸化型SiO
2膜の存在量とが大きくかい離する。
【0064】
本発明者らは、xとyが、y≧1500x
2.5を満たせば、良好な被膜密着性が得られる理由について、以下のように推定している。
【0065】
xが高い領域では内部酸化が起きており、絶縁被膜の密着性の低下が著しい。そして、yが低い領域は、単純に考えると外部酸化型SiO
2の量が少ないことになるが、この領域でSiの元素量およびOの元素量が同じであれば、この領域では酸素が効率的にSiと結合していないことになる。これらの結果として、内部酸化を抑制しつつ、好ましい形態の外部酸化型SiO
2が形成される状況として、xとyの関係を示す
図1において右上がりの線(「y=1500
2.5)との式が付された、左側の線)の左側、すなわち
y≧1500x
2.5 ・・・・(1)
で区分される左上側の領域が、密着性にとって好ましいものとなる。なお、好ましくは、y≧1600x
2.5、y≧1800x
2.5、y≧2000x
2.5、又はy≧2500x
2.5である。
【0066】
ただし、xが低い領域では、酸素が外部酸化型SiO
2を形成しているとしても、外部酸化型SiO
2の量が少ない(外部酸化膜の膜厚が薄すぎる)ため、膜の安定性が劣る場合がある。また、後述するように、yが過度に高い領域では母材中のSi以外の元素との原子的結合という観点で張力被膜の密着性が低下する要因が生じる場合もある。さらに、xが非常に低い(酸化物の量自体が非常に少ない)領域で非常に高いyの値を検出することは、一般的な測定感度の反射型赤外分光分析では困難でもある。これらを考慮すると、
図1の左上の領域を排除するような限定をすることが好ましいと考えられる。
従って、本実施形態では、x及びyが
6440x
2.5≧y ・・・・(4)
との関係を満たすことが好ましい。さらに好ましくは、4037x
2.5≧y である。
【0067】
実際、通常の仕上げ焼鈍鋼板に、水素75体積%、窒素25体積%で、露点0℃とした、酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2:0.008程度の熱酸化焼鈍雰囲気(特許文献3、参照)で外部酸化型SiO
2膜を形成した場合、良好な被膜密着性を得ることができなかった。しかし、熱酸化焼鈍前の仕上げ焼鈍鋼板の表面の酸素量、及び熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルの両方を所定範囲内に制御すると、良好な被膜密着性を得ることができることが判明した。具体的には、仕上げ焼鈍鋼板の表面酸素量が0.01g/m
2超0.05g/m
2以下である場合に酸化ポテンシャルを0.0081以下とし、表面酸素量が0.05g/m
2超0.10g/m
2以下である場合に酸化ポテンシャルを0.005以下(0.0055未満)とすることが必要である。
【0068】
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を上述のように制御する必然性については、以下のように考えている。
【0069】
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2が過剰である場合、仕上げ焼鈍鋼板の表面において外部酸化型SiO
2は生成するが、一方で、Fe系酸化物が生成せず、MnやCrなどがSiO
2と複合して酸化物を形成する場合もある。このように、微量元素が酸化される状況下において、原板のSiO
2膜厚が薄いと、張力被膜の焼付け・形成時に内部酸化が発生して、被膜密着性が低下する。
【0070】
そのため、熱酸化焼鈍時、SiO
2以外の酸化物が極力生成しないように、熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を0.0081以下、又は0.005以下とする必要がある。
【0071】
許容される酸化ポテンシャルの上限値は、熱酸化焼鈍前の仕上げ焼鈍鋼板の表面の酸素量に応じて定められる。
【0072】
通常、熱酸化焼鈍に先立ち、仕上げ焼鈍で用いたアルミナ等の焼鈍分離剤を除去するため、仕上げ焼鈍鋼板を酸洗又は水洗する。一方、本実施形態に係る原板の製造方法では、酸洗後又は水洗後の熱酸化を行う仕上げ焼鈍鋼板の表面性状として、原板片面当たりの酸素量を0.010g/m
2超、好ましくは0.015g/m
2以上、さらに好ましくは0.020g/m
2以上、さらに好ましくは0.025g/m
2以上、上限については、0.100g/m
2以下、好ましくは0.060g/m
2以下、さらに好ましくは0.050g/m
2以下にしておく。仕上げ焼鈍鋼板の片面当たりの表面酸素量を0.01g/m
2超0.05g/m
2以下としている場合、その後の熱酸化焼鈍では酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を0.0081以下とすればよい。一方、仕上げ焼鈍鋼板の片面当たりの表面酸素量が0.05g/m
2超0.10g/m
2以下である場合、その後の熱酸化焼鈍では酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を0.005以下とすればよい。
【0073】
仕上げ焼鈍鋼板の表面の酸素量を制御する方法は限定されない。当業者であれば、鋼板表面の酸化物または水酸化物の量を制御することを通じて酸素量を上記範囲に制御することは容易である。しかしながら、熱酸化焼鈍前の仕上げ焼鈍鋼板の酸素量をある一定値以上に制御すべきであるという本発明者らの知見、及びその顕著な効果は公知ではないことに留意されるべきである。
【0074】
仕上げ焼鈍鋼板の表面の酸素量を制御する方法の一例を以下に説明する。本実施形態に係る原板においては、具体的には、仕上げ焼鈍後に実施する酸化物である焼鈍分離剤の除去過程で、適度な量の焼鈍分離剤を残存させる手段を適用することが可能である。または、焼鈍分離剤を含む酸化物を完全に除去し、表面を鏡面化した後、適当な雰囲気中で熱処理を行うことにより表面を酸化してもよい。
【0075】
酸化物が仕上げ焼鈍鋼板表面に存在し、かつ熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2が低い場合、仕上げ焼鈍鋼板表面に存在するSiO
2以外の酸化物など(鉄系酸化物等)を還元しながら、外部酸化型SiO
2層を形成することになるので、外部酸化型SiO
2膜の形成がゆっくりと進行し、原板の外部酸化型SiO
2膜が緻密になると考えられる。
【0076】
仕上げ焼鈍鋼板の片面当たりの酸素量は、前述の熱酸化後の原板の片面当たりの酸素量と同様に、HORIBA製のEMGA−920で仕上げ焼鈍鋼板の表面の5箇所における酸素量を分析し、その分析値から、各測定箇所における仕上げ焼鈍鋼板片面当たりの酸素量を、供試材の板厚とSi量に応じたJISに記載のFe−Si合金の比重を用いて、各測定箇所における酸素量を算出し、これらを平均すれば求められる。
【0077】
本実施形態に係る原板の製造方法において、熱酸化焼鈍で形成される外部酸化膜は、SiO
2を50質量%以上含有する酸化膜である。SiO
2が50質量%以上であれば、膜構造が緻密となり、張力被膜を形成する熱処理時に生じる内部酸化が抑制されて、張力被膜の被膜密着性が向上する。
【0078】
外部酸化膜のSiO
2量が増加するほど、張力被膜を形成する熱処理時の内部酸化を抑制する抑制効果は高くなるので、SiO
2量の上限は、特に、限定しない。それ故、外部酸化膜はSiO
2膜(実質的にSiO
2のみからなる膜)でもよい。しかし実用的には、外部酸化膜のSiO
2量は99%程度が上限となる。
【0079】
ただし、原板の外部酸化膜がほぼ純粋なSiO
2膜になると、母材中のSi以外の元素との原子的結合という観点で、鋼板のFe等と外部酸化膜との原子的な結合がなくなると考えられるため、張力被膜の密着性が低下することがある。すなわち、外部酸化膜中のOは、その全てが完全にSiと結合するのではなく、その一部が、特に膜が鋼板に接する側において、鋼板から拡散したFeと結合していることが好ましいと考えられる。
【0080】
本実施形態に係る原板では、
y≦0.89 ・・・・(3)
との規定が満たされていることが好ましい。式(3)が満たされている場合、上述の状況が達成されているので一層好ましい。yはさらに好ましくは0.74以下であり、一層好ましくは0.66以下である。
【0081】
本実施形態に係る原板の製造方法で形成する、原板の外部酸化膜は、膜厚が2nm以上40nm未満であることが好ましい。膜厚が40nm以上とした場合は、張力被膜の密着性の観点からは問題がない。ただし、このような膜厚を達成するための熱酸化焼鈍において高温の焼鈍が必要とされるため、歪が導入され、方向性電磁鋼板の鉄損特性が損なわれるおそれが高い。従って、外部酸化膜は、膜厚を40nm未満とすることが好ましい。
【0082】
一方、原板の外部酸化膜の膜厚が2nm未満であると、張力被膜を形成する熱処理時に、内部酸化の抑制が困難になる。本実施形態に係る原板の製造方法で形成する外部酸化層は、膜厚が2nm以上とすることが好ましい。ただし、酸素量xと、最表面近傍でのSiO
2の存在量を示すy(△R/R
0)とが上述の式(1)を満たし、さらにyが後述の式(2)を満たしていれば、膜厚を2nm以上にするために必要なSiO
2量が確保されていることとなる。実際、本発明者らが確認したところによれば、式(1)及び式(2)を満たす外部酸化膜の膜厚は2nm以上となっていた。従って、外部酸化膜の膜厚を特に限定する必要はないと考えられる。
【0083】
外部酸化膜の膜厚は、集束イオンビーム法(FIB法)によって、地鉄−SiO
2界面を含む断面薄片試料を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して計測する。5箇所で上述の測定を実施し、これの平均を原板の外部酸化膜の膜厚とみなす。
【0084】
本実施形態に係る原板においては、膜厚に加え前記のSiO
2膜中のOの結合状態も考慮し、yについての下限を規定する。SiO
2のピークが検出されない原板表面には、SiO
2膜が存在せず、上述された効果が発現しないからである。
【0085】
本実施形態に係る原板では、yの下限値を以下の式(2)によって
y≧0.24 ・・・・(2)
と規定する。yは好ましくは0.25以上であり、さらに好ましくは0.27である。
【0086】
本実施形態に係る原板は、表面の酸素量を整えた仕上げ焼鈍鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比P
H2O/P
H2で表示する酸化ポテンシャルが所定範囲内の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施して、仕上げ焼鈍鋼板の表面に、SiO
2を主体とする外部酸化層を形成することにより製造する。
【0087】
熱酸化焼鈍での均熱温度が1000℃を超えると、仕上げ焼鈍鋼板が軟化し通板性が低下するばかりでなく、外部酸化膜の膜厚が過大となり、通板速度が局所的に変動し、仕上げ焼鈍鋼板に歪が導入されて、方向性電磁鋼板の鉄損特性が低下する。従って、熱酸化焼鈍での均熱温度は1000℃以下とする。熱酸化焼鈍での均熱温度は好ましくは950℃以下である。
【0088】
熱酸化焼鈍での均熱温度は、上述の要件を満たす外部酸化膜を形成し得る温度であればよく、下限は特に限定しない。ただし、熱酸化焼鈍での均熱温度が600℃未満では、実用的な焼鈍時間内に、十分な厚さの外部酸化膜を形成することが困難であるので、均熱温度は600℃以上が好ましい。
【0089】
上述の通り、仕上げ焼鈍鋼板の片面当たりの表面酸素量を0.01g/m
2超0.05g/m
2以下としている場合、その後の熱酸化焼鈍では酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を0.0081以下とすればよい。好ましくは熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2は0.005以下、又は0.004以下である。一方、仕上げ焼鈍鋼板の片面当たりの表面酸素量が0.05g/m
2超0.10g/m
2以下である場合、その後の熱酸化焼鈍では酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を0.005以下とすればよい。好ましくは0.004以下である。
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2が過剰になると、外部酸化型SiO
2膜の膜厚が厚くなる一方で、MnやCrなども酸化される。これら酸化物が、張力被膜を形成する熱処理時に生じる内部酸化の起点となり、被膜密着性を損ねる懸念がある。従って、熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2は上述の値以下とする。
【0090】
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2は、上述の範囲内で適宜設定すればよく、下限は、特に限定されない。ただし、0.00001未満の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を工業的に実現するのが困難である。さらに、0.00001未満の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2を適用した場合、通板が安定する温度域において、実用的な焼鈍時間内に十分な厚さの外部酸化膜を形成することが困難である。従って、0.00001が熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2の実質的な下限である。熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2は好ましくは0.00010以上である。
【0091】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、本実施形態に係る原板に、張力被膜形成用のコーティング剤を塗布し、水蒸気圧と水素圧の比P
H2O/P
H2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施すことを特徴とする。
【0092】
熱酸化焼鈍によって外部酸化膜を形成した原板の表面に、張力被膜を形成する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法においては、本実施形態に係る原板の外部酸化膜の表面に、張力被膜形成用コーティング剤、例えば、コロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング剤を塗布し、所定の熱処理温度、例えば、750〜920℃で張力被膜形成熱処理を施す。この張力被膜形成熱処理により、最終的に、鋼板と、その表面上に配された張力被膜とを備える方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0093】
上記張力被膜形成熱処理は、水蒸気圧と水素圧の比P
H2O/P
H2(酸化ポテンシャル)が0.001〜0.20の雰囲気中で行う。この雰囲気中で、張力被膜を形成することで、本実施形態に係る製造方法で形成させた所定の外部酸化型SiO
2膜が、被膜形成初期に生じる僅かな内部酸化を抑制し、張力被膜の密着性を十分かつ安定的に確保することができる。
【0094】
張力被膜形成熱処理における酸化ポテンシャルが0.20を超えると、雰囲気中のH
2Oにより内部酸化が生じる。従って、張力被膜形成熱処理におけるP
H2O/P
H2(酸化ポテンシャル)は0.20以下とする。張力被膜形成熱処理におけるP
H2O/P
H2は好ましくは0.10以下である。一方、張力被膜形成熱処理におけるP
H2O/P
H2(酸化ポテンシャル)が0.001未満であると、熱処理中にリン酸塩が分解してH
2Oが発生し、内部酸化が生じる。従って、張力被膜形成熱処理におけるP
H2O/P
H2は0.001以上とする。張力被膜形成熱処理におけるP
H2O/P
H2は好ましくは0.003以上である。
【0095】
張力被膜形成熱処理における熱処理温度は、750〜920℃が好ましい。張力被膜形成熱処理における熱処理温度が750℃未満であると、所要の被膜密着性が得られない場合があるので、熱処理温度は750℃以上が好ましい。一方、張力被膜形成熱処理における熱処理温度が920℃を超えると、同じく、所要の被膜密着性が得られない場合があるので、熱処理温度は920℃以下が好ましい。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の実施例を説明する。実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一例であり、これに限定されるものではない。本発明を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0097】
(実施例1)
板厚0.225mm、Si3.3質量%の方向性電磁鋼板製造用の冷延鋼板に、脱炭焼鈍を施し、この脱炭焼鈍鋼板の表面に、アルミナを主体とする焼鈍分離剤の水スラリーを塗布し、乾燥させた後、コイル状に巻き取る。次いで、乾燥窒素雰囲気中で脱炭焼鈍鋼板を二次再結晶させ、乾燥水素雰囲気中で1200℃の純化焼鈍(仕上げ焼鈍)を行い、仕上げ焼鈍済みの方向性珪素鋼板を得る。この仕上げ焼鈍鋼板は、焼鈍分離剤にMgOが含まれないので、その表面にグラス被膜を有しない。
【0098】
この仕上げ焼鈍鋼板に、0.3%硫酸液で酸洗時間を調整し、片面当たりの酸素量を0.01g/m
2、0.04g/m
2、又は0.06g/m
2に制御する。そして、それぞれの仕上げ焼鈍鋼板に、窒素25体積%、水素75体積%で、P
H2O/P
H2(酸化ポテンシャル)及び露点が表に記載の雰囲気中で、表に記載の均熱温度(熱酸化温度)で、均熱時間30秒の熱酸化焼鈍を施す。片面当たりの酸素量が0.01g/m
2の鋼板は、従来の技術において、「鏡面状態」や「無機鉱物質が存在しない」などと呼ばれていた状態である。
【0099】
熱酸化焼鈍後の方向性電磁鋼板用原板(原板)の片面当たりの酸素量を分析し、さらにこの原板表面の赤外吸収スペクトルを測定する。また、原板表面に、50質量%のリン酸アルミニウム水溶液50ml、20質量%のコロイダルシリカ水分散液100ml、無水クロム酸5gからなる混合液(コーティング剤)を塗布し、830℃で30秒、焼付け焼鈍(張力被膜形成熱処理)を施す。
【0100】
この焼付け焼鈍(張力被膜形成熱処理)時の焼鈍雰囲気は、窒素が25体積%、水素が75体積%で、露点が+5℃の雰囲気(酸化ポテンシャルP
H2O/P
H2:0.012)とする。
【0101】
張力被膜を形成した後、被膜密着性を、直径20mmの円筒に試料を巻きつけた後、ほどいた時の被膜残存面積率で評価する。被膜残存率が95%以上となる張力被膜の密着性は「G」(Good)と判定し、被膜残存率が90%以上95%未満となった張力被膜の密着性は「B」(BAD)と判定し、被膜残存率が90%未満となる張力被膜の密着性は「VB」(VERY BAD)と判定する。その密着性が「G」と判定される原板は、安定的に張力被膜の密着性を確保することが可能な原板であると判断する。結果を表1に示す。発明例においては、被膜密着性が優れていることが解る。
【0102】
【表1】
【0103】
(実施例2)
表1の試験No.1−2と同じように作製した熱酸化焼鈍後の鋼板に、50質量%のリン酸アルミニウム/マグネシウム水溶液50リットル、20質量%のコロイダルシリカ水分散液100リットル、無水クロム酸5kgからなる混合液を塗布し、850℃で20秒、焼付焼鈍を施した。焼付焼鈍時の雰囲気は、窒素:25体積%、水素:75体積%で、露点:−30℃〜+60℃の雰囲気とした。
【0104】
鋼板に張力被膜を形成した後、鋼板から採取した試験片を、直径20mmの円筒に巻き付けた後、ほどいた時の被膜残存面積率で、被膜密着性を評価した。結果を表2に示す。被膜の密着性の評価基準は実施例1と同じである。実施例2においては、その密着性が「G」と判定される張力被膜形成熱処理の条件を、安定的に張力被膜の密着性を確保することが可能な方向性電磁鋼板の製造方法であると判断する。発明例においては、被膜密着性が優れていることが解る。
【0105】
【表2】
【0106】
(実施例3)
実施例1と同じように作製した仕上げ焼鈍鋼板を酸洗し、化学研磨をし、その後、窒素雰囲気中で300〜500℃の熱処理を行い、鋼板表面を酸化することで酸素量を調整する。これらを所定の酸化ポテンシャルで熱酸化し、さらに実施例1と同じ条件での焼付焼鈍および被膜密着性評価を実施する。被膜の密着性の評価基準は実施例1と同じである。その密着性が「G」と判定される原板は、安定的に張力被膜の密着性を確保することが可能な原板であると判断する。結果を表3に示す。発明例においては、被膜密着性が優れていることが解る。
【0107】
【表3】