(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0021】
本発明のスパンボンド不織布は、熱可塑性連続フィラメントからなる不織布である。熱可塑性連続フィラメントは、高融点成分と低融点成分とからなる。
図1は、本発明の一実施の形態にかかるスパンボンド不織布の断面写真である。なお、
図1に示すスパンボンド不織布は、使用時、上から下に向かって通気する。スパンボンド不織布は、部分的に融着されたものであって、前記不織布のMD方向の剛軟度が40mN以上80mN以下である。スパンボンド不織布は、非融着の凸部11(非融着部)と、融着されてなる凹部12(融着部)とを有し、不織布断面において、凸部の一表面から他表面までの厚さ(t
A)と、凹部の一表面から他表面までの厚さ(t
B)と、凸部の一表面から凹部の一表面までの距離をそれぞれ(t
C)、(t
D)(t
C<t
D)とし、下記式の関係にあるスパンボンド不織布である。
0.5≦1−t
B/t
A<1.0 ・・・(1)
0.65<t
C/t
D<1.00 ・・・(2)
ここで、本発明において、MD方向とはスパンボンド不織布製造時のシート搬送方向、すなわち不織布ロールにおける巻き取り方向を指すものであり、後述するCD方向はシート搬送方向、すなわち不織布ロールにおける巻き取り方向に対して垂直に交差する方向を指すものである。なお、スパンボンド不織布が切断された場合などでロール状態にない場合は、以下の手順によってMD方向、CD方向を決定することとする。
(a) スパンボンド不織布の面内において、任意の1方向を定め、その方向に沿って、長さ38.1mm、幅25.4mmの試験片を採取する。
(b) 採取した方向から30度、60度、90度回転させた方向においても、同様に長さ38.1mm、幅25.4mmの試験片を採取する。
(c) 各方向の試験片について後述するスパンボンド不織布の剛軟度の測定方法に基づいて、各試験片の剛軟度を測定する。
(d) 測定により得られた値が最も高い方向をそのスパンボンド不織布のMD方向とし、これに直交する方向をCD方向とする。
【0022】
また、本発明のスパンボンド不織布は、フィルター、例えば集塵機プリーツフィルター用濾材に使用される。
図2は、本発明の集塵機プリーツフィルター用濾材の一例を示す概要斜視図である。
図2に示す集塵機プリーツフィルター用濾材21は、スパンボンド不織布を折り返してなる山部22および谷部23を有する。集塵機プリーツフィルター用濾材などからMD方向、CD方向を決定するときにおいて、
図2に例示するような集塵機プリーツフィルター用濾材21の場合には、山部22の稜線と平行な方向(破線矢印25)がCD方向、CD方向と直交する方向(破線矢印24)がMD方向であるとする。
【0023】
(熱可塑性連続フィラメント)
本発明のスパンボンド不織布を構成する熱可塑性連続フィラメントの原料となる熱可塑性樹脂としては、特に、ポリエステルが好ましく用いられる。ポリエステルは、酸成分とアルコール成分とをモノマーとしてなる高分子重合体である。酸成分としては、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸およびテレフタル酸等の芳香族カルボン酸、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を用いることができる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびポリエチレングリコール等を用いることができる。
【0024】
また、ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネート等が挙げられる。後述する高融点重合体として用いられるポリエステルとしては、融点が高く耐熱性に優れ、かつ剛性にも優れたPETが最も好ましく用いられる。
【0025】
また、これらのポリエステル原料には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、金属酸化物、脂肪族ビスアミドおよび/または脂肪族モノアミド、ならびに親水剤等の添加材を添加することができる。中でも、酸化チタン等の金属酸化物は、繊維の表面摩擦を低減し繊維同士の融着を防ぐことにより紡糸性を向上し、また不織布の熱ロールによる融着成形の際、熱伝導性を増すことにより不織布の融着性を向上させる効果がある。また、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、熱ロールと不織布ウェブ間の離型性を高め、搬送性を向上させる効果がある。
【0026】
次に、本発明のスパンボンド不織布を構成する熱可塑性連続フィラメントは、高融点成分と低融点成分からなる。熱可塑性連続フィラメントは、高融点成分であるポリエステル系高融点重合体の周りに、そのポリエステル系高融点重合体の融点に対して、10℃以上140℃以下の低い融点を有する低融点成分であるポリエステル系低融点重合体を配した複合型フィラメントである態様が好ましい。このようにすることで、融着によりスパンボンド不織布を形成し使用した際、スパンボンド不織布を構成する複合型ポリエステル繊維(フィラメント)同士が強固に融着するため、スパンボンド不織布は機械的強度に優れ、大風量下での粉塵処理にも十分耐えることができる。
【0027】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂の融点は、示差走査型熱量計(例えば、株式会社パーキンエルマージャパン社製「DSC−2」型)を用い、昇温速度20℃/分、測定温度範囲30℃から300℃の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を当該熱可塑性樹脂の融点とする。また、示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とする。
【0028】
熱可塑性樹脂がポリエステルの場合、対となるポリエステル系高融点重合体とポリエステル系低融点重合体との組み合わせ(以下、ポリエステル系高融点重合体/ポリエステル系低融点重合体の順に記載することがある)としては、例えば、PET/PBT、PET/PTT、PET/ポリ乳酸、およびPET/共重合PET等の組み合わせを挙げることができ、これらの中でも、紡糸性に優れることからPET/共重合PETの組み合わせが好ましく用いられる。また、共重合PETの共重合成分としては、特に紡糸性に優れることから、イソフタル酸共重合PETが好ましく用いられる。
【0029】
複合型フィラメントの複合形態については、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等が挙げられ、なかでも、フィラメント同士を均一かつ強固に融着させることができることから同心芯鞘型のものが好ましい。さらにその複合型フィラメントの断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等の形状が挙げられる。なかでも、フィラメントの断面形状としては円形断面の形状のものを用いることが好ましい態様である。
【0030】
ところで、前記の複合型フィラメントの形態には、例えば、ポリエステル系高融点重合体からなる繊維とポリエステル系低融点重合体からなる繊維とを混繊させる方法もあるが、混繊させる方法の場合、均一な融着が難しく、例えば、ポリエステル系高融点重合体からなる繊維が密集しているところでは融着が弱くなり、機械的強度や剛性が劣り、スパンボンド不織布として適さないものとなる。一方、ポリエステル系高融点重合体からなる繊維に対し、低融点重合体を浸漬やスプレー等で付与する方法もあるが、いずれも表層や厚さ方向で均一な付与が難しく、機械的強度や剛性が劣り、スパンボンド不織布として好ましくないものとなる。
【0031】
本発明におけるポリエステル系低融点重合体の融点は、ポリエステル系高融点重合体の融点に対し、10℃以上140℃以下低いことが好ましい。10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上低くすることで、スパンボンド不織布において適度な融着性を得ることができる。一方、ポリエステル系低融点重合体の融点は、ポリエステル系高融点重合体の融点より140℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下低くすることで、スパンボンド不織布の耐熱性の低下を抑制することができる。
【0032】
なお、ポリエステル系高融点重合体の融点は、200℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。ポリエステル系高融点重合体の融点を好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上とすることにより、耐熱性に優れるフィルターを得ることができる。一方、ポリエステル系高融点重合体の融点を好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下とすることにより、不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下することを抑制することができる。
【0033】
また、ポリエステル系低融点重合体の融点は、160℃以上250℃以下の範囲であることが好ましい。ポリエステル系低融点重合体の融点を好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上とすることにより、プリーツ加工時の熱セット等、プリーツフィルター製造時に熱が加わる工程を通過しても形状保持性に優れる。一方、ポリエステル系低融点重合体の融点を好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下とすることにより、不織布製造時の融着性に優れ、機械的強度に優れるフィルターを得ることができる。
【0034】
また、ポリエステル系高融点重合体とポリエステル系低融点重合体との含有比率は、質量比で90:10〜60:40の範囲であることが好ましく、85:15〜70:30の範囲がより好ましい態様である。ポリエステル系高融点重合体を60質量%以上90質量%以下とすることにより、スパンボンド不織布の剛性と耐熱性を優れたものとすることができる。一方、低融点ポリエステルを10質量%以上40質量%以下とすることにより、融着によりスパンボンド不織布を形成し使用した際、スパンボンド不織布を構成する複合型ポリエステル繊維(フィラメント)同士を強固に融着でき、機械強度に優れ、大風量下での粉塵捕集に十分耐えることができる。
【0035】
複合型ポリエステル繊維の複合形態についても、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等が挙げられ、なかでも、フィラメント同士を均一かつ強固に融着させることができることから複合形態については同心芯鞘型のものが好ましい。さらにそのフィラメント(単繊維)の断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等の形状が挙げられる。なかでも、フィラメント(単繊維)の断面形状としては円形断面の形状のものを用いることが好ましい態様である。
【0036】
本発明のスパンボンド不織布を構成する熱可塑性連続フィラメントの平均単繊維直径は、12μm以上26μm以下の範囲であることが好ましい。熱可塑性連続フィラメントの平均単繊維直径を12μm以上、好ましくは13μm以上、より好ましくは14μm以上とすることで、スパンボンド不織布の通気性を向上させ、圧力損失を低減させることができる。また、熱可塑性連続フィラメントを形成する際に糸切れ回数を低下させ、生産時の安定性を向上させることもできる。一方、熱可塑性連続フィラメントの平均単繊維直径が26μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは24μm以下とすることで、スパンボンド不織布の均一性を向上させ、不織布表面を緻密なものとすることができ、ダストを表層で濾過しやすくするなど、捕集性能を向上させることができる。
【0037】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の平均単繊維直径(μm)は、以下の方法によって求められる値を採用することとする。
(i)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル10個を採取する。
(ii)採取した小片サンプルの表面を走査型電子顕微鏡等で500〜2000倍の範囲で繊維の太さを計測することが可能な写真を撮影する。
(iii)各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維を任意に選び出して、その太さを測定する。繊維は断面が円形と仮定し、太さを単繊維直径とする。
(iv)それらの算術平均値の小数点以下第二位を四捨五入して算出し、平均単繊維直径とした。
【0038】
(スパンボンド不織布の製造方法)
次に、本発明のスパンボンド不織布の製造方法について説明する。本発明のスパンボンド不織布は、下記(a)〜(c)の工程を順次施すことによって製造される。
(a)熱可塑性重合体を紡糸口金から溶融押出した後、これをエアサッカーにより牽引、延伸して熱可塑性連続フィラメントを得る工程。
(b)得られたフィラメントを開繊し、移動するネットコンベアー上に開繊板により繊維配列を規制し堆積させ繊維ウェブを形成する工程。
(c)得られた繊維ウェブに部分的融着を施す工程。
以下に、各工程について、さらに詳細を説明する。
【0039】
(a)熱可塑性連続フィラメント形成工程
まず、熱可塑性重合体を紡糸口金から溶融押出する。特に、熱可塑性連続フィラメントとして、ポリエステル系高融点重合体の周りに当該ポリエステル系高融点重合体の融点よりも低い融点を有するポリエステル系低融点重合体を配した複合型フィラメントを用いる場合には、ポリエステル系高融点重合体と、ポリエステル系低融点重合体を、それぞれ融点以上(融点+70℃)以下で溶融し、ポリエステル系高融点重合体の周りに、そのポリエステル系高融点重合体の融点に対して、10℃以上140℃以下低い融点を有するポリエステル系低融点重合体を配した複合型フィラメントとして、口金温度が融点以上(融点+70℃)以下の紡糸口金で細孔から紡出した後、エアサッカーにより紡糸速度4000m/分以上6000m/分以下で牽引、延伸して円形断面形状のフィラメントを紡糸する。
【0040】
(b)繊維ウェブ形成工程
本発明の不織布は、いわゆるスパンボンド不織布であり、紡糸した熱可塑性連続フィラメントをエジェクターにて吸引し、エジェクターの下部にスリット状を有する開繊板から噴射して移動するネットコンベアー上に堆積させ繊維ウェブを得る工程を有する。
【0041】
なお、複合型ポリエステル繊維を用いた場合であっても、前記のフィラメント(長繊維)からなるスパンボンド不織布であることが重要である。このようにすることで、非連続の繊維で構成された短繊維不織布の場合に比べて、剛性や機械的強度を高めることができ、スパンボンド不織布として好ましいものとすることができる。
【0042】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法では、ネットコンベアー上に捕集した繊維ウェブを、仮融着することも好ましい態様である。仮融着は、捕集した繊維ウェブを一対のフラットロールにより融着したり、ネットコンベアー上にフラットロールを設置し、ネットコンベアーと当該フラットロールとの間で融着したりする方法が好ましく用いられる。
【0043】
仮融着するための融着の温度は、ポリエステル系低融点重合体の融点に対して70℃以上120℃以下低い温度であることが好ましい。このように温度設定することにより、繊維同士を過度に融着させることなく、搬送性を改善することができる。
また、仮融着するための線圧は30kg/cm以上70kg/cm以下であることが好ましい。仮融着するための線圧は30kg/cm以上、より好ましくは40kg/cm以上とすることで、繊維ウェブを次工程に搬送する上で必要な機械的強度を付与することができる。仮融着するための線圧は70kg/cm以下、より好ましくは60kg/cm以下とすることで、繊維同士の過度な融着を防ぐことができる。
【0044】
(c)部分的融着工程
本発明のスパンボンド不織布は部分的に融着されたものであるが、部分的に融着する方法は特に限定されるものではない。ここで、スパンボンド不織布の融着されている部分を融着部、それ以外の融着されていない部分を非融着部と称する。熱エンボスロールによる融着、あるいは超音波発振装置とエンボスロールとの組み合わせによる融着が好ましいものである。特に熱エンボスロールによる融着は、不織布の強度を向上させる点から最も好ましいものである。部分的融着工程は前記ウェブ形成工程から続けて加工されることが好ましい。前記ウェブ形成工程から続けて加工することで、融着部の密度を高くし、スパンボンド不織布としてプリーツ成形性に優れた腰強度の不織布を得ることができる。熱エンボスロールによる融着の温度は、不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点に対して5℃以上60℃以下低いことが好ましく、10℃以上50℃以下低いことがより好ましい。熱エンボスロールによる不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点の温度差を5℃以上、より好ましくは10℃以上とすることで、過度の融着を防ぐことができる。一方、融点の温度差を60℃以下、より好ましくは50℃以下とすることによって、不織布内において均一な融着を行うことができる。
【0045】
また、融着するための線圧は30kg/cm以上90kg/cm以下であることが好ましい。融着するための線圧を30kg/cm以上、より好ましくは40kg/cm以上とすることでスパンボンド不織布として用いた際にプリーツ加工性に必要な強度を不織布に付与することができる。融着するための線圧を90kg/cm以下、より好ましくは80kg/cm以下とすることで、過度の融着を防ぐことができる。
【0046】
本発明のスパンボンド不織布の融着部の面積の割合(以下、単に融着面積率と記載することがある)は、融着部(凹部)の不織布全体の面積に占める割合のことであり、不織布全面積に対して5%以上20%以下が好ましい範囲である。前記融着面積率が5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは8%以上であれば、不織布の機械的強度が十分に得られ、さらに表面が毛羽立ちやすくなることがない。一方、融着面積率が20%以下、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下であれば、繊維間の空隙が少なくなって圧力損失が上昇し、捕集性能が低下することもない。
【0047】
なお、スパンボンド不織布の融着面積率の測定には、デジタルマイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製「VHX−5000」)を用い、スパンボンド不織布の任意の部分から、マイクロスコープの倍率20倍で不織布のMD方向およびCD方向に平行な1.0cm×1.0cmの矩形枠を100箇所とり、100箇所それぞれについて当該面積に対する矩形枠内の融着部の面積を測定して平均値をとり、百分率にして小数点以下第一位を四捨五入したものを融着面積率(%)とする。なお、百分率として表記しない場合は、前記矩形枠内の融着部の面積(cm
2)を矩形枠の面積である1.0cm
2で除した後、小数点以下第三位を四捨五入することで融着面積率を算出することができる。
【0048】
融着部はくぼみを形成しており、不織布を構成する熱可塑性連続フィラメント同士が熱と圧力とによって融着して形成されている。すなわち、他の部分に比べて熱可塑性連続フィラメントが融着して凝集している部分が融着部である。融着する方法として熱エンボスロールによる融着を採用した場合には、エンボスロールの凸部により熱可塑性連続フィラメントが融着して凝集している部分が融着部となる。例えば、上側または下側のみに所定のパターンの凹凸を有するロールを用いて、他のロールは凹凸の無いフラットロールを用いる場合においては、融着部とは凹凸を有するロールの凸部とフラットロールとで融着されて不織布の熱可塑性連続フィラメントが凝集された部分をいう。また、例えば、表面に複数の平行に配置された直線的溝が形成されている一対の上側ロールと下側ロールとからなり、その上側ロールの溝とその下側ロールの溝とがある角度で交叉するように設けられているエンボスロールを用いる場合、融着部とは上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とで融着されて不織布の熱可塑性連続フィラメントが凝集された部分をいう。この場合、上側の凸部と下側の凹部あるいは上側の凹部と下側の凸部とで融着される部分はここでいう融着部には含まれない。
【0049】
融着部の1個あたりの面積としては、0.3mm
2以上5.0mm
2以下が好ましい。0.3mm
2以上とすることで、スパンボンド不織布として十分な機械的強度が得られ、さらに不織布表面の毛羽立ちを押さえることができる。5.0mm
2以下とすることで、スパンボンド不織布としての機械的強度に加え通気性が保持することができ、十分な捕集性能が得られる。
【0050】
本発明のスパンボンド不織布における融着部の形状は特に規定されるものではなく、上側または下側のみに所定のパターンの凹凸を有するロールを用いて、他のロールは凹凸の無いフラットロールを用いる場合や表面に複数の平行に配置された直線的溝が形成されている一対の上側ロールと下側ロールとからなり、その上側ロールの溝とその下側ロールの溝とがある角度で交叉するように設けられているエンボスロールにおいて、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とで融着された場合においても、その融着部の形状は円形、三角形、四角形、平行四辺形、楕円形、菱形などでもよい。これらの融着部分の配列は、特に規定されるものではなく、等間隔に規則的に配されたもの、ランダムに配されたもの、異なる形状が混在したものでもよい。なかでも、不織布の均一性の点から、融着部分が等間隔に配されるものが好ましい。さらに不織布を剥離することなく部分的な融着をする点で、表面に複数の平行に配置された直線的溝が形成されている一対の上側ロールと下側ロールとからなり、その上側ロールの溝とその下側ロールの溝とがある角度で交叉するように設けられているエンボスロールを用い、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とで融着され形成される平行四辺形の融着部が好ましい。
【0051】
(スパンボンド不織布)
本発明のスパンボンド不織布は、不織布のMD方向で40mN以上80mN以下の剛軟度を有する。剛軟度が40mN以上、より好ましくは45mN以上、さらに好ましくは50mN以上であれば、不織布の強度や形態保持性を保ちつつプリーツ加工ができる。一方、80mN以下、より好ましくは75mN以下、さらに好ましくは70mN以下であれば、プリーツ加工時の折たたみ抵抗を緩和し、プリーツの山谷型形状がシャープに仕上がる。
【0052】
本発明における剛軟度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」6.7「剛軟度(JIS法及びISO法)」の6.7.4「ガーレ法(JIS法)」に準じて、以下のようにされて得られた値とする。
(i)試料から長さ38.1mm(有効試料長L=25.4mm)、幅d=25.4mmの試験片を試料の任意の5点から採取する。ここで本発明においては、不織布の長手方向を試料のたて方向とする。
(ii)採取した試験片をそれぞれチャックに取り付け、可動アームA上の目盛り1−1/2”(1.5インチ=38.1mm)に合わせてチャックを固定する。この場合、試料長の1/2”(0.5インチ=12.7mm)はチャックに1/4”(0.25インチ=6.35mm)、試料の自由端にて振子の先端に1/4”(0.25インチ=6.35mm)がかかるため測定にかかる有効試料長Lは試験片長さから1/2”(0.5インチ=12.7mm)差し引いたものとなる。
(iii)次に振り子Bの支点から下部のおもり取付孔a、b、c(mm)に適当なおもりW
a、W
b、W
c(g)を取り付けて可動アームAを定速回転させ、試験片が振り子Bから離れるときの目盛りRG(mgf)を読む。目盛りは小数点以下第一位の桁で読む。ここでおもり取付孔に取り付けるおもりは適宜選択できるものであるが、目盛りRGが4〜6になるよう設定するのが好ましい。
(iv)測定は試験片5点につき表裏各5回、合計50回実施する。
(v)得られた目盛りRGの値から下記式(3)を用いて剛軟度の値を小数点以下第二位で四捨五入してそれぞれ求める。50回の測定の平均値を、小数点以下第二位を四捨五入して算出した値をMD方向の剛軟度とした。
【数1】
【0053】
本発明におけるスパンボンド不織布は不織布断面における凸部の一表面から他表面までの厚さ(t
A)と、凹部の一表面から他表面までの厚さ(t
B)が上式(1)の関係にあるスパンボンド不織布である。上式(1)の値が0.50以上、より好ましくは0.53以上、さらに好ましくは0.55以上であれば、繊維同士の融着が強固になり、集塵機プリーツフィルターとして使用した場合に大風量下でも優れたプリーツ形状保持性が得られる。一方、上式(1)の値が1.00以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.80以下であれば、繊維同士の融着が緩くなり、優れた通気性が得られる。
【0054】
本発明におけるスパンボンド不織布は不織布断面における凸部の一表面から凹部の一表面までの距離をそれぞれ(t
C)、(t
D)(t
C<t
D)とし、上式(2)の関係にあるスパンボンド不織布である。上式(2)の値が0.65以上、より好ましくは0.66以上、さらに好ましくは0.67以上あれば、不織布の凹凸が小さくなり、プリーツ加工時、プリーツの山谷型形状がシャープに仕上がる。一方、上式(2)の値が1.00以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.80以下であれば、不織布内に融着部と非融着部とが共存し、通気性と剛性とのバランスがとれた不織布が得られる。
【0055】
ここで本発明における、本発明における凸部の一表面から他表面までの厚さ(t
A)と、凹部の一表面から他表面までの厚さ(t
B)と上式(1)の値、ならびに、凸部の一表面から凹部の一表面までの距離をそれぞれ(t
C)、(t
D)(t
C<t
D)と上式(2)の値とは以下のようにして求めた値を採用することとする。
【0056】
(i)任意の融着部(凹部)において、MD方向の中心線とCD方向の中心線との交点を融着部(凹部)の中心点とする。
(ii)前記の融着部(凹部)の中心点を通り、CD方向と平行な直線を引く。
(iii)前記の融着部(凹部)の中心点から0.5cm離れた当該直線上の2点を起点として、MD方向に沿って直線を1.0cm引き、その端点同士を結ぶ直線を引く。
(iv)(i)〜(iii)で形成された1.0cm×1.0cmの正方形によって囲まれた領域をカミソリ刃で切り取る。
(v)同様にして、スパンボンド不織布内の任意の場所から1.0cm×1.0cmの測定サンプルを計100個採取する。
(vi)走査型電子顕微鏡(SEM)(例えば、株式会社キーエンス製「VHX−D500」)を用いて、測定サンプル内の融着部を中心として、断面を倍率100倍に調節して観察し撮影する。
(vii)隣接する非融着部(凸部)の最頂部2点より接線を引き、その接線に対する平行線間の距離より、下記のスパンボンド不織布の断面厚さt
A〜t
Dの長さ(t
C<t
D)を測定する。
t
A:一表面から他表面までの非融着部(凸部)最頂部間距離
t
B:一表面から他表面までの融着部(凹部)最頂部間距離
t
C、t
D:一表面の非融着部(凸部)最頂部−融着部(凹部)最頂部間距離(t
C<t
D)
(viii)測定結果からt
B/t
A、t
C/t
Dの比率を算出する。
(ix)各測定サンプルから得られるt
B/t
A、t
C/t
Dの算術平均値を算出し、小数点以下第三位を四捨五入して得られた値を採用する。
【0057】
本発明におけるスパンボンド不織布の目付は、150g/m
2以上300g/m
2以下の範囲であることが好ましい。目付が150g/m
2以上であれば、プリーツに必要な剛性を得ることができ好ましい。一方、目付が300g/m
2以下、好ましくは270g/m
2以下、より好ましくは260g/m
2以下であれば、圧力損失が上昇するのを抑制でき、さらにはコスト面でも好ましい。
【0058】
ここでいう目付は、縦50cm×横50cmのサイズの試料を、3個採取して各質量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値(g)を単位面積(1m
2)当たりに換算し、小数点以下第一位を四捨五入することにより求められる。
【0059】
また、本発明のスパンボンド不織布の目付CV値は5%以下である。好ましくは4.5%以下であり、さらに好ましくは4.0%以下であれば、不織布の均一性向上に伴って不織布を緻密なものとすることができるため、捕集効率が向上し、性能を満足するフィルター寿命が得られやすくなるため、好ましい。一方、スパンボンド不織布の通気量を一定量確保し、圧力損失を小さくすることでフィルター寿命を長くするために、目付CV値が1%以上であることがより好ましい。
【0060】
本発明において、スパンボンド不織布の目付CV値(%)は、次のようにして測定されて得られる値を採用することとする。
(i)スパンボンド不織布から5cm×5cmの小片を計100個採取する。
(ii)各小片の質量(g)をそれぞれ測定し、単位面積(1m
2)当たりに換算する。
(iii)(ii)の換算結果の平均値(W
ave)、標準偏差(W
sdv)をそれぞれ算出する。
(iv)(i)〜(iii)の結果を基に、以下の式により目付CV値(%)を計算し、小数点以下第二位を四捨五入する。
目付CV値(%)=W
sdv/W
ave×100
【0061】
本発明におけるスパンボンド不織布の厚さは、0.50mm以上0.80mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.51mm以上0.78mm以下である。厚さを0.50mm以上とすることにより、剛性を向上させ、フィルターとしての使用に適した不織布とすることができる。また、厚さを0.80mm以下とすることにより、フィルターとしてのハンドリング性や加工性に優れたスパンボンド不織布とすることができる。
【0062】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の厚さ(mm)は、以下の方法によって測定されて得られる値を採用することとする。
(i)厚さ計(例えば、株式会社テクロック製“TECLOCK”(登録商標)SM−114等)を使用して、不織布の厚さをCD方向で等間隔に10点測定する。
(ii)上記算術平均値から小数点以下第3位を四捨五入し、不織布の厚さ(mm)とする。
【0063】
本発明におけるスパンボンド不織布の見掛け密度は、0.25g/cm
3以上0.40g/cm
3以下であることが好ましい。見掛け密度が0.25g/cm
3以上0.40g/cm
3以下であると、スパンボンド不織布は緻密な構造となりダストが内部に入りにくく、ダスト払い落とし性に優れる。より好ましい見掛け密度の範囲は、0.26g/cm
3以上0.38g/cm
3以下の範囲である。
【0064】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の見かけ密度(g/cm
3)は、前記のスパンボンド不織布の目付、厚さの値から以下の式によって求められる値を採用することとする。
見掛け密度(g/cm
3)=目付(g/m
2)/厚さ(mm)/1000
【0065】
本発明におけるスパンボンド不織布の通気量は、10(cm
3/(cm
2・秒))以上130(cm
3/(cm
2・秒))以下であることが好ましい。通気量が10(cm
3/(cm
2・秒))以上、好ましくは、13(cm
3/(cm
2・秒))以上であると、圧力損失が上昇するのを抑制できる。また、目付あたりの通気量が130(cm
3/(cm
2・秒))以下、好ましくは、105(cm
3/(cm
2・秒))以下であると、ダストが内部に滞留しにくいことによりフィルターとして捕集性能が良好である。
【0066】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の通気量(cm
3/(cm
2・秒))は、以下のとおりJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」6.8「通気性(JIS法)」の6.8.1「フラジール形法」に基づいて測定される値を採用することとする。
(i)スパンボンド不織布のCD方向で等間隔に縦150mm×横150mmの試験片を10枚採取する。
(ii)試験機の円筒の一端に試験片を取り付けた後、下限抵抗器によって傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように、吸込みファン及び空気孔を調整し、その時の垂直型気圧計の示す圧力を測る。
(iii)測定した圧力と使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の換算表によって試験片を通過する空気量(cm
3/(cm
2・秒))を求める。
(iv)得られた10点の試験片の通気量の算術平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して、スパンボンド不織布の通気量(cm
3/(cm
2・秒))を算出する。
【0067】
以上説明したように、本発明のスパンボンド不織布は、粉塵の捕集性能と通気性のバランスを両立し、かつ剛性、およびプリーツ加工性に優れるため、集塵機プリーツフィルター用濾材、集塵機プリーツフィルターとして好適に用いることができる。中でも、不織布単体で、流量が300L/分を超えるような大風量下での粉塵捕集と繰り返しの逆洗とに耐えうるプリーツ形状保持性が必要とされる、大風量パルスジェットタイプ集塵機用プリーツフィルター用濾材、大風量パルスジェットタイプ集塵機用フィルターとして、特に好適に用いることができる。このような集塵機プリーツフィルター用濾材は、例えば、前記のスパンボンド不織布をプリーツ形状とすることで得られる。また、この集塵機プリーツフィルター用濾材は、その全体を円筒状にした後に、円筒の上端と下端とが固定されてなる、円筒型集塵機フィルター、または、金属材料や高分子樹脂材料からなる角型や丸型といった枠材の内壁に集塵機プリーツフィルター用濾材の端部が固定されてなる、パネル型集塵機フィルターとすることができる。
【0068】
本発明のパルスジェットタイプ集塵機は、前記の集塵機用プリーツフィルターを使用したものであり、特に、流量300L/分を超えるような大風量下での粉塵捕集と繰り返しの逆洗を行う、大風量パルスジェットタイプ集塵機である。この大風量パルスジェットタイプの集塵機において前記の前記の集塵機フィルターは1つの集塵機フィルターあたりの流量が3.0L/分以上5.0L/分以下、1つの集塵機フィルターにかかる処理空気の圧力が0.5MPa以上0.7MPa以下の雰囲気下で用いられる。
【0069】
本発明のパルスジェットタイプ集塵機は、集塵対象設備からの集塵を濾過する少なくとも1つの集塵機フィルターを備え、集塵機フィルターの内側面に圧縮空気をパルス状に噴射してフィルターの外側面に付着した粉塵を払い落とすパルスジェット機構を備えている。なお、このパルスジェット機構は、集塵機の送風機用モーターが運転している間に稼働することができる、オンラインパルス方式の機構としてもよいし、集塵を中断した状態の間稼働することができる、オフラインパルス方式の機構としてもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって、さらに本発明の詳細を説明する。なお、本実施例により本発明が限定して解釈されるわけではない。
【0071】
[測定方法]
下記の実施例における各特性値は、次の方法で測定したものである。ただし、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0072】
(1)ポリエステルの融点(℃)
示差走査型熱量計として、株式会社パーキンエルマージャパン社製「DSC−2型」を用いた。
【0073】
(2)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルの固有粘度(IV)は、次の方法で測定した。
オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度η
rを、下記式により求めた。
η
r=η/η
0=(t×d)/(t
0×d
0)
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、η
0はオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm
3)、t
0はオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、d
0はオルソクロロフェノールの密度(g/cm
3)を、それぞれ表す。)
次いで、相対粘度η
rから、下記式により固有粘度(IV)を算出した。
固有粘度(IV)=0.0242η
r+0.2634
【0074】
(3)スパンボンド不織布の断面の厚さ(mm)
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX−D500」を用い、前記の方法で測定を行った。
【0075】
(4)スパンボンド不織布の厚さ(mm)
厚さ計として、株式会社テクロック製“TECLOCK”(登録商標)SM−114を使用した。
【0076】
(5)スパンボンド不織布の通気量(cm
3/(cm
2・秒))
通気量の測定には、スイス・テクステスト社製通気性試験機「FX3300−III」を用いて測定した。
【0077】
(6)スパンボンド不織布のMD方向の剛軟度(mN)
不織布のMD方向の剛軟度は、株式会社大栄精機製作所製ガーレ・柔軟度試験機「GAS−10」を用いて測定した。
【0078】
(7)スパンボンド不織布のプリーツ加工性(点)
(1)スパンボンド不織布を240mm幅にカットし、このスパンボンド不織布を150℃に加熱して圧縮しながら、プリーツ成形体の頂点部の稜線から次の頂点部の稜線までの距離が35mmとなるようにプリーツ加工し、プリーツ成形体を得た。
(2)このプリーツ成形体をポリプロピレン製の多孔性円筒形コアに45山巻き、プリーツ成形体の端同士を加熱シールした後、円筒形上の両端に射出成型で作ったキャップを融着させ、プリーツフィルターを作製した。
(3)パネラー20人が作製したプリーツフィルターの外観を目視で確認し、不織布のプリーツ加工性を下記基準の5段階評価で判断した。したがって合計点数は、最低0点から最高100点となり、80点以上を合格と判断した。
5点:非常に良い
(プリーツ成形体の山同士の接触やプリーツ形状に歪みがなく、隣り合う山が平行に直線に並んでいる。)
4点:良い
(5点と3点の中間。)
3点
(プリーツ成形体の山同士の接触はないが、プリーツ形状に歪みがある。)
2点
(3点と1点の中間。)
1点
(プリーツ形状に歪みがあり、プリーツ成形体の山同士が接触している。)
【0079】
(8)プリーツ形状保持性
図3は本発明の実施例にかかるプリーツ形状保持性試験を実施する試験システムの構成を説明するための図である。
図3に示す試験システム31は、試験サンプルをセットするサンプルホルダー32と、圧力計33と、流量計34と、流量調整バルブ35と、ブロワ36とを備える。流量計34、流量調整バルブ35およびブロワ36は、サンプルホルダー32と連結している。この試験システム31では、ブロワ36によりエアーが送られ、エアー吹出口37より矢印38の方向にエアーが排出される。
まず、スパンボンド不織布を山高さが48mmとなるようにプリーツ加工する。次に、
図4のように、プリーツ基材を山ピッチ41が1.3mm、山数が23個となるように、ユニット縦長さ42を30cm、ユニット横長さ43を30cm、ユニット高さ44を48mmとなるような枠材45で囲った評価用ユニットUを3個作成する。枠材45は、測定時に当該枠材45からのエアー漏れが無い素材であれば、特段指定はされない。次に、作成した評価用ユニットUをサンプルホルダー32にセットする。風量を2.0、4.0、5.0、6.0、7.0m
3/min(計5点)となるように流量調整バルブ35で調整し、各流量における圧力損失を測定した。評価用ユニットU3個の圧力損失測定結果の平均値を算出し、風速を横軸、圧力損失を縦軸にとったグラフを作成し線形二乗近似にて決定係数(R
2)を算出し、以下の基準にて判定した。
・プリーツ形状保持性 A: R
2>0.995
・プリーツ形状保持性 B: 0.990≦R
2≦0.995
・プリーツ形状保持性 C: R
2<0.990
プリーツ形状保持性の評価は、Aを良好、BをAに次いで良好、Cを不良とした。なお、表1、表2において、A・B・Cの評価の後のカッコ内の数字は、上記の決定係数(R
2)の値である。
プリーツ形状保持性の高い不織布では、大風量下においても、プリーツが変形せず濾過面積が減少しないため、圧力損失は風量増加に伴い線形的に増加する。そのため、決定係数は1に近くなる。一方、プリーツ形状保持性の低い不織布では、大風量になるに伴いプリーツが風圧によって潰れ有効濾過面積が減少し、圧力損失が上昇するため、線形上昇せず決定係数が低くなる。
【0080】
(9)スパンボンド不織布の毛羽立ち(点)
(1)スパンボンド不織布よりMD方向250mm×CD方向25mmの試料をスパンボンド不織布のCD方向等間隔で5点、スパンボンド不織布の表裏各1枚の計10枚切り取る。
(2)学振型染色物摩耗堅牢度試験機を用いて、荷重300gf、摩耗回数200往復にて摩耗させる。
(3)パネラー20人が試験後のスパンボンド不織布を目視および指で触れた時の風合いで、スパンボンド不織布表面の毛羽立ちを下記基準の5段階評価で判断した。それぞれのパネラーの判断した合計の点数で、スパンボンド不織布の毛部立ち性を評価した。したがって合計点数は、最低0点から最高100点となり、80点以上を合格と判断した。
5点:非常にいい
(スパンボンド不織布表面に毛羽が発生しておらず、指で触れた際にスパンボンド不織布表面がさらさらした触感であり、指に抵抗を感じない。)
4点:良い
(5点と3点の中間。)
3点:普通
(スパンボンド不織布表面に毛羽が発生していないが、指で触れた際にスパンボンド不織布表面にざらざらしたような触感があり、指に抵抗を感じる。)
2点:悪い
(3点と1点の中間。)
1点:非常に悪い
(スパンボンド不織布表面に毛羽が発生し、指で触れた際にスパンボンド不織布表面にざらざらしたような触感があり、指に抵抗を感じる。)
【0081】
(10)スパンボンド不織布の目付(g/m
2)
スパンボンド不織布の目付は、前記の方法で算出した。
【0082】
(11)不織布の見掛け密度
スパンボンド不織布の見掛け密度は前記の方法で算出した。
【0083】
(12)スパンボンド不織布の目付CV値(%)
スパンボンド不織布の目付CV値は、前記の方法で算出した。
【0084】
(13)熱可塑性連続フィラメントの平均単繊維直径(μm)
熱可塑性連続フィラメントの平均単繊維直径は、株式会社キーエンス製「VHX−D500」の走査型電子顕微鏡を用いて前記の方法で算出した。
【0085】
(14)スパンボンド不織布の捕集効率(%)
図5は本発明の実施例にかかる捕集性能試験を実施する試験システムの構成を説明するための図である。
図5に示す試験システム51は、試験サンプルMをセットするサンプルホルダー52と、流量計53と、流量調整バルブ54と、ブロワ55と、ダスト供給装置56と、切替コック57と、パーティクルカウンター58とを備える。流量計53、流量調整バルブ54、ブロワ55およびダスト供給装置56は、サンプルホルダー52と連結している。流量計53は、流量調整バルブ54を介してブロワ55に接続している。サンプルホルダー52には、ブロワ55の吸気によって、ダスト供給装置56からダストが供給される。サンプルホルダー52にパーティクルカウンター58を接続し、切替コック57を介して、試験サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。まず、不織布の任意の部分から、15cm×15cmのサンプルを3個採取し、採取した試験サンプルMをサンプルホルダー52にセットする。試験サンプルの評価面積は、115cm
2とした。捕集性能の測定にあたっては、ポリスチレン0.309U 10重量%溶液(ナカライテスク株式会社製)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト供給装置56に充填した。風量をフィルター通過速度が3.0m/minになるように流量調整バルブ54で調整し、ダスト濃度を2万〜7万個/(2.83×10
−4m
3(0.01ft
3))の範囲で安定させ、試験サンプルMの上流のダスト個数および下流のダスト個数をパーティクルカウンター58(リオン株式会社製、KC−01D)でダスト粒径0.3〜0.5μmの範囲についてそれぞれ測定した。得られた値を下記計算式に代入して求めた数値の小数点以下第一位を四捨五入し捕集性能(%)を求めた。
捕集性能(%)=〔1−(D1/D2)〕×100
ここで、D1:下流のダスト個数(3回の合計)、D2:上流のダスト個数(3回の合計)である。
【0086】
(15)圧力損失(Pa)
上記捕集性能測定時の試験サンプルMの上流と下流との静圧差を圧力計59で読み取り、3サンプルから得られた値の平均値の小数点以下第1位を四捨五入して算出した。
【0087】
[使用した樹脂]
次に、実施例・比較例において使用した樹脂について、その詳細を記載する。
・ポリエステル系樹脂A:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.65で融点が260℃の、ポリエチレンテレフタレート(PET)
・ポリエステル系樹脂B:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.64、イソフタル酸共重合率が11mol%で融点が230℃の、共重合ポリエチレンテレフタレート(CO−PET)
【0088】
[実施例1]
前記のポリエステル系樹脂Aと前記のポリエステル系樹脂Bとを、それぞれ295℃と280℃の温度で溶融させた。その後、ポリエステル系樹脂Aを芯成分、ポリエステル系樹脂Bを鞘成分として、口金温度が295℃で、芯:鞘=80:20の質量比率で細孔から紡出した後、エアサッカーにより紡糸速度4900m/分で円形断面形状のフィラメントを紡糸し、移動するネットコンベアー上に開繊板により繊維配列を規制し堆積させ、平均単繊維直径が14.8μmの繊維からなる繊維ウェブを捕集した。捕集した繊維ウェブに、一対のフラットロールからなるカレンダーロールによって、温度が140℃で、線圧が50kg/cmの条件で仮融着した。さらに引き続いて、融着面積率10%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールを用い、上下のエンボスロールの温度をともに200℃として、繊維ウェブにかかる線圧が70kg/cmとなる条件で融着させて、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.67、0.68、目付CV値は3.3%、シート厚さは0.74mm、MD方向の剛軟度は53mNであった。結果を表1に示す。
【表1】
【0089】
[実施例2]
上下のエンボスロールの温度を、ともに200℃から180℃に変更し、融着したこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.53、0.66、目付CV値は3.4%、シート厚さは1.02mm、MD方向の剛軟度は57mNであった。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例3]
上下のエンボスロールの温度を、ともに200℃からそれぞれ180℃、210℃に変更し、融着したこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dはそれぞれ0.70、0.82、目付CV値は3.3%、シート厚さは0.93mm、MD方向の剛軟度は61mNであった。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例4]
上下のエンボスロールを、融着面積率10%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールから融着面積率6%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールに替えて用いたこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.79、0.66、目付CV値は3.5%、シート厚さは1.21mm、MD方向の剛軟度は73mNであった。結果を表1に示す。
【0092】
[実施例5]
上下のエンボスロールを、融着面積率10%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールから融着面積率18%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロール替えて用いたこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.68、0.73、目付CV値は3.2%、シート厚さは0.73mm、MD方向の剛軟度は41mNであった。結果を表1に示す。
【0093】
[実施例6]
平均単繊維直径が24.6μmとなるよう吐出量、紡出速度を変更した一方、目付を実施例1と同じにするためネットコンベアーの速度を変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.52、0.69、目付CV値は4.3%、シート厚さは0.96mm、MD方向の剛軟度は53mNであった。結果を表1に示す。
【0094】
[実施例7]
平均単繊維直径が12.5μmとなるよう吐出量、紡出速度を変更した一方、目付を実施例1と同じにするためネットコンベアーの速度を変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.67、0.69、目付CV値は2.7%、シート厚さは0.61mm、MD方向の剛軟度は42mNであった。結果を表1に示す。
【0095】
得られたスパンボンド不織布の特性は表1に示したとおりであり、実施例1〜7のスパンボンド不織布は、いずれもMD方向の剛軟度が41mN以上、目付CV値が3.5%以下であり、剛性や目付均一性に優れ、圧力損失が50Pa以下、捕集効率が50%以上とフィルター基材として良好な特性を有したスパンボンド不織布であった。また、プリーツ加工性、プリーツ形状保持性および毛羽立ち性の結果も、プリーツ加工性は87点以上、プリーツ形状保持性B以上、毛羽立ち性も87点以上と、いずれも良好であった。
【0096】
[比較例1]
実施例1の製造工程において、捕集した繊維ウェブを仮融着する工程とエンボスロールを用いて融着する工程との間に、仮融着する工程で得られたシートを一度巻き取った後に室温まで冷却させ、このシートをエンボスロールに送る工程を設けるように変えたこと、すなわち、エンボスロールを用い融着する工程を仮融着工程に引き続いて行わないようにしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.40、0.69、目付CV値は3.4%、シート厚さは0.72mm、MD方向の剛軟度は37mNであった。結果を表2に示す。
【表2】
【0097】
[比較例2]
上下のエンボスロールを、融着面積率10%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールから、融着面積率15%、融着部1個あたりの面積が0.5mm
2となる彫刻ロールとフラットロールからなるエンボスロールに替えて、融着したこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.61、0.45、目付CV値は3.2%、シート厚さは0.61mm、MD方向の剛軟度は25mNであった。結果を表2に示す。
【0098】
[比較例3]
上下のエンボスロールを、融着面積率10%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールから、融着面積率3%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールに替えて、融着したこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.79、0.62、目付CV値は3.5%、シート厚さは1.13mm、MD方向の剛軟度は85mNであった。結果を表2に示す。
【0099】
[比較例4]
上下のエンボスロールを、融着面積率10%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールから、融着面積率24%、融着部1個あたりの面積が1.6mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールに替えて、融着したこと以外は、実施例1と同じ条件として、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.65、0.55、目付CV値は3.2%、シート厚さは0.62mm、MD方向の剛軟度は21mNであった。結果を表2に示す。
【0100】
[比較例5]
平均単繊維直径が29.2μmとなるよう吐出量、紡出速度を変更した一方、目付を実施例1と同じにするためネットコンベアーの速度を変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.45、0.68、目付CV値は5.2%、シート厚さは1.01mm、MD方向の剛軟度は81mNであった。結果を表2に示す。
【0101】
[比較例6]
平均単繊維直径が11.2μmとなるよう吐出量、紡出速度を変更した一方、目付を実施例1と同じにするためネットコンベアーの速度を変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.70、0.69、目付CV値は2.6%、シート厚さは0.53mm、MD方向の剛軟度は36mNであった。結果を表2に示す。
【0102】
[比較例7]
前記のポリエステル系樹脂Aと前記のポリエステル系樹脂Bとを、それぞれ295℃と280℃の温度で溶融させた。その後、ポリエステル系樹脂Aを芯成分とし、ポリエステル系樹脂Bを鞘成分として、口金温度が300℃で、芯:鞘=80:20の質量比率で細孔から紡出した後、エアサッカーにより紡糸速度4400m/分で円形断面形状のフィラメントを紡糸し、エアサッカー出口に設置された金属衝突板へフィラメントを衝突させ、摩擦帯電により繊維を帯電して開繊させ、平均単繊維直径が14.8μmの繊維からなる繊維ウェブを移動するネットコンベアー上に捕集した。さらに引き続いて、融着面積率18%、融着部1個あたりの面積が0.7mm
2となる一対の彫刻ロールからなるエンボスロールによって、上下のエンボスロールの温度を205℃とし、繊維ウェブにかかる線圧が70kg/cmとなる条件で融着し、目付が260g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布のシート断面厚さの1−t
B/t
Aとt
C/t
Dとはそれぞれ0.61、0.57、目付CV値は10.5%、シート厚さは0.51mm、MD方向の剛軟度は25mNであった。結果を表2に示す。
【0103】
得られた不織布の特性は、表1、2に示したとおりであるが、比較例1は、シート断面厚さ(1−t
B/t
A)が低く毛羽立ち性が劣位であった。比較例2、3、4、7はシート断面厚さ(t
C/t
D)が低く、プリーツ加工性が劣位であった。比較例2の片面彫刻ロールにより融着を実施したものでは、剛軟度が低くなり、プリーツ加工性、プリーツ形状保持性が劣位であった。比較例3の融着面積率3%のエンボスロールで融着を実施したものでは、厚さが厚くなり、MD方向の剛軟度が高くなりすぎ、プリーツ加工性が劣位であった。比較例4の融着面積率24%のエンボスロールで融着を実施したものでは、厚さが薄いため、MD方向の剛軟度が低く、プリーツ加工性、プリーツ形状保持性が劣位であった。比較例5の実施例1と同条件で平均単繊維直径を太くしたものでは、厚さが厚くなり、MD方向の剛軟度が高く、プリーツ加工性が劣位であった。比較例6の実施例1と同条件で平均単繊維直径を細くしたものでは、厚さが薄いため、剛軟度が低く、プリーツ加工性、プリーツ形状保持性が劣位であった。
本発明のスパンボンド不織布は、高融点成分と低融点成分とからなる熱可塑性連続フィラメントから構成されるスパンボンド不織布であって、当該スパンボンド不織布のMD方向の剛軟度が40mN以上80mN以下であり、不織布断面において、非融着の凸部の一表面から他表面までの厚さt