(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記油剤混合液が、前記油剤に前記水を添加して得られるものであり、前記油剤に対する前記水の添加速度が、該油剤100質量部に対して9質量部/分以上8,700質量部/分以下である、請求項1に記載の炭素繊維前駆体用油剤処理液の製造方法。
前記油剤が、ヒドロキシ安息香酸エステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステル及びシリコーンオイルからなる群より選ばれる1種以上の油を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維前駆体用油剤処理液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[炭素繊維前駆体用油剤処理液の製造方法]
本発明の炭素繊維前駆体用油剤処理液(以下、「油剤処理液」ともいう。)の製造方法は、下記工程(2)を有する。
工程(2):油剤と水とを含有し、粘度が1.3Pa・s以上500Pa・s以下である油剤混合液を、攪拌翼を用いて羽根先端速度0.1m/s以上7.0m/s以下で、1分以上攪拌し、平均粒子径が0.1μm以上0.9μm以下である油滴を含むO/W型エマルションを得る工程
【0011】
一般に、炭素繊維前駆体用油剤処理液を製造する過程でO/W型エマルションを製造する際には、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーといった混合機を用い、油剤と水との混合液(以下、「油剤混合液」ともいう。)に対し高剪断力、高機械力を加えることで微細乳化させることができる。
一方、パドル翼やタービン翼等の通常の攪拌翼を用いた攪拌による低剪断力、低機械力を加えるだけでは、水中に油剤を微細乳化させることは困難である。
しかし、本発明では、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の粘度を有する油剤混合液を用いることで、例えば、パドル翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼、プロペラ等の攪拌翼を用い、低機械力であっても油剤を水中に微細乳化し得る。
以下、本発明の製造方法で用いられる工程及び成分等について順次説明する。
【0012】
<工程(2)>
はじめに、本発明が有する工程(2)について説明する。
工程(2)は、油剤と水とを含有し、粘度が1.3Pa・s以上500Pa・s以下である油剤混合液を調製し、該油剤混合液を、攪拌翼を用いて羽根先端速度0.1m/s以上7.0m/s以下で、1分以上攪拌し、平均粒子径が0.1μm以上0.9μm以下である油滴を含むO/W型エマルションを得る工程である。
本発明の製造方法は、該工程(2)を有することで、油剤が水中に微細乳化した油剤処理液を製造することが可能となる。
【0013】
ここで、「油剤混合液」は、該混合液自体がO/W型エマルションの状態である場合もあり得るが、「油剤混合液」の場合は、該油剤混合液中の油滴の平均粒子径は0.9μmを超える。
一方、本発明で、工程(2)で得られる「O/W型エマルション」とは、後述する実施例に記載の方法で測定される液中の油滴の平均粒子径が、0.1μm以上0.9μm以下である水系乳化液を指す。そして、当該O/W型エマルションは、炭素繊維前駆体用油剤処理液に用いられるO/W型エマルションである。
【0014】
(油剤混合液)
前記油剤混合液は、粘度が1.3Pa・s以上500Pa・s以下である。
本明細書中、該油剤混合液中の油滴の「平均粒子径」及び該油剤混合液の「粘度」は、それぞれ、例えば、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
該油剤混合液の粘度が、1.3Pa・s以上であると、該油剤混合液に1分間以上の撹拌翼の剪断力を加えることにより、平均粒子径0.1μm以上0.9μmのO/W型エマルションにすることができる。また、該油剤混合液の粘度が、500Pa・s以下であると、攪拌翼を用いても0.1m/s以上7.0m/s以下の羽根先端速度で攪拌を行って、目的の平均粒子径を有する油滴を含むO/W型エマルションを得ることが可能となる。
このような観点から、該油剤混合液の粘度は、好ましくは1.5Pa・s以上、より好ましくは1.8Pa・s以上、更に好ましくは2.0Pa・s以上、より更に好ましくは2.1Pa・s以上であり、そして、好ましくは250Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以下、更に好ましくは60Pa・s以下、より更に好ましくは30Pa・s以下である。
油剤混合液の粘度を、1.3Pa・s以上500Pa・s以下にするには、後述するように、油剤と水との混合質量比率、油剤と界面活性剤との質量比、油剤中のシリコーン油と炭化水素系エステル油との質量比等により適宜調整することができる。
なお、前記油剤混合液の粘度としては、油剤と水とを含有する油剤混合液を測定すればよいが、粘度の測定誤差を低減する観点から、撹拌開始から1分以上撹拌後の粘度を用いることが好ましい。
【0015】
また、前記油剤混合液の攪拌は、攪拌翼を用いて、攪拌時の羽根先端速度は0.1m/s以上7.0m/s以下で1分間以上行われる。
該羽根先端速度が、0.1m/s以上であれば、十分に微細乳化されたO/W型エマルションが得られる。また。該羽根先端速度が、7.0m/s以下であれば、より低機械力での混合が可能となる。
このような観点から、該攪拌翼の羽根先端速度は、好ましくは0.3m/s以上、より好ましくは0.4m/s以上、更に好ましくは0.5m/s以上であり、そして、好ましくは5.0m/s以下、より好ましくは4.0m/s以下、更に好ましくは3.0m/s以下である。
撹拌時間は、油剤混合液に剪断力を加えて、平均粒子径が0.1μm以上0.9μmである油滴を含むO/W型エマルションにする観点から、1分間以上、好ましくは5分間以上、より好ましくは9分間以上、更に好ましくは10分間以上であり、生産性の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
また、前記攪拌翼としては、前記羽根先端速度範囲で攪拌可能であればよく、例えば、前述したパドル翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼、プロペラ等を用いることができる。本発明における羽根先端速度とは、撹拌翼の先端周速を意味し、例えば複数の撹拌翼を用いる場合には、撹拌装置内の最も大きな撹拌翼(主撹拌翼)の外周部の周速を意味する。
【0016】
また、前記油剤混合液を攪拌する際の油剤混合液の温度は、O/W型エマルションを効率よく得る観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下である。
【0017】
〔油剤〕
前記油剤としては、好ましくは炭素繊維前駆体用の油剤として用いられる油剤、より好ましくは炭化水素系エステル油及びシリコーン油から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記炭化水素系エステル油としては、好ましくはヒドロキシ安息香酸エステル及びシクロヘキサンジカルボン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上である。
したがって、前記油剤としては、更に好ましくはヒドロキシ安息香酸エステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステル及びシリコーンオイルからなる群より選ばれる1種以上の油を含む油剤、より更に好ましくはヒドロキシ安息香酸エステル及びシクロヘキサンジカルボン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上の油を含む油剤、より更に好ましくはヒドロキシ安息香酸エステル及びシクロヘキサンジカルボン酸エステルを含む油剤である。
【0018】
{ヒドロキシ安息香酸エステル}
前記ヒドロキシ安息香酸エステル(以下、「成分(A)」ともいう。)は、好ましくは下記一般式(1)で表されるヒドロキシ安息香酸エステルである。
【0020】
一般式(1)中、R
1は炭素数8以上20以下の炭化水素基を示す。
R
1の炭素数が8以上であれば、成分(A)の熱的安定性を良好に維持することができ、耐炎化工程で前駆体繊維束中の各繊維同士が融着することを十分に防止することができるため好ましい。また、R
1の炭素数が20以下であれば、成分(A)の粘度が高くなりすぎず、成分(A)の固形化が抑制されて、成分(A)を含む油剤が微分散したエマルションが調製し易くなり、得られる油剤処理液が前駆体繊維束に均一に付着するため好ましい。
このような観点から、R
1の炭素数は、好ましくは11以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは14以上であり、そして、好ましくは19以下、より好ましくは18以下である。
R
1が取り得る前記炭化水素基としては、好ましくは、炭素数8以上20以下のアルキル基、炭素数8以上20以下のアルケニル基、及び炭素数8以上20以下のアルキニル基からなる群より選ばれる1種、より好ましくは炭素数8以上20以下のアルキル基又は炭素数8以上20以下のアルケニル基、更に好ましくは炭素数8以上20以下のアルケニル基が挙げられ、これらの炭化水素基が有する炭素数の好適範囲も前述したとおりである。また、該炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよい。
【0021】
R
1が取り得る前記アルキル基としては、例えば、2−エチルヘキシル基、1−メチルヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種ノナデシル基、及び各種イコシル基等が挙げられる。
R
1が取り得る前記アルケニル基としては、例えば、各種オクテニル基、各種ノネニル基、各種デセニル基、各種ウンデセニル基、各種ドデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ペンタデセニル基、各種ヘキサデセニル基、各種ヘプタデセニル基、各種オクタデセニル基、各種ノナデセニル基、及び各種イコセニル基等が挙げられる。
R
1が取り得る前記アルキニル基としては、例えば、各種オクチニル基、各種ノニニル基、各種デシニル基、各種ウンデシニル基、各種ドデシニル基、各種トリデシニル基、各種テトラデシニル基、各種ヘキサデシニル基、各種オクタデシニル基、各種ノナデシニル基、及び各種イコシニル基等が挙げられる。
ここで、「各種・・・基(「・・・」には置換基名が入る。)」の記載は、直鎖状、分岐状、環状、及びこれらの異性体までを含めた所定の炭素数を有する官能基を含むことを意味する。例えば、「各種オクタデシル基」には、n−オクタデシル基、イソオクタデシル基等が含まれる。また、アルケニル基であれば、二重結合の位置、並びに、cis型、trans型のいずれの構造をも含み、アルキニル基についても同様である。以下、本明細書中で「各種・・・基(「・・・」には置換基名が入る。)」の記載について、特に言及しない限り、同様である。
R
1が取り得る前記炭化水素基としては、前述した中では、好ましくは炭素数14以上20以下のアルケニル基であり、より好ましくは各種オクタデセニル基であり、更に好ましくはオレイル基である。
また、一般式(1)で表されるヒドロキシ安息香酸エステルは、単独で用いてもよく、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0022】
成分(A)は、例えば、ヒドロキシ安息香酸(以下、「成分(a1)」ともいう。)と、1価の脂肪族アルコール(以下、「成分(a2)」ともいう。)、好ましくは炭素数8以上20以下の1価の脂肪族アルコールとを、無触媒又は錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒の存在下で縮合反応させることで得ることができる。該縮合反応は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。該縮合反応時の反応温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。
該縮合反応に供する成分(a1)の量と成分(a2)の量との比〔a2/a1〕は、モル比で、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。なお、エステル化触媒を用いる場合は、縮合反応後、触媒を不活性化して、吸着剤により除去することが好ましい。
【0023】
前記油剤中、成分(A)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
また、成分(A)中、一般式(1)で表されるヒドロキシ安息香酸エステルの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、そして、より更に好ましくは100質量%である。
また、前記油剤中、一般式(1)で表されるヒドロキシ安息香酸エステルの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0024】
{シクロヘキサンジカルボン酸エステル}
前記シクロヘキサンジカルボン酸エステル(以下、「成分(B)」ともいう。)は、好ましくは下記一般式(2)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸エステル(以下、「成分(B1)」ともいう。)及び下記一般式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸エステル(以下、「成分(B2)」ともいう。)からなる群より選ばれる1種以上であり、耐炎化工程で気散せずに安定して前駆体繊維束の表面に残存しやすい点から、より好ましくは下記一般式(2)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸エステルである。
【0026】
一般式(2)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数8以上22以下の炭化水素基を示す。R
4は、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた残基、又は炭素数2以上10以下の2価の炭化水素基を示す。
【0027】
一般式(2)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数8以上22以下の炭化水素基を示す。
R
2及びR
3の炭素数が8以上であれば、耐炎化工程で前駆体繊維束中の各繊維同士が融着することを十分に防止することができるため好ましい。また、R
2及びR
3の炭素数が22以下であれば、成分(B1)の粘度が高くなりすぎず、成分(B1)の固形化が抑制されて、成分(B1)を含む油剤が微分散したエマルションが調製し易くなり、得られる油剤処理液が前駆体繊維束に均一に付着するため好ましい。
このような観点から、R
2及びR
3の炭素数は、それぞれ独立に、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは15以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
R
2及びR
3は、互いに同じ構造であってもよく、互いに異なる構造であってもよく、好ましくはR
2及びR
3は、互いに同じ構造である。
【0028】
R
2及びR
3が取り得る前記炭化水素基としては、それぞれ独立に、好ましくは、炭素数8以上22以下のアルキル基、炭素数8以上22以下のアルケニル基、及び炭素数8以上22以下のアルキニル基からなる群より選ばれる1種、より好ましくは炭素数8以上22以下のアルキル基又は炭素数8以上22以下のアルケニル基、更に好ましくは炭素数8以上22以下のアルケニル基が挙げられ、これらの炭化水素基が有する炭素数の好適範囲も前述したとおりである。また、該炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよい。
R
2及びR
3が取り得る前記アルキル基としては、例えば、前述のR
1が取りうる各種アルキル基に加えて、更に、各種ヘンイコシル基、及び各種ドコシル基が挙げられる。
R
2及びR
3が取り得る前記アルケニル基としては、例えば、前述のR
1が取りうる各種アルケニル基に加えて、更に、各種ヘンイコセニル基、及び各種ドコセニル基が挙げられる。
R
2及びR
3が取り得る前記アルキニル基としては、例えば、前述のR
1が取りうる各種アルキニル基に加えて、更に、各種ヘンイコシニル基、及び各種ドコシニル基が挙げられる。
R
2及びR
3が取り得る前記炭化水素基としては、前述した中では、それぞれ独立に、好ましくは炭素数15以上20以下のアルケニル基であり、より好ましくは各種オクタデセニル基であり、更に好ましくはオレイル基であり、更に好ましくはR
2及びR
3が共にオレイル基である。
【0029】
一般式(2)中、R
4は、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた残基、又は炭素数2以上10以下の2価の炭化水素基を示す。
R
4がポリオキシアルキレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた残基の場合は、その残基を構成するオキシアルキレン基の炭素数が2以上、又はR
4が炭化水素基の場合は、その炭素数が2以上であれば、シクロヘキシル環に付加されたカルボキシル基とエステル化し、2つのシクロヘキシル環の間を架橋し、熱的安定性の高い物質を得やすくなるため好ましい。
また、R
4がポリオキシアルキレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた残基の場合は、その残基を構成するオキシアルキレン基の炭素数が4以下であれば、又はR
4が炭化水素基の場合は、その炭素数が10以下であれば、一般式(2)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸エステルの粘度が高くなりすぎず、該シクロヘキサンジカルボン酸エステルの固形化が抑制されて、該シクロヘキサンジカルボン酸エステルを含む油剤が微分散したエマルションが調製し易くなり、得られる油剤処理液が前駆体繊維束に均一に付着するため好ましい。
R
4がポリアルキレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた残基の場合、その残基を構成するオキシアルキレン基の炭素数は好ましくは4である。
また、R
4が炭化水素基の場合は、炭素数は好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、そして、好ましくは8以下、より好ましくは7以下である。
【0030】
成分(B1)は、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸(以下、「成分(b1)」ともいう。)と、炭素数8以上22以下の1価の脂肪族アルコール(以下、「成分(b2)」ともいう。)と、炭素数2以上10以下の多価アルコール及びオキシアルキレン基の炭素数が2以上4以下であるポリオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれる1種以上(以下、「成分(b3)」ともいう。)との縮合反応により得られる。
したがって、一般式(2)中のR
2及びR
3は、脂肪族アルコールに由来する。
【0031】
一般式(2)中のR
4は、オキシアルキレン基の炭素数が2以上4以下であるポリオキシアルキレングリコール、又は炭素数2以上10以下の多価アルコールに由来する。
R
4がポリオキシアルキレングリコールに由来する場合、R
4は、ポリオキシアルキレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた残基であり、例えば、−(OA)
pb−1−A−で表わされる2価の基である(ここで、OAは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基、Aは炭素数2以上4以下のアルキレン基、pbはポリオキシアルキレングリコール1分子中に含まれるオキシアルキレン基の数を示す。)。pbは、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシブチレン基が挙げられる。
【0032】
R
4が炭素数2以上10以下の多価アルコールに由来する場合、R
4は、直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基が好ましく、例えば、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基の任意の炭素原子から水素原子を1つ取除いた2価の基が好ましく挙げられる。炭素数は、前述のとおり、好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、そして、好ましくは8以下、より好ましくは7以下である。
R
4に係る前記アルキル基としては、例えば、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−エチルヘキシル基、各種ノニル基、各種デシル基が挙げられる。
R
4に係る前記アルケニル基としては、例えば、各種エテニル基、各種プロペニル基、各種ブテニル基、各種ペンテニル基、各種ヘキセニル基、各種ヘプテニル基、各種オクテニル基、各種ノネニル基、各種デセニル基等が挙げられる。
R
4に係る前記アルキニル基としては、例えば、各種エチニル基、各種プロピニル基、各種ブチニル基、各種ペンチニル基、各種へキシニル基、各種へプチニル基、各種オクチニル基、各種ノニニル基、各種デシニル基等が挙げられる。
【0033】
成分(B1)は、例えば、成分(b1)と、成分(b2)と、成分(b3)とを、無触媒又は錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒の存在下で縮合反応させることで得ることができる。該縮合反応は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。該縮合反応時の反応温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。
該縮合反応に供する成分(b1)の量と成分(b2)の量との比〔b2/b1〕は、副反応を抑制する観点から、モル比で、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.4以下、更に好ましくは1.2以下である。
また、該縮合反応に供する成分(b1)の量と成分(b3)の量との比〔b3/b1〕は、副反応を抑制する観点から、モル比で、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.55以下である。
【0034】
また、該縮合反応に供する前記各成分の量の組合せとしては、いずれもモル比で、前記比〔b2/b1〕が0.8以上1.6以下、かつ前記比〔b3/b1〕が0.2以上0.6以下が好ましく、前記比〔b2/b1〕が0.9以上1.4以下、かつ前記比〔b3/b1〕が0.3以上0.55以下がより好ましく、前記比〔b2/b1〕が0.9以上1.2以下、かつ前記比〔b3/b1〕が0.4以上0.55以下が更に好ましい。
【0035】
また、縮合反応に供するアルコール成分中、成分(b2)の量と、成分(b3)の量との比〔b3/b2〕は、モル比で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.6以下である。
【0036】
成分(b1)としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のいずれでもよいが、合成のし易さ、耐熱性の点で、好ましくは1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。
成分(B1)のシクロヘキサンジカルボン酸部分の原料はシクロヘキサンジカルボン酸であってもよく、シクロヘキサンジカルボン酸の無水物(酸無水物)であってもよく、また、シクロヘキサンジカルボン酸と炭素数1以上3以下の短鎖アルコールとのエステルであってもよい。炭素数1以上3以下の短鎖アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノールが挙げられる。
当該エステルとしては、好ましくは前述した各シクロヘキサンジカルボン酸と炭素数1以上3以下の短鎖アルコールとのエステルであり、より好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる1種以上と1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とのエステル、更に好ましくは1,4−シクロヘキサンジカルボン酸メチルである。
【0037】
成分(b2)の炭素数は8以上22以下である。炭素数が8以上であれば、成分(B1)の熱的安定性を良好に維持できるため、耐炎化工程で前駆体繊維束中における各繊維同士の融着を防止する効果が得られる。また、炭素数が22以下であれば、成分(B1)の粘度が高くなりすぎず、成分(B1)の固形化が抑制されて、成分(B1)を含む油剤が微分散したエマルションが調製し易くなり、得られる油剤処理液が前駆体繊維束に均一に付着するため好ましい。
成分(b2)の炭素数は、同様の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは15以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0038】
成分(b2)としては、例えば、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール等のアルキルアルコール;オクテニルアルコール、ノネニルアルコール、デセニルアルコール、ウンデセニルアルコール、ドデセニルアルコール、テトラデセニルアルコール、ペンタデセニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、ヘプタデセニルアルコール、オクタデセニルアルコール、ノナデセニルアルコール、イコセニルアルコール、ヘンイコセニルアルコール、ドコセニルアルコール、オレイルアルコール、ガドレイルアルコール、2−エチルデセニルアルコール等のアルケニルアルコール;オクチニルアルコール、ノニニルアルコール、デシニルアルコール、ウンデシニルアルコール、ドデシニルアルコール、トリデシニルアルコール、テトラデシニルアルコール、ヘキサデシニルアルコール、ステアリニルアルコール、ノナデシニルアルコール、エイコシニルアルコール、ヘンイコシニルアルコール、ドコシニルアルコール等のアルキニルアルコール;等が挙げられる。これらの中でも油剤を水中に分散させた油剤処理液の調製のし易さ、紡糸工程において繊維搬送ローラーへ付着した場合に搬送ローラーに繊維が巻き付くなどの工程障害が起こりにくく、かつ所望の耐熱性を有するという、ハンドリング・工程通過性・性能のバランスから、好ましくはオレイルアルコールである。
これら脂肪族アルコールは、単独で用いてもよく、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0039】
前記炭素数2以上10以下の多価アルコールは、脂肪族アルコールでもよく、芳香族アルコールでもよく、また、飽和アルコールであってもよく、不飽和アルコールであってもよい。
該多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−イソプロピル−1,4−ブタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の2価アルコール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、グリセリン等の3価アルコール;等が挙げられる。均一に油剤を前駆体繊維束に付着させる観点から、好ましくは2価アルコールであり、より好ましくは3−メチル−1,5−ペンタンジオールである。
【0040】
前記オキシアルキレン基の炭素数が2以上4以下であるポリオキシアルキレングリコールは、オキシアルキレン基の炭素数が2以上4以下の繰り返し単位を有し、2つのヒドロキシ基を有し、好ましくは分子の両末端にヒドロキシ基を有する。オキシアルキレン基の炭素数が2以上であれば、成分(B1)の熱的安定性を良好に維持できるので、耐炎化工程で前駆体繊維束中の各繊維同士が融着することを十分に防止することができる。また、オキシアルキレン基の炭素数が4以下であれば、成分(B1)の粘度が高くなりすぎず、成分(B1)の固形化が抑制されて、成分(B1)を含む油剤が微分散したエマルションが調製し易くなり、得られる油剤処理液が前駆体繊維束に均一に付着するため好ましい。
【0041】
前記ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等が挙げられる。オキシアルキレン基の平均付加モル数は、均一に油剤を繊維に付着させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
前記炭素数2以上10以下の多価アルコール及びオキシアルキレン基の炭素数が2以上4以下であるポリオキシアルキレングリコールは、両方用いてもよく、いずれか一方を用いてもよい。
【0044】
一般式(3)中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、炭素数8以上22以下の炭化水素基を示す。
R
5及びR
6の炭素数が8以上であれば、耐炎化工程で前駆体繊維束中の各繊維同士が融着することを十分に防止することができるため好ましい。また、R
5及びR
6の炭素数が22以下であれば、成分(B2)の粘度が高くなりすぎず、成分(B2)の固形化が抑制されて、成分(B2)を含む油剤が微分散したエマルションが調製し易くなり、得られる油剤処理液が前駆体繊維束に均一に付着するため好ましい。
このような観点から、R
5及びR
6の炭素数は、それぞれ独立に、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは15以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
R
5及びR
6は、互いに同じ構造であってもよく、互いに異なる構造であってもよい。
【0045】
R
5及びR
6が取り得る前記炭化水素基としては、それぞれ独立に、好ましくは、炭素数8以上22以下のアルキル基、炭素数8以上22以下のアルケニル基、及び炭素数8以上22以下のアルキニル基からなる群より選ばれる1種が挙げられ、これらの炭化水素基が有する炭素数の好適範囲も前述したとおりである。また、該炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよい。
R
5及びR
6が取り得る前記アルキル基、前記アルケニル基及び前記アルキニル基としては、それぞれ、例えば、前述のR
2及びR
3が取り得る前記アルキル基、前記アルケニル基及び前記アルキニル基について例示した各基と同様のものが挙げられる。
【0046】
成分(B2)は、例えば、成分(b1)と、成分(b2)とを、無触媒又は錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒の存在下で縮合反応させることで得ることができる。該縮合反応は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。該縮合反応時の反応温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。
該縮合反応に供する成分(b1)の量と成分(b2)の量との比〔b2/b1〕は、モル比で、好ましくは1.8以上、より好ましくは1.9以上であり、そして、好ましくは2.2以下、より好ましくは2.1以下である。
なお、エステル化触媒を用いる場合は、縮合反応後に、触媒を不活性化して、吸着剤により除去することが好ましい。
【0047】
成分(B2)の原料となり得る成分(b1)は、成分(B1)の原料となり得る成分(b1)として例示したものと同様であり、その好適な態様も同様である。
また、成分(B2)の原料となり得る成分(b2)は、成分(B1)の原料となり得る成分(b2)として例示したものと同様であり、その好適な態様も同様である。
【0048】
なお、成分(B)1分子中のシクロヘキシル環の数は、得られる油剤の粘度が低く、水中に分散し易くなり、かつ、得られるO/W型エマルションの安定性が良好になるため、好ましくは1又は2である。
また、成分(B1)及び成分(B2)は、それぞれ独立に、単独で又は2種以上を組合せて用いてもよく、成分(B1)の1種以上と成分(B2)の1種以上とを組合せて用いてもよい。
【0049】
前記油剤中、成分(B)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
また、成分(B)中、成分(B1)及び成分(B2)からなる群より選ばれる1種以上の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、そして、より更に好ましくは100質量%である。
また、前記油剤中、成分(B1)及び成分(B2)からなる群より選ばれる1種以上の合計含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0050】
{シリコーンオイル}
前記シリコーンオイル(以下、「成分(C)」ともいう。)としては、例えば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンが挙げられ、好ましくはアミノ変性シリコーンである。
当該アミノ変性シリコーンとしては、好ましくは25℃における動粘度が50mm
2/s以上500mm
2/s以下であり、かつアミノ当量が2,000g/mol以上8,000g/mol以下であるアミノ変性シリコーン(I)、又は下記一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーン(II)が挙げられる。
【0051】
アミノ変性シリコーン(I)の25℃における動粘度が50mm
2/s以上であると、前駆体繊維束に十分な集束性を付与することができるため好ましい。また、該動粘度が500mm
2/s以下であると、油剤処理液の調製がし易く、より安定な油剤処理液が得られるため好ましい。
このような観点から、前記25℃における動粘度は、より好ましくは80mm
2/s以上、更に好ましくは120mm
2/s以上であり、そして、より好ましくは300mm
2/s以下、更に好ましくは200mm
2/s以下である。
当該動粘度は、JIS Z8803:2011に規定されている“液体の粘度測定方法”、又はASTM D 445−46Tに準拠して測定される値であり、例えば、ウベローデ粘度計を用いて測定できる。
【0052】
また、アミノ変性シリコーン(I)のアミノ当量が2,000g/mol以上であると、アミノ変性シリコーン1分子中のアミノ基の数が多くなりすぎず、アミノ変性シリコーンが十分な熱安定性を有し、紡糸工程及び焼成工程でトラブルを起こしにくいため好ましい。また、該アミノ当量が8,000g/mol以下であると、シリコーン1分子中のアミノ基の数が少なくなりすぎず、アミノ変性シリコーンが前駆体繊維束と十分馴染み、油剤が均一に付着するため好ましい。したがって、前記アミノ当量が前記範囲内であれば、前駆体繊維束との馴染みやすさと、アミノ変性シリコーンの熱安定性を両立できるため好ましい。
このような観点から、前記アミノ当量は、より好ましくは2,500g/mol以上、更に好ましくは3,000g/mol以上であり、そして、より好ましくは7,000g/mol以下、更に好ましくは6,000g/mol以下である。
当該アミノ当量は、実施例に記載の方法により求められる。
【0053】
アミノ変性シリコーン(II)は、下記一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーンである。
【0055】
一般式(4)中、X及びYは、それぞれ独立に、メチル基、水酸基又はアミノ基を示す。
一般式(4)中、m及びnは、それぞれ独立に、1以上の任意の数であり、sは、1以上5以下の数であり、ジメチルシロキサンユニットとメチルアミノアルキルシロキサンユニットはランダムでもブロックでもよい。すなわち、一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーンは、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。また、nが2以上の任意の数である場合、複数存在するsは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0056】
一般式(4)中、mは1以上の任意の数であることが好ましく、より好ましくは10以上、更に好ましくは50以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。
一般式(4)中、nは1以上の任意の数であることが好ましく、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。
一般式(4)中のm及びnが前記範囲内であれば、前記油剤が十分な耐熱性を得ることができる。
また、mが10以上であると、前記油剤が十分な耐熱性が得られ、単繊維間の融着を効果的に防止することができるためより好ましい。そして、mが300以下であれば、油剤処理液の調製が容易となり、より安定な油剤処理液が得られるため好ましい。
また、nが2以上であると、前駆体繊維束と十分な親和性が得られ、単繊維間の融着を効果的に防止することができるため好ましい。そして、nが10以下であると、前記油剤が十分な耐熱性を有するため、単繊維間の融着を防止することができるため好ましい。
一般式(4)中、sは好ましくは2以上4以下であり、より好ましくは3である。すなわち、一般式(4)中のアミノ変性部(アミノアルキル基)がアミノプロピル基であることがより好ましい。
なお、一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーン(II)は、複数の化合物の混合物である場合もある。したがって、m、n、及びsは、それぞれ独立に、整数でない数である場合もあり得る。
【0057】
また、一般式(4)中のm、n、及びsの値は、それぞれ、アミノ変性シリコーン(II)の25℃における動粘度が50mm
2/s以上500mm
2/s以下であり、かつアミノ当量が2,000g/mol以上8,000g/mol以下となる値を取ることが更に好ましい。すなわち、一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーン(II)は、25℃における動粘度が50mm
2/s以上500mm
2/s以下、かつアミノ当量が2,000g/mol以上8,000g/mol以下であることが更に好ましい。
一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーン(II)の25℃における動粘度は、前述した理由と同様の観点から、より好ましくは80mm
2/s以上、更に好ましくは120mm
2/s以上であり、そして、より好ましくは300mm
2/s以下、更に好ましくは200mm
2/s以下である。
また、一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーン(II)のアミノ当量は、前述した理由と同様の観点から、より好ましくは2,500g/mol以上、更に好ましくは3,000g/mol以上であり、そして、より好ましくは7,000g/mol以下、更に好ましくは6,000g/mol以下である。
なお、一般式(4)で表されるアミノ変性シリコーン(II)が、25℃における動粘度が50mm
2/s以上500mm
2/s以下、かつアミノ当量が2,000g/mol以上8,000g/mol以下であるアミノ変性シリコーンである場合、当該アミノ変性シリコーン(II)は、前記アミノ変性シリコーン(I)に含まれる。
【0058】
一般式(4)中のm及びnは、アミノ変性シリコーンの動粘度及びアミノ当量からの推算値として概算することができる。
m及びnを求める手順は、まず、アミノ変性シリコーンの動粘度を測定し、測定された動粘度の値からA.J.Barryの式(logη=1.00+0.0123M
0.5、(η:25℃における動粘度、M:分子量))により分子量を算出する。次いで、この分子量とアミノ当量から、1分子あたりの平均のアミノ基数nが求まる。分子量及びn及びsが定まることでmの値を決定することができる。
【0059】
前記油剤が、成分(C)を含む場合、前記油剤中、成分(C)の含有量は、前駆体繊維束に十分な集束性を付与する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下、より更に好ましくは70質量%以下である。
また、成分(C)は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0060】
前記油剤は、該油剤が微分散したO/W型エマルションを調製し易くする観点から、該油剤100質量部に対して水を0.3質量部以上含有し得る油剤であることが好ましい。このような観点から、前記油剤は、該油剤100質量部に対して水をより好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは5.0質量部以上、より更に好ましくは10質量部以上含有し得る油剤である。
また、該油剤を得る観点から、該油剤が含有する各油が、それぞれ独立に、該油100質量%に対して水を0.3質量部以上含有し得る油であることが好ましい。
なお、該油及び油剤が含有し得る水の量を、それぞれ、「油の含水可能量」及び「油剤の含水可能量」ともいう。当該油の含水可能量の上限値としては、例えば、該油100質量部に対して好ましくは50質量部である。また、当該油剤の含水可能量の上限値としては、例えば、該油剤100質量部に対して好ましくは50質量部である。
【0061】
前記油剤は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)以外の油を含有していてもよい。該油としては、例えば、脂肪族エステルを含有していてもよい。
前記油剤中、成分(A)、成分(B)及び成分(C)からなる群より選ばれる1種以上の合計含有量は、前記油剤中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。また、当該合計含有量は、より更に好ましくは100質量%である。
【0062】
また、前記油剤混合液中、前記油剤の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは24質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
【0063】
また、前記油剤中、成分(A)の含有量と、成分(B)の含有量との比〔A/B〕は、質量比で、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは2.3以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.1以下である。
前記油剤中、シリコーン油と炭化水素系エステル油との質量比(シリコーン油/炭化水素系エステル油)は、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の油剤混合液を作製し、攪拌翼を用いて微細乳化されたO/W型エマルションを得る観点から、好ましくは0/100以上、より好ましくは10/90以上、更に好ましくは20/80以上、より更に好ましくは30/70以上、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
また、前記油剤中、成分(A)と(B)との合計含有量と、成分(C)の含有量との比〔C/(A+B)〕は、質量比で、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の油剤混合液を作製し、攪拌翼を用いて微細乳化されたO/W型エマルションを得る観点から、好ましくは0/100以上、より好ましくは10/90以上、更に好ましくは20/80以上、より更に好ましくは30/70以上、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0064】
〔水〕
前記油剤混合液が含有する水としては、例えば、脱イオン水、イオン交換水及び蒸留水からなる群より選ばれる1種以上が好ましく用いられる。
【0065】
前記油剤混合液中、水の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。
また、油剤混合液中の、油剤と水との質量比(油剤/水)は、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の油剤混合液を作製し、攪拌翼を用いて微細乳化されたO/W型エマルションを得る観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは30/70以上であり、そして、好ましくは80/20以下、より好ましくは70/30以下、更に好ましくは60/40以下である。
また、前記油剤が、成分(C)を含有しない場合、前記油剤混合液中、水の含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは57質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。
また、前記油剤が、成分(C)を含有する場合、前記油剤混合液中、水の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0066】
また、前記油剤混合液を調製する際、前記油剤に対する水の添加速度は、前記油剤100質量部に対して、好ましくは9質量部/分以上、より好ましくは10質量部/分以上、更に好ましくは20質量部/分以上、より更に好ましくは100質量部/分以上であり、そして、好ましくは8,700質量部/分以下、より好ましくは5,000質量部/分以下、更に好ましくは3,000質量部/分以下、より更に好ましくは1,500質量部/分以下である。
【0067】
また、前記油剤に対して水を添加する際、前記油剤に対して無撹拌下で水を添加することもできる。攪拌しながら水を添加する場合は、撹拌は攪拌翼を用いて行うことが好ましく、該攪拌翼を用いる場合、攪拌時の攪拌翼の羽根先端速度が、好ましくは0.1m/s以上、より好ましくは0.3m/s以上、更に好ましくは0.5m/s以上であり、そして、好ましくは7.0m/s以下、より好ましくは5.0m/s以下、更に好ましくは3.0m/s以下、より更に好ましくは1.0m/s以下である。
該攪拌時に用いる攪拌翼としては、例えば、前述した攪拌翼を用いることができる。
【0068】
〔界面活性剤〕
前記油剤混合液は、攪拌翼を用いて微細乳化されたO/W型エマルションを得る観点から、更に、界面活性剤を含有することが好ましい。
油剤混合液中の界面活性剤と油剤との質量比(界面活性剤/油剤)は、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の油剤混合液を作製し、攪拌翼を用いて微細乳化されたO/W型エマルションを得る観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは25/75以上であり、そして、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下、更に好ましくは50/50以下である。
前記油剤混合液は、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の油剤混合液を作製し、攪拌翼を用いて微細乳化されたO/W型エマルションを得る観点から、当該界面活性剤として、より好ましくは非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上を含有し、更に好ましくは非イオン性界面活性剤及びカチオン界面活性剤を共に含有する。
【0069】
{非イオン性界面活性剤}
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪族エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤;グリセロールの脂肪族エステル、ペンタエリストールの脂肪族エステル、ソルビトールの脂肪族エステル、ソルビタンの脂肪族エステル、ショ糖の脂肪族エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等の多価アルコール型非イオン性界面活性剤;等が挙げられる。
これらの非イオン性界面活性剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0070】
前記非イオン性界面活性剤としては、好ましくは下記一般式(5)で表されるプロピレンオキサイドユニットとエチレンオキサイドユニットとを有するブロック共重合型ポリエーテル、及び下記一般式(6)で表されるエチレンオキサイドユニットを有するポリオキシエチレンのアルキルエーテルからなる群より選ばれる1種以上、より好ましくは下記一般式(6)で表されるエチレンオキサイドユニットを有するポリオキシエチレンのアルキルエーテルである。
【0072】
一般式(5)中、R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上24以下の炭化水素基を示す。該炭化水素基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
R
7及びR
8は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドとの均衡、油剤混合液が含むその他成分を考慮して決定されるが、好ましくは水素原子又は炭素数1以上5以下の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、より好ましくは水素原子である。
R
7及びR
8が好ましい態様として取り得る前記炭素数1以上5以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基が挙げられる。
一般式(5)中、x及びzはエチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、yはプロピレンオキサイドの平均付加モル数を示す。
x、y、zは、それぞれ独立して、1以上500以下であり、好ましくは20以上300以下である。また、x及びzの合計と、yとの比〔(x+z)/y〕が、好ましくは60/40以上90/10以下の範囲である。
【0073】
また、前記ブロック共重合型ポリエーテルは、熱的安定性と水への分散性を共に有することが可能となる観点から、数平均分子量が、好ましくは3,000以上20,000以下である。
更に、前記ブロック共重合型ポリエーテルは、得られる油剤処理液の過剰な繊維内部への浸透を防ぎ、かつ前駆体繊維束に付与した後の乾燥工程において、得られる油剤処理液の粘度の影響で搬送ローラー等に単繊維が取られて巻きつくなどの工程障害が起こりにくくなる観点から、100℃における動粘度が、好ましくは300mm
2/s以上15,000mm
2/s以下である。
該動粘度は、JIS Z8803:2011に規定されている“液体の粘度測定方法”、又はASTM D 445−46Tに準拠して測定される値であり、例えば、ウベローデ粘度計を用いて測定できる。
【0075】
一般式(6)中、R
9は炭素数10以上20以下の炭化水素基を示す。
該炭素数が10以上であると、十分な熱的安定性を有すると共に、適切な親油性を発現しやすくなる。また、炭素数が20以下であると、非イオン性界面活性剤の粘度が高くなりすぎず、非イオン性界面活性剤が液体であるため、十分な作業性を維持できる。また、親水基とのバランスがよく、十分な乳化安定性が得られる。
R
9が取り得る炭化水素基としては、好ましくは炭素数10以上20以下のアルキル基、又は炭素数10以上20以下のシクロアルキル基、より好ましくは炭素数10以上20以下のアルキル基である。該炭化水素基がアルキル基の場合、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、好ましくは直鎖状である。
R
9が取り得る前記アルキル基としては、例えば、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種ノナデシル基、及び各種イコシル基等が挙げられる。これらの中でも、前記油剤混合液を効率よく乳化するために、該非イオン性界面活性剤以外の成分と馴染みやすい適度な親油性を付与できる観点から、好ましくは各種ドデシル基、より好ましくはラウリル基である。
【0076】
一般式(6)中、tはエチレンオキシドの平均付加モル数を示し、3以上20以下である。tが3以上であると、水と十分に馴染みやすく、十分な乳化安定性が得られる。また、tが20以下であると、粘性が高くなりすぎず、油剤混合液の構成成分として用いた場合、得られる油剤処理液が付着した前駆体繊維束が十分に分繊し易くなる。
このような観点から、tは、好ましくは5以上、より好ましくは8以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
なお、R
9は親油性に関与する要素であり、tは親水性に関与する要素である。したがって、tの値は、R
9との組合せにより適宜決定することができる。
【0077】
前記非イオン性界面活性剤としては、市販品を用いることもでき、例えば、前記一般式(5)で表される非イオン性界面活性剤としては、三洋化成工業株式会社製の「ニューポール(登録商標)PE−128」、「ニューポール(登録商標)PE−68」、BASFジャパン株式会社製の「Pluronic(登録商標)PE6800」、株式会社ADEKA製の「アデカ(登録商標)プルロニック L−44」、「アデカ(登録商標)プルロニック P−75」等が好ましい例として挙げられる。
また、前記一般式(6)で表される非イオン性界面活性剤としては、花王株式会社製の「エマルゲン(登録商標)105」、「エマルゲン(登録商標)109P」、日光ケミカルズ株式会社製の「NIKKOL(登録商標)BL−9EX」、「NIKKOL(登録商標)BS−20」、日本エマルジョン株式会社製の「EMALEX(登録商標)707」等が好ましい例として挙げられる。
【0078】
前記非イオン性界面活性剤を用いる場合、予め前記油剤に添加して、前記油剤と該非イオン性界面活性剤とを含む油剤組成物を調製した後、前記水を添加して、該非イオン性界面活性剤を含有する油剤混合液を調製してもよい。
または、前記水に予め添加して該非イオン性界面活性剤を含む水溶液を調製した後、該水溶液を前記油剤に添加して、該非イオン性界面活性剤を含有する油剤混合液を調製してもよい。
【0079】
前記油剤混合液中、前記非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは13質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0080】
また、前記非イオン性界面活性剤を前記油剤に予め添加して用いる場合、該油剤と該非イオン性界面活性剤とを含有する油剤組成物中、該非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
また、該油剤組成物が、成分(C)を含有しない場合、該油剤組成物中、該非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
また、該油剤組成物が、成分(C)を含有する場合、該油剤組成物中、該非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
【0081】
また、前記非イオン性界面活性剤を前記水に予め添加して用いる場合、該非イオン性界面活性剤を含有する水溶液中、該非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0082】
{カチオン性界面活性剤}
前記カチオン性界面活性剤としては、好ましくはアミン塩型のカチオン性界面活性剤及び第4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上、より好ましくは下記一般式(7)で表される第4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤である。
【0084】
一般式(7)中、R
10は、炭素数8以上12以下のアルキル基を示す。R
11〜R
13は、それぞれ独立に、炭素数8以上12以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、より好ましくはR
11〜R
13のうち少なくとも2つはヒドロキシアルキル基であり、更に好ましくはR
11〜R
13のうち2つはヒドロキシアルキル基であり、かつ残りの1つが炭素数1以上3以下のアルキル基であり、より更に好ましくはR
11及びR
12がそれぞれ独立にヒドロキシアルキル基であり、かつR
13が炭素数1以上3以下のアルキル基である。Z
−は、陰イオンを示し、好ましくはハロゲンイオン又は炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオンを示す。
【0085】
R
10が取り得る前記炭素数8以上12以下のアルキル基としては、例えば、2−エチルヘキシル基、1−メチルヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基等が挙げられる。これらの中でも、R
10が取り得る前記炭素数8以上12以下のアルキル基としては、前記油剤混合液を効率よく乳化するため、また、前記ヒドロキシ安息香酸エステルと馴染みやすい適度な親油性を付与できる観点から、好ましくは各種ドデシル基、より好ましくはラウリル基である。
R
11〜R
13が取り得る前記炭素数8以上12以下のアルキル基としては、R
10が取り得る炭素数8以上12以下のアルキル基と同様のものが挙げられる。
また、R
11〜R
13が好ましい態様として取り得る前記炭素数1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
また、R
11〜R
13が取り得る前記ヒドロキシアルキル基としては、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基を有するヒドロキシアルキル基が挙げられ、該炭素数1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。R
11〜R
13が取り得る前記ヒドロキシアルキル基としては、より好ましくは、ヒドロキシエチル基である。
また、Z
−が取りうるハロゲンイオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等が挙げられる。また、Z
−が取りうる炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオンの炭素数1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、好ましくはエチル基である。
【0086】
一般式(7)で表されるカチオン性界面活性剤としては、好ましくは、ラウリルエチルジエタノールアンモニウムエチル硫酸塩が挙げられる。
これらのカチオン性界面活性剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0087】
前記油剤混合液が該カチオン性界面活性剤を含有する場合、前述の油剤に予め添加して用いるのが好ましい。前記油剤と該カチオン性界面活性剤とを含有する油剤組成物を調製した後、前記工程(2)で用いる水を添加した油剤混合液を調製するのが好ましい。
【0088】
前記油剤混合液中、該カチオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
【0089】
また、該カチオン性界面活性剤を前記油剤に予め添加して用いる場合、該油剤と該カチオン性界面活性剤とを含有する油剤組成物中、該カチオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0090】
(O/W型エマルション)
工程(2)で得られるO/W型エマルションは、0.1μm以上0.9μm以下の平均粒子径を有する油滴を含む。
該油滴は、前述の油剤又は油剤組成物が、工程(2)を経て、水中に微分散したものである。
該油滴の平均粒子径は、好ましくは0.2μm以上であり、そして、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.6μm以下、更に好ましくは0.5μm以下である。
また、工程(2)で得られるO/W型エマルションの粘度は、好ましくは1.0Pa・s以上、より好ましくは3.0Pa・s以上、更に好ましくは4.0Pa・s以上であり、そして、好ましくは250Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以下、更に好ましくは60Pa・s以下である。
該O/W型エマルション中の油滴の平均粒子径及び該O/W型エマルションの粘度は、それぞれ、実施例に記載の方法により求められる。
【0091】
<工程(1)>
また、本発明の製造方法は、工程(2)の前に、下記工程(1)を有することが好ましい。
工程(1):油を単独で又は2種以上の油を混合して油剤を得る工程
【0092】
工程(1)は、油を単独で、又は2種以上の油を混合して油剤を得る工程である。
該油としては、好ましくは炭素繊維前駆体用の油として用いられる油であり、より好ましくは、成分(A)、成分(B)及び成分(C)が挙げられる。
また、必要に応じて、工程(1)で、更に、前記界面活性剤等の成分を混合して油剤組成物を調製してもよい。
なお、工程(1)で、当該油剤組成物を調製する場合、工程(1)を「工程(1)’」ともいう。また、工程(2)で油剤として当該油剤組成物を用いる場合、工程(2)を「工程(2)’」ともいう。更に、後述する工程(3)において、工程(2)で得られるO/W型エマルションとして、当該工程(2)’で得られるO/W型エマルションを用いる場合、工程(3)を「工程(3)’」ともいう。
本明細書中、工程(1)は、「予備混合工程」ともいう。
工程(1)で油を混合する場合、その混合方法としては、例えば、工程(2)で油剤と水とを混合する方法と同様の方法が挙げられる。
【0093】
<工程(3)>
また、本発明の製造方法は、工程(2)の後に、更に、下記工程(3)を有することが好ましい。
工程(3):工程(2)で得られたO/W型エマルションに、更に水を配合し、前記油剤混合液から水を除いた液の含有量が、炭素繊維前駆体用油剤処理液中、好ましくは0.5質量%以上40質量%以下となるように希釈する工程
ここで、「油剤混合液から水を除いた液」とは、油剤が油以外の成分を含まない場合は油剤を表し、油剤が油以外の成分、例えば、前記界面活性剤又は後述するその他成分を含有する油剤組成物である場合は該油剤組成物を表す。
【0094】
該油剤混合液から水を除いた液の含有量は、油剤処理液中、好ましくは0.5質量%以上40質量%以下である。該含有量が、0.5質量%以上であれば、必要な量の油剤を前駆体繊維束に付与し易くなる。また、該含有量が40質量%以下であれば、油剤処理液の安定性に優れ、O/W型エマルションの破壊が起こり難い。
このような観点から、該含有量は、油剤処理液中、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0095】
[炭素繊維前駆体用油剤処理液]
本発明の製造方法を用いて得られる炭素繊維前駆体用油剤処理液は、前述の工程(2)で得られたO/W型エマルションをそのまま用いてもよく、好ましくは前記工程(2)に続けて、更に、前記工程(3)を有する製造方法を用いて得られるものである。
該油剤処理液が含有する各成分及びその好適な態様、並びに各成分の含有量及びその好適範囲は、前述の炭素繊維前駆体用油剤処理液の製造方法で用いる各成分について説明した内容と同様である。
【0096】
前記油剤処理液は、0.1μm以上0.9μm以下の平均粒子径を有する油滴を含む。該油滴は、前述の油剤又は油剤組成物が、少なくとも工程(2)を経て、水中に微分散したものである。
該油滴の平均粒子径は、好ましくは0.2μm以上であり、そして、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.6μm以下、更に好ましくは0.5μm以下である。
該平均粒子径の値は、実施例に記載の方法により求められる。
【0097】
〔その他成分〕
前記油剤処理液は、前述した各成分に加えて、必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、浸透剤等のその他成分を更に含有してもよい。
前記油剤処理液が、その他成分を含有する場合、その他成分は、前述の油剤に予め添加してもよく、前記油剤に対して工程(2)で用いる水と共に添加してもよく、前記油剤混合液に対して添加してもよく、工程(2)で得られるO/W型エマルションに対して工程(3)で用いる希釈水と共に添加してもよく、又は工程(3)で得られる油剤処理液に対して添加してもよい。その他成分としては、好ましくは、工程(2)で得られるO/W型エマルションに対して工程(3)で用いる希釈水と共に添加する。
前記油剤処理液が、その他成分を含有する場合、その他成分の含有量は、それぞれ独立に、前記油剤処理液中、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
前記油剤処理液が、その他成分を含有する場合、その他成分の合計含有量は、前記油剤処理液中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0098】
また、前記油剤処理液は、炭素繊維用前駆体を炭素繊維とするための製造過程で用いられる。例えば、炭素繊維前駆体用繊維の処理に用いることができ、好ましくはポリアクリロニトリル系繊維等の炭素繊維前駆体アクリル繊維を処理する用途で好適に用いることができる。そして、前記油剤処理液は、より好ましくは、前述の耐炎化工程及び炭素化工程を備える炭素繊維の製造装置で炭素繊維前駆体アクリル繊維を処理する場合に用いることができる。
【実施例】
【0099】
次に示す実施例又は比較例中、用いた原料、及び得られた油剤、油剤組成物、油剤混合液及び油剤処理液等の各性状等については次の方法により測定、評価した。
【0100】
[油及び油剤の含水可能量]
測定する油又は油剤と等量のイオン交換水をサンプル瓶に採取してミックスローターを用いて混合し、25℃、24時間静置した。その後、分相した液の油相側の液を含水可能量測定用の測定用試料として採取した。
当該測定用試料を用いて、油又は油剤の含水量を、JIS K0113:2005に規定されているカールフィッシャー滴定方法(電量滴定方法)に準拠して測定した。
【0101】
[アミノ変性シリコーンの25℃における動粘度]
JIS Z8803:2011に規定されている“液体の粘度測定方法”に準拠し、ウベローデ粘度計を用いて測定した。
【0102】
[アミノ変性シリコーンのアミノ当量]
次式により、算出される値を用いた。
アミノ当量(g/mol)=重量平均分子量(Mw)/1分子あたりの窒素原子数
なお、当該重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで、ポリスチレンを標準物質として求めたポリスチレン換算の値である。
また、1分子あたりの窒素原子数は、元素分析法により求められた値である。
【0103】
[油剤組成物、油剤混合液、及びO/W型エマルションの粘度]
工程(2)で油剤に水を混合する直前の油剤組成物の粘度、工程(2)で水を添加して得られた油剤混合液の粘度、及び工程(2)で得られたO/W型エマルションの粘度は、次のように測定した。
表2又は3に記載の羽根先端速度で当該油剤組成物を攪拌しながら、表2又は表3に記載した量及び速度でイオン交換水を添加して油剤混合液を調製した。該イオン交換水を全量添加した時点から、前記羽根先端速度を維持したまま該油剤混合液を1分攪拌した後、一旦、攪拌を止め、攪拌容器の上部より油剤混合液を採取して、粘度測定用サンプル(i)とした。また、同様の方法で10分攪拌して採取した粘度測定用サンプル(ii)及び120分攪拌して採取した粘度測定用サンプル(iii)も準備した。
工程(2)で油剤に水を混合する直前の油剤組成物、該粘度測定用サンプル(i)〜(iii)は攪拌容器から採取した直後に、次の装置及び条件で測定を行った。
・測定装置:レオメーター「MCR300」(Anton−Paar社製)
・測定温度:25℃
・剪断速度:29.2[1/s]
なお、前記粘度測定用サンプル(i)〜(iii)のうち、次に示す方法で測定される油滴の平均粒子径が、0.9μm超であるサンプルの粘度を油剤混合液の粘度とし、また、同様に次に示す方法で測定される油滴の平均粒子径が0.9μm以下であるサンプルの粘度をO/W型エマルションの粘度とした。
【0104】
[油剤混合液、O/W型エマルション中の油滴及び油剤処理液中の油滴の平均粒子径]
前記粘度測定用サンプル(i)〜(iii)中の油滴の平均粒子径、及び工程(3)を経て得られた油剤処理液中の油滴の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA−920」、株式会社堀場製作所製、相対屈折率1.2)を用いて測定した。
【0105】
[油剤処理液の製造]
実施例1
(工程(1):予備混合工程)
水を除く各成分の配合割合が下記表1に示す割合となるようにヒドロキシ安息香酸エステルとシクロヘキサンジカルボン酸エステルとを混合した油剤(含水可能量は17.5質量%)に、更に、非イオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤とを加えて、パドル翼を備えたアジホモミキサーを用い、羽根先端速度が0.53m/sとなるようにホモミキサーは作動させずパドル翼のみを用いて攪拌して混合し、油剤組成物を調製した。
(工程(2):乳化工程)
次に、工程(1)で得られた油剤組成物の濃度が49質量%となるように、油剤組成物を前記パドル翼の羽根先端速度が0.53m/sとなるようにパドル翼のみを用いて撹拌しながらイオン交換水を0.17分(油剤100質量部に対して、1059質量部/分)で加えて、イオン交換水の添加完了時点から、同一の羽根先端速度で120分攪拌して乳化し、O/W型エマルションを得た。
工程(2)で得られたO/W型エマルション中の油滴の平均粒子径は0.49μmであった。
(工程(3):希釈工程)
その後、油剤組成物の濃度が30質量%となるように、更にイオン交換水を添加して前記O/W型エマルションを希釈し、炭素繊維前駆体用油剤処理液を得た。当該油剤処理液中の油滴の平均粒子径は0.48μmであった。
なお、工程(1)〜(3)の操作は、油剤混合物、O/W型エマルション及び油剤処理液の温度が25℃となるように調整しながら行った。
【0106】
【表1】
【0107】
各実施例及び各比較例での油剤処理液の製造に際し使用した、前記各化合物の詳細は次のとおりである。
・ヒドロキシ安息香酸エステル(成分(A)):前記一般式(1)中、R
1が、オクタデセニル基(オレイル基)であり、下記構造式で表されるヒドロキシ安息香酸エステル。含水可能量は25質量%。
【0108】
【化8】
【0109】
なお、該ヒドロキシ安息香酸エステルは、次に示す方法を用いて合成した。
1Lの四つ口フラスコに、4−ヒドロキシ安息香酸207g(1.5モル)と、オレイルアルコール486g(1.8モル)と、触媒としてオクチル酸スズ0.69g(0.1質量%)とを秤取り、窒素吹き込み下、200℃で6時間、更に220℃で5時間エステル化反応を行った。
その後、230℃、666.61Paの減圧下でスチームを吹き込みながら過剰のアルコール除去を行い、75℃程度まで冷却し、85質量%リン酸0.43gを加え30分攪拌を続けた後、濾過を行い、前記構造を有するヒドロキシ安息香酸エステルを得た。
【0110】
・シクロへキサンジカルボン酸エステル(成分(B)):前記一般式(2)中、R
2及びR
3が、共に、オクタデセニル基(オレイル基)であり、R
4が、−CH
2−CH
2−CH(CH
3)−CH
2−CH
2−である、下記構造式で表されるシクロへキサンジカルボン酸エステル。含水可能量は0.3質量%。
【0111】
【化9】
【0112】
なお、該シクロへキサンジカルボン酸エステルは、次に示す方法を用いて合成した。
1Lの四つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸メチル(小倉合成工業株式会社製)240g(1.2モル)と、オレイルアルコール(新日本理化株式会社製、商品名:リカコール90B)324g(1.2モル)と、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(和光純薬工業株式会社製)70.8g(0.6モル)と、触媒としてジブチルスズオキシド(和光純薬工業株式会社製)0.32gとを秤取り、窒素吹き込み下、200℃程度で脱メタノール反応を行った。このときのメタノール留出量は76gであった。
その後、75℃程度まで冷却し、85質量%リン酸(和光純薬工業株式会社製)0.33gを加え30分攪拌を続け、反応系が白濁した事を確認し、更に吸着剤(協和化学工業株式会社製、商品名:「キョーワード(登録商標)600S」)1.1gを加え30分間攪拌した後、濾過を行い、前記構造を有するシクロへキサンジカルボン酸エステルを得た。
・シリコーンオイル(成分(C)):25℃における動粘度が150mm
2/s、アミノ当量が5,000g/molであるアミノ変性シリコーン。含水可能量は0.8質量%。
【0113】
・非イオン性界面活性剤:「エマルゲン(登録商標)109P」(商品名、花王株式会社製、一般式(6)中、R
9がラウリル基、tが9である化合物。)
・カチオン性界面活性剤:「エレクトロストリッパー(登録商標)KS−48」(商品名、花王株式会社製、一般式(7)中、R
10がラウリル基、R
11及びR
12がヒドロキシエチル基、R
13がエチル基、Z
−がエチル硫酸イオンである化合物。)
【0114】
実施例2、実施例4及び実施例6
用いる油剤組成物、及び乳化工程(工程2)の条件を表2及び表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして油剤処理液を得た。
【0115】
実施例3及び実施例5
用いる油剤組成物、及び乳化工程(工程2)の条件を表3に示すように変更し、非イオン性界面活性剤を、予備混合時で添加せず、乳化工程で用いるイオン交換水中に添加して用いたこと以外は、実施例1と同様にして油剤処理液を得た。この場合、表1に示す各油剤組成物の組成は、該イオン交換水及び該非イオン性界面活性剤を添加した後の油剤混合液中における油剤組成物の組成を表す。
【0116】
実施例7
用いる油剤組成物、予備混合工程(工程1)及び乳化工程(工程2)の条件を表3に示すように変更し、イオン交換水を添加する際はパドル翼での攪拌を行わなず、イオン交換水の添加完了時点から、パドル翼での攪拌を開始したこと以外は、実施例1と同様にして油剤処理液を得た。
【0117】
比較例1及び2
乳化工程(工程2)の条件を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして油剤処理液の製造を試みた。
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
表2及び表3に示すとおり、実施例1〜実施例7に示す製造方法では、1.3Pa・s以上500Pa・s以下の粘度を有する油剤混合液を用いた場合、攪拌翼を用い、0.53m/s又は2.40m/sという条件で該油剤混合液を1分間以上攪拌した場合であっても、従来は高圧ホモジナイザー等を用いることで得られるような微細な平均粒子径を有する油滴が水中に分散している炭素繊維前駆体用油剤処理液の製造が可能であることが確認された。
また、実施例3と4との対比、及び実施例5と6との対比から、非イオン性界面活性剤を油剤中に予め混合した場合と、乳化工程(工程(2))で用いる水に溶解させて用いる場合のいずれであっても、目的とする微細な平均粒子径を有する油滴が水中に分散している炭素繊維前駆体用油剤処理液の製造が可能であることが確認された。
一方で、比較例1に示す製造方法では、1.3Pa・s未満の粘度を有する油剤混合液を用いているため、攪拌翼を用い、0.53m/sという条件で該油剤混合液を1分間以上攪拌した場合では、微細な平均粒子径を有する油滴が水中に分散している炭素繊維前駆体用油剤処理液を製造することができなかった。
また、比較例2に示す製造方法では、油剤に水を添加した時点での粘度が高く、攪拌翼を用い、0.53m/sという条件では、油剤と水とを混合することが困難であった。