(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加圧基板は、前記複数の加圧部をそれぞれ駆動する駆動信号が供給される複数の端子電極と、該複数の端子電極が配置されている第1面と、該1面の反対の面であり、前記加圧室面と接合されている第2面とを有しており、
前記溝の幅は、前記端子電極の幅よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
請求項1から9のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部とを備えていることを特徴とする記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1(a)は、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、
図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pを搬送ローラ80Aから搬送ローラ80Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
【0008】
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
【0009】
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
【0010】
液体吐出ヘッド2は、
図1(a)の手前から奥へ向かう方向、
図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0011】
4つのヘッド群72は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
【0012】
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0013】
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
【0014】
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻
き取る。搬送速度は、例えば、50m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
【0015】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0016】
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出特性、すなわち吐出量や吐出速度などに影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
【0017】
次に、本開示の液体吐出ヘッド2について説明する。
図2は、ヘッド本体2aの平面図である。
図3は、
図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
図4は、
図3と同じ領域の拡大図であり、説明のため
図3とは異なる一部の流路を省略した図である。
図5(a)は
図3のV−V線に沿った縦断面図である。
図6(a)は、
図3の一部を拡大した平面図である。なお、
図2〜4、および6において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべきマニホールド5、吐出孔8、加圧室10などを実線で描いている。
【0018】
液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外に、金属製の筐体や、ドライバIC、配線基板などを含んでいてもよい。ヘッド本体2aは、流路部材4と、加圧部である変位素子50が作り込まれている、加圧基板である圧電アクチュエータ基板21とを含んでいる。
【0019】
ヘッド本体2aを構成する流路部材4は、マニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備えている。加圧室10は流路部材4の上面である加圧室面4−1に開口している。また、流路部材4の加圧室面4−1にはマニホールド5と繋がっている開口5aが開口しており、この開口5aより液体が供給される。
【0020】
流路部材4の加圧室面4−1には、変位素子50を含む圧電アクチュエータ基板21が接合されており、各変位素子50は、加圧室10上に位置するように配置されている。また、圧電アクチュエータ基板21には、各変位素子50に信号を供給するためのFPC(Flexible Printed Circuit)などの信号伝達部が接続されている。
【0021】
流路部材4の内部には4つのマニホールド5が配置されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延びる細長い形状を有しており、その両端において、流路部材4の上面にマニホールド5の開口5aが形成されている。本実施例においては、マニホールド5は独立して4本設けられている。
【0022】
流路部材4は、複数の加圧室10が2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の加圧室面4−1に開口している。
【0023】
加圧室10は1つのマニホールド5と個別供給流路14を介して繋がっている。1つのマニホールド5に沿うようにして、このマニホールド5に繋がっている加圧室10の行である加圧室行11が、マニホールド5の両側に2行ずつ、合計4行配置されている。したがって、全体では16行の加圧室行11が配置されている。各加圧室行11における加圧室10の長手方向の間隔は同じであり、37.5dpiの間隔となっている。なお、各加圧室行11の端の加圧室10は、ダミーとなっており、マニホールド5とは繋がっていない。このダミーにより、端から1つ内側の加圧室10の周囲の構造およびそれに影響される剛性が、他の加圧室10の構造およびそれに影響される剛性が近くなることで、液体吐出特性の差を少なくできる。
【0024】
各加圧室行11に属する加圧室10は、近接する2行の加圧室行11の間では、千鳥状に配置されており、隣り合う加圧室10の角部は交互に配置されるようになっている。1つのマニホールド5に繋がっている4行の加圧室行11により1つの加圧室群が構成されており、加圧室群は4つある。各加圧室群内における加圧室10の相対的な配置は同じになっており、各加圧室群はヘッド本体2aの長手方向にわずかにずれて配置されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に、加圧室群間などの少し間隔が広くなって部分はあるものの、ほぼ全面にわたって配列されている。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接合されることで閉塞されている。
【0025】
加圧室10の個別供給流路14が繋がっている角部と対向する角部からは、流路部材4の下面である吐出孔面4−1に開口している吐出孔8に繋がるディセンダ16が伸びている。ディセンダ16は、平面視において、加圧室10の対角線を延長する方向に伸びている。つまり、長手方向における吐出孔8の配置と加圧室10の配置は同じになっている。各加圧室行11において、加圧室10は37.5dpiの間隔で並んでおり、1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は全体として、長手方向に150dpiの間隔になっている。さらに、4つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、長手方向に600dpiに相当する間隔でずれて配置されているため、加圧室10は全体で長手方向に600dpiの間隔で形成されている。前述のように、吐出孔8の長手方向の配置は加圧室10と同じになっているので、吐出孔8の長手方向の間隔も600dpiになっている。
【0026】
これは別の言い方をすると、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、
図4に示した仮想直線のRの範囲に、各マニホールド5に繋がっている4つの吐出孔8、つまり全部で16個の吐出孔8が、600dpiの等間隔となっているということである。これにより、すべてのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている4つの行の吐出孔8は、仮想直線のRの範囲で150dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に150dpiの解像度で4色の画像が形成可能となる。この場合、さらに4つの液体吐出ヘッド2を用いて、それぞれ液体吐出ヘッド2において各色のインクを異なる位置のマニホールド5に供給するようにして、600dpiの解像度で4色の画像を形成してもよい。またさらに、2つの液体吐出ヘッド2を用いて、それぞれ液体吐出ヘッド2において各色のインクを異なる位置のマニホールド5に供給するようにして、300dpiの解像度で4色の画像を形成してもよい。
【0027】
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極25がそれぞれ形成されている。個別電極25は、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでおり、個別電極25は、加圧室10と同じように、個別電極行および個別電極群を構成している。また、圧電アクチュエータ基板21の上
面には、共通電極24と電気的に接続されている共通電極用表面電極28が形成されている。共通電極用表面電極28は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部に、長手方向に沿うように2行形成され、また、長手方向の端近くで短手方向に沿って1列形成されている。図示した、共通電極用表面電極28は直線上に断続的に形成されたものであるが、直線上に連続的に形成してもよい。圧電アクチュエータ基板21には、2枚の信号伝達部が、圧電アクチュエータ基板21の2つの長辺側から、それぞれ中央に向かうように配置され、接合される。共通電極用表面電極28は、信号伝達部の端部(先端および圧電アクチュエータ基板21の長手方向の端)において接続され、共通電極用表面電極28およびその上に形成される共通電極用接続電極が、引出電極25bおよびその上に形成される接続電極26よりも面積が大きいため、信号伝達部が端からはがれ難くできる。
【0028】
また、吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置されたマニホールド5と対向する領域を避けた位置に配置されている。さらに、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔8は、1つの群として圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子50を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。
【0029】
ヘッド本体2aに含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、ベースプレート4b、アパーチャ(しぼり)プレート4c、サプライプレート4d、マニホールドプレート4e〜g、カバープレート4hおよびノズルプレート4iである。これらのプレートには多数の孔や溝が形成されている。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔や溝の形成精度を高くできる。各プレートは、これらの孔や溝が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5などの流路を構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体2aは、加圧室10は流路部材4の上面に、マニホールド5は内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路12を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介してマニホールド5と吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0030】
プレート4a〜iは、接着剤を介して積層されている。接着剤の層の厚さは、0.1〜3μm程度である。
【0031】
流路部材4にプレート4a〜iに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート4aに形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端からマニホールド5へと繋がる個別供給流路14を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート4c(詳細にはマニホールド5の出口)までの各プレートに形成されている。なお、この個別供給流路14には、アパーチャプレート4cに形成されている、流路の断面積が小さくなっている部位であり、平面視で一方方向に長いしぼり6が含まれている。
【0032】
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路であるディセンダ16を構成する連通孔である。ディセンダ16は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート4i(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、マニホールド5を構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート4e〜gに形成されている。
【0033】
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、マニホールド5からの液体の流入口(マニホールド5の出口)から吐出孔8に至る個別流路12を構成している。マニホールド5に供給され
た液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、マニホールド5から上方向に向かって、個別供給流路14に入りを通り、しぼり6の一端部に至る。次に、しぼり6の延在方向に沿って水平に進み、しぼり6の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから、ディセンダ16の中を少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
【0034】
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極24およびAu系などの金属材料からなる個別電極25を有している。共通電極24の厚さは2μm程度であり、個別電極25の厚さは、1μm程度である。個別電極25は、圧電アクチュエータ基板21の上面である第1面21−1に配置されている。圧電アクチュエータ基板21は、第1面21−1と反対の面である第2面21−2で、流路部材4の加圧室面4−1と接合している。
【0035】
個別電極25は、圧電アクチュエータ基板21の第1面21−1における各加圧室10に対向する位置に、それぞれ配置されている。個別電極25は、平面形状が加圧室本体10aより一回り小さく、加圧室本体10aとほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極26が形成されている。接続電極26は例えば銀粒子などの導電性粒子を含んだ導電性樹脂であり、5〜200μm程度の厚さで形成されている。また、接続電極26は、信号伝達部に設けられた電極と電気的に接合されている。
【0036】
本実施形態では、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bの一端に端子電極30が配置されている。端子電極30は、Ag−Pd系などの金属材料からなる電極であり、厚さは1μm程度である。端子電極30は、引出電極25bと、接続電極26との間に配置されている。端子電極30の平面形状は、ほぼ円形状であり、引出電極25bの端部においては、引出電極25bの端部とほぼ同形状である。接続電極26の平面形状は、端子電極30よりも少し大きいほぼ円形状である。なお、端子電極30は、後述の共通電極用表面電極28と同じ材質で形成してもよく、スクリーン印刷等で共通電極用表面電極28と同じ工程で作製してもよい。
【0037】
また、圧電アクチュエータ基板21の第1面21−1には、共通電極用表面電極28が配置されている。共通電極用表面電極28は、Ag−Pd系などの金属材料からなる電極であり、厚さは1μm程度である。共通電極用表面電極28と共通電極24とは、圧電セラミック層21bに配置された、図示しない貫通導体を通じて、電気的に接続されている。
【0038】
詳細は後述するが、個別電極25には、制御部88から信号伝達部を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0039】
共通電極24は、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極25からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28に、圧電セラミック層21bを貫通して形成されたビアホールを介して繋がっている。また、共通電極24は、接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、複数の個別電極25と同様に、制御部88と直接あるいは間接的に接続されている。
【0040】
圧電セラミック層21bの個別電極25と共通電極24とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されており、個別電極25に電圧を印加すると変位する、ユニモルフ構造の変位素子50となっている。より具体的には、個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部88により個別電極25を共通電極24に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21aは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0041】
続いて、液体の吐出動作について、説明する。制御部88からの制御でドライバICなどを介して、個別電極25に供給される駆動信号により、変位素子50が駆動(変位)させられる。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
【0042】
あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下、高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下、低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21b、21aが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、個別電極25を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力がディセンダ内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
【0043】
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を個別電極25に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅は、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とすると、原理的には、液体の吐出速度
および吐出量を最大にできる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、圧電アクチュエータ基板21の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
【0044】
続いて、
図6(a)を用いて、加圧室面4−1に配置されている溝18について説明する。
図6(a)は、加圧室10や端子電極30など、他のものの下部になっていて、破線で描くべきものも実線で描いている。溝18にはハッチングを描いている。
【0045】
図6(a)には、マニホールド5の片側に配置されている、2行の加圧室行11を示している。各加圧室行11には、加圧室10が第1方向D1に等間隔で並んでいる。2つの加圧室行11は、第1方向D1と交差する方向である第2方向D2に並んでいる。2つの加圧室行11のうち、第2方向D2側に配置されている加圧室行11を第1加圧室行11−2、第2方向D2の反対の方向である第3方向D3側に配置されている加圧室行11を第2加圧室行11−2と呼ぶ。また、第1加圧室行11−1に属する加圧室10を第1加圧室10−1、第2加圧室行11−1に属する加圧室10を第1加圧室10−2と呼ぶ。第1加圧室10−1と第2加圧室10−2は、第1方向D1にずれて配置されている。
【0046】
第1加圧室10−1に対応する引出電極25bは、加圧室本体25aから第2方向D2側に引き出されている。第2加圧室10−2に対応する引出電極25bは、加圧室本体25aから第3方向D3側に引き出されている。
【0047】
溝18は、流路部材4の一番上のプレート4aに設けられている。本実施形態では、溝18は、プレート4aの厚さの半分の深さを有しており、ハーフエッチングなどで形成できる。プレート4aに貫通孔を設けて、その下のプレート4bの上面と組合せることで、溝18を構成してもよい。
【0048】
加圧部である変位素子50を駆動すると、その振動は、周囲の変位素子50、および周囲の加圧室10に伝わる。伝わった振動は、その変位素子50および加圧室10での吐出動作に影響を与え、吐出速度や吐出量などの吐出特性が変動するクロストークが生じる。加圧室面4−1の加圧室10同士の間に、溝18を配置すれば、振動が伝達され難くなり、クロストークを低減できる。
【0049】
第1方向D1に隣り合っている加圧室10の間は、溝18が配置されており、加圧室行11内でクロストークが起き難くなっている。溝18は、第2方向D2の大きさが加圧室10よりも大きくなっており、第1方向D1に隣り合っている加圧室10の間には、加圧室10の第2方向D2の長さにわたって溝18が配置されているので、加圧室行11内でクロストークがより起き難くなっている。
【0050】
溝18は加圧室10の周縁に沿って配置されている。溝18は、加圧室10の周縁からほぼ一定の距離だけ離れた位置に配置されている。第1方向D1に隣り合っている加圧室10同士において、距離がもっとも近くなっている位置には、溝18が1本配置されている。その位置から第2方向D2に進むと、加圧室10の第1方向D1の幅が小さくなるので、溝18は、2つの加圧室10のそれぞれに沿うように2つに分岐する。溝18は、第3方向D3においても、同様に分岐する。このような構造になっていることにより、加圧室10を第1方向D1に関して近接して配置できる。また、第2方向D2側、および第3方向D3側においては、2つの加圧室10の間の溝18を2本にすることができ、クロストークをより抑制できる。
【0051】
圧電アクチュエータ基板21の第1面21−1には、ダミー端子電極31およびダミー接続電極27が配置されている。ダミー端子電極31およびダミー接続電極27は、加圧室10の周囲に配置されている。ダミー端子電極31は、端子電極30とほぼ同形状であり、基本的に、端子電極30と同じ組成であり、端子電極30と同じ製造工程で作製される。ダミー接続電極27は、接続電極26とほぼ同形状であり、基本的に、接続電極26と同じ組成であり、接続電極26と同じ製造工程で作製される。接続電極26が端子電極30の上に配置されているのと同様に、ダミー接続電極27はダミー端子電極31の上に配置されている。
【0052】
ダミー端子電極31は、基本的に個別電極35に電気的に接続していないが、接続するようにしてもよい。ダミー接続電極27は、基本的に接続電極26が電気的に接続している信号伝達部の電極に電気的に接続していないが、接続するようにしてもよい。
【0053】
端子電極30は、電気的接続を行なうとともに、個別電極25よりも突起した形状になっていることで、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接合する際に、加圧室10の上の個別電極25に圧力が加わり難くする。これにより、加圧室10の上の圧電セラミック層21a、bが割れ難くなる。端子電極30と同様に突起したダミー端子電極31を配置することで、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接合する際に加わる圧力を、加圧室面4−1内で平均化できる。これにより、圧電アクチュエータ基板21と流
路部材4との接合をより強くできる。
【0054】
溝18の幅W1を、接続端子30の幅W2およびダミー接続電極31の幅W3よりも小さくすることで、接続端子30およびダミー接続電極31と、溝18とが重なったとしても、溝18によって生じる圧力の減少を少なくでき、圧力の平均化が阻害され難い(
図6(a)参照)。また、溝18の上の圧電セラミック層21a、bが割れ難くなる。溝18の上の圧電セラミック層21a、bが割れたとしても、直接的な特性の変化が起きるわけではないが、圧電アクチュエータ基板21の内部に水分が侵入し易くなるおそれがある。
【0055】
なお、接続端子30の幅W2およびダミー接続電極31の幅W3とは、詳細には、それぞれ、平面視した場合に、面積重心を通る幅のうちもっとも狭いもののことである。溝18の幅W1とは、詳細には、溝18の一方の縁から他方の縁までの長さのうちのもっとも短いもののことである。溝18の幅W1は、接続端子30あるいはダミー接続電極31と重なっている溝18の幅であり、また、そのような溝18がない場合、接続端子30あるいはダミー接続電極31にもっとも近い溝の幅である。
【0056】
溝18は、加圧室10を囲むように配置されており、環状溝となっている。溝18を加圧室10の周縁と対応させたときに、加圧室10の周縁の長さの70%以上、さらに80%以上、特に90%以上が溝18に囲まれていることによりクロストークをより抑制できる。
【0057】
加圧室10を囲んでいる環状溝が途切れている部分を非連続部Aと呼ぶ。非連続部Aには、引出電極25b部分に配置されている第1非連続部A1、および第1加圧室10−1と、第2加圧室10−2との間に配置されている第2非連続部A2がある。
【0058】
第1非連続部A1は、第1非連続部A1が存在しなかった場合、環状溝と引出電極が交差する部分に配置されている。駆動信号が加わった場合、引出電極25bの直下の圧電セラミック層21bも圧電変形するが、第1非連続部A1を配置することで、引出電極25bの直下の圧電セラミック層21bも圧電変形し難くなり、クロストークをより抑制できる。
【0059】
変位素子50の変位は、加圧室10の大きさに対して、個別電極本体25aの直下の圧電セラミック層21bが、圧電変形して大きさが変わることにより生じる。圧電セラミック層21bが変形すると加圧室10に応力が加わる。加圧室10の周囲の剛性が低いと、加圧室10が変形することで、変位量は低下する。すなわち、溝18を配置すると、剛性が低下し、変位量が小さくなるおそれがある。加圧室行11に属する加圧室10同士の間に溝18を配置しつつ、加圧室10の周囲の一部に溝18を配置しないように、互いに斜めに配置さている第1加圧室10−1と第2加圧室10−2との間に第2非連続部A2を配置する。第2非連続部A2の位置は、詳細には、第1加圧室10−1の面積重心と第2加圧室10−2の面積重心とを結ぶ線上である。
【0060】
非連続部A2の長さ、すなわち、途切れている溝18同士の間の距離は、例えば、溝18の幅をWとしたとき、W以上、5×W以下にする。非連続部A2の長さがW以上であることにより、加圧室10の周囲の剛性を高くできる。非連続部A2の長さが5×W以下であることにより、クロストークを少なくできる。
【0061】
流路部材4は、プレート4a〜iが接着剤を介して積層されて構成されている。プレート4a〜iには流路となる孔や溝が配置されているため、積層する際に、接着剤の一部が孔や溝に流れ込むおそれがある。接着剤が多量に流れ込めば流路が詰まる可能性があり、量が詰まるまでには多くなかったとしても、流路の断面積が変わり、流路特性が変わるこ
とで、液体の吐出特性が変動する可能性がある。
【0062】
流路部材4を構成しているプレート4a〜4hの吐出孔面4−2側の面には、第3溝19が配置されている。第3溝19は、流路となる孔や溝の周囲に配置されている。第3溝19が存在すると、積層の際に、接着剤の一部は、第3溝19に流れ込む。つまり、第3溝19は、接着剤の逃がし溝とし働く。そして、第3溝19が存在することで、流路に流れ込む接着剤の量を少なくでき、詰まりや流路特性の変動を小さくできる。
【0063】
溝18が配置されているプレート4aにおいても、加圧室面4−1と反対側の面に、第3溝19が配置さている。行の加圧室行11の中では、1つの加圧室10の周囲には、いくつかの他の加圧室10が配置されているので、他の加圧室10が配置されている方向からは、多量の接着剤は流れ込んで来難くなっている。
図6(a)に示した第3溝19は、2行の加圧室行11の全体を囲むように配置されているので、周囲に他の加圧室10が配置されていない方向からの接着剤の流れ込みを少なくできる。
【0064】
平面視したとき、溝18と第3溝19と交差しないように配置されている。これによりプレート4aの剛性を高くでき、製造工程での変形や、その結果生じるおそれのある吐出特性の変動を抑制できる。また、第3溝19を通じて溝18に接着剤が流れ込む可能性を低くして、溝18に接着剤が入り込んで、溝18が埋まったり、狭くなることでクロストークが大きくなることを抑制できる。
【0065】
第3溝19は、加圧室面4−1には配置されていないが、剛性が弱くなることで、接続端子30あるいはダミー接続電極31による加圧で、圧電セラミック層21a、bが割れるおそれがある。第3溝19の幅W4を、接続端子30の幅W2およびダミー接続電極31の幅W3よりも小さくなすれば、圧電セラミック層21a、bが割れ難くなる。
【0066】
続いて、
図6(b)を用いて、
図6(a)の一部を変えた変形例を説明する。
図6(b)は、加圧室10や端子電極30など、他のものの下部になっていて、破線で描くべきものも実線で描いている。溝118にはハッチングを描いている。上述の実施形態と差の少ない部位については、同じ符号を付けて説明を省略する。
【0067】
引出電極25bは、加圧室10の周縁から距離Lの位置まで引き出されている。溝118は、加圧室10の周縁からの距離がL以下の位置に配置されている第1溝118aと、加圧室10の周縁からの距離がL以上の位置に配置されていて、引出電極25bの周縁に配置されている第2溝118bとを含んでいる。引出電極25bの周縁に第2溝118bを配置することで、引出電極25bの直下の流路部材4に溝118を配置しなくとも、引出電極25bを挟んで隣に配置されている他の加圧室10との間のクロストークを抑制できる。また、引出電極25bの直下の流路部材4に溝118を配置していないため、引出電極25bの直下の圧電セラミック層21bも圧電変形し難くなり、クロストークをより抑制できる。
【0068】
第1溝118aと第2溝118bとが繋がっていれば、溝118のない部分を通じて生じるクロストークを抑制できる。