【実施例】
【0068】
以下の原料を使用するとともに表3ないし表8に記載の重量配合割合(重量%(wt%))に従い、実施例及び比較例のポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム(実施例1ないし15、比較例1ないし10)、並びに多層フィルムを作製した(実施例16ないし18)。
【0069】
[試験・測定方法]
(1.MFR[単位:g/10min])
MFRの測定は、JIS K 7210−1(2014)のA法に準拠した(各MFRの測定条件は後記の原料にて示す)。
【0070】
(2.厚さ[単位:μm])
厚さの測定は、JIS K 7130(1999)に準拠した。
【0071】
(3.ヘーズ[単位:%])
ヘーズの測定は、JIS K 7136(2000)に準拠した。
【0072】
(4.引張特性)
引張降伏応力[単位:MPa]、引張破壊力[単位:MPa]、引張ひずみ[単位:%]、及び引張弾性率[単位:GPa]の測定は、JIS K 7161−1(2014)に準拠した。前記の4項目は、実施例及び比較例の各フィルムのMD(製膜方向,機械方向)とTD(幅方向)の両方の測定とした。各フィルムとも試験片(10mm×200mm)に切り出し、株式会社オリエンテック製,引張試験機(RTF−1310)を使用し、同試験機のチャック間距離を50mmとし、200mm/minの引張り速度にて測定した。
【0073】
(5.ヒートシール開始温度[単位:℃])
ヒートシール開始温度の測定は、JIS Z 1713(2009)に準拠し、0.35MPa,1.0secの条件下にて実施した。各フィルム測定片(幅50mm、長さ250mm)の長手方向をフィルムの製膜方向(MD)とした。そして、2枚の試験片のヒートシール層同士を重ね、株式会社東洋精機製作所製,熱傾斜試験機(ヒートシール試験機)を使用し、ヒートシールした。ヒートシールにより融着した試験片を180°に開き、株式会社島津製作所製,引張試験機(EZ−SX)により未シール部分を引張した。そして、ヒートシール強度が3Nに到達した時点の温度を求めた。
【0074】
(6.ダート衝撃強さ(0℃)[単位:J])
ダート衝撃強さの測定には、低温槽付ダートインパクトテスター(東洋精機製作所製)を使用し、貫通破壊に要した仕事量を測定した。すなわち、実施例及び比較例の測定対象のフィルムを固定装置により水平に固定して、質量を調節したダート(半球型の金属貫通部:直径25.4mm)を落下させてフィルムを破壊・貫通させた時のフィルム通過後におけるダートの通過速度(V
1)と、フィルムが存在しない状態でダートを落下させた時のV
1測定地点と、同地点におけるダートの通過速度(V
0)とを測定し、下記の式(f)により測定対象のフィルムの破壊エネルギー(J)を求めた。なお、Mはダートの重さである。
【0075】
【数1】
【0076】
(7.全光線透過率[単位:%])
全光線透過率の測定は、JIS K 7361−1(1997)に準拠した。135℃、30分間のレトルト処理を行った測定対象のフィルムから、室温にて製膜方向(MD)45mmと直行方向(TD)100mmの試験片をチャック間30mm、引張速度200mm/minで150%のひずみを与え、1分間ホールドした。そして、ひずみ部分の全光線透過率を測定した。ひずみ付与には、引張試験機(株式会社島津製作所製,EZ−SX)を使用し、全光線透過率の測定には、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社,NDH5000)を使用した。
【0077】
(8.ヒートシール強度[単位:N/15mm])
測定対象のフィルムから、サイズ200mm×140mmの3方袋を作成し、この中に蒸留水200mLを注入し、残りの開口部をインパルスシーラー(富士インパルス株式会社製,VG−400)により封止(1.0sec)して、サンプル袋とした。このサンプル袋を135℃、30分間レトルト殺菌(レトルト加熱)した(オートクレーブ:株式会社トミー精工製,SR−240使用)。JIS Z 0238(1998)に準拠の方法により、サンプル袋のヒートシール強度を測定した。
【0078】
(9.融着[単位:N])
測定対象のフィルムから、サイズ200mm×140mmの3方袋を作成し、何も入れず残りの開口部を脱気シーラー(富士インパルス株式会社製,VG−400)でシールして、サンプル袋とした。このサンプル袋を135℃、30分間レトルト殺菌(レトルト加熱)した(オートクレーブ:株式会社トミー精工製,SR−240使用)。引張試験機(株式会社島津製作所製,EZ−SX)を用い、サンプル袋の面同士が融着した部分をT字剥離した。このときの強度を融着強度とした。
【0079】
[プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造]
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの製造に際し、はじめにプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)から製造した。プロピレン−エチレン系樹脂組成物としては、多段重合法により得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体、すなわち下記の製造例A−1、A−2、A−3、及びA−4で得られた4種類のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)(それぞれ、A−1、A−2、A−3、及びA−4と略称する。)を用いた。
【0080】
[製造例A−1]
{触媒組成の分析}
Ti(チタン)含有量:試料を正確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含有量を計算した。
ケイ素化合物含有量:試料を正確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較する事により、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の重量から、試料に含まれるケイ素化合物の含有量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含有量を計算した。
【0081】
〔予備重合触媒の調製〕
{(1)固体触媒の調製}
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)
2を200g投入し、TiCl
4を1Lゆっくりと添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸ジ−n−ブチルを50mL導入した。その後、温度を110℃に上げて3時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl
4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl
4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。さらに、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分のTi含有量は2.7wt%であった。
【0082】
次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブ内を充分に窒素で置換し、上記の固体成分のスラリーを100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が25g/Lとなるように調整した。SiCl
4を50ml加え、90℃で1時間反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。その後、精製したn−ヘプタンを導入して液容量を4Lに調整した。ここに、ジメチルジビニルシランを30mL、i−Pr
2Si(OMe)
2を30ml、Et
3Alのn−ヘプタン希釈液をEt
3Alとして80g添加し、40℃で2時間反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒を得た。得られた固体触媒のスラリーの一部をサンプリングして乾燥し、分析を行った。固体触媒のTiは1.2wt%、i−Pr
2Si(OMe)
2は8.9wt%を含有していた。
【0083】
{(2)予備重合}
上記の調製により得た固体触媒を用い、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体触媒の濃度が20g/Lとなるように調整した。スラリーを10℃に冷却した後、Et
3Alのn−ヘプタン希釈液をEt
3Alとして10g添加し、280gのプロピレンを4時間かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、さらに30分間反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って予備重合触媒を得た。この予備重合触媒は、固体触媒1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この予備重合触媒のポリプロピレンを除いた部分は、Tiを1.0wt%、i−Pr
2Si(OMe)
2を8.3wt%含有していた。この予備重合触媒を用いて、以下の手順に従ってプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造を行った。
【0084】
〔プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造〕
内容積2m
3の流動床型重合槽が2個直列につながった2槽連続重合設備を用いてプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。使用するプロピレン、エチレン、水素、窒素は一般的な精製触媒を用いて精製したものを使用した。第1重合槽におけるプロピレン系重合体成分(Ax)の製造量、及び第2重合槽におけるプロピレン−エチレンランダム重合体成分(Ay)の製造量は重合槽の温度制御に使用する熱交換器の冷却水温度の値から求めた。
【0085】
{重合工程(i):プロピレン系重合体成分(Ax)の製造}
第1重合槽を用いてプロピレンの単独重合を行った。重合温度は65℃、全圧は3.0MPaG(ゲージ圧、以下同様)、パウダーホールド量は40kgとした。重合槽に連続的にプロピレン、水素、及び窒素を供給し、プロピレン及び水素の濃度がそれぞれ70.83mol%、0.64mol%となるように調整した。助触媒として、Et
3Alを5.0g/hの速度で連続的に供給した。第1重合槽におけるプロピレン系重合体成分(A1)の製造量が20.0kg/hとなるように、上記で得られた予備重合触媒を重合槽に連続的に供給した。生成したプロピレン系重合体成分(Ax)は連続的に抜き出しを行い、パウダーホールド量が40kgで一定となるように調整した。第1重合槽から抜き出したプロピレン系重合体成分(Ax)は第2重合槽に連続的に供給し、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の製造を引き続いて行った。第1重合槽で生成したプロピレン系重合体成分(Ax)の一部を抜き出して分析したMFR(Ax)(230℃、2.16kg荷重)は、6.0g/10minであった。
【0086】
{重合工程(ii):プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の製造}
第2重合槽を用いてプロピレンとエチレンのランダム共重合を行った。重合温度は65℃、全圧は2.0MPaG、パウダーホールド量は40kgとした。重合槽に連続的にプロピレン、エチレン、水素、及び窒素を供給し、プロピレン、エチレン、及び水素の濃度がそれぞれ45.72mol%、25.71mol%、0.43mol%となるように調整した。重合抑制剤であるエタノールを連続的に供給し、第2重合槽におけるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の製造量が5.0kg/hとなるように調整した。こうして生成したプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を連続的に抜き出し、パウダーホールド量が40kgで一定となるように調整した。第2重合槽から抜き出したプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、さらに乾燥機に移送し、充分に乾燥を行った。生成したプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の一部を分析したMFR(A)(230℃、2.16kg荷重)は2.5g/10min、エチレン含有量E(A)は10.4wt%であった。
【0087】
重合工程(i)の製造量と重合工程(ii)の製造量からプロピレン系重合体成分(Ax)の重量比率「W(Ax)」とプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の重量比率「W(Ay)」を求めた。結果、W(Ax)は0.80であり、W(Ay)は0.20であった。
【0088】
こうして得られたW(Ax)、W(Ay)、E(A)から、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)のエチレン含有量E(Ay)を計算した。エチレン含有量については、前述のとおり、
13C−NMRスペクトルの解析より求めた。
また、計算には以下の式を使用した。
E(Ay)={E(A)−E(Ax)×W(Ax)}÷W(Ay)
ここで、プロピレン系重合体成分(Ax)はプロピレン単独重合体であるので、E(Ax)は0wt%である。また上記の式は前述のE(A)について記載したものをE(Ay)についてそれぞれ整理し直したものである。
結果、エチレン含有量E(Ay)は52.0重量%であった。
【0089】
[製造例A−2,A−3,A−4]
製造例A−2,A−3,及びA−4については、次の表2に記載の条件に基づき、前述の製造例A−1と同様の方法により、各例のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を調製した。表2中、上から順に、重合工程(i){プロピレン濃度(mol%),エチレン濃度(mol%),水素濃度(mol%)}、重合工程(ii){プロピレン濃度(mol%),エチレン濃度(mol%),水素濃度(mol%)}、重合結果{重合工程(i)製造量(kg/h),重合工程(ii)製造量(kg/h),総製造量(kg/h),W(Ax)(kg/h),W(Ay)(kg/h)}、ポリマー分析{E(Ax)(wt%),W(Ay)(wt%),E(A)(wt%),MFR(Ax)(g/10min),MFR(A)(g/10min),MFR(Ax)/MFR(A)}である。
【0090】
【表2】
【0091】
〔プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のペレット化〕
製造例A−1ないしA−4により得た各プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対し、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.05重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.10重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を添加してタンブラーにて混合し均一化した。得られた混合物を35mm径の二軸押出機により230℃で溶融混練し、製造例A−1ないしA−4に対応する樹脂のペレットを調製した。
【0092】
[エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)]
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)として、次の2種類を使用した。便宜上、「EL1及びEL2」と表記する。メルトフローレート(MFR(B))の条件は190℃、2.16kg荷重である。また、コモノマーとは、α−オレフィンの炭素数である。
EL1 三井化学株式会社製,商品名「タフマー(登録商標)A−1085S」,密度:0.885g/cm
3,MFR:1.2g/10min,コモノマー炭素数:4
EL2 三井化学株式会社製,商品名「タフマー(登録商標)A−4085S」,密度:0.885g/cm
3,MFR:3.6g/10min,コモノマー炭素数:4
【0093】
[直鎖状低密度ポリエチレン(C)]
直鎖状低密度ポリエチレン(C)として、次の6種類を使用した。便宜上、「LL1、LL2、LL3、LL4、LL5、及びLL6」と表記する。メルトフローレート(MFR(C))の条件は190℃、2.16kg荷重である。また、コモノマーとは、α−オレフィンの炭素数である。
LL1 日本ポリエチレン株式会社製,商品名「カーネルKF360T」,密度:0.898g/cm
3,MFR:3.5g/10min,コモノマー炭素数:3及び6,メタロセン触媒使用
LL2 宇部丸善ポリエチレン株式会社製,商品名「ユメリット1540F」,密度:0.913g/cm
3,MFR:4g/10min,コモノマー炭素数:6,メタロセン触媒使用
LL3 宇部丸善ポリエチレン株式会社製,商品名「ユメリット2040FC」,密度:0.919g/cm
3,MFR:5g/10min,コモノマー炭素数:6,メタロセン触媒使用
LL4 宇部丸善ポリエチレン株式会社製,商品名「ユメリット0540F」,密度:0.904g/cm
3,MFR:4g/10min,コモノマー炭素数:6,メタロセン触媒使用
LL5 日本ポリエチレン株式会社製,商品名「ノバテックUF240」,密度:0.920g/cm
3,MFR:2.1g/10min,コモノマー炭素数:4,チーグラー触媒使用
LL6 京葉ポリエチレン株式会社製,商品名「M6901」,密度:0.962g/cm
3,MFR:13g/10min,チーグラー触媒使用
【0094】
[その他の原料]
多層フィルムの作製に際し、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの表面側に付加する他の重合体フィルムを形成する樹脂として次の種類を使用した。前出のA−3のプロピレン−エチレンブロック共重合体、EL2のエチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー、そして、プロピレン単独重合体として、A−5 日本ポリプロ株式会社製,商品名「ノバテックFB3B」,密度:0.90g/cm
3,MFR:7.5g/10minである。
【0095】
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム及び多層フィルムに積層するフィルムとして、次の2種類を使用した。
LF1 ポリアミド樹脂フィルム,ユニチカ株式会社製,商品名「エンブレムNX」,膜厚15μm
LF2 ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム,フタムラ化学株式会社製,商品名「FE2001」,膜厚12μm
【0096】
積層のためのドライラミネート接着剤は、主剤(東洋モートン株式会社製,TM−250HV)47.4重量%、硬化剤(東洋モートン株式会社製,CAT−RT86L−60)6.5重量%、及び酢酸エチル46重量%を混合して調製した。
【0097】
[ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの作製]
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの作製は、原料となる樹脂を溶融、混練してTダイフィルム成形機を用いた。各実施例及び各比較例とも、表中の厚さ(μm)とする条件で製膜した。なお、「8.ヒートシール強度」ないし「9.融着」の項目については、出来上がった実施例またはポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムと、LF1(ポリアミド樹脂フィルム)、LF2(ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を積層した積層フィルムの状態で測定した。
【0098】
[多層フィルムの作製]
多層フィルムの作製は、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの原料樹脂を溶融、混練するとともに、その両面に配する他のフィルムの原料樹脂も溶融、混練し、これらを共押出Tダイフィルム成形機を用いた。各実施例とも、表中の厚さ(μm)とする条件で製膜した。フィルムにおける厚さの比率(相対比)は、「1:6:1」に設定した。なお、「8.ヒートシール強度」ないし「9.融着」の項目については、出来上がった実施例またはポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムまたは多層フィルムと、LF1(ポリアミド樹脂フィルム)、LF2(ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を積層した積層フィルムの状態で測定した。
【0099】
[積層フィルムの作製]
はじめに、LF1(ポリアミド樹脂フィルム)に前記のドライラミネート接着剤を塗布し(塗布量5g/m
2)、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムまたは多層フィルムの一方の面に積層した。次に、積層後のLF1に前記のドライラミネート接着剤を塗布し(塗布量5g/m
2)、ここにLF2(ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を積層した。続いて、80℃、30秒間乾燥した後、40℃、4日間エージングして各実施例及び比較例に対応する積層フィルム(ラミネートフィルム)を作製した。
【0100】
[表について]
表3ないし7において、上から順にプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)とその該当樹脂「A−1ないしA−4」、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の該当樹脂「EL1,EL2」、直鎖状低密度ポリエチレン(C)の該当樹脂「LL1ないしLL6」とし、厚さ(μm)、ヘーズ(%)、引張降伏応力(MD,TD)(MPa)、引張破壊力(MD,TD)(MPa)、引張ひずみ(MD,TD)(%)、引張弾性率(MD,TD)(GPa)、ヒートシール開始温度(℃)、ダート衝撃強さ(0℃)(J)、全光線透過率(%)、レトルト後ヒートシール強度(N/15mm)、融着(N)である。
【0101】
表8では、使用原料の欄をプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の「A−1」、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の「EL2」、直鎖状低密度ポリエチレン(C)の「LL1」とし、さらに、多層フィルムを形成する原料に「A−3、A−5、EL2」を使用した。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
【0108】
[結果・考察]
〔3成分の重量組成割合〕
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムを構成するプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(C)の3成分の重量組成割合(重量%)を相互間で変化した例は、実施例1ないし11、比較例1ないし6である。各例をプロットして樹脂配合割合の関係を
図3の三角図により表した。
【0109】
実施例と比較例の具体的な良否判断の区分は、概ねダート衝撃強さ:2.5J未満、全光線透過率:25%未満、ヒートシール強度:30N/15mm未満、融着:0.7N以上を境界とした。そこで、比較例と実施例の間に成立する3成分の重量組成割合に境界(外縁)を見出し、
図3の太線枠のとおり実施例を包含する3成分の有効な範囲を規定した。すなわち、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は78ないし96重量%であり、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)は2ないし10重量%であり、直鎖状低密度ポリエチレン(C)は2ないし12重量%である。
【0110】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の配合割合の高い比較例1によると、ダート衝撃強さと全光線透過率の指標が実施例よりも低下した。直鎖状低密度ポリエチレン(C)の配合割合の低い比較例5では融着が悪化し、同(B)の配合割合の高い比較例6ではヒートシール強度が低下した。直鎖状低密度ポリエチレン(C)の配合割合の低い比較例1,2,4では各指標の悪化が顕著である。同(C)の配合割合の高い比較例3では融着が悪化した。これらの指標の良否をもって、前記の3成分の範囲は導き出される。
【0111】
〔使用原料について〕
表2に開示のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のA−1ないしA−4の分析値と当該樹脂(A)の性能を規定する指標(a1)ないし(a4)との対応関係は、次のとおりである。項目E(Ax)は指標(a1)に、項目MFR(A)は指標(a2)に、項目E(Ay)は指標(a3)に、項目MFR(Ax)/MFR(A)は指標(a4)に対応する。
【0112】
〔プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の指標〕
比較例9はプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のA−3を使用し、比較例10は同(A)のA−4を使用した。比較例9,10はともにダート衝撃強さやヒートシール強度等の性能低下が顕著となった。この結果も併せてプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の4つの指標(a1)ないし(a4)の範囲は、次のとおり表すことができる。
【0113】
指標(a1)
各製造例のプロピレン系重合体成分(Ax)のエチレン含有量は、いずれも0重量%であった。また、その製造工程からも明らかであるように、プロピレン系重合体成分(Ax)はプロピレン単独重合体であった。なお、製造は連続的であるため、直接プロピレン−エチレンランダム共重合体が製造される場合もある。そこで、プロピレン系重合体成分(Ax)がプロピレン−エチレンランダム共重合体となる場合やプロピレン−エチレンランダム共重合体を含有する場合も想定され得る。従って、プロピレン系重合体成分(Ax)のエチレン含有量は、0ないし2重量%として導き出すことができる。
【0114】
指標(a2)
各製造例のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレート「MFR(A)」(230℃、2.16kg荷重)は、2.1ないし7.0g/10minであった。当該範囲から、好ましいMFR(A)は0.5ないし10.0g/10minと導き出すことができる。
【0115】
指標(a3)
各製造例のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)におけるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)のエチレン含有量E(Ay)は、38.0ないし52.0重量%であった。当該範囲から、好ましいエチレン含有量E(Ay)は、40ないし60と導き出すことができる。
【0116】
指標(a4)
各製造例におけるプロピレン系重合体成分(Ax)のMFR(Ax)とプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のMFR(A)の比、すなわち「MFR(Ax)/MFR(A)」の値は、1.14ないし2.4であった。当該範囲から、好ましい比は、2.0ないし4.5と導き出すことができる。
【0117】
〔エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の指標〕
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)はEL1及びEL2の2種類であった。開示の実施例の結果から明らかように、いずれも、前掲の同(B)の2ないし10重量%の重量配合割合を満たす限り好適な性能を示すに至った。このことから、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)に関する(b1)ないし(b3)の3項目の物性は次のとおり勘案することができる。
【0118】
指標(b1)
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の密度に関し、EL1及びEL2はともに0.885g/cm
3である。そこで、0.860ないし0.895g/cm
3の密度の範囲が導き出される。
【0119】
指標(b2)
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)のメルトフローレート「MFR(B)」(190℃、2.16kg荷重)に関し、EL1は1.2g/10minであり、EL2は3.6g/10minであった。そこで、0.5ないし10.0g/10minのMFRの範囲が導き出される。
【0120】
指標(b3)
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の構造に関し、実施例にて使用したEL1及びEL2に含有されるα−オレフィンは両方とも3ないし8の範囲の炭素数(コモノマー)である。そのため、EL1及びEL2は、ともにエチレンと炭素数3ないし8(C3ないしC8)のα−オレフィンとのランダム共重合体であるといえる。
【0121】
〔直鎖状低密度ポリエチレン(C)の指標〕
比較例7は直鎖状低密度ポリエチレン(C)のLL5を使用し、比較例8は同(C)のLL6を使用した。比較例7,8はともに透明性の悪化(白化)が顕著となった。この結果も併せて直鎖状低密度ポリエチレン(C)の4つの指標(c1)ないし(c4)の範囲は、次のとおり表すことができる。
【0122】
指標(c1)
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)の密度は、0.898ないし0.962g/cm
3であった。比較例8(LL6使用)及び比較例7(LL5使用)の0.920g/cm
3を超過すると、性能低下を招くことから、およそ当該値のLL5の密度が上限と考えられる。従って、好ましい密度は0.895〜0.920g/cm
3と導き出すことができる。
【0123】
指標(c2)
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)のメルトフローレート「MFR(C)」(190℃、2.16kg荷重)に関し、2.1ないし13g/10minの範囲であった。このことから0.5〜20.0g/10minの範囲とすることができる。その上で、比較例7の最小値と比較例8の最大値の例の性能低下を勘案して、好ましくは3ないし7g/10minの範囲を規定することができる。
【0124】
指標(c3)
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)に含有されるα−オレフィンは、いずれも3ないし6の範囲の炭素数(コモノマー)であった。そこで、存在可能なコモノマーの炭素数を加味して、直鎖状低密度ポリエチレン(C)はエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体とすることが好ましい。
【0125】
指標(c4)
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)に関し、比較例7(LL5)及び比較例8(LL6)はチーグラー触媒による重合であり、これ以外はメタロセン触媒による重合であった。比較例7,8の性能低下の結果から、直鎖状低密度ポリエチレン(C)はメタロセン触媒による重合物であることが好ましい。
【0126】
[多層フィルムの結果・考察について]
実施例16ないし18はポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの片面または両面に他の樹脂組成のフィルム部位を形成した例である。実施例16及び18は両面形成であり、実施例17は片面形成である。表8から把握されるように、両例とも良好な結果を得た。従って、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムのみならず、同フィルムを含む多層フィルムにおいても本発明の所望とする性能を確認することができた。また、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの表面に追加される他のフィルムの樹脂組成に着目すると、実施例16のA−3はプロピレン−エチレン共重合体を含有し、実施例17のA−3はプロピレン−エチレン共重合体を含有し、実施例18はA−5のプロピレン単独重合体を含有する例である。ゆえに、多層フィルムの形成に際し、プロピレン−エチレン共重合体もプロピレン単独重合体も使用可能である。