(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する構造部材を、第1の方向に複数配置し、第1の方向に直交する第2の方向に複数配置して構成される木造建築物において、
前記1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する複数の構造部材のうち、壁耐力を必要とする複数箇所の第1の構造部材に含まれる第1の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、柱に接する側面の圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上のものであって、各第1の構造部材に固定されることなく、当該第1の構造部材に対応する第1の空間部にそれぞれ嵌め込まれる、複数の第1の発泡樹脂板状部材、および
前記第1の発泡樹脂板状部材と同じ材質のものが用いられ、前記複数の構造部材のうちの壁耐力を必要としない複数個所の第2の構造部材に含まれかつ前記複数の第1の空間部と開口部を除いた第2の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、各第2の構造部材に固定されることなく、当該第2の構造部材に対応する第2の空間部のそれぞれに嵌め込まれる、複数の第2の発泡樹脂板状部材を備え、
前記第1の発泡樹脂板状部材は、その長辺方向の側面が前記第1の構造部材に含まれる1対の柱に接することによって、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が加わるときに、当該柱を介して当該水平荷重による水平力を第1の発泡樹脂板状部材の長辺方向に沿う側面によって受けて、耐力壁として作用し、
前記第2の発泡樹脂板状部材は、前記1対の柱の一方の柱から他方の柱に伝わる水平力に抗する耐力を低減させる耐力低減部を有し、
前記耐力低減部は、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が各1対の柱に加わったときに、前記第2の発泡樹脂板状部材をその面外方向であって水平荷重を逃す方向に変形又は移動させる機構を備えたことを特徴とする、木造建築物の耐力構造。
前記第2の発泡樹脂板状部材は、前記第1の発泡樹脂板状部材の板厚よりも薄い板状部材を複数枚積層して構成され、当該複数枚の板状部材が積層して前記第2の空間部に嵌め込まれ、
前記第2の発泡樹脂板状部材は、水平荷重が各1対の柱に加わったとき、積層された複数枚の板状部材が水平方向に対して座屈することにより耐力低減部として働き、その耐力を低減するように作用することを特徴とする、請求項1に記載の木造建築物の耐力構造。
1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する構造部材を、第1の方向に複数配置し、第1の方向に直交する第2の方向に複数配置して構成される木造建築物における耐力工法であって、
前記1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する複数の構造部材のうち、壁耐力を必要とする複数箇所の第1の構造部材に含まれる第1の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、柱に接する側面の圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上のものであって、当該第1の構造部材と関連して耐力を発揮する壁構造となる、複数の第1の発泡樹脂板状部材を準備する第1の工程、
前記第1の発泡樹脂板状部材と同じ材質のものが用いられ、前記複数の構造部材のうちの壁耐力を必要としない複数個所の第2の構造部材に含まれかつ前記第1の空間部と開口部を除いた第2の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、前記1対の柱の一方の柱から他方の柱に伝わる水平力に抗する耐力を低減させるような耐力低減部を有する、複数の第2の発泡樹脂板状部材を準備する第2の工程、
前記第1の発泡樹脂板状部材を、前記複数の第1の構造部材に固定することなく、当該第1の構造部材に対応する複数の第1の空間部にそれぞれ嵌め込む第3の工程、
前記第2の発泡樹脂板状部材を、前記複数の第2の構造部材に固定することなく、前記第1の発泡樹脂板状部材が嵌め込まれるべき前記第1の空間部と開口部を除いた第2の空間部のそれぞれに嵌め込む第4の工程を備え、
前記第1の発泡樹脂板状部材の長辺方向に沿う側面が前記第1の構造部材に含まれる1対の柱に接することによって、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が加わるときに、当該柱を介して当該水平荷重による水平力を当該第1の発泡樹脂板状部材の長辺方向に沿う側面で受けて、当該第1の発泡樹脂板状部材を耐力壁として作用させ、
前記耐力低減部は、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が各1対の柱に加わったときに、前記第2の発泡樹脂板状部材をその面外方向であって水平荷重を逃す方向に変形又は移動させる機構を備えたことを特徴とする、木造建築物の耐力工法。
【背景技術】
【0002】
図14は従来の木造建築物の一部の立面図であって、平常時の場合(左図)と、地震による水平力が加わって変形した場合(右図)を示す。木造建築物は、1対の柱1a,1bと1対の横架材2a,2bからなる矩形の構造部材3を、建物のけた行方向(建物の平面から見て横方向、以下「X方向」ともいう)および張り間方向(建物の平面から見て奥行方向又は縦方向、以下「Y方向」ともいう)に、それぞれの方向に複数組み合わせて構造材としている。
そして、木造建築物は、柱1a,1bと横架材2a,2bからなる矩形の構造部材3の空間部4に必要十分な壁がない場合に、平常時では水平荷重(又は水平力)が加わらないので問題ないが、地震や台風の発生により一定値以上の水平荷重が加わると、建物が倒壊してしまう危険性がある。
【0003】
地震や台風などの水平荷重に対して建物の倒壊を防止するために、木造建築物では耐力壁とした耐力構造が必要である。
わが国の木造建築物の耐震設計は、関東大地震を契機にして、震度5程度の中規模の地震に対しては建物が損傷しないものとし、震度6〜7の稀に起こる大地震の場合にある程度の損傷があっても倒壊又は崩壊せず、人命を守るという考え方に基づくものである。
また、台風や積雪においても、この考え方に基づいて材料や壁量が定められている。
従来の木造建築物の耐力構造は、剛性だけで評価するものであったが、1995年の阪神大地震を契機として、粘りである靭性も考慮されるようになった。
【0004】
建築基準法では、構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあっては、全ての方向の水平力(又は水平荷重)に対して安全であるように、各階の張り間方向およびけた行方向に、それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣り合い良く配置しなければならないと定めている。
【0005】
従来、木造建築物の壁耐力構造としては、筋かい,合板,土壁および貫(ぬき)等が知れている。合板や土壁は面で耐力を有するものである。
これらの耐力構造は、柱と梁又は土台(以下、梁・土台を総称して「横架材」という)に対して、筋かいが両端を釘付け等で固定(又は緊結)され、合板が1対の柱と1対の横架材の四辺に所定間隔で釘付け等により固定され、貫が1対の柱に固定されている。
ここで、これらの壁倍率は、土壁が壁倍率1で、筋かいが厚さ3cm以上で幅9cm以上の木材のものを壁倍率1.5倍、合板が壁倍率2.5倍とされる。壁倍率は、5倍以上あっても評価されず、最大でも5倍と看做される。
【0006】
これらの耐力構造は、地震等による一定荷重を超えると、破断して一気に耐力を無くし、木造建築物が崩れることになる。そのため、木造建築物が変形後も倒壊することなく、粘りのある耐力を有するものであることが求められる。すなわち、粘り強い耐力構造を有する木造建築物は、建物が一気に倒壊を起こし難いものであって、災害時における居住者の生存率を高めることに貢献できる。
従って、木造建築物は、粘り強い耐力構造であることが求められる。
【0007】
一方、木造建築物では、省エネルギーのため、全ての外壁面に断熱材が施されている。断熱材としては、発泡樹脂製断熱材(具体的には押出法ポリスチレン保温材;一般に「XPS」と略称される)や、グラスファイバー保温材等が用いられている。
従来、押出法ポリスチレンフォーム保温材(XPS)は、保温材又は断熱材としてのみ用いられ、木造建築物の構造材として用いられることが殆んど無かった。
【0008】
押出法ポリスチレンフォーム保温材を構造材として用いた従来技術として、特許文献1がある。
特許文献1は、筋かいの代わりに、帯部4と固定金物5と長さ調整手段6とからなる補強構造1を2つの構造材(柱及び梁)8,9に固定するとともに、補強部材3を取付けた木造建築物の補強構造を開示している。補強部材3は、柱及び梁等の構造材8,9の角に固定的に取り付けられるもので、小さな三角形の合成樹脂発泡体14を含む。この合成樹脂発泡体14の素材として、押出法ポリスチレンフォーム保温材を用いている。
すなわち、特許文献1は、主たる耐力構造材として補強構造1を設けるとともに、圧縮力の減衰のために従たる構造材として補強部材3を設けた技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の耐震構造である筋かいや合板や土壁は、何れも大地震のような一定強度を超える水平荷重を受けると破断もしくは耐力をなくし、一気に建物を倒壊させる問題があった。
特に、合板を用いた耐力壁構造は、柱に対して合板を所定間隔で釘打ちしたものであり、釘によって止められているだけなので、釘耐力が壁耐力となる。そのため、大地震のような一定強度を超える水平荷重を受けると
、四隅付近の釘が抜けて破損し、その周辺部分の釘抜けが徐々に拡大し、やがて合板の耐力が大きく低下してしまう。
また、筋かいも、大地震のような一定強度を超える水平荷重を受けた場合に、柱と梁の留め金具にネジ止めしている部分のネジが柱や梁から抜け、筋かいの耐力が大きく低下してしまう。
合板や筋かいの耐力が大きく低下すると、木造建築物が一気に倒壊し、居住者の生命に重大な危害を及ぼすこともある。
そのため、木造建築物は粘り強い耐力構造であることが求められる。
【0011】
特許文献1は、補強構造1と補強部材3を取付けているので、取付け作業に多大な時間と労力を要し、高価となる。また、補強部材3が圧縮力を減衰するとしても、大地震の際には、留め金具が貫通している合成樹脂発泡体14の孔を広げるように破壊するか、留め金具を取り付けているネジ・ボルトが構造材から抜けると、合成樹脂発泡体14の機能である圧縮力の減衰
を達成できない場合もある。
【0012】
それゆえに、この発明の主たる目的は、大地震のような強い水平荷重を受けても一気に破断することなく、粘り強い耐力構造を有するような、木造建築物の耐力構造及び耐力工法を提供することである。
この発明の他の目的は、取付け作業に多大な時間と労力を要することなく、安価にして必要な耐力を有する、木造建築物の耐力構造及び耐力工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する構造部材を、第1の方向に複数配置し、第1の方向に直交する第2の方向に複数配置して構成される木造建築物において、複数の第1の発泡樹脂板状部材と、複数の第2の発泡樹脂板状部材を備える。
第1の発泡樹脂板状部材は、1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する複数の構造部材のうち、壁耐力を必要とする複数箇所の第1の構造部材に含まれる第1の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、柱に接する側面の圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上のものであって、各第1の構造部材に固定(又は固着)されることなく、当該第1の構造部材に対応する第1の空間部にそれぞれ嵌め込まれる。
第2の発泡樹脂板状部材は、第1の発泡樹脂板状部材と同じ材質のものが用いられ、複数の構造部材のうちの壁耐力を必要としない複数箇所の第2の構造部材に含まれかつ複数の第1の空間部と開口部を除いた第2の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、各第2の構造部材に固定(又は固着)されることなく、当該第2の構造部材に対応する第2の空間部のそれぞれに嵌め込まれる。
さらに、第1の発泡樹脂板状部材は、その長辺方向に沿う側面が第1の構造部材に含まれる1対の柱に接することによって、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重(又は水平力)が加わるときに、当該柱を介して当該水平荷重によ
る水平力を側面で受けることによって、耐力壁として作用する。
第2の発泡樹脂板状部材は、1対の柱の一方の柱から他方の柱に伝わ
る水平力に抗する耐力を低減させる耐力低減部を
有する。
耐力低減部は、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が各1対の柱に加わったとき
に、第2の発泡樹脂板状部材をその面外方向であって水平荷重を逃す方向に変形又は移動させる機構を備えたことを特徴とする。
【0014】
第1の発明によれば、大地震のような強い水平荷重を受けても、第1の発泡樹脂板状部材が空間部の詰め物(又はクッション)となっているので、一気に破断することなく、粘り強い耐力構造を有するような、木造建築物の耐力構造が得られる。
また、耐力を必要とする第1の空間部には第1の発泡樹脂板状部材を嵌め込み、耐力を必要としない第2の空間部には第2の発泡樹脂板状部材を嵌め込むだけで、固着又は緊結する必要がないので、取付け又は組立て作業が容易かつ迅速に行え、しかも第1の発泡樹脂板状部材および第2の発泡樹脂板状部材が断熱性能も兼ね備えているので、安価にして省エネを有しつつ必要な耐力を有する、木造建築物の耐力構造が得られる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、第2の発泡樹脂板状部材の耐力低減部
が、当該第2の発泡樹脂板状部材の一方主面
に対して所定の角度をなす傾斜面を有するスリットを長辺方向に沿って形成した部分である。そして、第2の発泡樹脂板状部材は、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が各1対の柱に加わったときに、スリットの部分で破断することにより2分割して、耐力を低減するように作用する。
第2の発明によれば、斜めのスリットを形成することにより、第2の発泡樹脂板状部材が第1の発泡樹脂板状部材と同じ材質・同じ板厚のもので
も、耐力を低減した板状部材として使用できる。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、第2の発泡樹脂板状部材の耐力低減部
が、当該第2の発泡樹脂板状部材の一方主面
に対して所定の角度をなす傾斜面で裁断された裁断部を長辺方向に沿って形成して2分割した部分である。
第3の発明によれば、第2の発泡樹脂板状部材を斜めに切込み加工することによって、2分割することにより、第2の発泡樹脂板状部材が第1の発泡樹脂板状部材と同じ材質・同じ板厚のもので
も、耐力を低減した板状部材として使用できる。
【0017】
第4の発明は、第1の発明において、第2の発泡樹脂板状部材が、第1の発泡樹脂板状部材の板厚よりも薄い板状部材を複数枚積層して構成され、当該複数枚の板状部材が積層して第2の空間部に嵌め込まれる。そして、第2の発泡樹脂板状部材は、水平荷重が各1対の柱に加わったとき、積層された複数枚の板状部材が水平方向に対して座屈(水平方向に湾曲)することにより耐力低減部として
働く。
【0020】
第5の発明は、1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する構造部材を、第1の方向に複数配置し、第1の方向に直交する第2の方向に複数配置して構成される木造建築物における耐力工法であって、第1の工程ないし第4の工程を備える。
第1の工程では、1対の柱と1対の横架材によって囲まれた空間部を有する複数の構造部材のうち、壁耐力を必要とする複数箇所の第1の構造部材に含まれる第1の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、柱に接する側面の圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上のものであって、当該第1の構造部材と関連して耐力を発揮する壁構造となる、複数の第1の発泡樹脂板状部材を準備する。
第2の工程では、第1の発泡樹脂板状部材と同じ材質のものが用いられ、複数の構造部材のうちの壁耐力を必要としない複数個所の第2の構造部材に含まれかつ第1の空間部と窓やドア等の開口部を除いた第2の空間部のそれぞれの立面形状と略同程度の形状に選ばれ、1対の柱の一方の柱から他方の柱に伝わ
る水平力に抗する耐力を低減させるような耐力低減部を有する、複数の第2の発泡樹脂板状部材を準備する。
第3の工程では、第1の発泡樹脂板状部材を、複数の第1の構造部材に固定することなく、当該第1の構造部材に対応する複数の第1の空間部にそれぞれ嵌め込む。
第4の工程では、第2の発泡樹脂板状部材を、複数の第2の構造部材に固定することなく、第1の空間部と開口部を除いた第2の空間部のそれぞれに嵌め込む。
そして、第1の発泡樹脂板状部材の長辺方向に沿う側面が第1の構造部材に含まれる1対の柱に接することによって、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が加わるときに、当該柱を介して当該水平荷重によ
る水平力を当該第1の発泡樹脂板状部材の長辺方向に沿う側面で受けることによって、当該第1の発泡樹脂板状部材を耐力壁として作用させる。ま
た、耐力低減部は、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重が各1対の柱に加わったとき
に、第2の発泡樹脂板状部材をその面外方向であって水平荷重を逃す方向に変形又は移動させる機構を備えたことを特徴とする。
【0021】
第7の発明によれば、大地震のような強い水平荷重を受けても、第1の発泡樹脂板状部材が空間部の詰め物(又はクッション)となっているので、一気に破断することなく、粘り強い耐力構造を有するような、木造建築物の耐力工法が得られる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、大地震のような強い水平荷重を受けても、第1の発泡樹脂板状部材が空間部の詰め物(又はクッション)となっているので、一気に破断することなく、粘り強い耐力構造を有するような、木造建築物の耐力構造及び耐力工法が得られる。
また、取付け作業に多大な時間と労力を要することなく、安価にして必要な耐力と断熱性を発揮できる、木造建築物の耐力構造及び耐力工法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施例1)
図1はこの発明の一実施例の木造建築物の耐力構造の概要を説明するための立面斜視図であり、
図2は
図1に示す実施例の木造建築物の一部の平面図である。
図3はこの発明の一実施例の木造建築物の耐力構造に用いられる第1の発泡樹脂板状部材と第2の発泡樹脂板状部材の横断面図である。
次に、
図1ないし
図3を参照して、第1の実施例の木造建築物の耐力構造を説明する。
【0025】
木造建築物10は、1対の柱11(11は柱の総称であり、それぞれの配置位置別の柱を区別する場合は11a,11b・・・で示す)と1対の横架材12(12は横架材の総称であり、それぞれの配置位置別の横架材を区別する場合は12a,12b・・・で示す)からなる矩形又は枠状の構造部材13(13は構造部材の総称であり、それぞれの配置位置別の構造部材を区別する場合は13a,13b・・・で示す)を、建物のけた行方向(建物の平面から見て横方向又は「X方向」)および張り間方向(平面から見て奥行方向又は「Y方向」)に、それぞれ複数組み合わせて構成される。
【0026】
図1,
図2では、1つの方向(例えばX方向)における2つの構造部材13a,13bと他の方向(Y方向)における1つの構造部材13nの例を示す。但し、
図1では、作図上の簡易化のため、Y方向における構造部材13nを省略している。
より具体的には、1つの構造部材13aは、1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bによって構成されて、これらの1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bの4辺によって囲まれる空間部14aを有する。また、構造部材13bは、1対の柱11b,11cと1対の横架材12a,12bによって構成されて、これらの1対の柱11b,11cと1対の横架材12a,12bの4辺によって囲まれる空間部14bを有する。
この場合、隣接する構造部材13aおよび構造部材13bでは、柱13bと横架材12a,12bが共通となる。
また、構造部材13aに直交する方向(Y方向)には、構造部材13nが柱11aに隣接して設けられる。構造部材13nは、1対の柱11a,11nと1対の横架材12n,12mによって構成され、これらの1対の柱11a,11nと1対の横架材12n,12mの4辺によって囲まれる空間部14nを有する。
【0027】
横架材12aは、布基礎(又はコンクリート基礎)15の上に水平に載置され、布基礎15に固定されて、土台となる。換言すると、木造建築物10の1階の場合は、横架材12aが土台で、横架材12bが梁であり、1対の横架材12a,12bが土台と梁から構成されことになる。また、木造建築物10の2階(又は2階以上)の場合は、横架材12aが1階の梁で、横架材12bが2階の梁である。すなわち、水平方向に載置又は設置された土台12aと梁12bを総称して横架材12という。
【0028】
図1,
図2の実施例では、構造部材13aが耐力を有する壁(耐力壁)を必要とする構造材であり、構造部材13bが耐力を有しない壁を必要とする構造材の例を示す。
そして、この実施例では、圧縮強度を有する第1の発泡樹脂板状部材21(
図3(a)参照)と、圧縮強度を有しないか圧縮強度の低減加工(若しくは低減処理)を施した第2の発泡樹脂板状部材22(
図3(b)参照)の2種類の発泡樹脂板状部材が準備される。
なお、1対の柱11a,11bの間に間柱を入れることもあるが、その場合でも第1の発泡樹脂板状部材21の左右側面の耐力となる部分は1対の柱11a,11bで受けられるものである。
【0029】
第1の発泡樹脂板状部材21および第2の発泡樹脂板状部材22は、同じ材質の押出法ポリスチレンフォーム等が用いられる。第1の発泡樹脂板状部材21および第2の発泡樹脂板状部材22は、サイズ的に短辺方向の幅dが1対の柱11a,11b(又は11b,11c)の間隔と略同程度(同一又はそれよりも若干短く、例えば1〜3mm短く)、長辺方向の長さ(高さ)hが1対の横架材12a,12bの間隔と略同程度(同一又はそれよりも若干短く、例えば1〜3mm短く)選ばれる。
第1の発泡樹脂板状部材21および第2の発泡樹脂板状部材22は、圧縮強度の異なるものが用いられる。第1の発泡樹脂板状部材21の圧縮強度
は、側面の圧縮力が0.5kgf(=4.9ニュートン、略5ニュートン)/平方センチメートル以上のものが選ばれ
る。ここで、第1の発泡樹脂板状部材21の側面の圧縮強度が0.5kgf(=4.9ニュートン、略5ニュートン)/平方センチメートル以上の圧縮力を要するのは、1対の柱11a,11bに接する長辺方向の側面(すなわち、後述の図4(b)に示す正面から見て左右の側面)である。
一方、第2の発泡樹脂板状部材21の圧縮強度
は、側面の圧縮力が0.5kgf/cm2又は5ニュートン(以下「N」と表記する)/cm2を大きく下回る値であって、圧縮強度を考慮する必要のない程に低減されたもの(例えば土壁よりも小さな石膏ボードの壁倍率0.5以下のもの)が用いられる。
【0030】
第2の発泡樹脂板状部材22は、第1の発泡樹脂板状部材21と同程度の材質および厚さのものを用いる場合に、圧縮強度を考慮する必要のない程に圧縮強度を低減加工する方法として、短辺方向の或る位置(例えば略中央)でありかつ長辺方向に沿って細長く主面に対して所定角度だけ斜めのスリット211が形成される(
図3(b)参照)。
例えば、第2の発泡樹脂板状部材22は、全体の板厚をtとしたとき、スリット211の深さt1が板厚tの1/2〜3/4の範囲の深さ(好ましくは2/3程度の深さ)であって、スリット幅が2〜3mm程度、スリット角θが25度〜60度の範囲(好ましくは30度程度)に選ばれる。
第2の発泡樹脂板状部材22のスリット221を形成した部分(厚さt2の部分)は、スリット221を中心として第2の発泡樹脂板状部材22の左側部分223と右側部分224をつないだ連結部222になるととも
に、水平方向から第1の方向又は第2の方向へ水平荷重による水平力が各1対の柱に加わったときに、水平力に抗する耐力を低減させるように加工した部分(耐力低減部)となる。
【0031】
このスリット221を形成した連結部222(耐力低減部分)の厚さt2は、比較的小さな地震(例えば震度5以下)による水平荷重の加わったときには耐力低減部が破断することなく、木造建築物10に重大な被害を及ぼすような比較的大きな地震(例えば震度6以上)による水平荷重の加わったときには連結部222が破断するような厚さに選ばれる。
また、スリット221の角度θ(すなわち、スリット221を形成した傾斜面の角度)は、比較的大きな地震による水平荷重の加わることによって、連結部222が破断したとき、第2の発泡樹脂板状部材22の左側部分223と右側部分224のそれぞれの傾斜面が接した状態で斜めに滑ることによって水平荷重を分散し、圧縮強度を低減するように働く。この連結部が破断した状態を
図3(c)に示す。
【0032】
木造建築物10の建築に際して、
図3(a)に示す第1の発泡樹脂板状部材21が空間部14a,14nに嵌め込まれ、
図3(b)に示す第2の発泡樹脂板状部材22が空間部14bに嵌め込まれる。
このとき、建築作業員は、構造部材13aや構造部材13bに特別の加工のための作業を行うことなく、第1の発泡樹脂板状部材21と第2の発泡樹脂板状部材22を所定の空間部13a,13bに嵌め込むだけで良いので、嵌め込み作業を迅速かつ短時間に行え、しかも熟練者でなくても作業効率よく行える利点がある。
【0033】
好ましくは、第1の発泡樹脂板状部材21は、サイズ的に短辺方向の幅dが1対の柱11a,11bの間隔よりも若干短く(例えば1〜3mm短く、好ましくは2mm短く)、長辺方向の長さ(高さ)hが1対の横架材12a,12bの間隔よりも若干短く(例えば1〜3mm、好ましくは2mm短く)選ばれる。
これによって、第1の発泡樹脂板状部材21を1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bによって囲まれる構造部材13aに嵌め込むとき、空間部14aの内側寸法よりも若干小さいので、隙間が生じ、第1の発泡樹脂板状部材21の嵌め込み作業が同一寸法の場合よりも容易かつ迅速に行える利点がある。
【0034】
図4は
図1の実施例において、地震による水平荷重を受けた場合に、第1の発泡樹脂板状部材21が圧縮力を受けて変形し、水平荷重を分散して柱に伝える状態を説明するための概念図である。
特に、
図4では、左の(a)が水平荷重を受けない通常状態を示し、右の(b)が中規模程度以上の地震等により水平荷重を受けて木造建築物10が変形した状態を示す。
通常状態では、1対の柱11a,11b(又は11a,11n)と1対の横架材12a,12bからなる構造部材13a(又は13n)には水平荷重が加わらないので、第1の発泡樹脂板状部材21が圧縮力を受けることはない。この場合、第1の発泡樹脂板状部材21の立面形状が構造部材13a(又は13n)の空間部14a(又は14n)の形状より若干小さな形状に選ばれていると、第1の発泡樹脂板状部材21の一方の側面(図示では左側面)が対応する一方の柱に接していても、他方の側面(図示では右側面)が僅かな隙間を空けて他方の柱に対峙している。
【0035】
地震・台風等による衝撃力が水平荷重として水平方向のX方向(第1の発泡樹脂板状部材21の短辺方向)に加わった場合は、水平荷重が比較的小さなとき、
図4(a)に示すように、第1の発泡樹脂板状部材21が空間部14aとの隙間の間で僅かに移動し、水平荷重を柱11a,11bに伝達することもない。
ところが、水平荷重がある大きな値になると、
図4(b)に示すように、1対の柱11a,11bの変形量が大きくなるため、第1の発泡樹脂板状部材21の一方側面(例えば左側面)の略上半分が柱11aに接し、他方側面(例えば右側面)の略下半分が柱11b(水平荷重がY方向に加わった場合は柱11n)に接した状態になり、
図4(b)の斜線部分で示すように、第1の発泡樹脂板状部材21の両側面で圧縮力を受けることになる。
すなわち、第1の発泡樹脂板状部材21は、水平荷重の加わる方向によって、各側面の略上半分と略下半分で水平荷重を分散して圧縮力として受ける。例えば、
図4(b)の左方向から水平荷重を受けた場合は、第1の発泡樹脂板状部材21の左側面の略上半分で柱11aからの荷重を受けて短辺方向で収縮し、その荷重を吸収しつつ分散しながら右側面の略下半分を介して柱11bへ伝達する。逆に、
図4(b)の右方向から水平荷重を受けた場合は、第1の発泡樹脂板状部材21の右側面の略上半分で柱11bからの荷重を受けて短辺方向で収縮し、その荷重を吸収しつつ分散しながら左側面の略下半分を介して柱11aへ伝達する。
【0036】
このとき、第1の発泡樹脂板状部材21は、柱11a,11bや横架材12a,12bに比べて遥かに弾性力に富むので、水平荷重を吸収しつつ分散しながら一方から他方へ伝達する。そのため、水平荷重が土壁,筋かい又は合板の耐力壁としての限界値を超えても、第1の発泡樹脂板状部材21が一気に破壊することなく、弾性力を保ったままで徐々に耐力を減少するように働く。
従って、土壁,筋かい又は合板の代わりに第1の発泡樹脂板状部材21を用いた木造建築物10は、第1の発泡樹脂板状部材21が空間部14の詰め物(又はクッション)となっているので、筋かいや合板を用いた木造建築物が倒壊する程度の大きな水平荷重を受けたとしても、一気に倒壊することを防止できる。
【0037】
次に、第1の発泡樹脂板状部材21が土壁,筋かい又は合板等の耐力壁と比較して、どの程度の耐力を有するかを考察する。
例えば、階高(横架材12aの上面から横架材12bの上面までの高さ)を280cmとし、横架材12bの高さを18cmとすれば、1対の横架材12a,12bの間隔が262cmとなる。また、柱芯間の長さLを90cmとし、柱寸法(太さ)10cm角の柱を用いる場合、柱間の長さは80cmとなる。
そして、第1の発泡樹脂板状部材21は、側面の圧縮強度を10N/cm
2とし、短期許容応力度を2/3、低減係数を0.75と仮定すると、その短期許容せん断耐力Paは第(1)式で表すことができる。
Pa=10N/cm
2×2/3×0.75=4.99N/cm
2 ・・・(1)
ここで、圧縮強度が10N/cm
2以上の第1の発泡樹脂板状部材21の発泡プラスチック系フォームとしては、押出法ポリスチレンフォームがある。この押出法ポリスチレンフォームでは、その製造方法から、側面の圧縮強度が平面圧縮強度よりも低減されるので、上記(1)式では10N/cm
2としている。
第1の発泡樹脂板状部材21が柱の変形に抵抗できる力Pは、その変形時に側面積の1/2近くとなることから、第(2)式で表される。
P=262cm×1/2×6.5cm×4.99N/cm
2
=4248N≒4.24kN ・・・(2)
その場合の壁倍率は、P×(1/1.96)×(1/L)に基づいて算定する。1.96は倍率=1を算定する数値(kN/m)で、Lは壁芯の長さ(m)を表す。
この場合の壁倍率は、第(3)式で表される。
壁倍率=4.24×(1/1.96)×(1/0.9)=2.40 ・・・(3)
従って、壁倍率は2.4となる。
第1の発泡樹脂板状部材21の壁倍率(2.4)を他の耐力壁と比較すれば、厚さ9mmの合板の壁倍率2.5倍と略同等となる。これらは、仮定計算によるものであって、実施に当たっては公的試験によるデータが採用される。
そして、第1の発泡樹脂板状部材21は、具体的には圧縮強度が10N/cm
2(約1kgf/cm
2)以上の発泡プラスチック系フォームとして、押出法ポリスチレンフォームが知られている。これ(押出法ポリスチレンフォーム)には、より具体的な材料として、例えばダウ工業株式会社のスタイロフォーム(登録商標)のA−XPS−B−3bが知られている。
なお、他社のこれと同等の圧縮強度を有する押出法ポリスチレンフォーム(A種押出法ポリスチレンフォーム3種)を用いてもよいことは、勿論である。
【0038】
上記計算上の結果によれば、上記条件の第1の発泡樹脂板状部材21は、壁倍率が合板と略同等になることが分かる。
壁倍率1の土壁と比べて、2.4倍あるので、側面の圧縮強度が1/2の5N/cm2(約0.5kgf/cm2)の
発泡プラスチック系フォームでも第1の発泡樹脂板状部材21として用いることができる。
そして、第1の発泡樹脂板状部材21が空間部14の詰め物(又はクッション)となっているので、筋かいや合板を用いた木造建築物が倒壊する程度の水平荷重を受けたとしても、一気に破壊することもなく徐々に破壊されるので、木造建築物が倒壊するまでに時間的余裕を確保でき、居住者が逃げ出すことのできる可能性を高めることができる。
【0039】
一方、耐力を必要としない構造部材13bには、第2の発泡樹脂板状部材22が嵌め込まれているため、水平荷重がそのまま伝達されることがない。すなわち、第2の発泡樹脂板状部材22は、圧縮強度を5N/cm
2(約0.5kgf/cm
2)よりも大きく低減したものを用いるため、水平荷重が加わったときに次のように作用する。
所定以上の大きな水平荷重が加わった場合は、
図3(c)に示すように、スリット211の形成位置の連結部222が破断するため、第2の発泡樹脂板状部材22がスリット221より左側部分223と右側部分224に2分割される。そのため、第2の発泡樹脂板状部材22は、左側部分223と右側部分224のぞれぞれの傾斜面が接しながら水平荷重を分散し、一方の柱11bから一方側面(左側面)に加わる水平荷重がそのまま伝わらず、大部分が低減されて他方側面を介して僅かに他方の柱11bに伝わることになる。そのため、第2の発泡樹脂板状部材22が耐力壁として働くこともない。
【0040】
また、第1の発泡樹脂板状部材21及び第1の発泡樹脂板状部材22は、何れも断熱材として使用される押出法ポリスチレンフォームを用いているので、充填断熱(又は内断熱)を兼ねることができ、断熱性能が高く、省エネルギー化を図れる。そして、筋かい・合板等の構造材と断熱材の両方を取り付ける場合に比べて、建築価格を安価にすることもできる。
【0041】
(実施例1の変形例)
ところで、上述の段落番号[0037]の例では、第1の発泡樹脂板状部材21の具体的な材料の一例として、押出法ポリスチレンフォームの場合を説明したが、この発明の技術思想は側面の圧縮強度が5N/cm
2(約0.5kgf/cm
2)以上のその他の材質からなる発泡プラスチック系フォームを用いることもできる。
例えば、その他の発泡プラスチック系フォームとしては、ビーズ法ポリスチレンフォーム,硬質ウレタンフォーム,ポリエチレンフォーム,フェノールフォーム等を使用することができる。
以下に、第1の発泡樹脂板状部材21の他の例として、ビーズ法ポリスチレンフォームを用いる場合に,筋かい又は合板等の耐力壁と比較して、どの程度の耐力を有するかを考察する。
【0042】
次に、第1の発泡樹脂板状部材21の他の例のビーズ法ポリスチレンが土壁,筋かい又は合板等の耐力壁と比較して、どの程度の耐力を有するかを考察する。
例えば、構造部材13a,13bと空間部14a,14bの条件、すなわち階高,横架材12bの高さ,1対の横架材12a,12bの間隔,柱芯間の長さLおよび柱寸法(太さ)を上述の段落番号[0037]の場合と同条件にし、かつ第1の発泡樹脂板状部材21の高さ,幅および板厚tを上述の段落番号[0037]の場合と同条件とすれば、第1の発泡樹脂板状部材21の圧縮強度は下記の計算式(第(5)式)で表すことができる。
まず、ビーズ法ポリスチレンを用いた第1の発泡樹脂板状部材21は、押出法ポリスチレンフォームに比べて、側面の圧縮強度が低下するので、短期許容応力度を2/3、低減係数を0.75と仮定すると、その短期許容せん断耐力Paは第(4)式で表すことができる。
Pa=5N/cm
2×2/3×0.75=2.49N/cm
2 ・・・(4)
圧縮強度が5N/cm
2以上の第1の発泡樹脂板状部材21の発泡プラスチック系フォームとしては、ビーズ法ポリスチレンフォームがある。
第1の発泡樹脂板状部材21が柱の変形に抵抗できる力Pは、その変形時に側面積の1/2近くとなることから、第(5)式で表される。
P=262cm×1/2×6.5cm×2.49N/cm
2
=2120N≒2.12kN ・・・(5)
その場合の壁倍率は、P×(1/1.96)×(1/L)に基づいて算定する。ここで、1.96は倍率=1を算定する数値(kN/m)で、Lは壁芯の長さ(m)を表す。
この場合の壁倍率は、第(6)式で表される。
壁倍率=2.12×(1/1.96)×(1/0.9)=1.20 ・・・(6)
従って、壁倍率は1.2となる。
【0043】
土壁の壁倍率1でも十分な耐力となることから、第1の発泡樹脂板状部材21としては圧縮強度に応じた多種多様の材質のものを選べることとなる。
従って、ビーズ法ポリスチレンフォームを素材とする第1の発泡樹脂板状部材21であっても、空間部14の詰め物(又はクッション)となっているので、土壁を用いた木造建築物が倒壊する程度の水平荷重を受けたとしても、一気に破壊することなく徐々に破壊される。そのため、木造建築物が倒壊するまでに時間的余裕を確保でき、居住者が逃げ出すことのできる可能性を高めることができる利点がある。
【0044】
上記第(1)式および第(4)式の短期許容せん断耐力Paの条件を満たす発泡プラスチック系フォームの具体例(市販されている製品)の一例として、その種類と各種類別の圧縮強度を下記表に示す。
【0045】
さらに、上述の実施例では、第1の発泡樹脂板状部材21の高さが1枚で1対の横架材12a,12bの間隔と同じ262cmの場合を説明したが、他の例として、それよりも短い2枚をつなぎ合わせて使用してもよい。例えば、幅が同じのもので、高さが180cmと82cm(又は200cmと62cm)の2枚を上下につなぎ合わせて使用してもよい。
【0046】
図3(b)に示す第2の発泡樹脂板状部材22の変形例として、スリット221を短辺(幅)方向の異なる位置であって、高さ方向に沿って複数本形成してもよい。これによって、水平荷重に対する耐力をより一層低減することができる。
【0047】
図5は、この発明の一実施例の木造建築物の耐力構造において、けた行方向と張り間方向のバランスを考慮した一例を示す平面図であり、
図6は
図5の例における木造建築物の外観斜視図である。
図5及び
図6の例では、けた行き方向(
図5の横方向;X方向)と張り間方向(
図5の奥行方向;Y方向)にそれぞれ複数の構造部材13があり、X方向の両外側(左右外側)に第1の構造部材13a,13d,13f,13jが配置されるとともに、Y方向の両外側(上下外側)に第1の構造部材13n,13m,13o,13pが配置され、それ以外の部分には窓16が形成されるか、耐力を必要としない第2の構造部材13b,13g,13h,13iが配置される場合を示す。
そして、第1の構造部材13a,13d,13f,13j,13n,13m,13o,13pに対応する空間部14a,14d,14f,14j,14n,14m,14o,14pには、第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。第2の構造部材13b,13g,13h,13iに対応する空間部14b,14g,14h,14iには、第2の発泡樹脂板状部材22が嵌め込まれる。
換言すると、
図5の例では、木造建築物10の四隅の角の柱に隣接する構造部材13a,13d,13f,13j,13n,13m,13o,13pに第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれることになる。
【0048】
このように、木造建築物10において、耐力を必要とする第1の構造部材13a,13d,13f,13j,13n,13m,13o,13pに耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21を嵌め込み、耐力を必要としない第2の構造部材13b,13g,13h,13iに耐力を有しない第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込むことにより、耐力壁を木造建築物10の全体でバランス(又は釣り合い)よく配置するのは、次の理由による。
木造建築物10は、あらゆる方向から荷重が加わることになるが、地震又は台風による荷重を検討する場合に、水平方向のX方向とY方向の成分に分けて考察している。その場合、全ての構造部材の空間部に同じ耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21を嵌め込むと、対となる第1の発泡樹脂板状部材21の数量による差によって木造建築物10の全体に回転によるねじれが生じ、木造建築物10を倒壊させてしまう場合がある。
そこで、対となる第1の発泡樹脂板状部材21の数量に差が出ないか、大きく異ならないように、X方向(対をなす上辺と下辺)とY方向(対をなす左辺と右辺)の両方向で対をなす各辺の耐力のバランスを保つように工夫したものである。
【0049】
次に、X方向とY方向の両方向で耐力壁をバランスよく配置する方法について考察する。
図5の例に示す平面構造の木造建築物10の場合は、X方向がY方向よりも長いので、窓16を除く全ての壁面に第1の発泡樹脂板状部材21を嵌め込むと、X方向とY方向の耐力壁のバランスを保つことができない。特に、X方向においては、上辺と下辺が窓16を配置した下辺と窓を配置しない上辺で、壁耐力の差が大きくなり、X方向の向かい合う辺(上辺と下辺)の耐力バランスが大きく異なってしまうことになる。
そこで、
図5の例では、耐力構造的に重要性の低いX方向の中央に近い構造部材13b,13g(左辺から2番目の構造部材),13h,13i(左辺から3番目と4番目の構造部材)に耐力を有しない第2の発泡樹脂板状部材21を入れることにより、X方向の外側壁面の耐力壁となる第1の発泡樹脂板状部材21の数を上辺と下辺で同数(又は大きく差が生じない程度)とし、Y方向の外側壁面の耐力壁となる第1の発泡樹脂板状部材21の数を左辺と右辺で同数とし、全体的に耐力壁のバランスを取るようにしている。換言すると、
図5の例では、木造建築物10
の四隅の角柱に接する各構造部材13a,13d,13f,13j,13n,13m,13oおよび13pには、耐力壁となる第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。
このようにバランスよく耐力壁(第1の発泡樹脂板状部材21)を配置して、水平方向のあらゆる方向から水平荷重が加わった場合でも、回転による建物全体としてのねじれが生じるのを防止している。
【0050】
図7は木造建築物の耐力構造において、けた行方向(X方向)と張り間方向(Y方向)のバランスを考慮した他の例を示す平面図である。
図5では木造建築物が横長の長方形の場合を説明したが、木造建築物は建築主の希望により長方形又は正方形以外の複雑な平面形状になることもある。
図7では、正方形の一部の角に窪みを形成した(例えば、右上の角を小さな正方形の分だけ切欠いて内側に後退させた)平面形状の例を示す。
四角形の一部の角に窪みを形成した
図7の平面形状の場合は、後述する
図8の「外側辺の1/4」を検討する上で、X方向の間口の広い辺(下辺)と間口の狭い辺(上辺)で壁耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21を同数(図示例では2つ)配置し、Y方向の間口の広い辺(左辺)と間口の狭い辺(右辺)で壁耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21の同数(図示例では2つ)配置し、窓を除く他の壁部分には第2の発泡樹脂板状部材22を配置する。
右上の角の窪み部分(L字状部分)の壁面については、外側壁面より1/4の範囲から外れるので、耐力壁を考慮する必要がない。換言すれば、この部分(
図7において、「21(or22)」と記載した壁部分)は、バランスを考慮する対象に含まれないので、第1の発泡樹脂板状部材21又は第2の発泡樹脂板状部材22の何れでもよい。
【0051】
図8はこの実施例の木造建築物の耐力構造において、けた行方向(X方向)と張り間方向(Y方向)のバランスを考慮して一般化した配置例を説明するための平面図である。
特に、けた行方向(X方向)と張り間方向(Y方向)に分けて第1の構造部材と第2の構造部材をバランス良く配置する目的で、X方向の間口を8つの桝目(点線)で構成し、Y方向の間口を6つの桝目で構成した場合において、X方向とY方向のどの位置に耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21を嵌め込むべきかを考察したものである。
【0052】
特に、
図8(a)は、けた行方向(X方向)にバランスよく耐力を発揮するために、どの位置に耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21を配置すべきかを考察した図である。
X方向にバランスよく耐力を発揮するためには、Y方向を4分割(2点鎖線)したときのそれぞれ1/4の範囲にある両外側(上下外側)のX方向に沿う壁であって、細かな(又は密の)斜線で示す壁に第1の発泡樹脂板状部材21を嵌め込み、粗い斜線で示す壁に第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込むものとする。
換言すると、X方向の下辺では、左端と右端と右から3番目の壁に第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。X方向の上辺では、左端,左から2番目と右端の壁に第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれ、左から3番目,4番目及び右から2番目の壁に第2の発泡樹脂板状部材22が嵌め込まれる。
ここで、X方向の上辺と下辺の壁に着目すると、耐力壁となるべき第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる壁の数が上辺と下辺で同数となる。
また、窓の多い下辺には、第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込む余地がないが、窓を除いて壁のある上辺の左から3番目と4番目と右から2番目の壁には第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込むことにより、第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込んだ壁が耐力壁にならないようにする。これによって、X方向の上辺と下辺で耐力壁の数のバランスを取っている。
【0053】
図8(b)は、張り間方向(Y方向)にバランスよく耐力を発揮するために、どの位置に耐力を有する第1の発泡樹脂板状部材21を配置すべきかを考察した図である。
Y方向にバランスよく耐力を発揮するためには、X方向を4分割(2点鎖線)したときのそれぞれ1/4の範囲にある両外側(左右外側)のY方向に沿う壁であって、細かな斜線で示す壁に第1の発泡樹脂板状部材21を嵌め込み、粗い斜線で示す壁に第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込むものとする。
換言すると、Y方向の左辺では、左外側の全ての壁(3つ)と、左外側から1/4の範囲にある中央2枡の壁に、第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。Y方向の右辺では、右外側の下から1番目,2番目,上から1番目の壁と、左外側から1/4の範囲の下から1番目と上から1番目の壁に第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。
Y方向では、左辺と右辺の窓の大きさが異なり、窓の少ない右辺の右外側の下から3番目の壁に第2の発泡樹脂板状部材22を嵌め込む。
これによって、Y方向の左辺と右辺で壁のバランスを取ることができ、地震や台風の発生時の回転変形またはねじれによる木造建築物の倒壊を軽減できるという、特有の効果が奏される。
【0054】
(実施例2)
図9はこの発明の他の実施例の木造建築物の耐力構造を説明するための図であり、特に第1の発泡樹脂板状部材21と筋かいを併用した場合を示す。
この実施例では、
図9(a)の平面図及び
図9(b)の立面図に示すように、1対の柱11a,11bが筋かい17によって緊結され、筋かい17を除く空間部14aに第1の発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。例えば、1対の柱11a,11bが10cm角の角材を用いた場合、厚みが3cmの筋かいであれば、第1の発泡樹脂板状部材21(6.5cm以下)と併用しても、柱11a,11bの厚みの範囲であり、第1の発泡樹脂板状部材21が柱11a,11bの面より突出することもない。
そして、第1の発泡樹脂板状部材21と筋かいを併用すれば、圧縮強度は両材料を合成したのと同程度に増大できる利点がある。しかも、第1の発泡樹脂板状部材21が第1式又は第2式のような圧縮強度を有するので、大きな地震による水平荷重を受けたとしても、その水平荷重が第1の発泡樹脂板状部材21と筋かいによって分散して受け止められるので、水平荷重の一部が弾力性のある第1の発泡樹脂板状部材21によって吸収しつつ分散され、水平荷重の全てが筋かいに加わることを防止しているので、筋かいの破壊を遅らせるか、防止することもできる。
【0055】
(実施例3)
図10はこの発明のその他の実施例(第1の発泡樹脂板状部材の他の例)を示す概念図であり、特に
図10(a)が他の第1の発泡樹脂板状部材21aの横断面図、
図10(b)がこの発明の他の実施例の木造建築物の一部の平面図である。
この実施例の第1の発泡樹脂板状部材21aは、
図10(a)に示すように、
その長辺の側面に僅かな傾斜面を形成することにより、横断面(空間部に嵌め込まれたときの平面)から見て台形状(短辺と長辺が平行な台形状)に形成される。すなわち、第1の発泡樹脂板状部材21aは、その短辺の一方辺(図示の下辺で外側となる面)の長さdが1対の柱11a,11bの間隔と同じ長さに選ばれ、他方辺(図示の上辺で内側となる面)の長さが1対の柱11a,11bの間隔よりも2xだけ短く(d−2x)選ばれることにより、1対の柱11a,11bに接する側面が僅かな傾斜を有するように構成される。ここで、xは例えば1〜2mm程度、傾斜角度は90度より若干(0.8〜2度)小さな角度である。
また、好ましくは、第1の発泡樹脂板状部材21aは、横架材12bに接する辺が内側面に傾斜して形成され、横架材12aに接する辺が主面に対して直角に選ばれる。すなわち、柱11a,11bと横架材12bに接する側面(主面から見て左右と上辺の3側面)が嵌め込んだときに内側となる面に向けて傾斜するように構成される。
上述のような第1の発泡樹脂板状部材21aは、
図3(a)のものの側面を切削加工して作られる。
この第1の発泡樹脂板状部材21aは、
図10(b)に示すように、台形状の上辺を奥行方向の面として、1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bで囲まれる構造部材13aの空間部14aに嵌め込まれる。
この実施例のように第1の発泡樹脂板状部材21aを構成すれば、木造建築物の内側となる主面の平面形状が1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bで囲まれる構造部材13aの空間部14aよりも若干小さいので、嵌め込み作業が容易かつ迅速に行えることに加えて、外側となる主面の平面形状が構造部材13aの空間部14aと同一なので、隙間がなく、断熱性に優れた発泡樹脂板状部材21aが得られる。また、横架材12aに接する辺を主面に対して直角にすれば、横架材12a上で水平に載置されることになり、立てた状態に安定して保持できる。
【0056】
なお、この実施例の発泡樹脂板状部材21aは、木造建築物の耐力構造の構造材としての用途に限らず、断熱材としてのみの用途に用いてもよい。その場合も、嵌め込み作業が容易かつ迅速に行えるとともに、断熱性能の向上を図れる利点がある。
【0057】
(実施例4)
図11はこの発明のその他の実施例の第2の発泡樹脂板状部材を示す横断面図であり、特に第2の発泡樹脂板状部材22aを2分割したものである。
この実施例では、第2の発泡樹脂板状部材22aがスリット221の形成に代えて、第1の発泡樹脂板状部材21を短辺のほぼ中央位置で斜めに長辺方向に沿って裁断したものである。斜めに裁断する角度は、
図3(b)に示す第2の発泡樹脂板状部材のスリット221の角度と同様に選ばれる。
この実施例の2分割した第2の発泡樹脂板状部材22aを空間部14bに嵌め込む際に、作業員が2回の嵌め込み作業しなければならないという煩わしさがあるが、
図3(b)に示すスリット付の第2の発泡樹脂板状部材22と同様に圧縮力を低減できる利点がある。
言い換えれば、
図3(b)に示す第2の発泡樹脂板状部材22は、この実施例の2分割した第2の発泡樹脂板状部材に比べて、容易かつ迅速に嵌め込み作業を行える利点がある。
【0058】
(実施例5)
図12はこの発明のさらにその他の実施例の第2の発泡樹脂板状部材22bを示す横断面図であり、特に第2の発泡樹脂板状部材22bが薄い複数枚の板状部材225〜227を積層して構成した例を示す。
この実施例では、第2の発泡樹脂板状部材22bが薄い複数枚の板状部材225〜227を積層して構成される。そして、薄い複数枚の板状部材225〜227を積層して空間部14bへ嵌め込むことにより、1つの第2の発泡樹脂板状部材22bとして機能させる。
薄い複数枚の板状部材225〜227を積層して第2の発泡樹脂板状部材22bを構成すれば、水平荷重が加わったときに、各板状部材225〜227が薄いため湾曲し座屈するので、水平荷重を十分に(又は1枚の厚い発泡樹脂板状部材のように)受け止めることができない。その結果として、薄い複数枚の板状部材225〜227を積層した第2の発泡樹脂板状部材22bが耐力を減少させるように働く。
また、水平荷重に対する発泡樹脂板状部材の圧縮強度は、側面の面積が大きく影響するが、複数枚の板状部材を積層すれば、それぞれの板状部材の側面の面積が積層枚数分の1以下になることに加えて、1枚の厚いものに比べて湾曲し座屈するため、圧縮強度が減少する。そのため、薄い板状部材を複数枚積層して厚みを同程度にしたものでも、圧縮強度を大幅に減少させることができる。
【0059】
(実施例6)
図13はスリット付の第2の発泡樹脂板状部材22の製造工程を説明するための概念図である。
図1および
図3(b)に示される、壁耐力を必要としない構造部材13bに嵌め込まれるスリット付の第2の発泡樹脂板状部材22は、
図3(b)を参照して説明したように構成されるが、より具体的には
図13のような製造工程によって製造される。
先ず、
図13(a)に示すように、第1の発泡樹脂板状部材21が準備される。この第1の発泡樹脂板状部材21の製造は、押出法ポリスチレンフォーム等の製造工程によって製造される。
次に、
図13(b)(c)に示すように、第1の発泡樹脂板状部材21の移送経路に、丸鋸刃31を回転軸32に支持し、丸鋸刃31をスリット角θの角度だけ傾けるように、回転軸32を傾けてモータ33の回転軸に連結する。スリット角θは
図3(b)を参照して説明した角度に選ばれ、移送テーブル台から丸鋸刃31を突出させる長さがスリット221の深さt2に選ばれる。
そして、丸鋸刃31の設置された移送テーブル台上を第1の発泡樹脂板状部材22の短辺の略中央から長辺方向(
図13(b)の白抜矢印の方向)に沿って第1の発泡樹脂板状部材21を押し出す。このとき、第1の発泡樹脂板状部材21は、その下面(裏側面)が丸鋸刃31に削られながら移動されるため、斜めのスリット221が長辺方向に細長く形成されることになる。
このように、一方主面に対して所定角度だけ傾斜させかつ長辺方向に沿って細長いスリット221を形成したものが、
図1及び
図3(b)に示すような、第2の発泡樹脂板状部材22となる。