特許第6962684号(P6962684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962684乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962684
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/64 20060101AFI20211025BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20211025BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20211025BHJP
【FI】
   C12N9/64 ZZNA
   A23C9/13
   A23K20/189
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-526547(P2016-526547)
(86)(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公表番号】特表2016-527882(P2016-527882A)
(43)【公表日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】EP2014064913
(87)【国際公開番号】WO2015007638
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年7月5日
【審判番号】不服2019-12674(P2019-12674/J1)
【審判請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】13177064.6
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ロン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス ヤコプスン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス マーテン バン デン ブレンク
【合議体】
【審判長】 長井 啓子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平05−500603号公報
【文献】 特表2009−533036号公報
【文献】 独国特許出願公開第01492060号明細書
【文献】 NETH.MILK DAIRY J.,1985年,Vol.39,No.2,pp.63−70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 15/00-15/90, C12N 9/00- 9/99, C07K 1/00-19/00, C12Q 1/00- 3/00
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物であって:
(i)組成物1gあたり25〜30000IMCUの強度の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素;
(ii)150ppm〜2500ppm(w/w)の濃度のポリマー;及び
(iii)1〜350g/kgの濃度の塩;
を含有し;
かつpHが2〜8であり;
かつ当該ポリマーが、以下の(a)、(b)及び(c)の特性:
(a)当該ポリマーは、エチレンオキシドのモノマーのポリマーである;及び
(b)当該ポリマーは、分子量200g/mol〜50000g/molのポリマーである;及び
(c)当該ポリマーは、反復モノマー/要素数(いわゆる「n」数)が、n=5〜n=1250のポリマーである;
を備えるポリマーであり;かつ
(D)任意で、上記(a)、(b)及び(c)の特性を備えるポリマーが、上記特性(a)のモノマーと異なる1つ以上の置換基化合物を含み、当該ポリマーが置換されたポリマーである場合、斯かる置換されたポリマーの分子量は上記特性(b)の範囲内であり、置換基化合物の分子量は、置換されたポリマーのポリマー部分の分子量を下回る;
当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物。
【請求項2】
以下の工程:
(a)請求項1に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を提供する工程;及び
(b)当該組成物を、−10℃〜50℃の温度で90〜2000日の期間保存する工程;
を含む、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を保存する方法。
【請求項3】
食料又は飼料製品を生産する方法であって、有効量の請求項1に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を食料又は飼料成分に添加する工程、及び更なる製造工程を実施して食料又は飼料製品を取得する工程、を含み、
当該製品が乳製品であり、当該方法が、有効量の請求項1に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を乳に添加する工程、及び更なる製造工程を実施して乳製品を取得する工程を含み;かつ
当該乳が羊の乳、山羊の乳、バッファローの乳、ヤクの乳、リャマの乳、ラクダの乳又は牛乳であり;かつ
当該乳製品が、発酵乳製品、クワルク又はチーズである;
当該生産方法。
【請求項4】
前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物が、まず請求項2に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の保存方法に従って保存され、続いて請求項3に記載の食料又は飼料成分に添加される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
目的の酵素を含有する水性媒体から乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法であって、以下の工程:
(i)アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む複数の成分からなる水性試料を取得する工程;
(ii)工程(i)の水性試料に対して150〜2500ppmの濃度でポリマーを添加してポリマー含有試料を取得する工程;及び
(iii)工程(ii)のポリマー含有試料からアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離することによって、所望の単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得する工程;
を含み、
ここで当該ポリマーが、請求項1に規定される(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性を備えるポリマーである、当該方法。
【請求項6】
前記単離工程(iii)が、以下の工程:
(A)疎水部分を含む固体基礎マトリックス含有リガンドを含有することにより当該リガンドへの所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の吸着を達成する固相上に、前記工程(ii)のポリマー含有試料を適用する工程;及び
(B)当該固相から所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を溶出して、当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を回収することにより、所望の精製された単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得する工程;
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
目的の酵素を含有する水性媒体から乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法であって、以下の工程:
(i)疎水部分を含む固体基礎マトリックス含有リガンドを含有することにより当該リガンドへの所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の吸着を達成する固相上に、アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む複数の成分からなる水性試料を適用する工程;
(ii)溶出緩衝剤に対して150〜2500ppmの濃度でポリマーを添加する工程;かつ
(iii)工程(i)の固相から工程(ii)の溶出緩衝剤を用いて所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を溶出して、当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を回収することにより、所望の精製された単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得する工程;
を含み、ここで当該ポリマーが、請求項1に規定される(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性を備えるポリマーである、当該方法。
【請求項8】
前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、表1:
【表1】
の「ラクダキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する;又は
前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、前記表1の「ウシペプシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシペプシン又はウシペプシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ウシペプシン」の欄に示すウシペプシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する;
請求項1に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物、又は請求項5〜のいずれか1項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法。
【請求項9】
前記ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリソルベート又はBrij35である、請求項1又はのいずれか1項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物、又は請求項5〜のいずれか1項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法。
【請求項10】
前記ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)、ポリソルベート20又はBrij35であって、当該PEGの分子量が5000g/mol〜15000g/molである、請求項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物、又は請求項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法。
【請求項11】
前記項目(i)における酵素強度が、組成物1gあたり100IMCU〜10000IMCUの強度であり;かつ
前記項目(ii)におけるポリマー濃度が、150ppm〜2500ppm(w/w)の濃度であり;かつ
前記塩が、NaCl、KCl、Na、(NH、KHP、KH、NaHP若しくはNaH又はそれらの組み合わせから成る群から選択され;かつ
−前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり300IMCUを上回り、当該乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し;又は
−前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり150IMCUを上回り、当該乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、前記表1の「ウシキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシキモシン又はウシキモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ウシキモシン」の欄に示すウシキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し;かつ
当該液体組成物の合計の重量が10g〜10000kgである;
請求項1及び請求項8〜10のいずれか1項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物。
【請求項12】
前記項目(ii)において添加されるポリマー濃度が、150ppm〜2500ppm(w/w)であり;かつ
前記項目(iii)において取得される単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の純度が全タンパク質の60%w/w以上であり(即ち単離された組成物中の全タンパク質の60%w/wが単離された凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素である);かつ
前記ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)又はBrij35であり;かつ
当該ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)である場合、当該ポリマーの分子量が2000g/mol〜30000g/molであり;かつ
前記項目(iii)において単離される乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が:
−その特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり300IMCUを上回り、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する酵素である;又は
−その特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり150IMCUを上回り、前記表1の「ウシキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシキモシン又はウシキモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ウシキモシン」の欄に示すウシキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する;
酵素であり;かつ
工程(i)のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む多くの成分からなる水性試料が、生産性宿主細胞中での乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の組換え生産によって取得され;かつ
所望の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法が:クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、吸着床(bed adsorption)、吸着流動床(expanded bed adsorption)(EBA)、バッチ吸着、膜吸着及びイオン交換クロマトグラフィー(IEC)からなる群から選択される1つ以上の精製技術を使用して行われる;
請求項5〜10のいずれか1項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法。
【請求項13】
前記項目(ii)において添加されるポリマー濃度が、150ppm〜2500ppm(w/w)であり;かつ
前記項目(iii)において取得される単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の純度が全タンパク質の60%w/w以上であり(即ち単離された組成物中の全タンパク質の60%w/wが単離された凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素である);かつ
前記ポリマーが5000g/mol〜30000g/molのポリエチレングリコール(PEG)又はBrij35であり;かつ
前記項目(iii)において単離される乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が:
−その特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり300IMCUを上回り、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する酵素である;又は
−その特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり150IMCUを上回り、前記表1の「ウシキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシキモシン又はウシキモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ウシキモシン」の欄に示すウシキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する;
酵素であり;かつ
工程(i)のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む多くの成分からなる水性試料が、生産性宿主細胞中での乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の組換え生産によって取得され;かつ
所望の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法が:クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、吸着床(bed adsorption)、吸着流動床(expanded bed adsorption)(EBA)、バッチ吸着、膜吸着及びイオン交換クロマトグラフィー(IEC)からなる群から選択される1つ以上の精製技術を使用して行われ;かつ
前記リガンドの疎水部分がベンジル基であり;かつ
前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ラクダキモシン」の欄に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する、又は前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、前記表1の「ウシペプシン」の欄に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシペプシン又はウシペプシンのバリアントであって、当該バリアントは、前記表1の「ウシペプシン」の欄に示すウシペプシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する;
請求項6〜10及び請求項12のいずれか1項に記載の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体又は乾燥顆粒化組成物、及び所望の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キモシンやペプシン等の乳凝固酵素による乳の酵素的凝固は、チーズの製造における最も重要なプロセスの一つである。乳の酵素的凝固は、二つの相:タンパク質溶解性酵素、キモシン又はペプシンが、κ―カゼインを攻撃して、準安定状態のカゼインミセル構造をもたらす第一の相、及び乳が凝固して凝塊を形成する第二の相、からなるプロセスである。
【0003】
ヒト胃内の乳凝固酵素であるキモシン(EC 3.4.23.4)及びペプシン(EC 3.4.23.1)は、ペプチダーゼの幅広いクラスに属するアスパラギン酸プロテアーゼである。
【0004】
商業的に重要な乳凝固酵素製品は、しばしば液体組成物であり、本分野において、製品中の乳凝固酵素を安定化させる、例えば酵素の保存安定性を改善する、様々な異なる方法での試みが開示されている。
【0005】
例えば、EP2333056A1(DSM、出願日2007年12月4日)は、蟻酸塩、酢酸塩、乳酸塩、プロピオン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩又はプロパンジオールが、液体組成物/製品中のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の安定性を増大し得ることを開示している。
【0006】
WO2012/127005A1(DSM)は、2〜100g/kgの濃度の無機塩及び蟻酸塩、酢酸塩、乳酸塩、プロピオン酸塩、リンゴ酸塩、安息香酸塩、ソルビン酸塩、又はフマル酸塩、グリコール(エタンジオール)、プロピレングリコール(プロパンジオール)、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、イノシトール又はガラクチトール等の保存料を含有する、安定な液体キモシン組成物を開示している。
【0007】
ポリエチレングリコール(PEG)はエチレンオキシドのポリマーであり、ポリオキシエチレン(POE)とも称される。PEGは、300g/mol〜10,000,000g/mol等の幅広い分子量のものが商業的に入手できる。
【0008】
US5139943(Genencor、公開日1992年8月18日)は、液体−液体二相系による微生物的に生産されたキモシンの回収におけるPEGの使用を開示しており、ここでPEG及び無機塩が、発酵媒体/ビールに添加されて、液体−液体(水性)二相系が形成され、PEG相からキモシンが回収/単離される。実施例において、約4〜5%wt/volのPEG8000及び約10%wt/volの硫酸ナトリウムを使用して、液体−液体(水性)二相系が取得されている。
【0009】
US7998705B2 (Fujifilm、公開日2011年8月16日)は、高い塩濃度(例えば細胞培養液)でイオン交換クロマトグラフィー樹脂に対する動的結合容量を増大させて、所望のタンパク質を精製するためのPEGの使用を開示している。所望のタンパク質の例として、ウシグロブリン、ウシ血清アルブミン及びリゾチームが示されており、乳凝固酵素(例えばキモシン)は明示されていない。実施例(例えば実施例1)において、タンパク質の最良の回収率は、約6%w/vのPEG(好ましくはPEG4600)を使用して得られたことが記載されており、例えば0.5%程度のPEGは、タンパク質の回収/単離に対して殆ど正の影響をもたらさなかったことを示す。
【0010】
本分野で知られているように、PEG化という用語は、ポリエチレングリコール(PEG)構造を、他の巨大分子、例えば治療的タンパク質と共有結合する作用を指す(以下「PEG化する」と称する)。PEG化は、分子の分子量が増大することにより、薬物の溶解性の改善、用量頻度の減少等、未修飾体と比較して幾つかの顕著な薬理的利益をもたらし得る。
【0011】
US2011/0008846A1(Qiagen)は、産業的に使用される酵素及びレンニン(キモシン)のPEG化が、適切な産業的に使用される酵素の長いリスト内の、適切な産業的に使用される酵素の一例として示されている。実施例はポリメラーゼのPEG化に関するもののみで、レンニン(キモシン)のPEG化に関する実施例は存在しない。
【0012】
上記に引用した従来技術文献のいずれも、PEGがキモシン等のアスパラギン酸プロテアーゼ乳凝固酵素の安定性を増大し得ることを記載していないことに留意されたい。
【0013】
DE1492060A1 (Nordmark−Werke GmbH、1969年公開)は、1〜20wt%の濃度の分子量400〜6000のPEG(10000〜200000ppm相当)を添加することにより、ペプシン組成物を作製する方法を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決する課題は、新規な乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素(例えばキモシン)組成物の提供であり、当該アスパラギン酸プロテアーゼは、安定性及び/又は活性が増大している。
【0015】
本発明が解決する他の課題は、アスパラギン酸プロテアーゼ酵素(例えばキモシン)を単離する新規な方法の提供であり、当該方法は、単離されたアスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物の活性の増大をもたらし得る。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題の解決は、発明者らが、キモシンにPEG又は類似の置換されたポリオキシエチレン(例えばBrij35)を添加することにより、当該キモシンの物理的安定性が顕著に改善したことを同定したことを基礎とする。
【0017】
PEG及びBrij35の構造は、本願図1に示される。
【0018】
本願実施例で検討されるように、組換え生産されたウシキモシン(CHY−MAX(登録商標), Chr. Hansen A/S)及びラクダキモシン(CHY−MAX(登録商標) M, Chr. Hansen A/S)は、クロマトグラフィーによって精製され、ここでPEG8000及びBrij35は、カラムからの溶出前に添加され、又はPEG8000及びBrij35は、溶出緩衝剤に添加された。
【0019】
PEG8000又はBrij35を含有する試料は、PEG/Brij35を添加せずに精製した対照試料と比較して、特異的活性が1.5〜2倍に増大した(本願実施例2及び図2)。
【0020】
斯かるキモシン酵素の特異的活性の顕著な増大の効果は、特に、タンパク質の単離直後に見られる点で、発明者らにとって驚異的であった。
【0021】
斯かる迅速に観察される特異的活性の増大は、PEG/Brij35が長期的な保存での沈殿の問題を低下させることによって酵素の長期的な保存安定性を増大すること等だけでは説明できない。なぜなら、本願実施例で使用した精製プロトコール/方法において、タンパク質の単離直後に酵素の顕著な沈殿は認められないからである。また、PEG/Brij35を添加していない対照実験においても、タンパク質の単離直後にクソの顕著な沈殿は認められない。
【0022】
理論に拘束されず、PEG/Brij35は、キモシンの立体構造の安定性の増大をもたらすと考えられ、これは、本願実施例で迅速に観察される特異的活性の増大を説明し得る。
【0023】
理論に拘束されず、従来技術において、PEG又は構造的に類似のポリマーが、アスパラギン酸プロテアーゼ乳凝固酵素、例えばキモシンの安定性を増大させ得ること、特に立体構造の安定性が増大し得ることを記載又は示唆するものは存在しないと考えられる。
【0024】
酵素の立体構造の安定性は、本願図3に図示される。
【0025】
本分野で知られるように、立体構造の喪失は、酵素の活性の喪失と等しい。
【0026】
本願実施例において、PEGの添加が、液体及び/又は顆粒化キモシン組成物の長期間の保存安定性を増大させたことも実証されている。
【0027】
理論に拘束されず、アスパラギン酸プロテアーゼ乳凝固酵素(例えばキモシン)において、立体構造の喪失は、例えば液体製剤中の例えば長期間の保存の間の酵素の沈殿の増大をもたらし得るのであろう。
【0028】
従って、PEGは、例えば酵素の立体構造の安定性を提供することによって、保存中の乳凝固酵素の沈殿の減少を助けるのであろう。
【0029】
ポリエチレングリコール(PEG)は、エチレンオキシドのポリマーであり、ポリオキシエチレン(POE)とも称され、構造に基づくIUPAC命名では、PEGはポリ(オキシエチレン)である。
【0030】
本願において当業者が理解する通り、Brij35は、置換されたポリオキシエチレンを意味し、ここで置換基は、本願図1に示すように、「C12」として示される。
【0031】
本願において当業者が理解する通り、ポリマー、例えばポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート又はポリメタクリレートは、PEG/Brij35と構造的及び機能的に関連していると見做され得る。
【0032】
本分野で知られているように、ポリマーはヘテロポリマーやコポリマーであってもよく、これらは、ホモポリマーが1つのモノマーで構成されるのに対して、2つ以上のモノマー種で構成されるポリマーである。
【0033】
本願において当業者が理解する通り、以下:エチレンオキシド、ビニルポリピロリドン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリレート及びメタクリレートの2つ以上のモノマー種に由来するコポリマーが、本願において、構造的及び機能的に関連すると見做され得る。
【0034】
理論に拘束されず、PEG/Brij35に構造的及び機能的に関連するポリマーが乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の安定性の顕著な改善をもたらさないと考えることに、顕著な技術的根拠は存在しないと考えられる。
【0035】
本願実施例において、PEG8000及びBrij35が用いられ、これらは平均分子量がそれぞれ8000g/mol及び1225g/molである。
【0036】
本発明において、分子量(分子量(MW)とも表記する)200g/mol〜50,000g/molのポリマーが適切であり得る。
【0037】
本発明において、モノマー/要素の反復回数(n数)がn=5〜n=1250であるポリマーが適切であり得る。
【0038】
例えば、図1において、Brij35はn=23である。
【0039】
本分野で知られているように、n=1250のPEGはMWが約50,000g/molでPEG8000は分子量約8,000g/mol及びn=200である。
【0040】
図6は、本発明におけるポリマーの例としてポリソルベート20を示しており、これは合計で20個のエチレンオキシドモノマーを含む。
【0041】
本願実施例4は、ポリソルベート20の添加が、試験された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素液体組成物の安定性を増大させたことを示す。
【0042】
本願において当業者が理解する通り、ポリソルベート20は、本願の特性(c)に関し、モノマー/要素の反復回数(n数)がn=20であるポリマーである。
【0043】
例えば、図6の命名法を使用して、ポリソルベート20は、例えば、w、x、y及びz=5、即ち4つのそれぞれn=5のグループであり得る。
【0044】
従って、本願において当業者が理解する通り、そのようなポリソルベート20ポリマーは、本願において、本願の特性(c)に関し、n=5×4=20のポリマーであり得る。
【0045】
本願において当業者が理解する通り、本願において重要なことは、そのようなポリマー中に存在する本願におけるモノマー(例えばエチレンオキシド)の数である。
【0046】
例えば、そのようなポリマー中に存在する本願におけるモノマー(例えばエチレンオキシド)の数は、例えば、本願のポリマーの分子量にとって重要である。
【0047】
従って、本願において当業者が理解する通り、本願の特性(c)に関し、「反復するモノマー」は、そのようなポリマー中に存在する本願におけるモノマー(例えばエチレンオキシド)の合計の数である。
【0048】
本分野で知られているように、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、相対的に類似の構造として見られても良い。
【0049】
本分野で知られているように、様々な哺乳類又は真菌種(例えばウシ、ラクダ、ヒツジ、ブタ、又はケカビ(mucor)から取得された様々な天然の野生型の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼポリペプチド配列は、相対的に高い三次構造の類似性を有している。
【0050】
本願図4において、異なる哺乳類種(ウシ、バッファロー、ヤギ、ヒツジ、ラクダ及びブタ)由来の本願乳凝固キモシンの配列のアラインメントを示す。図4に見られるように、それらは密接な配列関連性を有し、非常に高い三次構造の類似性を有することが知られている。
【0051】
本願図5において、商業的に入手可能な異なる哺乳類又は真菌種由来の様々な乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素(ラクダキモシン、ウシキモシン、ウシペプシン、真菌ケカビペプシン及び真菌エンドキア(Endothia)ペプシン)の配列のアラインメントを示す。
【0052】
図5の5種類の配列は高度に同一とはいえないが、当業者が理解するように、これらの5種類の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、高度な三次元構造の類似性を有することが知られている。
【0053】
上記で検討され、本願実施例で示すように、本願の安定性の改善/増大は、ウシキモシン及びラクダキモシンで実証されている。
【0054】
理論に拘束されず、本願の安定性の改善/増大効果は、一般的な乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素において適切であるべきと考える顕著な技術的根拠は無く、上記で検討されているように、それらは、高度な三次元構造の類似性を有することが知られており、当業者が理解するように、この三次元構造の類似性が、安定性の改善をもたらす本願ポリマー−酵素相互作用が、構造的に類似の本願乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の一般的なクラスの効果であることをもっともらしくすると考えられる。
【0055】
従って、本発明の第一の側面は、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物であって:
(i)組成物1gあたり25〜3000IMCUの強度の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素;
(ii)1ppm〜10000ppm(w/w)の濃度のポリマー;及び
(iii)1〜350g/kgの濃度の塩;
を含有し;
かつpHが2〜8であり;
かつ当該ポリマーが、以下の(a)、(b)及び(c)の特性:
(a)当該ポリマーは、エチレンオキシド、ビニルポリピロリドン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリレート及びメタクリレートからなるモノマーの群から選択される1つ以上のモノマーのポリマーである;及び
(b)当該ポリマーは、分子量200g/mol〜50000g/molのポリマーである;及び
(c)当該ポリマーは、反復モノマー/要素数(いわゆる「n」数)が、n=5〜n=1250のポリマーである;
を備えるポリマーであり;かつ
(D)任意で、上記(a)、(b)及び(c)の特性を備えるポリマーが、上記特性(a)のモノマーと異なる1つ以上の置換基化合物を含み、当該ポリマーが置換されたポリマーである場合、斯かる置換されたポリマーの分子量は上記特性(b)の範囲内であり、置換基化合物の分子量は、置換されたポリマーのポリマー部分の分子量を下回る;
当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物に関する。
【0056】
当業者が理解するように、上記第一の側面の項目(i)における「組成物1gあたり・・・IMCU」は、そのような組成物1gあたりのIMCU酵素活性を意味する。
【0057】
上記第一の側面の項目(iii)における「g/kg」も同様で、そのような組成物1kgあたりの塩のグラムを意味する。
【0058】
上記第一の側面の液体組成物の合計の重量は10g〜10000kgが好ましい。
【0059】
当業者が理解するように、上記第一の側面における本願液体組成物1kgは、概ね体積1リットルである。
【0060】
上記で検討したように、Brij35は、置換されたポリオキシエチレンを意味し、ここで置換基は、本願図1に示すように、「C12」構造として示される。Brij35の平均分子量は、約1225g/molである。
【0061】
従って、Brij35は、上記第一の側面の任意の特性(D)の置換されたポリマーの一例であり、ここで置換化合物は本願図1に示すように、「C12」構造として示され、置換されたポリマーの分子量は、1225g/molであり、置換化合物(「C12」構造)の分子量は、ポリマー部分(n=23のエチレンオキシドのポリマー)の分子量を顕著に下回る。
【0062】
本分野における当業者が理解するように、特性(a)、(b)及び(c)を有するポリマー部分が最も重要とみなされ、任意の特性(D)の可能な置換基化合物は、さほど重要でないとみなされる。
【0063】
上記のように、図6において、本願のポリマーの他の例としてポリソルベート20が示され、これは、合計で20個のエチレンオキシドモノマーを含む。
【0064】
Brij35と同様に、ポリソルベート20(別名Tween20)は、本願の置換ポリマーとして理解される。ポリソルベート20中の置換基/化合物はソルビタン及びラウリル酸塩で、当該置換基/化合物の分子量は、ポリマー部分(20個のエチレンオキシドモノマー)よりも顕著に小さい。
【0065】
本分野の当業者が理解するように、「ポリマー」は、より具体的な「置換されたポリマー」を含むため、ポリマーは置換されてもされていなくてもよい。
【0066】
上記で検討したように、US5139943は、液体−液体(水性)二相系を取得するために4〜5%w/volのPEG8000を使用し、US7998705B2は、イオン交換クロマトグラフィー樹脂に対する動的結合能力を顕著に増大させるために、約6%w/vのPEGを使用している。
【0067】
第一の側面の組成物において、本願ポリマー(例えばPEG)の使用量は僅か1ppm〜10000ppm w/w (即ち0.0001%〜1.0%w/w)に過ぎず、即ち、その使用量は、上記で検討した従来技術文献で要求されるよりも顕著に少ない。
【0068】
従って、理論に拘束されず、本願に記載の乳凝固酵素に対する立体構造安定性の増大を得るために使用される本願ポリマー(例えばPEG)の必要量は、上記従来技術で使用される量と比較して、顕著に少ないと言える。
【0069】
本願ポリマー(例えばPEG)は、加工助剤(processing aids)とも記載され得る。
【0070】
本発明の第一の側面は液体組成物に関するが、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素(例えばキモシン)は、乾燥顆粒化組成物/製品として商業化されてもよい。
【0071】
従って、本発明の第二の側面は、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼの乾燥顆粒化酵素組成物であって:
(i)組成物1gあたり25〜3000IMCUの強度の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素;
(ii)1ppm〜10000ppm(w/w)の濃度のポリマー;及び
(iii)塩;
を含有し;
かつ当該組成物が水に懸濁した場合のpHが2〜8であり;
かつ当該ポリマーが、第一の側面に規定される(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性を備えるポリマーである;
当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の乾燥顆粒化組成物に関する。
【0072】
上記で検討したように、PEG化は、他のより大きい分子、例えば治療タンパク質に、ポリエチレングリコール(PEG)構造を共有結合させる(以下「PEG化する」と表記する)作用に関する。
【0073】
本分野の当業者が理解するように、本発明の革新は、そのようなPEG化に関するものではない。
【0074】
従って、本分野の当業者が理解するように、本願の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体及び/又は乾燥組成物は、好ましくは、1つの組成物ではなく、前記ポリマーは、当該乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素と共有結合している。
【0075】
本願で検討されるように、本願の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の利点は、保存安定性に優れる点である。
【0076】
従って、本発明の第三の側面は、以下の工程:
(a)第一若しくは第二の側面の、又は本願のいずれかの態様に関する乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を提供する工程;及び
(b)当該組成物を、−10℃〜50℃の温度で90〜2000日の期間保存する工程;
を含む、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を保存する方法に関する。
【0077】
本願乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、従来技術に従って、例えば、所望の食品(例えばチーズ製品等の所望の乳ベースの製品等)を生産するのに使用されてもよい。
【0078】
従って、本発明の第四の側面は、食料又は飼料製品を生産する方法であって、当該生産方法は、有効量の第一又は第二の側面又は本願の関連する態様の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を食料又は飼料成分に添加する工程、及び更なる製造工程を実施して食料又は飼料製品を取得する工程、を含む。
【0079】
本願に記載のように本願ポリマーを使用して、上記で検討したように、特異的活性の増大した乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素試料を単離/精製できる。
【0080】
従って、本発明の第五の側面は、目的の酵素を含有する水性媒体から乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法であって、以下の工程:
(i)アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む複数の成分からなる水性試料を取得する工程;
(ii)工程(i)の水性試料に対して1〜10000ppmの濃度でポリマーを添加してポリマー含有試料を取得する工程;及び
(iii)工程(ii)のポリマー含有試料からアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離することによって、所望の単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得する工程;
を含み、
ここで当該ポリマーが、第一の側面に規定される(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性を備えるポリマーである、当該方法に関する。
【0081】
上記で検討したように、US5139943は、液体−液体(水性)二相系を取得するために4〜5%w/volのPEG8000を使用し、US7998705B2は、イオン交換クロマトグラフィー樹脂に対する動的結合能力を顕著に増大させるために、約6%w/vのPEGを使用している。
【0082】
第五の側面の方法において、本願ポリマー(例えばPEG)の使用量は僅か1ppm〜10000ppm w/w (即ち0.0001%〜1.0%w/w)に過ぎず、即ち、その使用量は、上記で検討した従来技術文献で要求されるよりも顕著に少ない。
【0083】
定義
本願における用語の定義は全て本分野に関する当業者が理解し得るものに従っている。
【0084】
「乳凝固酵素」は、乳凝固酵素活性を有する酵素、即ち活性な乳凝固酵素を意味する。乳凝固活性(C)は、1mlあたり又は1gあたりのInternational Milk−Clotting Units (IMCU)で表され得る。当業者は、本願の乳凝固酵素の活性をどうやって決定するかを承知している。本願実施例1において、乳凝固酵素活性を決定する標準的な方法及び特異的な乳凝固酵素活性の例を提供している。本分野で知られているように、特異的凝固活性(全タンパク質1mlあたりのIMCU)は、凝固活性(IMCU/ml)を、全タンパク質量(1mlあたりの全タンパク質mg)で割って決定される。
【0085】
「ppm」は、100万分の1を意味する。本分野で知られているように、「ppm」という単位は質量分率に用いられ、ppmは、本願において、質量分率(w/w)に関連して使用される。例えば、本願の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物に関して本願ポリマーの濃度が500ppm(w/w)であるということは、当該ポリマーが、試料組成物1グラムあたり、1グラムの100万分の1の500倍存在していることを意味し、これは0.05%w/wに相当する。言い換えると、1ppm(w/w)は0.0001%(w/w)に対応し、10000ppm(w/w)は1%(w/w)に対応する。
【0086】
「配列同一性」は、2つのアミノ酸の間の関連性を意味する。
【0087】
本発明の目的のため、2つのアミノ酸配列間の配列同一性の程度が、本分野の公知の方法によって決定され、好ましくは、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276−277)、好ましくはバージョン3.0.0以降中で実施される、Needleman−Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443−453)を使用して決定される。使用される任意のパラメーターは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップエクステンションペナルティ0.5、及びEBLOSUM62 (BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換行列である。Needleラベルされた「最長の同一性」(-nobriefオプションを使用して取得された)のアウトプットをパーセント同一性として使用し、以下のように計算された:
(同一の残基数×100)/(アラインメントの長さ-アラインメント中の合計のギャップ数)
【0088】
「バリアント」は、1つ以上の位置に、変異、即ち置換、挿入及び/又は欠失を含む、乳凝固酵素活性を有するペプチドを意味する。置換は、1つの位置を占める1つのアミノ酸を、異なるアミノ酸で置き換えることを意味し;欠失は、1つの位置を占める1つのアミノ酸を除去することを意味し;そして挿入は、1つの位置を占める1つのアミノ酸の隣に1〜3個のアミノ酸を追加することを意味する。
【0089】
アミノ酸は、天然であっても、又は非天然アミノ酸、例えばD異性体(又はD型)で置き換えられてもよく、例えば理論的にはD−アラニンであってもよい。
【0090】
本発明の態様は以下に例示のみのために記載される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】PEG及びBrij35の構造を示す。
【0092】
図2A】溶出緩衝剤に0.1%PEG8000又はBrij35を添加した場合の、PEG8000又はBrij35を添加しない対照と比較した結果を示す。例えば、本願実施例2に記載の詳細を参照されたい。図2Aはラクダキモシンにおけるデータを示す。
【0093】
図2B】溶出緩衝剤に0.1%PEG8000又はBrij35を添加した場合の、PEG8000又はBrij35を添加しない対照と比較した結果を示す。例えば、本願実施例2に記載の詳細を参照されたい。図2Bはウシキモシンにおけるデータを示す。
【0094】
図3】酵素の立体構造の安定性を図示している。
【0095】
図4】異なる哺乳類種(ウシ、バッファロー、ヤギ、ヒツジ、ラクダ及びブタ)由来の様々な本願乳凝固キモシンの配列のアラインメントを示す。図4の全ての配列は、公然と入手可能である。
【0096】
図5】商業的に入手可能な異なる哺乳類又は真菌種由来の様々な乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素(ラクダキモシン、ウシキモシン、ウシペプシン、真菌ケカビペプシン及び真菌エンドキア(Endothia)ペプシン)の配列のアラインメントを示す。図5の全ての配列は、公然と入手可能である。
【0097】
図6】本願の他のポリマーである合計で20個のエチレンオキシドモノマーを含むポリソルベート20の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0098】
発明の詳細な記載
乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素
下記の本願乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の具体的な検討は、本願において検討される発明の全ての側面に関連する。
【0099】
好ましい態様において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、キモシン(EC 3.4.23.4)、ペプシン(EC 3.4.23.1)及びケカビペプシン(mucorpepsin)(EC 3.4.23.23)から成る群から選択される乳凝固酵素である。
【0100】
好ましい乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、カメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンで、例えばWO02/36752A2 (Chr. Hansen)に記載されている。本明細書中ではこれをラクダキモシンとも称しており、公然知られている成熟ポリペプチドアミノ酸配列は、本願図5に記載されている。
【0101】
本分野で知られているように、酵素の特性を実質的に変化させずに所望の酵素のバリアントを作成する(即ちアミノ酸配列を変更する)ことは、当業者にとってありふれた作業である。
【0102】
従って、好ましい態様において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する。
【0103】
好ましい乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、ウシキモシンである。ウシキモシンの公然知られている成熟ポリペプチドアミノ酸配列は、本願図5に記載されている。
【0104】
従って、好ましい態様において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシキモシン又はウシキモシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すウシキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する。
【0105】
好ましい乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、ウシペプシンである。ウシペプシンの公然知られている成熟ポリペプチドアミノ酸配列は、本願図5に記載されている。
【0106】
従って、好ましい態様において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシペプシン又はウシペプシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すウシペプシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する。
【0107】
好ましい乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、ケカビペプシンである(例えばEP0805866B1 (Harboe et al, Chr. Hansen A/S, Denmark))。公然知られている成熟ポリペプチドアミノ酸配列は、本願図5に記載されている。
【0108】
従って、好ましい態様において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むケカビペプシン(ケカビと称する)又はケカビペプシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すケカビペプシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する。
【0109】
好ましい乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、エンドキア(Endothia)ペプシンである。公然知られている成熟ポリペプチドアミノ酸配列は、本願図5に記載されている。
【0110】
従って、好ましい態様において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むエンドキアペプシン(エンドキアと称する)又はエンドキアペプシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すエンドキアペプシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する。
【0111】
ポリマー
上記で検討したように、第一の側面の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物、第二の側面の乾燥組成物、及び/又は第五の側面の所望の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の単離方法におけるポリマーは、以下の特性(a)、(b)及び(c)又は任意の(D):
(a)当該ポリマーは、エチレンオキシド、ビニルポリピロリドン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリレート及びメタクリレートからなるモノマーの群から選択される1つ以上のモノマーのポリマーである;及び
(b)当該ポリマーは、分子量200g/mol〜50000g/molのポリマーである;及び
(c)当該ポリマーは、反復モノマー/要素数(いわゆる「n」数)が、n=5〜n=1250のポリマーである;及び
(D)任意で、上記(a)、(b)及び(c)の特性を備えるポリマーが、上記特性(a)のモノマーと異なる1つ以上の置換基化合物を含み、当該ポリマーが置換されたポリマーである場合、斯かる置換されたポリマーの分子量は上記特性(b)の範囲内であり、置換基化合物の分子量は、置換されたポリマーのポリマー部分の分子量を下回る;
を有するポリマーである。
【0112】
下記本願ポリマーの具体例の検討は、本願で検討される本発明の全ての側面に関連する。
【0113】
本分野における当業者に理解されるように、特性(a)の2つ以上のモノマーのポリマーは、本分野においてヘテロポリマー又はコポリマーと称されても良く、これらは、ホモポリマーが1つのモノマーで構成されるのに対して、2つ以上のモノマー種で構成される。即ち、特性(a)の1つのモノマーで構成されるポリマーは、本分野において、ホモポリマーと称され得る。
【0114】
特性(a)において、ポリマーは、特性(a)の群から選択される2つの異なるモノマーで構成されるポリマーであるのが好ましい。
【0115】
好ましくは、当該ポリマーはホモポリマーである。
【0116】
任意の特性(D)において、置換基化合物の分子量は、置換されるポリマーのポリマー部分の分子量の2分の1以下であるのが好ましく、より好ましくは、置換基化合物の分子量は、置換されるポリマーのポリマー部分の分子量の4分の1以下である
【0117】
本願において好ましい置換されるポリマーはBrij35で、その構造は本願図1に示されている。
【0118】
置換化合物は、例えば、C−C25アルキル(例えばC−C25置換アルキル)、C−C25アルケニル(例えばC−C25置換アルケニル)であってもよく、当該アルキル及び/又はアルケニルは、直鎖、環状又は分岐であってもよい。
【0119】
本分野で知られているように、ポリマーは、例えばCl、Br及び類似の置換基化合物を含んでも良く、即ち、Cl、Brも、本願置換基化合物の例であり得る。
【0120】
好ましくは、前記ポリマーは、分子量750g/mol〜30,000g/mol、例えば分子量2000g/mol〜20,000g/molのポリマー、又は例えば5000g/mol〜15,000g/molのポリマーである。
【0121】
本願で当業者が理解するように、好ましい分子量は、具体的なポリマーの種類や、置換されたポリマー(例えばBrij35)であるか否かに依存し得る。
【0122】
好ましくは、前記ポリマーは、反復モノマー/要素数(いわゆる「n」数)が、n=20〜n=500のポリマー、例えば反復モノマー/要素数(いわゆる「n」数)が、n=100〜n=300のポリマーである。
【0123】
分子量と同様に、本分野の当業者が理解するように、好ましい「n」数は、具体的なポリマーの種類や、置換されたポリマー(例えばBrij35)であるか否かに依存し得る。
【0124】
本願において、例えば所望の特定の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素(例えばウシ又はラクダキモシン)に関して本願における安定性の改善を達成するために、本願所望の特定のポリマーにおいて最適な分子量及び/又は「n」数を設定することは、当業者にとってありふれた作業である。
【0125】
好ましくは、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリソルベート又はBrij35である。
【0126】
前記ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート又はポリメタクリレートである場合、当該ポリマーは、分子量1500g/mol〜40,000g/mol、例えば分子量2000g/mol〜30,000g/molのポリマー、又は例えば5000g/mol〜15,000g/molのポリマーであるのが好ましい。
【0127】
好ましくは、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリソルベート20又はBrij35である。
【0128】
PEGに関して、分子量1500g/mol〜40,000g/mol、例えば分子量2000g/mol〜30,000g/molのポリマー、又は例えば5000g/mol〜15,000g/molのポリマーであるのが好ましい。
【0129】
第一及び/又は第二の側面−乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体及び/又は乾燥組成物
上記で検討したように、本発明の第一の側面は、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物であって:
(i)組成物1gあたり25〜3000IMCUの強度の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素;
(ii)1ppm〜10000ppm(w/w)の濃度のポリマー;及び
(iii)1〜350g/kgの濃度の塩;
を含有し;
かつpHが2〜8であり;
かつ当該ポリマーが、以下の(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性(本願において記載)を有する、当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物に関する。
【0130】
上記で検討したように、本発明の第二の側面は、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の乾燥顆粒化組成物であって:
(i)組成物1gあたり25〜3000IMCUの強度の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素;
(ii)1ppm〜10000ppm(w/w)の濃度のポリマー;及び
(iii)塩;
を含有し;
かつ当該組成物が水に懸濁した場合のpHが2〜8であり;
かつ当該ポリマーが、以下の(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性(本願において記載)を有する、当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の乾燥顆粒化組成物に関する。
【0131】
液体及び乾燥組成物のいずれも、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の好ましい態様/例は、上記に記載されている。
【0132】
液体及び乾燥組成物のいずれも、ポリマーの好ましい態様/例は、上記に記載されている。
【0133】
液体及び乾燥組成物のいずれも、前記項目(i)における酵素強度が、組成物1gあたり100IMCU〜10000IMCUの強度であるのが好ましく、より好ましくは、組成物1gあたり500IMCU〜6000IMCUの強度である。
【0134】
液体及び乾燥組成物のいずれも、前記項目(ii)におけるポリマー濃度が、1ppm〜5000ppm(w/w)の濃度であるのが好ましい。
【0135】
液体及び乾燥組成物のいずれも、前記項目(ii)におけるポリマー濃度が、1ppm〜3000ppm(w/w)の濃度であるのが好ましい。
【0136】
液体及び乾燥組成物のいずれも、前記項目(ii)におけるポリマー濃度が、10ppm〜5000ppm(w/w)の濃度であるのが好ましく、50ppm〜4000ppm(w/w)の濃度であるのがより好ましく、100ppm〜3000ppm(w/w)の濃度であるのが尚もより好ましい。
【0137】
前記項目(ii)におけるポリマー濃度が、160ppm〜5000ppm(w/w)、例えば175ppm〜4000ppm(w/w)の濃度であるのが重要であってもよい。
【0138】
前記項目(ii)におけるポリマー濃度が、5ppm〜145ppm(w/w)、例えば10ppm〜130ppm(w/w)の濃度であるのが重要であってもよい。
【0139】
液体組成物において、項目(iii)における塩濃度は、好ましくは10〜300g/kg、より好ましくは25〜250g/kgである。
【0140】
当業者が承知しているように、乾燥組成物において、項目(iii)における塩濃度は相対的に高く、例えば50%(w/w)〜99.9%(w/w)、又は例えば80%(w/w)〜99%(w/w)である。
【0141】
液体及び乾燥組成物のいずれも、好ましくは前記塩は無機塩であって、好ましくは、当該無機塩は、NaCl、KCl、NaS0、(NHS0、KHP0、KHP0、NaHP0、NaHP0又はそれらの組み合わせから成る群から選択される。最も好ましくは、前記塩はNaClである。
【0142】
液体及び乾燥組成物のいずれも、保存料等の更なる添加物/化合物を含有してもよい。
【0143】
当業者が承知しているように、保存料は、一般に、製品の棚寿命の間中微生物の増殖を防止するのに十分な濃度で添加される。
【0144】
保存料の例として、例えば、弱有機酸、例えば蟻酸塩、酢酸塩、乳酸塩、プロピオン酸塩、リンゴ酸塩、安息香酸塩、ソルビン酸塩又はフマル酸塩等が挙げられる。パラベン(パラヒドロキシベンゾエートのアルキルエステル)も、保存料として使用され得る。グリセロール又はプロパンジオールも、保存料として記載されている。
【0145】
液体及び乾燥組成物のいずれも、好ましくはpHは3〜7、より好ましくはpHは4〜6.5、尚もより好ましくはpHは5〜6である。
【0146】
好ましくは、前記液体組成物は、水性組成物であり、例えば水溶液である。本願において、水性組成物又は水溶液は、水、例えば20重量%以上の水、例えば40重量%以上の水を含有する任意の組成物または溶液を包含する。好ましくは、本発明の組成物は、50、60、70又は80重量%以上の水を含有する。より好ましくは、本発明の組成物は、85、90、95重量%の水を含有する。
【0147】
本願実施例2に検討され、また本願図2で見られるように、本願ポリマーを使用して、酵素の特異的活性が顕著に増大した、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を取得できた。
【0148】
本願図2Aに見られるように、本願ポリマーを使用して、特異的活性が全タンパク質1mgあたり350IMCUを上回るラクダ酵素組成物が取得され、比較実験(即ちポリマー不添加)において、当該酵素の特異的活性は全タンパク質1mgあたり約200IMCU程度であった。
【0149】
本願図2Bに見られるように、本願ポリマーを使用して、特異的活性が全タンパク質1mgあたり150IMCUを上回るウシ酵素組成物が取得され、比較実験(即ちポリマー不添加)において、当該酵素の特異的活性は全タンパク質1mgあたり約125IMCU程度であった。
【0150】
従って、好ましい態様において、液体及び乾燥組成物のいずれも、
−前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり300IMCUを上回り、より好ましくは乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり350IMCUを上回り、当該乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有し;又は
−前記乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり150IMCUを上回り、より好ましくは乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり165IMCUを上回り、当該乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシキモシン又はウシキモシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すウシキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する。
【0151】
好ましくは、本願液体組成物の合計の重量は10g〜10000kg、例えば100g〜3000kgである。
【0152】
好ましくは、本願乾燥顆粒化組成物の合計の重量は0.25g〜200kg、例えば0.5g〜50kgである。
【0153】
好ましくは、前記組成物は、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物である。
【0154】
第三の側面−保存方法
上記で検討したように、本発明の第三の側面は、以下の工程:
(a)第一若しくは第二の側面の、又は本願のいずれかの態様に関する乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を提供する工程;及び
(b)当該組成物を、−10℃〜50℃の温度で90〜2000日の期間保存する工程;
を含む、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を保存する方法に関する。
【0155】
好ましくは、工程(b)における保存温度は、4℃〜38℃である。
【0156】
好ましくは、工程(b)における保存期間は、180日〜500日である。
【0157】
第四の側面−食料又は飼料製品の製造方法
上記で検討したように、本願乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物は、本分野において、所望の乳製品(例えばチーズ製品)の製造等に使用され得る。
【0158】
上記で検討したように、本発明の第四の側面は、食料又は飼料製品を生産する方法であって、当該生産方法は、有効量の第一又は第二の側面又は本願の関連する態様の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物を食料又は飼料成分に添加する工程、及び更なる製造工程を実施して食料又は飼料製品を取得する工程、を含む。
【0159】
好ましくは、前記食料又は飼料製品は乳製品であり、前記方法は、有効量の本願単離されたキモシンポリペプチドバリアントを乳に添加する工程、及び更なる製造工程を実施して、乳製品を取得する工程を含む。
【0160】
前記乳は、例えばヤギ、ヒツジ、バッファロー、ヤク、リャマ、ラクダ又はウシの乳であってもよい。
【0161】
前記乳製品は、例えば発酵乳製品、クワルク又はチーズであってもよい。
【0162】
前記第四の側面の食料又は飼料製品を生産する方法、又はその本願における態様は、方法であって、第一に、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素組成物が、前記第三の側面の乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を保存する方法によって保存されたものであり、それが、前記第四の側面の食料又は飼料製品を生産する方法に従い、食料又は飼料成分に添加される。
【0163】
第五の側面−乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法
本発明の第五の側面は、目的の酵素を含有する水性媒体から乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離する方法であって、以下の工程:
(i)アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む複数の成分からなる水性試料を取得する工程;
(ii)工程(i)の水性試料に対して1〜10000ppmの濃度でポリマーを添加してポリマー含有試料を取得する工程;及び
(iii)工程(ii)のポリマー含有試料からアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を単離することによって、所望の単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得する工程;
を含み、
ここで当該ポリマーが、第一の側面に規定される(a)、(b)及び(c)並びに任意で(D)の特性を備えるポリマーである、当該方法に関する。
【0164】
第五の側面の方法において、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の好ましい例/態様は、上記に記載されている。
【0165】
第五の側面の方法において、ポリマーの好ましい例/態様は、上記に記載されている。
【0166】
前記項目(ii)におけるポリマー濃度は、10ppm〜5000ppm(w/w)の濃度であるのが好ましく、100ppm〜4000ppm(w/w)の濃度であるのがより好ましく、300ppm〜3000ppm(w/w)の濃度であるのが尚もより好ましい。
【0167】
工程(iii)における「単離」は、本分野における当業者が理解する筈である通り、工程(iii)において取得された単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が、工程(i)のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む多くの成分からなる水性試料と比較して、より単離されている(即ちより高純度である)ことと理解される。
【0168】
一例としては、工程(iii)において取得された単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の純度は、全タンパク質の60%w/w以上である(即ち単離された組成物中の全タンパク質の60%w/wが単離された凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素である)。なおもより高純度、即ち全タンパク質の90%w/w以上であってもよい。
【0169】
好ましくは、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、又はBrij35である。
【0170】
前記ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート又はポリメタクリレートである場合、当該ポリマーは、分子量1500g/mol〜40,000g/mol、例えば分子量2000g/mol〜30,000g/molのポリマー、又は例えば5000g/mol〜15,000g/molのポリマーであるのが好ましい。
【0171】
好ましくは、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリソルベート20又はBrij35である。
【0172】
PEGに関し、好ましくは、当該ポリマーは、分子量1500g/mol〜40,000g/mol、例えば分子量2000g/mol〜30,000g/molのポリマー、又は例えば5000g/mol〜15,000g/molのポリマーであるのが好ましい。
【0173】
好ましい態様において、前記工程(iii)において単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素は:
−その特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり300IMCUを上回り、より好ましくはその特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり350IMCUを上回り、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシンと称する)又はカメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すラクダキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する酵素である;又は
−その特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり150IMCUを上回り、より好ましくはその特異的活性が、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素タンパク質の合計の1mgあたり165IMCUを上回り、本明細書中図5に示すポリペプチドアミノ酸配列を含むウシキモシン又はウシキモシンのバリアントであって、当該バリアントは、本明細書中図5に示すウシキモシンポリペプチドアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上)の配列同一性を有する;
酵素である。
【0174】
工程(i)のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含有する多くの成分からなる水性試料は、生産性宿主細胞(例えば真核性生産性宿主細胞)中での乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の組換え生産によって取得されてもよい。
【0175】
本分野で公知のように、所望の例えば酵素を更に精製する前に、通常、発酵培地中の生産性宿主細胞や他の不要な物質が除去/分離され(例えば遠心分離及び/又は濾過)、即ち、宿主細胞のような大過剰の不要な成分が除去された、所望の酵素を含有する試料が取得される。本分野で公知のように、これは、非精製第一濾過物と呼ばれることもあり、この用語は本願で使用され得て、それは、本願の工程(i)のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む多くの成分からなる水性試料の一例であってもよい。
【0176】
WO02/36752A2 (Chr. Hansen)は、生産性宿主細胞としてアスペルギルス細胞(好ましくはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))を用いて、カメリウス・ドロメダリウス(Camelius dromedarius)キモシン(ラクダキモシン)を生産する組換え方法を記載している。
【0177】
従って、好ましくは、前記組換え生産宿主細胞は、アスペルギルス細胞(好ましくはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))であってもよい。
【0178】
リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)由来のケカビペプシンは、好ましくは、生産宿主細胞として、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)を使用して生産され得る。
【0179】
好ましくは、前記第五の側面の方法は、それが単一の方法でない場合、前記工程(i)の水性試料にPEG及び無機塩が添加されて、液体−液体(水性)二相系が形成されて、PEG相から前記アスパラギン酸プロテアーゼ酵素が回収/単離される。
【0180】
上記のように、US5139943は、そのような液体−液体(水性)二相系の使用に基づくと見做され得る方法を記載している。
【0181】
好ましい態様において、第五の側面の方法は、前記単離工程(iii)が、以下の工程:
(A)疎水部分を含む固体基礎マトリックス含有リガンドを含有することにより当該リガンドへの所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の吸着を達成する固相上に、前記工程(ii)のポリマー含有試料を適用する工程;及び
(B)当該固相から所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を溶出して、当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を回収することにより、所望の精製された単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得する工程;
を含む方法である。
【0182】
好ましい態様において、第五の側面の方法は、第五の側面の工程(i)〜(iii)が:
(i)疎水部分を含む固体基礎マトリックス含有リガンドを含有することにより当該リガンドへの所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の吸着を達成する固相上に、第五の側面の工程(i)のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含む複数の成分からなる水性試料が適用され;
(ii)第五の側面の工程(ii)におけるポリマーの添加が、溶出緩衝剤への添加であり;かつ
(iii)第五の側面の単位工程(iii)が、当該固相から所望のアスパラギン酸プロテアーゼ酵素を溶出して、当該アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を回収することにより、所望の精製された単離された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を取得することを含む;
ことを含む方法である。
【0183】
直上の2つの好ましい態様は、クロマトグラフィー単離方法(例えばカラムクロマトグラフィー)に関するものと見做され得る。そのようなクロマトグラフィーは当業者に周知であり、従って、本願においてクロマトグラフィー法を詳細に記載することを要しない。
【0184】
「固体基礎マトリックス」は、リガンドとの共有結合を可能とする反応性の官能基を含有する固体の骨格材料を意味する。この用語は、本願において固体支持マトリックスとも記載される。
【0185】
本分野で公知のように、前記骨格材料は無機物で、例えばシリカであり、又は有機物である。本願で有用な有機骨格材料として、セルロース及びその誘導体、アガロース、デキストラン、ポリマー、例えばポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、コポリマー等が挙げられる。
【0186】
本分野で周知のように、固体基礎マトリックスの例は、いわゆる樹脂であってもよく、本分野で周知のように、この用語は、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)に関連して使用されてもよい。
【0187】
本分野で周知のように、当該固体基礎マトリックスは、好ましくは粒子であり、例えば固体基礎マトリックスは、750μm以下、又は100μm以下の粒径の粒子を含んでも良い。
【0188】
リガンド基の共有結合を可能とする固体支持マトリックスの反応性官能基は本分野で周知であり、例えばヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール及びアミノである。
【0189】
本明細書中、「リガンド」は、リガンドと固体基礎マトリックスとを共有結合させる疎水性部分(あるいは基)及びスペーサーアームを意味する。当該スペーサーアームは、固体基礎マトリックスと選択された基/部分とを共有結合させられる任意の基又は置換基であってもよい。そのようなスペーサーアームは本分野で周知であり、例えばアルキレン基、芳香族基、アルキル芳香族基、アミド基、アミノ基、尿素基、カルバメート基を含む。
【0190】
所望の酵素を含有する水性充填培地は、当該所望の酵素がリガンドと結合又は吸着できる条件下で、リガンドと接触させられる。当業者は、所望の酵素の所望のリガンドへの適切な吸着を達成するためにどうやってその条件を調整する(例えばpHを3〜10、又は4〜8等に調整し、及び/又は流速を調整する)かを承知している。
【0191】
従って、この工程は、当業者が実施するありふれた工程であり、当業者は、様々な本願リガンドを承知している(例えばYang et al, Journal of Chromatography A, 1218 (2011) 8813−8825のレビューを参照されたい)。
【0192】
当業者は、様々な本願精製/分離技術を承知しており、リガンドに所望の酵素を吸着させるために本願リガンドを含有する固体基礎マトリックスを含有する固相に所望の酵素を含有する本願培地を適用する場合に、例えば、クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、吸着床(bed adsorption)、吸着流動床(expanded bed adsorption)(EBA)、バッチ吸着、膜吸着及びイオン交換クロマトグラフィー(IEC)からなる群から選択される1つ以上の精製技術を使用する。
【0193】
好ましくは、吸着流動床(expanded bed adsorption)(EBA)精製技術が使用される。
【0194】
これらの精製技術は全て当業者に周知であり、故に、特定の適切な使用されるリガンドに所望の酵素を適切に結合させること、及び適切に溶出工程を実施して、精製された/単離された所望の酵素を取得することは、当業者にとってありふれた技術である。
【0195】
言い換えると、リガンドへの所望の酵素の適切な吸着、及び所望の酵素の適切な溶出を達成して、精製された/単離された所望の酵素を取得するための、適切な溶媒、緩衝剤等を同定することは、当業者にとってありふれた技術である。
【0196】
従って、本願でこれらの工程を詳細に述べる必要は無いと考える。
【0197】
本分野で周知のように、「クロマトグラフィー」は、単離すべき成分が2つの相、その1つが固定相と呼ばれ、他方の移動相が所定の方向に移動する、当該2つの相の間で分離される、物理的分離方法に関する。
【0198】
本分野で公知のように、「カラムクロマトグラフィー」は、固定床がチューブ内にある分離技術を指す。
【0199】
本分野で公知のように、「吸着流動床(expanded bed adsorption)(EBA)」は、粘性及び粒状の液体の処理を可能にする調製的クロマトグラフィー技術に関する。
【0200】
EBA中のタンパク質が結合した粒子は、古典的なカラムクロマトグラフィーの場合と同じであり、通常のイオン交換、疎水相互作用及びアフィニティークロマトグラフィーリガンドが使用され得る。古典的なカラムクロマトグラフィーがパックされた床で出来た固相を使用する場合、EBAは、流動化状態の粒子を使用する。EPA樹脂は様々なサイズ及び密度の粒子を含むことにより、展開して床が展開状態になったとき、粒径の勾配をもたらし、局所的なループが形成される。全細胞又は細胞デブリ等の粒子はパックされた床のカラムを詰まらせ得るため、流動化床を徐々に通す。従って、EBAは、粗い培養液又は壊れた細胞のスラリーに使用され得て、故に、パックされた床が使用されるときに要求され得る、遠心分離や濾過等の最初の浄化工程を経る場合がある。
【0201】
「吸着床」、「バッチ吸着」及び「膜吸着」は本分野の当業者に周知である。
【0202】
本分野で公知のように、リガンドの疎水部分は、脂肪族基又は芳香族基であってもよい。
【0203】
脂肪族基は、異なる長さのアルキル基、例えばC〜C40アルキル基又はC〜C30アルキル基;異なる長さのアルケニル基、例えばC〜C40アルケニル基又はC〜C30アルケニル基;又は異なる長さのアルキニル基、例えばC〜C40アルキニル基又はC〜C30アルキニル基等であってもよい。
【0204】
芳香族基は、フェニル基又はベンジル基であってもよい。
【0205】
好ましい態様において、前記リガンドの疎水性部分は、ベンジル基である。
【0206】
好ましい態様において、前記リガンドは、正電荷部分を有していても良く、即ち、前記リガンドは、疎水性部分と正電荷部分を有する。
【0207】
本分野で公知のように、リガンドの正電荷部分は、例えばアミノ基、又は四級アンモニウム基であってもよい。
【0208】
好ましくは、前記疎水性部分はベンジル基であり、前記正電荷部分はアミノ基であり、即ち前記リガンドはベンジルアミンである。
【実施例】
【0209】
実施例1:特異的な乳凝固活性の判定
4.1凝固活性の決定
乳凝固活性は、REMCAT法を使用して決定され、これは、International Dairy Federationによって開発された標準的な方法である(IDF法)。
【0210】
乳凝固活性は、低温、低脂肪の、1リットルあたり0.5gの塩化カルシウム溶液を含有する(pH〜6.5)乳粉末から調製された標準の乳基質の目視できる凝集に必要な時間から決定される。乳凝固酵素試料の凝固時間は、既知の乳凝固活性を有する参照標準、及び当該試料と同様のIDF標準110Bによる酵素組成物と比較された。バリアントの試料は、84mM酢酸pH5.5緩衝剤を使用して、約3IMCU/mlに調整された。その後、200μl酵素をウォーターバス中に置いたガラス試験管中で予温した乳(32℃)10mlに添加して、定常的に撹拌しながら32℃±1℃の定常温度を維持した。
【0211】
乳凝固酵素の全体の乳凝固活性(強度)は、以下の式に従って、試料と同一の酵素組成物を有する標準に対する1mlあたりのInternational Milk−Clotting Units (IMCU)によって求められる。
強度(IMCU/ml)=S標準×T標準×D試料/D標準×T試料
S標準:レンネットにおける国際参照標準の乳凝固活性
T標準:当該標準の希釈物において得られた凝固時間(秒)
D試料:試料の希釈係数
D標準:標準の希釈係数
T試料:希釈されたレンネット試料において得られた酵素添加してから凝集するまでの時間(秒)
【0212】
4.2全タンパク質量の決定
全タンパク質量は、Thermo Scientific製Pierce BCA Protein Assay Kitを説明書通りに用いて決定された。
【0213】
4.3特異的な凝固活性の計算
特異的な凝固活性(全タンパク質1mgあたりのIMCU)は、凝固活性(IMCU/ml)を全タンパク質量(1mlあたりの全タンパク質mg)で割って求められた。
【0214】
実施例2:溶出緩衝剤へのPEG又はBrij−35の添加
ウシキモシン又はラクダキモシンは、アスペルギルス・ニガー中で組換え発現させられた(WO02/36752A2に概説)。
【0215】
前記酵素は、アガロースに共有結合したベンジルアミンリガンド(WO01/58924A2に記載のベンジルアミンリガンドに類似)を採用する固相抽出アプローチによって精製された。
【0216】
25μmPEフィルターの付いたウェル容積2mlの96ウェルフィルタープレートを、製Fastline 1300でパックした。
【0217】
ウェルを樹脂でパックして、全てのウェルに6〜8mmの高さの床を与えた。全てのウェル中の樹脂は、5mlの20mMマロン酸ナトリウムpH5.7で平衡化した。
【0218】
培養物の上澄を、3mlの上澄と0.5mlの2Mマロン酸ナトリウムpH5.7とを混合してpH5.7に調整した。そして試料3.5mlを8μmフィルターに通して粒子を除去し、プレートの96個の各ウェルに充填した。充填後樹脂を5mlの20mMマロン酸塩、500mMのNaCl緩衝剤pH5.7で洗浄し、殆ど乾燥させた。当該樹脂を500μlアリコートの20mMマロン酸pH2.5、100mMのNaCl、5%グリセロールで溶出し、バイアル中に回収した。
【0219】
幾つかの実験において、溶出緩衝剤にPEG−8000又はBrij−35が添加され、これらの最終濃度は0.05〜0.25w/w%であった。
【0220】
他の実験において、前記酵素が樹脂に結合する前に、PEG−8000又はBrij−35が添加され、これらの最終濃度は0.05〜0.25w/w%であった。
【0221】
対照実験において、PEG−8000又はBrij−35は添加されなかった。
【0222】
回収直後、溶出物に1.5Mマロン酸二ナトリウムが添加されて、pHが5.4〜5.8に調整された。
【0223】
試料は、単離後1日以内にタンパク質濃度及び乳凝固活性に関して解析された。
【0224】
回収されたフラクション中のタンパク質濃度は、Thermo Scientific製Pierce BCA Protein Assay Kitを使用して解析された。
【0225】
結果
図2は、溶出緩衝剤に0.1%PEG8000又はBrij35を添加した場合の、PEG8000又はBrij35を添加しない対照と比較した結果を示す。
【0226】
図2に示されているように、PEG8000又はBrij35を含有する試料の特異的活性は、PEG/Brij35を添加せずに精製した対照試料の2倍に増大した。
【0227】
PEG8000又はBrij35が酵素が樹脂に結合する前に添加された場合も、同様の肯定的な結果が得られた。
【0228】
図2と同様に、0.05w/w%のPEG8000又はBrij35又は0.25w/w%のPEG8000又はBrij35を添加しても、肯定的な結果が得られた。
【0229】
結論
上記結果は、PEG8000又はBrij35を添加して精製した試料の特異的活性は、PEG/Brij35を添加せずに精製した対照試料の2倍に増大したことを示す。
【0230】
当該溶出物/試料は、PEG8000/Brij35を含有すると考えられる。
【0231】
実施例3:製剤へのPEGの添加(精製後)
約1100IMCU/gの強度で乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素を含有する、乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物を取得した。
【0232】
組成物は、ウシキモシン、ラクダキモシン及びケカビペプシン(即ち3種類の組成物)において取得された。
【0233】
各組成物に、0.015%w/w (150ppmw/w)のPEG8000を添加した。
【0234】
対照組成物には、PEG8000を添加しなかった。
【0235】
前記組成物は5〜37℃で6か月間保存され、通常の間隔で乳凝固活性が解析された。
【0236】
上記試験の結果は、PEGの添加が、試験された乳凝固アスパラギン酸プロテアーゼ酵素の液体組成物の6ヶ月の保存後に、より長期間の保存安定性が増大していた(即ちこれらの組成物はより高いIMCU/g活性を維持していた)ことを実証した。
【0237】
実施例4:製剤へのPEG又はポリソルベート20の添加(精製後)
産業的酵素の液体製剤は、ポンピング、撹拌及び膜濾過等の単位操作からの物理的力に晒される。部分的に充填された含有された液体製剤の周囲の輸送の途中でのスロッシングもこれに寄与し得る。せん断応力及び水−空気境界への酵素の暴露の増大も、変性や酵素活性の付随的な低下をもたらし得る。
【0238】
酵素又はタンパク質試料の物理的安定性は、試料体積率に対して高い頭部の空間を有する試験管中で試料を繰り返し撹拌することによって試験できる。撹拌に対する様々なアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の安定性は、10mlチューブに充填した試料2mlを旋回装置で1時間転倒することによって調査された。各溶液において、垂直転倒1時間後に各溶液において相対的な乳凝固活性が測定され、全く同一の組成物を含有する非転倒対照と比較された。結果は「保持された活性」として表され、これは、転倒した試料の活性を、転倒していない対照試料の活性で割って得られる。
【0239】
結果:
濃度0.015%(150ppm)で添加されたPEG8000は、試験した全てのアスパラギン酸プロテアーゼ酵素の転倒に対する顕著な保護効果を有することが認められた(表x)。このPEG8000の保護効果は、ウシキモシン及びラクダキモシンにおいて最も顕著で、PEG8000を添加しないと活性はそれぞれ11%及び35%失われた。ウシキモシン及びラクダキモシンの試料にPEG8000が添加されると、試料撹拌後の活性の低下が無くなった。PEG不添加のラクダキモシンの例において、撹拌後に白色の沈殿が観察された。PEGを添加したラクダキモシンの試料中には、撹拌後に沈殿は無かった。これは、活性の低下が変性後のタンパク質凝集によるもので、試験管表面への酵素の表面吸着によるものではないことを示唆する。ケカビペプシンにおいて、PEG8000の物理的安定性に対する僅かな保護効果があった。
【0240】
撹拌に対するラクダキモシンの安定性に対するPEG8000の影響は、ダイズレシチン、ポリソルベート20及びモノステアリン酸グリセロールと比較された。表yは、PEG8000の効果とポリソルベート20の効果が類似していたことを示す。ダイズレシチン又はモノステアリン酸グリセロールを添加した試料における保持された活性は、未処理対照試料(添加無し)の場合と同程度であった。これは、本実施例において見られる撹拌に対する安定効果が、界面活性剤による表面吸着の阻害によるものでなく、PEG8000及びポリソルベート20中に含まれるポリオキシエチレン構造要素に関連する要素であることを示唆する。
【0241】
【表1】
【0242】
【表2】
【0243】
結論
これらの結果は、PEG8000が、液体試料を撹拌することによる物理的力に対するアスパラギン酸プロテアーゼの安定化効果を有することを実証する。更に、ポリソルベート20等のポリオキシエチレン構造要素を含む他の化合物も同様の安定化効果を有することが示される。
【0244】
参考資料
1: EP2333056A1 (DSM、出願日2007年12月4日)
2: WO2012/127005A1 (DSM)
3: US5139943 (Genencor、公開日1992年8月18日)
4: US7998705B2 (Fujifilm、公開日2011年8月16日)
5: US2011/0008846A1 (Qiagen)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]