特許第6962688号(P6962688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962688
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】段付きドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20211025BHJP
   B23B 51/08 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B23B51/00 H
   B23B51/08 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-13445(P2017-13445)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-118363(P2018-118363A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】沓名 晴賢
(72)【発明者】
【氏名】杉原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】桑折 正弘
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 大輔
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0209203(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0120814(US,A1)
【文献】 韓国登録特許第10−1509954(KR,B1)
【文献】 実開昭58−040311(JP,U)
【文献】 米国特許第04531867(US,A)
【文献】 実開昭64−030109(JP,U)
【文献】 特開平06−198511(JP,A)
【文献】 特開2002−036016(JP,A)
【文献】 特開平10−029107(JP,A)
【文献】 特開2001−105216(JP,A)
【文献】 特開2002−200511(JP,A)
【文献】 特開2005−001072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00−29/34
B23B 51/00−51/14
B23C 1/00−9/00
B23P 5/00−17/06
B23P 23/00−25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径穴を形成する一対の小径穴加工刃と、大径穴を形成する大径穴加工刃と、座面削りを行う座面削り刃と、を備え、前記小径穴加工刃と、前記大径穴加工刃と、前記座面削り刃は、それぞれ所定のステップ長を有し、再研削することによって使用可能な段付きドリルであって、
前記一対の小径穴加工刃は、前記段付きドリルの先端側に配置されており、
前記大径穴加工刃は、前記一対の小径穴加工刃の前記段付きドリルの先端から離れる側に配置されると共に、前記段付きドリルの回転軸方向先端側から見て前記一対の小径穴加工刃のうちの一方の小径穴加工刃と同位相となるように配置されており、
前記座面削り刃は、前記一対の小径穴加工刃の前記段付きドリルの先端から離れる側に配置されると共に、前記段付きドリルの回転軸方向先端側から見て前記一対の小径穴加工刃のうちの他方の小径穴加工刃と同位相となるように配置され、前記段付きドリルの回転軸方向先端側から見て前記他方の小径孔加工刃が形成されている面と同一の面に形成されており、
前記大径穴加工刃と前記座面削り刃は、それぞれ前記段付きドリルの回転軸方向先端側から見て、回転軸を中心に非対称に配置されている、
段付きドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は段付きドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
被加工材に段付き穴を形成する場合は、段付きドリルが用いられる。特許文献1には、小径部と大径部とを備える段付きドリルが開示されている。特許文献1に開示されている段付きドリルでは、小径部の先端に切刃が形成されており、小径部と大径部との間に面取り刃が形成されている。そして、小径部の先端に設けられた切刃を用いて小径穴を形成し、小径部と大径部との間に設けられた面取り刃を用いて大径穴を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−36016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、本発明の課題を説明するための図であり、段付きドリルを先端側からみた正面図(左図)と段付きドリルを側面からみた側面図(右図)を示している。図5に示すように、段付きドリル110は、小径穴加工刃111、大径穴加工刃112、座面削り刃113、排出溝116、及びシャンク119を備える。
【0005】
小径穴加工刃111の先端には切刃115が設けられており、段付きドリル110を回転軸120を中心に回転させることで、被加工材に小径穴が形成される。また、段付きドリル110には大径穴加工刃112および座面削り刃113が設けられており、段付きドリル110を回転軸120を中心に回転させることで、被加工材に大径穴および座面がそれぞれ形成される。小径穴、大径穴、及び座面を形成した際に出た切屑は、排出溝116から排出される。
【0006】
段付きドリル110は所定回数以上使用すると切れ味が悪くなるが、このような場合は段付きドリル110を再研削することで再利用することができる。しかしながら、図5の右図に示すように、小径穴加工刃111と座面削り刃113との間に設けられた大径穴加工刃112のステップ長d11が短い場合は、大径穴加工刃112を再研削用の砥石を用いて再研削することができない。このため、このような場合は、図6に示すように、大径穴加工刃212の位相を、小径穴加工刃111および座面削り刃113の位相に対してずらして形成することで、大径穴加工刃212のステップ長d12を長くすることができる。すなわち、図6の左図に示す段付きドリル210のように、大径穴加工刃212を形成する面216を、小径穴加工刃111および座面削り刃113を形成する面215に対してずらすことで(本明細書では、このことを「位相をずらす」と表現する)、図6の右図に示すように大径穴加工刃212のステップ長d12を長くすることができる。
【0007】
しかしながら、大径穴加工刃212の位相を小径穴加工刃111および座面削り刃113の位相に対してずらして形成した場合は、図6の正面図(左図)に示すように、段付きドリルの断面積が小さくなり、段付きドリルの剛性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、段付きドリルの剛性を低下させることなく各々の刃のステップ長を長くすることが可能な段付きドリルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる段付きドリルは、小径穴を形成する一対の小径穴加工刃と、大径穴を形成する大径穴加工刃と、座面削りを行う座面削り刃と、を備える。前記一対の小径穴加工刃は、前記段付きドリルの先端側に配置されており、前記大径穴加工刃は、前記一対の小径穴加工刃の前記段付きドリルの先端から離れる側に配置されると共に、前記段付きドリルの回転軸方向先端側から見て前記一対の小径穴加工刃のうちの一方の小径穴加工刃と同位相となるように配置されており、前記座面削り刃は、前記一対の小径穴加工刃の前記段付きドリルの先端から離れる側に配置されると共に、前記段付きドリルの回転軸方向先端側から見て前記一対の小径穴加工刃のうちの他方の小径穴加工刃と同位相となるように配置されている。
【0010】
本発明にかかる段付きドリルでは、段付きドリルの回転軸方向先端側から見て一対の小径穴加工刃のうちの一方の小径穴加工刃と同位相となるように大径穴加工刃を配置し、他方の小径穴加工刃と同位相となるように座面削り刃を配置している。換言すると、段付きドリルの先端側からみて、回転軸を中心に非対称となるように大径穴加工刃および座面削り刃を配置している。このような構成とすることで、各々の刃のステップ長を長くすることができ、再研削用の砥石を用いて各々の刃を再研削することができる。また、段付きドリルの断面積が小さくなることを抑制することができるので、段付きドリルの剛性が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、段付きドリルの剛性を低下させることなく各々の刃のステップ長を長くすることが可能な段付きドリルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態にかかる段付きドリルを説明するための正面図および側面図である。
図2】実施の形態にかかる段付きドリルを説明するための側面図である。
図3】実施の形態にかかる段付きドリルを説明するための側面図である。
図4】実施の形態にかかる段付きドリルを用いて形成される穴を示す断面図である。
図5】本発明の課題を説明するための図である。
図6】本発明の課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる段付きドリルを説明するための正面図および側面図である。図1の左図は段付きドリルを先端側からみた正面図であり、図1の右図は段付きドリルを側面からみた側面図である。また、図2は、図1の左図に示す段付きドリルをA方向から見た側面図である。図3は、図1の左図に示す段付きドリルをB方向から見た側面図である。
【0014】
図1図3に示すように、段付きドリル10は、一対の小径穴加工刃11a、11b、大径穴加工刃12、座面削り刃13、排出溝16〜18、及びシャンク19を備える。
【0015】
一対の小径穴加工刃11a、11bは、被加工材に小径穴を形成するための刃である。図1の正面図(左図)に示すように、一対の小径穴加工刃11a、11bは、回転軸20を中心に点対称となるように配置されている。また、図1の側面図(右図)に示すように、一対の小径穴加工刃11a、11bは、段付きドリルの先端側に配置されている。一対の小径穴加工刃11a、11bの先端には切刃15が設けられており、段付きドリル10を回転軸20を中心に回転させることで、図4の断面図に示すように被加工材30に直径D1の小径穴31が形成される。図2図3に示すように、一対の小径穴加工刃11a、11bのステップ長はd1である。
【0016】
大径穴加工刃12は、被加工材に大径穴を形成するための刃である。図1の側面図(右図)に示すように、大径穴加工刃12は、小径穴加工刃11a、11bに対して段付きドリル10の先端から離れる側に配置されている。また、大径穴加工刃12は、段付きドリル10の回転軸20方向先端側から見て一対の小径穴加工刃11a、11bのうちの一方の小径穴加工刃11aと同位相となるように配置されている。つまり、図1の左図および図2に示すように、大径穴加工刃12は、段付きドリル10の先端側からみて小径穴加工刃11aが形成されている面25(図1の左図参照)と同一の面に形成されている。
【0017】
また、段付きドリル10を回転軸20を中心に回転させることで、大径穴加工刃12が回転軸20を中心に回転して、図4の断面図に示すように被加工材30に直径D2の大径穴32が形成される。図2に示すように、大径穴加工刃12のステップ長はd2である。
【0018】
座面削り刃13は、被加工材に対して座面削りを行うための刃である。図1の側面図(右図)に示すように、座面削り刃13は、小径穴加工刃11a、11bに対して段付きドリル10の先端から離れる側に配置されている。また、座面削り刃13は、段付きドリル10の回転軸20方向先端側から見て一対の小径穴加工刃11a、11bのうちの他方の小径穴加工刃11bと同位相となるように配置されている。つまり、図1の左図および図3に示すように、座面削り刃13は、段付きドリル10の先端側からみて小径穴加工刃11bが形成されている面26(図1の左図参照)と同一の面に形成されている。
【0019】
また、段付きドリル10を回転軸20を中心に回転させることで、座面削り刃13が回転軸20を中心に回転して、図4の断面図に示すように被加工材30に直径D3の座面33が形成される。図3に示すように、座面削り刃13のステップ長はd3である。
【0020】
図1図3に示したように、大径穴加工刃12は、段付きドリル10の先端側から見て一対の小径穴加工刃11a、11bのうちの一方の小径穴加工刃11aと同位相となるように配置されている。また、座面削り刃13は、段付きドリル10の先端側から見て一対の小径穴加工刃11a、11bのうちの他方の小径穴加工刃11bと同位相となるように配置されている。よって、図1の正面図(左図)に示すように、段付きドリル10の先端側からみて、大径穴加工刃12および座面削り刃13は、回転軸20を中心に非対称となるように配置されている。このとき、小径穴加工刃11aおよび大径穴加工刃12が配置されている面(位相)と、小径穴加工刃11bおよび座面削り刃13が配置されている面(位相)は、回転軸20を中心として180度ずれている。
【0021】
また、図1図3に示すように、段付きドリル10には排出溝16〜18が形成されている。小径穴31、大径穴32、及び座面33を形成する際に出た切屑は、これらの排出溝16〜18から排出される。シャンク19は、ドリルのチャックに固定される部分である。
【0022】
「発明が解決しようとする課題」の欄で説明したように、図5の右図に示した段付きドリル110のように、小径穴加工刃111と座面削り刃113との間に設けられた大径穴加工刃112のステップ長d11が短い場合は、大径穴加工刃112を再研削用の砥石を用いて再研削することができない。このため、このような場合は、図6の左図に示すように、大径穴加工刃212の位相を小径穴加工刃111および座面削り刃113の位相に対してずらして形成することで、大径穴加工刃212のステップ長d12を長くすることができる。すなわち、図6の左図に示す段付きドリル210のように、大径穴加工刃212を形成する面216を、小径穴加工刃111および座面削り刃113を形成する面215に対してずらすことで、図6の右図に示すように大径穴加工刃212のステップ長d12を長くすることができる。
【0023】
しかしながら、大径穴加工刃212の位相を小径穴加工刃111および座面削り刃113の位相に対してずらして形成した場合は、図6の正面図(左図)に示すように、段付きドリルの断面積が小さくなり、段付きドリルの剛性が低下するという問題があった。
【0024】
そこで本実施の形態にかかる段付きドリル10では、図1の正面図(左図)に示すように、段付きドリル10の先端側からみて、回転軸20を中心に非対称となるように大径穴加工刃12および座面削り刃13を配置している。つまり、段付きドリル10の先端側から見て一対の小径穴加工刃11a、11bのうちの一方の小径穴加工刃11aと同位相となるように大径穴加工刃12を配置し、他方の小径穴加工刃11bと同位相となるように座面削り刃13を配置している。よって、図2図3に示すように、小径穴加工刃11a、11bのステップ長d1、大径穴加工刃12のステップ長d2、および座面削り刃13のステップ長d3をそれぞれ長くすることができるので、再研削用の砥石を用いて各々の刃を再研削することができる。
【0025】
また、図1の正面図(左図)に示すように、図6に示した段付きドリル210と比べて段付きドリル10の断面積を大きくすることができる。つまり、段付きドリル10の断面積が小さくなることを抑制することができるので、段付きドリル10の剛性が低下することを抑制することができる。
【0026】
以上で説明した本実施の形態にかかる発明により、段付きドリルの剛性を低下させることなく各々の刃のステップ長を長くすることが可能な段付きドリルを提供することができる。
【0027】
また、図6に示した従来の段付きドリルを用いた場合は、例えば被加工材の側面加工(偏肉加工)を行った際に段付きドリルの剛性が弱いために横荷重の影響を受けて段付きドリルが折損する場合があった。また、切削加工時にビビリ振動等が発生して精度不良が発生する場合があった。このため、図6に示した従来の段付きドリルを用いる場合は、側面加工にならないように別途工程を追加したり、側面加工にならないように被加工材の形状を逃がし形状に変更したりする必要があった。
【0028】
しかしながら、側面加工にならないように別途工程を追加するとサイクルタイムが増加するため、設備台数を増やす必要があった。また、側面加工にならないように被加工材の形状を変更する場合は鋳造型の改造が必要であった。このため、従来の段付きドリルを用いた場合は、製造コストが増大するという問題があった。
【0029】
これに対して本実施の形態にかかる段付きドリル10では、段付きドリル10の剛性が低下することを抑制することができるので、設備台数の増加や鋳造型の改造を回避することができる。
【0030】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
10 段付きドリル
11 小径穴加工刃
12 大径穴加工刃
13 座面削り刃
15 切刃
16、17、18 排出溝
19 シャンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6